(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】熱伝導率を測定する定常状態サーモリフレクタンス方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
G01N 25/18 20060101AFI20240423BHJP
【FI】
G01N25/18 H
(21)【出願番号】P 2021510838
(86)(22)【出願日】2019-08-28
(86)【国際出願番号】 US2019048505
(87)【国際公開番号】W WO2020047054
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2022-07-12
(32)【優先日】2018-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501149684
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ バージニア パテント ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【氏名又は名称】森本 有一
(72)【発明者】
【氏名】ジェフリー エル.ブローン
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド エイチ.オルソン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ティー.ガスキンズ
(72)【発明者】
【氏名】パトリック イー.ホプキンズ
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-517750(JP,A)
【文献】特開2010-243482(JP,A)
【文献】米国特許第06054868(US,A)
【文献】特開平10-160590(JP,A)
【文献】特開平4-76446(JP,A)
【文献】中国実用新案第204405576(CN,U)
【文献】米国特許第5667300(US,A)
【文献】三宅修吾,周期加熱サーモリフクタンス法によるCu-Pt合金薄膜の熱伝導率測定,日本金属学会誌,第73巻 第6号,日本,434頁~438頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 25/00-25/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料の熱伝導率を測定する方法であって、
直径および出力を有するポンプビームを前記ポンプビームの直径のサイズの前記材料の表面上のスポットに集束させるステップであって、前記ポンプビームが前記材料の前記スポットにおいて循環的定常状態温度上昇を誘発する変調周波数を有し、前記ポンプビームが前記材料に放射熱流束を提供
し、
前記定常状態温度上昇は、熱モデルによって前記放射熱流束に関係付けられ、前記熱モデルは前記材料の前記熱伝導率の関数である、ステップと、
直径を有するプローブビームを前記材料の前記スポットに集束させ、前記材料の前記スポットから反射された反射プローブビームを生成するステップであって、前記反射プローブビームがリフレクタンス信号を有し、前記リフレクタンス信号の大きさが前記材料の前記温度の関数であり、前記リフレクタンス信号の前記大きさが前記循環的定常状態温度上昇に対応する周期的なものである、ステップと、
前記反射プローブビームの前記リフレクタンス信号の前記大きさを
、光検出器を用いて測定するステップと、
前記ポンプビームの前記出力および測定された前記リフレクタンス信号の大きさを、前記放射熱流束および前記循環的定常状態温度上昇に関連付ける比例定数を較正するステップであって、前記較正は、公知の熱伝導率を有する材料で作られたトランスデューサを用いて行なわれる、ステップと、
前記ポンプビームの前記出力および前記測定された前記リフレクタンス信号の前記大きさ
を熱モデルに適合させることによって前記材料の前記熱伝導率を決定するステップであって
、前記熱モデルが、前記変調周波数ならびに前記ポンプビームおよび前記プローブビームの直径の関数であり
、ステップと、を有する方法。
【請求項2】
前記ポンプビームは、連続波レーザビームであり、任意の周期波形によって変調される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記プローブビームは、連続波レーザビームである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記材料はバルク材料であ
る、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記較正のために用いられる前記材料は、単結晶サファイアである、請求項
1に記載の方法。
【請求項6】
材料の熱伝導率を測定する方法であって、
直径および出力を有するポンプビームを前記ポンプビームの直径のサイズの前記材料の表面上のスポットに集束させるステップであって、前記ポンプビームが前記材料の前記スポットにおいて循環的定常状態温度上昇を誘発する変調周波数を有し、前記ポンプビームが前記材料に放射熱流束を提供する、ステップと、
直径を有するプローブビームを前記材料の前記スポットに集束させ、前記材料の前記スポットから反射された反射プローブビームを生成するステップであって、前記反射プローブビームがリフレクタンス信号を有し、前記リフレクタンス信号の大きさが前記材料の前記温度の関数であり、前記リフレクタンス信号の前記大きさが前記循環的定常状態温度上昇に対応する周期的なものである、ステップと、
前記反射プローブビームの前記リフレクタンス信号の前記大きさを測定するステップと、
前記ポンプビームの前記出力および前記測定された前記リフレクタンス信号の前記大きさを熱モデルに適合させることによって前記材料の前記熱伝導率を決定するステップであって、前記熱モデルが、前記放射熱流束を前記定常状態温度上昇に関係付ける前記材料の熱伝導率の関数であり、前記熱モデルが、前記変調周波数ならびに前記ポンプビームおよび前記プローブビームの直径の関数である、ステップと、を有し、
前記反射プローブビームの前記リフレクタンス信号の大きさは、デジタルボックスカーアベレージを介した周期波形解析器を用いて測定される
、方法。
【請求項7】
材料の熱伝導率を測定する方法であって、
直径および出力を有するポンプビームを前記ポンプビームの直径のサイズの前記材料の表面上のスポットに集束させるステップであって、前記ポンプビームが前記材料の前記スポットにおいて循環的定常状態温度上昇を誘発する変調周波数を有し、前記ポンプビームが前記材料に放射熱流束を提供する、ステップと、
直径を有するプローブビームを前記材料の前記スポットに集束させ、前記材料の前記スポットから反射された反射プローブビームを生成するステップであって、前記反射プローブビームがリフレクタンス信号を有し、前記リフレクタンス信号の大きさが前記材料の前記温度の関数であり、前記リフレクタンス信号の前記大きさが前記循環的定常状態温度上昇に対応する周期的なものである、ステップと、
前記反射プローブビームの前記リフレクタンス信号の前記大きさを測定するステップと、
前記ポンプビームの前記出力および前記測定された前記リフレクタンス信号の前記大きさを熱モデルに適合させることによって前記材料の前記熱伝導率を決定するステップであって、前記熱モデルが、前記放射熱流束を前記定常状態温度上昇に関係付ける前記材料の熱伝導率の関数であり、前記熱モデルが、前記変調周波数ならびに前記ポンプビームおよび前記プローブビームの直径の関数である、ステップと、を有し、
前記変調周波数は、前記温度上昇の95%の上昇時間よりも長い周期を定義する
、方法。
【請求項8】
材料の熱伝導率を測定する方法であって、
直径および出力を有するポンプビームを前記ポンプビームの直径のサイズの前記材料の表面上のスポットに集束させるステップであって、前記ポンプビームが前記材料の前記スポットにおいて循環的定常状態温度上昇を誘発する変調周波数を有し、前記ポンプビームが前記材料に放射熱流束を提供する、ステップと、
直径を有するプローブビームを前記材料の前記スポットに集束させ、前記材料の前記スポットから反射された反射プローブビームを生成するステップであって、前記反射プローブビームがリフレクタンス信号を有し、前記リフレクタンス信号の大きさが前記材料の前記温度の関数であり、前記リフレクタンス信号の前記大きさが前記循環的定常状態温度上昇に対応する周期的なものである、ステップと、
前記反射プローブビームの前記リフレクタンス信号の前記大きさを測定するステップと、
前記ポンプビームの前記出力および前記測定された前記リフレクタンス信号の前記大きさを熱モデルに適合させることによって前記材料の前記熱伝導率を決定するステップであって、前記熱モデルが、前記放射熱流束を前記定常状態温度上昇に関係付ける前記材料の熱伝導率の関数であり、前記熱モデルが、前記変調周波数ならびに前記ポンプビームおよび前記プローブビームの直径の関数である、ステップと、を有し、
前記ポンプビームの直径は、低減されることによって、より高い変調周波数で定常状態温度上昇に到達できる
、方法。
【請求項9】
前記プローブビームの直径は、前記ポンプビームの直径と同じであるかまたはより小さい、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記ポンプビームの前記出力を変動させるステップと、
前記ポンプビームの出力が変動させられるにつれて前記リフレクタンス信号の前記大きさの変化を測定するステップと、
前記リフレクタンス信号の前記大きさの変化対前記ポンプ
ビームの出力のデータセットを生成するステップと、
前記データセットに対する線形適合を行なって勾配を決定するステップと、
前記比例定数による除算後に前記熱モデルと前記勾配とを比較することによって前記熱伝導率を決定するステップと、をさらに有する、請求項
1に記載の方法。
【請求項11】
前記ポンプ
ビームの出力は、線形的に増加させられる、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
前記材料は、トランスデューサ、薄膜および基板を有する3層状構造である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
材料の熱伝導率を測定するシステムであって、
直径および出力を有するポンプビームを発出するポンプ放射源であって、前記ポンプビームが前記材料に放射熱流束を提供
し、前記材料のスポット上で循環的定常状態温度上昇を誘発する変調周波数で変調
され、前記スポットが前記ビームの直径のサイズを有
し、
前記定常状態温度上昇は、熱モデルによって前記放射熱流束に関係付けられ、前記熱モデルは前記材料の前記熱伝導率の関数である、ポンプ放射源と、
前記材料の前記スポットに直径を有するプローブビームを発出し、前記材料の前記スポットから反射された反射プローブビームを生成するプローブ放射源であって、前記反射プローブビームがリフレクタンス信号を有し、前記リフレクタンス信号の大きさが前記材料の前記温度の関数であり、前記リフレクタンス信号の前記大きさが前記循環的定常状態温度上昇に対応する周期的なものである、プローブ放射源と、
前記ポンプビームの波形および前記出力ならびに前記反射プローブビームの前記リフレクタンス信号の波形および前記大きさを測定する検出器と、
前記ポンプビームおよび前記プローブビームを前記材料の表面上に誘導し集束させる光学構成要素と、
前記測定された前記ポンプビームの出力および前記測定された前記リフレクタンス信号の前記大きさ
を熱モデルに適合させることによって前記熱伝導率を計算する処理ユニットであって
、前記熱モデルが、前記変調周波数およ
び前記ポンプビームおよび前記プローブビームの直径の関数であり
、処理ユニットと、
前記ポンプビームの前記波形および出力ならびに前記反射プローブビームの前記リフレクタンス信号の前記波形および前記大きさを測定する、デジタルボックスカーアベレージを介した周期波形分析器と、
を有するシステム。
【請求項14】
