(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】レール健全度の評価方法及びレール健全度の評価システム
(51)【国際特許分類】
G01N 17/00 20060101AFI20240423BHJP
G01M 99/00 20110101ALI20240423BHJP
E01B 35/04 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
G01N17/00
G01M99/00 Z
E01B35/04
(21)【出願番号】P 2021188944
(22)【出願日】2021-11-19
【審査請求日】2023-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】細田 充
(72)【発明者】
【氏名】相澤 宏行
(72)【発明者】
【氏名】山本 隆一
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-042054(JP,A)
【文献】特開2006-220569(JP,A)
【文献】特開2000-136988(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0214892(US,A1)
【文献】細田 充、片岡 宏夫、高須 豊、弟子 丸将,“腐食・電食環境下におけるレールの余寿命評価”,鉄道総研報告,日本,鉄道総合技術研究所,2013年04月,第27巻,第04号,pp.5~11,https://bunken.rtri.or.jp/doc/fileDown.jsp?RairacID=0001003677
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 17/00 - 17/04
G01M 99/00
E01B 29/00 - 29/46
E01B 35/00 - 35/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腐食に伴うレールの健全度を評価するためのレール健全度の評価方法であって、
レール位置に関連付けられたレールの腐食量データを取得するステップと、
前記レール位置に関連付けられたレール発生応力を推定するステップと、
前記腐食量データに基づいてレール疲労強度を特定するステップと、
前記レール発生応力と前記レール疲労強度とに基づいて、前記レール位置のレール健全度を算定するステップとを備えたことを特徴とするレール健全度の評価方法。
【請求項2】
前記レール発生応力の推定は、レールの頭頂面の凹凸量及び浮きまくらぎ量に基づいて行われることを特徴とする請求項1に記載のレール健全度の評価方法。
【請求項3】
前記レール疲労強度の特定は、前記腐食量データ及び列車走行回数に基づいて行われることを特徴とする請求項1又は2に記載のレール健全度の評価方法。
【請求項4】
前記レール健全度は、1から前記レール疲労強度に対する前記レール発生応力の比を減ずることによって算定されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のレール健全度の評価方法。
【請求項5】
前記レール健全度が閾値を下回っている場合に、前記レール位置を処置対象箇所と判定することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のレール健全度の評価方法。
【請求項6】
腐食に伴うレールの健全度を評価するためのレール健全度の評価システムであって、
レール位置に関連付けられたレールの腐食量を取得する腐食量取得部と、
前記レール位置に関連付けられたレール発生応力を軌道検測データから推定する発生応力推定部と、
前記腐食量取得部及び前記発生応力推定部の出力結果に基づいて、前記レール位置のレール健全度を算定する評価演算部とを備えたことを特徴とするレール健全度の評価システム。
【請求項7】
前記軌道検測データには、レールの頭頂面の凹凸量及び浮きまくらぎ量が含まれることを特徴とする請求項6に記載のレール健全度の評価システム。
【請求項8】
前記評価演算部では、前記腐食量に基づいて算定されたレール疲労強度と前記レール発生応力とに基づいて、前記レール位置のレール健全度を算定することを特徴とする請求項6又は7に記載のレール健全度の評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐食に伴うレールの健全度を評価するためのレール健全度の評価方法及びレール健全度の評価システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
