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特許7477522濃度測定方法、濃度測定装置およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】濃度測定方法、濃度測定装置およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/78 20060101AFI20240423BHJP
   G01N 31/00 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
G01N21/78 C
G01N31/00 Q
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021553582
(86)(22)【出願日】2020-10-23
(86)【国際出願番号】 JP2020039998
(87)【国際公開番号】W WO2021080014
(87)【国際公開日】2021-04-29
【審査請求日】2023-06-01
(31)【優先権主張番号】P 2019194650
(32)【優先日】2019-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507214083
【氏名又は名称】メタウォーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(74)【代理人】
【識別番号】100141449
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 隆芳
(74)【代理人】
【識別番号】100142446
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 覚
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(72)【発明者】
【氏名】金 京柱
(72)【発明者】
【氏名】山口 太秀
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/116554(WO,A1)
【文献】特開昭63-118655(JP,A)
【文献】特開平06-148187(JP,A)
【文献】特開昭61-180143(JP,A)
【文献】特開2014-002007(JP,A)
【文献】特開2016-057162(JP,A)
【文献】特開2010-271095(JP,A)
【文献】国際公開第2014/174818(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0130308(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/83
G01N 31/00-G01N 31/22
C02F 11/00-C02F 11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液サンプル中に含まれる測定対象物質の濃度を、前記測定対象物質と反応して溶液サンプルのパラメータの大きさを変化させる試薬を用いて測定する方法であって、
濃度未知の測定対象物質を含む溶液サンプル、及び、前記溶液サンプルに対し既知の量の測定対象物質を添加した参照溶液サンプルに、前記試薬を添加し、前記パラメータの経時変化を測定する測定工程と、
前記測定工程による測定結果に基づいて、前記溶液サンプル中及び前記参照溶液サンプル中の測定対象物質と前記試薬との見掛け上の反応終了時間以降の前記パラメータの大きさと時間との関係を表す近似式を作成する分析工程と、
前記近似式に時間T(但し、T≧0)を代入して得られるパラメータの値と、前記既知の量との関係から前記溶液サンプル中の測定対象物質の濃度を求める算出工程と、
を含み、
前記分析工程では、前記溶液サンプル中の測定対象物質に対応する第1の近似式と、前記参照溶液サンプル中の測定対象物質に対応する第2の近似式とを作成し、
前記算出工程では、下記の関係式(1):
C={(P ’-P ’)/(P ’-P ’)}×(m/M) ・・・(1)
C:溶液サンプル中の測定対象物質の濃度
