(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】スチレン系樹脂組成物及び成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 25/04 20060101AFI20240423BHJP
C08L 1/02 20060101ALI20240423BHJP
C08L 51/04 20060101ALI20240423BHJP
C08K 7/22 20060101ALI20240423BHJP
C08L 71/02 20060101ALN20240423BHJP
C08L 93/04 20060101ALN20240423BHJP
C08L 57/00 20060101ALN20240423BHJP
C08K 5/10 20060101ALN20240423BHJP
【FI】
C08L25/04
C08L1/02
C08L51/04
C08K7/22
C08L71/02
C08L93/04
C08L57/00
C08K5/10
(21)【出願番号】P 2020125523
(22)【出願日】2020-07-22
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】500199479
【氏名又は名称】PSジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【氏名又は名称】神 紘一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100141601
【氏名又は名称】貴志 浩充
(72)【発明者】
【氏名】野寺 明夫
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-109642(JP,A)
【文献】特開2020-023616(JP,A)
【文献】特開2017-203154(JP,A)
【文献】特開2008-045019(JP,A)
【文献】特開平09-272855(JP,A)
【文献】特開平05-302076(JP,A)
【文献】特開平05-279576(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00-246/00
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系樹脂(a)45.0~99.5質量%と、平均粒径10~300μmの粒状であるセルロースビーズ(b)0.5~55.0質量%と、を含有する、スチレン系樹脂組成物であって、
前記スチレン系樹脂(a)は、スチレン系単量体を重合した単独重合体であるポリスチレン、スチレン系単量体を重合したマトリックスにゴム状重合体(A)の粒子が分散したゴム変性スチレン系樹脂、並びに、スチレン系単量体単位及び不飽和カルボン酸系単量体単位を有するスチレン系共重合樹脂からなる群から選択される1種以上であり、
前記スチレン系共重合樹脂は、前記スチレン系単量体単位及び前記不飽和カルボン酸系単量体単位の合計含有量を100質量%としたとき、前記スチレン系単量体単位の含有量は69~98質量%であり、
前記スチレン系単量体単位が、スチレン、α-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン、ο-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルスチレン、イソブチルスチレン、t-ブチルスチレン、ブロモスチレン又はインデンの単量体単位であり、
前記不飽和カルボン酸系単量体単位は、メタクリル酸、アクリル酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル又は(メタ)アクリル酸シクロヘキシルの単量体単位であり
、
前記セルロースビーズ(b)が、多孔質である、スチレン系樹脂組成物。
【請求項2】
前記スチレン系樹脂組成物の総量100質量部に対して分散剤を(c)0.5~2.0質量部さらに含有する、請求項
1に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項3】
前記分散剤(c)が、脂肪酸エステル系化合物、ポリエチレングリコール系化合物、テルペン系化合物及びロジン系化合物からなる群から選択される1種又は2種以上の化合物である、請求
項2に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1
~3のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂組成物を含む、成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチレン系樹脂組成物及び成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂は、成形性、寸法安定性に加え、透明性に優れていることから、広範囲な用途に使用されている。また、環境保護の観点からバイオマス材料が注目されており、樹脂材料と、天然由来の有機充填材又はバイオポリマーとの複合材料が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1及び2にはスチレン系樹脂及びセルロース系材料からなるスチレン系複合樹脂組成物が開示されている。また、特許文献3には樹脂成分及び多孔質セルロースビーズからなる防滑性組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-173352号公報
【文献】特開平8-231795号公報
【文献】特開平5-302076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1,2の技術では、使用するセルロース系材料の形状形態及びスチレン系樹脂とセルロース系材料との相溶性を検討していない。より具体的には、特許文献1,2では、木粉、或いはパルプ等の粉砕品が使用されており、かつスチレン系樹脂に対するセルロース系材料の分散性或いは相溶性を検討していないため、寸法精度に異方性が生じるほか、流動性又は成形外観の低下も大きくなり、製品が限定されてしまう。また、上記特許文献3の技術は、多孔質セルロースビーズをビニル系重合体エマルジョンに配合し、段ボール等に塗布して防滑性を向上させるものであり、樹脂組成物としての特性についても全く開示されていない。
【0006】
そこで、本発明の目的は、寸法精度、流動性、軽量高剛性及び成形外観に優れたスチレン系樹脂組成物、並びに当該スチレン系樹脂組成物を含む成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記問題点に鑑み、鋭意研究し、実験を重ねた結果、スチレン系樹脂(a)と、セルロースビーズ(b)とを特定の比率で混合した樹脂組成物を用いることにより、上記の課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]スチレン系樹脂(a)45.0~99.5質量%と、セルロースビーズ(b)0.5~55.0質量%と、を含有することを特徴とする、スチレン系樹脂組成物。
[2]本発明において、前記セルロースビーズ(b)が、多孔質であること好ましい。
[3]本発明において、前記スチレン系樹脂(a)が、不飽和カルボン酸系単量体単位を含むことが好ましい。
[4]本発明において、前記スチレン系樹脂組成物の総量100質量部に対して分散剤(c)0.5~2.0質量部をさらに含有することが好ましい。
[5]本発明において、前記分散剤(c)が、脂肪酸エステル系化合物、ポリエチレングリコール系化合物、テルペン系化合物、及びロジン系化合物からなる群から選択される1種又は2種以上の化合物であることが好ましい。
[5]本発明は、上記[1]~[4]のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂組成物を含む、成形品である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、寸法精度、流動性、軽量高剛性及び成形外観に優れたスチレン系樹脂組成物、及び当該スチレン系樹脂組成物を用いた成形品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」と言う。)について詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0011】
[スチレン系樹脂組成物]
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、スチレン系樹脂(a)を45.0~99.5質量%と、セルロースビーズ(b)を0.5~55.0質量%とを含有する。
【0012】
これにより、優れた流動性を有し、かつ寸法精度、軽量高剛性及び成形外観に優れた成形体を形成するスチレン系樹脂組成物を提供できる。
【0013】
<スチレン系樹脂(a)(以下、(a)成分とも称する。)>
本実施形態において、スチレン系樹脂(a)の含有量は、スチレン系樹脂組成物全体(100質量%)に対して、45.0~99.5質量%であり、好ましくは50.0~97.0質量%、より好ましくは60.0~95.0質量%である。当該含有量を45.0質量%以上とすることにより、流動性、外観を高めることができる。一方、当該含有量を99.5質量%以下とすることにより、セルロースビーズ(b)の合計含有量を確保することができ、寸法精度、剛性等を向上させることができる。
【0014】
