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特許74775116-アミノカプロン酸からイプシロンカプロラクタムを製造するプロセス
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  • 特許-6-アミノカプロン酸からイプシロンカプロラクタムを製造するプロセス 図1
  • 特許-6-アミノカプロン酸からイプシロンカプロラクタムを製造するプロセス 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】6-アミノカプロン酸からイプシロンカプロラクタムを製造するプロセス
(51)【国際特許分類】
   C07D 223/10 20060101AFI20240423BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240423BHJP
【FI】
C07D223/10
C07B61/00 300
【請求項の数】 30
(21)【出願番号】P 2021534747
(86)(22)【出願日】2019-12-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-21
(86)【国際出願番号】 IB2019061270
(87)【国際公開番号】W WO2020136547
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-10-06
(31)【優先権主張番号】102018000021409
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】521262172
【氏名又は名称】アクアフィル ソシエタ ペル アチオニ
【氏名又は名称原語表記】AQUAFIL S.P.A.
(73)【特許権者】
【識別番号】510199890
【氏名又は名称】ジェノマティカ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100177426
【弁理士】
【氏名又は名称】粟野 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】ミケーレ チェチェット
(72)【発明者】
【氏名】アナクレト ダル モロ
(72)【発明者】
【氏名】ラウリ ハンヌンポイカ スオミネン
(72)【発明者】
【氏名】マイケル ジャップス
【審査官】阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第4599199(US,A)
【文献】米国特許第3485821(US,A)
【文献】特公昭46-31539(JP,B1)
【文献】特表2013-515050(JP,A)
【文献】特表2002-518477(JP,A)
【文献】Ind. Eng. Chem. Process Des. Dev.,1978年,Vol. 17, No. 1,pp. 9-16
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 223/10
C07D 201/00
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
6-アミノカプロン酸からイプシロンカプロラクタムを製造するプロセスであって、該プロセスは、
工程(i):6-アミノカプロン酸を含む出発物質を、工程(ii)の環化の準備のために前処理し、これにより、前記工程(ii)での環化反応を促進させるために、前記出発物質が前記工程(ii)の環化反応器内の温度またはその近傍に予備加熱される工程と;
工程(ii):前記工程(i)で得た前処理された前記出発物質を、制御された流速で環化反応器に供給し、触媒の存在下で、前記出発物質を過熱蒸気の一定の流れに連続的に接触させる工程であって、6-アミノカプロン酸のイプシロンカプロラクタムへの環化が生じ、イプシロンカプロラクタムおよび水を含む混合蒸気のストリームストリッピングが、前記過熱蒸気により連続的に生じ、前記環化反応器は、環化および蒸気ストリッピングに有利な圧力および温度にある工程と;
工程(iii):前記工程(ii)からのイプシロンカプロラクタムと水とを含む前記混合蒸気を凝縮させて、イプシロンカプロラクタムの水溶液を得る工程と、を含み、
前記工程(i)において、前記出発物質は、6-アミノカプロン酸の濃度が前記出発物質の総量(total mass)に対して少なくとも50重量%である水溶液の形態の6-アミノカプロン酸を含むか、または
前記工程(i)において、前記出発物質は、単離された粉末の形態の6-アミノカプロン酸含み、前記出発物質がプレメルター内で210~260℃の温度に加熱され、これにより水を含まない溶融6-アミノカプロン酸が得られ、次いで前記工程(ii)の環化反応器に供給される、
プロセス。
【請求項2】
前記工程(i)の前記前処理の温度の範囲が170~260℃である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記工程(i)の前記前処理の前記温度の範囲が190~200℃である、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記工程(i)において前記蒸気の生成により圧力が8~10バールに上昇する、請求項1~3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記水溶液が前記工程(ii)の環化反応器に供給されると、前記前処理した水溶液中の水がただちにフラッシュして蒸気に変換される条件になるまで、前記水溶液がこれらの条件に維持される、請求項1~4のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記水溶液が、前記条件に少なくとも30分間維持される、請求項1~5のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記工程(i)からの前処理された出発物質が前記環化反応器に供給される前に、前記環化反応器が、始動段階のために、カプロラクタム溶液および触媒の初期投入を前記環化反応器に供給することによって、環化および蒸気ストリッピングに有利な圧力および温度に設定される、請求項1~6のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記初期投入の量に対して計算した前記初期投入中の前記触媒の濃度が3~4重量%である、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
前記環化反応器が、大気圧、またはわずかに高圧、すなわち1.0~1.5バールの範囲、好ましくは大気圧にあり、かつ220~350℃の範囲の温度にある、請求項1~8のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項10】
前記過熱蒸気の温度の範囲が300~450℃である、請求項1~9のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記過熱蒸気が、前記環化反応器の下部に配置された環状の蒸気噴出口群を通して連続的に供給される、請求項1~10のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項12】
前記触媒が、前記環化反応器内の総量に対する計算で1~10重量%の量で前記環化反応器内に存在する、請求項1~11のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項13】
前記触媒が、前記環化反応器内の総量に対する計算で1~8重量%の量で前記環化反応器内に存在する、請求項1~12のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項14】
前記触媒が、前記環化反応器内の総量に対する計算で3~4重量%の量で前記環化反応器内に存在する、請求項1~13のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項15】
前記反応器から採取した反応物(reaction mass)のサンプルの周期的な化学的分析に基づいて新たな触媒を周期的に添加することによって、前記環化反応器内に前記触媒が必要量で維持され、
前記反応器内の前記触媒の濃度が2重量%を下回ると新たな触媒が添加される、請求項1~14のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項16】
前記触媒が、
前記プロセス条件下で強酸基-P-OHを供給可能な、リン酸、亜リン酸、短鎖ポリリン酸、アンモニウムリン酸、および金属塩を含む任意のリン酸塩;
ホウ酸およびその塩;
パラトルエンスルホン酸およびその塩;
リンタングステン酸、から選択される、請求項1~15のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項17】
前記触媒が、
リン酸および短鎖ポリリン酸;
リン酸一アンモニウム、リン酸二アンモニウム、およびリン酸三アンモニウム;
リン酸一ナトリウムおよびリン酸一カリウム;
ホウ酸およびそのモノアンモニウム塩;
p-トルエンスルホン酸およびそのモノアンモニウム塩;
リンタングステン酸、から選択される、請求項16に記載のプロセス。
【請求項18】
前記触媒がリン酸である、請求項16に記載のプロセス。
【請求項19】
前記工程(ii)における過熱蒸気の流速が、前記環化反応器を出る蒸気中のカプロラクタムに対する水の比が65~35w/w範囲に確実に維持されるようにする範囲にある、請求項1~18のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項20】
前記過熱蒸気の流速の範囲が、前記環化反応器に入る6-アミノカプロン酸1kgあたり1.3~1.8kgである、請求項19に記載のプロセス。
【請求項21】
前記工程(iii)において、前記イプシロンカプロラクタム水溶液の濃度が付加的に増加される、請求項1~20のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項22】
前記凝縮および濃縮が凝縮・精溜塔で同時に行われ、
気相よりもカプロラクタムに富む濃度のイプシロンカプロラクタムの水溶液が、前記凝縮・精溜塔の下部で収集され、低圧蒸気が前記凝縮・精溜塔の上部で収集される、請求項1~21のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項23】
前記カプロラクタム溶液の濃度の範囲が25~85重量%である、請求項22に記載のプロセス。