’:反応開始時(T=0)のパラメータの値
’:反応開始時(T=0)における第1の近似式のパラメータの値
’:反応開始時(T=0)における第2の近似式のパラメータの値
m:溶液サンプルに添加した測定対象物質の質量(既知の量)
M:参照溶液サンプルの質量
を用いて前記溶液サンプル中の測定対象物質の濃度を求める、濃度測定方法。
【請求項2】
前記パラメータが蛍光強度または吸光度である、請求項に記載の濃度測定方法。
【請求項3】
前記測定対象物質が臭素酸イオンであり、
前記パラメータが蛍光強度であり、
前記試薬がトリフルオペラジンである、請求項1又は2に記載の濃度測定方法。
【請求項4】
前記溶液サンプルと、前記参照溶液サンプルとで、前記測定対象物質と前記試薬との反応条件を同一にする、請求項1~の何れかに記載の濃度測定方法。
【請求項5】
溶液サンプル中に含まれる測定対象物質の濃度を、前記測定対象物質と反応して溶液サンプルのパラメータの大きさを変化させる試薬を用いて測定する装置であって、
濃度未知の測定対象物質を含む溶液サンプル、及び、前記溶液サンプルに対し既知の量の測定対象物質を添加した参照溶液サンプルについて、前記試薬を添加した状態で、前記パラメータの経時変化を測定する測定部と、
前記測定部による測定結果に基づいて、前記溶液サンプル中及び前記参照溶液サンプル中の測定対象物質と前記試薬との見掛け上の反応終了時間以降の前記パラメータの大きさと時間との関係を表す近似式を作成する分析部と、
前記近似式に時間T(但し、T≧0)を代入して得られるパラメータの値と、前記既知の量との関係から前記溶液サンプル中の測定対象物質の濃度を求める算出部と、
を備え
前記分析部では、前記溶液サンプル中の測定対象物質に対応する第1の近似式と、前記参照溶液サンプル中の測定対象物質に対応する第2の近似式とを作成し、
前記算出部では、下記の関係式(1):
C={(P ’-P ’)/(P ’-P ’)}×(m/M) ・・・(1)
C:溶液サンプル中の測定対象物質の濃度
’:反応開始時(T=0)のパラメータの値
’:反応開始時(T=0)における第1の近似式のパラメータの値
’:反応開始時(T=0)における第2の近似式のパラメータの値
m:溶液サンプルに添加した測定対象物質の質量(既知の量)
M:参照溶液サンプルの質量
を用いて前記溶液サンプル中の測定対象物質の濃度を求める、濃度測定装置。
【請求項6】
溶液サンプル中に含まれる測定対象物質の濃度を、前記測定対象物質と反応して溶液サンプルのパラメータの大きさを変化させる試薬を用いて測定する装置に、
濃度未知の測定対象物質を含む溶液サンプル、及び、前記溶液サンプルに対し既知の量の測定対象物質を添加した参照溶液サンプルについて、前記試薬を添加した状態で、前記パラメータの経時変化を測定した結果を取得させるステップと、
取得した前記結果に基づいて、前記溶液サンプル中及び前記参照溶液サンプル中の測定対象物質と前記試薬との見掛け上の反応終了時間以降の前記パラメータの大きさと時間との関係を表す近似式を作成させるステップと、
前記近似式に時間T(但し、T≧0)を代入して得られるパラメータの値と、前記既知の量との関係から前記溶液サンプル中の測定対象物質の濃度を求めるステップと、
を実行させ
前記近似式を作成させるステップでは、前記溶液サンプル中の測定対象物質に対応する第1の近似式と、前記参照溶液サンプル中の測定対象物質に対応する第2の近似式とを作成し、
前記濃度を求めるステップでは、下記の関係式(1):
C={(P ’-P ’)/(P ’-P ’)}×(m/M) ・・・(1)
C:溶液サンプル中の測定対象物質の濃度
’:反応開始時(T=0)のパラメータの値
’:反応開始時(T=0)における第1の近似式のパラメータの値
’:反応開始時(T=0)における第2の近似式のパラメータの値
m:溶液サンプルに添加した測定対象物質の質量(既知の量)
M:参照溶液サンプルの質量