前記ポンプ源は
第1レーザ源
を備え、前記プローブ源は
第2レーザ源
を備える、請求項
13に記載のシステム。
【請求項15】
較正のための、公知の熱伝導率を有する材料で作られたトランスデューサをさらに有する、請求項
13に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、参照により本明細書に内容全体が組込まれる、2018年8月28日出願の米国仮特許出願第62/723,750号および2019年6月13日出願の米国仮特許出願第62/860,949号からの優先権を主張するものである。
【0002】
[政府支援]
本発明は、国防総省により付与された契約第N00014-15-1-2769に基づく政府支援を受けてなされたものである。アメリカ合衆国政府は、本発明における一定の権利を有する。
【0003】
本発明は、詳細には、サーモリフレクタンス(thermoreflectance)に基づく光ポンププローブ(pump-probe)技術を使用した、熱伝導率の測定に関する。
【背景技術】
【0004】
材料の熱伝導率(κ)を特徴付けするために用いられる測定技術は、広義には、定常状態技術と過渡的(transient)技術とに分類され得る。フーリエの法則に基づく前者は、熱伝導率の直接的測定を可能にし、一方、後者は、熱拡散方程式に依存し、そのため体積熱容量(volumetric heat capacity)と熱伝導率とは、測定の時間および長さの尺度(scale)に応じて、熱浸透率(thermal effusivity)または熱拡散率を通して結合される。過渡的技術のいくつかの例としては、過渡的熱線、過渡的平面熱源、3ω方法ならびにレーザ閃光、時間ドメインサーモリフレクタンス(Time-Domain ThermoReflectance;TDTR)および周波数ドメインサーモリフレクタンス(Frequency-Domain ThermoReflectance;FDTR)などの非接触型ポンププローブ技術がある。3ω方法、TDTR、およびFDTRは、バルクおよび薄膜の両方の材料の熱特性を測定する能力を有するロバストな技術であることが証明されている。TDTRおよびFDTRは、具体的には、加熱に必要とされる実験的表面積が非常に小さい非接触型技術であるという利点を有する。しかしながら、これらの技術は、概して計器電子位相シフト(instrument electronic phase shifts)から分離される必要のある信号の位相シフトの検出を、調査中の材料の熱容量についての追加の知識と共に必要とするため、運用が高価でかつ困難である。
【0005】
定常状態技術には、絶対技術、比較カットバー(comparative cut bar)技術、ラジアル熱流(radial heat flow)方法および並行熱コンダクタンス(parallel thermal conductance)技術が含まれる。Zhaoらは、これらの技術の広範な精査を提供する。これらの技術は、複雑でなく、実験データを解析するためにフーリエの法則の変形形態しか必要としないが、実用上の制限があり、このために前述の過渡的技術に比べて望ましくない。例えば、これらの技術は、全てバルク材料用に設計されており、したがって、比較的大きい実験用体積および加熱器/センサエリアを必要とする。このため、これらの技術は、放射および対流損失を極めて受けやすく、多くの場合、測定中の真空条件が必要となる。その上、センサと標本との間の接触を必要とする技術は、概して固有の熱伝導率の測定をあいまいにし得る接触熱抵抗(contact thermal resistance)の望ましくないアーチファクトを含む。さらに、これらの技術は、定常状態温度に達するのに最高数時間の待機時間を必要とし得る。最終的に、これらの技術は、根本的に、FTDRおよびTDTRにおいて示されたように局所的にプローブ探査されるエリアの内部ではなく、バルク試料を横断した熱コンダクタンスを測定する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、定常状態サーモリフレクタンス(Steady-State ThermoReflectance;SSTR)に基づく光ポンププローブ技術を用いて熱伝導率を測定する方法およびシステムの実施形態を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
コンセプトは、温度上昇のオンおよびオフを循環させる(cycle)ために変調周波数での周期波形で連続波(Continuous Wave;CW)熱源レーザを変調させることである。変調周波数は、各サイクル中に材料内で定常状態温度上昇を誘発するのに充分長く、ポンプレーザがオン状態に放置されるほどに充分低いものであり得る。定常状態温度上昇のオンおよびオフを循環させることによって、材料の温度変化に正比例する結果としてのリフレクタンス信号の変化を検出するためにプローブビームを使用することができる。ポンプ出力(pump power)は、生成された熱流束に正比例する。温度上昇を誘発するために熱源ポンプレーザビームの出力を変動させて、フーリエの法則に基づく単純な解析を使用して熱伝導率を決定することができる。具体的には、測定されたリフレクタンス信号およびポンプ出力データを熱モデル(thermal model)に適合させることが可能である。熱モデルは、熱流束を温度上昇に関係付ける材料の熱伝導率の一関数である。
【0008】
ポンプ出力および結果としての熱流束が変動させられるにつれて、「オン」状態の温度上昇は、それに従って変動する。温度の関数として、材料の反射率は、温度と共に変動する。材料から反射されたプローブビームのリフレクタンス信号を測定することによって、測定データを熱モデルに適合させて、熱伝導率を決定することができる。測定は、定常状態レジーム(regime)でのみ行なわれることから、熱流束と温度との間の線形関係に基づいて熱伝導率を決定するために、フーリエの法則を使用できる。該SSTR方法において、高速の過渡的温度上昇とそれに続く長期(long-lived)定常状態温度上昇とにより、定常状態温度上昇を循環的にオンおよびオフに切換えることが可能になる。循環的(cyclical)定常状態温度上昇により、周期波形アベレージャ(Periodic Waveform Averager;PWA)およびロックイン増幅器(Lock-In Amplifier;LIA)などの検出技術を使用して、温度に伴う材料の反射率の非常に小さい相対的変化を測定することができる。本発明の1つの実施形態によると、変調CWポンプレーザビームが、標本材料の表面上で集束される。プローブレーザビームは、恒常な出力を有する連続波レーザであり得る。ポンプレーザのビーム直径は、大きく変動可能(highly variable)であり得る。最大サイズは、無制限であり得る。ポンプレーザビームの最小直径は、おおよそレーザ波長の半分に等しく、回析限界によって物理的に制限される。定常状態技術は、概して、正確な測定のために大きな熱抵抗を必要とし、したがって、必要とされる最小標本体積は、標本の熱伝導率にスケーリングする。
【0009】
材料の表面上の測定対象エリアのサイズは、ポンプレーザビーム直径によって規定される。SSTR方法における熱侵入深さ(thermal penetration depth)は、ポンプレーザビーム直径によってのみ規定される。したがって、SSTRの測定体積は、材料の熱特性とは独立したものである。SSTRにおける空間解像度は、ポンプおよびプローブを集束する(focus)能力によってのみ制限される。一実施例において、ポンプ/プローブの1/e2直径は、~2μmという低いものであり得る。これにより、局所的熱伝導率のプローブ探査は、例えば他の場合では固有の熱伝導率をあいまいにさせる可能性があると考えられるバルク試料の損傷を受けた領域などを回避できることになる。
【0010】
過渡的温度上昇時間は数十マイクロ秒の桁(order)であり得ることから、SSTRは、使用される電子機器およびサンプリング周期によってのみ制限される高いスループット測定能力を有する。いくつかの実施例において、典型的な測定時間は、必要とされる分解能に応じて1走査あたり約10秒から5分まで変動する。SSTR方法は、非接触方法であり、取付式の熱電対を全く必要としない。SSTR測定に関連付けられた時間尺度(すなわち数十マイクロ秒超)は、同様に反射率の変化に寄与し得る光励起キャリア寿命よりもはるかに長いものであり得ることから、追加のトランスデューサは、必要とされない可能性がある。
【0011】
熱流束はレーザ加熱に伴って材料内に拡散することから、材料の熱反射率は、材料の温度が変動するにつれて変化する。プローブビームが材料上の集束されたポンプビームスポットから反射されるにつれて、リフレクタンス信号を有する反射プローブビームが検出され測定され得る。ポンプビームは周期的にオンおよびオフに切換えられることから、リフレクタンス信号も同様に、循環的温度上昇に対応して周期的である。
【0012】
一実施形態において、ポンプ出力の大きさ(magnitude)の差は、「オン」状態と「オフ」状態との間で測定される。「オン」状態と「オフ」状態との間のリフレクタンス信号の大きさの差が測定される。熱伝導率は、測定出力差および測定リフレクタンス信号差を熱モデルに適合させることによって計算され得る。
【0013】
一実施形態において、SSTR方法は、熱モデルによる予測値と測定データとの間の変換因子およびサーモリフレクタンス係数を包含する(encompassing)比例定数を得るための較正ステップをさらに含む。較正は、公知の熱伝導率を有する材料を用いて行なわれ得る。較正を実施するためには、トランスデューサが必要とされ得る。トランスデューサは、対象の材料と同じ光学特性を有する材料のものであり得る。
【0014】
他の実施形態において、「オン」状態のポンプ出力が変動させられるにつれて、リフレクタンス信号の大きさの差対ポンプ出力差のデータセットを得ることができる。ポンプ出力は、正規化されたリフレクタンス信号とポンプ出力との間の線形関係を得ることができるように、線形的に増大させられ得る。勾配を決定するためにデータセットに対して線形適合が行なわれ、熱伝導率は、較正された比例定数による除算後に勾配を熱モデルと比較することによって決定される。
【0015】
反射プローブビームのリフレクタンス信号は、デジタルボックスカーアベレージ(boxcar average)を介した周期波形解析器(PWA)もしくはロックイン増幅器(LIA)、または非常に小さいフォトリフレクタンス信号を検出する能力を有する他の任意のスキームを用いて測定され得る。
【0016】
熱モデルは同様に、変調周波数および材料上のポンプビームの直径の関数でもある。より小さいポンプ直径は、より高い変調周波数で定常状態温度上昇に到達することを可能にする。
【0017】
ポンプレーザビームは、連続波ビームであり、正弦、方形、三角などの任意の周期波形により変調され得る。定常状態は、CWポンプレーザが正弦波によって変調される場合、準定常状態である。
【0018】
プローブビームの直径は、大きく変動可能であり得、好ましくは、ポンプビームの直径と同じであるかまたはそれより小さい。
【0019】
他の実施形態において、較正を省略することができる。較正を伴うSSTR方法の実施形態と類似する出力依存掃引(power dependent sweeps)を用いて、出力の勾配対リフレクタンス信号のデータを、2つ以上の一意的周波数において得ることができる。勾配対変調周波数は、新しいデータセットとして得ることができ、このデータセットに対して熱モデルを適合させて、熱伝導率を測定する。2周波数アプローチにおいて、区別可能な出力対温度の傾向を可能にするのに充分なほどに離隔した2つの変調周波数を用いて、SSTRデータがとられる。測定データを熱モデルに関係付ける比例定数は変調周波数とは独立したものであることから、2つの周波数間の勾配の比率を取入れることは、いずれのスケーリング因子からも独立している。その結果として、較正標本を使用することなく、熱伝導率を決定することができる。
【0020】
