(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 9/00 20060101AFI20240423BHJP
B60C 9/22 20060101ALI20240423BHJP
D02G 3/04 20060101ALI20240423BHJP
D02G 3/48 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
B60C9/00 C
B60C9/22 C
D02G3/04
D02G3/48
(21)【出願番号】P 2021565451
(86)(22)【出願日】2020-12-02
(86)【国際出願番号】 JP2020044850
(87)【国際公開番号】W WO2021124895
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2023-05-15
(31)【優先権主張番号】P 2019226450
(32)【優先日】2019-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【氏名又は名称】大田黒 隆
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 陽祐
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-213722(JP,A)
【文献】特開2007-137199(JP,A)
【文献】特開2001-322405(JP,A)
【文献】特開2017-141002(JP,A)
【文献】国際公開第2018/051032(WO,A1)
【文献】特開2018-031086(JP,A)
【文献】特開2014-088120(JP,A)
【文献】国際公開第2009/113590(WO,A1)
【文献】特開2019-107947(JP,A)
【文献】特開2019-162913(JP,A)
【文献】国際公開第2018/038050(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/051031(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0237749(US,A1)
【文献】特表2014-518807(JP,A)
【文献】国際公開第2020/080447(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 9/00-9/22
D02G 3/04
D02G 3/26
D02G 3/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーカスのタイヤ半径方向外側に、少なくとも1層のベルト層からなるベルトと、該ベルトのタイヤ半径方向外側に、前記ベルトの全幅を覆う少なくとも1層のベルト補強層と、を備えたタイヤにおいて、
前記ベルト補強層が、ゴムと、芳香族ジカルボン酸を含むジカルボン酸と非芳香族ジアミンの重縮合物または非芳香族ジカルボン酸と芳香族ジアミンを含むジアミンの重縮合物からなる半芳香族ポリアミドのマルチフィラメントを含む補強コードと、からなるゴム-コード複合体を構成要素として有し、かつ、
前記ベルトを構成する最大幅ベルト層の幅をWとしたとき、前記ベルト補強層における前記補強コードの打ち込み本数において、タイヤ赤道面から少なくとも0.35W超が疎領域であり、該疎領域のタイヤ幅方向外側が密領域であ
り、
タイヤから取り出した前記補強コードの25℃における損失正接tanδ(25℃)と100℃における損失正接tanδ(100℃)との比、tanδ(25℃)/tanδ(100℃)の値が、0.7~1.0であることを特徴とするタイヤ。
【請求項2】
前記疎領域の範囲が、タイヤの赤道面から0.45W以下である請求項1記載のタイヤ。
【請求項3】
前記半芳香族ポリアミドが、芳香族ジカルボン酸を含むジカルボン酸と非芳香族ジアミンとの重縮合物である請求項1または2記載のタイヤ。
【請求項4】
前記非芳香族ジアミンが、脂肪族ジアミンおよび脂環族ジアミンのうち少なくとも一方である請求項1~3のうちいずれか一項記載のタイヤ。
【請求項5】
タイヤから取り出した前記補強コードのガラス転移温度が、80~230℃である請求項1~4のうちいずれか一項記載のタイヤ。
【請求項6】
タイヤから取り出した前記補強コードの100℃における動的弾性率E’(100℃)と25℃における動的弾性率E’(25℃)との比、E’(100℃)/E’(25℃)の値が、0.7~1.0である請求項1~5のうちいずれか一項記載のタイヤ。
【請求項7】
タイヤから取り出した前記補強コードの水分率が、0.1~2.0質量%である請求項1~6のうちいずれか一項記載のタイヤ。
【請求項8】
タイヤから取り出した前記補強コードの25℃における損失正接tanδ(25℃)が、0.01~0.06である請求項
1~7のうちいずれか一項記載のタイヤ。
【請求項9】
前記補強コードの前記ジカルボン酸に対する前記芳香族ジカルボン酸の比率が、50mol%以上である請求項
1~8のうちいずれか一項記載のタイヤ。
【請求項10】
前記芳香族ジカルボン酸に対する芳香環が1つであるジカルボン酸の比率が、20mol%以上である請求項
1~9のうちいずれか一項記載のタイヤ。
【請求項11】
前記芳香族ジカルボン酸に対する芳香環が2つであるジカルボン酸の比率が、20mol%以上である請求項
1~10のうちいずれか一項記載のタイヤ。
【請求項12】
前記芳香族ジカルボン酸に対する芳香環が3つであるジカルボン酸の比率が、20mol%以上である請求項
1~11のうちいずれか一項記載のタイヤ。
【請求項13】
前記ジアミンに対する炭素原子数7~12のジアミンの比率が、20mol%以上である請求項
1~12のうちいずれか一項記載のタイヤ。
【請求項14】
