(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
C09J 133/20 20060101AFI20240423BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20240423BHJP
C09J 161/06 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
C09J133/20
C09J11/06
C09J161/06
(21)【出願番号】P 2022514084
(86)(22)【出願日】2021-04-06
(86)【国際出願番号】 JP2021014621
(87)【国際公開番号】W WO2021206087
(87)【国際公開日】2021-10-14
【審査請求日】2022-08-08
(31)【優先権主張番号】P 2020070886
(32)【優先日】2020-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000153591
【氏名又は名称】株式会社巴川コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100178847
【氏名又は名称】服部 映美
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(72)【発明者】
【氏名】近藤 恭史
(72)【発明者】
【氏名】山田 裕美
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/132691(WO,A1)
【文献】特開2012-236883(JP,A)
【文献】特開2018-178058(JP,A)
【文献】特開2016-203379(JP,A)
【文献】特開2017-122159(JP,A)
【文献】国際公開第2020/065783(WO,A1)
【文献】特開2020-055299(JP,A)
【文献】特開2014-237811(JP,A)
【文献】特開2012-153851(JP,A)
【文献】特開2015-156441(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基
の官能基を有するアクリルゴムと、前記官能基と反応するシランカップリング剤と、フェノール樹脂と、硬化促進剤と、液状媒体と、を含有する接着剤組成物であって、
前記アクリルゴムが、アクリル酸エステルおよびその誘導体の少なくとも一方とアクリロニトリルおよびその誘導体の少なくとも一方の共重合体を含み、
前記硬化促進剤が前記液状媒体に不溶であり、かつ前記硬化促進剤の反応開始温度が前記液状媒体の沸点より高い温度であり、
前記硬化促進剤の粒子が分散されていることを特徴とする接着剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤組成物に関する。
本願は、2020年4月10日に、日本に出願された特願2020-070886号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
金属と樹脂の複合部品の製造方法としては、例えば、インサート成形や熱プレス成形等が挙げられる。複合部品を製造する際に、金属と樹脂の間を接合する方法としては、例えば、特許文献1~特許文献3に記載されているような方法が挙げられる。
【0003】
特許文献1には、物理的または化学的処理により、金属部材を表面処理して、その表面を粗くし、その粗くした表面に、溶融した樹脂を接触させて、その樹脂を固化させることにより、金属と樹脂の間でアンカー効果を発現させて、金属と樹脂を接合する方法が開示されている。
特許文献2には、金属部材の表面に接着剤を塗布し、その接着剤を介して、金属部材の表面に樹脂を接触させて、金属と樹脂を接合する方法が開示されている。
特許文献3には、射出成形に用いられる樹脂自体に金属接着性を付与し、その樹脂を金属に接触させて、金属と樹脂を接合する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2009/078382号
【文献】特開2015-047732号公報
【文献】特開2010-030177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の発明では、金属と樹脂が直接接合されるため、複合部品は応力緩和性に劣っていた。また、金属部材の表面処理自体、可使時間が短いため、金属部材の表面処理から樹脂の成形までの管理が大変であった。さらに、成形条件に適合する樹脂が限定されていた。
特許文献2に記載の発明では、金属と樹脂の接着性が不十分であるため、複合部品の成形後に、金属から樹脂が剥離し易かった。また、樹脂の使用温度域において、金属と樹脂の接着性を確保することが難しかった。
特許文献3に記載の発明では、複合部品の形状や成形条件が制限されることがあった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、金属および樹脂との接着性に優れるとともに、応力緩和性、耐熱性に優れる接着剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]カルボキシル基の官能基を有するアクリルゴムと、前記官能基と反応するシランカップリング剤と、フェノール樹脂と、硬化促進剤と、液状媒体と、を含有する接着剤組成物であって、前記アクリルゴムが、アクリル酸エステルおよびその誘導体の少なくとも一方とアクリロニトリルおよびその誘導体の少なくとも一方の共重合体を含み、前記硬化促進剤が前記液状媒体に不溶であり、かつ前記硬化促進剤の反応開始温度が前記液状媒体の沸点より高い温度であり、前記硬化促進剤の粒子が分散されていることを特徴とする接着剤組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、金属および樹脂との接着性に優れるとともに、応力緩和性、耐熱性に優れる接着剤組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の接着剤組成物の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0010】
[接着剤組成物]
本実施形態に係る接着剤組成物は、カルボキシル基、水酸基およびエポキシ基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有するアクリルゴムと、前記官能基と反応するシランカップリング剤と、フェノール樹脂と、硬化促進剤と、を含む。
前記アクリルゴムは、アクリル酸エステルおよびその誘導体の少なくとも一方とアクリロニトリルおよびその誘導体の少なくとも一方の共重合体を含むことが好ましい。
【0011】
