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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】ロータ及びブラシレスモータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/276 20220101AFI20240423BHJP
【FI】
H02K1/276
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021018921
(22)【出願日】2021-02-09
(65)【公開番号】P2022121925
(43)【公開日】2022-08-22
【審査請求日】2024-01-31
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000113791
【氏名又は名称】マブチモーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】日下部 渉
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/019673(WO,A1)
【文献】特開2019-22360(JP,A)
【文献】特許第5918958(JP,B2)
【文献】国際公開第2018/189822(WO,A1)
【文献】特開2010-252417(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一形状の複数の積層コアから構成され、回転中心側に円柱状の空間が形成された筒状のコア本体と、
前記筒状のコア本体の軸方向に貫設されるとともに前記筒状のコア本体の径方向のうちステータ側である径方向外側に向かうにつれて互いに離隔するようにV字状に配設された一対の磁石収容孔をそれぞれ含み、前記筒状のコア本体の周方向に離間して設けられた複数の磁石収容孔対と、
前記複数の磁石収容孔のそれぞれに収容されて固定される複数の永久磁石と、
一対の磁石収容孔に一つずつ設けられる複数の突起部と、
突起形成空間と、を備え、
前記複数の突起部の各々の突起部は、(i)磁極境界であるq軸側かつ(ii)前記径方向において前記径方向外側とは反対の前記筒状のコア本体の径方向内側から前記一対の磁石収容孔の対応する磁石収容孔の前記q軸側の側面の延在方向に沿って突設され、前記対応する磁石収容孔に収容された前記複数の永久磁石の永久磁石に対して前記q軸側かつ前記径方向内側から圧接し、
前記突起形成空間は、前記軸方向に貫通するとともに前記側面から当該側面に沿って前記径方向外側へ延出し、前記周方向で、前記複数の突起部と前記複数の永久磁石とに重なる
ことを特徴とする、ロータ。
【請求項2】
前記突起形成空間を形成する突起形成面は、前記一対の磁石収容孔の前記磁石収容孔を形成する前記径方向内側の内側面に繋がっている
ことを特徴とする、請求項1記載のロータ。
【請求項3】
前記各々の突起部における前記延在方向に沿った方向に直交する幅方向の長さは、一枚の前記積層コアの板厚の二倍以下である
ことを特徴とする、請求項1記載のロータ。
【請求項4】
前記各々の突起部の前記幅方向の長さは、前記板厚以上である
ことを特徴とする、請求項3記載のロータ。
【請求項5】
前記各々の突起部における前記延在方向に沿った方向の長さは、前記各々の突起部における前記延在方向に沿った方向に直交する幅方向の長さよりも長い
ことを特徴とする、請求項1記載のロータ。
【請求項6】
請求項に記載のロータと、
前記ロータと一体回転可能に構成されたシャフトと、
ハウジングに固定され、前記ロータが配置される空間を内径側に持つとともにコイルを有する前記ステータと、を備えた
ことを特徴とする、ブラシレスモータ。
【請求項7】
前記側面は、前記筒状のコア本体の前記径方向外側から前記径方向内側に延在する
ことを特徴とする、請求項1記載のロータ。
【請求項8】
前記各々の突起部は、前記周方向で、前記対応する磁石収容孔と前記突起形成空間との間に位置する
ことを特徴とする、請求項1記載のロータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コア本体の内部に永久磁石が配置されたロータ、及び、このロータを備えたブラシレスモータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コア本体の内部に永久磁石を配置した所謂IPM(Interior Permanent Magnet)ロータが知られている。このようなロータでは、ロータの回転により生じる遠心力が永久磁石に作用することで永久磁石が移動し、振動や騒音の要因となったり、永久磁石の破損の原因となったりするおそれがある。このため、IPMロータにおいては、永久磁石をコア本体に確実に固定することが求められており、これまでもさまざまな方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、磁石(永久磁石)を配置する貫通孔において、径方向に突状をなして磁石を圧入固定する圧入用突起と、圧入用突起を挟んで磁石から径方向に離隔した位置に形成される切り込み部をと備えるロータコア(コア本体)が開示されている。特許文献1によれば、圧入用突起により磁石を圧入固定しつつ、切り込み部により磁石への過度の圧力付与が抑えられるとされている。
