(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】分散体並びにこれを用いた導電性パターン付構造体の製造方法及び導電性パターン付構造体
(51)【国際特許分類】
H01B 1/22 20060101AFI20240423BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20240423BHJP
C09C 1/62 20060101ALI20240423BHJP
C09D 17/00 20060101ALI20240423BHJP
C09C 3/08 20060101ALI20240423BHJP
C09C 1/00 20060101ALI20240423BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240423BHJP
B22F 1/05 20220101ALI20240423BHJP
B22F 1/068 20220101ALI20240423BHJP
B22F 1/06 20220101ALI20240423BHJP
B22F 3/105 20060101ALI20240423BHJP
B22F 1/107 20220101ALI20240423BHJP
【FI】
H01B1/22 A
H01B13/00 503D
C09C1/62
C09D17/00
C09C3/08
C09C1/00
B22F1/00 L
B22F1/05
B22F1/068
B22F1/06
B22F3/105
B22F1/107
(21)【出願番号】P 2022179795
(22)【出願日】2022-11-09
(62)【分割の表示】P 2022076666の分割
【原出願日】2018-03-15
【審査請求日】2022-11-09
(31)【優先権主張番号】P 2017051568
(32)【優先日】2017-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017051569
(32)【優先日】2017-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017051570
(32)【優先日】2017-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017051571
(32)【優先日】2017-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017051572
(32)【優先日】2017-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017145188
(32)【優先日】2017-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018023242
(32)【優先日】2018-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018023239
(32)【優先日】2018-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】大野 栄一
(72)【発明者】
【氏名】湯本 徹
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 雅典
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-071467(JP,A)
【文献】国際公開第2014/017323(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/195047(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/012264(WO,A1)
【文献】特開2004-119686(JP,A)
【文献】特開2009-283547(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/22
H01B 13/00
C09C 1/62
C09D 17/00
C09C 3/08
C09C 1/00
B22F 1/00
B22F 1/05
B22F 1/068
B22F 1/06
B22F 3/105
B22F 1/107
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化銅と、数平均分子量が300以上30000以下の分散剤と、還元剤としてのヒドラジン及び/又はヒドラジン水和物とを含み、
前記分散剤がポリエーテル
リン酸エステ
ルを含み、
前記還元剤の含有量が下記式(1)の範囲であり、
前記分散剤の含有量が下記式(2)の範囲であることを特徴とする分散体。
0.0001≦(還元剤質量/酸化銅質量)≦0.10 (1)
0.0050≦(分散剤質量/酸化銅質量)≦0.30 (2)
【請求項2】
さらに分散媒を含み、前記分散媒が、テルピネオール、γーブチロラクトン、シクロヘキサノン、エタノール、プロピレングリコール、n-ブタノール、n-プロパノール、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート及びテトラリンからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の分散体。
【請求項3】
さらに分散媒を含み、前記分散媒を2種類以上含む、請求項1又は2に記載の分散体。
【請求項4】
前記酸化銅は、平均二次粒子径が1nm以上50nm以下の酸化銅である、請求項1~
3のいずれか一項に記載の分散体。
【請求項5】
さらにフッ素系界面活性剤を含む、請求項1~
4のいずれか一項に記載の分散体。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の分散体を、基板上に塗布して塗膜を形成する工程と、
前記塗膜にレーザ光を照射し、前記基板上に導電性パターンを形成する工程と、を具備する、導電性パターン付構造体の製造方法。
【請求項7】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の分散体を、所望のパターンで基板上に塗布して、塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を焼成処理して、前記基板上に導電性パターンを形成する工程と、を具備する、導電性パターン付構造体の製造方法。
【請求項8】
前記焼成処理は、還元性ガスを含む雰囲気下でプラズマを発生させて行う、請求項
7に記載の導電性パターン付構造体の製造方法。
【請求項9】
前記焼成処理は、光照射法により行う、請求項
7に記載の導電性パターン付構造体の製造方法。
【請求項10】
前記焼成処理は、100℃以上の熱で前記塗膜を加熱することにより行う、請求項
7に記載の導電性パターン付構造体の製造方法。
【請求項11】
前記分散体を、エアロゾル法によって塗布し、前記所望のパターンを形成する、請求項
7~
10のいずれか一項に記載の導電性パターン付構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分散体並びにこれを用いた導電性パターン付構造体の製造方法及び導電性パターン付構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
回路基板は、基板上に導電性の配線を施した構造を有する。回路基板の製造方法は、一般的に、次の通りである。まず、金属箔を貼り合せた基板上にフォトレジストを塗布する。次に、フォトレジストを露光及び現像して所望の回路パターンのネガ状の形状を得る。次に、フォトレジストに被覆されていない部分の金属箔をケミカルエッチングにより除去してパターンを形成する。これにより、高性能の回路基板を製造することができる。
【0003】
しかしながら、従来の方法は、工程数が多く、煩雑であると共に、フォトレジスト材料を要する等の欠点がある。
【0004】
これに対し、金属微粒子及び金属酸化物微粒子からなる群から選択された微粒子を分散させた分散体で基板上に所望の配線パターンを直接印刷する直接配線印刷技術(以下、PE(プリンテッド エレクトロニクス)法と記載する)が注目されている。この技術は、工程数が少なく、フォトレジスト材料を用いる必要がない等、極めて生産性が高い。
【0005】
分散体としては、金属インク及び金属ペーストが挙げられる。金属インクは、平均粒子径が数~数十ナノメートルの金属超微粒子を分散媒に分散させた分散体である。金属インクを基板に塗布乾燥させた後、これを熱処理すると、金属超微粒子特有の融点降下によって、金属の融点よりも低い温度で焼結し、導電性を有する金属膜(以下、導電膜ともいう)を形成できる。金属インクを用いて得られた金属膜は、膜厚が薄く、金属箔に近いものになる。
【0006】
一方、金属ペーストは、マイクロメートルサイズの金属の微粒子と、バインダ樹脂と共に分散媒に分散させた分散体である。微粒子のサイズが大きいので、沈降を防ぐために、通常はかなり粘度の高い状態で供給される。そのため、粘度の高い材料に適したスクリーン印刷やディスペンサーによる塗布に適している。金属ペーストは、金属粒子のサイズが大きいため、膜厚が厚い金属膜を形成できるという特徴を有する。
【0007】
このような金属粒子に利用される金属として銅が注目されている。特に、投影型静電容量式タッチパネルの電極材料として広く用いられているITO(酸化インジウムスズ)の代替として、抵抗率、イオン(エレクトロケミカル)マイグレーション、導体としての実績、価格、埋蔵量等の観点から、銅が最も有望である。
【0008】
しかしながら、銅は、数十ナノメートルの超微粒子では酸化が起こりやすく酸化防止処理が必要である。酸化防止処理は、焼結の妨げになるという課題があった。
【0009】
このような課題を解決するために、銅酸化物の超微粒子を前駆体とし、適切な雰囲気下で、熱、活性光線等のエネルギーによって銅酸化物を銅に還元し、銅薄膜を形成することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0010】
銅酸化物の超微粒子における表面拡散自体は、300℃よりも低い温度で起こるため、適切な雰囲気下でエネルギーにより、銅酸化物を銅に還元すると、銅の超粒子相互が焼結により緻密なランダムチェーンを形成し、全体がネットワーク状となり、所望の電気導電性が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
第1の課題として、金属インク及び金属ペーストを用いたPE法により得られる金属薄膜は、抵抗率が低いだけでなく、経時的変化が少ないことが求められる。例えば、銀ペーストに関しては、銀は大気下で酸化を受けやすく、酸化して抵抗率が上昇するため、銀粒子間の抵抗率は経時的に悪化していくことが知られている。
【0013】
しかしながら、特許文献1に開示された銅酸化物の超微粒子を前駆体として用いたPE法により得られる金属膜について、抵抗率の安定性について検討した先行技術文献は存在していない。
【0014】
また、工業的利用においては、分散体が、高濃度で経時的変化に対して優れた分散安定性を有することも求められる。
【0015】
また、第2の課題として、従来の、金属酸化物の微粒子を還元により金属化して金属膜を得る、金属ペーストを用いたPE法において、粒子径が小さくなるほど焼結が進みやすく、焼成処理中にクラックが発生し、抵抗率が低下しやすいことが知られている。焼結により、接触した複数の微粒子がその界面を融合し、相互に相手を取り込むことによって大きな粒子に成長し、その際に、粒子の表面積の減少が進み、複数の微粒子間に存在していた隙間が消滅する。この結果、塗膜の体積収縮が起こり、これが原因でクラックが生じることがある。このようなクラックは、金属膜の抵抗率の上昇を招く。
【0016】
また、金属ペーストの塗膜の厚みが1μmより大きくなると、焼成処理中にクラックが発生しやすくなるだけでなく、経時的にクラックが発生し、金属膜の抵抗率の経時的な悪化が起こることが知られている。
【0017】
しかしながら、特許文献1に開示された銅酸化物の超微粒子を前駆体として用いたPE法により得られる金属膜について、抵抗率の経時的安定性、特に経時的なクラック発生について検討した先行技術文献は存在していない。
【0018】
また、PE法に用いられる分散体は、比較的膜薄な塗膜が得られるインクジェット印刷だけでなく、比較的膜厚な塗膜が得られるスクリーン印刷にも適用可能であることが求められる。
【0019】
また、金属膜に対しては、ハンダ付けが容易であることも求められる。例えば、一般的な汎用の導電性ペーストでは、バインダ樹脂の効果収縮により金属粒子(平均粒子径0.5~2.0μm)を物理的に接触させて電気的導通をとる。このため、バインダ樹脂が金属膜の表面に滲み出して被膜を形成するため、ハンダ付けが難しくなる。また、金属膜はハンダとの密着性が高いことも求められる。
【0020】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、分散安定性が高く、基板上で抵抗の低い導電性パターンを形成できる分散体並びにこれを用いた導電性パターン付構造体の製造方法及び導電性パターン付構造体を提供することを目的の一つとする。
【0021】
また、スクリーン印刷法に適用可能であり、抵抗率の経時的安定性及びハンダ付け性に優れた導電性パターンが得られる分散体並びにこれを用いた導電性パターン付構造体の製造方法及び導電性パターン付構造体を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。本発明は、第1から第3のいずれか一つの課題を解決するためのものである。
【0023】
即ち、本発明の一態様の分散体は、酸化銅と、分散剤と、還元剤とを含み、前記還元剤の含有量が下記式(1)の範囲であり、前記分散剤の含有量が下記式(2)の範囲であることを特徴とする。
0.0001≦(還元剤質量/酸化銅質量)≦0.10 (1)
0.0050≦(分散剤質量/酸化銅質量)≦0.30 (2)
【0024】
この構成により、酸化銅に対する還元剤及び分散剤の質量の範囲を限定することで、分散安定性が向上するとともに、導電性パターンの抵抗が効果的に低下する。また、プラズマや光、レーザ光を用いて焼成処理を行うことができるため、酸化銅中の有機物が分解され、酸化銅の焼成が促進され、抵抗の低い導電性パターンを形成できる。
【0025】
本発明の一態様の分散体は、粒子径が1nm以上50nm以下の酸化銅と、粒子径が0.1μm以上100μm以下の銅粒子と、リン酸基を有する有機化合物と、を含むことを特徴とする。
【0026】
この構成により、マイクロメートルオーダーの粒子径を有する銅粒子と、ナノメートルオーダーの酸化銅粒子とを含む分散体を用いた塗布膜を、焼成処理により焼結すると、銅粒子同士が結合し、強固な機械的構造を形成する。それと同時に、銅粒子の間に存在する酸化銅粒子が、焼成処理により還元して金属銅に変化すると共に焼結し、銅粒子と一体化し、電気的導通を生じるようになり、導電性パターンの機械的強度及び電気的導通が向上し、且つ、抵抗率の経時的安定性が高くなる。また、凝集しにくいため、分散安定性に優れると共に、スクリーン印刷が可能になる。
【0027】
本発明の一態様の分散体は、酸化銅と、一方向に伸長した形状、樹枝状または扁平な形状を有する銅粒子の少なくとも1種と、を含むことを特徴とする。
【0028】
この構成により、一方向に伸長した形状、樹枝状又は扁平な形状を有する銅粒子であると、粒子を整列しやすくなり、粒子間の接点を多く確保できる。それと同時に、還元された酸化銅粒子が結合剤として作用するので、導電性パターンの機械的強度及び電気的導通が向上し、且つ、抵抗率の経時的安定性が高くなる。また、凝集しにくいため、分散安定性に優れると共に、スクリーン印刷が可能になる。
【0029】
本発明の一態様の分散体において、銅粒子を含み、前記銅粒子が、一方向に伸長した形状、樹枝状または扁平な形状を有することが好ましい。
【0030】
本発明の一態様の分散体において、前記樹枝状の形状を有する前記銅粒子を少なくとも含むことが好ましい。
【0031】
本発明の一態様の分散体において、前記酸化銅は、粒子径が1nm以上50nm以下であることが好ましい。
【0032】
本発明の一態様の分散体において、前記酸化銅の質量に対する銅粒子の質量比が1.0以上7.0以下であることが好ましい。
【0033】
本発明の一態様の分散体において、前記酸化銅の質量に対する前記有機化合物の質量比が0.0050以上0.30以下であることが好ましい。
【0034】
本発明の一態様の分散体において、還元剤を含み、前記酸化銅の質量に対する前記還元剤の質量比が0.0001以上0.10以下であることが好ましい。
【0035】
本発明の一態様の分散体において、還元剤を含み、前記還元剤が、ヒドラジン、ヒドラジン水和物、ナトリウム、カーボン、ヨウ化カリウム、シュウ酸、硫化鉄(II)、チオ硫酸ナトリウム、アスコルビン酸、塩化スズ(II)、水素化ジイソブチルアルミニウム、蟻酸、水素化ホウ酸ナトリウム及び亜硫酸塩の群から選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0036】
本発明の一態様の分散体において、前記酸化銅が酸化第一銅を含むことが好ましい。
【0037】
本発明の一態様の分散体において、さらに分散媒を含み、前記分散媒が、テルピネオール、γーブチロラクトン、シクロヘキサノン、エタノール、プロピレングリコール、ブタノール、プロパノール、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート及びテトラリンからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0038】
本発明の一態様の分散体において、さらに分散媒を含み、前記分散媒を2種類以上含むことが好ましい。
【0039】
