(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】自動車用超薄肉低圧電線及びこれを含むワイヤーハーネス
(51)【国際特許分類】
H01B 7/02 20060101AFI20240423BHJP
H01B 7/00 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
H01B7/02 Z
H01B7/00 301
(21)【出願番号】P 2021112945
(22)【出願日】2021-07-07
【審査請求日】2022-11-16
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】西 祐紀
【審査官】岩田 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-143299(JP,A)
【文献】特開2016-197560(JP,A)
【文献】特開2017-069119(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/02
H01B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体部と、前記導体部の外周を被覆する絶縁層と、を備え、
前記絶縁層は、塩化ビニル樹脂100質量部と、トリメリット酸系エステル可塑剤29~31質量部と、加工助剤0.3~1.0質量部と、熱安定剤7~11質量部と、を含む樹脂組成物からなり、前記導体部の断面積は0.13±0.02mm
2であり、前記絶縁層の厚さが0.16~0.25mmであ
り、
前記加工助剤は、アクリル系高分子、シリコーン系高分子及びステアリン酸金属より選択される少なくとも一つを含有する、自動車用超薄肉低圧電線。
【請求項2】
請求項
1に記載の自動車用超薄肉低圧電線を備えるワイヤーハーネス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用超薄肉低圧電線及びこれを含むワイヤーハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用のワイヤーハーネス、電子機器等に使用される電線は、導体とこの導体の外周を被覆する絶縁層である絶縁層とを備える。絶縁層は、一般的に、塩化ビニル樹脂と可塑剤、熱安定剤等の添加剤とを含む樹脂組成物からなる。電線の絶縁層には、通常、ISO19642に定められた耐摩耗性、熱安定性、耐熱性、耐寒性等の特性が求められる。
【0003】
自動車用の電線には、導体の細径化及び絶縁層の薄肉化が求められている。例えば、導体には、撚線又は単線で断面積0.13mm2程度の細径化が望まれている。また、この細径の導体を被覆する絶縁層には、例えば、厚さ0.2mm程度の薄肉化が望まれている。
【0004】
薄肉の絶縁層には、耐摩耗性の問題が生じやすい。このため、絶縁層の耐摩耗性の低下を防ぐ方法として、樹脂組成物中の可塑剤の配合量を少なくして樹脂組成物の硬度を増加させる方法が考えられる。しかし、この方法で得られる絶縁層は、柔軟性の低下に起因して耐寒性及び耐熱性が低下しやすく、加えて電線の外観が悪くなりやすい。電線の外観は、例えば、電線の絶縁層の表面粗さRa(μm)の平均値が小さい場合に「良好」と評価し、大きい場合に「不良」と評価することができる。
【0005】
これに対し、特許文献1には、樹脂組成物中の可塑剤の配合量の調整と、改質剤及び超微粒子シリカの添加とを行う薄肉電線が開示されている。この薄肉電線は、ISO6722に準拠した耐摩耗性及び耐寒性を満たすと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、近年、自動車用のワイヤーハーネスを構成する超薄肉低圧電線には、ISO19642よりも厳しい基準を有する欧州の規格であるLV112に準拠することが望まれている。
【0008】
これに対し、特許文献1に開示された薄肉電線では、熱安定性がLV112の要求基準を十分に満たさないおそれがある。なお、絶縁層の熱安定性の低下を防ぐ方法としては熱安定剤の配合量を多くする方法が考えられるが、この方法では、電線の表面に肌荒れや凸凹が発生することにより、外観が悪くなりやすい。