【0004】
また、特許文献2には、磁石が挿入される穴部にバネ板部が設けられた第1コアシートと、第1コアシートのバネ板部が設けられている部位に対応する位置に凹部が設けられた第2コアシートとを備え、これらのコアシートが積層されて構成されるIPMロータが開示されている。係る構成により、IPMロータに磁石が挿入される際に、磁石によって押し曲げられたバネ板部が第2コアシートの凹部に逃げることができるとともに、バネ板部の復元力によって磁石を保持することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5918958号公報
【文献】再表2018-189822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の構成では、圧入力が大きくなりすぎてしまい、ロータコアへの磁石挿入時にロータコアが削れてカスが発生し得る。また、特許文献2は、異なる形状のコアシートを積層する構成であるため、転積が必要となり、金型費用の増大を招く。さらに、突起や凹部等の位置によっては磁束の流れを妨げる可能性があり、モータの性能確保という観点から、これらの配置は重要である。
【0007】
なお、磁石の固定方法としては、突起等を形成せず接着剤を用いる方法も考えられる。しかし、接着剤による固定方法は、接着剤の種類によっては塗布専用の設備が必要となることがあり、また、液状の接着剤の場合は硬化するまでに時間がかかるため生産効率の向上を図るうえでは好ましくない。また、一般的に、接着剤には消耗期限があるため、接着剤の管理(保管)にも注意を必要とする。
【0008】
本件は、このような課題に鑑み案出されたもので、モータ性能を確保しつつ、製造コストを抑えて適切な圧入力で永久磁石を固定できるロータ及びブラシレスモータを提供することを目的の一つとする。なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)ここで開示するロータは、同一形状の複数の積層コアから構成され、回転中心側に円柱状の空間が形成された筒状のコア本体と、前記筒状のコア本体の軸方向に貫設されるとともに前記筒状のコア本体の径方向のうちステータ側である径方向外側に向かうにつれて互いに離隔するようにV字状に配設された一対の磁石収容孔をそれぞれ含み、前記筒状のコア本体の周方向に離間して設けられた複数の磁石収容孔対と、前記複数の磁石収容孔のそれぞれに収容されて固定される複数の永久磁石と、前一対の磁石収容孔に一つずつ設けられる複数の突起部と、突起形成空間と、を備える。前記複数の突起部の各々の突起部は、(i)磁極境界であるq軸側かつ(ii)前記径方向において前記径方向外側とは反対の前記筒状のコア本体の径方向内側から前記一対の磁石収容孔の対応する磁石収容孔の前記q軸側の側面の延在方向に沿って突設され、前記対応する磁石収容孔に収容された前記複数の永久磁石の永久磁石に対して前記q軸側かつ前記径方向内側から圧接する。前記突起形成空間は、前記軸方向に貫通するとともに前記側面から当該側面に沿って前記径方向外側へ延出し、前記周方向で、前記複数の突起部と前記複数の永久磁石とに重なる
【0010】
(2)前記突起形成空間を形成する突起形成面は、前記一対の磁石収容孔の前記磁石収容孔を形成する前記径方向内側の内側面に繋がっていることが好ましい。
【0011】
(3)前記各々の突起部における前記延在方向に沿った方向に直交する幅方向の長さは、一枚の前記積層コアの板厚の二倍以下であることが好ましい。
(4)前記各々の突起部の前記幅方向の長さは、前記板厚以上であることが好ましい。
(5)前記各々の突起部における前記延在方向に沿った方向の長さは、前記各々の突起部における前記延在方向に沿った方向に直交する幅方向の長さよりも長いことが好ましい。
(6)前記側面は、前記筒状のコア本体の前記径方向外側から前記径方向内側に延在することが好ましい。
(7)前記各々の突起部は、前記周方向で、前記対応する磁石収容孔と前記突起形成空間との間に位置することが好ましい。
【0012】
