(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】アルキルメルカプタンの合成用触媒およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 23/04 20060101AFI20240423BHJP
B01J 35/51 20240101ALI20240423BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20240423BHJP
C07C 319/08 20060101ALI20240423BHJP
C07C 321/04 20060101ALI20240423BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240423BHJP
【FI】
B01J23/04 Z
B01J35/51
B01J37/02 101Z
C07C319/08
C07C321/04
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2021544241
(86)(22)【出願日】2020-01-27
(86)【国際出願番号】 EP2020051903
(87)【国際公開番号】W WO2020156992
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2023-01-24
(32)【優先日】2019-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ルドガー ラオテンシュッツ
(72)【発明者】
【氏名】ナディーネ デュル
(72)【発明者】
【氏名】アヒム フィッシャー
(72)【発明者】
【氏名】マニュエル ヴェーバー-シュトックバウアー
(72)【発明者】
【氏名】オリヴァー ヤイル グティエレス-ティノコ
(72)【発明者】
【氏名】リカルド ベルメホ デヴァル
(72)【発明者】
【氏名】ヨハネス アー. レアヒャー
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-216360(JP,A)
【文献】特開2005-262184(JP,A)
【文献】特表2010-502440(JP,A)
【文献】特表2007-503300(JP,A)
【文献】特表2019-501769(JP,A)
【文献】特表2006-524563(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 23/04
B01J 35/51
B01J 37/02
C07C 319/08
C07C 321/04
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキルアルコールと硫化水素との触媒反応によってアルキルメルカプタンを生成するための触媒であって、前記触媒は、担体と、前記触媒の総重量に対して5~20重量%の助触媒とを含むかまたはそれらからなり、前記担体は、二酸化チタン、二酸化ジルコニウムおよび/もしくはそれらの混合物を含むかまたはそれらからなり、前記助触媒は、アルカリ金属酸化物である、触媒。
【請求項2】
前記担体の少なくとも一部が、正方晶相を有する、請求項1記載の触媒。
【請求項3】
前記アルカリ金属が、ナトリウム、カリウム、セシウム、またはルビジウムである、請求項1または2記載の触媒。
【請求項4】
前記助触媒が、酸化セシウムである、請求項1から3までのいずれか1項記載の触媒。
【請求項5】
前記触媒が、コア・シェル触媒である、請求項1から
4までのいずれか1項記載の触媒。
【請求項6】
請求項1から
5までのいずれか1項記載の担持触媒の製造方法であって、
a)二酸化チタン、二酸化ジルコニウムおよび/もしくはそれらの混合物を含むかまたはそれらからなる担体に、可溶性アルカリ化合物を含む水溶液を含浸させるステップと、
b)ステップa)で得られた含浸担体を乾燥させるステップと、
c)ステップb)の乾燥した含浸担体を焼成して、触媒を提供するステップと
を含む、方法。
【請求項7】
前記ステップa)~c)を少なくとも1回繰り返す、請求項
6記載の方法。
【請求項8】
d2)ステップc)で得られた触媒をコアに施与して、コア・シェル触媒を提供するステップ
をさらに含む、請求項
6または
7記載の方法。
【請求項9】
アルキルメルカプタンの製造方法であって、請求項1から
5までのいずれか1項記載の触媒または請求項
6から
8までのいずれか1項記載の方法によって得られた触媒の存在下で、アルキルアルコールを硫化水素と反応させる、方法。
【請求項10】
反応させるアルキルアルコールがメタノールであり、製造するアルキルメルカプタンがメチルメルカプタンである、請求項
9記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルキルメルカプタンを製造するためのTiO2および/またはZrO2系触媒、およびその製造方法に関する。また、本発明は、本発明による担持触媒の存在下で、または本発明によるその製造方法によって得られた触媒の存在下でアルキルアルコールを硫化水素と反応させることによるアルキルメルカプタンの製造方法にも関する。
【0002】
アルキルメルカプタンは、経済的価値の高い生成物を製造するための、工業的に重要な中間体である。特に、メチルメルカプタン(CH3SH)は、例えばメチオニン、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、またはメタンスルホン酸の合成において、工業的に重要な中間体である。過去には、例えば、硫化カルボニル(COS)や二硫化炭素(CS2)の水素化、H2の存在下および非存在下でのCS2によるメタノールのチオール化、酸化アルミニウム系触媒の存在下でのチオール化剤としての硫化水素(H2S)によるメタノールのチオール化といった、さまざまな異なる合成経路が開発された。後者の方法は、現在の従来技術の工業的方法であり、通常、気相で300~500℃の範囲の温度で1~25barの範囲の圧力で行われる。
【0003】
このようにして得られた反応混合物は、所望の生成物であるメチルメルカプタンに加えて、未反応の出発物質や副生成物、例えばジメチルスルフィドやジメチルエーテル、さらには反応に関して不活性なガス、例えばメタン、一酸化炭素、水素、および窒素を含んでいる。その結果、生成したメチルメルカプタンをこの反応混合物から分離する必要がある。
【0004】
ガス状の反応混合物からのメチルメルカプタンの分離は、通常、メチルメルカプタンを凝縮させることによって行われる。ここで、反応混合物を冷却するためのエネルギー消費が大きなコスト要因となる。よって、プロセスの経済性を高めるためには、メチルメルカプタンの生成に対して高い転化率と高い選択率を有し、エネルギー投入量および投資コストを可能な限り低く抑えることが必要である。
【0005】
活性および選択率の向上は、メタノールに対する硫化水素のモル比を増加させることにより得られる。1~10のモル比が一般的に用いられる。しかし、モル比を高くすると、反応混合物中の硫化水素の量が多くなり、大量のガスを循環させる必要がある。これに必要なエネルギー投入量を削減するためには、メタノールに対する硫化水素の比を1からわずかに逸脱させることが望ましい。
【0006】
活性および選択率を向上させるために、特定のAl2O3系触媒が設計されている。酸化アルミニウム、特にγ-Al2O3は、原理的にメタノールをチオール化してメチルメルカプタンを得るための触媒であると一般には認められている。しかし、酸化アルミニウムの活性が高すぎるため、触媒反応は、目的の生成物であるメチルメルカプタンでは停止しない。非常に活性の高い酸化アルミニウムは、メチルメルカプタンからジメチルスルフィドへのさらなる反応も触媒してしまう。そこで、通常は、酸化アルミニウムに、タングステン酸カリウムやタングステン酸セシウムなどのタングステン酸アルカリ金属塩を混合してその活性を低下させることで、メチルメルカプタンの生成への選択率を高め、ジメチルスルフィドなどの副生成物の生成への選択率を低下させている。このようにして得られた触媒においては、酸化アルミニウムを担体または触媒担体ともいい、タングステン酸アルカリ金属塩を助触媒ともいう。触媒の総重量に対するタングステン酸塩の割合は、例えば米国特許第2,820,062号明細書に記載されているように、通常は最大約20重量%である。この文献に開示されている触媒では、反応温度が400℃、硫化水素とアルキルアルコールとのモル比が2:1の場合、アルカンチオールの製造において良好な活性および選択率が得られる。
【0007】
