(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】高周波数磁気フィルム、その製造方法及び使用
(51)【国際特許分類】
H01F 10/14 20060101AFI20240423BHJP
H01F 41/18 20060101ALI20240423BHJP
H01F 41/20 20060101ALI20240423BHJP
H01F 17/04 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
H01F10/14
H01F41/18
H01F41/20
H01F17/04 F
(21)【出願番号】P 2021525218
(86)(22)【出願日】2019-11-07
(86)【国際出願番号】 US2019060229
(87)【国際公開番号】W WO2020101998
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2022-11-02
(32)【優先日】2018-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521138305
【氏名又は名称】ロジャーズ・コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヤジエ・チェン
(72)【発明者】
【氏名】シャオユウ・ジャン
(72)【発明者】
【氏名】リ・ジャン
(72)【発明者】
【氏名】ユアンユアン・シン
【審査官】久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-101930(JP,A)
【文献】特開平06-338410(JP,A)
【文献】特開平03-239313(JP,A)
【文献】特開平06-020835(JP,A)
【文献】特開平04-367205(JP,A)
【文献】大沼繁弘 他,FeN/FeBN多層膜の軟磁気特性,日本応用磁気学会誌,16,日本,1992年,265-268
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 10/00-10/32、17/04、41/14-41/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層磁気フィルムであって、
基板と、
前記基板上に配置された第1の磁気層であって、前記第1の磁気層がFe
(50-80)N
(10-20)B
(1-20)M
(0-10)を含み、MがSi、Ta、Zr、Ti、Coまたはそれらの組み合わせである、第1の磁気層と、
前記第1の磁気層の上に配置された第2の磁気層であって、前記第2の磁気層がFe
(50-90)N
(10-50)またはFe
(60-90)N
(1-10)Ta
(5-30)を含む、第2の磁気層と、を含み、
前記多層磁気フィルムが、50MHzから10GHzの周波数範囲にわたって
、
前記周波数範囲のうち選択された周波数帯域にわたって
1800以上の透磁率と、
前記周波数範囲のうち選択された周波数帯域にわたって
0.3以下の磁気損失正接と、
1GHz以上
のカットオフ周波数と、を有する、
多層磁気フィルム。
【請求項2】
前記第2の磁気層が、Fe
(60-90)N
(1-10)Ta
(5-30)を含む、請求項1に記載の多層磁気フィルム。
【請求項3】
前記第1の磁気層が10から100ナノメートルの厚さを有し、
第2の磁気層が10から400ナノメートルの厚さを有する、請求項1または2に記載の多層磁気フィルム。
【請求項4】
前記第2の
磁気層の上に配置された、Fe
(50-80)N
(10-20)B
(1-20)を含む追加的な第1の層と、
前記追加的な第1の磁気層の上に配置されたFe
(50-90)N
(10-50)またはFe
(60-90)N
(1-10)Ta
(5-30)を含む追加的な第2の磁気層と、をさらに含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の多層磁気フィルム。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の多層磁気フィルムを含む
、物品。
【請求項6】
前記物品がフィルター、トランス、インダクター、アンテナ、電子集積回路チップまたは電磁遮蔽デバイスである、請求項5に記載の物品。
【請求項7】
前記物品が電子デバイスの構成要素
である、請求項5に記載の物品。
【請求項8】
前記物品が、携帯電話、デスクトップコンピューター、ラップトップコンピューター、ノートブックコンピューター、無線またはLANネットワーク、電源、増幅器、電圧制御オシレーター、またはシュリンクパワーコンバーターである、請求項7に記載の物品。
【請求項9】
前記物品が集積電子デバイスである、請求項7に記載の物品。
【請求項10】
請求項1から4のいずれか一項に記載の多層磁気フィルムを形成する方法であって、
前記基板の一側に前記第1の磁気層を成膜する段階と、
前記第1の磁気層の前記基板とは反対側の一側に前記第2の磁気層を成膜する段階と、を含む、方法。
【請求項11】
前記成膜が、rf/DCスパッタリング、電子ビーム成膜またはそれらの組合せを含む、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
前記第2の
磁気層の前記第1の
磁気層とは反対側の一側に追加的な第1の層を成膜する段階及び、前記追加的な第1の層の前記第2の
磁気層とは反対側の一側に追加的な第2の層を成膜する段階をさらに含む、請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