該共重合体全体を100質量%とした場合、共重合体におけるアクリル酸エステルに由来する構造単位の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましい。
アクリル酸エステルに由来する構造単位の含有量が50質量%未満では、接着剤組成物の硬化物の柔軟性も低下し、応力緩和性が悪くなる傾向がある。
【0012】
上記共重合体全体を100質量%とした場合、共重合体におけるアクリロニトリルに由来する構造単位の含有量は、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましい。
アクリロニトリルに由来する構造単位の含有量が50質量%を超えると、接着剤組成物の溶剤への溶解性が低くなる、塗料化した際に塗料の粘度が高くなる、塗料の流動性がなくなる(ゲル化する)、接着剤用塗料の取り扱いが難しくなるといった不具合が生じる傾向がある。また、接着剤組成物の硬化物の柔軟性も低下し、応力緩和性が悪くなる傾向がある。
【0013】
アクリル酸エステルとしては、アクリロニトリルと共重合可能なものであれば、特に限定されないが、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸2-ジメチルアミノエチル、アクリル酸2-ヒドロシキエチル等、および、これらの誘導体が挙げられる。
アクリロニトリルの代わりに、アクリロニトリルの誘導体を用いてもよい。
【0014】
アクリルゴムは、カルボキシル基、水酸基およびエポキシ基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有し、応力緩和性(低温特性)の観点から、カルボキシル基を好ましく有する。
アクリルゴムが有するカルボキシル基、水酸基およびエポキシ基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基は、カルボキシル基含有モノマー、水酸基含有モノマーおよびエポキシ基含有モノマーからなる群から選択される少なくとも1種と、前記アクリル酸エステルおよびアクリロニトリルとを重合させて得られる化合物に起因することが好適である。
【0015】
カルボキシル基含有モノマーとしては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸等が挙げられる。また、これらのカルボキシル基含有モノマーの無水物も、カルボキシル基含有モノマーとして用いることができる。
【0016】
水酸基含有モノマーとしては、例えば、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピル、アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3-ヒドロキシプロピル、アクリル酸4-ヒドロキシブチル、メタクリル酸4-ヒドロキシブチル、アクリル酸2-ヒドロキシ-3-クロロプロピル、メタクリル酸2-ヒドロキシ-3-クロロプロピル、アクリル酸2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル、メタクリル酸2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル等が挙げられる。
【0017】
エポキシ基含有モノマーとしては、例えば、アクリル酸グリシジルエーテル、メタクリル酸グリシジルエーテル、アクリル酸-2-エチルグリシジルエーテル、メタクリル酸-2-グリシジルエーテル等が挙げられる。
【0018】
前記共重合体の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、1000以上300万以下であることが好ましく、1万以上150万以下であることがより好ましい。共重合体の重量平均分子量(Mw)が300万を超えると、塗料化した際の塗料の著しい増粘により、塗料の流動性がなくなる(ゲル化する)、接着剤用塗料の取り扱いが難しくなるといった不具合が生じる傾向がある。一方、共重合体の重量平均分子量(Mw)が1000未満では、接着剤組成物の硬化物の架橋密度が高くなり、硬化物の柔軟性が悪くなる傾向がある。アクリル系重合体のMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、標準ポリスチレン換算で測定される。
【0019】
前記共重合体のガラス転移点(Tg)は、特に限定されないが、-60℃以上0℃以下であることが好ましく、-40℃以上-15℃以下であることがより好ましく、-40℃以上-20℃以下であることがよりさらに好ましい。共重合体のガラス転移点(Tg)が0℃を超えると、接着剤組成物の硬化物の低温時における柔軟性が悪くなり、金属樹脂一体成形品が低温時に衝撃や、冷熱ストレスを受けた際、各部材間で生じる応力を緩和できず、各部材間での剥離が起こり易くなる傾向がある。一方、共重合体のガラス転移点(Tg)が-60℃未満では、接着剤組成物の硬化物の高温時における凝集力が弱くなるため、金属樹脂一体成形品が、熱時に応力または荷重を受けた際、接着剤層の破壊または各部材間で剥離が起こりやすくなる傾向がある。ガラス転移点(Tg)は、示差走査熱量測定(DSC:differential scanning calorimetry)にて、窒素雰囲気で-80℃~+300℃の範囲を10℃/分の昇温速度の条件で行い、その熱流曲線の変曲点から決定される。
【0020】
接着剤組成物中におけるアクリルゴムの含有量は、特に限定されず、適宜製造条件に応じて選択可能であるが、例えば、接着剤組成物の総質量に対して、20質量%以上95質量%以下であることが好ましく、40質量%以上90質量%以下であることがより好ましく、60質量%以上80質量%以下であることがよりさらに好ましい。
【0021】
アクリルゴムは、共重合体の特性に影響を及ぼさない範囲で、上記の共重合体以外の他の成分を含んでいてもよい。
アクリルゴムに含まれる他の成分としては、例えば、アクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル等のアミノ基含有モノマー、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド等のアミド基含有モノマー等が挙げられる。
【0022】
アクリル酸エステルとアクリロニトリルの共重合体を作製する方法としては、一般的な共重合法が用いられるが、例えば、懸濁重合、乳化重合等が用いられる。
【0023】
