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特許7477313集合体及びその製造方法、並びに光機能材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】集合体及びその製造方法、並びに光機能材料
(51)【国際特許分類】
   B01J 31/28 20060101AFI20240423BHJP
   B01J 35/39 20240101ALI20240423BHJP
   B01J 35/54 20240101ALI20240423BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20240423BHJP
   B01J 37/16 20060101ALI20240423BHJP
   C01B 3/04 20060101ALI20240423BHJP
   C01G 3/02 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
B01J31/28 M
B01J35/39
B01J35/54 301Z
B01J37/04 102
B01J37/16
C01B3/04 A
C01G3/02
【請求項の数】 31
(21)【出願番号】P 2020017748
(22)【出願日】2020-02-05
(65)【公開番号】P2021122781
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2022-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】西村 直之
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 雅典
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2004/050559(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/066629(WO,A1)
【文献】特開2015-047535(JP,A)
【文献】国際公開第2019/065134(WO,A1)
【文献】特開2008-285347(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C01B 3/04
C01G 3/02
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が0.1nm以上100nm以下の酸化第一銅粒子と、
カルボン酸若しくはカルボン酸アニオン又はこれらの組み合わせであるカルボン酸成分と、
溶媒と、
を含み、
前記酸化第一銅粒子の含有量を100質量%としたときの前記カルボン酸成分の含有量が、0.1質量%以上、50質量%以下であり、
前記酸化第一銅粒子の含有量が、前記溶媒の含有量を100質量%としたときに、30質量%以上95質量%以下である、集合体。
【請求項2】
大気中でのイオン化ポテンシャルが、4.8eV以上5.5eV以下である、請求項1に記載の集合体。
【請求項3】
前記カルボン酸成分の一分子中のカルボキシ基及びカルボキシレートアニオン基の合計数が、1以上3以下である、請求項1又は2に記載の集合体。
【請求項4】
前記カルボン酸及び前記カルボン酸アニオンのそれぞれの炭素数が、1以上20以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の集合体。
【請求項5】
前記カルボン酸及び前記カルボン酸アニオンのそれぞれの炭素鎖が、直鎖である、請求項1~4のいずれか一項に記載の集合体。
【請求項6】
前記カルボン酸が、ギ酸、酢酸及びプロピオン酸からなる群から選択される1種以上であり、
前記カルボン酸アニオンが、ギ酸アニオン、酢酸アニオン及びプロピオン酸アニオンからなる群から選択される1種以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載の集合体。
【請求項7】
窒素含有分子をさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の集合体。
【請求項8】
前記窒素含有分子の含有量が、前記酸化第一銅粒子の含有量を100質量%としたときに、0.01質量%以上30質量%以下である、請求項7に記載の集合体。
【請求項9】
前記窒素含有分子の一分子中の窒素数が1以上5以下である、請求項7又は8に記載の集合体。
【請求項10】
前記窒素含有分子の一分子中の窒素数が2以上5以下であり、かつ前記窒素含有分子が窒素-窒素結合を有する分子である、請求項7~9のいずれか一項に記載の集合体。
【請求項11】
前記窒素-窒素結合が一重結合である、請求項10に記載の集合体。
【請求項12】
前記窒素含有分子がヒドラジンである、請求項7~11のいずれか一項に記載の集合体。
【請求項13】
前記溶媒が有機溶媒である、請求項1~12のいずれか1項に記載の集合体。
【請求項14】
前記有機溶媒がアルコールである、請求項13に記載の集合体。
【請求項15】
前記有機溶媒の炭素数が1以上7以下である、請求項13又は14に記載の集合体。
【請求項16】
前記有機溶媒がエタノールである、請求項1315のいずれか一項に記載の集合体。
【請求項17】
薄膜である乾燥体の製造方法であって、
請求項1~16のいずれか一項に記載の集合体を乾燥させて薄膜を形成することを含む、方法
【請求項18】
前記薄膜の膜厚が10nm以上1mm以下である、請求項17に記載の方法
【請求項19】
ガラス基材と、前記ガラス基材上に配置された薄膜とを有する、積層体の製造方法であって、
前記ガラス基材上に請求項17又は18に記載の方法で薄膜である乾燥体を配置する工程を含む、方法
【請求項20】
請求項1~16のいずれか一項に記載の集合体の製造方法であって、
2価の銅の化合物を準備する工程、及び
前記2価の銅の化合物を第1の溶媒中で還元して酸化第一銅粒子を形成する還元工程、
を含む、集合体の製造方法。
【請求項21】
前記2価の銅の化合物が、2価の銅カチオンとカルボン酸アニオンとの化合物である、請求項20に記載の集合体の製造方法。
【請求項22】
前記カルボン酸アニオンが、ギ酸アニオン、酢酸アニオン及びプロピオン酸アニオンからなる群から選択される1種以上である、請求項20又は21に記載の集合体の製造方法。
【請求項23】
前記還元工程を、プロトン性溶媒中で還元剤により行う、請求項2022のいずれか一項に記載の集合体の製造方法。
【請求項24】
前記第1の溶媒がプロトン性溶媒であり、
前記還元工程において、前記2価の銅の化合物と前記プロトン性溶媒とを30分以上共存させた後、前記還元剤を添加する、請求項23に記載の集合体の製造方法。
【請求項25】
前記2価の銅の化合物と前記プロトン性溶媒とを混合撹拌下で前記共存させる、請求項24に記載の集合体の製造方法。
【請求項26】
前記還元剤がヒドラジン又はヒドラジン誘導体である、請求項2325のいずれか一項に記載の集合体の製造方法。
【請求項27】
前記還元工程と同時に又は引き続いて前記第1の溶媒の少なくとも一部を第2の溶媒に交換して溶媒交換物を得る溶媒交換工程をさらに含む、請求項2026のいずれか一項に記載の集合体の製造方法。
【請求項28】
前記溶媒交換物中に、前記酸化第一銅粒子の含有量を100質量%としたときに5質量%以上100質量%以下の第1の溶媒が残存している、請求項27に記載の集合体の製造方法。
【請求項29】
請求項1~16のいずれか一項に記載の集合体で構成されている光機能材料。
【請求項30】
請求項1~16のいずれか一項に記載の集合体で構成されている光触媒。