本発明の一態様の導電性パターン付構造体の製造方法は、上記の分散体を、基板上に塗布して塗膜を形成する工程と、前記塗膜にレーザ光を照射し、前記基板上に導電性パターンを形成する工程と、を具備することを特徴とする。
【0040】
本発明の一態様の導電性パターン付構造体の製造方法は、上記の分散体を、所望のパターンで基板上に塗布して、塗膜を形成する工程と、前記塗膜を焼成処理して、前記基板上に導電性パターンを形成する工程と、を具備することを特徴とする。
【0041】
本発明の一態様の導電性パターン付構造体の製造方法において、前記焼成処理は、還元ガスを含む雰囲気下でプラズマを発生させて行うことが好ましい。
【0042】
本発明の一態様の導電性パターン付構造体の製造方法において、前記焼成処理は、光照射法により行うことが好ましい。
【0043】
本発明の一態様の導電性パターン付構造体の製造方法において、前記焼成処理は、100℃以上の熱で前記塗膜を加熱することにより行うことが好ましい。
【0044】
本発明の一態様の導電性パターン付構造体の製造方法において、前記分散体を、エアロゾル法によって塗布し、前記所望のパターンを形成することが好ましい。
【0045】
本発明の一態様の導電性パターン付構造体の製造方法において、前記分散体を、スクリーン印刷によって塗布することが好ましい。
【0046】
本発明の一態様の導電性パターン付構造体の製造方法において、前記塗膜を、転写体に形成した後、前記転写体から前記基板に転写して、前記塗膜を前記基板上に形成することが好ましい。
【0047】
本発明の一態様の導電性パターン付構造体の製造方法において、前記分散体を、転写体に塗布した後、前記転写体に凸部を接触させ、不要な分散体を取り除いて、前記転写体の表面に所望のパターンを形成する工程と、前記転写体の表面に前記基板を接触させることで、前記基板に前記所望のパターンを転写する工程と、を有することが好ましい。
【0048】
本発明の一態様の導電性パターン付構造体の製造方法において、前記導電性パターンがアンテナであることが好ましい。
【0049】
本発明の一態様の導電性パターン付構造体の製造方法において、前記導電性パターンがメッシュ形状であることが好ましい。
【0050】
本発明の一態様の導電性パターン付構造体の製造方法において、さらに、前記導電性パターンの表面の一部にハンダ層を形成する工程を含むことが好ましい。
【0051】
本発明の一態様の導電性パターン付構造体の製造方法において、リフロー法により、前記ハンダ層を介して電子部品を前記導電性パターン上にハンダ付けすることが好ましい。
【0052】
本発明の一態様の導電性パターン付構造体は、基板と、前記基板の表面に形成された酸化第一銅含有層と、前記酸化第一銅含有層の表面に形成された導電性層と、を具備し、前記導電性層は線幅1μm以上、1000μm以下の配線であり、前記配線は還元銅を含むことを特徴とする。
【0053】
本発明の一態様の導電性パターン付構造体は、基板と、前記基板の表面に形成された酸化第一銅含有層と、前記酸化第一銅含有層の表面に形成された導電性層と、を具備し、前記導電性層は線幅1μm以上、1000μm以下の配線であり、前記配線は還元銅、銅及びスズを含むことを特徴とする。
【0054】
本発明の一態様の導電性パターン付構造体は、基板と、前記基板の表面に形成された導電性パターンと、を具備し、前記導電性パターンは線幅1μm以上、1000μm以下の配線であり、前記配線は還元銅、リン及びボイドを含むことを特徴とする。
【0055】
本発明の一態様の導電性パターン付構造体は、基板と、前記基板の表面に形成された導電性パターンと、を具備し、前記導電性パターンは線幅1μm以上、1000μm以下の配線であり、前記配線は還元銅、銅及びスズを含むことを特徴とする。
【0056】
本発明の一態様の導電性パターン付構造体において、前記銅のグレインサイズが0.1μm以上、100μm以下であることが好ましい。
【0057】
本発明の一態様の導電性パターン付構造体において、前記導電性層または前記導電性パターンの表面の表面粗さが500nm以上4000nm以下であることが好ましい。
【0058】
本発明の一態様の導電性パターン付構造体において、前記配線がアンテナとして利用できることが好ましい。
【0059】
本発明の一態様の導電性パターン付構造体において、前記導電性層または前記導電性パターンの表面の一部にハンダ層が形成されていることが好ましい。
【0060】
本発明の一態様の導電性パターン付構造体は、基板と、前記基板表面に形成された導電性パターンと、を具備し、前記導電性パターンは線幅1μm以上、1000μm以下の配線であり、前記配線は還元銅、酸化銅及びリンを含み、前記配線を覆うように樹脂が配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0061】
本発明によれば、分散安定性が高く、基板上で抵抗の低い導電性パターンを形成できる。
【0062】
また、スクリーン印刷法に適用可能であり、抵抗率の経時的安定性及びハンダ付け性に優れた導電性パターンが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【
図1】第3の実施の形態に係る分散体を基板に塗布し、焼成処理する前の、酸化銅及び樹枝状の形状を有する銅粒子の状態を示す模式図である。
【
図2】本実施の形態に係る導電性パターン付構造体を示す断面模式図である。
【
図3】本実施の形態に係る導電性パターン付構造体の製造方法において焼成にレーザ照射を用いた場合の各工程を示す説明図である。
【
図4】本実施の形態に係る導電性パターン付構造体の製造方法において焼成にプラズマを用いた場合の各工程を示す説明図である。
【
図5】本実施の形態に係る転写体を用いた塗膜の形成方法を説明する図である。
【
図6】本実施の形態に係る転写体を用いた塗膜の形成方法の他の例を説明する図である。
【
図7】本実施の形態に係る転写体にパターンを形成する方法を説明する図である。
【
図8】本実施の形態に係る酸化銅とリン酸エステル塩との関係を示す模式図である。
【
図9】本実施の形態に係るハンダ層が形成された導電性パターン付構造体の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0064】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施の形態」という。)を例示する目的で詳細に説明するが、本発明は本実施の形態に限定されるものではない。
【0065】
<第1の実施の形態>
第1の実施の形態の分散体は、(1)酸化銅、(2)分散剤、(3)還元剤とを含むことを特徴とする。分散体に還元剤が含まれることにより、焼成において酸化銅の銅への還元が促進され、銅の焼結が促進される。
【0066】
還元剤の含有量は、下記式(1)の範囲を満たす。還元剤の質量比率が0.0001以上だと分散安定性が向上し、かつ銅膜の抵抗が低下する。また、0.1以下だと分散体の長期安定性が向上する。
0.0001≦(還元剤質量/酸化銅質量)≦0.10 (1)
【0067】
また、分散剤の含有量は、下記式(2)の範囲を満たす。これにより、酸化銅の凝集を抑制して、分散安定性が向上する。
0.0050≦(分散剤質量/酸化銅質量)≦0.30 (2)
【0068】
第1の実施の形態の分散体は、酸化銅に対する還元剤及び分散剤の質量の範囲を限定することで、分散安定性が向上するとともに、導電膜の抵抗が効果的に低下する。また、プラズマや光、レーザ光を用いて焼成処理を行うことができるため、酸化銅中の有機物が分解され、酸化銅の焼成が促進され、抵抗の低い導電膜を形成できる。このため、電磁波シールド、回路など様々な銅配線を提供できる。
【0069】
また、第1の実施の形態の分散体は、銅粒子を含み、銅粒子が、一方向に伸長した形状、樹枝状または扁平な形状を有することが好ましい。第1の実施の形態の分散体は、樹枝状の形状を有する銅粒子を少なくとも含むことがより好ましい。これにより、特定形状を有する銅粒子は、例えば、球状、正多面体状のアスペクト比の小さい粒子と比較して、互いに絡まり合ったり、整列したり、しやすい。このため、粒子同士の接点を多く確保でき、塗膜を焼成処理により焼結すると、強固な機械的構造を形成し、得られた導電膜では、クラックが発生するのが抑制される。
【0070】
また、第1の実施の形態の分散体は、銅粒子を含み、銅粒子が、粒子径が0.1μm以上100μm以下であることが好ましく、0.5μm以上50μm以下がさらに好ましく、1.0μm以上10μm以下が特に好ましい。これにより、クラック発生抑制効果が高く、且つ、銅粒子の間にナノメートルオーダーの酸化銅の超微粒子が入り込み、結合剤として働き易くなる。また、銅粒子自体の機械的強度が小さくなることを防止できる。
【0071】
また、第1の実施の形態の分散体は、酸化銅は、粒子径が1nm以上50nm以下であることが好ましい。これにより、焼結が容易であると共に、銅粒子の間に入りやすいため、結合剤として作用し易い。また、分散剤の使用量を少なくでき、焼成処理が容易になる。
【0072】
このように、マイクロメートルオーダーの粒子径を有する銅粒子と、ナノメートルオーダーの酸化銅粒子とを含む分散体を用いた塗膜を、焼成処理により焼結すると、銅粒子同士が結合し、強固な機械的構造を形成する。
【0073】
<第2の実施の形態>
本発明者らは、鋭意検討した結果、分散体において、特定の粒子径を有する酸化銅粒子と、特定の粒子径を有する銅粒子と、組み合わせて用いること、及び、分散剤を用いることにより、焼結時に発生するクラック及び経時的に発生するクラックの両方を抑制し、抵抗率が低く且つ抵抗率の経時的安定性に優れた導電膜が得られることがわかった。
【0074】
また、上述の分散体は、超微粒子を高い濃度で含有しているにもかかわらず凝集しにくいことがわかった。このため、スクリーン印刷法にも適用可能であり、印刷性に優れていることがわかった。しかも、上述の分散体は、高い濃度で経時的変化に対して優れた分散安定性を示し、長期間保管後でもスクリーン印刷が可能であることもわかった。
【0075】
さらに、上述の分散体は、スクリーン印刷を用いることで、比較的厚膜で塗膜を形成できるため、得られた導電膜で大量の電流を導通できることがわかった。
【0076】
また、上述の分散体を用いた導電膜に対するハンダ付け性が良好であることがわかった。
【0077】
本発明者らは、このような新たな見地に基づいて、本発明を完成するに至った。すなわち、第2の実施の形態の分散体は、粒子径が1nm以上50nm以下の酸化銅と、粒子径が0.1μm以上100μm以下の銅粒子と、リン酸基を有する有機化合物と、を含むことを特徴とする。
【0078】
ここで粒子径とは、酸化銅粒子及び銅粒子の一次粒子の平均粒子径である。
【0079】
第2の実施の形態に係る分散体によれば、上記のような、マイクロメートルオーダーの粒子径を有する銅粒子と、ナノメートルオーダーの酸化銅粒子とを含む分散体を用いた塗膜を、焼成処理により焼結すると、銅粒子同士が結合し、強固な機械的構造を形成する。そして、銅粒子の間に酸化銅粒子が存在しているので、焼成処理により還元して金属銅に変化すると共に焼結し、銅粒子と一体化し、電気的導通を生じるようになる。言い換えれば、酸化銅粒子は、銅粒子に対して結合剤として作用する。したがって、得られた導電膜では、焼結時の急激な歪及び残留歪によってクラックが発生するのが抑制される。また、銅粒子と還元された銅酸化物粒子とが導体としてのパスを形成し、抵抗率を低くできる。この結果、抵抗率が低く、且つ、抵抗率の経時的安定性が高い導電膜を得ることができる。
【0080】
第2の実施の形態に係る分散体において、酸化銅粒子の粒子径の上限値は、50nmである。これ以下であると、焼結が容易であると共に、銅粒子の間に入りやすいため、結合剤として作用しやすいからである。
【0081】
酸化銅粒子が、このようなサイズであることにより、金属超微粒子特有の融点降下によって、金属の融点よりも低い温度で焼結し、導電膜を形成できる。
【0082】
なお、金属粒子の粒子径を充分に小さくすると、粒子の表面に存在するエネルギー状態の高い原子の全体に占める割合が大きくなり、原子の表面拡散が無視し得ないほど大きくなる。この結果、表面拡散に起因して、粒子相互の界面の延伸が起こり、金属の融点よりも低い温度で焼結が行われることを、融点降下という。
【0083】
一方、酸化銅粒子の粒子径の下限値は、1nmである。これ以上であると、分散剤の使用量を少なくでき、焼成処理が容易になるからである。
【0084】
なお、粒子径は、酸化銅粒子を還元処理することにより得られる金属銅の緻密性及び電気的特性の観点から定められる。さらには、焼成条件を樹脂基板の使用を考慮すると、基板に与えるダメージを低減する観点から、より低温化する必要があるため、より粒子径が小さいことが好ましい。一次粒子径が50nm以下の場合、後述する焼成処理において条件をより基板にダメージを与えないよう投入エネルギーを低減できる傾向にある。
【0085】
また、第2の実施の形態に係る分散体において、銅粒子の粒子径の上限値は、100μmである。これ以下であると、クラック発生抑制効果が高く、且つ、銅粒子の間にナノメートルオーダーの酸化銅の超微粒子が入り込み、結合剤として働きやすくなるからである。
【0086】
一方、銅粒子の平均粒子径の下限値は、0.1μmである。これにより、銅粒子自体の機械的強度が小さくなることを防止できる。
【0087】
また、第2の実施の形態に係る分散体は、比較的大きな銅粒子を含み、且つ、分散剤を含む。分散剤としては、酸化銅粒子を分散可能であれば、制限なく使用可能であるが、リン酸基を有する有機化合物であることが好ましい。このため、比較的小さい酸化銅粒子を含んでいるにも関わらず、凝集しにくく、スクリーン印刷法に好適に用いることができる。スクリーン印刷法に用いられる印刷装置の、インクの貯留容器からスクリーンへの供給経路、又は、スクリーンメッシュなどに、凝集した粒子が詰まってしまうことを防止することができる。また、第2の実施の形態に係る分散体は、高濃度で経時的変化に対して優れた分散安定性を示すため、長期間保管後でもスクリーン印刷が可能である。
【0088】
スクリーン印刷は、例えば、100μmの比較的幅が広いラインパターンであり、また、膜厚が比較的厚い塗膜を形成可能であり、大きな電気を流すことできる導電膜の形成に適している。第2の実施の形態に係る分散体は、現在、高価な銀インクが用いられている用途において、好適に用いることができる。また、銀インクを用いたスクリーン印刷装置が普及しているが、既存のスクリーン印刷装置を使用できるので、銀インクから銅インクへの代替を容易に行える。
【0089】
また、第2の実施の形態に係る分散体を、スクリーン印刷で基板上に塗布したとき、比較的大きな銅粒子を含んでいるため、塗膜が嵩高になり、その結果、膜厚が比較的厚い塗膜を形成することができる。
【0090】
銅を用いた分散体を、スクリーン印刷して塗膜を形成できることは、上述のように厚い塗膜を形成でき、結果として、厚膜(例えば、1μm以上100μm以下)の導電膜を形成できることにつながる。このような膜厚の導電膜を備えた導電性基板は、導電性が高いので、透明導電膜、電磁波シールド等の用途に適している。第2の実施の形態の分散体によれば、銀を銅に置き換え、これらの製品のコストを大幅に削減できるようになる。
【0091】
なお、第2の実施の形態において、印刷とは、インク(本発明の分散体の一態様)により媒体に所望のパターン(一般的には、文字、画像、模様などを含む)を構成することを指し、塗布に包含される概念である。
【0092】
また、第2の実施の形態に係る分散体は、焼成操作によって、ハンダ付け性を悪化させる分散媒等の有機成分が分解するため、分散体を用いて得られる導電膜に対するハンダのぬれ性が高くなり、ハンダ付けが容易である。
【0093】
また、第2の実施の形態の分散体は、銅粒子が、一方向に伸長した形状、樹枝状または扁平な形状を有することが好ましい。また、第2の実施の形態の分散体は、樹枝状の形状を有する銅粒子を少なくとも含むことがより好ましい。これにより、特定形状を有する銅粒子は、例えば、球状、正多面体状のアスペクト比の小さい粒子と比較して、互いに絡まり合ったり、整列したり、しやすい。このため、粒子同士の接点を多く確保でき、塗膜を焼成処理により焼結すると、強固な機械的構造を形成し、得られた導電膜では、クラックが発生するのが抑制される。
【0094】
第2の実施の形態に係る分散体において、酸化銅粒子の質量に対する有機化合物の質量比が0.0050以上0.30以下であることが好ましい。分散剤としてのリン酸基を有する有機化合物がこの範囲にあることにより、酸化銅の凝集を抑制して、分散安定性が向上する。
【0095】
<第3の実施の形態>
また、本発明者らは、鋭意検討した結果、酸化銅粒子と、特定の粒形を有する銅粒子と、を含む分散体を用いることにより、焼結時に発生するクラック及び経時的に発生するクラックの両方を抑制し、抵抗率が低く且つ抵抗率の経時的安定性に優れた導電膜が得られることがわかった。
【0096】
また、上述の分散体は、超微粒子を高い濃度で含有しているにもかかわらず凝集しにくいことがわかった。このため、スクリーン印刷法にも適用可能であり、印刷性に優れていることがわかった。しかも、上述の分散体は、高い濃度で経時的変化に対して優れた分散安定性を示し、長期間保管後でもスクリーン印刷が可能であることもわかった。
【0097】
さらに、上述の分散体は、スクリーン印刷を用いることで、比較的厚膜で塗膜を形成できるため、得られた導電膜で大量の電流を導通できることがわかった。
【0098】
また、上述の分散体を用いた導電膜に対するハンダ付け性が良好であることがわかった。
【0099】
本発明者らは、このような新たな見地に基づいて、本発明を完成するに至った。すなわち、第3の実施の形態に係る分散体は、酸化銅と、一方向に伸長した形状、樹枝状又は扁平な形状を有する銅粒子(以下、特定形状を有する銅粒子とも記載する)の少なくとも1種と、を含むことを特徴とする。
【0100】
粒子の形状が、一方向に伸長した形状であるとは、以下のように説明することができる。まず、ここで、形状とは一次粒子の形状である。次に、粒子の伸長方向を縦方向とし、縦方向の最大値を長さ(L)とする。縦方向に直交する向きを幅方向とし、幅方向の最大値を幅(W)とする。粒子の幅(W)に対する長さ(L)の比をアスペクト比と定義する。アスペクト比が1を超える形状を一方向に伸長した形状であると言える。
