(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】金属粒子焼結体、および金属粒子焼結体からなる金属層を備える接合体
(51)【国際特許分類】
B22F 3/10 20060101AFI20240423BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240423BHJP
B22F 1/102 20220101ALI20240423BHJP
B22F 7/06 20060101ALI20240423BHJP
B22F 7/08 20060101ALI20240423BHJP
B32B 15/01 20060101ALI20240423BHJP
B22F 9/24 20060101ALN20240423BHJP
【FI】
B22F3/10 F
B22F1/00 K
B22F1/102
B22F7/06 D
B22F7/08 E
B32B15/01 E
B22F9/24 E
(21)【出願番号】P 2020061026
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2023-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(72)【発明者】
【氏名】加藤 敬子
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 慶樹
(72)【発明者】
【氏名】前野 吉秀
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-240981(JP,A)
【文献】国際公開第2001/006034(WO,A1)
【文献】特開平03-068671(JP,A)
【文献】特開2008-153470(JP,A)
【文献】特開2014-031542(JP,A)
【文献】国際公開第2016/194389(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F C23C C09D H01B B32B H05K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粒子焼結体からなる金属層と、主構成金属元素として貴金属元素を含む貴金属焼結層とを備える接合体であって、
前記金属層の表面の少なくとも一部には、前記貴金属焼結層が形成されており、
前記金属層と前記貴金属焼結層との接合部の少なくとも一部は焼結されており、
前記金属粒子焼結体は、
金属成分と硫黄成分とを含み、
熱分解生成物として、硫黄(S)元素を含む化合物が検出されることを特徴とする、
接合体。
【請求項2】
前記硫黄成分は、硫黄含有有機化合物である、請求項1に記載の
接合体。
【請求項3】
前記硫黄(S)元素を含む化合物は、ベンゾチオフェンおよび2-メチルベンゾチオフェンのうちの少なくともいずれか一方を含む、請求項1または2に記載の
接合体。
【請求項4】
前記金属成分は、主構成元素として貴金属元素を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の
接合体。
【請求項5】
前記金属成分の貴金属元素は、金(Au)である、請求項4に記載の
接合体。
【請求項6】
前記貴金属焼結層の緻密性は、前記金属層の緻密性よりも高い、請求項
1~5のいずれか一項に記載の接合体。
【請求項7】
前記貴金属焼結層は、金(Au)を主体として構成されている、請求項
1~6のいずれか一項に記載の接合体。
【請求項8】
さらに基材を備え、該基材の表面の少なくとも一部に前記金属層が形成されている、請求項
1~7のいずれか一項に記載の接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属粒子焼結体、および金属粒子焼結体からなる金属層を備える接合体に関する。また、本発明は、上記金属粒子焼結体、および、上記接合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の物品において、基材の表面に金属成分を含む金属層を備えた接合体が含まれる。このような金属層には、接合体の用途に応じて金属微粒子が含まれることがある。例えば特許文献1には、基材の表面にプライマー層(樹脂層)が形成され、該プライマー層上に貴金属ナノ粒子を配置することが記載されている。
ところで、近年では、種々の用途向けに、貴金属微粒子ならびに該貴金属微粒子を含むペースト(スラリー)状に調製された材料の研究開発が精力的に行われている。
例えば、従来では、半導体素子を接合するための接合材料として、いわゆる「ろう材やはんだ」が使用されてきた。半導体素子接合においては、高信頼性、高放熱性、および低損失性の要求が高く、かつ、信頼性が高いAuSn合金はんだやAuバンプ技術が用いられている。しかしながら、ろう材やはんだを使用した接合では、300℃を超える高温・加圧等の厳しい条件によって、被接合部材や素子へのダメージが問題となっている。このため、近年では、ろう材やはんだではなく、金属粒子の微粒子化による表面活性化を利用した低温焼結型のペースト材料の開発や樹脂マトリックスに導電材を分散させたペースト材料の開発が行われている(例えば特許文献2)。
【0003】
低温焼結性の材料として、ナノサイズやサブミクロンサイズの貴金属からなる微粒子(貴金属微粒子)を主体とするペースト材料が多く開発されてきている。さらに近年では、より高い信頼性を求める環境において使用し得る金微粒子を主体とするペースト材料の需要も高まっている。
上記のような貴金属微粒子は、表面エネルギーが高く凝集し易い傾向にある。そのため、貴金属微粒子どうしの凝集を防止する工夫がされている。例えば、特許文献2、非特許文献1では、粒子の凝集を回避するため粒径100nm以上のサブミクロン粒子を使用している。また、例えば特許文献3では、貴金属微粒子の表面に、何らかの化合物(ここでは保護剤ともいう。)をつけることによって、貴金属微粒子どうしの凝集を防止する工夫が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-48382号公報
【文献】特許第5613253号公報
【文献】特開2013-001954号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Chem.Mater.、Vol.16(No.13)、2004年、pp.2509
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば半導体素子の接合材料において、高信頼性および高放熱性を実現するためには、貴金属微粒子の低温焼結性を向上させ、低温処理によって緻密性が高く、かつ、結晶性が高い焼結体を作製するアプローチが挙げられる。
しかしながら、貴金属微粒子の低温焼結性を高めると、極めて容易に貴金属微粒子同士の焼結が進行することとなる。一方、これは、基材との接合が進む前に貴金属微粒子の焼結が進んでしまうということでもあり、基材との接合という観点では問題となり得る。焼結後の貴金属微粒子は、当然比表面積が大きく低下しており、基材との間で拡散等を起こす活性を失っている。また、基材と接合していない貴金属微粒子焼結膜には通常そりや歪が発生するため基材との密着性が低下し、この状態のまま熱処理を続けても基材と接合させることは困難である。
そのため、高い低温焼結性を有する貴金属微粒子を用いて作製された焼結体と基材とを十分に強く接合させるためには、検討がまだまだ必要であった。
【0007】
そこで、本発明は上記課題を解決すべく創出したものであり、その目的は、低温焼結性の貴金属微粒子を用いて作製される焼結体(焼結層)と、基材との接合強度を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、貴金属からなる焼結体(焼結層)との間に、金属を主体にする金属層であって、硫黄成分を含む金属層を介在させることによって、基材と貴金属焼結体との接合強度が著しく向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
ここで開示される技術によると、金属粒子の焼結体が提供される。該金属粒子焼結体は、金属成分と硫黄成分とを含み、熱分解生成物として、硫黄(S)元素を含む化合物が検出される。
好ましい一態様において、上記硫黄成分は、硫黄含有有機化合物である。