前記補強コードが、前記ポリアミドのマルチフィラメントと、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維、ポリケトン繊維、ガラス繊維、炭素繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維およびポリアリレート繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種の繊維と、のハイブリッドコードである請求項
1~13のうちいずれか一項記載のタイヤ。
【請求項15】
タイヤから取り出した前記補強コードが、下記式(1)、(2)
α1=N1×√(0.125×D1/ρ)×10
-3 (1)
α2=N2×√(0.125×D2/ρ)×10
-3 (2)
(N1は下撚り数[回/10cm]、D1は下撚り糸1本の繊度[dtex]、N2は上撚り数[回/10cm]、D2はコードの総繊度[dtex]、ρは前記補強コードの密度[g/cm
3])で表される下撚係数α1が0.1~0.9であり、上撚係数α2が0.1~1.2である請求項
1~14のうちいずれか一項記載のタイヤ。
【請求項16】
前記α1が0.1~0.5、前記α2が0.1~0.7である請求項
15記載のタイヤ。
【請求項17】
前記補強コードの総繊度が、1000~8000dtexである請求項
1~16のうちいずれか一項記載のタイヤ。
【請求項18】
前記補強コードの下撚数N1が、10~30回/10cmである請求項
15~17のうちいずれか一項記載のタイヤ。
【請求項19】
乗用車用である請求項
1~18のうちいずれか一項記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤに関し、詳しくは、タイヤの補強部材の補強コードとして、ポリアミドのマルチフィラメントを含む補強コードを用い、低転がり抵抗を向上させたタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、CO2排出量の増加に伴う地球温暖化等の環境問題や、資源枯渇問題が深刻化してきている。このため、タイヤにおいては、軽量・低燃費であることが要求されてきている。従来からタイヤに関しては、形状、構造、トレッド等のゴム特性等の改良・開発が盛んに行われており、ゴムの使用量を低減させること、タイヤの転がり抵抗を低減すること等により、軽量化、低燃費化が図られてきている。転がり抵抗については、ゴム部材が大きく関与していることから、例えば、トレッドゴム、ビードフィラーゴム、ベルトコーティングゴム、ビードフィラーゴム等のゴム部材自体の低ロス化、ゴム部材の形状、構造等の低歪み化等が検討され、最適化されてきた。
【0003】
そして、近時では、ゴム部材自体の低ロス化の進展に伴い、ゴム部材以外の部材の動的繰返し歪みに起因するロスの転がり抵抗への関与が無視できなくなってきている。ゴム部材以外の部材としては、カーカスプライ層、ベルト層、ベルト補強層等があるが、これらの中でもベルト補強層は、転動接地時の歪み変動が大きいことから、ベルト補強層の低ロス化の技術が望まれている。このような状況の中、特許文献1では、タイヤにおけるキャッププライ層(ベルト補強層)として好適に使用可能であり、剛性等の機械的特性、熱特性等に優れ、ロスのみを低減させた補強コード材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在、タイヤの補強部材には、ポリエステル、レーヨン、ナイロン等の有機繊維が用いられている。この中でも、ポリアミド繊維であるナイロン繊維は、他の繊維種と比較してゴムとの接着性が優れており、また、耐疲労性にも優れているという利点を有している。しかしながら、低燃費性については必ずしも十分ではなく、転がり抵抗を更に改善することが求められているのが現状である。
【0006】
そこで、本発明の目的は、タイヤの補強部材の補強コードとして、ポリアミドのマルチフィラメントを含む補強コードを用い、低転がり抵抗を向上させたタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、所定の分子構造を有するポリアミドのマルチフィラメントを含む補強コードを、ベルト補強層の補強コードとして用い、かつ、ベルト補強層の構成を所定のものとすることで、上記課題を解消することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明のタイヤは、カーカスのタイヤ半径方向外側に、少なくとも1層のベルト層からなるベルトと、該ベルトのタイヤ半径方向外側に、前記ベルトの全幅を覆う少なくとも1層のベルト補強層と、を備えたタイヤにおいて、
前記ベルト補強層が、ゴムと、芳香族ジカルボン酸を含むジカルボン酸と非芳香族ジアミンの重縮合物または非芳香族ジカルボン酸と芳香族ジアミンを含むジアミンの重縮合物からなる半芳香族ポリアミドのマルチフィラメントを含む補強コードと、からなるゴム-コード複合体を構成要素として有し、かつ、
前記ベルトを構成する最大幅ベルト層の幅をWとしたとき、前記ベルト補強層における前記補強コードの打ち込み本数において、タイヤ赤道面から少なくとも0.35W超が疎領域であり、該疎領域のタイヤ幅方向外側が密領域であり、
タイヤから取り出した前記補強コードの25℃における損失正接tanδ(25℃)と100℃における損失正接tanδ(100℃)との比、tanδ(25℃)/tanδ(100℃)の値が、0.7~1.0であることを特徴とするものである。
【0009】
本発明のタイヤにおいては、前記疎領域の範囲は、タイヤの赤道面から0.45W以下であることが好ましい。また、本発明のタイヤにおいては、前記半芳香族ポリアミドは、芳香族ジカルボン酸を含むジカルボン酸と非芳香族ジアミンとの重縮合物であることが好ましく、前記非芳香族ジアミンは、脂肪族ジアミンおよび脂環族ジアミンのうち少なくとも一方であることが好ましい。また、本発明のタイヤにおいては、タイヤから取り出した前記補強コードのガラス転移温度が、80~230℃であることが好ましい。さらに、本発明のタイヤにおいては、タイヤから取り出した前記補強コードの100℃における動的弾性率E’(100℃)と25℃における動的弾性率E’(25℃)との比、E’(100℃)/E’(25℃)の値が、0.7~1.0であることが好ましい。さらにまた、本発明のタイヤにおいては、タイヤから取り出した前記補強コードの水分率が、0.1~2.0質量%であることが好ましい。
