(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】高圧タンクを構成する筒部材を製造する製造装置
(51)【国際特許分類】
B29C 70/32 20060101AFI20240423BHJP
F17C 5/06 20060101ALI20240423BHJP
F17C 1/06 20060101ALI20240423BHJP
B29L 23/00 20060101ALN20240423BHJP
【FI】
B29C70/32
F17C5/06
F17C1/06
B29L23:00
(21)【出願番号】P 2020156656
(22)【出願日】2020-09-17
【審査請求日】2022-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】308039414
【氏名又は名称】株式会社FTS
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】臼井 隆
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 敏和
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-178026(JP,A)
【文献】実開昭49-119462(JP,U)
【文献】特開平9-174699(JP,A)
【文献】特公昭44-472(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/32
F17C 5/06
F17C 1/06
B29L 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスを収容する高圧タンクの胴体部の補強層に相当する筒部材を繊維強化樹脂により製造する、筒部材の製造装置であって、
所定軸に沿って延びるマンドレルと、
前記マンドレルの端部を保持し、前記所定軸を中心として前記マンドレルを回転させる回転装置と、
前記回転装置により回転されている前記マンドレルに、
熱硬化性樹脂が含浸された繊維束が巻き付くように供給する繊維供給装置と、
前記マンドレルに巻き付いた前記繊維束に含浸された
熱硬化性樹脂を
熱硬化させて前記筒部材を成形する固化装置と、
を備え、
前記マンドレルは、前記マンドレルの外周面を形成するとともに前記外周面が変形自在となる少なくとも1つの外周部材と、前記外周面が径方向の内側に移動するのを規制する規制部材と、を有し、
前記製造装置は、
前記繊維束が巻き付く巻き付け形状の前記外周面と、前記巻き付け形状の前記外周面を前記径方向の内側に移動させ前記マンドレルと前記筒部材とを前記マンドレルの軸方向に引き離すことが自在となる引き離し形状の前記外周面とに、前記規制部材を動作させることにより、前記マンドレルの外周面を変形させる変形装置と、
前記筒部材と、前記引き離し形状の状態の前記外周面に変形した前記マンドレルと、を前記軸方向に引き離す引き離し装置と、
をさらに備え
、
前記マンドレルは、前記軸方向に延びるシャフトをさらに有し、
前記外周部材は、前記シャフトの周囲に配置され前記外周面を形成する複数の外周体を含み、
前記規制部材は、前記外周体の前記軸方向の両側に一対設けられており、
前記規制部材は、前記シャフトと前記複数の外周体との間に配置され前記シャフトに沿って軸方向に移動する移動部材を含み、
前記移動部材は、前記軸方向に対して傾斜する傾斜面を有し、
前記外周体は、前記軸方向に対して傾斜するとともに前記移動部材の傾斜面に対して摺動する摺動面を有し、
前記外周部材には、前記移動部材の傾斜面が前記摺動面に当接した状態で、前記外周面が前記径方向の内側に変位するように、前記複数の外周体を付勢する第1付勢部材が設けられており、
一対の前記移動部材が、前記変形装置により前記マンドレルの軸方向に沿った所定位置に配置された状態で、前記移動部材は前記外周面が前記径方向の内側に移動するのを規制し、前記外周面は前記巻き付け形状になっており、
前記一対の移動部材が、前記変形装置により前記所定位置から前記マンドレルの軸方向に沿って互いに遠ざかるように移動された状態で、前記外周面は前記引き離し形状になっており、
一対の前記規制部材は、前記第1付勢部材が前記複数の外周体を付勢した状態で、前記一対の移動部材を、前記マンドレルの軸方向に沿って互いに近づく方向に付勢する第2付勢部材をさらに含み、
前記第2付勢部材は、前記繊維束を前記マンドレルに巻き付ける際の前記繊維束による巻き締め力によって、前記第2付勢部材が前記マンドレルの軸方向に沿って圧縮弾性変形自在となるように前記移動部材を付勢することを特徴とする筒部材の製造装置。
【請求項2】
前記外周面を前記巻き付け形状にした状態で、前記外周体同士の間に隙間が形成されており、
前記マンドレルの前記外周面を覆うように、前記繊維供給装置から前記繊維束が供給されるスリーブが設けられていることを特徴とする請求項
1に記載の筒部材の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスを収容する高圧タンクのうちの繊維強化樹脂からなる補強層の筒部材を製造する製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水素等の貯蔵・供給に用いられる高圧タンクとして、タンク本体と、そのタンク本体の長手方向の開口端部に取り付けられた口金とを備えているタンクが知られている。タンク本体は、例えば、水素ガスを気密保持するためのライナーと、その外面を繊維強化樹脂からなる繊維束で巻き付けて補強した補強層と、を含んでいる。
【0003】
高圧タンクの製造方法としては、例えばフィラメントワインディング法(以下、単に「FW法」ともいう)によりライナーの外面に繊維束を巻き付けて硬化し、繊維強化樹脂からなる補強層を作製する方法が知られている。例えば特許文献1には、ライナーと、ライナーの外面を覆う補強層とを備えた高圧タンクが開示されている。補強層は、樹脂が含浸された繊維束をライナーの外面にヘリカル巻きして得られるヘリカル層と、樹脂が含浸された繊維束をヘリカル層の外面を覆うようにフープ巻きして得られるフープ層とを含んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の高圧タンクの製造方法に代わる製造方法として、繊維強化樹脂からなる筒部材と、繊維強化樹脂からなる一対のドーム部材と、を作製し、一対のドーム部材を筒部材の両端にそれぞれ接合することにより補強層を作製する、という製造方法が考えられる。
【0006】
しかしながら、繊維強化樹脂からなる筒部材を作製する場合、例えば樹脂が含浸された繊維束を円筒状または円柱状のマンドレルの外周面に巻回して未硬化の繊維強化樹脂からなる筒部材を成形し、その未硬化の繊維強化樹脂を硬化させた後で、筒部材をマンドレルから取り外す必要がある。
【0007】
ここで、樹脂が含浸された繊維束をマンドレルの外周面に巻回する場合、繊維束は張力が付与された状態で巻回される。このため、筒部材はマンドレルの外周面に押し付けられた状態となっているので、マンドレルを筒部材から引き抜く際に、マンドレルの外周面と筒部材の内周面との間で相対すべりが発生し、筒部材の内周面に傷が生じてしまうという問題点がある。
【0008】
本発明は、このような点を鑑みてなされたものであり、高圧タンクの筒部材の内周面に傷が生じるのを抑制することが可能な製造装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る筒部材の製造装置は、ガスを収容する高圧タンクの胴体部の補強層に相当する筒部材を繊維強化樹脂により製造する、筒部材の製造装置であって、所定軸に沿って延びるマンドレルと、前記マンドレルの端部を保持し、前記所定軸を中心として前記マンドレルを回転させる回転装置と、前記回転装置により回転されている前記マンドレルに、樹脂が含浸された繊維束が巻き付くように供給する繊維供給装置と、前記マンドレルに巻き付いた前記繊維束に含浸された樹脂を固化させて前記筒部材を成形する固化装置と、を備え、前記マンドレルは、前記マンドレルの外周面を形成するとともに前記外周面が変形自在となる少なくとも1つの外周部材と、前記外周面が径方向の内側に移動するのを規制する規制部材と、を有し、前記製造装置は、前記繊維束が巻き付く巻き付け形状の前記外周面と、前記巻き付け形状の前記外周面を前記径方向の内側に移動させ前記マンドレルと前記筒部材とを前記マンドレルの軸方向に引き離すことが自在となる引き離し形状の前記外周面とに、前記規制部材を動作させることにより、前記マンドレルの外周面を変形させる変形装置と、前記筒部材と、前記引き離し形状の状態の前記外周面に変形した前記マンドレルと、を前記軸方向に引き離す引き離し装置と、をさらに備える。