前記アクリルゴムの官能基と反応するシランカップリング剤としては、1分子内に有機官能基と加水分解性シリル基とを有する化合物であり、例えば、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノシラン類、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等のエポキシシラン類、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプトシラン類、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン等のビニルシラン類等が挙げられる。特に、これらの中でも、アクリルゴムとの相溶性がよく、また熱によりアクリルゴムと容易に反応して、その硬化物が優れた耐熱性や接着性を示すことから、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のエポキシシラン類、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノシラン類が好ましい。該シランカップリング剤は、いずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。
【0024】
インサート成形や熱プレス成形において、金属部材の表面に接着剤を塗布し、その接着剤を介して、金属部材の表面に樹脂を接触させて、金属と樹脂の接合をする際、樹脂成形時の熱や圧力によって接着剤が流動しないように、使用する接着剤を架橋型のものとし、それを樹脂成形前に架橋することで、接着剤の凝集力を高めることが効果的である。例えば、熱によって架橋する熱硬化性接着剤を用いて、金属部材の表面に接着剤を塗布した後、成形前に加熱することで、上記接着剤の凝集力を高めることが挙げられる。熱硬化以外の接着剤の架橋方法としては、紫外線硬化、湿気硬化などが挙げられる。しかし、接着剤が架橋することで、凝集力が上がる一方で、相対的に被着体界面への接着性は低下する。したがって、金属と成形樹脂間の接合状態を良好なものにするには、接着剤の凝集力と被着体界面への接着性とのバランスが重要になる。ここで、上記接着剤組成物において、カルボキシル基、水酸基およびエポキシ基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有するアクリルゴムと、前記官能基と反応するシランカップリング剤を用いると、アクリルゴムがシランカップリング剤の官能基と反応し、接着剤組成物の凝集力を上げることができる。
【0025】
また、シランカップリング剤は、上記アクリルゴムと反応する官能基を分子内に1つしかもたないため、接着剤組成物の架橋反応を抑えることができる。つまり、接着剤組成物の凝集力上昇が緩やかとなるため、接着剤組成物の凝集力の調整が容易となる。加えて、シランカップリング剤のもう一方の官能基、加水分解性シリル基が、被着体表面と水素結合することで、接着剤組成物の被着体界面への接着性も向上することができる。したがって、金属と成形樹脂間の接合状態を良好にするために必要な、硬化条件の範囲を広くすることができるため、接合部材の品質は安定し易くなる。一方で、上記アクリルゴムと反応する官能基を分子内に2つ以上含有する樹脂を用いると、接着剤組成物の架橋反応が強まりやすい。つまり、接着剤組成物の凝集力上昇が著しくなるため、接着剤組成物の凝集力の調整が難しくなる。したがって、金属と成形樹脂間の接合状態を良好にするために必要な、硬化条件の範囲が狭くなるため、接合部材の品質は安定しにくくなる。
【0026】
接着剤組成物中におけるシランカップリング剤の含有量は、特に限定されず、適宜製造条件に応じて選択可能であるが、例えば、アクリルゴム含有量100質量部に対して、1質量部以上100質量部以下であることが好ましく、5質量部以上50質量部以下であることがより好ましく、10質量部以上40質量部以下であることがより更に好ましい。接着剤組成物中におけるシランカップリング剤の含有量が1質量部未満では、アクリルゴムとシランカップリング剤との架橋反応が進まず、接着剤組成物の硬化物が優れた接着性、耐熱性を発現し難い傾向がある。接着剤組成物中におけるシランカップリング剤の含有量が100質量部を超えると、接着剤組成物の硬化物のTgが高くなり、低温時における柔軟性、応力緩和性が悪くなり易くなる傾向がある。
【0027】
本実施形態に係る接着剤組成物は、さらに、フェノール樹脂を含有する。
フェノール樹脂としては、例えば、原料のフェノール類としてフェノール、クレゾール、p-t-ブチルフェノール等のアルキル置換フェノール、テルペン、ロジン、キシレン、ジシクロペンタジエン等の環状アルキル変性フェノール、ニトロ基、ハロゲン基、アミノ基、シアノ基等のヘテロ原子を含む官能基を有するもの、ナフタレン、アントラセン等の骨格を有するものなどを用いたもの等が挙げられ、アルキル置換フェノールが好ましく挙げられる。これらのフェノール樹脂は、いずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。接着剤組成物がフェノール樹脂を含むことにより、接着剤組成物の硬化物が、優れた耐熱性や、高温時における優れた接着性を示す。
【0028】
接着剤組成物中におけるフェノール樹脂の含有量は、特に限定されず、適宜製造条件に応じて選択可能であるが、例えば、アクリルゴム含有量100質量部に対して、1質量部以上100質量部以下であることが好ましく、5質量部以上50質量部以下であることがより好ましく、10質量部以上40質量部以下がよりさらに好ましい。接着剤組成物中におけるフェノール樹脂の含有量が1質量部未満では、接着剤組成物の硬化物において、フェノール樹脂を含むことによる効果、つまり、硬化物に優れた耐熱性や、高温時における優れた接着性が得られ難い傾向がある。接着剤組成物中におけるフェノール樹脂の含有量が100質量部を超えると、硬化後のTgが高くなり、接着剤組成物の硬化物の低温時における柔軟性、応力緩和性が悪くなり易い傾向がある。
【0029】
硬化促進剤としては、アクリルゴムとシランカップリング剤の反応を促進することができるものであれば、特に限定されないが、例えば、イミダゾール化合物、三級アミン、有機リン化合物、ジシアンジアミド等が挙げられる。
【0030】