また、ここで開示するモータは、上記のロータと、前記ロータと一体回転可能に構成されたシャフトと、ハウジングに固定され、前記ロータが配置される空間を内径側に持つとともにコイルを有する前記ステータと、を備えている。
【発明の効果】
【0013】
開示のロータ及びブラシレスモータによれば、突起部が弾性変形しやすくなるため、適切な圧入力でコア本体に永久磁石を固定することができる。また、突起部及び突起形成空間が磁束の流れを妨げることがないため、性能を確保できる。加えて、特殊な金型や専用設備が不要なため、製造コストを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態に係るブラシレスモータの斜視図である。
図2図1のブラシレスモータの軸方向に沿う断面図である。
図3図1のブラシレスモータのロータ及びステータを示す分解斜視図である。
図4図3のA部を軸方向視で拡大して示す平面図である。
図5図4のロータの磁極及び磁束の流れを説明するための図である。
図6図3のロータを構成する積層コアを説明するための図である。
図7】(a)は図6のB部拡大図であり、(b)は図7(a)にマグネットが圧入されたロータコアを示す図である。
図8】(a)~(d)は比較例を説明するための図〔図7(b)に対応する図〕である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図面を参照して、実施形態としてのロータ及びブラシレスモータについて説明する。以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0016】
[1.構成]
図1は、本実施形態に係るブラシレスモータ1(以下「モータ1」という)の斜視図であり、図2はモータ1の軸方向断面図である。モータ1は、インナーロータ型のブラシレスDCモータであり、モータ1の外郭をなすハウジング4に、シャフト10が固定されたロータ2と、ハウジング4に固定されたステータ3とを内蔵して構成される。ハウジング4は、軸方向の両端が開口した筒型であり、一端側(図2中の右側)の開口にはエンドベル15が固定され、他端側(出力側,図2中の左側)の開口にはフロントベル14が固定される。なお、本実施形態のハウジング4は、その外観形状が略直方体であるが、ハウジング4の形状はこれに限られない。
【0017】
図3は、本実施形態のロータ2をステータ3から分解して示す斜視図であり、シャフト10及びハウジング4等は省略している。図2及び図3に示すように、ステータ3は、内径側にロータ2が配置される空間を持つ略円筒状の部品であり、ハウジング4に圧入固定される環状のステータコア30と、ステータコア30に対してインシュレータ31を介して巻回されたコイル32と、を備える。本実施形態のステータ3は、図1及び図2に示すように、コイル32に接続される電源入力用のリード線6と、センサ信号入出力用のリード線7と、リード線6を支持するリード線止め部品5と、ロータ2の回転位置に応じた信号を検出する回転検出素子を有する基板8とを備える。なお、ステータ3の構成はこれに限られず、例えばリード線止め部品5を省略してもよいし、基板8を支持する部品が別途設けられていてもよい。
【0018】
シャフト10は、ロータ2を支持する回転軸であり、モータ1の出力(機械エネルギ)を外部に取り出す出力軸としても機能する。シャフト10には、ロータ2を挟んだ二箇所に軸受11,12が設けられる。本実施形態では、軸受11がフロントベル14に固定されてシャフト10の中間部を回転自在に支持し、軸受12がエンドベル15に固定されてシャフト10の端部(図中右端部)を回転自在に支持する。
【0019】
図2及び図3に示すように、ロータ2は、回転中心C回りにシャフト10と一体回転するロータコア20(コア本体)、及び、ロータコア20の内部に埋設された複数のマグネット27(永久磁石)を備えるIPM(Interior Permanent Magnet)ロータである。
【0020】
複数のマグネット27は、ロータコア20の周方向を一周するようにそれぞれ離間して配設され、周方向に隣接する二つのマグネット27で一つのマグネット対28を構成する。本実施形態では、14個のマグネット対28、すなわち、28個のマグネット27を備えるロータ2を例示する。
【0021】
図3の二点鎖線で囲われた部分の拡大平面図を図4及び図5に示す。一つのマグネット対28を構成する二つのマグネット27は、ロータコア20の径方向外側に向かうにつれて、互いに離隔するようにV字状に配設される。図5に示すように、一つのマグネット対28を構成する二つのマグネット27は、同極同士が対向するように配置される。一方、隣り合うマグネット対28は、異極同士が対向するように配置される。これにより、各マグネット対28は、径方向外側(すなわちステータ3側)に磁極(N極又はS極)を形成し、図中太矢印で示すような磁束の流れが生じる。マグネット対28を構成する二つのマグネット27同士の間の径方向の直線が、磁極中心であるd軸となる。また、隣接するマグネット対28同士の間の径方向の直線が、磁極境界であるq軸となる。図4図5及び後述する図6図8において、d軸を長い一点鎖線で示し、q軸を短い一点鎖線で示す。