触媒中のタングステン酸アルカリ金属塩の割合は、タングステン酸アルカリ金属塩の溶液を担体材料に複数回含浸させるという比較的複雑な製造プロセスで25重量%以上にまで高めることができる。なお、米国特許第5,852,219号明細書には、タングステン酸カリウム(K2WO4)の代わりにタングステン酸セシウム(CS2WO4)を助触媒として使用することの利点が開示されている。このように、活性の向上と同時に、良好な選択率を得ることができる。Mashkinaら(React. Kinet. Catal. Lett., vol. 36, No. 1, 159-164 (1988))によれば、アルキルアルコールおよび硫化水素からアルキルメルカプタンを生成する際の最高の選択率は、アルカリ/タングステン比が2:1の触媒で達成される。酸化アルミニウムの担体に、セシウムおよびタングステンを2:1の化学量論比で含む溶液を含浸させると、米国特許第5,852,219号明細書に記載されているように、触媒の総重量に対して最大40重量%の助触媒の担持量を達成することができる。タングステン酸アルカリ金属塩の濃度を25重量%以上に高めると、メチルメルカプタンの生成への選択率が向上する。しかし、同時に触媒の活性が低下してしまうという欠点がある。
【0008】
米国特許出願公開第2009/306432号明細書に記載されているように、セシウムおよびタングステンを2:1未満の非化学量論比で含む溶液を担体材料に複数回含浸させることで、助触媒を含む触媒の担持量を触媒の総重量に対して25重量%以上の値に高めることができる。含浸溶液にセシウムおよびタングステンの非化学量論比を用いることで、アルミニウムへの助触媒の担持量を35重量%超に高めることができるが、このような高い担持量では、もはや活性や選択率は大幅に向上しない。特に、触媒の総重量に対して45重量%を超える担持量では、活性や選択率が低下すらする。さらには、複数回の含浸プロセスによって製造された触媒が、触媒体全体にセシウムおよびタングステンの均一な分布を有していないことが不利である。しかし、触媒反応において高い活性および高い選択率を達成するためには、触媒活性成分が触媒体全体に均一に分布していることが必要であると考えられる。
【0009】
米国特許出願公開第2014/357897号明細書には、アルカリ金属およびタングステンが成形触媒体全体に均一に分布している触媒が開示されている。これらの触媒は、担体材料を、タングステン酸などの酸化性タングステン材料、および水酸化セシウムなどの少なくとも1つの別のアルカリ金属化合物と混合して触媒塊状物を生成し、次いで、前述の触媒塊状物を成形することによって製造される。このようにして得られた触媒は、助触媒の担持量が触媒の総重量に対して45重量%以上である。これにより、メチルメルカプタンの生成に対する収率および選択率をさらに高めることができる。しかし、前述の触媒の高い収率および選択率は長く続くものではないため、工業プロセスでの使用には適していない。
【0010】
国際公開第2017/114858号には、アルカンチオール製造用触媒の別の製造方法が開示されている。この製造方法は、一般的な含浸手順と、米国特許出願公開第2014/357897号明細書の混合または成形プロセスとの組み合わせを表している。このようにして得られた触媒の活性およびメチルメルカプタン選択率は、他の触媒に匹敵する。しかし、非常に複雑な製造方法は、性能向上にはつながらない。
【0011】
以上のように、メタノールチオール化用触媒の活性および選択率を向上させるために、多大な尽力がなされた。しかし、この触媒系では、これ以上のメタノールチオール化の向上は望めないようである。そこで、従来技術の触媒に比べて選択率が向上した、改良されたメタノールチオール化用触媒を提供することが解決すべき課題となった。
【0012】
驚くべきことに、この課題は、従来技術の担体とは異なる触媒担体を使用することで解決されることが判明した。この特定の触媒担体には、アルカリ金属酸化物が担持されている。
【0013】
したがって、本発明の主題は、担体と、触媒の総重量に対して5~20重量%の助触媒とを含むかまたはそれらからなる触媒であって、担体が、二酸化チタン、二酸化ジルコニウムおよび/またはそれらの混合物を含むかまたはそれらからなり、助触媒が、アルカリ金属酸化物である、触媒である。
【0014】
触媒の総重量に対して5~20重量%の助触媒の含有量から逸脱しても、本発明の効果が得られるのであれば、本発明の範囲に包含される。
【0015】
本発明によれば、触媒の担体は、二酸化チタン、二酸化ジルコニウムおよび/またはそれらの混合物を含むかまたはそれらからなる。したがって、担体は、必ずしも二酸化チタン、二酸化ジルコニウムおよび/またはそれらの混合物からなる必要はない。これは、材料がその製造に由来するバインダー、フィラー、または他の任意の成分をなおも含んでいる場合を考慮したものである。しかし、それとは別に、材料の大部分は二酸化チタン、二酸化ジルコニウムおよび/またはそれらの混合物であることが望ましい。好ましくは、触媒の担体は、少なくとも50重量%、特に55~100重量%、60~100重量%、65~100重量%、70~100重量%、75~100重量%、80~100重量%、85~100重量%、90~100重量%、または95~100重量%の二酸化チタン、二酸化ジルコニウムおよび/またはそれらの混合物を含む。極端な例では、担体は、二酸化チタン、二酸化ジルコニウムおよび/またはそれらの混合物からなる。
【0016】
本発明による担体材料は、その元素組成が従来技術の担体と異なるだけでなく、構造的にも異なる。それらは、正方晶相を含むかまたはそれからなる。対照的に、従来技術の触媒の担体としての純粋なγ-Al2O3は、立方晶相を有する。
【0017】
一実施形態では、本発明による触媒の担体の少なくとも一部は、正方晶相を有する。好ましくは、本発明による触媒の担体は、正方晶相からなる。
【0018】
従来技術の触媒は、典型的には、助触媒としてタングステン酸アルカリ金属塩を含む。しかし、アルキルアルコールチオール化反応におけるアルキルメルカプタンの生成に対して所望の選択率を有する触媒を提供するためには、必ずしもタングステン酸アルカリ金属塩を必要とするわけではないことが判明した。助触媒としてアルカリ金属酸化物を使用するだけで既に十分である。触媒のスタートアップ段階では、アルカリ金属酸化物は硫化される。
【0019】
原則として、本発明は助触媒用の特定のアルカリ金属の選択に関して制限されない。したがって、アルカリ金属は、任意の既知のアルカリ金属、好ましくは、ナトリウム、カリウム、セシウム、またはルビジウムとすることができる。しかし、触媒の選択率を最も向上させるアルカリ金属は、セシウムである。
【0020】
したがって、本発明による触媒のさらなる実施形態では、アルカリ金属は、ナトリウム、カリウム、セシウム、またはルビジウムである。
【0021】
本発明による触媒の別の実施形態では、助触媒は酸化セシウムである。
【0022】
本発明によるCs担持触媒は、従来技術の触媒と比較して、メチルメルカプタンの選択率を著しく向上させる。10重量%のCsを担持したZrO2系触媒では、メチルメルカプタンへの選択率がSCH3SH,300℃=99.9%~SCH3SH,360℃=99.1%の範囲まで向上した。認められた唯一の副生成物はジメチルスルフィドであり、その選択率はSDMS,300℃=0.1%~SDMS,360℃=0.9%であった。Csの担持量を20重量%に増やすと、さらに高いSCH3SH,300℃=99.9%~SCH3SH,360℃=99.4%の選択率が得られた。同様の結果がTiO2系触媒にも見られ、10重量%のCsを使用した場合、メチルメルカプタンの選択率は、SCH3SH,300℃=99.9%~SCH3SH,360℃=99.4%の範囲に向上した。この場合にも認められた唯一の副生成物はジメチルスルフィドであり、その選択率はSDMS,300℃=0.1%~SDMS,360℃=0.6%であった。Csの担持量を20重量%に増やすと、さらに高いSCH3SH,300℃=99.9%~SCH3SH,360℃=99.5%の選択率が得られた。本発明による触媒によって達成されたメチルメルカプタン選択率は、従来技術の触媒によって達成されたメチルメルカプタン選択率よりも2%超、絶対的に高い。比較すると、国際公開第2013/092129号の最良の触媒は、最高でも97.9%のメチルメルカプタン選択率を与える。
【0023】
本発明による触媒は、触媒の総重量に対して5~20重量%の助触媒を含む。触媒がシェル触媒である場合、5~20重量%という量は、シェルの組成に対するものである。
【0024】
原則として、本発明による触媒は、その形状に関しては制限されない。最も単純な形態では、前述の触媒は、酸化物および/または硫化物の形態のアルカリ金属が、二酸化ジルコニウムおよび/または二酸化チタンを含む担体に施与された担持触媒である。その場合、酸化物および/または硫化物の形態のアルカリ金属を有する化合物を含む水性含浸溶液が担体に直接含浸されて、担持触媒の形態の触媒が製造される。担体は、特定のサイズに関して限定されない。担体は、例えば、国際規格ISO 13320(2009)に準拠したレーザー散乱法による湿式分散で測定した場合に、1000μm未満、500μm未満、250μm以下、例えば125~250μm、または125μm以下、例えば25~125μmの粒径を有する粉末として存在することができる。したがって、本発明による触媒は、酸化物および/または硫化物の形態のアルカリ金属を含む化合物を含む水溶液を粉末状の担体に含浸させ、次いで乾燥および焼成することによって得られる押出物またはペレットの形態で存在することもでき、この場合、焼成によって酸化物および/または硫化物の形態のアルカリ金属がアルカリ金属酸化物に転化される。このようにして得られた触媒塊状物をバインダーと混合し、成形に供して完全触媒とする。典型的には、このようにして得られた触媒を再び焼成に供し、その際にバインダーを燃焼させ、次いで任意に100℃~200℃の温度で焼戻しを行う。