イミダゾール化合物としては、例えば、1,2-ジメチルイミダゾール、1-メチル-2-エチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール・トリメリット酸塩、1-ベンジル-2-エチルイミダゾール、1-ベンジル-2-エチル-5-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-イソプロピルイミダゾール、2-フェニル-4-ベンジルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-イソプロピルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾリウムトリメリテート、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテート、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-エチル-4-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-ウンデシルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2-メチルイミダゾリウムイソシアヌール酸付加物、2-フェニルイミダゾリウムイソシアヌール酸付加物、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン-イソシアヌール酸付加物、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-ベンジル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、4,4’-メチレン-ビス-(2-エチル-5-メチルイミダゾール)、1-アミノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニル-4,5-ジ(シアノエトキシメチル)イミダゾール、1-ドデシル-2-メチル-3-ベンジルイミダゾリウムクロライド、2-メチルイミダゾール・ベンゾトリアゾール付加物、1-アミノエチル-2-エチルイミダゾール、1-(シアノエチルアミノエチル)-2-メチルイミダゾール、N,N’-[2-メチルイミダゾリル-(1)-エチル]-アジポイルジアミド、N,N’-ビス-(2-メチルイミダゾリル-1-エチル)尿素、N-(2-メチルイミダゾリル-1-エチル)尿素、N,N’-[2-メチルイミダゾリル-(1)-エチル]ドデカンジオイルジアミド、N,N’-[2-メチルイミダゾリル-(1)-エチル]エイコサンジオイルジアミド、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール・塩化水素酸塩等が挙げられる。
【0031】
三級アミンとしては、例えば、1,8-ジアザ-ビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等が挙げられる。
【0032】
有機リン化合物としては、例えば、トリブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン、ジフェニルホスフィン、フェニルホスフィン等が挙げられる。
【0033】
これらの硬化促進剤は、いずれか1種を単独で用いることができ、2種以上混合して用いることもでき、イミダゾール化合物またはそのアジン変性物が好ましく用いられる。
硬化促進剤を適宜選択することにより、アクリルゴムとシランカップリング剤の架橋反応(架橋密度)を調整することができる。
【0034】
本発明の接着剤組成物は、下記で詳細に述べるように液状媒体に溶解して使用することが好ましい。このように本発明の接着剤組成物を液状媒体に溶解する場合、硬化促進剤は、液状媒体に不溶であり、かつ液状媒体の沸点より高い温度で、アクリルゴムとシランカップリング剤と反応する粒子であることが好ましい。液状媒体に不溶であり、かつ液状媒体の沸点より高い温度で反応する粒子状硬化促進剤は、粒子状態を維持しながら接着剤組成物中に分散することができる。
液状媒体に不溶とは、25℃において、溶媒100g中1g未満溶解のものを意味する。
本発明の接着剤組成物は、アクリルゴム、シランカップリング剤、硬化促進剤等の各成分を液状媒体に溶解または分散して得られる液状の接着剤組成物を、被着体に塗布し、乾燥して使用される。
硬化促進剤の反応開始温度が、液状媒体の沸点より高ければ、前記液状の接着剤組成物を被着体へ塗布、乾燥するときの温度(乾燥温度)を、液状媒体の沸点以上、硬化促進剤の反応開始温度未満にすることで、硬化促進剤を反応させずに液状媒体のみを揮発させることができる。このように、硬化促進剤を反応させずに液状媒体のみを揮発させることによって、粒子状硬化促進剤が粒子状態を維持しながら接着剤組成物中に分散された未硬化の状態の接着剤組成物ができる。この状態の接着剤組成物を硬化促進剤の反応開始温度以上の温度で加熱することで、粒子状硬化促進剤が熱により溶解してアクリルゴムとシランカップリング剤の反応を促進させ接着剤組成物は硬化し、耐熱性や被着体への充分な接合強度を有することができる。
硬化促進剤が液状媒体に溶解する場合、又は硬化促進剤の反応開始温度が液状媒体の沸点以下の場合は、液状媒体に溶解または分散された接着剤組成物を塗布、乾燥したときに、液状媒体を揮発させる際の乾燥熱により硬化促進剤が反応して、接着剤組成物の一部の硬化が生じる。このように一部硬化が生じた接着剤組成物は、被着体と接合した際の被着体への接合強度の低下、未硬化の状態の接着剤組成物の保存安定性の悪化などを招く懸念がある。
また、硬化促進剤が粒子であれば、液状媒体への分散性が良好である。分散性が良好であれば、接着剤層の面状悪化、硬化促進剤が偏在することによる硬化不良が起きにくい。加えて、硬化促進剤が、液状媒体に不溶であることから、保管安定性にも優れた接着剤組成物が作製できる。
このような液状媒体に不溶であり、かつ液状媒体の沸点より高い温度で反応する粒子状硬化促進剤は、反応開始温度が120℃以上であることが好ましい。
反応開始温度が120℃以上である粒子状硬化促進剤の具体例としては、四国化成社製2MZ-A(2,4-ジアミノ-6-(2’-メチルイミダゾリル-(1’))-エチル-s-トリアジン、メチルエチルケトンに不溶、粒子状物、反応開始温度120℃))、四国化成社製2E4MZ-A(2,4-ジアミノ-6-(2’-エチル-4-メチルイミダゾリル-(1’))-エチル-s-トリアジン、メチルエチルケトンに不溶、粒子状物、反応開始温度135℃)、四国化成社製2MA-OK(2,4-ジアミノ-6-(2’-メチルイミダゾリル-(1’))-エチル-s-トリアジン イソシアヌル酸付加物、メチルエチルケトンに不溶、粒子状物、反応開始温度120℃)、四国化成社製2PHZ(2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、メチルエチルケトンに不溶、粒子状物、反応開始温度145℃)、四国化成社製2P4MHZ(2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、メチルエチルケトンに不溶、粒子状物、反応開始温度130℃)などを挙げることができる。
【0035】
接着剤組成物中における硬化促進剤の含有量は、特に限定されず、適宜製造条件に応じて選択可能であるが、アクリルゴムとシランカップリング剤の含有量の合計100質量部に対して、例えば、0.1質量部以上10質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上5質量部以下であることがより好ましく、0.5質量部以上1質量部以下であることがより好ましい。