【請求項31】
酸化第二銅、酸化第一銅、及び金属銅からなる群から選択される1種以上である銅生成物の製造方法であって、
請求項1~16のいずれか一項に記載の集合体を準備する工程、及び
前記集合体中の酸化第一銅粒子に由来する銅生成物を生成する工程、
を含む、銅生成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集合体及びその製造方法、並びに光機能材料(例えば光触媒)に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化第一銅は、様々な用途の機能性材料として知られており、例えば、光機能材料、より具体的には、光触媒などとして機能することが知られている。例えば、非特許文献1は、水素発生用光電陰極としての酸化第一銅ナノワイヤを記載する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】J.Luo et.al.,Nano Lett.,2016,16,1848-1857
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
酸化第一銅は、酸化第二銅への酸化が進行しうるため、その工業的な使用においては高い酸化安定性の確保が望まれている。加えて、酸化第一銅を光機能材料として利用する場合には、当該酸化第一銅が大きな光酸化力を有することが、効率的な光機能性の確保のために、望まれている。また、光機能材料と、他の材料(例えば、光機能材料のコート材料、又は他の光機能材料)との組み合わせを利用する場合がある。当該他の材料が光機能材料である場合には、少なくとも2種の光機能材料がタンデムセルを構成することで光起電圧を大きくすることができる。このような組み合わせにおいては、当該他の材料に光が通過する過程での光の損失が少ないこと(例えば当該他の材料によるバンド間遷移による光の吸収以外の光の損失が少ないこと、より具体的な例としては散乱光が少ないこと)が、上記光機能材料に照射される光量を大きくできる点で望ましい。
【0005】
本発明は、上記の従来技術が有する課題に鑑みてなされたものであり、高い酸化安定性及び大きな光酸化力を示し、光の損失が少ない、集合体及びその製造方法、並びに光機能材料(例えば光触媒)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記従来技術の課題を解決すべく鋭意研究し実験を重ねた結果、所定の形態の酸化第一銅と共に所定の物質を所定量含む集合体が上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0007】
すなわち、本発明は下記の態様を包含する。
[1] 平均粒子径が0.1nm以上100nm以下の酸化第一銅粒子と、
カルボン酸若しくはカルボン酸アニオン又はこれらの組み合わせであるカルボン酸成分と、
を含み、
前記酸化第一銅粒子の含有量を100質量%としたときの前記カルボン酸成分の含有量が、0.1質量%以上、50質量%以下である、集合体。
[2] 大気中でのイオン化ポテンシャルが、4.8eV以上5.5eV以下である、上記態様1に記載の集合体。
[3] 前記カルボン酸成分の一分子中のカルボキシ基及びカルボキシレートアニオン基の合計数が、1以上3以下である、上記態様1又は2に記載の集合体。
[4] 前記カルボン酸及び前記カルボン酸アニオンのそれぞれの炭素数が、1以上20以下である、上記態様1~3のいずれかに記載の集合体。
[5] 前記カルボン酸及び前記カルボン酸アニオンのそれぞれの炭素鎖が、直鎖である、上記態様1~4のいずれかに記載の集合体。
[6] 前記カルボン酸が、ギ酸、酢酸及びプロピオン酸からなる群から選択される1種以上であり、
前記カルボン酸アニオンが、ギ酸アニオン、酢酸アニオン及びプロピオン酸アニオンからなる群から選択される1種以上である、上記態様1~5のいずれかに記載の集合体。
[7] 窒素含有分子をさらに含む、上記態様1~6のいずれかに記載の集合体。
[8] 前記窒素含有分子の含有量が、前記酸化第一銅粒子の含有量を100質量%としたときに、0.01質量%以上30質量%以下である、上記態様7に記載の集合体。
[9] 前記窒素含有分子の一分子中の窒素数が1以上5以下である、上記態様7又は8に記載の集合体。
[10] 前記窒素含有分子の一分子中の窒素数が2以上5以下であり、かつ前記窒素含有分子が窒素-窒素結合を有する分子である、上記態様7~9のいずれかに記載の集合体。
[11] 前記窒素-窒素結合が一重結合である、上記態様10に記載の集合体。
[12] 前記窒素含有分子がヒドラジンである、上記態様7~11のいずれかに記載の集合体。
[13] さらに溶媒を含む、上記態様1~12のいずれかに記載の集合体。
[14] 前記酸化第一銅粒子の含有量が、前記溶媒の含有量を100質量%としたときに、30質量%以上95質量%以下である、上記態様13に記載の集合体。
[15] 前記溶媒が有機溶媒である、上記態様13又は14に記載の集合体。
[16] 前記有機溶媒がアルコールである、上記態様15に記載の集合体。
[17] 前記有機溶媒の炭素数が1以上7以下である、上記態様15又は16に記載の集合体。
[18] 前記有機溶媒がエタノールである、上記態様15~17のいずれかに記載の集合体。
[19] 薄膜である、上記態様1~12のいずれかに記載の集合体。
[20] 前記薄膜の膜厚が10nm以上1mm以下である、上記態様19に記載の集合体。
[21] ガラス基材と、前記ガラス基材上に配置された上記態様19又は20に記載の集合体とを有する、積層体。
[22] 上記態様1~20のいずれかに記載の集合体の製造方法であって、
2価の銅の化合物を準備する工程、及び
前記2価の銅の化合物を第1の溶媒中で還元して酸化第一銅粒子を形成する還元工程、
を含む、集合体の製造方法。
[23] 前記2価の銅の化合物が、2価の銅カチオンとカルボン酸アニオンとの化合物である、上記態様22に記載の集合体の製造方法。
[24] 前記カルボン酸アニオンが、ギ酸アニオン、酢酸アニオン及びプロピオン酸アニオンからなる群から選択される1種以上である、上記態様22又は23に記載の集合体の製造方法。
[25] 前記還元工程を、プロトン性溶媒中で還元剤により行う、上記態様22~24のいずれかに記載の集合体の製造方法。
[26] 前記第1の溶媒がプロトン性溶媒であり、
前記還元工程において、前記2価の銅の化合物と前記プロトン性溶媒とを30分以上共存させた後、前記還元剤を添加する、上記態様25に記載の集合体の製造方法。
[27] 前記2価の銅の化合物と前記プロトン性溶媒とを混合撹拌下で前記共存させる、上記態様26に記載の集合体の製造方法。
[28] 前記還元剤がヒドラジン又はヒドラジン誘導体である、上記態様25~27のいずれかに記載の集合体の製造方法。
[29] 前記還元工程と同時に又は引き続いて前記第1の溶媒の少なくとも一部を第2の溶媒に交換して溶媒交換物を得る溶媒交換工程をさらに含む、上記態様22~28のいずれかに記載の集合体の製造方法。
[30] 前記溶媒交換物中に、前記酸化第一銅粒子の含有量を100質量%としたときに5質量%以上100質量%以下の第1の溶媒が残存している、上記態様29に記載の集合体の製造方法。
[31] 上記態様1~20のいずれかに記載の集合体で構成されている光機能材料。
[32] 上記態様1~20のいずれかに記載の集合体で構成されている光触媒。
[33] 酸化第二銅、酸化第一銅、及び金属銅からなる群から選択される1種以上である銅生成物の製造方法であって、
上記態様1~20のいずれかに記載の集合体を準備する工程、及び
前記集合体中の酸化第一銅粒子に由来する銅生成物を生成する工程、
