(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】幹細胞療法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/28 20150101AFI20240423BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20240423BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240423BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20240423BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240423BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240423BHJP
A61K 35/51 20150101ALI20240423BHJP
C12N 5/0789 20100101ALN20240423BHJP
【FI】
A61K35/28
A61P7/00
A61P37/02
A61P3/00
A61P25/00
A61P35/02
A61K35/51
C12N5/0789
(21)【出願番号】P 2021547955
(86)(22)【出願日】2019-10-24
(86)【国際出願番号】 GB2019053027
(87)【国際公開番号】W WO2020084310
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2022-10-18
(32)【優先日】2018-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】521176684
【氏名又は名称】プラスティセル リミテッド
【氏名又は名称原語表記】PLASTICELL LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フェルナンデス,ダイアナ
【審査官】渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-519298(JP,A)
【文献】国際公開第2004/046312(WO,A2)
【文献】特表2016-524468(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
療法における使用のための拡大された細胞の集団を含む医薬組成物であって、前記細胞が、
i)単離されたHSPCの集団を取得することと、
ii)ヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDAC阻害剤)の存在下で前記単離されたHSPCの集団を培養して、培養された集団を形成することと、
iii)式RNH(C
nH
2n)NH(C
nH
2n)SX(式中、Rは、水素、アリール、アシル、または1~7個の炭素原子を含むアルキル基であり、各nは2~6の値を有し、XはHまたはPO
3H
2である)を有するアミノチオール化合物、またはその薬学的に許容される塩を前記培養されたHSPCの集団に加えて、拡大された細胞を形成することと、を含む、方法によって拡大されている、医薬組成物。
【請求項2】
血液学的障害、免疫障害、代謝障害、または神経変性障害の治療における使用のための、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記療法が哺乳動物の骨髄を再増殖させることを含む、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
急性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、非ホジキンリンパ腫、重症再生不良性貧血、重症複合免疫不全症または鎌状赤血球症の治療における使用のための、請求項1~3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
遺伝子療法における使用のための、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
工程i)が、CD133+である細胞を選択することを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
工程i)が、CD34+である細胞を選択することを含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記HDAC阻害剤がスクリプタイド(scriptaid)またはキシノスタットである、請求項1~7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記HDAC阻害剤がスクリプタイドである、請求項1~8のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記アミノチオール化合物が、アミホスチン:
【化1】
または
WR1065:
【化2】
である、請求項1~9のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記アミノチオール化合物がWR1065である、請求項1~10のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記単離された集団が臍帯血から取得される、請求項1~11のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記単離された集団が末梢血から取得される、請求項1~12
のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記単離された集団が骨髄から取得される、請求項1~12
のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記工程ii)およびiii)が、拡大された細胞を形成するために5日~10日の合計時間にわたって実施される、請求項1~14のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記細胞が無血清組織培養系またはフィーダーフリー組織培養系において培養される、請求項1~
15のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記細胞が、哺乳動物
又はヒトから取得される、請求項1~16のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記拡大された細胞がHSCについて富化されている、請求項1~17のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記拡大された細胞がLin-、CD38-、CD34+、CD133+、CD45RA-、CD90+、CD49f+について富化されている、請求項1~18のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項20】
全細胞拡大
が2倍
~20倍である、請求項1~19のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項21】
Lin-、CD38-、CD34+、CD133+、CD45RA-、CD90+およびCD49f+細胞
の拡大が
400~600倍である、請求項1~20のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項22】
前記HDAC阻害剤が0.01~50μMの濃度で使用される、請求項1~21のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項23】
前記アミノチオール化合物が50~500μMの濃度で使用される、請求項1~22のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造血幹細胞および前駆細胞を拡大するための方法に関する。療法における使用のために、本発明の方法を使用して拡大させた多能性細胞もまた本明細書に開示される。
【背景技術】
【0002】
造血幹細胞および前駆細胞移植(HSCT)は、これまでで最も成功し、広く使用されている幹細胞療法である。HSCTは、血液障害または化学放射線療法治療など、既存の(resident)免疫系が損なわれている状態を治療するために使用される。HSCTの使用はまた、遺伝子療法においても臨床的に証明されており、新しいゲノム編集技術を用いてさらに拡大されることが期待されている。それにもかかわらず、移植片はレシピエントに組織を適合させる必要があり、需要が供給よりも高くなるため、課題は依然として存在する。
【0003】
当初、移植用の造血幹細胞および前駆細胞(HSPC)は、骨髄(BM)のみに由来していた。より最近では、臍帯血(UCB)にもまた、骨髄に生着し、レシピエントの生涯を通じて血球を生成できるHSPCが含まれていることが発見された。HSCTにおける使用のためのHSPCの供給源としてUCBを使用することは、より従来型のBMに比べていくつかの利点があり、すなわち、UCBはまた、使用に先立ってテストおよび保管されており、それゆえにより容易に入手可能であり、UCBはまた、より多くの未成熟幹細胞を含んでおり、組織型の非互換性に起因して、移植片対宿主病の関連性が低くなっていることを示している。しかし、UCB由来の細胞を使用する移植は、1つのUCB単位に存在する細胞の数によって制限される。この量的制限は、1つのUCB単位のみからのHSPCの優勢的な生着のため、単一の被験者への複数のUCB単位の移植によって克服することはできない。したがって、今日まで、これらの移植は小さな子供における使用に制限されてきた。
【0004】
移植前に、最初に全臍帯血単位が分離されて赤血球を廃棄し、続いてCD34+細胞またはCD133+細胞のいずれかを選別することによって有核細胞がさらに富化される。マーカーCD133は、造血系のものを含む多数の前駆細胞/幹細胞の中に見られる。さらに、長期の再増殖細胞が存在するのは造血細胞のCD133+区画であることが実証されている。したがって、これらの特定の細胞型の数を増やすことにより、生着を大幅に増強し、UCB HSCTを年長の子供および大人を治療するために適用できるようになる。残念ながら、従来の培養方法を使用すると、マーカーCD133、CD34、CD90、およびCD49fの発現によって特徴付けられるHSCは、これらが増殖しかつ同時に効力が制限された細胞型に分化するにつれて、急速に枯渇する。そのため、幹細胞の特性を損なうことなく、これらのHSCの拡大を可能にする培養条件の開発に大きな関心が寄せられている。