【0010】
また、本発明のタイヤにおいては、タイヤから取り出した前記補強コードの25℃における損失正接tanδ(25℃)が、0.01~0.06であることが好ましい。さらに、本発明のタイヤにおいては、前記補強コードの前記ジカルボン酸に対する前記芳香族ジカルボン酸の比率が、50mol%以上であることが好ましい。また、本発明のタイヤにおいては、前記芳香族ジカルボン酸に対する芳香環が1つであるジカルボン酸の比率が、20mol%以上であるもの、前記芳香族ジカルボン酸に対する芳香環が2つであるジカルボン酸の比率が、20mol%以上であるもの、前記芳香族ジカルボン酸に対する芳香環が3つであるジカルボン酸の比率が、20mol%以上であるものを好適に用いることができる。さらに、本発明のタイヤにおいては、前記ジアミンに対する炭素原子数7~12のジアミンの比率が、20mol%以上であるであることが好ましい。さらにまた、本発明のタイヤにおいては、前記補強コードが、前記ポリアミドのマルチフィラメントと、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維、ポリケトン繊維、ガラス繊維、炭素繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維およびポリアリレート繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種の繊維と、のハイブリッドコードであることが好ましい。
【0011】
また、本発明のタイヤにおいては、タイヤから取り出した前記補強コードが、下記式(1)、(2)
α1=N1×√(0.125×D1/ρ)×10-3 (1)
α2=N2×√(0.125×D2/ρ)×10-3 (2)
(N1は下撚り数[回/10cm]、D1は下撚り糸1本の繊度[dtex]、N2は上撚り数[回/10cm]、D2はコードの総繊度[dtex]、ρは前記補強コードの密度[g/cm3])で表される下撚係数α1が0.1~0.9であり、上撚係数α2が0.1~1.2であることが好ましい。さらに、本発明のタイヤにおいては、前記α1が0.1~0.5、前記α2が0.1~0.7であることが好ましい。さらにまた、本発明のタイヤにおいては、前記補強コードの総繊度が、1000~8000dtexであることが好ましい。また、本発明のタイヤにおいては、前記補強コードの下撚数N1が、10~30回/10cmであることが好ましい。
【0012】
本発明のタイヤは、乗用車用タイヤに好適である。
【0013】
ここで、補強コードのtanδは、補強コードを5cmの長さとし、所定の温度、測定周波数10Hz、静的張力100g、動的繰返し歪み1000μmの条件下で、レオログラフソリッド、レオバイブロン、スペクトロメーター、メトラビブ等を用いて測定した値である。また、ガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量測定(Differential scanning calorimetry:DSC)で測定した値である。さらに、補強コードの動的弾性率E’は、補強コードのtanδの測定と同じ条件で測定することができる。さらにまた、「芳香族ジカルボン酸に対する芳香環が1つであるジカルボン酸の比率が、20mol%以上」とは、「原料モノマー成分由来の構造単位に対する芳香族ジカルボン酸由来の構造単位の比率が10mol%以上」を意味する。「芳香族ジカルボン酸に対する芳香環が2つであるジカルボン酸の比率が、20mol%以上」、「芳香族ジカルボン酸に対する芳香環が3つであるジカルボン酸の比率が、20mol%以上」および「ジアミンに対する炭素原子数7~12のジアミンの比率が、20mol%以上である」も同様である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、タイヤの補強部材の補強コードとして、ポリアミドのマルチフィラメントを含む補強コードを用い、低転がり抵抗を向上させたタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一好適な実施の形態に係るタイヤのタイヤ幅方向における概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のタイヤについて、図面を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明の一好適な実施の形態に係るタイヤのタイヤ幅方向における概略断面図である。本発明のタイヤ10は、カーカス1のタイヤ半径方向外側に、少なくとも1層のベルト層からなるベルト2と、ベルト2のタイヤ半径方向外側に、ベルト2の全幅を覆う少なくとも1層のベルト補強層3と、を備えたタイヤである。図示例においては、一対のビードコア4間に跨るカーカス1は、1層のカーカスプライからなっており、ベルト2は、2層のベルト層2a、2bからなっており、ビードコア4のタイヤ半径方向外側には、ビードフィラー5が配置されている。
【0017】
図示する例においては、ベルト補強層3は、ベルト2の全体を覆うように配置されたキャップ層3aと、キャップ層3aの両端部のみを覆うように配置された一対のレイヤー層3bからなる。キャップ層3aは一方のタイヤ半部から他方のタイヤ半部にかけてタイヤ赤道面Eと交差して連続するよう配置されているのに対し、レイヤー層3bはタイヤ赤道面Eと交差することなく、それぞれのタイヤ半部においてキャップ層3aの端部のみを覆うように配置された一対からなる。本発明のタイヤ10においては、ベルト補強層3は、キャップ層3aおよびレイヤー層3bの両方を備えていてもよく、キャップ層3aのみであってもよい。さらに、キャップ層3aは2層以上であってもよく、2層以上のレイヤー層3bとの組み合わせであってもよい。なお、ベルト補強層3は、通常、タイヤ周方向に対し実質的に平行に配列したコードのゴム引き層からなる。
【0018】