【0009】
また、特許文献1に開示された薄肉電線では、塩化ビニル樹脂100質量部に対して可塑剤の配合量が32質量部未満であると外観が悪くなったり耐熱性が低下したりしやすい。さらに、特許文献1に開示された薄肉電線では、塩化ビニル樹脂100質量部に対して可塑剤の配合量が32質量部以上であると耐摩耗性が低下しやすい。このように、特許文献1に開示された薄肉電線では、耐摩耗性と、外観との両立が困難になりやすい。
【0010】
なお、LV112で定められる「耐低温性」は、ISO6722に定められた「耐寒性」と同程度である。このため、特許文献1に開示された薄肉電線は、LV112で定められる「耐低温性」については満たすと考えられる。また、一般的に、超薄肉低圧電線は加工性に優れていることが好ましい。しかし、特許文献1に開示された薄肉電線は、耐摩耗性、熱安定性、耐低温性、耐熱性及び加工性の全てを高い水準で満たすものではない。
【0011】
このように、従来、耐摩耗性、熱安定性、耐低温性、耐熱性及び加工性を高い水準で満たす超薄肉低圧電線は知られていなかった。
【0012】
本発明は、このような従来技術が有する課題に鑑みてなされたものである。本発明の目的は、耐摩耗性、熱安定性、耐低温性、耐熱性及び加工性を高い水準で満たす超薄肉低圧電線、及びこれを含むワイヤーハーネスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の態様に係る自動車用超薄肉低圧電線は、導体部と、前記導体部の外周を被覆する絶縁層と、を備え、前記絶縁層は、塩化ビニル樹脂100質量部と、トリメリット酸系エステル可塑剤29~31質量部と、加工助剤0.3~1.0質量部と、熱安定剤7~11質量部と、を含む樹脂組成物からなり、前記導体部の断面積は0.13±0.02mm2であり、前記絶縁層の厚さが0.16~0.25mmである。
【0014】
本発明の他の態様に係るワイヤーハーネスは、前記自動車用超薄肉低圧電線を備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、耐摩耗性、熱安定性、耐低温性、耐熱性及び加工性を高い水準で満たす超薄肉低圧電線、及びこれを含むワイヤーハーネスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施形態に係る電線(自動車用超薄肉低圧電線)の一例を示す断面図である。
【
図2】実施形態に係るワイヤーハーネスの一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を用いて実施形態に係る電線(自動車用超薄肉低圧電線)及びこれを含むワイヤーハーネスについて詳細に説明する。
【0018】
[電線]
図1は、実施形態に係る電線(自動車用超薄肉低圧電線)の一例を示す断面図である。
図1に示すように電線(自動車用超薄肉低圧電線)1は、導体部10と、導体部10の外周を被覆する絶縁層20と、を備える。なお、自動車用超薄肉低圧電線とは、導体部10の断面積が約0.13mm
2、絶縁層20の厚さ0.16~0.25mmの自動車用の電線1を意味する。
【0019】
(導体部)
導体部10は、導体からなる部分である。
図1に示す導体部10は、単線導体11を7本用い、周囲から圧縮されることにより形成された撚線になっている。なお、導体部10の変形例として、単線導体11を7本以外にした撚線としてもよいし、周囲から圧縮されていない撚線としてもよい。また、導体部10の他の変形例として、1本の単線導体11のみからなる導体部の形態としてもよい。
【0020】
導体部10の断面積は0.13±0.02mm
2である。なお、
図1に示すように導体部10が撚線である場合、導体部10の断面積は電線1中の全ての単線導体11の断面積の合計値である。また、導体部10が1本の単線導体11のみからなる場合、導体部10の断面積は単線導体11の断面積である。
【0021】
導体部10の材質としては、例えば、銅、銅合金等が用いられる。
【0022】
(絶縁層)
絶縁層20は、導体部10の外周を被覆し、樹脂組成物からなる。実施形態で用いられる樹脂組成物は、塩化ビニル樹脂と、トリメリット酸系エステル可塑剤と、加工助剤と、熱安定剤とを含む。