【0101】
一方向に伸長した形状は、具体的には、針状、柱状、糸状、紐状、針金状、棒状、紡錘状などが挙げられる。ここで、針状と柱状との違いは、形状の違いではなく、粒子の大きさによる。すなわち、同じような形状であっても、幅(W)が比較的長いものを柱状、幅(W)が短いものを針状と呼ぶ。
【0102】
一方向に伸長した形状とは、粒子の伸長方向に沿って断面の大きさが一定である場合に限らず、他の部分に比べて大きかったり、小さかったりする部分が存在してもよい。この場合の幅(W)は、その粒子を体積が等しい円柱とみなしたときの当該円柱の底面の直径とする。
【0103】
また、粒子の断面の形状は、特に限定されないが、円、三角形、四角形、それ以上の多角形、曲線や直線で結ばれた形状であってもよい。
【0104】
また、粒子は、伸長方向に真っ直ぐに伸びたものに限らず、曲がりながら伸びている形状であってもよい。この場合、粒子の形状は、毛状、糸状、紐状、針金状等と呼ばれる。
【0105】
粒子の形状が、一方向に伸長した形状であると、粒子を整列しやすくなり、粒子間の接点を多く確保できる。この観点から、粒子のアスペクト比は、3以上であることが好ましい。
【0106】
また、第3の実施の形態において、樹枝状とは、次のように説明することができる。まず、ここで、形状とは一次粒子の形状である。次に、樹枝状の形状は、上述の一方向に伸長した形状を有する主幹と、その主幹から分岐した、少なくとも1つの枝と、で構成される。この形状は、デンドライト状とも呼ばれている。
【0107】
粒子の形状が、樹枝状の形状であると、粒子を整列しやすくなり、粒子間の接点を多く確保できる。また、樹枝状の形状であると、3次元的に粒子同士が絡み合うことができる。これらの観点から、当該粒子の主幹のアスペクト比は、3以上であることが好ましい。また、枝の数は、特に限定されないが、2以上であることが好ましく、3以上であることが特に好ましい。なお、主幹のアスペクト比は、上述の一方向に伸長した形状を有する粒子で説明したものと同一である。
【0108】
また、第3の実施の形態において、扁平な形状とは、次のように説明することができる。まず、ここで、形状とは一次粒子の形状である。次に、扁平な形状とは、平面又は曲面をなした主面を有する形状である。当該主面の最大の長さ(a)を縦とし、縦(a)と直交する最大の長さ(b)を横とする。当該粒子の厚さ(c)に対する主面の縦(a)の長さの比をアスペクト比と定義する。アスペクト比が3を超える形状を、扁平な形状であると言える。
【0109】
扁平な形状は、具体的には、板状、葉片状、鱗片状(フレーク状ともいう)などが挙げられる。ここで、板状と、葉片状と、鱗片状との違いは、形状の違いではなく、粒子の大きさによる。すなわち、同じような形状であっても、厚さ(c)が比較的厚いものを板状、より薄いものを葉片状、さらに薄いものを鱗片状と呼ぶ。
【0110】
粒子の形状が、扁平な形状であると、粒子を整列しやすくなり、粒子間の接点を多く確保できる。この観点から、当該粒子のアスペクト比は、5以上であることが好ましい。
【0111】
第3の実施の形態に係る分散体において、樹枝状の形状を有する銅粒子を少なくとも含むことがより好ましい。
【0112】
第3の実施の形態に係る分散体によれば、特定形状を有する銅粒子は、例えば、球状、正多面体状のアスペクト比の小さい粒子と比較して、互いに絡まり合ったり、整列したり、しやすい。このため、粒子同士の接点を多く確保できる。
【0113】
このため、塗膜を、焼成処理により焼結すると、強固な機械的構造を形成する。そして、銅粒子の間に酸化銅粒子が存在しているので、焼成処理により還元して金属銅に変化すると共に焼結し、銅粒子と一体化し、電気的導通を生じるようになる。言い換えれば、酸化銅粒子は、銅粒子に対して結合剤として作用する。したがって、得られた導電膜では、焼結時の急激な歪及び残留歪によってクラックが発生するのが抑制される。また、銅粒子と還元された銅酸化物粒子とが導体としてのパスを形成し、抵抗率を低くできる。この結果、抵抗率が低く、且つ、抵抗率の経時的安定性が高い導電膜を得ることができる。
【0114】
第3の実施の形態に係る分散体は、特定形状を有する銅粒子を含んでいる。このため、分散体が凝集しにくく、スクリーン印刷法に好適に用いることができる。スクリーン印刷法に用いられる印刷装置の、インクの貯留容器からスクリーンへの供給経路、又は、スクリーンメッシュなどに、凝集した粒子が詰まってしまうことを防止することができる。
【0115】
第3の実施の形態に係る分散体は、現在、高価な銀インクが用いられている用途において、好適に用いることができる。また、銀インクを用いたスクリーン印刷装置が普及しているが、既存のスクリーン印刷装置を使用できるので、銀インクから銅インクへの代替を容易に行える。
【0116】
また、第3の実施の形態に係る分散体を、スクリーン印刷で基板上に塗布したとき、特定形状を有する銅粒子を含んでいるため、塗膜が嵩高になり、その結果、膜厚が比較的厚い塗膜を形成することができる。
【0117】
このような膜厚の導電膜を備えた導電性基板は、導電性が高いので、透明導電膜、電磁波シールド等の用途に適している。第3の実施の形態の分散体によれば、銀を銅に置き換え、これらの製品のコストを大幅に削減できるようになる。
【0118】
また、第3の実施の形態に係る分散体は、特定形状を有する銅粒子を含んでいるため、凝集しにくく、高濃度で経時的変化に対して優れた分散安定性を示す。このため、長期間保管後でもスクリーン印刷が可能である。
【0119】
また、第3の実施の形態に係る分散体は、焼成操作によって、ハンダ付け性を悪化させる分散媒等の有機成分が分解するため、分散体を用いて得られる導電膜に対するハンダのぬれ性が高くなり、ハンダ付けが容易である。
【0120】
特に、第3の実施の形態に係る分散体において、樹枝状の形状を有する銅粒子を含む場合、上述のような効果が高まり、最適である。
【0121】
図1は、第3の実施の形態に係る分散体を基板に塗布し、焼成処理する前の、酸化銅及び樹枝状の形状を有する銅粒子の状態を示す模式図である。
図1に示すように、焼成前の塗膜1において、複数の、樹枝状の形状を有する銅粒子5は、互いに絡まり合ったり、整列したり、している。このため、銅粒子5同士は、複数の接点Xで接触している。そして、これらの銅粒子5の間に、粒子径が小さい酸化銅粒子2が入り込んでいる。
【0122】
樹枝状の形状を有する銅粒子5は、主幹5aから分岐した枝5bで互いに接触するため、枝が無い、一方向に伸長した形状を有する銅粒子に比べて、接点Xが多くなる。この結果、分散体及び塗膜1の中で、銅粒子5は、より分散しやすく、凝集しにくくなる。この結果、上述のような効果がより顕著に発揮される。
【0123】
また、第3の実施の形態の分散体は、銅粒子が、粒子径が0.1μm以上100μm以下であることが好ましく、0.5μm以上50μm以下がさらに好ましく、1.0μm以上10μm以下が特に好ましい。これにより、クラック発生抑制効果が高く、且つ、銅粒子の間にナノメートルオーダーの酸化銅の超微粒子が入り込み、結合剤として働き易くなる。また、銅粒子自体の機械的強度が小さくなることを防止できる。
【0124】
また、第3の実施の形態の分散体は、酸化銅は、粒子径が1nm以上50nm以下であることが好ましい。これにより、焼結が容易であると共に、銅粒子の間に入りやすいため、結合剤として作用し易い。また、分散剤の使用量を少なくでき、焼成処理が容易になる。
【0125】
このように、マイクロメートルオーダーの粒子径を有する銅粒子と、ナノメートルオーダーの酸化銅粒子とを含む分散体を用いた塗膜を、焼成処理により焼結すると、銅粒子同士が結合し、強固な機械的構造を形成する。
【0126】
<その他の態様>
また、上記第2及び第3の実施の形態の分散体においては、酸化銅粒子の質量に対する銅粒子の質量比が0.5以上10以下であることが好ましい。また、酸化銅粒子の質量に対する銅粒子の質量比が1.0以上7.0以下であることがより好ましい。また、酸化銅粒子の質量に対する銅粒子の質量比が1.5以上6.0以下であることがさらに好ましい。銅粒子質量比率がこの範囲内であれば、酸化銅が豊富に存在するため、還元されて得られる銅粒子同士の接合が充分になる。このため、焼成後の導電膜の機械的強度が高くなる。また、還元されて得られる銅粒子によるクラック抑制効果が充分に発揮される。
【0127】
また、上記第2及び第3の実施の形態の分散体においては、還元剤を含み、酸化銅の質量に対する還元剤の質量比が0.0001以上0.10以下であることが好ましい。還元剤の質量比を規定することにより、分散安定性が向上し、かつ銅膜の抵抗が低下すると共に、分散体の長期安定性が向上する。また、クラック発生抑制効果が高く、且つ、銅粒子の間にナノメートルオーダーの酸化銅の超微粒子が入り込み、結合剤として働き易くなる。また、銅粒子自体の機械的強度が小さくなることを防止できる。比較的大きな銅粒子を含み、且つ、分散剤としてリン酸基を有する有機化合物を含むため、比較的小さい酸化銅粒子を含んでいるにも関わらず、凝集し難い。
【0128】
また、上記第1-第3の実施の形態においては、還元剤を含み、還元剤は、ヒドラジン、ヒドラジン水和物、ナトリウム、カーボン、ヨウ化カリウム、シュウ酸、硫化鉄(II)、チオ硫酸ナトリウム、アスコルビン酸、塩化スズ(II)、水素化ジイソブチルアルミニウム、蟻酸、水素化ホウ酸ナトリウム、亜硫酸塩の群から選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましい。これにより、酸化銅の分散安定性が向上するとともに、導電膜の抵抗が低下する。
【0129】
また、還元剤は、ヒドラジンまたはヒドラジン水和物であることが特に好ましい。分散体の還元剤としてヒドラジンまたはヒドラジン水和物を用いることにより、酸化銅の分散安定性がより向上するとともに、焼成において酸化銅の還元に寄与し、導電膜の抵抗がより低下する。また、反転印刷において、分散体の乾燥速度をコントロールできる。また、高精細(例えば、0.1~5μm)の線幅の銅線を形成でき、特に5μm以下の線幅の銅線は、人の目に見えなくなるため、透明導電性フィルムとして好適である。
【0130】
また、第1-第3の実施の形態においては、酸化銅は、酸化第一銅であることが好ましい。これにより、酸化銅の還元が容易になり、還元により生じた銅を容易に焼結することができる。
【0131】
また、第1-第3の実施の形態においては、さらに分散媒を含み、分散媒が、テルピネオール、γーブチロラクトン、シクロヘキサノン、エタノール、プロピレングリコール、ブタノール、プロパノール、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート及びテトラリンからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの分散媒は、還元作用を有していてもよいが、分散体に上記の還元剤が含まれている場合は、分散媒として機能する。
【0132】
また、第1-第3の実施の形態においては、さらに分散媒を含み、分散媒を2種類以上含むことが好ましい。
【0133】
<導電性パターン付構造体>
導電性パターン付構造体は、基板と、基板の表面に形成された導電性パターンと、を具備し、導電性パターンは線幅1μm以上、1000μm以下の配線であり、還元銅、リン及びボイドを含むことを特徴とする。この構成により、後述するように所望の形状の基板に、良好な形状の配線を形成できる。
【0134】
導電性パターン付構造体は、基板と、基板の表面に形成された導電性パターンと、を具備し、導電性パターンは線幅1μm以上、1000μm以下の配線であり、配線は還元銅、銅及びスズを含むことを特徴とする。
【0135】
また、導電性パターン付構造体は、基板と、基板の表面に形成された酸化第一銅含有層と、酸化第一銅含有層の表面に形成された導電性層と、を具備し、導電性層は線幅1μm以上、1000μm以下の配線であり、配線は還元銅を含むことを特徴とする。
【0136】
また、導電性パターン付構造体は、基板と、基板の表面に形成された酸化第一銅含有層と、酸化第一銅含有層の表面に形成された導電性層と、を具備し、導電性層は線幅1μm以上、1000μm以下の配線であり、配線は還元銅、銅及びスズを含むことを特徴とする。酸化第一銅含有層とは、銅と酸素の比Cu/Oが0.5以上3.0以下である層である。導電性パターン付構造体の断面をEDX法によって分析することにより、酸化第一銅含有層におけるCu/Oは定量可能である。
【0137】
導電性パターン付構造体においては、配線がアンテナとして利用できることが好ましい。この構成により、良好な形状のアンテナを形成できる。
【0138】
導電性パターン付構造体においては、導電性層または導電性パターンの表面の一部にハンダ層が形成されていることが好ましい。導電性パターンは、上記の分散体の酸化銅が焼成して形成されているため、焼成工程で、有機バインダが分解されている。このため、導電性パターンにおいて、ハンダのぬれ性が高くなっており、ハンダ層を容易に形成できることから、上記の分散体を用いずに形成された導電性パターンと比べて、導電性パターンにおける電子部品のハンダ付けが容易である。
【0139】
また、導電性パターン付構造体は、基板と、基板の表面に形成された導電性パターンと、を具備し、導電性パターンは線幅1μm以上、1000μm以下の配線であり、還元銅、酸化銅及びリンを含み、配線を覆うように樹脂が配置されていることを特徴とする。
【0140】
(導電性パターン付構造体の構成)
第1-第3の実施の形態に係る分散体を用いた際、焼成の方法により、2種類の導電性パターン付構造体を得ることができる。
図2は、本実施の形態に係る導電性パターン付構造体を示す断面模式図である。基板上に上記の分散体で塗膜を形成し、分散体の酸化銅粒子をレーザ照射で焼成することで、
図2Aの導電性パターン付構造体を得ることができる。基板上に分散体で所望のパターンを印刷し、これをプラズマで焼成することで、
図2Bの導電性パターン付構造体を得ることができる。
【0141】
図2Aに示すように、導電性パターン付構造体10は、基板11と、基板11が構成する面上に、断面視において、酸化銅及びリン含有有機物を含む絶縁領域12と、酸化銅が焼成で還元された還元銅を含む導電性パターン領域13と、が互いに隣接して配置された表層14と、を具備していてもよい。導電性パターン領域13には、分散剤としてのリン含有有機物に由来するリン元素が含まれている。導電性パターン領域13は、分散体としての酸化銅インクを焼成することにより形成されるため、焼成の工程で分散体に含まれる有機バインダが分解され、得られる導電性パターン領域13において、ハンダのぬれ性が高くなる。よって、導電性パターン領域13の表面には、分散体を用いずに形成された導電性パターンと比べて、後述するハンダ層が容易に形成でき、電子部品のハンダ付けが容易である。
【0142】
図2Bに示すように、導電性パターン付構造体10は、基板11と、基板11が構成する面上に、断面視において、還元銅を含む導電性パターン領域13と、を具備していてもよい。導電性パターン領域13には、リン元素が含まれている。導電性パターン領域13は、分散体の焼成の工程で、分散体に含まれる有機バインダが効果的に分解されるため、導電性パターン領域13において、ハンダのぬれ性が効果的に高くなる。よって、導電性パターン領域13の表面には、ハンダ層がより容易に形成できる。
【0143】
また、導電性パターン領域13には、焼成の工程で、還元されなかった酸化銅粒子としての例えば酸化第一銅が一部含まれていてもよい。導電性パターン領域13には、第2及び第3の実施の形態の分散体の銅粒子が焼成された銅が含まれていてもよく、また、スズが含まれていてもよい。また、絶縁領域12及び導電性パターン領域13には、ボイドが含まれていてもよい。導電性パターン領域13にボイド(空壁)があることで、そこにハンダが入り込み、導電性パターン領域13とハンダ層との密着性が向上する。ちなみに、ハンダとはスズを含む金属をいう。
【0144】
また、表層14は、全体が均質であることを意味するものではなく、絶縁領域12と導電性パターン領域13との関係のように、電気導電性、粒子状態(焼成と未焼成)等に違いがあってもよいし、両者の間に境界(界面)が存在していてもよい。
【0145】
この場合、例えば、
図2Cに示すように、導電性層18においては、基板11の表面に、焼成の工程で還元されなかった、酸化銅粒子としての例えば酸化第一銅が含まれる酸化第一銅含有層17が形成されていてもよい。酸化第一銅含有層17の表面には、酸化銅粒子が還元された還元銅を含む導電性層18が形成される。このように、酸化第一銅含有層17が形成されることで、基板11と導電性層18との密着性が向上するため、好ましい。酸化第一銅含有層17の層厚みは、基板11と導電性層18との密着性の観点から、0.005μm以上、8μm以下が好ましく、0.05μm以上、5μm以下がより好ましく、0.1μm以上、3μm以下が更により好ましく、0.2μm以上、1μm以下が特に好ましい。
【0146】
また、
図2Dに示すように、導電性層18には、酸化銅粒子が還元された還元銅(Cu)とともに、第2及び第3の実施の形態の分散体の銅粒子が焼成された銅(Cu
P)が含まれていてもよい。また、導電性層18には、ボイドが含まれていてもよい。導電性層18にボイドがあることで、ハンダに含まれるスズ(Sn)がボイドに入り込む。これにより、導電性層18とハンダ層との密着性が向上する。さらに、銅(Cu
P)の周辺に、還元銅(Cu)があることで、導電性層18とスズ(Sn)との密着性がさらに増す。このときの還元銅(Cu)の粒子径は、5~20nmであることが好ましい。
【0147】
また、導電性パターン領域13及び導電性層18に含まれる銅のグレインサイズは、0.1μm以上100μm以下であることが好ましく、0.5μm以上50μm以下がさらに好ましく、1.0μm以上10μm以下が特に好ましい。ここで、グレインサイズとは、焼成した後の金属の大きさのことを言う。これにより、導電性パターン領域13及び導電性層18とハンダ層の密着性が高くなる。