【0022】
マグネット27は、ロータコア20の軸方向長さと同等の長さを有する直方体形状であって、ロータコア20の内部に埋設された際に軸方向の一端側及び他端側のそれぞれを向く長方形の端面27fを有する。マグネット27の端面27fは短辺27faと長辺27fbとを有する。
【0023】
ロータコア20は、複数の積層コア29を軸方向に積層することで構成される。図6に、本実施形態の積層コア29の平面図及び側面図を並べて示す。積層コア29は、回転中心C側にシャフト10が固定される軸孔21を持つ薄板の電磁鋼板であり、全て同一形状に形成される。積層コア29の軸孔21の周囲には、複数の磁石収容孔22が軸方向に貫設される。磁石収容孔22は、マグネット27が収容されて固定される貫通孔である。複数の磁石収容孔22は、マグネット27の個数と同数だけ設けられ、複数のマグネット27が上述のように配設されることに対応して設けられる。
【0024】
すなわち、複数の磁石収容孔22は、ロータコア20の周方向を一周するようにそれぞれ離間して配設され、周方向に隣接する二つの磁石収容孔22で一つの磁石収容孔対23を構成する。一つの磁石収容孔対23を構成する二つの磁石収容孔22は、d軸に関して対称に、径方向外側に向かうにつれて、互いに離隔するようにV字状に配設される。なお、周方向に隣接する磁石収容孔22の間には、各磁石収容孔22と隙間をあけて位置決め孔26が形成される。
【0025】
本実施形態の磁石収容孔22は、図7(a)に示すように、軸方向視で略平行四辺形状に形成される。磁石収容孔22は、軸方向及びq軸に対して略垂直な方向に延在する二つの面と、軸方向に延在するとともに径方向内側に向かうにつれてq軸から離隔する方向に傾斜する二つの面とによって形作られる。以下、前者の二つの面のうち、径方向内側の面を内側面22aとよび、径方向外側の面を外側面22bとよぶ。また、後者の二つの面のうち、q軸側の面をq軸側面22cとよび、d軸側の面をd軸側面22dとよぶ。
【0026】
q軸側面22cとd軸側面22dとの間の距離は、マグネット27の短辺27faの長さと同等とされる。図7(b)に示すように、マグネット27は、長辺27fbを有する側面がq軸側面22c及びd軸側面22dに対向するようにq軸側面22cとd軸側面22dとの間に配置される。q軸側面22c及びd軸側面22dは、内側面22a及び外側面22bよりも広い。内側面22a及び外側面22bは、マグネット27が磁石収容孔22内に配置されたときに、マグネット27の端面27fの角と干渉しない位置に設定される。係る構成の磁石収容孔22にマグネット27が挿入されたとき、マグネット27の短辺27faは内側面22a及び外側面22bに対して傾斜した状態で配置される。このとき、マグネット27の短辺27faと内側面22aとの間、及び、マグネット27の短辺27faと外側面22bとの間には、僅かな隙間が形成される。この隙間は、磁束の流れをコントロールするためのフラックスバリアとして機能する。
【0027】
ロータ2には、マグネット27を圧入固定するための突起部24と、突起部24を形成するための突起形成空間25とが設けられる。突起部24及び突起形成空間25により、マグネット27は接着剤を使用せず、圧入によってロータコア20に固定される。図6に示すように、突起部24及び突起形成空間25は、一つの磁石収容孔22に一つずつ設けられており、磁石収容孔22及びマグネット27の各個数と同数だけ設けられる。
【0028】
突起部24は、磁石収容孔22のq軸側かつ径方向内側からq軸側面22cの延在方向に沿って突設される。より具体的には、突起部24は、図7(a)に示すように、磁石収容孔22を形成するq軸側面22cの径方向内側の部分にq軸側面22cの延在方向に沿って、かつ、突起部24の一部が磁石収容孔22の内側に入り込むように突設される。突起部24は、図7(b)に示すように、磁石収容孔22にマグネット27が収容される際にq軸側かつ径方向内側に向かって弾性変形し、磁石収容孔22に収容されたマグネット27に対してq軸側かつ径方向内側から圧接する。これにより、図中白抜き矢印で示すように、マグネット27は、磁石収容孔22のd軸側面22dに圧接されて磁石収容孔22内に固定される。
【0029】