【0025】
さらなる実施形態では、本発明による触媒は、完全触媒である。
【0026】
コア・シェル触媒を製造する場合、上述した粉末状の担体に、酸化物および/または硫化物の形態のアルカリ金属を含む化合物を含む水溶液を含浸させる。このようにして得られた混合物を任意に焼成し、バインダーと混合し、例えばセラミック製の球状の不活性担体コアに施与し、次いで焼成し、任意に焼き戻すことでコア・シェル触媒が得られる。
【0027】
別の実施形態では、本発明による触媒は、コア・シェル触媒である。
【0028】
本発明による触媒は、酸化形態および/または硫化形態のアルカリ金属が担体上に存在することのみを必要とするが、タングステン酸やタングステン酸塩などの酸化形態のタングステンを有する化合物が存在することは必ずしも必要ではない。このことはまた、アルカリとタングステンとの特定の比を満たさなければならなかった従来技術の方法と比較して、触媒の製造を著しく単純化する。
【0029】
本発明の別の主題は、本発明による触媒の製造方法であって、
a)二酸化チタン、二酸化ジルコニウムおよび/またはそれらの混合物を含むかまたはそれらからなる担体に、可溶性アルカリ金属化合物を含む水溶液を含浸させて、含浸担体を提供するステップと、
b)ステップa)で得られた含浸担体を乾燥させるステップと、
c)ステップb)で得られた乾燥した含浸担体を焼成して、触媒を提供するステップと
を含む方法である。
【0030】
担体への含浸溶液の施与には、浸漬含浸、吹付含浸、真空含浸、および細孔容積含浸など、さまざまな含浸技術を用いることができる。これにより、含浸を2回以上行うことも可能となる。成形品の場合、選択される含浸方法により、所望の担持量の助触媒を成形品の断面全体に良好な均一性で施与することが可能でなければならない。含浸溶液は、吹付または真空含浸によって1または2ステップで成形品に施与されるのが好ましい。吹付含浸では、水性含浸溶液を担体に吹き付ける。真空含浸では、成形品を充填した容器内で真空ポンプを用いて減圧を生じさせる。水性含浸溶液の接続部を開放して、充填した成形品の全体が溶液で覆われるまで溶液を容器内に吸い込む。0.2~2時間の含浸期間の後、材料に取り込まれなかった溶液を排出するかまたは注ぎ出す。室温で1~10時間の予備乾燥を行うことで、成形品の断面における初期濃度勾配を大幅に均一にすることができる。このようにして、触媒粒子の断面上の含浸の均一性が改善される。このようにして得られた触媒前駆体を、好ましくは、50~100℃、好ましくは60~80℃で、一晩、例えば1~10時間乾燥させて、残留水分を除去する。その後、300~600℃、好ましくは420~480℃で1~20時間、好ましくは1~5時間にわたって焼成を行う。その結果、含浸溶液由来の酸化形態および/または硫化形態のアルカリ金属が助触媒としてのアルカリ金属酸化物に移行し、前述の助触媒が担体に固定され、含浸溶液由来のアニオンが効力を失って排除される。また、乾燥および焼成時には、触媒前駆体用の担体の担持部にガス流を任意に流してもよく、これにより残留水分や分解ガスの除去性が向上する。焼成の期間および温度について明示的に言及された値からの逸脱は、明示的に言及された値と同質の効果が奏されるならば、本発明の範囲に包含される。
【0031】
本発明による方法は、含浸溶液中のアルカリ金属化合物の選択に関して制限されない。唯一の要件は、アルカリ金属化合物が、所望の濃度のアルカリ金属を担体に担持させるために水への十分な溶解性を有していなければならないこと、およびアニオンが焼成ステップ中に容易に分解することである。したがって、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属酢酸塩、アルカリ金属炭酸塩、またはアルカリ金属硝酸塩を使用することが好ましい。
【0032】
ただし、水への溶解性が比較的低いアルカリ金属化合物を用いることも可能である。アルカリ金属化合物の水への溶解性が低いために、1回の含浸ステップでは所望のアルカリ金属担持を得ることができない場合、担体の含浸を、複数のステップ、特に2ステップで行うこともできる。その場合、例えば、第1のステップで使用される含浸溶液は、酸化形態および/または硫化形態のアルカリ金属を含む化合物の総量の1/3~2/3を含み、残りの量は、第2のステップまたは任意のさらなるステップで担体に施与される。複数ステップ、例えば2ステップの手順では、第1のステップで得られた中間生成物は任意に焼成されない。これとは別に、第2のステップでは、1ステッププロセスについて説明したのと同じ含浸、乾燥、および焼成のプログラムが行われる。
【0033】
本発明による触媒の製造方法の一実施形態では、ステップa)~b)またはa)~c)が少なくとも1回繰り返される。
【0034】
このようにして得られた触媒、特にステップc)で得られた触媒をバインダーと混合した後、押出成形やペレット化などの成形プロセスに供することで、完全触媒が得られる。このようにして得られた押出成形品またはペレットを、最終焼成および任意に焼戻しに供する。
【0035】
別の実施形態では、触媒の製造方法は、
d1)触媒の製造方法のステップc)で得られた触媒を成形して、完全触媒を得るステップ
をさらに含む。
【0036】
あるいはステップc)で得られた触媒をコアに施与して、コア・シェル触媒を得ることも可能である。この目的のために、ステップc)で得られた触媒を、溶媒、好ましくは水に懸濁させ、バインダーと混合し、こうして得られた混合物を、例えば噴霧乾燥により例えばセラミック材料製の不活性コアに施与し、次いで焼成して、溶媒を除去しかつバインダーを燃焼させ、任意に焼戻しを行う。
【0037】
代替的な実施形態では、触媒の製造方法は、
d2)触媒の製造方法のステップc)で得られた触媒をコアに施与して、コア・シェル触媒を提供するステップ
をさらに含む。
【0038】
本発明による触媒、および本発明による方法によって得られた触媒は、アルキルアルコールと硫化水素との触媒反応によってアルキルメルカプタンを生成する、アルキルアルコールチオール化とも呼ばれる反応に適している。
【0039】
したがって、本発明のさらなる主題は、アルキルメルカプタンの製造方法であって、本発明による触媒または本発明による方法によって得られた触媒の存在下で、アルキルアルコールを硫化水素と反応させる方法である。
【0040】
原則として、本発明によるチオール化プロセスは、特定のアルキルアルコールの使用や、特定のアルキルメルカプタンの製造に限定されるものではない。しかし、経済的に最も重要なアルキルアルコールは、メチルメルカプタンである。
【0041】
したがって、本発明によるチオール化プロセスの一実施形態では、反応させるアルキルアルコールはメタノールであり、製造するアルキルメルカプタンはメチルメルカプタンである。
【0042】
本発明は、以下の項目によってさらに説明される。
【0043】
1.担体と助触媒とを含む触媒であって、担体が、二酸化チタン、二酸化ジルコニウムおよび/またはそれらの混合物を含み、助触媒が、酸化形態および/または硫化形態のアルカリ金属である、触媒。
【0044】
2.担体の少なくとも一部が、正方晶相を有する、項目1記載の触媒。
【0045】
3.助触媒が、アルカリ金属の酸化物および/またはアルカリ金属の硫化物である、項目1または2記載の触媒。
【0046】
4.アルカリ金属が、ナトリウム、カリウム、セシウム、またはルビジウムである、項目1から3までのいずれか1つ記載の触媒。
【0047】
5.触媒が、触媒の総重量に対して最大25重量%の助触媒を含む、項目1から4までのいずれか1つ記載の触媒。
【0048】
6.触媒が、触媒の総重量に対して5~20重量%の助触媒を含む、項目1から5までのいずれか1つ記載の触媒。
【0049】
7.助触媒が、酸化セシウムおよび/または硫化セシウムであり、触媒が、触媒の総重量に対して5~20重量%の前述の助触媒を含む、項目1から6までのいずれか1つ記載の触媒。
【0050】
8.触媒が、完全触媒である、項目1から7までのいずれか1つ記載の触媒。
【0051】
9.触媒が、コア・シェル触媒である、項目1から8までのいずれか1つ記載の触媒。
【0052】
10.項目1から7までのいずれか1つ記載の担持触媒の製造方法であって、
a)二酸化チタン、二酸化ジルコニウムおよび/またはそれらの混合物を含む担体に、可溶性アルカリ化合物を含む水溶液を含浸させるステップと、
b)ステップa)で得られた含浸担体を乾燥させるステップと、
c)ステップb)の乾燥した含浸担体を焼成して、触媒を提供するステップと
を含む、方法。
【0053】
11.ステップa)~c)を少なくとも1回繰り返す、項目10記載の方法。
【0054】
12.
