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特許7477304大型エンジン用のシリンダ装置及び冷却方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】大型エンジン用のシリンダ装置及び冷却方法
(51)【国際特許分類】
   F01P 7/16 20060101AFI20240423BHJP
   F02F 1/10 20060101ALI20240423BHJP
   F01P 11/04 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
F01P7/16 507D
F02F1/10 D
F01P7/16 507C
F01P11/04 F
【請求項の数】 14
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020004050
(22)【出願日】2020-01-15
(65)【公開番号】P2020128743
(43)【公開日】2020-08-27
【審査請求日】2022-12-19
(31)【優先権主張番号】19156245.3
(32)【優先日】2019-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515111358
【氏名又は名称】ヴィンタートゥール ガス アンド ディーゼル アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル シュトレーデッケ
(72)【発明者】
【氏名】ウーロス バルシゲル
【審査官】北村 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-250037(JP,A)
【文献】特開2016-217317(JP,A)
【文献】特開2005-220770(JP,A)
【文献】特開2008-185002(JP,A)
【文献】特開平02-115514(JP,A)
【文献】特開2003-097265(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01P 7/16
F02F 1/10
F01P 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大型エンジン用の、特に長手方向掃気式2ストローク大型ディーゼル・エンジン用のシリンダ装置であって、シリンダ・ライナ(2)及びシリンダ・カバー(3)を有するシリンダ装置において、
ピストンが前記シリンダ・ライナ(2)に設置可能であり、前記ピストンは、運転状態において前記シリンダ・ライナ(2)のシリンダ軸線(X)に沿って上死点と下死点との間を往復移動可能に配置され、それにより前記ピストンの上側が、前記シリンダ・ライナ(2)の走行面、及び前記シリンダ・ライナ(2)上に配置された前記シリンダ・カバー(3)とともに燃焼室の境界を形成し、
前記シリンダ・ライナ(2)は、冷却流体を前記シリンダ・ライナ(2)内に供給するための第1の冷却入口(E1)と、前記冷却流体を前記シリンダ・ライナ(2)から排出するための第1の冷却出口(A1)とを有し、また前記シリンダ・カバー(3)は、前記冷却流体を前記シリンダ・カバー(3)内に供給するための第2の冷却入口(E2)と、前記冷却流体を前記シリンダ・カバー(3)から排出するための第2の冷却出口(A2)とを有し、
前記シリンダ装置(1)は、前記第1の冷却入口(E1)、前記第2の冷却入口(E2)、前記第1の冷却出口(A1)及び前記第2の冷却出口(A2)に接続する冷却回路(100)を有し、それにより前記冷却流体は、前記第1の冷却出口(A1)から前記第1の冷却入口(E1)及び前記第2の冷却入口(E2)に案内されることができ、
制御可能な混合弁(V1)が、前記第1の冷却出口(A1)と前記第1の冷却入口(E1)との間の前記冷却回路(100)に配置され、
前記冷却流体を前記第1の冷却出口(A1)から前記第1の冷却入口(E1)に再循環させるために、前記混合弁(V1)と前記第1の冷却入口(E1)との間の前記冷却回路(100)に循環ポンプ(P1)が配置され、
前記混合弁(V1)は、前記循環ポンプ(P1)と、前記第1の冷却出口(A1)と、新しい冷却流体を供給するための冷却流体供給部(5)とに流れ接続され
前記混合弁(V1)は、前記冷却流体の再循環可能な量を調節できるように設計され、また
前記第2の冷却入口(E2)は、新しい冷却流体を供給するために前記冷却回路を介して前記冷却流体供給部(5)に接続されている、シリンダ装置。
【請求項2】
前記混合弁(V1)は、三方弁(V1)として、又は2つの二方弁の組み合わせとして設計されている、請求項1に記載のシリンダ装置。
【請求項3】
前記冷却流体の前記再循環可能な量を調節できるように前記混合弁(V1)を制御可能な制御システム(4)を有する、請求項1又は2に記載のシリンダ装置。
【請求項4】
前記混合弁(V1)は、前記第1の冷却出口(A1)から前記第1の冷却入口(E1)への前記冷却流体の前記再循環が遮断され得るように前記制御システム(4)によって制御可能である、請求項3に記載のシリンダ装置。
【請求項5】
第1の温度センサ(S1)が、前記第1の冷却出口(A1)より流れ方向の後ろ側の前記冷却回路(100)に配置され、前記第1の温度センサ(S1)は、前記第1の温度センサ(S1)によって測定可能な前記冷却流体の温度に応じて前記冷却流体の前記再循環可能な量を調節できるように前記制御システム(4)に接続されている、請求項3又は4に記載のシリンダ装置。
【請求項6】
補償ライン(6)が、前記第2の冷却入口(E2)と前記冷却流体供給部(5)との間に配置され、それにより前記第1の冷却入口(E1)に再循環された冷却流体の量を補うことができる、請求項1からまでのいずれか一項に記載のシリンダ装置。
【請求項7】
ライナ冷却システム(21)が前記シリンダ・ライナ(2)のシリンダ壁内に配置され、またカバー冷却システム(31)が前記シリンダ・カバー(3)内に配置されている、請求項1からまでのいずれか一項に記載のシリンダ装置。
【請求項8】
前記循環ポンプ(P1)は、プロペラ・ポンプ又は遠心ポンプである、請求項1からまでのいずれか一項に記載のシリンダ装置。
【請求項9】