本発明におけるスチレン系樹脂(a)のMFR(200℃、5kg)が2以上であることが好ましい。より好ましくは5以上、さらに好ましくは8以上30以下である。セルロースビーズ(b)の着色、ヤケを防止するため、240℃以下の溶融混合が必要となるが、当該スチレン系樹脂(a)のMFRが2より低いとセルロースビーズ(b)がスチレン系樹脂(a)中に分散し難い。それにより、セルロースビーズ(b)が単一分散できず、寸法精度、及び外観が低下する。一方、スチレン系樹脂(a)のMFRが2以上であると、当該スチレン系樹脂(a)がセルロースビーズ(b)の凝集体内に含侵しやすくなるため、セルロースビーズ(b)が単一分散し、寸法精度、外観が向上する。
【0015】
さらに、セルロースビーズ(b)との分散性を向上させるために、スチレン系樹脂(a)は、不飽和カルボン酸系単量体単位を含むことが好ましい。当該不飽和カルボン酸系単量体単位の含有量は、好ましくはスチレン系樹脂(a)全体(100質量%)に対して2~31質量%、より好ましくは4~26質量%であり、さらに好ましくは8~23質量%である。
【0016】
本実施形態において使用するスチレン系樹脂(a)は、1種、又は2種以上をブレンドして使用しても構わず、ブレンド物の場合、屈折率又はMFRはそのブレンド物の値である。本明細書におけるMFRは、ISO 1133に準拠して測定した値を用いている。
【0017】
本実施形態で用いることができるスチレン系樹脂(a)は、スチレン系単量体単位を有する重合体であることが好ましく、スチレン系単量体単位及び当該スチレン系単量体単位以外の単量体単位を有する共重合体であることがより好ましい。また、スチレン系樹脂(a)は、スチレン系単量体と、当該スチレン系単量体と共重合可能な他のビニル単量体及びゴム質重合体より選ばれる1種以上の単量体を重合して得られるスチレン系共重合樹脂であることがさらに好ましい。本発明におけるスチレン系樹脂(a)は、特に限定されないが、例えば、ポリスチレン、スチレン系単量体単位を有するスチレン系共重合樹脂、マトリクス中にゴム状重合体(A)の粒子が分散されたゴム変性スチレン系樹脂又はこれらの混合物が挙げられる。
【0018】
<<ポリスチレン>>
本実施形態において、ポリスチレンとはスチレン系単量体を重合した単独重合体であり、一般的に入手できるものを適宜選択して用いることができる。ポリスチレンを構成するスチレン系単量体としては、スチレンの他に、α-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン、ο-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルスチレン、イソブチルスチレン、及びt-ブチルスチレン又はブロモスチレン及びインデン等のスチレン誘導体が挙げられる。特に工業的観点からスチレンが好ましい。これらのスチレン系単量体は、1種又は2種以上使用することができる。ポリスチレンは本発明の効果を損なわない範囲で、上記のスチレン系単量体単位以外の単量体単位を更に含有することを排除しないが、典型的にはスチレン系単量体単位からなる。
【0019】
<<ゴム変性スチレン系樹脂>>
本実施形態において、ゴム変性スチレン系樹脂とは、マトリクスとしてのスチレン樹脂中にゴム状重合体(A)の粒子が分散したものであり、ゴム状重合体(A)の存在下でスチレン系単量体を重合させることにより製造することができる。
【0020】
本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂を構成するスチレン系単量体としては、スチレンの他に、例えば、α-メチルスチレン、α-メチルp-メチルスチレン、ο-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルスチレン、イソブチルスチレン、及びt-ブチルスチレン又はブロモスチレン及びインデン等のスチレン誘導体が挙げられる。特に、スチレンが好ましい。これらのスチレン系単量体は、1種又は2種以上使用することができる。
【0021】
本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂に含まれるゴム状重合体(A)は、例えば、内側に上記のスチレン系単量体より得られるスチレン単量体単位含有樹脂を内包してもよく、及び/又は、外側にスチレン単量体単位含有樹脂がグラフトされてもよい。
【0022】
前記ゴム状重合体(A)としては、例えば、ポリブタジエン、ポリスチレンを内包するポリブタジエン、ポリイソプレン、天然ゴム、ポリクロロプレン、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体等を使用できるが、ポリブタジエン又はスチレン-ブタジエン共重合体が好ましい。ポリブタジエンには、シス含有率の高いハイシスポリブタジエン及びシス含有率の低いローシスポリブタジエンの双方を用いることができる。また、スチレン-ブタジエン共重合体の構造としては、ランダム構造及びブロック構造の双方を用いることができる。これらのゴム状重合体(A)は1種若しくは2種以上使用することができる。また、ブタジエン系ゴムを水素添加した飽和ゴムを使用することもできる。
【0023】
このようなゴム変性スチレン系樹脂の例としては、HIPS(高衝撃ポリスチレン)、ABS樹脂(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体)、AAS樹脂(アクリロニトリル-アクリルゴム-スチレン共重合体)、AES樹脂(アクリロニトリル-エチレンプロピレンゴム-スチレン共重合体)等が挙げられる。
【0024】
本実施形態において、ゴム変性スチレン系樹脂がHIPS系樹脂である場合、これらのゴム状重合体(A)の中で特に好ましいのは、シス1,4結合が90モル%以上で構成されるハイシスポリブタジエンである。該ハイシスポリブタジエンにおいては、ビニル1,2結合が6モル%以下で構成されることが好ましく、3モル%以下で構成されることが特に好ましい。
【0025】
なお、該ハイシスポリブタジエンの構成単位に関する異性体としてシス1,4、トランス1,4、又はビニル1,2構造を有するものの含有率は、赤外分光光度計を用いて測定し、モレロ法によりデータ処理することにより算出できる。
【0026】
また、該ハイシスポリブタジエンは、公知の製造法、例えば有機アルミニウム化合物とコバルト又はニッケル化合物を含んだ触媒を用いて、1,3ブタジエンを重合して容易に得ることができる。
【0027】
本実施形態において、ゴム変性スチレン系樹脂中に含まれるゴム状重合体(A)の含有量は、ゴム変性スチレン系樹脂100質量%に対して、2~10質量%が好ましく、更に好ましくは3~8質量%である。ゴム状重合体(A)の含有量が2質量%より少ないとスチレン系樹脂の耐衝撃性が低下する虞がある。また、ゴム状重合体(A)の含有量が10質量%を超えると光透過性が低下する虞がある。
【0028】
なお本開示で、ゴム変性スチレン系樹脂中に含まれるゴム状重合体(A)の含有量は、熱分解ガスクロマトグラフイーを用いて算出される値である。
【0029】
本実施形態において、ゴム変性スチレン系樹脂中に含まれるゴム状重合体(A)の平均粒子径は、光透過性の観点から、0.5~2.5μmであることが好ましく、更に好ましくは0.8~2.0μmである。
【0030】
なお本開示で、ゴム変性スチレン系樹脂中に含まれるゴム状重合体(A)の平均粒子径は、以下の方法により測定することができる。
【0031】
四酸化オスミウムで染色したゴム変性スチレン系樹脂から厚さ75nmの超薄切片を作製し、電子顕微鏡を用いて倍率10000倍の写真を撮影する。写真中、黒く染色された粒子がゴム状重合体である。写真から、下記数式(N1):
平均粒子径=ΣniDri3 /ΣniDri2 (N1)
(上記数式(N1)中、niは、粒子径Driのゴム状重合体(a)粒子の個数であり、粒子径Driは、写真中の粒子の面積から円相当径として算出した粒子径である。)
により面積平均粒子径を算出し、ゴム状重合体(A)の平均粒子径とする。本測定は、写真を200dpiの解像度でスキャナーに取り込み、画像解析装置IP-1000(旭化成社製)の粒子解析ソフトを用いて測定する。
【0032】
本実施形態において、ゴム変性スチレン系樹脂の還元粘度(これは、ゴム変性スチレン系樹脂の分子量の指標となる)は、0.50~0.85dL/gの範囲にあることが好ましく、更に好ましくは0.55~0.80dL/gの範囲である。0.50dL/gより小さいと衝撃強度が低下する虞があり、0.85dL/gを超えると流動性の低下により成形性が低下する虞がある。
【0033】
なお本開示で、ゴム変性スチレン系樹脂の還元粘度は、トルエン溶液中で30℃、濃度0.5g/dLの条件で測定される値である。
【0034】
本実施形態において、ゴム変性スチレン系樹脂の製造方法は、特に制限されるものではないが、ゴム状重合体(A)の存在下、スチレン系単量体(及び溶媒)を重合する塊状重合(若しくは溶液重合)、又は反応途中で懸濁重合に移行する塊状-懸濁重合、又はゴム状重合体(A)ラテックスの存在下、スチレン系単量体を重合する乳化グラフト重合にて製造することができる。塊状重合においては、ゴム状重合体(a)とスチレン系単量体、並びに必要に応じて有機溶媒、有機過酸化物、及び/又は連鎖移動剤を添加した混合溶液を、完全混合型反応器又は槽型反応器と複数の槽型反応器とを直列に連結し構成される重合装置に連続的に供給することにより製造することができる。
【0035】
<<スチレン系共重合樹脂>>
本実施形態において、スチレン系共重合樹脂とは、スチレン系単量体単位及び不飽和カルボン酸系単量体単位を含む樹脂であることが好ましい。
【0036】