【請求項24】
前記凝縮・精溜塔が大気圧で作動し、温度プロファイルが前記塔の下部で115~125℃の範囲に、前記塔の上部で約100~102℃の範囲にそれぞれ維持される、請求項1~23のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項25】
前記工程(ii)の前記環化反応器から送られるカプロラクタムおよび水の蒸気を凝縮させることによって回収される水凝縮熱が、プラント設備で再利用される、請求項1~24のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項26】
前記濃縮に必要な熱が、前記工程(ii)における前記蒸気から供給される、請求項1~25のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項27】
6-アミノカプロン酸が、従来の石油化学プロセス、または6-アミノカプロン酸に多量の炭水化物が含まれる生化学プロセスのいずれかから得られる、請求項1~26のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項28】
6-アミノカプロン酸中の前記炭水化物の濃度が、前記6-アミノカプロン酸の量(mass)に対して最大15重量%である、請求項27に記載のプロセス。
【請求項29】
前記6-アミノカプロン酸中の炭水化物の濃度が、前記6-アミノカプロン酸の量に基づき、12.5重量%、10重量%、5重量%、4重量%、3.5重量%、3.4重量%、3重量%、2重量%または1重量%以上、かつ15重量%、12.5重量%、10重量%、5重量%、4重量%以下の炭水化物を含む、請求項27に記載のプロセス。
【請求項30】
前記プロセスが、バッチ式または連続式で行われる、請求項1~29のいずれか1項に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願に至るプロジェクトは、欧州連合(EU)のホライゾン2020研究・イノベーションプログラムの下、助成金契約第792195号の下で、新バイオ産業共同事業(Bio-based Industries Joint Undertaking:JU)から資金提供を受けたものである。JUは、欧州連合のホライゾン2020研究・イノベーションプログラムおよびバイオ産業コンソーシアム(Bio Based Industries Consortium)から支援を受けている。
【0002】
本発明は、6-アミノカプロン酸(6-ACA)からイプシロンカプロラクタム(CPL)を製造するための新しいプロセスであって、6-アミノカプロン酸が、ナイロン6を合成するためのモノマーであるイプシロンカプロラクタムに変換されるプロセスに関する。本プロセスは、石油系原料から、または第1世代および/もしくは第2世代のタイプなどの糖類、すなわちバイオベースの6-ACAのような再生可能な原料から製造される、6-アミノカプロン酸を含む出発物質に適している。得られる最終生成物はオリゴマーを含まないイプシロンカプロラクタムの水溶液であり、従来法によって(すなわち「ベックマン転位」として知られる反応によって)得られるイプシロンカプロラクタムの特性に相当する特性を備える。さらに、本提案のプロセスにより、6‐アミノカプロン酸をナイロン6モノマーに変換する反応時間が短縮され、エネルギーの大きな節約が可能となり、工業規模の生産に有利である。このように製造されたイプシロンカプロラクタムの溶液をさらに公知の精製工程に供して、ナイロン6の重合に適したモノマーを得ることができる。
【背景技術】
【0003】
カプロラクタムは6-アミノカプロン酸(別名6-ACAまたは6-アミノヘキサン酸)のラクタムである。カプロラクタムは、一般にナイロン6として知られるポリアミド6の製造に使用されるモノマーであるので、その製造と精製とは関連性が極めて高い。
【0004】
カプロラクタムは、一般に「ベックマン転位」として知られる反応によって得られ、この反応により、液体状態のシクロヘキサノンオキシムが、硫酸/SOの混合物(すなわちオレウム)によってカプロラクタムに変換される。アンモニアで中和し、硫酸アンモニウム塩を分離した後、得られたカプロラクタム溶液をさらに公知の精製工程に供して、重合してナイロン6とするのに適したモノマーを得る。
【0005】
6-アミノカプロン酸もしくは6-アミノカプロアミドもしくは6-アミノカプロエートエステル、またはそれらの混合物からカプロラクタムを製造する異なるプロセスについて記載した文献が存在する。
【0006】
特許文献1は、6-アミノカプロン酸、6-アミノカプロン酸エステルもしくは6-アミノカプロアミド、またはそれらの混合物を過熱蒸気の存在下で処理することによりイプシロンカプロラクタムを調整するプロセスを記載しており、イプシロンカプロラクタムを含む気体混合物が得られることを報告している。このプロセスは、触媒なしで、250~400℃の温度および0.5~2MPaの圧力(すなわち大気圧より加圧)で実施される。
【0007】
特許文献2は、6-アミノカプロン酸または6-アミノカプロアミドおよび水またはこれらの水溶液と加熱することによってカプロラクタムが生成され、その際、出発物質の濃度が、5重量%~25重量%であり、温度が150~350℃であることを報告している。同文献は、カプロラクタムが、高い変換率で実質的にポリマーの混入物がなく定量的な収率で製造されると報告している。しかしながら、提案されているプロセスは、低濃度の出発物質に適しており、したがって工業的に効率的ではなく、さらに、6-アミノカプロン酸が完全にナイロン6モノマーに変換されるわけでもない。
【0008】
特許文献3は、ε-アミノカプロン酸を、触媒の存在下で高温の蒸気で処理することによりカプロラクタムが得られることを報告しており、このプロセスでは、ε-アミノカプロン酸を、粒径0.2~1mmのガンマアルミナが特に有用な触媒であるアルミナ流動床に導入し、290℃~400℃の蒸気の存在下で処理することが報告されている。
【0009】
特許文献4は、反応条件下で液体であり、カプロラクタムよりも高い沸点を有する不活性反応媒質の存在下で、6-アミノカプロン酸、もしくはそのエステルもしくはアミドまたはそれらの混合物を加熱することによりカプロラクタムを調製することを報告しており、主張されている改善点は、炭化水素を反応媒質として使用し、150℃~350℃の温度に維持し、6-アミノカプロン酸、もしくはそのエステルもしくはアミドまたはそれらの混合物を、その変換速度に釣り合う速度で投入し、カプロラクタムをその生成速度に釣り合う速度で分離することを含むことを報告している。このプロセスは減圧を用いる。液体炭化水素、例えば鉱油分画である不活性反応媒質と共に、酸触媒も付加的に用いることが提案されている。
【0010】
特許文献5においては、当時は主要な問題点であった硫酸アンモニウムの生成を伴わない、イプシロンカプロラクタムの調製のための新しいプロセスを開発することが技術的課題であった。当該特許は、好ましくは不揮発性の酸触媒を用いて150~400℃の温度で蒸気状の6-アミノカプロン酸またはカプロアミドと接触させることによりカプロラクタムを製造することを報告している。記載されている実験はすべて、数グラムの材料を用いた実験室規模で行われたものである。その実施例から分かるように、6-アミノカプロン酸の水溶液を含む出発物質を使用した場合は、30重量%超の濃度は報告されておらず、単離された形態の6-アミノカプロン酸を含む出発物質を使用した場合は、大気圧またはわずかに減圧を使用した際には収率が常に90%を下回っていたことが報告されている。収率は、加圧下でのみわずかに増加したことが報告されているものの、6-アミノカプロン酸は、本明細書に記載の本発明に係るプロセスのように効率的にはナイロン6モノマーに変換されていない。限られた実験室での小規模の実験を含む上述の事実を考慮すると、特許文献5に報告されているプロセスは、科学文献のものに近いと考えるべきであり、実際の工業規模でのその使用は実証されていない。
【0011】
上記の環化プロセスの欠点を考慮すると、イプシロンカプロラクタムの工業的調製のための効率的な方法が依然として求められている。前述のプロセスは、低濃度の6-ACA(一般に、出発物質の総量(total mass)に対して30重量%以下、より頻繁には約10%の6-ACAを含有する水溶液)を必要とし、これらプロセスは、高温および/もしくは加圧および/もしくは減圧(大気圧より加圧もしくは低圧)の使用、あるいは/または通常は金属もしくは金属酸化物もしくは不均一触媒である触媒の使用、あるいは/または有機溶媒の使用を必要とする。特許文献5に記載されているように触媒を使用しても、報告されている収率は100%を大きく下回る、一般に70~80%のレベルであり、回収される最終生成物に、未変換の6-アミノカプロン酸およびそのオリゴマーが、他の多くの未知の副生成物と共に高いレベルで存在することが報告されている。6-アミノカプロン酸が、本明細書に記載される本発明に係るプロセスのようにナイロン6モノマーに完全に変換されることはない。
【0012】
より最近では、6-ACAは、従来の石油化学プロセスから工業的に入手可能であり、かつ再生可能な原料、すなわちバイオベースの6-ACAからも入手可能である。例えば、特許文献6および特許文献7には、酵素の存在下で6-アミノカプロン酸を調製するためのプロセスが開示されている。
【0013】
特許文献8には、発酵プロセスで得られる6-アミノカプロン酸を含む出発物質から過熱蒸気の存在下でカプロラクタムを調製することが開示されている。この出願は、特許文献1または特許文献5に開示されているような調整プロセスの大幅な改善である。しかしながら、このプロセスは、出発物質中の6-アミノカプロン酸に対する炭水化物の重量比が0.03以下の場合に満足な収率を与える。炭水化物がこれより多く存在する場合の報告されている収率は70%未満である。さらに、このプロセスは、大気圧より高い圧力の使用を報告している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】米国特許第6194572号明細書
【文献】米国特許第3485821号明細書
【文献】米国特許第4599199号明細書
【文献】米国特許第4767856号明細書
【文献】米国特許第3658810号明細書
【文献】国際公開第2005/068643号
【文献】国際公開第2010/129936号
【文献】国際公開第2011/078668号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
6‐アミノカプロン酸の変換のための工業規模で使用可能なプロセスを提案することが、現在、重要となっており、かつ関心を集めている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