【0005】
これらの細胞が通常存在するニッチまたは環境を模倣しようとすることにより、UCB単位内の細胞の総数を増やすためのいくつかの戦略(stategies)が存在する。1970年代に、血清および特定のサイトカイン、主に、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、インターロイキン-3(IL3)、インターロイキン-6(IL6)、および顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)を含む条件が、インビトロでのHSCの拡大のために使用できることが確立された。90年代初頭までに、SCF、G-CSF、MGDFを含む無血清培地中で10日間拡大されたUCB細胞を使用する最初の臨床試験が実施された。この拡大法は、全有核細胞(TNC)について56倍の拡大、およびCD34+細胞について4倍の拡大をもたらした。患者は、1つの操作された画分と1つの操作されていない画分を一緒にまたは10日間隔のいずれかで注入された。この試験は、UCB単位をエキソビボで拡大する実行可能性と、それらの全体的な安全性を実証した。治療された37人の患者のうち、すべてが生着を示したが、30ヶ月後に生存していたのはわずか12人であった。サイトカインの様々な組み合わせを使用するさらなる研究は、インビトロ拡大のためのより規定されたプロトコルをもたらし、そのいくつかは前臨床モデルにおいて有望であることが示されてきた。これらには、SCF、TPO、fms様チロシンキナーゼ3-リガンド(FLT3LG)、IL3およびIL6、ならびにより最近では、Wnt1、骨形成タンパク質7(BMP7)、アンジオポエチン様5 ANGPTL5およびインスリン増殖因子結合タンパク質2(IGFBP2)の使用が含まれる。
【0006】
造血細胞のインビトロ拡大の間の初期の観察は、細胞の加速された増殖が、これらの細胞の、より連携している(commited)前駆体またはより最終的に分化した細胞への同時連携している(concommital)分化と関連していることを示した。これは、運命の連携がエピジェネティックなレベルで制御されている可能性が高く、特定の遺伝子セットが様々な段階で転写またはサイレンシングされるという仮説をもたらした。それゆえに、エピゲノムを制御または変更することは、細胞の全体的な表現型およびその挙動に対して因果関係を有する。ヒストンデアセチラーゼ阻害剤を含むヒストン修飾因子を使用する調査研究は、有望な結果を生み出した。このような研究の最初のものは、5アザ2’デオキシシチジンおよびトリコスタチンAを使用した。このレジームを使用すると、UCB CD34+/CD90+細胞は、サイトカインのみで拡大された細胞よりも4倍拡大し、NOD SCIDマウスを再増殖させる能力をさらに保持した。代替のヒストン修飾酵素を含めるためのこれらの研究の拡張は、他のHDAC阻害剤もまた同様の特性を有し、これらの中でバルプロ酸およびスクリプタイド(scriptaid)が特に有効であることを明らかにした。これは、Chaurasia,P.&Hoffman,R.in“Enriched and expanded human cord blood stem cells for treatment of hematological disorders”(2014),Araki,H.et al.“Expansion of human umbilical cord blood SCID-repopulating cells using chromatin-modifying agents”(2006),およびまたWO2014/189781によっても報告された。
【0007】
CD34+細胞の拡大を優先的に可能にし、それらの分化を防ぐ分子を見つけるための化学ライブラリースクリーニングは、いくつかの目的の分子を生じた。注目すべきは、現在臨床試験で細胞を拡大するために使用されているアリール炭化水素受容体アンタゴニストStemRegenin1である。注目すべき別の化合物のセットは、ピリミドインドール誘導体UM729およびUM171であり、これらは、マーカーCD34、CD90(Thy1)、およびCD49fの存在、ならびにCD38およびCD45RAの非存在によって決定されるように、HSCを優先的に拡大することが見出された。CD34+細胞を優先的に拡大させることが見出されている他の分子には、レスベラトロール、GSK-3阻害剤、p18タンパク質阻害剤などが挙げられる。
【0008】
WR1065のプロドラッグであるアミホスチンは、米軍によって放射線防護化合物として開発され、1995年にEthyolという名前で臨床使用が承認された。この薬物がその効果を発揮する正確なメカニズムはまだ研究されているところであるが、これは、p53の活性化を通じてDNA損傷を防ぐROSスカベンジャーであるWR1065にインビボで代謝される。インビトロでの造血細胞に対するこの化合物の作用の研究は、WR1065を用いた骨髄由来のCD34+細胞の前処理が、CFU-GEMMおよびBFU-Eコロニーの両方の形成が38倍まで多く増強されることを示した。
【0009】
WO9625045は、造血幹細胞増殖のためのアミホスチンを含むチオールを開示している。
【発明の概要】
【0010】
驚くべきことに、HDAC阻害剤、例えば、スクリプタイド、およびWR1065などのアミノチオール化合物の組み合わせの存在下で細胞を培養することにより、HSPCの拡大を達成することが可能であることが見出された。本発明は、本明細書に提示されたデータに少なくとも部分的に基づいている。本発明の重要な特徴は、細胞がHDAC阻害剤の存在下で培養されて培養された集団を形成し、次いで、引き続いてアミノチオール化合物が培養された集団に加えられることである。この方法は、全有核細胞の数が増加する拡大された細胞を生成する。
【0011】
本発明の方法は、HSCである細胞のサブセットの富化を示す拡大された細胞を生成することが見出された。
【0012】
相乗効果は、HDAC阻害剤とアミノチオール化合物であるWR1065との組み合わせを使用することによって観察されている。HSCの倍数拡大は、HDAC阻害剤単独またはWR1065単独の存在下でHSPCを培養することによる付加的な効果を超えたものである。本明細書に提示されたデータは、この相乗効果が、500倍までのHSCの富化を伴う拡大された細胞を生成できることを示す。
【0013】
本発明の方法を使用して拡大された細胞が使用されて、インビボで骨髄を再増殖させることができることもまた見出された。HDAC阻害剤とWR1065の両方の存在下で拡大された細胞は、照射されたマウスに投与された場合、長期の生着を実証した。さらに、HDAC阻害剤とWR1065の両方の存在下で拡大された細胞を投与されたマウスは、全血サンプルに存在するCD45+細胞の頻度が高かった。CD45は白血球共通抗原であり、多くの免疫系細胞に存在する。
【0014】
したがって、本発明の第1の態様は、造血幹細胞および前駆細胞(HSPC)を拡大する方法に関し、この方法は、
i)単離されたHSPCの集団を取得することと、
ii)ヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDAC阻害剤)の存在下で単離されたHSPCの集団を培養して、培養された集団を形成することと、
iii)式RNH(CnH2n)NH(CnH2n)SX(式中、Rは、水素、アリール、アシル、または1~7個の炭素原子を含むアルキル基であり、各nは2~6の値を有し、XはHまたはPO3H2である)を有するアミノチオール化合物、またはその薬学的に許容される塩を培養されたHSPCの集団に加えて、拡大された細胞を形成することと、を含む。
【0015】
第2の態様は、上記に定義されたHSPCの拡大のためのキットであり、このキットはHSPCの拡大のための滅菌要素、HDAC阻害剤、および式RNH(CnH2n)NH(CnH2n)SX(式中、Rは水素、アリール、アシル、または1~7個の炭素原子を含むアルキル基であり、各nは2~6の値を有し、XはHまたはPO3H2である)を有するアミノチオール化合物、またはその薬学的に許容される塩を含む。
【0016】
第3の態様は、拡大された細胞の集団、好ましくはHSCであり、拡大された集団は、Lin-、CD38、CD34+、CD133+、CD45RA-、CD90+およびCD49f+について富化されている。
【0017】
第4の態様は、上記の方法によって取得される拡大された細胞の集団である。
【0018】
第5の態様は、療法における使用のための細胞の拡大した集団を含む組成物であり、この細胞は、以下の方法、
i)単離されたHSPCの集団を取得することと、
ii)ヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDAC阻害剤)の存在下で単離されたHSPCの集団を培養して、培養された集団を形成することと、
iii)式RNH(CnH2n)NH(CnH2n)SX(式中、Rは、水素、アリール、アシル、または1~7個の炭素原子を含むアルキル基であり、各nは2~6の値を有し、XはHまたはPO3H2である)を有するアミノチオール化合物、またはその薬学的に許容される塩を培養されたHSPCの集団に加えて、拡大された細胞を形成することと、に従って拡大されている
【0019】
第6の態様は、
i)単離されたHSPCの集団を取得する工程と、
ii)ヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDAC阻害剤)の存在下で単離されたHSPCの集団を培養して、培養された集団を形成する工程と、
iii)式RNH(CnH2n)NH(CnH2n)SX(式中、Rは、水素、アリール、アシル、または1~7個の炭素原子を含むアルキル基であり、各nは2~6の値を有し、XはHまたはPO3H2である)を有するアミノチオール化合物、またはその薬学的に許容される塩培養されたHSPCの集団に加えて、拡大された細胞を形成する工程と、
iv)拡大された細胞を対象に投与する工程と、を含む、治療方法である。
【0020】
第7の態様は、療法における使用のための薬剤の製造における、拡大された細胞の集団を含む組成物の使用であり、細胞は、
i)単離されたHSPCの集団を取得することと、
ii)ヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDAC阻害剤)の存在下で単離されたHSPCの集団を培養して、培養された集団を形成することと、