d1)ステップc)で得られた触媒を成形して、完全触媒を得るステップ
をさらに含む、項目10または11記載の方法。
【0055】
13.
d2)ステップc)で得られた触媒をコアに施与して、コア・シェル触媒を提供するステップ
をさらに含む、項目10または11記載の方法。
【0056】
14.アルキルメルカプタンの製造方法であって、項目1から9までのいずれか1つ記載の触媒または項目10から13までのいずれか1つ記載の方法によって得られた触媒の存在下で、アルキルアルコールを硫化水素と反応させる、方法。
【0057】
15.反応させるアルキルアルコールがメタノールであり、製造するアルキルメルカプタンがメチルメルカプタンである、項目14記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【
図1】純粋な金属酸化物(a)、5重量%のCsを担持した金属酸化物(b)、10重量%のCsを担持した金属酸化物(c)、15重量%のCsを担持した金属酸化物(d)、20重量%のCsを担持した金属酸化物(e)のXRDパターンを示す図であり、γは、純粋なγ-Al
2O
3の特徴的なシグナル、tは、正方晶のZrO
2の特徴的なシグナル、Aは、アナターゼ(TiO
2)の特徴的なシグナル、Csは、Cs
2CO
3の特徴的なシグナルを示す。
【
図2】50℃で純粋な金属酸化物に吸収されたピリジンの減算後のIRスペクトルを示す図であり、実線は、ピリジン分圧0.1mbarで得られたIRスペクトルを示し、破線は、減圧後に10
-7mbarで得られたIRスペクトルを示す。
【
図3】γ-Al
2O
3、ZrO
2、およびTiO
2のOH振動領域の差分スペクトルを示す図であり、実線は、ピリジン分圧0.1mbarで得られたIRスペクトルを示し、破線は、減圧後に10
-7mbarで得られたIRスペクトルを示す。
【
図4】50℃でのCs担持量が10または20重量%の金属酸化物の減算後のIRスペクトルを示す図であり、実線は、ピリジン分圧0.1mbarで得られたIRスペクトルを示し、破線は、減圧後に10
-7mbarで得られたIRスペクトルを示す。
【
図5】CO分圧5mbar、-150℃における、γ-Al
2O
3(左)、ZrO
2(中央)、およびTiO
2(右)に吸着したCOのIRスペクトルを示す図であり、(a)は、純粋な金属酸化物、(b)は、Csを10重量%担持したもの、(c)は、Csを20重量%担持したものである。
【
図6】メタノール分圧0.1mbar、50℃における、Al
2O
3(左)、ZrO
2(中央)、およびTiO
2(右)右に吸着したメタノールのIRスペクトルを示す図であり、(a)は、純粋な金属酸化物、(b)は、Csを10重量%担持したもの、(c)は、Csを20重量%担持したものである。
【
図7】メタノール分圧および温度が(a)50℃、0.1mbar、(b)50℃、1mbar、(c)100℃、1mbar、(d)150℃、1mbar、(e)200℃、1mbar、(f)250℃、1mbar、および(g)300℃、1mbarで、純粋な金属酸化物であるγ-Al
2O
3(左)、ZrO
2(中央)、およびTiO
2(右)にメタノールを吸着させたときのIRスペクトルを示す図である。
【
図8】メタノール分圧および温度が(a)50℃、0.1mbar、(b)50℃、1mbar、(c)100℃、1mbar、(d)150℃、1mbar、(e)200℃、1mbar、(f)250℃、1mbar、および(g)300℃、1mbarで、10および20重量%のCsを含むγ-Al
2O
3(左)、10および20重量%のCsを含むZrO
2(中央)、および10および20重量%のCsを含むTiO
2(右)に対するメタノールのIRスペクトルを示す図である。
【
図9】γ-Al
2O
3(左)、ZrO
2(中央)、およびTiO
2(右)におけるメチルメルカプタン生成の初期速度を、300~360℃で、純粋な金属酸化物(実線および立方体)、10重量%のCs担持(点線および丸)、および20重量%のCs担持(破線および三角形)について示す図である。
【
図10】360℃で、純粋な金属酸化物であるγ-Al
2O
3(左)、ZrO
2(中央)、およびTiO
2(右)を用いた場合のメチルメルカプタン(立方体)、ジメチルエーテル(丸)、およびジメチルスルフィド(三角形)の収率をメタノール転化率に対して示す図である。
【
図11】300~360℃の温度で、Csを10および20重量%含むγ-Al
2O
3(左)、Csを10および20重量%含むZrO
2(中央)、ならびにCsを10および20重量%含むTiO
2(右)を用いた場合のメチルメルカプタン(立方体)、ジメチルエーテル(丸)、およびジメチルスルフィド(三角形)の収率をメタノール転化率に対して示す図である。
【
図12】メチルメルカプタン生成速度の依存性を、メタノール中(立方体;y=0.3x+1.7)および硫化水素中(三角形;y=0.5x+1.9)のγ-Al
2O
3に対して、メタノール中(立方体;y=0.2x-0.3)および硫化水素中(三角形;y=0.4x-0.6)のZrO
2に対して、ならびにメタノール中(立方体;y=0.3x+1.2)および硫化水素中(三角形;y=0.5x+1.7)のTiO
2に対して示す図であり、ここで、濃度をmol/l単位で示す。
【
図13】セシウムの担持量が異なる触媒に対するメチルメルカプタン生成速度の依存性を示す図であり、10重量%のCs(最初の列)について、メタノール中のものを立方体で示し(γ-Al
2O
3:y=0.4x+1.0;ZrO
2:y=0.5x+1.5;およびTiO
2:y=0.6x+2.3)、硫化水素中のものを三角形で示す(γ-Al
2O
3:y=0.4x+0.6;ZrO
2:y=0.3x-0.01;およびTiO
2:y=0.2x+0.2)。20重量%のCs(2列目)について、メタノール中のものを立方体で示し(γ-Al
2O
3:y=0.3x+1.0;ZrO
2:y=0.6x+2.3;およびTiO
2:y=0.5x+2.0)、硫化水素中のものを三角形で示し(γ-Al
2O
3:y=0.5x+1.3;ZrO
2:y=0.3x+0.5;およびTiO
2:y=0.2x+0.3)、ここで、濃度をmol/l単位で示す。
【
図14】メタノール中の(立方体で示す;y=1.5x+11.0)および硫化水素中の(三角形で示す;y=0.0x)純粋なγ-Al
2O
3に対する、メタノール中の純粋なZrO
2に対する(立方体で示す;y=0.7x)、ならびに純粋なTiO
2に対する(立方体で示す;y=0.7x+2.3)ジメチルエーテル生成速度の依存性を示す図であり、ここで、濃度をmol/l単位で示す。
【
図15】300、320、340および360℃の温度での、CsWS
2(タングステン含有量5.1重量%、セシウム含有量20.6重量%)を担持したγ-Al
2O
3を用いた場合のメチルメルカプタン生成の初期速度(実線、四角)を示す図である。
【0059】
実施例
1. 本発明によるCs担持金属酸化物の製造
Cs担持量が触媒の総重量に対して5、10、15、20重量%である触媒を、それぞれ0.125~0.25mmの粒径を有する市販の金属酸化物であるγ-Al2O3(Spheralite 101、Axens)、TiO2(Hombikat 100 UV、Sachtleben)、およびZrO2(SZ 61152、Norpro)のインシピエントウェットネス含浸により、撹拌した固体に酢酸セシウムの水溶液を滴加して製造した。各Cs担持量について、所望のCs担持量を得るために必要な量の酢酸セシウムを含む異なる含浸溶液を製造した。担体1gあたり76mgの酢酸セシウム(Sigma Aldrich、99.99%以上)を0.5mLのH2Oに溶解させて5重量%のCs担持量とし、それぞれ10重量%のCs担持量の場合には160.5mgの酢酸セシウム、15重量%のCs担持量の場合には255mgの酢酸セシウム、20重量%のCs担持量の場合には361.0mgの酢酸セシウムを用いた。含浸金属酸化物を70℃で一晩乾燥させた後、合成空気を100mL/minの流量で流しながら、400℃で2時間、0.5℃/minの温度勾配で焼成した。触媒試験に使用する前に、すべての試料を、H2S中で20ml/minの流量で、360℃で2時間処理して活性化した。