したがって、本発明の目的は、公知のプロセスの欠点を解消する、従来の石油化学プロセスから得ることができるか、または生化学プロセスから得ることができる6-アミノカプロン酸からイプシロンカプロラクタムを工業規模で製造するプロセスを提供することにある。生化学的プロセスから得られる6-アミノカプロン酸を出発物質に使用する場合、炭水化物由来のイプシロンカプロラクタムが生成される。したがって、本発明の別の目的は炭水化物由来のイプシロンカプロラクタムを調製するためのプロセスにあり、このプロセスでは、6-アミノカプロン酸を含有する混合物が、バイオマスを含む培地から回収され、培地が、バイオベースの6-ACAの製造時の発酵に由来する1以上の炭水化物および混入物を含む。本発明のさらに別の目的は、大気圧を使用して6-アミノカプロン酸からイプシロンカプロラクタムを製造するプロセスであって、これにより、6-アミノカプロラクタムが、出発物質の直鎖状6-ACAからでも、得られる環状イプシロンカプロラクタムからでもなく、最終製品、すなわちイプシロンカプロラクタムの水溶液中に多量のオリゴマーが形成されることなく、イプシロンカプロラクタムに変換される、好ましくは完全に変換されるプロセスを提供することにある。さらに、本提案のプロセスにより、6‐アミノカプロン酸をナイロン6モノマーに変換する反応時間が短縮され、エネルギーの大きな節約が可能となり、有機溶媒は用いず、工業規模の生産に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1において、矢印は生じうる反応を表し、k:6ACAの環化によるCPLの生成;k-1:CPLの開環(6ACAの生成);k:6ACAの重合によるオリゴマーの生成;k-2:オリゴマーの脱重合による6ACAの生成;k:CPLの重合によるオリゴマーの生成である。
図2図2は、6-アミノカプロン酸からイプシロンカプロラクタムを製造する本発明に係るプロセスのブロック図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を、以下により詳細に説明し、6-アミノカプロン酸からイプシロンカプロラクタムを製造する本発明に係るプロセスのブロック図を示す図2に図示する。
【0019】
6-アミノカプロン酸からイプシロンカプロラクタムを製造するプロセスであって、
・工程(i):6-アミノカプロン酸を含む出発物質を、工程(ii)の環化の準備のために前処理し、これにより、前記工程(ii)での環化反応を促進させるために、前記出発物質が前記工程(ii)の環化反応器内の温度またはその近傍に予備加熱される工程であって、この工程は、副生成物の形成および収率の低下を阻止する利点を提供することができる工程と;
・工程(ii):前記工程(i)で得た前処理された前記出発物質を、制御された流速で環化反応器に供給し、触媒の存在下で、前記出発物質を過熱蒸気の一定の流れに連続的に接触させる工程であって、6-アミノカプロン酸のイプシロンカプロラクタムへの環化が生じ、イプシロンカプロラクタムおよび水を含む混合蒸気のストリームストリッピングが、前記過熱蒸気により連続的に生じ、前記環化反応器は、環化および蒸気ストリッピングに有利な圧力および温度にある工程であって、これにより、前記6-アミノカプロラクタムが95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.9%以上または100%イプシロンカプロラクタムに変換され、イプシロンカプロラクタムと水とを含む前記混合蒸気がオリゴマーを含まない工程と;
-工程(iii):前記工程(ii)からのイプシロンカプロラクタムと水とを含む前記混合蒸気を凝縮させて、イプシロンカプロラクタムの水溶液を得て、該水溶液を、任意にさらに濃縮し、任意にさらに公知の方法に従って、例えば蒸留によって精製する。「オリゴマーを含まない」とは、オリゴマーの割合が、6-ACAのイプシロンカプロラクタムへの変換率に依存して、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%以下もしくは0%、または本明細書に記載の分析法によって検出不能であることを意味する。
【0020】
工程(i)での6-アミノカプロン酸を含む出発物質の前処理は、出発物質が環化工程(ii)に導入される前にこの工程で所望の温度に予備加熱されるので、有利である。したがって、工程(ii)での環化反応が促進され、前処理された出発物質が環化反応器に入るとほぼただちに始まる。出発物質の予備加熱により、6-アミノカプロン酸を含む出発物質が、前処理工程(i)を実施せずに環化工程(ii)に直接供給される場合に生じるような、環化反応が実際に開始するまでの時間的遅延がなくなる。別の利点としては、前処理により、環化反応器内部の直鎖状6-アミノカプロン酸の量を所望の値に維持するために、工程(i)から工程(ii)に供給される前処理された物質の流速を容易に制御でき、後述するような起こりうる副反応および収率の低下を阻止することが挙げられる。
【0021】
本提案のプロセスで使用される6-アミノカプロン酸を含む出発物質が、6-アミノカプロン酸の濃度が出発物質の総量(total mass)に対して少なくとも50重量%である6-アミノカプロン酸の水溶液の形態であるか、または出発物質が単離された粉末の形態の6-アミノカプロン酸を含むので、6-アミノカプロン酸を含む出発物質を前処理する方法は2とおり存在する。
図2に関し、6-アミノカプロン酸の濃度が出発物質の総量に対して少なくとも50重量%である水溶液の形態の6-アミノカプロン酸を含む出発物質の前処理である。少なくとも50重量%の濃度の6-アミノカプロン酸の水溶液が、好ましくは50~80℃の範囲の温度に保持されている貯蔵容器V2から、予備反応器R1aに投入される。別の実施形態では、上記の濃度の6-アミノカプロン酸水溶液を与える量の固体状態の6-アミノカプロン酸と水とが、予備反応器R1aに直接供給される。適切な予備反応器は、供給液の温度を所望の温度に昇温できる反応器であればどのようなものでもよく、好ましくは、反応器内に断熱的に隔離された系を提供する密閉断熱反応器である。次いで、上記出発物質が、工程(ii)の環化反応器内の温度またはその近傍に、好ましくは170~260℃の範囲の温度に、より好ましくは190~200℃の範囲の温度に予備加熱される。外部との物質交換はないので、蒸気が生成されて圧力が8~10バールに上昇する。上記の条件が満たされると、溶液が、これらの条件に少なくとも30分間保持される。このような調製された溶液において、水は、上記溶液が工程(ii)の環化反応器に供給されると、ただちにフラッシュして蒸気に変換される条件にある。出発物質は既に予備加熱されているので、工程(ii)での環化反応がほぼただちに始まる。すなわち、工程(ii)で6-アミノカプロン酸が環化反応を受ける前の6-アミノカプロン酸の滞留時間が最小限に抑えられ、起こりうる副生成物(主にオリゴマー)の形成および収率の低下が阻止される。
【0022】
直鎖状6-アミノカプロン酸から形成される存在しうる数種類のオリゴマーを含め、すべての直鎖状6-アミノカプロン酸が、直鎖状6-アミノカプロン酸自体と、存在しうるオリゴマーとの両方が、次の工程(ii)で大気圧下で環状カプロラクタムに容易に変換されるよう、これらの条件により確実に水に溶解される。
【0023】
前処理は、バッチモードで実施されても連続モードで実施されてもよい。連続プロセスの場合、水溶液の予備反応器に対する「入」および「出」の流れの調整は、上に定義した条件下の6-アミノカプロン酸の水溶液の滞留時間が少なくとも30分となるように維持すべきである。
【0024】
こうして得られた物質が、次工程(ii)で、環化が行われる環化反応器に移される。
予備反応器は、反応器内部の温度、圧力および酸の条件に耐えることができる適切な材料であれば、どのような材料から作製されてもよい。好ましくは、予備反応器は、ステンレス鋼製である。反応器内に出発物質を供給するための投入系が、好ましくは反応器の上部に設けられ、予備加熱された溶液を、配管によって工程(ii)の環化反応器内に制御された流速で給送するための排出口の開口が、好ましくは下部の側方に設けられる。気相が維持される反応器の上部は、圧力安全弁により接続されており、所定の限界を超える圧力上昇を回避する。予備加熱に必要な熱を供給するために、適切な手段によって、例えば、適切な加熱媒体を備えた加熱ジャケットまたは加熱コイルを介して、反応器が外部から加熱される。好ましい実施形態において、反応器の外壁が、加熱オイルを用いる外側ジャケットによって覆われる。
【0025】
必要に応じて、未溶解の出発物質の一部を濾過して除去するために、反応器の内部または排出口の開口内のいずれかに、着脱可能なフィルタが任意に設けられる。これは、主に、発酵プロセスに由来する数種類の残留物質、すなわち、バイオプロセスに由来する残留する再生可能な原料または他の6-アミノカプロン酸の混入物を含みうる出発物質に使用されるバイオベースの6-アミノカプロン酸の場合である。
【0026】
出発物質が単離された粉末の形態の6-アミノカプロン酸を含む場合の代替の前処理プロセスとして、前処理がプレメルターR1b内で行われる。単離された粉末の形態の6-アミノカプロン酸が、直接粉末として(例えば、スクリュー系を用いて)プレメルターに供給され、次いで6-アミノカプロン酸の融点よりも高い温度、すなわち205℃超の温度、好ましくは210~260℃の範囲の温度に予備加熱されて、水を含まない溶融6-アミノカプロン酸が得られる。プレメルターを加圧下に維持する必要はないが、その最終使用でカプロラクタムの品質に影響を及ぼしうる、空気の存在によってもたらされる望ましくない影響、すなわち、例えばバレラミド、アジピミドなどの不純物の酸化を阻止するため、窒素によるわずかな加圧が好ましい。好ましくは、出発物質は、プレメルターに連続的に供給することができ、工程(ii)の環化反応器に連続的に移される。
【0027】
こうして得られた物質が、次工程(ii)に、環化が行われる環化反応器に移される。
【0028】
好ましい実施形態において、出発物質は、6-アミノカプロン酸の濃度が、出発物質の総量(total mass)に基づいて少なくとも50重量%である水溶液の形態で6-アミノカプロン酸を含む。前述のように、上記6-アミノカプロン酸は、従来の石油化学プロセスから得ることも、または生化学プロセスから得ることもでき、後者の場合、バイオベースの6-ACAの製造時の発酵に由来する多量の炭水化物および他の混入物が6-アミノカプロン酸に含まれる。本提案のプロセスでは、上記6-アミノカプロン酸の出発物質は任意に、6-アミノカプロン酸の量(mass)に基づいて、12.5重量%、10重量%、5重量%、4重量%、3.5重量%、3.4重量%、3重量%、2重量%または1重量%以上、かつ15重量%、12.5重量%、10重量%、5重量%または4重量%以下の炭水化物を含んでよい。