また、好ましい一態様において、上記硫黄(S)元素を含む化合物は、ベンゾチオフェンおよび2-メチルベンゾチオフェンのうちの少なくともいずれか一方を含む。
かかる構成によると、後述するように、上記金属粒子焼結体上にて貴金属微粒子を焼結させることで、該金属粒子焼結体上に貴金属焼結層が形成される。そして、上記構成は、該金属粒子焼結体と該貴金属焼結層とを、強く接合することができる。ひいては、基材と貴金属焼結層との接合を強くすることができる。
【0010】
また、好ましくは、上記貴金属元素は、金(Au)元素である。
上記の構成は、貴金属焼結層が金焼結層である場合に好適である。
【0011】
ここで開示される技術によると、基材と、金属層とを備える接合体が提供される。上記基材の表面の少なくとも一部には、上記金属層が形成されている。該金属層は、上記金属粒子焼結体により構成されている。
かかる構成によると、上記金属層上にて貴金属微粒子を焼結させることで、該金属層上に貴金属焼結層が形成される。そして、上記構成は、該金属層と該貴金属焼結層とを、強く接合することができる。ひいては、基材と貴金属焼結層との接合を強くすることができる。
【0012】
ここで開示される技術によると、金属粒子焼結体からなる金属層と、主構成金属元素として貴金属元素を含む貴金属焼結層とを備える接合体が提供される。
上記金属層の表面の少なくとも一部には、上記貴金属焼結層が形成されている。上記金属層と上記貴金属焼結層との接合部の少なくとも一部は焼結されている。
好ましい一態様では、上記貴金属焼結層の緻密性は、上記金属層の緻密性よりも高い。
かかる構成によると、該金属粒子焼結体(即ち、金属層)と該貴金属焼結層とを、強く接合することができる。特に、貴金属焼結層が、低温焼結性の高い貴金属微粒子を用いて形成された場合に、好適である。
【0013】
また、好ましい一態様では、上記金属層は、金(Au)を主体として構成されている。
上記の構成は、貴金属焼結層が金焼結層である場合に好適である。
また、好ましくは、上記金属層は、上記金属粒子焼結体により構成されている。かかる構成では、高い低温焼結性の貴金属微粒子を用いて形成された貴金属焼結層と、金属層とを、強く接合することができる。
【0014】
ここで開示される技術によると、上記のような金属粒子焼結体を使用して貴金属焼結層を備える接合体を製造する方法が提供される。
ここで開示される製造方法は、基材と、該基材の表面の少なくとも一部に配置された金属層と、上記金属層の表面上に備えられた、主構成金属元素として貴金属元素を含む貴金属焼結層と、を備える接合体の製造方法である。
当該製造方法は、上記基材の表面に、所定の有機金属化合物および硫黄成分を含む有機材料を塗布すること、上記有機材料が塗布された上記基材を熱処理して、金属成分および硫黄成分を含む金属層を、該基材上に形成すること、上記金属層の表面上に、主構成金属元素として貴金属を含む貴金属微粒子を配置すること、および、前記貴金属微粒子を焼結して貴金属焼結層を形成すること、を包含する。
【0015】
かかる構成の製造方法によると、基材と貴金属焼結層とが強固に接合された接合体を提供することができる。
当該製造方法によると、基材の表面に硫黄成分を含む金属層を形成することができ、かつ、該金属層の表面上に、該金属層と焼結した貴金属焼結層を形成することができる。
【0016】
好ましい一態様では、上記熱処理の温度は、450℃以下である。
かかる構成によると、金属層を形成する時に、硫黄成分が燃え抜けするのを抑制することができる。上記の構成によって、硫黄成分を含む金属層を形成することができる。
【0017】
好ましい一態様では、上記貴金属微粒子は、表面にアミン化合物およびイミン化合物のうちの少なくともいずれか一方を保持する。
従来から、貴金属微粒子が、その表面に上記化合物を有することによって、該貴金属微粒子の分散性が向上し得ることが知られている。上記のような貴金属微粒子を使用することによって、貴金属微粒子を含む材料(典型的には、スラリー(ペースト)状材料)では、貴金属微粒子の分散安定性が顕著に向上されている。このことによって、より高濃度の分散体(例えば、導体ペースト)の調製を容易に行うことができ、低温で、より緻密な貴金属焼結層を形成することができる。
【0018】
好ましい一態様では、上記貴金属微粒子の主構成金属元素は、金(Au)元素である。
貴金属微粒子の中でも特に金微粒子は凝集・沈降しやすいが、低温で分解除去可能なアミン、イミン保護剤によって凝集・沈降を防ぐことができる。そのため、低温によって、従来よりも緻密な貴金属焼結層(金焼結層)を得ることができる。
【0019】
好ましい一態様において、上記焼結の温度は、300℃以下である。
上記のとおり、アミン、イミンで保護された高分散の金微粒子は焼結性が高いため、300℃以下の焼結温度で金焼結層を形成することができる。また、300℃以下の焼結温度とすることによって、金属層には、貴金属焼結層を形成した後であっても、硫黄成分が残留し得る。さらに、樹脂フィルム等耐熱性の低いものを含めて多様な基材に対して適用可能である。
【0020】
上記の製造方法によって、ここに開示される接合体を提供することができる。
当該接合体は、緻密な貴金属焼結層を備えており、該貴金属焼結層が、焼結によって強固に金属層と接合している。そのため、当該接合体において、貴金属焼結層と基材との接合強度が顕著に向上している。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】ここで開示される接合体の構造を模式的に示す断面図である。
【
図2】水金液の乾燥体についてのTG-DTA測定結果を示すグラフである。
【
図3】実施例1-1~1-3および比較例1-1~1-5の金層における硫黄(S)元素についてのXRF分析結果を示すグラフである。
【
図4】実施例1-2の金層について得られた熱分解GC/MSスペクトルである。
【
図5】
図4の熱分解GC/MSスペクトルにおけるピークNo.3のMSスペクトルである。
【
図6】二酸化硫黄(SO
2)のライブラリデータ(MSスペクトル)である。
【
図7】
図4の熱分解GC/MSスペクトルにおけるピークNo.12のMSスペクトルである。
【
図8】ベンゾチオフェンのライブラリデータ(MSスペクトル)である。
【
図9】
図4の熱分解GC/MSスペクトルにおけるピークNo.14のMSスペクトルである。
【
図10】2-メチルベンゾチオフェンのライブラリデータ(MSスペクトル)である。
【
図11】サンプル1に係る貴金属微粒子のFESEM観察画像(5万倍)である。
【
図12】サンプル2に係る貴金属微粒子のFESEM観察画像(5万倍)である。
【
図13】サンプル3に係る貴金属微粒子のFESEM観察画像(5万倍)である。
【
図14】サンプル4に係る貴金属微粒子のFESEM観察画像(5万倍)である。
【
図15】サンプル5に係る貴金属微粒子のFESEM観察画像(5万倍)である。
【
図16】サンプル6に係る貴金属微粒子のFESEM観察画像(5万倍)である。
【
図17】サンプル1について得られた熱分解GCMSスペクトルである。
【
図18】サンプル2について得られた熱分解GCMSスペクトルである。
【
図19】サンプル3について得られた熱分解GCMSスペクトルである。
【
図20】サンプル4について得られた熱分解GCMSスペクトルである。
【
図21】サンプル5について得られた熱分解GCMSスペクトルである。
【
図22】サンプル6について得られた熱分解GCMSスペクトルである。
【
図23】サンプル1~4で検出されたイミン化合物Aのピーク(■)のMSスペクトルである。
【
図24】サンプル5で検出されたイミン化合物Bのピーク(■)のMSスペクトルである。
【
図25】サンプル6で検出されたイミン化合物Cのピーク(■)のMSスペクトルである。
【
図26】ライブラリ検索によって得られたイミン化合物BのMSスペクトル(ライブラリデータ)である。
【
図27】実施例2-2の接合体のFESEM観察画像(1万倍)である。
【
図28】実施例2-2の接合体のFESEM観察画像(10万倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
なお、本明細書および特許請求の範囲において、所定の数値範囲をA~B(A、Bは任意の数値)と記すときは、A以上B以下の意味である。したがって、Aを上回り且つBを下回る場合を包含する。
【0023】