iii)式RNH(CnH2n)NH(CnH2n)SX(式中、Rは、水素、アリール、アシル、または1~7個の炭素原子を含むアルキル基であり、各nは2~6の値を有し、XはHまたはPO3H2である)を有するアミノチオール化合物、またはその薬学的に許容される塩を培養されたHSPCの集団に加えて、拡大された細胞を形成することと、を含む方法によって拡大されている。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】サイトカインを補充した基本培地(基本)、サイトカインおよびWR1065を補充した培地(WR1065)、サイトカインおよびスクリプタイドを補充した培地(スクリプタイド)、サイトカイン、スクリプタイドおよびWR1065を補充した培地(スクリプタイド+WR1065)の条件下での、臍帯血由来の全有核細胞の拡大倍率を示す。
【
図2】サイトカインを補充した基本培地(基本)、サイトカインおよびスクリプタイドを補充した培地(スクリプタイド)、サイトカイン、スクリプタイドおよびWR1065を補充した培地(スクリプタイド+WR1065)の条件下での、臍帯血に由来する拡大された細胞の集団に存在するCD34+/CD133+細胞の割合を示す。
【
図3】サイトカインを補充した基本培地(基本)、サイトカインおよびWR1065を補充した培地(WR1065)、サイトカインおよびスクリプタイドを補充した培地(スクリプタイド)、サイトカイン、スクリプタイドおよびWR1065(を補充した培地スクリプタイド+WR1065)の条件下での、臍帯血由来の拡大された細胞の最終集団におけるlin-/CD38-/CD34+/CD45RA-/CD133+/CD90+/CD49f+細胞の拡大倍率を示す。
【
図4】サイトカインを補充した基本培地(基本)、サイトカインおよびスクリプタイドを補充した培地(スクリプタイド)、サイトカイン、スクリプタイドおよびWR1065を補充した培地(スクリプタイド+WR1065)の条件下での、臍帯血に由来する拡大された細胞の最終集団に存在する、顆粒球、赤血球、単球、巨核球(CFU-GEMM)のコロニーのコロニー形成単位の数を示す。
【
図5】サイトカインを補充した培地(基本)、サイトカインおよびWR1065を補充した培地(WR1065)、サイトカインおよびスクリプタイドを補充した培地(スクリプタイド)、サイトカインを補充した培地、スクリプタイドおよびWR1065(スクリプタイド+WR1065)の条件下で増殖させた場合の、骨髄由来の全有核細胞、CD34+細胞、およびHSCの拡大倍率を示す。
【
図6】サイトカインを補充した培地(基本)、サイトカインおよびスクリプタイドを補充した培地(スクリプタイド)、サイトカイン、スクリプタイドおよびWR1065を補充した培地(スクリプタイド+WR1065)の条件下で増殖させた場合の、末梢血由来の全有核細胞、CD34+細胞、およびHSCの拡大倍率を示す。
【
図7】細胞拡大に対するクラスI HDAC阻害剤RG2833の効果を示す。TNCおよびHSCの拡大倍率は、サイトカインを補充した培地(基本)、サイトカインおよびスクリプタイドを補充した培地(スクリプタイド)、サイトカイン、スクリプタイドおよびWR1065を補充した培地(SC+WR)、サイトカインおよび10nM RG2833を補充した培地(RG2 10nM)、サイトカイン10nM RG2833およびWR1065を補充した培地、(RG2 10nM+WR)、サイトカインおよび100nM RG2833を補充した培地(RG2 100nM)、サイトカイン、100nM RG2833およびWR1065を補充した培地(RG2 100nM+WRの条件下で増殖した細胞について示される。
【
図8】細胞拡大に対するクラスI HDAC阻害剤RGFP966の効果を示す。TNCとHSCの拡大倍率は、サイトカインを補充した培地(基本)、サイトカインおよびスクリプタイドを補充した培地(スクリプタイド)、サイトカイン、スクリプタイドおよびWR1065を補充した培地(SC+WR)、サイトカインおよび100nM RGFP966を補充した培地(RGFP 100nM)、サイトカイン、100nM RGFP966およびWR1065を補充した培地(RGFP 100nM+WR)、サイトカインおよび1μM RGFP966を補充した培地(RGFP1μM)、サイトカイン、1μM RGFP966およびWR1065を補充した培地(RGFP1μM+WR)の条件下で増殖した細胞について示される。
【
図9】クラスIia HDAC阻害剤LMK235の細胞拡大への影響を示す。TNCとHSCの拡大倍率は、サイトカインを補充した培地(基本)、サイトカインおよびスクリプタイドを補充した培地(スクリプタイド)、サイトカイン、スクリプタイドおよびWR1065(SC+WR)を補充した培地、サイトカインおよび10nM LMK235を補充した培地(LMK 10nM)、サイトカイン、10nM LMK235およびWR1065を補充した培地(LMK 10nM+WR)、サイトカインおよび50nM LMK235を補充した培地(LMK 50nM)、サイトカイン、50nM LMK235およびWR1065を補充した培地(LMK 50nM+WR)の条件下で増殖した細胞について示される。
【
図10】クラスIIb HDAC阻害剤であるツバスタチンAが細胞拡大に及ぼす影響を示す。TNCとHSCの拡大倍率は、サイトカインを補充した培地(基本)、サイトカインおよびスクリプタイドを補充した培地(スクリプタイド)、サイトカイン、スクリプタイドおよびWR1065を補充した培地(SC+WR)、サイトカインおよび1μMのツバスタチンA(Tub 1μM)を補充した培地、サイトカイン、1μMツバスタチンAおよびWR1065を補充した培地(Tub 1μM+WR)、サイトカインおよび10μMツバスタチンAを補充した培地(Tub 10μM)、サイトカイン、10μMツバスタチンAおよびWR1065を補充した培地(Tub 10μM+WR)の条件下で増殖した細胞について示される。
【
図11】広域スペクトルのHDAC阻害剤であるフェニル酪酸ナトリウムが細胞拡大に及ぼす影響を示す。TNCとHSCの拡大倍率は、サイトカインを補充した培地(基本)、サイトカインおよびスクリプタイドを補充した培地(スクリプタイド)、サイトカイン、スクリプタイドおよびWR1065を補充した培地(SC+WR)、サイトカインおよびフェニル酪酸ナトリウムを補充した培地(NaPB)、サイトカイン、フェニル酪酸ナトリウムおよびWR1065を補充した培地(NaPB+WR)の条件下で増殖した細胞について示される。
【
図12】広域スペクトルのHDAC阻害剤であるキシノスタットが細胞拡大に及ぼす影響を示す。TNCとHSCの拡大倍率は、サイトカインを補充した培地(基本)、サイトカインおよびスクリプタイドを補充した培地(スクリプタイド)、サイトカイン、スクリプタイドおよびWR1065を補充した培地(SC+WR)、サイトカインおよび100nMキシノスタットを補充した培地(Quin 100nM)、サイトカイン、100nM quisinostatおよびWR1065を補充した培地(Quin 100nM+WR)、サイトカインおよび10nM quisinostat(Quin 10nM)を補充した培地、サイトカイン、10nM quisinostatおよびWR1065(Quin 10nM+WR)を補充した培地の条件下で増殖した細胞について示される。
【
図13】基本培地、スクリプタイド、スクリプタイドおよびWR1065の併用処理を用いた細胞増殖プロトコルの再現性を示す。HSCの拡大倍率は、3人の別々のドナーからの細胞および細胞のプールされたサンプルについて示される。
【
図14】細胞を様々な培養プレート、Nanex足場、TC処理されたCorning24ウェルプレートまたは懸濁Greiner Bio24ウェルプレート上で拡大させたときのHSCの拡大倍率を示す。
【
図15】マウス全血サンプル中のCD45+細胞の頻度を、生存可能なシングレットのパーセンテージとして示す。y軸は対数目盛でプロットされる。ビヒクルとともに拡大された細胞(拡大+ビヒクル)、スクリプタイドとともに拡大された細胞(拡大+SS)、スクリプタイドおよびWR1065とともに拡大された細胞(拡大+SW)の条件下で、拡大させた細胞をマウスに投与した。拡大されていない細胞のセットも対照として含まれていた。一旦、細胞がエキソビボで拡大されると、それらは免疫無防備状態のNSGマウスに導入された。20週間後、これらのマウスを屠殺し、骨髄細胞サンプルを採取して、二次マウスセットに導入した。マウスは8週間目に採血され、全血サンプルに存在するヒトCD45+細胞の頻度が分析された。
【
図16】様々な細胞集団を投与されたマウスの全血サンプルに存在するCD45+細胞のパーセンテージを示す。CD34+細胞は末梢血サンプルから得られ、これらは、標準培地で培養された細胞(B 3日目)、スクリプタイドの存在下で拡大された細胞(ScrA 3日目)、スクリプタイドおよびWR1065の存在下で拡大された細胞(PL 3日目)の条件下で拡大された。拡大されていない細胞のセットも対照として含まれていた(0日目)。HSC(CD34+、CD38-、CD90+、CD45RA-)を拡大された細胞から選別し、対照およびマウス(免疫無防備状態のNSGマウス)あたり80,000個の細胞を投与した。次に、生着のレベルを、8週間および12週間に採取した全血サンプルに存在するCD45+細胞のパーセンテージによって評価した。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書で使用される場合、造血幹細胞および前駆細胞(HSPC)という用語は、骨髄、臍帯血、および末梢血に見出され、分化および/または増殖して血球を形成することができる細胞を指し、血球の例には、単球、マクロファージ、好中球、好塩基球、好酸球、赤血球、樹状細胞、巨核球、血小板、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞が含まれるがこれらに限定されない。
【0023】
本明細書で使用される場合、「造血幹細胞」または「HSC」という用語は、すべての系統の血球に分化し、それらの多能性特性を維持しながら自らを再生する能力を有する多能性または多能性細胞を指す。本明細書で使用される「HSC」という用語は、Lin-、CD38-、CD34+、CD133+、CD45RA-、CD90+、CD49f+である細胞を指す場合がある。「HSC」という用語はまた、CD38-、CD34+、CD45RA-、CD90+である細胞を指す場合がある。「CD34+」、「CD133+」、「CD90+」、「CD49f+」という用語の中で、(+)の指定は、指定された分化クラスター(CD)が細胞によって発現され、細胞表面に存在することを示す。「CD38-」、「CD45RA-」という用語の中で、(-)の指定は、指定されたCDが細胞によって発現されていないか、発現が不十分であることを示す。しかし、ヒト胚性幹細胞およびヒト胚の破壊から生じる任意の細胞は、本発明の範囲内にない。