【0023】
<塩化ビニル樹脂>
塩化ビニル樹脂としては、例えば電線の絶縁用途に用いられる通常の塩化ビニル樹脂を用いることができる。使用される塩化ビニル樹脂の平均重合度(重量平均重合度)は特に限定されないが、1300~2000であることが好ましい。平均重合度が上記範囲内にあると、樹脂組成物の耐寒性及び耐摩耗性が向上しやすい。なお、絶縁層20では、上記重合度の範囲にある塩化ビニル樹脂を一種又は二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0024】
<トリメリット酸系エステル可塑剤>
トリメリット酸系エステル可塑剤は、塩化ビニル樹脂の分子間に浸透して樹脂の分子間力を弱め、樹脂組成物に柔軟性を与える作用を有する。また、トリメリット酸系エステル可塑剤は、耐寒性、耐候性、低揮発性が高く、耐熱電線等に用いられる。
【0025】
トリメリット酸系エステル可塑剤としては、例えば、以下のものが用いられる。
【0026】
・トリメリット酸トリス-2-エチルヘキシル(以下、「TOTM」ともいう)
【化1】
・・・(P1)
【0027】
・トリメリット酸-トリ-n-オクチルエステル(以下、「n-TOTM」ともいう)
【化2】
・・・(P2)
【0028】
・トリメリット酸-トリノニル(以下、「TNTM」ともいう)
【化3】
・・・(P3)
【0029】
<トリメリット酸系エステル可塑剤の含有量>
樹脂組成物は、塩化ビニル樹脂100質量部に対し、トリメリット酸系エステル可塑剤を、29~31質量部、好ましくは29.5~30.5質量部含む。なお、トリメリット酸系エステル可塑剤の含有量は、トリメリット酸系エステル可塑剤が複数種類配合される場合、複数種類のトリメリット酸系エステル可塑剤の合計量の含有量とする。
【0030】
なお、トリメリット酸系エステル可塑剤の含有量が、塩化ビニル樹脂100質量部に対し29質量部未満であると、絶縁層20の耐熱性が低下しやすい。一方、トリメリット酸系エステル可塑剤の含有量が、塩化ビニル樹脂100質量部に対し31質量部を超えると、絶縁層20の耐摩耗性が低下しやすい。
【0031】
<加工助剤>
加工助剤は、樹脂組成物の加工性を向上させる作用を有する。加工助剤としては、例えば、アクリル系高分子、シリコーン系高分子、ポリエチレンワックス、ステアリン酸金属等が用いられる。アクリル系高分子としては、例えば、(メタ)アクリル酸もしくは(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体、又は(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体、で構成されるアクリル系加工助剤が用いられる。加工助剤がPMMA等のアクリル系高分子であると、絶縁電線を作製する際の押出し被覆工程に好適な溶融粘度(押し出し性)を有することができることにより電線1の外観が向上しやすいため好ましい。
【0032】
<加工助剤の含有量>
樹脂組成物は、塩化ビニル樹脂100質量部に対し、加工助剤を、0.3~1.0質量部、好ましくは0.3~0.55質量部含む。なお、加工助剤の含有量は、加工助剤が複数種類配合される場合、複数種類の加工助剤の合計量の含有量とする。加工助剤の含有量が上記範囲内にあると、耐摩耗性、熱安定性、耐低温性、耐熱性及び加工性を高い水準で満たす超薄肉低圧電線1が得られやすい。
【0033】
なお、加工助剤の含有量が、塩化ビニル樹脂100質量部に対し0.3質量部未満であると、絶縁層20の表面の平滑性が損なわれることにより電線1の外観が不良になりやすい。電線1の外観は、例えば、電線表面粗さを用いて評価される。ここで、電線表面粗さとは、大きいほど電線1の外観が不良になると評価される指標である。加工助剤の含有量が、塩化ビニル樹脂100質量部に対し0.3質量部未満であると、電線表面粗さが大きくなり、外観が不良になりやすい。電線表面粗さについては後述する。一方、加工助剤の含有量が、塩化ビニル樹脂100質量部に対し1.0質量部を超えると、電線1中における導体部10の偏心が生じることにより偏心量が増加しやすい。ここで、偏心量とは、電線1の断面における電線1の中心と導体部10の中心とのずれを示す指標である。偏心量については後述する。
