(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】SiCの気相成長装置用部材及び気相成長装置用部材の再生方法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/44 20060101AFI20240423BHJP
C04B 41/89 20060101ALI20240423BHJP
C23C 16/42 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
C23C16/44 J
C04B41/89 K
C23C16/42
(21)【出願番号】P 2020176960
(22)【出願日】2020-10-21
【審査請求日】2023-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】石橋 佑基
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-124864(JP,A)
【文献】特開平04-010904(JP,A)
【文献】特開2006-077302(JP,A)
【文献】特開2001-073139(JP,A)
【文献】特開平04-321511(JP,A)
【文献】国際公開第2014/123036(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/44
C04B 41/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛からなる基材と、
前記基材の全面を覆うように、第1のSiC層及びh-BNを含有する離型層がこの順に形成された被覆層と、
を有するSiCの気相成長装置用部材。
【請求項2】
前記離型層は、前記第1のSiC層との界面に、14族元素がドーピングされた非晶質BN層を有することを特徴とする請求項1に記載の気相成長装置用部材。
【請求項3】
前記被覆層は、前記離型層の表面に第2のSiC層をさらに有することを特徴とする請求項1又は2に記載の気相成長装置用部材。
【請求項4】
前記離型層は、前記第1のSiC層との界面及び前記第2のSiC層との界面の少なくとも一方に、14族元素がドーピングされた非晶質BN層を有することを特徴とする請求項3に記載の気相成長装置用部材。
【請求項5】
前記14族元素は、炭素又はシリコンであることを特徴とする請求項2又は4に記載の気相成長装置用部材。
【請求項6】
前記14族元素の含有量は、前記非晶質BN層全量に対して2~20atom%であることを特徴とする請求項2、4及び5のいずれか1項に記載の気相成長装置用部材。
【請求項7】
前記離型層の厚さが0.01~2μmであることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の気相成長装置用部材。
【請求項8】
前記気相成長装置用部材は、型、マッフル、ヒーター、ヒートシールド、断熱材、ガスノズル、排気ノズル及び支持具のうち少なくとも1つに用いられるものであることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の気相成長装置用部材。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の気相成長装置用部材の再生方法であって、
表面に成膜層が形成された前記気相成長装置用部材における前記離型層の一部を露出させる工程と、
前記離型層の一部を露出させた前記気相成長装置用部材をエッチング液に浸漬し、露出させた前記離型層から前記エッチング液を浸透させて、前記成膜層を分離することを特徴とする気相成長装置用部材の再生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiCの気相成長装置用部材及び気相成長装置用部材の再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
所定の基材の上に、SiCのようなセラミック材料を気相成長させるCVD(Chemical Vapor Deposition)法は、緻密で高純度なセラミック層を形成できるため、半導体プロセス用治具、冶金用など様々な分野で使用されるセラミック材料に適用されている。
【0003】
CVD法は、セラミック材料によるコーティングの他、基材の上にCVD法でセラミック材料を堆積させた後にセラミック層(成膜層)を基材から分離し、高純度で緻密なセラミック材料からなる成形品を得るために用いられている。
【0004】