腐食に伴うレールの損傷は、従来からレール損傷の発生数の大きな部分を占めている。損傷要因として、レール底部領域の腐食によるレール疲労強度の低下が主な要因として考えられ、これまでレール底部の腐食量に着目した研究や検査が行われてきた(非特許文献1参照)。そのための超音波探傷車や超音波探傷装置等が広く用いられている。
【0003】
一方で、軽微なレール底部の腐食であっても、レール損傷が発生することが報告されている(非特許文献2など参照)。その要因として、トンネルの漏水箇所では、繰り返し列車走行でレール頭頂面が局所的に摩耗し、かつ、浮きまくらぎ状態(まくらぎの底面と道床面との間に隙間が生じた状態)の発生にもつながり、総じてレール曲げ応力が増大する。これまで、そのような箇所を抽出できないために、レール損傷を発生させてしまうことがあった。
【0004】
従来は、レールの腐食量のみの管理、もしくは現場の技術者が経験的にレール損傷の可能性がある箇所を選定し、レール交換等の計画を立てていた。近年、軌道検測データを分析することにより、任意のキロ程におけるレール頭頂面の凹凸やまくらぎ支持状態を把握する手法が提案されている(非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】細田外3名、「腐食・電食環境下におけるレールの余寿命評価」、鉄道総研報告、公益財団法人鉄道総合技術研究所、第27巻 第04号、pp.5-11、2013.4
【文献】太山外1名、「トンネル内レール折損事象と腐食レールの管理強化」、日本鉄道施設協会誌、Vol.59 No.5、pp.345-348、2021.5.1
【文献】田中外3名、「偏心矢法を用いたレール凹凸連続測定装置の開発とレール波状摩耗測定への適用」、日本機械学会論文集、2019年 85巻 880号、p.19-00235、2019
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、腐食量データと軌道検測データの分析結果とを併せて、レール損傷の可能性がある箇所を選定するというような検査は、従来、行われていなかった。そして、連続的な営業線の任意の位置(レール位置)におけるレール健全度を、効率的かつ定量的に評価したいという鉄道事業者の要望は、大きい。
【0007】
そこで、本発明は、腐食に伴うレールの健全度を効率的かつ定量的に評価することができるレール健全度の評価方法及びレール健全度の評価システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明のレール健全度の評価方法は、腐食に伴うレールの健全度を評価するためのレール健全度の評価方法であって、レール位置に関連付けられたレールの腐食量データを取得するステップと、前記レール位置に関連付けられたレール発生応力を推定するステップと、前記腐食量データに基づいてレール疲労強度を特定するステップと、前記レール発生応力と前記レール疲労強度とに基づいて、前記レール位置のレール健全度を算定するステップとを備えたことを特徴とする。
【0009】
ここで、前記レール発生応力の推定は、レールの頭頂面の凹凸量及び浮きまくらぎ量に基づいて行われる構成とすることができる。また、前記レール疲労強度の特定は、前記腐食量データ及び列車走行回数に基づいて行うことができる。
【0010】
さらに、前記レール健全度は、1から前記レール疲労強度に対する前記レール発生応力の比を減ずることによって算定される構成とすることができる。また、前記レール健全度が閾値を下回っている場合に、前記レール位置を処置対象箇所と判定することができる。
【0011】
また、レール健全度の評価システムの発明は、腐食に伴うレールの健全度を評価するためのレール健全度の評価システムであって、レール位置に関連付けられたレールの腐食量を取得する腐食量取得部と、前記レール位置に関連付けられたレール発生応力を軌道検測データから推定する発生応力推定部と、前記腐食量取得部及び前記発生応力推定部の出力結果に基づいて、前記レール位置のレール健全度を算定する評価演算部とを備えたことを特徴とする。
【0012】
ここで、前記軌道検測データには、レールの頭頂面の凹凸量及び浮きまくらぎ量が含まれることが好ましい。また、前記評価演算部では、前記腐食量に基づいて算定されたレール疲労強度と前記レール発生応力とに基づいて、前記レール位置のレール健全度を算定することができる。
【発明の効果】
【0013】
このように構成された本発明のレール健全度の評価方法では、レール位置に関連付けられたレールの腐食量データを取得してレール疲労強度を特定するとともに、レール位置に関連付けられたレール発生応力を推定する。そして、得られたレール発生応力とレール疲労強度とに基づいて、各レール位置のレール健全度を算定する。
【0014】
要するに、レールの腐食量データだけでなく、軌道状態を示す指標や推定結果を活用することで、営業線の任意のレール位置におけるレール健全度を定量的に評価することが、効率的にできる。そして、その評価値を目安とすることで、レール保守計画を策定し、安全性の向上やコストダウン等に寄与することができるようになる。