前記冷却流体は、オイル及び/又は水であり、特に海水及び/又は飲料水及び/又は真水である、請求項1からまでのいずれか一項に記載のシリンダ装置。
【請求項10】
前記冷却回路(100)は閉回路として設計されており、且つ再冷却流体、特に低温冷却水によって再冷却されることができる、請求項1からまでのいずれか一項に記載のシリンダ装置。
【請求項11】
前記冷却流体を冷却するために熱交換器又は混合デバイスを有する、請求項10に記載のシリンダ装置。
【請求項12】
請求項1から11までのいずれか一項に記載のシリンダ装置(1)を有する大型エンジン。
【請求項13】
二元燃料大型ディーゼル・エンジンとして設計された、請求項12に記載の大型エンジン。
【請求項14】
請求項1から11までのいずれか一項に記載のシリンダ装置(1)を有する大型エンジンのシリンダを冷却するための方法であって、前記冷却流体の再循環可能な量が前記制御可能な混合弁(V1)によって調節される、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大型エンジン用のシリンダ装置、本発明によるシリンダ装置を有する大型エンジン、及び本発明によるシリンダ装置を有する大型エンジンを冷却するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大型エンジンは、2ストローク又は4ストローク・エンジンとして、例えば長手方向掃気式2ストローク大型ディーゼル・エンジンとして設計されることがあり、船舶用の駆動ユニットとして、又は、例えば電気エネルギーを発生させるための大型発電機を駆動するために定置運転においてさえしばしば用いられる。これらのエンジンは、通常、長時間連続運転され、それには運転安全性と稼働性に高い要求が求められる。その結果、特に動作材料の長い保守間隔、低摩耗、及び経済的な取り扱いが運用者にとっての中心的な基準である。大型エンジンは典型的には、内径(ボア)が少なくとも200mmのシリンダを有する。近頃では、ボアが1000mmまで、又はそれより大きなものさえ有する大型エンジンが使用されている。
【0003】
様々なタイプの大型エンジンが知られており、それぞれ2ストローク又は4ストローク・エンジンとして設計することができる。経済的且つ効率的な運転、排気ガス排出基準の遵守、及び資源の利用可能性に関して、大型エンジン用の燃料として従来使用されている重油に代わるものも求められている。この点に関して、液体燃料、即ち液体状態で燃焼室に導入される燃料と、ガス燃料、即ち気体状態で燃焼室に導入される燃料との両方が使用されている。
【0004】
液体燃料の実例としては、重油、灯油、様々な品質等級のディーゼル油及びガソリン、アルコール、特にメタノール又はエタノール、前述の従来の燃料と部分的に混合された、例えばFAMEとして生物学的に生成された燃料(バイオ燃料)、或いはエマルジョン又は懸濁液もある。例えばMSAR(Multiphase Superfine Atomized Residue)として知られているエマルジョンが燃料として使用されることが知られている。よく知られている懸濁液としては、大型エンジン用燃料としても使用される、石炭ダストと水の懸濁液がある。LNG(液化天然ガス)、エタン及びプロパン等の天然ガスは、例えばLPGのような混合物の状態のガス燃料として知られている。
【0005】
重油又は別の石油ベースの燃料を用いた純粋運転に代わる別のよく知られている方法は、大型エンジンを2種類以上の異なる燃料を用いて運転することができるように、また運転状況や環境に応じて一方の燃料でも他方の燃料でも運転するように設計することである。そのような大型エンジンは、多元燃料大型エンジンとも呼ばれ、運転中に第1の燃料が燃焼する第1のモードから第2の燃料が燃焼する第2のモードへ、及びその逆方向への切り替えをすることが可能である。さらに、同時に両方の燃料を用いて大型エンジンを運転することが可能な場合もある。例えば第1及び第2の燃料の両方を1つ又は複数のシリンダ内に噴射することができ、それにより、燃焼プロセスは、第1の燃料の燃焼と第2の燃料の燃焼の両方に基づく(燃料シェアリング(fuel sharing))。しかしながら、第1の数のシリンダが第1の燃料だけで運転されるが、同時に第2の数のシリンダが第2の燃料だけで運転されることもあり得る。
【0006】
2つの異なる燃料で運転することが可能な大型エンジンの設計としては、今日「二元燃料エンジン」という用語が用いられるエンジンのタイプが知られている。こうしたエンジンは、ガス燃料、例えば天然ガス、メタン、エタン、プロパン、或いはメタノール、エタノール、LPG又はDME等の低引火点の液体LFL(low flashpoint liquid)が燃焼室に導入されて燃焼するガスモードで運転することができる一方、他方では重油等の液体燃料又は他の液体燃料を同じエンジン内で燃焼させることが可能な液体モードで運転することができる。さらに、両方の燃料が同時に使用される混合モードで二元燃料エンジンを運転することもあり得る。こうした大型エンジンは、2ストローク・エンジン及び4ストローク・エンジンのいずれでもあり得るし、特に長手方向掃気式2ストローク大型ディーゼル・エンジンでもあり得る。
【0007】
シリンダ・ライナとしても知られているシリンダ・ライナが運転状態で受ける負荷は、シリンダ・ライナの上部領域、即ち運転状態においてピストンがシリンダ・カバーの近くの上死点を通過するところで特に高いことがよく知られている。ピストンの上死点位置近くで、即ちシリンダ・ライナとシリンダ・カバーとピストンとによって囲まれる燃焼室の容積がほぼ最小になるとき、空気燃料混合気が着火され、又は自己着火する。その結果、強い動的変化も受けるシリンダ・ライナ内に高温及び高圧が生じ、それは少なからずピストンの動きと燃焼室の容積の絶え間ない変化によるものである。
【0008】