特許文献1には、後者の成形品を得るために、耐熱性の基材からなる型材の上にウェットエッチング可能な耐熱層を設けた成形体製造用型材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された成形体製造用型材は、エッチング液の浸透を前提としており、表面にエッチング液に対して耐性のある緻密な被膜を有する基材を用いた場合には、基材から成形品を剥離するのが困難である。また、エッチング液の浸透性を確保するために多孔質の基材を用いた場合には、基材の内部に腐食性の強いエッチング液が残留し、繰り返して基材を用いる場合には気相成長装置のチャンバ内を腐食させたり、腐食によって発生した金属不純物による汚染の原因となる。
【0007】
本発明は、上記課題を鑑み、エッチング液が基材の内部に残留しにくく、表面に形成された新たな成膜層と分離しやすいSiCの気相成長装置用部材、及び気相成長装置用部材の表面に形成される新たな成膜層を除去しやすい気相成長装置用部材の再生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的は、本発明に係る下記(1)のSiCの気相成長装置用部材により達成される。
【0009】
(1) 黒鉛からなる基材と、
前記基材の全面を覆うように、第1のSiC層及びh-BNを含有する離型層がこの順に形成された被覆層と、
を有するSiCの気相成長装置用部材。
【0010】
本発明のSiCの気相成長装置用部材は、基材の全面を覆うように、第1のSiC層及びh-BNを含有する離型層がこの順に形成された被覆層を有する。ここで、離型層のh-BNは、強度の弱い六方晶のc軸方向が主面と垂直方向に配向しやすく、第1のSiC層、更には最終的に成形体として得られる成膜層との熱膨張係数のミスマッチによって、離型層に微細なクラックを生じやすい。そして、このクラックにエッチング液が浸透し、離型層の上に形成されたSiCの成膜層が容易に剥離される。
【0011】
また、本発明に係る気相成長装置用部材は、下記(2)~(8)であることが好ましい。
【0012】
(2) 前記離型層は、前記第1のSiC層との界面に、14族元素がドーピングされた非晶質BN層を有することを特徴とする(1)に記載の気相成長装置用部材。
【0013】
離型層が、剥離しやすいh-BN層の他に、エッチングされやすい非晶質BN層を有することにより、離型層のh-BN層に浸透したエッチング液が非晶質BN層を侵し、成膜層をより剥離させやすくすることができる。
また、非晶質BN層にドープされる元素は14族元素であるので、半導体用途に用いても影響を少なくすることができる。
【0014】
(3) 前記被覆層は、前記離型層の表面に第2のSiC層をさらに有することを特徴とする(1)又は(2)に記載の気相成長装置用部材。
【0015】
離型層に含まれるBやNの拡散を第2のSiC層が抑止し、成膜層や外部の汚染を防止する。例えば、成形体として半導体用部材を製造する場合には、半導体用部材の汚染を防止する。
また、SiCからなる成形体を製造する場合には、第2のSiC層の上に、成膜層としてSiCが成膜されることになり、成膜中に放射率などの表面の性質が成膜層と変わらず、温度分布が変わりにくく安定した成膜ができる。
【0016】
(4) 前記離型層は、前記第1のSiC層との界面及び前記第2のSiC層との界面の少なくとも一方に、14族元素がドーピングされた非晶質BN層を有することを特徴とする(3)に記載の気相成長装置用部材。
【0017】
離型層が、剥離しやすいh-BN層の他に、エッチングされやすい非晶質BN層を有することにより、離型層のh-BN層に浸透したエッチング液が非晶質BN層を侵し、成膜層をより剥離させやすくすることができる。
また、非晶質BN層にドープされる元素は14族元素であるので、半導体用途に用いても影響を少なくすることができる。
【0018】
(5) 前記14族元素は、炭素又はシリコンであることを特徴とする(2)又は(4)に記載の気相成長装置用部材。
【0019】
炭素及びシリコンはいずれもSiCの構成元素であり、半導体に混入しても有害なドープをしないので、半導体の導電率に与える影響を少なくすることができる。
【0020】
(6) 前記14族元素の含有量は、前記非晶質BN層全量に対して2~20atom%であることを特徴とする(2)、(4)及び(5)のいずれか1つに記載の気相成長装置用部材。
【0021】
14族元素の含有量が非晶質BN層全量に対して20atom%以下であれば、非晶質層の主成分であるBNの特性に影響を与えることなく、非晶質BN層として離型層の一部を構成することができる。一方、14族元素の含有量が非晶質BN層全量に対して2atom%以上であると、非晶質BN層が十分に作用しエッチングしやすくすることができる。