【0010】
本発明の筒部材の製造装置によれば、変形装置により外周面が巻き付け形状にされているマンドレルを回転装置によって回転させながら、繊維供給装置からマンドレルに繊維束を供給することによって、繊維束がマンドレルに巻き付けられる。このとき、規制部材によって外周面が径方向の内側に移動することを規制しているため、外周面は巻き付け形状に保持される。そして、マンドレルに巻き付けられた繊維束に含浸された樹脂を固化装置により固化させることによって、マンドレルの外周面に筒部材を成形する。その後、変形装置により規制部材を動作させ外周面を径方向の内側に移動させることによって、マンドレルの外周面と筒部材の内周面との間に隙間が形成された状態となる。この状態で引き離し装置によってマンドレルと筒部材とを軸方向に相対的に移動させて引き離すため、マンドレルの外周面と筒部材の内周面とが接触するのを抑制することができる。このため、筒部材の内周面に傷が生じるのを抑制することができる。
【0011】
上記筒部材の製造装置において、好ましくは、前記外周部材は、前記軸方向に延びるスリットが形成された円筒体であり、前記規制部材は、前記スリットに対して挿抜可能なシムであり、前記シムが前記変形装置により前記スリットに挿入された状態で、前記シムは前記外周面が前記径方向の内側に移動するのを規制し、前記外周面は前記巻き付け形状になっており、前記シムが前記変形装置により前記スリットから抜かれた状態で、前記外周面は前記引き離し形状になっている。このように構成すれば、繊維束をマンドレルに巻き付ける際には、変形装置によりシムを外周部材のスリットに挿入することによって、外周面が径方向の内側に移動することが規制されるので、外周面を巻き付け形状に保持した状態で繊維束を巻き付けることができる。その一方、マンドレルと筒部材とを軸方向に相対的に移動させて引き離す際には、変形装置によりシムを外周部材のスリットから抜くことによって、外周面が径方向の内側に移動して引き離し形状になるので、マンドレルの外周面と筒部材の内周面とが接触するのを抑制することができる。また、外周部材は軸方向に延びるスリットが形成された円筒体であるため、スリットからシムを抜く際には、変形装置によりシムを径方向の内側に移動させればよい。すなわち、シムを径方向に移動させることによって、外周面を巻き付け形状と引き離し形状とに変更することができる。このため、外周面を巻き付け形状と引き離し形状とに変更する際にシムを軸方向に移動させる場合に比べて、シムの移動距離を短くすることができるので、外周面を巻き付け形状と引き離し形状とに容易に変更することができる。
【0012】
上記筒部材の製造装置において、好ましくは、前記規制部材は、前記軸方向に延びる芯材であり、前記外周部材は、前記芯材の周囲に配置され前記外周面を形成する複数の外周体を含み、前記芯材は、前記複数の外周体を組み合わせることで内部に形成される空間に対して挿抜可能に形成されており、前記芯材が前記変形装置により前記空間に挿入された状態で、前記芯材は前記外周面が前記径方向の内側に移動するのを規制し、前記外周面は前記巻き付け形状になっており、前記芯材が前記変形装置により前記空間から抜かれた状態で、前記外周面は前記引き離し形状になっている。このように構成すれば、繊維束をマンドレルに巻き付ける際には、変形装置により芯材を前記空間に挿入することによって、外周面が径方向の内側に移動することが規制されるので、外周面を巻き付け形状に保持した状態で繊維束を巻き付けることができる。その一方、マンドレルと筒部材とを軸方向に相対的に移動させて引き離す際には、変形装置により芯材を前記空間から抜くことによって、外周面が径方向の内側に移動可能となり、外周面を引き離し形状にすることができるので、マンドレルの外周面と筒部材の内周面とが接触するのを抑制することができる。また、複数の外周体を組み合わせることで内部に形成される空間に対して芯材を挿抜することによって、外周面を巻き付け形状と引き離し形状とに変更することが可能となる。このため、例えば、外周面を巻き付け形状にする場合には変形装置によって1つの芯材を軸方向に移動させて前記空間に挿入することによって、1つの芯材により複数の外周体の移動を容易に規制することができる。
【0013】
上記筒部材の製造装置において、好ましくは、前記マンドレルは、前記軸方向に延びるシャフトをさらに有し、前記外周部材は、前記シャフトの周囲に配置され前記外周面を形成する複数の外周体を含み、前記規制部材は、前記外周体の前記軸方向の両側に一対設けられており、前記規制部材は、前記シャフトと前記複数の外周体との間に配置され前記シャフトに沿って軸方向に移動する移動部材を含み、前記移動部材は、前記軸方向に対して傾斜する傾斜面を有し、前記外周体は、前記軸方向に対して傾斜するとともに前記移動部材の傾斜面に対して摺動する摺動面を有し、前記外周部材には、前記移動部材の傾斜面が前記摺動面に当接した状態で、前記外周面が前記径方向の内側に変位するように、前記複数の外周体を付勢する第1付勢部材が設けられており、一対の前記移動部材が、前記変形装置により前記マンドレルの軸方向に沿った所定位置に配置された状態で、前記移動部材は前記外周面が前記径方向の内側に移動するのを規制し、前記外周面は前記巻き付け形状になっており、前記一対の移動部材が、前記変形装置により前記所定位置から前記マンドレルの軸方向に沿って互いに遠ざかるように移動された状態で、前記外周面は前記引き離し形状になっている。このように、移動部材は軸方向に対して傾斜する傾斜面を有し、外周体は移動部材の傾斜面に対して摺動する摺動面を有するので、変形装置によって移動部材を軸方向に沿って移動させると、外周体の摺動面が移動部材の傾斜面に対して摺動する。このとき、第1付勢部材は外周面が径方向の内側に変位するように複数の外周体を付勢しているので、変形装置により一対の移動部材を互いに遠ざけることによって、外周体は第1付勢部材の付勢力により径方向の内側に移動し、外周面は引き離し形状になる。その一方、変形装置により一対の移動部材を互いに近づけることによって、外周体は第1付勢部材の付勢力に抗して径方向の外側に移動し、外周面は巻き付け形状になる。これにより、変形装置により移動部材を移動させることによって、外周面を巻き付け形状と引き離し形状とに容易に変更することができる。
【0014】
この場合、好ましくは、一対の前記規制部材は、前記第1付勢部材が前記複数の外周体を付勢した状態で、前記一対の移動部材を、前記マンドレルの軸方向に沿って互いに近づく方向に付勢する第2付勢部材をさらに含み、前記第2付勢部材は、前記繊維束を前記マンドレルに巻き付ける際の前記繊維束による巻き締め力によって、前記第2付勢部材が前記マンドレルの軸方向に沿って圧縮弾性変形自在となるように前記移動部材を付勢する。ところで、繊維束に含浸される樹脂が熱硬化性樹脂である場合、未硬化の熱硬化性樹脂を硬化させる際に樹脂が熱により一旦軟化する。このとき、繊維束は、張力が付与された状態で巻回されているため、樹脂の軟化に伴って樹脂内において径方向内側(マンドレル側)に移動する。これにより、繊維束の張力が低下し、繊維束が緩んだ状態になる場合がある。しかしながら、この製造装置では、第2付勢部材は、繊維束による巻き締め力によって第2付勢部材がマンドレルの軸方向に沿って圧縮弾性変形自在となるように、移動部材を付勢する。すなわち、繊維束をマンドレルに巻き付ける際に外周面が径方向の内側に変位する。また、移動部材には第2付勢部材により互いに近づく方向に付勢力が作用しているため、外周体には径方向の外側に向かう力が作用している。このため、樹脂の軟化に伴って繊維束の張力が低下する分だけ、すなわち繊維束が径方向の内側に移動しようとする分だけ、外周体が径方向の外側に変位する。これにより、繊維束の張力が低下して繊維束が緩んだ状態になることが抑制されるので、繊維強化樹脂の強度が低下するのを抑制することができる。
【0015】
