(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】かしめ工具
(51)【国際特許分類】
B21D 39/04 20060101AFI20240423BHJP
【FI】
B21D39/04 B
(21)【出願番号】P 2020157021
(22)【出願日】2020-09-18
【審査請求日】2023-06-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】落合 耕一
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】実公昭63-50039(JP,Y2)
【文献】特開2007-044704(JP,A)
【文献】特開平03-035927(JP,A)
【文献】実開昭56-062831(JP,U)
【文献】特許第6136280(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2014/0352130(US,A1)
【文献】韓国登録特許第10-1816049(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 39/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工対象部材を保持して、当該加工対象部材の外周面を押圧してかしめ加工するかしめ工具であって、
前記加工対象部材を一方向から支持する支持テーブルと、
前記支持テーブルの支持面上に固定される固定ガイド部材と、
前記支持テーブルの支持面上を移動可能な移動押圧部材と、
前記固定ガイド部材と前記移動押圧部材とに挟まれるように配置され、自己の中心部に外力を受けて可変的に狭められる空間部を有し、当該空間部に前記加工対象部材を収容するかしめ変形部材とを備え、
前記かしめ変形部材の外周面は前記固定ガイド部材の第1の内壁面と前記移動押圧部材の第2の内壁面とにそれぞれ当接するように挟まれたうえ、前記移動押圧部材が前記固定ガイド部材に向かって接近するように移動することで前記かしめ変形部材が自己の外周面の当接部を介して押圧されることを特徴とするかしめ工具。
【請求項2】
請求項1に記載のかしめ工具において、
前記固定ガイド部材は複数の前記第1の内壁面を有し、複数の前記第1の内壁面が前記かしめ変形部材と当接することで前記支持テーブルの支持面上の一方向を除く他の方向への前記かしめ変形部材の移動を規制するとともに、
前記移動押圧部材は前記第2の内壁面で前記かしめ変形部材と当接し、前記支持テーブルの支持面上の前記第2の内壁面と直交する一方向から前記かしめ変形部材を押圧することを特徴とするかしめ工具。
【請求項3】
請求項1に記載のかしめ工具において、
前記固定ガイド部材は前記第1の内壁面が前記かしめ変形部材と当接することで前記支持テーブルの支持面上の前記第1の内壁面と直交する一方向への前記かしめ変形部材の移動を規制するとともに、
前記移動押圧部材は複数の前記第2の内壁面を有し、複数の前記第2の内壁面で前記かしめ変形部材と当接し、前記支持テーブルの支持面上の前記一方向を除く他の方向から前記かしめ変形部材を押圧することを特徴とするかしめ工具。
【請求項4】
請求項1~請求項3の何れかに記載のかしめ工具において、
前記かしめ変形部材は、
前記中心部の空間部から外周端まで延伸する1つの開口溝と、
前記中心部の空間部から外周端方向に延伸するが外周端には至らない少なくとも1つの閉口溝とが形成されていることを特徴とするかしめ工具。
【請求項5】
請求項4に記載のかしめ工具において、
前記かしめ変形部材の1つの開口溝の開口端は、前記固定ガイド部材および前記移動押圧部材と当接しない位置に形成されることを特徴とするかしめ工具。
【請求項6】
請求項2に記載のかしめ工具において、
前記支持テーブルの支持面とは反対側から前記固定ガイド部材と前記加工対象部材に当接して前記加工対象部材を保持するガイドカバー部材を備えることを特徴とするかしめ工具。
【請求項7】
請求項3に記載のかしめ工具において、
前記支持テーブルの支持面とは反対側から前記移動押圧部材と前記加工対象部材に当接して前記加工対象部材を保持するガイドカバー部材を備えることを特徴とするかしめ工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒状の加工対象部材をかしめて収縮させるかしめ工具に関する。
【背景技術】
【0002】
管をかしめて収縮させ、摩擦固定する従来の技術は、例えば特許文献1に記載されている。特許文献1には、管体が挿入された筒体を径方向の内側に変形させてかしめるかしめ工具が開示されている。
【0003】