(7) 前記離型層の厚さが0.01~2μmであることを特徴とする(1)~(6)のいずれか1つに記載の気相成長装置用部材。
【0022】
離型層の厚さが0.01μm以上であると十分な厚さが得られ、成膜層を剥離しやすくすることができる。また、離型層の厚さが2μm以下であると、離型層を成膜する際に、第1のSiC層との熱膨張係数のミスマッチにより、基材から自然に剥離してしまうことを防止することができる。
【0023】
(8) 前記気相成長装置用部材は、型、マッフル、ヒーター、ヒートシールド、断熱材、ガスノズル、排気ノズル及び支持具のうち少なくとも1つに用いられるものであることを特徴とする(1)~(7)のいずれか1つに記載の気相成長装置用部材。
【0024】
これらの部材は、気相成長装置を構成する部材であり、成膜に伴ってその表面に成膜層が形成され、内部応力により割れの原因となったり、他の部材と接合したり、原料ガスの流れの妨げ等となる。そこで、成膜層を除去してから再使用することが行われているが、上記気相成長装置用部材によれば成膜層を剥離しやすいため、除去作業が容易になる。そのため、成形体の製造コストを下げることができる。
【0025】
また上記の目的は、本発明に係る下記(9)の気相成長装置用部材の再生方法により達成される。
【0026】
(9) (1)~(8)のいずれか1つに記載の気相成長装置用部材の再生方法であって、
表面に成膜層が形成された前記気相成長装置用部材における前記離型層の一部を露出させる工程と、
前記離型層の一部を露出させた前記気相成長装置用部材をエッチング液に浸漬し、露出させた前記離型層から前記エッチング液を浸透させて、前記成膜層を分離することを特徴とする気相成長装置用部材の再生方法。
【0027】
成形体等となる成膜層が表面に形成された気相成長装置用部材に対して、離型層の一部を露出させてエッチング液を浸透させるため、気相成長装置用部材の基材である黒鉛にエッチング液を浸透させることなく、成膜層を離型させることができる。そのため、エッチング液を原因とする不純物を発生させることなく気相成長装置用部材を再生させることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明のSiCの気相成長装置用部材は、基材の全面を覆うように、第1のSiC層及びh-BNを含有する離型層がこの順に形成された被覆層を有する。ここで、離型層のh-BNは、強度の弱い六方晶のc軸方向が主面と垂直方向に配向しやすく、第1のSiC層、更には最終的に成形体として得られる成膜層との熱膨張係数のミスマッチによって、離型層に微細なクラックを生じる。そして、このクラックにエッチング液が浸透し、離型層の上に形成されたSiCの成膜層が容易に剥離される。
【0029】
また、本発明の気相成長装置用部材の再生方法によれば、表面に成膜層が形成された気相成長装置用部材をエッチング液に浸漬すると、離型層で成膜層を剥離するので、基材の内部にエッチング液を浸透しにくくでき、気相成長装置用部材へのエッチング液による汚染を少なくすることができる。
【0030】
さらに、気相成長装置を構成する部材に本発明を適用することにより、その表面に形成された成膜層を剥離しやすくなり、再使用が容易になる。そのため、成形体の製造コストを下げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1は、気相成長装置の一例を示す断面図である。
【
図2A】
図2Aは、本発明の実施の形態1に係る気相成長装置用部材(型)の断面図である。
【
図2B】
図2Bは、本発明の実施の形態2に係る気相成長装置用部材(型)の断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施の形態1に係る気相成長装置用部材の再生方法の工程図を示し、(a)は使用前の気相成長装置用部材(型)の断面図、(b)は成膜層を形成するCVD工程、(c)は離型層を露出する離型層露出工程、(d)はエッチング工程、(e)は成膜層からなる成形体の分離工程、を示す。
【
図4】
図4は、
図3(d)のエッチング工程における部分拡大図である。
【
図6】
図6は、実施例の気相成長装置用部材における断面の拡大図であり、(a)は成膜層が付着したエッチング前の断面SEM写真であり、(b)はエッチング完了後の断面SEM写真を示す。
【0032】
(発明の詳細な説明)
気相成長装置は、例えば