本明細書における不飽和カルボン酸系単量体(単位)とは、不飽和カルボン酸単量体(単位)及び不飽和カルボン酸エステル単量体(単位)を含む。本発明におけるスチレン系共重合樹脂は、スチレン系単量体単位及び不飽和カルボン酸系単量体単位の合計含有量を100質量%としたとき、スチレン系単量体単位の含有量は69~98質量%であることが好ましく、より好ましくは74~96質量%であり、さらに好ましくは77~92質量%の範囲である。当該含有量を69質量%以上とすることにより、スチレン系樹脂(a)の屈折率を向上させることができる。一方、当該含有量を98質量%以下とすることにより、後述の不飽和カルボン酸単量体単位及び任意成分である不飽和カルボン酸エステル単量体単位を所望量存在させにくくなり、これらの単量体単位による後述の効果を得にくくなる。
【0037】
また、本発明におけるスチレン系共重合樹脂は、スチレン系単量体単位及び不飽和カルボン酸系単量体単位の合計含有量を100質量%としたとき、不飽和カルボン酸系単量体単位の含有量は2~31質量%であることが好ましく、より好ましくは4~26質量%であり、さらに好ましくは8~23質量%の範囲である。
【0038】
本実施形態のスチレン系共重合樹脂において、不飽和カルボン酸系単量体単位は耐熱性を向上させる役割を果たす。スチレン系共重合樹脂中のスチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル単量体単位の合計含有量を100質量%としたとき、不飽和カルボン酸単量体単位の含有量は2~16質量%であることが好ましく、より好ましくは4~14質量%であり、さらに好ましくは8~13質量%である。当該含有量を2質量%以上とすることにより、セルロースの分散性を向上させ、光透過性、外観、耐熱性をより向上させることができる。一方、当該含有量を16質量%以下とすることにより、樹脂の流動性と機械的物性を向上させることができる。
【0039】
一般に、スチレン系共重合樹脂の一例である、スチレン-メタクリル酸-メタクリル酸メチル共重合樹脂を含むスチレン-メタクリル酸系樹脂は、工業的規模ではほとんどの場合、ラジカル重合で生産されているが、本実施形態において、脱揮工程のゲル化反応を抑制するために、種々のアルコールを重合系中に添加して重合を行なうことができる。
【0040】
不飽和カルボン酸エステル単量体は、不飽和カルボン酸単量体との分子間相互作用によって不飽和カルボン酸単量体の脱水反応を抑制するために、及び、樹脂の機械的強度を向上させるために用いることができる。更には、不飽和カルボン酸エステル単量体は、耐候性、表面硬度等の樹脂特性の向上にも寄与する。
【0041】
本実施形態のスチレン系共重合樹脂において、スチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル単量体単位の合計含有量を100質量%としたとき、不飽和カルボン酸エステル単量体単位の含有量は0~15質量%であることが好ましく、より好ましくは1~12質量%、さらに好ましくは2~10質量%である。当該含有量を15質量%以下とすることにより、樹脂の光透過性と流動性を向上させることができる。また、不飽和カルボン酸エステル単量体単位の含有量を0質量%とすることにより、耐熱性の向上やコスト削減をすることができるが、上記の観点から不飽和カルボン酸エステル単量体単位の含有量を0質量%超とすることもできる。
【0042】
なお、不飽和カルボン酸単量体と不飽和カルボン酸エステル単量体単位とが隣り合わせで結合した場合、高温、高真空の脱揮装置を用いると、条件によっては脱アルコール反応が起こり、六員環酸無水物が形成される場合がある。本実施形態のスチレン系共重合樹脂は、この六員環酸無水物を含んでいてもよいが、流動性を低下させることから、生成される六員環酸無水物の量はより少ない方が好ましい。
【0043】
本実施形態において、スチレン系共重合樹脂中の、スチレン単量体単位(例えば、スチレン単量体単位)、不飽和カルボン酸単量体単位(例えば、メタクリル酸単量体単位)及び不飽和カルボン酸エステル単量体単位(例えば、メタクリル酸メチル単量体単位)の含有量は、それぞれ、プロトン核磁気共鳴(1H-NMR)測定機で測定したスペクトルの積分比から求めることができる。
【0044】
本実施形態において、スチレン系共重合樹脂は、スチレン系単量体単位と、不飽和カルボン酸系単量体単位とを含むことが好ましく、スチレン系単量体単位と、不飽和カルボン酸単量体単位及び/又は不飽和カルボン酸エステル単量体単位とを含むことが好ましい。また、不飽和カルボン酸単量体単位及び不飽和カルボン酸エステル単量体単位以外の単量体単位を、本発明の効果を損なわない範囲で更に含有することを排除しない。しかし、本発明におけるスチレン系共重合樹脂は、典型的には、スチレン系単量体単位、(メタ)アクリル酸カルボン酸単量体単位、及び/又は(メタ)アクリル酸カルボン酸エステル単量体単位から構成されることが好ましい。
【0045】
本実施形態のスチレン系共重合樹脂を構成するスチレン系単量体としては、スチレン系単量体としては、特に限定されないが例えば、スチレン、α-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン、ο-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルスチレン、イソブチルスチレン、t-ブチルスチレン、ブロモスチレン、インデン等のスチレン誘導体が挙げられる。スチレン系単量体としては、工業的観点からスチレンが好ましい。これらのスチレン系単量体は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0046】
本実施形態のスチレン系共重合樹脂を構成する不飽和カルボン酸単量体としては、特に限定されないが例えば、メタクリル酸、アクリル酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が挙げられる。不飽和カルボン酸単量体としては、耐熱性の向上効果が大きく、常温にて液状でハンドリング性に優れることからメタクリル酸が好ましい。これらの不飽和カルボン酸単量体は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0047】
本実施形態のスチレン系共重合樹脂を構成する不飽和カルボン酸エステル単量体としては、特に限定されないが例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、耐熱性低下に対する影響が小さいことから(メタ)アクリル酸メチルが好ましい。これらの不飽和カルボン酸エステル単量体は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0048】
本実施形態のスチレン系共重合樹脂としては、スチレン-(メタ)アクリル酸メチル共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸エチル共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸プロパン共重合体、又はスチレン-(メタ)アクリル酸ブチル共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸メチル-メタ)アクリル酸ブチル共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸メチル-メタクリル酸共重合体が好ましい。
【0049】
本実施形態において、スチレン系共重合樹脂の重量平均分子量(Mw)は100,000~350,000であることが好ましく、より好ましくは120,000~300,000、さらに好ましくは140,000~240,000である。重量平均分子量(Mw)が100,000~350,000である場合、機械的強度と流動性とのバランスにより優れる樹脂が得られ、またゲル物の混入も少ない。なお、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用い、標準ポリスレン換算で得られる値である。
【0050】
本実施形態のスチレン系樹脂(a)としては、上記ゴム変性スチレン系樹脂の1種又は2種以上と、スチレン系共重合樹脂の1種又は2種以上とをブレンドした混合物を使用してもよい。その場合、ゴム変性スチレン系樹脂とスチレン系共重合樹脂との混合比は使用目的に応じて適宜変更することができる。例えば、ゴム変性スチレン系樹脂がスチレン系共重合樹脂より少ない系においては、スチレン系樹脂(a)の総量(100質量%)に対して、スチレン系共重合樹脂を0.1~30質量%含有することが好ましい。一方、ゴム変性スチレン系樹脂がスチレン系共重合樹脂より多い系においては、スチレン系樹脂(a)の総量(100質量%)に対して、スチレン系共重合樹脂を70~99.9質量%含有することが好ましい。
【0051】
本実施形態において、スチレン系共重合樹脂の重合方法は、特に制限はないが例えば、ラジカル重合法として、塊状重合法又は溶液重合法を好適に採用できる。重合方法は、主に、重合原料(単量体成分)を重合させる重合工程と、重合生成物から未反応モノマー、重合溶媒等の揮発分を除去する脱揮工程とを備える。
【0052】
以下、本実施形態に用いることができるスチレン系共重合樹脂の重合方法の一例について説明する。
【0053】
当該スチレン系共重合樹脂を得るために重合原料を重合させる際には、重合原料組成物中に、典型的には重合開始剤及び連鎖移動剤を含有させる。
【0054】
