(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】モノリス状有機多孔質アニオン交換体のイオン形変更方法およびモノリス状有機多孔質アニオン交換体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 47/016 20170101AFI20240423BHJP
B01J 41/05 20170101ALI20240423BHJP
B01J 41/12 20170101ALI20240423BHJP
C08J 5/20 20060101ALI20240423BHJP
C08J 9/28 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
B01J47/016
B01J41/05
B01J41/12
C08J5/20 CET
C08J9/28
(21)【出願番号】P 2020097856
(22)【出願日】2020-06-04
【審査請求日】2023-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】蔦野 恭平
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-234379(JP,A)
【文献】特開2003-230840(JP,A)
【文献】特開昭64-066598(JP,A)
【文献】特開2000-272908(JP,A)
【文献】特開2000-009703(JP,A)
【文献】特開2009-067982(JP,A)
【文献】特開2009-108294(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J39/00-49/90
C02F1/42
C08J5/00-02、12-22、9/00-42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超純水中または薬液中のアニオン性不純物の分析に使用する
モノリス状有機多孔質アニオン交換体のイオン形を変更するために、
前記
モノリス状有機多孔質アニオン交換体と第四級アンモニウム水酸化物の水溶液とを
、前記モノリス状有機多孔質アニオン交換体に対し、前記第四級アンモニウム水酸化物の水溶液を、液空間速度SVが300~4000h
-1
となるように通液して接触させる
ことを特徴とする
モノリス状有機多孔質アニオン交換体のイオン形変更方法。
【請求項2】
前記第四級アンモニウム水酸化物が、下記一般式(I)
【化1】
(式中、R
1~R
4は、各々水酸基を有していてもよい炭素数1~4の炭化水素基であり、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
で表される化合物から選ばれる一種以上である請求項1に記載の
モノリス状有機多孔質アニオン交換体のイオン形変更方法。
【請求項3】
前記第四級アンモニウム水酸化物の水溶液中における第四級アンモニウム水酸化物の濃度が0.1~2.0Nである請求項1または請求項2に記載の
モノリス状有機多孔質アニオン交換体のイオン形変更方法。
【請求項4】
前記
モノリス状有機多孔質アニオン交換体を、鉱酸と接触し、次いで水で洗浄した後に前記第四級アンモニウム水酸化物の水溶液と接触させる請求項1~請求項3のいずれかに記載の
モノリス状有機多孔質アニオン交換体のイオン形変更方法。
【請求項5】
前記
モノリス状有機多孔質アニオン交換体を、鉱酸と接触し、次いで水で洗浄した後、さらに塩酸と接触し、次いで水で洗浄した上で、前記第四級アンモニウム水酸化物の水溶液と接触させる請求項1~請求項4のいずれかに記載の
モノリス状有機多孔質アニオン交換体のイオン形変更方法
。
【請求項6】
前記モノリス状有機多孔質アニオン交換体が、全構成単位中、架橋構造単位を0.1~5.0モル%含有する芳香族ビニルポリマーからなる平均太さが乾燥状態で1~60μmの三次元的に連続した骨格と、その骨格間に平均直径が乾燥状態で10~200μmの三次元的に連続した空孔とからなる共連続構造体であって、乾燥状態での全細孔容積が0.5~10mL/gであり、アニオン交換基を有しており、水湿潤状態での体積当りのアニオン交換容量が、0.2~1.0mg当量/mL(水湿潤状態)であり、アニオン交換基が有機多孔質アニオン交換体中に均一に分布しているモノリス状有機多孔質アニオン交換体である請求項
1に記載の
モノリス状有機多孔質アニオン交換体のイオン形変更方法
。
【請求項7】
超純水中または薬液中のアニオン性不純物の分析に使用する
モノリス状有機多孔質アニオン交換体の製造時にイオン形を変更するために、
前記
モノリス状有機多孔質アニオン交換体と第四級アンモニウム水酸化物の水溶液とを
、前記モノリス状有機多孔質アニオン交換体に対し、前記第四級アンモニウム水酸化物の水溶液を、液空間速度SVが300~4000h
-1
となるように通液して接触させる
ことを特徴とする
モノリス状有機多孔質アニオン交換体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アニオン交換体のイオン形を変更する方法およびアニオン交換体を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセスや医薬品製造プロセスでは、イオン性不純物の含有量が極めて低い超純水が用いられている。そのため、半導体製造プロセスや医薬品製造プロセスに用いられる超純水の製造においては、最終的に製造される超純水、又は超純水製造工程の工程水に微量に含有されているイオン性不純物の含有量を把握することが重要である。
【0003】
半導体製造プロセスで用いられる超純水は、サブシステムと呼ばれる精製設備において高純度化されるが、サブシステムから半導体製造処理が行われる各ユースポイント(ウェットステーション)への送液中に、配管やバルブ等から金属成分等の不純物が溶出する場合がある。また、各種アルコールやエーテル等の薬液に関しても、薬液貯蔵タンクや送液配管から金属成分等の不純物が溶出する場合がある。
上記金属成分は、種類や形態は定かではないが、イオンの他、凝集状態や分散状態の微粒子の形態で存在すると考えられる。
【0004】
水中のイオン性不純物濃度の測定方法としては、イオン交換機能を有する多孔性膜、イオン交換樹脂等のイオン交換体に、分析対象水を通液し、捕捉されたイオン性不純物を、溶離液により溶離し、回収した溶離液中のイオン性不純物濃度を測定する方法(濃縮法)がある。例えば、特許文献1(特開平5-45351号公報)には、イオン交換機能を有する多孔性膜を用いた濃縮法の分析方法が開示されている。
【0005】
また、出願人は、先に、モノリス状有機多孔質アニオン交換体を用いて超純水中の金属不純物を捕捉し、捕捉した金属不純物を溶離、回収して金属不純物の含有量を測定する方法を提案するに至っている(国際出願番号PCT/JP2019/019347参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、超純水中または薬液中に含まれるイオン性不純物等の含有量を分析するためにアニオン交換体を利用することが提案されるようになっており、上記分析に適したアニオン交換体を調製したり、上記分析に使用したアニオン交換体を使用後に再生して再度使用することが求められるようになっている。
【0008】
陰イオン交換基として四級アンモニウム基やアミノ基を有するアニオン交換体において、そのイオン形(陰イオン交換基のカウンターイオンの形態)は、不純物元素の捕捉性能を高める上でOH形であることが望まれるため、アニオン交換体の調製時にイオン形をOH形にしたりアニオン交換体のイオン形の再生時にイオン形をOH形に再生することが求められる。
アニオン交換体のイオン形をOH形に変更するためには、通常、(1)酸処理、(2)水処理、(3)塩酸処理、(4)水処理、(5)炭酸塩または重炭酸塩処理、(6)水処理および(7)水酸化ナトリウム処理の順で処理することが行われている。
すなわち、アニオン交換体の酸洗浄を行った後、陰イオン交換基のカウンターイオンを、順次、塩化物イオンおよび炭酸イオンとした後に水酸化物イオンにする処理が行われており、係る順番で処理することにより、イオン形を高い割合でOH形に変更することができるとされている。
【0009】
しかしながら、上記イオン形変更方法は、処理工程数が多く、処理時間が長くなったり処理に手間を要することから、より簡便かつ短時間にイオン形をOH形に変更する方法が求められるようになっていた。
また、上記イオン形の変更方法は、上記「(5)炭酸塩または重炭酸塩処理」時に炭酸塩または重炭酸塩中に不純物として混入する各種金属がアニオン交換体中に残存したり、上記「(7)水酸化ナトリウム処理」時にナトリウムがアニオン交換体中に残存し、バックグラウンド濃度が高くなるために、得られたアニオン交換体を用いて分析する際に(分析可能な濃度まで濃縮する必要が生じて)通水量が多くなり分析時間が長時間化してしまう。このため、上記「(7)水酸化ナトリウム」処理後にさらに長時間水処理して予めアニオン交換体中に残存する不純物を除去する等の対応が必要であった。
【0010】
このような状況下、本発明は、各種金属の残存を抑制しつつ、アニオン交換体のイオン形を簡便かつ短時間に高い割合で変更する方法およびアニオン交換体の製造方法を提供することを目的とするものである。
【0011】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、超純水中のアニオン性不純物の分析に使用するアニオン交換体のイオン形を変更するために、前記アニオン交換体と第四級アンモニウム水酸化物の水溶液とを接触させることにより、上記技術課題を解決し得ることを見出し、本知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、
(1)超純水中または薬液中のアニオン性不純物の分析に使用するアニオン交換体のイオン形を変更するために、前記アニオン交換体と第四級アンモニウム水酸化物の水溶液とを接触させることを特徴とするアニオン交換体のイオン形変更方法、
(2)前記第四級アンモニウム水酸化物が、下記一般式(I)
【化1】
(式中、R
1~R
4は、各々水酸基を有していてもよい炭素数1~4の炭化水素基であり、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
で表される化合物から選ばれる一種以上である上記(1)に記載のアニオン交換体のイオン形変更方法、
(3)前記第四級アンモニウム水酸化物の水溶液中における第四級アンモニウム水酸化物の濃度が0.1~2.0Nである上記(1)または(2)に記載のアニオン交換体のイオン形変更方法、
(4)前記アニオン交換体を、鉱酸と接触し、次いで水で洗浄した後に前記第四級アンモニウム水酸化物の水溶液と接触させる上記(1)~(3)のいずれかに記載のアニオン交換体のイオン形変更方法、
(5)前記アニオン交換体を、鉱酸と接触し、次いで水で洗浄した後、さらに塩酸と接触し、次いで水で洗浄した上で、前記第四級アンモニウム水酸化物の水溶液と接触させる上記(1)~(4)のいずれかに記載のアニオン交換体のイオン形変更方法、