【0015】
また、レール健全度の評価システムの発明は、レールの腐食量を取得する腐食量取得部と、レール発生応力を軌道検測データから推定する発生応力推定部と、腐食量取得部及び発生応力推定部の出力結果からレール位置のレール健全度を算定する評価演算部とを備えている。
【0016】
このため、連続的な営業線の任意のレール位置に対して、本システムを適用して必要なデータの取得と分析を行うだけで、腐食に伴うレールの健全度を、効率的かつ定量的に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施の形態のレール健全度の評価方法の処理の流れを説明するフローチャートである。
【
図2】レールの底部の腐食を説明するための図で、(a)はレール底部の底面腐食量を例示した説明図、(b)はレール底部の側方腐食量を例示した説明図である。
【
図3】レールの腐食量と疲労強度との関係を説明するための図で、(a)は腐食レールの状態ごとに載荷回数と応力との関係を示したグラフ、(b)は(a)のグラフに示されたS-N曲線を説明する図である。
【
図4】浮きまくらぎを設定した輪重変動シミュレーションを説明する図で、(a)は解析モデルの説明図、(b)は解析結果を例示した図である。
【
図5】レール位置を横軸にして、浮きまくらぎ量と頭頂面凹凸量の波形チャートを例示した説明図である。
【
図6】ある区間のレールの測点と測定値を説明する図で、(a)はレールの測点の説明図、(b)は測点と各測定値を表形式で例示した図である。
【
図7】ある区間におけるレール発生応力と輪重との関係を説明する図で、(a)は輪重と応力との関係で測定値をプロットしたグラフ、(b)は重回帰分析結果を説明する図である。
【
図8】浮きまくらぎ量と頭頂面凹凸量との関係で、着目すべきレール位置を例示した説明図である。
【
図9】実施例1のレール健全度の評価システムの構成を模式的に示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は、本実施の形態のレール健全度の評価方法の処理の流れを説明するフローチャートである。
【0019】
レールは、腐食に伴って損傷することが知られている。レール損傷の発生数において、損傷が原因となっているものは多数ある。損傷要因としては、上述したように、レール底部領域の腐食によるレールの疲労強度の低下が考えられている。
【0020】
また、軽微なレール底部の腐食であっても、レール損傷が発生することも知られている。その要因として、トンネルの漏水箇所などで、繰り返し列車走行によってレール頭頂面が局所的に摩耗して、浮きまくらぎ状態が発生することが挙げられている。そこで、そのような箇所を早期に抽出して、レール損傷を防いだり、損傷箇所に対して早期に処置を行えるようになることが望ましい。
【0021】
本実施の形態のレール健全度の評価方法は、鉄道の営業線などの任意のレール位置(キロ程)におけるレール健全度を、効率的かつ定量的に評価することができる。すなわち、腐食に伴ってレールが損傷する可能性を、レール健全度という評価指標で示すことができる。
【0022】
まずは、
図2を参照しながら、レールRの底部R2の腐食について説明する。
図2(a)は、底部R2の底面腐食量を例示した説明図であり、
図2(b)は、底部R2の側方腐食量を例示した説明図である。
【0023】
ここで、
図2は、レールRの断面を模式的に示しており、列車の車輪が接触する最上面が、レールRの頭頂面R1となる。そして、
図2(a)に示すように、頭頂面R1と反対側の底部R2の底面は、腐食に伴って欠損することがある。この底面の欠損量を、底面腐食量ftという厚さで表現する。一方、
図2(b)に示すように、レールRの底部R2においては、腐食に伴って側方が欠損することもある。この側方の欠損量を、側方腐食量fsという幅で表現する。
【0024】
図3は、このようにして特定されるレールの腐食量(ft,fs)と疲労強度との関係を説明する図である。
図3(a)に示すように、レールRの底部R2の腐食量(ft,fs)と疲労強度との間には、この図の各種S-N曲線で示したような関係がある。
【0025】
S-N曲線は、レールRの状態に応じて、応力(S)と載荷回数(N)との関係を示す曲線である。S-N曲線は、腐食量ごとに作成することができる。
図3(a)には、在来線の著しい腐食がない経年劣化を、破線のS-N曲線で参考のために示した。
【0026】
また、
図3(b)は、
図3(a)のグラフに示されたS-N曲線を、数式によって説明する図である。そして、このような関係を利用して、超音波探傷車や作業員によって測定された腐食量と、任意に設定された輪軸走行回数(載荷回数N)を決めることで、レールRの疲労強度(応力S)を求めることができる。
【0027】