スチレン系共重合樹脂の重合に用いられる重合開始剤としては、有機過酸化物、例えば、2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)ブタン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルペルオキシ)バレレート等のペルオキシケタール類、ジ-t-ブチルペルオキシド、t-ブチルクミルペルオキシド、ジクミルペルオキシド等のジアルキルペルオキシド類、アセチルペルオキシド、イソブチリルペルオキシド等のジアシルペルオキシド類、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート等のペルオキシジカーボネート類、t-ブチルペルオキシアセテート等のペルオキシエステル類、アセチルアセトンペルオキシド等のケトンペルオキシド類、t-ブチルヒドロペルオキシド等のヒドロペルオキシド類等を挙げることができる。分解速度と重合速度との観点から、なかでも、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサンが好ましい。
【0055】
スチレン系共重合樹脂の重合に用いられる連鎖移動剤としては、例えば、α-メチルスチレンリニアダイマー、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン等を挙げることができる。
【0056】
スチレン系共重合樹脂の重合方法としては、必要に応じて、重合溶媒を用いた溶液重合を採用できる。用いられる重合溶媒としては、芳香族炭化水素類、例えば、エチルベンゼン、ジアルキルケトン類、例えば、メチルエチルケトン等が挙げられ、それぞれ、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。重合生成物の溶解性を低下させない範囲で、他の重合溶媒、例えば脂肪族炭化水素類等を、芳香族炭化水素類に更に混合することができる。これらの重合溶媒は、全単量体100質量部に対して、25質量部を超えない範囲で使用するのが好ましい。全単量体100質量部に対して重合溶媒が25質量部を超えると、重合速度が著しく低下し、且つ得られる樹脂の機械的強度の低下が大きくなる傾向がある。重合前に、全単量体100質量部に対して5~20質量部の割合で添加しておくことが、品質が均一化し易く、重合温度制御の点でも好ましい。
【0057】
本実施形態において、スチレン系共重合樹脂を得るための重合工程で用いる装置は、特に制限はなく、スチレン系樹脂の重合方法に従って適宜選択すればよい。例えば、塊状重合を採用する場合には、完全混合型反応器を1基、又は複数基連結した重合装置を用いることができる。また脱揮工程についても特に制限はない。例えば、塊状重合を採用する場合、最終的に未反応モノマーが、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下になるまで重合を進め、かかる未反応モノマー等の揮発分を除去するために、既知の方法にて脱揮処理する。より詳細には、例えば、フラッシュドラム、二軸脱揮器、薄膜蒸発器、押出機等の通常の脱揮装置を用いることができるが、滞留部の少ない脱揮装置が好ましい。なお、脱揮処理の温度は、通常、190~280℃程度であり、メタクリル酸とメタクリル酸メチルとの隣接による六員環酸無水物の形成を抑制する観点から、190~260℃がより好ましい。また脱揮処理の圧力は、通常0.13~4.0kPa程度であり、好ましくは0.13~3.0kPaであり、より好ましくは0.13~2.0kPaである。脱揮方法としては、例えば加熱下で減圧して揮発分を除去する方法、及び揮発分除去の目的に設計された押出機等を通して除去する方法が望ましい。
【0058】
<セルロースビーズ(b)(以下、(b)成分とも称する。)>
本実施形態におけるセルロースビーズ(b)は、セルロースを粒状に成形した球状体である。そして、当該セルロースビーズ(b)の平均粒径が10~300μmであり、かつそのアスペクト比である最大直径と最小直径の比(最大直径/最小直径)が1.0~1.5であることが好ましい。さらに、当該セルロースビーズ(b)のα-セルロース量が90%以上であることが好ましい。
【0059】
本発明におけるセルロースビーズ(b)の含有量は、スチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、5~55.0質量%であり、好ましくは10~50質量%、より好ましくは15~40.0質量%である。
(b)成分の含有量を5質量%以上とすることにより、寸法精度と剛性を向上させることができる。一方、当該含有量が多すぎると、衝撃強度が低下するほか、流動性低下により成形性を著しく低下させる。スチレン系樹脂組成物中のセルロースビーズ(b)の含有量は、当該組成物をスチレン系樹脂(a)が溶解する溶媒に溶かし、未溶物を取出し、120℃、4時間の条件で乾燥させたものの質量を測ることでわかる。
【0060】
本実施形態において、セルロースビーズ(b)の平均粒径は、10~300μmであり、好ましくは15~200μmであり、好ましくは20~150μm、さらに好ましくは30~100μmである。平均粒径が上記範囲外であると、寸法精度又は剛性が十分に発揮されない、或いは流動性、成形外観が低下してしまうことがある。一方、平均粒径が上記範囲内であると、セルロース同士の凝集を低減でき、かつスチレン系樹脂(a)に対する分散性が良好になり寸法精度が向上する。
【0061】
また、セルロースビーズ(b)のアスペクト比(=最大直径と最小直径との比(最大直径/最小直径))が1.0~1.5であることが好ましく、より好ましくは1.0~1.3、さらに好ましくは1.0~1.2である。セルロースビーズ(b)のアスペクト比が1.5より大きすぎると寸法に異方性が生じるほか、流動性が低下する。セルロースビーズ(b)は、ほぼ球形であり、セルロースファイバー又は木粉のように繊維質ではないため、スチレン系樹脂(a)に対する分散性に優れるほか、流動性の低下や寸法精度の異方性が少ない。
【0062】
尚、本発明において、セルロースビーズ(b)の平均粒径、および最大直径と最小直径の比(=アスペクト比)は、光学顕微鏡、または透過型電子顕微鏡観察(1000倍に拡大)により100個の多孔質セルロースビーズ(b)の直径を測定し、その算術平均をとることにより求められる。
【0063】
本実施形態において、熱安定性を重視する観点からセルロースビーズ(b)全体のα-セルロース量が90%以上あることが好ましく、より好ましくは95%以上である。90%未満では、リグニンやヘミセルロースといった不純物がスチレン系樹脂中に混練や成形の際、着色やガス発生を生じる。
【0064】
本実施形態において、セルロースビーズ(b)のα-セルロース量は、亜塩素酸ナトリウムおよび酢酸を加えて、70~80℃で1時間加温し、得られた残渣をさらに17.5%水酸化ナトリウム溶液に浸せきし、溶解するものを除いた残渣量である。
【0065】
本実施形態におけるセルロースビーズ(b)は多孔質であることが好ましい。そして、セルロースビーズ(b)は多孔質であり、かつ嵩比重0.2~0.6であることが好ましい。本実施形態におけるセルロースビーズ(b)として多孔質セルロースを使用すると、当該多孔質セルロースビーズは、表面に1~10μmの細孔があり、毛細管現象のためか、疎水性のスチレン系樹脂(a)でも界面密着性が良く分散性に優れる観点で好ましい。なお、細孔は電子顕微鏡で確認でき、2000倍の写真を画像解析することにより平均細孔を測定することができる。
【0066】
上記多孔質セルロースビーズは、1~10μmの細孔があるセルロース球状粒子であることが好ましく、スチレン系樹脂(a)に対してほぼ単分散する。
【0067】
本実施形態において、多孔質セルロースビーズ(b)の嵩比重は、0.1~0.8であることが好ましく、より好ましくは0.2~0.6、さらに好ましくは0.3~0.4である。嵩比重が上記範囲内であれば、軽量化と高剛性化を図ることができる。多孔質セルロースビーズは、嵩比重が低いので、一般的なセルロースより体積分率が高くなり、線膨張係数の低減にも有効である。
【0068】
本明細書における嵩比重は、粉体を1.0mm以上の目開きを持つふるいを通した後、0.1%の精度で秤量した100gの試料(m)を圧密せずに乾いた250mlメスシリンダー(最小目盛単位:2ml)に静かに入れ体積(V)を測定し、m/Vで計算したものである。
【0069】
さらに、本発明のセルロースビーズが多孔質セルロースビーズである場合、当該多孔質セルロースビーズ空隙率は30~95%であり、好ましくは40~85%、さらに好ましくは50~80%である。空隙率が上記範囲内であれば、軽量化と高剛性化を図ることができる。
【0070】
本明細書における空隙率は、透過型電子顕微鏡(1000倍に拡大))で切断されたセルロースビーズの写真より画像解析により求めた値である。
【0071】
本実施形態のセルロースビーズ(b)の代表的な製造方法を示せば以下の通りである。即ち平均粒径1~10μmの炭酸カルシウムを分散させたビスコースを、ノズルなどから噴霧し、そのまま塩酸中に落としてビスコースを凝固させるとともに、炭酸カルシウムの反応による発泡を生じさせ、その後脱硫、洗浄並びに乾燥を行うことにより得ることができる。この方法によって得られるセルロースビーズは多孔質な形状をしており弾力性を有している。その代表的なセルロースビーズとその製法の具体例はたとえば、特開平3-259934号に記載されたものである。
【0072】
また、本実施形態のセルロースビーズ(b)は市販品を使用してもよく、当該セルロースビーズの市販品としては、特に限定されることなく、例えば、レンゴー株式会社製ビスコパール等が挙げられる。
【0073】
<分散剤(c)(以下、(c)成分とも称する。)>