上記筒部材の製造装置において、好ましくは、前記外周面を前記巻き付け形状にした状態で、前記外周体同士の間に隙間が形成されており、前記マンドレルの前記外周面を覆うように、前記繊維供給装置から前記繊維束が供給されるスリーブが設けられている。このように構成すれば、変形装置によって外周面を巻き付け形状にした状態で(すなわち、繊維束の巻回時に)、外周体同士の間に隙間が形成される場合であっても、スリーブにより隙間が覆われるので、繊維供給装置を用いて繊維束を巻回する際に未硬化の樹脂がその隙間に入り込むのを防止することができる。これにより、筒部材の内周面に凹凸等が形成されるのを防止することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、筒部材の内周面に傷が生じるのを抑制することが可能な筒部材の製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る製造装置を用いて作製される高圧タンクの構造を示す断面図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る高圧タンクの製造方法を示すフローチャートである。
【
図3】
図2の接合工程を説明するための斜視図である。
【
図4】
図2のライナー形成工程を説明するための断面図である。
【
図5】本発明の第1実施形態に係る製造装置の構成を説明するための概略図である。
【
図6】本発明の第1実施形態に係る筒部材の製造装置および製造方法を説明するための断面図である。
【
図7】本発明の第1実施形態に係る筒部材の製造装置および製造方法を説明するための断面図ある。
【
図8】
図2の筒部材形成工程を示すフローチャートである。
【
図9】本発明の第2実施形態に係る筒部材の製造装置および製造方法を説明するための断面図である。
【
図10】本発明の第2実施形態に係る筒部材の製造装置および製造方法を説明するための断面図である。
【
図11】本発明の第3実施形態に係る筒部材の製造装置および製造方法を説明するための断面図である。
【
図12】本発明の第3実施形態に係る筒部材の製造装置および製造方法を説明するための断面図である。
【
図13】本発明の第4実施形態に係る筒部材の製造装置および製造方法を説明するための断面図である。
【
図14】本発明の第4実施形態に係る筒部材の製造装置および製造方法を説明するための断面図である。
【
図15】本発明の第4実施形態に係る製造装置を用いた際の効果を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1実施形態)
以下、図面を参照して、本発明の第1実施形態に係る筒部材21を製造する製造装置100について説明するが、その前に筒部材21を有する高圧タンク10の構成について簡単に説明する。以下では、高圧タンク10を、燃料電池車両に搭載される高圧の水素ガスが充填されるタンクとして説明するが、その他の用途についても適用することができる。また、高圧タンク10に充填可能なガスとしては、高圧の水素ガスに限定されない。
【0019】
図1に示すように、高圧タンク10は、筒状の胴体部の両端にドーム状の部分が設けられた高圧ガス貯蔵容器である。高圧タンク10は、ガスバリア性を有するライナー11と、ライナー11の外面を覆う繊維強化樹脂からなる繊維強化樹脂層12と、を備える。繊維強化樹脂層12は、ライナー11の外面を覆う補強層としての補強体20と、補強体20の外面を覆う外側補強層13と、を有する。高圧タンク10の一方端には、開口部が形成されており、開口部周辺には口金14が取り付けられている。なお、高圧タンク10の他方端には、開口部が形成されておらず、口金も設けられていない。
【0020】
ライナー11は、補強体20の内面に沿って形成されている。ライナー11は、高圧の水素ガスが充填される収容空間17を形成する樹脂製部材である。ライナー11を構成する樹脂は、充填されるガス(ここでは水素ガス)を収容空間17内に保持する性能、即ち、ガスバリア性が良好な樹脂であることが好ましい。このような樹脂としては、例えば、ポリアミド、ポリエチレン、及びエチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)、ポリエステル等の熱可塑性樹脂や、エポキシ等の熱硬化性樹脂が挙げられる。ライナー11には、燃料ガスとして水素ガスの他に、例えば、CNG(圧縮天然ガス)等の各圧縮ガス、LNG(液化天然ガス)、LPG(液化石油ガス)等の各種液化ガス、その他のガスが充填されてもよい。
【0021】
口金14は、アルミニウム又はアルミニウム合金等の金属材料を所定形状に加工したものである。口金14には、収容空間17に対して水素ガスを充填および排出するためのバルブ15が取り付けられている。
【0022】
補強体20は、ライナー11の外面を覆っているとともに、ライナー11を補強して高圧タンク10の剛性や耐圧性等の機械的強度を向上させる機能を有する。補強体20は、後述するように、円筒状の筒部材21と、筒部材21の両端に接続された一対のドーム部材22および23とを有するとともに、これらが一体化したものである。
【0023】
外側補強層13は、補強体20の外面を覆うように形成されている。外側補強層13は、樹脂及び繊維束(連続繊維)から構成されている。この繊維束は、ドーム部材22および23の軸方向外側への移動を防止し、ガス圧によってドーム部材22および23が筒部材21から軸方向外側に外れるのを防止する。
【0024】
次に、本発明の第1実施形態に係る高圧タンク10の製造方法について説明する。
図2は、高圧タンク10の製造方法を示すフローチャートである。高圧タンク10の製造方法は、
図2に示すように、ドーム部材形成工程S1と、筒部材形成工程S2と、接合工程S3と、外側補強層形成工程S4と、ライナー形成工程S5と、を含んで構成されている。なお、ドーム部材形成工程S1と筒部材形成工程S2とは、互いに独立した工程であるため、並行して行ってもよいし、いずれの工程を先に行ってもよい。
【0025】
ドーム部材形成工程S1において、繊維強化樹脂からなる一対のドーム部材22および23を形成する。例えば、樹脂が含浸された繊維束をドーム状の表面を有する型に貼り付けて(又は巻回して)硬化させたり、射出成形したりすることによって、ドーム部材22および23を形成することができる。このとき、ドーム部材22には、貫通穴22bを有する円筒状の突出部22aが形成される。そして、ドーム部材22の突出部22aの外面に口金14を取り付ける。
【0026】
繊維束に含浸される樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば熱硬化性樹脂を用いることができる。熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、及びエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を用いることが好ましく、特に、機械的強度等の観点からエポキシ樹脂を用いることが好ましい。一般的に、エポキシ樹脂とは、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンの共重合体等であるプレポリマーと、ポリアミン等である硬化剤と、を混合して熱硬化することで得られる樹脂である。エポキシ樹脂は、未硬化状態では流動性があり、熱硬化後は強靭な架橋構造を形成する。なお、繊維束に含浸される樹脂として、熱可塑性樹脂を用いてもよい。熱可塑性樹脂としては、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルファイド、ポリアクリル酸エステル、ポリイミド、ポリアミド等を用いることができる。
【0027】
繊維束を構成する繊維としては、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、及び炭素繊維等を用いることができ、特に、軽量性や機械的強度等の観点から炭素繊維を用いることが好ましい。
【0028】
筒部材形成工程S2においては、後述する製造装置100を用いて、繊維強化樹脂からなる筒部材21を形成する。なお、筒部材21を製造する製造装置100および筒部材形成工程S2の詳細については、後述する。
【0029】
接合工程S3においては、
図3に示すように、筒部材21の両端の周縁部21bと一対のドーム部材22および23の周縁部22cおよび23a(
図1参照)とを接合して、補強層としての補強体20を形成する。
【0030】