本明細書ならびに特許請求の範囲において「貴金属微粒子」という場合は、特に1粒単位を指している場合を除いて、多数の微粒子の集団(即ち、particles)を意味している。例えば、後述する「貴金属微粒子を含む粉体材料あるいは分散体」における当該貴金属微粒子は、1粒ではなくparticlesとしての貴金属微粒子を指す。日本語では、単数か複数かが曖昧なため、「貴金属微粒子」の意味を明確にするために上記のように規定する。
【0024】
まず初めに、ここで開示される接合体について、
図1を参照しつつ説明する。
図1は、ここで開示される接合体の構造を模式的に示す断面図である。
図1に示されるように、接合体100は、少なくとも金属層10を備える。接合体100は、金属層10のほか、貴金属焼結層20および基材30のうちの少なくともいずれか一方を備える。接合体100の構成としては、例えば、少なくとも金属層10と基材30とを備える構成、少なくとも金属層10と貴金属焼結層20とを備える構成、少なくとも金属層10と貴金属焼結層20と基材30とを備える構成が挙げられる。
例えば、接合体100が金属層10と基材30とを備える場合、基材30の表面(これらの積層方向Zにおける片面または両面)の少なくとも一部に金属層10が形成される。また、接合体100が金属層10と貴金属焼結層20とを備える場合は、金属層10の表面(これらの積層方向Zにおける片面または両面)の少なくとも一部には、貴金属焼結層20が形成される。
なお、接合体100を構成する層数は特に限定されない。接合体100は、例えば複数の金属層10を備えてもよく、複数の貴金属焼結層20を備えてもよい。また、接合体100が複数の金属層10を備える場合、該複数の金属層10は、相互に異なるものであってもよい。接合体100が複数の貴金属焼結層20を備える場合、該複数の貴金属焼結層20は、相互に異なるものであってもよい。
【0025】
基材30としては、従来公知の各種基板を構成する金属製やセラミック製(ガラスを含む。)のものを特に制限なく使用することができる。金属製基材としては、例えば、アルミニウム、クロム、鉄、ニッケル、銅、タングステン等の金属またはそれらの合金製基材が挙げられる。セラミック製基材としては、シリカやアルミナなどの結晶質又は非晶質の金属酸化物製基材が挙げられる。あるいは、基材30は樹脂製の基材であってもよい。樹脂製の基材としては、例えばポリイミド等の樹脂製基材が挙げられる。
基材30の詳細な組成や形状、寸法等は特に制限されず、本発明を特徴づけるものでないため、詳細な説明は省略する。
【0026】
金属層10は、金属粒子焼結体からなる。金属粒子焼結体は、少なくとも金属成分を含む。金属粒子焼結体の全体の重量を100重量%としたときに、金属成分が占める割合は概ね70重量%以上(好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上、またはそれ以上)であり得る。
金属成分を構成する金属元素は、特に限定されず、種々の卑金属元素および貴金属元素のいずれであってもよい。卑金属元素の具体例としては、例えばチタン(Ti)、クロム族元素(クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W))、マンガン(Mn)、鉄族元素(鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni))、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、スズ(Sn)、等が代表的なものとして挙げられる。貴金属元素の具体例としては、金(Au)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)等が代表的なものとして挙げられる。
金属成分は、上記金属の合金であってもよい。金属成分は、上記金属元素のうちの1種からなるものであってもよく、2種以上を含むものであってもよい。
【0027】
上記金属成分は、主構成元素として貴金属元素を含むことが好ましい。ここで、主構成元素とは、金属成分を構成する主体となる元素をいう。金属成分を構成する元素は、貴金属元素からなることが理想的であるが、不可避的不純物として種々の卑金属元素を含んでもよい。
【0028】
金属粒子焼結体は、上記金属成分のほか、硫黄成分を含み得る。好ましくは、金属粒子焼結体は、硫黄成分を含む。
硫黄成分は、硫黄含有無機化合物、および、硫黄含有有機化合物のうちの少なくともいずれか一方を含み得る。後述する貴金属焼結層との接合強度を向上させる観点からは、硫黄成分は、硫黄含有有機化合物であることが好ましい。
金属粒子焼結体における硫黄成分の含有量は、金属粒子焼結体の全体の重量を100重量%としたときに、0.1重量%以上(例えば0.5重量%以上、1重量%以上、2重量%以上、または、5%重量以上)であり得る。また、硫黄成分の含有量は、20重量%以下(例えば15重量%以下、10重量%以下、または、7重量%以下)であり得る。なお、当該含有量は、例えば熱天秤-質量分析法(TG-MS)によって測定することができる。
【0029】
金属粒子焼結体の熱分解を行うと、その熱分解生成物として、硫黄(S)元素を含む化合物が検出される。上記熱分解の手法としては、例えば熱分解GC/MS分析が挙げられる。
金属粒子焼結体に含まれる硫黄成分は、例えば熱分解GC/MS分析によって検出することができる。即ち、金属粒子焼結体を所定の条件において熱分解GC/MS分析すると、硫黄(S)元素を含む化合物が検出される。当該硫黄(S)元素を含む化合物は、硫黄含有無機化合物および硫黄含有有機化合物のいずれであってもよい。
上記分析には、市販の分析装置を特に制限なく使用することができる。詳細な分析条件については、下記実施例に記載する。なお、分析条件は必要に応じて適宜変更することができる。例えば下記実施例においては、熱分解温度を550℃に設定しているが、これに限定されず、適宜変更することができる。
【0030】
金属粒子焼結体は、おおまかにいって、該金属粒子焼結体を作製するための有機材料に所定の条件で熱処理を行うことにより作製することができる。その具体的な作製方法の一例は、本明細書の下記段落および下記実施例に記載する。
【0031】
金属層10の厚みは特に限定されないが、0.01μm以上であることが適切であり、0.025μm以上が好ましく、0.05μm以上がより好ましく、例えば0.1μm以上であるとよい。また、金属層10の厚みは2μm以下であることが適切であり、1.5μm以下が好ましく、1.0μm以下がより好ましく、0.75μm以下がさらに好ましく、例えば0.5μm以下であるとよい。金属層10の厚みが上記範囲にあることによって、金属層10と基材30との間に、強固な接合を実現することができる。また、金属層10と貴金属焼結層20とが強固に接合し、接合強度が安定した積層構造を実現することができる。
【0032】
貴金属微粒子焼結層20の緻密性は、金属層10の緻密性よりも高い。
緻密性は、例えば、下記実施例に記載のとおり、接合体100のイオンミリング研磨面をFESEMにより観察し、その顕微鏡観察画像(例えば10000倍の観察画像)から、市販の画像解析ソフトを用いて金属層10および貴金属焼結層20における黒色のボイド部分の面積を求め、以下の式:
緻密性(%)=1-(ボイドの面積/全体の面積)%
を用いて算出することができる。
【0033】
貴金属焼結層20は、主構成元素として貴金属元素を含む。貴金属元素の種類は、特に限定されないが、典型的には、金(Au)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)等であり得る。ここで、貴金属焼結層20について主構成元素とは、貴金属焼結層20を構成する主体となる元素をいう。貴金属焼結層20を構成する元素は、貴金属元素からなることが理想的であるが、不可避的不純物として種々の卑金属元素および非金属元素を含んでもよい。
貴金属焼結層20の主構成元素と、金属層10の主構成元素は、相互に異なってもよいが、同一であってもよい。本発明の効果をより効果的に実現する観点からは、金属層10の主構成元素と、貴金属焼結層20の主構成元素とは同一であることが好ましい。
【0034】
貴金属焼結層20は、金(Au)を主体として構成されることが好ましい。貴金属焼結層20は、金(Au)からなることが理想的であるが、不可避的不純物として種々の卑金属、無機化合物および有機化合物を含んでもよい。
【0035】
貴金属焼結層20は、貴金属微粒子を用いて作製される。以下、貴金属微粒子について説明する。