【0024】
本明細書で使用される場合、「単離された集団」という用語は、供給源から得られた細胞のサンプルを指す。ここで、細胞は商業的に入手されたものでもよく、または細胞は対象から取得されたものである。単離された集団の供給源には、臍帯血、骨髄、および末梢血が挙げられるが、これらに限定されない。「単離された集団」は、新鮮なまたは凍結された供給源から得られたものであってもよく、新鮮な供給源は使用前に凍結されていなかったものである。サンプルが凍結している場合は、本発明における使用の前に細胞は解凍される。
【0025】
本明細書で使用される場合、「培養された集団」という用語は、エキソビボで人工培地中にて増殖された細胞の単離された集団を指す。どのタイプの人工培地を使用するかは当業者には明らかであり、適切な培地の例は、StemSpan ACF培地(Stem Cell Technologies)である。人工培地は、細胞の増殖を改善するために他の因子またはサイトカインを補充されてもよく、補充物の例には、幹細胞因子(SCF)、fms関連チロシンキナーゼ3-リガンド(FLT3LG)、およびトロンボポエチン(TPO)が挙げられるがこれらに限定されない。単離された集団は、培養された集団を形成するために、多くの日数にわたって培養/増殖され得る。いくつかの実施形態において、培養時間は、2~20日、より好ましくは3~20日、最も好ましくは4~15日である。例えば、培養/繁殖は、20、15、10、9、8、7、6、5または4日にわたって行うことができる。全培養時間は、工程(ii)および(iii)を実施するためにかかる時間を含む。
【0026】
本明細書で使用される用語ヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDAC阻害剤)は、酵素ヒストンデアセチラーゼの活性を阻害する化合物を指す。ヒストンデアセチラーゼには4つの分類、クラスI、クラスII、クラスIII、およびクラスIVが存在する。それらの配列相同性およびドメイン構成に基づいて、クラスII阻害剤は、さらにクラスIIaおよびクラスIIbに細分することができる。本明細書で使用される場合、ヒストンデアセチラーゼという用語は、ヒストンデアセチラーゼのクラスのいずれかの活性を阻害することができる化合物を指す。
【0027】
HDAC阻害剤の例には、スクリプタイド、ボリノスタット、タセジナリン、RG2833、RGFP966、トリコスタチンA、LMK235、ツバスタチンA、キシノスタット、LBH589、PXD101、ITF2357、PCI-24781、FK228 MS-275、MGCD0103、フェニル酪酸ナトリウム、バルプロ酸、AN-9、バセカ、サビコールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
本発明の一態様は、式RNH(CnH2n)NH(CnH2n)SX(式中、Rは、水素、アリール、アシル、または1~7個の炭素原子を含むアルキル基であり、各nは2~6の値を有し、XはHまたはPO3H2である)を有するアミノチオール化合物、またはその薬学的に許容される塩の使用を含む。
【0029】
本明細書で使用される場合、「アリール」とは、フェニル、ビフェニル、ナフチル、アントラセニルなどの単環式、二環式、または三環式の一価または二価(必要に応じて)の芳香族ラジカルを意味し、これらは、好ましくは、C1-C6アルキル、ヒドロキシ、C1-C3ヒドロキシアルキル、C1-C3アルコキシ、C1-C3ハロアルコキシ、アミノ、C1-C3モノアルキルアミノ、C1-C3ビスアルキルアミノ、C1-C3アシルアミノ、C1-C3アミノアルキル、モノ(C1-C3アルキル)アミノC1-C3アルキル、ビス(C1-C3アルキル)アミノC1-C3アルキル、C1-C3-アシルアミノ、C1-C3アルキルスルホニルアミノ、ハロ、ニトロ、シアノ、トリフルオロメチル、カルボキシ、C1-C3アルコキシカルボニル、アミノカルボニル、モノC1-C3アルキルアミノカルボニル、ビスC1-C3アルキルアミノカルボニル、-SO3H、C1-C3アルキルスルホニル、アミノスルホニル、モノC1-C3アルキルアミノスルホニルおよびビスC1-C3-アルキルアミノスルホニルの基から選択される5つまでの置換基で任意選択で置換することができる。
【0030】
本明細書で使用する場合、「アルキル」とは、直鎖状または分枝状であり得るC1-C7アルキル基を意味する。好ましくは、C1-C6アルキル部分である。より好ましくは、それはC1-C4アルキル部分である。例としては、メチル、エチル、n-プロピル、t-ブチルなどが挙げられる。それは二価、例えばプロピレンであり得る。
【0031】
本明細書で使用される場合、アシルは、カルボニル基(C=O)を含む、上記に定義されたアルキル基である。
【0032】
アルキル基およびアシル基のそれぞれは、任意に、アリール、シクロアルキル(好ましくはC3-C10)、またはヘテロアリールで置換されてもよい。それらはまた、ハロゲン(例えば、F、Cl)、NH2、NO2またはヒドロキシルで置換され得る。
【0033】
本明細書で使用される場合、「臍帯血」という用語は、当該分野におけるその従来の使用法を有し、これは一般的に、分娩後に臍帯および胎盤に残る血液である。ヒト臍帯血は本発明の範囲内であり、書面による情報に基づく事前の同意および倫理的承認を得て取得される。
【0034】
本明細書で使用される場合、「末梢血」という用語は、当該分野におけるその従来の使用法を有し、これは一般的に、循環器系全体を循環している血液である。ヒト末梢血は、本発明の範囲内であり、書面による情報に基づく事前の同意および倫理的承認を得て取得される。
【0035】
本明細書で使用される場合、「骨髄」という用語は、当該分野におけるその従来の使用法を有し、すなわち、一般的に骨空洞に存在するゼラチン状の組織である。組織は、造血幹細胞、前駆細胞、および前駆細胞の集団を有する骨髄のサブセットである赤色骨髄を含む。ヒト骨髄は本発明の範囲内であり、書面による情報に基づく事前の同意および倫理的承認を得て取得される。
【0036】
本明細書で使用される場合、「拡大された細胞」という用語は、適切な条件下でエキソビボにて培養され、細胞分裂を受けて細胞数を増幅した細胞を指す。本明細書で使用される場合、「細胞拡大」という用語は、適切な条件下での細胞のエキソビボ培養による細胞数の増幅を指し、培養の終わりに存在する細胞の数は、培養開始時に存在する細胞の数よりも多い。
【0037】
細胞が細胞の単離された集団、細胞の培養された集団、または拡大された細胞の一部であり得る細胞の中には、細胞のサブタイプが存在する。細胞のサブタイプの例は、造血幹細胞、造血前駆細胞、およびそれらの表現型マーカーによって定義される細胞であるが、これらに限定されない。表現型マーカーの非限定的な例は、LinまたはCD38またはCD34またはCD133またはCD45RAまたはCD90またはCD49fであり、これらの表現型マーカーの組み合わせによって細胞を定義することもできる。本明細書で使用される場合、「富化された」という用語は、細胞の特定のサブセット/サブタイプを高い割合で含む細胞のセットを指すために使用され、この細胞のセットは、細胞の特定のサブセット/サブタイプの、2%、または5%、または10%、または15%、または20%、または25%、または30%、または35%、または40%、または45%、または50%、または55%、または60%、または65%、または70%、または75%、または80%、または85%、または90%を含んでもよい。本発明において、「富化された」という用語は、細胞が拡大を受け、細胞の特定のサブタイプが集団内の他の細胞よりも比例して数が増加した細胞の集団を指すために使用することができる。この富化された細胞集団は、細胞の特定のサブタイプの有意な割合を含み、この有意な割合は、全集団の2%、または5%、または10%、または15%、または20%、または25%、または30%、または35%、または40%、または45%、または50%、または55%、または60%、または65%、または70%、または75%、または80%、または85%、または90%であり得る。
【0038】
本明細書で使用される場合、「無血清組織培養系」という用語は、動物由来の血清が補充されていない培地中で細胞を培養することを指す。
【0039】
本明細書で使用される場合、「フィーダーフリー組織培養系」という用語は、結合組織細胞の層を利用することなく細胞を培養して、成長中の細胞を支持および提供する方法を指す。
【0040】
本明細書で使用される場合、「全細胞拡大」という用語は、全有核細胞の数の増加を指す。
【0041】
本明細書で使用される場合、「全培養時間」という用語は、工程ii)およびiii)が実行される時間を指す。ここで、工程ii)は、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDAC阻害剤)の存在下で単離されたHSPCの集団を培養して、培養された集団を形成することを含み、工程iii)は、式RNH(CnH2n)NH(CnH2n)SX(式中、Rは水素、アリール、アシル、または1~7個の炭素原子を含むアルキル基であり、各nは2~6の値を有し、XはHまたはPO3H2である)を有するアミノチオール化合物、またはその薬学的に許容される塩を培養されたHSPCの集団に加えて、拡大された細胞を形成することを含む。全培養時間の間、細胞は、HDAC阻害剤が補充された適切な培地上で増殖させることができ、全培養時間の終わりは、細胞が収集/プール/分析されることによって表される。
【0042】
本明細書で使用される場合、「対象」という用語は、本発明の使用に従う療法のレシピエントである、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、げっ歯類などを含むがこれらに限定されない任意の動物(例えば、哺乳動物)を指す。ヒトの被験体が特に想定されている。「患者」は、本明細書では、ヒト被験体を指すために使用される。
【0043】
本発明の一態様は、造血幹細胞および前駆細胞(HSPC)を拡大するための方法であり、この方法は、
i)単離されたHSPCの集団を取得することと、
ii)ヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDAC阻害剤)の存在下で単離されたHSPCの集団を培養して、培養された集団を形成することと、