(6)前記アニオン交換体がモノリス状有機多孔質アニオン交換体である上記(1)~(5)のいずれかに記載のアニオン交換体のイオン形変更方法、
(7)前記モノリス状有機多孔質アニオン交換体が、全構成単位中、架橋構造単位を0.1~5.0モル%含有する芳香族ビニルポリマーからなる平均太さが乾燥状態で1~60μmの三次元的に連続した骨格と、その骨格間に平均直径が乾燥状態で10~200μmの三次元的に連続した空孔とからなる共連続構造体であって、乾燥状態での全細孔容積が0.5~10mL/gであり、アニオン交換基を有しており、水湿潤状態での体積当りのアニオン交換容量が、0.2~1.0mg当量/mL(水湿潤状態)であり、アニオン交換基が有機多孔質アニオン交換体中に均一に分布しているモノリス状有機多孔質アニオン交換体である上記(6)に記載のアニオン交換体のイオン形変更方法、
(8)前記アニオン交換体に対し、第四級アンモニウム水酸化物の水溶液を、液空間速度SVが20000h
-1以下となるように通液する上記(6)または(7)に記載のアニオン交換体のイオン形変更方法、
(9)超純水中または薬液中のアニオン性不純物の分析に使用するアニオン交換体の製造時にイオン形を変更するために、前記アニオン交換体と第四級アンモニウム水酸化物の水溶液とを接触させることを特徴とするアニオン交換体の製造方法
を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、本発明は、各種金属の残存を抑制しつつ、アニオン交換体のイオン形を簡便かつ短時間に高い割合で変更する方法およびアニオン交換体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】モノリス状有機多孔質アニオン交換体の形態例のSEM写真である。
【
図2】モノリス状有機多孔質アニオン交換体の共連続構造の模式図である。
【
図3】モノリス状有機多孔質中間体の形態例のSEM写真である。
【
図4】本発明におけるアニオン交換体と第四級アンモニウム水酸化物の水溶液との接触形態例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
先ず、本発明に係るアニオン交換体のイオン形変更方法について説明する。
本発明に係るアニオン交換体のイオン形変更方法は、超純水中または薬液中のアニオン性不純物の分析に使用するアニオン交換体のイオン形を変更するために、前記アニオン交換体と第四級アンモニウム水酸化物の水溶液とを接触させることを特徴とするものである。
【0016】
本発明においてイオン形の変更対象となるアニオン交換体は、超純水中または薬液中のアニオン性不純物の分析に使用されるものである。
上記薬液としては、特に制限されないが、水酸化テトラメチルアンモニウム、フッ化アンモニウム、アセトン、2-ブタノン、酢酸-n-ブチル、エタノール、メタノール、2-プロパノール、トルエン、キシレン、酢酸プロピレングリコールメチルエーテル、N-メチル-2-ピロリジノン、乳酸エチル、フェノール化合物、ジメチルスルホキシド、テトラヒドラフラン、γ-ブチルラクトン、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(PGMEA)等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0017】
<アニオン交換体>
本発明において、アニオン交換体とは陰イオン交換能を有するイオン交換体を意味し、アニオン交換体としては、モノリス状有機多孔質アニオン交換体、アニオン交換樹脂(陰イオン交換樹脂)等から選択することができ、モノリス状有機多孔質アニオン交換体であることが好ましい。
【0018】
<モノリス状有機多孔質アニオン交換体>
本発明において、アニオン交換体がモノリス状有機多孔質アニオン交換体である場合、モノリス状有機多孔質アニオン交換体としては特に限定されない。
【0019】
モノリス状有機多孔質アニオン交換体は、モノリス状有機多孔質体にアニオン交換基が導入されている多孔質体である。モノリス状有機多孔質アニオン交換体に係るモノリス状有機多孔質体は、骨格が有機ポリマーにより形成されており、骨格間に反応液の流路となる連通孔を多数有する多孔質体である。そして、モノリス状有機多孔質アニオン交換体は、このモノリス状有機多孔質体の骨格中にアニオン交換基が均一に分布するように導入されている多孔質体である。
なお、本明細書中、「モノリス状有機多孔質体」を単に「モノリス」と、「モノリス状有機多孔質アニオン交換体」を単に「モノリスアニオン交換体」とも称し、「モノリス状有機多孔質カチオン交換体」を単に「モノリスカチオン交換体」とも称し、また、モノリスの製造時における中間体(モノリスの前駆体)である「モノリス状有機多孔質中間体」を単に「モノリス中間体」とも称する。
【0020】
本発明において、モノリスアニオン交換体は、モノリスにアニオン交換基を導入することで得られるものであり、その構造は、連続骨格相と連続空孔相からなる有機多孔質体であって、連続骨格の厚みは1~100μm、連続空孔の平均直径は1~1000μm、全細孔容積は0.5~50mL/gであるものが好ましい。
【0021】
モノリスアニオン交換体の連続骨格の厚みが1μm未満であると、体積当りのアニオン交換容量が低下するといった欠点のほか、機械的強度が低下して、特に高流速で通液した際にモノリスアニオン交換体が大きく変形し易くなったり、反応液とモノリスアニオン交換体との接触効率が低下し、触媒活性が低下し易くなるため好ましくない。
一方、モノリスアニオン交換体の連続骨格の厚みが100μmを越えると、骨格が太くなり過ぎ、基質の拡散に時間を要するようになって触媒活性が低下し易くなるため好ましくない。
なお、上記連続骨格の厚みは、SEM観察により決定される。
【0022】
モノリスアニオン交換体の連続空孔の平均直径が1μm未満であると、通水時の圧力損失が高くなり易い。モノリスアニオン交換体の連続空孔の平均直径が1000μmを超えると、被処理液とモノリスアニオン交換体との接触が不十分となり、除去性能が低下し易くなる。
なお、モノリスアニオン交換体の乾燥状態での連続空孔の平均直径は、水銀圧入法により測定され、水銀圧入法により得られた細孔分布曲線の極大値を指す。
【0023】
モノリスアニオン交換体の全細孔容積が0.5mL/g未満であると、被処理液の接触効率が低くなり易く、単位断面積当りの透過液量が小さくなり、処理量が低下し易くなる。モノリスアニオン交換体の全細孔容積が50mL/gを超えると、体積当りのアニオン交換容量が低下し、除去性能が低下し易くなるとともに、機械的強度が低下して、特に高速で通液した際にモノリスアニオン交換体が大きく変形し、通液時の圧力損失が急上昇し易くなる。
なお、全細孔容積は、水銀圧入法で測定される。
【0024】
このようなモノリスアニオン交換体の構造例としては、特開2002-306976号公報や特開2009-62512号公報に開示されている連続気泡構造や、特開2009-67982号公報に開示されている共連続構造や、特開2009-7550号公報に開示されている粒子凝集型構造や、特開2009-108294号公報に開示されている粒子複合型構造等が挙げられる。
【0025】
モノリスアニオン交換体の水湿潤状態での体積当りのアニオン交換容量は、0.1~1.0mg当量/mL(水湿潤状態)であるものが好ましい。
モノリスアニオン交換体の乾燥状態でのアニオン交換容量が0.1mg当量/mL未満であると、破過するまでに処理する処理水量が少なくなってモノリスアニオン交換体を充填したモジュールの交換頻度が高くなり易く、また、上記モノリスアニオン交換体の乾燥状態でのアニオン交換容量が1.0mg当量/mLを超えると、通水時の圧力損失が増大し易くなる。
なお、アニオン交換基が骨格表面のみに導入された多孔質体のアニオン交換容量は、多孔質体やアニオン交換基の種類により一概には決定できないものの、せいぜい500μg当量/gである。
【0026】
モノリスアニオン交換体に導入されているアニオン交換基は、モノリスの表面のみならず、モノリスの骨格内部にまで均一に分布している。ここで言う「アニオン交換基が均一に分布している」とは、アニオン交換基の分布が少なくともμmオーダーで表面および骨格内部に均一に分布していることを指す。アニオン交換基の分布状況は、EPMAを用いることで簡単に確認される。また、アニオン交換基が、モノリスの表面のみならず、モノリスの骨格内部にまで均一に分布していると、表面と内部の物理的性質及び化学的性質を均一にできるため、膨潤及び収縮に対する耐久性が向上し易くなる。
【0027】
モノリスアニオン交換体に導入されているアニオン交換基としては、トリメチルアンモニウム基、トリエチルアンモニウム基、トリブチルアンモニウム基、ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム基、ジメチルヒドロキシプロピルアンモニウム基、メチルジヒドロキシエチルアンモニウム基等の四級アンモニウム基や、第三スルホニウム基、ホスホニウム基等が挙げられる。
【0028】
モノリスアニオン交換体において、連続骨格を構成する材料は、通常、架橋構造を有する有機ポリマー材料である。
ポリマー材料の架橋密度は特に限定されないが、ポリマー材料を構成する全構成単位に対して、0.1~30モル%、好適には0.1~20モル%の架橋構造単位を含んでいることが好ましい。
架橋構造単位が0.1モル%未満であると、機械的強度が不足するため好ましくなく、一方、架橋構造単位が30モル%を越えると、アニオン交換基の導入が困難になる場合があるため好ましくない。該ポリマー材料の種類に特に制限はなく、例えば、ポリスチレン、ポリ(α-メチルスチレン)、ポリビニルトルエン、ポリビニルベンジルクロライド、ポリビニルビフェニル、ポリビニルナフタレン等の芳香族ビニルポリマー;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン等のポリ(ハロゲン化ポリオレフィン);ポリアクリロニトリル等のニトリル系ポリマー;ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸グリシジル、ポリアクリル酸エチル等の(メタ)アクリル系ポリマー等の架橋重合体が挙げられる。上記ポリマーは、単独のビニルモノマーと架橋剤を共重合させて得られるポリマーでも、複数のビニルモノマーと架橋剤を重合させて得られるポリマーであってもよく、また、二種類以上のポリマーがブレンドされたものであってもよい。これら有機ポリマー材料の中で、連続構造形成の容易さ、アニオン交換基導入の容易性と機械的強度の高さ、および酸又はアルカリに対する安定性の高さから、芳香族ビニルポリマーの架橋重合体が好ましく、特に、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体やビニルベンジルクロライド-ジビニルベンゼン共重合体が好ましい材料として挙げられる。
【0029】