前記多層磁気フィルムの前記磁気損失正接、前記多層磁気フィルムの磁気異方性、またはその両方を調整するために各層の厚さを調整する段階を含む、請求項
10から
12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2018年11月15日に出願された米国仮出願第62/767553号の利益を主張する。関連する出願は、参照により完全に本明細書に組み込まれている。
【0002】
本開示は、一般に、例えば集積回路、電源システム、アンテナなどにおける高周波数磁気フィルム、その製造方法及びその使用に関する。
【背景技術】
【0003】
より新しい設計及び製造技術により、電子構成要素はさらにより小さく、より高周波数にされてきた。電子構成要素の大きさを低減する1つの手法は、磁性材料の使用であった。具体的に、フェライト、強誘電体及びマルチフェロイック特性は、マイクロ波特性を改善する機能的材料として幅広く研究されてきた。磁性材料の高い透磁率は、インダクタンスの直流値を増加させる一方、その透磁率及び対応するインダクタンスの向上を、様々なモバイル用途で望まれる高周波数(例えば1から5ギガヘルツ(GHz))へ拡張することが課題であり続けている。これらの周波数における透磁率は、材料のスニーク限界(Snoek’s limit)に起因して急激に悪化する。磁性材料の固有の強磁性共鳴(FMR)周波数(大きなブランケットフィルムでは典型的には1~2GHz)において、相対的な透磁率が1に低下し、磁気損失正接がピークに達して、材料に起因するインダクタンス増大が無視できるようになり、損失が支配的になる。材料の画成及びパターニングの方法を変更することによって、透磁率の周波数応答を改善することは可能であるが、依然として、広帯域幅にわたって高い透磁率及び高い共鳴周波数を提供可能である材料及び方法についての需要が当該技術分野には存続している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本明細書において、多層磁気フィルム及びそれを製造する方法が開示される。
【0005】
1つの実施形態において、多層フィルムは、基板と、基板上に配置された第1の磁気層と、第1の磁気層の上に配置された第2の磁気層と、を含む。第1の磁気層がFe(50-80)N(10-20)B(1-20)M(0-10)を含み、MがSi、Ta、Zr、Ti、Coまたはそれらの組み合わせである。第2の磁気層がFe(50-90)N(10-50)またはFe(60-90)N(1-10)Ta(5-30)を含む。多層磁気フィルムが、50メガヘルツ(MHz)から10GHzの周波数範囲にわたって、好適には100MHzから5GHzの周波数範囲にわたって、より好適には1から5GHzの周波数範囲にわたって、周波数範囲のうち選択された周波数帯域にわたって、好適には1から10GHzの周波数帯域にわたって1800以上、好適には2000以上、より好適には3000から5000以上の透磁率と、周波数範囲のうち選択された周波数帯域にわたって、好適には1から10GHzの周波数帯域にわたって0.3以下、好適には0.1以下、より好適には0.01から0.1の磁気損失正接と、1GHz以上、または2GHz以上、好適には5GHz以上、または1から8GHzのカットオフ周波数と、を有する。
【0006】
1つの実施形態において、多層フィルムを形成する方法は、基板の一側に第1の磁気層を成膜する段階と、第1の磁気層の基板とは反対側の一側に第2の磁気層を成膜する段階と、を含む。
【0007】
多層磁気フィルムを含む物品がさらに説明される。物品は、好適にはフィルター、トランス、インダクター、アンテナ、電子集積回路チップまたは電磁遮蔽デバイスである。
【0008】
前述の、並びにその他の特徴及び利点は、添付する図面とともに、以下の詳細な説明、実施例及び特許請求の範囲から容易に明らかになる。
【0009】
同様の要素は同様に符号を付された、例示的かつ非限定的な図を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】多層磁気フィルムの実施形態の断面図である。
【
図2】多層磁気フィルムの別の実施形態の断面図である。
【
図3】比較対象となるCo及びFe系薄膜及び多層膜の室温で測定された高周波特性を示すプロットである。
【
図4】プロファイル測定及び原子間力顕微鏡(AFM)によるFeNフィルムの表面プロファイルである。
【
図5】フィルムの面内における磁化容易方向及び磁化困難方向に沿ったFeNフィルムの磁気ヒステリシスである。
【
図6】60ナノメートル(nm)の厚さのFeNフィルムの透磁性スペクトルである。
【
図7】プロファイル測定及びAFMによるFeNフィルムの表面プロファイルである。
【
図8】50nmの厚さのFe
66N
18B
16フィルムの透磁率スペクトルである。
【
図9】ホウ素含有量の異なるFe
83-xN
17B
xフィルムの有効抵抗率と透磁率との間の関係を示す。
【
図10】様々な厚さのFeNBを有するFe
74N
26/Fe
66N
18B
162層フィルムの磁気スペクトルである。
【
図11】様々な厚さのFe
72N
18B
10を有するFe
74N
26/Fe
72N
18B
102層フィルムの透磁率である。
【
図12】様々な厚さのFeNB層を有するFe
82N
18/Fe
72N
18B
10/ガラスフィルムの有効抵抗率と透磁率との間の関係を示す。
【
図13】フィルムの面内におけるx及びy方向に沿った厚さ80nmのFeTaNフィルムの磁気ヒステリシスである。
【
図14】ガラス基板上の厚さ80nmのFe
74Ta
6N
20フィルムの透磁率スペクトルである。