接着剤組成物中における硬化促進剤の含有量が0.1質量部未満では、硬化促進剤を含むことによる効果、つまりアクリルゴムとシランカップリング剤の架橋反応を促進させる効果が得られ難く、接着剤組成物の熱硬化時間が長くなり、結果生産性が悪くなる傾向がある。また、接着剤硬化物の耐熱性も得られ難い傾向がある。接着剤組成物中における硬化促進剤の含有量が10質量部を超えると、アクリルゴムとシランカップリング剤の架橋反応の促進が著しくなり、金属と樹脂を一体接合させる際の、製造条件の調整が難しくなる傾向がある。例えば、金属に接着剤組成物を付着させた部品を、成形金型にセットしてから成形樹脂を接触させるまでの間に、成形金型の熱により接着剤の反応が著しく進んでしまうことで、成形樹脂を接触させたときには接着剤が接着性を発現できず、成形樹脂を接着できなくなるといった不具合が起こる傾向がある。
【0036】
本実施形態に係る接着剤組成物は、さらに、可塑剤を含むことが好ましい。
可塑剤としては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸エステル系、フタル酸エステル系、アジピン酸エステル系、リン酸エステル系、トリメリット酸エステル系、クエン酸エステル系、エポキシ系およびポリエステル系等が挙げられる。これらの可塑剤は、いずれか1種を単独で用いることができ、2種以上混合して用いることもできる。また、上記の可塑剤は、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、アルコキシシリル基等の官能基を含んだものを用いてもよい。これらの中でも、アクリルゴムへの相溶性の観点から、アクリル酸エステル系が好ましい。接着剤組成物が可塑剤を含むことにより、接着剤組成物のガラス転移点(Tg)を下げることができる。接着剤組成物のガラス転移点(Tg)を下げることにより、接着剤組成物の低温時の柔軟性が向上し、応力緩和性、特に低温時における応力緩和性に優れた接着剤組成物を得ることができる。
【0037】
前記アクリル酸エステルとしては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸2-ジメチルアミノエチル、アクリル酸2-ヒドロシキエチル等、および、これらの誘導体が挙げられる。
【0038】
接着剤組成物中における可塑剤の含有量は、特に限定されず、適宜製造条件に応じて選択可能であるが、例えば、アクリルゴム含有量100質量部に対して、1質量部以上100質量部以下であることが好ましく、10質量部以上100質量部以下であることがより好ましい。接着剤組成物中における可塑剤の含有量が1質量部未満では、可塑剤を含むことによる効果、つまり、接着剤組成物のガラス転移点を下げる効果が得られ難い。接着剤組成物中における可塑剤の含有量が100質量部を超えると、硬化時の接着剤組成物または接着剤組成物の硬化物から、可塑剤が接着剤組成物の表面にブリードアウトし易くなり、成形時における被着体への接着不良や、金属と樹脂を一体接合した後に、経時で被着体の界面から剥離するといった問題が生じる。
【0039】
本実施形態に係る接着剤組成物は、さらに、液状媒体を含むことが好ましい。
液状媒体としては、例えば炭化水素類、アルコール類、ケトン類、エーテル類等の有機溶剤、水等が挙げられる。有機溶剤として具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキサイド、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールジメチルエーテル、ベンゼンジオキサン、シクロペンチルメチルエーテル、塩化メチレン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、γ-ブチロラクトン、セロソルブ、ブチルセロソブル、カルビトール、ブチルカルビトール等が挙げられ、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類が好ましく挙げられる。上記の液状媒体は1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0040】
接着剤組成物中の液状媒体の含有量は、特に限定されないが、アクリルゴム、シランカップリング剤、フェノール樹脂、硬化促進剤および可塑剤の総含有量100質量部に対して、200質量部以上500質量部以下であることが好ましく、300質量部以上400質量部以下であることがより好ましい。
【0041】
本実施形態に係る接着剤組成物は、接着剤組成物の特性に影響を及ぼさない範囲で他の成分を含んでいてもよい。
接着剤組成物に含まれる他の成分としては、例えば、酸アミド類、エステル類、パラフィン類等の離型剤、粘着付与剤、ニトリルゴム、ブタジエンゴム等の応力緩和剤、塩素化パラフィン、ブロムベンゼン、三酸化アンチモン等の難燃剤、チタネート系カップリング剤、溶融シリカ、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ガラスバルーン、タルク、アルミナ、ケイ酸カルシウム、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、マグネシア、窒化ケイ素、窒化ホウ素、フェライト、希土コバルト、金、銀、ニッケル、銅、鉛、鉄粉、酸化鉄、砂鉄等の金属粉、黒鉛、カーボン、弁柄、黄鉛等の無機充填剤または導電性粒子等、染料や顔料等の着色剤、炭素繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、シリコンカーバイト繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維等の無機系繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、セルロース繊維、炭素繊維等の有機系繊維、酸化防止剤、光安定剤、耐湿性向上剤、チキソトロピー付与剤、希釈剤、消泡剤、帯電防止剤、滑剤、紫外線吸収剤等を配合することができる。
【0042】
本実施形態に係る接着剤組成物は、ガラス転移点(Tg)が、-60℃以上0℃以下であることが好ましく、-40℃以上-20℃以下であることがより好ましい。
接着剤組成物のガラス転移点(Tg)が0℃を超えると、接着剤組成物の硬化物の低温時における柔軟性が悪くなり、金属樹脂一体成形品が低温時に衝撃や、冷熱ストレスを受けた際、各部材間で生じる応力を緩和できず、各部材間での剥離が起こり易くなる傾向がある。一方、接着剤組成物のガラス転移点(Tg)が-60℃未満では、接着剤組成物の硬化物の高温時における凝集力が弱くなるため、金属樹脂一体成形品が、熱時に応力または荷重を受けた際、接着剤層の破壊または各部材間で剥離が起こり易くなる傾向がある。
【0043】