管を径方向に内側に収縮させるためには、工作機械として広く使われている旋盤の三爪チャックのようなものでも行うことができる。また、穴と軸の嵌め合い寸法を厳しくして、中間嵌め、締まり嵌めのような寸法関係を作り、打ち込みもしくは焼き嵌めを行っても、かしめと同等の固定構造を実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したような従来の技術では、かしめる対象となる管の直径が小さくなる場合に問題が生じる。管の直径がおよそφ1より細くなると、既存の三爪チャックのようなかしめ工具では、加工対象部材のサイズに比べて設備が大き過ぎて不経済であり、しかも作業性が悪い。また、このような細管を嵌め合いの圧入で固定することは困難である。この理由は二つある。
【0006】
第1の理由は、細管になると、機械的強度が低く、圧入時の荷重に耐えられないからである。
第2の理由は、細管を製造する際の公差が管の直径に比べて大きいため、隙間の制御が困難だからである。例えば、細管が挿入された筒体をかしめる場合は、
図22に示すように、細管1と筒体2との間に隙間dが生じる。細管1の外径の公差はφ0.3±0.02であり、筒体2の内径の公差はφ0.35±0.02である。一般的な機械加工の公差の限界は0.01mmのオーダーである。これは呼称寸法が0.1mmのオーダーになっても変わらない。つまり、管の径に対して、変動(公差)が10%もあるようなものしか作れない。
以上のことから、細管の摩擦固定のためには、特別な工夫が必要になる。
【0007】
本発明の目的は、細管を含む加工対象部材を簡単にかつ確実にかしめることが可能で、しかもコンパクトなかしめ工具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するために本発明に係るかしめ工具は、加工対象部材を保持して、当該加工対象部材の外周面を押圧してかしめ加工するかしめ工具であって、前記加工対象部材を一方向から支持する支持テーブルと、前記支持テーブルの支持面上に固定される固定ガイド部材と、前記支持テーブルの支持面上を移動可能な移動押圧部材と、前記固定ガイド部材と前記移動押圧部材とに挟まれるように配置され、自己の中心部に外力を受けて可変的に狭められる空間部を有し、当該空間部に前記加工対象部材を収容するかしめ変形部材とを備え、前記かしめ変形部材の外周面は前記固定ガイド部材の第1の内壁面と前記移動押圧部材の第2の内壁面とにそれぞれ当接するように挟まれたうえ、前記移動押圧部材が前記固定ガイド部材に向かって接近するように移動することで前記かしめ変形部材が自己の外周面の当接部を介して押圧されるものである。
【0009】
本発明は、前記かしめ工具において、前記固定ガイド部材は複数の前記第1の内壁面を有し、複数の前記第1の内壁面が前記かしめ変形部材と当接することで前記支持テーブルの支持面上の一方向を除く他の方向への前記かしめ変形部材の移動を規制するとともに、前記移動押圧部材は前記第2の内壁面で前記かしめ変形部材と当接し、前記支持テーブルの支持面上の前記第2の内壁面と直交する一方向から前記かしめ変形部材を押圧するものであってもよい。
【0010】
本発明は、前記かしめ工具において、前記固定ガイド部材は前記第1の内壁面が前記かしめ変形部材と当接することで前記支持テーブルの支持面上の前記第1の内壁面と直交する一方向への前記かしめ変形部材の移動を規制するとともに、前記移動押圧部材は複数の前記第2の内壁面を有し、複数の前記第2の内壁面で前記かしめ変形部材と当接し、前記支持テーブルの支持面上の前記一方向を除く他の方向から前記かしめ変形部材を押圧するものであってもよい。
【0011】
本発明は、前記かしめ工具において、前記かしめ変形部材は、前記中心部の空間部から外周端まで延伸する1つの開口溝と、前記中心部の空間部から外周端方向に延伸するが外周端には至らない少なくとも1つの閉口溝とが形成されていてもよい。
【0012】
本発明は前記かしめ工具において、前記かしめ変形部材の1つの開口溝の開口端は、前記固定ガイド部材および前記移動押圧部材と当接しない位置に形成されてもよい。
【0013】
本発明は、前記かしめ工具において、
前記支持テーブルの支持面とは反対側から前記固定ガイド部材と前記加工対象部材に当接して前記加工対象部材を保持するガイドカバー部材を備えていてもよい。
【0014】
本発明は、前記かしめ工具において、前記支持テーブルの支持面とは反対側から前記移動押圧部材と前記加工対象部材に当接して前記加工対象部材を保持するガイドカバー部材を備えていてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、加工対象部材が装填されたかしめ変形部材を固定ガイド部材と移動押圧部材とで挟んで押圧することにより加工対象部材がかしめ処理される。かしめ変形部材と、固定ガイド部材と、移動押圧部材は、加工対象部材に適した大きさに形成することが可能である。したがって、細管を含む加工対象部材を簡単にかつ確実にかしめることが可能で、しかもコンパクトなかしめ工具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明に係るかしめ工具に用いる加工対象部材の断面図である。