具体的には、筒部材21の周縁部21bとドーム部材22および23の周縁部22cおよび23aとの一方(ここでは周縁部21b)を内側にし、他方(ここでは周縁部22cおよび23a)を外側にして嵌め合せる。このとき、筒部材21とドーム部材22および23との間に接着剤(図示せず)を配置してもよい。このように構成すれば、後の工程において筒部材21とドーム部材22および23とが外れるのをより抑制することができる。接着剤(図示せず)の材質は、特に限定されるものではないが、例えば、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。
【0031】
外側補強層形成工程S4においては、補強体20の外面を覆うように、繊維強化樹脂により一対のドーム部材22および23に亘って繊維束が配置された外側補強層13を形成する。これにより、補強体20および外側補強層13を有する繊維強化樹脂層12が形成される。例えば、樹脂が含浸された繊維束を補強体20の外面にヘリカル巻きすることによって、外側補強層13を形成してもよい。また、樹脂が含浸された複数の繊維束を補強体20の軸方向Xに延在させた状態で補強体20の外面に貼り付けることによって外側補強層13を形成してもよいし、樹脂が含浸された繊維束が編み込まれた繊維シートを補強体20の外面に巻回する、所謂シートワインディング法を用いて外側補強層13を形成してもよい。
【0032】
この繊維束に含浸される樹脂としては、特に限定されるものではないが、筒部材21およびドーム部材22と同様の樹脂を用いることができる。また、繊維束を構成する繊維としては、特に限定されるものではないが、筒部材21およびドーム部材22と同様の繊維を用いることができる。
【0033】
ライナー形成工程S5においては、
図4に示すように、補強体20の突出部22aに形成された貫通穴22bを介して樹脂材料Mを挿入する。そして、繊維強化樹脂層12を回転させながら、樹脂材料Mを固化することによって、ライナー11を形成する。
【0034】
具体的には、貫通穴22bは、繊維強化樹脂層12の内部空間と外部空間とを連通している。樹脂材料Mを吐出するノズル500を貫通穴22bに挿入し、繊維強化樹脂層12の内部空間に樹脂材料Mを挿入する。そして、ノズル500を貫通穴22bから引き出す。
【0035】
樹脂材料Mは、上述したように、ガスバリア性が良好な樹脂であることが好ましい。このような樹脂としては、例えば、ポリアミド、ポリエチレン、及びエチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)、ポリエステル等の熱可塑性樹脂や、エポキシ等の熱硬化性樹脂が挙げられるが、ポリアミドであることが好ましい。
【0036】
その後、繊維強化樹脂層12の内部空間を必要に応じて所定温度以上に加熱して、樹脂材料Mが低粘度で流動性を有した状態で、繊維強化樹脂層12を水平方向に沿った軸を中心として周方向に回転させるとともに繊維強化樹脂層12の両端を交互に上下させる(
図4参照)。これにより、樹脂材料Mは流動性を有した状態で繊維強化樹脂層12の回転により持ち上げられるとともに、樹脂材料Mの一部が自重により繊維強化樹脂層12の内面を流れ落ちることによって、樹脂材料Mは補強体20の内面全面を覆った状態になる。樹脂材料Mが熱硬化性樹脂である場合は内部空間を加熱して樹脂材料Mを硬化させ、ライナー11を形成する。樹脂材料Mが熱可塑性樹脂である場合は内部空間の温度を下げることによって、樹脂材料Mを繊維強化樹脂層12の内面を覆うように接触させた状態で固化させ、ライナー11を形成する。ここでは、樹脂材料Mとして常温で流動性がある2種類以上の低分子量・低粘度の液体材料を用いて、反応射出成形(Reaction Injection Molding)法によってライナー11を形成する。この場合、内部空間を加熱することによりモノマーからポリマーを生成し、その後、内部空間を冷却することによりポリマーを固化させてライナー11を形成する。
【0037】
このライナー形成工程S5によれば、繊維強化樹脂層12を形成した後であっても、繊維強化樹脂層12の内側にライナー11を容易に形成することができる。また、金型を用いた射出成形によりライナーを形成する場合と異なり、ライナー成形用の金型が不要である。
【0038】
そして、口金14にバルブ15を取り付けることによって、高圧タンク10が完成する。
次に、筒部材21を製造するための製造装置100について説明する。
【0039】
図5に示すように、製造装置100は、筒部材21が形成される外周面200aを有するとともに中心軸(所定軸)CLに沿って延びる円筒状のマンドレル200と、マンドレル200の軸方向両側に配置される一対の駆動ユニット110aおよび110bと、樹脂が含浸された繊維束Fをマンドレル200に供給する繊維供給装置170と、マンドレル200に巻回された繊維束Fに含浸された樹脂を硬化(固化)させる加熱装置(固化装置)180と、を備える。
【0040】
駆動ユニット110aおよび110bの各々は、マンドレル200を保持する保持装置120を備えている。駆動ユニット110aおよび110bの少なくとも一方(ここでは駆動ユニット110aおよび110bの両方)は、保持装置120をマンドレル200の軸方向に移動させる移動装置(引き離し装置)130を備えている。また、駆動ユニット110aおよび110bの少なくとも一方(ここでは駆動ユニット110a)は、保持装置120をマンドレル200と共に中心軸CLを中心として回転させる回転装置140を備えている。なお、各保持装置120は、中心軸CLを中心として回転可能に設けられている。
【0041】
各保持装置120は、マンドレル200を構成する部材を保持する1つ以上の保持部材121を含んでおり、本実施形態では2つの保持部材121を含んでいる。保持部材121は、例えば、マンドレル200を構成する部材を挟持するための複数の爪やアーム等によって構成されている。また、各保持装置120には、保持部材121の少なくとも1つ(ここでは1つ)を径方向に移動させる径方向移動機構125が設けられている。径方向移動機構125は、例えば、径方向に延びるレールと、ソレノイドやモータ等とによって構成されている。なお、本実施形態では、径方向移動機構125は、本発明の「変形装置」の一例である。
【0042】
移動装置130は、1つ以上の保持部材121を一体的にまたは独立してマンドレル200の軸方向に移動できるように構成されている。移動装置130は、例えば、軸方向に延びるレールと、ソレノイドやモータ等とによって構成されている。
【0043】
回転装置140は、例えば、駆動モータと、駆動モータの回転駆動力を保持装置120に伝達するギアやシャフト等とによって構成されている。
【0044】
加熱装置180は、例えば、ヒータと、ヒータの熱をマンドレル200に吹き付ける送風機とによって構成されている。
【0045】
図6および
図7に示すように、マンドレル200は、マンドレル200の外周面200aを構成するとともに外周面200aが変形自在となる少なくとも1つ(ここでは1つ)の外周部材201と、外周面200aが径方向の内側に移動するのを規制する規制部材202と、を有する。本実施形態では、外周部材201は、軸方向に延びるスリット201aが形成された円筒体であり、規制部材202は、スリット201aに対して挿抜可能なシムである。なお、
図7の上から1番目の図、2番目の図、3番目の図は、それぞれ、
図6の上から1番目の図のA1-A1線、2番目の図のA2-A2線、3番目の図のA3-A3線に沿った断面図である。以下、本明細書においては、図に関する記載を簡単にするために、例えば
図6および
図7のように1つの図面に複数の図が含まれている場合、その図面の上から1番目の図、上から2番目の図、上から…に対して、単に図面の1番目、2番目、…と言う。
【0046】
外周部材201の両端は、保持部材121に保持されている。この保持部材121は、支持本体121aと、マンドレル200の軸方向に延びる軸部121bと、外周部材201を挟持する複数の爪121cと、を有する。なお、ここでは詳細な構造については説明を省略するが、複数の爪121cは、外周部材201を挟持するように所定の軸を中心として作動するように構成されているため、外周面200aが後述する巻き付け形状になっている場合も引き離し形状になっている場合も、外周部材201の端部を挟持することができる。
【0047】
規制部材202は、マンドレル200の軸方向に沿って延びるように形成されている。規制部材202の両端は保持部材121に保持されており、規制部材202は径方向移動機構125により外周部材201の径方向に移動可能となっている。また、規制部材202は、スリット201aに挿入された状態(