【0034】
<熱安定剤>
熱安定剤は、樹脂組成物の加熱時の塩化水素の発生を抑制し、塩化ビニル樹脂の特性を安定させる作用を有する。熱安定剤としては、非鉛系熱安定剤が用いられる。非鉛系熱安定剤としては、例えば、Ca-Mg-Zn系熱安定剤、Ca-Zn系熱安定剤、Zn-Mg系安定剤、Sn系安定剤、Ba系安定剤、Zn系安定剤、及びCa系安定剤からなる群より選ばれる少なくとも一種の安定剤を用いることができる。このうち、Ca-Mg-Zn系熱安定剤、Ca-Zn系熱安定剤、及びZn-Mg系安定剤は、耐熱性や熱安定性に優れる。このため、これらのCa-Mg-Zn系熱安定剤を用いると、電線1が、自動車の高温部位に用いられても絶縁層20の耐熱性を長期にわたり確保することができるため好ましい。
【0035】
<熱安定剤の含有量>
樹脂組成物は、塩化ビニル樹脂100質量部に対し、熱安定剤を、7~11質量部、好ましくは7.5~9.5質量部含む。なお、熱安定剤の含有量は、熱安定剤が複数種類配合される場合、複数種類の熱安定剤の合計量の含有量とする。熱安定剤の含有量が上記範囲内にあると、耐摩耗性、熱安定性、耐低温性、耐熱性及び加工性を高い水準で満たす超薄肉低圧電線1が得られやすいため好ましい。
【0036】
なお、熱安定剤の含有量が、塩化ビニル樹脂100質量部に対し7質量部未満であると、絶縁層20の熱安定性が低下しやすい。一方、熱安定剤の含有量が、塩化ビニル樹脂100質量部に対し11質量部を超えると、絶縁層20の表面の平滑性が損なわれることにより電線1の外観が不良になりやすい。電線1の外観は、例えば、電線表面粗さを用いて評価される。
【0037】
<補強剤>
樹脂組成物は、さらに補強剤を含んでいてもよい。補強剤は、樹脂組成物を補強する添加剤である。補強剤としては、例えば、炭酸カルシウム、シリカ(SiO2)等が用いられる。このうち、炭酸カルシウムは、樹脂組成物の耐摩耗性及び低温衝撃性を向上させるため好ましい。
【0038】
<補強剤の含有量>
樹脂組成物は、塩化ビニル樹脂100質量部に対し、補強剤を、例えば3~7質量部、好ましくは4~6質量部含む。なお、補強剤の含有量は、補強剤が複数種類配合される場合、複数種類の補強剤の合計量の含有量とする。補強剤の含有量が上記範囲内にあると、耐摩耗性、熱安定性、耐低温性、耐熱性及び加工性を高い水準で満たす超薄肉低圧電線1が得られやすいため好ましい。
【0039】
<改質剤>
樹脂組成物は、さらに改質剤を含んでいてもよい。改質剤としては、例えば樹脂組成物の耐衝撃性を向上させる耐衝撃改質剤が用いられる。耐衝撃改質剤としては、例えば、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン共重合体(MBS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、塩素化ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)等が用いられる。
【0040】
<改質剤の含有量>
樹脂組成物は、塩化ビニル樹脂100質量部に対し、改質剤を、例えば1~5質量部、好ましくは2~4質量部含む。なお、改質剤の含有量は、改質剤が複数種類配合される場合、複数種類の改質剤の合計量の含有量とする。改質剤の含有量が上記範囲内にあると、耐摩耗性、熱安定性、耐低温性、耐熱性及び加工性を高い水準で満たす超薄肉低圧電線1が得られやすいため好ましい。
【0041】
<絶縁層の厚さ>
絶縁層20の厚さは、0.16~0.25mm、好ましくは0.18~0.22mmである。絶縁層20の厚さが上記範囲内にあると、耐摩耗性、熱安定性、耐低温性、耐熱性及び加工性を高い水準で満たす超薄肉低圧電線1が得られやすい。なお、絶縁層20の厚さが0.16mm未満であると、絶縁層20の耐摩耗性が低下しやすい。
【0042】
樹脂組成物は、公知の方法で製造することができる。また、絶縁層20は、樹脂組成物を用いて公知の方法で導体部10の外周に形成することができる。導体部10の外周に絶縁層20を形成すると電線1が得られる。
【0043】
(電線の評価)
電線1は以下のようにして評価される。