【
図15】Fe
74Ta
6N
20/Fe
66N
18B
162層フィルムの磁気スペクトルである。
【
図16】異なる厚さのFeNB層を有する、Fe
83Ta
6N
11/Fe
72B
18B
10/ガラスフィルムの有効抵抗率と透磁率との間の関係を示す。
【
図17】Fe
74Ta
6N
20/Fe
72N
18B
102層フィルムの磁気スペクトルを示す。
【
図18】Fe
72N
18B
10/Fe
82N
18/Fe
72N
18B
103層フィルムの、有効抵抗率と3層フィルムの合計厚さとの間の関係を示す。
【
図19】Fe
72N
18B
10/Fe
82N
18/Fe
72N
18B
103層フィルムの磁気スペクトルを示す。
【
図20】Fe
72N
18B
10/Fe
83Ta
6N
11/Fe
72N
18B
103層フィルム構造の有効抵抗率と3層フィルムの合計厚さとの間の関係を示す。
【
図21】Fe
72N
18B
10/Fe
72Ta
18N
10/Fe
72N
18B
103層構造の磁気スペクトルを示す。
【
図22】Fe
82N
18/Ta
88N
122層フィルムの磁気スペクトルを示す。
【
図23】Fe
72N
18B
10/Ta
88N
122層フィルムの磁気スペクトルである。
【
図24】Fe
83Ta
6N
11/Ta
88N
122層フィルムの磁気スペクトルである。
【
図25】単層、2層、及び3層のFeN系フィルムの、0.5GHzにおける透磁率を示す。
【
図26】単層、2層、及び3層のFeN系多層構造の、0.5GHzにおけるスニーク積ダイアグラムである。
【
図27】単層、2層、及び3層のFeTaN系多層構造の、0.5GHzにおける透磁率を示す。
【
図28】単層、2層、及び3層のFeTaN系多層構造の、0.5GHzにおけるスニーク積ダイアグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
発明者らは、幅広い周波数範囲にわたって高い透磁率、低い損失及び優れたインダクタンスを併せ持つ多層磁気フィルムを開発した。相補性金属酸化物半導体(CMOS)とともに集積された磁気薄膜は、高品質、高密度、低プロファイル、オンチップ/インパッケージの、誘導性構成要素を可能にする。
【0012】
多層フィルムは基板上に配置され、第1の磁気層と第2の磁気層とを含み、第1の磁気層はFe(50-80)N(10-20)B(1-20)M(0-10)を含み、MはSi、Ta、Zr、Ti、Co、Nbまたはそれらの組み合わせであり(本明細書では、FeNBと呼ぶ)、第2の磁気層はFe(50-90)N(10-50)(本明細書ではFeNと呼ぶ)またはFe(60-90)N(1-10)Ta(5-30)(本明細書ではFeNTaと呼ぶ)を含む。多層磁気フィルムは、50MHzから10GHzの周波数範囲にわたって動作可能であり、選択された周波数帯域にわたって測定される1800以上の磁気定数(透磁率としても知られる)及び0.3以下の磁気損失正接を有することができる。
【0013】
多層磁気フィルム10の断面図が、
図1に示される。基板12は第1の側部、すなわち第1の平面及び、第2の側部、すなわち反対側の第2の平面を有する。基板12は任意の適切な材料、例えばガラス、有機ポリマーまたはセラミックからなりうる。1つの態様において、基板は、MgO、SiC、Si
3N
4、アルミナ、シリコンなどの少なくとも1つのようなセラミックを含む。基板はアモルファス、単結晶または多結晶でありうる。基板12は、任意の適切な厚さを有することができ、厚さは、支持特性及び意図される用途による。例えば、基板は100マイクロメートルから1ミリメートルの厚さを有することができる。
【0014】
第1の磁気層14は、第1の平面の第1の側に配置される。前述のように、第1の磁気層はFe(50-80)N(10-20)B(1-20)M(0-10)を含み、MはSi、Ta、Zr、Ti、Co、Nbまたはそれらの組み合わせである。好適な態様において、第1の磁気層はFe(50-80)N(10-20)B(1-20)を含み、Mの量は0である。第1の磁気層は、10から100ナノメートルの厚さ、例えば10から50ナノメートルまたは20から80ナノメートルの厚さを有しうる。
【0015】
第2の磁気層16は、基板とは反対側に、第1の磁気層の一側に配置される。第2の磁気層はFe(50-90)N(10-50)またはFe(60-90)N(1-10)Ta(5-30)を含む。第2の磁気層は10から400ナノメートル、例えば10から300ナノメートルまたは50から400ナノメートルの厚さを有しうる。
【0016】
多層磁気フィルムは、追加的な層、具体的には追加的な交互配置の第1及び第2の層を含みうる。
図2に示されるように、Fe
(50-80)N
(10-20)B
(1-20)を含む追加的な第1の磁気層16は、第2の磁気層14の上に配置される。Fe
(50-90)N
(10-50)またはFe
(60-90)N
(1-10)Ta
(5-30)を含む追加的な第2の磁気層18は、追加的な第1の磁気層16の上に配置される。さらなる追加的な第1及び第2の磁気層が、追加的な第2の磁気層の上に交互に配置されうる(図示されない)。
【0017】
第1の磁気層14及び第2の磁気層16は合計で20から500ナノメートルの厚さを有しうる。1つの実施形態において、第1の磁気層14は10から200nmの厚さを有し、第2の磁気層は、10から400nmの厚さを有しうる。特に有利な特徴において、磁気層のそれぞれの厚さ、厚さの比またはその両方は、多層磁気フィルムの所望の磁気損失正接、磁気多層フィルムの所望の磁気異方性またはその両方を得るために調節されうる。
【0018】