【
図2】
図2は、加工対象部材の一部を拡大して示す断面図である。
【
図3】
図3は、第1の実施の形態によるかしめ工具の構成を示す模式図である。
【
図4】
図4は、かしめ変形部材の構成を示す平面図である。
【
図5】
図5は、かしめ工具の第1の具体例を示す平面図である。
【
図7】
図7は、かしめ工具の一部を拡大して示す断面図である。
【
図8】
図8は、かしめ工具の一部を拡大して示す断面図である。
【
図9】
図9は、かしめ工具の第2の具体例を示す模式図である。
【
図10】
図10は、かしめ工具の第3の具体例を示す模式図である。
【
図11】
図11は、かしめ工具の第4の具体例を示す断面図である。
【
図12】
図12は、第2の実施の形態によるかしめ工具の構成を示す平面図である。
【
図15】
図15は、ワッシャを取付けた状態を示すかしめ工具の平面図である。
【
図17】
図17は、ガイドカバー部材を取付けた状態を示すかしめ工具の平面図である。
【
図19】
図19は、ねじ方式の押圧装置の構成を示す平面図である。
【
図21】
図21は、てこ方式の押圧装置の構成を示す平面図である。
【
図22】
図22は、従来のかしめ処理に用いられる細管と筒体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1の実施の形態)
以下、本発明に係るかしめ工具の第1の実施の形態を
図1~
図8を参照して詳細に説明する。この実施の形態においては、
図1に示すような加工対象部材11を使用する場合について説明する。
図1に示す加工対象部材11は、細管12を継手としてのワッシャ13に挿通させたものである。細管12は、図示していない圧力センサに圧力を導くためのものである。ワッシャ13は、細管12が挿通される貫通孔14を有する柱状部材である。貫通孔14の孔径は、細管12の外径に相当する径である。細管12とワッシャ13を形成する材料は金属である。
【0018】
細管12の外径には公差があるため、細管12とワッシャ13との間に
図1中に符号dで示す隙間が生じることがある。
図1は、細管12と貫通孔14との間に最大幅の隙間dが生じる状態で描いてある。
この実施の形態によるワッシャ13は、貫通孔14が軸心部に位置する薄い円柱状に形成されており、細管12が突出する大径部13aと、大径部13aにテーパー部13bを介して接続された小径部13cとを有している。テーパー部13bは、大径部13aから小径部13cに向かうにしたがって次第に外径が小さくなるように形成されている。このテーパー部13bは、後述するように小径部13cに細管12が溶接された後に、圧力容器(図示せず)の接続口に例えば抵抗溶接によって溶接される。
【0019】
小径部13cは、細管12が通されている状態で本発明に係るかしめ工具15(
図3参照)によって外周面が径方向の内側に向けて押され、外径が小さくなるようにかしめられる。小径部13cがかしめられることにより、小径部13cと細管12との間の隙間dを0にすることができる。細管12は、このようにワッシャ13にかしめによって固定された状態で、例えばレーザー溶接によって
図2に示すように小径部13cに溶接される。
図2においては、細管12をワッシャ13に溶接する溶接構造を符号16によって示す。
【0020】
溶接構造16は、
図2に示すように、ワッシャ13の小径部13cにかしめ処理を施すことによって形成されたかしめ部16aと、細管12の先端とワッシャ13の先端とを溶接する溶接部16bとによって構成されている。かしめ処理は、細管12をワッシャ13の貫通孔14に挿通させた状態で、ワッシャ13の一端側の外側面(小径部13c)からワッシャ13の内側に向けて押圧して行われる。このかしめ処理は、後述するかしめ工具15を用いて行われ、細管12の外周と貫通孔14の内周とが密着状態となるように実施される。
【0021】
溶接部16bは、細管12と、ワッシャ13の一端側(小径部13c側)の貫通孔14の開口との当接部周囲をレーザー溶接により溶接固定することによって形成されている。
図2に示すように、この溶接構造16によってワッシャ13に溶接された細管12の一端部は、ワッシャ13の一端側の端面から突出していない。
【0022】
かしめ工具15は、
図3~
図6に示すように構成されている。
図3および
図4は、かしめ工具15の主要部の構成を示し、
図5および
図6は、かしめ工具15の具体的な一例を示す。かしめ工具15は、
図3に示すように、
