(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】タングステンブランクス及びタングステン加工品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23F 1/12 20060101AFI20240423BHJP
C23F 1/00 20060101ALI20240423BHJP
C23F 4/00 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
C23F1/12
C23F1/00 102
C23F4/00 A
(21)【出願番号】P 2020001575
(22)【出願日】2020-01-08
【審査請求日】2023-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】522212882
【氏名又は名称】株式会社トッパンフォトマスク
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 幸司
(72)【発明者】
【氏名】中村 大亮
(72)【発明者】
【氏名】多田 純
【審査官】菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-075059(JP,A)
【文献】特開平04-018557(JP,A)
【文献】特開平02-027723(JP,A)
【文献】特開2014-041948(JP,A)
【文献】Lu Song, Nannan Li, Shibin Zhang, Jin Luo, Jia Hu, Yiming Zhang, Shuhui Chen and Jing Chen,Inductively coupled plasma etching of bulk tungsten for MEMS applications,The 27th IEEE International Conference on Micro Electro Mechanical Systems (MEMS 2014),米国,IEEE,2014年01月,p.502-505
【文献】A.Valda Ochoa, L. Ploux, R. Mastrippolito, Y. Charon, P. Laniece, L. Pinot and L. Valentin,An Original Emission Tomograph for in Vivo Brain Imaging of Small Animals,IEEE Transactions on Nuclear Science,米国,IEEE,1997年08月,Vol.44 No.4,p.1553-1537
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 1/12
C23F 1/00
C23F 4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステンからなるブランクス基板の第1の面にドライエッチングストッパー膜を備え、
前記ドライエッチングストッパー膜のフッ化物の沸点は、前記タングステンのフッ化物の沸点よりも高く、
且つ、前記ドライエッチングストッパー膜は、塩化物または酸塩化物の沸点がフッ化物の沸点よりも低
く、
前記タングステンからなるブランクス基板の厚さが50~400μmであり、
前記タングステンからなるブランクス基板は、10以上の高アスペクト比をもって貫通孔が形成される、
ことを特徴とするタングステンブランクス。
【請求項2】
前記タングステンからなるブランクス基板の前記第1の面とは反対側の第2の面にハードマスク膜を備え、
前記ハードマスク膜のフッ化物の沸点は、前記タングステンのフッ化物の沸点よりも高く、
且つ前記ハードマスク膜は、塩化物または酸塩化物の沸点がフッ化物の沸点よりも低い、
ことを特徴とする請求項1に記載のタングステンブランクス。
【請求項3】
前記タングステンからなるブランクス基板の第2の面上にレジスト層を備える、
ことを特徴とする請求項1に記載のタングステンブランクス。
【請求項4】
前記第2の面の前記ハードマスク膜上にレジスト層を備える、
ことを特徴とする請求項2に記載のタングステンブランクス。
【請求項5】
コリメータ、オリフィス、またはアパーチャの製造に用いられる、
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のタングステンブランクス。
【請求項6】
前記タングステンからなるブランクス基板、前記ドライエッチングストッパー膜、及び前記ハードマスク膜のみを備える、