本実施形態において、セルロースビーズ(b)の分散性を向上させる目的で、分散剤(c)を、スチレン系樹脂組成物の総量(100質量部)に対して0.5~2.0質量部含有してもよく、より好ましくは、分散剤(c)を0.8~1.8質量部含有する。分散剤(c)をスチレン系樹脂組成物中に添加することにより、セルロースビーズ(b)とスチレン系樹脂(a)とを複合化する際に使用する押出機のヤケ、或いは目やに(いわゆる溶融樹脂カス)を防止し、成形外観をより向上させることができる。分散剤が所定量より少ないと、大きな効果が期待できなく、所定量より多いと大きな耐熱性が得られにくい。スチレン系樹脂(a)との親和性に優れる分散剤が、より大きな効果を示す傾向にある。
【0074】
本実施形態において、分散剤(c)としては、脂肪酸エステル系化合物、ポリエチレングリコール系化合物、テルペン系化合物、ロジン系化合物、脂肪酸アミド、脂肪酸系化合物、又は脂肪酸金属塩系等を用いることができる。とくに、分散剤(c)としては、脂肪酸エステル系化合物、ポリエチレングリコール系化合物、テルペン系化合物、及びロジン系化合物からなる群から選択される1種又は2種以上の化合物が好ましい。
【0075】
上記脂肪族エステル系化合物としては、ラウリン酸メチル、ミリスチン酸メチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、オレイン酸メチル、エルカ酸メチル、ベヘニン酸メチル、ラウリル酸ブチル、ステアリン酸ブチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸オクチル、ヤシ脂肪酸オクチルエステル、ステアリン酸オクチル、牛脂脂肪酸オクチルエステル、ラウリル酸ラウリル、ステアリン酸ステアリル、ベヘニン酸ベヘニル、ミリスチン酸セチル、炭素数28~30の直鎖状で分岐がない飽和モノカルボン酸(以下モンタン酸と略記する)とエチレングリコールのエステル、モンタン酸とグリセリンのエステル、モンタン酸とブチレングリコールのエステル、モンタン酸とトリメチロールエタンのエステル、モンタン酸とトリメチロールプロパンのエステル、モンタン酸とペンタエリスリトールのエステル、グリセリンモノステアレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレート、ソルビタンセスクイオレート、ソルビタントリオレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレート等が挙げられる。これらは、単独で使用しても、或いは2種以上を混合して使用してもよい。
【0076】
上記ポリエチレングリコール系化合物としては、特に制限されることはなく、例えば、ポリエチレングリコール類、ポリプロピレングリコール類、ポリエチレングリコールアルキルエーテル類、ポリプロピレングリコールアルキルエーテル類、ポリエチレングリコールアリールエーテル類、ポリプロピレングリコールアリールエーテル類、ポリエチレングリコールアルキルアリールエーテル類、ポリプロピレングリコールアルキルアリールエーテル類、ポリエチレングリコールグリセリンエステル、ポリプロピレングリコールグリセリンエステル類、ポリエチレンソルビトールエステル類、ポリプロピレングリコールソルビトールエステル類、ポリエチレングリコール化エチレンジアミン類、ポリプロピレングリコール化エチレンジアミン類、ポリエチレングリコール化ジエチレントリアミン類、ポリプロピレングリコール化ジエチレントリアミン類が挙げられる。
【0077】
上記テルペン系樹脂としては、通常、有機溶媒中でフリーデルクラフツ型触媒存在下、テルペン単量体単独、或いはテルペン単量体と芳香族単量体又はテルペン単量体とフェノール類を共重合して得られた樹脂をいうが、これらに限定されない。前記テルペン単量体としては、イソプレンなどの炭素数5のヘミテルペン類、α-ピネン、β-ピネン、ジペンテン、d-リモネン、ミルセン、アロオシメン、オシメン、α-フェランドレン、α-テルピネン、γ-テルピネン、テルピノーレン、1,8-シネオール、1,4-シネオール、α-テルピネオール、β-テルピネオール、γ-テルピネオール、サビネン、パラメンタジエン類、カレン類などの炭素数10のモノテルペン類、カリオフィレン、ロンギフォレンなどの炭素数15のセスキテルペン類、炭素数20のジテルペン類等が挙げられるがこれらに限定されない。これらの化合物の中で、α-ピネン、β-ピネン、ジペンテン、d-リモネンが特に好ましく用いられる。前記芳香族単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、イソプロペニルトルエン等が挙げられるが、これらに限定されない。また、前記フェノール類としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、ビスフェノールA等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0078】
また、得られたテルペン系樹脂を水素添加処理して得られた水素添加テルペン系樹脂であってもよい。例えば、好ましいテルペン系樹脂としては、α-ピネン樹脂、β-ピネン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、水添テルペン樹脂等のテルペン系樹脂が挙げられる。テルペン系樹脂は、単独で使用しても、或いは2種以上を混合して使用してもよい。
【0079】
上記ロジン系樹脂としては、例えば、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等のロジンの他、前記ロジンを不均化もしくは水素添加処理した安定化ロジン、前記ロジンの多量体である重合ロジン(典型的には二量体)、マレイン酸、フマル酸、(メタ)アクリル酸等の不飽和酸により変性された変性ロジン等が挙げられる。また、ロジン誘導体樹脂としては、前記ロジン系樹脂のエステル化物、フェノール変性物及びそのエステル化物等が挙げられる。ロジン系樹脂は、単独で使用しても、或いは2種以上を混合して使用してもよい。尚、本発明で使用されるロジン系樹脂又はロジン誘導体樹脂は、これらの樹脂に限定されるものではない。
【0080】
上記脂肪族アミドとしては、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘニン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスラウリル酸アミド等が挙げられる。これらは単独で使用しても、或いは2種以上を混合して使用してもよい。
【0081】
上記脂肪酸系化合物のうち飽和脂肪酸としては、具体的には、ラウリン酸(ドデカン酸)、イソデカン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸(テトラデカン酸)、ペンタデシル酸、パルミチン酸(ヘキサデカン酸)、マルガリン酸(ヘプタデカン酸)、ステアリン酸(オクタデカン酸)、イソステアリン酸、ツベルクロステアリン酸(ノナデカン酸)、2-ヒドロキシステアリン酸、アラキジン酸(イコサン酸)、ベヘン酸(ドコサン酸)、リグノセリン酸(テトラドコサン酸)、セロチン酸(ヘキサドコサン酸)、モンタン酸(オクタドコサン酸)、メリシン酸等が挙げられ、特に、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、12-ヒドロキシステアリン酸及びモンタン酸等が挙げられる。これらは単独で使用しても、或いは2種以上を混合して使用してもよい。
【0082】
上記脂肪酸系化合物のうち不飽和脂肪酸としては、具体的には、ミリストレイン酸(テトラデセン酸)、パルミトレイン酸(ヘキサデセン酸)、オレイン酸(cis-9-オクタデセン酸)、エライジン酸(trans-9-オクタデセン酸)、リシノール酸(オクタデカジエン酸)、バクセン酸(cis-11-オクタデセン酸)、リノール酸(オクタデカジエン酸)、リノレン酸(9,11,13-オクタデカトリエン酸)、エレステアリン酸(9,11,13-オクタデカトリエン酸)、ガドレイン酸(イコサン酸)、エルカ酸(ドコサン酸)、ネルボン酸(テトラドコサン酸)等が挙げられる。これらは単独で使用しても、或いは2種以上を混合して使用してもよい。
【0083】
脂肪酸金属塩としては、上記脂肪酸系化合物の脂肪酸のリチウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、亜鉛塩、及びアルミニウム塩等が挙げられる。これらは単独で使用しても、或いは2種以上を混合して使用してもよい。
【0084】
<任意添加成分>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、上記(a)~(c)成分の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて公知の添加剤、加工助剤等の添加成分を添加することができる。これら添加剤及び加工助剤等としては、酸化防止剤、耐候剤、帯電防止剤、充填剤等が挙げられる。
【0085】
上記酸化防止剤としては、フェノール系化合物、リン系化合物、チオエーテル系化合物等が挙げられる。
【0086】