本実施形態に係る接着剤組成物では、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)を用い、ATR(Attenuated Total Reflection)法により測定したアクリル酸エステルのカルボニル基(C=O)に起因する波数(1740cm-1)における吸光度のピーク面積と、アクリロニトリルのニトリル基(C≡N)に起因する波数(2240cm-1)における吸光度のピーク面積の比(ニトリル基/カルボニル基)が、0.001以上0.02以下であり、0.0015以上0.015以下であることが好ましく、0.002以上0.01以下であることがより好ましい。以下、このカルボニル基に対するニトリル基の比を、「N/C比」ということもある。
【0044】
「N/C比」が0.001未満では、接着剤組成物の常温時および高温時の接着性が悪くなるため、金属樹脂一体成形時に部材同士を接合できない、または、接合できたとしても、金属樹脂一体成形品が、応力または荷重を受けた際、各部材間で容易に剥離してしまうといった不具合が生じやすくなる傾向がある。また、接着剤組成物の硬化物の高温時における凝集力が弱くなるため、金属樹脂一体成形品が、熱時に応力または荷重を受けた際、接着剤層の破壊または各部材間で剥離が起こりやすくなる傾向がある。一方、「N/C比」が0.02を超えると、接着剤組成物の硬化物の低温時における柔軟性が悪くなり、金属樹脂一体成形品が低温時に衝撃や、冷熱ストレスを受けた際、各部材間で生じる応力を緩和できず、各部材間での剥離が起こり易くなる傾向がある。
【0045】
本実施形態に係る接着剤組成物の製造方法は、特に限定されないが、例えば、液状媒体を除く各成分(以下、「各成分」と略する場合がある)をロールミル等で混練したものを液状媒体に溶解する方法や、各成分を予め液状媒体に溶解または分散したものを混合または分散して得る方法が挙げられる。この各成分を液状媒体に溶解または分散したものを以下「接着剤用塗料」ともいう。更に該接着剤用塗料を使用して接着剤層を得るには、接着剤用塗料を被着体に塗布し、乾燥、脱溶剤して形成することにより作製できる。
【0046】
接着剤用塗料を塗布する方法としては、例えば、塗工方式、印刷方式、ディスペンス方式が挙げられ、寸法精度、塗布形状を制御できれば、何れの方法でもよい。
塗工方式としては、例えば、エアドクターコーティング、バーコーティング、ブレードコーティング、ナイフコーティング、リバースコーティング、トランスファロールコーティング、グラビアロールコーティング、キスコーティング、キャストコーティング、スプレーコーティング、スロットオリフィスコーティング、カレンダーコーティング、ダムコーティング、ディップコーティング、ダイコーティング等のコーティング方式が挙げられる。
【0047】
塗工方式の場合、ロール状態に巻き取られた支持基材を巻き出し、その支持基材に接着剤用塗料を、公知のコーティング機等を用いて連続塗布し、接着剤用塗料が塗布された支持基材を乾燥炉に通し、50℃~200℃で1分~10分間かけて乾燥させ、必要に応じて、乾燥炉から出た時点でロールラミネータを用いて保護フィルムを貼着し、形成された接着テープを巻き取ってロール状にする方法が用いられる。
【0048】
印刷方式としては、例えば、グラビア印刷等の凹版印刷、スクリーン印刷等の孔版印刷等が挙げられる。
塗布した接着剤用塗料を乾燥する際の乾燥温度は、特に制限はないが、室温~150℃の範囲が好ましい。乾燥時間についても特に制限は無いが、例えば、1分~24時間の範囲が好ましい。乾燥温度、乾燥時間については、生産性に応じて適宜選択する。
【0049】
また、本実施形態における接着剤用塗料の粘度は、室温にて液状のものが好ましく、特に25℃において0.001Pa・s~1000Pa・sの範囲が好ましい。しかしながら、室温において固形であっても加熱して液状になるものであれば、本実施形態において使用可能である。
接着層の厚みは、接着剤用塗料の固形分濃度と塗布厚みによって調整できる。
【0050】
以上説明した本実施形態の接着剤組成物においては、カルボキシル基、水酸基およびエポキシ基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有するアクリルゴムと、前記官能基と反応するシランカップリング剤と、フェノール樹脂と、硬化促進剤とを含有する。したがって、本実施形態の接着剤組成物は、金属および樹脂との接着性に優れるとともに、応力緩和性、耐熱性にも優れる。そのため、本実施形態の接着剤組成物は、インサート成形や熱プレス成形において、金属と樹脂の一体成形に好適に用いることができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
[実施例1]
アクリルゴムA(カルボキシル基を有するモノマーと、アクリル酸エステルおよびアクリロニトリルとのゴム状共重合体(重量平均分子量(Mw):90万、ガラス転移点(Tg):-15℃、N/C比:0.0070))100質量部と、
シランカップリング剤A(3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)25質量部と、
フェノール樹脂A(商品名:TD-773、DIC株式会社)20質量部と
硬化促進剤A(2-エチル-4-メチルイミダゾール、四国化成社製2E4MZ)1質量部とを、ロールミル(株式会社井上製作所社製)を用いて混合し、実施例1の接着剤組成物を得た。
【0053】
[実施例2]
前記実施例1において、シランカップリング剤Aの含有量を10質量部にした以外は実施例1と同様にして、実施例2の接着剤組成物を得た。
【0054】
[実施例3]
前記実施例1において、シランカップリング剤Aの含有量を40質量部にした以外は実施例1と同様にして、実施例3の接着剤組成物を得た。
【0055】
[実施例4]
前記実施例1において、フェノール樹脂Aの含有量を10質量部にした以外は実施例1と同様にして、実施例4の接着剤組成物を得た。
【0056】
[実施例5]
前記実施例1において、フェノール樹脂Aの含有量を40質量部にした以外は実施例1と同様にして、実施例5の接着剤組成物を得た。
【0057】
[実施例6]
前記実施例4において、フェノール樹脂Aをフェノール樹脂B(商品名:TD-1090、DIC株式会社)10質量部に変更した以外は実施例4と同様にして、実施例6の接着剤組成物を得た。
【0058】
[実施例7]
前記実施例5において、フェノール樹脂Aをフェノール樹脂B40質量部に変更した以外は実施例5と同様にして、実施例7の接着剤組成物を得た。
【0059】
[実施例8]
前記実施例1において、アクリルゴムAの代わりに、アクリルゴムB(エポキシ基を有するモノマーと、アクリル酸エステルおよびアクリロニトリルとのゴム状共重合体(重量平均分子量(Mw):90万、ガラス転移点(Tg):-15℃、N/C比:0.0070))100質量部にした以外は実施例1と同様にして、実施例8の接着剤組成物を得た。