したがって、例えばシリンダ・カバー近くのシリンダ・ライナの上端に冷却リングを設け、これらの冷却リングが水冷装置を備えていることが好ましく、それにより、生じた熱負荷の少なくとも一部分が冷却リングを介してシリンダ・ライナから導き出されることができることが長い間知られていた。シリンダ内で生成される熱の圧倒的に大きな部分がシリンダ・ライナの上部領域に生じ、したがってシリンダ・カバーにも生じるという事実により、シリンダ・ライナの上部領域の温度は、現況技術から知られているシリンダ装置において、シリンダ・ライナの下部領域の温度よりも著しく高い。これは、現況技術から知られているシリンダ・ライナでは、シリンダ・ライナのシリンダ壁にシリンダ軸線に沿って大きな温度勾配があることを意味する。言い換えれば、シリンダ・ライナの壁の上部、特にシリンダ・カバーに隣り合う部分では、温度は望ましい平均温度値より高すぎるが、シリンダ・ライナの下部の温度はかなり低すぎる。
【0009】
これはいくつかの非常に異なった悪影響を有し、それらは当業者にはよく知られている。シリンダ・ライナの壁の異なる領域において明らかに温度が異なることにより、これに対応した内部の機械的歪が当然存在する。例えば追加の対策を採らなければ、シリンダ・カバー近くの上部領域のシリンダ・ライナは、下部領域よりも半径方向に大きく膨張する。これは、大型エンジンの運転状態においてシリンダ・ライナの上部領域の内径が下部領域よりも大きくなる危険性があることを意味する。これは、ピストンのピストン走行挙動に対しては、それ自体知られているように不利となり、したがってピストンとライナ走行面との間の摩擦も増大するだけでなく、勿論、これに対応して、半径方向及びシリンダ軸線に沿う軸方向の両方において、シリンダ・ライナの材料の対応する内部応力も発生する。大きな温度勾配によってまた、当然、関係する機械構成部品のシリンダ・ライナの腐食プロセスは加速し、又はより強くなり、且つ不均一になる。
【0010】
例えば高硫黄燃料、例えば重油燃料又はディーゼル油で運転中に、シリンダ・ライナの上部領域が全エンジン負荷でも高温になりすぎないようにシリンダ・ライナを強く冷却した場合、このことは、部分負荷運転中に、より低温のシリンダ・ライナの下部領域における露点が、そのときの既存の圧力レベルより低くなるという事実につながり得る。この結果、酸、とりわけ亜硫酸及び硫酸が形成される。
【0011】
したがって、有害な酸の形成、及び、例えば低温腐食もまた、それに応じて好都合にも又は不都合にも、シリンダ・ライナの温度分布によって影響を受ける。上記の有害な影響の一覧は単に実例として理解されるためのものであって、決して網羅したものではない。当業者であれば、いくつかの他の有害な結果を非常によく承知している。
【0012】
欧州特許出願公開第2848786(A1)号では、別々の冷却システムが、シリンダ・カバーとシリンダ・ライナに設けられた各枠内にあり、ライナ冷却流体とカバー冷却流体との間での流れの交換を防ぐ場合には、カバー冷却システムの冷却媒体とライナ冷却システムの冷却媒体が混合しない冷却装置が開示されている。
【0013】
現況技術において、シリンダ・ライナとシリンダ・カバーに対する共通の冷却回路が存在する冷却回路も知られている。ここでは、冷却流体は、シリンダ・ライナからシリンダ・カバー内に案内される。すでに使用された冷却流体、即ち加熱された冷却流体を再循環させるかどうか、即ちシリンダ・ライナを出た冷却流体をシリンダ・ライナの冷却流体入口に部分的に戻すかどうかを調節するためにポンプ及び逆止弁を用いることができる。冷却流体のこのような再循環は、特にエンジンの部分負荷運転で用いられ、この場合、ポンプは再循環用に用いられ、冷却流体の再循環のために作動する。このような構造の不利な点は、ポンプが停止されるとすぐに、停止によって生じる損傷(アイドル時間による損傷)がポンプに対して生じ得ることである。ポンプは、部分負荷運転のみに用いられ、全負荷運転では停止される。
【0014】
したがって、現況技術から知られているシリンダ装置では、シリンダ・ライナ自体又はシリンダ・ライナの少なくとも走行面、ピストン・リング、ピストン、シリンダ・カバー、並びにそれらに設けられた噴射ノズル、出口弁、液圧弁、ポンプ、及び機器等の構成部品等の関連構成部品の耐用年数が非常に短くなることが予想されるだけでなく、エンジンの運転中の動力損失も予想され、その結果、燃料消費が増大し、結局全体的なコストが増え、運用効率が悪化することもまた予想される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】欧州特許出願公開第2848786(A1)号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
したがって本発明の目的は、現況技術から知られている不利な点を避けるシリンダ装置を提案することである。さらに、本発明の目的は、現況技術から知られている不利な点を避ける、改善された大型エンジンを提案することである。本発明のさらなる目的は、現況技術から知られている不利な点を避ける、大型エンジンを冷却するための改善された方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
これらの目的に合致する本発明の主題は、独立請求項1、14及び15の構成によって特徴づけられる。
【0018】
従属請求項は本発明の特に有利な実施例に関する。
【0019】
したがって、本発明は大型エンジン用のシリンダ装置に関し、大型エンジンは、特に長手方向掃気式2ストローク大型ディーゼル・エンジンであってもよい。ここで、シリンダ装置は、シリンダ・ライナ及びシリンダ・カバーを有する。よく知られている態様でシリンダ・ライナにピストンを取り付けることができ、ピストンの上側が、シリンダ・ライナの走行面とシリンダ・ライナの上に配置されたシリンダ・カバーとともに燃焼室の境界を形成するように、ピストンが、運転状態で上死点と下死点との間をシリンダ・ライナのシリンダ軸線に沿って往復運動可能に配置される。シリンダ・ライナは、冷却流体をシリンダ・ライナ内に供給するための第1の冷却入口と、冷却流体をシリンダ・ライナから排出するための第1の冷却出口とを有する。シリンダ・カバーは、冷却流体をシリンダ・カバー内に供給するための第2の冷却入口と、冷却流体をシリンダ・カバーから排出するための第2の冷却出口とを有する。さらに、冷却流体を第1の冷却出口から第1の冷却入口及び第2の冷却入口に案内することができるように、シリンダ装置は、第1冷却入口、第2の冷却入口、第1冷却出口、及び第2冷却出口に接続された冷却回路を有する。したがって、シリンダ・ライナ及びシリンダ・カバーを予め決定可能な温度に冷却するために、又は冷却水を予め決定可能な温度に加熱することを可能にするために、運転状態においてシリンダ・ライナ及びシリンダ・カバーに冷却流体を冷却回路によって案内することができる。このために、制御可能な混合弁が、第1の冷却出口と第1の冷却入口との間の冷却回路に配置され、それによって冷却流体を第1の冷却出口から第1の冷却入口に再循環させるために、混合弁と第1の冷却入口との間の冷却回路に循環ポンプが配置される。この場合、混合弁は、循環ポンプと、第1の冷却出口と、新しい(fresh)冷却流体を供給するための冷却流体供給部とに流れ接続され、冷却流体の再循環可能な量を調節することができるように設計されている。