を用いて前記溶液サンプル中の測定対象物質の濃度を求める、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濃度測定方法、濃度測定装置およびプログラムに関し、特には、測定対象物質と反応して蛍光強度や吸光度等のパラメータの大きさを変化させる試薬を用いた濃度測定方法、並びに、当該濃度測定方法に好適に使用し得る濃度測定装置およびプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、溶液サンプル中に含まれている測定対象物質の濃度を測定する方法として、測定対象物質と反応する試薬を使用し、測定対象物質と試薬との反応によって変化するパラメータの大きさを測定することにより溶液サンプル中の測定対象物質の濃度を求める方法が知られている。
【0003】
具体的には、例えば、水中の臭素酸イオン濃度を測定することが可能な方法として、臭素酸イオン濃度に応じて蛍光強度の大きさが変化するトリフルオペラジン(TFP)を使用した定量方法が提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。当該定量方法では、試料水中の臭素酸イオンとTFPとを反応させた際の蛍光強度の大きさを測定し、得られた蛍光強度の測定値と、予め作成しておいた検量線とを対比することにより試料水中の臭素酸イオン濃度を求める方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-2007号公報
【文献】特開2016-57162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、測定対象物質と反応する試薬を用いた上記従来の濃度測定方法には、検量線の作成が必要であり、作業が煩雑であるという問題があった。
【0006】
また、測定対象物質と反応する試薬を用いた上記従来の濃度測定方法には、溶液サンプル中に含まれている測定対象物質以外の物質(共存物質)と、試薬とが反応してパラメータの大きさの変化に影響を与えることにより測定対象物質の濃度の定量精度が低下するという問題もあった。
【0007】
そこで、本発明は、測定対象物質と反応してパラメータの大きさを変化させる試薬を用いて溶液サンプル中の測定対象物質の濃度を測定する方法について、測定対象物質の濃度を高い精度で簡便に測定することを可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の濃度測定方法は、溶液サンプル中に含まれる測定対象物質の濃度を、前記測定対象物質と反応して溶液サンプルのパラメータの大きさを変化させる試薬を用いて測定する方法であって、濃度未知の測定対象物質を含む溶液サンプル、及び、前記溶液サンプルに対し既知の量の測定対象物質を添加した参照溶液サンプルに、前記試薬を添加し、前記パラメータの経時変化を測定する測定工程と、前記測定工程による測定結果に基づいて、前記溶液サンプル中及び前記参照溶液サンプル中の測定対象物質と前記試薬との見掛け上の反応終了時間以降の前記パラメータの大きさと時間との関係を表す近似式を作成する分析工程と、前記近似式に時間T(但し、T≧0)を代入して得られるパラメータの値と、前記既知の量との関係から前記溶液サンプル中の測定対象物質の濃度を求める算出工程とを含むとを含むことを特徴とする。
【0009】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の濃度測定装置は、溶液サンプル中に含まれる測定対象物質の濃度を、前記測定対象物質と反応して溶液サンプルのパラメータの大きさを変化させる試薬を用いて測定する装置であって、濃度未知の測定対象物質を含む溶液サンプル、及び、前記溶液サンプルに対し既知の量の測定対象物質を添加した参照溶液サンプルについて、前記試薬を添加した状態で、前記パラメータの経時変化を測定する測定部と、前記測定部による測定結果に基づいて、前記溶液サンプル中及び前記参照溶液サンプル中の測定対象物質と前記試薬との見掛け上の反応終了時間以降の前記パラメータの大きさと時間との関係を表す近似式を作成する分析部と、前記近似式に時間T(但し、T≧0)を代入して得られるパラメータの値と、前記既知の量との関係から前記溶液サンプル中の測定対象物質の濃度を求める算出部とを備えることを特徴とする。
【0010】