【0060】
[実施例9]
前記実施例1において、アクリルゴムAの代わりに、アクリルゴムC(水酸基を有するモノマーと、アクリル酸エステルおよびアクリロニトリルとのゴム状共重合体(重量平均分子量(Mw):90万、ガラス転移点(Tg):-15℃、N/C比:0.0070))100質量部にした以外は実施例1と同様にして、実施例9の接着剤組成物を得た。
【0061】
[実施例10]
前記実施例1において、シランカップリング剤Aの代わり、シランカップリング剤B(3-アミノプロピルトリメトキシシラン)25質量部にした以外は実施例1と同様にして、実施例10の接着剤組成物を得た。
【0062】
[実施例11]
前記実施例8において、シランカップリング剤Aの代わり、シランカップリング剤B25質量部にした以外は実施例8と同様にして、実施例11の接着剤組成物を得た。
【0063】
[実施例12]
前記実施例2において、アクリルゴムAの代わりに、アクリルゴムD(カルボキシル基を有するモノマーと、アクリル酸エステルおよびアクリロニトリルとのゴム状共重合体(重量平均分子量(Mw):90万、ガラス転移点(Tg):-40℃、N/C比:0.0020)100質量部にした以外は実施例2と同様にして、実施例12の接着剤組成物を得た。
【0064】
[実施例13]
前記実施例3において、アクリルゴムAの代わりに、アクリルゴムD100質量部にした以外は実施例3と同様にして、実施例13の接着剤組成物を得た。
【0065】
[実施例14]
前記実施例2において、アクリルゴムAの代わりに、アクリルゴムD100質量部にして、シランカップリング剤Aの代わり、シランカップリング剤B10質量部にした以外は実施例2と同様にして、実施例14の接着剤組成物を得た。
【0066】
[実施例15]
前記実施例3において、アクリルゴムAの代わりに、アクリルゴムD100質量部にして、シランカップリング剤Aの代わり、シランカップリング剤B40質量部にした以外は実施例3と同様にして、実施例15の接着剤組成物を得た。
【0067】
[実施例16]
前記実施例12において、硬化促進剤A(2-エチル-4-メチルイミダゾール)の代わりに、硬化促進剤B(2,4-ジアミノ-6-(2’-エチル-4-メチルイミダゾリル-(1’))-エチル-s-トリアジン、四国化成社製2E4MZ-A、メチルエチルケトンに不溶、粒子状物、反応開始温度135℃)を1質量部にした以外は実施例12と同様にして、実施例16の接着剤組成物を得た。
【0068】
[実施例17]
前記実施例13において、硬化促進剤Aの代わりに、硬化促進剤Bを1質量部にした以外は実施例13と同様にして、実施例17の接着剤組成物を得た。
【0069】
[実施例18]
前記実施例14において、硬化促進剤Aの代わりに、硬化促進剤Bを1質量部にした以外は実施例14と同様にして、実施例18の接着剤組成物を得た。
【0070】
[実施例19]
前記実施例15において、硬化促進剤Aの代わりに、硬化促進剤Bを1質量部にした以外は実施例15と同様にして、実施例19の接着剤組成物を得た。
【0071】
[比較例1]
前記実施例1において、シランカップリング剤Aの代わりに、エポキシ樹脂(商品名:jER828、三菱ケミカル株式会社)25質量部にした以外は実施例1と同様にして、比較例1の接着剤組成物を得た。
【0072】
[比較例2]
前記実施例1において、フェノール樹脂Aを除いた以外は実施例1と同様にして、比較例2の接着剤組成物を得た。
【0073】
[比較例3]
前記実施例1において、シランカップリング剤Aを除いた以外は実施例1と同様にして、比較例3の接着剤組成物を得た。
【0074】
[比較例4]
前記実施例1において、アクリルゴムAの代わりに、アクリルゴムE(カルボキシル基、水酸基およびエポキシ基のいずれも有さないモノマーと、アクリル酸エステルおよびアクリロニトリルとのゴム状共重合体(重量平均分子量(Mw):90万、ガラス転移点(Tg):-15℃、N/C比:0.0070))100質量部にした以外は実施例1と同様にして、比較例4の接着剤組成物を得た。
【0075】
[比較例5]
前記比較例1において、フェノール樹脂Aの含有量を40質量部にした以外は比較例1と同様にして、比較例5の接着剤組成物を得た。
【0076】
[比較例6]
前記実施例1において、硬化促進剤を除いた以外は実施例1と同様にして、比較例6の接着剤組成物を得た。
【0077】
[比較例7]
前記比較例6において、エポキシ樹脂(商品名:jER828、三菱ケミカル株式会社)25質量部を加えた以外は比較例6と同様にして、比較例7の接着剤組成物を得た。
【0078】
[比較例8]
前記比較例1において、アクリルゴムAの代わりに、アクリルゴムD100質量部にした以外は比較例1と同様にして、比較例8の接着剤組成物を得た。
【0079】
前記実施例1~19及び比較例1~8の接着剤組成物による配合をまとめて下記の表1~6に示した。表中の数値は質量部を示す。
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
[評価]
「接着特性」
(1)PETフィルム付き熱硬化性接着シートの作製
実施例1~19および比較例1~8の接着剤組成物100質量部を、各々メチルエチルケトン(沸点79.6℃)400質量部に分散または溶解して、各々接着剤用塗料を調製した。
実施例16~19の接着剤組成物を用いて調製した接着剤用塗料は、硬化促進剤Bからなる粒子の分散を確認した。
厚さ38μmの離型PETフィルムの離型処理面上に、乾燥後の厚さが100μmになるように、接着剤用塗料を塗布した。
接着剤用塗料を塗布した離型PETフィルムを、100℃に設定した熱風循環型オーブン中で乾燥、脱溶剤させて、接着剤用塗料からなる塗膜(接着剤層)を形成し、直ちに、その塗膜(接着剤層)の離型PETフィルムと接している面とは反対側の面に、他の離型PETを貼り合わせて、PETフィルム付き熱硬化性接着シートを作製した。
実施例16~19の接着剤組成物を用いて調製した接着剤用塗料から得られた熱硬化性接着シートは、熱硬化性接着シート中に硬化促進剤Bからなる粒子が分散されていることを確認した。
【0087】
(2)PBT・アルミニウム接合サンプルの作製(150℃/15minキュア)
上記のPETフィルム付き熱硬化性接着シートを、5mm×5mmに裁断した。
PETフィルム付き熱硬化性接着シートの一方の離型PETフィルムを剥離し、接着剤層側を金属板へ貼りつけた。金属板としては、アルミニウムA5052材(20mm×30mm、厚さ1.5mm)を用いた。
PETフィルム付き熱硬化性接着シートの他方の離型PETフィルムを剥離し、金属・接着シート貼付品を得た。
上記の金属・接着シート貼付品を、熱循環型オーブンを用いて150℃にて15minで熱処理し、接着剤層を熱硬化させた(このとき接着剤層は完全に硬化していない)。