【0020】
したがって、運転状態に応じて、特に、全負荷か部分負荷か、低硫黄か無硫黄か高硫黄かの運転に応じて、シリンダ装置の第1の冷却入口に供給される冷却流体を、好ましくは量の比で温度制御して、好ましくは新しい冷却流体と再循環された冷却流体との予め決定可能な比率の混合物にすることができるように、混合弁を調整することができることが、本発明にとって重要である。
【0021】
新しい冷却流体とは、シリンダ・ライナの第1の冷却出口から出てくるのではない冷たい冷却流体、即ち、シリンダ・ライナで前もって加熱されているが、冷却流体供給部から出てくる冷却流体で、例えば、熱交換器によって冷却された、又は貯槽から供給された冷却流体を意味する。
【0022】
特に、本発明によって、運転温度の、特に運転状態に応じた柔軟な調節が可能になる。本発明によるシリンダ装置では、運転温度は、冷却流体によって調節可能であり、又は第1の冷却出口から第1の冷却入口に再循環される冷却流体の量によって調節可能である。冷却流体、特にシリンダ・ライナの冷却流体の温度は、調節可能な混合弁によって容易に調節、調整、又は制御することができる。このように、特に、亜硫酸又は硫酸等の腐食性物質の形成につながることがある硫黄を含む燃料での部分負荷運転において、シリンダ・ライナの過剰な冷却を避けることができる。
【0023】
本発明による構成により、混合弁を有する本装置によって、循環ポンプを停止させる必要なく運転状態(即ち、エンジン運転状態)で常時使用することができるので、循環ポンプの停止によって生じる損傷(アイドル時間による損傷)を避けることができる。
【0024】
特に好ましい実施例では、混合弁は、三方弁として、特に三方混合器として設計することができる。三方混合器は、切換弁と同様、3つの接続部を有し、好ましくは、1つの接続部は循環ポンプに接続され、1つの接続部は冷却流体供給部に接続され、1つの接続部は第1の冷却出口に接続されて、そこから漏れる冷却流体の少なくとも一部分を再循環させることができるように切り替えられる。三方混合器は、開位置及び閉位置の2つの極限位置を有することが好ましい。開位置では、第1の冷却入口に案内される冷却流体はすべてが冷却流体供給部から来る、即ち、第1の冷却出口から第1の冷却入口への冷却流体の再循環は閉じられている。閉位置では、第1の冷却出口から流れ出る冷却流体はすべてが第1の冷却入口に再循環する。三方混合器は、第1の冷却出口から第1の冷却入口に再循環される冷却流体の量を調節することができるように、これらの2つの極限位置の間を必要に応じて調節することができる。本発明の実施例では、開位置、又は開位置と閉位置との間の中間位置は、新しい冷却流体と再循環される冷却流体との混合物を有することが好ましい。新しい冷却流体と再循環される冷却流体との混合物を有する中間位置は、例えば、第1の冷却出口で所定の温度を達成するように、運転状態に応じて新しい冷却流体と再循環される冷却流体との様々な混合比に調節又は調整又は制御することができる。本発明によって提供される混合弁は、勿論、四方混合器として又は任意の多方混合器として又は任意の多方弁としても設計することができる。
【0025】
特に、混合弁は2つの二方弁を組み合わせたものとして設計されることも可能である。この場合、二方弁の一方は第1の冷却出口から第1の冷却入口に再循環される冷却流体の量を調節するために用いられる。他方の二方弁は、新しい冷却流体の量を調節するために用いられる。
【0026】
実際には、制御可能な弁は、冷却流体の再循環可能な量を調節することができるように制御システムによって制御することができる。したがって、第1の冷却入口に供給される、再循環される冷却流体と新しい冷却流体との混合物は、混合弁の制御によって必要に応じて調節することができる。ここで、制御システムは特に、混合弁を制御する電子ユニット又はコンピュータで実装する装置を有するコントローラであってもよい。すでに上で説明したように、混合弁もまた、第1の冷却出口から第1の冷却入口への冷却流体の再循環を防ぐ又は妨げ、それにより第1の冷却入口は、新しい冷却流体だけが供給されるように、制御システムによって制御することができる。
【0027】
混合弁の制御は手動で行う必要はない。本発明によるシリンダ装置は、少なくとも大部分を自動制御することを可能にするためにセンサを有することが好ましい。ここで、特に、流れ方向に第1の冷却出口の後の冷却回路に第1の温度センサを配置することができる。第1の温度センサは、冷却流体を、一方で第1の冷却入口に、他方で第2の冷却入口に供給することができる枝管の上流に位置する点で、第1の冷却出口の近くに配置されることが好ましい。温度センサは、第1の温度センサによって測定された冷却流体の温度に応じて冷却流体の再循環可能な量を調節すること、又は調節することができる、特に調整又は制御することができるように、制御システムに接続することができる。
【0028】
加えて、第2の温度センサは、第2の冷却出口の冷却流体の温度又は第2の冷却出口の下流の冷却流体の温度を検出するために、流れ方向に第2の冷却出口の後の冷却回路に配置することができる。第2の温度センサによって検出された温度は、新しい冷却剤の温度を予め決定可能な値に調節するために用いられることが好ましい。第2の温度センサによって検出された温度が、再循環される冷却流体の量に直接影響せず、新しい冷却剤の温度を調節又は調整することにだけ役立つことは好ましい実施例である。ここで、実際には、第2の温度センサによって検出される温度に対して、固定された温度範囲又は固定された温度、特に、60~100℃、好ましくは約80℃~90℃を予め決定することが好ましい。
【0029】