本発明のタイヤ10においては、ベルト2の全幅を覆う少なくとも1層のベルト補強層3が、ゴムと、芳香族ジカルボン酸を含むジカルボン酸と非芳香族ジアミンの重縮合物または非芳香族ジカルボン酸と芳香族ジアミンを含むジアミンの重縮合物からなる半芳香族ポリアミドのマルチフィラメントを含む補強コードと、からなるゴム-コード複合体を構成要素として有している。補強コードは、ジカルボン酸が芳香族ジカルボン酸を含むものであってもよく、ジアミンが芳香族ジアミンを含むものであってもよいが、特に、ジカルボン酸が芳香族ジカルボン酸を含み、ジアミンが脂肪族ジアミンおよび脂環族ジアミンのうち少なくとも一方を用いた半芳香族ポリアミドのマルチフィラメントを含むコードであることが好ましい。ベルト補強層3の補強コードとして、ナイロン66が汎用的に用いられているが、このような補強コードは、ガラス転移温度Tgが低いため(50℃)、高温時剛性が低く操縦安定性に優れない。一方、アラミド繊維を用いた補強コードは、高温時剛性の確保は可能だが、剛性が高すぎてタイヤ製造性が著しく悪いという問題を有している。
【0019】
これに対して、半芳香族ポリアミドは、分子間相互作用によりTgが高く、さらに剛性も適度なため、ベルト補強層3の補強コードとして用いることで、タイヤの生産性を損なうことなく、高速走行時における耐久性、操縦安定性を向上させることができる。また、タイヤ使用域での損失正接tanδが小さく、タイヤの低転がり化に有利である。さらに、脂環族ジカルボン酸と脂肪族ジアミンとからなるポリアミド繊維は吸水性が高く、物性安定性が低い。これに対して、半芳香族ポリアミド繊維は吸水性も低いため、物性の安定性も確保可能である。
【0020】
また、本発明のタイヤ10は、ベルト2を構成する最大幅ベルト層の幅をWとしたとき、ベルト補強層3における補強コードの打ち込み本数が、タイヤ赤道面Eから少なくとも0.35W超が疎であり(疎領域)、この疎領域のタイヤ幅方向外側の範囲において密である(密領域)。このように、タイヤ10のタイヤ赤道面Eの近傍におけるベルト補強層3の打ち込み本数を減らすことで、低転がり抵抗化を実現することができる。また、打ち込み本数が少なくなることで、軽量化が見込まれる。このような効果を良好に得るためには、好ましくは、タイヤ赤道面Eから少なくとも0.40W以上の範囲において、補強コードの打ち込み本数を疎とする。また、耐久性の観点から、疎領域の範囲は、タイヤの赤道面Eから0.45W以下であることが好ましい。疎領域の範囲がタイヤの赤道面から0.45Wよりも外側まで拡張すると、タイヤの耐久性が落ちる恐れがある。かかる観点を考慮すると、0.45W未満がより好ましい。
【0021】
本発明のタイヤ10においては、疎領域における補強コードの打ち込み本数は、密領域における補強コードの打ち込み本数の25~75%であることが好ましい。この範囲を満足することで、タイヤの諸性能を悪化させることなく、軽量化および転がり抵抗の低減を十分に図ることができる。かかる効果をより良好に得るためには、ベルト補強層3の疎領域における補強コードの打ち込み本数は、密領域における打ち込み本数の40~60%であることがより好ましい。
【0022】
なお、ベルト補強層3は、本発明に係る半芳香族ポリアミドのマルチフィラメントを含むコードをゴム被覆してなるリボン状ストリップを、タイヤの周方向に螺旋状に巻回されて形成することができる。この時、リボン状ストリップの巻き付け間隔を広げることで補強コードの打ち込み本数を疎にすることができ、リボン状ストリップの巻き付け間隔を狭めることで補強コードの打ち込み本数を密にすることができる。
【0023】
本発明のタイヤ10においては、タイヤ10から取り出した補強コードのTgは80~230℃であることが好ましい。このように、Tgが高いコードをベルト補強層3の補強コードとして用いることで、タイヤ使用域における損失正接tanδを小さくすることができ、タイヤ10の転がり抵抗を向上させることができる。また、高温時においても剛性を確保できるため、高速時の操縦安定性を向上させることができる。好適には、Tgは、100~160℃である。
【0024】
また、本発明のタイヤ10においては、タイヤ10から取り出した補強コードの25℃における損失正接tanδ(25℃)と100℃における損失正接tanδ(100℃)との比、tanδ(25℃)/tanδ(100℃)の値が0.7~1.0であることが好ましい。特に、タイヤから取り出した補強コードの25℃における損失正接tanδ(25℃)が、0.01~0.06のものが好ましい。このような補強コードは高温時のtanδが低いため、熱の発生を抑制することができ、高速時におけるタイヤの耐久性を向上させることができる。好適には、tanδ(25℃)/tanδ(100℃)の値は、0.85~1.0である。
【0025】
さらに、本発明のタイヤ10においては、タイヤ10から取り出した補強コードの25℃における動的弾性率E’(25℃)と100℃における動的弾性率E’(100℃)との比、E’(100℃)/E’(25℃)の値が0.7~1.0であることが好ましい。E’(100℃)/E’(25℃)の値を、上記範囲とすることで、高温時における操縦安定性を、より良好なものとすることができる。特に、タイヤから取り出した補強コードの25℃における動的弾性率E’(25℃)が、0.7~0.8のものが好ましい。
【0026】
さらにまた、本発明のタイヤ10においては、タイヤ10から取り出した補強コードの水分率が、0.1~2.0質量%であることが好ましい。上述のとおり、本発明のタイヤ10の補強コードに係る半芳香族ポリアミド繊維は、吸水性が低いため、コード物性の安定性も確保できる。特に、水分率が0.1~2.0質量%のものは、本発明の効果を良好に得ることができる。
【0027】
なお、補強コードのtanδ(25℃)/tanδ(100℃)の値、およびE’(100℃)/E’(25℃)の値は、補強コードの種類、撚り数、補強コードの表面に塗布する接着剤に浸漬する際の浸漬条件、接着剤の種類、接着剤処理後の熱処理の条件を適宜選択することにより、調整することができる。また、本発明のタイヤ10においては、ベルト補強層3における補強コードの打込み本数については、補強コードの強力に応じて適宜設定することができるが、好ましくは打込みが密領域における打込み本数が20~100本/50mm、より好ましくは30~80本/50mm、さらに好ましくは40~60本/50mmである。