図1に示す構造を有している。気相成長装置のほぼ中央にマッフル200が配設され、マッフル200はその周囲のヒーター300により加熱される。ヒーター300の外側にはヒートシールド400が配設されており、その外側が断熱材500を内張したチャンバ600で包囲されている。また、マッフル200には、気相成長装置の外部からガスノズル700を通じて、原料ガスが流入する。また、マッフル200には細孔が多数形成されており、余剰の原料ガスや、分解生成物が装置内に充満している。そこで、排気ノズル800を通じて、余剰の原料ガスや分解生成物を気相成長装置外に排気している。
【0033】
そして、成膜は、マッフル200の内部において、支持具900上に型100を載置し、気相成長装置内を一旦真空状態とした上で、ヒーター300で加熱しながら、原料ガスをマッフル200に流入させて行う。
【0034】
これら構成部材の中で型100は、例えばCVD法により、表面において最終的に成形体となるSiCの成膜層を形成した後、成膜層を分離する部材である。CVDで得られたSiC層は密着性が高く、特に気相成長装置用部材の表面がSiCであると強固に接合し、分離が困難である。
【0035】
型100以外の部材、すなわちマッフル200、ヒーター300、ヒートシールド400、断熱材500、ガスノズル700、排気ノズル800、支持具900では、成膜を繰り返し行う際に、表面に成膜層が形成され続け、一定の厚さ以上になると内部応力により割れの原因となったり、他の部材と接合したり、原料ガスの流れの妨げとなる。そのため、定期的に交換したり、表面に形成された成膜層のみを取り除く作業が必要になる。
【0036】
このように、型100や上記した他の各部材には、上記成膜層を分離しやすいことが要求される。
【0037】
本発明のSiCの気相成長装置用部材は、黒鉛からなる基材と、基材全面を覆う第1のSiC層、h-BNを有する離型層が形成された被覆層とからなる。離型層のh-BNはc軸方向に強度の弱い六方晶であり、第1のSiC層、更には離型層の上に形成され、分離されて最終的に成形体となるSiCの成膜層との熱膨張係数のミスマッチによって離型層に微細なクラックを生じる。そして、このクラックにエッチング液が浸透し、離型層の上に成膜された成膜層を容易に剥離することができる。
【0038】
以下、実施の形態1及び実施の形態2によって詳しく本発明を説明する。なお、本発明は、以下で説明する実施形態に限定されるものではない。
【0039】
<実施の形態1>
実施の形態1では、黒鉛からなる基材10と、基材10の全面を覆うように、第1のSiC層21及びh-BNを含有する離型層22がこの順に形成された被覆層20とからなるSiCの気相成長装置用部材(型100)について説明する。
【0040】
図2Aは、本発明の実施の形態1に係る気相成長装置用部材の断面図である。
図2Aに示すように、紙面上側に向かう階段状の突起を有する黒鉛からなる基材10の表面全体を、第1のSiC層21が覆い、更にその上にh-BNを含有する離型層22が全面を覆っており、型100を構成している。なお、第1のSiC層21と離型層22が、被覆層20を構成する。
【0041】
第1のSiC層21は、特に限定されないが、例えばCVD法で得られたCVD-SiC層のほか、PVD、スパッタなどの物理蒸着層であってもよい。中でもCVD-SiC層は、緻密な被膜が得られるので、後のエッチング工程で腐食性の高いエッチング液の浸透を防止できるので好ましい。
【0042】
また、気相成長装置用部材100は、第1のSiC層21を形成した後、大気に暴露し、その上にh-BNを含有する離型層22を形成してもよい。SiCは酸素と接すると速やかに表面に酸化膜(SiO2)ができ、後に浸透したエッチング液で分離させやすくすることができる。
【0043】
第1のSiC層21の厚さは、1~50μmであることが好ましい。第1のSiC層21の厚さが1μm以上であると、第1のSiC層21が確実に基材10を覆い、後にエッチング液の基材への浸透を防止することができる。また、第1のSiC層21の厚さが50μm以下であると、歪や厚さの不均一の影響を少なくすることができるので、寸法精度の高い気相成長装置用部材100を得ることができる。
【0044】
基材10の黒鉛は多孔体であるため、後のエッチング工程においてエッチング液に触れると内部に含浸され、型100を繰り返し使った場合には、含侵したエッチング液が、気相成長装置の炉内に放出され、不純物発生の原因となる。本実施形態では、黒鉛からなる基材10の全表面が第1のSiC層21で覆われているので、エッチング液が基材10と接触することはなく、炉内の汚染を防止することができる。