本発明の実施例では、第2の冷却入口は、新しい冷却流体を供給するために冷却回路を介して冷却流体供給部に接続することができる。このような装置によって、例えば、補償ラインによって、再循環される冷却流体の量、即ち、さらなる冷却のために直接シリンダ・カバー内に達しない冷却流体の量を新しい冷却流体で置き換えることができるので、シリンダ装置を通る一様な体積流量が可能になり、一様な体積流量でシリンダ・カバーの一様な冷却もまた可能になる。第1の入口に再循環される冷却流体の量を補償ラインによって補うことができるという事実は、冷却流体の再循環される量が新しい冷却流体によって少なくとも部分的に置き換えられることを意味する。
【0030】
ライナ冷却システムがシリンダ・ライナのシリンダ壁に配置され、カバー冷却システムがシリンダ・カバーに配置されることが好ましい。カバー冷却システムは主として、シリンダ・カバー、及び出口弁等のシリンダ・カバーに設けられた又は取り付けられた構成部品を冷却するために用いられる。
【0031】
ここで、カバー冷却システムは、冷却流体を第2の冷却入口を経てカバー冷却システムに供給することができ、第2の冷却出口を経てカバー冷却システムから排出することができるように、シリンダ・カバーに配置することができることが好ましい。
【0032】
同様に、ライナ冷却システムは、冷却流体を第1の冷却入口を経てライナ冷却システム又はライナに供給することができ、第1の冷却出口を経てライナ冷却システム又はライナから排出することができるように、シリンダ・ライナに配置することができることが好ましい。
【0033】
カバー冷却システム及びライナ冷却システムの両方が、シリンダ装置の冷却回路の一部であることが好ましい。
【0034】
冷却流体として、オイル及び/又は水、特に海水及び/又は飲料水及び/又は真水(fresh water)を用いることが特に好ましい。冷却流体は、循環ポンプによって冷却回路の中を移動することが好ましい。循環ポンプは、例えば、プロペラ・ポンプ又は遠心ポンプとすることができる。冷却流体の循環を支えるために、又は他の流体を循環させるために、さらなるサポート・ポンプがシリンダ装置に配置されてもよい。
【0035】
このようなサポート・ポンプは、例えば、冷却回路が閉回路で、再冷却流体、特に低温の冷却水で再冷却される場合には有益になり得る。ここで、例えば、再冷却流体で冷却流体を再冷却するために熱交換器を用いることができ、冷却流体及び再冷却流体の両方とも、回路(冷却回路及び再冷却回路)の熱交換器を通るように案内され、冷却流体は再冷却流体に熱を放出し、したがって冷却される。再冷却回路は、新しい再冷却流体又は低温の再冷却流体、特に海水を送出することが好ましく、サポート・ポンプによって駆動することができる。熱交換器は、例えば、対向流の原理を用いて冷却することができる。
【0036】
大型エンジンの冷却システム全体は、高温システムに属する冷却回路に加えて、高温システム(冷却回路)の冷却流体が再冷却される低温システム、及び低温システムの再冷却流体が再冷却されるさらなるシステムを有することが好ましい。高温システムに属する冷却回路の冷却流体は、大型エンジンのシリンダと直接接触している。低温システムは、低温システムの再冷却流体が高温システムの冷却流体から熱を吸収して、したがってそれを冷却することができるように、熱交換器を介して高温システムに熱的に結合されている。さらなるシステムは、さらなるシステムの熱媒体が低温システムの再冷却流体から熱を吸収して、したがってそれを冷却することができるように、熱交換器を介して低温システムに熱的に結合されている。熱交換器の代わりに、混合システム或いは1つ又は複数の混合デバイスもまた、例えば、圧力レベル及び冷却媒体の適合性を考慮して回路の結合が技術的に可能であれば、設けてもよい。
【0037】
高温システムの冷却流体は、添加剤を加えることができる真水が好ましい。低温システムの再冷却流体は、添加剤を加えることができる真水が好ましい。さらなるシステムの熱媒体は、特に大型エンジンが船舶の駆動ユニットである場合には海水が好ましい。
【0038】
シリンダ装置は、冷却流体を第1の冷却出口を通して直接的又は間接的にシリンダ・カバー内に運ぶことができるように設計されてもよい。間接的とは、冷却流体が導管を経てシリンダ・ライナから出てからシリンダ・カバー内に案内されることを意味する。
【0039】
本発明のさらなる態様は、本発明によるシリンダ装置を有する大型エンジンのシリンダを冷却するための方法に関する。本発明による方法では、冷却流体の再循環可能な量は混合弁によって調節される。このために、混合弁は、新しい冷却流体と再循環される冷却流体が、予め決定可能な比で混合されて、所望の温度に調節されるように制御及び調節される。勿論、混合弁の制御は自動的に行われ、例えばセンサ、特に温度センサを制御システムの形態で備えることができる。ここで、冷却回路の適切な点での温度は連続的に記録され、予め決定可能な温度基準値と比較されることが好ましい。次いで、混合弁は、温度基準値への調節という意味で影響される。
【0040】
これは、シリンダ装置の冷却をエンジンの負荷に確実に適合させることができるという点で有利である。
【0041】
本発明のさらなる態様は、本発明によるシリンダ装置を有する大型エンジンに関し、ここでは、冷却流体の再循環可能な量が制御可能な混合弁によって調節される。
【0042】
大型エンジンは、例えば、長手方向掃気式大型エンジンとして設計されてもよい。
【0043】
好ましい実施例では、大型エンジンは、長手方向掃気式2ストローク大型ディーゼル・エンジンとして設計される。
【0044】
特に、大型エンジンは、燃焼用に液体燃料が燃焼室内に導入される液体モードで運転することができ、さらに、燃料としてガス又は低引火点の液体LFLが燃焼室内に導入されるガスモードで運転することができる、二元燃料大型ディーゼル・エンジンとしても設計することができる。任意選択的に、二元燃料エンジンは、両方の燃料が同時に使用される混合モードを備えることも可能である。
【0045】
二元燃料エンジンでは、シリンダ装置の冷却をエンジンの負荷及びそれぞれの燃料に確実に適合させることができるという点で非常に有利である。これは、典型的には硫黄を含む重質燃料油又は別の硫黄を含む燃料でのディーゼル運転において、シリンダ・ライナの壁に水が凝縮することによる酸の形成を避けるためにシリンダ・ライナの高運転温度が望まれるという事実によるものである。対照的に、例えば、燃料として天然ガスを使用するガス運転では、シリンダ・ライナの運転温度を可能な限り低くすることが望まれる。
