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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】ゴム組成物、及びタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 7/00 20060101AFI20240423BHJP
   C08L 15/00 20060101ALI20240423BHJP
   C08L 53/02 20060101ALI20240423BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20240423BHJP
   C08L 9/06 20060101ALI20240423BHJP
   C08F 297/04 20060101ALI20240423BHJP
   C08C 19/02 20060101ALI20240423BHJP
   C08C 19/22 20060101ALI20240423BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
C08L7/00
C08L15/00
C08L53/02
C08K3/36
C08L9/06
C08F297/04
C08C19/02
C08C19/22
B60C1/00 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020131541
(22)【出願日】2020-08-03
(65)【公開番号】P2022028238
(43)【公開日】2022-02-16
【審査請求日】2023-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】角谷 省吾
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-248203(JP,A)
【文献】国際公開第2003/085010(WO,A1)
【文献】特開2018-002986(JP,A)
【文献】特開2018-095842(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0371383(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 7/00-21/00
C08L 53/02
C08K 3/36
C08F 297/04
C08C 19/02
C08C 19/22
B60C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨウ素価が10~200であり、エチレン構造の含有量が3質量%以上であり、芳香族ビニル単量体ブロックの含有量が10質量%未満であり、かつ共役ジエン単量体単位の含有量が2質量%以上であるゴム状重合体を10質量部以上、90質量部以下と、
天然ゴムを10質量部以上90質量部以下と、含み、
ゴム状重合体と天然ゴムを含むゴム成分の総量が100質量部であり、
シリカ系無機充填剤を60質量部以上120質量部以下含む、
ゴム組成物。
【請求項2】
前記ゴム状重合体の溶解度パラメータ(SP値)が、16.8(MPa)1/2以上、17.4(MPa)1/2以下である、
請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記ゴム状重合体のガラス転移温度(Tg)が、-35℃以下である、
請求項1または2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記ゴム状重合体が共役ジエン系重合体であって、芳香族ビニル単量体単位を5質量%以上40質量%以下含み、前記共役ジエン単量単位中の1,2-ビニル結合量が10mol%以上60mol%以下である、
請求項1~3のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記ゴム状重合体が、窒素原子を含有する、
請求項1~4のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項6】
前記ゴム状重合体の変性率が、40質量%以上である、
請求項5に記載のゴム組成物。
【請求項7】
前記ゴム組成物が樹脂を含む、請求項1~6いずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のゴム組成物を含む、
タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物、及びタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ウインタータイヤにおいては、雪道での走行性能(雪上性能)の向上が求められ
ている。さらには地球環境負荷の低減化という社会的要請によって、タイヤの長寿命化に対する要求が高まっており、タイヤの耐摩耗性の向上が強く求められている。
従来から、タイヤのスノー性能向上のために、低温での弾性率を低減化し、雪上路面へのトレッドゴムの高い追従性を確保する目的として、充填剤の添加量の減量やオイルの添加量の増量、天然ゴムの添加といった方法が提案されている。しかしながらこのような方法は耐摩耗性の邸かを招く傾向にある、という問題を有している。
近年、タイヤトレッド、シート、フィルムおよびアスファルト改質用のゴム分野において、機械強度や圧縮永久歪みを高める目的で、エチレン構造を有し架橋可能な不飽和基を導入したゴム状重合体を含有するゴム組成物が提案されており、このようなゴム状重合体を含有することで、タイヤの耐摩耗性の向上も提案されている(例えば、特許文献1~4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】WO2003/085010号公報
【文献】WO2019/151126号公報
【文献】WO2019/151127号公報
【文献】WO2019/078083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、エチレン構造を有しおよび架橋可能な不飽和基を含有するゴム状重合体は、上記天然ゴムと相溶性が悪い傾向にあり、ゴム組成物中で相分離構造が生じることで、得られるタイヤに荷重がかかった際、応力が界面に集中することで耐亀裂性が悪化する傾向が見られる。
【0005】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされた発明であり、雪上性能と耐摩耗性に優れ、さらに耐亀裂性に優れたタイヤを得られるゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上述した従来技術の課題を解決するため鋭意検討した結果、ゴム状重合体のヨウ素価と、ゴム状重合体、天然ゴムおよび補強材としてのシリカ系無機充填剤の含有量を特定することにより、雪上性能と耐摩耗性のバランス向上が図られ、さらに優れた耐亀裂性が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
〔1〕
ヨウ素価が10~200であり、エチレン構造の含有量が3質量%以上であり、芳香族ビニル単量体ブロックの含有量が10質量%未満であり、かつ共役ジエン単量体単位の含有量が2質量%以上であるゴム状重合体を10質量部以上、90質量部以下と、
天然ゴムを10質量部以上90質量部以下と、含み、
ゴム状重合体と天然ゴムを含むゴム成分の総量が100質量部であり、
シリカ系無機充填剤を60質量部以上120質量部以下含む、
ゴム組成物。
〔2〕
前記ゴム状重合体の溶解度パラメータ(SP値)が、16.8(MPa)1/2以上、17.4(MPa)1/2以下である、
〔1〕に記載のゴム組成物。
〔3〕
前記ゴム状重合体のガラス転移温度(Tg)が、-35℃以下である、
〔1〕または〔2〕に記載のゴム組成物。
〔4〕
前記ゴム状重合体が共役ジエン系重合体であって、芳香族ビニル単量体単位を5質量%以上40質量%以下含み、前記共役ジエン単量単位中の1,2-ビニル結合量が10mol%以上60mol%以下である、
〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載のゴム組成物。
〔5〕
前記ゴム状重合体が、窒素原子を含有する、
〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載のゴム組成物。
〔6〕
前記ゴム状重合体の変性率が、40質量%以上である、
〔5〕に記載のゴム組成物。
〔7〕
前記ゴム組成物が樹脂を含む、〔1〕~〔6〕いずれか一項に記載のゴム組成物。
〔8〕
〔1〕~〔7〕のいずれか一項に記載のゴム組成物を含む、
タイヤ。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、雪上性能と耐摩耗性のバランスが良好で、耐亀裂性に優れたタイヤを得られるゴム組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施することができる。
【0010】
〔ゴム組成物〕
本実施形態のゴム組成物は、ヨウ素価が10~200であり、エチレン構造の含有量が3質量%以上であり、芳香族ビニル単量体ブロックの含有量が10質量%未満であり、かつ共役ジエン単量体単位の含有量が2質量%以上であるゴム状重合体を10質量部以上、90質量部以下と、天然ゴムを10質量部以上90質量部以下とを含み、ゴム状重合体と天然ゴムを含むゴム成分の総量が100質量部であり、補強材としてシリカを60質量部以上120質量部以下含むことを特徴とする。