他の実施形態において、変調周波数は、定常状態信号の周波数応答を策定(mapping out)するために、1Hzから1GHzまでの周波数範囲にわたり掃引される。その後、データは、熱モデルに適合される。この場合、「オン」状態でのポンプ出力は、恒常に保たれる。
【0021】
本発明の一実施形態によると、材料の熱伝導率を測定するシステムには、CWポンプレーザビームを発出するポンプレーザ源と、CWポンプレーザビームを変調させる変調器と、CWプローブレーザビームを発出するプローブレーザ源と、ポンプレーザビームの波形および出力ならびに反射プローブレーザビームのリフレクタンス信号の波形および大きさを測定する検出器と、ポンプレーザビームおよびプローブレーザビームを材料の表面上に誘導し集束する光学構成要素と、測定データを記憶し処理しかつ熱伝導率を計算する処理ユニットと、が含まれる。
【0022】
一実施例において、786nmの波長および最高30mWのアウトプット出力を有するCWプローブレーザ、ならびに532nmの波長および最高5Wのアウトプット出力を有するCWポンプレーザが使用される。実際には、ポンプ出力は、使用されるポンプ半径について最高1Wのアウトプット出力で充分であると判明している最も伝導性の高い材料の場合を除いて、200mW未満に制限され得る。同様にして、プローブアウトプットは、標本材料のあらゆる追加加熱も回避するため、1mW未満に制限され得る。
【0023】
本システムによって測定すべき材料の寸法は、大きく変動可能であり、プローブ/ポンプレーザの直径により規定される。測定される材料は、薄膜またはバルク材料でもよい。いくつかの例において、使用されるプローブ/ポンプレーザ1/e2直径は、1μm、10μm、100μmなどであり得る。原則として、集束したレーザビームの直径には上限がない。
【0024】
本システムは、1~>2000Wm-1K-1の範囲内の熱伝導率を有する多様な材料の熱伝導率を測定するために使用可能である。材料の例には、金属、セラミクス、絶縁材料、例えばAl2O3、Alおよびダイヤモンドが含まれる。
【0025】
CWポンプレーザビームを変調させるための変調器は、機械的チョッパ(mechanical chopper)または電気光学変調器であり得る。ポンプレーザは同様に、内部的に変調され得る。変調周波数は、ポンプレーザビームが集束される材料のスポット上で循環的定常状態温度上昇を誘発するのに充分なほどに低い。
【0026】
一実施例では、変調周波数は、温度上昇の上昇時間より長い周期を定義するように選択される。他の実施例では、変調周波数は、温度上昇の95%の上昇時間よりも長い周期を定義するように選択される。
【0027】
ポンプ/プローブレーザビームの波形および出力を測定するための検出器の例は、パワーメータ、または光検出器である。ポンプ出力およびリフレクタンス信号の大きさは、別個にまたは同時に測定され得る。
【0028】
一実施形態において、ポンプ/プローブ信号の波形および大きさを測定するためにロックイン増幅器(LIA)を使用することができる。LIAは、DCプローブ信号(V)によって除されたプローブ信号の大きさ(ΔV)がポンプ光検出器のロックイン大きさ(ΔP)と同時に記録されるように、チョッパ周波数と同期される。LIAにより決定されるΔPは、ポンプ波形の正弦波成分の振幅に正比例する。同様にして、ΔVは、プローブ波形の正弦波成分のみに対応する。こうしてLIA検出は、ロックインポンプ出力とロックインプローブ大きさとの間に同じ関係を得るよういずれかのオフセット出力および任意の周期波形(方形、正弦、三角など)でのポンプの変調を可能にする。ポンプ出力は、ポンプ出力とΔV/Vとの間の線形関係が得られるように線形的に増大させられる。適切な比例定数を決定した後、この関係の勾配は、それを「熱モデル」の節で提供される熱モデルと比較することによって、熱伝導率を決定するために使用される。
【0029】
代替的には、ここでもチョッパ周波数に同期させることによって温度振動のいくつかの周期にわたりポンプおよびプローブの両方の波形を記録するために、ボックスカーアベレージャを伴うPWAが使用される。このアプローチを用いて、温度上昇の定常状態レジームを決定するための標本温度上昇対時間の関係を視覚化することができる。
【0030】
一実施形態において、サーモリフレクタンス測定には、薄い金属トランスデューサが使用される。トランスデューサを使用する目的は、2つある。第1に、トランスデューサは、SSTR測定のための較正標本として役立つことができる。通常、較正標本には、対象の材料と同じ光学特性を有することが求められる。第2に、トランスデューサは、対象の材料がレーザビームに対する透過性を有する場合に使用可能である。
【0031】
システムは、さらに、測定データを記憶し信号解析を行なうために検出器と通信する能力を有する処理ユニットを含む。
【0032】
論述された方法のさまざまな実施形態に従って、処理ユニットにおいて熱伝導率を計算することができる。例えば、熱伝導率は、出力の測定された差およびリフレクタンス信号の大きさの測定された差を、熱流束を温度上昇に関係付ける材料の熱伝導率の関数である熱モデルに適合させることによって、計算される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の一実施形態に係る熱伝導率を測定するための定常状態サーモリフレクタンス(SSTR)システムを示す概略図である。
【
図2A】ポンプおよびプローブの波形を示すプロット図である。
【
図2B】ポンプおよびプローブの波形を示すプロット図である。
【
図2C】ポンプおよびプローブの波形を示すプロット図である。
【
図2D】ポンプおよびプローブの波形を示すプロット図である。
【
図2E】材料中のレーザ加熱および熱拡散を示す概略図である。
【
図3A】異なる1/e
2直径についての正規化された温度上昇対CWレーザ表面加熱の時間の関係を示すプロット図である。
【
図3B】異なる1/e
2直径についての正規化された温度上昇対CWレーザ表面加熱の時間の関係を示すプロット図である。
【
図3C】正規化された温度上昇対フーリエ数の関係を示すプロット図である。
【
図4A】振幅変調された正弦波プロファイルでのCWレーザ表面加熱についての正規化された温度上昇対変調周波数の関係を示すプロット図である。
【
図4B】振幅変調された正弦波プロファイルでのCWレーザ表面加熱についての正規化された温度上昇対変調周波数の関係を示すプロット図である。
【
図4C】振幅変調された正弦波プロファイルでのCWレーザ表面加熱についての正規化された温度上昇対変調周波数の関係を示すプロット図である。
【
図5A】(a)a-SiO
2について示された、周期波形解析器を使用して得たポンプ波形を示すプロット図である。
【
図5B】(b)石英について示された、周期波形解析器を使用して得たポンプ波形を示すプロット図である。
【
図5C】(c)Al
2O
3について示された、周期波形解析器を使用して得たポンプ波形を示すプロット図である。
【
図5D】(d)Siについて示された、周期波形解析器を使用して得たポンプ波形を示すプロット図である。
【
図5E】(e)4H-SiCについて示された、周期波形解析器を使用して得たポンプ波形を示すプロット図である。
【
図5F】(f)ダイヤモンドについて示された、周期波形解析器を使用して得たポンプ波形を示すプロット図である。
【
図6A】(a)a-SiO
2について示された、周期波形解析器を用いたプローブ波形を示すプロット図である。
【
図6B】(b)石英について示された、周期波形解析器を用いたプローブ波形を示すプロット図である。
【
図6C】(c)Al
2O
3について示された、周期波形解析器を用いたプローブ波形を示すプロット図である。
【
図6D】(d)Siについて示された、周期波形解析器を用いたプローブ波形を示すプロット図である。
【
図6E】(e)4H-SiCについて示された、周期波形解析器を用いたプローブ波形を示すプロット図である。
【
図6F】(f)ダイヤモンドについて示された、周期波形解析器を用いたプローブ波形を示すプロット図である。
【
図7A】ガラススライド、BK7ガラス、石英、サファイアウエハ、サファイア窓、ケイ素ウエハ、ケイ素窓、4H-SiCおよびダイヤモンドについて、10倍の対物レンズ(20μmのポンプおよびプローブ1/e
2直径)について示された、測定されたΔV/V対ΔP(∝ポンプ出力)を示すプロット図である。
【
図7B】ガラススライド、BK7ガラス、石英、サファイアウエハ、サファイア窓、ケイ素ウエハ、ケイ素窓、4H-SiCおよびダイヤモンドについて、20倍の対物レンズ(11μmのポンプおよびプローブ1/e
2直径)について示された、測定されたΔV/V対ΔP(∝ポンプ出力)を示すプロット図である。
【
図8A】Al
2O
3上の80nmのAlについて、2つの異なる変調周波数について示された、測定されたΔV/V対ΔP(∝ポンプ出力)を示すプロット図である。
【
図8B】Si上の80nmのAlについて、2つの異なる変調周波数について示された、測定されたΔV/V対ΔP(∝ポンプ出力)を示すプロット図である。
【
図8C】トランスデューサなしの電解鉄について、2つの異なる変調周波数について示された、測定されたΔV/V対ΔP(∝ポンプ出力)を示すプロット図である。
【
図9】定常状態信号の周波数応答を示すプロット図である。
【
図10A】a-SiO
2について示された、感度Sx対、r
0およびr
1がそれぞれポンプおよびプローブの半径である場合√r
0
2+r
1
2として定義される有効半径の関係を示すプロット図である。
【
図10B】Al
2O
3について示された、感度Sx対、r
0およびr
1がそれぞれポンプおよびプローブの半径である場合√r
0
2+r
1
2として定義される有効半径の関係を示すプロット図である。
【
図10C】ダイヤモンドについて示された、感度Sx対、r
0およびr
1がそれぞれポンプおよびプローブの半径である場合√r
0
2+r
1
2として定義される有効半径の関係を示すプロット図である。
【
図11A】Alトランスデューサとケイ素との間の熱伝導率κ対熱境界コンダクタンスGの関係を示すプロット図である。
【
図11B】Alトランスデューサと4H-SiCとの間の熱伝導率κ対熱境界コンダクタンスGの関係を示すプロット図である。
【
図11C】Alトランスデューサとダイヤモンドとの間の熱伝導率κ対熱境界コンダクタンスGの関係を示すプロット図である。
【
図12】本発明の一実施形態により可能になる多数のパラメータに対する増大する感度の関係を示すプロット図である。
【
図13】当該方法を用いて同時に捕捉される熱位相データを示すプロット図である。
【
図14】ロックイン増幅器(lock-in amplifier)解析および周期波形解析方法の両方を用いた、測定された熱伝導率対文献上の熱伝導率の関係を示すプロット図である。
【
図15A】9つの考慮対象事例のうち、κ
2=1、κ
3=1Wm
-1K
-1について示された、3層モデル(1:80nmのトランスデューサ/2:フィルム/3:基板)の熱パラメータに対する感度対層2のフィルム厚みの関係を示すプロット図である。
【
図15B】9つの考慮対象事例のうち、κ
2=10、κ
3=1Wm
-1K
-1について示された、3層モデル(1:80nmのトランスデューサ/2:フィルム/3:基板)の熱パラメータに対する感度対層2のフィルム厚みの関係を示すプロット図である。
【
図15C】9つの考慮対象事例のうち、κ
2=100、κ
3=1Wm
-1K
-1について示された、3層モデル(1:80nmのトランスデューサ/2:フィルム/3:基板)の熱パラメータに対する感度対層2のフィルム厚みの関係を示すプロット図である。
【
図15D】9つの考慮対象事例のうち、κ
2=1、κ
3=10Wm
-1K
-1について示された、3層モデル(1:80nmのトランスデューサ/2:フィルム/3:基板)の熱パラメータに対する感度対層2のフィルム厚みの関係を示すプロット図である。
【
図15E】9つの考慮対象事例のうち、κ
2=10、κ
3=10Wm
-1K
-1について示された、3層モデル(1:80nmのトランスデューサ/2:フィルム/3:基板)の熱パラメータに対する感度対層2のフィルム厚みの関係を示すプロット図である。