iii)式RNH(CnH2n)NH(CnH2n)SX(式中、Rは、水素、アリール、アシル、または1~7個の炭素原子を含むアルキル基であり、各nは2~6の値を有し、XはHまたはPO3H2である)を有するアミノチオール化合物、またはその薬学的に許容される塩を培養されたHSPCの集団に加えて、拡大された細胞を形成することと、を含む。
【0044】
本発明の一実施形態では、工程i)は、CD133+である細胞を選択することをさらに含む。いくつかの実施形態において、単離された集団は、CD133+である細胞を含む。一実施形態では、工程i)は、CD34+である細胞を選択することをさらに含む。単離されたHSPCの集団が凍結された供給源から取得される場合、CD34+である細胞を選択することが好ましい場合がある。HSPCの分離された集団が新鮮な供給源から取得される場合、CD133+である細胞を選択することが好ましい場合がある。細胞表面マーカーによって細胞を選択するための適切な方法は、当該分野で知られており、例えば、磁気活性化細胞選別(MAC)または蛍光活性化細胞選別(FACS)を使用する。好ましくは、単離された集団は、CD38-またはCD34+またはCD133+またはCD45RA-またはCD90+またはCD49f+、またはそれらの任意の組み合わせである細胞を含む。
【0045】
本発明の一実施形態では、単離された細胞集団は、臍帯血または骨髄または末梢血から取得される。好ましい実施形態では、単離された細胞集団は、臍帯血から取得される。いくつかの実施形態において、細胞は、哺乳動物(例えば、マウス、ラット、イヌ、またはヒト)から取得される。好ましい実施形態は、細胞がヒトから取得される場合である。
【0046】
本発明の一実施形態では、HDAC阻害剤は、広域スペクトル阻害剤、または選択的クラスI、クラスIIa、クラスIIb、クラスIIIまたはクラスIV阻害剤から選択される。好ましくは、HDAC阻害剤は、広域スペクトル阻害剤、または選択的クラスI、クラスIIa、クラスIIIまたはクラスIV阻害剤から選択される。より好ましくは、HDAC阻害剤は、広域スペクトル阻害剤、クラスIまたはクラスIIa阻害剤である。
【0047】
好ましい実施形態では、HDAC阻害剤は、スクリプタイド、RG2833、RGFP966、LMK235、ツバスタチンA、キシノスタット、フェニル酪酸ナトリウムから選択される。本発明のいくつかの実施形態において、HDAC阻害剤は、スクリプタイドまたはキシノスタットである。好ましい実施形態では、HDAC阻害剤は、以下の構造を有するスクリプタイドである。
【化1】
【0048】
本発明のアミノチオール化合物は、式RNH(CnH2n)NH(CnH2n)SX(式中、Rは、水素、アリール、アシル、または1~7個の炭素原子を含むアルキル基であって、各nが2~6の値を有し、XはHまたはPO3H2である)を有するか、またはその薬学的に許容される塩である。
【0049】
好ましい実施形態では、Rは水素である。
【0050】
いくつかの実施形態において、本発明のアミノチオール化合物は、アミホスチン:
【化2】
または
WR1065:
【化3】
である。
【0051】
最も好ましくは、アミノチオール化合物はWR1065である。
【0052】
本発明の一実施形態では、HDAC阻害剤は、0.01μM~50μM、好ましくは0.1μM~10μMの濃度で使用され、より好ましくは、HDAC阻害剤は1μMの濃度で使用される。
【0053】
本発明の好ましい実施形態において、アミノチオール化合物、例えばWR1065は、50μM~500μM、好ましくは50μM~150μMの濃度で、より好ましくは100μMの濃度で使用される。
【0054】
本発明の好ましい実施形態において、HDAC阻害剤は、1μMの濃度で使用され、好ましくは、アミノチオール化合物、例えば、WR1065は、100μMの濃度で使用される。
【0055】
本発明のいくつかの実施形態では、工程ii)およびiii)は、2日~10日にわたって実施される。好ましい実施形態では、工程ii)およびiii)は、5日~10日にわたって実施される。より好ましい実施形態では、工程ii)およびiii)は、約5日間にわたって実施される。本発明の一実施形態では、工程iii)は、全培養時間の終了(すなわち、工程(iii)の終了)の48時間前までに開始する。本発明のいくつかの実施形態において、工程iii)は、全培養時間の終了の16~20時間前に開始する。好ましくは、工程ii)およびiii)は5日間にわたって実施され、より好ましくは、工程iii)は、全培養時間の終了の16~20時間前に実施される。
【0056】
好ましくは、本発明では、工程ii)は4日~10日にわたって実施される。好ましい実施形態では、工程ii)は、少なくとも4日間にわたって実施される。いくつかの実施形態において、工程iii)は、細胞がHDAC阻害剤と共に(工程ii)に従って)、少なくとも4~10日間、好ましくは少なくとも4日間培養された後に実行される。いくつかの実施形態において、工程iii)は、細胞が工程ii)におけるのと同様に、少なくとも4~10日間、好ましくは少なくとも4日間培養された後に実行される。好ましくは、工程iii)は、全培養時間の終了の48時間前までに開始される。
【0057】
好ましくは、細胞は無血清組織培養系において培養される。本発明のいくつかの実施形態において、細胞は、フィーダーフリー組織培養系において培養される。培養系は無血清および/またはフィーダーフリーであるが、細胞に適切な増殖および拡大条件を提供するために、様々な栄養素を追加することができる。適切な培地の例には、StemSpan ACF培地(Stem Cell Technologies)、StemPro34無血清培地(Invitrogen)、Stemline II(Thermo Fisher)、HPC Expansion Medium DXF(PromoCell)、QBSF-60(Quality Biological)、StemMACS HSC expansion Medium XF(Miltenyi Biotec)が挙げられる。本発明の好ましい実施形態では、細胞は、StemSpan ACF培地(Stem Cell Technologies)で培養される。適切な培地はまた、化学的または生物学的成分であり得る様々な添加物および構成成分を含み得る。これらの構成成分は、単独でまたは組み合わせて適切な培地に取り込むことができ、当業者は、必要に応じて適切な構成成分を選択することができる。これらの成分は、必要に応じて培養中に取り込むこともできる。生物学的と化学的の両方の成分の例には、アミノ酸、ビタミン、サイトカイン、増殖因子、ホルモン、抗生物質、脂肪酸、糖類、ナトリウム、カルシウム、カリウム、マグネシウム、リン、寒天、アガロース、メチルセルロース、コラーゲン、インスリン、トランスフェリン、ラクトフェリン、コレステロール、エタノールアミン、ピルビン酸ナトリウム、2-メルカプトエタノール、ポリエチレングリコール、セレン酸ナトリウムが挙げられるが、これらに限定されない。
【0058】
様々なサイトカインが培地に取り込まれ、および/または培養中に取り込むことができ、適切なサイトカインの例には、インターロイキン-1(IL-1)、インターロイキン-2(IL-2)、インターロイキン-3(IL-3)、インターロイキン-4(IL-4)、インターロイキン-5(IL-5)、インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-7(IL-7)、インターロイキン-8(IL-8)、インターロイキン-9(IL-9)、インターロイキン-10(IL-10)、インターロイキン-11(IL-11)、インターロイキン-12(IL-12)、インターロイキン-13(IL-13)、インターロイキン-14(IL-14)、インターロイキン-15(IL-15)、インターロイキン-18(IL-18)、インターロイキン-21(IL-21)、インターロイキン-α(INF-α)、インターロイキン-β(INF-β)、インターロイキン-γ(INF-γ)、顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、幹細胞因子(SCF)、Wnt1、骨形態形成タンパク質7(BMP7)、アンギオポイエチン様5(ANGPTL5)、インスリン増殖因子結合タンパク質2(IGFBP2)、エリスロポエチン(EPO)、トロンボポエチン(TPO)、Fms様チロシンキナーゼ3-リガンド(FLT3LG)が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の一実施形態では、培地は、SCF、TPOおよびFLT3LGが補充される。
【0059】
様々な増殖因子が培地に取り込まれ、および/または培養中に取り込まれ得る。適切な増殖因子の例には、インスリン様増殖因子(IGF)、上皮増殖因子(EGF)、ヒト上皮増殖因子(hEGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、線維芽細胞増殖因子1(FGF1)、神経増殖因子(NGF)、マクロファージ炎症性タンパク質1-α(MIP-1α)、白血病抑制因子(LIF)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0060】
本発明の一実施形態では、単離された集団は、32℃~39℃、好ましくは36℃~38℃の温度で培養される。本発明の一実施形態では、細胞は、約1%~約50%のCO2、好ましくは約1%~約25%のCO2、より好ましくは約1%~約10%のCO2を含む加湿インキュベーター内で培養される。本発明は、動物細胞培養に適した培養容器内で実施することができる。一実施形態では、本発明は、Nanex造血幹/前駆細胞(HSPC)拡大プレートまたはTC処理されたCorning 24ウェルプレートまたは懸濁Greiner Bio24ウェルプレート中で実施される。好ましい実施形態では、本発明は、従来の細胞培養プレート、または細胞培養バッグ(例えば、VueLife(登録商標))もしくは攪拌バイオリアクターなどの適切な閉鎖系で実施される。
【0061】
本発明の好ましい実施形態において、全細胞拡大は、約2倍~約50倍、または約2倍~約25倍、または約2倍~約20倍である。全細胞拡大は、培養時間の開始時に全有核細胞の数を測定し、培養時間の終了時に存在する全有核細胞の数と比較することによって決定される。
【0062】