【0011】
本実施形態のゴム状重合体は、加硫物として好適に用いられる。加硫物は、例えば本実施形態のゴム状重合体をシリカやカーボンブラック等の無機充填剤、本実施形態のゴム状重合体以外のゴム成分、シランカップリング剤、ゴム用軟化剤、ワックス、加硫剤、加硫促進剤、加硫助剤と混合して、ゴム組成物とした後、加熱して加硫することにより得ることができる。以下、各成分について詳説する。
【0012】
〔ゴム状重合体〕
本実施形態のゴム状重合体は、少なくとも共役ジエン単量体を共重合した後に共役ジエン単量体単位の一部を水素添加するか、少なくともエチレンと共役ジエン単量体とを共重合して得られることが好ましい。これにより、エチレン構造と共役ジエン単量体単位とを含むゴム状重合体を得ることができる。
【0013】
また、ゴム状重合体は、必要に応じて、芳香族ビニル単量体単位を含んでいてもよい。この場合、少なくとも共役ジエン単量体と芳香族ビニル単量体を共重合した後に共役ジエン単量体単位の一部を水素添加するか、少なくともエチレンと共役ジエン単量体と芳香族ビニル単量体とを共重合して得ることができる。さらに、ゴム状重合体は、その他の単量体単位をさらに含んでいてもよい。
【0014】
なお、本実施形態において「単量体」とは、重合前の化合物を言い、「単量体単位」とは重合体を構成する構成単位をいう。また、「エチレン構造」には、共役ジエン単量体単位の二重結合部分の一部を水素添加することにより生じるものと、単量体としてエチレンを用いた場合のエチレン単量体単位の両方を含む。
【0015】
共役ジエン単量体を重合した後に水素添加する方法としては、WO96/05250号広報、特開2000-053706号広報、WO2003/085010号広報、WO2019/151126号広報やWO2019/151127号広報、WO2002/002663号広報、WO2015/006179号広報に記載されているように、種々の添加剤や条件のもとに、アニオン重合で共役ジエン単量体を重合、必要に応じてその他の単量体と共重合した後に水素添加する方法が好ましい。
【0016】
共役ジエン単量体としては、特に制限されないが、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、3-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、及び1,3-ヘプタジエンが挙げられる。これらの中でも、工業的入手の容易さの観点から、1,3-ブタジエンやイソプレンが好ましく。1,3-ブタジエンが最も好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0017】
また、芳香族ビニル単量体は、特に制限されないが、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o,p-ジメチルスチレン、o-エチルスチレン、 m-エチルスチレン、p-エチルスチレン、α-メチルスチレン、ビニルエチルベンゼン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン、及びジフェニルエチレンが挙げられる。これらの中でも、工業的入手の容易さの観点から、スチレンが好ましい。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。このような芳香族ビニル単量体に基づく構成単位を含むことにより、タイヤにした時の破壊強度や省燃費性やウェットスキッド抵抗性や耐摩耗性のバランスがより向上する傾向にある。
【0018】
また、その他の単量体としては、特に制限されないが、例えば、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン、ビニルノルボルネン、ジビニルベンゼンなどの非共役ポリエン化合物単量体;ジシクロペンタジエン、ビニルノルボルネン、エチリデンノルボルネン等の環状非共役ポリエン化合物単量体が挙げられる。このようなその他の単量体を用いることにより、タイヤに用いた時の破壊強度や省燃費性やウェットスキッド抵抗性や耐摩耗性のバランスがより向上する傾向にある。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0019】
少なくともエチレンと共役ジエン単量体を共重合体する方法としては、WO2019/078083号広報、WO2019/171679号広報、WO2019/142501号広報に記載されている方法が好ましい。種々の添加剤や条件のもとに、配位重合で、エチレン、共役ジエン単量体、必要に応じて、他の単量体を添加して共重合する方法が好ましい。共役ジエン単量体としては、上記の共役ジエン単量体例と同じである。
【0020】
本実施形態のゴム状重合体のヨウ素価は、10以上であり、15以上が好ましく、30以上がより好ましく、50以上がさらに好ましく、70以上がさらに好ましい。ヨウ素価が10以上であることにより、架橋のしやすさや、タイヤにしたときの省燃費性や雪上性能がより向上する。一方、ゴム状重合体のヨウ素価は、200以下であり、170以下が好ましく、140以下がより好ましく、110以下がさらに好ましく、80以下が最も好ましい。ヨウ素価が200以下であることにより、タイヤにしたときの耐摩耗性がより向上する。
【0021】
ヨウ素価は、「JIS K 0070:1992」に記載の方法に準じて測定することができる。ヨウ素価は、対象となる物質100gと反応するハロゲンの量をヨウ素のグラム数に換算して表す値であるので、ヨウ素価の単位は「g/100g」である。
【0022】
本実施形態のゴム状重合体のヨウ素価は、共役ジエン単量体単位に含まれる二重結合の量によって調整することができる。後述するゴム状重合体の製造方法において、例えば、共役ジエン単量体と芳香族ビニル単量体とを共重合した場合は、共役ジエン単量体の含有量が低い方がヨウ素価は低くなり、また、共役ジエン単量を水素添加する場合は、水素添加率が高い方が、ヨウ素価は低くなる傾向にある。
【0023】
本実施形態のゴム状重合体に含まれるエチレン構造の含有量は3質量%以上であり、5質量%以上が好ましい。エチレン構造が3質量%以上であることにより、耐摩耗性が優れる。また、エチレン構造の含有量は、好ましくは90質量%以下であり、80質量%以下がより好ましい。エチレン構造の含有量が90質量%以下であることにより、ゴム弾性がより向上する傾向にある。
【0024】
ゴム状重合体は、芳香族部と共役ジエン部とを有するジエン系共重合体に対して水素添加反応を行うことで、共役ジエン部中の二重結合部分の一部をエチレン部とすることにより製造してもよいし、芳香族ビニル化合物と、共役ジエン化合物と、エチレンとをランダム共重合して製造してもよい。このなかでも、製造コストの観点から、ゴム状重合体はジエン系共重合体を水素添加反応に供して得ることが好ましい。ジエン系共重合体の水素添加物におけるエチレン部の含有量は、エチレンの添加量、または共役ジエン化合物とその水素添加率を制御することで、エチレン構造を3質量%以上に制御することができる。
【0025】
なお、本実施形態において、芳香族ビニル化合物に基づく構成単位を「芳香族部」ともいい、共役ジエン化合物に基づく構成単位を、「共役ジエン部」ともいい、エチレン構造を「エチレン部」ともいうことがある。
【0026】
本実施形態のゴム状重合体に含まれる芳香族ビニル単量体ブロックの含有量は10質量%未満であり、7質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、3質量%以下がさらに好ましい。芳香族ビニル単量体ブロックの含有量が10質量%未満であることにより、タイヤにした時の省燃費性がより向上する。芳香族ビニル単量体ブロックの含有量の下限は制限されないが、1質量%以上とすることができる。
【0027】
なお、本実施形態において、「芳香族ビニル単量体ブロック」とは、芳香族ビニル単量体単位が8以上連鎖している構造をいう。タイヤにした時の省燃費性の観点から、本実施形態のゴム状重合体においてはこのような芳香族ビニル単量体ブロックの数が、少ないか又はないことが好ましい。
【0028】
芳香族ビニル単量体ブロックの測定方法は、特に制限されないが、例えば、ゴム状重合体がブタジエン-スチレン共重合体の場合、Kolthoffの方法(I.M.KOLTHOFF,et al.,J.Polym.Sci.1,429(1946)に記載の方法)により重合体を分解し、メタノールに不溶なポリスチレン量を分析することができる。その他の方法として、WO2014-133097号公報に記載されているように、NMRを用いてスチレン単位の連鎖を測定すること等の公知の方法で測定できる。
【0029】
本実施形態のゴム状重合体に含まれる共役ジエン単量体単位の含有量は、2質量%以上であり、好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは6質量%以上である。共役ジエン単量体単位が有する二重結合は、架橋可能な不飽和基となることができる。ゴム状重合体中の共役ジエン単量体単位の含有量は、ヨウ素価と密接に関係している。共役ジエン単量体単位の含有量が2質量%以上であることにより、架橋のしやすさ、および、タイヤにした時の省燃費性や雪上性能の点で優れる。また、共役ジエン単量体単位の含有量は、好ましくは50質量%以下であり、より好ましく30質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以下である。共役ジエン単量体単位の含有量が50質量%以下であることにより、タイヤにした時の耐摩耗性が優れる傾向にある。