【0029】
工程(ii)において、出発物質に含まれる6-アミノカプロン酸の環化は、環化反応器R2内で連続的に生じる。6-アミノカプロン酸を触媒の存在下で過熱蒸気流と接触させ、イプシロンカプロラクタムおよび水の混合蒸気が形成されて、過熱蒸気流と共に連続的に除去されるので、環化反応器は閉鎖系ではない。環化反応器は、大気圧、またはわずかに高圧、すなわち1.0~1.5バールの範囲下で、220~350℃の範囲の温度で作動される。好ましくは、環化反応器は、大気圧、またはわずかに高圧、すなわち1.0~1.5バールの範囲で作動される。過熱蒸気の温度は、好ましくは300~450℃の範囲に保持される。
【0030】
すなわち、環化反応器内には、多くの化学種が混合物で存在する可能性があるが、最も重要なのは、6-アミノカプロン酸(6ACA)、カプロラクタム(CPL)、オリゴマーの3つである。
これらは、図1に図示した反応によって互いに関連しており、図1において、矢印は生じうる反応を表す。
:6ACAの環化によるCPLの生成;
-1:CPLの開環(6ACAの生成);
:6ACAの重合によるオリゴマーの生成;
-2:オリゴマーの脱重合による6ACAの生成;
:CPLの重合によるオリゴマーの生成。
オリゴマーが脱重合してカプロラクタムに戻るには、6-アミノカプロン酸を経由する必要がある。
すべての反応が、反応速度は当然異なるものの同時に起こりうる。したがって、閉鎖系内では、反応器内に3種類の化学種すべてが共存している。
【0031】
また、カプロラクタムが6-ACAに戻る反応が以下の平衡によって規定されるので、反応物(reaction mass)中の液体の水(HO)の形成が最小化されるか、または好ましくは阻止されるように、環化反応器内部の条件を維持することが、利便性が高くかつ必要である。
【化1】

本提案のプロセスでは、環化反応器内の系は、環化反応器内に過熱蒸気を連続的に流し、かつ環化反応器からカプロラクタムおよび水の蒸気が連続的に除去されるために閉鎖系ではなく、このため、カプロラクタムを一定に除去することにより、カプロラクタムと直鎖状6-アミノカプロン酸との平衡が、連続的かつ完全に右に遷移する。このため、カプロラクタムの形成は速く、直鎖状6-アミノカプロン酸が好ましくは完全にカプロラクタムに変換される。
【0032】
環化反応器は、高温の強酸に耐える適切な材料であれば、どのような材料から作製されてもよい。好ましくは、環化反応器は、ステンレス鋼、例えばTi含有ステンレス鋼、またはハステロイまたはインコネルタイプなどの合金から作製される。
【0033】
環化反応器は、触媒、好ましくは酸性化合物の液体、より好ましくは濃縮水溶液を反応器に供給するための投入系、好ましくはノズルを備える。好ましくは、ノズルは、環化反応器の上部またはその近傍に設けられる。カプロラクタムおよび水の混合蒸気の排出口は、環化反応器の上部またはその近傍に設けられたパイプラインを経由して工程(iii)に案内される。主として、本プロセスでバイオベースの6-アミノカプロン酸を使用する場合に、有機物質の分解により生成しうる重質物および混入物に由来するスラッジ/タールを必要に応じて排出するための手段が、環化反応器の下部またはその近傍に任意に設けられる。
【0034】
環化プロセスに必要な熱を提供するために、適切な手段によって、例えば、適切な加熱媒体を備えた加熱ジャケットまたは加熱コイルを介して、反応器が好ましくは外部から加熱される。好ましい実施形態において、反応器の外壁が、加熱オイルを用いる外側ジャケットによって覆われる。
【0035】
環化反応器は、圧力を、大気圧、またはわずかに高圧、すなわち1.0~1.5バールの範囲に制御し保持するための安全弁をさらに備える。
当然、環化反応器が、連続的な温度測定、加熱、流量、レベルの制御などに必要な計器類をすべて備えてよい。
【0036】
環化反応器は、過熱蒸気のための投入および分配系をさらに備える。好ましい実施形態において、過熱蒸気は、環化反応器の上部のノズルを通って環化反応器に入り、反応器内部のパイプを通って、環化反応器の下部で作動している投入系に送られ、液体/溶融相および気相からなる混合物の均質かつ連続的な撹拌を可能にし、これを維持する。このため、円滑かつ制御された環化プロセスに必要な完全な均質系を提供し維持する混合物の連続的な撹拌が、過熱蒸気によって可能となるので、機械式の撹拌系は不要である。
【0037】
好ましい実施形態において、過熱蒸気が、環化反応器の下部に配置された環状の蒸気噴出口群を通して連続的に供給される。この配置により、環化反応器内部で撹拌が効率的に行われるようになる。
【0038】
好ましい実施形態において、予備反応器R1aで得られた溶液を環化反応器に供給する場合、上記溶液が、環化反応器の下部に設けられたノズル、好ましくは横型ノズルを通して環化反応器に供給される。すなわち、上記溶液は水を含み、環化反応器内部、好ましくは環化反応器の下部で、混合物中の水のフラッシュが常に発生する。
【0039】
別の実施形態では、プレメルターR1bからの溶融物質が環化反応器に供給される場合、溶融物質は水を含有せず、水のフラッシュが発生しないので、環化反応器の上部に設けられたノズルを通してこれが行われてよい。
【0040】
好ましくは、環化反応を円滑かつ制御可能に進行させるために、工程(i)からの6-アミノカプロン酸を含む前処理された出発物質を工程(ii)の環化反応器に供給する前に、環化反応器が、始動段階のために、作動条件、すなわち、選択された温度、過熱蒸気の選択された流れ、および選択された触媒濃度に設定される。
【0041】
始動段階では、カプロラクタム溶液および触媒の初期投入を、環化反応器に供給する。カプロラクタム溶液は、例えば、ナイロン6の脱重合で得られ、通常、カプロラクタム、水およびオリゴマーを含む。初期投入に含まれる触媒の量は、初期投入の量(mass)に対する計算で、1~10重量%、1~8重量%、好ましくは3~4重量%であり、好ましくは、工程(i)からの6-アミノカプロン酸を含む前処理された出発物質が環化反応器に供給される前に、独自のパイプラインおよび投入系によって工程(ii)の環化反応器に直接供給される。
【0042】
連続プロセスでは、この初期投入は、始動時、例えば、年に1回または2回以内のみ必要とされる。
【0043】
初期投入が投入された環化反応器が、大気圧、またはわずかに高圧、すなわち1.0~1.5バールの範囲下で、好ましくはアウタージャケット内のオイルおよび過熱蒸気の作用によって加熱される。環化反応器が作動条件、好ましくは約220~350℃の温度Tに達すると、環化反応器中の直鎖状6-アミノカプロン酸の量を低レベルに維持して副反応を阻止するために、工程(i)からの6-アミノカプロン酸を含む前処理された出発物質が、制御された流速で環化反応器に供給される。環化反応器内の温度を、選択された反応温度範囲に維持するよう、流速が制御され、理想的には反応の反応速度(kinetics)も一定に維持する目的で一定の値に制御される。この一定の流速は、施設で使用される環化反応器の容積に関して毎回規定され、環化反応器内部の温度低下が最小となるように規定すべきである。
【0044】
例えば、後述の実施例に記載するバッチパイロット試験では、前処理された6-アミノカプロン酸の水溶液を約15~30分かけて環化反応器に供給し(概算の流速は1~2kg溶液/分であった)、これにより温度は低下したものの、さらに15~30分時間が経過すると、環化反応器内の温度が元に戻り、選択された一定の値に維持された。
【0045】
しかし、前処理された6-アミノカプロン酸の水溶液の流速は、以下に記載する理由からあまり重要ではない。
【0046】
プロセスがバッチで行われる場合、環化反応器内部の物質(mass)中の直鎖状6-アミノカプロン酸の濃度は、6-アミノカプロン酸がカプロラクタムと水とに完全に変換されるまで、好ましくは、環化反応器内部の選択された条件、すなわち温度、過熱蒸気の流速および触媒濃度に依存して3.5~5.5時間の時間範囲で必ず低下する。
【0047】
プロセスが連続的に実施される場合、工程(ii)の環化反応器内部の選択された定常条件を維持する、すなわち、選択された温度、過熱蒸気の選択された流速、および選択された触媒濃度が、プロセスの反応速度(kinetics)に従った定常条件および一定の滞留時間を意味する一定レベルに維持されるよう、工程(i)から工程(ii)の環化反応器への6-アミノカプロン酸を含む出発物質の流速が、好ましくは制御される。
【0048】
さらに、反応器中の6-アミノカプロン酸の濃度が高すぎる場合(すなわち、工程(i)から環化反応器への前処理された物質の流速が高すぎる場合)、(k反応を経由して)オリゴマーの生成が生じる。反応器からのカプロラクタムの一定の除去により、6-アミノカプロン酸の濃度が低下し、ひいてはオリゴマーと6-アミノカプロン酸との平衡を最終物にシフトさせるので、これは一時的な問題に過ぎない。
基本的に、工程(i)からの前処理された物質の流速が高すぎる(6-アミノカプロン酸の濃度が高すぎる)場合、そのすべてがカプロラクタムに直接変換されるわけではないため、数種類のオリゴマーが形成される。原理的には、反応器内部では6-アミノカプロン酸の濃度がしばらく高くなり、オリゴマーへの反応が起こる可能性がある。その後、オリゴマーが脱重合されるので、最終的には、時間がかかるもののすべての6-アミノカプロン酸がカプロラクタムに変換される。
認められ得るマクロの影響は、低い生産性のみであり、同様の逸脱に対する1つの解決策は、温度を一時的に上昇させることである。
好ましくは、過熱蒸気の温度の範囲は300~450℃である。プレヒータE3で別個に生成された過熱蒸気が環化反応器に連続的に入り、以下の二重の役割を果たす。
・環化反応器内で生成されたカプロラクタムおよび水の蒸気を除去する;
・外部の加熱オイルによって環化反応器に供給される熱と共に、工程(iii)のため、すなわちカプロラクタム水溶液の濃縮のための十分な熱を提供する。したがって、後述するように、工程(iii)において追加の加熱手段が不要となる。意外にも、本明細書に記載のように過熱蒸気を使用しても、反応器内の水分量を増加させる可能性があるにも関わらずプロセスに悪影響を及ぼすことはない。
【0049】
過熱蒸気の流速は連続的かつ一定に維持され、環化反応器を出て工程(iii)に入る蒸気中のカプロラクタムに対する水の比が65~35w/wの範囲、好ましくは55~45w/wの範囲に確実に維持されるようにする範囲にある。したがって、過熱蒸気の流速の範囲が、環化反応器に入る直鎖状6-アミノカプロン酸1kgあたり1.3~1.8kgであることが好ましい。
【0050】