【0148】
また、導電性パターン領域13及び導電性層18の表面の表面粗さは、500nm以上4000nm以下であることが好ましく、750nm以上3000nm以下であることがより好ましく、1000nm以上2000nm以下であることが更により好ましい。これにより、導電性パターン領域13及び導電性層18にハンダ層がのりやすく、導電性パターン領域13及び導電性層18とハンダ層との密着性が高くなる。
【0149】
図2のように導電性パターン領域13または導電性層18を形成することにより、線幅が0.1μm以上、1cm以下の配線を描くことができ、銅配線またはアンテナとして利用できる。上記の分散体に含まれる酸化銅粒子のナノ粒子の特長をいかし、導電性パターン領域13または導電性層18の線幅は、0.5μm以上、10000μm以下であることがより好ましく、1μm以上、1000μm以下であることが更に好ましく、1μm以上、500μm以下であることが更により好ましく、1μm以上、100μm以下であることが一層より好ましく、1μm以上、5μm以下が特に好ましい。線幅が5μm以下だと、配線としての導電性パターン領域13または導電性層18の視認ができなくなるため、意匠性の観点から好ましい。
【0150】
また、導電性パターンはメッシュ形状に形成されていてもよい。メッシュ状とは格子状の配線のことで、透過率が高くなり、透明になるため好ましい。
【0151】
本実施の形態で用いられる基板は、塗膜を形成する表面を有するものであって、板形状を有していてもよく、立体物であってもよい。本実施の形態においては、立体物が構成する曲面又は段差等を含む面に導電性パターンを形成することもできる。本実施の形態における基板は、配線パターンを形成するための回路基板シートの基板材料、または配線付き筐体の筐体材料等を意味する。
【0152】
また、表層14または導電性パターン領域13を覆うようにして光線透過性の樹脂層(不図示)が設けられていてもよい。樹脂層は、後述の導電性パターン付構造体10の製造方法において、光照射の際に塗膜が酸素に触れるのを防止し、酸化銅の還元を促進できる。これにより、光照射のときに塗膜の周囲を無酸素又は低酸素雰囲気にする、例えば、真空雰囲気又は不活性ガス雰囲気のための設備が不要になり、製造コストを削減できる。また、樹脂層は、光照射の熱等によって導電性パターン領域13が剥離又は飛散するのを防止できる。これにより、導電性パターン付構造体10を歩留まりよく製造できる。
【0153】
<導電性パターン付構造体の製造方法>
導電性パターン付構造体の製造方法は、上記の分散体を、基板上に塗布して塗膜を形成する工程と、塗膜にレーザ光を照射し、基板上に導電性パターンを形成する工程と、を具備することを特徴とする。焼成をレーザ照射で行うことにより、分散体の銅粒子の焼成と、導電性パターンの形成を一度に行うことができる。
【0154】
また、導電性パターン付構造体の製造方法は、上記の分散体を所望のパターンで基板上に塗布して、塗膜を形成する工程と、塗膜を焼成処理して、基板上に導電性パターンを形成する工程と、を具備することを特徴とする。
【0155】
このとき、焼成処理は、還元性ガスを含む雰囲気下でプラズマを発生させて行うことが好ましい。また、焼成処理は、光照射法により行うことが好ましい。また、焼成処理は、100℃以上の熱で塗膜を加熱することにより行うことが好ましい。
【0156】
[導電膜(導電性パターン)形成方法]
本実施の形態の導電膜の形成方法は、塗膜における酸化銅を還元し銅を生成させ、これ自体の融着、及び分散体としての酸化銅インクに加えられている銅粒子との融着、一体化、により導電膜(銅膜)を形成するものである。この工程を焼成と呼ぶ。従って、酸化銅の還元と融着、銅粒子との一体化による導電膜の形成ができる方法であれば特に制限はない。本実施の形態の導電膜の形成方法における焼成は、例えば、焼成炉で行ってもよいし、プラズマ、赤外線、フラッシュランプ、レーザなどを単独もしくは組み合わせて用いて行ってもよい。焼成後には、導電膜の一部に、後述するハンダ層の形成が可能となる。
【0157】
図3を参照して、本実施の形態に係る焼成にレーザ照射を用いた場合の導電性パターン付構造体の製造方法について、より具体的に説明する。
図3は、本実施の形態に係る導電性パターン付構造体の製造方法において焼成にレーザ照射を用いた場合の各工程を示す説明図である。
図3中(a)において、水、プロピレングリコール(PG)の混合溶媒中に酢酸銅を溶かし、ヒドラジンを加えて攪拌する。
【0158】
次に、
図3中(b)、(c)において、遠心分離で上澄みと沈殿物に分離した。次に、
図3中(d)において、得られた沈殿物に、分散剤及びアルコールを加え、分散する。
【0159】
次いで、
図3中(e)、(f)において、UF膜モジュールによる濃縮及び希釈を繰り返し、溶媒を置換し、酸化銅を含有する分散体I(酸化銅インク)を得る。
【0160】
図3中(g)、(h)において、分散体Iをスプレーコート法により例えばPET製の基板(
図3(h)中、「PET」と記載する)上に塗布し、酸化銅及びリン含有有機物を含む塗布層(塗膜)(
図3(h)中、「Cu
2O」と記載する)を形成する。
【0161】
次に、
図3中(i)において、塗布層に対して、例えばレーザ照射を行い、塗布層の一部を選択的に焼成し、酸化銅を銅(
図3(i)中、「Cu」と記載する)に還元する。この結果、
図3中(j)において、基板上に、酸化銅及びリン含有有機物を含む絶縁領域(
図3(j)中、「A」と記載する)と、銅及びリン元素を含む導電膜(導電性パターン)領域(
図3(j)中、「B」と記載する)と、が互いに隣接して配置された表層が形成された導電性パターン付構造体が得られる。導電性パターン領域は、配線として利用できる。
【0162】
また、導電性パターン領域には、焼成の工程で、還元されなかった酸化銅粒子としての例えば酸化第一銅が含まれていてもよい。絶縁領域及び導電性パターン領域には、第2及び第3の実施の形態の分散体の銅粒子が焼成された銅が含まれていてもよく、スズが含まれていてもよい。また、絶縁領域及び導電性パターン領域には、ボイドが含まれていてもよい。導電性パターン領域にボイドがあることで、そこにハンダが入り込み、導電性パターン領域とハンダ層との密着性が向上する。
【0163】
また、表層は、全体が均質であることを意味するものではなく、絶縁領域と導電性パターン領域との関係のように、電気導電性、粒子状態(焼成と未焼成)等に違いがあってもよいし、両者の間に境界(界面)が存在していてもよい。基板と表層の間に、還元されなかった酸化銅の層が形成されることで、基板と表層との密着性が向上するため、好ましい。
【0164】
このように、焼成をレーザ照射で行うことにより、分散体の銅粒子の焼成と、導電性パターン領域の形成を一度に行うことができる。また、銅粒子の焼成により、分散体に含まれる有機バインダが分解されるため、得られた導電性パターンにおいて、ハンダのぬれ性が高くなる。
【0165】
次に、
図4を参照して、本実施の形態に係る焼成にプラズマを用いた場合の導電性パターン付構造体の製造方法について、より具体的に説明する。
図4は、本実施の形態に係る導電性パターン付構造体の製造方法において焼成にプラズマを用いた場合の各工程を示す説明図である。
図4中(a)-(f)の工程については、
図3と同様である。
【0166】
図4中(g)、(k)において、例えばPET製の基板上に、分散体Iを、例えば、インクジェット印刷により所望のパターンで印刷し、酸化銅及びリン含有有機物を含む塗布層(
図3(k)中、「Cu
2O」と記載する)を形成する。
【0167】
次に、
図4中(k)において、塗布層に対して、例えばプラズマ照射を行い、塗布層を焼成し、酸化銅を銅に還元する。この結果、
図4中(l)において、基板上に、銅及びリン元素を含む導電性パターン領域(
図4(l)中、「B」と記載する)が形成された導電性基板が得られる。
【0168】
このように、焼成をプラズマ照射で行うことにより、インクジェット印刷等で所望のパターンで印刷した分散体の銅粒子の焼成を行うことができる。また、分散体に含まれる有機バインダが効果的に分解されるため、得られた導電性パターンにおいて、ハンダのぬれ性が効果的に高くなる。
【0169】
(分散体による基板への塗膜の形成方法)
また、導電性パターン付構造体の製造方法においては、所望のパターンの形成は、分散体を、エアロゾル法によって塗布することにより行われることが好ましく、また、分散体を、スクリーン印刷によって塗布することにより行われることが好ましい。第1-第3の形態に係る分散体は、粘度及び流動特性がスクリーン印刷に適しているので、スクリーン印刷に好適に用いることができる。
【0170】
また、導電性パターン付構造体の製造方法においては、塗膜を、転写体に形成した後、転写体から基板に転写して、塗膜を基板上に形成することが好ましい。
【0171】
図5は、本実施の形態に係る転写体を用いた塗膜の形成方法を説明する図である。
図6は、本実施の形態に係る転写体を用いた塗膜の形成方法の他の例を説明する図である。
【0172】
図5に示すように、分散体31を、所望のパターンで転写体30に転写する。そして、転写体30の分散体31が転写された面に、例えば円柱状の基板40(断面視円形状)を載置した後、基板40に押圧板50を被せる。押圧板50で基板40を転写体30に押圧しながら、基板40を転写体30上で回転させる。これにより、転写体30の分散体31が、基板40に転写される。
【0173】
このように、転写体30の分散体31が転写された面に、基板40を押圧する際に、転写体30と基板40は線接触する。このため、基板40の印刷面が、平面の場合だけでなく、湾曲面であったり、印刷面に起伏がある場合であっても、精細な印刷が可能となる。
【0174】
また、
図6Aに示すように、分散体31を、所望のパターンで転写体30に転写する。そして、転写体30を基板40に押圧しながら、転写体30を印刷方向に、基板40に対して相対的に移動させることによって、
図6Bに示すように、転写体30の分散体31を基板40に転写してもよい。転写体30は、
図5に示すように板状であってもよいし、
図6に示すように曲面を有していてもよい。このように、所定の押圧力で、転写体30から基板40に分散体31の転写が行われるので、基板40の印刷面が湾曲している場合であっても、良好な印刷が可能となる。
【0175】
また、導電性パターン付構造体の製造方法における所望のパターンの形成は、分散体を、転写体に塗布した後、転写体に凸部を接触させ、不要な分散体を取り除いて、転写体の表面に所望のパターンを形成する工程と、転写体の表面に基板を接触させることで、基板に所望のパターンを転写する工程と、を有することを特徴とすることが好ましい。
【0176】
図7を用いて、転写体への所望のパターンの形成方法について説明する。
図7は、本実施の形態に係る転写体にパターンを形成する方法を説明する図である。
【0177】
図7に示すように、転写体30の表面に塗布された分散体31に、例えばモールドの凸部60を接触させることにより、凸部60が接触した部分の分散体を、転写体30の表面から取り除く。これにより、転写体30の表面に分散体31の所望のパターンが形成される。そして、この所望のパターンが形成された転写体30を基板40に接触させることにより、基板40に所望のパターンを転写できる(
図3及び
図4B参照)。分散体31の転写体30の表面への塗布方法は、分散体31を転写体30の表面に均一に塗布できれば、特に限定されない。
【0178】
また、導電性パターン付構造体は、導電性パターンがアンテナであることが好ましい。また、導電性パターンはメッシュ形状に形成されてもよい。また、導電性パターンは線幅1μm以上、1000μm以下であることが好ましい。
【0179】
また、導電性パターン付構造体の製造方法においては、さらに、導電性パターンの表面の一部にハンダ層を形成する工程を含むことが好ましい。銅の焼成工程で、塗膜に含まれる有機バインダが分解されるため、得られた導電性パターンの表面において、ハンダのぬれ性が高くなり、ハンダ層を容易に形成できる。
【0180】
また、導電性パターン付構造体の製造方法においては、リフロー法により、ハンダ層を介して電子部品を導電性パターン上にハンダ付けすることが好ましい。
【0181】
また、導電性パターン付構造体の製造方法において、還元性ガスを含む雰囲気下でプラズマを発生させるプラズマ焼成法又は光照射法により、焼成処理を行うことにで、構造体に耐熱性が低い材料を用いることが可能である。
【0182】
また、導電性パターン付構造体の製造方法において、焼成処理を行うことにより、酸化銅の還元、銅粒子の焼成だけでなく、分散体に含まれる有機物が分解されるため、抵抗率の上昇を防ぎ、また、導電膜の表面から有機物及び酸化膜を除去し、ハンダ付け性を改善できる。焼成処理によって、ハンダ付け性を悪化させる分散媒等の有機成分が分解するため、導電膜に対するハンダのぬれ性が高くなり、ハンダ付けが容易になる。よって、ハンダ付け性に優れた導電膜を備えた導電性パターン付構造体を得ることができる。導電膜の有機成分の分解には、特に、還元性ガスを含む雰囲気下でプラズマを発生させる焼成処理がより好ましい。
【0183】
次に、第1-第3の実施の形態に係る分散体の構成要素についてさらに詳細に説明する。
【0184】
[分散体]
次に、分散体としての酸化銅インクにおける酸化銅と分散剤の状態について、
図8を用いて説明する。
図8は、本実施の形態に係る酸化銅とリン酸エステル塩との関係を示す模式図である。
【0185】
図8に示すように、分散体1において、酸化銅の一例である酸化銅2の周囲には、分散剤としての例えばリン含有有機物の一例であるリン酸エステル塩3が、リン3aを内側に、エステル塩3bを外側にそれぞれ向けて取り囲んでいる。リン酸エステル塩3は電気絶縁性を示すため、隣接する酸化銅2との間の電気的導通は妨げられる。また、リン酸エステル塩3は、立体障害効果により分散体1の凝集を抑制する。
【0186】
したがって、酸化銅2は半導体であり導電性であるが、電気絶縁性を示すリン酸エステル塩3で覆われているので、分散体1は電気絶縁性を示し、断面視(
図2中に示す上下方向に沿った断面)で、分散体1の両側に隣接する導電性パターン領域(後述)の間の絶縁を確保することができる。
【0187】
一方、導電性パターン領域は、酸化銅及びリン含有有機物を含む塗膜の一部の領域に光照射し、当該一部の領域において、酸化銅を銅に還元する。このように酸化銅が還元された銅を還元銅という。また、当該一部の領域において、リン含有有機物は、リン酸化物に変性する。リン酸化物では、上述のエステル塩3bのような有機物は、レーザなどの熱によって分解し、電気絶縁性を示さないようになる。
【0188】
また、
図8に示すように、酸化銅2が用いられている場合、レーザなどの熱によって、酸化銅が還元銅に変化すると共に焼結し、隣接する酸化銅2同士が一体化する。これによって、優れた電気導電性を有する領域(以下、「導電性パターン領域」という)を形成することができる。
【0189】
導電性パターン領域において、還元銅の中にリン元素が残存している。リン元素は、リン元素単体、リン酸化物及びリン含有有機物のうち少なくとも1つとして存在している。このように残存するリン元素は導電性パターン領域中に偏析して存在しており、導電性パターン領域の抵抗が大きくなる恐れはない。
【0190】
[酸化銅]
本実施形態においては金属酸化物成分の一つとして酸化銅を用いる。酸化銅としては、酸化第一銅(Cu2O)が好ましい。これは、金属酸化物の中でも還元が容易で、さらに微粒子を用いることで焼結が容易であること、価格的にも銅であるがゆえに銀などの貴金属類と比較し安価で、マイグレーションに対し有利であるためである。
【0191】
本実施の形態に係る分散体は、平均二次粒子径が1nm以上500nm以下の酸化銅粒子を含む。
【0192】
酸化銅の平均二次粒子径は、特に制限されないが、好ましくは500nm以下、より好ましくは200nm以下、さらに好ましくは80nm以下である。酸化銅の平均二次粒子径は、好ましくは1nm以上、より好ましくは5nm以上、さらに好ましくは10nm以上、特に好ましくは15nm以上である。ここで、平均二次粒子径とは、一次粒子が複数個集まって形成される凝集体(二次粒子)の平均粒子径のことである。
【0193】
この平均二次粒子径が500nm以下であると、基板上に微細パターンを形成し易い傾向があるので好ましい。平均二次粒子径が1nm以上であれば、分散体としての酸化銅インクの長期保管安定性が向上するため好ましい。酸化銅の平均二次粒子径は、例えば大塚電子製FPAR-1000を用いてキュムラント法によって測定することができる。
【0194】
また、酸化銅の平均一次粒子径の好ましい範囲は、これを還元処理することにより得られる金属の緻密性、電気的特性の観点から、さらには焼成条件を樹脂基板の使用を考慮して基板に与えるダメージを低減する観点から、より低温化する必要がある。このため、好ましい平均一次粒子径は100nm以下であり、より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは20nm以下である。平均一次粒子径が100nm以下の場合、後述する焼成処理において、基板にダメージを与えないよう投入エネルギーを低減できる。酸化第一銅の平均粒子一次径の下限値は特に制限はないが、取り扱いの容易性から1nm以上が好ましく、5nm以上がより好ましい。これにより、粒子径が小さ過ぎることから分散安定性を保つために分散剤使用量が増大することを抑えられるため、焼成処理が容易になる。平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡又は走査型電子顕微鏡によって測定することができる。平均一次粒子径は、例えば、透過型電子顕微鏡又は走査型電子顕微鏡によって測定できる。
【0195】
分散体における酸化銅は、プラズマ処理、100℃以上の熱処理、光処理により容易に還元され金属になり、これが焼結することにより導電性を得るが、さらに添加されている銅粒子に対し結合剤として働き一体化することで、低抵抗化、強度の向上に寄与するものである。なお、本実施の形態において、酸化第一銅粒子の平均粒小径は、後述する針金状、樹枝状、及び鱗片状の形状を有する銅粒子によるクラック防止効果には影響しない。