貴金属微粒子は、主構成金属元素が貴金属元素である貴金属微粒子であり、貴金属の種類は限定されない。典型的には、金(Au)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)等、またはそれらの合金が挙げられる。ここで主構成金属元素とは、貴金属微粒子を構成する主体となる金属元素をいう。貴金属微粒子は、理想的には貴金属元素のみから構成されるものであるが、不可避的不純物として種々の金属元素や非金属元素を含むものであってもよい。TG-DTAに基づいて測定される貴金属微粒子(焼成前の集合体をいう。)全体の重量(100wt%)に占める有機物含有量が、概ね1.5wt%以下であることが好ましく、1wt%以下であることが特に好ましい。
なお、好ましくは、貴金属微粒子は、主構成金属元素が金(Au)である金微粒子である。貴金属微粒子の中でも特に金微粒子は凝集・沈降しやすいため、ここで開示される技術を適用する対象として好適である。
【0036】
貴金属微粒子は、その表面に何らかの化合物を保持していてもよく、保持していなくてもよい。
貴金属微粒子が、その表面に所定の化合物を保持する場合は、該化合物として、アミン化合物およびイミン化合物が挙げられる。貴金属微粒子の表面に、アミン化合物およびイミン化合物のうちの少なくともいずれか一方が保持されることによって、該貴金属微粒子が種々の有機溶媒に対して高い分散性を有し、且つ、該貴金属微粒子を300℃以下(例えば250~300℃程度)の低い温度で焼成することにより緻密な貴金属焼結体(焼結層)を得ることができる。
好ましい一態様では、貴金属微粒子の表面には、保護剤としてイミン化合物が保持されている。
具体的には、後述する実施例に記載される反応系のように、貴金属微粒子の原料となる所定のアルコール系溶媒に溶解可能な貴金属塩または貴金属錯体(例えば、貴金属が金である場合には塩化金酸(HAuCl4)等が挙げられる。)と、貴金属に対して十分量(例えば3モル当量以上)のアルキルアミンと、該原料を溶解可能なアルコール系溶媒、例えばアルキルアルコールとの混合物を調製し、該混合物を例えば80℃以上に加熱する。これにより、上記貴金属塩または錯体から貴金属イオンが還元され、貴金属微粒子が生成される。
貴金属イオンの還元処理時間は、適宜設定することができる。特に制限はないが、例えば、0.5時間~5時間程度が好ましい。
上記のような還元処理によって生成した貴金属微粒子の回収は、従来の金属粒子の回収と同様でよく、特に制限はない。好ましくは、液中に生成した貴金属微粒子を沈降させ、遠心分離して上澄みを除去する。好ましくは適当な分散媒で複数回の洗浄、遠心分離を繰り返し、適当な分散媒中に貴金属微粒子を分散させることにより、所望する貴金属微粒子の分散体を得ることができる。さらにバインダ等の成分を添加することにより、ペースト(スラリー)状組成物(例えば電極膜等を形成するための導体ペースト)を調製することができる。
【0037】
ここで開示される技術では、上記還元処理による貴金属微粒子の生成過程において、アルコール由来のカルボニル化合物(例えば溶媒としてのアルコールが酸化してなるアルデヒド等のカルボニル化合物)とアルキルアミン(第一級アミン)との脱水縮合によってイミン化合物(典型的にはアルキルイミン)が生成され、貴金属微粒子の表面に保持される。したがって、上記のような反応系にて生成した貴金属微粒子の表面には、イミン化合物の他に上記脱水縮合によるイミンの生成に関与しなかったアルキルアミン等の残渣ともいえる有機物が存在し得る。
好ましくは、熱分解温度が300℃である熱分解GCMS分析において決定される上記イミン化合物のピーク面積と、アミン化合物のピーク面積(アミン化合物を検出し得ないレベル、即ちピーク面積が0である場合を包含する)との面積比であるアミン/イミン比(A/I比)が1以下であるようなイミン化合物の存在比率が高いことが好ましい。A/I比が0.6以下(例えば0.01~0.2であり得る)であるようなイミン化合物生成率が高いことが特に好ましい。これによって、貴金属微粒子の分散性、および低温焼結性が、より一層向上し得る。
【0038】
好ましくは、上記反応系(後述する幾つかの実施例が参考になる。)において生成され、貴金属微粒子の表面に保持されるイミン化合物は、比較的分子量の小さいもの、具体的には、炭素数が10程度またはそれ以下、例えば4~10の炭素数である炭化水素基を有するアルキルイミンが好ましい。例えば、上記イミン化合物が、以下の構造式:
R0R1C=N-(CH2)-R2
で表わされる化合物である。R0、R1およびR2は相互に独立して一部が置換した若しくは置換していないアルキル基若しくは水素である。好適例として、R0が水素であり、R1およびR2はそれぞれ炭素数が3~9(より好ましく3~7)の炭化水素基であるものが挙げられる。
例えば、上記構造式のイミン化合物であって、R0が水素であり、R1およびR2はそれぞれ、CH3(CH2)6、CH3(CH2)4またはCH3(CH2)2であるものが具体的な好適例である。
このような、比較的低分子量で短い炭化水素基を備えるイミン化合物(例えばアルキルイミン)を表面に保持した貴金属微粒子は、300℃以下の低温焼成によって容易に脱離することができるため、緻密焼結体を容易に製造することができる。
【0039】
この種の比較的分子量が小さく鎖長の短いイミン化合物は、上記反応系において使用するアルコール溶媒と第一級アミンの選択によって選択的(優先的)に生成することが可能になる。
例えば、アルコール溶媒としてオクタノール(CH3(CH2)7OH)を採用し、第一級アミンとしてオクチルアミン(CH3(CH2)7NH2)を採用した場合には、生成されるイミン化合物は、上記構造式において、R0は水素であり、R1およびR2はそれぞれCH3(CH2)6であり得る。あるいはこの反応系において、第一級アミンをブチルアミン(CH3(CH2)3NH2)に代えた場合には、生成されるイミン化合物は、上記構造式において、R0は水素であり、R1およびR2の少なくとも一方は、CH3(CH2)2であり得る。あるいはこの反応系において、第一級アミンをヘキシルアミン(CH3(CH2)5NH2)に代えた場合には、生成されるイミン化合物は、上記構造式において、R0は水素であり、R1およびR2の少なくとも一方は、CH3(CH2)4であり得る。
このように、上記反応系において、使用するアルコール溶媒とアミン化合物の適切な選択によって、生成されるイミン化合物の分子量(換言すれば、R0、R1、R2の組成)を適宜異ならせることができる。
なお、生成されるイミン化合物の構造は、後述する実施例の記載から明らかなように、熱分解GCMSスペクトルを測定することによって同定することができる。
【0040】
貴金属微粒子の粒度分布に関しては、所定の媒体に分散した状態で測定した動的光散乱(DLS)法に基づくZ平均粒子径(DDLS)と、電界放出型走査電子顕微鏡像(FE-SEM像)に基づく平均粒子径(DSEM)との比であるDDLS/DSEMが2以下であることが好ましい。
DDLS/DSEMは、貴金属微粒子の固着の度合い、換言すれば分散性を示す好適な指標の一つといえる。かかるDDLS/DSEMが2以下であることを特徴とする貴金属微粒子は、特に良好な分散性を示すため、微細な電極等の導体形成用途として良好に用いることができる。かかるDDLS/DSEMは、1.7以下であることがより好ましく、1.5以下であることが特に好ましい。
このような特性を有する貴金属微粒子は、特に分散性に優れた性質を有するため、電子材料分野において電子部品の小型化や電極の薄層化に寄与することができる。また、Z平均粒子径(DDLS)が200nm以下であるような比較的平均粒子径が小さい貴金属微粒子は、特に微細な電極等の導体形成用途として特に好適に用いることができ、電極の薄層化、信頼性の向上等を更に好適に進展させることができる。DDLSは、150nm以下であることがより好ましく、例えば、50nm以上150nm以下あることが特に好ましい。
【0041】
貴金属微粒子を、適当な水系溶媒あるいは有機系溶媒からなる分散媒に分散させることにより、種々の用途の分散体を得ることができる。
例えば、貴金属微粒子を分散させる媒体としての所定の有機溶媒に貴金属微粒子を分散させ、さらに必要に応じてバインダ、導電材、粘度調整剤、等の成分を追加することにより、ペースト状(またはスラリー状)に調製された組成物(導体ペースト)を提供することができる。かかる導体ペーストには、上記のとおり、Z平均粒子径がサブミクロン領域に制御された貴金属微粒子が含まれているため、充分に薄層化された電極を好適に形成することができる。