【0060】
2. 製造した触媒の特性評価
2.1 元素組成および表面積の測定
本発明により製造した触媒の元素組成を、原子吸光分光法(AAS)によって求めた。測定は、UNICAM 939 AA-Spectrometerで行った。テクスチャ特性を調べるために、N2物理吸着を、Porous Materials Inc. BET-121 sorptometerで行った。250℃で2時間、真空下で活性化した後、N2を77.4Kの温度で吸着させた。BET法を用いて表面積を算出した。製造したすべての触媒の元素分析および表面の測定結果を以下の表1にまとめた。
【0061】
【0062】
これらの結果は、3種類の担体材料のそれぞれについて、同等のCs担持量が達成されたことを示している。総じて、製造した担持触媒の比表面積は、Cs担持量の増加とともに減少する。これは、触媒の密度が高まり、表面がCsで覆われることで、表面積が減少することに起因し得る。
【0063】
以下の表2は、触媒の製造に使用した異なる含浸溶液中の酢酸セシウムの異なる重量、これらの含浸溶液中のCs+の重量(酢酸対イオンの重量は無視)、触媒の重量(担体+Cs+)、製造した触媒中のCs+の理論濃度(CTh(M(セシウム)/m(触媒))、および元素分析で得られた製造した触媒中のCs+の濃度(CEA(M(セシウム)/m(触媒))をまとめたものである。
【0064】
【0065】
2.2 結晶構造
粉末X線回折法により、すべての担体および触媒の結晶構造を調べた。XRDパターンは、45kV/40mAで動作するPhilips X’Pert System(Cu Kα線、0.1542nm)で、ニッケルKβフィルターおよび固体検出器(X’Celerator)を使用して収集した。測定は、ステップサイズ0.017°、1ステップあたりのスキャン時間0.31秒で行った。
【0066】
担体材料は、γ-Al
2O
3では相純粋、TiO
2ではアナターゼ、ZrO
2では正方晶のジルコニアであり、期待通りの回折パターンを示した。XRDパターンを
図1に示す。Csを添加しても担体材料の結晶構造には変化がなく、同じ回折パターンを示した。γ-Al
2O
3およびTiO
2では、45℃で追加の回折ピークが観測され、これはCs
2CO
3を示している。この炭酸塩は、表面のCs種が大気中のCO
2と反応して生成されたものであると考えられる。スルフィド化すると、この炭酸塩およびそのピークは消失し、硫黄のオキシアニオンが生成されるが、X線回折では検出されなかった。また、他の反射も見られなかった。したがって、活性Cs種はXRDアモルファスであると結論付けられる。
【0067】
2.3 酸塩基性の特性評価
純粋な金属酸化物および製造した触媒へのCOおよびピリジンの吸着を、赤外分光法で透過吸収モードにてモニターし、ルイス酸性度を測定した(試料は、自立したウェハーに押し込んだ)。吸着の前に、毎分10mLのヘリウムを流しながら、毎分10℃の昇温勾配で試料を360℃まで加熱した。続いて、窒素中に10体積%の硫化水素を毎分10mL流しながら、360℃で0.5時間にわたってサンプルを硫化した。物理吸着した硫化水素を除去するために、毎分10mLのHe流量でさらに15分間にわたって試料をフラッシュした後、10-7mbarまで減圧して50℃まで冷却した。ピリジン吸着では、セルを50℃まで冷却し、ピリジン分圧1mbarで試料をピリジンに曝露した後、ピリジン分圧を減少させた。さらに10-5mbarまで減圧すると、Csを含む試料にはピリジンが吸着しなかった。そこで、減圧が行われる前の0.1mbarで、異なる触媒のスペクトルを比較した。配位ピリジンの濃度は、1450cm-1の特徴的なバンドについて求められた0.96cm/μmolのモル積分吸光係数を用いて算出した。COの吸着は、液体窒素を用いてIRセルを-150℃に冷却して行った。スペクトルを、CO分圧5mbarで記録した。
【0068】
メタノールを50℃で吸着させ、メタノール分圧を段階的に高め(0.1mbar、0.5mbar、1mbar、および5mbar)、その後、温度を300℃まで上昇させた。いずれのスペクトルも、Nicolet 6700 FTIR分光計を用いて記録した(各スペクトルを得るために、64回のスキャンを行った)。いずれのスペクトルもバックグラウンド減算を行い、ウェハーの重量で正規化した。
【0069】
2.4 ピリジン吸収
金属酸化物の酸性度を、IRにより吸着したピリジンで測定した(
図2)。純粋なγ-Al
2O
3では、1621、1612、1591、1577、1450、および1440cm
-1に8つのバンドが観測された。1621および1612cm
-1のバンドは、酸強度の異なるルイス酸サイト(LAS)に配位結合したピリジンの8a振動モードに割り当てられており(波数は、酸強度に伴って増加する)、1579cm
-1のバンドは、8b振動モードに割り当てられている。1591cm
-1のバンドは、H結合したピリジンの8a振動モードに割り当てられており、これは、ピリジンが弱酸性の表面ヒドロキシル基と相互作用することによって生じる。1450cm
-1のシグナルは、LAS上のピリジンの9b振動に起因し、1440cm
-1のバンドは、ヒドロキシル基上のH結合したピリジンに再び割り当てられている。LASに配位結合したピリジンに割り当てられたサイト(1450cm
-1、1612~1620cm
-1)は減圧に対して安定していたが、H結合したピリジンのバンド(1440cm
-1および1593cm
-1)はプローブ分子との相互作用が弱いため、減圧後に消失した。これは、H結合したピリジンの脱離に伴い、OH基が放出され、3700cm
-1付近の領域の負のOHバンドが減少したことと一致する(
図3)。
【0070】
ZrO2およびTiO2へのピリジンの吸着は、IRによって、1604、1593、1573、および1445cm-1のバンドが得られた。1604cm-1は、ZrO2およびTiO2のLASに結合したピリジンの8a振動モードに割り当てられており、1573cm-1は、8a振動モードに割り当てられている。1593cm-1は、H結合したピリジンの8a振動モードに割り当てられており、これは、ピリジンが弱酸性の表面ヒドロキシル基と相互作用することによって生じる。γ-アルミナの場合と同様に、このシグナルは減圧後に消失した。1445cm-1のシグナルは、LAS上のピリジンの9b振動に割り当てられている。1450cm-1のバンドを積分すると、金属酸化物のLAS濃度は、γ-Al2O3では454μmol・g-1、ZrO2では220μmol・g-1、TiO2では749μmol・g-1と求まった。ピリジンのシグナルが、γ-Al2O3(1450cm-1)からZrO2およびTiO2(1445cm-1)へと低波数側にシフトしていることから、前者のルイス酸強度が後者よりも高いことがわかる。
【0071】
【0072】
金属酸化物へのCsの添加により、吸着したピリジンによるIRスペクトルが変化した(
図4)。中程度ドープされたγ-Al
2O
3であるCs(10)/γ-Al
2O
3では、強LAS(1612cm
-1)および弱LAS(1609cm
-1)に配位結合したピリジンの8a振動モードに割り当てられたバンドはもはや検出されず、またH結合したピリジンのシグナルも検出されなかった。また、1583cm
-1に新たなバンドが現れたが、これは弱ルイス酸性アルカリに配位結合したピリジンの8a振動モードに対応するものであり、すなわち、γ-Al
2O
3で測定されたものよりも低いルイス酸強度を有するCs
+である。ZrO
2およびTiO
2にCsを添加したCs(10)/ZrO
2およびCs(10)/TiO