多層磁気フィルムを形成する方法は、基板の一側に第1の磁気層を成膜すること、基板とは反対側の第1の磁気層の一側に第2の磁気層を成膜することを含む。交互の層成膜は、フィルム全体が製造されるまで進行する。成膜は、rf/DCスパッタリング、電子ビーム成膜またはそれらの組み合わせによってなされうる。
【0019】
多層磁気フィルムは、50MHzから10GHzの周波数範囲にわたって、好適には100MHzから5GHzの周波数範囲にわたって、より好適には1から5GHzの周波数範囲にわたって使用されうる。
【0020】
多層磁気フィルムは、周波数範囲のうち選択された周波数帯域にわたって、好適には1から10GHzの周波数帯域にわたって、1800以上の透磁率、好適には2000以上の透磁率、より好適には3000以上の透磁率、または1800から5000を有しうる。本明細書で使用されるように、この用語は、1から5GHzまたは1から10GHzの周波数帯域にわたって透磁率が1800以上である少なくとも1つの例を有する多層磁気フィルムを指す。
【0021】
多層磁気フィルムは、周波数範囲における選択された周波数帯域にわたって、好適には1から10GHzの周波数帯域にわたって、0.3以下もしくは0.3未満、好適には0.1以下もしくは0.1未満、または0.01から0.3の磁気損失正接を有しうる。本明細書で使用されるように、この用語は、1から5GHzまたは1から10GHzの周波数帯域にわたって0.3以下である磁気損失正接の少なくとも1つの例を有する多層磁気フィルムを指す。
【0022】
多層磁気フィルムは、1GHz以上もしくは1GHz超、または2GHz以上、好適には5GHz以上または1から8GHzのカットオフ周波数を有しうる。
【0023】
多層磁気フィルムは、追加的な層、例えば最上層を含みうる。最上層はAl2O3を含みうる。最上層は、絶縁キャップを含みうる。
【0024】
多層磁気フィルムは、幅広い様々な用途、例えば電力用途、データストレージ及びマイクロ波通信のための電子集積回路チップ上のフィルターやインダクターなどの電子デバイスにおいて使用されうる。多層磁気フィルムは、低周波数用途、例えば50MHzから1GHzの周波数において、または高周波数用途、例えば1から10GHzにおいて使用されうる。多層磁気フィルムは、アンテナにおいて、モバイルインターネットデバイスなどの電子デバイスにおいて、及び例えば携帯電話、タブレット、デスクトップコンピューター、ラップトップコンピューター、ノートブックコンピューターなどの電子デバイスにおいて使用されうる。ある態様において、デバイスは可搬電子デバイス、例えばハンドヘルド電子デバイスである。多層磁気フィルムはさらに、電力供給システム及びアンテナにおいて使用されうる。多層磁気フィルムは、有利には集積電子デバイスにおいて使用されうる。
【0025】
以下の実施例は、本開示を説明するために提供される。実施例は、単なる例示的なものであり、本開示に従ってなされたデバイスを、記載された材料、条件またはプロセスパラメータに限定することを意図されない。
【0026】
実施例
図3は、Chin. Phys. B Vol 24, No. 5 (2015) 05750より再録された、様々な比較対象フィルムの初期透磁率と共振周波数/ギガヘルツ(GHz)との関係を示すプロットである。
【0027】
実施例1:FeN/FeNB/ガラス2層フィルム構造
RFマグネトロンスパッタリングのパラメーター
RFパワー=80から120ワット(W)
成膜圧力=0.3から0.6パスカル(Pa)
ターゲットと基板との間の距離=8センチメートル(cm)
ワーキングガス:アルゴン、反応ガス:窒素
ターゲット:
鉄(99.9%)、2インチ(5.08cm)円板
2.5×2.5平方ミリメートル(mm2)の2片のホウ素(99.9%)チップ
成膜時間:5から30分
成膜温度:室温
基板:光学ガラス
【0028】
ガラス基板上の単層FeNフィルム(参照例)
図4から6を参照すると、FeNフィルムは、それぞれ(エネルギー分散X線分光分析)EDXS及び、プロファイル測定によって測定され、Fe
74N
26の組成、ガラス基板上で60ナノメートル(nm)の厚さを有していた。この図において、省略記号Glはガラスを指す。60nmのフィルム厚さを有するFeNフィルムは、原子間力顕微鏡(AFM)によって11nmの微細粒径を示した。FeNフィルムは、磁気ヒステリシスループにおいて表される、フィルム面内の磁気異方性を示した。FeNフィルムは、0.5ギガヘルツ(GHz)において510の透磁率(μ’)及び0.3の磁気損失正接(tanδ)を有し、1.71GHzの共振周波数を保持していた。FeNフィルムは、0.87×10
12のスニーク積(Snoek‘s product)を有していた。ガラス基板上の60nmの厚さのFeNフィルムの磁気特性は表1にまとめられる。
図5及び13において、磁化容易方向(実線)または磁化困難方向(破線)は、それぞれ自発磁化のエネルギー的に有利な方向、不利な方向を示している。
【0029】
【0030】
ガラス基板上の単層FeNBフィルム(参照例)
図7及び8を参照すると、ガラス基板上のFeNBフィルムは、EDXS及びプロファイル測定でそれぞれ測定され、Fe
66N
18B
16の組成、50nmの厚さ及び6.7nmの平均粒径を有していた。ガラス上のFeNBフィルムは、1GHzで864の透磁率及び、1.26×10
12のスニーク積をそれぞれ示した。Fe
66N
18B
16フィルムの磁気測定結果は、表2にまとめられる。
【0031】
【0032】
図9を参照すると、FeNBフィルムの有効抵抗率は、ホウ素の含有量の増加(x=0、13、14、16、19)に伴って増加した。0.5GHzにおける透磁率は、400から450マイクロオームメートル(μΩm)の抵抗率の範囲で増加した。