【0030】
本実施形態のゴム状重合体は、芳香族ビニル単量体単位を含むことが好ましい。芳香族ビニル単量体単位の含有量は、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは7質量%以上であり、さらに好ましくは9質量%以上である。芳香族ビニル単量体単位の含有量が5質量%以上であることにより、タイヤにしたときの操縦安定性に優れる傾向にある。また、芳香族ビニル単量体単位の含有量は、40質量%以下であることが好ましく、35質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましい。芳香族ビニル単量体単位の含有量が40質量%以下であることにより、タイヤにしたときの省燃費性がより向上する傾向にある。
【0031】
また、タイヤにしたときのブレーキ性能に優れる観点から、本実施形態のゴム状重合体における共役ジエン単量単位中の1,2-ビニル結合量が10mol%以上であることが好ましく、20質量%であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましい。また、タイヤにしたときの省燃費性に優れる観点から、共役ジエン単量単位中の1,2-ビニル結合量は、60mol%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることがさらに好ましい。
【0032】
ゴム状重合体と天然ゴムを含むゴム成分の総量を100質量部としたとき、ゴム状重合体の含有量は、10質量部以上であり、好ましくは20質量部以上、より好ましくは30質量部以上である。ゴム状重合体の含有量が10質量部以上であることにより、タイヤにしたときの省燃費性、耐摩耗性に優れる。また、タイヤにしたときの雪上性能を向上させる観点から、ゴム状重合体の含有量は、90質量部以下であり、好ましくは70質量部以下、より好ましくは50質量部以下、さらに好ましくは40質量部以下である。
【0033】
なお、以下「質量部」で表す値は、特に断りがなければ、ゴム状重合体と天然ゴムを含むゴム成分の総量を100質量部とした場合の値とする。
【0034】
また、本実施形態のゴム組成物に含まれるゴム成分の種類や含有比率を同定する手法は特に限定されないが、NMRを用いることで同定することができる。例えば既報(JSR TECHNICAL REVIEW No.126/2019)には、固体13C-C-NMRを用いることで、共役ジエン系重合体組成物中に含まれるスチレンユニット、1,2-ビニル、1,4-ビニル、1,4-シス結合、やイソプレンユニットの比率を定量的に算出することができる。
【0035】
本実施形態のゴム状重合体は、溶解度パラメータ(以下、SP値とする)は、16.8(MPa)1/2以上、17.4(MPa)1/2以下であることが好ましい。ゴム状重合体のSP値が上記の範囲内であることにより、ゴム状重合体と天然ゴム(SP値:17.19(MPa)1/2)との相溶性が向上し、加硫物とした際にシリカが均一に分散することでシリカ粒子同士の摩擦が低減し、省燃費性が向上する傾向にある。
【0036】
さらにタイヤにしたときの耐亀裂性向上の観点から、ゴム状重合体のSP値は、17.0(MPa)1/2以上、17.2(MPa)1/2以下がより好ましい。ゴム状重合体のSP値を17.0(MPa)1/2以上とすることで、天然ゴムと相溶化して界面が消失し、タイヤにした際に応力集中が抑制され、耐亀裂性が向上する傾向にある。
【0037】
上記ゴム状重合体のSP値は、(SP値)=((モル凝集エネルギー)/(モル容積))1/2の式から算出される。ゴム状重合体が異なる2種類以上の単量体から構成される場合、モル凝集エネルギーは加成性が成立する。そのため、ゴム状重合体のモル凝集エネルギーは、各成分の含有率(モル%)によるモル凝集エネルギーの平均値(含有率に応じて按分した平均値)として算出される。モル容積もモル凝集エネルギーと同様に、加成性が成立し、ゴム状重合体のモル容積は、各成分の含有率(モル%)によるモル容積の平均値(含有率に応じて按分した平均値)として算出される。
【0038】
異なる2種類以上の成分とは、特に限定されないが、水素未添加の1,2-結合、水素添加後の1,2-結合、水素未添加の3,4-結合、水素添加後の3,4-結合、水素未添加の1,4-結合及び水素添加後の1,4-結合の結合様式で組み込まれている共役ジエン化合物単量体単位、芳香族ビニル炭化水素単量体単位が挙げられる。なお、各結合様式で組み込まれている共役ジエン化合物単量体単位の各々の量は、NMR等によって測定することができる。
【0039】
なお、水素未添加の1,2-結合、水素添加後の1,2-結合、水素未添加の3,4-結合、水素添加後の3,4-結合、水素未添加の1,4-結合及び水素添加後の1,4-結合の結合様式で組み込まれている共役ジエン化合物単量体単位や、芳香族ビニル炭化水素単量体単位、及びこれら以外の単量体単位のモル体積、モル凝集エネルギーはJ.Bicerano, Prediction of Polymer Properties, 3rd Ed. Marcel Dekker, 2002記載の方法(Bicerano法)に従って求める。
【0040】
当該SP値は、共役ジエン系単量体単位の1,2-ビニル結合量や芳香族ビニル化合物の量、及び水素添加率を制御することにより上記数値範囲に制御することができる。SP値を16.8(MPa)1/2以上、17.4(MPa)1/2以下とする手法は、例えば、芳香族ビニル化合物量を5~30質量%、共役ジエン系単量体単位の1,2-結合量を20~50質量%もしくは水素添加率を40~90モル%とすることで、SP値を上記範囲にすることが可能となる。
【0041】
本実施形態のゴム状重合体のガラス転移温度は、-35℃以下であることが好ましく、-45℃以下がより好ましく、-50℃以下がさらに好ましい。ゴム状重合体のガラス転移温度は、芳香族ビニル化合物量や1,2-結合量、水素添加率を調整することにより、上記範囲に制御することができる。ゴム状重合体のガラス転移温度が上記範囲にあるとき、タイヤにした際に低温条件でトレッドが軟化しやすくなり、雪上性能に優れる傾向にある。
【0042】
当該ガラス転移温度は、共役ジエン系単量体単位の1,2-ビニル結合量や芳香族ビニル化合物の量を制御することにより上記数値範囲に制御することができる。具体的には、芳香族ビニル化合物の量を減らす、1,2-ビニル結合量を減らすことによりガラス転移温度を低減させることができる。ガラス転移温度を-35℃以下とする手法は、例えば、芳香族ビニル量を5~30質量%、共役ジエン系単量体単位の1,2-ビニル結合量を20~50質量%とすることで、ガラス転移温度を上記範囲にすることが可能となる。
【0043】
ガラス転移温度については、ISO 22768:2006に従い、所定の温度範囲で昇温しながらDSC曲線を記録し、DSC微分曲線のピークトップ(Inflection point)をガラス転移温度とする。具体的には、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0044】
ゴム状重合体のガラス転移温度の下限は特に限定されないが、-90℃以上が好ましく、-80℃以上がより好ましく、-70℃以上がさらに好ましい。この範囲にあるとき、ウェットグリップ性能に優れる傾向にある。
【0045】
本実施形態のゴム状重合体は、タイヤにしたときの省燃費性を向上させる観点から、窒素原子を含有することが好ましい。窒素原子は変性剤により導入することができる。これによりタイヤの補強材であるシリカ系無機充填剤の分散性がより向上する傾向にある。
【0046】
本実施形態のゴム状重合体は、タイヤの補強材であるシリカ系無機充填剤の分散性の観点で、変性率が40質量%以上であることが好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。変性率の上限は特に限定されないが、混練りした後の配合物粘度が下がり加工性が良好になる観点から、98%以下が好ましく、95%以下がより好ましく、90%以下がさらに好ましい。
【0047】
本明細書中、「変性率」は、ゴム状重合体の総量に対する窒素原子含有官能基を有する重合体の質量比率を表す。本実施形態のゴム状重合体への窒素原子の導入位置は、ゴム状重合体の重合開始末端、分子鎖中(グラフト含む)および重合末端のどこに含有しても良い。
【0048】
本実施形態のゴム状重合体が、共役ジエン単量体を重合した後に水素添加して製造する場合は、重合生産性や高い変性率やタイヤにした時の省燃費性の点で、スズ原子や窒素原子を含有するカップリング剤を用いて導入する方法が好ましい。
【0049】
窒素原子を含有するカップリング剤として、重合生産性や高い変性率の点で、イソシアナート化合物、イソチオシアナート化合物、イソシアヌル酸誘導体、窒素基含有カルボニル化合物、窒素基含有ビニル化合物、窒素基含有エポキシ化合物、窒素基含有アルコキシシラン化合物等が好ましい。
【0050】
またタイヤにする際の加工性が向上する観点から、カップリング剤の分岐数は高い方が好ましい。分岐数は特に限定されないが、加工性が向上する観点から3分岐以上が好ましく、4分岐以上がより好ましい。分岐数の上限は特に限定されないが、生産性の観点から30分岐以下が好ましい。