ことを特徴とする請求項2に記載のタングステンブランクス。
【請求項7】
前記タングステンからなるブランクス基板、前記ドライエッチングストッパー膜、及び前記レジスト層のみを備える、
ことを特徴とする請求項3に記載のタングステンブランクス。
【請求項8】
前記タングステンからなるブランクス基板、前記ドライエッチングストッパー膜、前記ハードマスク膜、及び前記レジスト層のみを備える、
ことを特徴とする請求項4に記載のタングステンブランクス。
【請求項9】
前記ドライエッチングストッパー膜及び前記ハードマスク膜は、それぞれアルミニウムを含む、
ことを特徴とする請求項6または請求項8に記載のタングステンブランクス。
【請求項10】
前記ドライエッチングストッパー膜及び前記ハードマスク膜は、それぞれ錫を含む、
ことを特徴とする請求項6または請求項8に記載のタングステンブランクス。
【請求項11】
前記ドライエッチングストッパー膜及び前記ハードマスク膜は、それぞれチタンを含む、
ことを特徴とする請求項6または請求項8に記載のタングステンブランクス。
【請求項12】
前記ドライエッチングストッパー膜及び前記ハードマスク膜は、それぞれクロムを含まない、
ことを特徴とする請求項6または請求項8に記載のタングステンブランクス。
【請求項13】
以下の工程を順次含
み、且つタングステンからなるブランクス基板の厚さが50~400μmであり、前記タングステンからなるブランクス基板に対して10以上の高アスペクト比をもって貫通孔を形成する、ことを特徴とするタングステン加工品の製造方法。
1)タングステンからなるブランクス基板の第1の面にドライエッチングストッパー膜を形成する工程。
2)前記タングステンからなるブランクス基板の前記第1の面とは反対側の第2の面にレジスト層を塗工する工程。
3)前記レジスト層をパターニングし、レジストパターンを形成する工程。
4)前記レジストパターンが形成された前記ブランクス基板の前記第2の面に、前記レジストパターン上も含め、ハードマスク膜を形成する工程。
5)前記レジストパターン上に形成されたハードマスク膜を、前記レジストパターンとともに除去し、ハードマスク膜パターンを形成する工程。
6)前記ハードマスク膜パターンをマスクとして、フッ素系ガスを主ガスとしたドライエッチングにより、前記タングステンを貫通加工する工程。
7)前記ハードマスク膜パターン及び前記ドライエッチングストッパー膜を剥離する工程。
【請求項14】
以下の工程を順次含
み、且つタングステンからなるブランクス基板の厚さが50~400μmであり、前記タングステンからなるブランクス基板に対して10以上の高アスペクト比をもって貫通孔を形成する、ことを特徴とするタングステン加工品の製造方法。
1)タングステンからなるブランクス基板の第1の面にドライエッチングストッパー膜を形成し、前記第1の面とは反対側の第2の面にハードマスク膜を形成する工程。
2)前記第2の面の前記ハードマスク膜上に、レジスト層を塗工する工程。
3)前記レジスト層をパターニングし、レジストパターンを形成する工程。
4)前記レジストパターンをマスクとして、前記ハードマスク膜をドライエッチングし、ハードマスク膜パターンを形成する工程。
5)少なくとも前記ハードマスク膜パターンをマスクとして、フッ素系ガスを主ガスとしたドライエッチングにより、前記タングステンを貫通加工する工程。
6)前記ハードマスク膜パターン及び前記ドライエッチングストッパー膜を剥離する工程。
【請求項15】
前記タングステン加工品は、オリフィス、コリメータ、またはアパーチャである、
ことを特徴とする請求項13または請求項14に記載のタングステン加工品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タングステンの貫通加工品を作製するためタングステンブランクス、及び該タングステンブランクスを用いたタングステン貫通加工品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タングステンは、耐熱性や放射線遮蔽特性に優れるため、その特性を活かして、貫通加工品(以下、単に加工品と呼ぶ)として、コリメータ、各種オリフィス、X線やイオンビームのアパーチャ、各種電極、各種フィラメント等の理化学機器、医療機器、計測・検査機器、真空部品等の用途に応用されている。
【0003】
コリメータやアパーチャ用であれば、高い放射線遮蔽率を達成するには開口径以上のタングステン厚が必要となるため、高アスペクト加工が要求される。また、マスフローメーターやスプレーノズル等の高圧環境下で用いるオリフィス用の場合は、機械的強度が必要となるため、厚膜での高アスペクト加工が要求される。