反応器への過熱蒸気の一定かつ連続的な流速が重要である。この理由は、過熱蒸気の一定の流れにより、環化反応器は閉鎖系ではなくなり、環化反応器内で生成されるカプロラクタムおよび水の蒸気が連続的にストリッピングされ、これにより環化反応器内が平衡に達するのを阻止するからである。
また、6-アミノカプロン酸からカプロラクタムへの反応によっても、6-アミノカプロン酸1分子につき1分子の水が生成される。本提案のプロセス条件、すなわち、より高い温度Tおよび大気圧では水が蒸発する。このことは、環化反応器内が平衡に達するのを妨げるもう1つの要因である。
【0051】
前述のように、6-アミノカプロン酸からオリゴマーが生成されるのを阻害し、環化反応器内で形成されるかまたは初期供給中に存在する可能性のあるすべてのオリゴマーをカプロラクタムに戻すために触媒が必要とされる。このため、工程(i)からの材料に含まれるすべての6-アミノカプロン酸がカプロラクタムに変換され、最終製品内にオリゴマーの生成が生じない。
【0052】
触媒は、環化反応器内の総量(total mass)に対する計算で1~10重量%、1~8重量%、好ましくは3~4重量%の量で環化反応器内に存在する。
【0053】
環化プロセス中に、触媒が、例えば、投入された材料中に既に存在するかプロセス中に生成される数種類のアルカリ化合物によって、または環化反応器の下部からの重いスラッジの排出による損失によって部分的に消費されるので、反応器内の触媒の濃度が好ましいレベルに維持されることが望ましい。
【0054】
反応器から採取したサンプルの周期的な分析に基づいて、新たな触媒を周期的に添加することによって、環化反応器内部で触媒の好ましい量が維持される。理想的には、定常状態の連続プロセスにおいては、必要な時にのみ、すなわち、化学的分析により、反応器内部で触媒の濃度が低下したことが示される、例えば、環化反応器内の総量に対して計算して2重量%を下回ったことが示される場合にのみ、触媒が環化反応器に随時供給される。このため、反応物(reaction mass)のサンプルが採取され、分析が周期的に行われる。このようにして、環化反応に十分な触媒が常に利用可能であり、好ましくはすべての6-アミノカプロン酸がカプロラクタムに変換されることが保証される。
【0055】
適切な触媒は、以下のとおりである。
・プロセス条件において強酸基-P-OHを供給可能な、亜リン酸、短鎖ポリリン酸、アンモニウムリン酸、および一般に金属塩を含む任意のリン酸塩;
・ホウ酸およびその塩;
・パラトルエンスルホン酸およびその塩;
・リンタングステン酸。
好ましい触媒は、以下のとおりである。
・リン酸および短鎖ポリリン酸
・リン酸一アンモニウム、リン酸二アンモニウム、およびリン酸三アンモニウム
・リン酸一ナトリウムおよびリン酸一カリウム
・ホウ酸およびそのモノアンモニウム塩
・p-トルエンスルホン酸およびそのモノアンモニウム塩
・リンタングステン酸。
【0056】
リン酸は、最も効率がよく、取り扱いが容易であり、30~85%の水溶液の形態の液体状態で投入され、かつより安価であるため、好ましい触媒である。
【0057】
環化反応器から、カプロラクタムおよび水の気相が環化反応器の上部から工程(iii)に案内され、工程(iii)でカプロラクタムおよび水の気相の凝縮が行われる。任意に、工程(iii)でカプロラクタム水溶液の濃縮も行われる。

任意に、残留する重い副生成物(例えば、塩、オリゴマー、消費された触媒)を含む、環化反応器R2の下部の溶融相が、必要に応じて随時、またはプロセスの終了時に、下部バルブを介して排出される。環化反応器の下部からの重質物の排出は、出発物質がバイオマスまたはサステイナブルな糖類などの再生可能な原料から得られる6-アミノカプロン酸を含む場合に特に望ましい。このため、本提案のプロセスは、直鎖状のバイオ‐6ACAの従来の長時間を要しかつ困難な精製工程を必要とすることなく、バイオプロセスで得られるバイオ‐6ACAの使用も可能にし、混合物中の炭水化物の含有量の影響を受けない。
【0058】
好ましい実施形態において、凝縮と濃縮とが、凝縮・精溜塔C1内で同時に行われ、イプシロンカプロラクタムの水溶液が、凝縮・精溜塔の下部で収集され、低圧蒸気が、凝縮・精溜塔の上部で収集される。工程(ii)からのカプロラクタムおよび水の蒸気を冷却して凝縮させ、元の気相よりもカプロラクタムに富む液体溶液を得て、貯蔵容器V1に貯蔵する。
【0059】
凝縮・精溜塔は、使用される高温で生じうる酸による腐食に耐える適切な材料であれば、どのような材料から作製されてもよく、好ましくはステンレス鋼から作製される。凝縮・精溜塔の内部の必要なステージの数は、凝縮・精溜塔の上部において微量のカプロラクタムを含む低圧蒸気として水のみを分離し、かつ凝縮・精溜塔の下部において、気相よりもカプロラクタムに富む濃度の液体カプロラクタム溶液を分離できるように設定される。好ましくは、カプロラクタム溶液の濃度の範囲は25~85重量%であり、より好ましくは65~80重量%である。内部のステージは、好ましくは、標準的なトレイと構造用外装との組み合わせである。気相は塔の内部を上昇し、これと対向して、凝縮されたカプロラクタムの液体の溶液が下に流れる。
【0060】
凝縮・精溜塔は大気圧で作動される。好ましい実施形態において、温度プロファイルは、塔の下部で115~125℃の範囲に維持され、塔の上部で約100~102℃に維持される。
【0061】
塔の上部には、工程(ii)の環化反応器からのカプロラクタムおよび水の蒸気を冷却して凝縮させ、これにより、多量の水の凝縮熱を回収するための蒸気凝縮器E1が存在する。この凝縮熱は、例えば、水を加熱してカプロラクタムをポンプ送給可能な液体として取り扱うために、または、例えば、溶液の形態の出発物質を、6-アミノカプロン酸を出発物質の総量に対して少なくとも50重量%含有するよう濃縮するために、プラント施設で再利用される。
【0062】
凝縮・精溜塔の下部に加熱手段は不要であり、濃縮に必要な熱が、工程(ii)において蒸気から供給されるので、エネルギーの大きな節約が可能となる。
【0063】
工程(iii)からの最終生成物は、未精製カプロラクタムの水溶液であり、その特性は、従来法によって(すなわち「ベックマン転位」として知られる反応によって)によって得られる最終精製前の未精製イプシロンカプロラクタムの特性および品質に相当する。
【0064】
好ましい実施形態において、出発物質は、6-アミノカプロン酸の濃度が出発物質の総量に対して少なくとも50重量%である水溶液の形態で6-アミノカプロン酸を含む。
【0065】
前述のように、上記6-アミノカプロン酸は、従来の石油化学プロセスから得ることも、または生化学プロセスから得ることもでき、後者の場合、バイオベースの6-ACAの製造時の発酵に由来する多量の炭水化物および他の混入物が6-アミノカプロン酸に含まれる。本提案のプロセスでは、上記6-アミノカプロン酸の出発物質は任意に、6-アミノカプロン酸の量に基づいて、12.5重量%、10重量%、5重量%、4重量%、3.5重量%、3.4重量%、3重量%、2重量%または1重量%以上、かつ15重量%、12.5重量%、10重量%、5重量%または4重量%以下の炭水化物を含んでよく、このため、炭水化物由来のイプシロンカプロラクタムを調製するプロセスも本発明の目的の1つである。バイオ6ACAでは、数種類の残留炭水化物、すなわち単糖類のグルコース、フルクトース、ならびに二糖類のマルトース、イソマルトースおよび/またはスクロースなどの糖類が出発物質中に存在する可能性がある。
【0066】
上記プロセスは、6-アミノカプロン酸と炭水化物とを含む混合物を、環化反応器内で、過熱蒸気および酸触媒の存在下で、イプシロンカプロラクタムへの連続的かつ完全な変換を提供する条件下で環化させることを含み、任意に、これにより、6-アミノカプロン酸が、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.9%以上または100%イプシロンカプロラクタムに変換され、これにより、イプシロンカプロラクタムおよび水の蒸気が生成される。酸触媒は、環化反応器中の総量に対して計算して少なくとも2重量%、好ましくは3~4重量%の量で存在する。適切な触媒は、プロセス条件において強酸基-P-OHを供給可能な、亜リン酸、短鎖ポリリン酸、アンモニウムリン酸、および一般に金属塩を含む任意のリン酸塩;ホウ酸およびその塩;パラトルエンスルホン酸およびその塩;ならびにリンタングステン酸である。好ましい触媒は、リン酸および短鎖ポリリン酸;リン酸一アンモニウム、リン酸二アンモニウム、およびリン酸三アンモニウム;リン酸一ナトリウムおよびリン酸一カリウム;ホウ酸およびそのモノアンモニウム塩;p-トルエンスルホン酸およびそのモノアンモニウム塩;ならびにリンタングステン酸である。リン酸は、最も効率がよく、取り扱いが容易であり、30~85%の水溶液の形態の液体状態で投入され、かつより安価であるため、最も好ましい。環化反応器は、大気圧、またはわずかに高圧、すなわち1.0~1.5バールの範囲下で、220~350℃の範囲の温度で作動される。過熱蒸気の温度は300~450℃の範囲であり、過熱蒸気の流速は、環化反応器を出る蒸気中のカプロラクタムに対する水の比が65~35w/w、好ましくは55~45w/wの範囲に確実に維持されるようにする範囲にある。上記の工程の条件も、本願の全体にわたり記載のとおりである。
【0067】
上記プロセスは、上記工程(i)に記載したように、6-アミノカプロン酸と炭水化物とを含む混合物の前処理をさらに含んでよい。工程(i)において、上記混合物が、環化反応を促進させるため、環化反応器内の温度またはその近傍に予備加熱される。上記の工程の条件も、本願の全体にわたり記載のとおりである。
【0068】
任意に、工程(i)からの前処理された混合物が環化反応器に供給される前に、環化反応器が、始動段階のために、カプロラクタム溶液および触媒の初期投入を環化反応器に供給することによって、環化および蒸気ストリッピングに有利な圧力および温度に設定される。上記の工程の条件も、本願の全体にわたり記載のとおりである。
【0069】
上記プロセスは、さらに、環化反応器で得られたイプシロンカプロラクタムおよび水を含む混合蒸気の凝縮と、イプシロンカプロラクタム水溶液のさらなる濃縮とを含み、これにより、上記工程(iii)に記載したように、凝縮と濃縮とが凝縮・精溜塔で同時に行われ、気相よりもカプロラクタムの濃度が高いイプシロンカプロラクタムの水溶液が、凝縮・精溜塔の下部で収集され、低圧蒸気が凝縮・精溜塔の上部で収集される。上記の工程の条件も、本願の全体にわたり記載のとおりである。
【0070】
本発明に係るプロセスの特徴およびその利点を、本プロセス自体をよりよく理解できるよう、実施例を用いてさらに示す。これらの実施例は、用いられる化合物の種類および量、作動パラメータ範囲などの点で限定するものと考えるべきではない。