【
図15F】9つの考慮対象事例のうち、κ
2=100、κ
3=10Wm
-1K
-1について示された、3層モデル(1:80nmのトランスデューサ/2:フィルム/3:基板)の熱パラメータに対する感度対層2のフィルム厚みの関係を示すプロット図である。
【
図15G】9つの考慮対象事例のうち、κ
2=1、κ
3=100Wm
-1K
-1について示された、3層モデル(1:80nmのトランスデューサ/2:フィルム/3:基板)の熱パラメータに対する感度対層2のフィルム厚みの関係を示すプロット図である。
【
図15H】9つの考慮対象事例のうち、κ
2=10、κ
3=100Wm
-1K
-1について示された、3層モデル(1:80nmのトランスデューサ/2:フィルム/3:基板)の熱パラメータに対する感度対層2のフィルム厚みの関係を示すプロット図である。
【
図15I】9つの考慮対象事例のうち、κ
2=100、κ
3=100Wm
-1K
-1について示された、3層モデル(1:80nmのトランスデューサ/2:フィルム/3:基板)の熱パラメータに対する感度対層2のフィルム厚みの関係を示すプロット図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
システム、方法およびコンピュータ読取り可能媒体が、バルク材料の熱伝導率の測定を可能にする。
【0035】
本発明の一実施形態によると、周期的レーザ熱源の結果もたらされる定常状態温度上昇の測定に基づいてバルク材料の熱伝導率を測定するために、サーモリフレクタンスベースの光ポンププローブ技術が使用される。これらの実施形態は、温度上昇のオンおよびオフを循環させるために、変調周波数での周期波形で連続波(CW)ポンプレーザを変調させる。変調周波数は、各サイクル中に材料内の定常状態温度上昇を誘発するのに充分長く、ポンプレーザがオン状態に放置されるほどに充分低いものであり得る。温度上昇のオンおよびオフを循環させることによって、材料の温度変化に正比例する結果として得られるリフレクタンス変化を検出するために、プローブビームを使用することができる。温度上昇を誘発するためにポンプビームの出力を変動させて、フーリエの法則に基づく単純な解析を用いて、熱伝導率を決定することができる。これらの実施形態は、断熱材料から熱伝導性材料に至る広範囲の材料の熱伝導率を測定する能力を有し、かつ1~>2000Wm-1K-1の範囲内の熱伝導率を有する材料を測定する能力を有し、文献値と優れた一致を示す。
【0036】
ポンプ出力および結果としての熱流束が変動させられるにつれて、「オン」状態の温度上昇は、それに従って変動する。温度の関数として、材料の反射率は、温度と共に変動する。材料から反射されたプローブビームのリフレクタンス信号を測定することによって、測定データを熱モデルに適合させて、熱伝導率を決定することができる。さまざまな実施形態において、過渡的温度上昇は無視され、測定は、定常状態レジームにおいてのみ行われる。したがって、これらの実施形態は、定常状態サーモリフレクタンス(SSTR)方法と呼ぶことができるであろう。測定は定常状態レジームでのみ行なわれることから、熱流束と温度との間の線形関係に基づいて熱伝導率を決定するために、フーリエの法則を使用してもよい。該SSTR方法において、高速の過渡的温度上昇とそれに続く長期定常状態温度上昇とにより、定常状態温度上昇を循環的にオンおよびオフに切換えることが可能になる。
【0037】
誘発された温度(T)上昇に起因する反射率(R)の検出は、温度に伴う材料の反射率の非常に小さい相対的変化によって制限される。サーモリフレクタンス実験においてトランスデューサとして使用される典型的な金属について、|dR/dT|は、10-5または10-4K-1の桁である。この制限は、2つの方法で克服できる。周期的熱源を使用して、ロックイン増幅(LTA)技術は、増幅および電子フィルタリングを通してこの制限を克服する。同様にして、ボックスカーアベレージャを伴う周期波形解析器(PWA)は、周期信号を抽出するのに充分大きいサンプリング時間で使用されることができる。本発明において、変調熱ポンプビームからの周期的熱流束およびプローブビームからの循環的サーモリフレクタンス信号は、LIAおよびPWAなどの信号検出スキームの使用を可能にする。
【0038】
本発明の一実施形態によると、熱伝導率を測定するシステムは、ポンプレーザ源およびプローブレーザ源を含み得る。ポンプレーザおよびプローブレーザは、同じレーザ源であっても別個のレーザ源であってもよい。ポンプレーザは、機械的チョッパまたは電気光学変調器などの変調器によって変調され得る。ポンプレーザは、内部変調能力を有することができてもよく、これにより、さらに単純性を高めコストを最小限に抑えることができる。システムは同様に、ポンプ出力およびプローブ大きさを監視し測定することもできる。このような監視および測定は、パワーメータまたは光検出器を用いることで行なうことができる。
【0039】
光検出器によって測定されたプローブ反射率応答(リフレクタンス信号)ΔV/Vは、サーモリフレクタンス係数βにより標本表面の温度変化に関係付けされる反射率の正規化された変化ΔR/Rに正比例し、次のようになる。
【数1】
【0040】
概して、βは温度に依存する。Alについては、βは1.14×10-4K-1であり、786nmのプローブ波長近くで100Kあたり0.22×10-4の速度で変動する。温度上昇を50K未満に保つことで、βの変動を10%未満にすることが保証される。
【0041】
当該方法の一実施形態によると、サーモリフレクタンス係数およびΔV/VからΔR/Rへの追加変換を用いて、ΔTを得ることができる。次に、ポンプ波長における標本のリフレクタンスおよびポンプの出力を測定することによって、標本が吸収した熱流束を計算することができる。これら2つの数量は、半無限基板(a semi-infinite substrate)に対し適用されるフーリエの法則を通した熱伝導率の決定を可能にする。したがって、熱流束および温度の正確な決定が、熱伝導率を直接測定するための絶対的な技術を可能にする。
【0042】
ΔV/Vおよびポンプ光検出器応答ΔP∝ポンプ出力を測定することができるため、一見したところ、考慮すべき比例定数が2つ、すなわちΔV/VをΔTに関係付けるものとΔPを熱流束大きさΔ|Q|に関係付けるものとが存在する。これらの比例定数の1つは、
【数2】
となるようにΔV/(VΔP)を決定することによって削除することができる。なお式中、ΔT/Δ|Q|は、「熱モデル」の節の中で提示される熱モデルを用いて計算される。
【0043】
当該方法の他の実施形態によると、最初に比例(定数)γを決定することができる。その後、測定データΔV/(VΔP)を、熱モデルを用いて計算したΔT/Δ|Q|と適合させることができる。したがって、熱伝導率κの最適値を決定することが可能である。
【0044】
既知の熱伝導率を用いて較正を行ない、γを決定することができる。
【数3】
【0045】
一実施例において、γを決定するために使用される較正は、時間ドメインサーモリフレクタンスおよびホットディスク過渡的平面熱源技術(Hot Disk AB-TPs3500)の両方を用いて35±2Wm
-1K
-1のネット熱伝導率
を有するよう測定された単結晶サファイア(Al
2O
3)ウエハである。測定されたΔV/(VΔP)と熱モデルを用いて予測されたΔTとを比較することによってγを決定することができる。
【0046】
較正により定義されたγを用いて、任意の標本のためのΔV/(VΔP)の測定値を、ΔT(K)/Δ|Q|を予測する熱モデルに関係付けることによって、標本の熱伝導率に関係付けすることができる。モデルに対する熱伝導率入力は、測定データに対する最良適合を得るように調整され得る。一実施例において、モデルとデータとの間の最小絶対差を探求するために、大域的最小化アルゴリズムが使用される。このアプローチを使用する仮定は、サーモリフレクタンス係数とリフレクタンスの変化から光検出器電圧の変化への変換係数とを包含する比例定数γが、較正と標本との間で等価である、ということである。これを確保するために、トランスデューサ層を用いて、サーモリフレクタンス係数が、標本間で同じであることを保証することができる。
【0047】
他の実施形態において、ΔV/(VΔP)の勾配を得ることができるように、プローブロックイン電圧の一定数の大きさΔV/Vを、同数のポンプ出力ΔPの関数として捕捉することができる。その後、勾配に対する最良適合を得るように、モデルに対する熱伝導率入力を調整することができる。
【0048】
一実施例において、80nmのAlトランスデューサ層が同じ蒸着において全ての標本上で蒸発させられる。一般に、ポンプのインプット出力を調整して、各標本についてΔV/Vのほぼ同じ大きさを誘発することができる。これにより、サーモリフレクタンス係数などの物理的パラメータ由来または光検出器応答由来のいずれであれ、小さくともあらゆる非線形応答は、γ内に包含されるため、相殺される(offset)。
【0049】
定常状態温度上昇の「オン」状態を誘発するのに必要とされる評価基準(criteria)を確立するために、時間ドメイン内の熱拡散方程式を解いて、温度上昇が平衡すなわち定常状態に達するのに必要な時間を決定することができる。この解の導出(derivation)が、「熱モデル」の節において提供される。定常状態を達成するのに必要とされる動作条件を決定するための2つの入力パラメータ、すなわちポンプ/プローブ半径およびポンプの変調周波数、のバランスをとることができる。
【0050】
本発明の企図される技術は、ポンプビームの直径が大きく変動可能であることから、非常に急速に定常状態を達成できる。ポンプビームの最大直径は、無制限でもよい。最小レーザサイズは、回析限界によってレーザ波長のほぼ半分に等しく物理的に制限され得る。実際には、約1ミクロンの集束直径を達成することができる。
【0051】
当該技術は、広範囲の厚みを有する材料に対して適用可能であり、厚みの非常に小さい材料を解析する上で特に有利である。これは、ポンプビームの集束されたスポットのサイズの関数である。
【0052】
ポンプ/プローブ半径とポンプの変調周波数とのバランスをとって、定常状態を達成するのに必要な動作条件(評価基準)を決定することができる。以下でより詳細に説明される
図3A~3Cに示されるように、ポンプの直径を増大させると、準定常状態温度上昇に到達するための上昇時間が増大する。換言すると、レーザスポットサイズが小さくなればなるほど、より高い変調周波数で準定常状態温度上昇に達することが可能になる。αを熱拡散率、tを時間、r
0をポンプ半径として、任意の材料についての上昇時間を決定するための普遍的評価基準を提供するために、無次元フーリエ数F
0=αt/r
0
2を使用することができる。
図3Cは、ΔT/ΔT
SSとF
0との間の関係を示す。
【0053】
数学的には、全ての温度上昇がポンプおよびプローブ半径の2乗の和の平方根に依存するという点において、ポンプとプローブとの間のスポットサイズのいかなる差にも有意性はない。
【0054】
物理的には、熱的侵入深さ(温度勾配が有意である標本の厚み内の深さ)は、ポンプスポットサイズだけに左右される。
【0055】
測定される検出された温度上昇は、標本の温度変化の結果としてもたらされるリフレクタンスの変化に基づく。プローブビームスポットサイズがポンプスポットサイズに比べて大きい場合、反射プローブの強度の大部分がポンプ加熱による影響を受けていないことになる。プローブのサイズがポンプに近くなればなるほど、それはポンプ加熱由来の強度変化を示すのにより優れることになり、より良い測定感度を可能にする。プローブは基本的に、それが反射する標本のエリア全体にわたる温度上昇を平均化し、したがって、平均化により、その外側ではいかなる加熱も発生していない領域ではなく、ポンプが確実に捕捉されるようにするため、プローブがポンプと同じ(またはポンプよりも小さい)ことを保証することが好ましい。集束されたポンプとプローブとの直径をレンズで調整して、等価のサイズとなるようにすることができる。
【0056】