更に、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明のプログラムは、溶液サンプル中に含まれる測定対象物質の濃度を、前記測定対象物質と反応して溶液サンプルのパラメータの大きさを変化させる試薬を用いて測定する装置に、濃度未知の測定対象物質を含む溶液サンプル、及び、前記溶液サンプルに対し既知の量の測定対象物質を添加した参照溶液サンプルについて、前記試薬を添加した状態で、前記パラメータの経時変化を測定した結果を取得させるステップと、取得した前記結果に基づいて、前記溶液サンプル中及び前記参照溶液サンプル中の測定対象物質と前記試薬との見掛け上の反応終了時間以降の前記パラメータの大きさと時間との関係を表す近似式を作成させるステップと、前記近似式に時間T(但し、T≧0)を代入して得られるパラメータの値と、前記既知の量との関係から前記溶液サンプル中の測定対象物質の濃度を求めるステップとを実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、測定対象物質の濃度を高い精度で簡便に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】試薬と反応させた際の溶液サンプルのパラメータの経時変化について、溶液サンプル中に含まれている成分との関係を説明するためのグラフである。
図2】溶液サンプルおよび参照溶液サンプルについて、試薬と反応させた際のパラメータの経時変化を示すグラフである。
図3】反応時間と蛍光強度との関係を示すグラフであり、(a)は、実施例1で作成したグラフであり、(b)は実施例2で作成したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(濃度測定方法)
本発明の濃度測定方法は、測定対象物質を含む溶液サンプル中の測定対象物質の濃度を、測定対象物質と反応して溶液サンプルのパラメータの大きさを変化させる試薬を用いて測定する方法である。具体的には、本発明の濃度測定方法は、例えば、測定対象物質として臭素酸イオン(BrO3 -)を含む溶液サンプル中の臭素酸イオン濃度を、臭素酸イオンと反応して溶液サンプルの蛍光強度の大きさを変化させる試薬としてトリフルオペラジンを用いて測定する際に用いることができる。
なお、本発明の濃度測定方法を適用可能な測定対象物質、パラメータおよび試薬の組み合わせは、上述した一例に限定されるものではなく、例えば、パラメータは吸光度であってもよい。また、測定対象物質は、鉄イオン、pH、DNAであってもよい。更に、試薬は、ペナントロリン、FITC(fluorescein isothiocyanate)、EMA(Ethidium MonoAzaide)であってもよい。
【0014】
ここで、本発明の濃度測定方法は、以下の知見を見出してなされたものである。測定対象物質と反応する試薬を用いた濃度測定方法では、溶液サンプル中に含まれている測定対象物質以外の物質(以下、「共存物質」と称することがある。)も試薬と反応してパラメータの大きさの変化に影響を与え得る。そして、上述した臭素酸イオンの定量系などでは、測定対象物質と試薬との反応は比較的早期に見掛け上の反応終了(平衡)に到達するのに対し、共存物質と試薬との反応は測定対象物質と試薬との反応が平衡に到達しても終了せずにパラメータの大きさの変化に影響を与え続ける。
【0015】
具体的には、本発明の濃度測定方法は、一例として試薬との反応により変化するパラメータが蛍光強度である場合について図1に示すように、溶液サンプルの蛍光強度の変化の大きさは、測定対象物質と試薬との反応に起因した蛍光強度の変化の大きさと、共存物質と試薬との反応に起因した蛍光強度の変化の大きさとの和であるところ、測定対象物質と試薬との反応が比較的早期に見掛け上の反応終了(平衡)に到達する一方で共存物質と試薬との反応は終了しない系では、共存物質と試薬との反応に起因した蛍光強度の変化が測定対象物質と試薬との見掛け上の反応が終了する時間TEの前後において略一定である場合、測定対象物質と試薬との見掛け上の反応終了後の蛍光強度の変化は、共存物質と試薬との反応に起因した蛍光強度の変化と略等しくなるという新たな知見を利用し、以下のようにして測定対象物質の濃度を求めるものである。
【0016】