【実施例
【0071】
[実施例1](触媒を用いない高温加圧の閉鎖系における1工程プロセス:標準プロセス、本発明のプロセスの対照)
容積容量が170リットルであり、アウタージャケットを備えたステンレス鋼製のパイロット反応器(ユニットR1a)に、以下の物質を導入した。
・粉末状6-ACA:12.5kg(総量の80重量%);
・水:3.125kg(総量の20重量%)。
次いで、反応器を、室温および大気圧から、以下の条件、すなわち保持条件に達するまで断熱的に加熱した。
・圧力:8.5バール;
・液体温度: 193℃;
・気体温度:204℃。
30分後の保持時間後、ヒータがオフになったため、温度が低下し、圧力も低下した。
温度が100℃を下回ったら、反応器を開けた。得られた「白色」の固形状物質を分析した(すなわち、定量的ガスクロマトグラフィ、乾いた物質(dry matter)、末端基の滴定)。
サンプルに関する分析に基づいて、以下の組成物が検出された。
・カプロラクタム:0.0kg、0.0重量%
・6-ACA:4.1kg、26.2重量%;
・オリゴマー:7.25kg、46.6重量%;
・・水:4.25kg、約27.2重量%。
6-ACAの変換は完全ではなく、カプロラクタムは形成されなかった。
・6-ACA変換:67.4%;
・6-ACAからCPLへの収率:0%
【0072】
この実験から、高温および比較的高い圧力のみを使いた場合は、カプロラクタムが形成されないが、6-ACAの一部がオリゴマーに変換されることが示される。オリゴマーへの変換により、6-ACA1モルあたり1モルのHOが生成されたので、上記実施例の試験に採用された閉鎖系では、反応による水の量が増加した。
【0073】
[実施例2a](触媒を用いない3工程プロセス)
工程(i)
容積容量が170リットルであり、アウタージャケットを備えたステンレス鋼製のパイロット反応器(ユニットR1a)に、以下の物質を導入した。
・粉末状6-ACA:25kg(総量の80重量%);
・水:6.25kg(総量の20重量%)。
次いで、反応器を、室温および大気圧から、以下の条件、すなわち保持条件に達するまで断熱的に加熱した。
・圧力:8.2バール;
・液体温度:190℃;
・気体温度:203℃。
この混合物を、30分の保持時間これら条件に保持し、次いで、工程(ii)においてすべての物質を環化反応器に給送した。
保持時間の間に6-ACAが水に完全に溶解し、その間に、最初に投入した液体の水から蒸気が生成され、不活性雰囲気が形成され、6-ACAの熱劣化を防止した。直鎖状物質、すなわち6-ACAの一部が実施例1で示されたようにオリゴマーに変換されたとしても、混合物全体が、工程(ii)の環化反応を実現するのに必要な温度に近い温度の液体状態にあった一方、水は、環化反応器または工程(ii)に入るときにただちにフラッシュする条件であった。
【0074】
工程(ii)
加熱オイル循環式のアウタージャケットを備えた、容積容量190リットルのステンレス鋼製の環化反応器R2を用意し、作動条件にした。反応器R2の下部に配置された分配器によって過熱蒸気を連続的に供給することにより、反応器内部が確実に撹拌されるようにした。反応器R2に、カプロラクタム、オリゴマーおよび水から構成されるカプロラクタム溶液の初期供給を投入した(実施例2aの終了時の質量収支の計算の概略を示す表1を参照のこと)。
【0075】
反応器R2を、アウタージャケット内のオイルおよび過熱蒸気の作用(本実施例では加熱オイルが熱の主な供給源であった)により、大気圧下でT=238℃に加熱した。
【0076】
工程(i)からの混合物を、環化反応器R2に供給した。
水のフラッシュにより当初、温度が短時間184℃に低下したが、その後、過熱蒸気を40L/hの一定の速度で環化反応器に連続的に供給している間に254℃に昇温した。
次いで、6-ACAが環化反応を受けてCPLが生成され、重合によるオリゴマーの生成が副反応として生じ得る。CPLは、生成されるとただちに過熱蒸気によって除去されて工程(iii)に導入された。
【0077】
工程(iii)。
6-ACAの環化反応からの混合物としての水蒸気およびカプロラクタムの蒸気を、連続的に精溜塔C1に送給した。パイロットユニットでは、精溜塔は、ステンレス鋼製の充填床精溜塔であり、凝縮器(パイロットユニットでは熱回収はなし)を備え、前工程(ii)において提供されるエネルギーから精溜用の熱が回収されるので、ボイラーは設けられていない。冷却および凝縮媒体として、少量の液体の水を精溜塔の上部に供給した。
精溜塔C1の上部から、カプロラクタムを実質的に含まないT100~102℃の水蒸気を、別個の凝縮器E1に送給して凝縮させつつ、精溜塔の下部から、T110~115℃の濃縮カプロラクタム水溶液を収集し、貯蔵容器V1に貯蔵した。
【0078】
本来いくつかの通常の研究活動用に構築されたパイロットユニットの精溜・凝縮塔では、内部床がいくつかの単純な従来のラシヒリングを用いて構成されているので、蒸気中に少量のカプロラクタムが存在する。
【0079】
試験の最後に、残留していたオリゴマーを環化反応器R2の下部から排出した。
【0080】
入出差に基づく総収支は、以下のとおりである。
・カプロラクタム:+3.7kg;
・オリゴマー:+17.9kg;
・6-ACA:-25kg(カプロラクタム21.6kg相当)
【0081】
質量収支から、以下のパラメータが計算される。
・6-ACA変換率:100%
・6-ACAからCPLへの収率:17.1%。
・オリゴマー:82.9%。
最終的な未精製CPLの品質は、従来の未精製カプロラクタムの品質と同じであった。
詳細を以下に示す。
・GC純度(%面積):99.4%;
・GCのピーク:GCのピーク:12(CPL+軽7および重4)。
・視覚的側面:CPL溶液の色は透明であった
【0082】
表1に、実施例2aの終了時の質量収支の計算の概略を示す。いずれの場合も、元の6-ACAからHOが離脱してCPLまたはオリゴマーとなり、このため、供給材料中の25kgの6-ACAが21.6kgとなった。
【0083】
【表1】
【0084】
[実施例2b](残留原材料を含むバイオベースの6-ACAをシミュレートする、触媒を使用しない糖を含む3工程プロセス)
環状モノマーカプロラクタムに変換するための物質6-ACAは、石油系原料から、または再生可能な原料から、すなわち、バイオマスを含む培地から製造することができ、この培地は、本願においてバイオ-6ACAと呼ぶ、第1世代および/または第2世代のタイプの糖類などの1以上の炭水化物を含む。バイオ-6ACAでは、数種類の残留炭水化物、すなわち単糖類のグルコース、フルクトース、ならびに二糖類のマルトース、イソマルトースおよび/またはスクロースなどの数種類の糖が出発物質中に存在することがある。触媒を用いない3工程プロセスを試験し、6‐ACA中に存在する残留糖混入物が、生成されるカプロラクタムの収率および品質に及ぼす影響をシミュレートした。
【0085】
工程(i)。
容積容量が170リットルであり、アウタージャケットが設けられたステンレス鋼製のパイロット反応器(R1a)に、以下の物質を導入した。
・粉末状6-ACA:25kg(総量の80重量%);
・糖混合物0.85kg(乾燥6-ACAで3.4重量%に相当)
・水:6.25kg(総重量に対して20重量%、糖混合物を含まない)。
糖混合物に関する注:選択した混合物を以下に示す。
・グルコース 0.05kg
・フルクトース 0.175kg
・マルトース 0.625kg
【0086】
グルコースおよびフルクトースが再生可能な単糖類の出発原料であり、マルトースがバイオ-6ACAを産生するプロセス中に副産物として誘導される二糖類となり得ることを考慮して、通常の発酵プロセスをシミュレートするよう混合物を選択した。通常、発酵および精製プロセス後の残留糖を0.3重量%のオーダーとし(全発酵ブロスと呼ぶ)、プロセスの適切性をチェックするために、3倍以上の濃縮された混合物を使用した。
次いで、反応器R1aを、室温および大気圧から、以下の条件、すなわち保持条件に達するまで断熱的に加熱した。
・圧力:8.2バール;
・液体温度:188℃;
・気体温度: 206℃。
この混合物を、30分の保持時間これら条件に保持し、次いで、工程(ii)においてすべての物質を環化反応器に給送した。
保持時間の間に6-ACAが水に完全に溶解し、その間に、最初に投入した液体の水から蒸気が生成され、不活性雰囲気が形成され、6-ACAの熱劣化を防止した。直鎖状物質の一部が実施例1で示されたようにオリゴマーに変換されたとしても、混合物全体は、工程(ii)の環化反応を実現するのに必要な温度に近い温度で液体状態にあった一方、水はただちにフラッシュする条件であった。
【0087】
工程(ii)。
加熱オイル循環式のアウタージャケットを備えた、容積容量190リットルのステンレス鋼製の環化反応器(R2)を用意し、作動条件にした。実施例2aで説明したように、反応器内部が撹拌されるようにした。反応器に、カプロラクタム、オリゴマーおよび水から構成されるカプロラクタム溶液の初期投入を供給した(実施例2bの終了時の質量収支の計算の概略を示す表2を参照のこと)。
反応器を、アウタージャケット内のオイルおよび過熱蒸気の作用(本実施例では加熱オイルが熱の主な供給源であった)により、大気圧下でT=257℃に加熱した。
工程(i)からの混合物を、環化反応器に供給した。
水のフラッシュにより当初、温度が短時間205℃に低下したが、その後、過熱蒸気を40L/hの一定の速度で環化反応器に連続的に供給している間に262℃に昇温した。
次いで、6-ACAが環化反応を受けてCPLが生成され、重合によるオリゴマーの生成が副反応として生じ得る。CPLは、生成されるとただちに過熱蒸気によって除去されて工程(iii)に導入された。
【0088】
工程(iii)。
6-ACAの環化反応からの混合物としての水蒸気およびカプロラクタムの蒸気を、凝縮器(パイロットユニットでは熱回収はなし)を備え、前工程(ii)において提供されるエネルギーから精溜用の熱が回収されるので、ボイラーは設けられていないステンレス鋼製の充填床塔(C1)に連続的に送給した。冷却および凝縮媒体として、少量の液体の水を塔の高部に供給した。
塔の上部から、カプロラクタムを実質的に含まない100~102℃の水蒸気を別個の凝縮器に給送して凝縮させつつ、塔の下部から、環化反応器から送られる気相中よりカプロラクタムに富む110~115℃のカプロラクタム水溶液を収集し、貯蔵容器に貯蔵した。
このパイロットユニットでは、精溜・凝縮塔は、実施例2aで説明したものと同じである。
試験の最後に、残留していたオリゴマーを環化反応器の下部から排出した。
入出差に基づく総収支は、以下のとおりである。
・カプロラクタム:+4.4kg;
・オリゴマー:+17.2kg;
・6-ACA:-25kg(カプロラクタム21.6kgに相当)。