図3において最も下に描いてある固定ガイド部材21と、固定ガイド部材21の複数の内壁面24a,24bと当接するかしめ変形部材22と、かしめ変形部材22と当接する内壁面23aを有する移動押圧部材23とを用いて構成することができる。
【0023】
固定ガイド部材21は、後述するかしめ変形部材22を収容可能な凹部24を有し、
図5および
図6に示すように、支持テーブル25(
図5および
図6参照)の支持面25a上に固定されている。固定ガイド部材21の支持テーブル25への固定は、固定ガイド部材21の両側部に形成された一対の貫通孔21a,21a(
図5参照)を用いて行う。すなわち、貫通孔21aに挿通させた固定用ボルト(図示せず)によって固定ガイド部材21を支持テーブル25に締結させる。
支持テーブル25は、板状に形成されて図示していない基台に支持面25aが水平となるように固定されており、加工対象部材11としてのワッシャ13を固定ガイド部材21およびかしめ変形部材22と協働して一方向から(
図6においては下方から)支持する。
【0024】
固定ガイド部材21の凹部24は、
図3において下方に向かうにしたがって次第に接近するように傾斜する第1の内壁面24aと第2の内壁面24bとを有し、移動押圧部材23に向けて開口している。第1の内壁面24aと第2の内壁面24bは、かしめ変形部材22を支持するとともに、
図3において左右方向と下方への移動を規制する。すなわち、固定ガイド部材21は、自己の内壁面(第1および第2の内壁面24a,24b)がかしめ変形部材22と当接することでかしめ変形部材22が支持テーブル25の支持面25a上の一方向(
図3においては上方)を除く他の方向への移動を規制する。この実施の形態においては、第1および第2の内壁面24a,24bが本発明でいう「第1の内壁面」に相当する。
【0025】
かしめ変形部材22は、円板状に形成され、支持テーブル25の支持面25a上に置かれた状態で固定ガイド部材21の第1の内壁面24aおよび第2の内壁面24bと、後述する移動押圧部材23の内壁面23aとに接触している。かしめ変形部材22は、
図4に示すように、自己の中心部に空間部31を有しているとともに、空間部31から放射状に延びる一つの開口溝32および二つの閉口溝33,34を有している。
【0026】
空間部31は、ワッシャ13の小径部13cが収容されるように円形に開口している。空間部31は、かしめ変形部材22の中心部であって支持テーブル25とは反対側に形成された円形凹部35(
図5および
図6参照)の底に開口している。円形凹部35には、ワッシャ13の大径部13aとテーパー部13bとが収容される。円形凹部35の最も径が大きくなる部分の内径は、ワッシャ13の大径部13aの外径より大きい。
【0027】
開口溝32は、かしめ変形部材22の中心部の空間部31から外周端まで延伸している。この実施の形態による開口溝32は、空間部31からかしめ変形部材22の径方向の外側に延びる幅狭部32aと、かしめ変形部材22の外周端から径方向の内側に延びる幅広部32bとによって構成されている。かしめ変形部材22を固定ガイド部材21に組み付ける際には、
図5に示すように、開口溝32の開口端が固定ガイド部材21および移動押圧部材23と当接することがないようにかしめ変形部材22が位置付けられる。
二つの閉口溝33,34は、かしめ変形部材22の中心部の空間部31から外周端方向に延伸するが外周端には至らない溝となるように形成されている。すなわち、二つの閉口溝33,34は、空間部31からかしめ変形部材22の径方向の外側に延びる幅狭部33a,34aと、かしめ変形部材22の外周部であって外周端より径方向の内側に設けられた円形穴33b,34bとによって構成されている。
【0028】
これら一つの開口溝32と、二つの閉口溝33,34とからなる三つの溝は、かしめ変形部材22を周方向に3等分する位置に設けられている。この実施の形態においては、開口溝32の開口端が固定ガイド部材21の第1、第2の内壁面24a,24bおよび後述する移動押圧部材23の内壁面23aと当接することがないように、三つの溝の位置が設定されている。このようにかしめ変形部材22に三つの溝が形成されることにより、
図4に示すように、かしめ変形部材22に空間部31を3方向から囲む第1~第3の爪36~38が構成される。
【0029】
このため、かしめ変形部材22の形状は、いわゆる三爪チャックの形状を模した形状となる。この場合、第1~第3の爪36~38は完全に分離することなく、薄肉部分39で連結される。薄肉部分39は、かしめ変形部材22の二つの閉口溝33,34とかしめ変形部材22の外周端との間の二箇所に設けられている。この実施の形態によるかしめ工具15は、詳細は後述するが、薄肉部分39を弾性変形させて第1~第3の爪36~38を見かけ上、分離しているように動作させて押し付けを行うように構成されている。
【0030】