【0033】
ガラス基板上のFeN/FeNB2層
Fe
66N
18B
16フィルムがガラス基板上に成膜され、次いで50nmの一定の厚さでFe
74N
26が成膜された。Fe
66N
18B
16フィルムの厚さは10から35nmの範囲であり、成膜時間とともに変化した。
図10は、nmで図に示されるように、Fe
66N
18B
16フィルムの厚さの変化に対するμ’(実線)及びμ”(破線)を示している。
【0034】
図10を参照すると、FeN(50nm)/FeNB(23nm)2層フィルムは、それぞれ、0.5GHzで1832の高い透磁率及び3.72×10
12のスニーク積を示した。FeN(50nm)/FeNB(23nm)2層フィルムは、1.5GHzで2313の高い透磁率を示した。FeNBフィルムの組成はEDXSによって、Fe
66N
18B
16であると測定された。異なる厚さのFeNB層を有するFeN/FeNB2層フィルムについての磁気測定結果は、表3にまとめられる。
【0035】
【0036】
実施例2:ホウ素が低含有量である、FeN/FeNB/ガラス2層フィルム構造
RFマグネトロンスパッタリングのパラメーター:
RFパワー=80から120W
成膜圧力=0.3から0.6パスカル(Pa)
ターゲットと基板との間の距離=8センチメートル(cm)
ワーキングガス:Ar、反応ガス:窒素
ターゲット:
鉄(99.5%)、2インチ円板
2.5×2.5mm2の2片のホウ素(99.5%)チップ
成膜時間:5から30分
成膜温度:室温
基板:光学ガラス
【0037】
この例において、FeNBフィルムがガラス基板に成膜され、続いて50nmの厚さのFeNフィルムがFeNBフィルムの上に、室温で成膜された。FeNBフィルムの厚さは成膜時間とともに変化し、FeNフィルムについては50nmの一定の厚さが維持された。
【0038】
ホウ素が低含有量である、FeN/FeNBフィルムの透磁率スペクトル
図11を参照して、FeNBフィルムは、EDXSで測定された、Fe
72N
18B
10の組成を有し、FeNはFe
74N
26の組成を有していた。
図11は、図にnmで示されるFe
66N
18B
10フィルムの厚さの変化に対するμ’(実線)及びμ”(破線)を示す。2層フィルム構造は、FeNBシード層の厚さが15nmから25nmまで増加するにつれて、透磁率が1207から1741まで増加することを示した。FeN/FeNBフィルムのスニーク積は、FeNBシード層の厚さが15nmから25nmまで増加するにつれて60%増加した。Fe
74N
26/Fe
72N
18B
102層フィルムについての磁気スペクトル測定結果は、表4にまとめられる。
【0039】
【0040】
FeN/FeNB/ガラス構造に関する、抵抗率と透磁率との関係(0.5GHz)
図12を参照して、FeN/FeNB/ガラスフィルムの有効抵抗率は、FeNBシード層の厚さに影響を受けた。抵抗率は、FeNBの厚さの増加とともに増加した。0.5GHzにおける透磁率は、460から490μΩmの抵抗率の範囲で増加した。
【0041】
実施例3:FeTaN/FeNB/ガラス2層構造
RFマグネトロンスパッタリングのパラメーター
RFパワー=80から120W
成膜圧力=0.3から0.6パスカル(Pa)
ターゲットと基板との間の距離=8センチメートル(cm)
ワーキングガス:Ar(99.5%)、反応ガス:窒素(99.0%)
ターゲット:
鉄(99.5%)、2インチ円板
5×5mm2の2片のホウ素(99.5%)チップ
成膜時間:5から30分
成膜温度:室温
基板:光学ガラス
【0042】
ガラス基板上の単層FeTaNフィルムの磁気特性及び透磁率
図13及び14を参照して、Fe
74Ta
6N
20単層フィルムについての磁気スペクトル測定結果は、表5にまとめられる。
【0043】
【0044】
ガラス基板上の2層FeTaN/FeNBフィルムの透磁率
図15を参照して、2層フィルム構造は、ガラス基板上に成膜されたFe
74Ta
6N
20及びFe
66N
18B
16フィルムを含んでいた。Fe
74Ta
6N
20/Fe
66N
18B
162層フィルムについての磁気スペクトル測定結果は、表6にまとめられる。
【0045】
【0046】
FeTaN/FeNB/ガラス構造について、抵抗率と透磁率との関係(0.5GHz)
図16を参照して、FeNB/FeTaNフィルムの有効抵抗率は、FeNB層の厚さによって影響を受けた。有効抵抗率は、FeNBの厚さが60nmから75nmに増加するにつれて、438μΩmから489μΩmまで増加した。高い透磁率が、430から460μΩmの抵抗率の範囲で示された。
【0047】
実施例4:ホウ素が低含有率である、FeTaN/FeNB/ガラス2層フィルム構造
RFマグネトロンスパッタリングのパラメーター:
RFパワー=80から120W
成膜圧力=0.3から0.6パスカル(Pa)
ターゲットと基板との間の距離=8センチメートル(cm)
ワーキングガス:Ar(99.5%)、反応ガス:窒素(99.0%)
ターゲット:
鉄(99.5%)、2インチ円板
5×5mm2の2片のホウ素(99.5%)チップ
1片のタンタル(99.99%)(5×5mm2)
成膜時間:5から30分
成膜温度:室温
基板:光学ガラス
【0048】
B濃度の低いFeTaN/FeNBフィルムの透磁率スペクトル
図17を参照して、FeTaNフィルムは、EDXSで測定してFe
74Ta
6N
20の組成を有し、FeNBはFe
72N
18B
10の組成を有していた。
図17は、図でnmで示されるFe
72N
18B