【0004】
しかしながら、タングステンは高い硬度、高い融点、引っ張り強さ、弾性等の機械的性質が優れている一方で、一般に高アスペクト加工が難しい材料としても知られている。加工方法次第で加工可能な基板サイズや厚さも異なり、それに付随して加工精度も異なるため、要求される仕様に応じて加工方法を選択する必要がある。
【0005】
加工方法の候補としては、レーザー加工、放電加工、切削加工、収束イオンビーム加工、精密プレス加工、ドライエッチング加工等が挙げられる。
【0006】
例えば、極短パルスレーザー加工はピコ秒レーザーやフェムト秒レーザーの光源を利用する。一般的なレーザー加工の場合、レーザーを当て続けると熱の影響で変形等の不具合が生じるが、極短パルスレーザー加工の場合は、パルスレーザーでオンオフさせることで熱影響を緩和させている。
【0007】
レーザー加工の場合、数十μm径の貫通孔を高いアスペクト比にて加工可能であるが、加工位置精度は2~20μm前後であり、サブミクロンレベルで加工位置を制御することは出来ない。
【0008】
ドライエッチング加工の場合は、まず、描画装置で形成された高精度なパターニングマスクを用いた露光転写や、直接的な電子線描画という手法によって、サブミクロンレベルで位置精度及び寸法精度(以下、併せて加工精度と呼ぶ)を制御したレジストマスクパターンを形成し、続くドライエッチングによってレジストマスクパターンを下層に転写させるため、加工精度が損なわれることはない。
【0009】
ドライエッチング法を用いた加工の例として、特許文献1では、電子線描画機でのレジストパターニングとドライエッチングとハードマスク酸化処理を組み合わせて実施し、膜厚0.5μm、寸法0.2~0.5μm、アスペクト比1前後のパターンを形成している。
【0010】
上記のように、ドライエッチング法は、タングステンの微細な加工品の作製に有利な方法ではあるが、高いアスペクト比を保証しつつ、サブミクロンレベルの高い加工精度も有する加工方法は報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記問題に鑑みなされたものであり、厚膜であっても高アスペクト比をもってタングステン加工をすることができるタングステン加工品の製造方法、および当該製造方法に最適なタングステンブランクスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決する手段として、本発明の一態様は、タングステンからなるブランクス基板の第1の面にドライエッチングストッパー膜を備え、
前記ドライエッチングストッパー膜のフッ化物の沸点は、前記タングステンのフッ化物の沸点よりも高く、
且つ、前記ドライエッチングストッパー膜は、塩化物または酸塩化物の沸点がフッ化物の沸点よりも低い、
ことを特徴とする。
【0014】
また、本発明の一態様は、前記タングステンからなるブランクス基板の前記第1の面とは反対側の第2の面にハードマスク膜を備え、
前記ハードマスク膜のフッ化物の沸点は、前記タングステンのフッ化物の沸点よりも高く、
且つ前記ハードマスク膜は、塩化物または酸塩化物の沸点がフッ化物の沸点よりも低い、ことを特徴とする。
【0015】
また、本発明の一態様は、前記タングステンからなるブランクス基板の第2の面上にレジスト層を備える、ことを特徴とする。
【0016】
また、本発明の一態様は、前記第2の面の前記ハードマスク膜上にレジスト層を備える、
ことを特徴とする。
【0017】
また、本発明の一態様は、以下の工程を順次含む、ことを特徴とするタングステン加工品の製造方法としたものである。
1)タングステンからなるブランクス基板の第1の面にドライエッチングストッパー膜を形成する工程。
2)前記タングステンからなるブランクス基板の前記第1の面とは反対側の第2の面にレジスト層を塗工する工程。
3)前記レジスト層をパターニングし、レジストパターンを形成する工程。
4)前記レジストパターンが形成された前記ブランクス基板の前記第2の面に、前記レジストパターン上も含め、ハードマスク膜を形成する工程。
5)前記レジストパターン上に形成されたハードマスク膜を、前記レジストパターンとともに除去し、ハードマスク膜パターンを形成する工程。
6)前記ハードマスク膜パターンをマスクとして、フッ素系ガスを主ガスとしたドライエッチングにより、前記タングステンを貫通加工する工程。
7)前記ハードマスク膜パターン及び前記ドライエッチングストッパー膜を剥離する工程。
【0018】
また、本発明の一態様は、以下の工程を順次含む、ことを特徴とするタングステン加工