【0051】
これらの窒素原子を含有するカップリング剤としては、ゴム状重合体の重合生産性や高い変性率やタイヤにした時の引張強度の点で、窒素基含有アルコキシシラン化合物がより好ましい。
【0052】
窒素基含有アルコキシシラン化合物としては、特に制限されないが、例えば、2,2-ジメトキシ-1-(3-トリメトキシシリルプロピル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジエトキシ-1-(3-トリエトキシシリルプロピル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジメトキシ-1-(4-トリメトキシシリルブチル)-1-アザ-2-シラシクロヘキサン、2,2-ジメトキシ-1-(5-トリメトキシシリルペンチル)-1-アザ-2-シラシクロヘプタン、2,2-ジメトキシ-1-(3-ジメトキシメチルシリルプロピル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジエトキシ-1-(3-ジエトキシエチルシリルプロピル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-メトキシ,2-メチル-1-(3-トリメトキシシリルプロピル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-エトキシ,2-エチル-1-(3-トリエトキシシリルプロピル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-メトキシ,2-メチル-1-(3-ジメトキシメチルシリルプロピル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-エトキシ,2-エチル-1-(3-ジエトキシエチルシリルプロピル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、トリス(3-トリメトキシシリルプロピル)アミン、トリス(3-メチルジメトキシシリルプロピル)アミン、トリス(3-トリエトキシシリルプロピル)アミン、トリス(3-メチルジエトキシシリルプロピル)アミン、トリス(トリメトキシシリルメチル)アミン、トリス(2-トリメトキシシリルエチル)アミン、トリス(4-トリメトキシシリルブチル)アミン、テトラキス[3-(2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]-1,3-プロパンジアミン、テトラキス(3-トリメトキシシリルプロピル)-1,3-プロパンジアミン、テトラキス(3-トリメトキシシリルプロピル)-1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、及びN1-(3-(ビス(3-(トリメトキシシリル)プロピル)アミノ)プロピル)-N1-メチル-N3-(3-(メチル(3-(トリメトキシシリル)プロピル)アミノ)プロピル)-N3-(3-(トリメトキシシリル)プロピル)-1,3-プロパンジアミンが挙げられる。
【0053】
実施形態のゴム状重合体が、エチレンと共役ジエン単量体を共重合して製造する場合は、タイヤにした時の省燃費性や耐摩耗性や柔軟性の点で、スズ原子や窒素原子や珪素原子を含有することが好ましい。ゴム状重合体の製造性の点で、重合反応が 100%に達した際に、スズ原子や窒素原子や珪素原子を含有するカップリング剤を用いて導入する方法が好ましい。
【0054】
スズ原子や窒素原子や珪素原子を含有するカップリング剤としては、ビス(マレイン酸-1-オクタデシル)ジオクチル スズ等のスズ含有化合物、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート等のイソシアネート化合物、グリシジルプロピルトリメトキシシラン等のアルコキシシラン化合物等が挙げられる。
【0055】
ゴム状重合体の重量平均分子量は、ゴム組成物の成形体の形状安定性やゴム組成物を用いた架橋体の引張強度や耐摩耗性の点で、15万以上が好ましく、20万以上がより好ましい。一方、ゴム組成物を架橋用組成物にした時の加工性の点で、100万以下が好ましく、50万以下がより好ましく、40万以下がさらに好ましい。
【0056】
ゴム状重合体の分子量分布(=重量平均分子量/数平均分子量)は、ゴム組成物をタイヤに使用した時の省燃費性の点で、2.0以下が好ましく、1.8以下がより好ましく、1.6以下がさらに好ましい。一方、ゴム組成物を架橋用組成物にした時の加工性の点で、ゴム状重合体の分子量分布は、1.05以上が好ましく、1.2以上がより好ましく、1.4以上がさらに好ましい。
【0057】
重量平均分子量や分子量分布は、GC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によって測定されたポリスチレン換算の分子量から計算できる。
【0058】
ゴム状重合体の重合工程の終盤に、必要に応じて、失活剤、中和剤等を添加してもよい。失活剤としては、以下のものに限定されないが、例えば、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール等が挙げられる。ここでの重合工程の終盤とは、添加したモノマーが95%以上重合に消費された状態を言う。
【0059】
中和剤としては、以下のものに限定されないが、例えば、ステアリン酸、オレイン酸、バーサチック酸(炭素数9~11個で、10個を中心とする、分岐の多いカルボン酸混合物)等のカルボン酸;無機酸の水溶液、炭酸ガスが挙げられる。
【0060】
ゴム状重合体の重合工程の終盤に、ゲル生成を防止や加工安定性の点で、ゴム用安定剤を添加することが好ましい。
【0061】
ゴム用安定剤としては、以下のものに限定されず、公知のものを用いることができるが、例えば、2,6-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシトルエン(以下「BHT」とも記す。)、n-オクタデシル-3-(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチルフェノール)プロピネート、2-メチル-4,6-ビス[(オクチルチオ)メチル]フェノール等の酸化防止剤が好ましい。
【0062】
ゴム状重合体の重合工程の終盤等に、重合体の生産性、タイヤ製造時の無期充填剤等を配合したときの加工性を改善するために、必要に応じて、ゴム用軟化剤を添加することができる。
【0063】
ゴム用軟化剤としては、特に限定されないが、例えば、伸展油、液状ゴム、樹脂等が挙げられる。加工性や生産性や経済性の点で、伸展油が好ましい。
【0064】
ゴム用軟化剤を共役ジエン系重合体に添加する方法としては、以下のものに限定されないが、ゴム用軟化剤を重合体溶液に加え、混合して、ゴム用軟化剤含有の重合体溶液としたものを脱溶媒する方法が好ましい。
【0065】
好ましい伸展油としては、例えば、アロマ油、ナフテン油、パラフィン油等が挙げられる。これらの中でも、環境安全上の観点、並びにオイルブリード防止及びウェットグリップ特性の観点から、IP346法による多環芳香族(PCA)成分が3質量%以下であるアロマ代替油が好ましい。アロマ代替油としては、Kautschuk Gummi Kunststoffe 52(12)799(1999)に示されるTDAE(Treated Distillate Aromatic Extracts)、MES(Mild Extraction Solvate)等の他、RAE(Residual Aromatic Extracts)が挙げられる。
【0066】
本実施形態のゴム組成物中の伸展油の含有量は、タイヤにした時の経年劣化の点で、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、5質量%以下が最も好ましい。
【0067】
好ましい樹脂としては、以下のものに限定されないが、例えば、芳香族系石油樹脂、クマロン・インデン樹脂、テルペン系樹脂、ロジン誘導体(桐油樹脂を含む)、トール油、トール油の誘導体、ロジンエステル樹脂、天然及び合成のテルペン樹脂、脂肪族炭化水素樹脂、芳香族炭化水素樹脂、混合脂肪族-芳香族炭化水素樹脂、クマリン-インデン樹脂、フェノール樹脂、p-tert-ブチルフェノール-アセチレン樹脂、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、キシレン-ホルムアルデヒド樹脂、モノオレフィンのオリゴマー、ジオレフィンのオリゴマー、芳香族炭化水素樹脂、芳香族系石油樹脂、水素化芳香族炭化水素樹脂、環式脂肪族炭化水素樹脂、水素化炭化水素樹脂、炭化水素樹脂、水素化桐油樹脂、水素化油樹脂、水素化油樹脂と単官能又は多官能アルコールとのエステル等が挙げられる。
【0068】
これら樹脂は、1種類で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。水素化する場合、不飽和基を全て水添してもよいし、一部残してもよい。
【0069】
樹脂を添加した際の効果として、共役ジエン系重合体と充填剤等とを配合したゴム組成物としたときの加工性を改善することに加え、加硫物としたときにおける破壊強度を改良する傾向にある。
【0070】