移動押圧部材23は、支持テーブル25の支持面25aに図示してないガイド部材を介して平行移動自在に支持されているとともに、図示していない押圧装置に連結されている。移動押圧部材23が支持テーブル25に対して平行移動する方向は、固定ガイド部材21およびかしめ変形部材22に対して接離する方向(
図3においては上下方向)である。押圧装置は、かしめ処理を行うときに移動押圧部材23を固定ガイド部材21およびかしめ変形部材22に接近する方向へ所定の荷重で押圧し、かしめ処理後に移動押圧部材23を上記とは反対方向に移動させる。すなわち、移動押圧部材23は、支持テーブル25の支持面25a上の一方向から(
図3においては上方から)自己の内壁面23aでかしめ変形部材22と当接し押圧する。この実施の形態においては移動押圧部材23の内壁面23aが本発明でいう「第2の内壁面」に相当する。
【0031】
内壁面23aと、第1および第2の内壁面24a,24bは、互いに60度の角度をなすように構成されている。すなわち、
図3に示すように、移動押圧部材23の内壁面23aと平行な凹部24の底面24cと第1および第2の内壁面24a,24bとのなす角度θ1,θ2は、それぞれ60度である。このように3つの壁のうち二つ(第1および第2の内壁面24a,24b)を固定し、他の一つ(移動押圧部材23の内壁面23a)を動かすことにより、かしめ変形部材22の第1~第3の爪36~38に均等な力を発生させることが可能になる。
【0032】
この実施の形態によるかしめ工具15は、
図6に示すように、ワッシャ13をかしめ変形部材22と協働して挟むガイドカバー部材41を備えている。このガイドカバー部材41は、固定ガイド部材21とワッシャ13とに支持テーブル25の支持面25aとは反対側から当接してワッシャ13を保持する。また、ガイドカバー部材41には、ワッシャ13から支持テーブル25とは反対側に延伸する細管12をガイドするガイド孔41aが形成されている。なお、
図5ではガイドカバー部材41は省略されている。
【0033】
次に、かしめ工具15によってワッシャ13をかしめてワッシャ13に細管12を固定する手順を説明する。かしめ処理を行うにあたっては、先ず、
図1に示すように、細管12をワッシャ13の貫通孔14に挿通させ、これらをかしめ工具15に装填する。詳述すると、細管12およびワッシャ13をかしめ変形部材22の空間部31に挿入し、
図6に示すように、細管12とワッシャ13の先端を支持テーブル25に当接させる。このように支持テーブル25に細管12とワッシャ13とが当接することにより、ワッシャ13の一端側の端面から細管12の一端部が突出しないように細管12の位置決めがなされる。空間部31にワッシャ13が挿入されることにより、
図7に示すように、ワッシャ13が第1~第3の爪36~38と接するようになる。
【0034】
次に移動押圧部材23によって内壁面23aを介してかしめ変形部材22を押圧し、かしめ変形部材22を第1および第2の内壁面24a,24bに所定の荷重で押し付ける。すなわち、ワッシャ13の一端側の外側面から、かしめ工具15によりワッシャ13の内側に向けて押圧する。この押圧により、かしめ変形部材22の二つの閉口溝33,34とかしめ変形部材22の外周端との間の二箇所の薄肉部分39が弾性変形し、三つの溝によって形成された第1~第3の爪36~38が
図7に示す初期位置から
図8に示すかしめ位置までかしめ変形部材22の中心に向けて変位する。このようにかしめ変形部材22が外力を受けることにより、空間部31が可変的に狭められる。
【0035】
この結果、
図8に示すように、ワッシャ13の小径部13cが塑性変形して細管12の外周と貫通孔14の内周とが密着状態になる。このようにかしめ処理を行った後は、細管12とワッシャ13とからなる組立体をかしめ工具15から取り外し、図示していない溶接装置に装着して溶接を行う。この溶接を行うにあたっては、細管12とワッシャ13の一端側の貫通孔14の開口との当接部周囲がレーザー溶接により溶接固定される。レーザー溶接は、レーザー光をワッシャ13と細管12の端面に向けて照射して行うことができる。溶接後は、
図2に示すように、細管12と貫通孔14の開口との当接部に溶接部16bが形成される。この溶接部16bは、ワッシャ13の端面から突出することがない。
【0036】
したがって、この実施の形態によるかしめ工具15においては、細管12とワッシャ13とからなる加工対象部材11が装填されたかしめ変形部材22を固定ガイド部材21と移動押圧部材23とで挟むことにより加工対象部材11がかしめ処理される。固定ガイド部材21と、かしめ変形部材22と、移動押圧部材23は、加工対象部材11に適した大きさに形成することが可能である。したがって、細管を含む加工対象部材を簡単にかつ確実にかしめることが可能で、しかもコンパクトなかしめ工具を提供することができる。
【0037】