好ましい実施形態では、Lin-、CD38-、CD34+、CD133+、CD45RA-、CD90+およびCD49f+細胞の拡大は、50~800倍、より好ましくは400~600倍、最も好ましくは500倍である。Lin-、CD38-、CD34+、CD133+、CD45RA-、CD90+、およびCD49f+細胞の拡大は、培養時間の開始時に存在するLin-、CD38-、CD34+、CD133+、CD45RA-、CD90+、およびCD49f+細胞の数を測定し、それを培養時間の終わりに存在するLin-、CD38-、CD34+、CD133+、CD45RA-、CD90+、およびCD49f+細胞の数と比較することによって決定される。一実施形態では、CD38-、CD34+、CD45RA-およびCD90+細胞の拡大は、50~800倍、より好ましくは400~600倍、最も好ましくは500倍である。CD38-、CD34+、CD45RA-、およびCD90+細胞の拡大は、培養時間の開始時に存在するCD38-、CD34+、CD45RA-、およびCD90+細胞の数を測定し、それを培養時間の終わりに存在するCD38-、CD34+、CD45RA-およびCD90+細胞の数と比較することによって決定される。細胞拡大を決定するための適切な方法は当該分野において知られており、例えば、全細胞計数と組み合わせた多色フローサイトメトリー分析、フローサイトメトリー分析と組み合わせた絶対計数ビーズの使用、手動血球計または自動血球計(Viacell,Countess,Nucleocounter,Nexcelome)使用する細胞アリコートの画像解析に基づく細胞計数が挙げられる。
【0063】
いくつかの実施形態では、拡大された細胞は、HSCについて富化されている。一実施形態では、拡大された細胞は、Lin-またはCD38-またはCD34+またはCD133+またはCD45RA-またはCD90+またはCD49f+またはそれらの任意の組み合わせについて富化され、好ましくは、細胞は、CD34+、CD133+について富化され、より好ましくは、拡大された細胞は、CD38-、CD34+、CD133+について富化され、最も好ましくは、拡大された細胞は、Lin-、CD38-、CD34+、CD133+、CD45RA-、CD90+、CD49f+が富化されている。一実施形態では、拡大された細胞は、CD38-またはCD34+またはCD45RA-またはCD90+またはそれらの任意の組み合わせについて富化されている。
【0064】
本発明の一態様は、上記に定義されたHSPCの拡大のためのキットであり、このキットは、HSPCの拡大のための滅菌要素、HDAC阻害剤、および式RNH(CnH2n)NH(CnH2n)SX(式中、Rは水素、アリール、アシル、または1~7個の炭素原子を含むアルキル基であり、各nは2~6の値を有し、XはHまたはPO3H2である)を有するアミノチオール化合物、またはその薬学的に許容される塩を含む。好ましい実施形態では、このキットはまた、単離されたHSPCの集団を取得するための装置および/または材料を含む。当業者は、適切な要素、装置、および/または材料について知っている。例としては、磁気ビーズ分離、MACSビーズ分離カラム、CliniMACS(Miltenyi)またはFACSソーティングが挙げられる。
【0065】
本明細書に記載の方法によって生成された拡大された細胞の集団は、HSCについて富化され得、拡大された細胞は、長期の生着能力および哺乳動物の骨髄を再増殖する能力を有することが示されている。したがって、本発明の一態様は、療法における使用のための拡大された細胞の集団であり、細胞は、以下の方法、
i)単離されたHSPCの集団を取得することと、
ii)ヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDAC阻害剤)の存在下で単離されたHSPCの集団を培養して、培養された集団を形成することと、
iii)式RNH(CnH2n)NH(CnH2n)SX(式中、Rは、水素、アリール、アシル、または1~7個の炭素原子を含むアルキル基であり、各nは2~6の値を有し、XはHまたはPO3H2である)を有するアミノチオール化合物、またはその薬学的に許容される塩を培養されたHSPCの集団に加えて、拡大された細胞を形成することと、に従って拡大されている。
【0066】
療法における使用のために拡大された細胞を生成する方法は、本明細書で提供される追加の特徴のいずれかを含み得る。
【0067】
本発明の一態様は、
i)単離されたHSPCの集団を取得する工程と、
ii)ヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDAC阻害剤)の存在下で単離されたHSPCの集団を培養して、培養された集団を形成する工程と、
iii)式RNH(CnH2n)NH(CnH2n)SX(式中、Rは、水素、アリール、アシル、または1~7個の炭素原子を含むアルキル基であり、各nは2~6の値を有し、XはHまたはPO3H2である)を有するアミノチオール化合物、またはその薬学的に許容される塩を培養されたHSPCの集団に加えて、拡大された細胞を形成する工程と、
iv)拡大された細胞を被験体に投与する工程と、を含む、治療方法である。
【0068】
治療方法は、本明細書で提供される追加の特徴のいずれかを含み得る。
本発明の別の態様は、療法における使用のための薬剤の製造における組成物の使用であり、この組成物は、
i)単離されたHSPCの集団を取得する工程と、
ii)ヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDAC阻害剤)の存在下で単離されたHSPCの集団を培養して、培養された集団を形成する工程と、
iii)式RNH(CnH2n)NH(CnH2n)SX(式中、Rは、水素、アリール、アシル、または1~7個の炭素原子を含むアルキル基であり、各nは2~6の値を有し、XはHまたはPO3H2である)を有するアミノチオール化合物、またはその薬学的に許容される塩を培養されたHSPCの集団に加えて、拡大された細胞を形成する工程と、を含む。
【0069】
上記のような医薬品の製造における使用は、本明細書で提供される追加の特徴のいずれかを含み得る。
【0070】
本明細書に提示される方法によって拡大された細胞は、細胞移植物として使用することができる。本明細書に提示された方法によって拡大された細胞は、哺乳動物の骨髄を再増殖させるために使用され得る。したがって、本発明の実施形態は、血液学的障害、免疫障害、代謝障害、または神経変性障害の治療における使用のための拡大された細胞の集団である。ここで、被験体は、上記の方法に従って拡大された拡大された細胞の集団を投与される。特定の実施形態では、拡大された細胞の集団は、血液学的障害の治療における使用のためのものである。
【0071】
拡大された細胞集団は、従来の骨髄、臍帯血、または末梢血移植の代替として、造血幹細胞療法の移植片として使用できる。拡大された細胞集団の移植は、従来の骨髄、臍帯血、または末梢血の移植と同じ様式で実行することができる。移植片は、以下の構成要素、緩衝液、抗生物質、医薬化合物のいずれかとともに、拡大された細胞の集団を含み得る。
【0072】
拡大された細胞集団を使用して治療できる障害の例には、急性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、非ホジキンリンパ腫、重症再生不良性貧血、重症複合免疫不全症、鎌状細胞疾患、慢性肉芽腫症、重症複合免疫不全症候群、アデノシンデアミナーゼ(ADA)欠損症、再生不良性貧血、ウィスコット-アルドリッチ症候群、チェディアック-東症候群、後天性免疫不全症候群(AIDS)などの免疫不全症候群、C3欠損症、サラセミアなどの先天性貧血、酵素欠損症および鎌状赤血球貧血による溶血性貧血、ゴーチャー病およびムコ多糖症などのリソソーム蓄積症、副腎白血病、様々な種類の癌および腫瘍、特に急性または慢性白血病、ファンコニ症候群、再生不良性貧血、顆粒球減少症、リンパ球減少症、血小板減少症、特発性血小板減少性紫斑病、血栓性血小板減少性紫斑病、カサバッハ-メリット症候群、悪性リンパ腫、ホジキン病、多発性骨髄腫、慢性肝障害、腎不全、バンク血液または手術中の大量輸血、B型肝炎、C型肝炎、重度の感染症、全身性紅斑性狼瘡、関節リウマチ、異種皮膚症、全身性硬化症、多発性筋炎、皮膚筋炎、混合結合組織疾患、真性多血症、橋本病、バセドウ病、重力筋無力症、インスリン依存性真性糖尿病、自己免疫性溶血性貧血、ヘビ咬傷、溶血性尿毒症症候群、脾機能亢進症、出血、ベルナール-スーリエ症候群、グランツマン血小板減少症、尿毒症、脊髄異形成症候群、真性赤血球増加症、赤血病、本質的な血小板血症、骨髄増殖性疾患、外傷性脊髄損傷、神経損傷、神経断裂症、骨格筋損傷、瘢痕、真性糖尿病、脳梗塞、心筋梗塞、および閉塞性無気肺(obstructive arteriosclerosis)が含まれる。
【0073】
拡大された細胞集団は、以下の投与経路、皮下、頭頂間、筋肉内、静脈内、腫瘍内、眼内、網膜内、硝子体内、または頭蓋内で投与することができる。
【0074】
拡大された細胞集団は、投与、安定性、均一性、生物学的利用能、またはそれらの任意の組み合わせを改善および増強するために、薬学的に許容される賦形剤、希釈剤、または担体と組み合わせることができる。特定の実施形態において、本開示の細胞外小胞または細胞は、無菌溶液に懸濁して投与される。特定の実施形態では、この溶液は、0.9%のNaClを含む。特定の実施形態では、この溶液は、緩衝液、例えば、酢酸、クエン酸、ヒスチジン、コハク酸、リン酸、重炭酸、またはヒドロキシメチルアミノメタン(トリス)、界面活性剤、例えば、ポリソルベート80(Tween80)、ポリソルベート20(Tween20)、またはポロキサマー188、ポリオール/二糖/多糖、例えば、グルコース、デキストロース、マンノース、マンニトール、ソルビトール、スクロース、トレハロース、またはデキストラン40、アミノ酸、例えば、グリシンまたはアルギニン、抗酸化剤、例えば、アスコルビン酸またはメチオニン、およびキレート剤、例えば、EGTAまたはEGTAのうちの1つ以上をさらに含む。
【0075】
本発明の方法によって生成された拡大された細胞の集団は、遺伝子療法において使用され得る。治療遺伝子を患者に導入するために、目的の遺伝子は、単離された集団のHSCにトランスフェクトされるべきである。治療遺伝子は、ウイルス性または非ウイルス性の方法を使用して導入することができる。適切なウイルスベクターには、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルスおよび単純ヘルペスウイルスが挙げられる。目的の遺伝子を含む細胞は、患者に導入される前に、本方法に従って拡大させることができる。
【0076】
以下の実施例は本発明を例証する。
【実施例】
【0077】
実施例1 臍帯血からの細胞の増殖
材料および方法
細胞培養