ゴム用軟化剤としての、伸展油、液状ゴム又は樹脂等の添加量は、ゴム状重合体と天然ゴムを含むゴム成分の総量100質量部に対して、5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、20質量部以上がさらに好ましい。添加量をこの範囲とすることで、耐摩耗性および耐亀裂性に優れる傾向にある。また低燃費性を向上させる観点から35質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましく、25質量部以下がさらに好ましい。
【0071】
本実施形態のゴム状重合体を重合体溶液から溶媒を除去して取得する方法としては、公知の方法を用いることができる。その方法として、例えばスチームストリッピング等で溶媒を分離した後、重合体を濾別し、さらにそれを脱水及び乾燥して重合体を取得する方法、フラッシングタンクで濃縮し、さらにベント押し出し機等で脱揮する方法、ドラムドライヤー等で直接脱揮する方法が挙げられる。
【0072】
〔天然ゴム〕
本実施形態のゴム組成物は、天然ゴムを含む。ゴム状重合体と天然ゴムを含むゴム成分の総量を100質量部としたとき、天然ゴムの含有量は、10質量部以上であり、好ましくは30質量部以上、より好ましくは50質量部以上、さらに好ましくは60質量部以上である。天然ゴムの含有量が上記範囲内であることにより、タイヤにしたときの雪上性能、耐亀裂性がより向上する。また、天然ゴムの含有量は、タイヤにしたときの省燃費性を向上させる観点から、90質量部以下である。80質量部以下が好ましく、70質量部以下がより好ましい。
【0073】
天然ゴムとしては特に限定されないが、例えば高分子量成分が多く破壊強度に優れる観点から、スモークドシートであるRSS3~5号、SMR、エポキシ化天然ゴムが挙げられる。
【0074】
〔シリカ系無機充填剤〕
本実施形態のゴム組成物は、シリカ系無機充填剤を含む。タイヤにしたときのグリップ性能や操縦安定性向上の観点から、シリカ系無機充填剤の含有量は、ゴム状重合体と天然ゴムの総量100質量部に対して、60質量部以上であり、65質量部以上がより好ましく、75質量部以上がさらに好ましい。またタイヤにしたときの省燃費性が向上する観点から、シリカ系無機充填剤の含有量は、120質量部以下であり、100質量部以下がより好ましく、90質量部以下がさらに好ましい。
【0075】
シリカ系無機充填剤としては特に限定されず公知のものを用いることができるが、SiO2又はSi3Alを構成単位として含む固体粒子が好ましく、SiO2又はSi3Alを構成単位の主成分とすることがより好ましい。ここで、主成分とは、シリカ系無機充填剤中に50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上含有される成分をいう。
【0076】
シリカ系無機充填剤としては、以下に限定されないが、例えば、シリカ、クレイ、タルク、マイカ、珪藻土、ウォラストナイト、モンモリロナイト、ゼオライト、ガラス繊維等の無機繊維状物質が挙げられる。シリカ系無機充填剤の市販品として、例えば、エボニック デグサ社製の商品名「Ultrasil 7000GR」が挙げられる。また、表面を疎水化したシリカ系無機充填剤、シリカ系無機充填剤とシリカ系以外の無機充填剤との混合物も挙げられる。これらの中でも、強度及び耐摩耗性の観点から、シリカ及びガラス繊維が好ましく、シリカがより好ましい。シリカとしては、例えば、乾式シリカ、湿式シリカ、合成ケイ酸塩シリカが挙げられる。これらの中でも、破壊特性の改良効果及びウェットスキッド抵抗性のバランスに優れる観点から、湿式シリカがさらに好ましい。
【0077】
変性共役ジエン系重合体組成物において、実用上良好な耐摩耗性や破壊特性を得る観点から、シリカ系無機充填剤のBET吸着法で求められる窒素吸着比表面積は、100m2/g以上300m2/g以下であることが好ましく、170m2/g以上250m2/g以下であることがより好ましい。また必要に応じて、比較的に比表面積が小さい(例えば、比表面積が200m2/g以下のシリカ系無機充填剤)と、比較的に比表面積の大きい(例えば、200m2/g以上のシリカ系無機充填剤)と、を組み合わせて用いることができる。これにより、良好な耐摩耗性及び破壊特性と、低ヒステリシスロス性とを高度にバランスさせることができる。
【0078】
〔カーボンブラック〕
本実施形態のゴム組成物は、シリカ系無機充填剤の他に、更にカーボンブラックを0.5~100質量部含有することが操縦安定性向上の観点で好ましい。
【0079】
カーボンブラックとしては、特に限定されず、例えば、SRF、FEF、HAF、ISAF、SAF等の各クラスのカーボンブラックが使用できる。これらの中でも、押し出し成形性の観点、及び転がり抵抗特性の観点から、窒素吸着比表面積が50m2/g以上であり、ジブチルフタレート(DBP)吸油量が80mL/100g以上であるカーボンブラックが好ましい。
【0080】
カーボンブラックの配合量は、耐摩耗性が向上する観点から、ゴム状重合体と天然ゴムの総量100質量部に対して、0.5質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、5質量部以上がさらに好ましい。また省燃費性が向上する観点から、カーボンブラックの配合量は、100質量部以下が好ましく、50質量部以下がより好ましく、20質量部以下がさらに好ましい。
【0081】
(金属酸化物、金属水酸化物)
本実施形態のゴム組成物は、シリカ系無機充填剤やカーボンブラック以外に、金属酸化物や金属水酸化物を含有してもよい。
【0082】
金属酸化物とは、化学式MxOy(Mは金属原子を表し、x及びyは、各々独立に、1~6の整数を表す)を構成単位の主成分とする固体粒子のことをいい、例えば、アルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛等を挙げることができる。また、金属酸化物と金属酸化物以外の無機充填剤の混合物も用いることができる。金属水酸化物としては、特に限定されず、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化ジルコニウム等が挙げられる。
【0083】
(シランカップリング剤)
本実施形態のゴム組成物は、シランカップリング剤を含有してもよい。シランカップリング剤は、ゴム成分、ゴム状重合体及びシリカ系無機充填剤のそれぞれに対する親和性又は結合性の基を有しており、それぞれの間の相互作用を緊密にする機能を有している。一般的には、硫黄結合部分とアルコキシシリル基、シラノール基部分を一分子中に有する化合物が用いられる。
【0084】
シランカップリング剤は、以下に限定されるものではないが、例えば、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン、エトキシ(3-メルカプトプロピル)ビス(3,6,9,12,15-ペンタオキサオクタコサン-1-イルオキシ)シラン[エボニック・デグサ社製:Si363]、Momentive社製のNXT-Z30,NXT-Z45,NXTZ60,NXTシランなどのメルカプト基を含有するシランカップリング剤、ビス-[3-(トリエトキシシリル)-プロピル]-テトラスルフィド、ビス-[3-(トリエトキシシリル)-プロピル]-ジスルフィド、ビス-[2-(トリエトキシシリル)-エチル]-テトラスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス-[2-(トリエトキシシリル)-エチル]-テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリエトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルベンゾリルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、ビス(3-ジエトキシメチルシリルプロピル)テトラスルフィド、3-メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、ジメトキシメチルシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、ジメトキシメチルシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、等が挙げられる。
【0085】
この中でも、補強効果の高さの観点から、ビス-[3-(トリエトキシシリル)-プロピル]-ジスルフィド、エトキシ(3-メルカプトプロピル)ビス(3,6,9,12,15-ペンタオキサオクタコサン-1-イルオキシ)シラン[エボニック・デグサ社製:Si363]、Momentive社製のNXT-Z30,NXT-Z45,NXTZ60,NXTシランなどのメルカプト基を含有するシランカップリング剤、ビス-[3-(トリエトキシシリル)-プロピル]-テトラスルフィドが好ましい。これらのシランカップリング剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0086】
シランカップリング剤の配合量は、ゴム成分及びシリカ系無機充填剤のそれぞれの間の相互作用を緊密にする効果を一層顕著なものにする観点から、ゴム状重合体と天然ゴムの総量100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましく、1質量部以上がさらに好ましい。また加工性が良好となる観点から、シランカップリング剤の配合量は、30質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、15質量部以下がさらに好ましい。
【0087】
(ゴム用軟化剤)