この実施の形態によるかしめ工具15は、支持テーブル25の支持面25aとは反対側から固定ガイド部材21と加工対象部材11に当接して加工対象部材11を保持するガイドカバー部材41を備えている。このため、かしめ時に加工対象部材11が移動することがないから、かしめを正確に行うことができる。
【0038】
かしめ変形部材22は、中心部の空間部31から外周端まで延伸する1つの開口溝32と、中心部の空間部31から外周端方向に延伸するが外周端には至らない二つの閉口溝33,34とが形成されている。このため、一つのかしめ変形部材22で三爪チャックと同等の機能を実現することができるから、より一層コンパクトなかしめ工具を提供することができる。
【0039】
この実施の形態によるかしめ変形部材22の1つの開口溝32の開口端は、固定ガイド部材21および移動押圧部材23と当接しない位置に形成されている。このため、第1~第3の爪36~38を均等に変位させることが可能になるから、細管12の周面の全域に小径部13cを確実に密着させることができる。
【0040】
この実施の形態によるガイドカバー部材41は、加工対象部材11の支持テーブル25とは反対側に延伸する部分(細管12)をガイドするガイド孔41aを有している。このため、ガイドカバー部材41は細管12に干渉することなく、かしめ時に細管12とワッシャ13とを保持できる。なお、加工対象部材11の支持テーブル25とは反対側に延伸する部分がない場合は、このようなガイド孔は不要である。
【0041】
この実施の形態で示したようにかしめ処理を行った後で溶接を行うことにより、かしめ部分で仮止めをすることができるために次のようなメリットがある。
(1)細管12とワッシャ13とが密着するので、溶け分かれが起き難くなる。
(2)組み立て易さの向上を図ることができる。すなわち、ワッシャ13の貫通孔14に細管12を挿入したときには、適切な固定がないと溶接作業のときにずれてしまうため、何らかの治工具による固定が必要である。かしめをすると摩擦力で固定できるので、治工具による固定が不要になり作業性が向上する。
(3)機械的強度が向上する。すなわち、かしめ部分がない場合は、溶接後に細管12に外力が加えられた際に溶接部だけで外力を受けなければならない。一方、かしめ処理を行うと、かしめ部分に摩擦力が作用し、これが溶接部の機械的強度を補助するため、頑丈で壊れ難い構造にすることができる。
【0042】
(第1の実施の形態の変形例)
本発明に係るかしめ工具は
図9~
図11に示すように構成することができる。
図9~
図11において、
図1~
図8によって説明したものと同一もしくは同等の部材については、同一符号を付し詳細な説明を適宜省略する。
図9に示すかしめ工具51は、かしめ変形部材52を2方向から押圧する構成が採られている。かしめ変形部材52は、中心部の空間部31から径方向の一方(
図9においては右方)に延びる開口溝32と、空間部31から径方向の他方に延びる一つの閉口溝53とを有している。閉口溝53は、空間部31からかしめ変形部材52の径方向の他方に延びる幅狭部53aと、かしめ変形部材52の外周部であって外周端より径方向の内側に設けられた円形穴53bとによって構成されている。
【0043】
このため、このかしめ変形部材52には一対の爪54,55が設けられている。
このかしめ工具51の固定ガイド部材21には一方の爪54を押圧する平坦な押圧面56が形成され、移動押圧部材23には他方の爪55を押圧する平坦な押圧面57が形成されている。
【0044】
図10に示すかしめ工具61は、かしめ変形部材62を4方向から押圧する構成が採られている。かしめ変形部材62は、中心部の空間部31から径方向の一方(
図10においては右方)に延びる開口溝32と、空間部31から径方向の3方向(左方、上方および下方)に延びる三つの閉口溝63とを有している。閉口溝63は、空間部31からかしめ変形部材62の径方向の外側に延びる幅狭部63aと、かしめ変形部材62の外周部であって外周端より径方向の内側に設けられた円形穴63bとによって構成されている。
【0045】
このため、このかしめ変形部材62には四つの爪64~67が設けられている。
このかしめ工具61の固定ガイド部材21には二つの爪64,65を押圧する二つの内壁面68,69が形成され、移動押圧部材23には他の二つの爪66,67を押圧する二つの内壁面70,71が形成されている。
このように、本発明に係るかしめ工具は、加工対象部材11を二つ~四つの爪で押圧する構成を採ることができる。なお、図示してはいないが、本発明に係るかしめ工具は、五つ以上の爪で加工対象部材11を押圧する構成を採ることも可能である。
【0046】
上述した実施の形態においては加工対象物の円筒部をかしめによって略相似形に縮径させる例を示したが、本発明に係るかしめ工具は、
図11(A),(B)に示すように、かしめ後の形状がかしめ前とは変わるように構成することが可能である。