2では、担体のLASに割り当てられたバンドは観測されなかった。Cs/γ-Al
2O
3の場合と同様に、1600cm
-1および1583cm
-1に新たなバンドが現れたが、これらはそれぞれCs上のピリジンの1+6aおよび8aの倍音振動の振動モードに対応するものであった。減圧後、3つの試料すべてにおいて、Csサイト上のピリジンのシグナルは消失し、Cs(10)/γ-Al
2O
3およびCs(10)/TiO
2では部分的に残った。
【0073】
Csを追加したCs(20)/γ-Al2O3では、1612cm-1のバンドが減少していた。1600cm-1には、Cs上のピリジンの1+6a倍音振動に起因する新たなシグナルが観測された。既に述べたように、Csサイト上のピリジンの1583cm-1の8a振動と、LASおよびCs上のピリジンの1573cm-1の8b振動が見られた。このように、γ-Al2O3の表面にCsを徐々に添加することで、γ-Al2O3の強LASがCsの弱LASに置き換わる。Cs(20)/ZrO2およびCs(20)/TiO2触媒へのピリジンの吸着は、Cs+サイト(8a、8bおよび1+6a)に配位結合したピリジンにのみ生じた。CsドープZrO2およびTiO2に吸着したピリジン種はすべて真空下で脱着したが、Cs(20)/γ-Al2O3ではLASのわずかなシグナルが残った。
【0074】
【0075】
酸サイトをピリジンで滴定すると示されるが、γ-Al2O3ではLASサイトの不均一性が高く、2種類のLASが存在するが、一方でTiO2およびZrO2では1種類のLASしか提供されず、その強度はどちらの材料でも同じで、文献で観察されたものと一致している。Cs堆積の効果は以下のように説明される:中程度のCs担持量では、Cs+は直接相互作用によって金属酸化物の表面サイトを改質し、サンダーソンの電気陰性度が低いために表面の塩基性度を増加させる。この直接的な相互作用は、表面のプロトンとCs+カチオンとの交換によって行われる。
【0076】
Csの担持量が多い場合、表面はCsで支配される。TiO2上のカリウムについて仮定されたように、アルカリの高担持は金属酸化物表面の完全な被覆をもたらし、バルクアルカリ材料に類似した表面特性をもたらす。
【0077】
2.5 CO吸収
触媒へのCO吸着をIRで
図5に示す。異なるCOバンドの割当てを表4に示す。異なる金属酸化物へのCOの吸着では、同様のIRバンドが得られた。2180~2190cm
-1のバンドはLASへのCO吸着に割り当てられており、2150cm
-1付近のバンドは表面ヒドロキシル基に割り当てられている。γ-Al
2O
3のCO伸縮振動(2188cm
-1)は、ZrO
2(2177cm
-1)やTiO
2(2181cm
-1)よりも高い波数にあり、これは、CO結合の摂動がより大きいことを示していた。この傾向はピリジンで観察されたものと同じであり、γ-Al
2O
3のルイス酸サイトの強度がより高いことを示唆している。
【0078】
3つの担体に10重量%のCsを添加すると、LAS上のCO伸縮振動がより低波数(2138~2136cm-1)に減少し、これはCs+イオンに吸着したCOに対応する。Cs(10)/γ-Al2O3の場合、2179cm-1に追加のバンドが現れたが、これはアルカリカチオンによって変化したγ-Al2O3担体のLASに対応するものである。OH基に吸着したCOにはバンドが観測されなかった。20重量%という高いCs担持量の試料では、Csカチオン上のCOのシグナルおよび物理吸着したCOのシグナルのみが検出された。Cs(20)/ZrO2試料ではCOは吸着しなかった。
【0079】
γ-Al2O3表面のCsとのLASにおけるCO伸縮振動のレッドシフトは、塩基性度が増加し、サンダーソン電気陰性度が減少したことによる。TiO2およびZrO2の結果は、ピリジン吸着の結果と一致しており、これらの材料ではCsを10重量%担持してもLASがアクセスできない。ピリジン吸着の場合と同様に、Cs+は、Cs重ドープ材料でCO吸着に利用できる唯一の種である。COの吸着はIRでは、ピリジン吸着と一致しており、Cs(10)/γ-Al2O3を除いて、10重量%のCs担持量では担体からのルイス酸サイトが存在しない。
【0080】
【0081】
2.6 メタノール吸収
金属酸化物およびそのCsドープ体に吸着したメタノールの赤外スペクトルを
図6に示し、ここで、3000~2750cm
-1の領域のバンドは、(アルキル(sp
3)C-H振動)を示す。3000~2900cm
-1の領域は、(ν
as(CH
3))の非対称伸縮振動またはCH
3変角振動とのそのフェルミ共鳴(2δ
s(CH
3))に割り当てられており、それを下回るバンドは、対称伸縮振動(ν
s(CH
3))に割り当てられている。強ルイス酸サイトおよび強ルイス塩基サイトへのメタノールの吸着に割り当てられたIRバンドについて、50℃でν
asとν
sの双方で異なる強度が観測された(
図6~8)。前者のサイトでは、種Iとして知られる架橋メトキシドが生成され、ν
as(γ-Al
2O
3、ZrO
2、およびTiO
2では、2943、2948、および2944cm
-1)と、ν
s(γ-Al
2O
3、ZrO
2、およびTiO
2では、2845、2852、および2844cm
-1)との双方について、より高い波数のIRバンドが観測された。後者のサイトでは、ν
as(γ-Al
2O
3、ZrO
2、およびTiO
2では、2939、2931、および2923cm
-1)と、ν
s(γ-Al
2O
3、ZrO
2、およびTiO
2では、2821、2827、および2821cm
-1)との双方について、種IIとして知られるアルコラートの生成(O-H基の解離)が生じた。ZrO
2では、比較的高い濃度の解離メタノールが見られ、TiO
2ではさらに増加した。Al
2O
3の場合、IRセルを加熱すると、架橋メトキシド(種I)の強度が増加した。他の2つの担体では、加熱による大きな変化は見られなかった。表面種のメタノールの相対的な強度から、金属酸化物の一般的な酸性の性質からより塩基性の性質へと、γ-Al
2O
3>ZrO
2~TiO
2の順に減少するという結論が直接導かれる。
【0082】
3. 本発明による担持触媒の触媒試験
メタノールの触媒的チオール化を、容積25mLの反応管で行った。反応の前に、1gのSiCで希釈した125.0mgの触媒(125~250μm)を、360℃、9barで20mL・min-1のH2Sの流れの中で硫化させた。触媒の体積は、プラグフロー型反応器の空容積(20mL)に比べてほとんど無視できるものであった。このため、液体メタノール(CH3OH)を基準とした液空間速度(LHSV)は、わずか0.054h-1という比較的低い値となった.また、完全なフィード(H2S、CH3OH、およびN2)に基づく気体空間速度(GHSV)は、150h-1であった(DIN 1343に準拠した0℃、1.013barの標準的な条件に基づく)。活性化エネルギーを調べるために、H2S(20mL・min-1)およびN2(20mL・min-1)と混合したガス状のCH3OH(10mL・min-1)の流れを用いて、供給流の圧力を9bar、N2の分圧を3.6bar、H2Sの分圧を3.6bar、メタノールの分圧を1.8barとして反応を行った。反応管は、ジャケットを介して熱媒により300~360℃の温度に加熱した。
【0083】
Weisz-Prater係数の標準的な算出によれば、すべての触媒においてすべての条件でこの係数が1未満であったため、キネティクスの結果は内部物質移動効果の影響を受けていないと結論付けることができた。生成物の流れのオンライン分析は、HP plot Qカラム(2.7m、内径2.0mm)を装備したShimadzu GC-2014を使用して、TCD検出器を用いて行った。反応速度定数は、CH3SHについてはCH3OHおよびH2Sにおける0.5次反応の積分速度則を用いて算出した。転化の全範囲にわたって生成物の分布を調べるため、360℃でCH3OHの分圧を2.2bar、N2およびH2Sの分圧を3.3barに保ちながら滞留時間を調整した。