本実施形態のゴム組成物には、加工性の改良を図るために、ゴム用軟化剤を含有させてもよい。ゴム用軟化剤としては、例えば、鉱物油系ゴム用軟化剤、及び、液状若しくは低分子量の合成軟化剤が好適である。上記鉱物油系ゴム用軟化剤は、プロセスオイル又はエクステンダーオイルとも呼ばれ、ゴムの軟化、増容、加工性の向上を図るために使用されている。また、上記鉱物油系ゴム用軟化剤は、芳香族環、ナフテン環、及びパラフィン鎖の混合物であり、パラフィン鎖の炭素数が全炭素中50%以上を占めるものがパラフィン系と呼ばれ、ナフテン環炭素数が30~45%のものがナフテン系、芳香族炭素数が30%を超えるものが芳香族系と呼ばれている。変性共役ジエン-芳香族ビニル共重合体とともに用いるゴム用軟化剤としては、適度な芳香族含量を有するものが共重合体との親和性がよい傾向にあるため好ましい。
【0088】
ゴム用軟化剤の配合量は、加工性を改良する観点から、ゴム状重合体と天然ゴムの総量100質量部に対して、0質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、30質量部以上がさらに好ましい。またブリードアウトを抑制し、ゴム組成物表面のベタツキを防止できる観点から、100質量部以下が好ましく、70質量部以下がより好ましく。40質量部以下がさらに好ましい。
【0089】
(混練方法)
上記ゴム状重合体および天然ゴムを含むゴム成分、シリカ系無機充填剤、カーボンブラックやその他の充填剤、シランカップリング剤、ゴム用軟化剤等の添加剤等の、本実施形態のゴム組成物の構成材料を混合する方法については、以下のものに限定されないが、例えば、オープンロール、バンバリーミキサー、ニーダー、単軸スクリュー押出機、2軸スクリュー押出機、多軸スクリュー押出機等の一般的な混和機を用いた溶融混練方法、各成分を溶解混合後、溶剤を加熱除去する方法が挙げられる。
【0090】
これらのうち、ロール、バンバリーミキサー、ニーダー、押出機による溶融混練法が生産性、良混練性の観点から好ましい。また、本実施形態のゴム組成物の構成材料を一度に混練する方法、複数の回数に分けて混合する方法のいずれも適用可能である。
【0091】
本実施形態のゴム組成物は、加硫剤により加硫処理を施した加硫組成物としてもよい。加硫剤としては、以下のものに限定されないが、例えば、有機過酸化物及びアゾ化合物等のラジカル発生剤、オキシム化合物、ニトロソ化合物、ポリアミン化合物、硫黄、硫黄化合物が挙げられる。
【0092】
硫黄化合物には、一塩化硫黄、二塩化硫黄、ジスルフィド化合物、高分子多硫化合物等が含まれる。
【0093】
加硫剤の含有量は、補強効果によって破断強度を向上させる観点から、ゴム状重合体と天然ゴムの総量100質量部に対して、0.01質量部以上が好ましく、0.1質量部以上がより好ましく、1質量部以上がさらに好ましい。また柔軟性を有し破断伸びが向上する観点から、加硫剤の含有量は、20質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましく、10質量部以下がさらに好ましい。
【0094】
加硫方法としては、従来公知の方法を適用でき、加硫温度は特に限定されないが、加硫時間を短縮でき生産効率を高められる観点から120℃以上が好ましく、140℃以上がより好ましく、150℃以上がさらに好ましい。また加硫時の熱劣化を抑制する観点から200℃以下が好ましく、180℃以下がより好ましく、160℃以下がさらに好ましい。
加硫に際しては、必要に応じて加硫促進剤を用いてもよい。
【0095】
加硫促進剤としては、従来公知の材料を用いることができ、以下のものに限定されないが、例えば、スルフェンアミド系化合物、グアニジン系化合物、チウラム系化合物、アルデヒド-アミン系化合物、アルデヒド-アンモニア系化合物、チアゾール系化合物、チオ尿素系化合物、ジチオカルバメート系化合物などの加硫促進剤が挙げられる。
【0096】
また、加硫助剤としては、以下のものに限定されないが、例えば、亜鉛華、ステアリン酸が挙げられる。
【0097】
加硫促進剤の含有量は、ゴム状重合体と天然ゴムの総量100質量部に対して、0.01質量部以上20質量部以下が好ましく、0.1質量部以上15質量部以下がより好ましい。
【0098】
本実施形態の共役ジエン系重合体組成物には、本実施形態の目的を損なわない範囲内で、上述した以外のその他の軟化剤、充填剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、耐候安定剤、老化防止剤、着色剤、及び滑剤等の各種添加剤を用いてもよい。
【0099】
その他の軟化剤としては、公知の軟化剤を用いることができる。その他の充填剤としては、具体的には、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸バリウムが挙げられる。
【0100】
上記の耐熱安定剤、帯電防止剤、耐候安定剤、老化防止剤、着色剤、潤滑剤としては、それぞれ公知の材料を用いることができる。
【0101】
〔タイヤ〕
本実施形態のゴム組成物は、タイヤ用ゴム組成物として好適に用いられる。すなわち、本実施形態のタイヤは、本実施形態のゴム組成物を用いてなる。
【0102】
本実施形態のタイヤ用のゴム組成物は、以下のものに限定されないが、例えば、省燃費タイヤ、オールシーズンタイヤ、高性能タイヤ、スタッドレスタイヤ等の各種タイヤ:トレッド、カーカス、サイドウォール、ビード部等のタイヤ各部位への利用が可能である。
【0103】
特に、タイヤ用ゴム組成物は、加硫物としたときに耐摩耗性と雪上性能、及び耐亀裂性に優れているので、オールシーズンタイヤ、スノータイヤのトレッド用として、より好適に用いられる。
【実施例
【0104】
以下、具体的な実施例及び比較例を挙げて、本実施形態をさらに詳しく説明するが、本実施形態は以下の実施例及び比較例により何ら限定されるものではない。
実施例及び比較例における各種の物性は下記に示す方法により測定した。
【0105】
(ゴム状重合体の重量平均分子量(Mw))
ポリスチレン系ゲルを充填剤としたカラムを3本連結したGPC測定装置を使用して、クロマトグラムを測定し、標準ポリスチレンを使用した検量線に基づいて重量平均分子量(Mw)を求めた。具体的な測定条件を以下に示す。下記測定用液20μLをGPC測定装置に注入して測定を行った。
(測定条件)
装置 :東ソー社製の商品名「HLC-8320GPC」
溶離液 :5mmol/Lのトリエチルアミン入りテトラヒドロフラン(THF)
ガードカラム:東ソー社製の商品名「TSKguardcolumn SuperH-H」、
分離カラム :東ソー社製の商品名「TSKgel SuperH5000」、「TSKgel SuperH6000」、「TSKgel SuperH7000」をこの順に連結したもの。
オーブン温度:40℃
流量 :0.6mL/分
検出器 :RI検出器(東ソー社製の商品名「HLC8020」)
測定用液 :測定用の試料10mgを20mLのTHFに溶解した測定溶液
【0106】
(ゴム状重合体およびゴム組成物のムーニー粘度)
ムーニー粘度計(上島製作所社製の商品名「VR1132」)を用い、ISO 289に準拠し、L形ローターを用いてムーニー粘度を測定した。具体的には、まず、試料を1分間100℃度で予熱した後、ローターを2rpmで回転させ、4分後のトルクを測定して100℃におけるムーニー粘度(ML(1+4))とした。
【0107】
(ゴム状重合体の変性率)
ゴム状重合体の変性率は、変性したゴム状重合体がカラムに吸着する特性を利用し、カラム吸着GPC法で以下のとおり測定した。
【0108】
試料及び低分子量内部標準ポリスチレンを含む試料溶液を、ポリスチレン系ゲルを充填したカラムで測定したクロマトグラムと、シリカ系ゲルを充填したカラムで測定したクロマトグラムと、の差分よりシリカ系カラムへの吸着量を測定し、変性率を求めた。
【0109】
ポリスチレン系カラムを用いたGPC測定条件を以下に示す。下記測定用液20μLをGPC測定装置に注入して測定を行った。
(ポリスチレン系カラムを用いたGPC測定条件)
装置 :東ソー社製の商品名「HLC-8320GPC」
溶離液 :5mmol/Lのトリエチルアミン入りTHF
ガードカラム:東ソー社製の商品名「TSKguardcolumn SuperH-H」
カラム :東ソー社製の商品名「TSKgel SuperH5000」、「TSKgel SuperH6000」、「TSKgel SuperH7000」をこの順で連結したもの
オーブン温度:40℃
流量 :0.6mL/分
検出器 :RI検出器(東ソー社製 HLC8020)
測定用液 :試料10mg及び標準ポリスチレン5mgを20mLのTHFに溶解させて、試料溶液とした。
【0110】
シリカ系カラムを用いたGPC測定条件を以下に示す。下記測定用液50μLをGPC測定装置に注入して測定を行った。
(シリカ系カラムを用いたGPC測定条件)
装置 :東ソー社製の商品名「HLC-8320GPC」
溶離液 :THF
ガードカラム:ジーエルサイエンス社製の商品名「DIOL 4.6×12.5mm 5micron」
分離カラム :アジレントテクノロジー社製の商品名「Zorbax PSM-1000S」、「PSM-300S」、「PSM-60S」をこの順で連結したもの
オーブン温度:40℃、
流量 :0.5mL/分
検出器 :RI検出器(東ソー社製 HLC8020)
【0111】