【0044】
<外観の評価:電線表面粗さの評価>
電線1の外観については、電線表面粗さの測定を行うことで評価する。ここで、電線表面粗さとは、デジタルマイクロスコープを用いて電線1の絶縁層20の表面の電線1の長手方向に沿って測定長30mmで場所を変えて5回測定したときの、5個の表面粗さRa(μm)の平均値(μm)である。
【0045】
導体部10の断面積0.13mm2、絶縁層20の厚さ0.2mmの電線1の場合、電線表面粗さが3.5μm未満のときの外観を「○(良好)」、3.5μm以上のときの外観を「×(不良)」と評価する。
【0046】
<外観の評価:偏心量の評価>
電線1の外観については、偏心量の測定を行うことで評価する。ここで、偏心量とは、電線1の断面における電線1の中心と導体部10の中心とのずれを示す指標である。偏心量は、下記式(1)で算出される値である。
[数1]
偏心量=(肉厚b-肉厚a)/2 (1)
(肉厚a:電線1のある断面Xにおける絶縁層20の肉厚の最小値(mm)、肉厚b:前記断面Xにおける絶縁層20の肉厚の最大値(mm))
【0047】
導体部10の断面積0.13mm2、絶縁層20の厚さ0.2mmの電線1の場合、偏心量が0.04mm未満であるときの偏心量を「○(良好)」、偏心量が0.04mm以上であるときの偏心量を「×(不良)」と評価する。
【0048】
<耐摩耗性の評価>
耐摩耗性については、国際規格ISO19642 5.3.2項に準拠して、各実施例及び比較例の電線の耐摩耗試験(スクレープ試験)を行うことで評価する。具体的には、温度23℃において、ブレードにかかる荷重を7Nに設定して電線に沿って往復させ、内部の銅線に導通するまでの往復回数を測定する。1本の電線に対して軸中心に90度ずつ回転させて同じ測定を繰り返し、1本の電線について計4回の測定を行う。4回の測定における最小値の値により、電線1の耐摩耗性を評価することができる。
【0049】
導体部10の断面積0.13mm2、絶縁層20の厚さ0.2mmの電線1の場合、往復回数の最小値が200回以上のときの耐摩耗性を「○(良好)」、200回未満のときの耐摩耗性を「×(不良)」と評価する。
【0050】
<熱安定性の評価>
熱安定性については、国際規格DIN規格 DIN EN 60811-3-2 Part.9 に準拠して、各実施例及び比較例の電線の熱安定性試験を行うことで評価する。具体的には、電線の絶縁層を各辺が1±0.5mm程度となるように切断して絶縁体試料を作製する。次に、絶縁体試料50mgをガラス試験管に投入し、200±3℃の油浴で加熱処理し、コンゴーレッド試験紙の先端が明確な青色になるまでにかかる時間を測定する。変色するまでの時間の最小値から電線1の熱安定性を評価することができる。
【0051】
導体部10の断面積0.13mm2、絶縁層20の厚さ0.2mmの電線1の場合、変色時間の最小値が140分以上であるときの熱安定性を「○(良好)」、140分未満であるときの熱安定性を「×(不良)」と評価する。
【0052】
<耐低温性の評価>
耐低温性については、国際規格ISO19642 5.4.7項に準拠して、各実施例及び比較例の電線の低温巻付試験を行うことで評価する。具体的には、マンドレル及び電線1を-40℃に4時間以上冷却する。その後、電線1の外径の5倍の外径を有するマンドレルに電線を巻付け、巻き付けられた電線の導体部分の露出がないことを確認する。その際に導体部分の露出が認められなかったものについて、電線の導体と被覆層の外周面との間に1000Vの電圧を1分間印加し、被覆層における絶縁破壊の有無を調べる。
【0053】
導体部10の断面積0.13mm2、絶縁層20の厚さ0.2mmの電線1の場合、絶縁破壊が生じなかったものを「○(良好)」、絶縁破壊が生じたものを「×(不良)」と評価する。
【0054】
<耐熱性の評価>
耐熱性については、国際規格ISO19642 5.4.3項に準拠して、各実施例及び比較例の電線の短期加熱試験を行うことで評価する。具体的には、電線を温度130℃で240時間加熱する。加熱後、常温にて16時間放置したのち、温度-25℃で冷却する。その後、電線外径の5倍の外径を有するマンドレルに電線を巻付け、巻き付けられた電線の導体部分の露出がないことを確認する。その際に導体部分の露出が認められなかったものについて、電線の導体と被覆層の外周面との間に1000Vの電圧を1分間印加し、被覆層における絶縁破壊の有無を調べる。