質量収支から、以下のパラメータが計算される。
・6-ACA変換率:100%;
・6-ACAからCPLへの収率:20.4%;
・オリゴマー:79.7%。
最終的な未精製CPLの品質は、従来の未精製カプロラクタムの品質と同じであった。
詳細を以下に示す。
・GC純度(%面積):98.7%;
・GCのピーク:GCのピーク:11(CPL+軽7および重3)。
・視覚的側面:CPL溶液の色は暗黄色であった
【0089】
この実験は、触媒を一切使用しない3工程プロセスでは、6-ACAの変換、カプロラクタムへの収率およびモノマーの品質が、糖などの原材料による影響を一切受けないことを示し、石油由来の直鎖状6-ACAのみから得られるものと結果は実質的に同じであった(実施例2aを参照のこと)。表2参照。
【表2】
【0090】
糖の総量は、6-アミノカプロン酸の質量を基準として0.85/25→3.4重量%に相当する。
【0091】
[実施例3](環化反応器内の総量に基づき1.33重量%の触媒を用いた3工程プロセス)
工程(i)。
容積容量が170リットルであり、アウタージャケットを備えたステンレス鋼製のパイロット反応器(ユニットR1)に、以下の物質を導入した。
・粉末状6-ACA:25kg(総量の80重量%);
・水:6.25kg(総量の20重量%)。
【0092】
次いで、反応器を、室温および大気圧から、以下の条件、すなわち保持条件に達するまで断熱的に加熱した。
・圧力:8.2バール;
・液体温度:191℃;
・気体温度:198℃。
【0093】
この混合物を、30分の保持時間これら条件に保持し、次いで、工程(ii)において、前述の実施例2aで説明したのと同様にかつ同じようになるように、すべての物質を環化反応器に給送した。
工程(ii)。
加熱オイル循環式のアウタージャケットを備えた、容積容量190リットルのステンレス鋼製の環化反応器R2を用意し、作動条件にした。下部に配置された特殊な分配器によって過熱蒸気を連続的に供給することにより、反応器の内部が確実に撹拌されるようにした。反応器に、カプロラクタム、オリゴマーおよび水から構成されるカプロラクタム溶液、ならびに環化反応器内の総量に基づき1.33重量%の量のリン酸を供給した(実施例3の終了時の質量収支の計算の概略を示す表3を参照のこと)。
濃度75%の水溶液の触媒HPOを、時々(反応器内部の触媒の濃度が2重量%を下回ったことが化学的分析によって示された時点で)、環化反応器に供給し、試験の間、反応混合物中に常に触媒が存在するようにした。
【0094】
反応器を、アウタージャケット内のオイルおよび過熱蒸気の作用(本実施例では加熱オイルが熱の主な供給源であった)により、大気圧下でT=263℃に加熱した。
工程(i)からの混合物を、環化反応器に供給した。
水のフラッシュにより当初、温度が短時間190℃に低下したが、その後、過熱蒸気を40L/hの一定の速度で反応器に連続的に供給している間に266℃に昇温した。
次いで、6-ACAが環化反応を受けてCPLが生成され、重合によるオリゴマーの生成が副反応として生じ得る。CPLは、生成されるとただちに過熱蒸気によって除去されて工程(iii)に導入された。

工程(iii)。
6-ACAの環化反応からの混合物としての水蒸気およびカプロラクタムの蒸気を、凝縮器(パイロットユニットでは熱回収はなし)を備え、前工程(ii)において提供されるエネルギーから精溜用の熱が回収されるので、ボイラーは設けられていないステンレス鋼製の充填床塔(ユニットC1)に連続的に送給した。冷却および凝縮媒体として、少量の液体の水を塔の高部に供給した。
塔の上部から、カプロラクタムを実質的に含まない100~102℃の水蒸気を別個の凝縮器に給送して凝縮させつつ、塔の下部から、110~115℃の濃縮カプロラクタム水溶液を収集し、貯蔵容器に貯蔵した。
このパイロットユニットでは、精溜・凝縮塔は、実施例2aで説明したものと同じである。
試験の最後に、残留していたオリゴマーを環化反応器の下部から排出した。
【0095】
入出差に基づく総収支は、以下のとおりである。
・カプロラクタム:+15.0kg;
・オリゴマー:6.6kg
・6-ACA:-25kg(カプロラクタム21.6kgに相当)。
質量収支から、以下のパラメータが計算される。
・6-ACA変換率:100%
・6-ACAからCPLへの収率:69.4%
・オリゴマー:30.6%
最終的な未精製CPLの品質は、従来の未精製カプロラクタムの品質と同じであった。
詳細を以下に示す。
・GC純度(%面積):99.3%;
・GCのピーク:0(CPL+軽5および重4)。
・視覚的側面:CPL溶液の色は透明であった
【0096】
【表3】
【0097】
[実施例4](環化反応器内の総量に基づき4.0重量%の触媒を用いた3工程プロセス)
工程(i)。
容積容量が170リットルであり、アウタージャケットを備えたステンレス鋼製のパイロット反応器(ユニットR1)に、以下の物質を導入した。
・粉末状6-ACA:25kg(総量の80重量%);
・水:6.25kg(総量の20重量%)。
次いで、反応器を、室温および大気圧から、以下の条件、すなわち保持条件に達するまで断熱的に加熱した。
・圧力:8.3バール;
・液体温度:185℃;
・気体温度:189℃。
【0098】
この混合物を、30分の保持時間これら条件に保持し、次いで、工程(ii)において、前述の実施例2aで説明したのと同様にかつ同じようになるように、すべての物質を環化反応器に給送した。
工程(ii)。
加熱オイル循環式のアウタージャケットを備えた、容積容量190リットルのステンレス鋼製の環化反応器R2を用意し、作動条件にした。下部に配置された特殊な分配器によって過熱蒸気を連続的に供給することにより、反応器の内部が確実に撹拌されるようにした。反応器に、カプロラクタム、オリゴマーおよび水から構成されるカプロラクタム溶液、ならびに環化反応器内の総量に基づき4.0重量%の量のリン酸を供給した(実施例4の終了時の質量収支の計算の概略を示す表4を参照のこと)。
濃度75%の水溶液の触媒HPOを、時々(反応器内部の触媒の濃度が2重量%を下回ったことが化学的分析によって示された時点で)、環化反応器に供給し、試験の間、反応混合物中に常に触媒が存在するようにした。
【0099】
反応器を、アウタージャケット内のオイルおよび過熱蒸気の作用(本実施例では加熱オイルが熱の主な供給源であった)により、大気圧下でT=266℃に加熱した。
工程(i)からの混合物を、環化反応器に供給した。
水のフラッシュにより当初、温度が短時間208℃に低下したが、その後、過熱蒸気を40L/hの一定の速度で反応器に連続的に供給している間に268℃に昇温した。
次いで、6-ACAが環化反応を受けてCPLが生成され、重合によるオリゴマーの生成が副反応として生じ得る。CPLは、生成されるとただちに過熱蒸気によって除去されて工程(iii)に導入された。
【0100】
工程(iii)。
6-ACAの環化反応からの混合物としての水蒸気およびカプロラクタムの蒸気を、凝縮器(パイロットユニットでは熱回収はなし)を備え、前工程からのエネルギーから精溜用の熱が回収されるので、ボイラーは設けられていないステンレス鋼製の充填床精溜塔C1に連続的に送給した。冷却および凝縮媒体として、少量の液体の水を塔の高部に供給した。
塔の上部から、カプロラクタムを実質的に含まない100~102℃の水蒸気を凝縮器に給送して凝縮させつつ、塔の下部から110~115℃の濃縮カプロラクタム水溶液を収集し、貯蔵容器に貯蔵した。
このパイロットユニットでは、精溜・凝縮塔は、実施例2aで説明したものと同じである。
試験の最後に、残留していたオリゴマーを環化反応器の下部から排出した。
【0101】
入出差に基づく総収支は、以下のとおりである。
・カプロラクタム:+24.8kg;
・オリゴマー:3.2kg
・6-ACA:-25kg(カプロラクタム21.6kgに相当)。
質量収支から、以下のパラメータが計算される。
・6-ACA変換率:100%;
・6-ACAからCPLへの収率:100%。
・オリゴマー:0%
最終的な未精製CPLの品質は、従来の未精製カプロラクタムの品質と同じであった。
詳細を以下に示す。
・GC純度(%面積):99.8%;
・GCのピーク:8(CPL+軽6および重1)。
・視覚的側面:CPL溶液は透明であった
【0102】
【表4】
【0103】
[実施例5~9]
実施例4で用いたのと同じ手順および同じ量の材料を使用し、触媒の量を初期投入の総量に対して4重量%として、いくつかの試験を異なる温度で実施して繰り返し、6-ACAが同等のカプロラクタムに完全に変換されるのに要する総時間に対する影響を評価した。結果を表5に示す。
【0104】
【表5】
【0105】
各試験において、導入口および排出口の物質の総計の分布は、実施例4の質量収支で示されたものと同一であるかまたは類似していた。
【0106】
[実施例10~11]
実施例2bで前述したように、物質6-ACAは、石油原料供給源から、または再生可能な原料から、すなわち、バイオマスを含む培地から製造することができ、この培地は、本願においてバイオ-6ACAと呼ぶ、第1世代および/または第2世代のタイプの糖類などの1以上の炭水化物を含む。バイオ-6ACAでは、数種類の残留炭水化物、すなわち単糖類のグルコース、フルクトース、ならびに二糖類のマルトース、イソマルトースおよび/またはスクロースなどの数種類の糖が出発物質中に存在することがある。
(触媒を使用する)本発明のプロセスを試験し、バイオ-6ACA中に存在する残留糖混入物が、生成されるカプロラクタムの収率および品質に及ぼす影響をシミュレートした。
【0107】
この目的のために、プロセスの工程(i)で以下の糖の混合物を6-ACAに添加した。
・グルコース:6-ACAを基準として、実施例10では0.02重量%;実施例11aでは0.2重量%;実施例11bでは0.6重量%;
・フルクトース:6-ACAを基準として、実施例10では0.07重量%;実施例11aでは0.7重量%;実施例11bでは2.1重量%;
・マルトース:6-ACAを基準として、実施例10では0.25重量%;実施例11aでは2.5重量%;実施例11bでは7.5重量%;
これらは以下に相当する。
・実施例10では糖類は合計で0.34重量%;
・実施例11aでは糖類は合計で3.4重量%;
・実施例11bでは糖類は合計で10.2重量%。
【0108】
上記の糖類を混入物として用いた試験を、実施例4で用いたのと同じ手順で実施して、本発明のプロセスにおける同等のカプロラクタムへの6-ACAの変換率および収率を評価した。同時に、未精製カプロラクタムの品質も確認した。結果を表6に示す。
【表6】
各試験について、工程1の反応器R1に投入した全糖類の混合物を含む、導入口および排出口の物質の合計の分布は、実施例4の質量収支に示したものと同じであるかまたは同様であった。
【0109】