<モノリス状有機多孔質アニオン交換体の形態例>
モノリス状有機多孔質アニオン交換体の形態例(以下、適宜、モノリスアニオン交換体aと称する)としては、全構成単位中、架橋構造単位を0.1~5.0モル%含有する芳香族ビニルポリマーからなる平均太さが乾燥状態で1~60μmの三次元的に連続した骨格と、その骨格間に平均直径が乾燥状態で10~200μmの三次元的に連続した空孔とからなる共連続構造体であって、乾燥状態での全細孔容積が0.5~10mL/gであり、アニオン交換基を有しており、水湿潤状態での体積当りのアニオン交換容量が、0.2~1.0mg当量/mL(水湿潤状態)であり、アニオン交換基が有機多孔質アニオン交換体中に均一に分布しているモノリスアニオン交換体が好ましい。
また、モノリスアニオン交換体aを構成する(アニオン交換基が導入される前の)モノリス(以下、適宜、モノリスaと称する)は、全構成単位中、架橋構造単位を0.1~5.0モル%含有する芳香族ビニルポリマーからなる平均太さが乾燥状態で1~60μmの三次元的に連続した骨格と、その骨格間に平均直径が乾燥状態で10~200μmの三次元的に連続した空孔とからなる共連続構造体であって、乾燥状態での全細孔容積が0.5~10mL/gである有機多孔質体であることが好ましい。
【0030】
モノリスアニオン交換体aは、平均太さが乾燥状態で1~60μm、好ましくは3~58μmの三次元的に連続した骨格と、その骨格間に平均直径が乾燥状態で10~200μm、好ましくは15~180μm、特に好ましくは20~150μmの三次元的に連続した空孔とからなる共連続構造体である。
図1には、モノリスアニオン交換体aの形態例のSEM写真を示し、
図2には、モノリスアニオン交換体aの共連続構造の模式図を示す。共連続構造は
図2の模式図に示すように、連続する骨格相1と連続する空孔相2とが絡み合ってそれぞれが共に三次元的に連続する構造10である。この連続した空孔2は、従来の連続気泡型モノリスや粒子凝集型モノリスに比べて空孔の連続性が高くてその大きさに偏りがない。また、骨格が太いため機械的強度が高い。
【0031】
三次元的に連続した空孔の平均直径が乾燥状態で10μm未満であると、被処理液が拡散し難くなるため好ましくなく、200μmを超えると、被処理液とモノリスアニオン交換体aとの接触が不十分となり、その結果、除去性能が不十分となるため好ましくない。また、骨格の平均太さが乾燥状態で1μm未満であると、アニオン交換容量が低くなるため、また、機械的強度が低くなるため好ましくない。更に、反応液とモノリスアニオン交換体aとの接触効率が低下し、除去性能が低下するため好ましくない。一方、骨格の太さが60μmを越えると、骨格が太くなり過ぎ、被処理液の拡散が不均一になるため好ましくない。
【0032】
乾燥状態のモノリスaの開口の平均直径、乾燥状態のモノリスアニオン交換体aの開口の平均直径及び以下に述べるモノリスaの製造のI工程で得られる、乾燥状態のモノリス中間体(以下、適宜、モノリス中間体aと称する)の開口の平均直径は、水銀圧入法により求められ、水銀圧入法により得られた細孔分布曲線の極大値を指す。また、モノリスアニオン交換体aの骨格の乾燥状態での平均太さは、乾燥状態のモノリスアニオン交換体aのSEM観察により求められる。具体的には、乾燥状態のモノリスアニオン交換体aのSEM観察を少なくとも3回行い、得られた画像中の骨格の太さを測定し、それらの平均値を平均太さとする。なお、骨格は棒状であり円形断面形状であるが、楕円断面形状等異径断面のものが含まれていてもよい。この場合の太さは短径と長径の平均である。
【0033】
また、モノリスアニオン交換体aの乾燥状態での重量当りの全細孔容積は、0.5~10mL/gである。全細孔容積が0.5mL/g未満であると、基質や溶媒の接触効率が低くなるため好ましくなく、更に、単位断面積当りの透過量が小さくなり、処理量が低下してしまうため好ましくない。一方、全細孔容積が10ml/gを超えると、被処理液とモノリスアニオン交換体との接触効率が低下するため、除去性能が低下してしまうため好ましくない。三次元的に連続した空孔の大きさ及び全細孔容積が上記範囲にあれば、被処理液との接触が極めて均一で接触面積も大きくなる。
【0034】
モノリスアニオン交換体aにおいて、骨格を構成する材料は、全構成単位中、0.1~5.0モル%、好ましくは0.5~3.0モル%の架橋構造単位を含んでいる芳香族ビニルポリマーであり疎水性である。架橋構造単位が0.1モル%未満であると、機械的強度が不足するため好ましくなく、一方、架橋構造単位が5モル%を越えると、多孔質体の構造が共連続構造から逸脱しやすくなる。芳香族ビニルポリマーの種類に特に制限はなく、例えば、ポリスチレン、ポリ(α-メチルスチレン)、ポリビニルトルエン、ポリビニルベンジルクロライド、ポリビニルビフェニル、ポリビニルナフタレン等が挙げられる。上記ポリマーは、単独のビニルモノマーと架橋剤を共重合させて得られるポリマーでも、複数のビニルモノマーと架橋剤を重合させて得られるポリマーであってもよく、また、二種類以上のポリマーがブレンドされたものであってもよい。これら有機ポリマー材料の中で、共連続構造形成の容易さ、アニオン交換基導入の容易性と機械的強度の高さ、および酸又はアルカリに対する安定性の高さから、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体やビニルベンジルクロライド-ジビニルベンゼン共重合体が好ましい。
【0035】
モノリスアニオン交換体aに導入されているアニオン交換基(陰イオン交換基)としては、トリメチルアンモニウム基、トリエチルアンモニウム基、トリブチルアンモニウム基、ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム基、ジメチルヒドロキシプロピルアンモニウム基、メチルジヒドロキシエチルアンモニウム基等の四級アンモニウム基や、第三スルホニウム基、ホスホニウム基等から選ばれる一種以上が挙げられる。
【0036】
モノリスアニオン交換体aに導入されたアニオン交換基は、多孔質体の表面のみならず、多孔質体の骨格内部にまで均一に分布している。
【0037】
モノリスアニオン交換体aは、水湿潤状態での体積当り、0.2~1.0mg当量/mL(水湿潤状態)のアニオン交換容量を有する。モノリスアニオン交換体aは、三次元的に連続した空孔の連続性や均一性が高いため、基質や溶媒が均一に拡散する。そのため、反応の進行が速い。アニオン交換容量が上記範囲にあることにより、除去性能が高く且つ寿命が長くなる。
【0038】
<モノリスa及びモノリスアニオン交換体aの製造方法>
モノリスaは、イオン交換基を含まない油溶性モノマー、界面活性剤及び水の混合物を撹拌することにより油中水滴型エマルジョンを調製し、次いで油中水滴型エマルジョンを重合させて全細孔容積が16mL/gを超え、30mL/g以下の連続マクロポア構造のモノリス状の有機多孔質中間体(モノリス中間体a)を得るI工程、芳香族ビニルモノマー、一分子中に少なくとも2個以上のビニル基を有する全油溶性モノマー中、0.3~5モル%の架橋剤、芳香族ビニルモノマーや架橋剤は溶解するが芳香族ビニルモノマーが重合して生成するポリマーは溶解しない有機溶媒及び重合開始剤からなる混合物を調製するII工程、II工程で得られた混合物を静置下、かつI工程で得られたモノリス中間体aの存在下に重合を行い、共連続構造体である有機多孔質体であるモノリスaを得るIII工程、を行うことにより得られる。
【0039】
上記モノリスaの製造方法において、モノリス中間体aを得るI工程は、特開2002-306976号公報記載の方法に準拠して行えばよい。
【0040】
すなわち、モノリスaの製造方法に係るI工程において、イオン交換基を含まない油溶性モノマーとしては、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基、三級アミノ基、四級アンモニウム基等のイオン交換基を含まず、水に対する溶解性が低く、親油性のモノマーが挙げられる。これらモノマーの具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルベンジルクロライド、ビニルビフェニル、ビニルナフタレン等の芳香族ビニルモノマー;エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブテン等のα-オレフィン;ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等のジエン系モノマー;塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン、テトラフルオロエチレン等のハロゲン化オレフィン;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル系モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸グリシジル等の(メタ)アクリル系モノマーが挙げられる。これらモノマーの中で、好適なものとしては、芳香族ビニルモノマーであり、例えばスチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルベンジルクロライド、ジビニルベンゼン等が挙げられる。これらモノマーは、一種単独又は二種以上を組み合わせて使用することができる。ただし、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート等の架橋性モノマーを少なくとも油溶性モノマーの一成分として選択し、その含有量を全油溶性モノマー中、0.3~5モル%、好ましくは0.3~3モル%とすることが、共連続構造の形成に有利となるため好ましい。
【0041】
モノリスaの製造方法に係るI工程で用いられる界面活性剤は、アニオン交換基を含まない油溶性モノマーと水とを混合した際に、油中水滴型(W/O)エマルジョンを形成できるものであれば特に制限はなく、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート等の非イオン界面活性剤;オレイン酸カリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム等の陰イオン界面活性剤;ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド等の陽イオン界面活性剤;ラウリルジメチルベタイン等の両性界面活性剤を用いることができる。これら界面活性剤は一種単独又は二種類以上を組み合わせて使用することができる。なお、油中水滴型エマルジョンとは、油相が連続相となり、その中に水滴が分散しているエマルジョンを言う。上記界面活性剤の添加量としては、油溶性モノマーの種類および目的とするエマルジョン粒子(マクロポア)の大きさによって大幅に変動するため一概には言えないが、油溶性モノマーと界面活性剤の合計量に対して約2~70%の範囲で選択することができる。
【0042】