10フィルムの厚さの変化に対するμ’(実線)及びμ”(破線)を示す。ガラス基板上のFe
74Ta
6N
20/Fe
72N
18B
102層フィルムについての磁気スペクトル測定結果は、表7にまとめられる。
【0049】
【0050】
実施例5:FeNB/FeN/FeNB/ガラス3層構造
RFマグネトロンスパッタリングのパラメーター:
RFパワー=80から120W
成膜圧力=0.3から0.6パスカル(Pa)
ターゲットと基板との間の距離=8センチメートル(cm)
ワーキングガス:Ar(99.5%)、反応ガス:窒素(99.0%)
ターゲット:
鉄(99.5%)、2インチ円板
5×5mm2の2片のホウ素(99.5%)チップ
1片のタンタル(99.99%)(5×5mm2)
成膜時間:5から30分
成膜温度:室温
基板:光学ガラス
【0051】
FeNB/FeN/FeNB構造の抵抗率
図18を参照して、3層フィルムの有効抵抗率は、4つのプローブで、V.D.パウ(V.D.Pauw)法によって測定された。3層フィルムの合計の厚さが55から125nmになるにつれて、抵抗率は291μΩmから485μΩmに増加した。Fe
72N
18B
10/Fe
82N
18/Fe
72N
18B
103層フィルムについてのフィルムの厚さ及び抵抗率の詳細は、表8に示される。
【0052】
【0053】
FeNB/FeN/FeNB/ガラス構造の透磁率
図19を参照して、FeN中間層について50nmの厚さが固定され、最上層及び最下層のFeNB層の厚さが変更された。
図19は、図にnmで示される、最上層及び最下層のFeNBフィルムの厚さの変化に対するμ’(実線)及びμ”(破線)を示す。透磁率(0.5GHzにおける)及びスニーク積の増加は、それぞれFeNB(20nm)/FeN(50nm)/FeNB(25nm)構造に関して995及び2.16であった。FeNB(20nm)/FeN(50nm)/FeNB(25nm)構造の透磁率は、FeNB(25nm)/FeN(50nm)/FeNB(25nm)構造よりも約50%高かった。Fe
72N
18B
10/Fe
82N
18/Fe
72N
18B
103層フィルムについての磁気スペクトル測定結果は、表9に示される。最終行は、参照サンプルの詳細を含む。
【0054】
【0055】
実施例6:FeNB/FeTaN/FeNB/ガラス3層構造
RFマグネトロンスパッタリングのパラメーター:
RFパワー=80から120W
成膜圧力=0.3から0.6パスカル(Pa)
ターゲットと基板との間の距離=8センチメートル(cm)
ワーキングガス:Ar(99.5%)、反応ガス:窒素(99.0%)
ターゲット:
鉄(99.5%)、2インチ円板
2.5×2.5mm2の2片のホウ素(99.5%)チップ
1片のタンタル(99.99%)(5×5mm2)
成膜時間:5から30分
成膜温度:室温
基板:光学ガラス
【0056】
FeNB/FeTaN/FeNB構造の抵抗率
図20を参照して、有効抵抗率は、3層FeNB/FeTaN/FeNBフィルムの合計厚さの増加とともに増加した。有効抵抗率は、70から125nmの合計厚さに関して391から496μΩmまで増加した。FeNB/FeTaN/FeNBフィルムの有効抵抗率は、FeNB/FeN/FeNBフィルムのそれよりも約5%高かった。Fe
72N
18B
10/Fe
83Ta
6N
11/Fe
72N
18B
103層構造についてのフィルム厚さ及び抵抗率の詳細は、表10に示される。
【0057】
【0058】
FeNB/FeTaN/FeNB/ガラス構造の透磁率
図21を参照して、FeNB及びFeTaN層の厚さは20nmから50nmまで変更した。
図21は、図にnmで示される最上層、中間層及び最下層FeNBフィルムの厚さの変化に対するμ’(実線)及びμ”(破線)を示す。透磁率(0.5GHzにおける)及びスニーク積の増加は、それぞれFeNB(20nm)/FeTaN(25nm)/FeNB(25nm)構造に関して545及び1.14であった。FeNB(20nm)/FeTaN(25nm)/FeNB(25nm)構造の透磁率は、FeNB(20nm)/FeN(50nm)/FeNB(25nm)構造のそれ(すなわち、995)より約45%低かった。Fe
72N
18B
10/Fe
72Ta
18N
10/Fe
72N
18B
103層フィルムについての磁気スペクトル測定結果は、表11にまとめられる。最後の行は、参照サンプルの詳細を含む。
【0059】
【0060】
実施例7:FeN,FeNB,FeTaN/TaN/ガラス2層構造
RFマグネトロンスパッタリングのパラメーター:
RFパワー=80から120W
成膜圧力=0.3から0.6パスカル(Pa)
ターゲットと基板との間の距離=8センチメートル(cm)
ワーキングガス:Ar(99.5%)、反応ガス:窒素(99.0%)
ターゲット:
鉄(99.5%)、2インチ円板
2.5×2.5mm2の2片のホウ素(99.5%)チップ
1片のタンタル(99.99%)(5×5mm2)
成膜時間:5から30分
成膜温度:室温
基板:光学ガラス
【0061】
FeN/TaN/ガラス構造の透磁率
図22を参照して、非磁性TaNフィルムは、50nmFeNフィルムの成膜のシード層であった。
図22は、図にnmで示されるTaNフィルムの厚さの変化に対するμ’(実線)及びμ”(破線)を示す。非磁性TaNシード層の厚さは15から30nmまで変化した。TaN層の厚さが約20nmのときの増加した透磁率及びスニーク積は、0.5GHzで716及び1.53であった。FeN(50nm)/TaN(20nm)/ガラス構造の透磁率は、FeN(50nm)/FeTaN(10nm)/ガラス構造のそれ(すなわち、892)より約20%低かった。磁性シード層は、非磁性シード層(例えばTaN)よりも高い周波数透磁率となった。Fe