本発明の濃度測定方法は、上記の新たな知見を利用し、濃度未知の測定対象物質が含まれる溶液サンプルと、溶液サンプルに対し既知の量の測定対象物質を添加した参照溶液サンプルとを用いて、測定対象物質の濃度を測定するものである。上述したような系では、溶液サンプルと参照溶液サンプルとについて試薬と反応させた際の蛍光強度の大きさの経時変化を測定すると、図2に示すような挙動を示す。また、図2に示すグラフにおいて、測定対象物質と試薬との見掛け上の反応が終了する時間TEよりも反応時間が長い部分(図2では時間TEよりも右側に位置する部分)における参照溶液サンプルの蛍光強度と溶液サンプルの蛍光強度との差は、参照溶液の調製時に溶液サンプルに対して添加した測定対象物質の量(既知の量)に対応した大きさとなる。また、時間TEよりも反応時間が長い部分における溶液サンプルの蛍光強度と反応時間との関係を反応開始時(T=0)まで外挿して得られる蛍光強度は、溶液サンプル中で共存物質が試薬と反応していない状態の蛍光強度(即ち、溶液サンプル中の測定対象物質の濃度に対応した蛍光強度)となる。更に、時間TEよりも反応時間が長い部分における参照溶液サンプルの蛍光強度と反応時間との関係を反応開始時(T=0)まで外挿して得られる蛍光強度は、参照溶液サンプル中で共存物質が試薬と反応していない状態の蛍光強度(即ち、参照溶液サンプル中の測定対象物質の濃度(=既知の量の測定対象物質を添加した分だけ溶液サンプルよりも高い濃度)に対応した蛍光強度)となる。そして、図2に示すグラフでは、以下に示す[関係1]や[関係2]等の関係が成立するため、検量線などを作成しなくても、溶液サンプル中の測定対象物質の濃度を求めることが可能になる。なお、下記の関係を用いる場合には、参照溶液サンプルの蛍光強度と溶液サンプルの蛍光強度との差を取る際に共存物質による影響をキャンセルすることができるので、測定対象物質の濃度を高い精度で求めることができる。
[関係1]
溶液サンプルについて時間TE以降の蛍光強度の大きさと反応時間との関係を表す第1の近似式を作成し、参照溶液サンプルについて時間TE以降の蛍光強度の大きさと反応時間との関係を表す第2の近似式を作成した場合、下記の関係式(1)が成立する。
C={(P1’-P0’)/(P2’-P1’)}×(m/M) ・・・(1)
C:溶液サンプル中の測定対象物質の濃度
0’:反応開始時(T=0)の蛍光強度の値
1’:反応開始時(T=0)における第1の近似式の蛍光強度の値(第1の近似式の切片)
2’:反応開始時(T=0)における第2の近似式の蛍光強度の値(第2の近似式の切片)
m:溶液サンプルに添加した測定対象物質の質量(既知の量)
M:参照溶液サンプルの質量
[関係2]
溶液サンプルについて時間TE以降の蛍光強度の大きさと反応時間との関係を表す第1の近似式を作成し、参照溶液サンプルについて時間TE以降の蛍光強度の大きさと反応時間との関係を表す第2の近似式を作成し、反応開始時(T=0)の蛍光強度の値P0’を通って第1の近似式および第2の近似式と略平行な仮想線とを作成した場合、下記の関係式(2)が成立する。
C={(P1-P0)/(P2-P1)}×(m/M) ・・・(2)
C:溶液サンプル中の測定対象物質の濃度
0:反応時間Tにおける仮想線の蛍光強度の値
1:反応時間Tにおける第1の近似式の蛍光強度の値
2:反応時間Tにおける第2の近似式の蛍光強度の値
m:溶液サンプルに添加した測定対象物質の質量(既知の量)
M:参照溶液サンプルの質量
【0017】
なお、本発明において、測定対象物質と試薬との見掛け上の反応が終了する時間は、例えば、(1)測定対象物質と試薬との反応速度定数を用いて理論的に算出する方法、(2)反応時間と蛍光強度との関係を示す曲線の微分値が初めてゼロまたは所定値以下になる時間を反応終了時間とする方法、(3)第1の近似式と第2の近似式とを作成した際に第1の近似式の傾きを第2の近似式の傾きで除した値が0.9以上1.1以下となる時間を反応終了時間とする方法、などの方法を用いて決定することができる。
中でも、使用し易さの観点からは上記(2)の方法が好ましい。
【0018】
ここで、図2では、溶液サンプル中の測定対象物質と試薬との見掛け上の反応が終了する時間T1と、参照溶液サンプル中の測定対象物質と試薬との見掛け上の反応が終了する時間T2とが一致する場合について示したが、本発明では、時間T1と時間T2とが一致しなくてもよい。但し、測定対象物質の濃度を更に簡便かつ高精度で求める観点からは、時間T1と時間T2とは一致させることが好ましい。