ところで、列車通過時のレールRの底部R2に発生する曲げ応力は、輪重と、レールRの頭頂面R1の凹凸量と、浮きまくらぎ量とによって推定することができる。ここで、「輪重」とは、列車の重量から主に決まる、車輪からレールRに作用する鉛直荷重をいう。本実施の形態では、軌道検測車で測定された軌道検測データや、頭頂面R1の凹凸及び浮きまくらぎが無い箇所の現地測定で得られた輪重や、静止輪重などを輪重として使用する。輪重は、車両の諸元から設定することもできる。
【0028】
レールRの頭頂面R1に存在する凹凸の深さは、頭頂面凹凸量(凹凸量)とする。また、まくらぎ底面と道床面との間に隙間が生じた状態を「浮きまくらぎ」と呼び、その隙間の量を浮きまくらぎ量(浮き量)とする。
【0029】
近年は、軌道検測技術等が高度化したことによって、凹凸量や浮き量を、各レール位置におけるパラメータとすることができる。レールRの頭頂面凹凸量に関しては、軌道検測から得られる軸箱加速度から推定する手法(例えば、「軸箱加速度を用いたレール頭頂面凹凸評価手法に関する検討」(進外2名、土木学会年次学術講演会、Vol.55、VI-269、1999)など)や、非特許文献3で示した連続的に測定する手法などがある。
【0030】
また、浮きまくらぎを推定するための技術は、特開2020-16094号公報や「軌道変位データに基づく浮きまくらぎ検出手法」(楠田外2名、土木学会論文集、Vol.59、No.66、pp.33-35、2012)などに開示がある。
【0031】
続いて、
図4を参照しながら、浮きまくらぎを設定した輪重変動シミュレーションについて説明する。ここで、
図4(a)は解析モデルの説明図、
図4(b)は解析結果を例示した図である。
【0032】
浮きまくらぎを設定した輪重変動シミュレーションとは、
図4(a)に示すように、浮きまくらぎを設定した車輪走行の解析モデルによる数値解析である。この解析モデルでは、レールRの頭頂面R1において、頭頂面凹凸量の設定も行っている。
【0033】
図4(b)の解析結果に示すように、まくらぎの浮き量が増加するほど、レール曲げ応力やレール変位も増加することが分かる。すなわち、凹凸量(頭頂面凹凸量)や浮き量(浮きまくらぎ量)といったパラメータによって、レール発生応力の増加を把握することができる。
【0034】
図5に、ある営業線における頭頂面凹凸量及び浮きまくらぎ量の波形チャートを示した。また、
図6には、この区間を対象とした各測点における頭頂面凹凸量(凹凸量)と浮きまくらぎ量(浮き量)を示した。さらに、
図7には、当該区間におけるレール発生応力(MPa)と輪重(kN)との関係を示した。
【0035】
図6(a)に示すように、輪重は、レールRの健全部で測定し、そこから数m程度離れた浮きまくらぎ状態となっている測点において、レール発生応力(レール応力)を測定した。
図6(b)は、各測点の浮き量と凹凸量の測定値(mm)を示している。
【0036】
大きな凹凸量及び浮き量が存在している区間(測点SA4,SA5)では、
図7(a)を見ると分かるように、作用する輪重が同じでも、発生する応力が大きくなっていることがわかる。また、輪重と応力とが一定の比例関係にあることがわかる。
【0037】
これらの結果から、発生応力に対する説明変数として、輪重Pと、浮き量Fと、凹凸量Oとを設定して、重回帰分析を行った結果の例を、
図7(b)に示した。このような係数を用いて定式化し、軌道検測データから得られる値を代入することで、各レール位置におけるレール発生応力を推定することができるようになる。
【0038】
このような係数設定に関する検討は、上述したような測定結果に基づいて行うだけでなく、シミュレーション結果などに基づいて設定することもできる。また、軌道の曲線区間では、横圧によって軌間内側と軌間外側のレールRの底部R2の側方における応力が異なるので、より詳細に応力を推定するためには、測定値やシミュレーション結果等から曲線の増分の比率等を掛け合わせてもよい。さらに、締結装置の間隔や道床の弾性係数等の影響も考慮して、応力推定を行うこともできる。
【0039】
次に、本実施の形態のレール健全度の評価方法について、
図1に示したフローチャートを参照しながら順に説明する。
まずステップS1では、レール位置に関連付けられたレールRの腐食量データを取得する。レール位置は、レールRのキロ程(距離程)などの位置情報によって特定することができる。
【0040】
腐食量データは、超音波探傷車や作業員などが測定することによって得ることができる。超音波探傷車を走行させて腐食量を測定する場合は、例えば一定速度で超音波探傷車を走行させ、測定時刻を測定値に紐付けておくことで、位置情報に変換することができる。また、GPS(Global Positioning System)に基づく位置情報を、測定値に紐付けることもできる。
【0041】
