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  • 特許-溶接条件設定方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】溶接条件設定方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/24 20060101AFI20240423BHJP
   B23K 11/00 20060101ALI20240423BHJP
   B23K 11/11 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
B23K11/24 394
B23K11/00 570
B23K11/11 540
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020140165
(22)【出願日】2020-08-21
(65)【公開番号】P2022035673
(43)【公開日】2022-03-04
【審査請求日】2023-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100155457
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】岡村 麻人
(72)【発明者】
【氏名】木許 圭一郎
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/212916(WO,A1)
【文献】特開2014-149734(JP,A)
【文献】特開2012-236232(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/24
B23K 11/00
B23K 11/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの所定部位にスポット溶接を施す際の溶接条件を設定するための方法であって、
前記ワークの所定部位と同等の張り剛性を有するテストピースを作製する工程と、
前記テストピースに所定の溶接条件でスポット溶接を施して溶接点を形成する工程と、
前記溶接点の状態に基づいて前記溶接条件を評価する工程とを有し、
前記スポット溶接が、前記ワークの前記所定部位を板厚方向一方側から電極で加圧すると共に、前記ワークの前記所定部位を板厚方向他方側から電極によって支持しない片側スポット溶接である溶接条件設定方法。
【請求項2】
前記ワーク及び前記テストピースの張り剛性を、押圧部材により所定の加圧力で加圧したときの圧痕の深さにより評価する請求項1に記載の溶接条件設定方法。
【請求項3】
ワークの所定部位にスポット溶接を施す際の溶接条件を設定するための方法であって、
前記ワークの所定部位と同等の張り剛性を有するテストピースを作製する工程と、
前記テストピースに所定の溶接条件でスポット溶接を施して溶接点を形成する工程と、
前記溶接点の状態に基づいて前記溶接条件を評価する工程とを有し、
前記ワーク及び前記テストピースの張り剛性を、押圧部材により所定の加圧力で加圧したときの圧痕の深さにより評価する溶接条件設定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポット溶接の溶接条件設定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体は、複数の金属板(鋼板)をスポット溶接により接合することで製造される。このとき、金属板同士を所定以上の強度で接合する良好なナゲットが形成されるように、適切な溶接条件(加圧力、通電量、通電時間等)を設定することが重要となる。
【0003】
例えば、様々な板組み(金属板の材質、枚数、板厚等)からなるテストピースに対してオフラインで溶接試験を行って、各板組みにおいて良好なナゲットが得られる溶接条件を取得し、実際の組立ライン上でワークの各部位にスポット溶接を施す際には、当該部位と同じ板組みのテストピースで設定した溶接条件を適用することが行われている(例えば、下記の特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-115888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、テストピースを用いた溶接試験により溶接条件を設定するためには、テストピースを、実際のワークの各部位とできるだけ同じ状態にすることが好ましい。例えば、金属板の材質や板厚だけでなく、例えば金属板間の隙間を、テストピースとワークとで一致させることがある。この場合、溶接前のワークの溶接予定部における金属板間の隙間を測定し、これと同様の隙間が形成されるように、テストピースの金属板間のシムの厚さが調整される。
【0006】
しかし、上記のようなテストピースに対する溶接試験では良好なナゲットが形成される溶接条件であっても、当該溶接条件で同じ板組みからなる実際のワークにスポット溶接を施したときに、溶接不良が生じることがある。特に、ワークを板厚方向一方側から電極で加圧し、板厚方向他方側から支持されていない状態でワークに通電する、いわゆる片側スポット溶接(例えば、インダイレクトスポット溶接)では、テストピースと実際のワークに同じ溶接条件でスポット溶接を施しても、溶接結果が異なる事態が生じやすい。このように、テストピースを用いて設定した溶接条件の信頼性が低いと、実際のワークの溶接時に溶接不良が発生し、歩留まりの低下を招く。