なお、導体ペーストの分散媒は、従来と同様、導電性粉体材料を良好に分散させ得るものであればよく、従来の導体ペースト調製に用いられているものを特に制限なく使用することができる。例えば、有機系溶媒として、ミネラルスピリット等の石油系炭化水素(特に脂肪族炭化水素)、エチルセルロース等のセルロース系高分子、エチレングリコール及びジエチレングリコール誘導体、トルエン、キシレン、ブチルカルビトール(BC)、ターピネオール等の高沸点有機溶媒を一種類又は複数種組み合わせたものを用いることができる。
【0042】
上記分散体を調製するのに好適な分散媒として、環状鎖上に水酸基を有する環状アルコールが挙げられる。環状アルコールが分散媒として含まれることによって、高い分散安定性を実現することができる。好適例として、5員環~8員環を有する環状アルコールが挙げられる。例えば、ターピネオール、メンタノール(ジヒドロターピネオール)、メントール(2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサノール)、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、シクロヘプタノール、等が挙げられる。これら環状アルコールは、1種単独で使用してもよいが、あるいは2種以上を混合して使用してもよい。環状アルコールの含有率は特に制限はないが、分散媒全体の10~100重量%が適当であり、70~100重量%であることが好適である。
【0043】
貴金属焼結層20の厚みは特に限定されないが、0.5μm以上(例えば0.75μm以上、1μm以上、または1.5μm以上)であることが好ましい。当該厚みは10μm以下(例えば7.5μm以下、5μm以下、または4μm以下)であることが好ましい。貴金属焼結層20の厚みが上記範囲にあることによって、金属層10と貴金属焼結層20とが強固に接合し、接合強度が安定した積層構造を実現することができる。
【0044】
次に、ここで開示される接合体の製造方法について説明する。
当該方法は、おおまかにいって、基材30の表面に金属層10(即ち、金属粒子焼結体)を形成するための所定の有機金属化合物および硫黄成分を含む有機材料を塗布すること、および、該有機材料が塗布された基材30を所定の温度条件で熱処理して、金属成分および硫黄成分を含む金属層10を、基材30上に形成することを含む。
【0045】
具体的には、下記実施例に記載されるように、まず、金属層の原料となる貴金属塩(例えば、貴金属が金である場合には、金の塩化物等が挙げられる。)および硫黄含有有機化合物(例えば、硫化バルサム等の硫黄含有樹脂等)を反応させて、貴金属-有機化合物錯体(貴金属レジネート)を得る。
次いで、これを所定の有機溶媒(例えば市販のWAオイル等)に溶解して金属層形成用材料(スラリー(ペースト)状材料)を調製し、基材の表面に塗布する。塗布する方法は限定されず、従来公知のコーティング手段を採用することができる。なお、基材に塗布する材料の量は、所望する金属層10の厚さを実現するために十分な量を適宜調整してよい。また、必要に応じてバインダ、粘度調整剤等の各種成分を添加してもよい。
【0046】
次いで、塗布した材料を乾燥させて乾燥膜を得て、該塗布した材料(ここでは、乾燥膜)を450℃以下で熱処理する。これによって、基材30の表面に金属層10を形成することができる。この時の温度条件を450℃以下とすると、硫黄成分の燃え抜けを抑制することができる。即ち、この温度条件で熱処理を行うことによって、硫黄成分を含む金属層10を形成することができる。なお、熱処理の期間は特に限定されず、必要に応じて適宜設定することができる。
上記のような手順によって、基材30と金属層10とを備える接合体を製造することができる。
【0047】
さらに以下の方法によって、基材30と金属層10と貴金属焼結層20とを備える接合体を作製することができる。
上記形成した金属層10の表面上に貴金属微粒子を配置する。具体的には、金属層10の表面上に、貴金属微粒子を含むペースト状(スラリー状)組成物(材料)を、塗布する。塗布する方法は特に限定されず、従来公知のコーティング手段を採用することができる。なお、基材に塗布する材料の量は、所望する貴金属焼結層20の厚さを実現するために十分な量を適宜調整してよい。
【0048】
次いで、金属層10の表面上に塗布された材料(即ち、貴金属微粒子)を、該貴金属微粒子の焼成温度域で焼結(熱処理)する。金属種により異なり得るが、焼結の温度は、典型的には200℃以上(例えば230℃以上、250℃以上)とすることができる。これによって、金属層10と貴金属焼結層20との接合部において、その少なくとも一部を焼結することができる。
焼結の温度は、金属層10中に硫黄成分が残留可能な温度に調節されてもよい。この場合、当該温度は450℃以下、400℃以下、350℃以下、または300℃以下であり得る。例えば、貴金属微粒子として低温焼結性が高い貴金属微粒子(例えば金微粒子)を用いると、上記温度を例えば350℃以下、320℃以下、例えば300℃以下等とすることができる。このような温度域は、特に基材30として樹脂製の基材を使用する場合に特に好ましい。一方、上記焼結(熱処理)を、金属層10中に硫黄成分が残留しない温度域、即ち、450℃を上回る温度で行ってもよい。
上述したいずれの場合であっても、貴金属焼結層20と金属層10とを強固に接合することができる。また、基材30と貴金属焼結層20とを強固に接合することができる。
【0049】
金属層10と貴金属焼結層20とを備える接合体を製造する場合は、例えば、あらかじめ金属層10として金属粒子焼結体を作製しておき、金属層10の表面上に貴金属微粒子を配置して、上記のように熱処理を行うことによって上記接合体を得ることができる。
【0050】
以下、ここで開示される金属粒子焼結体、および接合体の一例として下記実施例を説明するが、かかる実施例は本発明を限定することを意図したものではない。
【0051】
<実施例1:金属粒子焼結体の製造>
実施例1では、市販の水金液を用いて、金粒子焼結体を作製した。また、当該金粒子焼結体を基材の表面上に形成することによって、基材の表面上に金(Au)層を備える接合体を製造した。
(1)昇温にともなう有機材料中の有機化合物重量減少率(%)の測定
市販の水金液(カタログ番号:N-15、株式会社ノリタケカンパニーリミテド)を、60℃の温度条件で、容器中で乾燥させた。この乾燥体を取り出して試料として用い、熱重量測定装置(リガク社製品、TG-DTA/H)を用いた熱分析を行った。具体的には、約10mgの試料を、室温から1,000℃まで1℃/分の速度で昇温させていき、1000℃で10分保持した際の熱挙動を観測した。
測定開始時における試料全体の重量を100重量%とし、昇温にともなう試料の重量減少率(%)を算出した。当該試料のTG-DTA測定結果(グラフ)を
図2に示す。
【0052】
図2では、測定開始時の重量減少率(%)をゼロ(0)とし、昇温にともなう試料の重量減少率が示されている。減少した試料の重量は、昇温によって減少した残存溶剤と有機化合物の重量を表している。
図2に示されるように、400℃に到達するまでの昇温では、温度の上昇にともなって上記試料の重量(%)が減少した。400℃を超えると、上記試料の重量(%)は減少しなかった。このことから、所定の温度となるまでは、当該試料には有機化合物が含まれることが分かった。
【0053】
(2)金属層(金属粒子焼結体、この場合は金粒子焼結体)の形成
金粒子焼結体を形成するための有機材料として、市販の水金液(カタログ番号:N-15、株式会社ノリタケカンパニーリミテド)に溶剤(WAオイル、株式会社ノリタケカンパニーリミテド製)を加え、該水金液を3倍希釈した希釈液を用意した。
次いで、上記希釈液を、基材としてのタングステン(W)基板の表面に塗布した。塗布した希釈液の量は、後述する熱処理1の後に、金粒子焼結体(即ち、ここでは金層)の厚みが200~300nm程度となるよう調整した。
次いで、基材に塗布した希釈液を60℃で1時間乾燥させて、乾燥膜を形成した。
なお、上記市販の水金液は、金(Au)塩化物と硫化バルサムとを反応させて得られたAuレジネートを、上記溶媒中に溶解して、金(Au)含有量が15質量%に調製された溶液である。
上記乾燥膜を熱処理(熱処理1)した。水金液は熱処理1によって溶剤、樹脂等の有機化合物が除去され、金粒子の焼結体となった。即ち、以下の実施例1-1~1-3および比較例1-1~1-5の金粒子焼結体(以下、「金層」ともいう。)を得た。
