(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】炭化ケイ素粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/97 20170101AFI20240423BHJP
【FI】
C01B32/97
(21)【出願番号】P 2020041826
(22)【出願日】2020-03-11
【審査請求日】2022-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100115679
【氏名又は名称】山田 勇毅
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】牛田 尚幹
(72)【発明者】
【氏名】増田 祐司
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 未那
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0202414(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0184281(US,A1)
【文献】特表2010-540759(JP,A)
【文献】特開昭64-061308(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/97
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が300nm以下であり、且つ、体積基準の積算粒子径分布において小粒径側からの積算粒子体積が全粒子体積の10%となる粒子径D10と、体積基準の積算粒子径分布において小粒径側からの積算粒子体積が全粒子体積の90%となる粒子径D90との比D90/D10が4以下であ
り、尚且つ、結晶形がα型である炭化ケイ素の粉末を製造する方法であって、
結晶形がα型である炭化ケイ素からなる原料を粉砕して粉末とする粉砕工程と、
前記粉砕工程で得られた粉末を粒子径によって分級する分級工程と、
を備え、
前記粉砕工程では、直径1mm以下のビーズをメディアとして使用するビーズミルによって前記原料を粉砕する炭化ケイ素粉末の製造方法。
【請求項2】
前記分級工程で得られた粉末を、pH10以上の溶液に1時間以上接触させた後に、pH2以下の溶液に1時間以上接触させて精製する精製工程をさらに備える
請求項1に記載の炭化ケイ素粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭化ケイ素粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶形がα型である炭化ケイ素(以下、「α型炭化ケイ素」と記すこともある)の粉末は、α型炭化ケイ素からなる原料を粉砕して粉末とした後に、粒子径によって分級することにより製造することができる。例えば特許文献1には、アチソン法により得られたα型炭化ケイ素からなる原料をボールミルによって粉砕して粉末とした後に、湿式分級することによって、α型炭化ケイ素の粉末を製造する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示の技術では、平均粒子径が小さく且つ粒子径分布の幅が狭いα型炭化ケイ素粉末を得ることは容易ではなかった。
本発明は、平均粒子径が小さく且つ粒子径分布の幅が狭いα型炭化ケイ素粉末を得ることができる炭化ケイ素粉末の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係る炭化ケイ素粉末は、結晶形がα型である炭化ケイ素の粉末であって、平均粒子径が300nm以下であり、且つ、体積基準の積算粒子径分布において小粒径側からの積算粒子体積が全粒子体積の10%となる粒子径D10と、体積基準の積算粒子径分布において小粒径側からの積算粒子体積が全粒子体積の90%となる粒子径D90との比D90/D10が4以下であることを要旨とする。
【0006】
本発明の他の態様に係る炭化ケイ素粉末の製造方法は、上記一態様に係る炭化ケイ素粉末を製造する方法であって、結晶形がα型である炭化ケイ素からなる原料を粉砕して粉末とする粉砕工程と、粉砕工程で得られた粉末を粒子径によって分級する分級工程と、を備え、粉砕工程では、直径1mm以下のビーズをメディアとして使用するビーズミルによって原料を粉砕することを要旨とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る炭化ケイ素粉末の製造方法は、平均粒子径が小さく且つ粒子径分布の幅が狭い炭化ケイ素粉末を製造することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の一実施形態について詳細に説明する。本実施形態の炭化ケイ素粉末は、結晶形がα型である炭化ケイ素(SiC)の粉末であって、平均粒子径が300nm以下である(すなわち、平均粒子径が小さい)。そして、本実施形態の炭化ケイ素粉末は、体積基準の積算粒子径分布において小粒径側からの積算粒子体積が全粒子体積の10%となる粒子径D10と、体積基準の積算粒子径分布において小粒径側からの積算粒子体積が全粒子体積の90%となる粒子径D90との比D90/D10が4以下である(すなわち、粒子径分布の幅が狭い)。