また、モノリスaの製造方法に係るI工程では、油中水滴型エマルジョン形成の際、必要に応じて重合開始剤を使用してもよい。重合開始剤は、熱又は光照射によりラジカルを発生する化合物が好適に用いられる。重合開始剤は水溶性であっても油溶性であってもよく、例えば、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビスイソ酪酸ジメチル、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、テトラメチルチウラムジスルフィド、過酸化水素-塩化第一鉄、過硫酸ナトリウム-酸性亜硫酸ナトリウム等が挙げられる。
【0043】
モノリスaの製造方法に係るI工程において、イオン交換基を含まない油溶性モノマー、界面活性剤、水及び重合開始剤とを混合し、油中水滴型エマルジョンを形成させる際の混合方法としては、特に制限はなく、各成分を一括して一度に混合する方法、油溶性モノマー、界面活性剤及び油溶性重合開始剤である油溶性成分と、水や水溶性重合開始剤である水溶性成分とを別々に均一溶解させた後、それぞれの成分を混合する方法などが使用できる。エマルジョンを形成させるための混合装置についても特に制限はなく、通常のミキサーやホモジナイザー、高圧ホモジナイザー等を用いることができ、目的のエマルジョン粒径を得るのに適切な装置を選択すればよい。また、混合条件についても特に制限はなく、目的のエマルジョン粒径を得ることができる攪拌回転数や攪拌時間を、任意に設定することができる。
【0044】
モノリスaの製造方法に係るI工程で得られるモノリス中間体aは、架橋構造を有する有機ポリマー材料、好適には芳香族ビニルポリマーである。該ポリマー材料の架橋密度は特に限定されないが、ポリマー材料を構成する全構成単位に対して、0.1~5モル%、好ましくは0.3~3モル%の架橋構造単位を含んでいることが好ましい。架橋構造単位が0.3モル%未満であると、機械的強度が不足するため好ましくない。一方、架橋構造単位が5モル%を超えると、得られるモノリスの構造が共連続構造を逸脱し易くなるため好ましくない。特に、全細孔容積が16~20ml/gの場合には、共連続構造を形成させるため、架橋構造単位は3モル%未満とすることが好ましい。
【0045】
モノリスaの製造方法に係るI工程において、モノリス中間体aのポリマー材料の種類は、特に制限されず、各種有機ポリマー、例えば、ポリスチレン、ポリ(α-メチルスチレン)、ポリビニルトルエン、ポリビニルベンジルクロライド、ポリビニルビフェニル、ポリビニルナフタレン等の芳香族ビニルポリマー;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン等のポリ(ハロゲン化ポリオレフィン);ポリアクリロニトリル等のニトリル系ポリマー;ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸グリシジル、ポリアクリル酸エチル等の(メタ)アクリル系ポリマー等の架橋重合体が挙げられる。
上記有機ポリマーは、単独のビニルモノマーと架橋剤を共重合させて得られるポリマーでも、複数のビニルモノマーと架橋剤を重合させて得られるポリマーであってもよく、また、二種類以上のポリマーがブレンドされたものであってもよい。これら有機ポリマー材料の中で、連続マクロポア構造形成の容易さ、アニオン交換基導入の容易性と機械的強度の高さ、および酸又はアルカリに対する安定性の高さから、芳香族ビニルポリマーの架橋重合体が好ましく、特に、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体やビニルベンジルクロライド-ジビニルベンゼン共重合体が好ましい材料として挙げられる。
【0046】
モノリスaの製造方法に係るI工程で得られるモノリス中間体aの乾燥状態での重量当りの全細孔容積は、16mL/gを超え、30mL/g以下、好適には16mL/gを超え、25mL/g以下である。すなわち、このモノリス中間体aは、基本的には連続マクロポア構造ではあるが、マクロポアとマクロポアの重なり部分である開口(メソポア)が格段に大きいため、モノリス構造を構成する骨格が二次元の壁面から一次元の棒状骨格に限りなく近い構造を有している。
図3には、モノリス中間体aの形態例のSEM写真を示すが、棒状に近い骨格を有している。これを重合系に共存させると、モノリス中間体aの構造を型として共連続構造の多孔質体が形成される。全細孔容積が小さ過ぎると、ビニルモノマーを重合させた後で得られるモノリスの構造が共連続構造から連続マクロポア構造に変化してしまうため好ましくなく、一方、全細孔容積が大き過ぎると、ビニルモノマーを重合させた後で得られるモノリスの機械的強度が低下したり、アニオン交換基を導入する場合は、体積当たりのアニオン交換容量が低下してしまうため好ましくない。モノリス中間体aの全細孔容積を上記範囲とするには、モノマーと水の比を、概ね1:20~1:40とすればよい。
【0047】
また、モノリスaの製造方法に係るI工程で得られるモノリス中間体aは、マクロポアとマクロポアの重なり部分である開口(メソポア)の平均直径が乾燥状態で5~100μmである。開口の平均直径が乾燥状態で5μm未満であると、ビニルモノマーを重合させた後で得られるモノリスの開口径が小さくなり、流体透過時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくない。一方、100μmを超えると、ビニルモノマーを重合させた後で得られるモノリスの開口径が大きくなりすぎ、被処理液とモノリスアニオン交換体との接触が不十分となり、その結果、除去性能が低下してしまうため好ましくない。モノリス中間体aは、マクロポアの大きさや開口の径が揃った均一構造のものが好適であるが、これに限定されず、均一構造中、均一なマクロポアの大きさよりも大きな不均一なマクロポアが点在するものであってもよい。
【0048】
モノリスaの製造方法に係るII工程は、芳香族ビニルモノマー、一分子中に少なくとも2個以上のビニル基を有する全油溶性モノマー中、0.3~5モル%の架橋剤、芳香族ビニルモノマーや架橋剤は溶解するが芳香族ビニルモノマーが重合して生成するポリマーは溶解しない有機溶媒及び重合開始剤からなる混合物を調製する工程である。
なお、I工程とII工程の順序はなく、I工程後にII工程を行ってもよく、II工程後にI工程を行ってもよい。
【0049】
モノリスaの製造方法に係るII工程で用いられる芳香族ビニルモノマーとしては、分子中に重合可能なビニル基を含有し、有機溶媒に対する溶解性が高い親油性の芳香族ビニルモノマーであれば、特に制限はないが、上記重合系に共存させるモノリス中間体aと同種類もしくは類似のポリマー材料を生成するビニルモノマーを選定することが好ましい。これらビニルモノマーの具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルベンジルクロライド、ビニルビフェニル、ビニルナフタレン等が挙げられる。これらモノマーは、一種単独又は二種以上を組み合わせて使用することができる。好適に用いられる芳香族ビニルモノマーは、スチレン、ビニルベンジルクロライド等である。
【0050】
モノリスaの製造方法に係るII工程で用いられる芳香族ビニルモノマーの添加量は、重合時に共存させるモノリス中間体aに対して、重量で5~50倍、好ましくは5~40倍である。芳香族ビニルモノマー添加量がモノリス中間体aに対して5倍未満であると、棒状骨格を太くできず、また、アニオン交換基を導入する場合、アニオン交換基導入後の体積当りのアニオン交換容量が小さくなってしまうため好ましくない。一方、芳香族ビニルモノマー添加量が50倍を超えると、連続空孔の径が小さくなり、通液時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくない。
【0051】
モノリスaの製造方法に係るII工程で用いられる架橋剤は、分子中に少なくとも2個の重合可能なビニル基を含有し、有機溶媒への溶解性が高いものが好適に用いられる。架橋剤の具体例としては、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、ジビニルビフェニル、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ブタンジオールジアクリレート等が挙げられる。これら架橋剤は、一種単独又は二種以上を組み合わせて使用することができる。好ましい架橋剤は、機械的強度の高さと加水分解に対する安定性から、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、ジビニルビフェニル等の芳香族ポリビニル化合物である。架橋剤使用量は、ビニルモノマーと架橋剤の合計量(全油溶性モノマー)に対して0.3~5モル%、特に0.3~3モル%である。架橋剤使用量が0.3モル%未満であると、モノリスの機械的強度が不足するため好ましくなく、一方、多過ぎると、アニオン交換基を導入する場合、アニオン交換基の定量的導入が困難になる場合があるため好ましくない。なお、上記架橋剤使用量は、ビニルモノマー/架橋剤重合時に共存させるモノリス中間体aの架橋密度とほぼ等しくなるように用いることが好ましい。両者の使用量があまりに大きくかけ離れると、生成したモノリス中で架橋密度分布の偏りが生じ、また、アニオン交換基を導入する場合、アニオン交換基導入反応時にクラックが生じやすくなる。
【0052】
モノリスaの製造方法に係るII工程で用いられる有機溶媒は、芳香族ビニルモノマーや架橋剤は溶解するが芳香族ビニルモノマーが重合して生成するポリマーは溶解しない有機溶媒、言い換えると、芳香族ビニルモノマーが重合して生成するポリマーに対する貧溶媒である。有機溶媒は、芳香族ビニルモノマーの種類によって大きく異なるため一般的な具体例を列挙することは困難であるが、例えば、芳香族ビニルモノマーがスチレンの場合、有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、オクタノール、2-エチルヘキサノール、デカノール、ドデカノール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール等のアルコール類;ジエチルエーテル、ブチルセロソルブ、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等の鎖状(ポリ)エーテル類;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、デカン、ドデカン等の鎖状飽和炭化水素類;酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸セロソルブ、プロピオン酸エチル等のエステル類が挙げられる。また、ジオキサンやTHF、トルエンのようにポリスチレンの良溶媒であっても、上記貧溶媒と共に用いられ、その使用量が少ない場合には、有機溶媒として使用することができる。これら有機溶媒の使用量は、上記芳香族ビニルモノマーの濃度が30~80重量%となるように用いることが好ましい。有機溶媒使用量が上記範囲から逸脱して芳香族ビニルモノマー濃度が30重量%未満となると、重合速度が低下したり、重合後のモノリス構造がモノリスaの範囲から逸脱してしまうため好ましくない。一方、芳香族ビニルモノマー濃度が80重量%を超えると、重合が暴走する恐れがあるため好ましくない。