【0054】
実施例1-1
上記乾燥膜を大気中で室温より10℃/minの速度で昇温し、260℃で30分間保持して、基板表面上に実施例1-1の金層を形成した。
実施例1-2
上記乾燥膜を大気中で室温より10℃/minの速度で昇温し、300℃で30分間保持して、基板表面上に実施例1-2の金層を形成した。
実施例1-3
上記乾燥膜を大気中で室温より10℃/minの速度で昇温し、400℃で30分間保持して、基板表面上に実施例1-3の金層を形成した。
【0055】
比較例1-1
上記乾燥膜を大気中で室温より10℃/minの速度で昇温し、240℃で30分間保持して、基板表面上に比較例1-1の金層を形成した。
比較例1-2
上記乾燥膜を大気中で室温より10℃/minの速度で昇温し、250℃で30分間保持して、基板表面上に比較例1-2の金層を形成した。
比較例1-3
上記乾燥膜を大気中で室温より10℃/minの速度で昇温し、500℃で30分間保持して、基板表面上に比較例1-3の金層を形成した。
比較例1-4
上記乾燥膜を大気中で室温より10℃/minの速度で昇温し、650℃で30分間保持して、基板表面上に比較例1-4の金層を形成した。
比較例1-5
上記乾燥膜を大気中で室温より10℃/minの速度で昇温し、800℃で30分間保持して、基板表面上に比較例1-5の金層を形成した。
【0056】
上記各実施例および比較例について、実施例1-1~1-3および比較例1-3~1-5では、熱処理後の金属層は、金色に輝いていた。即ち、金層の形成が確認された。なお、詳しくは後述するが、これらの断面構造をFE-SFM観察すると、金粒子が互いに焼結されていることが観察された(
図27,28参照。)。即ち、上記熱処理1によって、水金液に含まれる溶剤、樹脂などの有機化合物が除去されて、金層として金粒子焼結体が形成されたことが分かった。
一方、比較例1-1,1-2については、熱処理1後、基板表面上において金属層の形成は確認されたが、当該金属層(即ち、金層)は、黒くくすんでいた。これら比較例では、金層中の樹脂の除去が十分に進まず、金粒子の焼結が進まなかったと考えられる。
【0057】
(3)金層中の硫黄元素の解析
上記実施例1-1~1-3および比較例1-1~1-5で作製した金層について、蛍光X線分析装置(XRF:リガク製、ZSX PrimusII)を用いて、金層中の硫黄(S)元素の濃度を測定した。その結果を、
図3に示す。
図3に示されるように、熱処理1における温度が450℃以下である実施例1-1~1-3および比較例1-1,1-2の金層には、硫黄(S)元素(硫黄成分)が存在することが分かった。一方、450℃を超える熱処理を行った比較例1-3~1-5の金属層からは、硫黄(S)元素は検出されなかった。
このことから、熱処理1の温度が所定の温度より低く、かつ樹脂の大部分を除去でき金粒子の焼結が進む温度以上の場合は、硫黄成分を含む金層を形成し得ることが確認された。
【0058】
上記のように、基材の表面に、所定の有機金属化合物および硫黄成分を含む有機材料を塗布して、該有機材料が塗布された基材を所定の温度条件で熱処理すると、金属成分および硫黄成分を含む金属層を、該基材上に形成することができた。
【0059】
(5)金層の熱分解GC/MS解析
次いで、実施例1-2の金層について、熱分解GCMS装置(株式会社島津製作所製品、GCMS-QP2010 Ultra)を用いて、該金層に含まれる成分の分析を行った。
まず、実施例1-2の金層について、基材表面から金層を削り取り、その内の2.48mgを、ヘリウムガス雰囲気にて550℃で加熱して瞬間熱分解を行い、試料から発生したガス成分をGCMSで測定した。加熱炉はフロンティア・ラボ社製のEGA/PY-3030Dを用いた。カラムはRestek製のRtx5(登録商標) Amine[0.25mmφ×30m F.T:0.5μm]を用い、カラム温度は40℃から280℃まで10℃/minの速度で昇温し、280℃で保持した。質量分析装置のイオン化方式は、電子衝撃法(EI法)を用いた。
なお、GCMS装置の注入口温度、インターフェース温度、キャリアガス、イオン化法、走査質量範囲の条件は、以下のとおりである。
注入口温度: 280℃
インターフェース温度: 300℃
キャリアガス: ヘリウム 1.8 mL/min
イオン化法: EI 70 eV
走査質量範囲: m/z 10~600
【0060】
得られた熱分解GCMSスペクトルを
図4に示す。
図4で検出されたピークNo.1~19のMSスペクトルを取得し、これらについて、過去のライブラリデータを参照して該当する化合物を推定した。その結果を表1に示す。
【0061】
【0062】
上記化合物のうち、ピークNo.3は、MSスペクトルにおいて、分子量が64であること、過去のライブラリデータとの照合によって、二酸化硫黄(SO
2)であると推定された。なお、
図5に、ピークNo.3のMSスペクトル、
図6に二酸化硫黄(SO
2)のライブラリデータ(MSスペクトル)を示す。
ピークNo.12は、MSスペクトルにおいて、分子量が134であること、過去のライブラリデータとの照合によって、以下の化学式:
【化1】
に示されるベンゾチオフェンであると推定された。なお、
図7に、ピークNo.12のMSスペクトル、
図8にベンゾチオフェンのライブラリデータ(MSスペクトル)を示す。
ピークNo.14は、MSスペクトルにおいて、分子量が148であること、過去のライブラリデータとの照合によって、以下の化学式:
【化2】
に示される2-メチルベンゾチオフェンであると推定された。なお、
図9に、ピークNo.14のMSスペクトル、
図10に2-メチルベンゾチオフェンのライブラリデータ(MSスペクトル)を示す。
【0063】
<実施例2:接合体の製造>
実施例2では、基材、金属層、および貴金属焼結層を備える接合体を作製した。
(1)金微粒子の製造例
サンプル1:
塩化金酸四水和物(乾庄貴金属化工株式会社製品)20.5gにオクタノール(富士フィルム和光純薬株式会社製品)を50mL加え、得られた溶液を氷浴で冷却撹拌した。
次に、金の含有量に対して5モル当量となるn-オクチルアミン(富士フィルム和光純薬株式会社製品)を、発熱を抑えつつ少しずつ上記溶液に加えていき、塩化金酸-オクチルアミンの錯形成溶液を調製した。
この錯形成溶液を大気雰囲気において140℃のオイルバス中で撹拌しながら3時間加熱する還元処理を行い、金イオンを還元し、本実施例に係る金微粒子を合成した。
その後、反応液を自然冷却し、工業アルコール(甘糟化学産業製品)を加え、金微粒子を沈降させ、デカンテーションで上澄み液を除いた。この操作を3回繰り返した後、工業アルコールを加えて3000rpm、3分の遠心分離を2回以上(ここでは3回)行い、上澄みを除いた。そして、室温で12時間乾燥させることで貴金属微粒子からなる乾燥粉体材料を得た。
【0064】
サンプル2:
n-オクチルアミンの量を金の含有量に対して10モル当量とした以外は、サンプル1の製造時と同様の材料および操作により、貴金属微粒子からなる乾燥粉体材料を得た。
サンプル3:
n-オクチルアミンの量を金の含有量に対して25モル当量とした以外は、サンプル1の製造時と同様の材料および操作により、貴金属微粒子からなる乾燥粉体材料を得た。
【0065】
サンプル4:
塩化金酸-オクチルアミンの錯形成溶液に、金の含有量に対して50モル当量の純水を加えて加熱反応を行った以外は、サンプル1の製造時と同様の材料および操作により、貴金属微粒子からなる乾燥粉体材料を得た。
サンプル5:
n-オクチルアミンの代わりに、n-ブチルアミンを用いた以外は、サンプル1の製造時と同様の材料および操作により、貴金属微粒子からなる乾燥粉体材料を得た。
サンプル6:
n-オクチルアミンの代わりに、n-ヘキシルアミンを用いた以外は、サンプル1の製造時と同様の材料および操作により、貴金属微粒子からなる乾燥粉体材料を得た。
【0066】
(2)金微粒子分散液の製造
サンプル1-1:
サンプル1の粉体材料に、分散媒として環状アルコールであるメンタノールを加え、3時間以上静置した。その後、遠心分離することで溶媒置換を行った。
得られた湿潤粉末を、金微粒子の重量が全体量の80~90重量%となるように、メンタノールを加え、自転公転ミキサーによって混合分散させ、分散液(サンプル1-1)を調製した。
【0067】
サンプル2-1:
サンプル2の粉体材料を用いた以外は、サンプル1-1の製造時と同様の材料および操作により、分散液(サンプル2-1)を調製した。