図7の2番目の状態)でスリット201aの幅が狭まるのを規制することにより、外周面200aが径方向の内側に移動するのを規制する。
【0048】
規制部材202が径方向移動機構125によりスリット201aに挿入された状態(
図6の2番目および
図7の2番目の状態)で、外周面200aは、繊維束Fが巻き付けられる際の巻き付け形状になっている。その一方、規制部材202が径方向移動機構125によりスリット201aから抜かれた状態(
図6の3番目および
図7の3番目の状態)で、外周面200aは、巻き付け形状よりも径方向の内側に移動し、マンドレル200と筒部材21とを軸方向に引き離すことが自在となる引き離し形状になっている。すなわち、外周部材201は、無負荷の状態(規制部材202がスリット201aに挿入されていない状態)(
図6の1番目および
図7の1番目の状態)から、規制部材202がスリット201aに挿入されることによって、弾性変形してスリット201aが広げられた状態(
図6の2番目および
図7の2番目の状態)になる。その一方、外周部材201は、規制部材202がスリット201aから抜かれることによって、弾性変形して元の状態に戻る。このように、繊維束Fをマンドレル200に巻き付ける際には、径方向移動機構125により規制部材202を外周部材201のスリット201aに挿入することによって、外周面200aが径方向の内側に移動することが規制されるので、外周面200aを巻き付け形状に保持した状態で繊維束Fを巻き付けることができる。その一方、マンドレル200と筒部材21とを軸方向に相対的に移動させて引き離す際には、径方向移動機構125により規制部材202を外周部材201のスリット201aから抜くことによって、外周面200aが径方向の内側に移動して引き離し形状になるので、マンドレル200の外周面200aと筒部材21の内周面21cとが接触するのを抑制することができる。また、外周部材201は軸方向に延びるスリット201aが形成された円筒体であるため、スリット201aから規制部材202を抜く際には、径方向移動機構125により規制部材202を径方向の内側に移動させればよい。すなわち、規制部材202を径方向に移動させることによって、外周面200aを巻き付け形状と引き離し形状とに変更することができる。このため、外周面200aを巻き付け形状と引き離し形状とに変更する際に規制部材202を軸方向に移動させる場合に比べて、規制部材202の移動距離を短くすることができるので、外周面200aを巻き付け形状と引き離し形状とに容易に変更することができる。
【0049】
なお、規制部材202がスリット201aに挿入され外周面200aが巻き付け形状になった状態では、外周部材201の外周面と規制部材202の外周面とは面一になっている。すなわち、マンドレル200の外周面200aにはスリット201aに起因する段差が形成されない。
【0050】
外周部材201の材質は、特に限定されるものではないが、樹脂が含浸された繊維束Fを巻回する際に変形しない強度を確保するためには、金属であることが好ましい。また、規制部材202の材質は、特に限定されるものではないが、スリット201aに挿入された際に変形しない強度を確保するためには、金属であることが好ましい。
【0051】
次に、筒部材形成工程S2について説明する。
【0052】
筒部材形成工程S2においては、
図6および
図7に示すように、回転装置140により回転する円筒状のマンドレル200の外周面200aに繊維束Fを巻回するフィラメントワインディング法により筒部材21となる筒体21aを形成する。なお、回転するマンドレル200の外周面200aに繊維シートを巻回する所謂シートワインディング法により筒部材21となる筒体21aを形成してもよい。
【0053】
本実施形態では、筒部材形成工程S2は
図8に示すように、マンドレル200の外周面200aに、樹脂が含浸された繊維束Fを巻回して未硬化の繊維強化樹脂からなる筒体21aを形成する工程S21と、未硬化の繊維強化樹脂を硬化させて筒部材21を形成する(筒体21aを筒部材21にする)工程S22と、マンドレル200の外周面200aを径方向の内側に移動させてマンドレル200の外周面200aを筒部材21の内周面21cから離間させる工程S23と、筒部材21とマンドレル200とを軸方向に相対的に移動させて引き離す工程S24と、を含んでいる。なお、繊維束F(または繊維シート)に含浸される樹脂としては、特に限定されるものではないが、ドーム部材22と同様の樹脂を用いることができ、本実施形態では熱硬化性樹脂を用いる。また、繊維束F(または繊維シート)を構成する繊維としては、特に限定されるものではないが、ドーム部材22と同様の繊維を用いることができる。
【0054】
筒部材形成工程S2では、工程S21において、規制部材202を外周部材201のスリット201aに挿入して外周面200aが巻き付け形状になった状態(
図6の2番目および
図7の2番目の状態)で、保持部材121およびマンドレル200を所定の回転速度で回転させながら、マンドレル200の外周面200aの所定領域に、樹脂が含浸された繊維束Fを供給する。これにより、マンドレル200の外周面200aに繊維束Fが巻回され、未硬化の繊維強化樹脂からなる筒体21aが形成される。
【0055】
その後、工程S22において、加熱装置180により筒体21aに熱風を吹き付け、繊維束Fに含浸された未硬化の繊維強化樹脂を硬化させることによって、筒部材21を形成する。
【0056】
そして、工程S23において、
図6の3番目および
図7の3番目に示すように、規制部材202をマンドレル200の径方向の内側に移動させることにより、規制部材202をスリット201aから引き抜く。これにより、マンドレル200の外周面200aが径方向の内側に移動して、外周面200aが筒部材21の内周面21cから離間し、マンドレル200の外周面200aと筒部材21の内周面21cとの間に隙間が形成される。なお、製造装置100には、筒部材21を保持する筒部材保持装置(図示せず)が設けられている。
【0057】
その後、工程S24において、駆動ユニット110aの移動装置130によりマンドレル200(外周部材201および規制部材202)を軸方向に移動させることにより、筒部材21とマンドレル200とを軸方向に引き離す。このとき、駆動ユニット110bの保持装置120によるマンドレル200の保持は、解除される。このようにして筒部材形成工程S2が終了する。
【0058】
本実施形態では、上記のように、径方向移動機構125により外周面200aが巻き付け形状にされているマンドレル200を回転装置140によって回転させながら、繊維供給装置170からマンドレル200に繊維束Fを供給することによって、繊維束Fがマンドレル200に巻き付けられる。このとき、規制部材202によって外周面200aが径方向の内側に移動することを規制しているため、外周面200aは巻き付け形状に保持される。そして、マンドレル200に巻き付けられた繊維束Fに含浸された樹脂を加熱装置180により固化させることによって、マンドレル200の外周面200aに筒部材21を成形する。その後、径方向移動機構125により規制部材202を動作させて外周面200aを径方向の内側に移動させることによって、マンドレル200の外周面200aと筒部材21の内周面21cとの間に隙間が形成された状態となる。この状態で移動装置130によってマンドレル200と筒部材21とを軸方向に相対的に移動させて引き離すため、マンドレル200の外周面200aと筒部材21の内周面21cとが接触するのを抑制することができる。このため、筒部材21の内周面21cに傷が生じるのを抑制することができる。
【0059】
(第2実施形態)
この第2実施形態では、
図9および
図10に示すように、上記第1実施形態と異なり、マンドレル210は、軸方向に延びる芯材からなる規制部材211と、規制部材211の周囲に配置され外周面210aを形成する複数(ここでは4個)の外周体(外周部材)212、213、214および215との複数(ここでは5個)の分割体により形成されている。また、規制部材211および外周体212~215の各々は、保持部材121によって両端が保持されているとともに、移動装置130によって独立して軸方向に移動可能となっている。なお、
図10の1番目は、
図9の2番目のB1-B1線に沿った断面図である。
【0060】