各試験で生成されたカプロラクタムを容器に回収し、ガスクロマトグラフィで分析した。
結果を表7に示す。
【表7】
示した結果から結論づけられるように、6ACAのカプロラクタムへの変換率および収率は、本発明のプロセスにおいて悪影響を受けず、カプロラクタムの品質も通常のレベルに保たれていた。混入物の濃度が高くなると黄色みを帯びることから、糖類に由来する副産物が数ppm含まれていると考えられる。
【0110】
[実施例12~15]
第1世代および/または第2世代のタイプの糖類などを含む再生可能な原料から生成される環状モノマーカプロラクタムに変換するための物質6-ACAは、発酵プロセスにおいて、栄養素として数種類の塩を必要とし、無機塩および有機塩も、バイオプロセス中に直接生成される最後生成物である。
本発明のプロセスを、バイオ-6ACAに存在しうるこれらの付加的な混入物の組み合わせを用いても試験した。この目的のために、処理プロセスの工程(i)において、表8に示す以下の塩類の混合物を6-ACAに添加した。
【0111】
【表8】
【0112】
混入物として無機塩および有機塩を用いた試験を、実施例4で用いたのと同じ手順で実施して、本発明のプロセスにおける同等のカプロラクタムへの6-ACAの変換率および収率を評価した。同時に、未精製カプロラクタムの品質も確認した。
【0113】
結果を表9に示す。
【表9】
各試験について、工程(i)の反応器R1に投入されたすべての塩類の混合物を含む、導入口および排出口の物質の合計の分布は、実施例4の質量収支に示したものと同じであるかまたは同様であった。
【0114】
各試験で生成されたカプロラクタムを容器に回収し、ガスクロマトグラフィで分析した。
結果を表10に示す。
【0115】
【表10】
示した結果から結論づけられるように、6-ACAのカプロラクタムへの変換率および収率は、無機塩および有機塩の通常の含有量よりはるかに高いレベルで混入物が出発物質中に存在していた場合であっても、本発明のプロセスにおいて悪影響を受けなかった。また、カプロラクタムの品質は、通常のレベルに保たれていた。混入物の濃度が高くなると黄色みを帯びることから、混入物に由来する副産物が数ppm含まれていると考えられる。
実施例15で観察された低収率は、塩類の量の多さに依存するというより、低温に依存するようである。
【0116】
[実施例16]
バイオベースの6-ACAの製造中に発酵に由来しうるすべてのタイプの混入物の組み合わせを用いて、1つの追加試験を行った。
糖類、無機塩、および有機塩の組み合わせは、混入物のそれぞれの種類のレベルが最大となるように実施した。
表11に、すべての混入物の組み合わせを示す。
【0117】
【表11】
糖類、無機塩および有機塩のすべての混入物の組み合わせを用いた試験を、実施例4で用いたのと同じ手順で行い、本発明のプロセスにおける同等のカプロラクタムへの6-ACAの変換率および収率を評価した。同時に、未精製カプロラクタムの品質も確認した。結果を表12に示す。
【0118】
【表12】
各試験について、工程(i)の調製反応器R1に投入されたすべての塩類の混合物を含む、導入口および排出口の物質の合計の分布は、実施例4の質量収支に示したものと同じであるかまたは同様であった。
生成されたカプロラクタムを容器に回収し、ガスクロマトグラフィで分析した。結果を表13に示す。
【0119】
【表13】
【0120】
示した結果から結論づけられるように、本発明のプロセスにおいて、考えられるすべてのタイプの混入物を混合した場合の6-ACAのカプロラクタムへの変換率および収率も、悪影響を受けなかった。また、カプロラクタムの品質は、通常のレベルに保たれていた。混入物の濃度が高くなると茶色みを帯びることから、混入物に由来する副産物が数ppm含まれていると考えられる。
【0121】
[実施例17~20]
実施例4で用いたのと同じ手順に従い、リン酸に代えて別の触媒を用いて数種類の試験を実施し、本発明のプロセスにおけるその触媒作用を評価した。
以下を測定することにより評価を行った。
・6ACAの変換率;
・6-ACAからカプロラクタムへの収率;
・得られた未精製カプロラクタムの品質。
各触媒を、実施例4の手順で用いたリン酸のモル量に等価な量で添加した。結果を表14に示す。
【0122】
【表14】
【0123】
各試験で生成されたカプロラクタムを容器に回収し、ガスクロマトグラフィで分析した。結果を表15に示す。
【0124】
【表15】
【0125】
示した結果から結論づけられるように、本発明のプロセスは、異なる触媒を用いても作用できた。
リン酸二アンモニウムでは、反応がリン酸を用いた場合と同様に進行し、さらに、温度が反応速度(kinetics)、ひいては反応時間に及ぼす影響がこの場合でも実証された。
ホウ酸では、反応が進行するものの反応速度は遅くなるので収率は低くなる。
品質に関し、主な差違は、酸ではなく塩基性であるリン酸二アンモニウムを用いて得られる未精製カプロラクタムのpHである。
【0126】
[実施例21]
(実施例2a~20に記載のプロセスのスケールアップを評価するための、工業規模での3工程連続プロセス。触媒の量は、実施例4~20と同様に4重量%に維持)
工程(i)
9m3の容積容量を有し、温度制御を備えた、プレリアクタと呼ばれるステンレス鋼製の工業用反応器(すなわち、ユニットR1)に、パイロット試験よりも多量の6-ACAを供給した。
反応器には、以下の全材料を供給した。
・・粉末状6-ACA:975kg
・75重量%のカプロラクタムを含むカプロラクタム水溶液:496kg。
工業用反応器に投入した全組成を以下に示す。
【表16】
【0127】
固体の物質は、72重量%の6-ACAおよび28重量%のカプロラクタムであり、水は、総重量の約8重量%であった。
次いで、以下の条件、すなわち、保持条件に到達するまで反応器を断熱的に加熱した。
- 圧力:9.4バール;
- 温度:202℃。
この混合物を、30分の保持時間これら条件に保持し、次いで、工程(ii)において、前述の実施例2aで説明したのと同様にかつ同じようになるように、すべての物質を環化反応器に給送した。<
【0128】
環化反応器内への給送が完了してすぐに、工程(ii)の連続プロセスを得るために6-ACAの量を多段階のシーケンスで増加させるため、本明細書に記載した前述の操作を同様に繰り返した。しかしながら、この実施例では、工程(i)の2つのサイクルのみを考慮した。
【0129】
工程(ii)
容積容量22m3を有し、熱制御手段を備えるステンレス鋼製の環化反応器(すなわちユニットR2)を用意し、作動条件にした。
下部に配置された環状の蒸気噴出口群を通して過熱蒸気を連続的に供給することにより、反応器の内部が確実に撹拌されるようにした。
反応器に、CPLオリゴマーの初期投入を、測定および制御された既知の最適値に維持したレベルで供給し、リン酸を、環化反応器内の総量に基づいて4.0重量%の量で供給した(実施例21の終了時の質量収支の計算の概略を示す表17を参照のこと)。
85重量%の濃度の触媒HPOの水溶液を、反応器内部の触媒が常に約4重量%に維持されるよう、化学的分析の結果に従って流速を連続的に変化させながら環化反応器に供給し、試験の間、反応混合物中に常に触媒が存在するようにした。
【0130】
反応器を、大気圧下に維持し、外側ジャケット内で非断熱性オイルを循環させることによりT=256℃に加熱した。
物質を給送したときの水のフラッシュにより当初、温度が短時間(237℃に)低下したが、約1300kg/hの制御された流速で過熱蒸気を反応器に一定の速度で連続的に供給している間に(252℃に)昇温した。
反応器内部の6-ACAが環化反応を受けてCPLが生成され、CPLは、生成されるとただちに工程(iii)への過熱蒸気によって除去された。
物質をR1から環化反応器に徐々に給送すると、R2内のレベルが増加した。レベルが物質をR1から移す前のレベルに戻った時点で環化反応が完了したとみなした。
【0131】
工程(iii)
6-ACAの環化反応からの混合物としての水蒸気およびカプロラクタムの蒸気を、凝縮器を備え、前工程からのエネルギーから精溜用の熱が回収されるので、ボイラーは設けられていない充填床精溜塔(すなわちユニットC1)に連続的に送給した。冷却および凝縮媒体として、少量の液体の水を塔の上部に供給した。
工程(ii)に記載したように、環化反応が完了するまで、反応の間、塔の上部から、カプロラクタムを実質的に含まない100~105℃の水蒸気を塔の水凝縮器に直接送って凝縮させつつ、塔の下部から、110~120℃の濃縮カプロラクタム水溶液を収集し、貯蔵容器に貯蔵した。
【0132】
質量収支および分析結果を以下の表に記載する。
<質量収支>
【表17】
【0133】
これらのデータから以下が確認できる。
a)工業規模においても、6-ACAの未精製CPLへの環化の変換率は100%であり、収率は100%であった;
b)特定の場合において、選択された条件で6-ACAより反応速度が低かったとしても、反応器の始動のために最初に投入したわずかなCPLオリゴマーも、未精製CPLに変換された。
R2内の残留物質を分析により確認したところ、最初のCPLオリゴマーの成分と3~4%の触媒HPOとであることが判明した。
<分析>
【表18】
これらの結果から、記載のようなカプロラクタムを得るための6-ACAの環化プロセスは、供給材料中に存在する水の量が20重量%未満(本実施例では8重量%)であっても工業規模で作用することがわかる。
【0134】
[実施例22]
(実施例21と同様の工業規模での3工程連続プロセスであるが、100%の6-ACAを使用)
【0135】
実施例21で使用したものと同様の手順に従って、カプロラクタムを含まない6-ACAおよび水を予備反応器に供給することで別のランを実施した。
以下の材料を投入した。
・粉末状6-ACA:1150kg;
・水:200kg(予備反応器内の総量の約15重量%)。
工業用反応器に投入した全成分は以下のとおりである。
【0136】
【表19】
【0137】
質量収支および分析結果を以下の表に示す。
<質量収支>
【表20】
【0138】
また、供給物質中に6-ACAのみを用いた場合でも、工業規模での6-ACAの未精製CPLへの環化の変換率は100%であり、収率は100%であったことがこの場合も確認された。
R2内の残留物質を分析により確認したところ、最初のCPLオリゴマーの成分と3~4%の触媒HPOとであることが判明した。
<分析>
【表21】
【0139】
このランの結果は、記載したようなカプロラクタムを得るための6-ACAの環化プロセスは、工業規模でも作用することができ、かつ供給材料中の水の量が20%未満(本実施例では15重量%)であっても作用するという実施例21で報告された結果を確認し、かつ、供給材料中に固体物質として6-ACAの100%を使用した場合でも作用できることを示した。
図1
図2