【0196】
酸化第一銅に関しては、市販品を用いてもよいし、合成して用いてもよい。市販品として、(株)希少金属材料研究所製の平均一次粒子径5~50nmのものがある。合成法としては、次の方法が挙げられる。
(1)ポリオール溶剤中に、水と銅アセチルアセトナト錯体を加え、いったん有機銅化合物を加熱溶解させ、次に、反応に必要な水を後添加し、さらに昇温して有機銅の還元温度で加熱する加熱還元する方法。
(2)有機銅化合物(銅-N-ニトロソフェニルヒドロキシアミン錯体)を、ヘキサデシルアミンなどの保護材存在下、不活性雰囲気中で、300℃程度の高温で加熱する方法。
(3)水溶液に溶解した銅塩をヒドラジンで還元する方法。
この中では(3)の方法は操作が簡便で、かつ、平均粒小径の小さい酸化第一銅が得られるので好ましい。
【0197】
得られた酸化第一銅は軟凝集体であるため、分散媒に分散させた酸化銅分散体を作製し、印刷、塗布に用いられる。合成終了後、合成溶液と酸化第一銅の分離を行うが、遠心分離などの既知の方法を用いればよい。また、得られた酸化第一銅を後述の分散剤、分散媒を加えホモジナイザーなど既知の方法で攪拌し分散する。分散媒によっては分散し難く分散が不充分な場合があるが、このような場合は一例として、分散しやすいアルコール類、例えばブタノールなどの分散媒を用い分散させた後、所望の分散媒への置換と所望の濃度への濃縮を行う。方法の一例としてUF膜による濃縮、所望の分散媒による希釈、濃縮を繰り返す方法が挙げられる。このようにして得られた酸化銅分散体は、後述の方法で銅粒子などと混合してもよく、本実施の形態の分散体とすることができる。この分散体が印刷、塗布に用いられる。
【0198】
[銅粒子]
第2の実施の形態に係る分散体は、粒子径が0.1μm以上100μm以下の銅粒子を含む。
【0199】
第3の実施の形態に係る分散体は、一方向に伸長した形状、樹枝状又は扁平な形状を有する銅粒子の少なくとも1種を含む。
【0200】
このように分散体に、銅粒子を用いるのは、酸化第一銅から還元されて得られる金属銅と同じ金属であることから、銅食われや金属間化合物の形成が問題にならないこと、及び、最終的に得られる導電性パターンの電気導電性が良好であり、且つ、機械的強度が充分であることが理由に挙げられる。
【0201】
なお、一方向に伸長した形状を有する粒子及び樹枝状の形状を有する粒子の平均粒子径は、レーザ回折散乱法を用いた粒度分布測定装置を用いて測定される平均粒径(メジアン径、質量基準、D50)である。また、扁平な形状を有する粒子の平均一次粒子径は、その主面を面積が等しい円とみなしたときの当該円の直径である。
【0202】
銅粒子の粒子径は、本実施の形態の範囲内において、パターンの形状及びサイズに従って、例えば、パターンが線で構成される場合はその太さ及びピッチに従って、決定すればよい。また、銅粒子の粒子径は、塗布膜の形成方法、すなわち、印刷方法又は塗布方法を考慮して決定すればよい。
【0203】
特にスクリーン印刷においては、分散体中に含まれる成分、特に銅粒子をスクリーンメッシュに目詰まりさせることなく、通過させることが重要であり、版のメッシュサイズを考慮して粒子径を選定する必要がある。粒子が大きすぎれば、スクリーンメッシュへの目詰まりが発生し、粒子が抜けることによるピンホールの発生、及び、塗布膜の表面の平滑性の悪化が問題となる。特に、塗布膜のパターンを細いラインで構成する場合、スクリーンにメッシュ数の大きいメッシュが使用され、その結果、開口部寸法が小さくなるため、目詰まりによるピンホール発生による断線の発生が問題になる。
【0204】
銅粒子は、金属銅のみで構成されている以外に、その表面を銅酸化物(酸化第一銅又は酸化第二銅)、若しくは、銀又は銀酸化物などの異種金属又はその酸化物で被覆したものを用いてもよく、これらを用いてもクラック発生を抑制する効果は充分発揮される。すなわち、銅粒子の表面を、銅酸化物又は銀酸化物等で被覆しても、焼成時に容易に還元されるため、導電膜の導通性を保つことができる。
【0205】
本実施の形態に係る銅粒子としては、市販のものを用いてもよいし、合成して用いてもよい。
【0206】
市販品として、例えば、一方向に伸長した形状の銅粒子として三井金属鉱業株式会社製の電解銅粉EAZ-2T、樹枝状銅粒子として三井金属鉱業株式会社製の電解銅粉EAX-2、扁平な形状を有する銅粒子として三井金属鉱業株式会社製の1400YPを挙げることができる。
【0207】
[銅粒子質量比率]
第2及び第3の実施の形態に係る分散体において、酸化銅粒子の質量に対する銅粒子の質量比(以下、銅粒子質量比率と記載する)が、0.5以上10以下であることが好ましく、1.0以上7.0以下であることがより好ましく、1.5以上6.0以下がさらに好ましく、2.0以上5.0以下が特に好ましい。銅粒子質量比率がこの範囲内であれば、酸化第一銅が豊富に存在するため、還元されて得られる銅粒子同士の接合が充分になるため、焼成後の導電膜の機械的強度が高くなる。また、還元されて得られる銅粒子によるクラック抑制効果が充分に発揮される。
【0208】
分散体が他の金属粒子を含む場合は銅粒子との合計で、他の金属酸化物粒子を含む場合は酸化銅との合計で、銅粒子質量比率をそれぞれ決定する。
【0209】
[分散剤]
次に分散剤について説明する。分散剤としては、例えば、リン含有有機物が挙げられる。リン含有有機物は酸化銅に吸着してもよく、この場合立体障害効果により凝集を抑制する。また、リン含有有機物は、絶縁領域において電気絶縁性を示す材料である。リン含有有機物は、単一分子であってよいし、複数種類の分子の混合物でもよい。
【0210】
また、分散剤の酸価は、20以上、130以下であることが好ましい。これにより、分散剤の酸価の範囲を限定することで、分散体の分散安定性が効果的に向上する。
【0211】
また、分散体において、酸化銅粒子の質量に対する有機化合物の質量比が0.0050以上0.30以下であることが好ましい。
【0212】
分散剤の数平均分子量は、特に制限はないが、好ましくは300以上、より好ましくは500以上、さらに好ましくは1000以上である。分散剤の数平均分子量は、特に制限はないが、好ましく30000以下、より好ましくは20000以下、さらに好ましくは10000以下である。300以上であると、絶縁性に優れ、得られる分散体の分散安定性が増す傾向があり、30000以下であると、焼成しやすい。また、構造としては酸化銅に親和性のある基を有する高分子量共重合物のリン酸エステルが好ましい。例えば、化学式(1)の構造は、酸化銅、特に酸化第一銅と吸着し、また基板への密着性にも優れるため、好ましい。
【0213】
【0214】
リン含有有機物は、光や熱によって分解又は蒸発しやすいものであることが好ましい。光や熱によって分解又は蒸発しやすい有機物を用いることによって、焼成後に有機物の残渣が残りにくくなり、抵抗率の低い導電性パターン領域を得ることができる。
【0215】
リン含有有機物の分解温度は、限定されないが、600℃以下であることが好ましく、400℃以下であることがより好ましく、200℃以下であることがさらに好ましい。リン含有有機物の沸点は、限定されないが、300℃以下であることが好ましく、200℃以下であることがより好ましく、150℃以下であることがさらに好ましい。
【0216】
リン含有有機物の吸収特性は、限定されないが、焼成に用いる光を吸収できることが好ましい。例えば、焼成のための光源としてレーザ光を用いる場合は、その発光波長の、例えば355nm、405nm、445nm、450nm、532nm、1056nmなどの光を吸収するリン含有有機物を用いることが好ましい。基板が樹脂の場合、特に好ましくは、355nm、405nm、445nm、450nmの波長である。
【0217】
分散剤としては公知のものを用いることができ、例えば、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、不飽和ポリカルボン酸ポリアミノアマイド、ポリアミノアマイドのポリカルボン酸塩、長鎖ポリアミノアマイドと酸ポリマーの塩などの塩基性基を有する高分子が挙げられる。また、アクリル系ポリマー、アクリル系共重合物、変性ポリエステル酸、ポリエーテルエステル酸、ポリエーテル系カルボン酸、ポリカルボン酸などの高分子のアルキルアンモニウム塩、アミン塩、アミドアミン塩などが挙げられる。このような分散剤としては、市販されているものを使用することもできる。
【0218】
上記市販品としては、例えば、DISPERBYK(登録商標)―101、DISPERBYK―102、DISPERBYK-110、DISPERBYK―111、DISPERBYK―112、DISPERBYK-118、DISPERBYK―130、DISPERBYK―140、DISPERBYK-142、DISPERBYK―145、DISPERBYK―160、DISPERBYK―161、DISPERBYK―162、DISPERBYK―163、DISPERBYK―2155、DISPERBYK―2163、DISPERBYK―2164、DISPERBYK―180、DISPERBYK―2000、DISPERBYK―2025、DISPERBYK―2163、DISPERBYK―2164、BYK―9076、BYK―9077、TERRA-204、TERRA-U(以上ビックケミー社製)、フローレンDOPA-15B、フローレンDOPA-15BHFS、フローレンDOPA-22、フローレンDOPA-33、フローレンDOPA-44、フローレンDOPA-17HF、フローレンTG-662C、フローレンKTG-2400(以上共栄社化学社製)、ED-117、ED-118、ED-212、ED-213、ED-214、ED-216、ED-350、ED-360(以上楠本化成社製)、プライサーフM208F、プライサーフDBS(以上第一工業製薬製)などを挙げることができる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0219】
分散剤の必要量は、酸化銅の量に比例し、要求される分散安定性を考慮し調整する。本実施形態の分散体に含まれる分散剤の質量比率(分散剤質量/酸化銅質量)は、0.0050以上0.30以下であり、好ましくは0.050以上0.25以下であり、より好ましくは0.10以上0.23以下である。分散剤の量は分散安定性に影響し、量が少ないと凝集しやすく、多いと分散安定性が向上する傾向がある。但し、本実施形態の分散体における分散剤の含有率を35質量%以下にすると、焼成して得られる導電膜において分散剤由来の残渣の影響を抑え、導電性を向上できる。
【0220】
分散剤の酸価(mgKOH/g)は20以上、130以下が好ましい。より好ましくは30以上、100以下が好ましい。この範囲に入ると分散安定性に優れるため好ましい。特に平均粒子径が小さい酸化銅の場合に有効である。具体的には、ビックケミ―社製「DISPERBYK―102」(酸価101)、「DISPERBYK-140」(酸価73)、「DISPERBYK-142」(酸価46)、「DISPERBYK-145」(酸価76)、「DISPERBYK-118」(酸価36)、「DISPERBYK-180(酸価94)などが挙げられる。
【0221】
また、分散剤のアミン価(mgKOH/g)と酸価の差(アミン価-酸価)は-50以上0以下であることが好ましい。アミン価は、遊離塩基、塩基の総量を示すものであり、酸価は、遊離脂肪酸、脂肪酸の総量を示すものである。アミン価、酸価はJIS K 7700あるいはASTM D2074に準拠した方法で測定する。-50以上0以下だと分散安定性に優れるため、好ましい。より好ましくは-40以上0以下であり、さらに好ましくは-20以上0以下である。
【0222】
[還元剤]
次に還元剤について説明する。還元剤としては、ヒドラジン、ヒドラジン水和物、ナトリウム、カーボン、ヨウ化カリウム、シュウ酸、硫化鉄(II)、チオ硫酸ナトリウム、アスコルビン酸、塩化スズ(II)、水素化ジイソブチルアルミニウム、蟻酸、水素化ホウ酸ナトリウム、亜硫酸塩などが挙げられる。焼成において、酸化銅、特に酸化第一銅の還元に寄与し、より抵抗の低い銅膜を作製することができる観点から、還元剤は、ヒドラジンまたはヒドラジン水和物であることが最も好ましい。また、ヒドラジンまたはヒドラジン水和物を用いることにより、分散体の分散安定性を維持でき、銅膜の抵抗を低くできる。
【0223】
還元剤の必要量は酸化銅の量に比例し、要求される還元性を考慮し調整する。本実施の形態の分散体に含まれる還元剤の質量比率(還元剤質量/酸化銅質量)は、0.0001以上0.10以下が好ましく、より好ましくは0.0001以上0.05以下、さらに好ましくは0.0001以上0.03以下である。還元剤の質量比率は、0.0001以上だと分散安定性が向上し、かつ銅膜の抵抗が低下する。また、0.10以下だと分散体の長期安定性が向上する。
【0224】
[分散媒]
本実施の形態の分散体は、上述の構成成分の他に、分散媒(溶媒)が含まれていてもよい。
【0225】
第1-第3の実施の形態に係る分散体に用いられる分散媒は、テルピネオール、γーブチロラクトン、シクロヘキサノン、エタノール、プロピレングリコール、ブタノール、プロパノール、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート及びテトラリンからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。また、これらの分散媒を2種類以上含むことがより好ましい。
【0226】
これらの分散媒は、沸点が高いため、印刷連続性の向上という効果を奏する。これらの分散媒は、還元作用を有していてもよいが、分散体に上記の還元剤が含まれている場合は、分散媒として機能する。
【0227】
第1-第3の実施の形態に用いられる分散媒は、分散という観点から分散剤の溶解が可能なものの中から選択する。一方、分散体を用いて導電性パターンを形成するという観点からは、分散媒の揮発性が作業性に影響を与えるため、導電性パターンの形成方法、例えば印刷や塗布の方式に適するものである必要がある。従って、分散媒は分散性と印刷や塗布の作業性に合わせて下記の溶剤から選択することができる。
【0228】
分散媒の具体例としては、以下の溶剤を挙げることができる。プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3-メトキシ-3-メチル-ブチルアセテート、エトキシエチルプロピオネート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールターシャリーブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、2-ペンタンジオール、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、2,5-ヘキサンジオール、2,4-ヘプタンジオール、2-エチルヘキサン-1,3-ジオール、ジエチレングリコール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、トリエチレングリコール、トリ-1,2-プロピレングリコール、グリセロール、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、2-ブタノール、t-ブタノール、n-ペンタノール、i-ペンタノール、2-メチルブタノール、2-ペンタノール、t-ペンタノール、3-メトキシブタノール、n-ヘキサノール、2-メチルペンタノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、2-エチルブタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、3-ヘプタノール、n-オクタノール、2-エチルヘキサノール、2-オクタノール、n-ノニルアルコール、2、6ジメチル-4-ヘプタノール、n-デカノール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、3、3、5-トリメチルシクロヘキサノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコールなどが挙げられる。これらに具体的に記載したもの以外にも、アルコール、グリコール、グリコールエーテル、グリコールエステル類溶剤を分散媒に用いることができる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよく、印刷方式に応じ蒸発性や、印刷機材、被印刷基板の耐溶剤性を考慮し選択する。
【0229】
分散媒として、炭素数10以下のモノアルコールがより好ましく、さらに炭素数8以下が好ましい。炭素数8以下のモノアルコール中でも、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、sec-ブタノール、t-ブタノールが分散性、揮発性及び粘性が特に適しているのでさらに好ましい。これらのモノアルコールを単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。酸化銅の分散性の低下を抑制するため、さらに分散剤との相互作用により、より安定に分散させるためにもモノアルコールの炭素数は8以下であることが好ましい。また、炭素数は8以下を選択すると抵抗値も低くなり好ましい。
【0230】
ただし、沸点は溶剤の作業性に影響を与える。沸点が低すぎれば揮発が速いため、固形物の析出による欠陥の増加や清掃頻度の増大により作業性が悪化する。このため、塗布、ディスペンサー方式では沸点が40℃以上、インクジェット方式、スクリーン方式、オフセット方式では120℃以上、より好ましくは150℃以上、さらに好ましくは200℃以上がよく、沸点の上限としては、乾燥の観点から300℃以下が好ましい。
【0231】
[酸化銅と銅を含む分散体の調整]