ヒトのUCB単位は、Oxford and Berkshire National Research Ethical Committeesからの書面による情報に基づく事前同意および倫理的承認、ならびにNHSBT research committeeの承認を得て実施された研究によって収集された。UCB単核細胞(MNC)は、リンパ球分離培地1077(PAA Laboratories,Pasching,Austria、密度<1.077g/ml)での密度勾配遠心分離によって単離された。CD133+細胞は、免疫磁気ビーズ(Miltenyi Biotec,Germany)を使用してMNCから単離された。単離後、細胞をFCS中の10%DMSO(ウシ胎児血清)中で凍結保存し、1×105細胞/バイアルのアリコートで-150℃にて保存した。CD34-APC、CD133-PE、および適切なアイソタイプ対照(すべてMiltenyi Biotec)を使用して、BD LSR II(BD Biosciences,CA)でフローサイトメトリーを用いて、分離の純度について細胞を分析した。骨髄由来のCD133+細胞はLonzaから商業的に入手し、末梢血CD133+細胞は、Lonza Biologicsから商業的に入手した全末梢血単核細胞から上記の免疫磁気ビーズを使用して単離した。
【0078】
2人または3人のドナーからのバイアルを解凍し、100ng/mL SCF、100ng/mL FLT3LG、および20ng/mL TPO(すべてMiltenyi Biotec)を含むStemSpan ACF培地(Stem Cell Technologies)にプールした。計数後、細胞を上記の培地中20,000細胞/ウェルにて96ウェル丸底懸濁液プレートにプレーティングした。細胞は、これらの条件下で、5%CO2を用いて、37℃加湿インキュベーター中で一晩回復させた。
【0079】
翌日、計数したプレートから細胞を回収し、24ウェルNanexプレート(Compass Biomedical)または標準的な組織培養処理プレートに、HDAC阻害剤を含む(ほとんどの実験では、スクリプタイドを1μMの濃度で使用した)1mLの基本培地(100ng/mL SCF、100ng/mL FLT3LGおよび20ng/mL TPOを伴うStemSpan ACF)中に2500細胞/ウェルで播種した。細胞のアリコートをCFU分析に使用し、別のアリコートをフローサイトメトリー分析に使用した。
【0080】
培養3日後、培地をサイトカイン(SCF、TPO、FLT3LG)およびHDAC阻害剤(スクリプタイド1μM)を有する新鮮な培地に交換または補充のいずれかを行った。収集の16~20時間前に、WR1065を100μMの濃度で補充した。合計5日間の増殖後、細胞を収集し、計数し、フローサイトメトリーで分析する。
【0081】
CFUアッセイ
CFUアッセイは、MethoCult Classicキット(Stem Cell Technologies)を製造元の指示に従って使用して実施した。簡単に説明すると、細胞のアリコート(既知の数または体積)を3mLのMethoCult培地と混合し、鈍針およびシリンジを使用して6ウェル懸濁プレートの1つのウェルにプレーティングした。プレートは、培地を交換せずに、5%CO2を有する加湿インキュベーター内で37℃にて2週間インキュベートした。2週間後、コロニーを解剖顕微鏡下で写真撮影し、計数した。次に、異なる種類のコロニーの割合をスコアリングし、割合/サンプルを計算した。
【0082】
フローサイトメトリーアッセイ
細胞を収集し、洗浄し、プレコンジュゲート抗体のパネルを使用して、PBS中の3%FBS中で染色した。細胞を氷上で抗体とともに30分間インキュベートし、次いで、PBS中の3%FBSで2回洗浄し、上記の緩衝液250uLに再懸濁し、その後BD Canto IIフローサイトメーターを使用して分析した。[抗体パネルは次のとおりであった。5Linカスタムカクテル(CD235a、CD4、CD10、CD11bおよびCD19)APC-Vio770、CD38-PE-Vio770、CD34-PerCP-Vio700、CD133-PE、CD45RA-VioBlue、CD49f-FITC、CD90-APC(すべてMiltenyi Biotec)。]
【0083】
細胞計数
細胞数は、計数ビーズ(CountBright beads Life Technologies)を活用したフローサイトメトリーを使用して測定した。
【0084】
結果
図1は、すべての処理群にわたる全有核細胞の分析を示し、これは、すべての培養条件で細胞の拡大にほとんど違いがないことを示す。5日間の培養期間では、サイトカインを含む基本培地中の細胞の拡大は約20~40倍であり(異なるドナーと異なる生物学的反復の間で違いが見られる)、これは、サイトカインを伴い、WR1065(100μM)を伴うかまたは伴わないスクリプタイド(1μM)で増殖した細胞ではわずかに減少するが、しかし、この減少は有意ではない。[基本対スクリプタイドp=0.191、基本対スクリプタイド+WR1065p=0.28]n=14。しかし、CD133+/CD34+細胞の増殖を比較すると(
図3を参照)、スクリプタイド単独およびWR1065と組み合わせたスクリプタイドで処理した細胞は、サイトカインのみで増殖された細胞と比較して、CD133+/CD34+細胞の割合の増加を示す。エキソビボ培養前の細胞の分析(
図2)は、開始集団の純度が高いことを示す(90~98%CD133+/CD34+)。基本培地+サイトカイン(基本として示される)で5日間培養した後、割合は約50%に低下する。併用処理で拡大された細胞では、この割合は約72%とはるかに高いままである。この差は統計学的に有意である(それぞれ**p=0.003および***p=0.0001)。
【0085】
表現型Lin-、CD38-、CD34+、CD45RA-、CD133+、CD90+、CD49f+を特徴とする特定のHSCが富化された集団の拡大倍率は、サイトカイン単独よりも併用処理で20倍高くなっている。培養の最後に存在する表現型(Lin-、CD38-、CD34+、CD45RA-、CD133+、CD90+、CD49f+)の細胞数の測定値を、増殖の開始時に播種した細胞と比較して、「拡大倍率」として表すことができる。拡大倍率の比較は、スクリプタイドで処理された細胞が、サイトカインを含む基本培地で増殖させた細胞よりも約10倍高い拡大を有することを示す。スクリプタイドとWR1065の組み合わせで増殖させた細胞は、サイトカインを含む基本培地で増殖させた細胞よりも20倍高い拡大を示す(
図3)。この違いは統計学的に有意である。薬剤の組み合わせの作用は、各々個別の化合物の付加的な効果以上のものである。サイトカイン+WR1065で拡大された細胞は、サイトカイン単独の約3倍の「HSC」区画の拡大を示し、スクリプタイド単独で増殖された細胞は、基本の10倍の拡大を示し、組み合わせは、基本の20倍の拡大を示し(
図3)、したがって、これは付加的な効果よりも大きい。HDAC阻害剤およびWR1065を用いたUCB由来CD133+細胞のインビトロ培養は、サイトカインのみで拡大された細胞と比較して、コロニー形成単位である顆粒球、赤血球、単球、巨核球(CFU-GEMM)コロニーの数を増加させる。併用処理で拡大し、MethoCult中の限界希釈でプレーティングした細胞は、
図4に示すように、事前に拡大された細胞の6~7倍、サイトカイン単独で拡大された細胞の少なくとも2.5倍のGEMMコロニーを生成し、この差は統計学的に有意である。
【0086】
実施例2 骨髄からの細胞の増殖
上記に定義された拡大プロトコルはまた、骨髄由来の細胞でも実施された。骨髄細胞は、併用処理で培養した場合、全有核細胞とCD34+細胞の両方で5倍の拡大を示す。しかし、HSC(表現型Lin-、CD38-、CD34+、CD45RA-、CD133+、CD90+、CD49f+で特徴付けられる)の細胞拡大は、
図5のサイトカインを含む基本培地で拡大された細胞と比較して、スクリプタイドおよびWR1065で増殖された細胞の方が17倍高い。
【0087】
実施例3 末梢血に由来する細胞の増殖
上記に定義された拡大プロトコルはまた、末梢血に由来する細胞に対しても実施された。末梢血に由来する細胞の全体的な拡大倍率は、臍帯血に由来する細胞のそれよりも低かった。末梢血細胞は、すべての増殖条件下で、全有核細胞とCD34+細胞の両方で2~6倍の増殖を示す。しかし、HSC(表現型Lin-、CD38-、CD34+、CD45RA-、CD133+、CD90+、CD49f+によって特徴付けられる)の細胞拡大は、
図6のサイトカインを含む基本培地で増殖された細胞と比較して、スクリプタイドおよびWR1065で増殖した細胞で300倍高い。
【0088】
実施例4 クラスI HDAC阻害剤RG2833およびRGFP966を使用した細胞の拡大
上記に定義された拡大プロトコルは、クラスI HDAC阻害剤RG2833およびRGFP966を使用して実施された。RG2833はHDAC1および3に選択的であり、RGFP966はHDAC3に選択的である。サイトカインを含む培地(基本)、RG2833またはRGFP966のいずれかを含む基本培地、ならびにRG2833およびWR1065またはRGFP966およびWR1065のいずれかを含む基本培地で細胞を拡大させた。
図7は、基本培地、RG2833を含む培地、RG2833およびWR1065を含む培地で増殖させた細胞のTNCおよびHSCの拡大を示す(スクリプタイドで処理した培地、ならびにスクリプタイドおよびWR1065を含む培地で増殖された細胞の増殖データもまた比較として示される)。TNCの倍数拡大は、基本培地で増殖された細胞と比較した場合、RG2833を用いて、またはRG2833およびWR1065を用いて処理した場合に増加することが示される。HSCの倍数拡大は、基本培地で増殖された細胞と比較して、RG2833を用いて、またはRG2833およびWR1065を用いて処理した細胞でも2倍になる。RG2833およびWR1065で処理された細胞は、RG2833単独で処理された細胞と比較して、HSCでの倍数拡大を示すことが注目されるべきである。
【0089】
図8は、基本培地、RGFP966を含む培地、RGFP966およびWR1065を含む培地で増殖された細胞のTNCの拡大およびHSCの拡大を示す(スクリプタイドを含む培地、ならびにスクリプタイドおよびWR1065を含む培地で増殖させた細胞の増殖データもまた比較として示される)。TNCの倍数拡大は、基本培地で増殖された細胞と比較した場合、RGFP966、またはRGFP966およびWR1065で処理した場合に増加することが示される。HSCの拡大倍率は、基本培地で増殖された細胞と比較して、RGFP966、またはRGFP966およびWR1065で処理した細胞で類似している。しかし、RGFP966およびWR1065で処理された細胞は、RGFP966単独で処理された細胞と比較して、HSCでの倍数拡大の増加を示すことが注目されるべきである。
【0090】