【0028】
本発明のタイヤ10においては、タイヤから取り出した補強コードが、下記式(1)、(2)
α1=N1×√(0.125×D1/ρ)×10-3 (1)
α2=N2×√(0.125×D2/ρ)×10-3 (2)
で表される下撚係数α1が0.1~0.9であり、上撚係数α2が0.1~1.2であることが好ましい。ここで、N1は下撚り数[回/10cm]、D1は下撚り糸1本の繊度[dtex]、N2は上撚り数[回/10cm]、D2はコードの総繊度[dtex]、ρは補強コードの密度[g/cm3]である。本発明に係る半芳香族ポリアミドのマルチフィラメントに撚りを掛けることで、強力利用率が平均化し、その疲労性が向上する。特に、上記条件を満足することで、補強コードの剛性と疲労性とを両立させることができる。なお、撚糸時の張力は0.01~0.2cN/dtexが好ましい。
【0029】
さらに、本発明のタイヤ10においては、α1が0.1~0.5、α2が0.1~0.7であることが好ましい。かかる条件を満足することで、補強コードの剛性と疲労性とを高度に両立させることができる。特に、補強コードの下撚数N1は、10~30回/10cm、上撚数N2は、10~30回/10cmであることが好ましい。
【0030】
本発明のタイヤ10に係る補強コードにおいては、総繊度は、1000~8000dtexであることが好ましい。総繊度を1000dtex以上とすることで、強力を十分に確保することができる。一方、紡糸性や後加工の観点から8000dtex以下が好ましい。より好ましくは、5000dtex以下である。
【0031】
本発明のタイヤ10においては、ベルト補強層3の補強コードは、半芳香族ポリアミドのマルチフィラメントのみからなるコードを用いてもよいが、他の繊維を併用した、いわゆるハイブリッドコードを用いてもよい。他の繊維としては、例えば、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維、ポリケトン繊維、ガラス繊維、炭素繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維およびポリアリレート繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種の繊維を挙げることができる。
【0032】
次に、本発明のタイヤ10に係る半芳香族ポリアミドのマルチフィラメントを用いたコードの材料、製造方法について詳細に説明する。半芳香族ポリアミドのマルチフィラメントは、芳香族ジカルボン酸を含むジカルボン酸と非芳香族ジアミンの重縮合物または非芳香族ジカルボン酸と芳香族ジアミンを含むジアミンの重縮合物からなるポリアミドのマルチフィラメントである。ジカルボン酸が芳香族ジカルボン酸を含むものであってもよく、ジアミンが芳香族ジアミンを含むものであってもよいが、特に、ジカルボン酸として芳香族ジカルボン酸を含み、ジアミンが脂肪族ジアミンおよび脂環族ジアミンのうち少なくとも一方を含んだポリアミドからなるマルチフィラメントが好ましい。
【0033】
<ジカルボン酸>
本発明のタイヤ10に係る半芳香族ポリアミドのマルチフィラメントは、ジカルボン酸に対する芳香族ジカルボン酸の比率が少なくとも50mol%以上が好ましく、より好ましくは60mol%以上であり、さらに好ましくは70mol%以上である。これにより、高Tg、繊維強度、紡糸性に優れる半芳香族ポリアミドのマルチフィラメントを得ることができる。
【0034】
芳香族ジカルボン酸としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、2-クロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸、5-メチルイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸等の無置換または種々の置換基で置換された炭素原子数8~20の芳香族ジカルボン酸等を挙げることができる。好ましくは、テレフタル酸である。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
本発明のタイヤ10に係る半芳香族ポリアミドのマルチフィラメントは、芳香族ジカルボン酸以外のジカルボン酸としては、例えば、脂環構造の炭素原子数が3~10である脂環族ジカルボン酸や炭素原子数3~20の直鎖または分岐状脂肪族ジカルボン酸等を用いることができる。
【0036】
脂環構造の炭素原子数が3~10である脂環族ジカルボン酸としては、具体的には、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸等を挙げることができる。本発明のタイヤ10に用いる補強コードにおいては、脂環族ジカルボン酸は、無置換でも置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等の炭素原子数1~4のアルキル基等を挙げることができるが、これに限られるものではない。これらの中でも、補強コードの耐熱性、寸法安定性、強度等の観点から、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸が好ましい。なお、脂環族ジカルボン酸は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0037】
なお、環族ジカルボン酸には、トランス体とシス体の幾何異性体が存在する。例えば、原料モノマーとしての1,4-シクロヘキサンジカルボン酸は、トランス体とシス体のどちらか一方を用いてもよく、トランス体とシス体の種々の比率の混合物として用いてもよい。
【0038】