【0046】
ディーゼル運転においてシリンダ・ライナの運転温度が低すぎる場合、酸、特に亜硫酸及び硫酸が形成され、これは、シリンダ装置を損傷させる可能性がある。一方、ガス又は他の可燃性の高い液体燃料には通常硫黄が含まれていないので、ガス運転では、酸の形成は通常問題とはならない。しかしながら、ガス運転では、シリンダ・ライナの過大に高い運転温度は、空気-ガス混合気の自己着火による失火を導く可能性がある。ガス運転では、熱力学的な理由からも、目標は通常ライナをできるだけ冷却することである。
【0047】
以下、実施例及び図を参照して、装置及びプロセス・エンジニアリングの両方で、より詳細に本発明を説明する。図は概略図である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】本発明によるシリンダ装置の第1の実施例である。
図2】本発明によるシリンダ装置の第2の実施例である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
本実施例は、特に大型エンジンに適したシリンダ装置を示す。
【0050】
用語「大型エンジン」は、船舶用の主駆動ユニットとして通常使用されるエンジンを、又は、例えば電気エネルギーを生成するための大型発電機を駆動するために定置運転で通常使用されるエンジンをも指す。典型的には、大型エンジンのシリンダは少なくとも約200mmの内径(ボア)をそれぞれ有する。
【0051】
大型エンジンは、4ストローク・エンジン又は2ストローク・エンジンとして設計することができる。特に、大型エンジンは、大型ディーゼル・エンジンとして、とりわけ長手方向掃気式2ストローク大型ディーゼル・エンジンとして設計することができる。用語「大型ディーゼル・エンジン」は、燃料の燃焼が、通常自己着火の原理に従って起こるディーゼル運転で動作することができるようなエンジンを指す。本出願の枠組みでは、用語「大型ディーゼル・エンジン」は、ディーゼル運転に加え、その代わりにオットー運転でも運転することができるようなエンジンも指す。オットー運転では、燃焼は、典型的には燃料の強制着火の原理に従って起こる。大型ディーゼル・エンジンは、ディーゼル運転とオットー運転の混合形態で運転することも可能である。
【0052】
本発明の以下の説明では、長手方向掃気式2ストローク・ディーゼル・エンジンとして設計され、船舶の主駆動ユニットとして使用される大型エンジンの場合について実用上重要な例示的な特性を用いて言及する。この大型ディーゼル・エンジンは、2つの異なる燃料、即ち、重質燃料油又は舶用ディーゼル油等の液体燃料と、オットーの原理に従って強制着火で燃焼するガス燃料、例えば天然ガス、又は可燃性の高い液体燃料とで運転することができるように、二元燃料大型ディーゼル・エンジンとして設計されることが好ましい。二元燃料大型ディーゼル・エンジンは、運転中に第1の燃料の燃焼から第2の燃料の燃焼へ、及びその逆へ切り替えることができる。このことは、液体燃料を燃焼室に導入して燃焼させる液体モードでも、ガス又は低引火点の液体LFLを燃焼室に燃料として導入するガスモード(ガス運転とも称す)でも運転することができることを意味する。液体モードでは、大型エンジンは燃料を自己着火して運転され(ディーゼル運転)、ガスモードでは、大型エンジンは燃料を強制着火して運転される(オットー運転)。ガスモードでは、二元燃料エンジンは、低圧法に従って運転されることが好ましい。ガスモードにおいて、少量の自己着火燃料、例えば重質燃料油又はディーゼル油を噴射して空気-ガス混合気を強制着火させることによってシリンダ内の空気-ガス混合気の強制着火を起こすことが好ましい。
【0053】
本発明は、このタイプの大型エンジン及びこの用途に限定されるものではなく、一般に大型エンジンに関して言及することを理解されたい。したがって、大型エンジンが、重質燃料油、舶用ディーゼル油、又はディーゼル油等の単一の燃料、或いは天然ガス等のガスを燃焼させるためだけに設計されることも可能である。大型エンジンはガスエンジンとしても設計されることもある。大型エンジンが、第1の燃料で運転することができ、また、第1の燃料とは異なる少なくとも第2の燃料でも運転することができる多燃料エンジンとして設計されることも可能である。勿論、大型エンジンは、3つ以上の燃料を燃焼するように設計することもできる。
【0054】
大型エンジンを運転することができる1つ又は複数の燃料に関して、上で説明した燃料について例示的な特性を用いて言及する。
【0055】
図1には、本発明による、大型エンジン、特に長手方向掃気式2ストローク大型ディーゼル・エンジンのためのシリンダ装置1の第1の実施例が概略的に示されている。シリンダ装置1は複数のシリンダ23を有しており、そのうちの3つが図1に示されている。このような装置は、予め決定可能な数のシリンダ23を有する本発明による大型エンジンに特に適している。
【0056】
各シリンダ23は、それ自体知られている態様で、シリンダ・ライナ又はライナともしばしば称されるシリンダ・ライナ2を有する。各シリンダ・ライナ2には、図示はされていないが、ピストンがそれ自体知られている態様で配置されており、ピストンの上側が、シリンダ・ライナ2の走行面とシリンダ・ライナ2の上に配置されたシリンダ・カバー3とともに燃焼室の境界を形成するように、運転及び取付状態で上死点と下死点との間をシリンダ・ライナ2のシリンダ軸線Xに沿って往復運動可能に配置されている。
【0057】
これに関して、図1は本発明によるシリンダ装置1の実施例を示している。各シリンダ・ライナ2は、冷却流体をシリンダ・ライナ2内に供給するための第1の冷却入口E1と、冷却流体をシリンダ・ライナ2から排出するための第1の冷却出口A1とを有する。各シリンダ・カバー3は、冷却流体をシリンダ・カバー3内に供給するための第2の冷却入口E2と、冷却流体をシリンダ・カバー3から排出するための第2の冷却出口A2とを有する。図示のシリンダ装置1は冷却回路100を有する。この冷却回路100は、導管の形態で各シリンダ23に接続されている。
【0058】