82N
18/Ta
88N
122層フィルムの磁気スペクトル測定結果は、表12にまとめられる。最後の行は、参照サンプルの詳細を含む。
【0062】
【0063】
FeNB/TaN/ガラス構造の透磁率
図23を参照して、非磁性TaNシード層の厚さは10nmから25nmまで変化した。
図23は、図にnmで示されるTaNフィルムの厚さの変化に対するμ’(実線)及びμ”(破線)を示す。TaNシード層の厚さが約20nmのときの増加した透磁率及びスニーク積は0.5GHzで937及び1.76であった。FeN(50nm)/TaN(20nm)/ガラス構造の透磁率は、FeNB(50nm)/FeTaN(20nm)/ガラス構造のそれ(すなわち、1386)より約32%低かった。FeN(50nm)/TaN(20nm)/ガラス構造の透磁率は、FeN(50nm)/TaN(20nm)/ガラス構造のそれより約24%高かった(すなわち、716)。磁性シード層は、非磁性シード層よりも高い透磁率を示した。Fe
72N
18B
10/Ta
88N
122層フィルムの磁気スペクトル測定結果は、表13にまとめられる。最後の2行は、参照サンプルの詳細を含む。
【0064】
【0065】
FeTaN/TaN/ガラス構造の透磁率
図24を参照して、磁性最上層であるFeTaN層の厚さは50nmに固定された。
図24は、図にnmで示されるTaNフィルムの厚さの変化に対するμ’(実線)及びμ”(破線)を示す。非磁性TaN層の厚さは10nmから25nmまで変化した。TaN層の厚さが約20nmのときの増加した透磁率及びスニーク積は0.5GHzで832及び1.63であった。FeTaN(50nm)/TaN(20nm)/ガラス構造の透磁率は、FeTaN(50nm)/FeNB(20nm)/ガラス構造のそれ(すなわち、1386)よりも約38%低かった。FeTaN(50nm)/TaN(20nm)/ガラス構造の透磁率は、FeN(50nm)/TaN(20nm)/ガラス構造のそれ(すなわち、716)よりも約14%高かった。Fe
83Ta
6N
11/Ta
88N
122層フィルムの磁気スペクトル測定結果は、表14にまとめられる。最後の行は、参照サンプルの詳細を含む。最後の2行は、参照サンプルの詳細を含む。
【0066】
【0067】
実施例8:FeN系またはFeTaN系多層構造の透磁率及びスニーク積ダイアグラム
FeN系構造の透磁率(0.5GHzにおける)及びスニーク積ダイアグラム
図25を参照して、単層フィルム、2層フィルム及び3層構造について、FeN系フィルムの0.5GHzにおける透磁率ダイアグラムが提供される。約1800の増加した透磁率が、20~25nmFeNBシード層を有する2層フィルムで観察された。
【0068】
図26を参照して、単層フィルム、2層フィルム及び3層フィルムについて、FeN系フィルムのスニーク積ダイアグラムが提供される。20~25nmのFeNBシード層を有する2層フィルムで、約2.0~3.5×10
12の増加したスニーク積が観察された。
【0069】
FeTaN系構造の透磁率(0.5GHzにおける)及びスニーク積ダイアグラム
図27を参照して、単層フィルム、2層フィルム及び3層フィルムについてFeTaN系フィルムの透磁率ダイアグラムが提供される。20~25nmのFeNBシード層を有する2層フィルムにおいて、約1300の増加した透磁率が観察された。
【0070】
図28を参照して、単層フィルム、2層フィルム及び3層構造について、FeTaN系フィルムのスニーク積ダイアグラムが提供される。20~25nmのFeTaNまたはFeNBシード層を有する2層フィルムにおいて、約2.0×10
12の増加したスニーク積が観察された。
【0071】
多層磁気フィルム、これを備える物品及びその製造方法のいくつかの態様を以下に説明する。
【0072】
態様1:多層磁気フィルムであって、
基板と、
前記基板上に配置された第1の磁気層であって、前記第1の磁気層がFe(50-80)N(10-20)B(1-20)M(0-10)を含み、MがSi、Ta、Zr、Ti、Coまたはそれらの組み合わせである、第1の磁気層と、
前記第1の磁気層の上に配置された第2の磁気層であって、前記第2の磁気層がFe(50-90)N(10-50)またはFe(60-90)N(1-10)Ta(5-30)を含む、第2の磁気層と、を含み、
前記多層磁気フィルムが、50MHzから10GHzの周波数範囲にわたって、好適には100MHzから5GHzの周波数範囲にわたって、より好適には1から5GHzの周波数範囲にわたって、
前記周波数範囲のうち選択された周波数帯域にわたって、好適には1から10GHzの周波数帯域にわたって1800以上、好適には2000超、より好適には3000超、または1800から5000の透磁率と、
前記周波数範囲のうち選択された周波数帯域にわたって、好適には1から10GHzの周波数帯域にわたって0.3以下、好適には0.1以下、または0.01から0.3の磁気損失正接と、
1GHz以上、または2GHz以上、好適には5GHz、または1から8GHzのカットオフ周波数と、を有する、
多層磁気フィルム。
【0073】
態様2:前記基板がガラス、ポリマー、またはセラミック、好適にはセラミックを含む、態様1に記載の多層磁気フィルム。
【0074】
態様3:前記第1の磁気層が10から100ナノメートルの厚さを有し、
第2の磁気層が10から400ナノメートルの厚さを有する、態様1または2に記載の多層磁気フィルム。
【0075】
態様4:前記第2の層の上に配置された、Fe(50-80)N(10-20)B(1-20)を含む追加的な第1の層と、