【0053】
モノリスaの製造方法に係るII工程で用いられる重合開始剤は、熱又は光照射によりラジカルを発生する化合物が好適に用いられる。重合開始剤は油溶性であるほうが好ましい。重合開始剤の具体例としては、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビスイソ酪酸ジメチル、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、テトラメチルチウラムジスルフィド等が挙げられる。重合開始剤の使用量は、モノマーの種類や重合温度等によって大きく変動するが、ビニルモノマーと架橋剤の合計量に対して、約0.01~5%の範囲で使用することができる。
【0054】
モノリスaの製造方法に係るIII工程は、II工程で得られた混合物を静置下、且つ該I工程で得られたモノリス中間体aの存在下に重合を行い、該モノリス中間体aの連続マクロポア構造を共連続構造に変化させ、共連続構造モノリスであるモノリスaを得る工程である。III工程で用いるモノリス中間体aは、本発明の構造を有するモノリスを創出する上で、極めて重要な役割を担っている。特表平7-501140号等に開示されているように、モノリス中間体aの不存在下でビニルモノマーと架橋剤を特定の有機溶媒中で静置重合させると、粒子凝集型のモノリス状有機多孔質体が得られる。それに対して、モノリスaのように上記重合系に特定の連続マクロポア構造のモノリス中間体aを存在させると、重合後のモノリスの構造は劇的に変化し、粒子凝集構造は消失し、上述の共連続構造を持つモノリスaが得られる。その理由は詳細には解明されていないが、モノリス中間体aが存在しない場合は、重合により生じた架橋重合体が粒子状に析出・沈殿することで粒子凝集構造が形成されるのに対し、重合系に全細孔容積が大きな多孔質体(中間体)が存在すると、ビニルモノマー及び架橋剤が液相から多孔質体の骨格部に吸着又は分配され、多孔質体中で重合が進行し、モノリス構造を構成する骨格が二次元の壁面から一次元の棒状骨格に変化して共連続構造を有するモノリスaが形成されると考えられる。
【0055】
モノリスaの製造方法において、反応容器の内容積は、モノリス中間体aを反応容器中に存在させる大きさのものであれば特に制限されず、反応容器内にモノリス中間体aを載置した際、平面視でモノリスの周りに隙間ができるもの、反応容器内にモノリス中間体aが隙間無く入るもののいずれであってもよい。このうち、重合後の骨太のモノリスが容器内壁から押圧を受けることなく、反応容器内に隙間無く入るものが、モノリスに歪が生じることもなく、反応原料などの無駄がなく効率的である。なお、反応容器の内容積が大きく、重合後のモノリスの周りに隙間が存在する場合であっても、ビニルモノマーや架橋剤は、モノリス中間体aに吸着、分配されるため、反応容器内の隙間部分に粒子凝集構造物が生成することはない。
【0056】
モノリスaの製造方法に係るIII工程において、反応容器中、モノリス中間体aは混合物(溶液)で含浸された状態に置かれる。II工程で得られた混合物とモノリス中間体aの配合比は、前述の如く、モノリス中間体aに対して、ビニルモノマーの添加量が重量で3~50倍、好ましくは4~40倍となるように配合するのが好適である。これにより、適度な開口径を有しつつ、骨太の骨格を有するモノリスaを得ることができる。反応容器中、混合物中のビニルモノマーと架橋剤は、静置されたモノリス中間体の骨格に吸着、分配され、モノリス中間体aの骨格内で重合が進行する。
【0057】
モノリスaの製造方法に係るIII工程において、反応容器中、モノリス中間体aは混合物(溶液)で含浸された状態に置かれる。II工程で得られた混合物とモノリス中間体aの配合比は、前述の如く、モノリス中間体aに対して、芳香族ビニルモノマーの添加量が重量で5~50倍、好ましくは5~40倍となるように配合するのが好適である。これにより、適度な大きさの空孔が三次元的に連続し、且つ骨太の骨格が3次元的に連続する共連続構造のモノリスaを得ることができる。反応容器中、混合物中の芳香族ビニルモノマーと架橋剤は、静置されたモノリス中間体aの骨格に吸着、分配され、モノリス中間体aの骨格内で重合が進行する。
【0058】
モノリスaの製造方法に係るIII工程の重合条件は、モノマーの種類、開始剤の種類により様々な条件が選択される。例えば、開始剤として2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過硫酸カリウム等を用いたときには、不活性雰囲気下の密封容器内において、30~100℃で1~48時間加熱重合させればよい。加熱重合により、モノリス中間体aの骨格に吸着、分配したビニルモノマーと架橋剤が骨格内で重合し、骨格を太らせる。重合終了後、内容物を取り出し、未反応ビニルモノマーと有機溶媒の除去を目的に、アセトン等の溶剤で抽出してモノリスaを得る。
【0059】
モノリスアニオン交換体aは、III工程で得られたモノリスaにアニオン交換基を導入するIV工程を施すことにより得ることができる。
上記モノリスaにアニオン交換基を導入する方法としては、特に制限はなく、高分子反応やグラフト重合等の公知の方法を用いることができる。
例えば、四級アンモニウム基を導入する方法としては、モノリスがスチレン-ジビニルベンゼン共重合体等であればクロロメチルメチルエーテル等によりクロロメチル基を導入した後、三級アミンと反応させる方法; モノリスをクロロメチルスチレンとジビニルベンゼンの共重合により製造し、三級アミンと反応させる方法;モノリスに、均一にラジカル開始基や連鎖移動基を骨格表面及び骨格内部導入し、N,N,N-トリメチルアンモニウムエチルアクリレートやN,N,N-トリメチルアンモニウムプロピルアクリルアミドをグラフト重合する方法;同様にグリシジルメタクリレートをグラフト重合した後、官能基変換により四級アンモニウム基を導入する方法等が挙げられる。
これらの方法のうち、四級アンモニウム基を導入する方法としては、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体にクロロメチルメチルエーテル等によりクロロメチル基を導入した後、三級アミンと反応させる方法やクロロメチルスチレンとジビニルベンゼンの共重合によりモノリスを製造し、三級アミンと反応させる方法が、イオン交換基を均一かつ定量的に導入できる点で好ましい。なお、導入するイオン交換基としては、トリメチルアンモニウム基、トリエチルアンモニウム基、トリブチルアンモニウム基、ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム基、ジメチルヒドロキシプロピルアンモニウム基、メチルジヒドロキシエチルアンモニウム基等の四級アンモニウム基や、第三スルホニウム基、ホスホニウム基等が挙げられる。
【0060】
モノリスa及びモノリスアニオン交換体aは、3次元的に連続する空孔の大きさが格段に大きいにもかかわらず、骨太骨格を有するため機械的強度が高い。また、モノリスアニオン交換体aは、骨格が太いため、水湿潤状態での体積当りのカチオン交換容量を大きくでき、更に、被処理液を低圧、大流量で長期間通液することが可能である。
【0061】
<アニオン交換樹脂(陰イオン交換樹脂)>
本発明において、アニオン交換体がアニオン交換樹脂(陰イオン交換樹脂)である場合、アニオン交換樹脂としては、特に制限されないが、有機高分子を母体とする有機高分子系のものが好ましく、母体となる有機高分子としては、スチレン系樹脂またはアクリル系樹脂を挙げることができる。
【0062】
本出願書類において、スチレン系樹脂とは、スチレン又はスチレン誘導体を単独または共重合した、スチレン又はスチレン誘導体に由来する構成単位を50質量%以上含む樹脂を意味する。
【0063】
上記スチレン誘導体としては、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン、エチルスチレン、i-プロピルスチレン、ジメチルスチレン、ブロモスチレン等が挙げられる。
【0064】
スチレン系樹脂としては、スチレンまたはスチレン誘導体の単独または共重合体を主成分とするものであれば、共重合可能な他のビニルモノマーとの共重合体であってもよく、このようなビニルモノマーとしては、例えば、o-ジビニルベンゼン、m-ジビニルベンゼン、p-ジビニルベンゼン等のジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート等の多官能性モノマーや、(メタ)アクリロニトリル、メチル(メタ)アクリレート等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0065】
上記共重合可能な他のビニルモノマーとしては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレン重合数が4~16のポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼンがより好ましく、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートがより好ましく、ジビニルベンゼンがさらに好ましい。
【0066】
本出願書類において、アクリル系樹脂とは、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルから選ばれる一種以上を単独重合または共重合した、アクリル酸に由来する構成単位、メタクリル酸に由来する構成単位、アクリル酸エステルに由来する構成単位およびメタクリル酸エステルに由来する構成単位から選ばれる構成単位を50質量%以上含む樹脂を意味する。
【0067】
上記アクリル系樹脂として、より具体的には、アクリル酸の単独重合体、メタクリル酸の単独重合体、アクリル酸エステルの単独重合体、メタクリル酸エステルの単独重合体、アクリル酸と他のモノマー(例えば、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、α-オレフィン(例えばエチレン、ジビニルベンゼン等)等)との共重合体、メタクリル酸と他のモノマー(例えば、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、α-オレフィン(例えばエチレン、ジビニルベンゼン等)等)との共重合体、アクリル酸エステルと他のモノマー(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、α-オレフィン(例えばエチレン、ジビニルベンゼン等)等)との共重合体、メタクリル酸エステルと他のモノマー(例えば、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、α-オレフィン(例えばエチレン、ジビニルベンゼン等))との共重合体から選ばれる一種以上を挙げることができ、これ等のうち、メタクリル酸・ジビニルベンゼン共重合体またはアクリル酸・ジビニルベンゼン共重合体が好ましい。