サンプル2-2:
分散媒としてメンタノール/メントール(質量比80/20)混合アルコールを用いた以外は、サンプル2-1の製造時と同様の材料および操作により、分散液(サンプル2-2)を調製した。
サンプル2-3:
分散媒としてメンタノール/メントール(質量比50/50)混合アルコールを用いた以外は、サンプル2-1の製造時と同様の材料および操作により、分散液(サンプル2-3)を調製した。
サンプル2-4:
分散媒としてメンタノール/シクロペンタノール(質量比80/20)混合アルコールを用いた以外は、サンプル2-1の製造時と同様の材料および操作により、分散液(サンプル2-4)を調製した。
サンプル2-5:
分散媒としてメンタノール/シクロヘプタノール(質量比80/20)混合アルコールを用いた以外は、サンプル2-1の製造時と同様の材料および操作により、分散液(サンプル2-5)を調製した。
【0068】
サンプル3-1:
サンプル3の粉体材料を用いた以外は、サンプル1-1の製造時と同様の材料および操作により、分散液(サンプル3-1)を調製した。
サンプル4-1:
サンプル4の粉体材料を用いた以外は、サンプル1-1の製造時と同様の材料および操作により、分散液(サンプル4-1)を調製した。
サンプル5-1:
サンプル5の粉体材料を用いた以外は、サンプル1-1の製造時と同様の材料および操作により、分散液(サンプル5-1)を調製した。
サンプル6-1:
サンプル6の粉体材料を用いた以外は、サンプル1-1の製造時と同様の材料および操作により、分散液(サンプル6-1)を調製した。
【0069】
(3)金微粒子の形質特性
電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM:株式会社日立ハイテクノロジーズ製品、S-4700)を使用し、サンプル1~6の粉体材料中の金微粒子を観察した(
図11~16参照)。具体的には、10万倍の視野または5万倍の視野のうちから5枚の画像を無作為的に抽出し、40個ずつ独立した粒子の粒径を計測し、合計200個の粒子径から平均粒子径(DSEM)を算出した。結果を表2の該当欄に示した。
【0070】
また、サンプル1~6の粉体材料について、ゼータサイザーナノZS(Malvern Panalytical社製品)を使用し、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を分散媒として、超音波分散によって適度な濃度の試料を調製し、20℃でDLS測定を行い、一般的なキュムラント法に基づいてZ平均粒子径(DDLS)を算出した。ここで、DDLS/DSEMが2以下のものについては、凝集なしと判断した。結果を表2の該当欄に示した。
【0071】
【0072】
表2に示すように、各サンプルの粉体材料の金微粒子は、いずれもDDLS/DSEMが2以下であり、良好な分散性を有することが確認できた。さらに各サンプルにおいてはZ平均粒子径(DDLS)がいずれも150nm以下であり、電子部品の小型化や電極の薄層化に寄与する良好な粉体材料であることが確認できた。
また、表2の該当欄に示されるように、各実施例に係る粉体材料では、TG-DTAにおいて、アルキルアミン粒子に見られる200℃以上での大きな発熱ピーク(酸化に由来)が検出されなかった。このことは、各サンプルの金微粒子の表面に存在する有機物の分子は、金微粒子が合成される反応系においてアルキルアミンからイミン化合物(アルキルイミン:上記の構造式参照)に転換されており、反応系に添加したアミンが殆ど残存していないことを示している。
【0073】
(4)イミン化合物の検出
熱分解GCMS装置(株式会社島津製作所製品、GCMS-QP2010 Ultra)を用いて、各金微粒子乾燥粉体材料の分析を行った。
具体的には、金微粒子の乾燥粉約20mgを、300℃で18秒間加熱して熱分解を行い、試料から発生したガス成分をGCMSで測定した。カラムはフロンティア・ラボ製のUltra ALLOY±5(UA5-30M-0.25F)を用い、カラムオーブン温度は40℃から320℃まで10℃/minの速度で昇温し、320℃で32間分保持した。質量分析装置のイオン化方式は、電子衝撃法(EI法)を用いた。
サンプル1~6について得られた熱分解GCMSスペクトルを、それぞれ、
図17~22に示した。
また、サンプル1~4で検出されたイミン化合物Aのピーク(対応する熱分解GCMSスペクトル中のピーク■)のMSスペクトルを
図23に示した。さらに、サンプル5で検出されたイミン化合物Bのピーク(対応する熱分解GCMSスペクトル中のピーク■)のMSスペクトルを
図24に示した。さらに、サンプル6で検出されたイミン化合物Cのピーク(対応する熱分解GCMSスペクトル中のピーク■)のMSスペクトルを
図25に示した。
【0074】
同定された上記イミン化合物A、BおよびCは、それぞれ、以下のとおりであった。
・イミン化合物A
構造式: R0R1C=N-(CH2)-R2
で表わされるイミン化合物であって、R0が水素であり、R1およびR2はそれぞれCH3(CH2)6である。
・イミン化合物B
構造式: R0R1C=N-(CH2)-R2
で表わされるイミン化合物であって、R0が水素であり、R1およびR2はそれぞれCH3(CH2)2である。
・イミン化合物C
構造式: R0R1C=N-(CH2)-R2
で表わされるイミン化合物であって、R0が水素であり、R1およびR2はそれぞれCH3(CH2)4である。
【0075】
イミン化合物A、BおよびCが上記のように同定されたのは、次の解析ステップによるものである。
即ち、各スペクトルにみられるアミンのピーク(○)およびサンプル5のスペクトルにみられるイミン化合物Bのピーク(■)については、GCMSのライブラリ検索を実施して帰属を行った(
図26参照)。
一方、イミン化合物AおよびCはライブラリ上にデータがなかったため、以下の考察のもとで帰属した。
イミン化合物A、B、Cの各MSスペクトル(
図23~25参照)において、56(57)、70、84、98(99)、112といった低分子量側で検出されるフラグメント由来と考えられる値がほとんど変わらないことから、同様の骨格を有することが推察される。そのため、イミン化合物であるBと同様にAおよびCもイミン骨格を有する可能性が極めて高いことが分かる。
また、イミン化合物BのMSスペクトルの中で、分子量84が最も多く検出されていることから、以下の構造式に示す位置での開裂(フラグメント化)がメインであると考えられる。なお、構造式に付された数値は開裂後のフラグメントイオンの分子量に相当する。
【0076】
【0077】
したがって、同様の骨格を有すると考えられる化合物AとCも同様の位置での開裂がメインであると推定される。なお、化合物BのMSスペクトルにおいて、分子量57、70、99等は上記以外の位置の開裂でのフラグメントピーク由来、126が分子イオンピーク由来であると判断される。
以上の考察と、合成時に存在する成分から、化合物AとCの構造を推察した。まず、化合物Aについては以下の構造式に示すように、化合物Bと同様の位置での開裂に由来する分子量140が最も検出されていること、および、他の位置での開裂由来のフラグメントピークの分子量であると考えられる168、196等が検出されていること、分子イオンピークの分子量と考えられる238が検出されていることから構造を判断した。
【0078】
【0079】
次に、化合物Cについては、以下の構造式に示すように、化合物Bと同様の位置での開裂に由来する分子量112が最も検出されていること、および、他の位置での開裂由来のフラグメントピークの分子量であると考えられる140、168等が検出されていること、分子イオンピークの分子量と考えられる184が検出されていることから構造を判断した。
【0080】
【0081】
表2の該当欄にも示したように、上記各サンプルにおいてはいずれも金微粒子の表面に所望のイミン化合物(ここでは、アルキルイミン)が生成されていることが確認された。また、各実施例の熱分解GCMSスペクトルから明らかなように、アミン化合物の残存量と比べてイミン化合物の生成量が多いことが認められる(後述するA/I比参照)。
【0082】
次に、熱分解GCMSのスペクトルから解析ソフトを用いて各ピークの面積値を算出した。そして、イミン化合物およびアミン化合物それぞれの面積値(ピークが複数あるものは各ピーク面積の合計値)からアミン/イミン比(A/I比)を決定した。結果を表3に示した。
【0083】
【0084】