図11(A)はかしめ前の要部の断面図、
図11(B)はかしめ後の要部の断面図である。
図11に示すかしめ変形部材81は、三つの爪82~84で円筒状の加工対象部材11を断面三角形の筒状に塑性変形させるように構成されている。
【0047】
(第2の実施の形態)
本発明に係るかしめ工具は
図12~
図21に示すように構成することができる。
図12~
図21において、
図1~
図8によって説明したものと同一もしくは同等の部材については、同一符号を付し詳細な説明を適宜省略する。
図12に示すかしめ工具91は、
図12において最も上に描いてある固定ガイド部材92と、固定ガイド部材92の内壁面92aと当接するかしめ変形部材22と、かしめ変形部材22と複数の内壁面(後述する第1および第2の内壁面95a,95b)で当接する移動押圧部材93などを用いて構成されている。
【0048】
固定ガイド部材92は、支持テーブル25に固定されている。この固定ガイド部材92は、かしめ変形部材22と対向する内壁面92aがかしめ変形部材22と当接することで、支持テーブル25の支持面上の内壁面92aと直交する一方向(
図12においては上方)へのかしめ変形部材22の移動を規制する。この実施の形態においては、固定ガイド部材92の内壁面92aが本発明でいう「第1の内壁面」に相当する。なお、
図12~
図18に示す固定ガイド部材92は、機能を説明できる必要最小限の一部のみが描かれている。この実施の形態による固定ガイド部材92は、後述する押圧装置94(
図19~
図21参照)の一部を兼ねるように構成されている。
【0049】
かしめ変形部材22は、第1の実施の形態を採るときに用いたものと同一のもので、
図14(C)に示すように、中央の空間部31と、開口溝32と、二つの閉口溝33,34と、円形凹部35などを有している。このかしめ変形部材22は、円形凹部35が支持テーブル25とは反対方向を指向する状態で移動押圧部材93の凹部95の中に収容されている。
移動押圧部材93は、板状に形成されており、
図13に示すように、平板状の保持ベース96に重ねられた状態で支持テーブル25に移動自在に支持されているとともに、保持ベース96とともに後述する押圧装置94に連結されている。移動押圧部材93と保持ベース96とは、図示していないボルト等の締結部材によって互いに結合されている。
【0050】
この締結部材は、移動押圧部材93の両側部に形成された貫通孔97と、保持ベース96の両側部に形成された貫通孔98{
図14(A)参照}とに通されて移動押圧部材93と保持ベース96とを締結している。移動押圧部材93と保持ベース96が支持テーブル25に対して移動する方向は、固定ガイド部材92に対して進退する方向(
図12においては上下方向)である。なお、このかしめ工具91でかしめ処理を実施するときは、移動押圧部材93に後述するガイドカバー部材99(
図13参照)が重ねられ、移動押圧部材93と、保持ベース96と、ガイドカバー部材99とによって一つの組立体100が形成される。ガイドカバー部材99を移動押圧部材93に取付けるにあたっては、ガイドカバー部材99の両側部に形成された貫通孔101{
図14(D)参照}に上述した締結部材を通して行うことができる。
【0051】
移動押圧部材93の凹部95は、かしめ変形部材22と接する第1の内壁面95aおよび第2の内壁面95bと、これらの第1および第2の内壁面95a,95bの間に形成された底面95cとを有し、固定ガイド部材92に向けて開口している。
第1および第2の内壁面95a,95bと、固定ガイド部材92の内壁面92aとは、互いに60度の角度をなすように構成されている。すなわち、固定ガイド部材92の内壁面92aと平行な凹部の底面95cと第1および第2の内壁面95a,95bとのなす角度θ1,θ2は、それぞれ60度である。
【0052】
このように構成された移動押圧部材93は、第1および第2の内壁面95a,95bでかしめ変形部材22と当接し、支持テーブル25の支持面25a上の一方向(
図12においては上方)を除く他の方向からかしめ変形部材22を押圧する。この実施の形態においては、第1および第2の内壁面95a,95bが本発明でいう「第2の内壁面」に相当する。
【0053】
この実施の形態によるかしめ工具91によってかしめ処理を行うためには、先ず、
図15および
図16に示すように、細管12を通したワッシャ13をかしめ変形部材22の円形凹部35に挿入する。次に、
図17および
図18に示すように、移動押圧部材93にガイドカバー部材99を重ねて固定する。ガイドカバー部材99は、板状に形成されており、細管12を通すためにU字状の切り欠き102が形成されている。切り欠き102は、かしめ処理時に細管12がガイドカバー部材99に対して変位することを許容するために、開口幅が細管12の外径より十分に大きくなるように形成されている。このガイドカバー部材99は、支持テーブル25の支持面25aとは反対側から移動押圧部材93とワッシャ13に当接してワッシャ13を保持する。