上記フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、2,6-ジフェニル-4-オクタデシロキシフェノール、ジステアリル(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ホスホネート、1,6-ヘキサメチレンビス〔(3,5-ジ-tertブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸アミド〕、4,4’-チオビス(6-tert-ブチル-m-クレゾール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(6-tert-ブチル-m-クレゾール)、2,2’-エチリデンビス(4,6―ジ-tert-ブチルフェノール)、2,2’-エチリデンビス(4-sec-ブチル-6-tert-ブチルフェノール)、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタン、1,3,5-トリス(2,6-ジメチル-3-ヒドロキシ-4-tert-ブチルベンジル)イソシアヌレート、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-2,4,6-トリメチルベンゼン、2-tert-ブチル-4-メチル-6-(2-アクリロイルオキシ-3-tert-ブチル-5-メチルベンジル)フェノール、ステアリル〔3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、テトラキス〔3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸メチル〕メタン、チオジエチレングリコールビス〔(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6-ヘキサメチレンビス〔(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、ビス〔3,3-ビス(4-ヒドロキシ-3-tert-ブチルフェニル)ブチリックアシッド〕グリコールエステル、ビス〔2-tert-ブチル-4-メチル-6-(2-ヒドロキシ-3-tert-ブチル-5-メチルベンジル)フェニル〕テレフタレート、1,3,5-トリス〔(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシエチル〕イソシアヌレート、3,9-ビス〔1,1-ジメチル-2-{(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル〕-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン、トリエチレングリコールビス〔(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート〕等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0087】
上記リン系酸化防止剤としては、例えば、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス〔2-tert-ブチル-4-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニルチオ)-5-メチルフェニル〕ホスファイト、トリデシルホスファイト、オクチルジフェニルホスファイト、ジ(デシル)モノフェニルホスファイト、ジ(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジ(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4,6-トリ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、テトラ(トリデシル)イソプロピリデンジフェノールジホスファイト、テトラ(トリデシル)-4,4’-n-ブチリデンビス(2-tert-ブチル-5-メチルフェノール)ジホスファイト、ヘキサ(トリデシル)-1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタントリホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ビフェニレンジホスホナイト、9,10-ジハイドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナンスレン-10-オキサイド、2,2’-メチレンビス(4,6-tert-ブチルフェニル)-2-エチルヘキシルホスファイト、2,2’-メチレンビス(4,6-tert-ブチルフェニル)-オクタデシルホスファイト、2,2’-エチリデンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)フルオロホスファイト、トリス(2-〔(2,4,8,10-テトラキス-tert-ブチルジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピン-6-イル)オキシ〕エチル)アミン、2-エチル-2-ブチルプロピレングリコールと2,4,6-トリ-tert-ブチルフェノールのホスファイト等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0088】
上記チオエーテル系酸化防止剤としては、例えば、チオジプロピオン酸ジラウリル、チオジプロピオン酸ジミリスチル、チオジプロピオン酸ジステアリル等のジアルキルチオジプロピオネート類、及びペンタエリスリトールテトラ(β-アルキルメルカプトプロピオン酸エステル類が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0089】
上記耐候剤としては、紫外線吸収剤やヒンダードアミン光安定剤等を用いることができる。当該紫外線吸収剤としては、例えば、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-オクトキシベンゾフェノン、5,5’-メチレンビス(2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン)等の2-ヒドロキシベンゾフェノン類;2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾ-ル、2-(2’-ヒドロキシ-3’-tert-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾ-ル、2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジクミルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2,2’-メチレンビス(4-tert-オクチル-6-(ベンゾトリアゾリル)フェノール)、2-(2’-ヒドロキシ-3’-tert-ブチル-5’-カルボキシフェニル)ベンゾトリアゾール等の2-(2’-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール類;フェニルサリシレート、レゾルシノールモノベンゾエート、2,4-ジ-tert-ブチルフェニル-3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート、2,4-ジ-tert-アミルフェニル-3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート、ヘキサデシル-3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート等のベンゾエート類;2-エチル-2’-エトキシオキザニリド、2-エトキシ-4’-ドデシルオキザニリド等の置換オキザニリド類;エチル-α-シアノ-β、β-ジフェニルアクリレート、メチル-2-シアノ-3-メチル-3-(p-メトキシフェニル)アクリレート等のシアノアクリレート類;2-(2-ヒドロキシ-4-オクトキシフェニル)-4,6-ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-s-トリアジン、2-(2-ヒドロキシ-4-メトキシフェニル)-4,6-ジフェニル-s-トリアジン、2-(2-ヒドロキシ-4-プロポキシ-5-メチルフェニル)-4,6-ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-s-トリアジン等のトリアリールトリアジン類が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0090】
上記ヒンダードアミン系光安定剤としては、例えば、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルステアレート、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルステアレート、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルベンゾエート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1-オクトキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)・ジ(トリデシル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)・ジ(トリデシル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、ビス(1,2,2,4,4-ペンタメチル-4-ピペリジル)-2-ブチル-2-(3,5-ジ第3ブチル-4-ヒドロキシベンジル)マロネート、1-(2-ヒドロキシエチル)-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジノ-ル/コハク酸ジエチル重縮合物、1,6-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルアミノ)ヘキサン/2,4-ジクロロ-6-モルホリノ-s-トリアジン重縮合物、1,6-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルアミノ)ヘキサン/2,4-ジクロロ-6-第3オクチルアミノ-s-トリアジン重縮合物、1,5,8,12-テトラキス〔2,4-ビス(N-ブチル-N-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)アミノ)-s-トリアジン-6-イル〕-1,5,8,12-テトラアザドデカン、1,5,8,12-テトラキス〔2,4-ビス(N-ブチル-N-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)アミノ)-s-トリアジン-6-イル〕-1,5,8-12-テトラアザドデカン、1,6,11-トリス〔2,4-ビス(N-ブチル-N-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)アミノ)-s-トリアジン-6-イル〕アミノウンデカン、1,6,11-トリス〔2,4-ビス(N-ブチル-N-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)アミノ)-s-トリアジン-6-イル〕アミノウンデカン等のヒンダードアミン化合物が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0091】