突起形成空間25は、軸方向に貫通するとともにq軸側面22cからq軸側面22cに沿って延出する空洞であり、磁石収容孔22と連通する。突起形成空間25は、突起部24の先端よりも径方向内側においてq軸側に切り欠かれたあと、q軸側面22cの延在方向に沿って径方向外側に向かって延出する。本実施形態の突起形成空間25は、q軸側面22cの最も径方向内側の端部から切り欠かれて形成される。このため、本実施形態の突起形成空間25を形成する突起形成面25fは、q軸側面22cに接続することなく、磁石収容孔22の内側面22aに直接繋がっている。突起部24は、突起形成空間25及び磁石収容孔22によって形作られる。
【0030】
図7(a)に示すように、本実施形態のロータ2では、突起部24の突出方向の長さL(以下「突出長さL」という)が、突起部24の突出方向に直交する幅方向の長さW(以下「幅寸法W」という)よりも長い。これにより、突起部24が弾性変形しやすくなり、圧入力が過大になることがない。また、本実施形態の突起部24は、その幅寸法Wが、一枚の積層コア29の板厚T(図6参照)の二倍以下に形成される。突起部24の幅寸法Wが長いほど圧入力が増大するため、板厚Tの二倍以下に設定することで圧入力の過大を抑制する。さらに本実施形態では、突起部24の幅寸法Wが板厚T以上に設定され、通常のプレス加工を可能とする。
【0031】
[2.作用,効果]
(1)上述したロータ2では、磁石収容孔22のq軸側面22cに沿って突設された突起部24、及び、磁石収容孔22のq軸側面22cからq軸側面22cに沿って径方向外側へ延出する突起形成空間25が設けられている。言い換えれば、上述したロータ2では、突起部24の突出方向にq軸側面22cの延在方向の成分が含まれるとともに、q軸側面22cに沿って径方向外側へ延出する突起形成空間25により突起部24がq軸側に変位可能に構成されている。このため、軸方向視でq軸側面22cの延在方向に垂直な方向、すなわち、q軸側かつ径方向内側に突起部24が弾性変形しやすくなり、マグネット27を圧入する際の圧入力を適切化することができる。これにより、圧入力が過大な場合に生じる「カスの発生」という課題を解決できる。また、上述したロータ2では、突起部24及び突起形成空間25がいずれも磁石収容孔22のq軸側かつ径方向内側に配置されるため、磁束の流れを阻害しない。これにより、磁束の低下を防止でき、モータ1の性能を確保することができる。
【0032】
ここで、比較例として、突起部のないロータコア50Wを図8(a)に示す。また、上述したロータ2とは異なる位置に突起部が設けられたロータコア50X,50Y,50Zを比較例として図8(b)~(d)のそれぞれに示す。ロータコア50W,50X,50Y,50Zのそれぞれには、上記の実施例のマグネット27と同形状のマグネット57が挿入されるとともに、マグネット57を収容する磁石収容孔52が設けられる。
【0033】
図8(a)に示すような突起部のないロータコア50Wにマグネット(図示略)を圧入固定する場合には、磁石収容孔52の形状をマグネット(図示略)の外形よりもわずかに小さくして圧入代を設けることになるが、この場合、圧入力が過大となってカスが生じてしまう。これに対し、上述したロータ2(ロータコア20)であれば、突起部24の形状を工夫することで、上記のとおり圧入力の適正化を図ることができるため、カスが発生することがない。
【0034】
図8(b)に示すロータコア50Xは、磁石収容孔52を形成するq軸側面52cに突起部54X及び突起形成空間55Xが設けられている点が上記のロータコア20と同様である。しかし、突起形成空間55Xが、径方向外側から径方向内側に向かって延出する点で上記のロータコア20と異なる。このロータコア50Xを持つロータについて磁束低下率をシミュレーションした結果、磁束低下率が0.9%となった。なお、磁束低下率とは、突起部が存在しないロータコア〔例えば図8(a)のようなロータコア〕を持つロータの磁束を基準とし、この磁束に対して低下した割合(%)を意味する。
【0035】
このロータコア50Xのように突起部54Xよりも径方向外側から径方向内側に突起形成空間55Xを延出させた場合、図中太矢印で示すように、突起形成空間55Xの径方向外側部分が磁束の流れ(磁束の通り道)と重なってしまう。このため、突起部5X及び突起形成空間5Xが磁束の流れを阻害してしまい、磁束低下率が高くなり、ひいてはモータの性能低下を招くことになる。
【0036】
このような課題に対し、上述したロータ2では、上記のとおり、突起形成空間25が突起部24よりも径方向内側から径方向外側に延出することで磁束の流れを阻害しない配置となっている(図5参照)。このため、同様のシミュレーションを、上述したロータコア20を持つロータ2に対して行った結果、ロータ2では、磁束低下率が0.0%になることが判明した。したがって、ロータ2を備えたモータ1によれば、モータ1の性能を確保することができる。
【0037】