酸化第一銅と銅粒子を含む分散体、すなわち分散体は、前述の酸化銅分散体に、銅微粒子、必要に応じ分散媒を、それぞれ所定の割合で混合し、例えば、ミキサー法、超音波法、3本ロール法、2本ロール法、アトライター、ホモジナイザー、バンバリーミキサー、ペイントシェイカー、ニーダー、ボールミル、サンドミル、自公転ミキサーなどを用いて分散処理することにより調整することができる。
【0232】
分散媒の一部は既に作成した酸化銅分散体に含まれているため、この酸化銅分散体に含まれている分で充分な場合はこの工程で添加する必要はなく、粘度の低下が必要な場合は必要に応じこの工程で加えればよい。もしくはこの工程以降で加えてもよい。分散媒は前述の酸化銅分散体作製時に加えたものと同じものでも、異なるもの加えてもよい。
【0233】
この他に必要に応じ、有機バインダ、酸化防止剤、還元剤、金属粒子、金属酸化物を加えてもよく、不純物として金属や金属酸化物、金属塩及び金属錯体を含んでもよい。
【0234】
また、針金状、樹枝状、鱗片状銅粒子はクラック防止効果が大きいため、単独であるいは球状、サイコロ状、多面体などの銅粒子や他の金属と複数組み合わせて加えてもよく、その表面を酸化物や他の導電性のよい金属、例えば銀などで被覆してもよい。
【0235】
なお銅以外の金属粒子で、形状が針金状、樹枝状、鱗片状の一種もしくは複数を加える場合、同様な形状の銅粒子と同様にクラック防止効果を有するため、同様の形状の銅粒子の一部との置き換え、もしくは同様の形状の銅粒子に追加して使うこともできるが、マイグレーション、粒子強度、抵抗値、銅食われ、金属間化合物の形成、コストなどを考慮する必要がある。銅以外の金属粒子としてとしては、例えば金、銀、錫、亜鉛、ニッケル、白金、ビスマス、インジウム、アンチモンを挙げることができる。
【0236】
金属酸化物粒子としては、酸化第一銅を酸化銀、酸化第二銅など置き換え、もしくは追加して使うことができる。しかしながら、金属粒子の場合と同様に、マイグレーション、粒子強度、抵抗値、銅食われ、金属間化合物の形成、コストなどを考慮する必要がある。これら金属粒子および金属酸化物粒子の添加は、導電膜の焼結、抵抗、導体強度、光焼成の際の吸光度などの調整に用いることができる。これらの金属粒子および金属酸化物粒子を加えても、針金状、樹枝状、鱗片状銅粒子の存在により、クラックは充分抑制される。これらの金属粒子および金属酸化物粒子は単独でもしくは二種類以上組み合わせて用いてもよく、形状の制限は無い。例えば銀や酸化銀は、抵抗低下や焼成温度低下などの効果が期待される。
【0237】
しかしながら、銀は貴金属類でありコストがかさむことや、クラック防止の観点から、銀の添加量は、針金状、樹枝状、鱗片状銅粒子を超えない範囲が好ましい。また、錫は安価であり、また融点が低いため焼結しやすくなるという利点を有する。しかしながら、抵抗が上昇する傾向があり、クラック防止の観点からも、錫の添加量は針金状、樹枝状、鱗片状銅粒子と酸化第一銅を超えない範囲が好ましい。酸化第二銅はフラッシュランプやレーザなどの光や赤外線を用いた方法では光吸収剤、熱線吸収剤として働く。しかしながら、酸化第二銅は酸化第一銅より還元し難いこと、還元時のガス発生が多いことによる基板からの剥離を防ぐ観点から、酸化第二銅の添加量は酸化第一銅より少ない方が好ましい。
【0238】
本実施の形態においては、銅以外の金属や針金状、樹枝状、鱗片状以外の銅粒子、酸化銅以外の金属酸化物を含んでいても、クラック防止効果、抵抗の経時安定性向上効果は発揮される。しかしながら、銅以外の金属や針金状、樹枝状、鱗片状以外の銅粒子、並びに酸化銅以外の金属酸化物の添加量としては針金状、樹枝状、鱗片状の銅粒子と酸化銅より少ない方が好ましい。また、針金状、樹枝状、鱗片状の銅粒子と酸化銅に対する、銅以外の金属や針金状、樹枝状、鱗片状以外の銅粒子、酸化銅以外の金属酸化物の添加割合は50%以下、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは10%以下がよい。
【0239】
[導電性パターン付構造体の詳細]
以下、本実施の形態に係る導電性パターン付構造体10の各構成について具体的に説明する。しかし、各構成は、以下に挙げる具体例に限定されるものではない。
【0240】
本実施の形態に係る導電性パターン付構造体の製造方法は、本実施の形態に係る分散体を基板上に塗布して塗膜を形成する工程と、塗膜にレーザ光を照射し、基板上に導電性パターンを形成する工程と、を具備する。
【0241】
また、本実施の形態に係る導電性パターン付構造体の製造方法は、分散体を、所望のパターンで基板上に塗布して、塗膜を形成する工程と、塗膜を焼成処理して、基板上に導電性パターンを形成する工程と、を具備する。本実施形態の方法によれば、基板上に塗布液を所望のパターンに直接形成できるため、従来のフォトレジストを用いた手法と比較し、生産性を向上させることができる。
【0242】
[基板への分散体の塗布方法]
分散体としての酸化銅インクを用いた塗布方法について説明する。塗布方法としては特に制限されず、エアロゾル法、スクリーン印刷、凹版ダイレクト印刷、凹版オフセット印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷などの印刷法やディスペンサー描画法などを用いることができる。塗布法としては、ダイコート、スピンコート、スリットコート、バーコート、ナイフコート、スプレーコート、ディツプコートなどの方法を用いることができる。
【0243】
[基板]
本実施の形態で用いられる基板は、塗膜を形成する表面を有するものであって、板形状を有していてもよく、立体物であってもよい。本実施の形態における基板は、配線パターンを形成するための回路基板シートの基板材料、または配線付き筐体の筐体材料等を意味する。筐体の一例としては、携帯電話端末、スマートフォン、スマートグラス、テレビ、パーソナルコンピュータ等の電気機器の筐体が挙げられる。また、筐体の他の例としては、自動車分野では、ダッシュボード、インストルメントパネル、ハンドル、シャーシ等が挙げられる。
【0244】
本実施の形態で用いられる基板は、特に限定されるものではなく、無機材料又は有機材料で構成される。
【0245】
無機材料としては、例えば、ソーダライムガラス、無アルカリガラス、硼珪酸ガラス、石英ガラスなどのガラスや、アルミナなどのセラミック材料が挙げられる。
【0246】
有機材料としては、高分子材料、紙などが挙げられる。高分子材料としては樹脂フィルムを用いることができ、ポリイミド(PI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエステル、ポリカーボネート(PC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリアセタール(POM)、ポリアリレート(PAR)、ポリアミド(PA)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリフタルアミド(PPA)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリベンズイミダゾール(PBI)、ポリカルボジイミド、ポリシロキサン、ポリメタクリルアミド、ニトリルゴム、アクリルゴム、ポリエチレンテトラフルオライド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ウレア樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、ポリブテン、ポリペンテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン-ジエン共重合体、ポリブタジエン、ポリイソプレン、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、ブチルゴム、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリスチレン(PS)、スチレン-ブタジエン共重合体、ポリエチレン(PE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、フェノールノボラック、ベンゾシクロブテン、ポリビニルフェノール、ポリクロロピレン、ポリオキシメチレン、ポリスルホン(PSF)、ポリフェニルスルホン樹脂(PPSU)、シクロオレフィンポリマー(COP)、アクリロ二トリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)、アクリロニトリル・スチレン樹脂(AS)、ナイロン樹脂(PA6、PA66)ポリブチルテレフタレート樹脂(PBT)ポリエーテルスルホン樹脂(PESU)、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、及びシリコーン樹脂などを挙げることができる。特に、PI、PET及びPENは、フレキシブル性、コストの観点から好ましい。
【0247】
紙としては、一般的なパルプを原料とした上質紙、中質紙、コート紙、ボール紙、段ボールなどの洋紙やセルロースナノファイバーを原料としたものが挙げられる。紙の場合は高分子材料を溶解したもの、もしくはゾルゲル材料などを含浸硬化させたものを使うことができる。また、これらの材料はラミネートするなど貼り合わせて使用してもよい。例えば、紙フェノール基材、紙エポキシ基材、ガラスコンポジット基材、ガラスエポキシ基材などの複合基材、テフロン(登録商標)基材、アルミナ基材、低温低湿同時焼成セラミックス(LTCC)、シリコンウェハなどが挙げられる。
【0248】
基板の厚さは、例えば1μm~10mmとすることができ、好ましくは25μm~250μmである。基板の厚さが250μm以下であれば、作製される電子デバイスを、軽量化、省スペース化、及びフレキシブル化できるため好ましい。基板が筐体である場合、その厚さは、例えば1μm~10mmとすることができ、好ましくは、200μm~5mmである。この範囲を選択することで、成型後の機械的強度や耐熱性を発現させることが、本発明者らにより明らかになった。
【0249】
[導電性パターンの形成]
導電性パターンの形成方法としては、1)上記の印刷方法を用いて、パターンを作製後に焼成する方法と、2)分散体を全面に基板にコートし、そこに特定のパターンになるようにレーザ描画によって、パターンを作製する方法、がある。1)と2)ともに基板側に一部の酸化銅が還元されずに残ることで、導電性パターンと基板との密着性が向上するため好ましい。また、導電性パターンは配線のことであり、配線幅は0.5μm以上、10000μm以下が好ましく、より好ましくは1μm以上、1000μm以下であり、さらに好ましくは1μm以上、500μm以下である。また、導電性パターンはメッシュ状に形成されていてもよい。メッシュ状とは格子状の配線のことで、透過率が高くなり、透明になるため好ましい。
【0250】
[分散体の焼成]
焼成処理の方法には、本発明の効果を発揮する導電膜を形成可能であれば、特に限定されないが、具体例としては、焼却炉、プラズマ焼成法、光焼成法などを用いる方法が挙げられる。光焼成におけるレーザ照射においては、分散体としての酸化銅インクで塗膜を形成し、塗膜にレーザ照射することで、銅粒子の焼成と、パターニングを一度に行うことができる。その他の焼成法においては、分散体で所望のパターンを印刷し、これを焼成することで、導電性パターンを得ることができる。導電性パターンを作製する上で、基板との接触面に一部の酸化第一銅が還元されずに残ることで、導電性パターンと基板との密着性が向上するため、好ましい。
【0251】
[焼成炉]
本実施の形態において、焼成炉を用いて行う焼成方法では、酸化銅を還元して銅にし、銅を焼結させるため、100℃以上、好ましくは150℃以上、より好ましくは200℃以上の熱で塗布膜を焼成する。
【0252】
酸素の影響を受けやすい焼成炉などで焼成を行う方法では、非酸化性雰囲気において分散体の塗膜を処理することが好ましい。また分散体中に含まれる有機成分だけでは酸化銅が還元されにくい場合、還元性雰囲気で焼成することが好ましい。非酸化性雰囲気とは、酸素などの酸化性ガスを含まない雰囲気であり、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオンなどの不活性ガスで満たされた雰囲気である。また還元性雰囲気とは、水素、一酸化炭素などの還元性ガスが存在する雰囲気を指すが、不活性ガスと混合して使用してよい。これらのガスを焼成炉中に充填し密閉系でもしくはガスを連続的に流しながら分散体の塗膜を焼成してもよい。また、焼成は、加圧雰囲気で行ってもよいし減圧雰囲気で行ってもよい。
【0253】
[プラズマ焼成法]
本実施形態のプラズマ法は、焼成炉を用いる方法と比較し、より低い温度での処理が可能であり、耐熱性の低い樹脂フィルムを基材とする場合の焼成法として、よりよい方法の一つである。またプラズマにより、パターン表面の有機物質除去や酸化膜の除去が可能であるため、良好なハンダ付け性を確保できるという利点もある。具体的には、還元性ガスもしくは還元性ガスと不活性ガスとの混合ガスをチャンバ内に流し、マイクロ波によりプラズマを発生させ、これにより生成する活性種を、還元または焼結に必要な加熱源として、さらには分散剤などに含まれる有機物の分解に利用し導電膜を得る方法である。
【0254】
特に金属部分では活性種の失活が多く、金属部分が選択的に加熱され、基板自体の温度は上がりにくいため、基板として樹脂フィルムにも適用可能である。分散体は金属として銅を含み、酸化銅は焼成が進むにつれ銅に変化するためパターン部分のみの加熱が促進される。また導電性パターン中に分散剤やバインダ成分の有機物が残ると焼結の妨げとなり、抵抗が上がる傾向にあるが、プラズマ法は導体パターン中の有機物除去効果が大きい。プラズマ法により、塗膜の表面の有機物及び酸化膜の除去が可能であるため、導電性パターンのハンダ付け性を効果的に改善できるという利点もある。
【0255】
還元性ガス成分としては水素など、不活性ガス成分としては窒素、ヘリウム、アルゴンなどを用いることができる。これらは単独で、もしくは還元ガス成分と不活性ガス成分を任意の割合で混合して用いてもよい。また不活性ガス成分を二種以上混合し用いてもよい。
【0256】
プラズマ焼成法は、マイクロ波投入パワー、導入ガス流量、チャンバ内圧、プラズマ発生源から処理サンプルまでの距離、処理サンプル温度、処理時間での調整が可能であり、これらを調整することで処理の強度を変えることができる。従って、上記調整項目の最適化を図れば、無機材料の基板はもちろんのこと、有機材料の熱硬化性樹脂フィルム、紙、耐熱性の低い熱可塑性樹脂フィルム、例えばPET、PENを基板として利用し、抵抗の低い導電膜を得ることが可能となる。但し、最適条件は装置構造やサンプル種類により異なるため、状況に合わせ調整する。
【0257】
[光焼成法]
本実施形態の光焼成法は、光源としてキセノンなどの放電管を用いたフラッシュ光方式やレーザ光方式が適用可能である。これらの方法は強度の大きい光を短時間露光し、基板上に塗布した分散体を短時間で高温に上昇させ焼成する方法で、酸化銅の還元、銅粒子の焼結、これらの一体化、及び有機成分の分解を行い、導電膜を形成する方法である。焼成時間がごく短時間であるため基板へのダメージが少ない方法で、耐熱性の低い樹脂フィルム基板への適用が可能である。
【0258】
フラッシュ光方式とは、キセノン放電管を用い、コンデンサーに蓄えられた電荷を瞬時に放電する方式で、大光量のパルス光を発生させ、基板上に形成された分散体に照射することにより酸化銅を瞬時に高温に加熱し、導電膜に変化させる方法である。露光量は、光強度、発光時間、光照射間隔、回数で調整可能であり基板の光透過性が大きければ、耐熱性の低い樹脂基板、例えばPET、PENや紙などへも、分散体による導電性パターンの形成が可能となる。
【0259】
発光光源は異なるが、レーザ光源を用いても同様な効果が得られる。レーザの場合は、フラッシュ光方式の調整項目に加え、波長選択の自由度があり、パターンを形成した分散体の光吸収波長や基板の吸収波長を考慮し選択することも可能である。またビームスキャンによる露光が可能であり、基板全面への露光、もしくは部分露光の選択など、露光範囲の調整が容易であるといった特徴がある。レーザの種類としてはYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)、YVO(イットリウムバナデイト)、Yb(イッテルビウム)、半導体レーザ(GaAs、GaAlAs、GaInAs)、炭酸ガスなどを用いることができ、基本波だけでなく必要に応じ高調波を取り出して使用してもよい。
【0260】
特に、レーザ光を用いる場合、その発光波長は、300nm以上1500nm以下が好ましい。例えば355nm、405nm、445nm、450nm、532nm、1056nmなどが好ましい。基板や筐体が樹脂の場合、本実施の形態のの酸化銅含有層の吸収領域から、特に好ましくは355nm、405nm、445nm、450nm、532nmのレーザ波長である。レーザを用いることで所望のパターンを平面、立体に自由に作製することができる。
【0261】
導電性層または導電性パターンの表面の表面粗さは、500nm以上4000nm以下であることが好ましく、750nm以上3000nm以下であることがより好ましく、1000nm以上2000nm以下であることが更により好ましい。この範囲に入ると、導電性パターンにハンダ層がのりやすく、導電性パターンとハンダ層との密着性が高くなる。
【0262】
[導電性パターンへのハンダ層の形成]
本実施の形態に係る分散体を用いて作製された導電性パターン付構造体は、ハンダ付け性を悪化させる分散剤、分散媒が、焼成処理の工程で分解しているため、導電性パターンに被接合体(例えば、電子部品等)をハンダ付けするとき、溶融ハンダがのりやすいという利点がある。ここで、ハンダとは鉛とスズを主成分とする合金であり、鉛を含まない鉛フリーハンダも含まれる。本実施の形態に係る導電性パターンは空壁(ボイド)を有するため、このボイドにハンダが入ることで、導電性パターンとハンダ層との密着性が高まる。
【0263】