変性率の計算方法 : ポリスチレン系カラムを用いたクロマトグラムのピーク面積の全体を100として、試料のピーク面積をP1、標準ポリスチレンのピーク面積をP2、シリカ系カラムを用いたクロマトグラムのピーク面積の全体を100として、試料のピーク面積をP3、標準ポリスチレンのピーク面積をP4として、下記式より変性率(%)を求めた。
変性率(%)=[1-(P2×P3)/(P1×P4)]×100
(ただし、P1+P2=P3+P4=100)
【0112】
(ゴム状重合体の結合スチレン量)
試料100mgを、クロロホルムで100mLに溶解して測定サンプルとした。スチレンのフェニル基による紫外線吸収波長(254nm付近)の吸収量により、試料であるゴム状重合体100質量%に対しての結合スチレン量(質量%)を測定した。測定装置としては島津製作所社製の分光光度計「UV-2450」を用いた。
【0113】
(ゴム状重合体のブタジエン部分のミクロ構造(1,2-ビニル結合量))
試料50mgを、二硫化炭素10mLに溶解して測定サンプルとした。溶液セルを用いて、赤外線スペクトルを600~1000cm-1の範囲で測定して、所定の波数における吸光度によりハンプトンの方法(R.R.Hampton,Analytical Chemistry 21,923(1949)に記載の方法)の計算式に従い、ブタジエン部分のミクロ構造、すなわち、1,2-ビニル結合量(mol%)を求めた。測定装置としては、日本分光社製のフーリエ変換赤外分光光度計「FT-IR230」を用いた。
【0114】
(ゴム状重合体の水素添加率、及びエチレン構造)
1H-NMR測定により水素添加前の重合体の不飽和結合部の積算値を得た。次いで、水添反応後の反応液に、大量のメタノールを添加することで、水添共役ジエン系重合体を沈殿させて回収した。次いで、水添共役ジエン系重合体をアセトンで抽出し、水添共役ジエン系重合体を真空乾燥した。これを、1H-NMR測定のサンプルとして用いて、水素添加率、エチレン構造、共役ジエン単量体単位を測定した。1H-NMR測定の条件を以下に記す。
(測定条件)
測定機器 :JNM-LA400(JEOL製)
溶媒 :重水素化クロロホルム
測定サンプル :ポリマーを水素添加する前後の抜き取り品
サンプル濃度 :50mg/mL
観測周波数 :400MHz
化学シフト基準:TMS(テトラメチルシラン)
パルスディレイ:2.904秒
スキャン回数 :64回
パルス幅 :45°
測定温度 :26℃
【0115】
(ゴム状重合体のスチレンブロック量)
スチレン構造単位が8個以上連なった連鎖をスチレンブロックとし、次のように求めた。重クロロホルムを溶媒として測定した400MHzの1H-NMRスペクトルから、以下の(X)の各化学シフト範囲の積分値割合を求め、ゴム状ブロック重合体中に含まれるスチレンブロックの含量を求めた。
(X)芳香族ビニル化合物連鎖8以上: 6.00≦S<6.68
【0116】
(ゴム状重合体のヨウ素価)
「JIS K 0070:1992」に記載の方法に準じて、ゴム状重合体のヨウ素価を算出した。
【0117】
(ゴム状重合体のSP値)
SP値(MPa1/2)は((モル凝集エネルギー)/(モル容積))1/2の式から算出した。ここで、ゴム状重合体が異なる2種類以上の単量体から構成される場合、モル凝集エネルギーは加成性が成立し、各単量体の含有率(モル%)及びその単量体の単独重合体のモル凝集エネルギーから、重合体のモル凝集エネルギーは各単量体のモル凝集エネルギーの平均値(含有率に応じて按分した平均値)として算出される。モル容積もモル凝集エネルギーと同様に、加成性が成立し、各単量体の含有率(モル%)及びその単量体の単独重合体のモル容積から、重合体のモル容積は各単量体のモル容積の平均値(含有率に応じて按分した平均値)として算出される。なお、各単量体により構成される単独重合体のモル凝集エネルギーとモル容積は表1に記載する。
【0118】
【表1】
【0119】
(ゴム状重合体のガラス転移温度(Tg))
ゴム状重合体を試料として、ISO 22768:2006に準拠して、マックサイエンス社製の示差走査熱量計「DSC3200S」を用い、ヘリウム50mL/分の流通下、-100℃から20℃/分で昇温しながらDSC曲線を記録し、DSC微分曲線のピークトップ(Inflection point)をガラス転移温度とした。
【0120】
(製造例1)水素添加前のゴム状重合体(A)
内容積40Lで、撹持機及びジャケットを具備する温度制御が可能なオートクレーブを反応器として使用し、予め不純物を除去した、1,3-ブタジエンを2,160g、スチレンを300g、シクロヘキサンを21,000g、極性物質として、テトラヒドロフラン(THF)を30mmolと2,2-ビス(2-オキソラニル)プロパンを4.9mmol、反応器へ入れ、反応器内温を42℃に保持した。重合開始剤として、n-ブチルリチウム33.2mmolを上記反応器に供給した。
【0121】
重合反応開始後、重合による発熱で反応器内の温度は上昇を始め、反応器中のモノマーコンバージョンが98%に達した後に、1,3-ブタジエン540gを添加し、反応させた。
【0122】
最終的な反応器内の温度は、76℃に達した。この反応温度ピーク到達後から2分後に、反応器に2,2-ジメトキシ-1-(3-卜リメトキシシリルプロピル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン(化合物1)を6.6mmol添加し、20分間、カップリング反応を実施した。この重合体溶液に、反応停止剤としてメタノールを6.0mmolを添加しゴム状重合体溶液(A-1)を得た。共役ジエン系重合体溶液を一部抜き出し、乾燥機で脱溶剤し、水素添加前のゴム状重合体(A)を得た。分析した結果を表2に示す。
【0123】
(製造例2)水素添加前のゴム状重合体(B)
内容積40Lで、撹持機及びジャケットを具備する温度制御が可能なオートクレーブを反応器として使用し、予め不純物を除去した、1,3-ブタジエンを2,100g、スチレンを780g、シクロヘキサンを21,000g、極性物質として、テトラヒドロフラン(THF)を30mmolと2,2-ビス(2-オキソラニル)プロパンを18.3mmol、反応器へ入れ、反応器内温を42℃に保持した。重合開始剤として、n-ブチルリチウム26.2mmolを上記反応器に供給した。
【0124】
重合反応開始後、重合による発熱で反応器内の温度は上昇を始め、反応器中のモノマーコンバージョンが98%に達した後に、1,3-ブタジエン120gを添加し、反応させた。
【0125】
最終的な反応器内の温度は、78℃に達した。この反応温度ピーク到達後から2分後に、反応器に2,2-ジメトキシ-1-(3-卜リメトキシシリルプロピル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン(化合物1)を5.2mmol添加し、20分間、カップリング反応を実施した。この重合体溶液に、反応停止剤としてメタノールを4.7mmolを添加しゴム状重合体溶液(B-1)を得た。共役ジエン系重合体溶液を一部抜き出し、乾燥機で脱溶剤し、水素添加前のゴム状重合体(B)を得た。分析した結果を表2に示す。
【0126】
(製造例3)水素添加前のゴム状重合体(C)
2,2-ジメトキシ-1-(3-卜リメトキシシリルプロピル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン(化合物1)の添加量を3.9mmolに変えた以外は、製造例1と同様にしてゴム状重合体溶液(C-1)を得た。共役ジエン系重合体溶液を一部抜き出し、乾燥機で脱溶剤し、水素添加前のゴム状重合体(C)を得た。分析した結果を表2に示す。
【0127】
(製造例4)水素添加前のゴム状重合体(D)
2,2-ジメトキシ-1-(3-卜リメトキシシリルプロピル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン(化合物1)を1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(化合物2)に変え、添加量を16.6mmolに変えた以外は、製造例1と同様にしてゴム状重合体溶液(D-1)を得た。共役ジエン系重合体溶液を一部抜き出し、乾燥機で脱溶剤し、水素添加前のゴム状重合体(D)を得た。分析した結果を表2に示す。
【0128】
(製造例5)水素添加前のゴム状重合体(E)
2,2-ジメトキシ-1-(3-卜リメトキシシリルプロピル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン(化合物1)をテトラエトキシシラン(化合物3)に変え、添加量を6.6mmolに変えた以外は、製造例1と同様にしてゴム状重合体溶液(D-1)を得た。共役ジエン系重合体溶液を一部抜き出し、乾燥機で脱溶剤し、水素添加前のゴム状重合体(D)を得た。分析した結果を表2に示す。
【0129】
(水素添加触媒(TC1)の調整)
窒素置換した反応溶液に乾燥及び精製したシクロヘキサン1Lを仕込み、ビス(η5-シクロペンタジエニル)チタニウムジクロリド100mmolを添加し、十分に攪拌しながらトリメチルアルミニウム200mmolを含むn-ヘキサン溶液を添加して、室温にて約3日間反応させ水添触媒(TC1)を得た。
【0130】
(製造例6)ゴム状重合体(AH1)