炭素原子数3~20の直鎖または分岐状脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、2,2-ジメチルコハク酸、2,3-ジメチルグルタル酸、2,2-ジエチルコハク酸、2,3-ジエチルグルタル酸、グルタル酸、2,2-ジメチルグルタル酸、アジピン酸、2-メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、ヘキサデカン二酸、オクタデカン二酸、エイコサン二酸、ジグリコール酸等を挙げることができるが、これに限られるものではない。
【0039】
一般的に、ポリアミドのマルチフィラメントを構成するジカルボン酸に含まれる芳香環の数が多くなると、分子間の芳香環同士の相互作用による結合力が高まり、Tgが上昇する。したがって、求められる高速走行時における耐久性、操縦安定性に応じて、ジカルボン酸中に含まれる芳香環を調整すればよい。例えば、芳香族ジカルボン酸に対する芳香環が1つであるジカルボン酸の比率が、20mol%以上であるもの、芳香族ジカルボン酸に対する芳香環が2つであるジカルボン酸の比率が、20mol%以上であるもの、芳香族ジカルボン酸に対する芳香環が3つであるジカルボン酸の比率が、20mol%以上であるもの、を適宜用いることができる。なお、ジカルボン酸中に含まれる芳香環が多くなると、同時に融点(Tm)も上昇するため、繊維の紡糸作業性が低下するが、ジアミン成分の炭素原子数を増加させることでTmを下げることが可能である。
【0040】
<ジアミン>
本発明のタイヤ10に係る半芳香族ポリアミドのマルチフィラメントは、紡糸安定性、耐熱性、低吸水性の観点から、ジアミンに対する炭素原子数7~12のジアミンの比率が、20mol%以上であることが好ましい。より好ましくは30mol%以上80mol%以下、さらに好ましくは40mol%以上75mol%以下、特に好ましくは45mol%以上70mol%以下である。
【0041】
一般的にTgが高いポリマーは、Tmも高くなる傾向がある。Tmが高過ぎる場合、溶融時にポリアミドが熱分解し、分子量や強度の低下、着色、分解ガスの混入が生じて紡糸性が悪化する。しかしながら、炭素原子数7~12のジアミンを20mol%以上含むことにより、高いTgを維持しながらも溶融紡糸に適したTmに抑えることができる。また、炭素原子数7~12のジアミンを含むポリアミドは溶融時の熱安定性が高いため、紡糸安定性に優れ、均一性のよいマルチフィラメントを得ることができる。さらに、ポリアミド中のアミド基濃度が低下することにより、吸水時の寸法安定性に優れるマルチフィラメントを得ることができる。特に、1,9-ノナンジアミンおよび1,10-デカメチレンジアミンは、紡糸安定性と強度の両立という観点からも好ましい。
【0042】
1,9-ノナンジアミンおよび1,10-デカメチレンジアミン以外のジアミンとしては、特に制限はなく、無置換の直鎖脂肪族ジアミンでも、炭素原子数1~4のアルキル基等の置換基を有する分岐状脂肪族ジアミンでも、脂環族ジアミンでもよい。ここで、置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。1,9-ノナンジアミンおよび1,10-デカメチレンジアミン以外のジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、トリデカメチレンジアミン等の直鎖脂肪族ジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、2-メチルオクタメチレンジアミン、2,4-ジメチルオクタメチレンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、1,3-シクロヘキサンジアミン、および1,3-シクロペンタンジアミン等を挙げることができる。
【0043】
また、本発明のタイヤ10に係る半芳香族ポリアミドのマルチフィラメントにおいては、ポリアミドの流動性を阻害しない範囲で、ジアミンに芳香族ジアミンを加えてもよい。芳香族ジアミンとは、芳香族を含有するジアミンであり、例えば、メタキシリレンジアミン、オルトキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン等が挙げられるが、これに限られるものではない。
【0044】
1,9-ノナンジアミンおよび1,10-デカメチレンジアミン以外のジアミンとして、炭素原子数5~6のジアミンを含み、炭素原子数5~6のジアミンの比率が20mol%以上であるものがより好ましい。1,9-ノナンジアミンおよび1,10-デカメチレンジアミン以外に炭素原子数5~6のジアミンを共重合させることで、紡糸に適した適度な融点を維持しつつも、結晶性の高いポリマーを得ることができる。炭素原子数5~6のジアミンとしては、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、2,5-ジメチルヘキサンジアミン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン等を挙げることができる。
【0045】
炭素原子数5~6のジアミンの中でも紡糸性や流動性、強度の観点からは、2-メチルペンタメチレンジアミンが好ましい。2-メチルペンタメチレンジアミンの比率が高すぎると、2-メチルペンタメチレンジアミンが自己環化して、溶融時に分解し、分子量低下を引き起こすため、紡糸性や強度が悪化する。ジアミン中の2-メチルペンタメチレンジアミンの比率としては、流動性を確保しつつも溶融時の分解が起こらない範囲に設定する必要があり、好ましくは20mol%以上70mol%以下、より好ましくは20mol%以上60mol%以下、さらに好ましくは20mol%以上55mol%以下である。
【0046】
また、炭素原子数5~6のジアミンの中でも、本発明のタイヤ10に係る補強コードの耐熱性の観点からは、ヘキサメチレンジアミンが好ましい。ヘキサメチレンジアミンの比率が高すぎると、融点が高くなりすぎて、紡糸が困難になるため、ジアミン中のヘキサメチレンジアミンの比率として、好ましくは20mol%以上60mol%以下、より好ましくは20mol%以上50mol%以下、さらに好ましくは20mol%以上45mol%以下である。