これらの例は、クラスI HDAC阻害剤およびWR1065で処理された細胞が、基本培地で増殖された細胞と比較して、TNCの拡大倍率の増加を示すことを示す。クラスI HDAC阻害剤およびWR1065で処理された細胞は、基本培地で増殖された細胞、またはクラスI HDAC阻害剤単独で処理された細胞で見られるよりも、HSC区画の拡大倍率の増加もまた示す。
【0091】
実施例5 クラスIIaHDAC阻害剤LMK235を使用する細胞の増殖
上記に定義された拡大プロトコルは、クラスIIaHDAC阻害剤LMK235を使用して実施された。LMK235はHDAC4および5に選択的である。
図9は、サイトカインを含む培地(基本)、LMK235を含む基本培地、ならびにLMK235およびWR1065を含む基本培地で拡大された細胞のTNCの拡大およびHSCの拡大を示す(スクリプタイドを含む培地ならびにスクリプタイドおよびWR1065を含む培地で増殖された細胞の拡大データも比較として示される)。LMK235またはLMK235およびWR1065で処理した場合のTNCの拡大倍率は、基本培地で増殖された細胞よりもわずかに低い。しかし、HSCの倍数拡大は、基本培地で増殖された細胞と比較して、LMK235を用いて、またはLMK235およびWR1065を用いて処理した細胞で顕著に増加する。
【0092】
実施例6 クラスIIb HDAC阻害剤ツバスタチンAを使用する細胞の拡大
上記に定義された拡大プロトコルは、クラスIIb HDAC阻害剤ツバスタチンAを使用して実施された。ツバスタチンAはHDAC6に選択的である。
図10は、サイトカインを含む培地(基本)、ツバスタチンAを含む基本培地、およびツバスタチンAとWR1065を含む基本培地(スクリプタイドおよび培地を含む培地で増殖した細胞の拡大データ)で増殖した細胞のTNCの増殖とHSCの増殖を示す。スクリプタイドとWR1065を含むものも比較として示される)。ツバスタチンA、またはツバスタチンAおよびWR1065で処理した場合のTNCの拡大倍率は、基本培地で増殖された細胞と同様である。しかし、HSCの倍数拡大は、基本培地で増殖された細胞と比較して、ツバスタチンAで処理した細胞、ならびにツバスタチンAおよびWR1065で処理した細胞で有意に増加している。ツバスタチンAとWR1065の組み合わせで処理された細胞は、ツバスタチンAのみで処理された細胞よりもHSCの拡大倍率の増加を示すことにも注意する必要がある。
【0093】
実施例7 広域スペクトルHDAC阻害剤であるフェニル酪酸ナトリウムおよびQuisinostatを使用する細胞の増殖
上記に定義された拡大プロトコルは、広域スペクトルHDAC阻害剤であるフェニル酪酸ナトリウムとキシノスタットを使用して実施された。フェニル酪酸ナトリウムは現在、尿素回路障害の治療に使用されており、キシノスタットは現在、癌における使用のための臨床試験中である。サイトカインを含む培地(基本)、フェニル酪酸ナトリウムまたはキシノスタットのいずれかを含む基本培地、およびフェニル酪酸ナトリウムとWR1065またはキシノスタットとWR1065のいずれかを含む基本培地中で細胞を拡大させた。
図11は、基本培地、フェニル酪酸ナトリウムを含む培地、フェニル酪酸ナトリウムおよびWR1065を含む培地で増殖された細胞のTNCの拡大およびHSCの拡大を示す(スクリプタイドを含む培地、ならびにスクリプタイドおよびWR1065を含む培地で増殖された細胞の拡大データもまた比較として示される)。TNCの拡大倍率は、フェニル酪酸ナトリウムを用いて、またはフェニル酪酸ナトリウムおよびWR1065を用いて処理した場合、基本培地で増殖された細胞と比較された場合に増加することが示される。HSCの拡大倍率は、基本培地で増殖した細胞と比較して、フェニル酪酸ナトリウムを用いて、またはフェニル酪酸ナトリウムおよびWR1065を用いて処理した細胞についてもまた増加される。
【0094】
図12は、基本培地、キジノスタットを含む培地、キジノスタットおよびWR1065を含む培地で増殖した細胞のTNCの拡大およびHSCの拡大を示す(スクリプタイドを含む培地およびスクリプタイドおよびWR1065を含む培地で増殖された細胞の拡大データもまた比較として示される)。TNCの拡大倍率は、基本培地中で増殖された細胞と比較した場合、キシノスタット、またはキシノスタットおよびWR1065で処理した細胞の方がわずかに低い。しかし、HSCの倍数拡大は、基本培地で増殖された細胞と比較して、キジノスタット、またはキシノスタットおよびWR1065で処理した細胞で顕著に増加する。キシノスタットおよびWR1065で処理された細胞は、キシノスタットのみで処理された細胞と比較して、HSC中での増加した倍数の拡大を示すこともまた注目されるべきである。
【0095】
実施例8 スクリプタイドおよびWR1065を使用する個々のドナーからの細胞の増殖
上記に定義された拡大プロトコルは、3人の別々のドナーからのUCB細胞、ならびに細胞のプールされたサンプルに対して実施された。細胞は、スクリプタイドを含むサイトカイン(基本)培地、およびスクリプタイドとWR1065を含む培地を補充した培地で増殖させた。
図13は、基本培地で培養された細胞と比較した場合、スクリプタイドで処理した細胞のHSCの拡大倍率が平均30倍(範囲10~55)高かったことを示す。スクリプタイドとWR1065の組み合わせで処理された細胞は、スクリプタイド単独での倍数拡大に関係なく、HSCの倍数拡大の2倍の増加を示した。ドナーのバリエーションは存在するが、併用処理は、テストされたすべてのドナーのHSCの拡大を増強する。
【0096】
実施例9 様々な組織培養プレートを使用する細胞の拡大
スクリプタイドとWR1065の併用処理は、細胞を増殖させるために使用される表面のタイプに関係なく、HSC細胞の拡大を増強する。細胞培養における足場の使用は、インビボ条件をより良好に模倣し、結果として、細胞が増殖するためのより良好なニッチを提供することが知られている。以前のすべての例は、表面アミノ化で処理されたPESエレクトロスピニング繊維で作られた薄い足場材料を含むNanexプレートを使用して実施された。実験は、標準的な組織培養処理プレートならびにNanexプレートを使用して細胞が培養される場合に、スクリプタイドおよびWR1065を用いる処理が、HSCの拡大を促進することを示すために実施された。細胞増殖プロトコルは上記のように実行され、細胞は3タイプの表面、Nanex足場、TC処理されたCorning24ウェルプレートまたは懸濁Greiner Bio24ウェルプレートに同じ密度で播種された。サイトカイン(基本)を補充した培地中で培養された細胞のHSCの拡大倍率は、Nanexプレートで増殖された細胞について有意に高くなっている。しかし、HSCの倍数拡大は、基本培地で培養された細胞と比較した場合、スクリプタイドまたは併用処理のいずれかで処理された細胞で大幅に増加する。この効果は、使用されるすべての表面にわたって同様であり、わずかな違いは統計的に有意ではない。
【0097】
実施例10 免疫無防備状態のNSGマウスにおける拡大された細胞の再増殖能力
インビボで骨髄を再増殖させる細胞の能力に対する様々なエキソビボ拡大プロトコルの効果を調査した。細胞は臍帯血から得られ、4つの細胞調製物が生成された-1。拡大していない細胞、2。ビヒクルの存在下で細胞が拡大した、3。スクリプタイドの存在下で細胞が拡大した(拡大+SS-
図15)、4。スクリプタイドおよびWR1065の存在下で拡大された細胞(拡大+SW-
図15)。次に、これらの細胞調製物を、照射された成体(<8週間)の雄NSG(NOD.Cg-Prkdc
scid Il2rg
tm1Wjl/SzJ)マウスに注射した。
【0098】
フローサイトメトリー分析は、明確な移植の証拠を有する動物を識別するために(CD45HUおよびCD45MUのみ)週15で採取された血液サンプルに対して行われた(12週目の血液中のヒトCD45+細胞および15週目の1%を超えるヒトCD45+計数)。1%を超えるヒトCD45+計数を有する動物のうち10例を、10例の二次レシピエントのドナーとして1対1の様式で使用した。
【0099】
細胞投与後20週目に、初代動物を屠殺した。骨髄サンプルを大腿骨と脛骨から採取し、細胞を洗浄し、その後計数した。回収された細胞の50%を二次照射された動物に注射した。このような様式で、拡大された細胞の長期の生着能力を決定することができた。
【0100】
二次動物は8週目に採血され、全血サンプルは生着の証拠についてFACによって分析された。8週間の全血サンプルのフローサイトメトリーのデータを
図15に示す。
図15は、マウス全血サンプル中のヒトCD45+細胞の頻度を、生存可能なシングレットのパーセンテージとして示す。スクリプタイドおよびWR1065で拡大された細胞を受容したマウスの全血中のヒトCD45+の平均頻度は、スクリプタイド単独で拡大された細胞を受容したマウス(0.04%)よりも高い(2.5%)。WR1065とスクリプタイドの組み合わせは、拡大していない細胞とビヒクルで拡大された細胞の両方よりもCD45+の平均頻度が高いことを示す。
【0101】
実施例11 末梢血から取得された拡大された細胞の生着能力
CD34+細胞は、健康なドナーの動員された末梢血から単離された。これらの細胞を解凍し、1%Penn Strep、100ng/mL hFlt-3、100ng/mL SCF、20ng/mL TPO(Peprotech)を補充したSCGM培地(CellGenix)中で1x10
6/mLにて3日間培養した。細胞は、スクリプタイドの非存在下(B 3日目-
図16)、またはスクリプタイドの存在下(ScrA 3日目-
図16)、またはスクリプタイドおよびWR1065の組み合わせ(PL 3日目-
図16)で培養され、WR1065は培養時間の2日目に加えられる。
【0102】
培養後、HSC CD34+、CD38-、CD90+、CD45RA-は、FACSを使用して選別し、致死量以下に照射された免疫不全NSGマウスに注射した。マウス1匹あたり80,000個の細胞を投与した。対照サンプル(0日目-
図16)には、新鮮に解凍して選別したHSC CD34+、CD38-、CD90+、CD45RA-が含まれ、これらの細胞はエキソビボで増殖しなかった。ヒト細胞の生着は、8週目と12週目に動物の全血サンプルに存在するCD45+細胞のパーセンテージによって評価された。
【0103】
図16は、全血サンプルに存在するCD45+細胞のパーセンテージを示す。スクリプタイドとWR1065の両方の存在下で拡大された細胞によって達成された生着のレベル(CD45+細胞のパーセンテージによって示される)は、非増殖対照、培地中で拡大された細胞、およびスクリプタイド単独の存在下で拡大された細胞のレベルよりも高い。