を含む、銅生成物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高い酸化安定性及び大きな光酸化力を示し、光の損失が少ない集合体及びその製造方法、並びに光機能材料(例えば光触媒)が提供され得る。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について、詳細に説明する。以下の本実施形態は本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。なお本開示で言及する各種特性値は、特記がない限り、本開示の実施例の項に記載の方法又はこれと同等であることが当業者に理解される方法で測定される値であることが意図される。
【0010】
≪集合体≫
本実施形態の集合体は、平均粒子径が0.1nm以上100nm以下の酸化第一銅粒子と、カルボン酸及び/又はカルボン酸アニオンであるカルボン酸成分とを含む。集合体中、カルボン酸成分の量は、酸化第一銅粒子100質量%に対し、0.1質量%以上、50質量%以下である。本実施形態のこのような集合体は、高い酸化安定性を有し、大きな光酸化力を示し、光の損失が少ない。なお、本開示において、「高い酸化安定性」とは、例えば、大気下におけるイオン化ポテンシャルが深く、集合体から電子を取り出すために大きなエネルギーを必要とすることを意味し、「大きな光酸化力」とは、例えば、この集合体が深い価電子帯を有することで、この集合体に光励起を介して生じた正孔が大きな光酸化力を有すること、「光の損失が少ない」とは、本実施形態の集合体に光が通過する際に、散乱光による光の損失が少ないこと、などを意味する。上記のような酸化第一銅の所定の形態及び所定量のカルボン酸成分は、集合体のエネルギーを、高い酸化安定性及び大きな光酸化力を示すように好適に変化させるのに有利であると推測される。加えて、所定量のカルボン酸成分が存在することで、散乱光が少なくなるように酸化第一銅粒子が好適に配列でき、これにより集合体の光の損失が低減されると推測される。
【0011】
一態様において、酸化第一銅粒子の平均粒子径は、0.1nm以上100nm以下である。平均粒子径は、酸化第一銅粒子の生産安定性及び長期保管安定性に優れる観点から、一態様において0.1nm以上であり、1nm以上が好ましく、3nm以上がより好ましく、5nm以上がさらに好ましく、より高い酸化安定性を有し、より大きな光酸化力を示し、かつより光の損失が少ない集合体を得る観点から、一態様において100nm以下であり、50nm以下が好ましく、40nm以下がより好ましく、30nm以下がより好ましく、29nm以下がさらに好ましい。本実施形態の酸化第一銅の平均粒子径分布としては、長期保管安定性に優れる観点から、多分散度が好ましくは0.1以上0.4以下、より好ましくは0.2以上0.3以下である。ここで本実施形態における平均粒子径及び多分散度とは、溶媒を含む集合体においては、当該溶媒中での分散時の二次粒子径及び多分散度であり、この場合、動的光散乱法とこれのキュムラント法による解析によって、例えば大塚電子製FPAR-1000を用いて測定する。集合体が薄膜などの乾燥体である場合は、X線回折によるシェラー式から算出される結晶子径から求める。
【0012】
本実施形態における集合体には、カルボン酸成分(すなわちカルボン酸及び/又はカルボン酸アニオン)が、0.1質量%以上、50質量%以下含まれる。本実施形態において、カルボン酸及びカルボン酸アニオンは、集合体に含まれる酸化第一銅のエネルギー調整材として主に機能する。理論に拘束されることを望まないが、酸化第一銅の特定のサイトに対してカルボン酸成分が吸着することにより、酸化第一銅のエネルギーがカルボン酸成分不存在の場合から変化して、より高い酸化安定性及びより大きな光酸化力が実現されると推測される。加えて、集合体中の酸化第一銅粒子が該カルボン酸成分と共存することの寄与により、散乱光が少なくなるように酸化第一銅粒子が好適に配列し、これにより光の損失が少なくなると推測される。より高い酸化安定性を有し、より大きな光酸化力を示し、かつより光の損失が少ない集合体を得る観点から、カルボン酸成分の含有量は、一態様において0.1質量%以上であり、0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、2質量%以上がさらに好ましい。また、集合体の酸化第一銅の濃度を高めるために有利である観点から、カルボン酸成分の含有量は、一態様において50質量%以下であり、40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましい。
【0013】
カルボン酸及びカルボン酸アニオンのそれぞれの一分子中の炭素数は、より高い酸化安定性を有し、より大きな光酸化力を示し、かつより光の損失が少ない集合体を得る観点から、1以上20以下が好ましい。より高い酸化安定性を有し、より大きな光酸化力を示し、かつより光の損失が少ない集合体を得る観点から、カルボン酸及びカルボン酸アニオンのそれぞれの一分子中の炭素数は、2以上がさらに好ましく、また、15以下がより好ましく、8以下がさらに好ましく、さらにより好ましくは3以下である。また、上記観点から、カルボン酸及びカルボン酸アニオンのそれぞれの一分子中のカルボキシ基及びカルボキシレートアニオン基の合計数(以下、カルボン酸数ともいう。)は、1以上3以下であることが好ましい。酸化第一銅を疎水化できる点、及びカルボン酸成分が高密度で酸化第一銅に配位できる点では、上記カルボン酸数が1であることが好ましい。一方、酸化第一銅を親水化できる点では、上記カルボン酸数が2又は3であることが好ましい。
【0014】
カルボン酸及びカルボン酸アニオンのそれぞれの炭素鎖は、より高い酸化安定性を有し、より大きな光酸化力を示し、かつより光の損失が少ない集合体が得られるとともに、カルボン酸成分が高密度で酸化第一銅に配位できる点で、直鎖であることが好ましい。
【0015】
本実施形態における集合体に含まれるカルボン酸としては、具体的には、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、乳酸、ピルビン酸、リンゴ酸、アクリル酸、安息香酸、サリチル酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フタル酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸、及びクエン酸が挙げられ、カルボン酸アニオンとしては、上記列挙したカルボン酸のアニオンが挙げられる。より高い酸化安定性を有し、より大きな光酸化力を示し、かつより光の損失が少ない集合体を得る観点から、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フタル酸、グルタル酸、クエン酸、及びこれらのアニオンが好ましく、カルボン酸成分が特に高密度で酸化第一銅に配位できる点で、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、及びこれらのアニオンがより好ましく、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、及びこれらのアニオンがさらに好ましく、酢酸、及び酢酸アニオンが最も好ましい。
【0016】
本実施形態の集合体は、さらに、窒素含有分子を含むことが、より高い酸化安定性を有し、より大きな光酸化力を示し、かつより光の損失が少ない集合体を得る観点から好ましい。本実施形態において、窒素含有分子は、集合体に含まれる酸化第一銅のエネルギー調整材などとして機能する。理論に拘束されることを望まないが、酸化第一銅の特定のサイトに対してカルボン酸成分が吸着するとともに、酸化第一銅の別の特定のサイトに対して窒素含有分子が吸着することにより、酸化第一銅のエネルギーが窒素含有分子不存在の場合から変化して、より高い酸化安定性及びより大きな光酸化力が実現されると推測される。加えて、集合体中の酸化第一銅粒子が窒素含有分子と共存することの寄与により、散乱光が少なくなるように酸化第一銅粒子が好適に配列し、これにより光の損失が少なくなると推測される。