なお、時間T1と時間T2とは、特に限定されることなく、例えば反応温度などの測定対象物質と試薬との反応条件を同一にすることにより、一致させることができる。
【0019】
また、本発明において、第1の近似式および第2の近似式は、特に限定されることなく、例えば最小二乗法などの既知の回帰分析方法(単回帰分析または重回帰分析)やカーブフィッティングを用いて求めることができる。
【0020】
更に、本発明において、反応開始時(T=0)の蛍光強度の値P0’は、特に限定されることなく、任意の方法で求めることができる。例えば、反応開始時(T=0)の蛍光強度の値P0’は、溶液サンプルおよび参照溶液サンプルのそれぞれについて、測定対象物質と試薬との見掛け上の反応が終了する時間TEよりも反応時間が短い部分(図2では時間TEよりも左側に位置する部分)のデータをカーブフィッティングすることにより、求めることができる。
なお、溶液サンプルのデータを用いて算出した反応開始時(T=0)の蛍光強度の値と、参照溶液サンプルのデータを用いて算出した反応開始時(T=0)の蛍光強度の値とが相違する場合には、何れか一方の値を蛍光強度の値P0’として採用してもよいし、両者の算術平均値を蛍光強度の値P0’として採用してもよい。
【0021】
そして、本発明において、上述した[関係2]において用いる仮想線は、特に限定されることなく、(1)傾きが第1の近似式と等しく、反応開始時(T=0)の蛍光強度の値がP0’となる直線、(2)傾きが第2の近似式と等しく、反応開始時(T=0)の蛍光強度の値がP0’となる直線、(3)傾きが第1の近似式の傾きと第2の近似式の傾きとの算術平均値に等しく、反応開始時(T=0)の蛍光強度の値がP0’となる直線、などとすることができる。
【0022】
なお、上述した[関係1]および[関係2]に関し、蛍光強度のバラツキの影響を低減して測定対象物質の濃度を更に高精度で求める観点からは、本発明では、上述した[関係1]を利用して測定対象物質の濃度を求めることが好ましい。
【0023】
そして、上述した知見および着想を用いた本発明の濃度測定方法では、具体的には、濃度未知の測定対象物質を含む溶液サンプル、及び、前記溶液サンプルに対し既知の量の測定対象物質を添加した参照溶液サンプルに、前記試薬を添加し、前記パラメータの経時変化を測定する測定工程と、前記測定工程による測定結果に基づいて、前記溶液サンプル中及び前記参照溶液サンプル中の測定対象物質と前記試薬との見掛け上の反応終了時間以降の前記パラメータの大きさと時間との関係を表す近似式を作成する分析工程と、前記近似式に時間T(但し、T≧0)を代入して得られるパラメータの値と、前記既知の量との関係から前記溶液サンプル中の測定対象物質の濃度を求める算出工程とを実施して、溶液サンプル中の測定対象物質の濃度を高い精度で簡便に求めることができる。
より具体的には、本発明の濃度測定方法では、例えば、
(A)濃度未知の測定対象物質を含む溶液サンプルと、溶液サンプルに対し既知の量の測定対象物質を添加した参照溶液サンプルとを準備するサンプル準備工程と、
(B)サンプル準備工程で準備した溶液サンプルに試薬を添加し、パラメータの経時変化を測定する第1の測定工程と、
(C)サンプル準備工程で準備した参照溶液サンプルに試薬を添加し、パラメータの経時変化を測定する第2の測定工程と、
(D)第1の測定工程の測定結果から、溶液サンプル中の測定対象物質と試薬との見掛け上の反応終了時間である時間T1を決定し、時間T1以降のパラメータの大きさと時間との関係を表す第1の近似式を作成する第1の分析工程と、
(E)第2の測定工程の測定結果から、参照溶液サンプル中の測定対象物質と試薬との見掛け上の反応終了時間である時間T2を決定し、時間T2以降のパラメータの大きさと時間との関係を表す第2の近似式を作成する第2の分析工程と、
(F)第1の近似式に時間T(但し、T≧0)を代入して得られるパラメータの値P1と、第2の近似式に時間T(但し、T≧0)を代入して得られるパラメータの値P2と、既知の量との関係から溶液サンプル中の測定対象物質の濃度を求める算出工程と、
を実施して、溶液サンプル中の測定対象物質の濃度を高い精度で簡便に求めることができる。
【0024】