外周体212~215は、互いに組み合わされることにより、内部に空間S1(
図10の2番目参照)が形成されるように構成されている。空間S1は、ここではマンドレル210の軸方向に延びる直方体状に形成される。すなわち、本実施形態では、外周体212~215によって、中心部に直方体状の空間S1を有する円筒が形成される。なお、規制部材211は、外周体212~215を組み合わせた状態で形成される空間S1と同じ大きさの直方体状に形成されている。
【0061】
外周体212および213は、互いに所定間隔を隔てて平行に配置される対向面212aおよび213aを有するとともに、略半円形状の断面を有するように形成されている。外周体214および215は、外周体212および213の間に配置されるとともに、対向面212aおよび213aに沿って移動可能に形成されている。
【0062】
また、
図9に示すように、マンドレル210の外周面210aの所定領域(具体的には、筒部材21が形成される領域に対して両外側)には、リング部材219が取り付けられる取付溝210bが周方向に形成されている。取付溝210bにリング部材219を取り付けることによって、外周体212~215により形成される空間S1内に規制部材211を挿入した状態で、外周体212~215および規制部材211が互いに密着し、マンドレル210の外周面210aが真円状になる。なお、リング部材219の材質は、筒部材21を構成する樹脂の硬化温度に対して耐熱性を有していれば特に限定されるものではなく、例えば金属や耐熱ゴムなどを用いることができる。
【0063】
また、空間S1内に規制部材211を挿入した状態で、外周面210aは巻き付け形状になる。本実施形態では、後述するように、繊維束Fをマンドレル210に巻き付ける際には、移動装置130により規制部材211を空間S1に挿入することによって、外周面210aが径方向の内側に移動することが規制されるので、外周面210aを巻き付け形状に保持した状態で繊維束Fを巻き付けることができる。その一方、マンドレル210と筒部材21とを軸方向に相対的に移動させて引き離す際には、移動装置130により規制部材211を空間S1から抜くことによって、外周面210aが径方向の内側に移動可能となり、外周面210aを引き離し形状にすることができるので、マンドレル210の外周面210aと筒部材21の内周面21cとが接触するのを抑制することができる。また、外周体212~215を組み合わせることで内部に形成される空間S1に対して規制部材211を挿抜することによって、外周面210aを巻き付け形状と引き離し形状とに変更することが可能となる。このため、例えば、外周面210aを巻き付け形状にする場合には移動装置130によって1つの規制部材211を軸方向に移動させて空間S1に挿入することによって、1つの規制部材211により複数の外周体212~215の移動を容易に規制することができる。
【0064】
本実施形態の筒部材形成工程S2では、工程S21において、外周体212~215を組み合わせることにより形成される空間S1内に規制部材211を挿入することによって、マンドレル210の外周面210aが巻き付け形状になる。このとき、規制部材211は、外周面210aが径方向の内側に移動するのを規制する。この状態(
図9の1番目の状態)で、マンドレル210の外周面210aに筒体21aを形成する(
図9の2番目および
図10の1番目参照)。
【0065】
その後、工程S22において、筒体21aに熱風を吹き付け未硬化の繊維強化樹脂を硬化させることによって、筒部材21を形成する。
【0066】
そして、工程S23において、規制部材211を軸方向に引き抜くことによって(
図10の2番目参照)、外周体214および215が径方向内側に移動可能な状態になる。その後、外周体214および215を外周体212および213の対向面212aおよび213aに沿って径方向内側に移動させる(
図10の3番目参照)。これにより、外周体214および215が筒部材21の内周面21cから離間する。なお、駆動ユニット110aの移動装置130により規制部材211を引き抜く場合、駆動ユニット110bの保持部材121による規制部材211の保持は解除され、規制部材211は片持ち状態で引き抜かれる。また、本実施形態では、移動装置130は、本発明の「変形装置」の一例である。
【0067】
そして、外周体214および215を軸方向に引き抜くことによって、外周体212および213が径方向内側に移動可能な状態になる。その後、外周体212および213を径方向内側に移動させる(
図10の4番目参照)。これにより、外周体212および213の外周面と筒部材21の内周面21cとの間に隙間が形成され、外周面210aが引き離し形状になる。なお、外周体214および215を軸方向に引き抜く際も、規制部材211と同様、外周体214および215は片持ち状態で引き抜かれる。
【0068】
そして、工程S24において、外周体212および213を軸方向に移動させることにより、筒部材21と外周体212および213とを軸方向に引き離す。なお、外周体212および213を軸方向に引き抜く際も、規制部材211と同様、外周体212および213は片持ち状態で引き抜かれる。このようにして、筒部材形成工程S2が終了する。
【0069】
第2実施形態のその他の構造、製造方法および効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0070】
(第3実施形態)
この第3実施形態では、
図11に示すように、上記第2実施形態と異なり、外周体222、223および224同士の間に隙間が形成される例について説明する。
【0071】
第3実施形態では、マンドレル220は、軸方向に延びる芯材からなる規制部材221と、規制部材221の周囲に配置され外周面220aを形成する複数(ここでは3個)の外周体(外周部材)222、223および224との複数(ここでは4個)の分割体により形成されている。外周体222~224は、扇状の断面を有するように形成されており、互いに組み合わされることにより、内部に空間S2が形成されるように構成されている。空間S2は、ここではマンドレル220の軸方向に延びる略円柱状に形成される。なお、上記第2実施形態と同様、マンドレル220の外周面220aの所定領域には、リング部材219が取り付けられる取付溝210bが周方向に形成されている。
【0072】
ここで、本実施形態では、外周体222~224には、外周面220aが径方向の内側に変位するように、外周体222~224を付勢する第1付勢部材225が設けられている。具体的には、外周体222~224の周方向に隣接する面にはそれぞれ、引張コイルバネからなる第1付勢部材225を収容する凹部222a、223aおよび224aが形成されている。3つの第1付勢部材225によって、外周体222~224が互いに近づく方向に付勢されている。
【0073】
そして、各外周体222~224は、2つの第1付勢部材225の合力によって径方向の内側に向かって付勢されている。これにより、外周体222~224を組み合わせた状態(
図11の2番目参照)で、第1付勢部材225の付勢力により、外周体222~224は互いに当接した状態になる。なお、第1付勢部材225を設けず、上記リング部材219として耐熱性ゴムなどを用いることによって、外周体222~224を径方向の内側に付勢してもよい。この場合、耐熱性ゴムなどからなるリング部材219は、本発明の「第1付勢部材」として機能する。
【0074】
規制部材221は、外周体222~224を組み合わせた状態で形成される空間S2よりも外径が少しだけ大きい円柱状に形成されている。このため、空間S2に規制部材221を挿入した状態(
図11の1番目の状態)では、外周体222~224は、少し(例えば数mm)径方向外側に移動する。このとき、外周体222~224同士の間には隙間が形成され、マンドレル220の外周面220aにもスリット状の溝(隙間)が形成される。また、このとき、規制部材221は、外周面220aが径方向の内側に移動するのを規制する。
【0075】
また、本実施形態では、マンドレル220の外周面220aには、円筒状のスリーブ229が設けられている。これにより、ストッパ移動機構190を用いて外周面220aを巻き付け形状にした状態で(すなわち、繊維束Fの巻回時に)、外周体222~224同士の間に隙間が形成される場合であっても、スリーブ229により隙間が覆われるので、繊維供給装置170によって繊維束Fを巻回する際に未硬化の樹脂がその隙間に入り込むのを防止することができる。このため、筒部材21の内周面21cに凹凸等が形成されるのを防止することができる。