【0047】
ジカルボン酸の添加量とジアミンの添加量は、高分子量化のため、同mol量付近であることが好ましい。重合反応中のジアミンの反応系外への逃散分もmol比においては考慮して、ジカルボン酸全体のmol量1.00に対して、ジアミン全体のmol量は、0.90~1.20であることが好ましく、より好ましくは0.95~1.10であり、さらに好ましくは0.98~1.05である。
【0048】
ジカルボン酸とジアミンからポリアミドを重合する際には、分子量調節のために公知の末端封止剤をさらに添加することができる。末端封止剤としては、例えば、モノカルボン酸、モノアミン、無水フタル酸等の酸無水物、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル類、モノアルコール類等が挙げられ、熱安定性の観点で、モノカルボン酸、モノアミンが好ましい。末端封止剤は、1種類で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0049】
本発明のタイヤ10に係る補強コードの半芳香族ポリアミドのマルチフィラメントにおいては、クロス比は1.7以下が好ましい。クロス比とは、マルチフィラメントの中の最大直径を最小直径で除した値であり、単糸間の均一性の尺度となる。マルチフィラメントの強度は、単糸の強度分布の中でも低い物性に引っ張られるため、単糸間のバラつきが大きいと強度が発現しない。そこで、本発明のタイヤ10に係る半芳香族ポリアミドマルチフィラメントにおいては、クロス比は1.7以下が好ましく、より好ましくは1.6以下であり、さらに好ましくは1.5以下である。クロス比が1.7以下であることで、単糸レベルでの延伸が均一に行われ、単糸強度のバラつきが少なく、半芳香族ポリアミドのマルチフィラメントとして優れた強度が発現する。クロス比の下限は1.0である。
【0050】
<半芳香族ポリアミドの製造方法>
半芳香族ポリアミドの製造方法としては、例えば、(1)ジカルボン酸・ジアミン塩またはその混合物の水溶液または水の懸濁液を加熱し、溶融状態を維持したまま重合させる方法(熱溶融重合法)、(2)熱溶融重合法で得られたポリアミドを融点以下の温度で固体状態を維持したまま重合度を上昇させる方法(熱溶融重合・固相重合法)、(3)ジアミン・ジカルボン酸塩またはその混合物の、水溶液または水の懸濁液を加熱し、析出したプレポリマーをさらにニーダー等の押出機で再び溶融して重合度を上昇させる方法(プレポリマー・押出重合法)、(4)ジアミン・ジカルボン酸塩またはその混合物の、水溶液または水の懸濁液を加熱、析出したプレポリマーをさらにポリアミドの融点以下の温度で固体状態を維持したまま重合度を上昇させる方法(プレポリマー・固相重合法)、(5)ジアミン・ジカルボン酸塩またはその混合物を、固体状態を維持したまま重合させる方法(固相重合法)、(6)ジカルボン酸と等価なジカルボン酸ハライド成分とジアミン成分を用いて重合させる方法(溶液法)等を挙げることができる。
【0051】
半芳香族ポリアミドを製造する方法としては、トランス異性体比率を85%以下に維持することが容易であるため、また、得られるポリアミドの色調に優れるため、(1)熱溶融重合法、または(2)熱溶融重合・固相重合法によりポリアミドを製造することが好ましい。重合形態としては、バッチ式でも連続式でもよい。重合装置としては、特に限定されるものではなく、公知の装置、例えば、オートクレーブ型反応器、タンブラー型反応器、ニーダー等の押出機型反応器等が挙げられる。
【0052】
<半芳香族ポリアミドのマルチフィラメント>
本発明のタイヤ10に係る半芳香族ポリアミドのマルチフィラメントは、上述した半芳香族ポリアミドを繊維化したものである。半芳香族ポリアミドのマルチフィラメントの製造方法としては、様々な方法を用いることができるが、通常は溶融紡糸が用いられ、スクリュー型の溶融押出機を用いて行うことが好ましい。ポリアミドの紡糸温度(溶融温度)は300℃以上360℃以下であることが好ましい。300℃以上あれば、熱量不足による未溶解物の混入を抑制することができる。360℃以下であると、ポリマーの熱分解や分解ガスの発生を大幅に低減し、紡糸性が向上する。
【0053】
本発明のタイヤ10に係る半芳香族ポリアミドのマルチフィラメントコードには、タイヤを構成するゴムと半芳香族ポリアミドのマルチフィラメントコードとの接着のために、接着剤を用いることが好ましく、この接着剤としては、レゾルシン-ホルマリン-ラテックス液(RFL液)が好ましい。
【0054】
RFL液を付着させた後、RFL液の乾燥、固着およびリラックス処理を行う。RFL液の乾燥温度は、好ましくは120~250℃、より好ましくは140~200℃、乾燥時間は、好ましくは10秒以上、より好ましくは20~120秒間である。乾燥後の撚糸物は、引き続きヒートセットゾーンおよびノルマライジングゾーンにおいて熱処理を受ける。ヒートセットゾーンおよびノルマライジングゾーンにおける温度と時間は、それぞれ、150~250℃と10~300秒とすることが好ましい。この際、2%~10%の延伸が施され、好ましくは3%~9%の延伸が施されることが好ましい。
【0055】
本発明のタイヤ10は、カーカス1のタイヤ径方向外側に、少なくとも1層のベルト層からなるベルト2と、ベルト2のタイヤ半径方向外側に、ベルト2の全幅を覆う少なくとも1層のベルト補強層3と、を備えたタイヤにおいて、ベルト2の全幅を覆う少なくとも1層のベルト補強層3が、ゴムと、芳香族ジカルボン酸を含むジカルボン酸と非芳香族ジアミンの重縮合物または非芳香族ジカルボン酸と芳香族ジアミンを含むジアミンの重縮合物からなる半芳香族ポリアミドのマルチフィラメントを含む補強コードと、からなるゴム-コード複合体を構成要素として有し、かつ、ベルト2を構成する最大幅ベルト層の幅をWとしたとき、ベルト補強層3における補強コードの打ち込み本数において、タイヤ赤道面Eから少なくとも0.35W超が疎領域であり、この疎の領域のタイヤ幅方向外側の範囲を密とすること以外に特に制限はなく、既知の構造を採用することができる。なお、本発明のタイヤ10においては、ベルト補強層3の少なくとも1層が上記ゴム-コード複合体からなっていればよく、その他の層は従来の構成であってもよい。