なお、サンプル準備工程において溶液サンプルに対して添加する測定対象物質の量(既知の量)は、特に限定されることなく、例えば管理基準値の1/2、法定基準値の1/2または測定感度の単位の10倍値(例:単位がmg/Lの場合、10mg/L)とすることができる。
【0025】
また、第1の測定工程および第2の測定工程におけるパラメータの大きさの測定は、試薬を添加した時間を反応開始時(T=0)として、パラメータの種類に応じた測定装置(例えば、蛍光光度計や吸光度計)を用いて行うことができる。ここで、第1の測定工程および第2の測定工程の実施順は、特に限定されない。また、前述したとおり、測定対象物質の濃度をより高い精度で求める観点からは、第1の測定工程と、第2の測定工程とでは、測定対象物質と試薬との反応条件を同一にすることが好ましい。
【0026】
そして、算出工程では、上述した[関係1]または[関係2]を用いて測定対象物質の濃度を求めることが好ましく、[関係1]を用いて測定対象物質の濃度を求めることがより好ましい。
【0027】
(濃度測定装置)
本発明の濃度測定装置は、溶液サンプル中に含まれる測定対象物質の濃度を、測定対象物質と反応して溶液サンプルのパラメータの大きさを変化させる試薬を用いて測定する装置である。そして、本発明の濃度測定装置は、例えば、上述した本発明の濃度測定方法を用いて溶液サンプル中の測定対象物質の濃度を求める際に好適に用いることができる。
【0028】
ここで、本発明の濃度測定装置の一例は、測定部と、分析部と、算出部とを備え、任意に他の構成を更に有していてもよい。
【0029】
測定部は、濃度未知の測定対象物質を含む溶液サンプル、及び、溶液サンプルに対し既知の量の測定対象物質を添加した参照溶液サンプルについて、試薬を添加した状態で、パラメータの経時変化を測定する。具体的には、測定部は、パラメータの種類に応じた測定装置(例えば、蛍光光度計や吸光度計)を用いて構成することができる。
なお、溶液サンプルおよび参照溶液サンプルへの試薬の添加は、測定者がマニュアル操作で行ってもよいし、測定部が自動で行ってもよい。
【0030】
分析部および算出部は、単一の、または、複数のコンピュータ等で構成することができる。
そして、分析部は、測定部による測定結果に基づいて、溶液サンプル中及び参照溶液サンプル中の測定対象物質と試薬との見掛け上の反応終了時間以降のパラメータの大きさと時間との関係を表す近似式を作成する。
また、算出部は、近似式に時間T(但し、T≧0)を代入して得られるパラメータの値と、前記既知の量との関係から溶液サンプル中の測定対象物質の濃度を求める。
【0031】
なお、分析部における近似式の作成および算出部における濃度の算出は、それぞれ、本発明の濃度測定方法の分析工程および算出工程と同様の手法を用いて行うことができるので、ここでは説明を省略する。
【0032】
(プログラム)
本発明のプログラムは、溶液サンプル中に含まれる測定対象物質の濃度を、測定対象物質と反応して溶液サンプルのパラメータの大きさを変化させる試薬を用いて測定する際に用いられる。そして、本発明のプログラムは、例えば、上述した本発明の濃度測定装置を、上述した本発明の濃度測定方法を用いて溶液サンプル中の測定対象物質の濃度を求める濃度測定装置として機能させる際に好適に用いることができる。
【0033】
具体的には、本発明のプログラムの一例は、溶液サンプル中に含まれる測定対象物質の濃度を、測定対象物質と反応して溶液サンプルのパラメータの大きさを変化させる試薬を用いて測定する濃度測定装置に、濃度未知の測定対象物質を含む溶液サンプル、及び、溶液サンプルに対し既知の量の測定対象物質を添加した参照溶液サンプルについて、試薬を添加した状態で、パラメータの経時変化を測定した結果を取得させるステップと、取得した測定結果に基づいて、溶液サンプル中及び参照溶液サンプル中の測定対象物質と試薬との見掛け上の反応終了時間以降のパラメータの大きさと時間との関係を表す近似式を作成させるステップと、近似式に時間T(但し、T≧0)を代入して得られるパラメータの値と、既知の量との関係から溶液サンプル中の測定対象物質の濃度を求めるステップとを実行させる。
より具体的には、本発明のプログラムの一例は、例えば、濃度測定装置の動作を制御するコンピュータ等の制御装置を介して濃度測定装置に上述したステップを実行させる。