これまでの当該技術の原理は定常状態温度上昇のオン/オフ状態の誘発(すなわち方形波変調)という考えに基づくものであったものの、多くのロックイン増幅器は、より高い高調波が検出において捕捉されないように、基準(reference)ミキサとして純粋正弦曲線を使用する。この場合、ロックインは、方形波すなわち正弦波の基本周波数におけるプローブ信号の大きさのみを捕捉する。準定常状態温度上昇のレジームは、正弦波熱源を介して得ることができる。LIAによって決定されるΔPは、ポンプ波形の正弦波成分の振幅に正比例する。同様にして、ΔVは、プローブ波形の正弦波成分のみに対応する。こうして、LIA検出は、方形、正弦、三角などの任意の周期波形を伴うポンプの変調を可能にする。
【0057】
定常状態温度上昇の代用として、準定常状態温度上昇を使用することができる。
図3Cを再び参照すると、所望の測定許容誤差に基づくΔT/ΔT
SSの何らかの閾値を得ることができる。例えば、95%の比率が使用される場合、温度上昇の95%上昇時間よりも長い周期を有する変調周波数を選択することができる。
【0058】
較正なしの実施形態
比例定数γが恒常であると仮定して、以上で論述した通り、熱伝導率を決定するために方程式(2)を使用することができる。ただし実際には、比例定数γは、測定装置内で使用される光学構成要素、使用される検出技術のタイプなどの多くの要因により左右される。
【0059】
他の実施形態において、熱伝導率の測定は、比例定数γを決定するのに較正なしで行なわれ得る。多数の変調周波数を使用することで、この較正の必要性を回避する方法が可能になる。第1の変調周波数f1において、方程式(2)を、以下のように表すことができる。
【数4】
【0060】
第2の変調周波数f2において、方程式(2)を以下のように表すことができる。
【数5】
【0061】
f1とf2との関係を以下のように表すことができる。
【数6】
または
【数7】
【0062】
以上で論述した較正を伴う実施形態と同様の出力依存掃引を用いて、2つ以上の一意的変調周波数において、異なる変調周波数における出力対リフレクタンスデータの勾配を、熱モデルを適合させ熱伝導率を測定するための新規データセットとして使用することができる。
【0063】
2周波数アプローチにおいて、区別可能な出力対温度の傾向を可能にするのに充分なほど離隔した2つの変調周波数を用いて、定常状態サーモリフレクタンスデータが取入れられる。測定データを熱モデルに関連付ける比例定数は変調周波数とは独立したものであることから、2つの周波数の間の結果としての出力対リフレクタンスの勾配の比率を取入れることは、いずれのスケーリング因子からも独立している。その結果として、熱伝導率は、較正標本を使用することなく決定可能である。
図8A~8Cに示された実施例において、21ミクロンのレーザ1/e2直径を使用して、Al
2O
3上の80nmのAl、Si上の80nmのAl、そして薄膜トランスデューサなしの電解鉄の熱伝導率を測定するために、100Hzおよび1MHzが使用される。全ての測定値は、認められた文献値およびTDTRを用いた独立して測定された値の5%以内に入る。例えば、電解鉄は、室温で78Wm
-1K
-1の熱伝導率を有するNIST規格である。
【0064】
較正なしの熱伝導率測定の他の実施形態において、周波数掃引方法が使用される。一実施例において、変調周波数は、SSTR周波数依存型モデルにデータを適合させる、1Hzから1GHzまでの周波数範囲にわたり掃引する。このアプローチにおいて、正弦波振幅変調と共にCWレーザ加熱に付された熱方程式に対する周波数ドメイン解が検討される。非ゼロ変調周波数が仮定された場合の熱モデルは、方程式B2によっ記述される。このモデルは、可能なかぎりゼロ(定常状態)に近い周波数においてモデルおよびデータを正規化することによって、測定データと比較される。
【0065】
このアプローチでは、出力は恒常にとどまるものの、周波数は温度上昇ΔTを変動させると思われる。変調周波数は、熱流束モデルにおける1つの項であり、熱流束変化を整調するための変数であり得る。
【0066】
図9に示されるように、100Hzから200MHzまでの広範囲にわたり周波数を掃引することで、定常状態信号の周波数応答の策定が可能になる。測定値データは、熱モデルに適合させられる。正方形は、SiO
2上の80nmのアルミニウムでのデータを表し、一方ラインは、SiO
2について一般に認められた熱伝導率である1.35W/m/Kの熱伝導率を伴う膜スタックのモデルを意味する。
【0067】
測定システムの実施形態
図1は、本発明の実施形態に係る方法を用いた熱伝導率を測定するシステムの実施形態を示す。
【0068】
この実施例において、当該システムは、786nmの波長および最高30mWのアウトプット出力を有するCWダイオードプローブレーザ(Coherent Cube)と、532nmの波長および最高5Wのアウトプット出力を有するCWポンプレーザ(Spectra-Physics Millenia Vs)と、で構成される。実際には、ポンプ出力は、使用されるポンプ半径について最高1Wのアウトプット出力が充分であることが判明している最も伝導性の高い材料の場合を除いて、200mW未満に制限される。同様にして、プローブアウトプットは、標本のあらゆる追加加熱を回避するため、1mW未満に制限される。ポンプを変調させるためには、機械的チョッパ(Thorlabs MC2000B)が使用される。電気光学変調器(Thorlabs EO-AM-NR-C4)も同様に使用され、2つの変調源の間には優れた一致が見られる。究極的には、使用が簡単で、廉価であり、完全オン/オフの方形波を許容し、ポンプの動作出力をはるかに上回る損傷閾値を有することを理由として、チョッパが好まれる。ポンプレーザの内部変調が、SSTRシステムの単純さおよびコスト削減に向けてのさらなる一歩を提供する。ポンプの波形および出力は、90:10(90%の透過/10%の反射)のビームスプリッタBSを用いてビームの10%をピックオフすることによって、光検出器(Thorlabs DET10A)により監視可能である。パワーメータも同様に使用可能であり、この目的のために充分である。光検出器は、プローブが測定されるのと同じ方法で、すなわちLIAまたはPWA検出を用いて、ポンプ出力を測定するためにロックイン増幅器内の第2の発振器に信号を送ることを可能にすることから、好ましい。検出器の飽和を回避するためにポンプ光検出器の前に、減光(ND)フィルタを置いてもよい。このとき、透過した出力は、コールドミラーCMによって反射され、対物レンズを通して送られて標本上で集束する。
【0069】
図1に示された実施例では、プローブは、偏光ビームスプリッタPBSを用いて2本の経路に分割される。各経路の出力を制御するために、二分の一波長板λ/2が使用される。透過部分は基準として用いられ、一方反射部分は、標本からの後方反射プローブの最大透過を可能にするために調整される四分の1波長板λ/4を通過する。プローブは、コールドミラーを通して透過させられ、対物レンズを用いて標本上にポンプと同軸的に集束される。集束したポンプおよびプローブの直径を、等価サイズとなるようにレンズで調整した。20倍および10倍の対物レンズを用いて、1/e
2直径は、走査スリットビームプロファイラ(Thorlabs BP209-VIS)を介して測定されるように、それぞれ11μmおよび20μmである。プローブは、プローブ内の共通ノイズを最小限に抑えるため経路整合された基準ビームと共にバランス型光検出器(PBD)(Thorlabs PDB410A)に後方反射される。光検出器PD内に進む基準および標本ビームの出力は、ノイズを最小限に抑えるため、二分の一波長板を介して等価となるように調整される。
【0070】
10倍の対物レンズを使用する場合、ポンプ光検出器PD内に進む出力をさらに削減するために、高次NDフィルタを使用することができる。これは、20倍の対物レンズで達成される温度と類似の温度まで標本を加熱するのに必要とされる増大した出力を補償するために行なわれる。チョッパ周波数に同期されたロックイン増幅器(Zurich Instruments UHFLI)を用いて、プローブ信号の大きさ(ΔV)をDCプローブ信号(V)で除したものを、ポンプ光検出器(ΔP)のロックイン大きさと同時に記録する。LIAにより決定されるΔPは、ポンプ波形の正弦波成分の振幅に正比例する。同様にして、ΔVは、プローブ波形の正弦波成分のみに対応する。こうしてLIA検出は、ロックインポンプ出力とロックインプローブ大きさとの間に同じ関係を得るため、任意の周期波形(方形、正弦、三角など)およびあらゆるオフセット出力でのポンプの変調を可能にする。ポンプ出力は、ΔV/Vとポンプ出力との間に線形関係が得られるように、線形的に増大させられる。適切な比例定数の決定後、この関係の勾配を使用して、それを「熱モデル」の節に示される熱モデルと比較することによって熱伝導率が決定される。代替的には、ボックスカーアベレージャを伴うPWAを用いて、ここでもチョッパ周波数に同期することによりいくつかの温度振動周期にわたりポンプおよびプローブの両方の波形を記録する。このアプローチを用いて、我々は、標本温度上昇対時間の関係を視覚化して、温度上昇の定常状態レジームを決定することができる。
【0071】
2つの検出スキームを比較すると、LIAアプローチは、より高速のデータ収集を可能にし、データの収集および解析の両方の完全自動化を可能にし、正弦波成分のみが記録されるため使用される波形とは独立したものである。しかしながら、正弦波変調は準定常状態しか達成できないことから、低拡散率の材料については、i)変調周波数がPWAの場合と比べて低いものでなくてはならないか、またはii)熱モデルが入力パラメータとして変調周波数を含まなくてはならない。一方PWAアプローチは、プローブ反射率の合計波形対時間の関係を抽出する。したがって、方形波ポンプ入力から結果として得た方形波反射率波形を演繹することができる。さらに、「オン」および「オフ」状態が発生する時間範囲を手作業で選択することによってデータ解析が行なわれ、熱伝導率を決定するために、真の定常状態温度上昇を使用できることが保証される。
【0072】
(i)出力損失が2つの対物レンズ内で同じでない可能性があること、および(ii)検出器の飽和を回避するために20倍の対物レンズから10倍の対物レンズに移動するときにポンプ光検出器で検出される出力を削減するためにより堅固な減光フィルタが使用されることを理由として、使用される異なる対物レンズについてγが異なることに留意されたい。さらに、γは、LIAとPWAとのアプローチの間で異なる。
【0073】
図2A~2Dは、
図1の測定セットアップにおいて使用されるポンプおよびプローブビームのスケーリングしない(not-to-scale)波形の例を示す。
図2Eは、本発明で使用される熱モデルの単純な例示を提供する。すなわち、時間t=0においてゼロ度の初期温度上昇が、放射対称性熱拡散方程式に基づいた熱拡散を伴う標本表面において時間的に恒常で空間的にガウス型の熱流束に付される。
図2Aは、出力の恒常な大きさを伴う連続波形である、材料から反射される前のプローブ波形を示す。
図2Bは、循環的「オン」および「オフ」状態を伴う変調されたポンプ波形を示す。ΔPは、材料内へのポンプ出力を表す。ポンプ出力は、材料を加熱し、材料の半円形エリア内で温度を上昇させる。材料の加熱された領域における温度は、ポンプ出力が周期的に「オン」および「オフ」に切換えられるにつれて、周期的に変化する。相応して、反射したプローブビームの出力が変化し、ここで、ΔVはリフレクタンスの変化を表す。方形波についてのPWAおよびLIAを用いたΔ間の差が、
図2Dに示される。破線は、実線の方形波に対する正弦成分を示す。
【0074】
理論:定常状態温度上昇の「オン」状態を確立するための評価基準
定常状態温度上昇の「オン」状態を誘発するのに必要とされる評価基準を確立するために、時間ドメイン内の熱拡散方程式を解いて、温度上昇が平衡すなわち定常状態に達するのに必要な時間を決定することができる。放射対称性熱拡散方程式を使用して、時間t=0におけるゼロ度の初期温度上昇での材料が、CWレーザ加熱をシミュレートするために標本表面における時間的に恒常で空間的にガウス型の熱流束に付される。全ての空間次元内で半無限境界条件が適用される。この解の導出は、「熱モデル」の節で提供される。定常状態を達成するために必要な動作条件を決定するため、2つの実験パラメータ、すなわちポンプ/プローブ半径とポンプの変調周波数とのバランスをとることができる。これは、TDTRおよびFDTRにおける較正として使用される2つの共通例、ケイ素(Si、κ≒140Wm