品の製造方法としたものである。
1)タングステンからなるブランクス基板の第1の面にドライエッチングストッパー膜を形成し、前記第1の面とは反対側の第2の面にハードマスク膜を形成する工程。
2)前記第2の面の前記ハードマスク膜上に、レジスト層を形成する工程。
3)前記レジスト層をパターニングし、レジストパターンを形成する工程。
4)前記レジストパターンをマスクとして、前記ハードマスク膜をドライエッチングし、ハードマスク膜パターンを形成する工程。
5)少なくとも前記ハードマスク膜パターンをマスクとして、フッ素系ガスを主ガスとしたドライエッチングにより、前記タングステンを貫通加工する工程。
6)前記ハードマスク膜パターン及び前記ドライエッチングストッパー膜を剥離する工程。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、数十μmレベルの径の貫通孔がアスペクト比10以上で形成され、サブミクロンレベルの高い加工精度も有するタングステン加工品を作製することができるタングステンブランクス、及びそのようなタングステン加工品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の(a)第1実施形態のタングステンブランクス、(b)第1実施形態のタングステンブランクスの変形例を示す模式断面図である。
【
図2】本発明の(a)第2実施形態のタングステンブランクス、(b)第2実施形態のタングステンブランクスの変形例を示す模式断面図である。
【
図3】本発明の第1実施形態のタングステンブランクスを用いて、タングステン加工品を製造するプロセスの一部を工程順に示す模式断面図である。
【
図4】
図3に続く製造プロセスを工程順に示す模式断面図である。
【
図5】本発明の第2実施形態のタングステンブランクスを用いて、タングステン加工品を製造するプロセスの一部を工程順に示す模式断面図である。
【
図6】
図5に続く製造プロセスを工程順に示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態に係るタングステンブランクス及びタングステン加工品の製造方法について図面を用いて説明する。同一の構成要素については便宜上の理由がない限り同一の符号を付ける。各図面において、見易さのため構成要素の厚さや比率は誇張されていることがあり、構成要素の数も減らして図示していることがある。また、本発明は以下の実施形態そのままに限定されるものではなく、主旨を逸脱しない限りにおいて、適宜の組み合わせ、変形によって具体化できる。
[タングステンブランクス]
図1(a)は、本発明の第1実施形態のタングステンブランクス100を示す模式断面図である。本発明の第1実施形態のタングステンブランクス100は、タングステンからなるブランクス基板1の第1の面にドライエッチングストッパー膜2を備えている。
【0022】
尚、タングステンは純タングステンのみならず、タングステン系材料であればよいが、以下、単に「タングステン」と記載する。
【0023】
ここで、ドライエッチングストッパー膜2は、高いエッチング選択比とエッチング後の高いアスペクト比を実現するために、そのドライエッチングストッパー膜2の塩化物または酸塩化物の沸点がフッ化物の沸点よりも低く、且つドライエッチングストッパー膜2のフッ化物の沸点は、ブランクス基板1であるタングステンのフッ化物の沸点よりも高いことを特徴とする。その理由については後述する。
【0024】
図1(b)は、本発明の第1実施形態のタングステンブランクスの変形例100aを示す模式断面図である。第1実施形態のタングステンブランクスの変形例100aは、第1実施形態のタングステンブランクス100の、ドライエッチングストッパー膜2を備える第1の面とは反対側の第2の面にレジスト層4を備えている。尚、ここでレジスト層4を備えない形態、備える形態をいずれもブランクスと呼称するのは、一般にフォトマスクブランクスにおいても、レジスト層を備えない形態、備える形態をいずれもブランクスとして呼称することに倣ったものである。
【0025】
図2(a)は、本発明の第2実施形態のタングステンブランクス200を示す模式断面図である。本発明の第2実施形態のタングステンブランクス200は、第1実施形態のタングステンブランクス100と同様にブランクス基板1の第1の面にドライエッチングストッパー膜2を備え、第1の面とは反対側の第2の面にハードマスク膜3を備えている。
【0026】