表3に示すように、上記各サンプルの金微粒子(粉体)については、A/I比は何れも1以下(具体的には0.6以下)であり、アミン化合物からイミン化合物への転換が高効率に行われていることが認められた。
【0085】
(5)金微粒子分散液の性能評価
先ず、ここで使用した各サンプルのペースト状分散液について、ざらつきがありマットな見た目のものおよび液と粒子が分離して成膜不可能であったものを×、ざらつきなく金属光沢のあるものを○として評価した。表4の該当欄に○×を示した。即ち、各サンプルのペースト状分散液は何れも○であった。
【0086】
各サンプルの分散液を材料にして金焼結層を形成し、性能評価を行った。
上記のとおり、金微粒子の重量が全体量の80~90重量%となるように調製された各サンプルのペースト状分散液をガラス基板に塗布した。具体的には、1cm×1cm×100μmのメタルマスク上に塗布した分散液をゴムスキージでスクイーズすることにより、所定形状に各分散液を塗膜した。その後、60℃で1時間乾燥させた後、250℃または300℃で30分間の熱処理(熱処理2)を施し、所定形状の金焼結層を形成した。
得られた金焼結層について、市販の抵抗率計であるロレスタGP(株式会社三菱ケミカルアナリテック製品 MCP-T610)を使用してシート抵抗値を測定した。また、膜厚の測定は、厚さ測定器(テスター産業株式会社製品 TH-102)を使用して実施した。体積抵抗率は、得られたシート抵抗値と膜厚との積として算出した。結果を表4に示した。
さらに、イオンミリング研磨面をFESEMにより観察した。具体的には、10000倍のFESEM観察画像(
図11~16参照)から、Media Cybernetics社製の画像解析ソフト「Image Pro」により黒色のボイド部分の面積を求め、緻密性(%)=1-(ボイドの面積/全体の面積)%として算出した。結果を表4の該当欄に示した。
【0087】
【0088】
表4に示す結果から明らかなように、好適なA/I比(表3参照)でイミン化合物を表面に備える上記各サンプルの金微粒子からなる焼結層(即ち、層状の焼結体)は、高い緻密性を有しており、結果、体積抵抗率が低く良好な導電性を有する導体膜が形成できることが確かめられた。また、250~300℃という低い熱処理温度で良好な貴金属焼結層が得られることも確かめられた。
【0089】
(6)接合体における金焼結層の形成
実施例2-1:
サンプル2の粉体材料に、分散媒として環状アルコールであるメンタノールを加え、3時間以上静置した。その後、遠心分離することで溶媒置換を行った。
得られた湿潤粉末を、金微粒子の重量が全体量の70~80重量%となるように、メンタノールを加え、自転公転ミキサーによって混合分散させ、分散液を調製した。
上記分散液を、実施例1-2の金層上に塗布した。具体的には、1cm×1cm×100μmのメタルマスク上に塗布した分散液をゴムスキージでスクイーズすることにより、所定形状に各分散液を塗膜した。その後、60℃で1時間乾燥させた後、大気中で10℃/minの速度で昇温し、250℃で30分間の熱処理(熱処理3)を施し、所定形状の金焼結層を形成した。このようにして実施例2-1の接合体を作製した。
【0090】
実施例2-2:
熱処理3における温度が300℃である以外は実施例2-1と同様にして金焼結層を形成し、実施例2-2の接合体を作製した。
実施例2-3:
上記実施例1(2)と同様にしてタングステン基板の表面に水金液を塗布し、該基板の表面上に乾燥膜を形成した。これを350℃で熱処理して、金層を形成した。この金層上に上記金微粒子分散液を塗膜した以外は実施例2-1と同様にして、実施例2-3の接合体を作製した。
実施例2-4:
実施例2-3で形成した金層上に上記金微粒子分散液を塗膜した以外は実施例2-2と同様にして、実施例2-4の接合体を作製した。
実施例2-5:
ガラス基板の表面上に、上記実施例1(2)と同様にして水金液を塗布し、該基板の表面上に乾燥膜を形成した。これを300℃で熱処理して、金層を形成した。この金層上に上記金微粒子分散液を塗膜した以外は実施例2-1と同様にして、実施例2-5の接合体を作製した。
【0091】
比較例2-1:
金属層が形成されていないタングステン基板に上記金微粒子分散液を直接塗膜した以外は実施例2-1と同様にして、比較例2-1の接合体を作製した。
比較例2-2:
上記実施例1(2)と同様にしてタングステン基板の表面に水金液を塗布し、これを500℃で熱処理して、金層を形成した。この金層上に上記金微粒子分散液を塗膜した以外は実施例2-1と同様にして、比較例2-2の接合体を作製した。
【0092】
(2)接合体の断面構造の観察
上記各実施例および比較例の接合体について、断面をイオンミリングで研磨し、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM:株式会社日立ハイテクノロジーズ製、S-8230)を用いて基材-金層界面(接合部)および金層-金焼結層界面(接合部)を観察した。
実施例2-2の接合体の界面観察画像を
図27,28に示す。
図27,28に示されるように、実施例2-2の接合体は、基材と、金層と、金焼結層が図における下方からこの順で上に積層された構造を有することが観察された。金層は、焼結された金粒子(即ち、金粒子焼結体)からなることが観察された。ここで該金層と金焼結層とを観察すると、金焼結層におけるボイドは、金層におけるボイドよりも小さく、数が少ないことがわかった。即ち、金焼結層の緻密性は、金層の緻密性よりも高いことが確認された。
具体的な図示は省略するが、各実施例および比較例2-2についても、
図27,28に示されるような積層構造が観察された。比較例2-1については、基材と、金焼結層が積層された構造が観察された。
【0093】
また、目視による観察下、基材-金層界面および金層-金焼結層界面における剥離の有無を観察した。その結果を表5に示す。
表5に示すように、比較例2-2は、金層-金焼結層界面における両層の密着性が低く、目視での観察によって、金焼結層について「剥離あり」と判断した。
【0094】
(3)金層の性能評価
上記各実施例および比較例の接合体について、基材(金層)に対する金焼結層の密着性(接合強度)を評価する試験を行った。
具体的には、各々の接合体の基材および金焼結層の表面にセロハンテープ(ニチバン株式会社製、CT-18)を指でよく押さえて貼り付けた後、基材の表面から、引張試験機を用いて90°の方向に引きはがした。この時、セロハンテープによる金焼結層の剥離の有無を目視で観察した。結果を表5の該当欄に示す。なお、比較例2-2については、上記のとおり目視観察下において金焼結層の剥離が観察されたため、剥離試験を実施しなかった。
【0095】
【0096】
表5に示されるように、各実施例については、剥離試験において、金焼結層および金層のいずれも剥離しなかった。一方、比較例2-1については、剥離試験において金焼結層が基材から剥離した。
【0097】
上記XRF分析から、熱処理1における温度が450℃以下であれば、金層には硫黄(S)元素が含まれることが確認されている。そのため、熱処理1において450℃以下の温度で金層を作製した実施例2-1~2-5は、その金層中に硫黄(S)元素が含まれる。
実施例2-1~2-5については、金焼結層を作製するためのペースト材料を金層表面に塗布し、熱処理すると(熱処理3)、該ペースト材料中の金微粒子が、金微粒子どうしの焼結よりも早期に金層に含まれる硫黄成分と相互作用し得る。そうすると、金微粒子と金層中の金属成分(ここでは、金成分)との反応・焼結が促進され得る。これによって、金焼結層と金層との密着性(即ち、接合強度)が向上されたと考えられる。
一方、比較例2-2は熱処理1において450℃を超える温度で金層を作製していることから、当該金層中には硫黄(S)元素が含まれないと考えられる。そのため、上記ペースト材料中の金微粒子と金層との反応性および焼結性はいずれも向上されていない。熱処理3においては、当該金微粒子は金微粒子どうしで早期に焼結することから、金焼結層と金層との密着性(即ち、接合強度)が低く、上記剥離試験によっても剥離が確認されたと考えられる。
【0098】
このように、ここで開示される金属粒子焼結体および接合体によると、貴金属焼結層(焼結体)と基材との接合強度が顕著に向上した接合体を提供することができる。そして、ここで開示される接合体を種々の用途に利用することができる。
【符号の説明】
【0099】
10 金属層(金属粒子焼結体)
20 貴金属焼結層
30 基材
100 接合体
Z 方向