【0045】
離型層22はh-BNで構成されているが、h-BNは六方晶であり、熱膨張係数はa軸方向で-2.9ppm/K、c軸方向で40.5ppm/Kの異方性材料である。離型層22ではa軸が表面に沿って配向しやすく、離型層22を挟んで配置される第1のSiC層21及び後述する成膜層の熱膨張係数(3.5~4.5ppm/K)とは大きな開きがあり、熱膨張ミスマッチにより離型層22にクラックが形成されやすい。また、h-BNは、c軸方向の結合力が弱く剥離しやすいため、離型層22が結晶のa軸方向に沿って配向しやすいことに相俟って、クラックが進展しやすくなる。
【0046】
本実施形態では、こうして形成されたクラックに沿ってエッチング液が浸透しやすくなり、離型層22における成膜層の分離を容易にしている。なお、離型層22は、成膜層が形成される部分のみに形成されていればよく、必ずしも全表面に形成されていなくてもよい。
【0047】
続いて、離型層22の厚さは、0.01~2μmであることが好ましい。離型層22の厚さが0.01μm以上であると十分な厚さが得られ、成膜層を剥離しやすくすることができる。また、離型層22の厚さが2μm以下であると、離型層22を成膜する際に、第1のSiC層21との熱膨張係数のミスマッチにより、基材10から自然に剥離してしまうことを防止することができる。なお、離型層22の厚さは、0.01~2μmであることがより好ましい。
【0048】
また、離型層22は、第1のSiC層21との界面に、14族元素がドーピングされた非晶質BN層を有していてもよい。非晶質BNは、h-BNとは異なりエッチング液に可溶であるので、離型層22のh-BNに形成されたクラックを通して浸透したエッチング液が非晶質BN層を侵し、成膜層の分離を促進することができると考えられる。14族元素をドープすることにより、エッチング性が向上する。
【0049】
14族元素は、炭素又はシリコンであることが好ましい。これらの元素はいずれもSiCの構成元素であり、半導体に混入しても有害なドープをしないので、半導体の導電率に与える影響を少なくすることができる。
【0050】
14族元素の好ましい含有量は、非晶質BN層全量に対して20atom%以下である。14族元素の含有量が非晶質BN層全量に対して20atom%以下であれば、非晶質層の主成分であるBNの特性に影響を与えることなく、非晶質BN層として離型層22の一部を構成することができる。一方、14族元素の含有量が非晶質BN層全量に対して2atom%以上では、非晶質BN層が十分に作用し、エッチングしやすくすることができる。
【0051】
なお、非晶質BN層は、例えば気相成長法で離型層22を形成する場合、原料ガスに炭素やシリコン等のドーピング成分を混入させることで得ることができる。
【0052】
<実施の形態2>
実施の形態2におけるSiCの気相成長装置用部材(型100A)においては、実施の形態1における離型層22を、更に第2のSiC層23で覆っている。すなわち、被覆層20は、第1のSiC層21、離型層22及び第2のSiC層23の3層で構成される。
【0053】
本実施形態では、成膜層は第2のSiC層23の上に形成されるため、型100Aと成膜層が一体化する。また、型100Aの表面が第2のSiC層23で構成されるので、例えば成膜層としてSiC膜を成膜する場合、成膜中、放射率などの表面の性質が変わらず、温度分布が変わりにくく安定した成膜ができる。
【0054】
また、気相成長装置が、成形体として半導体用部材を製造する場合には、離型層22に含まれるBやNの拡散を第2のSiC層23が抑止し、半導体用部材の汚染を防止することができる。
【0055】
なお、型100Aから分離して得られる成形体には、もともと型100Aの一部であった第2のSiC層23が含まれており、成形体を分離した後の型には、第2のSiC層23は残っていない。
【0056】
実施の形態2においても、14族元素ドープの非晶質BN層が介在していてもよい。14族元素ドープの非晶質BN層は、実施の形態1と同様に第1のSiC層21と離型層22との界面のみに形成されてもよいし、離型層22と第2のSiC層23との界面にも形成されてもよい。
【0057】
<気相成長装置用部材の再生方法>
次に、
図3を用いて、例として実施の形態1に係る気相成長装置用部材である型100を用いて、シェル構造のSiC製の成形体を得るための工程を順に説明する。
図3は、本発明の実施の形態1に係る気相成長装置用部材の再生方法の工程図を示し、(a)は使用前の気相成長装置用部材(型100)の断面図、(b)は成膜層30を形成するCVD工程、(c)は離型層22を露出する離型層露出工程、(d)はエッチング工程、(e)は成膜層30からなる成形体の分離工程、を示す。