【0068】
アクリル酸エステルとしては、アクリル酸アルキルエステルが好ましく、アクリル酸の直鎖アルキルエステル又は分岐鎖アルキルエステルがより好ましく、アクリル酸の直鎖アルキルエステルが更に好ましい。
アクリル酸エステルとしては、アルキルエステルの部位に含まれるアルキル基の炭素数が1~4であるアクリル酸アルキルエステルが更に好ましく、アクリル酸メチル、アクリル酸エチルが更に好ましく、アクリル酸メチルが特に好ましい。
【0069】
メタクリル酸エステルとしては、メタクリル酸アルキルエステルが好ましく、メタクリル酸の直鎖アルキルエステル又は分岐鎖アルキルエステルがより好ましく、メタクリル酸の直鎖アルキルエステルが更に好ましい。
メタクリル酸エステルとしては、アルキルエステルの部位に含まれるアルキル基の炭素数が1~4であるメタクリル酸アルキルエステルがより好ましく、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルが更に好ましく、メタクリル酸メチルが特に好ましい。
【0070】
上記アニオン交換樹脂としては、陰イオン交換基として四級アンモニウム基を有する強塩基性のものや、陰イオン交換基としてアミノ基を有する弱塩基性のものを挙げることができる。
本発明に係るイオン交換樹脂の前処理装置において、イオン交換樹脂容器に収容する非水溶媒を通液するイオン交換樹脂としては、弱塩基性イオン交換樹脂が好ましい。
【0071】
弱塩基性イオン交換樹脂を構成する弱塩基性のイオン交換基としては、一級~三級のアミノ基であることが好ましい。
【0072】
このようなアニオン交換樹脂は、市販品であってもよく、例えば、三菱化学株式会社製ダイヤイオンWA30や、オルガノ株式会社製ORLITE DS-6等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0073】
上記アニオン交換樹脂は、ゲル型構造を有するものであってもよいし、マクロレティキュラー型(MR型)構造を有するものであってもよいし、マクロポーラス型(MP型)構造を有するものであってもよいし、ポーラス型構造を有するものであってもよい。
【0074】
上記アニオン交換樹脂のサイズは特に制限されないが、その調和平均径が、300~1000μmであるものが好ましく、400~800μmであるものがより好ましく、500~700μmであるものがさらに好ましい。
【0075】
また、上記アニオン交換樹脂としては、その湿潤状態の総イオン交換容量が、0.1~3.0(eq/L-R)であるものが好ましく、0.5~2.5(eq/L-R)であるものがより好ましく、1.0~2.0(eq/L-R)であるものがさらに好ましい。
【0076】
本発明において、アニオン交換体の収容形態は、後述する第四級アンモニウム水酸化物の水溶液と接触し得る形態であれば、特に制限されない。
例えば、アニオン交換体の収容形態が、第四級アンモニウム水酸化物の水溶液を通液し得るように充填されたカラムまたは槽等の形態であってもよい。
上記カラムまたは槽は、第四級アンモニウム水酸化物の水溶液を通液するためのポンプを備えたものであってもよい。
【0077】
<アニオン交換体のイオン形変更態様>
本発明においては、上記超純水中または薬液中のアニオン性不純物の分析に使用したアニオン交換体と第四級アンモニウム水酸化物の水溶液とを接触させる。
本発明において、アニオン交換体と第四級アンモニウム水酸化物の水溶液とを接触させる態様としては、以下の態様(a)~態様(c)を挙げることができる。
(態様(a))
アニオン交換体を第四級アンモニウム水酸化物の水溶液と接触させ、アニオン交換体のイオン形を変更する態様。
(態様(b))
アニオン交換体を、鉱酸と接触し、次いで水で洗浄した後に第四級アンモニウム水酸化物の水溶液と接触させて、アニオン交換体のイオン形を変更する態様。
(態様(c))
アニオン交換体を、鉱酸と接触し、次いで水で洗浄した後、さらに塩酸と接触し、次いで水で洗浄した上で、前記第四級アンモニウム水酸化物の水溶液と接触させる態様。
上記態様(a)~態様(c)のいずれかの態様により、アニオン交換体のイオン形をOH形に効果的に変更することができる。
本発明においては、態様(b)または態様(c)によりアニオン交換体のイオン形を変更することが好ましく、態様(c)によりアニオン交換体のイオン形を変更することがより好ましい。
以下の説明は、特に断らない限り、態様(a)~態様(c)に共通する事項として記載するものとする。
【0078】
上述した態様(a)~態様(c)に例示するように、本発明においては、アニオン交換体と第四級アンモニウム水酸化物の水溶液とを接触させる。
<第四級アンモニウム水酸化物>
第四級アンモニウム水酸化物としては、下記一般式(I)
【化2】
(式中、R
1~R
4は、各々水酸基を有していてもよい炭素数1~4の炭化水素基であり、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
で表される化合物から選ばれる一種以上であることが好ましい。
【0079】
R1~R4としては、水素原子のほか、水酸基を有していてもよい直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基を挙げることができ、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、ブチル基を挙げることができる。
R1~R4は、互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。
【0080】
下記一般式(I)で表される化合物として、具体的には、トリメチルヒドロキシアンモニウム、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)、トリメチルヒドロキシエチルアンモニウムハイドロオキサイド(コリン)、メチルトリヒドロキシエチルアンモニウムハイドロオキサイド、ジメチルジヒドロキシエチルアンモニウムハイドロオキサイド、 テトラエチルアンモニウムハイドロオキサイド、トリメチルエチルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラブチルアンモニウムヒドロキソ(TBAH)等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0081】
本発明において、第四級アンモニウム水酸化物の水溶液中における第四級アンモニウム水酸化物の濃度は、0.1~2.0Nであることが好ましく、0.5~2.0Nであることがより好ましく、0.5~1.0Nであることがさらに好ましい。
また、本発明において、上記第四級アンモニウム水酸化物の水溶液中における金属不純物の濃度は、1000ng/L以下であることが好ましく、100ng/L以下であることがより好ましい。
なお、本出願書類において、金属不純物の濃度は、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS、アジレント・テクノロジー(株)製Agilent7500cs)を用いて測定した値を意味する。
【0082】
本発明において、第四級アンモニウム水酸化物の水溶液アニオン交換体に通液する通液速度(液空間速度)は、アニオン交換体を構成する陰イオン交換基のカウンダーイオンをOH形に変更し得る速度であれば、特に制限されない。
【0083】
本発明においては、上記アニオン交換体に対し、第四級アンモニウム水酸化物の水溶液を、液空間速度SV(流量/アニオン交換体体積比)が、20000h-1以下となるように通液することが好ましく、10~4000h-1となるように通液することがより好ましく、300~1000h-1となるように通液することがさらに好ましい。
【0084】
本発明において、上記アニオン交換体に対する第四級アンモニウム水酸化物の水溶液の通液量は、体積基準で、5~100倍量であることが好ましく、10~100倍量であることがより好ましく、15~75倍量であることがさらに好ましい。
【0085】
本発明においては、容器内に収容されたアニオン交換体に対し、第四級アンモニウム水酸化物の水溶液を上向流または下向流となるように通液して両者を接触させることが好ましく、容器内に収容されたアニオン交換体に対し、第四級アンモニウム水酸化物の水溶液を上向流となるように通液して両者を接触することがより好ましい。
【0086】
例えば、
図4に示すように、タンク4に貯蔵した第四級アンモニウム水酸化物の水溶液Sを、上記アニオン交換体を収容した容器3の底部から頂部方向にポンプPを用いて上向流で通液した後、流出した排出液Wを貯留タンク5内に貯留する処理を行う通液処理が挙げられる。
【0087】
容器3内に収容されたアニオン交換体に対し、第四級アンモニウム水酸化物の水溶液を上向流で通液することにより、容器3内に収容されたアニオン交換体中に気泡等が混入した場合であっても、第四級アンモニウム水酸化物の水溶液がアニオン交換体内を上向に流通する際にアニオン交換体中の気泡を脱泡しながら流通してこれを除去することができる。
このため、アニオン交換体中に気泡等が混入した場合であっても、第四級アンモニウム水酸化物の水溶液とアニオン交換体との接触性を好適に維持しながらアニオン交換体のイオン形を高い割合で簡便かつ短時間にOH形に変更することができる。
【0088】
本発明においては、上述した態様(b)および態様(c)に例示するように、
アニオン交換体を四級アンモニウム水酸化物の水溶液と接触させることに先立って、鉱酸と接触させることが好ましい。
鉱酸としては、硝酸、塩酸、硫酸等から選ばれる一種以上を挙げることができ、硝酸および塩酸から選ばれる一種以上が好ましく、硝酸がより好ましい。
【0089】
本発明において、鉱酸の濃度は、0.1~2.0Nであることが好ましく、0.5~2.0Nであることがより好ましく、1.0~2.0Nであることがさらに好ましい。
また、本発明において、上記鉱酸中の金属不純物の濃度は、100ng/L以下であることが好ましく、10ng/L以下であることがより好ましい。
【0090】
本発明においては、上記アニオン交換体に対し、鉱酸を、液空間速度SV(流量/アニオン交換体体積比)が、20000h-1以下となるように通液することが好ましく、10~4000h-1となるように通液することがより好ましく、300~1000h-1となるように通液することがさらに好ましい。
【0091】
本発明において、上記アニオン交換体に対する鉱酸の通液量は、体積基準で、5~100倍量であることが好ましく、10~100倍量であることがより好ましく、15~75倍量であることがさらに好ましい。
【0092】
本発明においては、容器内に収容されたアニオン交換体に対し、鉱酸を上向流または下向流となるように通液して両者を接触させることが好ましく、容器内に収容されたアニオン交換体に対し、鉱酸を上向流となるように通液して両者を接触することがより好ましい。
この場合、具体的には、上述した