【0054】
このようにガイドカバー部材99を移動押圧部材93に取付けた後、移動押圧部材93、保持ベース96およびガイドカバー部材99からなる組立体100を
図17および
図18中に矢印で示すように、後述する押圧装置94によって固定ガイド部材92に向けて移動させる。ここで、押圧装置94の構成を
図19~
図21によって説明する。
【0055】
押圧装置94は、例えば
図19および
図20に示すようなねじ方式の押圧装置94Aと、
図21に示すようなてこ方式の押圧装置94Bとが考えられる。
押圧装置94A,94Bは、固定ガイド部材92を利用して構成されている。
図19~
図21に示す固定ガイド部材92は、上方に向けて開口する有底角筒状に形成されている。この固定ガイド部材92には、支持テーブル25に重ねられる底部111と、かしめ変形部材22を押さえる押さえ部112と、押さえ部112の両端に一端が接続された一対のガイド部113と、これらのガイド部113の他端どうしを接続する連結部114とが一体に形成されている。押さえ部112と、一対のガイド部113および連結部114とは、これらによって形成された平面視矩形の枠状体内に移動押圧部材93、保持ベース96およびガイドカバー部材99からなる組立体100が移動自在に収容されるように形成されている。一対のガイド部113は、組立体100の移動方向を規制するガイドとなるように形成されている。
【0056】
図19および
図20に示すねじ方式の押圧装置94Aは、上述した連結部114に螺合して連結部114を貫通するねじ部材115を有している。ねじ部材115は、連結部114の長手方向の中央に配置され、ガイド部113と平行に延びている。ねじ部材115の固定ガイド部材92内に位置する一端は、組立体100に当接している。ねじ部材115の固定ガイド部材92外に位置する他端には、工具(図示せず)が係合する係合構造(図示せず)が設けられている。
【0057】
このねじ方式の押圧装置94Aによれば、ねじ部材115の他端に係合した工具を回してねじ部材115を連結部114に締め込むことによって、組立体100が押さえ部112に向けて押される。すなわち、ねじ方式の押圧装置94においては、ねじの推力で組立体100が固定ガイド部材92の押さえ部112に向けて進み、かしめ変形部材22が押さえ部112に押し付けられる。
【0058】
図21に示すてこ方式の押圧装置94Bは、上述した連結部114を移動自在に貫通するプッシュロッド121を有している。プッシュロッド121は、連結部114の長手方向の中央に配置され、ガイド部113と平行に延びている。プッシュロッド121の固定ガイド部材92内に位置する一端は、組立体100に当接している。プッシュロッド121の固定ガイド部材92外に位置する他端には、リンク122が連結されている。
【0059】
リンク122は、プッシュロッド121の他端に接触する一端からプッシュロッド121の長手方向とは直交する方向に延びる棒状体によって形成されている。リンク122の長手方向の中間部は、支点123となるように支持テーブル25に回動自在に支持されている。このリンク122は、プッシュロッド121とは反対側に位置する他端に
図21において時計方向に押圧力が加えられることにより、この他端が力点124となるとともに一端が作用点125となり、てこの原理でプッシュロッド121を押圧する。プッシュロッド121がリンク122によって押されることにより、組立体100が固定ガイド部材92の押さえ部112に向けて進み、かしめ変形部材22が押さえ部112に押し付けられる。
【0060】
このようにねじ方式の押圧装置94Aやてこ方式の押圧装置94Bによってかしめ変形部材22が押さえ部112に押し付けられることにより、かしめ変形部材22の空間部31が狭められてワッシャ13がかしめられる。
したがって、この実施の形態を採る場合であっても、第1の実施の形態を採るときと同様に、細管を含む加工対象部材を簡単にかつ確実にかしめることが可能で、しかもコンパクトなかしめ工具を提供することができる。
【符号の説明】
【0061】
11…加工対象部材、12…細管、13…ワッシャ、15,91…かしめ工具、21,92…固定ガイド部材、22,52,62,81…かしめ変形部材、23,93…移動押圧部材、23a,95a,95b…内壁面(第2の内壁面)、24a,24b,92a…内壁面(第1の内壁面)、25…支持テーブル、25a…支持面、31…空間部、32…開口溝、33,34,53,63…閉口溝、41,99…ガイドカバー部材、41a…ガイド孔、56…押圧面(第1の内壁面)、57…押圧面(第2の内壁面)、68,69…内壁面(第1の内壁面)、70,71…内壁面(第2の内壁面)。