【0009】
本実施形態の炭化ケイ素粉末は、上記の構成を有しているため、種々の用途に好適に用いることができる。例えば、研磨・研削材料、導電性材料、熱伝導性材料、セラミック成型品、半導体材料、焼結品の原料粉末として好適に用いることができる。
なお、炭化ケイ素粉末の平均粒子径、D10、及びD90の測定方法は特に限定されるものではないが、例えば、レーザー回折法によって測定することができる。測定装置の例としては、株式会社堀場製作所製のレーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置LA-960が挙げられる。
【0010】
本実施形態の炭化ケイ素粉末は、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、銅(Cu)、ナトリウム(Na)、チタン(Ti)、及びクロム(Cr)のうち少なくとも1種の金属を不純物として含有している場合があるが、その含有量は可能な限り少ないことが好ましく、いずれの金属においても30質量ppm以下であることが好ましい。上記の金属の中では、鉄、銅の含有量が少ないことが特に好ましい。
【0011】
上記金属の含有量がいずれも30質量ppm以下であれば、例えば、本実施形態の炭化ケイ素粉末を焼結し、得られた焼結体を半導体材料として用いた場合に、半導体材料の半導体性能に問題が生じにくい。
炭化ケイ素粉末中の金属の含有量の測定方法は特に限定されるものではないが、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、銅(Cu)、ナトリウム(Na)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)であれば、例えば誘導結合プラズマ発光分光分析法によって測定することができる。測定装置の例としては、株式会社島津製作所製の誘導結合プラズマ発光分光分析装置ICPS-8100が挙げられる。
【0012】
本実施形態の炭化ケイ素粉末は、下記の方法で製造することができる。すなわち、本実施形態の炭化ケイ素粉末の製造方法は、上記の本実施形態の炭化ケイ素粉末を製造する方法であって、結晶形がα型である炭化ケイ素からなる原料を粉砕して粉末とする粉砕工程と、粉砕工程で得られた粉末を粒子径によって分級する分級工程と、を備えている。そして、粉砕工程では、直径1mm以下のビーズをメディアとして使用するビーズミルによって上記原料を粉砕する。
【0013】
粉砕工程において用いる原料は、α型炭化ケイ素からなるものであれば、形状や大きさは特に限定されるものではなく、その形状は粉末状、顆粒状、塊状であってもよいが、例えば、アチソン法により製造された炭化ケイ素のインゴットであってもよい。アチソン法は、ケイ石又はケイ砂とコークス等の炭素との混合物をアチソン炉(電気抵抗炉)で加熱して炭化ケイ素を製造する方法である。
【0014】
また、ビーズミルとは、ビーズ状のメディアと原料と液状媒体とを混合して撹拌することにより、原料にメディアを衝突させて、原料を粉砕し粉末とする湿式の粉砕機である。平均粒子径が小さい炭化ケイ素粉末を得るためには、直径の小さいメディアを用いて粉砕を行う必要がある。平均粒子径が300nm以下である炭化ケイ素粉末を得るためには、メディアの直径は1mm以下である必要があり、0.5mm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましい。
メディアの材質は特に限定されるものではないが、鉄等の金属よりもアルミナ、ジルコニア、窒化ケイ素等のセラミックを採用することが好ましい。セラミック製のメディアを用いれば、粉砕工程において金属等の不純物が炭化ケイ素粉末中に混入しにくい。
【0015】
分級工程においては、平均粒子径が300nm以下となり且つ比D90/D10が4以下となるように、粉砕工程で得られた粉末を粒子径によって分級する。分級工程における粉末の分級方法は特に限定されるものではなく、乾式、湿式等の分級方法を採用することができるが、分級精度の観点から、湿式により分級を行うことが好ましい。
【0016】
本実施形態の炭化ケイ素粉末の製造方法においては、分級工程の後に精製工程をさらに行ってもよい。この精製工程は、分級工程で得られた粉末を、pH10以上の溶液に1時間以上接触させた後に、pH2以下の溶液に1時間以上接触させて精製する工程である。精製工程を実施することにより、分級工程で得られた粉末に含有されている金属等の不純物が除去され、炭化ケイ素粉末中の金属等の不純物の含有量を低下させることが可能である。
【0017】
分級工程で得られた粉末を上記2種の溶液に接触させる方法は、特に限定されるものではないが、例えば、浸漬、噴霧、掛け流し等の方法が挙げられる。pH10以上の溶液の例としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水が挙げられる。pH2以下の溶液の例としては、塩酸、硫酸、硝酸が挙げられる。
なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。また、本実施形態には種々の変更又は改良を加えることが可能であり、その様な変更又は改良を加えた形態も本発明に含まれ得る。
【0018】
〔実施例〕
以下に実施例及び比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
アチソン法により製造されたα型炭化ケイ素からなるインゴットを、粉砕して粉末状とし、これを原料とした。この粉末状の原料のD50(体積基準の積算粒子径分布において小粒径側からの積算粒子体積が全粒子体積の50%となる粒子径)は、5μmである。
次に、直径150μmのセラミック製のビーズをメディアとして使用するビーズミルによって、上記の粉末状の原料を湿式粉砕し、粉末を得た(粉砕工程)。ビーズミルに充填するメディアの充填率は80体積%であり、粉砕時に運動するメディアの周速は10m/sである。
【0019】
そして、粉砕工程で得られた粉末を、粒子径によって水簸分級した(分級工程)。この分級は、最大の粒子径が1μm以下となるように行った。
さらに、分級工程で得られた粉末を、pH10以上の溶液に1時間以上浸漬した後に、pH2以下の溶液に1時間以上浸漬して精製し、金属等の不純物の除去を行った(精製工程)。
【0020】
こうして得られたα型炭化ケイ素粉末のD10、D50(平均粒子径)、及びD90を、株式会社堀場製作所製のレーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置LA-960を用いて測定した。そして、測定したD10とD90により、比D90/D10を算出した。結果を表1に示す。
また、こうして得られたα型炭化ケイ素粉末中の各種金属の含有量を、株式会社島津製作所製の誘導結合プラズマ発光分光分析装置ICPS-8100を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0021】
【0022】
(実施例2)
アチソン法により製造されたα型炭化ケイ素からなるインゴットを、粉砕して粉末状とし、これを原料とした。この粉末状の原料のD50は、5μmである。
次に、直径300μmのセラミック製のビーズをメディアとして使用するビーズミルによって、上記の粉末状の原料を湿式粉砕し、粉末を得た。ビーズミルに充填するメディアの充填率は80体積%であり、粉砕時に運動するメディアの周速は12m/sである。
【0023】
そして、粉砕工程で得られた粉末を、粒子径によって水簸分級した。この分級は、最大の粒子径が2μm以下となるように行った。
さらに、分級工程で得られた粉末を、pH10以上の溶液に1時間以上浸漬した後に、pH2以下の溶液に1時間以上浸漬して精製し、金属等の不純物の除去を行った。
【0024】
こうして得られたα型炭化ケイ素粉末のD10、D50(平均粒子径)、及びD90を、株式会社堀場製作所製のレーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置LA-960を用いて測定した。そして、測定したD10とD90により、比D90/D10を算出した。結果を表1に示す。
また、こうして得られたα型炭化ケイ素粉末中の各種金属の含有量を、株式会社島津製作所製の誘導結合プラズマ発光分光分析装置ICPS-8100を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0025】
(比較例1)
アチソン法により製造されたα型炭化ケイ素からなるインゴットを、粉砕して粉末状とし、これを原料とした。この粉末状の原料のD50は、20μmである。
次に、直径10~20mmの鉄製のボールをメディアとして使用するボールミルによって、上記の粉末状の原料を湿式粉砕し、粉末を得た。
そして、粉砕工程で得られた粉末を、粒子径によって水簸分級した。この分級は、最大の粒子径が5μm以下となるように行った。この後の精製工程は行わなかった。
【0026】
こうして得られたα型炭化ケイ素粉末のD10、D50(平均粒子径)、及びD90を、株式会社堀場製作所製のレーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置LA-960を用いて測定した。そして、測定したD10とD90により、比D90/D10を算出した。結果を表1に示す。
また、こうして得られたα型炭化ケイ素粉末中の各種金属の含有量を、株式会社島津製作所製の誘導結合プラズマ発光分光分析装置ICPS-8100を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0027】
表1から分かるように、実施例1、2のα型炭化ケイ素粉末は、D50(平均粒子径)が300nm以下であり且つ比D90/D10が4以下であった。すなわち、α型炭化ケイ素粉末の平均粒子径は小さく、粒子径分布の幅は狭かった。これに対して、比較例1のα型炭化ケイ素粉末は、D50(平均粒子径)が300nm超過であり、また比D90/D10が4超過であった。