【0034】
なお、このプログラムは、コンピュータが読み取り可能な記録媒体に記録されていてもよい。このような記録媒体を用いれば、プログラムをコンピュータにインストールすることが可能である。ここで、プログラムが記録された記録媒体は、非一過性の記録媒体であってもよい。非一過性の記録媒体は、特に限定されるものではないが、例えば、CD-ROM、DVD-ROMなどの記録媒体であってもよい。また、このプログラムは、ネットワークを介したダウンロードによって提供することもできる。
【実施例
【0035】
(実施例1)
測定対象物質として臭素酸イオンを含む溶液サンプルとして、オゾン処理後の配管から採取したオゾン処理水(A)を準備した。
オゾン処理水(A)75mlに対し、臭素酸イオン標準を濃度が10μg/L足されるように0.75μg添加して参照サンプル溶液を準備した(サンプル準備工程)。
そして、溶液サンプルおよび参照溶液サンプルのそれぞれについて、試薬としてトリフルオペラジンを濃度が3μmol/Lとなるように添加し、蛍光測定が可能な試作装置を使用して蛍光強度の経時変化を測定した(第1の測定工程および第2の測定工程)。結果を図3(a)に示す。
得られたデータから、以下のようにして、測定対象物質と試薬との見掛け上の反応が終了する時間T1,T2と、第1の近似式および第2の近似式と、反応開始時(T=0)の蛍光強度の値P0’とを求めた(第1の分析工程および第2の分析工程)。
・時間T1,T2:反応時間と蛍光強度との関係を示す曲線の微分値が初めて0.5(a.u./秒)以下になる時間(=500秒)とした
・第1の近似式および第2の近似式:最小二乗法により求めた
・反応開始時(T=0)の蛍光強度の値P0’:溶液サンプルの、時間T=200秒から時間T1までのデータを使用し、カーブフィッティングにより反応開始時(T=0)の蛍光強度の指数を求め、反応開始時(T=0)の蛍光強度を求めてP0’とした
そして、下記の関係式(1):
C={(P1’-P0’)/(P2’-P1’)}×(m/M) ・・・(1)
C:溶液サンプル中の臭素酸イオンの濃度
0’:反応開始時(T=0)の蛍光強度の値
1’:反応開始時(T=0)における第1の近似式の蛍光強度の値
2’:反応開始時(T=0)における第2の近似式の蛍光強度の値
m:溶液サンプルに添加した臭素酸イオンの質量(既知の量)
M:参照溶液サンプルの質量
を用いて溶液サンプル(オゾン処理水(A))中の測定対象物質の濃度を求めたところ、2.01μg/Lであった。因みに、P0’は2.438(a.u.)であり、P1’は2.634(a.u.)であり、P2’は3.783(a.u.)であり、m/Mは12μg/Lであった。
同じオゾン処理水(A)について、イオンクロマトグラフ(Thermofisher社製、商品名「Dionex」)を用いて臭素酸イオン濃度の定量を行ったところ、濃度は1.92μg/Lであった。
【0036】
(実施例2)
サンプル準備工程において、測定対象物質として臭素酸イオンを含む溶液サンプルとして、オゾン処理後の配管から採取したオゾン処理水(B)を準備し、オゾン処理水(B)75mlに対し、臭素酸イオン標準を濃度が10μg/L足されるように0.75μg添加して参照サンプル溶液を準備した。それ以外は実施例1と同様にして溶液サンプル(オゾン処理水(B))中の測定対象物質の濃度を求めたところ、11.98μg/Lであった。因みに、P0’は2.381(a.u.)であり、P1’は3.532(a.u.)であり、P2’は4.685(a.u.)であり、m/Mは12μg/Lであった。また、蛍光強度の経時変化の測定結果は、図3(b)に示す通りであった。
また、同じオゾン処理水(B)について、イオンクロマトグラフ(Thermofisher社製、商品名「Dionex」)を用いて臭素酸イオン濃度の定量を行ったところ、濃度は11.85μg/Lであった。
【0037】
実施例1,2より、本発明の方法では高い精度で臭素酸イオン濃度を測定できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明によれば、測定対象物質の濃度を高い精度で簡便に測定することができる。
図1
図2
図3