【0055】
導体部10の断面積0.13mm2、絶縁層20の厚さ0.2mmの電線1の場合、絶縁破壊が生じなかったものを「○(良好)」、絶縁破壊が生じたものを「×(不良)」と評価する。
【0056】
(効果)
電線1によれば、耐摩耗性、熱安定性、耐低温性、耐熱性及び加工性を高い水準で満たす超薄肉低圧電線を提供することができる。
【0057】
[ワイヤーハーネス]
図2は、実施形態に係るワイヤーハーネスの一例を示す斜視図である。
【0058】
図2に示すように、ワイヤーハーネス100は、電線(自動車用超薄肉低圧電線)1を備える。
図2に示すワイヤーハーネス100は、多くの電線1がまとめられて一体化されている例である。ワイヤーハーネス100では、通常、まとめられて一体化された多くの電線1の図示しない末端部が、多芯型のコネクタに接続される。電線1は、
図1に示す電線1と同じである。このため、電線1についての説明を省略する。
【0059】
(効果)
ワイヤーハーネス100によれば、耐摩耗性、熱安定性、耐低温性、耐熱性及び加工性を高い水準で満たすワイヤーハーネスを提供することができる。
【実施例】
【0060】
以下、本実施形態を実施例及び比較例によりさらに詳細に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0061】
実施例及び比較例で用いた材料は、以下のとおりである。
・塩化ビニル樹脂:信越化学工業株式会社製ストリートポリマーTK-1300(平均重合度1300)
・可塑剤:ジェイプラス製TOTM(トリメリット酸トリス-2-エチルヘキシル)
・熱安定剤:株式会社ADEKA製非鉛系(Ca-Mg-Zn系)熱安定剤RUP-110
・補強剤:竹原化学工業株式会製炭酸カルシウム、商品名:NEOLIGHT SP
・改質剤:株式会社カネカ製カネエース B-564
・加工助剤:株式会社カネカ製カネエース PA-40
【0062】
[実施例1]
(電線の作製)
図1に示す電線1を構成する電線1を作製した。
<導体部>
導体部10として、断面積0.13mm
2の単線導体11を用意した。
<樹脂組成物の調製>
絶縁層20の原料となる樹脂組成物を調製した。具体的には、表1に示す配合量の塩化ビニル樹脂、可塑剤、熱安定剤、補強剤、改質剤及び加工助剤を、オープンロールを用いて温度180℃で均一に溶融混練して、樹脂組成物を調製した。
【0063】
【0064】
<樹脂組成物の押出成形>
単軸押出機を用い、導体部10の外周に、導体部10と樹脂組成物とを同時押出して放冷したところ、絶縁層20の厚さが0.2mmの電線1が得られた。
(電線の評価)
【0065】
<外観の評価:電線表面粗さの評価>
電線1の外観について、電線表面粗さの測定を行うことで評価した。ここで、電線表面粗さとは、デジタルマイクロスコープを用いて電線1の絶縁層20の表面の電線1の長手方向に沿って測定長30mmで場所を変えて5回測定したときの、5個の表面粗さRa(μm)の平均値(μm)である。
【0066】
電線1につき、電線表面粗さが3.5μm未満のときの外観を「○(良好)」、3.5μm以上のときの外観を「×(不良)」と評価した。結果を表1に示す。
【0067】
<外観の評価:偏心量の評価>
電線1の外観について、偏心量の測定を行うことで評価した。ここで、偏心量とは、電線1の断面における電線1の中心と導体部10の中心とのずれを示す指標である。偏心量は、下記式(1)で算出される値である。
[数1]
偏心量=(肉厚b-肉厚a)/2 (1)
(肉厚a:電線1のある断面Xにおける絶縁層20の肉厚の最小値(mm)、肉厚b:前記断面Xにおける絶縁層20の肉厚の最大値(mm))
【0068】
電線1につき、偏心量が0.04mm未満であるときの偏心量を「○(良好)」、偏心量が0.04mm以上であるときの偏心量を「×(不良)」と評価した。結果を表1に示す。
【0069】
<耐摩耗性の評価>