導電性パターン及び導電性層に含まれる銅のグレインサイズは、0.1μm以上100μm以下であることが好ましく、0.5μm以上50μm以下がさらに好ましく、1.0μm以上10μm以下が特に好ましい。これにより、導電性パターンとハンダ層の密着性が高くなる。
【0264】
本実施の形態において、電子部品とは、半導体、集積回路、ダイオード、液晶ディスプレイなどの能動部品、抵抗、コンデンサ等の受動部品、及び、コネクタ、スイッチ、電線、ヒートシンク、アンテナなどの機構部品のうち、少なくとも1種である。
【0265】
また、導電性パターンへのハンダ層の形成は、リフロー法で行われることが好ましい。リフロー法では、まず、ハンダ付けは、
図3(j)及び
図4(l)で形成された導電性パターン領域の一部、例えばランド、の表面にソルダペースト(クリームハンダ)を塗布する。ソルダペーストの塗布は、例えば、メタルマスク及びメタルスキージを用いたコンタクト印刷により行われる。これにより、導電性パターンの表面の一部にハンダ層が形成される。すなわち、
図3(j)の工程の後、表層における導電性パターンの表面の一部にハンダ層が形成される導電性パターン付構造体が得られる。また、
図4(l)の工程の後、導電性パターンの表面の一部にハンダ層が形成される導電性パターン付構造体が得られる。ハンダ層が形成される導電性パターンの表面の一部は、特に面積は限定されず、導電性パターンと電子部品とが接合可能な面積であればよい。
【0266】
(電子部品の接合)
次に、塗布されたソルダペースト(ハンダ層)の一部に、電子部品の被接合部を接触させた状態になるように電子部品を導電性基板上に載置する。その後、電子部品が載置された導電性基板を、リフロー炉に通して加熱して、導電性パターン領域の一部(ランド等)及び電子部品の被接合部をハンダ付けする。
図9は、本実施の形態に係るハンダ層が形成された導電性パターン付構造体の上面図である。
図9Aは、ハンダ層が形成された導電性パターン付構造体の写真を、
図9Bは、その模式図を示す。
【0267】
図9に示すように、フレキシブル性を有する基板11上には、分散体としての酸化銅インクが焼成されて形成された導電性パターンBが形成されている。導電性パターンBの表面には、ハンダ層20が形成されている。ハンダ層20により、導電性パターンBと、導線90とが適切にハンダ付けされており、導線90を介して導電性パターンBと電子部品91が適切に接続されている。
【0268】
本実施の形態に係る導電性パターン付構造体の製造方法によれば、分散体としての酸化銅インクを焼成して導電性パターンを形成するため、分散体に含まれる有機バインダが分解される、これにより、得られた導電性パターンにおいて、ハンダのぬれ性が高くなり、導電性パターンの表面にハンダ層を容易に形成できる。このため、電子部品のハンダ付が可能となる。この結果、導電性パターン領域と、電子部品の被接合部とを接合するハンダ層の不良の発生を防ぎ、高い歩留まりで、電子部品がハンダ付けされる導電性パターン付構造体を製造できる。
【0269】
また、第2の実施の形態に係る導電性パターン付構造体の製造方法によれば、粒子径が1nm以上50nm以下の銅酸化物粒子と、粒子径が0.1μm以上100μm以下の銅粒子と、リン酸基を有する有機化合物と、を含む分散体を用いて形成した塗布膜では、ハンダのぬれ性が高いため、溶けたハンダが金属表面に被覆した後に、ハンダが引けた状態となって、ハンダの非常に薄い部分ができた状態、すなわち、ディウェッティングが発生するのを抑制することができる。この結果、導電膜と電子部品の被接合部と接合するハンダ接合部の不良の発生を防ぎ、高い歩留まりで、電子部品付基板を製造することができる。
【実施例】
【0270】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例及び比較例に限定されるものではない。
【0271】
<実験例1>
[ヒドラジン定量方法]
標準添加法によりヒドラジンの定量を行った。
【0272】
サンプル(銅ナノインク)50μLに、ヒドラジン33μg、サロゲート物質(ヒドラジン15N2H4)33μg、ベンズアルデヒド1%アセトニトリル溶液1mlを加えた。最後にリン酸20μLを加え、4時間後、GC/MS測定を行った。
【0273】
同じく、サンプル(銅ナノインク)50μLに、ヒドラジン66μg、サロゲート物質(ヒドラジン15N2H4)33μg、ベンズアルデヒド1%アセトニトリル溶液1mlを加えた。最後にリン酸20μLを加え、4時間後、GC/MS測定を行った。
【0274】
同じく、サンプル(銅ナノインク)50μLに、ヒドラジン133μg、サロゲート物質(ヒドラジン15N2H4)33μg、ベンズアルデヒド1%アセトニトリル溶液1mlを加えた。最後にリン酸20μLを加え、4時間後、GC/MS測定を行った。
【0275】
最後に、サンプル(銅ナノインク)50μLに、ヒドラジンを加えず、サロゲート物質(ヒドラジン15N2H4)33μg、ベンズアルデヒド1%アセトニトリル溶液1mlを加え、最後にリン酸20μLを加え、4時間後、GC/MS測定を行った。
【0276】
上記4点のGC/MS測定からm/z=207のクロマトグラムラムよりヒドラジンのピーク面積値を得た。次にm/z=209のマスクロマトグラムよりサロゲートのピーク面積値を得た。x軸に、添加したヒドラジンの重量/添加したサロゲート物質の重量、y軸に、ヒドラジンのピーク面積値/サロゲート物質のピーク面積値をとり、標準添加法による検量線を得た。
【0277】
検量線から得られたY切片の値を、添加したヒドラジンの重量/添加したサロゲート物質の重量で除しヒドラジンの重量を得た。
【0278】
[粒子径測定]
分散体としての酸化銅インクの平均二次粒子径は大塚電子製FPAR-1000を用いてキュムラント法によって測定した。
【0279】
(実施例1)
蒸留水(共栄製薬株式会社製)7560g、1,2-プロピレングリコール(関東化学株式会社製)3494gの混合溶媒中に酢酸銅(II)一水和物(関東化学株式会社製)806gを溶かし、外部温調器によって液温を-5℃にした。得られた溶液にヒドラジン一水和物(東京化成工業株式会社製)235gを20分間かけて加え、30分間攪拌した後、外部温調器によって液温を25℃にし、90分間攪拌した。攪拌後、得られた分散液を遠心分離で上澄みと沈殿物に分離した。得られた沈殿物390gに、DisperBYK-145(ビッグケミー製)54.8g、サーフロンS611(セイミケミカル製)13.7g及びエタノール(関東化学株式会社製)907gを加え、ホモジナイザーを用いて分散し酸化第一銅分散液(酸化銅インク)1365gを得た。
【0280】
分散液は良好に分散されていた。酸化第一銅の含有割合は20%であり、平均二次粒子径は22nmであった。ヒドラジン割合は3000ppmであった。
【0281】
(実施例2)
蒸留水(共栄製薬株式会社製)7560g、1,2-プロピレングリコール(関東化学株式会社製)3494gの混合溶媒中に酢酸銅(II)一水和物(関東化学株式会社製)806gを溶かし、外部温調器によって液温を-5℃にした。得られた溶液にヒドラジン一水和物(東京化成工業株式会社製)235gを20分間かけて加え、30分間攪拌した後、外部温調器によって液温を25℃にし、90分間攪拌した。攪拌後、得られた分散液を遠心分離で上澄みと沈殿物に分離した。得られた沈殿物390gに、DisperBYK-145(ビッグケミー製)54.8g、サーフロンS611(セイミケミカル製)13.7g及びエタノール関東化学株式会社製)907gを加え、ホモジナイザーを用いて分散し酸化第一銅分散液1365gを得た。さらに空気でバブリングした。
【0282】
分散液は良好に分散されていた。酸化第一銅の含有割合は20%であり、平均二次粒子径は25nmであった。ヒドラジン割合は700ppmであった。
【0283】
(実施例3)
実施例1で得られた分散液98.5gにヒドラジン(東京化成工業株式会社製)1.5gを入れた。
【0284】
分散液は良好に分散されていた。酸化第一銅の含有割合は20%であり、平均二次粒子径は29nmであった。ヒドラジン割合は18000ppmであった。
【0285】
(実施例4)
蒸留水(共栄製薬株式会社製)7560g、1,2-プロピレングリコール(関東化学株式会社製)3494gの混合溶媒中に酢酸銅(II)一水和物(関東化学株式会社製)806gを溶かし、外部温調器によって液温を-5℃にした。得られた溶液にヒドラジン一水和物(東京化成工業株式会社製)235gを20分間かけて加え、30分間攪拌した後、外部温調器によって液温を25℃にし、90分間攪拌した。攪拌後、得られた分散液を遠心分離で上澄みと沈殿物に分離した。得られた沈殿物390gに、DisperBYK-145(ビッグケミー製)1.37g、サーフロンS611(セイミケミカル製)13.7g及びエタノール(関東化学株式会社製)960gを加え、ホモジナイザーを用いて分散し酸化第一銅分散液(酸化銅インク)1365gを得た。
【0286】
分散液は良好に分散されていた。酸化第一銅の含有割合は20%であり、平均二次粒子径は32nmであった。ヒドラジン割合は3000ppmであった。
【0287】
(実施例5)
蒸留水(共栄製薬株式会社製)7560g、1,2-プロピレングリコール(関東化学株式会社製)3494gの混合溶媒中に酢酸銅(II)一水和物(関東化学株式会社製)806gを溶かし、外部温調器によって液温を-5℃にした。得られた溶液にヒドラジン一水和物(東京化成工業株式会社製)235gを20分間かけて加え、30分間攪拌した後、外部温調器によって液温を25℃にし、90分間攪拌した。攪拌後、得られた分散液を遠心分離で上澄みと沈殿物に分離した。得られた沈殿物390gに、DisperBYK-145(ビッグケミー製)82.2g、サーフロンS611(セイミケミカル製)13.7g及びエタノール(関東化学株式会社製)880gを加え、ホモジナイザーを用いて分散し酸化第一銅分散液(酸化銅インク)1365gを得た。
【0288】
分散液は良好に分散されていた。酸化第一銅の含有割合は20%であり、平均二次粒子径は32nmであった。ヒドラジン割合は3000ppmであった。
【0289】
(比較例1)
エタノール(関東化学株式会社製)15gに、酸化第一銅(EMジャパン製MP-CU2O-25)4g、DisperBYK-145(ビッグケミー製)0.8g、サーフロンS611(セイミケミカル製)0.2gを加え、ホモジナイザーで分散し、酸化第一銅分散液20gを得た。
【0290】
分散液において一部に酸化銅粒子の凝集が見られた。酸化第一銅の含有割合は20%であり、平均二次粒子径は190nmであった。ヒドラジン割合は0ppmであった。
【0291】
(比較例2)
実施例1で得られた分散液97gにヒドラジン(東京化成工業株式会社製)3gを入れた。
【0292】
分散液において酸化銅粒子が凝集し、インク化ができなかった。酸化第一銅の含有割合は20%であった。ヒドラジン割合は33000ppmだった。
【0293】
(比較例3)
蒸留水(共栄製薬株式会社製)7560g、1,2-プロピレングリコール(関東化学株式会社製)3494gの混合溶媒中に酢酸銅(II)一水和物(関東化学株式会社製)806gを溶かし、外部温調器によって液温を-5℃にした。得られた溶液にヒドラジン一水和物(東京化成工業株式会社製)235gを20分間かけて加え、30分間攪拌した後、外部温調器によって液温を25℃にし、90分間攪拌した。攪拌後、得られた分散液を遠心分離で上澄みと沈殿物に分離した。得られた沈殿物390gに、DisperBYK-145(ビッグケミー製)0.82g、サーフロンS611(セイミケミカル製)13.7g及びエタノール(関東化学株式会社製)960gを加え、ホモジナイザーを用いて分散し酸化第一銅分散液(酸化銅インク)1365gを得た。
【0294】
分散液において酸化銅粒子が凝集し、インク化ができなかった。酸化第一銅の含有割合は20%であった。ヒドラジン割合は3000ppmだった。
【0295】
(比較例4)
蒸留水(共栄製薬株式会社製)7560g、1,2-プロピレングリコール(関東化学株式会社製)3494gの混合溶媒中に酢酸銅(II)一水和物(関東化学株式会社製)806gを溶かし、外部温調器によって液温を-5℃にした。得られた溶液にヒドラジン一水和物(東京化成工業株式会社製)235gを20分間かけて加え、30分間攪拌した後、外部温調器によって液温を25℃にし、90分間攪拌した。攪拌後、得られた分散液を遠心分離で上澄みと沈殿物に分離した。得られた沈殿物390gに、DisperBYK-145(ビッグケミー製)110g、サーフロンS611(セイミケミカル製)13.7g及びエタノール(関東化学株式会社製)851gを加え、ホモジナイザーを用いて分散し酸化第一銅分散液(酸化銅インク)1365gを得た。
【0296】
分散液において酸化銅粒子が凝集し、インク化ができなかった。酸化第一銅の含有割合は20%であった。ヒドラジン割合は3000ppmであった。
【0297】
[反転印刷]
酸化銅インクを用いて、反転印刷によって基板上にパターン状の塗膜を形成した。まず、ブランケット(転写体)の表面に均一な厚みの酸化銅インクの塗膜を形成した。ブランケットの表面材料は通常シリコーンゴムから構成されており、このシリコーンゴムに対して酸化銅インクが良好に付着し、均一な塗膜が形成されているかを確認した。次いで、表面に酸化銅インクの塗膜が形成されたブランケットの表面を凸版に押圧、接触させ、凸版の凸部の表面に、ブランケット表面上の酸化銅インクの塗膜の一部を付着、転移させた。これによりブランケットの表面に残った酸化銅インクの塗膜には印刷パターンが形成された。次いで、この状態のブランケットを被印刷基板の表面に押圧して、ブランケット上に残った酸化銅インクの塗膜を転写し、パターン状の塗膜を形成した。評価基準は以下の通りである。
A:反転印刷が可能であった。
B:一部印刷パターンが形成されなかった。
C:反転印刷ができなかった。
【0298】
[抵抗測定]
PENフィルム上にバーコーターを用いて600nm厚みの膜を作製し、プラズマ焼成装置で1.5kw、420秒間、加熱焼成して還元し、銅膜を作製した。導電膜の体積抵抗率は、三菱化学製の低抵抗率計ロレスターGPを用いて測定した。酸化銅インクと塗膜の性能結果を表1に示す。
【0299】
【0300】
実施例1から実施例5においては、酸化銅インクが凝集することなく、PENフィルム上に銅膜を作製した際に低い抵抗が維持できていた。実施例において、(還元剤質量/酸化銅質量)の値は0.0001以上0.10以下であり、(分散剤質量/酸化銅質量)の値は0.0050以上0.30以下であった。還元剤としてヒドラジンを用いることで、酸化銅の還元が促進され、抵抗の低い銅膜が作製されていたと考えられる。
【0301】
これに対し、(還元剤質量/酸化銅質量)の値が0.001より小さい比較例1では、分散液において一部に酸化銅粒子の凝集が見られた。また、プラズマ焼成によって銅膜を得ることができず、抵抗を測定することができなかった。また、(還元剤質量/酸化銅質量)の値が0.1より大きい比較例2では、酸化銅インクが凝集していたため、反転印刷及び抵抗の測定ができなかった。また、(分散剤質量/酸化銅質量)の値が0.005より小さい比較例3と、0.30より大きい比較例4は、いずれも酸化銅インクが凝集していたため、反転印刷及び抵抗の測定ができなかった。
【0302】
[レーザ焼成]
PET基板上に実施例1の酸化銅インクを所定の厚み(800nm)になるようバーコートし、室温で10分間乾燥することで、PET上に塗布層が形成されたサンプルAを得た。
【0303】
ガルバノスキャナーを用いて、最大速度300mm/分で焦点位置を動かしながらレーザ光(波長445nm、出力1.1W、連続波発振(Continuous Wave:CW)を、サンプルAに照射することで、25mm×1mmの寸法の銅を含む導電性の膜を得た。抵抗は20μΩcmであった。レーザ焼成においても導電性膜が作製できた。
【0304】
<実験例2>
(酸化銅粒子分散体の製造)
酸化銅粒子を含む分散体の製造を、次のように行った。
【0305】
(製造例1)
水3670g、1,2-プロピレングリコール(和光純薬製)1696gの混合溶媒中に酢酸銅(II)一水和物(和光純薬製)391.5gを溶かし、ヒドラジン一水和物(和光純薬製)114gを加えて攪拌した。その後、遠心分離で上澄みと沈殿物に分離した。
【0306】
得られた沈殿物200gに、分散剤として、DISPERBYK-118(ビッグケミー製)27.6g、及び、エタノール(和光純薬製)490gを加え、窒素雰囲気下でホモジナイザを用いて分散した。
【0307】
次いで、UF膜モジュールによる濃縮とエタノールによる希釈を繰り返し、更にテルピネオールによる希釈とUF膜による濃縮を繰り返し、平均二次粒子径10nmの酸化第一銅124gを含有する分散体S1を、225.4g得た。平均二次粒子径は、大塚電子製FPAR-1000を用いてキュムラント法により測定した。以下の製造例2~15、比較製造例1~3において同様である。
【0308】
(製造例2)
水10880gに酢酸銅(II)一水和物(和光純薬製)391.5gを溶かし、ヒドラジン一水和物(和光純薬製)114gを加えて攪拌した。その後、遠心分離で上澄みと沈殿物に分離した。
【0309】
これ以降は、製造例1と同様の配合量、条件及び手順により、平均二次粒子径33nmの酸化第一銅124gを含有する分散体S2を225.4g得た。
【0310】
(製造例3)
分散剤として、DISPERBYK-118(ビッグケミー製)6.9gを用いた以外は、製造例1と同じ配合量、条件及び手順により、平均二次粒子径10nmの酸化第一銅124gを含有する分散体S3を、204.7g得た。
【0311】
(製造例4)
分散剤として、DISPERBYK-118(ビッグケミー製)41.4gを用いた以外は、製造例1と同じ配合量、条件及び手順により、平均二次粒子径10nmの酸化第一銅124gを含有する分散体S4を、239.2g得た。
【0312】
(製造例5)
分散剤として、DISPERBYK-118(ビッグケミー製)6.9gを用いた以外は、製造例2と同じ配合量、条件及び手順により、平均二次粒子径33nmの酸化第一銅124gを含有する分散体S5を204.7g得た。
【0313】
(製造例6)