【0076】
また、スリーブ229は、空間S2に規制部材221が挿入されていない状態で外周体222~224の外周面(マンドレル220の外周面220a)に対して隙間を有する内径を有する。また、スリーブ229は、空間S2に規制部材221が挿入された状態で外周体222~224の外周面(マンドレル220の外周面220a)に密着するように形成されている。例えば、スリーブ229は、空間S2に規制部材221が挿入された状態(外周面220aが巻き付け形状になっている状態)のマンドレル220の外径と同じ大きさの内径を有していてもよいし、径方向に少し(例えば、数mm以下)弾性変形するように形成されていてもよい。スリーブ229の材質としては、特に限定されるものではないが、例えば弾性変形可能な薄膜の鋼板や樹脂を用いることができる。
【0077】
本実施形態では、工程S21において、
図11の1番目に示すように、外周体222~224を組み合わせることにより形成される空間S2内に規制部材221を挿入することによりマンドレル220の外周面220aが巻き付け形状となった状態で、マンドレル220の外周面220aを覆うスリーブ229の外周面に筒体21aを形成する。
【0078】
その後、工程S22において、筒体21aに熱風を吹き付け未硬化の繊維強化樹脂を硬化させることによって、筒部材21を形成する。
【0079】
そして、工程S23において、
図11の2番目に示すように、移動装置130により規制部材221を軸方向に引き抜くことにより、第1付勢部材225の作用によって外周体222~224が径方向内側に移動する。これにより、外周体222~224がスリーブ229の内周面から離間し、外周面220aが引き離し形状となる。なお、本実施形態では、移動装置130は、本発明の「変形装置」の一例である。
【0080】
その後、工程S24において、外周体222~224を軸方向に引き抜く。この状態では、スリーブ229は筒部材21の内周面21cに密着した状態となっている。
【0081】
そこで、本実施形態では、
図12に示すように、スリーブ引き抜き機構400を用いてスリーブ229を筒部材21から離間させる。具体的には、スリーブ引き抜き機構400は、スリーブ229の両端部に配置される一対のアーム401と、各アーム401に複数(ここでは4個)設けられる爪402とを備えている。爪402は、アーム401に対して所定の角度回動するように構成されている。
図12の1番目の状態から
図12の2番目の状態に爪402を回動させることにより、スリーブ229は径方向内側に撓み、スリーブ229を筒部材21から剥がすことができる。そして、アーム401を軸方向に移動させることにより、スリーブ229が引き抜かれる。このようにして、筒部材形成工程S2が終了する。なお、スリーブ引き抜き機構400は、製造装置100に備えられており、駆動ユニット110aおよび110bによって作動される。
【0082】
第3実施形態のその他の構造、製造方法および効果は、上記第2実施形態と同様である。
【0083】
(第4実施形態)
この第4実施形態では、上記実施形態と異なり、未硬化の繊維強化樹脂を硬化させる工程S22において、マンドレル230の外周面230aが径方向の外側に変位する例について説明する。
【0084】
第4実施形態では、
図13に示すように、マンドレル230は、シャフト231と、シャフト231の周囲に配置され外周面230aを形成する複数(ここでは4個)の外周体(外周部材)232と、シャフト231と外周体232との間に配置され外周面230aが径方向の内側に移動するのを規制する一対の規制部材235aおよび235b(
図14参照)と、を有する。一対の規制部材235aおよび235bは、外周体232の軸方向両側に設けられている。なお、
図13の右図は、マンドレル230を軸方向から見た図であるが、理解を容易にするために、各部材にハッチングを施している。
【0085】
シャフト231は、保持部材121によって両端が保持されている。
【0086】
複数の外周体232には、上記第3実施形態と同様にして、後述する移動部材236aおよび236bの傾斜面236cが外周体232の後述する摺動面232aに当接した状態で、外周面230aが径方向の内側に変位するように、外周体232を付勢する第1付勢部材225が設けられている(
図13の右図参照)。また、外周体232の外周面(マンドレル230の外周面230a)の所定領域には、上記第3実施形態と同様、リング部材219が取り付けられる取付溝210bが周方向に形成されている。また、外周体232の外周面には、上記第3実施形態と同様、スリーブ229が設けられている。
【0087】
ここで、本実施形態では、外周体232は、軸方向両側に向かって厚みが薄くなるように形成されている。具体的には、外周体232の内面(シャフト231に対向する面)の軸方向両側の部分には、軸方向に対して傾斜する摺動面232aが形成されている。
【0088】
図14に示すように、規制部材235aは、シャフト231と複数の外周体232との間に配置されシャフト231に沿って軸方向に移動する移動部材236aと、移動部材236aに対して所定間隔をおいて配置される円盤状のストッパ237aと、移動部材236aとストッパ237aとの間に配置される圧縮コイルバネからなる第2付勢部材238aと、を含んでいる。同様に、規制部材235bは、シャフト231と複数の外周体232との間に配置されシャフト231に沿って軸方向に移動する移動部材236bと、移動部材236bに対して所定間隔をおいて配置される円盤状のストッパ237bと、移動部材236bとストッパ237bとの間に配置される圧縮コイルバネからなる第2付勢部材238bと、を含んでいる。
【0089】
移動部材236aおよび236bは、中心部に貫通穴が形成された円錐台状に形成されている。すなわち、移動部材236aおよび236bの外周面(円錐台の側面)は、軸方向に対して傾斜する傾斜面236cである。この傾斜面236cは、外周体232の摺動面232aに対して摺動する。なお、後述するように、移動装置130により移動部材236aおよび236bを軸方向に移動させることにより、外周面230aを巻き付け形状と引き離し形状とに容易に変更することができる。
【0090】
ストッパ237aおよび237bは、シャフト231の所定位置に取り付けられている。また、ストッパ237aおよび237bは、駆動ユニット110aおよび110bに設けられたストッパ移動機構190によって軸方向に移動可能に構成されている。ストッパ237aおよび237bが軸方向に移動されることによって、ストッパ237aおよび237bと移動部材236aおよび236bとの間隔が変化するので、一対の第2付勢部材238aおよび238bの付勢力が変更される。一対の第2付勢部材238aおよび238bは、第1付勢部材225が複数の外周体232を付勢した状態で、一対の移動部材236aおよび236bをマンドレル230の軸方向に沿って互いに近づく方向に付勢する。なお、本実施形態では、ストッパ移動機構190は、本発明の「変形装置」の一例である。
【0091】
本実施形態では、例えば、ストッパ移動機構190によりストッパ237aおよび237bが
図14の1番目に示した位置から互いに接近する方向に移動されると、ストッパ237aおよび237bと移動部材236aおよび236bとの間隔が狭くなり、第2付勢部材238aおよび238bの付勢力が大きくなる。これにより、移動部材236aおよび236bが互いに接近するように移動し、外周体232の摺動面232aは、移動部材236aおよび236bの傾斜面236cに対して摺動しながら、第1付勢部材225の付勢力に抗して径方向の外側に移動する。このとき、移動部材236aおよび236bは、
図14の2番目に示した位置(所定位置)に配置されるとともに外周面230aが径方向の内側に移動するのを規制し、外周面230aは、スリーブ229の内周面に密着するとともに、巻き付け形状になる。
【0092】
その一方、ストッパ移動機構190によりストッパ237aおよび237bが