【0058】
まず、
図3(a)に示すように、気相成長装置におけるマッフルの支持具900に、型100を載置する。
【0059】
次いで、気相成長装置内を真空状態とし、ヒーターで加熱しながら、SiC用の原料ガスをマッフルに流入させて、
図3(b)に示すように、型100の全面に、例えばSiCからなる成膜層30を成膜する。なお、図示されるように、成膜層30は支持具900の表面にも形成される。
【0060】
次いで、
図3(c)に示すように、型100及び成膜層30の全体を支持具900から取り出す。そして、第1のSiC層21の端面21aの位置で切断する。この切断により、
図3(d)のA部分に示すように、第1のSiC層21の端面21a、離型層22の端面22a及び成膜層30の端面30aがそれぞれ露出する。なお、このとき切断の位置は、離型層22より表層側とするとよい。離型層22が脆いため切断時に機械的な破壊が生じ、第1のSiC層21を傷つけることなく離型層22を露出させることができる。
【0061】
次いで、
図3(d)に示すように、エッチング槽42に貯留されたエッチング液40に浸漬する。エッチング液40としては特に限定されないが、フッ硝酸、緩衝フッ化水素酸、リン酸などが利用できる。緩衝フッ化水素酸とは、フッ化水素酸とフッ化アンモニウムの混合液である。
【0062】
エッチング液40は、
図4に拡大して示すように、離型層22の端面22aからクラック25に浸透し、離型層22の全体に進展する。
【0063】
そして、
図3(e)に示すように、成膜層30が分離され、型100の形状に沿ったSiC製の成膜層30により形成された成形体が得られる。なお、前工程において、第1のSiC層21の端面21aで切断されるため、基材10は露出しておらず、エッチング液とは接触しない。
【0064】
成膜層30が分離された型100は、そのまま再利用することができる。したがって、SiC製の成形体の製造とともに、型の再生がなされる。
【0065】
なお、上記説明において、離型層22を露出させるには、下記に示す変形例に従うこともできる。
【0066】
(変形例1)
図5Aに示すように、マスキング部材50を用いて、型の一部に成膜層30が形成されないようにしてもよい。
【0067】
図5A(a)に示すように、型における離型層22の端面22aに、マスキング部材50を当接させる。マスキング部材50は、型の角部との間に隙間55が形成されるように、段状のくびれ部51を有する。くびれ部51の深部には、成膜層30の原料ガスが到達しにくいので、マスキング部材50と型とは全面に接合せず、マスキング部材50を容易に分離できるようにする。
【0068】
また、マスキング部材50としては、例えば黒鉛、SiC、Si3N4などを用いることができる。
【0069】
次いで、
図5A(b)に示すように、成膜層30を成膜する。図示されるように、成膜層30はマスキング部材50の無い、くびれ部近傍である型の角部分には形成されない。
【0070】
そして、
図5A(c)に示すように、型からマスキング部材50を取り除くことによって、離型層22の端面22aに、成膜層30が形成されていない露出部60が形成される。
【0071】
(変形例2)
図5Bに示すように、衝撃を加えて離型層22に到達するクラックを形成してもよい。すなわち、成膜層30を形成した後、例えば型の角部にハンマー62により機械的に衝撃を加えて離型層22に達するクラック65を形成する。離型層22は柔らかく、その下の第1のSiC層21は硬い層であるため、第1のSiC層21及び基材10に与える衝撃ダメージを小さくすることができる。
【0072】
なお、実施の形態2のように、被覆層20において第2のSiC層23が付加されている場合、第2のSiC層23と成膜層30の合計の厚さは100μm以下であることが好ましい。合計の厚さが100μm以下であると、小さな力でクラックを入れることができるので、基材10や第1のSiC層21に与える衝撃ダメージを小さくすることができる。
【0073】
(変形例3)
図5Cに示すように、型にシャープなエッジ部70を形成することにより、成膜層30に、離型層22に到達するクラック75を形成することもできる。
【0074】
まず、
図5C(a)に示すように、シャープなエッジ部70を有する型を用意する。
【0075】
次に、
図5C(b)に示すように、成膜層30を成膜する。離型層22のBNと成膜層30のSiCとは熱膨張係数差があるため、加熱、冷却を繰り返すと、内部応力がシャープなエッジ部70に集中し、クラック75が形成されやすくなる。