ここで、ハードマスク膜3は、そのフッ化物の沸点がブランクス基板1であるタングステンのフッ化物の沸点よりも高きく、且つハードマスク膜3の塩化物または酸塩化物の沸点はフッ化物の沸点よりも低いことを特徴とする。その理由については後述する。
【0027】
図2(b)は、本発明の第2実施形態のタングステンブランクスの変形例200aを示す模式断面図である。第2実施形態のタングステンブランクスの変形例200aは、第2実施形態のタングステンブランクス200の、第2の面に形成されたハードマスク膜3上にレジスト層4を備えている。
【0028】
本発明では、タングステン加工品を作製するために、ドライエッチング法を採用する。そこで、課題である、数十μmレベルの径の貫通孔をアスペクト比10以上で形成し、サブミクロンレベルの高い加工精度も有するタングステン加工品を作製するために、第1実施形態のタングステンブランクスではドライエッチングストッパー膜(以下、エッチングストッパー膜)2を備え、第2実施形態のタングステンブランクスではさらにハードマスク膜3を備える。
【0029】
後述のタングステン加工品の製造方法で示すように、
図1の本発明の第1実施形態であるタングステンブランクス100、及びその変形例100aではハードマスク膜を有していない。しかしながら、これはブランクス基板1の第2の面にレジストパターンを形成した後にリフトオフ法によりハードマスク膜パターンを形成するためである。第一、第二の実施形態、及びそれらの変形例のいずれにおいてもハードマスク膜パターンをエッチングマスクとして、タングステンをドライエッチングすることは共通している。ハードマスク膜パターンをエッチングマスクとすることは、レジストパターンをエッチングマスクとするだけでは得られない、数十μmレベルの径でアスペクト比10以上の貫通孔を有するタングステン加工品を作製するための条件となる。
【0030】
従って、本発明のタングステンブランクスを用いてタングステンをドライエッチングする加工において、高アスペクト比及び高加工精度を実現するために、第一に必要な条件は、エッチングマスクであるハードマスク膜に対するタングステンのドライエッチング選択比(=タングステンのエッチングレート/ハードマスク膜のエッチングレート)が高いこととなる。
【0031】
エッチング選択比が十分でないとエッチングマスクであるハードマスク膜の膜厚をその分厚くせざるを得なくなり、それに伴ってハードマスク膜をドライエッチングでパターニングする際のレジストパターンの膜厚も厚くなり、従ってレジストパターンの解像性が悪化する。その結果、最終的なタングステン加工品の加工精度が損なわれる。
【0032】
一般に、ドライエッチングは、プラズマ中で導入ガスが電子と衝突し、活性ラジカルや種々の形に解離した反応性イオンが発生してエッチングを引き起こす。ここで、エッチング表面に低沸点の揮発性生成物を形成するほどエッチングがされやすいことが知られている。その指標となるのは、被エッチング材料と導入ガスによる反応生成物の沸点や蒸気圧である。すなわち、沸点が低い反応生成物ほど気化して蒸気圧は高くなり排気されやすくなる。
【0033】
ドライエッチングは、通常ハロゲンガス、特には価格的にも使いやすいフッ素ガスや塩素系ガスを主ガスとして実施され、エッチングレートやエッチング形状の特性向上の観点から酸素(O2)ガスや、逆に水素(H2)などの還元性ガスが添加されることもある。
【0034】
以上を考慮した上で、タングステン(W)のドライエッチングにおいて、ハードマスク膜の材料として候補となりうる金属元素の代表的なフッ化物、塩化物、酸塩化物の沸点を、Wと比較した結果を表1に示す。表1の数値は、[非特許文献;CRC Handbook of Chemistry and Physics, 78th. Edition]や、各種ウェブサイトから採取した値をまとめたものである。
【0035】
【表1】
尚、沸点はドライエッチングされ易さの指標となるが、エッチングレートに比例するものではない。実際のエッチングレートやエッチング選択比はガス流量、圧力、パワー密度、添加ガスのドライエッチング条件や、被エッチング物の温度等により変化する。従って、要求される加工品仕様に応じて、エッチング条件を最適化する必要がある。
【0036】
表1によれば、Wはフッ素系ガスに対して、W+6F→WF6の反応が起こり、WF6の沸点が低いことから、フッ素系ガスに対してエッチングされ易いことが分かる。一方、塩素系ガスに対しては、W+6Cl→WCl6の反応が起こるが、WCl6の沸点が高いことから、塩素系ガスに対してはエッチングされ難い。
【0037】