一方、ステップS1と順序を問わずして、ステップS2では、レール位置に関連付けられたレールRの頭頂面R1の凹凸量及び浮きまくらぎ量の測定や分析が行われる。これらのデータは、軌道検測車や作業員などが測定などをすることによって得ることができる。
【0042】
軌道検測車を走行させることによって、輪重、レールRの頭頂面凹凸量、浮きまくらぎ量などの測定を行うことができる。また、ステップS2では、検査対象となる軌道を走行する列車の車両に関する基本情報や、軌道の基本情報なども取得する。車両に関する基本情報としては、列車の重量などが該当する。また、軌道の基本情報としては、敷設からの経過年数や、レールRのサイズや、曲線区間の情報などが該当する。
【0043】
ここで、レール健全度の評価をするための腐食量の抽出は、軌道の全線にわたって行うこともできるが、演算負荷を軽減するために、腐食量、凹凸量、浮き量などの各パラメータのいずれかが閾値を超えたキロ程についてだけ実施することもできる。
【0044】
いずれかのパラメータ又はすべてパラメータを基準にして、どの程度の範囲でレール健全度の評価を行うかは鉄道事業者などの判断でよく、各パラメータに閾値を設けて、その閾値を超過した場合にのみレール健全度を評価するという方法とすることで、計算量を多くせずに、効率的に評価が行えるようになる。
【0045】
例えば、各パラメータの閾値として、絶対値で浮きまくらぎ量10mm以上、かつ頭頂面凹凸量1mm以上という値を設定すると、
図8に例示した波形チャートでは、一点鎖線で囲んだ領域Aのみが評価対象となる。この領域Aのレール位置を、キロ程Aとする。
【0046】
続いてステップS21では、このキロ程Aの浮きまくらぎ量及び頭頂面凹凸量の最大値を抽出して、レール発生応力の推定を行う。例えば、抽出された浮きまくらぎ量(浮き量F)を12mm、頭頂面凹凸量(凹凸量O)を3mmとする。また、車両の基本データから、輪重Pを40kNとする。
【0047】
そして、
図7(b)に示した重回帰式及び係数から、レール発生応力Sを推定する。
S = A1・P + A2・O + A3・F + b
=0.52×40.00 + 38.96×3 + 4.80×12 -5.15 = 190.13 MPa
【0048】
一方、評価対象となったキロ程Aについては、レール疲労強度の特定も行う。まず、ステップS1で取得した腐食量データから、キロ程Aの腐食量の値を抽出する(ステップS11)。
【0049】
また、レール疲労強度の特定には、載荷回数Nの設定が必要になるため、列車の走行回数を設定しておく(ステップS12)。列車走行回数に基づいて設定される輪軸走行回数は、例えば評価後に許容できる最低限の輪軸走行回数や、既に敷設されている軌道の経過年数及び列車通過量などから設定することができる。
【0050】
例えば、キロ程Aの抽出された腐食量を0mm、載荷回数Nを10
6とすると、レール疲労強度は、
図3(b)に示した疲労強度を推定する式から、以下のように算定される。
S = a(log10 N) + (b・ft・fs + c)
= -100×6 + (-2.1)×0×0 + 830 = 230.00 MPa
そして、算定された応力Sを、キロ程Aのレール疲労強度として特定する(ステップS13)。
【0051】
ステップS3では、ステップS13で特定されたレール疲労強度と、ステップS21で推定されたレール発生応力とに基づいて、キロ程Aのレール健全度を評価指標として算定する。レール健全度は、以下の式で算定される。
レール健全度=1 - (レール発生応力)/(レール疲労強度)
= 1 - 190/230 = 1 - 0.82 = 0.18
【0052】
レール健全度は、1以下の数値で定量的に算定されることになるが、どの値以上のレール健全度であれば「未処置(ステップS6)」としてそのまま使用し続けて良いかの閾値は、安全性や経済性を勘案したうえで鉄道事業者が設定することができる。
【0053】
そして、レール健全度の算定値が閾値を下回っていた場合(ステップS4)は、ステップS5に移行して、注意箇所などのレールの処置対象箇所として判定する。処置対象箇所と判定されたレール位置(キロ程A)に対しては、実際に現地を確認し、レール交換や継目板の設置等の処置を行う。
【0054】
次に、本実施の形態のレール健全度の評価方法の作用について説明する。
このように構成された本実施の形態のレール健全度の評価方法では、レール位置に関連付けられたレールの腐食量データを取得してレール疲労強度を特定する(ステップS13)とともに、レール位置に関連付けられたレール発生応力を推定する(ステップS21)。そして、得られたレール発生応力とレール疲労強度とに基づいて、各レール位置のレール健全度を算定する(ステップS3)。
【0055】
要するに、レールの腐食量データだけでなく、軌道状態を示す指標や推定結果を活用することで、連続的な営業線の任意のレール位置におけるレール健全度を定量的に評価することが、効率的にできる。
【0056】