前記追加的な第1の磁気層の上に配置されたFe(50-90)N(10-50)またはFe(60-90)N(1-10)Ta(5-30)を含む追加的な第2の磁気層と、をさらに含む、態様1から3のいずれか一項に記載の多層磁気フィルム。
【0076】
態様5:前記追加的な第2の磁気層の上に交互に配置された、さらなる追加的な第1及び第2の磁気層を含む、態様4に記載の多層磁気フィルム。
【0077】
態様6:前記第1の磁気層及び前記第2の磁気層が、合計で20から500ナノメートルの厚さを有する、態様4または5に記載の多層磁気フィルム。
【0078】
態様7:態様1から6のいずれか一項に記載の多層フィルムを含む物品であって、好適には前記物品がフィルター、トランス、インダクター、アンテナ、電子集積回路チップまたは電磁遮蔽デバイスである、物品。
【0079】
態様8:前記物品が電子デバイスの構成要素、好適には携帯電話、デスクトップコンピューター、ラップトップコンピューター、ノートブックコンピューター、無線またはLANネットワーク、電源、増幅器、電圧制御オシレーター、シュリンクパワーコンバーター、より好適には集積電子デバイスの構成要素である、態様7に記載の物品。
【0080】
態様9:態様1から6のいずれか一項に記載の多層磁気フィルムを形成する方法であって、
前記基板の一側に前記第1の磁気層を成膜する段階と、
前記第1の磁気層の前記基板とは反対側の一側に前記第2の磁気層を成膜する段階と、を含む、方法。
【0081】
態様10:前記成膜が、rf/DCスパッタリング、電子ビーム成膜またはそれらの組合せを含む、態様9に記載の方法。
【0082】
態様11:前記第2の層の前記第1の層とは反対側の一側に追加的な第1の層を成膜する段階をさらに含む、態様10に記載の方法。
【0083】
態様12:前記追加的な第1の層の、前記第2の層とは反対側の一側に追加的な第2の層を成膜する段階をさらに含む、態様11に記載の方法。
【0084】
態様13:前記多層磁気フィルムの前記磁気損失正接、前記多層磁気フィルムの磁気異方性、またはその両方を調整するために各層の厚さを調整する段階を含む、態様9から12のいずれか一項に記載の方法。
【0085】
態様14:態様9から13のいずれか一項に記載の方法によって形成された多層磁気フィルム。
【0086】
本明細書で使用されるように「フィルム」は、平面層、シートなどを、その他の3次元非平面形態とともに含む。層はさらに、巨視的に連続または不連続でありうる。本明細書で使用されるように、「ある」、「その」及び「少なくとも1つの」は、文脈がそうでないことを明確に示さない限り、量の限定を意味するのではなく、単数及び複数の両方をカバーすることを意図される。例えば、「ある要素」は、文脈がそうでないことを明確に示さない限り、「少なくとも1つの要素」と同じ意味を有する。「または」は、「及び/または」を意味する。本明細書で開示される範囲は、記載されているエンドポイントを含み、独立に組み合わせることが可能である。「組合せ」は、ブレンド、混合物、合金、反応生成物などを含む。また、「それらの組合せ」は、リストが各要素を個別に含むだけでなく、リストの2つ以上の要素の組み合わせや、リストの少なくとも1つの要素と名前のない類似の要素との組み合わせを含むことを意味する。「第1の」、「第2の」などの用語は、本明細書ではいかなる順序も、量も、重要性も意味せず、1つの要素を別の要素から区別するために使用される。特徴の特定の組み合わせが本明細書で説明されたが、これらの特定の組み合わせは例示の目的のためであるだけであり、これらの特徴のいずれかの任意の組み合わせが、明示的にまたは同等に、個別にまたは本明細書で開示された任意の他の特徴と組み合わせて、任意の組み合わせで、全て実施形態に従って採用することができる。そのような組み合わせのいずれか及びすべては、本明細書で想定されており、本開示の範囲内であると考えられる。そうでないと明言されない限り、試験規格は出願日時点で最新である。
【0087】
同一の成分または特性を対象としたすべての範囲のエンドポイントは、エンドポイントを含み、独立して組み合わせることができ、全ての中間点及び範囲を含む。例えば、「最大25、または5から25」という範囲は、エンドポイント及び、10から23などの「5から25」の範囲の全ての中間値を含む。
【0088】
特に定義されていない限り、本明細書で使用される技術的及び科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されているのと同じ意味を有する。引用された全ての特許、特許出願及びその他の文献は、参照により本明細書に完全に組み込まれている。しかし、本出願における用語が、組み込まれた文献における用語と矛盾または対立する場合、本出願における用語が、組み込まれた文献の矛盾する用語に優先する。
【0089】
本開示は、例示的な実施形態を参照して説明してきたが、本開示の範囲を逸脱することなく、様々な変更が可能であり、その要素について等価物が代替されうることは当業者には理解されるであろう。さらに、本開示の本質的な範囲を逸脱することなく、特定の状況または材料を教示に適合させるために多くの変更を行うことができる。したがって、本開示は、本開示を実施するために企図された最良または唯一のものとして開示された特定の実施形態に限定されるものではなく、本開示は、添付の特許請求の範囲内に入る全ての実施形態を含むことが意図される。また、図面及び説明において、例示的な実施形態が開示されており、特定の用語が採用されている場合があるが、特に記載のない限り、一般的かつ説明的な意味でのみ使用されており、限定を目的としたものではない。
【符号の説明】
【0090】
10 多層磁気フィルム
12 基板
14 第1の磁気層
16 第2の磁気層