260℃に加熱したホットプレート上に、接着剤層を熱硬化させた金属・接着シート貼付品を載せて、さらに、その接着剤層上にポリフェニレンサルファイド(PBT)からなる樹脂材を載せて、そのPBT樹脂材側から50kPaにて20sec加圧して、PBT・アルミニウム接合サンプルを作製した。PBT樹脂材としては、富山軽粗材株式会社製(10mm×10mm、厚さ10mm)の板材を用いた。
なお、上記の加工時の熱によって、接着剤層自体も、アルミニウムとPBT樹脂材へ適度に濡れながら、架橋がさらに進むため、接着剤層と、アルミニウムおよびPBTと強固に接合する。
【0088】
(3)常温における接着特性の評価(150℃/15minキュアせん断強度(常温))
上記(2)におけるPBT・アルミニウム接合サンプルを、PBT樹脂材に対して、せん断方向に押し付けた時の強度(せん断強度)を25℃環境下で測定した。
せん断強度の測定には株式会社今田製作所製の剪断力試験機SL5000を用いた。測定速度を50mm/分とした。
PBT樹脂材とアルミニウム材を接合できなかったものを「接合できず」、せん断強度が100kPa未満を「×」、せん断強度が100kPa以上のものを「○」とした。結果を表7~12に示した。
【0089】
(4)熱時における接着特性の評価(150℃/15minキュアせん断強度(熱時))
上記(2)におけるPBT・アルミニウム接合サンプルを、PBT樹脂材に対して、せん断方向に押し付けた時の強度(せん断強度)を130℃環境下で測定した。
せん断強度の測定には 株式会社今田製作所製の剪断力試験機SL5000を用いた。測定速度を50mm/分とした。
PBT樹脂材とアルミニウム材を接合できなかったものを「接合できず」、せん断強度が100kPa未満を「×」、せん断強度が100kPa以上のものを「○」とした。結果を表7~12に示した。
【0090】
(5)PBT・アルミニウム接合サンプルの作製(150℃/60minキュア)
前記(2)PBT・アルミニウム接合サンプルの作製(150℃/15minキュア)において、熱循環型オーブンを用いて接着剤層を熱硬化させる温度及び時間を、150℃にて60minにした以外は同様にしてPBT・アルミニウム接合サンプルを作製した。
【0091】
(6)常温における接着性の評価(150℃/60minキュアせん断強度(常温))
上記(5)におけるPBT・アルミニウム接合サンプルを、PBT樹脂材に対して、せん断方向に押し付けた時の強度(せん断強度)を25℃環境下で測定した。
せん断強度の測定には株式会社今田製作所製の剪断力試験機SL5000を用いた。測定速度を50mm/分とした。
PBT樹脂材とアルミニウム材を接合できなかったものを「接合できず」、せん断強度が100kPa未満を「×」、せん断強度が100kPa以上のものを「○」とした。結果を表7~12に示した。
【0092】
(7)熱時における接着性の評価(150℃/60minキュアせん断強度(熱時))
上記(5)におけるPBT・アルミニウム接合サンプルを、PBT樹脂材に対して、せん断方向に押し付けた時の強度(せん断強度)を130℃環境下で測定した。
せん断強度の測定には 株式会社今田製作所製の剪断力試験機SL5000を用いた。測定速度を50mm/分とした。
PBT樹脂材とアルミニウム材を接合できなかったものを「接合できず」、せん断強度が100kPa未満を「×」、せん断強度が100kPa以上のものを「○」とした。結果を表7~12に示した。
【0093】
「速硬化性」
前記「接着特性」(1)PETフィルム付き熱硬化性接着シートの作製で得たPETフィルム付き熱硬化性接着シートを、接着剤が1mm厚となるように積層し、レオメーター(HAAKE社製MARSI)を用いて、150℃経時における接着剤の硬化速度を確認するため、150℃経時におけるせん断貯蔵弾性率を測定した。評価プローブは、20mmΦパラレルプレートを使用した。測定荷重は15Nとした。測定周波数は1Hzとした。温度条件は、室温から150℃まで10℃/minの速度で昇温させた後、150℃到達後、150℃で60min保持させた。ここで、150℃に達したときの150℃のせん断貯蔵弾性率をG1(初期の150℃粘度)、150℃で15min経過時における150℃せん断貯蔵弾性率をG2、150℃で60min経過時における150℃せん断貯蔵弾性率をG3とした。
次に、150℃で15min経過時における150℃の貯蔵弾性率の変化比率(G2/G1)をαと表した。αが1.5以上の場合は、速硬化性があるとして○とした。一方αが1.5未満の場合は、速硬化性がないとして×とした。結果を表7~12に示した。
【0094】
「品質安定性」
前記「速硬化性」のせん断貯蔵弾性率測定結果から、150℃で15min経過時における150℃のせん断貯蔵弾性率の変化比率(G2/G1)をαと表した。また、150℃で60min経過時における150℃のせん断貯蔵弾性率の変化比率(G3/G1)をβと表した。
そして、β-α=1.5以下の場合は、品質安定性は良好であり、○としして記した。また、β-α=1.5を越えた場合は、品質不安定性は不良であり、×として記した。β-α=1.5以下の場合は、熱硬化による接着剤の凝集力の変化率が低いことを示し、適切な接合状態が得るために必要な接着剤の硬化時間を広く設定できる(硬化条件のマージンを広くできる)。結果を表7~12に示した。
【0095】
「低温特性」
応力緩和性を評価するため、接着剤を熱硬化した後の、接着剤のガラス転移点を示差走査熱量測定(DSC:differential scanning calorimetry)により測定した。
前記「接着特性」(1)PETフィルム付き熱硬化性接着シートの作製で得たPETフィルム付き熱硬化性接着シートの接着剤部分を取り出し、それをアルミホイルシャーレに載せ、熱循環オーブンを用いて150℃で60min加熱し、次にホットプレートにて260℃で20secの熱処理を行った。次に、熱処理した接着剤部分を10mg取り出し、DSC(日立ハイテクサイエンス社製 DSC7020)を用いて接着剤のガラス転移点(Tg)を求めた。
DSC測定は、窒素雰囲気で-80℃~+300℃の範囲を10℃/分の昇温速度の条件で行い、その熱流曲線の変曲点からガラス転移点を求めた。評価としては、ガラス転移点が-20℃未満を○、-20℃~0℃を△、0℃を越えた場合を×とした。結果を表7~12に示した。
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
上記表7~12の結果から、実施例1~実施例19の接着剤組成物は、比較例1~比較例8の接着剤組成物よりも、接着特性、速硬化性、品質安定性および低温特性に優れていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の接着剤組成物によれば、インサート成形や熱プレス成形において、金属と樹脂の一体成形に好適に用いることができる。