上記帯電防止剤としては、カチオン系、アニオン系、ノニオン系、両性系、グリセリン脂肪酸モノエステル等の脂肪酸部分エステル類等を用いることができる。
【0092】
具体的には、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、ベンザルコニウム塩、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-N-(3-ドデシルオキシ-2-ヒドロキシプロピル)メチルアンモニウムメソスルフェート、(3-ラウリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムメチルスルフェート、ステアロアミドプロピルジメチル-2-ヒドロキシエチルアンモニウム硝酸塩、ステアロアミドプロピルジメチル-2-ヒドロキシエチルアンモニウムリン酸塩、カチオン性ポリマー、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、アルキル硝酸エステル塩、リン酸アルキルエステル塩、アルキルホスフェートアミン塩、ステアリン酸モノグリセリド、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ジグリセリン脂肪酸エステル、アルキルジエタノールアミン、アルキルジエタノールアミン脂肪酸モノエステル、アルキルジエタノールアミド、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド、ポリエーテルブロックコポリマー、セチルベタイン、ヒドロキシエチルイミダゾリン硫酸エステル等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0093】
上記充填剤としては、タルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、炭素繊維、マイカ、ワラストナイト、ウィスカ等を用いることができる。
【0094】
その他、ブロッキング防止剤、着色剤、ブルーミング防止剤、表面処理剤、抗菌剤、目ヤニ防止剤(特開2009-120717号公報に記載のシリコーンオイル、高級脂肪族カルボン酸のモノアミド化合物、及び高級脂肪族カルボン酸と1価~3価のアルコール化合物とを反応させてなるモノエステル化合物等の目やに防止剤)等の任意添加成分を添加してもよい。
【0095】
添加剤及び加工助剤等の任意添加成分の合計含有量は、スチレン系樹脂組成物中、0.05~5質量%としてよい。
【0096】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、実質的に(a)成分~(c)成分及び任意添加成分のみからなっていてもよい。また、(a)成分~(c)成分のみ、又は(a)成分~(c)成分及び任意添加成分のみからなっていてもよい。
【0097】
「実質的に(a)成分~(c)成分及び任意添加成分のみからなる」とは、スチレン系樹脂組成物の95~100質量%(好ましくは98~100質量%)が(a)成分~(c)成分であるか、又は(a)成分~(c)成分及び任意添加成分であることを意味する。
【0098】
尚、本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で(a)成分~(c)成分及び任意添加成分の他に不可避不純物を含んでいてもよい。
【0099】
[スチレン系樹脂組成物の物性]
<線膨張係数>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物から得られた成形体の線膨張係数は、6×10-5/℃以下であることが好ましく、より好ましくは5×10-5/℃以下である。また、MD方向(成形時の流れ方向)とTD方向(MD方向の垂直方向)の線膨張係数の比(TD/MD比)が0.8~1.3であることが好ましく、より好ましくは0.9~1.2である。線膨張係数が6×10-5/℃より大きいと、熱膨張により、製品に不具合を生じたり、金属などとの接着する製品では金属が剥がれたりすることがある。また、TD/MD比が範囲外であると製品が熱により反ってしまうことがある。なお本開示で、線膨張係数はJIS K7197のTMA法に準拠して測定される値である。また、本実施形態のスチレン系樹脂組成物を用いて製造する成形体における寸法精度は、線膨張係数の値により評価する。
【0100】
<メルトフローレート(MFR)>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物のメルトフローレートは、1グラム/10分以上であることが好ましく、より好ましくは2グラム/10分以上である。1グラム/10分未満では、流動性が低く、加工温度を上げる必要があり、(b)多孔質セルロースビーズが劣化による物性低下又は成形品が変色してしまう恐れがある。
【0101】
なお本開示で、メルトフローレートは、ISO1133に準拠して、温度200℃、荷重49Nの条件により測定される値である。
【0102】
<密度>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物から得られた成形体の真密度は、1.25以下であることが好ましく、より好ましくは1.20以下である。1.25より大きいと、製品の軽量化が不十分となる場合がある。
【0103】
なお本開示で、密度は、ISO1183に準拠して測定される値である。
【0104】
<曲げ弾性率>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物の曲げ弾性率は2500MPa以上であることが好ましく、より好ましくは3000MPa以上である。2500MPa未満であると製品の肉厚を薄くすることができず、軽量化できない。
【0105】
なお本開示で、曲げ弾性率は、ISO 178に準拠して測定される値である。
【0106】
[スチレン系樹脂組成物の製造方法]
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、各成分を任意の方法で溶融混練することによって製造することができる。例えば、ヘンシェルミキサーに代表される高速撹拌機、バンバリーミキサーに代表されるバッチ式混練機、単軸又は二軸の連続混練機、ロールミキサー等を単独で、又は組み合わせて用いる方法が挙げられる。混練の際の加熱温度は、通常、180~250℃の範囲で選択される。
【0107】
[成形品]
本発明の成形品は、上記のスチレン系樹脂組成物を含むことを特徴とする。
【0108】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、上記の溶融混練成形機により、或いは、得られたスチレン系樹脂組成物のペレットを原料として、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、ブロー成形法、プレス成形法、真空成形法、及び発泡成形法等により、成形品を製造することができる。
【0109】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物を含む成形品、特に射出成形品(射出圧縮を含む)は、複写機、ファックス、パソコン、プリンター、情報端末機、冷蔵庫、掃除機、電子レンジ等のOA機器、家庭電化製品、電気・電子機器のハウジングや各種部品、自動車の内装や外装部材、建設材料、発泡断熱材、絶縁フィルム等に好適に用いられる。
【実施例】
【0110】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明の実施形態を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0111】
<測定及び評価方法>
各実施例及び比較例で得られた樹脂組成物の物性の測定及び評価は、次の方法に基づいて行った。
【0112】
(1)スチレン系樹脂(a)中のスチレン単量体単位、メタクリル酸単量体単位、及びメタクリル酸メチル単量体単位の含有量
プロトン核磁気共鳴(1H-NMR)測定機で測定したスペクトルの積分比から、樹脂組成を定量した。
【0113】
・試料調製:樹脂ペレット30mgをd6-DMSO 0.75mLに60℃で4~6時間加熱溶解した。
【0114】