また、レールの疲労による破壊の観点から、レール交換や軌道保守を実施すべき箇所を合理的に選定することができる。こうした評価は、鉄道の安全性の向上につながり、かつ、レール交換費用等の削減にもつながると考えられる。すなわち、本実施の形態の実施で得られる評価指標を目安とすることで、レール保守計画を策定し、安全性の向上やコストダウン等に寄与することができるようになる。
【実施例1】
【0057】
以下、前記した実施の形態のレール健全度の評価方法を実行することが可能な実施例1のレール健全度の評価システムについて、
図9を参照しながら説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同一用語又は同一符号を付して説明する。
【0058】
実施例1の腐食に伴うレールRの健全度を評価するためのレール健全度の評価システムとなるレール健全度評価システム1は、レールRの腐食量を取得する腐食量取得部2と、レール発生応力を軌道検測データから推定する発生応力推定部41と、レール健全度を算定する評価演算部42とを備えている。
【0059】
腐食量取得部2は、超音波探傷車が搭載している測定機器と同様の機器を、軌道検測車3に搭載することで構成することができる。また、別途、超音波探傷車を走行させることで得られた探傷データや作業員によって測定された測定結果から得られるレール腐食量のデータを、腐食量取得部2によって取り込むこともできる。
【0060】
一方、検査対象となるレールRを走行させる軌道検測車3の測定部31からは、軌道検測データが取得される。軌道検測データからは、車輪32を介して作用する輪重、レールRの頭頂面凹凸量、浮きまくらぎ量などを取得することができる。
【0061】
例えば、上述したように軌道検測データを分析することによって、軌道検測車3を走行させた各レール位置のまくらぎMの支持状態を示す浮きまくらぎ量を取得することができる。また、頭頂面凹凸量については、軌道検測データのうちの軸箱加速度のデータから推定することができる。ここで、軸箱加速度は、車輪32の軸受を収容する軸箱の軸箱支持装置に取り付けられた加速度センサから得られる。
【0062】
そして、腐食量取得部2及び測定部31などから得られたデータは、パーソナルコンピュータなどの分析装置4によって解析される。この分析装置4は、軌道検測車3に搭載されていてもよいし、軌道検測車3とは別の管理棟などに設置されていてもよい。また、分析装置4が軌道検測車3以外にある場合は、測定部31などからリアルタイム又は定期的にデータが転送される構成であってもよいし、測定部31又はそれに挿し込まれたフラッシュメモリ等の記憶媒体を接続したときにデータが転送される構成であってもよい。
【0063】
分析装置4は、レール位置に関連付けられたレール発生応力を軌道検測データから推定する発生応力推定部41と、レール健全度を算定する評価演算部42とを備えている。発生応力推定部41によるレール発生応力の推定は、前記実施の形態で説明したのと同様に行えるので、詳細な説明は省略する。
【0064】
評価演算部42では、腐食量取得部2によって得られた腐食量に基づいて、各レール位置のレール疲労強度を算定する。そして、評価演算部42では、算定されたレール疲労強度及びレール発生応力に基づいて、任意のレール位置のレール健全度を算定する。レール健全度の算定についても、前記実施の形態で説明したのと同様に行えるので、詳細な説明は省略する。
【0065】
このように構成された実施例1のレール健全度評価システム1は、レールRの腐食量を取得する腐食量取得部2と、レール発生応力を軌道検測データから推定する発生応力推定部41と、腐食量取得部2及び発生応力推定部41の出力結果からレール位置のレール健全度を算定する評価演算部42とを備えている。
【0066】
このため、連続的な営業線の任意のレール位置に対して、実施例1のレール健全度評価システム1を適用するだけで、腐食に伴うレールの健全度を、効率的かつ定量的に評価することができる。
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態と略同様であるので説明を省略する。
【0067】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態又は実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0068】
例えば前記実施の形態では、レール疲労強度及びレール発生応力の具体的な推定式を記載したが、これに限定されるものではなく、これらの推定式は、軌道が使用される条件などによって変わるので、条件に応じて推定精度が高くなる式を適用することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 :レール健全度評価システム
2 :腐食量取得部
41 :発生応力推定部
42 :評価演算部