分散剤として、DISPERBYK-118(ビッグケミー製)41.4gを用いた以外は、製造例2と同じ配合量、条件及び手順により、平均二次粒子径33nmの酸化第一銅124gを含有する分散体S6を239.2g得た。
【0314】
(製造例7)
分散剤として、DISPERBYK-118(ビッグケミー製)4.1gを用いた以外は、製造例1と同じ配合量、条件及び手順により、平均二次粒子径10nmの酸化第一銅124gを含有する分散体S7を、201.9g得た。
【0315】
(製造例8)
分散剤として、DISPERBYK-118(ビッグケミー製)55.2gを用いた以外は、製造例1と同じ配合量、条件及び手順により、平均二次粒子径10nmの酸化第一銅124gを含有する分散体S8を、253.0g得た。
【0316】
(製造例9)
分散剤として、DISPERBYK-118(ビッグケミー製)4.1gを用いた以外は、製造例2と同じ配合量、条件及び手順により、平均二次粒子径33nmの酸化第一銅124gを含有する分散体S9を201.9g得た。
【0317】
(製造例10)
分散剤として、DISPERBYK-118(ビッグケミー製)82.9gを用いた以外は、製造例2と同じ配合量、条件及び手順により、平均二次粒子径33nmの酸化第一銅124gを含有する分散体S10を280.6g得た。
【0318】
(製造例11)
粒径150nmの酸化第一銅124gに、テルピネオール101.4gを加え、窒素雰囲気下でホモジナイザを用いて分散し、分散体S11を225.4g得た。
【0319】
(製造例12)
テルピネオールに代えて、γ―ブチロラクトンを用いた以外は、製造例1と同じ配合量、条件及び手順により、酸化第一銅124gを含有する分散体S12を、225.4g得た。
【0320】
(製造例13)
テルピネオールに代えて、シクロヘキサノールを用いた以外は、製造例1と同じ配合量、条件及び手順により、酸化第一銅124gを含有する分散体S13を、225.4g得た。
【0321】
(製造例14)
テルピネオールに代えて、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテートを用いた以外は、製造例1と同じ配合量、条件及び手順により、酸化第一銅124gを含有する分散体S14を、225.4g得た。
【0322】
(製造例15)
テルピネオールに代えて、テトラリンを用いた以外は、製造例1と同じ配合量、条件及び手順により、酸化第一銅124gを含有する分散体S15を、225.4g得た。
【0323】
(比較製造例1)
平均二次粒子径150nmの酸化第一銅124gに、DISPERBYK-118(ビッグケミー製)27.6g及びテルピネオール73.8gを加え、窒素雰囲気下でホモジナイザを用いて分散し、分散体H1を225.4g得た。
【0324】
(比較製造例2)
テルピネオールに代えて、トルエンを用いた以外は、製造例1と同じ配合量、条件及び手順により、酸化第一銅124gを含有する分散体H2を、225.4g得た。
【0325】
(比較製造例3)
テルピネオールに代えて、ブタノールを用いた以外は、製造例1と同じ配合量、条件及び手順により、酸化第一銅124gを含有する分散体H3を、225.4g得た。
【0326】
(実施例6~67)
製造例1~15で得た分散体S1~S15のいずれか40gに、以下の銅粒子A、B、C、D、Eのいずれかを、表2に示す分量で加え、窒素雰囲気下、自公転ミキサーで混合し、実施例6~67の分散体を得た。これらの有機化合物質量比率(BYK/Cu2O)及び銅粒子質量比率(Cu/Cu2O)を表2に示す。
【0327】
銅粒子A:針状銅粉(平均粒子径4.7μm)
銅粒子B:樹枝状銅粉(平均粒子径14.5μm)
銅粒子C:鱗片状銅粉(三井金属鉱業株式会社製の1400YP:平均粒子径4.9μm)
銅粒子D:球状銅粉(平均粒子径1μm)
銅粒子E:球状銅粉(平均粒子径5μm)
【0328】
実施例6~67の分散体を、紙基板上にスクリーン印刷法により、ラインパターンを印刷し、次いで、マイクロ波プラズマ焼成器を用いて、1.5kw、420秒間、加熱焼成し、紙基板上に、幅1mm、長さ100mm、膜厚16μmの導電膜を形成した。
【0329】
実施例6~67の分散体について分散安定性及び連続印刷性を評価した。また実施例6~67の分散体を用いて得られた導電膜について、初期抵抗の測定、抵抗安定性及びハンダ付け性の測定を行った。その結果を表2に示す。
【0330】
分散安定性は、以下の通りに評価した。
A・・・分散体作製後のスクリーン印刷可能な期間が20日以上
B・・・分散体作製後のスクリーン印刷可能な期間が5日以上20日未満
C・・・分散体作製後のスクリーン印刷可能な期間が5日未満
【0331】
連続印刷性は、紙基板上へのスクリーン印刷を連続して複数回行い、スクリーン印刷が連続的に行える印刷回数が5回以上である場合をAと、スクリーン印刷が連続的に行える印刷回数が5回未満である場合をBと、評価した。その結果を表2に示す。
【0332】
初期抵抗は、焼成直後の導電膜の体積抵抗率(単位;10-5Ω・cm)である。体積抵抗率は、三菱化学性の低抵抗率計ロレスターGPを用いて測定した。
【0333】
抵抗安定性は、焼成直後の導電膜の体積抵抗率に対する、焼成100日後の導電膜の体積抵抗率の比で表わす。
【0334】
ハンダ付け試験は、導電膜が形成された紙基板に、フラックス入り糸ハンダ(錫60%鉛40%)を、ハンダゴテを用いてハンダ付けを行い、ハンダ部分を目視で観察した。ハンダ付け性は、次の通り評価した。導電膜の表面がはんだで完全にぬれ、全くはじきの状態が確認できなかった場合、「A:ディウェッティングなし」と評価し、少しでもはじきが確認できた場合、「B:ディウェッティングあり」と評価した。
【0335】
(実施例68~70)
実施例6、8、44の分散体を、紙基板上にスクリーン印刷法により、ラインパターンを印刷し、次いで、ノバセントリックス社製光焼成装置パルスフォージ1300を用いて、エネルギー密度7J/cm2、パルス幅8ミリ秒、光焼成し、紙基板上に、幅1mm、長さ100mm、膜厚16μmの導電膜を形成した。
【0336】
このようにして実施例68~70の分散体を用いて得られた導電膜について、初期抵抗及び抵抗安定性の測定、ハンダ付け試験した。その結果を表2に示す。
【0337】
実施例6の分散体を用いて得られた導電膜表面の表面粗さ測定を行ったところ、1340nmであった。導電膜表面の表面粗さ測定は、以下の方法で行った。
測定法:JIS B0601 2013年に準拠 (ISO25178-2:2012)
測定機:株式会社キーエンス製レーザ顕微鏡VK-X250、レンズ倍率150倍
導電膜の表面形状は、レーザ顕微鏡を用いて電極の中央部で測定した。レーザ顕微鏡で得た凹凸像の全画面を対象に算術平均高さを求め、これを表面粗さとした。
【0338】
(比較例5)
製造例1と同じ配合量、条件及び手順により得た沈殿物40gにエタノール98gを加え、窒素雰囲下、ホモジナイザを用いて分散したが、分散しなかった。
【0339】
(比較例6)
製造例2と同じ配合量、条件及び手順により得た沈殿物40gにエタノール98gを加え、窒素雰囲下、ホモジナイザを用いて分散したが、分散しなかった。
【0340】
(比較例7)
製造例1と同じ配合量、条件及び手順により得た沈殿物とエタノールの混合物にテルピネオノール98gを加え、窒素雰囲下、ホモジナイザを用いて分散したが、分散しなかった。
【0341】
(比較例8)
製造例2と同じ配合量、条件及び手順により得た沈殿物とエタノールの混合物にテルピネオノール98gを加え、窒素雰囲下、ホモジナイザを用いて分散したが、分散しなかった。
【0342】
(比較例9~11)
比較製造例1、製造例1、2で得た分散体H1、S1及びS2、40gに、銅粒子F:球状銅粉(平均粒子径200μm)を、88g加え、窒素雰囲気下、自公転ミキサーで混合し、比較例9~11の分散体を得た。これらの有機化合物質量比率(BYK/Cu2O)及び銅粒子質量比率(Cu/Cu2O)を表2に示す。
【0343】
比較例9~11の分散体を用いて、実施例6~67と同じ条件で、紙基板上に導電膜を形成した。比較例9~11の分散体について、分散安定性及び連続印刷性を評価した。また比較例9~11の分散体を用いて得られた導電膜について、初期抵抗の測定、抵抗安定性及びハンダ付け性の測定を行った。その結果を表2に示す。
【0344】
(比較例12)
製造例1と同じ配合量、条件及び手順により得た沈殿物200gに対し、ジエチレングリコール400gを加え、窒素雰囲下、でホモジナイザを用いて分散し、酸化第一銅を含有する分散体を得た。
【0345】
この分散体40gに、銅粒子D:球状銅粉(平均粒子径1μm)88gを加え、窒素雰囲気下、自公転ミキサーで混合し、比較例12の分散体を得た。
【0346】
比較例12の分散体を、紙基板上にスクリーン印刷法により、ラインパターンを印刷しようと試みたが、急速に銅粒子の凝集が進み、印刷ができなかった。
【0347】
(比較例13)
上記銅粒子B、88gにテルピネオール18g加え、窒素雰囲気下、自公転ミキサーで混合し、比較例13の分散体を得た。この分散体は、酸化第一銅粒子を含まないので、銅粒子質量比率(Cu/Cu2O)は、表2に示す通り、ゼロである。
【0348】
比較例13の分散体を用いて、実施例6~67と同じ条件で、紙基板上に導電膜を形成した。このようにして比較例13の分散体を用いて得られた導電膜について、初期抵抗及び抵抗安定性を測定した。その結果を表2に示す。
【0349】
(比較例14)
製造例11で得た分散体S11、40gに、銅粒子を添加せず、窒素雰囲気下、自公転ミキサーで混合し、比較例14の分散体を得た。これらの分散体の銅粒子質量比率(Cu/Cu2O)は、表2に示す通り、ゼロである。
【0350】
比較例14の分散体を用いて、実施例6~67と同じ条件で、紙基板上に導電膜を形成した。このようにして比較例14の分散体を用いて得られた導電膜について、初期抵抗及び抗安定性を測定した。その結果を表2に示す。
【0351】
【0352】
表2から明らかなように、平均二次粒子径が10nm又は33nmの酸化第一銅粒子を含む分散体S1~S15に、銅粒子A:針状銅粉(平均粒子径4.7μm)、銅粒子B:樹枝状銅粉(平均粒子径14.5μm)、銅粒子C:鱗片状銅粉(平均粒子径4.9μm)、銅粒子D:球状銅粉(平均粒子径1μm)、銅粒子E:球状銅粉(平均粒子径5μm)を加え、リン酸基を有する有機化合物の一例であるDISPERBYK-118を用いた場合、得られた実施例6~67の分散体は、分散安定性に優れており、且つ、連続印刷性に優れていることが確認された。また、実施例6~67の分散体を用いて、スクリーン印刷法により、ラインパターンを印刷し、焼成処理を施して得られた、実施例6~67の導電膜は、初期抵抗が低く、且つ、抵抗安定性に優れており、さらにハンダ付け性に優れていることが確認された。
【0353】
これらの結果から、平均二次粒子径が1nm以上50nm以下の酸化銅粒子と、粒子径が0.1μm以上100μm以下の銅粒子と、リン酸基を有する有機化合物と、を含む分散体は、分散安定性に優れ、分散体作製後長期間経過してもスクリーン印刷が可能であることが確認された。また、このような分散体を用いて得られた導電膜は、初期抵抗が低く、且つ、抵抗安定性に優れていることがわかった。さらにハンダ付け性に優れていることがわかった。また、酸化銅の質量に対するリン酸基を有する有機化合物の質量比は、0.0050以上0.40以下が好ましく、0.0050以上0.30以下がより好ましいことがわかった。
【0354】
これらの結果から、酸化第一銅粒子を含む分散体S1~S15に、銅粒子A:針状銅粉、銅粒子B:樹枝状銅粉及び銅粒子C:鱗片状銅粉を加えた、実施例6~67では、分散体を用いて、スクリーン印刷法により、ラインパターンを印刷し、焼成処理を施して得られた導電膜は、初期抵抗が低く、且つ、抵抗安定性に優れていることが確認された。また、ハンダ付け性に優れていた。実施例68~70も同様である。
【0355】
上記の通り、実施例の分散体を用いた導電膜は、ハンダ付け性に優れていることがわかった。したがって、導電膜と電子部品の被接合部と接合するハンダ接合部の不良の発生を防ぎ、高い歩留まりで、電子部品付基板を製造することができることが確認された。
【0356】
さらに、導電膜の初期抵抗及び抵抗安定性の評価からわかるように、優れた性能の電子部品付基板を得られることが確認された。
【0357】
また、分散体S11を用いた実施例53~55では、分散剤(DISPERBYK-118)を用いていないが、スクリーン印刷が可能であり、また、初期抵抗が低く、且つ、抵抗安定性に優れていることが確認された。また、ハンダ付け性に優れていることが確認された。このことから、分散剤の使用は、本実施の形態の分散体の効果に影響していないことが確認された。
【0358】
一方、リン酸基を有する有機化合物の一例であるDISPERBYK-118を用いていない比較例5~比較例8の分散体は、スクリーン印刷が不可能であった。
【0359】
また、平均二次粒子径150nmの酸化第一銅粒子及び粒子径200μmの銅粒子F:球状銅粉を含む比較例9の分散体では、分散安定性は評価Cであった。また、これを用いて得られた導電膜は、初期抵抗が低く、ハンダ付け性に優れていたが、抵抗安定性が悪いことが確認された。
【0360】
また、分散液S1、S2に、粒子径200μmの銅粒子F:球状銅粉を添加した比較例10、11の分散体では、分散安定性は評価Bであった。しかし、これらを用いて得られた導電膜は、初期抵抗が低く、ハンダ付け性に優れていたが、抵抗安定性が悪いことが確認された。
【0361】
比較例12では、スクリーン印刷が不可能であった。また、比較例13、14のように、酸化第一銅粒子又は銅粒子のいずれか一方のみを含む場合、スクリーン印刷が可能であるが、初期抵抗が高く、且つ、抵抗安定性も低いことが確認された。
【0362】
(比較例15、16)
比較製造例2、3で得た分散体H2、H3、40gに、上記銅粒子Aを、88g加え、窒素雰囲気下、自公転ミキサーで混合し、比較例15、16の分散体を得た。これらの分散体の銅粒子質量比率(Cu/Cu2O)を表2に示す。
【0363】
比較例15、16の分散体を用いて、実施例6~67と同じ条件で、紙基板上に導電膜を形成した。このようにして比較例15、16の分散体を用いて得られた導電膜について、初期抵抗を測定した。また、比較例15、16の分散体について連続印刷性を評価した。それらの結果を表2に示す。
【0364】
表2から明らかなように、分散媒として、テルピネオール、γ―ブチロラクトン、シクロヘキサノール、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート及びテトラリンを用い、酸化第一銅粒子を含む分散体S11~S15に、銅粒子A:針状銅粉、銅粒子B:樹枝状銅粉及び銅粒子C:鱗片状銅粉を加えた実施例53~67の分散体を用いて、スクリーン印刷法により、ラインパターンを印刷し、焼成処理を施して得られた導電膜は、初期抵抗が低いことが確認された。また、上記分散体は、連続印刷性の評価がAであった。
【0365】
また、比較例15、16では、分散媒としてトルエン及びブタノールを使用したが、表2に示すように、初期抵抗は低いが、連続印刷性の評価がBであった。これらの結果から、連続印刷性の向上に、テルピネオール、γ―ブチロラクトン、シクロヘキサノール、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート及びテトラリンが寄与していることが確認された。
【0366】
したがって、表2に開示の実施例53~67のように、酸化第一銅粒子と、針状、樹枝状又は鱗片状の銅粒子と、を含み、分散媒として、テルピネオール、γ―ブチロラクトン、シクロヘキサノール、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート及びテトラリンのいずれかを含み、リン酸基を有する有機化合物を含む分散体を用いることにより、スクリーン印刷法により、初期抵抗が低く、且つ、連続印刷性に優れた導電膜が得られることがわかった。
【0367】
(比較例17)
酸化第一銅粒子を含まず、リン酸基を有する有機化合物を含んでいない日油(株)製スクリーン印刷用銅ペーストCP-1Pを用いて、紙基板上にスクリーン印刷法により、ラインパターンを印刷し、次いで、実施例6~67と同様の条件で、プラズマ焼成し、紙基板上に、導電膜を形成した。
【0368】
得られた比較例17の導電膜について、ハンダ付け試験を行ったが、ディウェッティングがあり、評価はBであった。また導電膜の表面粗さ測定を行ったところ、表面粗さは858nmであった。
【0369】
表2から明らかなように、酸化第一銅粒子を含む分散体S1、3、4、7、8に、銅粒子A:針状銅粉、銅粒子B:樹枝状銅粉及び銅粒子C:鱗片状銅粉を加えた場合、分散体を用いて、スクリーン印刷法により、ラインパターンを印刷し、焼成処理を施して得られた導電膜は、初期抵抗が低く、抵抗安定性が高く、且つ、ハンダ付け性に優れていることが確認された。
【0370】
また、比較例17では、スクリーン印刷が可能であったが、ハンダ付け性の評価がBであり、ハンダ付け性が劣っていた。この結果は、銅ペーストを用いることで、スクリーン印刷が可能になったが、プラズマ焼成後の導電膜にディウェッティングを生じさせる有機成分が残存するため、ハンダ付け性が不良であることを示している。
【0371】
請求項1は、実験例1に基づくものである。請求項2、3は、実験例2に基づくものである。
【0372】
なお、本発明は、以上に記載した実施形態や、各実施例に限定されるものではない。当業者の知識に基づいて実施形態や各実施例に設計の変更等を加えてもよく、また、実施形態や各実施例を任意に組み合わせてもよく、そのような変更等を加えた態様も本発明の範囲に含まれる。
【0373】
本出願は、2017年3月16日出願の特願2017-51568、特願2017-51569、特願2017-51570、特願2017-51571、特願2017-51572、2017年7月27日出願の特願2017-145188、及び2018年2月13日出願の特願2018-23239、特願2018-23242に基づく。この内容は、全てここに含めておく。