【0007】
そこで、本発明が解決すべき技術的課題は、テストピースを用いて設定した溶接条件の信頼性を高めることで、ワークの溶接不良を低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、電極で加圧したときの金属板の変形態様が溶接状態(ナゲットの良否)に影響していると考え、テストピースに、実際のワークの張り剛性を再現するという着想に至った。
【0009】
上記の着想に基づいてなされた本発明は、ワークの所定部位にスポット溶接を施す際の溶接条件を設定するための方法であって、前記ワークの所定部位と同等の張り剛性を有するテストピースを作製する工程と、前記テストピースに所定の溶接条件でスポット溶接を施して溶接点を形成する工程と、前記溶接点の状態に基づいて前記溶接条件を評価する工程とを有する。
【0010】
このように、テストピースにワークと同等の張り剛性を付与することで、電極で加圧したときのワークとテストピースの変形態様が略一致するため、同じ溶接条件で溶接を施したときの溶接状態が略一致する。従って、テストピースで良好な溶接状態が得られる溶接条件を設定し、この溶接条件でワークにスポット溶接を施せば、テストピースと同様に良好な溶接状態を得ることができる。
【0011】
ワーク及びテストピースの張り剛性は、例えば、押圧部材により所定の加圧力で加圧したときの圧痕の深さにより評価することができる。このとき、押圧部材として、スポット溶接装置の電極を用いれば、圧痕を形成するための別途の部材が不要となる。
【0012】
ワークを板厚方向一方側から電極で加圧すると共に、ワークを板厚方向他方側から支持しない状態でスポット溶接を施す、いわゆる片側スポット溶接では、張り剛性が溶接状態に与える影響が大きいと考えられる。従って、片側スポット溶接の溶接条件を評価する際に、本発明を適用することが特に好ましい。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、実際のワークの張り剛性を再現したテストピースを用いて溶接条件を設定することで、溶接条件の信頼性が高められるため、ワークの溶接不良が低減され、歩留まりが向上して製造コストが低減される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】ワークの断面図である。
図2】電極による圧痕が形成されたワークの拡大断面図である。
図3】テストピースの断面図である。
図4】テストピースの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
本実施形態では、自動車の車体を構成する部品に片側スポット溶接、特にインダイレクトスポット溶接を施す場合を示し、具体的には、図1に示すようなワーク100(車体の骨格部品)を溶接する場合を示す。ワーク100は、紙面直交方向に延びるフレーム状の部品であり、略平板状を成した第1の金属板101と、断面ハット形状を成した第2の金属板102と、第1の金属板101と第2の金属板102とで構成される中空部に配された断面ハット形状を成した第3の金属板103とで構成される。第1の金属板101と第2の金属板102とは、ダイレクトスポット溶接により予め溶接された既接合点Q1を介して接合されている。第2の金属板102と第3の金属板103とは、ダイレクトスポット溶接により予め溶接された既接合点Q2を介して接合されている。金属板101~103としては、例えば鋼板が使用され、具体的には軟鋼板、高張力鋼板(引張強度490MPa以上)、超高張力鋼板(引張強度980MPa以上)等が使用される。
【0017】
そして、第1の金属板101と第3の金属板103との接合予定部Pを、インダイレクトスポット溶接により接合する。このときの溶接条件(加圧力、電流値、通電時間)は、オフラインでの溶接試験により設定される。具体的な溶接条件の設定は、以下の手順で行われる。
【0018】
まず、図1のワーク100の接合予定部Pを、電極10により所定の加圧力で押圧する。これにより、図2に示すように、接合予定部Pに圧痕Mが形成される。次に、この圧痕Mの深さを測定する。圧痕Mの深さは、溶接前の第1の金属板101の上面(点線参照)と溶接後の圧痕Mの最深部との板厚方向距離である。図示例では、第1の金属板101の上面の平坦部と圧痕Mの最深部との板厚方向距離を、圧痕Mの深さDとしている。
【0019】
次に、図3、4に示すテストピース200を作製する。テストピース200は、図1のワーク100の接合予定部Pと同じ板組みを有し、具体的には、第1の金属板101と同じ材質及び板厚の上板201と、第3の金属板103と同じ材質及び板厚の下板202とを有する。上板201と下板202との間には、絶縁体からなるシム203が挟まれている。シム203は、板厚方向と直交する方向(図3の左右方向)で接合予定部P’の両側に設けられる。シム203の厚さは、溶接前のワーク100の接合予定部Pにおける金属板101、103の間の隙間と同等に設定される。上板201、下板202、及びシム203からなるテストピース200を台204の上に載置すると共に、図4に示す平面視で接合予定部P’の両側をクランプ205で押さえることで、テストピース200がセットされる。尚、図3では、上板201、下板202、及びシム203の板厚を誇張して示している。また、シム203の厚さの設定方法は上記に限らず、例えば、ワーク100の金属板101、103の間の隙間の大きさに関わらず、一定の厚さ(例えば、想定される最大隙間よりも大きい厚さ)に設定してもよい。