冷却回路100のすべてのシリンダ23は並行して接続されている、即ち、すべての第1の冷却入口E1は第1の供給ライン10に流れ接続され、すべての第1の冷却出口A1は第1の排出ライン12に流れ接続され、すべての第2の冷却入口E2は第2の供給ライン11に流れ接続され、すべての第2の冷却出口A2は第2の排出ライン13に流れ接続されている。
【0059】
各シリンダ23に対して、冷却回路100は、冷却流体を第1の冷却出口A1から第1の冷却入口E1及び第2の冷却入口E2に案内することができるように、それぞれの第1冷却入口E2、それぞれの第2冷却入口E2、それぞれの第1冷却出口A1、及びそれぞれの第2冷却出口A2に接続されている。加えて、冷却回路100は、新しい冷却流体を冷却回路100に供給することができる冷却流体供給部5を有する。
【0060】
冷却回路100において、すべての第1の冷却出口A1を接続する第1の出口ライン12と、すべての第1の冷却入口E1を接続する第1の供給ライン10との間に制御可能な混合弁V1が配置され、新しい冷却流体と再循環される冷却流体とをいかなる比にも調節し、したがっていかなる運転温度にも調節することができるように、混合弁V1を制御及び調整することができる。加えて、冷却流体を第1の冷却出口A1から第1の冷却入口E1に再循環させるために、混合弁V1と第1の冷却入口E1との間の冷却回路100に循環ポンプP1が配置され、それにより、循環ポンプP1によって冷却流体を冷却回路100に循環させることができる。混合弁V1は、循環ポンプP1に流れ接続され、第1の冷却出口A1と、第1の出口ライン12と、新しい冷却流体を供給するための冷却流体供給部5とを接続し、上に示すように冷却流体の再循環可能な量を調節、調整、又は制御することができるように設計されている。
【0061】
加えて、冷却回路100は補償ライン6を有し、この補償ライン6を用いて、第1の冷却入口E1へ再循環される冷却流体の量、即ち、さらなる冷却のために直接第2の冷却入口E2を経由してシリンダ・カバー3に達しない冷却流体の量を新しい冷却流体で置き換えることができ、一様な体積流量でシリンダ・カバー3の一様な冷却も可能にする。したがって、再循環される冷却流体の量を、少なくとも部分的に新しい冷却流体で置き換えることができる。補償ライン6は、冷却流体供給部5を、第1の出口ライン12と第2の供給ライン11との間の接続部に接続し、それによりすべての第1の冷却出口A1とすべての第2の冷却入口E2は補償ライン6と流れ接続可能である。制御可能な弁V3が補償ライン6に設けられ、これを用いて補償ラインを閉じることができる。補償ライン6は、例えば、大型エンジンを予熱するために閉じられる。
【0062】
さらに、混合弁V1を制御するために制御システム4が設けられている。制御システム4は、三方弁として設計された混合弁V1に接続されている。冷却流体の再循環可能な量を調節することができるように制御システム4によって混合弁V1を制御することができる。このために、冷却流体の再循環量と、冷却流体供給部5によって供給される新しい冷却流体の量を調整することができる。したがって、新しい冷却流体と、冷却出口A1から第1の出口ライン12を通って来る冷却流体との混合比が調節される。ここで、循環ポンプP1は、運転状態で冷却流体が冷却回路100を循環することを確実にする。ここで、循環ポンプP1は、停止によって生じる損傷(アイドル時間による損傷)を避けるために、エンジンを作動させているときは常に運転状態であることが好ましい。
【0063】
循環ポンプP1の故障時でさえシリンダ23を十分に冷却することを確実にするために、逆止弁V2を有するバイパスラインが循環ポンプP1に並行して設けられている。循環ポンプP1が大型エンジンの運転中に故障した場合、冷却流体は、別のポンプ、例えば、冷却流体を冷却流体供給部5に運ぶポンプを緊急運転して、逆止弁V2を経て第1の冷却入口5に運ぶことができる。
【0064】
さらに、シリンダ装置1は第1の温度センサS1を有する。第1の温度センサS1は、第1の温度センサによって測定することができる冷却流体の温度に応じて冷却流体の再循環可能な量を調節することができるように、特に調整及び制御することができるように、制御システム4に接続されている。
【0065】
第2の冷却出口A2を通って出る冷却流体の温度を測定するために第2の温度センサS2も第2の出口ライン13に設けられている。第2の温度センサS2によって測定された温度は、冷却流体供給部5を経て送られる新しい冷却流体の温度を調整するために用いられることが好ましい。第2の冷却出口A2の後の冷却流体、又は第2の出口ライン13の冷却流体の温度は、例えば、80℃~90℃に調整又は調節することができることが好ましい。センサS2は、図に示されたシステムの範囲外に取り付けることもできる。
【0066】
加えて、シリンダ・ライナ2のシリンダ壁のライナ冷却システム21及びシリンダ・カバー3のカバー冷却システム31もまた示されている。ここで、ライナ冷却システム21は、第1の冷却入口E1と第1の冷却出口A1との間に配置された各枠内にあり、カバー冷却システム31は、第2の冷却入口E2と第2の冷却出口A2との間に配置された各枠内にある。
【0067】
図2は、図1に類似して示された、本発明によるシリンダ装置1の第2の実施例である。以下では、第1の実施例との違いのみを示す。或いは、第1の実施例に関する説明は、第2の実施例にも類似した態様で当てはまる。
【0068】
一方では、第2の実施例では、逆止弁V2の代わりに、補助ポンプP2が循環ポンプP1と並行して冷却回路100に配置されており、適切な温度の流体を循環させることによって、起動前の停止しているときにシリンダ装置1及び、したがって、大型エンジンを予熱する。補助ポンプP2はまた、循環ポンプP1の故障時の緊急運転において冷却流体を冷却回路100に循環させる働きもする。
【0069】
勿論、第1の実施例において、逆止弁V2に代えて又は加えてこのような補助ポンプP2を設けることもできる。
【0070】