【0056】
例えば、
図1に示す例では、カーカス1は、1層のカーカスプライからなっているが、本発明のタイヤ10においては、カーカスプライの層数はこれに限られるものではなく、2層以上であってもよい。また、カーカス1やベルト補強層3の補強コードとして、上述の半芳香族ポリアミドのマルチフィラメントを含むコード以外のものを用いる場合、既知の有機繊維コードを用いることができ、カーカスのコードの角度は、タイヤ周方向に対してほぼ直交する方向、例えば、70~90°とすることができる。有機繊維コードとしては、通常用いられている既知のものを用いることができる。例えば、ナイロンやポリエチレンテレフタレート(PET)のコードを使用することもできる。さらに、ビード部におけるカーカスプライの係止構造についても、図示するようにビードコア4の周りに巻き上げられて係止した構造に限られず、カーカスプライの端部を2層のビードコアで挟み込んだ構造でもよい(図示せず)。
【0057】
また、図示するタイヤ10においては、ベルト2は、2層のベルト層2a、2bからなるが、本発明のタイヤ10においては、ベルト層は3層以上であってもよい。ベルト層は、タイヤ周方向に対し、例えば、±15~40°で傾斜して延びるコードのゴム引き層、好ましくは、スチールのような金属コードのゴム引き層とすることができる。例えば、図示する2層のベルト層2a、2bを、各ベルト層を構成する金属コード同士がタイヤ赤道面Eを挟んで互いに交差するように積層された交錯層としてもよい。金属コードとしては、複数本の金属フィラメントを撚り合わせた金属コードであってもよく、複数本の金属フィラメントを撚り合わせずに束ねたものであってもよい。さらには複数本の金属フィラメントを撚り合わせずに並列に配置したものでもよく、その際の金属フィラメントは真直であっても型付けしてあっても良い。
【0058】
複数本の金属フィラメントを撚り合わせずに並列にならべた金属コードの形態としては、好適には2本以上、より好適には5本以上であって、好適には20本以下、より好適には12本以下、さらに好適には10本以下、特に好適には9本以下の束として金属フィラメントを並列配置したものを挙げることができる。
【0059】
複数本の金属フィラメントを撚り合わせずに並列にならべた金属コードや束ねた金属コードを有するゴム-金属コード複合体は、既知の方法にて製造することができる。例えば、金属コードを所定の間隔で平行に並べ、この金属コードを上下両側から、エラストマーからなる厚さ0.5mm程度のシートでコーティングして製造することができる。また、金属フィラメントの型付けについても、通常の型付け機を用いて、従来の手法で行うことができる。
【0060】
さらに、本発明のタイヤ10においては、図示はしないが、最内層にはインナーライナーを配置してもよい。本発明のタイヤ10において、タイヤ内に充填する気体としては、通常のあるいは酸素分圧を変えた空気、または、窒素等の不活性ガスを用いることができる。本発明のタイヤは乗用車用タイヤに好適である。
【実施例】
【0061】
以下、本発明のタイヤを、実施例を用いてより詳細に説明する。
<実施例および比較例>
図1に示すタイプのタイヤを、タイヤサイズ:205/55R16にて作製した。カーカスは、実質的にタイヤ周方向と直交する方向に配列されてなる、一層のカーカスプライから構成されている。カーカスプライの打ち込み本数は、50本/50mmとした。また、ベルト補強層は、キャップ層を1層、および、レイヤー層を1層を、タイヤ周方向に実質的に平行(0°~5°)になるように配置した。ベルト補強層の構成は表1に示すとおりである。表中、半芳香族ポリアミドとは、主にテレフタル酸と1,9―ジアミンノナンからなる。補強コードの諸物性は以下のとおりである。
【0062】
コード構造:1400dtex/2
芳香族ジカルボン酸の比率:100mol%
Tg:139℃
tanδ(25℃):0.05
tanδ(100℃):0.05
tanδ(25℃)/tanδ(100℃):1.0
E’(100℃):3.6GPa
E’(25℃):4.7GPa
E’(100℃)/E’(25℃):0.77
水分率:1.3質量%
N1:26回/10cm
N2:26回/10cm
α1:0.32
α2:0.46
【0063】
得られたタイヤにつき、転がり抵抗を下記の手順で評価を行った。なお、半芳香族ポリアミドのマルチフィラメントからなるコードのTg、tanδ(25℃)/tanδ(100℃)の値、およびE’(100℃)/E’(25℃)の値は、ジカルボン酸に対する芳香族ジカルボン酸の比率、撚り数、接着剤に浸漬する際の浸漬条件、接着剤処理後の熱処理の条件を調整して調整した。
【0064】
<転がり抵抗>
各タイヤをJATMAで規定する正規リムに組み、適正内圧を充填し、適正荷重を負荷して、速度80km/hのドラムテストにて、比較例1、2および実施例1における各タイヤの抵抗力を直接測定し、比較例3~5および実施例2を測定したデータに基づいて予測することにより評価した。指数値が大なるほど、転がり抵抗が小さく、優れていることを示す。得られた結果を、表1に併記する。
【0065】
<高速耐久性>
比較例1、2および実施例1のタイヤをJATMAで規定する正規リムに組み、適正内圧を充填し、適正荷重を負荷して、ドラム試験機で、速度120km/hからスタートし、20分毎に速度を10km/hずつステップアップさせながら走行させて、故障発生時の速度を測定することにより、高速耐久性を評価した。その後、比較例1、2及び実施例1以外のタイヤについて、比較例1、2および実施例1の結果に基づいて予測を行った。結果は、比較例1を100とする指数として表示した。指数が大きいほど、結果は良好である。得られた結果を、表1に併記する。
【0066】
【0067】
表1より、本発明のタイヤは、転がり抵抗が向上していることがわかる。
【符号の説明】
【0068】
1 カーカス
2 ベルト
3 ベルト補強層
4 ビードコア
5 ビードフィラー
10 タイヤ