【0020】
テストピース200は、金属板の枚数、材質、板厚だけでなく、張り剛性も実際のワーク100と一致させる。具体的には、テストピース200の接合予定部P’を、電極10により所定の加圧力で押圧する。このときの加圧力は、上記のワーク100の接合予定部Pに対する加圧力と同じ値とされる。これにより、テストピース200の接合予定部P’に圧痕M’が形成される(図3の点線参照)。この圧痕M’の深さが、ワーク100の接合予定部Pの圧痕Mの深さと同等となるように、テストピース200を調整する。例えば、テストピース200の圧痕M’の深さとシム間ピッチL(一対のシム203の間の距離。図3参照。)との間には相関関係があるため、テストピース200のシム間ピッチLを調整することにより、テストピース200の圧痕M’の深さ(すなわち張り剛性)を調整することができる。具体的に、ワーク100の圧痕Mの深さDとテストピース200の圧痕M’の深さD’との比D/D’が0.9≦D/D’≦1.1を満たせば、圧痕M、M’の深さが同等であり、ワーク100とテストピース200の張り剛性が同等であると評価できる。
【0021】
その後、上記のテストピース200の接合予定部P’にスポット溶接を施す。本実施形態では、テストピース200の上板201を電極10で上方から加圧すると共に、テストピース200の下板202のうち、電極10と対向しない位置にアース電極20を接触させた状態で、両電極10、20間に通電する。これにより、上板201と下板202とが電極10の直下で接触、溶融し、溶接点(ナゲット)が形成される。この溶接点の状態に基づいて、溶接条件の良否を判定する。例えば、電極10の軸心を含む断面におけるナゲットの直径(ナゲット径)を測定し、ナゲット径が所定値以上であれば、そのときの溶接条件が良好であると判定され、ワークの接合予定部Pを溶接する際の溶接条件として設定される。一方、ナゲット径が所定値未満であれば、溶接条件が不良であると判定される。この場合、溶接条件を変更して再びテストピース200に対してスポット溶接を施して、ナゲット径が所定値以上であるか否かを確認する作業を、ナゲット径が所定値以上となるまで繰り返す。そして、ナゲット径が所定値以上となったときの溶接条件が、ワークの接合予定部Pを溶接する際の溶接条件として設定される。
【0022】
こうして設定された溶接条件で、ワーク100の接合予定部Pにスポット溶接を施す。 具体的には、図1に示すように、ワーク100のうち、接合予定部Pと異なる部位にアース電極20を当接させた状態で、第1の金属板101と第3の金属板103との接合予定部Pを厚さ方向一方側(図中上側)から電極10で加圧しながら、両電極10,20間に通電することにより、接合予定部Pを溶接する。
【0023】
上記のように、ワーク100の張り剛性が再現されたテストピース200を用いて溶接条件を設定することで、テストピース200とワーク100との溶接状態の再現性が高められるため、ワーク100の溶接不良が減じられ、歩留まりが向上して製造コストが低減される。その後、上記と同様のワーク100に対してスポット溶接を施す際には、上記のテストピース200で設定した溶接条件を用いればよい。
【0024】
本発明は上記の実施形態に限られない。以下、本発明の他の実施形態を説明するが、上記の実施形態と同様の点については重複説明を省略する。
【0025】
例えば、張り剛性(電極で所定の加圧力で加圧した際の圧痕深さ等)の異なる複数のテストピースを作製し、各テストピースにスポット溶接を施して適切な溶接条件を設定することにより、張り剛性とこれに対応する溶接条件のデータベースを作成してもよい。この場合、ワークの接合予定部の張り剛性を測定して、このワークの張り剛性と同等の張り剛性に対応する溶接条件を上記のデータベースから取得し、この溶接条件を、当該ワークの接合予定部にスポット溶接を施す際の溶接条件として設定する。
【0026】
上記の実施形態では、ワークやテストピースの張り剛性を、電極で所定の加圧力で加圧した際の圧痕深さで評価する場合を示したが、これに限られない。例えば、ワークやテストピースに圧痕を形成する押圧部材として、電極ではなく、別途の部材を用いてもよい。また、電極10の加圧力及び押し込み量(変位量)によりワークやテストピースの張り剛性を評価してもよい。
【0027】
本発明は、インダイレクトスポット溶接等の片側スポット溶接に限らず、ダイレクトスポット溶接の溶接条件の設定に適用してもよい。
【符号の説明】
【0028】
10 電極
20 アース電極
100 ワーク
101、102、103 金属板
200 テストピース
201 上板
202 下板
203 シム
M、M’ 圧痕
P、P’ 接合予定部
Q1、Q2 既接合点
図1
図2
図3
図4