【0017】
集合体中の窒素含有分子の含有量は、より高い酸化安定性を有し、より大きな光酸化力を示し、かつより光の損失が少ない集合体を得る観点から、集合体に含まれる酸化第一銅粒子100質量%に対し、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上がさらに好ましく、一方、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、15質量%以下がさらに好ましい。なお、本実施形態では、カルボン酸成分及び窒素含有分子の両者の概念に含まれる物質を用いることもでき、当該物質の量は、カルボン酸成分の量と窒素含有分子の量との両者に算入される。
【0018】
集合体中のカルボン酸成分の窒素含有分子に対する質量比率(カルボン酸成分/窒素含有分子)は、酸化第一銅のエネルギーを変化させる効果をより顕著に得る観点から、0.03以上が好ましく、0.1以上がより好ましく、5000以下が好ましく、500以下がより好ましい。
【0019】
窒素含有分子の窒素数は、より高い酸化安定性を有し、より大きな光酸化力を示し、かつより光の損失が少ない集合体を得る観点から、1以上5以下であることが好ましく、さらにより高い酸化安定性を有し、より大きな光酸化力を示し、かつより光の損失が少ない集合体を得る観点から、窒素含有分子の窒素数は、2以上がより好ましく、一方3以下がより好ましく、2が最も好ましい。窒素含有分子の窒素数が複数の場合、より高い酸化安定性を有し、より大きな光酸化力を示し、かつより光の損失が少ない集合体を得る観点から、窒素-窒素結合を有することが好ましく、この窒素-窒素結合が、一重結合又は二重結合であることがより好ましく、これが一重結合であることがさらに好ましい。なお、酸化第一銅に対して、カルボン酸成分とは異なるサイトにて吸着することによって、酸化第一銅のエネルギーを変化させる効果を良好に得る観点からは、窒素含有分子はカルボン酸及びカルボン酸アニオンではないことが好ましい。一態様において、集合体がより高い酸化安定性を有し、より大きな光酸化力を示すようにする観点から、窒素含有分子の窒素数が2以上5以下であり、かつ、窒素-窒素結合を有することが好ましい。
【0020】
窒素含有分子としては、具体的には、アンモニア、メチルアンモニア、エチルアンモニア、プロピルアンモニア、ブチルアンモニア、ペンタアンモニア、ヘキサアンモニア、ジメチルアンモニウムカチオン、ジエチルアンモニウムカチオン、ジプロピルアンモニウムトリメチルアンモニア、ホルムアミジン、アセトアミジン、グアニジン、イミダゾール、アニリン、ヒドラジンなどが挙げられ、より高い酸化安定性を有し、より大きな光酸化力を示し、かつより光の損失が少ない集合体を得る観点から、アンモニア、ホルムアミジン、アセトアミジン、グアニジン、イミダゾール、アニリン、ヒドラジンが好ましく、アンモニア、ホルムアミジン、グアニジン、イミダゾール、ヒドラジンがより好ましく、ヒドラジンが最も好ましい。
【0021】
本実施形態の集合体の、大気中でのイオン化ポテンシャルは、4.8eV以上、5.5eV以下であることが、集合体が高い酸化安定性を有し、大きな光酸化力を示す観点から好ましい。上記観点から、大気中でのイオン化ポテンシャルは、4.85eV以上であることがより好ましく、4.9eV以上であることがさらに好ましい。一方、光還元力が高くなる観点から、大気中でのイオン化ポテンシャルは、5.4eV以下であることがより好ましく、5.3eV以下であることがさらに好ましい。イオン化ポテンシャルは、本開示の[実施例]の項に記載の方法で測定することができる。イオン化ポテンシャルの値は、例えば、集合体に含まれる酸化第一銅の粒子径、カルボン酸成分の量、及び窒素含有分子の量により制御することができ、例えば、集合体に含まれる酸化第一銅の粒子径を小さくすること、カルボン酸成分の量を多くすること、又は窒素含有分子の量を多くすることで大きくなる傾向がある。
【0022】
本実施形態の集合体は溶媒を更に含んでよい。溶媒を含む集合体は、液相反応を進行させる光機能材料、より具体的には光触媒などとして、及び、乾燥体(例えば後述の薄膜)の原料として好適である。集合体中の溶媒の比率は、保存安定性を良好にする観点から、30質量%以上が好ましく、35質量%以上がより好ましく、40質量%以上がさらに好ましく、また光損失を少なくする観点から、95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましく、85質量%以下がさらに好ましい。集合体の固形分濃度(典型的には酸化第一銅濃度)は、一態様において、5質量%以上、又は10質量%以上、又は15質量%以上であってよく、一態様において、70質量%以下、又は65質量%以下、又は60質量%以下であってよい。
【0023】
溶媒を含む集合体における当該溶媒は、保存安定性に優れる点、及び光損失が少ない点から、有機溶媒であることが好ましい。上記観点から、有機溶媒は、アルコールであることが好ましい。上記観点から、有機溶媒の炭素数は1以上7以下であることが好ましく、より好ましくは2以上、またより好ましくは5以下、又は4以下であり、2が最も好ましい。溶媒としては、水、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3-メトキシ-3-メチル-ブチルアセテート、エトキシエチルプロピオネート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールターシャリーブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、2-ペンタンジオール、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、2,5-ヘキサンジオール、2,4-ヘプタンジオール、2-エチルヘキサン-1,3-ジオール、ジエチレングリコール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、トリエチレングリコール、トリ-1,2-プロピレングリコール、グリセロール、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、2-ブタノール、t-ブタノール、n-ペンタノール、i-ペンタノール、2-メチルブタノール、2-ペンタノール、t-ペンタノール、3-メトキシブタノール、n-ヘキサノール、2-メチルペンタノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、2-エチルブタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、3-ヘプタノール、n-オクタノール、2-エチルヘキサノール、2-オクタノール、n-ノニルアルコール、2、6ジメチル-4-ヘプタノール、n-デカノール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、3、3、5-トリメチルシクロヘキサノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコールなどが挙げられ、保存安定性に優れる点、及び光損失が少ない点から、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、及びこれらの異性体であることがより好ましく、エタノール、プロパノール、ブタノール及びこれらの異性体であることがさらに好ましく、エタノールが最も好ましい。