図4に示す態様と同様に、タンク内に貯蔵した鉱酸を、上記アニオン交換体を収容した容器の底部から頂部方向にポンプPを用いて上向流で通液する接触態様を挙げることができる。
【0093】
次いで、上記鉱酸と接触させた上記アニオン交換体を、水で洗浄する。
上記水による洗浄処理は、アニオン交換体中に存在する余剰の硝酸を流出させることができれば、その通液速度や通液時間は特に制限されない。
【0094】
上述した態様(b)においては、上述した方法により鉱酸と接触し、次いで水で洗浄したアニオン交換体を、第四級アンモニウム水酸化物の水溶液と接触させる。
アニオン交換体と第四級アンモニウム水酸化物の水溶液とを接触させる方法の詳細は、上述した内容と同様である。
【0095】
本発明の態様(b)においては、アニオン交換体を鉱酸と接触させることにより、アニオン交換体を構成する陰イオンの少なくとも一部を対応するイオン形に置換することができ、その後、第四級アンモニウム水酸化物の水溶液と接触させることにより、OH形(水酸化物イオン)に高い割合で簡便かつ短時間に変更することができる。
例えば、本発明の態様(b)において、アニオン交換体を硝酸または塩酸と接触させることにより、アニオン交換体を構成する陰イオンの少なくとも一部を硝酸イオンまたは塩化物イオンに置換することができ、その後第四級アンモニウム水酸化物の水溶液と接触させることにより、硝酸形(硝酸イオン)または塩酸形(塩化物イオン)からOH形(水酸化物イオン)に高い割合で簡便かつ短時間に変更することができる。
【0096】
本発明においては、上述した態様(c)に例示するように、アニオン交換体を鉱酸と接触し、次いで水で洗浄した後、さらに塩酸と接触し、次いで水で洗浄した上で、前記第四級アンモニウム水酸化物の水溶液と接触させることが好ましい。
【0097】
アニオン交換体を鉱酸と接触し、次いで水で洗浄する方法の詳細は、上述した内容と同様である。
【0098】
上記鉱酸と接触し、次いで水で洗浄されたアニオン交換体を、さらに塩酸と接触し、次いで水で洗浄する。
【0099】
本発明において、(鉱酸と接触し、水で洗浄した後に接触させる)上記塩酸の濃度は、0.1~2.0Nであることが好ましく、0.5~2.0Nであることがより好ましく、1.0~2.0Nであることがさらに好ましい。
また、本発明において、上記塩酸中の金属不純物の含有量は、100ng/L以下が好ましく、10ng/L以下がより好ましい。
【0100】
本発明においては、上記アニオン交換体に対し、塩酸を、液空間速度SV(塩酸の流量/アニオン交換体体積比)が、20000h-1以下となるように通液することが好ましく、10~4000h-1となるように通液することがより好ましく、300~1000h-1となるように通液することがさらに好ましい。
【0101】
本発明において、上記アニオン交換体に対する塩酸の通液量は、体積基準で、5~100倍量であることが好ましく、10~100倍量であることがより好ましく、15~75倍量であることがさらに好ましい。
【0102】
本発明においては、容器内に収容されたアニオン交換体に対し、塩酸を上向流または下向流となるように通液して両者を接触させることが好ましく、容器内に収容されたアニオン交換体に対し、塩酸を上向流となるように通液して両者を接触することがより好ましい。
この場合、具体的には、上述した
図4に示す態様と同様に、タンク内に貯蔵した塩酸を、上記アニオン交換体を収容した容器の底部から頂部方向にポンプPを用いて上向流で通液する接触態様を挙げることができる。
【0103】
次いで、上記塩酸と接触させた上記アニオン交換体を、水で洗浄する。
上記水による洗浄処理は、アニオン交換体中に存在する余剰の塩酸を流出させることができれば、その通液速度や通液時間は特に制限されない。
【0104】
上述した態様(c)においては、上述した方法により鉱酸と接触し、次いで水で洗浄した後、さらに塩酸と接触し、次いで水で洗浄したアニオン交換体を、第四級アンモニウム水酸化物の水溶液と接触させる。
アニオン交換体と第四級アンモニウム水酸化物の水溶液とを接触させる方法の詳細は、上述した内容と同様である。
【0105】
本発明の態様(c)においては、アニオン交換体を鉱酸で初期洗浄した後、塩酸と接触させることにより、アニオン交換体の金属含有量を低減した上で、アニオン交換体を構成する陰イオンの少なくとも一部塩化物イオンに置換することができ、その後第四級アンモニウム水酸化物の水溶液と接触させることにより、塩酸形(塩化物イオン)からOH形(水酸化物イオン)に高い割合で簡便かつ短時間に変更することができる。
【0106】
本発明によれば、各種金属の残存を抑制しつつ、アニオン交換体のイオン形を簡便かつ短時間に高い割合でOH形に変更する方法を提供することができる。
【0107】
次に、本発明に係るアニオン交換体の製造方法について説明する。
本発明に係るアニオン交換体の製造方法は、超純水中または薬液中のアニオン性不純物の分析に使用するアニオン交換体の製造時にイオン形を変更するために、前記アニオン交換体と第四級アンモニウム水酸化物の水溶液とを接触させることを特徴とするものである。
【0108】
本発明に係るアニオン交換体の製造方法は、超純水中または薬液中のアニオン性不純物の分析に使用するアニオン交換体の製造時、すなわち超純水中または薬液中のアニオン性不純物の分析に使用するアニオン交換体の調製時または再生時において、そのイオン形を変更するために本発明に係るアニオン交換体のイオン形変更方法を適用するものである。
本発明に係るアニオン交換体の製造方法において、製造対象となるアニオン交換体やイオン形の変更方法の詳細は、本発明に係るアニオン交換体のイオン形変更方法の説明で述べたとおりである。
【0109】
本発明によれば、各種金属の残存を抑制しつつ、アニオン交換体のイオン形を簡便かつ短時間に高い割合でOH形に変更可能なアニオン交換体の製造方法を提供することができる。
【実施例】
【0110】
次に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【0111】
特開平2010-234357号公報に記載されている参考例17と同様の方法で、モノリスアニオン交換体を製造した。
(参考例1)
<モノリスアニオン交換体及の製造>
(I工程;モノリス中間体の製造)
スチレン5.4g、ジビニルベンゼン0.17g、ソルビタンモノオレエート(以下SMOと略す)1.4gおよび2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)0.26gを混合し、均一に溶解させた。次に、当該スチレン/ジビニルベンゼン/SMO/2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)混合物を180gの純水に添加し、遊星式撹拌装置である真空撹拌脱泡ミキサー(イーエムイー社製)を用いて5~20℃の温度範囲において減圧下撹拌して、油中水滴型エマルションを得た。このエマルションを速やかに反応容器に移し、密封後静置下で60℃、24時間重合させた。重合終了後、内容物を取り出し、メタノールで抽出した後、減圧乾燥して、連続マクロポア構造を有するモノリス中間体を製造した。このようにして得られたモノリス中間体(乾燥体)の内部構造をSEM画像により観察したところ、隣接する2つのマクロポアを区画する壁部は極めて細く棒状であるものの、連続気泡構造を有しており、水銀圧入法により測定したマクロポアとマクロポアが重なる部分の開口(メソポア)の平均直径は70μm、全細孔容積は21.0ml/gであった。
【0112】
(共連続構造モノリスの製造)
次いで、スチレン76.0g、ジビニルベンゼン4.0g、1-デカノール120g、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.8gを混合し、均一に溶解させた(II工程)。次に上記モノリス中間体を直径70mm、厚さ約40mmの円盤状に切断して4.1gを分取した。分取したモノリス中間体を内径110mmの反応容器に入れ、当該スチレン/ジビニルベンゼン/1-デカノール/2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)混合物に浸漬させ、減圧チャンバー中で脱泡した後、反応容器を密封し、静置下60℃で24時間重合させた。重合終了後、厚さ約60mmのモノリス状の内容物を取り出し、アセトンでソックスレー抽出した後、85℃で一夜減圧乾燥した(III工程)。
【0113】
このようにして得られたスチレン/ジビニルベンゼン共重合体よりなる架橋成分を3.2モル%含有したモノリス(乾燥体)の内部構造をSEMにより観察したところ、当該モノリスは骨格及び空孔はそれぞれ3次元的に連続し、両相が絡み合った共連続構造であった。また、SEM画像から測定した骨格の太さは17μmであった。また、水銀圧入法により測定した当該モノリスの三次元的に連続した空孔の大きさは41μm、全細孔容積は2.9ml/gであった。
【0114】
(共連続構造モノリス状アニオン交換体の製造)
上記の方法で製造したモノリスを、直径70mm、厚み約50mmの円盤状に切断した。これにジメトキシメタン4700ml、四塩化スズ67mlを加え、氷冷下クロロ硫酸1870mlを滴下した。滴下終了後、昇温して35℃で5時間反応させ、クロロメチル基を導入した。反応終了後、母液をサイフォンで抜き出し、THF/水=2/1の混合溶媒で洗浄した後、更にTHFで洗浄した。このクロロメチル化モノリス状有機多孔質体にTHF3400mlとトリメチルアミン30%水溶液2000mlを加え、60℃、6時間反応させた。反応終了後、生成物をメタノール/水混合溶媒で洗浄し、次いで純水で洗浄して単離し、共連続構造を有するモノリスアニオン交換体Aを得た。
【0115】
(モノリスアニオン交換体Aの分析)
得られたモノリスアニオン交換体Aを一部切り出し、乾燥させた後、その内部構造をSEMにより観察したところ、共連続構造を維持していることを確認した。また、上記モノリスアニオン交換体Aの反応前後の膨潤率は1.4倍であり、体積当りのアニオン交換容量は水湿潤状態で0.72mg当量/mlであった。水湿潤状態でのモノリスの連続空孔の大きさを、モノリスの値と水湿潤状態のカチオン交換体の膨潤率から見積もったところ70μmであり、骨格の直径は23μm、全細孔容積は2.9ml/gであった。
【0116】
また、水を透過させた際の圧力損失の指標である差圧係数は、0.005MPa/m・LVであった。更に、該モノリスアニオン交換体Aの塩化物イオンに関するイオン交換帯長さを測定したところ、LV=20m/hにおけるイオン交換帯長さは16mmであった。
【0117】
次に、モノリスアニオン交換体A中の四級アンモニウム基の分布状態を確認するため、アニオン交換体Aを塩酸水溶液で処理して塩化物型とした後、EPMAにより塩素原子の分布状態を観察した。その結果、四級アンモニウム基はアニオン交換体の骨格表面及び骨格内部(断面方向)にそれぞれ均一に導入されていることが観察された。
【0118】
<金属元素の分析方法>