製造例1で得た水素添加前のゴム状重合体溶液(A-1)に、上記水素添加触媒(TC1)を、水素添加前のゴム状重合体100質量部あたり、Ti基準で35ppm添加し、水素圧0.8MPa、平均温度85℃で水素添加反応を50分間行った。得られたゴム状重合体の溶液に酸化防止剤としてn-オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロオキシフェニル)-プロピオネートを12.6gと、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾールを3.0g添加した後、ゴム組成物溶液温水に滴下して溶媒を除去し、乾燥機により乾燥処理を施し、ゴム状重合体(AH1)を得た。
【0131】
(製造例7)ゴム状重合体(AH2)
上記水素添加触媒(TC1)の添加量を、水素添加前のゴム状重合体100質量部あたり、Ti基準で45ppmに変えた以外は、製造例6と同様にしてゴム状重合体(AH2)を得た。
【0132】
(製造例7)ゴム状重合体(AH3)
上記水素添加触媒(TC1)の添加量を、水素添加前のゴム状重合体100質量部あたり、Ti基準で60ppmに変えた以外は、製造例6と同様にしてゴム状重合体(AH3)を得た。
【0133】
(製造例8)ゴム状重合体(AH4)
上記水素添加触媒(TC1)の添加量を、水素添加前のゴム状重合体100質量部あたり、Ti基準で70ppmに変えた以外は、製造例6と同様にしてゴム状重合体(AH4)を得た。
【0134】
(製造例9)ゴム状重合体(AH5)
上記水素添加触媒(TC1)の添加量を、水素添加前のゴム状重合体100質量部あたり、Ti基準で80ppmに変えた以外は、製造例6と同様にしてゴム状重合体(AH5)を得た。
【0135】
(製造例10)ゴム状重合体(BH1)
製造例2で得た水素添加前のゴム状重合体溶液(B-1)に、上記水素添加触媒(TC1)を、水素添加前のゴム状重合体100質量部あたり、Ti基準で90ppm添加し、水素圧0.8MPa、平均温度85℃で水素添加反応を50分間行った。得られたゴム状重合体の溶液に酸化防止剤としてn-オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロオキシフェニル)-プロピオネートを12.6gと、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾールを3.0g添加した後、ゴム組成物溶液温水に滴下して溶媒を除去し、乾燥機により乾燥処理を施し、ゴム状重合体(BH1)を得た。
【0136】
(製造例11)ゴム状重合体(BH2)
上記水素添加触媒(TC1)の添加量を、水素添加前のゴム状重合体100質量部あたり、Ti基準で70ppmに変えた以外は、製造例10と同様にしてゴム状重合体(BH2)を得た。
【0137】
(製造例12)ゴム状重合体(CH1)
製造例3で得た水素添加前のゴム状重合体溶液(C-1)に、上記水素添加触媒(TC1)を、水素添加前のゴム状重合体100質量部あたり、Ti基準で60ppm添加し、水素圧0.8MPa、平均温度85℃で水素添加反応を50分間行った。得られたゴム状重合体の溶液に酸化防止剤としてn-オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロオキシフェニル)-プロピオネートを12.6gと、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾールを3.0g添加した後、ゴム組成物溶液温水に滴下して溶媒を除去し、乾燥機により乾燥処理を施し、ゴム状重合体(CH1)を得た。
【0138】
(製造例13)ゴム状重合体(DH1)
製造例3で得た水素添加前のゴム状重合体溶液(D-1)に、上記水素添加触媒(TC1)を、水素添加前のゴム状重合体100質量部あたり、Ti基準で60ppm添加し、水素圧0.8MPa、平均温度85℃で水素添加反応を50分間行った。得られたゴム状重合体の溶液に酸化防止剤としてn-オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロオキシフェニル)-プロピオネートを12.6gと、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾールを3.0g添加した後、ゴム組成物溶液温水に滴下して溶媒を除去し、乾燥機により乾燥処理を施し、ゴム状重合体(DH1)を得た。
【0139】
(製造例14)ゴム状重合体(EH1)
製造例3で得た水素添加前のゴム状重合体溶液(E-1)に、上記水素添加触媒(TC1)を、水素添加前のゴム状重合体100質量部あたり、Ti基準で60ppm添加し、水素圧0.8MPa、平均温度85℃で水素添加反応を50分間行った。得られたゴム状重合体の溶液に酸化防止剤としてn-オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロオキシフェニル)-プロピオネートを12.6gと、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾールを3.0g添加した後、ゴム組成物溶液温水に滴下して溶媒を除去し、乾燥機により乾燥処理を施し、ゴム状重合体(EH1)を得た。
【0140】
【表2】
【0141】
(実施例1~12、および比較例1~7)
表2に示すゴム状重合体、ハイシスポリブタジエン(BR、宇部興産社製の「UBEPOL U150」)、または天然ゴム(NR)を原料ゴム成分として、表3~4および以下に示す配合に従い、それぞれの原料ゴムを含有するゴム組成物を得た。
【0142】
【表3】
【0143】
【表4】

表3~4中の各成分について、使用した製品名は以下のとおりである。
・シリカ(エボニック デグサ社製の商品名「Ultrasil 7000GR」窒素吸着比表面積170m2/g)
・カーボンブラック(東海カーボン社製の商品名「シーストKH(N339)」
・S-RAEオイル(JX日鉱日石エネルギー社製の商品名「プロセスNC140」)
・樹脂(Exxon社製、製品名Oppera383)
・シランカップリング剤(エボニック デグサ社製の商品名「Si75」、ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)
・老化防止剤(N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン)
・加硫促進剤1(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフィンアミド)
・加硫促進剤2(ジフェニルグアニジン)
【0144】
上述した材料を次の方法により混練してゴム組成物を得た。温度制御装置を備える密閉混練機(内容量0.3L)を使用し、第一段の混練として、充填率65%、ローター回転数30~50rpmの条件で、原料ゴム(ゴム状重合体、天然ゴム、ハイシスポリブタジエン)、充填剤(シリカ、カーボンブラック)、シランカップリング剤、プロセスオイル、亜鉛華、ステアリン酸を混練した。このとき、密閉混合器の温度を制御し、排出温度は155~160℃で各ゴム組成物(配合物)を得た。
【0145】
次に第二段の混練として、上記で得た配合物を室温まで冷却後、老化防止剤を加え、シリカ系無機充填剤の分散を向上させるため再度混練した。この場合も、混合機の温度制御により、配合物の排出温度を155~160℃に調整した。冷却後、第三段の混練として、70℃に設定したオープンロールにて、硫黄、加硫促進剤1,2を加えて混練した。その後、成型し、160℃で25分間、加硫プレスにて加硫した。加硫前のゴム組成物、及び加硫後のゴム組成物の特性を評価した。具体的には、下記の方法により評価した。その結果を表2、3に示す。
【0146】
〔特性の評価〕
(評価1)加工性:配合物ムーニー粘度
上記で得た第二段の混練後、かつ、第三段の混練前の配合物を試料として、ムーニー粘度計を使用し、JIS K6300-1に準拠して、130℃、1分間の予熱を行った後に、ローターを毎分2回転で4分間回転させた後の粘度を測定した。比較例1の結果を100として指数化した。指数が小さいほど加工性が良好であることを示す。
【0147】
(評価2)雪上性能及び低燃費性:粘弾性パラメータ
レオメトリックス・サイエンティフィック社製の粘弾性試験機「ARES」を使用し、ねじりモードで粘弾性パラメータを測定した。各々の測定値は、比較例1のゴム組成物に対する結果を100として指数化した。
【0148】
50℃において周波数10Hz、ひずみ3%で測定したtanδを省燃費性の指標とした。指数が小さいほど省燃費性が良好であることを示す。
【0149】
-20℃において周波数10Hz、ひずみ1%で測定した貯蔵弾性率(G’)を雪上性能の指標とした。指数が小さいほど雪上性能が良好であることを示す。
【0150】
(評価3)耐摩耗性
アクロン摩耗試験機(安田精機製作所社製)を使用し、JIS K6264-2に準拠して、荷重44.4N、1000回転の摩耗量を測定し、比較例1の結果を100として指数化した。指数が小さいほど耐摩耗性が良好であることを示す。
【0151】
(評価4)耐亀裂性
試験片としてトラウザ形試験片を準備し、JIS K-6252に準拠して、引裂き試験を行い、試験片が切断に至るまでの最大引裂き力を測定する。比較例1の評価を100として指数化した。指数が大きいほど耐亀裂性が良好であることを示す。
【0152】
表3~4に示す通り、実施例1~12は比較例1~7と比較して、ゴム組成物の雪上性能と耐摩耗性のバランスに優れ、さらに優れた耐亀裂性が得られることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0153】
本発明に係るゴム組成物は、タイヤトレッド、自動車の内装及び外装品、防振ゴム、ベルト、履物、発砲体、各種工業用品用途等の分野において産業上の利用可能性がある。