【0024】
一態様において、集合体は、薄膜などの乾燥体の形態であることができる。乾燥体は、前述の、溶媒を含む集合体を原料として作製することが好ましい。例えば、薄膜の膜厚は、光反応のための光吸収性、及び光反応性の観点から、1nm以上が好ましく、10nm以上がより好ましく、50nm以上がさらに好ましい。また、光透過性、基材への固定性、酸化第一銅上での光反応の有効比表面積が大きくなる観点から、1mm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、10μm以下がさらに好ましい。
【0025】
一態様において、集合体は、様々な基材に固定化されていることができる。特に、集合体が薄膜形態である場合には、薄膜が基材に固定化されていることが好ましい。基材は、無機材料又は有機材料、より具体的には、ガラス又は高分子とすることができ、光の透過性が高い点、及び熱安定性が高い点から、基材はガラスであることが好ましい。一態様においては、ガラス基材と、該ガラス基材上に配置された集合体とを有する、積層体が提供される。
【0026】
≪集合体の製造方法≫
本発明の一態様は、本開示の集合体の製造方法も提供する。当該方法は、
2価の銅の化合物を準備する工程、及び
該2価の銅の化合物を第1の溶媒中で還元して酸化第一銅粒子を形成する還元工程、
を含む。酸化第一銅粒子を形成するための原料として2価の銅の化合物を用いることは、高い酸化安定性を有し、大きな光酸化力を示し、光の損失が少ない集合体を製造する観点から好ましい。
【0027】
<2価の銅の化合物を準備する工程>
2価の銅の化合物は、固体又は液体であってよく、2価の銅カチオンと無機アニオンとの化合物、2価の銅カチオンと有機アニオンとの化合物、銅フタロシアニンなどの銅錯体、などが挙げられる。より高い酸化安定性を有し、より大きな光酸化力を示し、かつより光の損失が少ない集合体を製造できる点で、2価の銅カチオンと有機アニオンとの化合物が好ましい。2価の銅カチオンと無機アニオンとの化合物としては、酢酸銅、硫酸銅、及び硝酸銅が挙げられ、酢酸銅が特に好ましい。2価の銅カチオンと有機アニオンとの化合物としては、高い酸化安定性を有し、大きな光酸化力を示し、光の損失が少ない集合体を製造できる点で、2価の銅カチオンとカルボン酸アニオンとの化合物が好ましい。
【0028】
2価の銅カチオンとカルボン酸アニオンとの化合物を構成するカルボン酸アニオンの一分子中の炭素数は、高い酸化安定性を有し、大きな光酸化力を示し、光の損失が少ない集合体を製造できる点で、1以上20以下が好ましい。上記観点から、一分子中の炭素数は、より好ましくは2以上、また、より好ましくは15以下、又は8以下である。2価の銅カチオンとカルボン酸アニオンとの化合物を構成するカルボン酸アニオンの一分子中のカルボキシ基とカルボキシレートアニオン基との合計数は、1以上3以下であることが、上記観点から好ましい。製造される酸化第一銅を疎水化でき、カルボン酸成分が高密度で酸化第一銅に配位できる点では、一分子中のカルボン酸数が1であることが好ましい。一方、製造される酸化第一銅を親水性にできる点では、一分子中のカルボン酸数が2又は3であることが好ましい。親水性の酸化第一銅は、例えば、溶剤を不燃性にできる点、環境保全の観点、及び一態様では溶剤を水にできる点で有利である。好ましい一態様において、カルボン酸アニオンは、ギ酸アニオン、酢酸アニオン及びプロピオン酸アニオンからなる群から選択される1種以上である。
【0029】
さらに、製造される酸化第一銅がより高い酸化安定性を有し、より大きな光酸化力を示し、より光の損失が少ない点、及びカルボン酸成分が高密度で酸化第一銅に配位できる点で、2価の銅カチオンとカルボン酸アニオンとの化合物を構成するカルボン酸アニオンの分子中の有機鎖は、直鎖であることが好ましい。
【0030】
<還元工程>
本工程では、2価の銅の化合物を、第1の溶媒中で、還元剤により還元させる。溶液中での還元は、高い酸化安定性を有し、大きな光酸化力を示し、光の損失が少ない集合体を製造できる点で好ましい。2価の銅の化合物として、カルボン酸アニオン部位を有する化合物を用いる場合には、集合体中に、当該カルボン酸アニオン部位に由来するカルボン酸又はカルボン酸アニオンがカルボン酸成分として存在できる。一方、2価の銅の化合物がカルボン酸アニオン部位を有さない場合には、カルボン酸成分源を別途用いる。カルボン酸成分源としては、気体、液体、又は固体のカルボン酸、金属カチオンとカルボン酸アニオンとの化合物、などを例示できる。カルボン酸成分源は、例えば、溶液中での還元の場合、2価の銅の化合物と共に溶解することで共存させることによって、2価の銅の化合物と組み合わせてよい。
【0031】
第1の溶媒は、2価の銅の化合物の溶解性に優れる点、カルボン酸成分源を使用する場合に当該カルボン酸成分源の分散性に優れる点、及び/又は酸化第一銅へのカルボン酸成分及び/又は窒素含有分子の吸着を促進できる点から、好ましくはプロトン性溶媒である。プロトン性溶媒としては、水、アルコールなどが挙げられ、アルコールとしては、1価アルコール及び多価アルコール(グリコールなど)が挙げられる。プロトン性溶媒の具体例としては、水、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、2-ペンタンジオール、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、2,5-ヘキサンジオール、2,4-ヘプタンジオール、2-エチルヘキサン-1,3-ジオール、ジエチレングリコール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、トリエチレングリコール、トリ-1,2-プロピレングリコール、メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、2-ブタノール、t-ブタノール、n-ペンタノール、i-ペンタノール、2-メチルブタノール、2-ペンタノール、t-ペンタノール、3-メトキシブタノール、n-ヘキサノール、2-メチルペンタノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、2-エチルブタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、3-ヘプタノール、n-オクタノール、2-エチルヘキサノール、2-オクタノール、n-ノニルアルコール、2,6ジメチル-4-ヘプタノール、n-デカノール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコールなどが挙げられ、集合体製造での安全性の観点から、水、及び水が50質量%以上を占める混合溶媒が好ましい。プロトン性溶媒中の水の比率は、50質量%以上、又は60質量%以上、又は70質量%以上であってよく、95質量%以下、又は90質量%以下、又は85質量%以下であってよい。一態様において、第1の溶媒中のプロトン性溶媒の比率は、50質量%以上、又は70質量%以上、又は100質量%であってよい。還元で生成した疎水性成分を抽出できる観点からは、第1の溶媒が非プロトン性溶媒を含むことが好ましい。一方、親水性成分の凝集を防止する観点からは、第1の溶媒が非プロトン性溶媒を含まないことが好ましい。
【0032】