-1K
-1)および非晶質二酸化ケイ素(a-SiO
2、κ≒1.4Wm
-1K
-1)において見られる。これらの熱伝導率は、互いに正確に100倍差となるように近似された。3つの桁にまたがる3つの1/e
2ポンプ/プローブ直径、すなわち1、10および100μmが考慮される。ポンプおよびプローブのサイズは、全ての例示的事例において等しい。
図3は、それぞれ
図3Aおよび3BにおいてSiおよびa-SiO
2について示された正規化された温度上昇ΔT/ΔTssを示し、式中、ΔTss=ΔT(t→∞)は、定常状態温度上昇である。解は、80nmのアルミニウム(Al)トランスデューサ層を伴うまたは伴わない両方の状態に適用される。
【0075】
温度上昇は、定常状態温度上昇に漸近するが、所望の測定許容誤差に基づくΔT/ΔTssについての閾値が定義され得る。例えば、95%という比率が用いられる場合、温度上昇の95%上昇時間よりも長い周期を有する変調周波数を選択することができる。Siについては、1、10および100μmの1/e
2ポンプ直径についての95%上昇時間は、それぞれ~10
-7、10
-5および10
-3である。同様にして、a-SiO
2については、1、10および100μmのポンプ直径についての95%上昇時間は、それぞれ~10
-5、10
-3および10
-1秒である。ほぼ正確に2桁だけ熱拡散率が異なるSiとa-SiO
2とを比較することは有益である。同じポンプ直径について、a-SiO
2の上昇時間は、Siの場合に比べ2桁長い。さらに、Siおよびa-SiO
2の両方について、ポンプ直径を1桁増大させると、上昇時間は、正確に2桁増大する。これら2つの相関関係は、任意の材料について上昇時間を決定するための普遍的評価基準向けにこれらの結果を一般化する目的で、無次元フーリエ数、Fo=αt/r
0
2を使うことができることを示唆する。なお式中、αは熱拡散率、tは時間、r
0はポンプ半径である。
図3Cは、先に定義した境界条件を有する任意の材料に当てはまる、ΔT/ΔTssとF
0との間の関係を示す。
【0076】
一実施形態において、サーモリフレクタンス測定には、薄い金属トランスデューサが使用される。トランスデューサを使用する目的は、2つある。第1に、トランスデューサは、SSTR測定のための較正標本として役立つ。通常、較正標本には、対象の材料と同じ光学特性を有することが求められる。第2に、トランスデューサは、対象の材料がレーザビームに対する透過性を有する場合に使用可能である。
【0077】
定常状態温度上昇自体に対して有意な影響を及ぼすことに加えて、トランスデューサは、過渡的温度上昇の上昇時間に対しても有意な影響を及ぼし得る。例えば、80nmのAl/Siについて、上昇時間は、全てのレーザスポットサイズについてトランスデューサ層なしの場合に比べて低く、定常状態温度上昇を得るためにより高い変調周波数を使用することが可能になる。逆に、a-SiO
2に80nmのAl層を加えると、トランスデューサなしの場合に比べて長い95%上昇時間が導かれる。しかしながら、両方の場合において、このトランスデューサなしの予測可能な事例と上昇時間が異なる度合は、ポンプスポットサイズ、トランスデューサ層と基板との間の熱特性の相対的不一致、そして比較的程度は低いもののトランスデューサと基板との間の熱境界コンダクタンスに全面的に左右される。詳細には、レーザスポットサイズが減少するにつれて、上昇時間に対するトランスデューサの影響は増大する。それでも、大部分の事例において、
図3Cに見られる無次元関係は、ポンプ半径および標本の熱拡散率についての大まかな考えが所与であるものとして、最大変調周波数を選択するための有用な指針である。当然のことながら、実際には、定常状態温度上昇を保証するためには、単純に、可能なかぎり低い変調周波数を選択することができ、可能な場合により高い変調周波数を使用することの利点は、1/fノイズを削減し、試験時間を早めることにある。
【0078】
正弦波熱源を介した準定常状態
図4A~4Cに示されるように、正弦波振幅変調を伴うCWレーザ加熱を受ける熱方程式に対する周波数ドメイン解が検討される。正規化された温度上昇ΔT/ΔTssは、80nmAlのトランスデューサを伴って、a-SiO
2、単結晶サファイア(Al
2O
3)、Siおよびダイヤモンドについて示される。解は、それぞれ、
図4A、4Bおよび4Cの中で、1μm、10μmおよび100μmの1/e
2ポンプおよびプローブ直径について示される。温度上昇ΔTは、レーザ熱源と同じ周波数で正弦波的に変動する変調温度上昇であるが、その大きさは、変調周波数がゼロに近づくにつれて恒常値、すなわち定常状態温度上昇に漸近する。レーザスポットサイズがより小さくなると、より高い変調周波数で準定常状態温度上昇に到達することができる。こうして、より低い周波数で1/fノイズを削減するために、より高い変調周波数そしてより小さいスポットサイズを活用することができる。
【0079】
測定のために用いられる標本材料
試験対象の標本には、2つのタイプのa-SiO2、透明ガラス製顕微鏡スライド(Fisherbrand)および厚み3mmのBorosilicate Glass(BK7)光学窓(Thorlabs WG10530)と、厚み1mmの石英ウエハ(Precision Micro Optics)と、2つのタイプのAl2O3、厚み300μmのウエハ(University Wafer)および厚み3mmの窓(Thorlabs WG30530)と、2つのタイプのSi、厚み300μmのウエハ(University Wafer)および厚み3mmの窓(Thorlabs WG80530)と、厚み300μmの窒素ドープn型4H-炭化ケイ素(4H-SiC)ウエハ(MTI Corporation)と、厚み300μmの多結晶ダイヤモンドウエハ(Element Six TM200)と、が含まれる。
【0080】
周期波形解析器/ボックスカーアベレージ
一実施形態において、100Hzでチョッパを用いてポンプビームを変調させながら、デジタルボックスカーアベレージャを介してPWAを使用してデータを収集することができる。2つの独立した発振器を用いて、1024個のビンに分割された位相空間上にポンプおよびプローブ波形を同時に記録することができる。基準周波数は、チョッパによって提供される。位相空間から時間に変換された結果として得られた波形は、
図5A~5F中でポンプについて示され、一方プローブのものは
図6A-6Fに示される。図示された6個の標本には、(a)a-SiO
2グラススライド、(b)z-カット石英、(c)Al
2O
3、(d)Si、(e)4H-SiCおよび(f)ダイヤモンドが含まれる。全ての事例において、変調周波数を100Hzに保ち、11μmの1/e
2ポンプ/プローブ直径に対応する20倍の対物レンズを使用した。各波形は、5分間のリアルタイムデータ収集全体にわたって平均化することにより生成され得る。
【0081】
予想通り、ポンプ波形は、完全なオン/オフ方形波を示す。各標本中でプローブ波形がほぼ同じ大きさに達することができるようにするため、より高い熱伝導率の材料に移動するときに大きさが増大させられる、という点に留意されたい。プローブ波形は、a-SiO
2を除く全ての標本について、方形に近い波形によって表されるように、明確な定常状態温度上昇が得られる、ことを明らかにしている。比較すると、a-SiO
2は、比較的長期の過度的温度上昇を有するが、波形の終りまでには我々の定常状態閾値に到達する。PWA解析の利点は、「オン」および「オフ」状態間の差(ΔV)が手作業で選択され、したがって、(小さいものではあるが)温度上昇の過渡的部分を無視して定常状態レジームのみを抽出できるという点にある。これは、「オン」状態および「オフ」状態において信号を抽出して各状態の平均信号を減算するために、時間範囲が選定されるMATLAB(登録商標)スクリプトを通して達成される。差は、ΔVに対応する。各事例について選択された平均「オン」および「オフ」信号は、
図6A~6F中に破線として表示される。ポンプ波形について、同じプロセスを反復してよく、ここで高低波形状態間の差は、ΔPに対応する。較正を用いて定義されたγと共に、これは、純粋に定常状態のモデル(すなわちモデル内で変調周波数=0)を介して熱伝導率を決定するのに必要な全情報である。
【0082】
ロックイン増幅器
他の実施形態において、データは、LIAを介して収集される。そのために、反射されたプローブによって生成される周期信号にロックインする目的でチョッパ基準周波数が用いられる。シリアルコマンドを介してポンプ出力を制御する自動プログラムを用いて、プローブロックイン電圧の大きさは、10の累乗の関数としてロックされる。
図7Aおよび7Bは、10倍および20倍の2つの対物レンズについてのΔV/Vと比例(proportional)ポンプ出力(ΔP)との間の結果として得られた関係を示す。使用されるロックイン時定数は400msであり、各データ点は、約10秒間の収集にわたる平均を表す。示されたデータには、各標本上の3~5個のスポットからのデータが含まれ、これが、観察される任意の可視ノイズの主な理由である。各々の10データ点の走査は、実行に約2~3分かかる。この時間は、ポンプ出力を調整するために許容される待機時間によって主として決定付けられる。しかしながら、ノイズフロアを特徴付けした後、原則として、勾配を確立するために単一のデータ点しか必要とされず、これは、データ収集時間が、定常なロックイン大きさに達するための時間のみによって制限されることを示唆する。
【0083】
勾配ΔV/(VΔP)を決定するため、各データセットに対して線形適合が行なわれる。これから、この勾配をγで除算した後の熱モデルと比較することによって、熱伝導率を決定することができる。
図7Aおよび7Bは、1、10、100および1000Wm
-1K
-1の熱伝導率を有する材料についての予想された勾配を示す。これらのラインを我々の実験データと比較すると、試験標本の勾配が各基板について予想されるものに一致することが分かる。これらのモデルについては、4点プローブ抵抗率測定、~100Wm
-1K
-1、200MWm
-2K
-1の恒常な熱境界コンダクタンスおよび100Hzの変調周波数を介して測定されたものを記述するAlトランスデューサ熱伝導率が仮定される(an Al transducer thermal conductivity is assumed that is descriptive of what is measured via four point probe resistivity measurements, ~100 W m
-1 k
-1, a constant thermal boundary conductance of 200 M W m
-2 k
-1 and modulation frequency of 100 Hz.)。これらの仮定のインパクトを見極めるために、モデルパラメータに対する感度が決定され、以下で説明される。
【0084】
パラメータ感度
パラメータxに対する熱モデルの感度Sxは、xをプラスマイナス10%変動させることによって、Yangらにより定義されたものと類似のアプローチを用いて定量化される(J.Yang、C.Maragliano、およびA.J.Schmidt、Rev.Sci.Instrum.84、104904(2013))。位相の代りに大きさが測定されることから、標本間の感度の公正な比較を可能にするために、追加の除算項が追加される。したがって、
【数8】
式中、ΔT
xは入力パラメータxについて計算された温度上昇であり、
であり、ここでr
0およびr
1はそれぞれポンプおよびプローブの半径である。多数のポンプ/プローブ直径を利用することによって異なるパラメータに対する感度が上昇することを示すため、感度は、r
01の関数として定義される。
図10A~10Cは、4つのパラメータ、すなわち平面内トランスデューサ熱伝導率(κ