タングステンのドライエッチングはフッ素系ガスを主ガスとすることが判明したので、ドライエッチング選択比(=タングステンのエッチングレート/ハードマスク膜のエッチングレート)を高くするためには、ハードマスク膜は、フッ化物の沸点がタングステンのフッ化物の沸点よりも高く、フッ素系ガスに対してはエッチングされ難い材料である必要があることが分かる。
【0038】
そこで、高アスペクト比及び高加工精度を実現するために、本発明のタングステンブランクスの第2実施形態が備えるハードマスク膜、及び第1実施形態を用いてタングステン加工品を作製する際に使用するハードマスク膜が備えるべき条件は、フッ化物の沸点がタングステンのフッ化物の沸点よりも高く、且つ塩化物または酸塩化物の沸点がフッ化物の沸点よりも低いこととなる。ここで、塩化物または酸塩化物の沸点がフッ化物の沸点よりも低いのは、タングステンの貫通加工後にハードマスク膜を、塩素系ガスにより、タングステンにダメージを与えずに剥離するためである。
【0039】
また、本発明のタングステンブランクスは、タングステンの膜厚も数十μmレベルと厚膜となるので、エッチング時間が長くなり、温度上昇することが懸念される。そこで、温度上昇とともにハードマスク膜やエッチングストッパー膜との熱膨張率の違いにより、割れや欠けや歪みが発生することが懸念される。従って、ハードマスク膜やエッチングストッパー膜との熱膨張率はタングステンの熱膨張率に近いことが望ましい。
【0040】
同じ理由から、タングステンのドライエッチング実施中のタングステンブランクスは、
冷却することが好ましい。通常、ドライエッチング装置での被エッチング物の冷却は、被エッチング物を載置するステージの裏面側に冷却水や冷却用のガスを流す方法などで行われる。また、クールグリス等を被エッチング物の裏面に塗布する方法もある。
【0041】
本発明のタングステンブランクスは、第一、第二の実施形態のタングステンブランクス、及びそれらの変形例では、いずれも、タングステンブランクス基板のステージ側となる面(第1の面)に、エッチングストッパー膜を備えることを特徴とする。
【0042】
エッチングストッパー膜は、文字通りタングステンのエッチングを停止させる、またはブランクスの加工速度を低下させる機能を有する必要がある。そのため、エッチングストッパー膜は、タングステンに対するエッチングストッパー膜のドライエッチング選択比(=エッチングストッパー膜のエッチングレート/タングステンのエッチングレート)が低い、逆に言えば、エッチングストッパー膜に対するタングステンのドライエッチング選択比(=タングステンのエッチングレート/エッチングストッパー膜のエッチングレート)が高い材料が好ましい。
【0043】
従って、本発明のタングステンブランクスのエッチングストッパー膜に必要なドライエッチング選択比は、ハードマスク膜と同様であり、フッ化物の沸点がタングステンのフッ化物の沸点よりも高く、且つ塩化物または酸塩化物の沸点がフッ化物の沸点よりも低いことを特徴とする。ここで、塩化物または酸塩化物の沸点がフッ化物の沸点よりも低いのは、タングステンの貫通加工後にエッチングストッパー膜を、塩素系ガスにより、タングステンにダメージを与えずに剥離するためである。
【0044】
以上のように、表1に挙げたハードマスク膜の候補は、そのままエッチングストッパー膜の候補となりうる。違いを挙げるとすれば、ハードマスク膜はタングステンの貫通加工後も消失せず残存するとともに、平面方法にもエッチングされず貫通孔径を大きくすることがないように、タングステンに対するエッチングストッパー膜のドライエッチング選択比(=エッチングストッパー膜のエッチングレート/タングステンのエッチングレート)が低い材料ほど好ましい。
【0045】
一方で、一般にドライエッチングではエッチング残りをなくすためや、エッチング形状を整える目的でオーバーエッチングを行うが、エッチングストッパー膜のタングステンに対するエッチング選択比が低すぎると、オーバーエッチング時にタングステンに横方向へのサイドエッチングを生じる可能性があるため、選択比は低すぎず、エッチングストッパー膜2の途中でドライエッチングが停止する程度であることが好ましい。
【0046】
また、エッチングストッパー膜は、ステージ側からの冷却効果をドライエッチング実施中のタングステンブランクスにスムーズに伝達するために、熱伝導率の大きい材料である方が好ましい。既述のように、ドライエッチングによる割れや欠けや歪みに影響を与える熱膨張率とともに、表1に挙げる材料の熱伝導率を表2に示す。
【0047】
【表2】