・測定機器:日本電子(株)製 JNM ECA-500
・測定条件:測定温度25℃、観測核1H、積算回数64回、繰り返し時間11秒。
【0115】
(スペクトルの帰属)
ジメチルスルホキシド重溶媒中で測定されたスペクトルの帰属について、0.5~1.5ppmのピークは、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、及び六員環酸無水物のα-メチル基の水素由来のピーク、1.6~2.1ppmのピークはポリマー主鎖のメチレン基の水素由来のピーク、3.5ppmのピークはメタクリル酸メチルのカルボン酸エステル(-COOCH3)の水素由来のピーク、12.4ppmのピークはメタクリル酸のカルボン酸の水素由来のピークである。また、6.5~7.5ppmのピークはスチレンの芳香族環の水素由来のピークである。なお、本実施例及び比較例の樹脂では六員環酸無水物の含有量が少ないため、本測定方法では通常定量化は難しい。
【0116】
(2)スチレン系樹脂(a)の重量平均分子量
スチレン系樹脂(a)の重量平均分子量を、下記の条件や手順で測定した。
【0117】
・試料調製:テトラヒドロフランに樹脂を約0.05質量%で溶解させた。
【0118】
・測定条件
機器:TOSOH HLC-8220GPC
(ゲルパーミエイション・クロマトグラフィー)
カラム :super HZM-H
温度 :40℃
キャリア :THF 0.35mL/min
検出器 :RI、UV:254nm
検量線 :TOSOH製の標準PSを使用して作製。
【0119】
(3)線膨張係数
線膨張係数(/℃)は、後述の方法で作製した試験片(a)の中央部を10×5×4mmの大きさにMD方向、TD方向で切削加工し、JIS K7197のTMA法(-30℃~80℃)に準拠してMD方向とTD方向を測定した。
【0120】
(4)メルトフローレート(MFR)
スチレン系樹脂(a)のメルトマスフローレート(g/10分)は、ISO 1133に準拠して測定した(200℃、荷重49N)。
【0121】
(5)密度
密度は、後述の方法で作製した試験片(a)を用いて、ISO1183に準拠し、測定した。
【0122】
(6)曲げ弾性率
曲げ弾性率(MPa)は、後述の方法で作製した試験片(a)を用いて、ISO 178に準拠して測定した。
【0123】
(7)表面外観
表面外観は、後述の方法で作製した試験片(b)の一方の表面を観察し、開口が0.1mm以上の寸法の凹みが10個未満存在する場合を「合格:○」とし、20個以上存在する場合を「不良;×」と評価した。
【0124】
実施例及び比較例で用いた各材料は下記の通りである。
【0125】
[スチレン系樹脂(a)]
[GPPS]
・MFR7.8のポリスチレン(GPPS、PSジャパン社製、HF77)を用いた。
【0126】
[ゴム変性ポリスチレン系樹脂(HIPS)]
・MFR3.0のポリスチレン(HIPS、PSジャパン社製、HT478)を用いた。
【0127】
[スチレン系共重合樹脂]
スチレン(ST)70.0質量部、メタクリル酸ブチル(BA)15.0質量部、エチルベンゼン15.0質量部、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.025質量部から成る重合原料組成液を、1.1リットル/時の速度で、容量が4リットルの完全混合型反応器に、次いで、容量が2リットルの層流型反応器から成る重合装置に、さらに、未反応モノマー、重合溶媒等の揮発分を除去する単軸押出機を連結した脱揮装置に、連続的に順次供給し、スチレン系共重合樹脂である共重合樹脂(1)を調製した。
【0128】
重合工程における重合反応条件は、完全混合反応器は重合温度122℃、層流型反応器は重合温度120~142℃とした。脱揮された未反応ガスは、-5℃の冷媒を通した凝縮器で凝縮し、未反応液として回収した。
【0129】
最終重合液中のポリマー分は、重合液を215℃、2.5kPaの減圧下で30分間乾燥後、式[(乾燥後の試料質量/乾燥前の試料質量)×100%]により測定したところ、65.6質量%であり、MFRは4.6であった。
【0130】
[ブレンド―1]
・上記HIPS(HT478)にスチレン無水マレイン酸(SMA)共重合体(POLYSCOPE社製、XIBOND250)を5質量%配合させたものであり、MFRは3.8であった。
【0131】
[ブレンド―2]
・上記のスチレン系共重合樹脂にスチレン無水マレイン酸(SMA)共重合体(POLYSCOPE社製、XIBOND250)を5質量%配合させたものであり、MFRは5.0であった。
【0132】
[セルロースビーズ(b-1)]
セルロース濃度9.0%、粘度4,500センチポイズ、塩化アンモニウム価8.5、アルカリ濃度6.1%のビスコース400gと炭酸カルシウム(株式会社カルファイン製KS800平均粒径7.8μm)37gを12ビーカーに入れて撹拌機にて700rpmで20分間撹拌を行うことにより、ビスコース液を調製した。当該ビスコース液をビーカーより吸引、加圧して、ノズルから噴霧し、そのまま塩酸中に落としてビスコースを凝固させて、その後脱硫、洗浄及び乾燥を行うことによりセルロースビーズ(b-1)を調製した。また、当該セルロースビーズ(b-1)の平均粒径は60μmであり、嵩比重0.8であり、アスペクト比(最大直径/最小直径))が1.0~1.5の範囲内であり、α―セルロース量は95%であった。
【0133】
[セルロースビーズ(多孔質体)(b-2)]
セルロース濃度9.0%、粘度4,500センチポイズ、塩化アンモニウム価8.5、アルカリ濃度6.1%のビスコース400gと炭酸カルシウム(株式会社カルファイン製KS800平均粒径7.8μm) 37gを12ビーカーに入れて撹拌機にて700rpmで20分間撹拌を行うことにより、炭酸カルシウムを含有するビスコース液を調製した。当該ビスコース液をビーカーより吸引、加圧し、ノズルから噴霧し、そのまま塩酸中に落としてビスコースを凝固させるとともに、炭酸カルシウムの反応による発泡を生じさせ、その後脱硫、洗浄並びに乾燥を行うことにセルロースビーズ(b-2)を調製した。また、当該セルロースビーズ(b-2)は多孔質体であり、セルロースビーズ(b-2)の平均粒径85μmであり、アスペクト比(最大直径/最小直径))が1.0~1.5の範囲内であり、嵩比重0.3であり、α―セルロース量は95%であった。
【0134】
[セルロースファイバー(比較)]
・セルロースファイバー(セライト社製、SW-10、平均太さ20μm、平均長700μm、嵩比重1.5)
[分散剤]
・脂肪酸エステル:グリセリンモノステアレート(理研ビタミン社製:S‐100)
・テルペン:芳香族変性テルペン樹脂(ヤスハラケミカル社製:YSレジンTO-105)
[添加剤]
(フェノール系酸化防止剤)
・3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸ステアリル(BASF社製、Irganox1076)
(リン系酸化防止剤)
・トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト(BASF社製株式会社、Irgafos168)
[実施例1~10]
表1に示す組成比で各成分を添加し、(a)~(c)成分100質量部に対して、酸化防止剤として、Irganox1076とIrgafos168とをそれぞれ0.2質量部ずつ添加後、予備混合した。得られた予備混合物を一括混合し、二軸押出機(東芝機械社製、TEM-26SS)を用い、180℃~220℃の範囲で溶融押出を行い、混練物としてスチレン系樹脂組成物のペレットを得た。この際、スクリュー回転数は150rpm、吐出量は10kg/hrであった。このようにして得られたペレットを、ISO規格試験片タイプ(a)金型を備え付けた日本製鋼所社製の射出成形機を用い、シリンダー温度220℃、金型温度50℃、射出圧力(ゲージ圧40-60MPa)、射出速度(パネル設定値)50%、射出時間/冷却時間=5sec/20secで成形して試験片(a)を作製した。得られた試験片(a)を用いて、線膨張係数、密度、曲げ弾性率を評価した。
【0135】
さらに同様に、50×120mmで厚さ1mmの(b)金型を備え付けた日本製鋼所社製の射出成形機を使用して、上記と同様の条件で成形し、試験片(b)を作製した。その後、得られた試験片(b)を用いて成形品外観との評価を行った。これらの評価結果を表1に示す。
【0136】
【0137】
[比較例1~7]
比較例1~11は、表2に示すように組成を変更したこと以外は実施例1と同様に実施した。各物性の測定及び評価の結果を表2に示す。
【0138】
【0139】
表1に示すように、実施例1~10は、線膨張係数が低く、TD/MD比が1に近く異方性が少ない。そのため、実施例1~10の寸法精度は良好であると考えられる。さらに流動性の低下が少なく、軽量高剛性化が可能であることがわかる。特に多孔質セルロースビーズを使用すると同じ重量を添加した場合、組成物自体の体積分率が高くなるため、その効果が高いことがわかる。
【0140】
一方、表2に示す比較例1~3の結果から、セルロースビーズを含有しないと線膨張係数は大きく、弾性率が低いことが確認される。また、比較例3~6のように、セルロースビーズの代わりにセルロースファイバーに変更すると異方性が大きくなる。また、流動性と成形品の表面外観が劣る。さらに比較例7のようにセルロースビーズを所定量より多く添加すると、球状のセルロースビーズにより滑ってしまいポリスチレンが溶融し難くなりコンパウンドでペレットを作製できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明のスチレン系樹脂組成物を含む成形品は、包材、建材、電子・電気部品、自動車等に好適に使用することができる。