以下の実施例および比較例において、水溶媒中の金属元素量(質量ppb)は、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS、アジレント・テクノロジー(株)製Agilent7500cs)を用いて測定した値を意味する。
【0119】
(実施例1)
モノリスアニオン交換体Aを、内径10mm×高さ50mmのPFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)カラム中に3.9mL充填して、アニオン交換体充填カートリッジを製作した。
上記アニオン交換体充填カートリッジに対し、以下の(1)~(3)の処理を施すことによりイオン形の変更処理を行った。
(1)鉱酸処理および水洗処理
上記アニオン交換体充填カートリッジに対し、濃度1.0Nの硝酸水溶液(多摩化学工業(株)製TAMAPURE-AA-100)300mLをSV(流量/モノリスアニオン交換体体積比)=1500(100ml/min)で通液処理した後、超純水をSV(流量/モノリスアニオン交換体体積比)=750(50ml/min)で10分間水洗処理した。
(2)塩酸処理および水洗処理
上記(1)の処理を施したアニオン交換体充填カートリッジに対し、濃度1.0Nの塩酸水溶液(多摩化学工業(株)製TAMAPURE-AA-100)300mLをSV(流量/モノリスアニオン交換体体積比)=1500(100ml/min)で通液処理した後、超純水をSV(流量/モノリスアニオン交換体体積比)=750(50ml/min)で10分間水洗処理した。
(3)第四級アンモニウム水酸化物の水溶液による処理
上記(2)の処理を施したアニオン交換体充填カートリッジに対し、濃度1.0Nのトリメチルヒドロキシアンモニウム(TMAH)水溶液(多摩化学工業(株)製TAMAPURE-AA TMAH)300mLを、SV(流量/モノリスアニオン交換体体積比)=1500(100ml/min)で通液処理した後、超純水をSV(流量/モノリスアニオン交換体体積比)=750(50ml/min)で10分間水洗処理した。
上記(1)~(3)の処理に要した全合計時間は、約40分間であった。
上記(3)の通液処理後のアニオン交換体充填カートリッジに対し、1.0N硝酸100mlを通液し、カートリッジ出口で採取した排出液中の金属元素量を測定した。結果を表1に示す。
【0120】
(比較例1)
実施例1でイオン形の変更処理対象としたモノリスアニオン交換体Aと同一のモノリスアニオン交換体Aを、内径10mm×高さ50mmのPFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)カラム中に3.9mL充填し、アニオン交換体充填カートリッジを製作した。
上記アニオン交換体充填カートリッジに対し、以下の(1)~(4)の処理を施すことによりイオン形の変更処理を行った。
(1)鉱酸処理および水洗処理
上記アニオン交換体充填カートリッジに対し、濃度1.0Nの硝酸水溶液300mLをSV(流量/モノリスアニオン交換体体積比)=1500(100ml/min)で通液処理した後、超純水をSV(流量/モノリスアニオン交換体体積比)=750(50ml/min)で10分間水洗処理した。
(2)塩酸処理および水洗処理
上記(1)の処理を施したアニオン交換体充填カートリッジに対し、濃度1.0Nの塩酸水溶液300mLをSV(流量/モノリスアニオン交換体体積比)=1500(100ml/min)で通液処理した後、超純水をSV(流量/モノリスアニオン交換体体積比)=750(50ml/min)で10分間水洗処理した。
(3)重炭酸塩処理および水洗処理
上記(2)の処理を施したアニオン交換体充填カートリッジに対し、濃度2.0%の重炭酸アンモニウム水溶液(関東化学、鹿特急)300mLをSV(流量/モノリスアニオン交換体体積比)=1500(100ml/min)で通液処理した後、超純水をSV(流量/モノリスアニオン交換体体積比)=750(50ml/min)で10分間水洗処理した。
(4)水酸化ナトリウム処理
上記(3)の処理を施したアニオン交換体充填カートリッジに対し、濃度1.0Nの水酸化ナトリウム水溶液(関東化学(株)、特級)300mLを、SV(流量/モノリスアニオン交換体体積比)=1500(100ml/min)で通液処理した後、超純水をSV(流量/モノリスアニオン交換体体積比)=750(50ml/min)で10分間水洗処理した。
上記(1)~(4)の処理に要した全合計時間は、約60分間であった。
上記(4)の通液処理後のアニオン交換体充填カートリッジに対し、1.0N硝酸100mlを通液し、カートリッジ出口で採取した排出液中の金属元素量を測定した。結果を表1に示す。
【0121】
【0122】
上記結果から、実施例1においては、モノリスアニオン交換体を調製する際に第四級アンモニウム水酸化物の水溶液に接触させていることから、各種金属の残存を抑制しつつ、アニオン交換体を簡便かつ短時間に調製し得ることが分かる。
一方、比較例1においては、モノリスアニオン交換体の調製時に水酸化ナトリウムの水溶液と接触させていることから、調製工程が多工程で長時間を要する他、モノリスアニオン交換体中にNa元素等の各種金属元素が一定量残存することが分かる。
【0123】
(実施例2)
モノリスアニオン交換体Aを、超純水中の金属不純物の測定に一定時間使用した後、その一部を内径10mm×高さ50mmのPFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)カラム中に3.9mL充填して、アニオン交換体充填カートリッジを製作した。
上記アニオン交換体充填カートリッジに対し、以下の(1)~(3)のイオン形を変更する処理を施すことにより再生処理を行った。
(1)鉱酸処理および水洗処理
上記アニオン交換体充填カートリッジに対し、1.0N硝酸300mLを、SV(流量/モノリスアニオン交換体体積比)=1500(100ml/min)で通液処理した後、超純水をSV(流量/モノリスアニオン交換体体積比)=750(50ml/min)で10分間通液することにより水洗処理を行った。
(2)塩酸処理および水洗処理
上記(1)の処理を施したアニオン交換体充填カートリッジに対し、濃度1.0Nの塩酸水溶液300mLをSV(流量/モノリスアニオン交換体体積比)=1500(100ml/min)で通液処理した後、超純水をSV(流量/モノリスアニオン交換体体積比)=750(50ml/min)で10分間水洗処理した。
(3)第四級アンモニウム水酸化物の水溶液による処理
上記アニオン交換体充填カートリッジに対し、濃度1.0Nのトリメチルヒドロキシアンモニウム(TMAH)水溶液300mLを、SV(流量/モノリスアニオン交換体体積比)=1500(100ml/min)で通液処理した。
上記(1)~(3)の処理に要した全合計時間は、約40分間であった。
上記(1)~(3)の処理を施して得られたアニオン交換体充填カートリッジの再生率を以下の方法で算出した。
【0124】
<再生率の算出方法>
再生率(%)={R-OH (meq/g) / 総イオン交換容量(meq/g)} ×100
【0125】
本出願書類において、上記R-OHは、アニオン交換体が有する第四級アンモニウム基(R)に対イオンとして存在するOHイオンの量を意味する。
また、本出願書類において、R-OHは、所定の方法で再生処理をしたアニオン交換体に硝酸ナトリウム溶液を通液し、回収した液を硫酸で滴定を行い測定した値を意味する。
また、本出願書類において、総イオン交換容量は、上記アニオン交換体に塩酸を通液しCl形にした後、硝酸ナトリウムを通液し、回収した液を硝酸銀滴定法(モール法)により測定した値を意味する。
結果を表2に示す。
【0126】
(実施例3)
実施例2で作製したものと同一のアニオン交換体カートリッジに対し、以下の(1)~(3)のイオン形を変更する処理を施すことにより再生処理を行った。
(1)鉱酸処理および水洗処理
上記アニオン交換体充填カートリッジに対し、1.0N硝酸300mLを、SV(流量/モノリスアニオン交換体体積比)=1500(100ml/min)で通液処理した後、超純水をSV(流量/モノリスアニオン交換体体積比)=750(50ml/min)で10分間通液することにより水洗処理を行った。
(2)第四級アンモニウム水酸化物の水溶液による処理
上記(1)の処理を施したアニオン交換体充填カートリッジに対し、濃度1.0Nのトリメチルヒドロキシアンモニウム(TMAH)水溶液300mLを、SV(流量/モノリスアニオン交換体体積比)=1500(100ml/min)で通液処理した。
上記(1)および(2)の処理に要した全合計時間は、約25分間であった。
上記(1)および(2)の処理を施して得られたアニオン交換体充填カートリッジの再生率を実施例2と同様の方法で算出した。
結果を表2に示す。
【0127】
(参考例1)
下記アニオン交換樹脂を、超純水中の金属不純物の測定に一定時間使用した後、その一部を内径10mm×高さ50mmのPFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)カラム中に3.9mL充填し、アニオン交換体充填カートリッジを製作した。
<アニオン交換樹脂>
Cl型の強塩基性アニオン交換樹脂(ダウケミカル社製アンバージェット4002、詳細は以下のとおり)。
母体(樹脂の材質):スチレン系
イオン交換基 :四級アンモニウム基
イオン交換当量 :アニオン交換基1.2mg当量/ml湿潤樹脂以上
飽和平衡状態の含水率 :40質量%
飽和水湿潤状態のイオン形:Cl形
モノリスアニオン交換体Aに代えて上記アニオン交換樹脂を用いた以外は実施例2と同様に処理してアニオン交換体充填カートリッジを再生した。
上記再生処理に要した全合計時間は、約40分間であった。
上記再生処理を施して得られたアニオン交換体充填カートリッジの再生率を実施例2と同様の方法で算出した。結果を表2に示す。
【0128】
(参考例2)
モノリスアニオン交換体Aに代えて実施例4で使用したものと同一のアニオン交換樹脂を用いてアニオン交換体充填カートリッジを製作し、実施例3と同様に処理してアニオン交換体充填カートリッジを再生した。
上記再生処理に要した全合計時間は、約25分間であった。
上記再生処理を施して得られたアニオン交換体充填カートリッジの再生率を実施例2と同様の方法で算出した。結果を表2に示す。
【0129】
【0130】
表2より、実施例2~実施例3においては、アニオン交換体のイオン形を変更する際に第四級アンモニウム水酸化物の水溶液と接触させることにより、各種金属の残存を抑制しつつ、アニオン交換体のイオン形を簡便かつ短時間に高い割合でOH形に変更できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0131】
各種金属の残存を抑制しつつ、アニオン交換体のイオン形を簡便かつ短時間に高い割合でOH形に変更する方法およびアニオン交換体の製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0132】
1 骨格相
2 空孔相
3 容器
4 タンク
5 貯留タンク
10 構造
P ポンプ
S 第四級アンモニウム水酸化物の水溶液
W 排出液