貫通加工された加工品の裏面は汚染から保護される必要がある。ブランクスをステージに直接載置することや、クールグリス等をブランクス裏面に直接塗布することは貫通加工面を汚染することにつながる。本発明のタングステンブランクスは、エッチングストッパー膜を備えることで、ブランクスがステージに直接載置することはなく、またクールグリス等はエッチングストッパー膜に塗布し、その後エッチングストッパー膜とともに剥離すればよいので、加工品の裏面は汚染から保護される。
[タングステン加工品の製造方法]
図3は、本発明のタングステンブランクスの第1実施形態を用いて、タングステン加工
品を製造するプロセスの一部を工程順に示す模式断面図であり、
図4は、
図3に続く製造プロセスを工程順に示す模式断面図である。
【0048】
まず、タングステンからなるブランクス基板1(厚さ50~400μm、
図3(a))の第1の面に、厚さ1~5μmのエッチングストッパー膜2を成膜し、タングステンブランクス100の形態とする(
図3(b))。エッチングストッパー膜2は、表1中のW以外の材料から、加工製品の仕様(タングステン厚、貫通孔径、加工精度等)に応じて、エッチング条件や、エッチング時の温度を考慮して適宜選択する。
【0049】
エッチングストッパー膜2の成膜方法としては、化学蒸着(CVD)や物理蒸着(PVD)や原子層蒸着(ALD)等が候補として挙げられ、その中でもプラズマCVD、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリング等を好適に使用することができる。
【0050】
次に、ブランクス基板1の前記の第1の面とは反対側の第2の面に、厚さ1~10μmのレジスト層4を塗工し、タングステンブランクス100aの形態とする(
図3(c))。レジストコート方法に関しては、例えば、一般的なスピンコーティングが挙げられる。
【0051】
作製されたブランクス100aを、露光機や描画機といったレジストパターニング装置とベーク機や現像機といったプロセス装置で処理し、ブランクス基板1上にレジストパターン4aを形成する(
図3(d))。
【0052】
次に、形成したレジスト4a上、及びレジスト4aが存在しないブランクス基板1上に、厚さ1~5μmのハードマスク膜3を成膜する(
図4(a))。成膜方法は、レジストパターン4aの形状に影響を与えなければ、
図3(b)のエッチングストッパー膜2の成膜方法と同様でよい。
【0053】
次に、薬液処理によるリフトオフ法によってレジストパターン4aと同時に、レジストパターン4a上のハードマスク膜3を選択的に除去し、レジストパターン4aとはパターンが反転したハードマスク膜パターン3aを形成する(
図4(b))。
【0054】
次に、ハードマスク膜パターン3aをエッチングマスクとして、ブランクス基板1を成すタングステンを、フッ素系ガスを主ガスとしたドライエッチングにより、タングステンを貫通加工し、符号1aの形状とする(
図4(c))。この工程によりハードマスク膜パターン3aは、膜減りしたハードマスク膜パターン3a’となる。
【0055】
エッチングガスはフッ素系ガスを主ガスとするが、加工製品の仕様(タングステン厚、貫通孔径、加工精度等)に応じ、貫通孔をより垂直に仕上げ、径の寸法精度を上げるために、CF4,C2F6、SF6などのフッ素系ガスに、酸素含有ガス、または少なくとも水素を含む、H2、炭化水素系ガス、アルコール系ガス、ハロゲン化水素、アンモニア(NH3)などの還元性のガスを添加し、側壁保護膜が形成されるようにエッチングすることが好ましい。
【0056】
エッチングストッパー膜2は、フッ化物の沸点がタングステンのフッ化物の沸点よりも高く、フッ素系ガスではエッチングされ難い材料としているので、貫通孔にエッチング残りやサイドエッチングが生じない程度にオーバーエッチングし、ドライエッチングがエッチングストッパー膜2の途中で停止するように、ドライエッチング時間を設定すればよい。
【0057】
最後に、膜減りしたハードマスク膜パターン3a’と、エッチングストッパー膜2を、順に若しくは同時に除去することで、タングステンの加工が完了し、タングステン加工品
10が完成する(
図4(d))。ここで、ハードマスク膜パターン3a’、及びエッチングストッパー膜2は、塩化物または酸塩化物の沸点がフッ化物の沸点よりも低い材料としているので、Cl
2、BCl
3などの塩素系ガスを用いたドライエッチンングにより剥離することができる。この際、タングステンにダメージを与えないために低パワー、低レートでソフトなエッチングを行い、発光分析法により剥離の終点検出を行うことが好ましい。
【0058】
または、タングステンを冒さない薬液処理により剥離することもできる。
【0059】