還元剤としては、ヒドラジン、ヒドラジン水和物、ヒドラジン誘導体、ナトリウム、カーボン、ヨウ化カリウム、シュウ酸、硫化鉄(II)、チオ硫酸ナトリウム、アスコルビン酸、塩化スズ(II)、水素化ジイソブチルアルミニウム、蟻酸、水素化ホウ酸ナトリウム、亜硫酸塩など、及びこれらの誘導体が挙げられ、より高い酸化安定性を有し、より大きな光酸化力を示し、かつより光の損失が少ない集合体を製造できる点、及び、酸化第一銅の収率が高い点で、ヒドラジン、ヒドラジン水和物、及びヒドラジン誘導体が好ましい。中でも、還元剤がヒドラジン又はヒドラジン誘導体であることが好ましい。ヒドラジン誘導体としては、ヒドラジン塩類、アルキルヒドラジン類、ピラゾール類、トリアゾール類、ヒドラジド類などが挙げられる。ヒドラジン塩類としては、モノ塩酸ヒドラジン、ジ塩酸ヒドラジン、モノ臭化水素酸ヒドラジン、炭酸ヒドラジンなどが挙げられ、ピラゾール類としては、3,5-ジメチルピラゾール、3-メチル-5-ピラゾロンなどが挙げられ、トリアゾール類としては、4-アミノ-1,2,4-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール、1,2,3-トリアゾール、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール、3-メルカプト-1,2,4-トリアゾールなどが挙げられ、ヒドラジド類としては、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカンジオヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、プロピオン酸ヒドラジド、サリチル酸ヒドラジド、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジド、ベンゾフェノンヒドラゾンなどが挙げられる。窒素を含有する還元剤を用いる場合には、当該還元剤に由来する窒素含有分子が集合体中に存在できる。
【0033】
還元反応時の条件は、用いる原料及び還元剤の種類に応じて適宜設計すればよく、一態様においては、-20℃~70℃程度で、30分間~300分間行ってよい。
【0034】
(還元工程における前処理)
還元工程においては、2価の銅の化合物と第1の溶媒(好ましくはプロトン性溶媒)とを30分以上共存させる前処理を行った後、還元剤を添加することが好ましい。還元反応の前に、2価の銅の化合物と第1の溶媒とを30分以上、共存させることは、高い酸化安定性を有し、大きな光酸化力を示し、光の損失が少ない集合体を製造する観点から好ましい。さらに、上記観点から、2価の銅の化合物と第1の溶媒との共存が混合撹拌下で行われることが、より好ましい。ここで混合撹拌の方法としては、流通系反応器による混合撹拌、バッチ式反応浮器における撹拌羽による撹拌、気体導入動力による撹拌、などが挙げられる。
【0035】
なお、2価の銅の化合物と第1の溶媒とを共存させる時間が30分未満であっても30分以上であっても、目視では大きな違いがないため、集合体の製造効率性の観点から、上記共存の時間を30分未満とすることが好ましいようにも思われる。しかし、本発明者らは、2価の銅の化合物と第1の溶媒とを共存させる時間を30分以上とすることで、製造される集合体が、より高い酸化安定性を有し、より大きな光酸化力を示すという効果を見出した。この機構として、2価の銅の化合物と第1の溶媒とを比較的長時間(すなわち30分以上)、共存、好ましくは混合撹拌させることで、2価の銅の化合物がより微細かつより均一なクラスターを形成し、このクラスターは、カルボン酸及び/又はカルボン酸アニオン、並びに任意に窒素含有分子と、より効果的に相互作用できるため、製造される集合体が、より高い酸化安定性を有し、より大きな光酸化力を示すことができると推測される。このような観点から、上記共存の時間は、1時間以上がより好ましく、2時間以上がさらに好ましく、3時間以上が最も好ましい。上記共存の時間は、製造効率の観点から、25時間以下、又は20時間以下、又は15時間以下であってよい。
【0036】
<溶媒交換工程>
集合体の製造方法は、還元工程と同時に又は引き続いて、第1の溶媒の少なくとも一部を第2の溶媒に交換して溶媒交換物を得る溶媒交換工程をさらに含んでよい。溶媒交換工程を含むことは、保存安定性に優れ、基材への濡れ性に優れる集合体を製造する観点から好ましい。第2の溶媒としては、集合体の保存安定性に優れる点、及び光損失が少ない点から、有機溶媒が好ましい。上記観点から、有機溶媒は、アルコールであることが好ましい。上記観点から、有機溶媒の炭素数は1以上7以下であることが好ましく、より好ましくは2以上、またより好ましくは5以下、又は4以下であり、2が最も好ましい。溶媒としては、水、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3-メトキシ-3-メチル-ブチルアセテート、エトキシエチルプロピオネート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールターシャリーブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、2-ペンタンジオール、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、2,5-ヘキサンジオール、2,4-ヘプタンジオール、2-エチルヘキサン-1,3-ジオール、ジエチレングリコール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、トリエチレングリコール、トリ-1,2-プロピレングリコール、グリセロール、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、2-ブタノール、t-ブタノール、n-ペンタノール、i-ペンタノール、2-メチルブタノール、2-ペンタノール、t-ペンタノール、3-メトキシブタノール、n-ヘキサノール、2-メチルペンタノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、2-エチルブタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、3-ヘプタノール、n-オクタノール、2-エチルヘキサノール、2-オクタノール、n-ノニルアルコール、2、6ジメチル-4-ヘプタノール、n-デカノール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、3、3、5-トリメチルシクロヘキサノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコールなどが挙げられ、保存安定性に優れる点、及び光損失が少ない点から、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、及びこれらの異性体であることがより好ましく、エタノール、プロパノール、ブタノール及びこれらの異性体であることがさらに好ましく、エタノールが最も好ましい。
【0037】
第1の溶媒と第2の溶媒との組み合わせは、相溶性、共沸性などを考慮して選択することが好ましい。例えば、第1の溶媒と第2の溶媒とを相溶性の高い組み合わせとすることで、均一な集合体を得るという利点が得られる。このような組み合わせとしては、第1の溶媒としての水及び/又はアルキレングリコールと、第2の溶媒としての1価アルコールとの組み合わせを例示できる。また、第1の溶媒と第2の溶媒とを、共沸化合物を形成する組み合わせとすることで、例えば、集合体の乾燥体を得る際に、溶媒の除去が容易にできるといる利点が得られる。このような組み合わせとしては、第1の溶媒としての水と、第2の溶媒としてのエタノールとの組み合わせを例示できる。溶媒の交換方法としては、遠心分離による固液分離、液相の蒸発による固相の分離、フィルターなどによる物理的又は化学的な力を利用した固相の分離、などが挙げられ、分離効率に優れる観点から遠心分離による分離が好ましい。