r,1)、トランスデューサ厚み(d
1)、標本熱伝導率
およびトランスデューサと基板との間の熱境界コンダクタンス(G)についてのr
01の関数としての感度を示す。我々の実験において使用されるr
01は、破線として示される。3つの標本、すなわち(a)a-SiO
2、(b)Al
2O
3、および(c)ダイヤモンドが考慮される。非晶質シリカおよびダイヤモンドは、この研究において測定された熱伝導率の下限値および上限値を表すため、表示のために選択された。Al
2O
3については、熱モデルの感度はκ
2により圧倒的に決定付けられ、Al
2O
3がγを決定するための重要な較正標本である理由を実証する。a-SiO
2については、κ
2はここでも、実験において使用されるr
01についての我々の熱モデルに対し最も感度の高いパラメータである。しかしながら、κ
r,1およびd
1に対する感度がそれでもなお幾分か有意であることが分かる。これら2つの数量(そしてそれらの対応する不確実性)は、4点プローブ抵抗率測定および機械的表面形状測定を介して測定された。この事例において、G(図示せず)に対する感度は全く有意でなかった。
【0085】
ダイヤモンドについては、実験で用いられるr
01について、測定はGに対する感度が非常に高い。したがって、ダイヤモンドの熱伝導率を決定する目的で、Gについての正確な測定が必要である。この数量を得るためには、κ
2およびGの両方を決定するために異なるr
01値におけるκ
2およびGに対する異なる感度が活用される。この手順は、ケイ素(薄いウエハおよび厚い窓の両方)、4H-SiCおよびダイヤモンドについて行なわれる。ΔV/(VΔP)を決定しγを介してΔT/Δ|Q|に変換した後、Gは熱モデル内で調整され、最良適合κ
2が決定される。2つの対物レンズについてこの手順を反復することによって、κ
2対Gの関係を描く2つの区別可能な曲線が結果として得られ、これらの曲線の交差点は、κ
2およびGの真の値を表す。結果は、(a)ケイ素、(b)4H-SiCおよび(c)ダイヤモンドについて、
図11A~11Cに示される。ケイ素については、ウエハと窓との間で熱境界コンダクタンスが異なる。これは、粗度、表面仕上げまたは自然酸化物の厚みの変動などの外的効果に起因し得る。それでもなお、熱伝導率は、約135Wm
-1K
-1で両方の標本内で等価であることが判明し、これは文献値と一致する(R.B.WilsonandD.G.Cahill、Appl.Phys.Lett.107、203112(2015))。
【0086】
同様にして、4H-SiCおよびダイヤモンドについて、Gおよびκ2は、10倍および20倍の対物レンズについての曲線の交差点に基づいて決定される。このアプローチは、Gに対し完全に不感応になるようにより大きなポンプ/プローブスポットサイズで実験を行なうことによって回避可能であるという点に留意されたい。これらの測定は熱境界コンダクタンスに対する感度が高くなかったことから、このアプローチは、試験された他のいずれの標本についても必要とされなかった。
【0087】
実験結果
試験対象のすべての標本についての測定された熱伝導率は、表1に列挙される。結果は、PWA/ボックスカーおよびLIA信号解析アプローチの両方を用いてSSTRについて示され、2つのアプローチが互いに一致することを明らかにする。これらの測定の正確さを確認するため、表1は同様に、TDTRを用いて得られた同じ標本についての熱伝導率、および文献中の報告された熱伝導率も示す。
図14は、測定上の熱伝導率対文献上の熱伝導率の関係を3つの桁にわたって示す。全体として、SSTRおよびTDTRの両方を使用した測定上の熱伝導率と文献値との間には、優れた一致が見られる。SSTRは根本的に
を測定することから、異方性材料の場合、κについての報告値は
と等価である。4H-SiCについてTDTRにおいて独立してκ
zおよびκ
rを得るためには、κ
zを決定するため~20μmの比較的大きいポンプ直径および8.4MHzの高い変調周波数を用いて、そしてそれに続いてκ
rを決定するために~10μmのより小さいポンプ直径および1.0MHzの低い変調周波数を用いて、概要が説明された方法に従う。このアプローチを用いると、κ
z=299±33Wm
-1K
-1およびκ
r=350±64Wm
-1K
-1であることが判明する。測定された4H-SiC標本は、10
18~10
19cm
-3のどこかのレベルでN-ドーピングされるという点に留意されたい。石英については、熱拡散率が低すぎてκ
rに対する感度を有効化できず、その代りに、2つの標本すなわちz-カットおよびy-カット石英を用いて、TDTRでのκが決定される。z-カット石英については、κ
z=11.63±0.80Wm
-1K
-1であり、一方yカット石英については、κ
z=6.45±0.46Wm
-1K
-1である(zカット石英についてのκ
rに等しい)ことが判明している。したがって、κは、TDTRにより決定された通り、8.66±0.61に等しく、SSTRにより決定されたものと優れた一致を示す。
【0088】
【0089】
SSTRと文献との間の考えられる1つの相違は、a-SiO2の場合に見られる。ガラスについて一般に認められる1.3Wm-1K-1という文献上の熱伝導率が基準にされるものの、報告された値は、化学的性質および密度に応じてガラスについて1~1.4Wm-1K-1の範囲内にあるという点に留意されたい。当該事例において、ガラス製顕微鏡スライドとBK7窓との間には無視できる程度の差が測定される。TDTRにおいて、a-SiO2について1.37Wm-1K-1が測定されるが、TDTRは熱伝導率を決定するために公知の熱容量を必要とすることから、体積熱容量の仮定上の値(1.66MJm-3K-1)と実際値(これは密度に依存する)との間のいずれかの相違によって、2つの技術間で得られた値の差が説明され得ると考えられる。この点を証明すると、TDTRおよびSSTRは、BK7については類似の熱伝導率を提供するものの、BK7はa-SiO2よりも高い体積熱容量を有する。
【0090】
最後に、ダイヤモンドの熱伝導率は比較的不確実性が大きいという点に留意されたい。これは、一部は材料中で達成可能な温度上昇の制限に起因し、これが比較的低い信号対ノイズ比を結果としてもたらす。しかしながら、標本上の同じスポットで多数の測定を行なうことにより、これ単独では不確実性の~5~10%しか説明がつかないと考えられることが判明している。
図11A~11Cにおいて明らかにされるように、熱境界コンダクタンスの不確実性が別途有意な寄与を追加する。最後に、標本上の異なるスポット間に有意な変動が存在し、測定上の熱伝導率が平均から~25%と大幅に変動したことに留意されたい。この変動は、粒界からの局所的な熱伝導率の減少に起因し得ると考えられる。Soodらは、CVD成長したホウ素でドープされた多結晶ダイヤモンド(平均粒径23μm)中の局所的熱伝導率がκを、粒界近くでほぼ60%減少させ得ることを示した(A.Sood、R.Cheaito、T.Bai、H.Kwon、Y.Wang、C.Li、L.Yates、T.Bougher、S.Graham、M.Asheghi、M.Goorsky、およびK.E.Goodson、Nano Letters、Nano Letters(2018)、10.1021/acs.nanolett.8b00534)。本研究中で測定されたダイヤモンド中の粒径は10~100μmの範囲内であるため、Soodらによって観察されたものと同程度の変動が見られるとは予想されない。
【0091】
不確実性の源
SSTRは比例定数γに依存することから、γおよびその不確実性を正確に特徴付けすることが有用である。γの不確実性を決定するためには、入力パラメータをそれらの対応する不確実性に基づいて熱モデルに対して無作為に変動させるためにモンテカルロアプローチが使用される。これらのパラメータには、トランスデューサ厚みd
1(80±3nm)、トランスデューサ熱伝導率κ
r,1(100±5Wm
-1K
-1)、基板熱伝導率κ
2(Al
2O
3については、35±2Wm
-1K
-1)、トランスデューサ/基板熱境界コンダクタンスG(Al/Al
2O
3については250±30MWm
-2K
-1)、および有効半径r
01(5%の不確実性を仮定)が含まれる。さらに、(ΔV/VΔP)を決定する際には、実験的不確実性が含まれる。LIA解析については、これは、実験データに対する最良適合勾配の標準偏差により決定され、一方PWAの場合、それは「オン」および「オフ」の両方の状態における信号の標準偏差によって決定された。10
5回超のシミュレーションを反復して、平均の5%未満の標準偏差が得られる。同じアプローチは、この研究において試験された標本の不確実性を特徴付けするために使用された。パラメータの独立性を仮定することで、不確実性解析は単純化され、こうして不確実性は
となる。なお式中、Δ
iは、パラメータiの不確実性の結果として得られるκの不確実性である。報告された不確実性は、表1に列記される。
【0092】
信号ノイズは、主として1/fノイズに由来する。低いプローブ出力、高いポンプ出力ならびにより長い平均化および/もしくは時間を使用することはこのノイズを克服する一助となり得るが、究極的には、充分な信号対ノイズ比で検出可能な周波数に対する下限が存在する。周波数ドメイン内でノイズフロアに比較してΔVの大きさを観察するために、デジタルオシロスコープが使用される。各事例において使用される最高のポンプ出力について、信号対ノイズ比はどこにおいても10~100であった。ロックイン増幅および/またはボックスカーアベレージングがさらに信号抽出を容易にした。
【0093】
モデルパラメータの結果として得られる不確実性については、これらのパラメータに対する感度が、完全な不確実性に対するそれらの寄与の大きさを決定付ける。低熱伝導率の材料については、トランスデューサの厚みおよび熱伝導率が比較的有意であり得、一方より熱伝導率の高い材料については、界面コンダクタンスが有意であり得る。
【0094】
薄膜測定感度
論述および実験結果は、バルク基板の測定に焦点が当てられてきたが、適正な条件下では、薄膜の熱伝導率を測定することもできることに留意されたい。
図15A~15Iにおいて、3層モデル(層1:80nmのトランスデューサ/層2:フィルム/層3:基板)の熱パラメータに対する相対的感度は、ポンプおよびプローブの直径が20μmとなる(半径が10μmとなる)ように10倍の対物レンズが使用されることを仮定して、層2のフィルム厚みの関数として示される。SSTR測定の感度がフィルムおよび基板の相対的特性に大きく左右されることに起因して、κ
2およびκ
3は、合計9つの事例について1、10および100Wm
-1K
-1の組合せで変動させられる。面内(r)および面交差(z)方向の両方について、ならびにトランスデューサ/フィルムおよびフィルム/基板の熱境界コンダクタンス(それぞれG
1およびG
2)について、感度が示される。
【0095】
SSTRがκ2を測定できる厚みを、このパラメータに対する感度がκ3を上回る厚みとして定量化して、非常に異なるκ2およびκ3が、ポンプ半径により定義される測定特徴的長さの尺度より2桁低い100nm未満という低さのこのような測定を可能にする、ことが発見される。興味深いことに、バルク材料について、SSTRはκr,2およびκz,2に対し同じ感度を維持する一方で、薄膜についてはそうではない。絶縁性基板上の熱伝導性フィルムについては、SSTRは、κr,2に対し極めて感度が高くなるが、一方、伝導性基板上の断熱性フィルムについては、κz,2がモデルにおける支配的な熱パラメータとなる。他の極限では、フィルムと基板κとが非常に類似する場合、κ2に対する感度は、10μmすなわちポンプの半径に近くなるまでκ3を上回らない。この場合、z方向とr方向との間の温度プロファイルの対称性は保たれ、こうしてκ2およびκ3に対する感度が等価となり、G2からのわずかな影響が妨げられる。薄膜の測定は、フィルムおよび基板κの堅固な差によって容易になることは明らかである。さらに、これらの熱伝導率が等しい最悪のシナリオにおいてさえ、測定可能な臨界フィルム厚みは、ポンプ半径にほぼ等しい。その結果として、より高い対物レンズを介してポンプ/プローブ半径を削減することが、薄膜熱伝導率に対する感度を改善するための1つの選択肢となる。