耐摩耗性について、国際規格ISO19642 5.3.2項に準拠して、各実施例及び比較例の電線の耐摩耗試験(スクレープ試験)を行うことで評価した。具体的には、温度23℃において、ブレードにかかる荷重を7Nに設定して電線に沿って往復させ、内部の銅線に導通するまでの往復回数を測定した。1本の電線に対して軸中心に90度ずつ回転させて同じ測定を繰り返し、1本の電線について計4回の測定を行った。4回の測定における最小値の値により、電線1の耐摩耗性を評価した。
【0070】
電線1につき、往復回数の最小値が200回以上のときの耐摩耗性を「○(良好)」、200回未満のときの耐摩耗性を「×(不良)」と評価した。結果を表1に示す。
【0071】
<熱安定性の評価>
熱安定性について、国際規格DIN規格 DIN EN 60811-3-2 Part.9 に準拠して、各実施例及び比較例の電線の熱安定性試験を行うことで評価した。具体的には、電線の絶縁層を各辺が1±0.5mm程度となるように切断して絶縁体試料を作製した。次に、絶縁体試料50mgをガラス試験管に投入し、200±3℃の油浴で加熱処理し、コンゴーレッド試験紙の先端が明確な青色になるまでにかかる時間を測定した。変色するまでの時間の最小値から電線1の熱安定性を評価した。
【0072】
電線1につき、変色時間の最小値が140分以上であるときの熱安定性を「○(良好)」、140分未満であるときの熱安定性を「×(不良)」と評価した。結果を表1に示す。
【0073】
<耐低温性の評価>
耐低温性について、国際規格ISO19642 5.4.7項に準拠して、各実施例及び比較例の電線の低温巻付試験を行うことで評価した。具体的には、マンドレル及び電線1を-40℃に4時間以上冷却した。その後、電線1の外径の5倍の外径を有するマンドレルに電線を巻付け、巻き付けられた電線の導体部分の露出がないことを確認した。その際に導体部分の露出が認められなかったものについて、電線の導体と被覆層の外周面との間に1000Vの電圧を1分間印加し、被覆層における絶縁破壊の有無を調べた。
【0074】
電線1につき、絶縁破壊が生じなかったものを「○(良好)」、絶縁破壊が生じたものを「×(不良)」と評価した。結果を表1に示す。
【0075】
<耐熱性の評価>
耐熱性について、国際規格ISO19642 5.4.3項に準拠して、各実施例及び比較例の電線の短期加熱試験を行うことで評価した。具体的には、電線を温度130℃で240時間加熱した。加熱後、常温にて16時間放置した後、温度-25℃で冷却した。その後、電線外径の5倍の外径を有するマンドレルに電線を巻付け、巻き付けられた電線の導体部分の露出がないことを確認した。その際に導体部分の露出が認められなかったものについて、電線の導体と被覆層の外周面との間に1000Vの電圧を1分間印加し、被覆層における絶縁破壊の有無を調べた。
【0076】
電線1につき、絶縁破壊が生じなかったものを「○(良好)」、絶縁破壊が生じたものを「×(不良)」と評価した。
【0077】
[実施例2~7、比較例1~7]
絶縁層20を構成する樹脂組成物を表1及び表2に示す組成になるように変えた以外は、実施例1と同様にして、電線1を作製し、評価した。
結果を表1及び表2に示す。
【0078】
【0079】
表1及び表2より、実施例1~7の電線は、耐摩耗性、熱安定性、耐低温性、耐熱性、電線表面粗さ及び偏心量を高い水準で満たす電線(超薄肉低圧電線)であることが分かった。電線表面粗さ及び偏心量は加工性に関連する評価であるため、実施例1~7の電線は、耐摩耗性、熱安定性、耐低温性、耐熱性及び加工性を高い水準で満たす電線(超薄肉低圧電線)であることが分かった。
【0080】
一方、比較例1~7の電線は、耐摩耗性、熱安定性、耐低温性、耐熱性、電線表面粗さ及び偏心量の少なくとも1個が不十分である電線(超薄肉低圧電線)であることが分かった。このため、比較例1~7の電線は、耐摩耗性、熱安定性、耐低温性、耐熱性及び加工性の少なくとも1個が不十分である電線(超薄肉低圧電線)であることが分かった。
【0081】
以上、本実施形態を説明したが、本実施形態はこれらに限定されるものではなく、本実施形態の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0082】
1 電線(自動車用超薄肉低圧電線)
10 導体部
11 単線導体
20 絶縁層
100 ワイヤーハーネス