【0038】
溶媒交換工程は、交換前の溶媒(すなわち第1の溶媒)を、酸化第一銅粒子100質量%に対して、5質量%以上、100質量%以下の量で含む溶媒交換物を生成するような条件で行うことが好ましい。このような溶媒交換物を経て集合体を製造することは、高い酸化安定性を有し、大きな光酸化力を示し、光の損失が少ない集合体を得る観点から好ましい。第1の溶媒をなお所定量含む溶媒交換物を用いることで集合体の上記特性が実現される機構としては、第1の溶媒の存在により、酸化第一銅と、所定量のカルボン酸及び/又はカルボン酸アニオン並びに任意に窒素含有分子とが溶媒中で移動しやすいこと、すなわち、カルボン酸及び/又はカルボン酸アニオン、並びに任意の窒素含有分子が、酸化第一銅に自由に配向できる環境にて共存し続けることで、エネルギー相互作用が阻害されず、これにより上記の効果が奏されると推測される。溶媒交換物中、酸化第一銅粒子100質量%に対する第1の溶媒の量は、上記観点から、10質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましく、また、溶媒交換物の保存安定性に優れる観点から、90質量%以下がより好ましく、80質量%以下がさらに好ましい。一態様においては、溶媒交換物中のプロトン性溶媒の含有量が上記範囲である。
【0039】
溶媒交換物は、上記で例示した範囲の量で第1の溶媒を含むとともに、第2の溶媒を、酸化第一銅粒子100質量%に対して、一態様において、10質量%以上、又は20質量%以上、また一態様において、100質量%以下、又は80質量%以下、含んでよい。
【0040】
溶媒交換物中の、第1の溶媒と第2の溶媒との合計100質量%に対する第1の溶媒の量は、一態様において、15質量%以上、又は30質量%以上であってよく、一態様において、150質量%以下、又は120質量%以下であってよい。
【0041】
溶媒交換物中、溶媒100質量%に対する固形分の量(典型的には酸化第一銅の量)は、一態様において、15質量%以上、又は30質量%以上であってよく、一態様において、200質量%以下、又は100質量%以下、又は95質量%以下であってよい。
【0042】
なお、溶媒交換物中の第1の溶媒及び第2の溶媒の含有量は、液体クロマトグラフィーによる評価によって確認できる。
【0043】
一態様においては、還元工程における前述の前処理と、所定量の第1の溶媒を残存させる前述の溶媒交換との両者を行う。前述のように、前処理、及び所定量の第1の溶媒を残存させる溶媒交換の各々によれば、酸化第一銅と、カルボン酸及び/又はカルボン酸アニオン並びに任意に窒素含有分子との良好な相互作用により、優れた特性の集合体を形成できるところ、これらの両者を行うことで、上記相互作用における相乗効果が得られ、これによって、高い酸化安定性、及び大きな光酸化力を有し、光損失が少ない集合体が得られるという効果が特に顕著になる。
【0044】
溶媒交換工程で得た溶媒交換物は、必要に応じて乾燥させ、目的の集合体として回収できる。乾燥条件としては、大気中又は不活性雰囲気中での、加熱、冷却、室温静置、などを例示できる。又は、溶媒交換物をそのまま本実施形態の集合体として回収してもよい。
【0045】
≪集合体の用途≫
本発明の一態様は、本実施形態の集合体で構成された光機能材料(例えば光触媒)を提供する。本開示で、光機能材料とは、光を吸収することで暗時では示さなかった特性(例えば、還元又は酸化反応)を示す材料を意味する。また、本開示で、光触媒とは、光を吸収することで材料中に光キャリア、すなわち光電子及び光正孔、を生成し、これらが還元反応及び/又は酸化反応、例えば、水の酸化又は還元、有機物の酸化、自己還元、又は自己酸化などを生じる材料を意味する。このような反応において、特に光正孔は、材料の価電子帯からの酸化起電圧を基に反応を生じさせるため、光触媒がより深い価電子帯を有することは、より大きな光酸化力を生じる観点から、好ましい。一態様において、価電子帯は真空準位に対し、4.8eV以上、5.5eV以下であることが、集合体が高い酸化安定性を有し、大きな光酸化力を示す観点から好ましい。上記観点から、大気中でのイオン化ポテンシャルは、4.85eV以上であることがより好ましく、4.9eV以上であることがさらに好ましい。一方、光還元力が高くなる観点から、大気中でのイオン化ポテンシャルは、5.4eV以下であることがより好ましく、5.3eV以下であることがさらに好ましい。
【0046】
本実施形態の集合体は、酸化第二銅、酸化第一銅、及び/又は金属銅である銅生成物の原料として好適に使用できる。すなわち、本実施形態においては、集合体中の酸化第一銅粒子に由来する上記銅生成物を生成できる。集合体の形態が分散体であることが、携帯性、及び製造される酸化第二銅、酸化第一銅、及び/又は金属銅の形態自由性から好ましい。中でも、塗布が可能な塗布液の形態は、薄膜の製造が容易であるという観点からより好ましい。一態様においては、本実施形態の集合体から、導電性及び熱伝導性に優れる金属銅を製造できる。また、一態様においては、本実施形態の集合体から、バンドギャップが小さく、より多くの波長の光を吸収できる酸化第二銅を製造できる。また、一態様においては、本実施形態の集合体から、光起電力に優れる酸化第一銅を製造できる。
【0047】
酸化第二銅を製造する場合には、酸化反応を介することが好ましい。酸化反応としては、光酸化、酸化剤による反応などが挙げられ、より具体的には、白色光又は単色光照射による光酸化、酸素による酸化反応などが挙げられる。
【0048】
金属銅を製造する場合には、還元反応を介することが好ましい。還元反応としては、光還元、還元剤による反応、熱還元などが挙げられ、より具体的には、水素による還元、水素プラズマによる還元、加熱による熱還元、光照射による熱還元などが挙げられる。
【0049】
酸化第一銅を製造する場合、当該酸化第一銅としては、本実施形態の集合体に含まれる酸化第一銅をそのまま使用してもよいし、又は、本実施形態の集合体から、例えば、固液分離、加熱による酸化第一銅の濃縮などによって、目的の酸化第一銅を回収してもよい。
【実施例
【0050】
以下、実施例及び比較例を挙げて本実施形態をさらに具体的に説明するが、本実施形態はその要旨を超えない限り、これらの実施例及び比較例によって何ら限定されるものではない。後述する実施例及び比較例における特性、反応条件、及び生成物の同定は、以下に示す方法により、測定及び設定した。
【0051】
(集合体中の酸化第一銅)
薄膜形態の集合体中の酸化第一銅を、以下のX線回折装置(XRD)を用いて同定した。
測定装置:リガクUltima-IV,X線源:Cu-Kα,電圧40kV,電流40mA
また、酸化第一銅の定量には、以下の高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP)を利用して銅を定量する方法を用いた。
【0052】
(酸化第一銅の平均粒子径)
溶媒を含む集合体における酸化第一銅の平均粒子径は、大塚電子製FPAR-1000を用いてキュムラント法によって測定した。
薄膜形態である集合体における酸化第一銅の平均粒子径については、上記XRDの回折ピークの半値幅から、シェラー式を用いて求めた結晶子径を平均粒子径とした。
【0053】
(集合体中のカルボン酸及び/又はカルボン酸アニオン)
溶媒を含む集合体である集合体中のカルボン酸及び/又はカルボン酸アニオンは、以下のガスクロマトグラフィーを利用する方法(ガスクロマトグラフィー質量分析(GC/MS))で、同定及び定量した。
測定装置:Agilent7890,カラム:DB-WAX、温度条件:40℃スタート5分保持、250℃まで10℃/分で昇温、250℃で4分間保持。