図8(c)に示すロータコア50Yは、磁石収容孔52を形成するd軸側面52dに突起部54Y及び突起形成空間55Yが設けられている点で上記のロータコア20と異なる。より具体的には、ロータコア50Yでは、突起部54Y及び突起形成空間55Yがd軸側面52dの径方向中央部分に設けられている。このロータコア50Yを持つロータについて磁束低下率をシミュレーションした結果、磁束低下率が1.9%となった。このロータコア50Yでは、図中太矢印で示すように、突起部54Y及び突起形成空間55Yが磁束の流れと重なる。このため、図8(b)のロータコア50Xと同様の理由により、磁束の流れを阻害してしまい、モータの性能低下を招くことになる。これに対して、上述したロータ2では、突起部24及び突起形成空間25が磁石収容孔22のq軸側に設けられるとともに磁束の流れを阻害しない配置となっているため、モータ1の性能を確保することができる。
【0038】
図8(d)に示すロータコア50Zは、磁石収容孔52を形成する内側面52aに突起部54Z及び突起形成空間55Zが設けられている点で上記のロータコア20と異なる。このロータコア50Zを持つロータについて磁束低下率をシミュレーションした結果、磁束低下率が0.4%となった。加えて、このロータコア50Zでは、q軸側面52cやd軸側面52dよりも狭い内側面52aに突起部54Zが設けられるため、突起部54Zの突出方向の長さを確保することができない。このため、突起部54Zの変形量を確保できず、圧入力が過大となりうる。これに対し、上述したロータ2(ロータコア20)であれば、内側面22aよりも広いq軸側面22cに突起部24を設けることで、十分な突出方向の長さを確保することができ、圧入力の適正化を図ることができる。
【0039】
また、上述したロータコア20を構成する複数の積層コア29は全て同一形状であるため、特許文献2のような転積が不要である。このため、金型費用の増大を招くことがなく、製造コストを抑制できる。さらに、マグネット27をロータコア20に固定する際に接着剤を使用しないため、接着剤を使う場合に生じるデメリット、例えば、乾燥時間が必要であること、専用の設備が必要であること、接着剤の消耗期限の管理等が存在しないということも、上述したロータ2及びモータ1によるメリットである。
【0040】
(2)上述したロータ2では、突起形成空間25を形成する突起形成面25fが、磁石収容孔22を形成する径方向内側の内側面22aに繋がっている。このように、突起形成空間25が磁石収容孔22の最も径方向内側に設けられることで、磁束の流れが阻害されにくくなるため、モータ1の性能をより確保することができる。
【0041】
(3)上述したロータ2及びモータ1では、突起部24の幅寸法Wが一枚の積層コア29の板厚Tの二倍以下であるため、圧入力が過大になることを防止でき、マグネット27の圧入時におけるカスの発生を防止できる。
(4)さらに、上記の突起部24は、その幅寸法Wが板厚T以上である(すなわち、「T≦W≦2×T」である)ため、特殊な金型などを用いることなく通常のプレス加工によって積層コア29を形成できる。このため、製造コストを抑えることができる。
【0042】
(5)また、上述したロータ2及びモータ1では、突起部24の突出長さLが幅寸法Wよりも長いため、圧入力が過大になることを防ぎつつ突起部24の弾性変形に伴うバネ力を確保することができる。
【0043】
[3.その他]
上述の実施形態で説明したロータ2及びモータ1の構成は一例であって、上述したものに限られない。上述の実施形態では、突起形成空間25がq軸側面22cの最も径方向内側の端部に形成されていたが、突起形成空間は、この位置よりも径方向外側に形成されていてもよい。すなわち、突起形成空間を形成する突起形成面がq軸側面を介して内側面に接続していてもよい。突起形成空間の位置は、磁石収容孔22のq軸側かつ径方向内側であって、隣接する二つの磁石収容孔のそれぞれに設けられた突起形成空間同士が連通しない位置であれば、上述のものに限らない。また、突起部24の突出長さL及び幅寸法Wが上記と異なる寸法に設定されていてもよい。
またステータ3及びハウジング4等の各形状や各構成は上述したものに限られない。
【符号の説明】
【0044】
1 モータ(ブラシレスモータ)
2 ロータ
3 ステータ
4 ハウジング
10 シャフト
20 ロータコア(コア本体)
21 軸孔
22 磁石収容孔
22a 内側面
22c q軸側面(側面)
23 磁石収容孔対
24 突起部
25 突起形成空間
25f 突起形成面
27 マグネット
28 マグネット対
29 積層コア
C 回転中心
L 突起部の突出長さ(突出方向の長さ)
T 積層コアの板厚
W 突起部の幅寸法(幅方向の長さ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8