【0076】
このクラック75を通じて離型層22にエッチング液が浸透して、成膜層30が分離しやすくなる。
【0077】
なお、望ましいエッジ部70のRは、0.5mm以下である。Rを0.5mm以下とすることにより、効果的に応力集中を起こすことができる。
【0078】
このように、本発明の気相成長装置用部材では、成膜層を分離しやすく、再利用が容易になる。実施の形態1の気相成長装置用部材を再利用する場合、第2のSiC層23を被覆して、実施の形態2の気相成長装置用部材として使用してもよいし、そのまま実施の形態1の気相成長装置用部材として使用してもよい。
【0079】
また、再利用する際には、離型層22を再度形成し直してもよいし、離型層22が残っている場合にはそのまま再利用してもよい。
【0080】
気相成長装置の型100以外の部材、すなわちマッフル200、ヒーター300、ヒートシールド400、断熱材500、ガスノズル700、排気ノズル800、支持具900にも、型100と同様に第1のSiC層21や離型層22、第2のSiC層23を形成することにより、成膜に伴って形成される成膜層30を分離しやすくなり、再利用が容易になる。
【0081】
(発明を実施するための形態)
本発明の気相成長装置用部材の特徴が明確になるように、実施例をもとに説明する。
【0082】
本実施例は、SiCの成形体を作るための型ではなく、繰り返し操炉されることによって表面にSiCが積層していく気相成長装置用部材を想定して行った。
【0083】
黒鉛板(220mm×130mm×40mm)を用意し、その厚さ方向にφ5mmの貫通孔を7mmピッチで格子状に形成し、基材として使用した。黒鉛板の主面と貫通孔内壁のエッジ部分は面取りを行わず、シャープなエッジを残して応力集中しやすい形状とした。このときのエッジのRは0.5mm以下であった。
【0084】
上記基材の表面全体に、CVD法により厚さ10μmの第1のSiC層を形成し、その上にCVD法によりh-BNの離型層を形成した。なお、離型層の厚さは0.2μmであった。
【0085】
こうして気相成長装置用部材を製造し、ヒートシールド、マッフルなどの繰り返し使用される気相成長装置用部材を想定し、CVD法を繰り返し行って表面にSiC層を積層させ、積層の状態及び離型性の評価を行った。
【0086】
図6は、気相成長装置用部材の断面の拡大図であり、
図6(a)は、5層のSiC層が付着した再生前の気相成長装置用部材の断面のSEM写真である。なお、離型層はSEM写真では明確に分離でできず、
図6(a)では第1のSiC層に含まれて観察されている。
【0087】
得られた気相成長装置用部材の表面に、CVD法を5回連続して行い、4μmずつ5層のSiC層を形成した。なお、5層目では、SiC層が異常成長して表面の状態が荒れてしまったため、6回目の成膜は行わず、形成された5層のSiC層をまとめて取り除くことにした。
【0088】
本実施例では、貫通孔が格子状に形成され、黒鉛板とのエッジ部分に面取りが行われておらず、エッジ部分に応力集中が起きてクラックが形成されやすい構造であるので、特に離型層露出工程を行わず、そのままエッチング工程を行った。エッチング工程では、表面にSiC層が形成された気相成長装置用部材をフッ硝酸からなるエッチング液に浸漬し、超音波洗浄を併用しながら純水で繰り返し洗浄した。
【0089】
図6(b)は、SiC層を完全に除去した後の断面のSEM写真を示している。
図6(b)に示すように、5層のSiC層がすべてエッチングにより除去された気相成長装置用部材では、第1のSiC層は、そのまま残存している。
【0090】
このように、本発明の気相成長装置用部材では、基材表面の第1のSiC層を残しつつ、新たに成膜されたSiC層のみを除去できることが確認された。また、第1のSiC層が残っているので、エッチング液は黒鉛からなる基材に到達しておらず、エッチング液が気相成長装置内で拡散することも防止できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明によれば、成形体となる成膜層を容易に剥離できる気相成長装置用部材を提供でき、再生も容易であり、成形体の製造コストを低下させることができる。
【符号の説明】
【0092】
10 基材
20 被覆層
21 第1のSiC層
22 離型層
23 第2のSiC層
25 クラック
30 成膜層(成形体、SiC層)
40 エッチング液
100 型(気相成長装置用部材)
200 マッフル
300 ヒーター
400 ヒートシールド
500 断熱材
600 チャンバ
700 ガスノズル
800 排気ノズル
900 支持具