図14の2番目に示した位置から互いに遠ざかる方向に移動されると、ストッパ237aおよび237bと移動部材236aおよび236bとの間の間隔が広くなり、第2付勢部材238aおよび238bの付勢力が小さくなる。このとき、第1付勢部材225は外周面230aが径方向の内側に変位するように複数の外周体232を付勢しているので、ストッパ移動機構190により一対の移動部材236aおよび236bを互いに遠ざけることによって、外周体232の摺動面232aは、移動部材236aおよび236bの傾斜面236cに対して摺動しながら、第1付勢部材225の付勢力により径方向の内側に移動する。このとき、外周面230aは、スリーブ229の内周面から離間するとともに、引き離し形状になる。
【0093】
なお、後述するように、第2付勢部材238aおよび238bは、繊維束Fをマンドレル230に巻き付ける際の繊維束Fによる巻き締め力によって、第2付勢部材238aおよび238bがマンドレル230の軸方向に沿って圧縮弾性変形自在となるように、すなわち巻き締め力によって外周面230aが径方向の内側に変位可能な付勢力で、移動部材236aおよび236bを付勢する。このため、後述するように、繊維束Fをマンドレル230に巻き付けると、巻き締め力によって外周面230aが径方向の内側に変位するとともに、移動部材236aおよび236bは互いに遠ざかる方向に移動する。
【0094】
本実施形態では、工程S21において、複数の外周体232を組み合わせた状態(
図13の1番目および
図14の1番目の状態)で、ストッパ237aおよび237bを第1の位置(マンドレル230から比較的遠い位置、
図14の1番目に示した位置)から第2の位置(マンドレル230に比較的近い位置、
図14の2番目に示した位置)に移動させることによって、外周体232が径方向外側に移動してスリーブ229に密着する。そして、
図13の2番目および
図14の3番目に示すように、マンドレル230の外周面230aを覆うスリーブ229の外周面に筒体21aを形成する。このとき、樹脂が含浸された繊維束Fは所定の張力が付与された状態で巻回されるため、繊維束Fによる巻き締め力によって、外周面230aが径方向の内側に少しだけ(例えば1mm未満)変位する。
【0095】
その後、工程S22において、筒体21aに熱風を吹き付け未硬化の繊維強化樹脂を硬化させることによって、筒部材21を形成する。
【0096】
ここで、
図15に示すように、筒体21aを構成する樹脂Rは、熱風が吹き付けられることにより硬化する際に、熱により一旦軟化する。このとき、繊維束Fは、張力が付与された状態で巻回されているため、樹脂Rの軟化に伴って樹脂R内において径方向内側(マンドレル230側)に移動する。これにより、繊維束Fの張力が低下し、繊維束Fが緩んだ状態になる場合がある。
【0097】
しかしながら、本実施形態では、第2付勢部材238aおよび238bは、繊維束Fの巻き締め力によって第2付勢部材238aおよび238bがマンドレル230の軸方向に沿って圧縮弾性変形自在となるように、移動部材236aおよび236bを付勢する。すなわち、繊維束Fをマンドレル230に巻き付ける際に外周体230aが径方向の内側に変位する。また、移動部材236aおよび236bには第2付勢部材238aおよび238bにより近づく方向に付勢力が作用しているため、外周体232には径方向の外側に向かう力が作用している。このため、樹脂Rの軟化に伴い繊維束Fの張力が低下する分だけ、すなわち繊維束Fが径方向の内側に移動しようとする分だけ、外周体232が径方向の外側に変位する。これにより、繊維束Fの張力が低下して繊維束Fが緩んだ状態になることが抑制されるので、筒部材21の強度が低下することが抑制することができる。
【0098】
そして、工程S23において、
図14の4番目に示すように、ストッパ237aおよび237bを第2の位置から第1の位置に移動させることによって、第1付勢部材225の作用により外周体232が径方向の内側に移動する。これにより、外周体232はスリーブ229の内周面から離間し、外周面230aは引き離し形状になる。
【0099】
その後、工程S24において、
図14の5番目に示すように、マンドレル230(シャフト231、外周体232、規制部材235aおよび235b)を軸方向に移動させることにより、筒部材21とマンドレル230とを軸方向に引き離す。この状態では、スリーブ229は筒部材21の内周面21cに密着した状態となっている。このため、上記第3実施形態と同様、スリーブ引き抜き機構400を用いてスリーブ229を筒部材21から離間させた後、引き抜く。このようにして、筒部材形成工程S2が終了する。
【0100】
第4実施形態のその他の構造、製造方法および効果は、上記第3実施形態と同様である。
【0101】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0102】
例えば、上記実施形態では、補強体および外側補強層を形成した後にライナーを形成する例について示したが、本発明はこれに限らない。例えば、接合工程において筒部材の両端の周縁部とドーム部材の周縁部とを組み合わせる際に、予め形成した樹脂製のライナー(図示せず)に覆い被せてもよい。この場合、ライナー形成工程は実施されない。なお、ライナーは、従来知られた製造方法によって形成することが可能であるが、ライナーの外面にFW法を用いて繊維束を巻回しないため、ライナーの強度を高くしなくてよい。このため、ライナーの厚みを従来のライナーに比べて薄くすることができる。また、ライナーを樹脂材料に替えてアルミニウム合金等の金属材料によって形成してもよい。
【0103】
また、例えば上記第3および第4実施形態では、マンドレルの外周面にスリーブを設け、スリーブ上に筒体を形成する例について示したが、本発明はこれに限らない。上記第1および第2実施形態においてマンドレルの外周面にスリーブを設けてもよいし、上記第3および第4実施形態においてマンドレルの外周面にスリーブを設けなくてもよい。
【0104】
また、例えば上記第4実施形態では、第2付勢部材を用いて移動部材を外周体に向かって付勢する例について示したが、本発明はこれに限らない。例えば、油圧機構等を用いて移動部材を外周体に向かって押圧してもよい。また、移動部材を保持する保持機構を用いて移動部材の位置を変更してもよい。いずれの場合も、工程S22において、マンドレルの外周面を径方向の外側に変位させることができる。
【0105】
また、例えば上記第3および第4実施形態では、マンドレルの外周面を巻き付け形状から引き離し形状に変更した際にスリーブが筒部材に密着している例について示したが、本発明はこれに限らない。例えば、スリーブの外周面に対して、離型剤を塗布したり、クロムメッキを施したり、微小な凹凸が形成されるように表面処理を施したりすることによって、スリーブと筒部材との密着性を低下させてもよい。このように構成すれば、マンドレルの外周面を巻き付け形状から引き離し形状に変更する際に、スリーブを筒部材の内周面から離間させる(剥がす)ことが可能となる。この場合、スリーブはマンドレルの外周面に支持されるので、マンドレルを軸方向に引き抜くことによりスリーブも同時に引き抜くことができる。
【0106】
また、例えば上記第4実施形態では、移動部材を用いて外周体を径方向に移動させる例について示したが、本発明はこれに限らない。例えば、外周体とシャフトとの間に弾性変形可能な耐熱性ゴム等からなる袋状の部材を設けるとともに、この袋状の部材の内部に油等の液体を充填し、油圧(液圧)機構を用いて袋状の部材を膨張・収縮させることにより外周体を径方向に移動させてもよい。
【0107】
また、上記実施形態では、固化装置として加熱装置を用いる例について示したが、本発明はこれに限らない。例えば、繊維束に含浸させる樹脂として熱可塑性樹脂を用いる場合、樹脂を軟化させた状態で繊維束をマンドレルに巻回する。この場合、樹脂を固化させる固化装置として、冷却風を送風する送風装置を用いてもよい。
【符号の説明】
【0108】
10:高圧タンク、20:補強体(補強層)、21:筒部材、100:製造装置、125:径方向移動機構(変形装置)、130:移動機構(引き離し装置、変形装置)、140:回転装置、170:繊維供給装置、180:加熱装置(固化装置)、190:ストッパ移動機構(変形装置)、200,210,220,230:マンドレル、200a,210a,220a,230a:外周面、201:外周部材、201a:スリット、202,211,221,235a,235b:規制部材、212~215,222~224,232:外周体(外周部材)、225:第1付勢部材、229:スリーブ、231:シャフト、232a:摺動面、236a,236b:移動部材、236c:傾斜面、238a,238b:第2付勢部材、CL:中心軸(所定軸)、F:繊維束、S1,S2:空間