【0096】
熱モデル
過渡的温度上昇の数学的記述
Braunetら(J.L.BraunおよびP.E.Hopkins、J.Appl.Phys.121、175107(2017))において、任意の時間依存性を有する加熱事象によって誘発される表面温度を記述するために、1つの式が導出される。半径および時間の関数としての上面の温度は、以下の通りである。
【数9】
式中、
は、半径rおよび角周波数ωの関数である。
は、標本の加熱半径および材料特性を包含し、
は、熱源の時間依存性を記述する関数のフーリエ変換である。
は、以下の式によって求められる。
【数10】
【0097】
Braunら、の中で提供されるものの、完全を期すために、転送行列の項に基づいてハンケルおよび周波数ドメイン内で定義される
および
を定義する。
【数11】
【数12】
【数13】
【数14】
【数15】
式中、nは標本の材料のスタック中の層数(トランスデューサを伴うバルク材料について、これは2層である)であり、L
iは層iの厚みであり、G
i-1,iは層iと層i-1との間の熱境界コンダクタンスであり、κ
zおよびκ
rはそれぞれ面通過および面交差熱伝導率であり、ρは質量密度であり、c
pは比熱容量であり、kはハンケル変換変数である。本発明において、過渡応答に対する解を決定するものの、時間t=0で出発する表面熱流束境界条件を修正するために、同じ手順にしたがう。そのために、ヘビサイドステップ関数u(t)が適用され、こうして、CW源のためのソースタームは次のようになる。
【数16】
なお式中、A
0は吸収された出力である。フーリエ変換は、以下の通りである。
【数17】
【0098】
方程式(A1)に方程式(A9)を代入すると、表面温度は以下のようになる。
【数18】
【0099】
積分は数値的に行なわれる。積分手順を単純化するために、
を展開して、方程式(A10)の最初の項が
【数19】
となるようにする。
式中
は、
【数20】
によって定義される時間依存関数である。
【0100】
方程式(A10)の最終項は、
【数21】
となるように類似の形をとるべく示すことができる。
式中、
は
【数22】
によって定義される時間独立関数である。
【0101】
プローブ平均化されたリフレクタンス変化は、実空間内のガウス強度全体にわたる積分である。このプローブ平均化された温度上昇T
PAは、
【数23】
によって求められる。
【0102】
その後この式を次のように単純化することができる。
【数24】
【0103】
P0およびPtを以上で定義されたものとして、過渡的温度上昇を得るためにこの式を数値積分することは複雑ではない。
【0104】
周波数ドメインおよび定常状態温度上昇
温度上昇に対する周波数ドメイン解は、以下の式で求められる。
【数25】
【0105】
周波数ω
0/2πでの振幅変調されたCWレーザ熱源については、
であり、式中A
0は、ポンプロックイン検出を介して検出された出力に正比例する、標本により吸収された変調出力の振幅であり、A
1は吸収された平均出力である。ロックイン技術は周期信号に依存することから、A
1項は、後続する方程式において無視される。さらに、ロックイン増幅が変調周波数以外の他の全ての周波数を拒否することが仮定される。方程式(B1)を展開し、方程式(A16)で使用したものと同じ手順に従って、プローブ平均化された温度上昇は、以下の通りである。
【数26】
【0106】
定常状態温度上昇は、ω
0=0を設定することによって決定される。
図4A4Cに示されるように、ω
0→0につれて、温度上昇の振幅(プローブロックイン大きさに対し正比例する)は、定常状態温度上昇の振幅に接近し、こうして定常状態条件を仮定してもよい。しかしながら、一定の標本または実験的に制限されたスポットサイズ/周波数については、この仮定は当てはまらない。したがって、LIAアプローチを介して熱伝導率を決定する場合、たとえ定常状態近似が完全に有効であってもモデルはなおもそれを反映することから、熱モデル内に非ゼロの実験的変調周波数を含めるのが概して良い考えである。しかしながら、PWAアプローチについては、波形が定常状態温度上昇のレジームのピッキングを可能にするのに間に合って表示されることから、純粋に定常状態であるモデルのみ(ω
0=0)が使用される。
【0107】
当業者にとって明らかであるように、本明細書中で例示され論述された本発明の実施形態は、本発明の範囲または教示から逸脱することなくさまざまな形で改変され得る。同様に、1つの実施形態の要素および態様を他の実施形態の要素および態様と組合せることも可能である。本発明の範囲を定義するのは、全ての等価物を含めた添付の特許請求の範囲である。
[態様1]
材料の熱伝導率を測定する方法であって、
ビーム直径ならびに「オン」状態および「オフ」状態を有する出力を有する変調CWポンプレーザビームを集束させることにより、前記材料の1スポットで「オン」および「オフ」循環的熱流束を提供するステップであって、前記スポットのサイズが前記ビーム直径であり、前記変調CWポンプレーザビームが前記材料の前記スポット上で循環的定常状態温度上昇を誘発するのに充分なほどに低い変調周波数を有し、前記循環的定常状態温度上昇が前記循環的熱流束に対応する「ON」および「OFF」状態を有する、ステップと、
前記材料の前記スポットでCWプローブレーザビームを集束させ、前記材料の前記スポットから反射された反射プローブビームを生成するステップであって、前記反射プローブビームがリフレクタンス信号を有し、前記リフレクタンス信号の大きさが前記材料の前記温度の関数であり、前記リフレクタンス信号の前記大きさが前記循環的定常状態温度上昇に対応する周期的なものであり、前記リフレクタンス信号の前記大きさが「オン」状態および「オフ」状態を有する、ステップと、
前記ポンプレーザビームの前記出力の「オン」状態と「オフ」状態との間で前記ポンプレーザビームの前記出力の差を測定するステップと、
前記「オン」状態と「オフ」状態との間で反射プローブビームの前記リフレクタンス信号の前記大きさの差を測定するステップと、
前記測定された前記出力の差および前記測定された前記リフレクタンス信号の前記大きさの差を熱モデルに適合させることによって熱伝導率を計算するステップであって、前記熱モデルが、前記熱流束を前記温度上昇に関係付ける前記材料の熱伝導率の関数であり、前記熱モデルが、前記変調周波数および前記材料上の前記ポンプビームの前記スポットのサイズの関数である、ステップと、を有する方法。
[態様2]
前記計算するステップは、さらに、リフレクタンスの変化の光検出器電圧の変化への変換因子およびサーモリフレクタンス係数を包含する比例定数を較正するステップであって、前記較正は、公知の熱伝導率を有する材料を用いて行なわれるステップを有する、態様1に記載の方法。
[態様3]
前記較正のために用いられる前記材料は、単結晶サファイアである、態様2に記載の方法。
[態様4]
前記反射プローブビームの前記リフレクタンス信号の大きさは、デジタルボックスカーアベレージを介して周期波形解析器を用いて測定される、態様1に記載の方法。
[態様5]
前記反射プローブビームの前記リフレクタンス信号の大きさは、前記反射プローブビームにより生成された前記周期信号にロックインするためのロックイン増幅器を用いて測定される、態様1に記載の方法。
[態様6]
前記ロックイン増幅器は、前記変調周波数に同期される、態様5に記載の方法。
[態様7]
前記変調周波数は、前記温度上昇の95%の上昇時間よりも長い周期を定義する、態様1に記載の方法。
[態様8]
前記ポンプビームの直径は、低減されることによって、より高い変調周波数で定常状態温度上昇に到達できる、態様1に記載の方法。
[態様9]
前記変調ポンプレーザビームは、任意の周期波形によって変調された連続波ビームである、態様1に記載の方法。
[態様10]
前記定常状態温度上昇は、準定常状態温度上昇である、態様1に記載の方法。
[態様11]
前記プローブビームのビーム直径は、前記ポンプビームの前記ビーム直径と同じであるかまたはそれより小さい、態様1に記載の方法。
[態様12]
前記「オン」状態における前記ポンプ出力が変動させられるにつれて前記リフレクタンス信号の前記大きさの前記差を測定するステップと、
前記リフレクタンス信号の前記大きさの差対前記ポンプ出力差のデータセットを生成するステップと、
前記データセットに対する線形適合を行なって勾配を決定するステップと、
前記比例定数による除算後に前記熱モデルと前記勾配とを比較することによって前記熱伝導率を決定するステップと、をさらに有する、態様2に記載の方法。
[態様13]
前記ポンプ出力は、線形的に増加させられる、態様12に記載の方法。
[態様14]
前記変調周波数は、第1の変調周波数であり、
前記第1の変調周波数での前記「オン」状態における前記ポンプ出力が変動させられるにつれて、前記リフレクタンス信号の前記大きさの差を測定するステップと、
前記リフレクタンス信号の前記大きさの差対前記ポンプ出力差のデータセットを生成するステップと、
前記データセットについて線形適合を行なって、第1の勾配を決定するステップと、
前記変調周波数を第2の変調周波数に設定するステップと、
前記第2の変調周波数での前記「オン」状態における前記ポンプ出力が変動させられるにつれて、前記リフレクタンス信号の前記大きさの差を測定するステップと、
前記リフレクタンス信号の前記大きさの差対前記ポンプ出力差のデータセットを生成するステップと、
前記データセットについて線形適合を行なって第2の勾配を決定するステップと、
前記熱伝導率を決定するために、前記第1の勾配および第2の勾配を前記熱モデルに適合させるステップと、をさらに有する、態様1に記載の方法。
[態様15]
前記ポンプ出力は、線形的に増加させられる、態様14に記載の方法。
[態様16]
前記「オン」状態での前記ポンプ出力は、恒常に保たれ、
前記変調周波数を1Hzから1GHzまでの周波数範囲にわたり掃引するステップと、
前記定常状態信号の周波数応答を策定するステップと、
前記データを、周波数依存型定常状態サーモリフレクタンスモデルに適合させるステップと、をさらに有する、態様1に記載の方法。
[態様17]
材料の熱伝導率を測定するシステムにおいて、
ビーム直径および出力を有するCWポンプレーザビームを発出するポンプレーザ源と、
前記CWポンプレーザビームを変調させる変調器であって、前記変調CWポンプレーザビームが前記材料のスポット上で循環的定常状態温度上昇を誘発するのに充分なほどに低い変調周波数を有し、前記スポットが前記ビーム直径のサイズを有する変調器と、
前記材料の前記スポットでCWプローブレーザビームを発出させ、前記材料の前記スポットから反射された反射プローブビームを生成するプローブレーザ源であって、前記反射プローブビームがリフレクタンス信号を有し、前記リフレクタンス信号の大きさが前記材料の前記温度の関数であり、前記リフレクタンス信号の前記大きさが前記循環的定常状態温度上昇に対応する周期的なものであり、前記リフレクタンス信号の前記大きさが「オン」状態および「オフ」状態を有する、プローブレーザ源と、
前記ポンプレーザビームの波形および前記出力ならびに前記反射プローブレーザビームの前記リフレクタンス信号の波形および前記大きさを測定する検出器と、
前記ポンプレーザビームおよびプローブレーザビームを前記材料の表面に誘導し集束する光学構成要素と、
前記測定された前記出力の差および前記測定された前記リフレクタンス信号の前記大きさの差を熱モデルに適合させることによって熱伝導率を計算する処理ユニットであって、前記熱モデルが、前記熱流束を前記温度上昇に関係付ける前記材料の熱伝導率の関数であり、前記熱モデルが、前記変調周波数および前記材料上の前記ポンプビームの前記スポットのサイズの関数である、処理ユニットと、を有するシステム。
[態様18]
前記検出器は、パワーメータまたは光検出器である態様17に記載のシステム。
[態様19]
前記ポンプレーザビームの前記波形および出力ならびに前記反射プローブレーザビームのリフレクタンス信号の前記波形および前記大きさを測定するためのロックイン増幅器をさらに有する、態様17に記載のシステム。