【0084】
反応次数は、360℃で求めた。H2S中での反応次数については、メタノールの分圧を2.2barで一定に保ち、H2Sの分圧を1.1~5.6barで変化させた。メタノールの反応次数を測定するために、H2Sの分圧を4.5barに設定し、CH3OHの分圧を0.6mbar~2.2のガス状のCH3OHで変化させた。N2ガスの流量は、体積流量の変化を補正し、全体積流量を80ml/minで一定に保つように調整した。それに応じて、各実験で使用する触媒の量は、CH3OHの転化率が確実に10%未満となるように調整した。セシウム修飾材料の反応次数は、10.0mgの触媒で測定したが、TiO2およびZrO2では5.0mg、γ-Al2O3では1.0mgで十分であった。γ-Al2O3の場合、チャネリング効果を避けるために、触媒を、研究対象の反応に不活性であることが知られているSiO2と1:9の比で物理的に混合した。
【0085】
3.1 触媒活性
メチルメルカプタン(CH
3SH)生成の初期速度を
図9に示す。メタノールチオール化において最も高い速度が観測されたのはTiO
2(0.17~1.4×10
-6mol
CH3SH s
-1・g
cat
-1)であり、次いでγ-Al
2O
3(0.13~9.2×10
-6mol
CH3SH s
-1・g
cat
-1)、およびZrO
2(0.02~0.2×10
-6mol
CH3SH s
-1・g
cat
-1)であった。Csドープ系では、CH
3SH生成速度は、Cs(10重量%)/γ-Al
2O
3(1.8~8.7×10
-6mol
CH3SH s
-1・g
cat
-1)>Cs(10重量%)/ZrO
2(1.7~7.1×10
-6mol
CH3SH s
-1・g
cat
-1g
cat)>Cs(10重量%)/TiO
2(1.8~6.6×10
-6mol
CH3SH s
-1・g
cat
-1)の順に低下した。Csの担持量を20重量%に増やしても、より活性の高い触媒にはならず、むしろCs(20重量%)/γ-Al
2O
3(2.0~7.6×10
-6mol
CH3SH s
-1・g
cat
-1)、Cs(20重量%)/ZrO
2(1.7~7.1×10
-6mol
CH3SH s
-1・g
cat
-1)、およびCs(20重量%)/TiO
2(1.8~5.8×10
-6mol
CH3SH s
-1・g
cat
-1)では、活性がわずかに低下した。金属酸化物の違いによるCH
3SH生成速度の差は1桁であるが、Cs系の活性はわずかな差しか示さなかった。これは、全体的な活性が表面のCs種によって決まることを示しており、これは3つの金属酸化物担体すべてにおいて類似していると考えられる。実際、CH
3SH生成速度は3つの系すべてでわずかに減少した。
【0086】
メチルメルカプタン、ジメチルスルフィド(DMS)、およびジメチルエーテル(DME)の収率を、3つの金属酸化物すべてについて、360℃でのメタノール転化率に対して測定した(
図10)。γ-Al
2O
3では、CH
3SHおよび(DME)が一次生成物として得られ、メタノールの転化率が60%になるまではDMEが最も高い一次生成物であった。転化率が60%を超えると、DMEの収率は20%に低下し、転化率が90%になるとCH
3SHが主生成物となる。この挙動は、DMEが触媒に再吸着し、二次反応を経てCH
3SHが生成されることにより説明される。ZrO
2でも同様の結果が見られ、CH
3SHが主な一次生成物であり、ジメチルエーテルの収率は10%未満となった。驚くべきことに、ZrO
2では10%未満の転化率ではDMEが生成されなかった。γ-Al
2O
3およびZrO
2の双方で、CH
3SH生成の二次生成物であるジメチルスルフィドが高い転化率水準で認められた。TiO
2では、ジメチルエーテルは認められず、ジメチルスルフィドが唯一の副生成物であった。ZrO
2およびTiO
2では、H
2Sを使用せずに反応を行うとDMEが生成され(
図10)、これは、ZrO
2およびTiO
2での反応物間での競合を示唆している。CH
3SHの収率は、γ-Al
2O
3<ZrO
2<TiO
2の順に増加した。CH
3SH、DMS、およびDMEの収率を、Csの担持量が10および20重量%である3つの金属酸化物すべてについて、360℃でのCH
3OH転化率に対して測定した(
図11)。すべてのCs含有系で一般的な傾向が見られ、つまり、主生成物としてCH
3SHが得られたが、DMEを生成した唯一の触媒はCs(10重量%)/Al
2O
3であり、360℃でのDME収率は0.3%であった。主な副生成物はDMSであり、Cs(10重量%)/Al
2O
3では360℃で最大0.7%の収率であった。Csが表面に存在する状態でDMEが得られなかったのは、強LASが存在しなかったためである。これらの結果は、ピリジンおよびCOの吸着のIRによって裏付けられ、Csのドーピングによってルイス酸性度が劇的に低下することが示された。
【0087】
3.2 キネティクス
a)メチルメルカプタンの生成
メタノールおよび硫化水素中のメチルメルカプタン生成速度の純粋な金属酸化物に対する依存性を
図12に示し、10および20重量%のCsを担持した金属酸化物に対する依存性を
図13に示す。CH
3OHおよびH
2Sに関するメチルメルカプタン生成の反応次数を表6に示す。
【0088】
【0089】
すべての金属酸化物において、CH
3SHの生成におけるH
2S中およびCH
3OH中の反応次数がともに0.5であることは、2分子のLangmuir-Hinshelwood機序の前に双方の反応物が解離することを示唆している。メチルメルカプタンの反応速度式は、
【数1】
であり、ここで、
a=(1+K
2
0.5[CH
3OH]
0.5+K
3
0.5[H
2S]
0.5+[CH
3SH]
0.5/K
6
0.5+[H
2O]
0.5/K
7
0.5)
である。
【0090】
ジメチルエーテルの反応速度式は、
【数2】
であり、ここで、
b=(1+K
1
0.5[CH
3OH]
0.5+[H
2O]
0.5/K
8
0.5)
である。
【0091】
硫化水素は金属酸化物の表面に解離吸着することが知られているが、メタノールも表面酸化物のルイス酸塩基対に解離吸着してメタノラートを生成することが知られている。このように、両基質は同じ種類の塩基サイトで解離すると考えられている。分圧による反応次数の減少は、基質が表面への吸着をめぐって競合するという効果を有するものと推測される。しかし、これは金属酸化物の場合には見られない。
【0092】
メチルメルカプタン生成の見かけの活性化エネルギーは、γ-Al2O3では約112kJmol-1、ZrO2では約115kJmol-1、TiO2では約107kJmol-1であることが判明した。これは、Csが存在しないため、金属酸化物の活性サイト上で生成されたメチルメルカプタンの見かけ上の活性化エネルギーである。
【0093】
【0094】
Cs(10重量%)を添加すると両反応物の反応次数が0.5に近づくが、これは、純粋な金属酸化物について提案されたのと同じ解離性反応機序を示唆している。しかし、H2Sに対する反応次数が0.2であることは、Cs/TiO2およびCs/ZrO2触媒がH2Sの部分的な被覆下で動作していることを暗示している。見かけの活性化エネルギーは66~78kJmol-1に減少した。金属酸化物に比べてこれらの触媒の活性化エネルギーが低いのは、塩基性度の増加に関連している。担体上のCs+カチオンの存在は、アルミナ上のナトリウムやカリウムで観察されたのと同様に、その表面のヒドロキシルが覆われることを示唆している。このことは、ピリジンおよびCOの吸着時にIRによるOHバンドが見られないことで確認された。Cs重ドープ材料(20重量%)ではいずれも、Cs10重量%の場合と同様の反応次数の値が得られ、このことも解離性機序を示唆している。見かけの活性化障壁は、3つのCs重ドープ材料について65~59kJmol-1であった。見かけの活性化エネルギーの低下は、表面の完全な改質により説明できる。ピリジン吸着で示されたように、ピリジン吸着時に利用可能な唯一の表面種はCsであり、金属酸化物の化学的特性を抑制し、非常に弱いLASとして作用していた。さらに、強ルイス酸サイトがないため、Cs重ドープ触媒でメタノール吸着時にIRにより観察されたように、表面のメタノラートが生成されるだけであった。