【0054】
(集合体中の窒素含有分子)
溶媒を含む集合体中の窒素含有分子(ヒドラジン)を、以下の方法で定量した。
(1)集合体サンプル50μLに、ヒドラジン33μg、サロゲート物質(ヒドラジン15)33μg、ベンズアルデヒド1質量%アセトニトリル溶液1mLを加えた。最後にリン酸20μLを加え、4時間後、GC/MS測定を行った。
(2)集合体サンプル50μLに、ヒドラジン66μg、サロゲート物質(ヒドラジン15)33μg、ベンズアルデヒド1質量%アセトニトリル溶液1mLを加えた。最後にリン酸20μLを加え、4時間後、GC/MS測定を行った。
(3)集合体サンプル50μLに、ヒドラジン133μg、サロゲート物質(ヒドラジン15)33μg、ベンズアルデヒド1質量%アセトニトリル溶液1mLを加えた。最後にリン酸20μLを加え、4時間後、GC/MS測定を行った。
(4)集合体サンプル50μLに、ヒドラジンを加えず、サロゲート物質(ヒドラジン15)33μg、ベンズアルデヒド1質量%アセトニトリル溶液1mLを加え、最後にリン酸20μLを加え、4時間後、GC/MS測定を行った。
上記(1)~(4)の4点のGC/MS測定から、m/z=207のクロマトグラムよりヒドラジンのピーク面積値を得た。次にm/z=209のマスクロマトグラムよりサロゲートのピーク面積値を得た。x軸に、添加したヒドラジンの重量/添加したサロゲート物質の重量、y軸に、ヒドラジンのピーク面積値/サロゲート物質のピーク面積値をとり、サロゲート法による検量線を得た。
この検量線から得られたY切片の値を、添加したヒドラジンの重量/添加したサロゲート物質の重量で除しヒドラジンの重量を得た。
【0055】
(集合体の大気中でのイオン化ポテンシャル)
集合体の大気中でのイオン化ポテンシャルは、それぞれの集合体の薄膜形態のサンプルを用いて、下記の大気圧高電子分光測定装置を用いて、観測された光電子のシグナル強度の0.5乗を外挿することで求めた。
装置:AC-3、日本分光社製
【0056】
(酸化第一銅の価電子帯深さ)
酸化第一銅の価電子帯深さは、集合体の価電子帯をイオン化ポテンシャルとして、価電子帯深さを見積もった。
【0057】
(集合体の光損失)
集合体の光損失は、それぞれの薄膜形態のサンプルについて、散乱光を目視で下記のように判定した。
光沢がある(すなわち、散乱光の影響が少なく、光損失が少ない)場合:〇
光沢がない(すなわち、散乱光の影響が大きく、光損失が多い)場合:×
【0058】
(集合体の光機能)
集合体の光機能は、薄膜サンプルについて、下記光源からの酸化第一銅のバンドギャップエネルギーよりも大きなエネルギーの光子からなる光を照射して、光機能性の判定を行った。
光源:レーザーマーカー(キーエンス株式会社製、MD-U1000C、波長:355nm)
この光照射により、集合体中の酸化第一銅が自己光還元により金属銅になる反応が観測された場合、光機能性を有する、すなわち、光機能材料(具体的には光触媒)として機能すると判定した。
【0059】
(実施例1)
蒸留水1395gと、1,2-プロピレングリコール645gとの混合溶媒(第1の溶媒として)中に、酢酸銅(II)一水和物(2価の銅カチオンとカルボン酸アニオンとの化合物として)199.5gを加え、外部温調器の液温を-5℃にして、3時間撹拌することによって、2価の銅の化合物と第1の溶媒とを混合撹拌下で共存させた(工程A)。この溶液を撹拌しながら、80質量%のヒドラジン(還元剤として)水溶液の総計58.2mLを、2.91mL min-1の流速で加え、30分間撹拌した後、外部温調器によって液温を25℃にし、90分間撹拌した。この撹拌後、遠心分離を施して沈殿物を回収した。沈殿物においては、固相(酸化第一銅)50gに対し、液相を20g残した。(すなわち液相を40質量%残した)(工程B)。当該混合物70gに、DisperBYK-145(ビックケミー製)10g、及びエタノール(第2の溶媒として)70gを加え、窒素雰囲気下でホモジナイザーを用いて分散し、溶媒交換物(溶媒を含む集合体として)を得た(酸化第一銅/溶媒=63/100(質量比))。溶媒交換物中の第1の溶媒の含有量は13質量%、第2の溶媒の含有量は53質量%であった。また、この溶媒交換物0.5mLを、窒素雰囲気中で25mm四方の石英板上に滴下し、乾燥することで薄膜形態(膜厚:0.5~5μm)の集合体を得た。
【0060】
実施例1の集合体におけるカルボン酸成分(酢酸)の同定結果、集合体中のカルボン酸成分の酸化第一銅に対する質量比、集合体中の窒素含有分子(還元剤として用いたヒドラジン)の酸化第一銅に対する質量比、溶媒を含む集合体における酸化第一銅の平均粒子径、薄膜形態の集合体における酸化銅の平均粒子径、集合体の大気中でのイオン化ポテンシャル、光損失、を表1に示す。
【0061】
(比較例1)
窒素雰囲気中にて、酸化第一銅(Aldrich社製、純度≧99.99%)をエタノール中に懸濁させたものを、溶媒を含む集合体とした。またこの集合体を石英板上に滴下し、乾燥することで、薄膜サンプルを調製した。
【0062】
比較例1の集合体におけるカルボン酸成分の同定結果、集合体中のカルボン酸成分の酸化第一銅に対する質量比、集合体中の窒素含有分子の酸化第一銅に対する質量比、溶媒を含む集合体における酸化第一銅の平均粒子径、薄膜形態の集合体における酸化銅の平均粒子径、集合体の大気中でのイオン化ポテンシャル、光損失、を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
比較例1の集合体におけるイオン化ポテンシャル・価電子帯深さは、4.75eVであったのに対し、実施例1の集合体におけるイオン化ポテンシャル・価電子帯深さは、5.04eVであり、本実施形態の集合体によれば、高い酸化安定性、及び大きな光酸化力が得られることが示された。加えて、比較例1の集合体は光沢がなく光損失が多かったが、実施例1の集合体は光沢があり光損失が少なかった。このことから、本実施形態の集合体によれば光損失が少なくなることが示された。
【0065】
実施例1において、高い酸化安定性、及び大きな光酸化力を有する集合体が得られた理由としては、工程Aにて、蒸留水と1,2-プロピレングリコールと酢酸銅(II)との混合物に、比較的長時間、混合撹拌を施すことにより、微細かつ均一な酢酸銅クラスターが形成され、酢酸銅クラスターと、酢酸銅からイオン化したカルボン酸アニオン及び窒素含有分子との効果的な相互作用に寄与したと推測される。
【0066】
さらに、実施例1においては、酸化第一銅と、カルボン酸成分及び窒素含有分子とのエネルギー相互作用を阻害しないように、工程Bによって、適量の第1の溶媒を残存させていることが、高い酸化安定性、大きな光酸化力、及び小さい光損失という効果の発現に寄与したと推測される。
【0067】
特に、実施例1においては、工程A及び工程Bの両者を行ったことで、工程Aによる、酢酸銅クラスターと酢酸銅からイオン化したカルボン酸アニオン及び窒素含有分子との相互作用による効果と、工程Bによる、酸化第一銅とカルボン酸及び窒素含有分子との相互作用による効果との相乗効果によって、高い酸化安定性、及び大きな光酸化力を有し、光損失が少ない集合体の生成という効果が特に顕著であったと推測される。
【0068】
(実施例2)
実施例1で得た薄膜形態の集合体に対し、上記(集合体の光機能)の項に記載の条件で光を照射した結果、光機能性を示した。実施例2の結果から、本実施形態の集合体は、光機能材料(具体的には光触媒)として、好適に利用できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本開示に係る集合体は、各種光機能材料(例えば光触媒)、及び各種銅生成物(例えば酸化第二銅、酸化第一銅又は金属銅)の原料として好適に適用され得る。