表1の材料のうち、Crは酸塩化物CrO2Cl2、Snは塩化物SnCl4の沸点が低く、従って塩素系ガス(CrはCl2+O2)によって剥離し易く好ましい。また、表2によれば、Cu、Niは熱伝導率が大きく好ましいが、塩化物の沸点は高い。しかしながらCuは、アルコール、エーテル、ケトンの内から選ばれた炭素化合物と、VB族水素化物とを混合したエッチングガスによりエッチングすることができる。また、Niは、二酸化炭素ガス単独または二酸化炭素ガスを主体としこれに添加ガスを加えてなるエッチングガスによりエッチングすることができる。
【0060】
図5は、本発明の第2実施形態のタングステンブランクスを用いて、タングステン加工品を製造するプロセスの一部を工程順に示す模式断面図であり、
図6は、
図5に続く製造プロセスを工程順に示す模式断面図である。
【0061】
本発明の第2実施形態のタングステンブランクスを用いる場合は、第1実施形態のタングステンブランクスを用いてタングステン加工品を製造する場合と工程順が一部異なるのみであり、使用する材料、方法・装置、膜厚は同じであるので、それらの同じ部分の記載は省略する。
【0062】
第2実施形態のタングステンブランクスを用いてタングステン加工品を製造する方法では、まずタングステンからなるブランクス基板1(
図5(a))の第1の面に、エッチングストッパー膜2、及び第1の面とは反対側の第2の面に、ハードマスク膜3を成膜し、タングステンブランクス200の形態とする(
図5(b))。
【0063】
次に、第2の面のハードマスク膜3上に、レジスト層4を塗工し、タングステンブランクス200aの形態とする(
図5(c))。
【0064】
次に、作製されたブランクス200aを、露光機や描画機といったレジストパターニング装置とベーク機や現像機といったプロセス装置で処理し、ハードマスク膜3上にレジストパターン4bを形成する(
図5(d))。
【0065】
次に、レジストパターン4bをマスクとして、ハードマスク膜3をドライエッチングし、ハードマスク膜パターン3bを形成する(
図6(a))。この際、エッチングガスとしては、膜減りしたハードマスクパターン3a’とドライエッチングストッパー膜2の除去は、ハードマスク膜パターン3a’の剥離に利用したエッチングガスを用いることができる。この場合も発光分析法によりエッチングの終点検出を行うことが好ましい。
【0066】
次に、レジストパターン4b及びハードマスク膜パターン3b、またはレジストパターン4bを剥離したハードマスク膜パターン3bをエッチングマスクとして、
図4(c)の工程と同様に、ブランクス基板1を成すタングステンを、フッ素系ガスを主ガスとしたドライエッチングにより、タングステンを貫通加工し、符号1aの形状とする(
図6(b))。これによりハードマスク膜パターン3bは、膜減りしたハードマスク膜パターン3b’となる。この際、レジストパターン4b及びハードマスク膜パターン3bをエッチングマスクとした場合も、通常、タングステンをドライエッチングする途中で消失する。
【0067】
最後に、第1実施形態を用いる場合と同様にして、膜減りしたハードマスク膜パターン3b’と、エッチングストッパー膜2を、順に若しくは同時に除去することで、タングステンの加工が完了し、タングステン加工品10が完成する(
図6(c))。
【0068】
以上、説明したように、本発明のタングステンブランクス及びタングステン加工品の製造方法では、厚膜の高アスペクト加工や高精度加工という要求を一つの装置性能が担うのではなく、加工品仕様に応じて、電子線描画を用いることもできるリソグラフィと、好適なハードマスク膜とエッチングストッパー膜の材料の選択と、好適なドライエッチング工程が分散して担うようにする。これにより、レーザー加工等では不可能であった、サブミクロンレベルの高い加工精度を有し、数十μmレベルの径でアスペクト比10以上の貫通孔を有するタングステン加工品、及びそのためのタングステンブランクスを提供することができる。
【符号の説明】
【0069】
1・・・・・・・・・タングステン(ブランクス基板)
1a・・・・・・・エッチングされたタングステン
2・・・・・・・・・ドライエッチングストッパー膜
3・・・・・・・・・ハードマスク膜
3a、3b・・・・ハードマスク膜パターン
3a’、3b’・・・膜減りしたハードマスク膜パターン
4・・・・・・・・・レジスト層
4a、4b・・・・レジストパターン
10・・・・・・・・タングステン加工品
100・・・・・・・本発明の第1実施形態のタングステンブランクス
100a・・・・・本発明の第1実施形態のタングステンブランクスの変形例
200・・・・・・・本発明の第2実施形態のタングステンブランクス
200a・・・・・本発明の第2実施形態のタングステンブランクスの変形例