【0095】
DME生成の反応次数を、すべての純粋な金属酸化物について、メタノールおよび硫化水素中で決定した(表8および
図14)。γ-Al
2Oにおけるジメチルエーテル生成の反応次数は、メタノール中では1.5であり、H
2S中では0であった。H
2S中での0次は、DME生成サイトでH
2Sがメタノールと競合しないことを示している。メタノール中での反応次数が1.5となったのは、メタノールが触媒表面を部分的に覆っていることにより説明される。γ-Al
2O
3では、メタノールの吸着がH
2Sに比べて有利であるように見受けられ、DMEが生成し、H
2S中では0次となった。ZrO
2およびTiO
2では、DME生成の反応次数(H
2Sが存在しない場合)は0.7であることが判明した。これらの材料では、メタノールの表面被覆率がγ-Al
2Oに比べて高いと考えられる。γ-Al
2O
3の見かけの活性化エネルギーが他の2つの材料に比べて低いのは、COおよびピリジンの吸着で示されるように、ルイス酸の強度が高く、CH
3OHのCO結合の切断が容易であるためである。
【0096】
【0097】
3.3 触媒の選択率
純粋な金属酸化物触媒では、γ-Al2O3は、メチルメルカプタンの生成への選択率が最も低く、300~320℃の温度範囲ではジメチルエーテルが主生成物となった(SDME,300℃=71.2%およびSDME,320℃=63.4%)。温度の上昇に伴い、ジメチルエーテルへの選択率は低下し、SDME,340℃=49.8%となり、最終的にSDME,360℃=28.6%となった。ジメチルエーテルの選択率が低下するにつれ、メチルメルカプタンの選択率は300℃での28.5%から360℃での71.2%へと増加した。また、ジメチルスルフィド生成への選択率は、5%未満であった。
【0098】
純粋なZrO2では、メチルメルカプタン生成への選択率は、300℃で53.1%、360℃で60%であった。しかし、この場合にも主要な副生成物はジメチルエーテルであり、その選択率は300℃での46.7%から360℃での36.6%へと減少した。γ-Al2O3の場合と同様に、ジメチルスルフィドへの選択率は、5%未満であった。
【0099】
すべての純粋な金属酸化物の中で、TiO2はメチルメルカプタンの生成への選択率が最も高く、300℃で96%であったが、高温になるほど選択率は低下した(SDME,360℃=79.2%)。他の2つの金属酸化物とは対照的に、ジメチルエーテルへの選択率は温度の上昇とともに増加し、SDME,300℃=4.0%からSDME,360℃=16.6%となった。ジメチルスルフィドは、4%未満の選択率で生成された。
【0100】
純粋な金属酸化物触媒と比較して、Cs担持触媒はいずれもCH3SHの選択率が劇的に増加した。γ-Al2O3上のCsが10重量%である場合、CH3SH生成の選択率はSCH3SH,300℃=99.7%からSCH3SH,360℃=98.3%の範囲まで上昇した。副生成物への選択率は、温度の上昇とともに増加し、DMEは、SDME,300℃=0.1%からSDME,360℃=0.5%の選択率で生成され、DMSは、SDMS,300℃=0.2%からSDMS,360℃=1.2%の選択率で生成された。Cs担持量を20重量%に増やしても、CH3SHの選択率はSCH3SH,300℃=99.9%からSCH3SH,360℃=99.1%にまで増加した。この場合、認められた唯一の副生成物はDMSであり、その選択率はSDMS,300℃=0.1%からSDMS,360℃=0.9%であった。
【0101】
ZrO2系触媒では、CH3SHへの選択率が、SCH3SH,300℃=99.9%からSCH3SH,360℃=99.1%の範囲に増加した。この場合にも、認められた唯一の副生成物はDMSであり、その選択率はSDMS,300℃=0.1%からSDMS,360℃=0.9%であった。Csの担持量を20重量%に増やすと、SCH3SH,300℃=99.9%~SCH3SH,360℃=99.4%のさらに高い選択率が得られた。
【0102】
TiO2系触媒にも同様の結果が見られ、Csを10重量%とすると、CH3SHの選択率はSCH3SH,300℃=99.9%からSCH3SH,360℃=99.4%の範囲に増加した。この場合にも、認められた唯一の副生成物はジメチルスルフィドであり、その選択率はSDMS,300℃=0.1%からSDMS,360℃=0.6%であった。Cs担持量を20重量%に増やすと、この場合にも、SCH3SH,300℃=99.9%からSCH3SH,360℃=99.5%のさらに高い選択率が得られた。
【0103】
【0104】
4. 比較例
比較例を、γ-Al2O3上にCs2WS4を含む触媒を用いて行った。前述の触媒を、2ステップのインシピエントウェットネス含浸法によって製造した。まず、5.0gのγ-Al2O3(SPH509 Axensの類似品、粒径150~250μm)を、1.6mLのH2Oに溶解させた0.64gの酢酸セシウム(Sigma Aldrich、≧99.99%)に含浸させた。この試料を室温で一晩乾燥させて、Cs/Al2O3を得た。次に、以下のようにしてCs2WS4/Al2O3系を合成した:350mgの(NH4)2WS4を20mLのH2Oに溶解させた溶液と325mgのCs2CO3を20mLのH2Oに溶解させた溶液とを混合して沈殿させて、Cs2WS4の結晶を生成した。黄色の沈殿物が生成された。この固体をろ過し、氷冷した水および1-プロパノールで洗浄した。Cs2WS4の溶解度が低いため、これらの450mgを150mlの水に溶解させた。次に、この溶液に2gのCs/Al2O3を加えた。連続回転で蒸発させて水を除去し、固体試料上にCs2WS4の結晶を析出させた。この試料を室温で一晩乾燥させた。乾燥後、この試料を455℃で4時間、5℃/minの増分で焼成した。製造した触媒は、タングステン含有量5.1重量%、セシウム含有量20.6重量%、細孔容積0.20cm3・g-1、およびBET表面積141m2・g-1を有しており、これらは双方とも上述のようにして測定した。吸着に続いて、H2Sの温度プログラム脱着を、重量分析計(QME 200、Pfeiffer Vacuum)を備えたフロー装置を用いてパルス法で行った。触媒の試料を石英反応器に充填し、4.2体積%のH2S/He下で、6ml/minの流量にて360℃で2時間にわたってその場で活性化させた。H2Sの吸着では、温度を360℃に設定し、吸着の前に試料をHeで1時間フラッシュした。He中の4.4体積%のH2Sのパルスを30分ごとに導入した(H2Sは5.0μmol/min)。吸着したガスの総濃度を、各パルスの取込み量の合計として算出した。
【0105】
このようにして得られた触媒を、例3と同じ反応条件および同じ反応管を用いて試験した。試験の前に、H2S中で20ml/minの流量にて360℃で2時間処理することにより、触媒を活性化させた。
【0106】
300、320、340、および360℃の温度でのMeOH転化率、CH3SH、DME、およびDMSの収率、ならびにCH3SH、DME、およびDMSの選択率を表10にまとめた。
【0107】
【0108】
CH
3SH生成の初期速度を
図15に示す。メタノールのチオール化においては、温度300℃で最も高い速度が観測され(1.34×10
-6mol
CH3SH s
-1・g
cat
-1)、その後、温度が高くなるにつれて速度が低下し、温度360℃で速度が最も低かった(6.38×10
-6mol
CH3SH s
-1・g
cat
-1)。