他方では、第2の実施例においては、混合弁V1は2つの二方弁V11及びV12を組み合わせたものとして設計され、各二方弁V11及びV12は制御システム4に信号接続され、それにより、それぞれの二方弁は、制御システム4によって、例えば、それぞれのサーボモータMを通じて制御することができる。第1の二方弁V11は、冷却流体供給部5と循環ポンプP1との間の冷却回路100に配置されている。この弁V11を用いて、冷却回路100に供給される新しい冷却流体の量を調節することができる。第2の二方弁V12は、第1の出口ライン12と循環ポンプP1との間の接続部、即ち、第1の冷却出口A1と循環ポンプP1との間の接続部に配置されている。この弁V12を用いて、冷却出口A1から第1の冷却入口に再循環される冷却流体の再循環可能な量を調節することができる。
【0071】
勿論、第1の実施例において、混合弁V1を代替的に弁V12とV13の形態に設計することができる。
【0072】
図1及び図2はそれぞれ、大型エンジンに属する、それぞれ図示されたシリンダ装置1と、冷却流体を供給するための、図示されていない冷却システムとの間の分離を表す中断線が示されている。これらの分離は、現況技術ではほとんど知られている冷却システムの他の部分が大型エンジンの外側に配置されていることを示している。これらの部分は、例えば、さらなるポンプ、弁、熱交換器、及びそれ自体知られているさらなる構成部品を含み、それらの設計は、シリンダ装置1の本発明による基本機能に対して重要ではない。
【0073】
本発明に従って設けられる冷却回路100、又は冷却回路100の構成部品、循環ポンプP1、混合弁V1、及び制御システム4は、例えば、大型エンジンに直接取り付けることができる。しかしながら、これらの構成部品を、大型エンジンとは別に離して取り付け、次いで、大型エンジンには導管を介して接続することができることもまた可能である。
【0074】
以下では、図1及び図2の2つの実施例を用いて、冷却流体の再循環がある場合とない場合のシリンダ23のうちの1つを例として冷却回路100を通る冷却流体の循環を説明する。
【0075】
新しい冷却流体は、冷却流体供給部5を経て冷却回路100に供給される。冷却流体は、循環ポンプP1によって冷却回路100を循環する。ここで、冷却流体は、第1の冷却入口E1を経てシリンダ・ライナ2に供給される。シリンダ・ライナ2を通過した後、冷却流体は、第1の冷却出口A1を通ってシリンダ・ライナ2を出る。
【0076】
冷却流体又はその一部分が再循環される場合、冷却流体又はその一部分が、第1の冷却出口A1から第1の冷却入口E1に冷却回路100を通って再循環することができるように、混合弁V1は閉位置又は中間位置にある。中間位置では、再循環される冷却流体は、混合弁V1で冷却流体供給部5からの新しい冷却流体と混合されてから第1の冷却入口E1に戻る。そのとき、シリンダ・ライナの運転温度は、この混合比によって影響を受ける又は調節することができる。冷却流体の再循環されない部分は、第2の冷却入口E2を経てシリンダ・カバー3に供給され、シリンダ・カバー3を通過した後、第2の冷却出口A2を経てシリンダ・カバー3から排出される。
【0077】
しかしながら、中間位置では、第1の冷却出口A1から来る冷却流体のみがシリンダ・カバー3に供給されるのではなく、再循環された冷却流体の量は、冷却流体供給部5に接続された補償ライン6によって補われ、したがって、第2の冷却入口E2を経てシリンダ・カバー3に供給される。
【0078】
第1の冷却入口E1に供給される、新しい冷却流体と再循環される冷却流体の所望の混合比は、特に、制御システム4によって調節、調整、又は制御することができる。このために、第1の冷却出口A1から来る冷却流体の温度を温度センサS1の位置で予め決定することができ、次いで、制御システム4によって調節される。
【0079】
冷却流体が再循環されない場合、上記のように、冷却流体はシリンダ・ライナ2、シリンダ・カバー3、及び冷却回路100を通過する。しかしながら、混合弁V1が開位置にあり、したがって、冷却流体供給部5からの新しい冷却流体のみが第1の冷却入口E1に供給されるので、冷却流体は第1の冷却出口A1から第1の冷却入口E1に再循環されない。この位置では、温かい、即ち再循環された冷却流体が第1の冷却入口E1に戻らないので冷却は勿論、より強い。したがって、このような位置は、例えば、全負荷運転及び/又はガスモードにおいて、より強い冷却をするのに適している。
【0080】
他方、上記の中間位置は、過剰な冷却を避けるために部分負荷運転及び/又はディーゼル運転に特に適している。
【0081】
したがって本発明による構成では、冷却流体が循環される、されないにかかわらず、循環ポンプP1を常時運転することができることは理解することができる。
【0082】
例えば、二元燃料大型エンジンに配置されたシリンダ装置1は、特にガス運転又はディーゼル運転で用いることができる。ここで、ガス運転では、ディーゼル運転とは異なる目標温度をセンサS1において予め決めることができ、その結果、混合弁V1は開位置に操作され、即ち、第1の冷却出口A1と第1の冷却入口E1との間で循環がなくなる。したがって、温度は、制御システム4を用いて、新しい冷却流体と再循環される冷却流体の混合比によって調節又は調整又は制御され、第1の冷却入口E1に供給される。
【0083】
ディーゼル運転では、温度センサS1での温度は、特に部分負荷運転において、より高く、例えば120℃に調節される。さらに、第2の温度センサS2において、第2の温度を、例えば80~90℃に調節することができる。
【0084】
ガス運転及びディーゼル運転では、循環ポンプP1は、上記のように、停止によって生じる損傷(アイドル時間による損傷)を避けるために常に運転していることが好ましい。ガス運転及びディーゼル運転において循環ポンプP1を常時運転することは本発明による構成によって可能となる。
【0085】
運転状態が変化するとき、温度センサS1、S2における温度はゆっくりと調節されることが好ましい。ガス運転からディーゼル運転に切り替えるとき、1分あたり1~10℃、好ましくは5℃温度を上昇させることができる。ディーゼル運転からガス運転に切り替えるときには、1分あたり5~15℃、好ましくは10℃温度を下げることができる。システムは通常、エンジンの負荷及び運転モードに関わらずセンサ2での温度を一定に保つように設計される。
【0086】
エンジン、特に大型エンジンエンジンのさらなる運転状態は予熱運転である。予熱運転に対しては、弁V3は閉じられ、混合弁V1は開位置にあることが好ましい。エンジンが起動する前、通常そのときには予熱されている冷却流体が、再循環されずに冷却回路100に流されて大型エンジンを予熱する。
図1
図2