IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エルジー エナジー ソリューション リミテッドの特許一覧

特許7477626リチウム二次電池用分離膜及びその製造方法
<>
  • 特許-リチウム二次電池用分離膜及びその製造方法 図1
  • 特許-リチウム二次電池用分離膜及びその製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用分離膜及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/446 20210101AFI20240423BHJP
   H01M 50/451 20210101ALI20240423BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20240423BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20240423BHJP
   H01M 50/491 20210101ALI20240423BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20240423BHJP
   H01M 50/42 20210101ALI20240423BHJP
   H01M 50/426 20210101ALI20240423BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20240423BHJP
   H01M 50/403 20210101ALI20240423BHJP
【FI】
H01M50/446
H01M50/451
H01M50/443 M
H01M50/434
H01M50/443 B
H01M50/443 E
H01M50/491
H01M50/489
H01M50/42
H01M50/426
H01M50/414
H01M50/403 D
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022551374
(86)(22)【出願日】2021-02-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-18
(86)【国際出願番号】 KR2021002513
(87)【国際公開番号】W WO2021172958
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】10-2020-0024456
(32)【優先日】2020-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521065355
【氏名又は名称】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】キュン-リュン・カ
(72)【発明者】
【氏名】ジン-ヨン・シン
(72)【発明者】
【氏名】サン-ジュン・イ
(72)【発明者】
【氏名】ジェ-アン・イ
【審査官】梅野 太朗
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/146237(WO,A1)
【文献】特開2018-147578(JP,A)
【文献】国際公開第2016/157770(WO,A1)
【文献】特開2015-115132(JP,A)
【文献】特開2013-022876(JP,A)
【文献】国際公開第2014/083988(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第110832672(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M50/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の気孔を有する多孔性高分子基材と、
前記多孔性高分子基材の少なくとも一面上に形成されており、多数の無機物粒子及び前記無機物粒子の表面の一部または全部に位置して前記無機物粒子同士の間を連結及び固定させる接着性高分子粒子を含む多孔性コーティング層と、を備え、
前記無機物粒子は、10nm~100nmのD50直径を有する小粒径無機物粒子、及び600nm以上のD50直径を有する大粒径無機物粒子を含み、前記小粒径無機物粒子の含量は、前記無機物粒子の総含量100重量部を基準にして30重量部以上であり、
前記接着性高分子粒子は、200nm以下のD50直径を有するものであり、
前記多孔性コーティング層の気孔度は、40~50%である、リチウム二次電池用分離膜。
【請求項2】
前記多孔性高分子基材と前記多孔性コーティング層との間の接着力が50gf/15mm以上であり、
下記の数式1を満たす、請求項1に記載のリチウム二次電池用分離膜。
[数式1]
(MD+TD)/2≦10%
数式1において、MDは前記分離膜のMD方向の熱収縮率、TDは前記分離膜のTD方向の熱収縮率をそれぞれ意味し、
前記熱収縮率は、(分離膜の最初長さ-150℃/30分間の熱収縮処理後の長さ)/(分離膜の最初長さ)×100で計算する。
【請求項3】
前記小粒径無機物粒子の含量が、前記無機物粒子の総含量100重量部を基準にして30~50重量部である、請求項1または2に記載のリチウム二次電池用分離膜。
【請求項4】
前記接着性高分子粒子が、スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンゴム、ブチルアクリレート-エチルヘキシルアクリレート共重合体、メチルメタクリレート-エチルヘキシルアクリレート共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、スチレン及びポリシアノアクリレートからなる群より選択されたいずれか一つまたはこれらのうち2種以上の混合物を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用分離膜。
【請求項5】
前記小粒径無機物粒子及び大粒径無機物粒子が、それぞれ独立して、BaTiO、Pb(ZrTi1-x)O(PZT、0<x<1)、Pb1-xLaZr1-yTi(PLZT、0<x<1、0<y<1)、(1-x)Pb(Mg1/3Nb2/3)O-xPbTiO(PMNPT、0<x<1)、ハフニア(HfO)、SrTiO、SnO、CeO、MgO、NiO、CaO、ZnO、ZrO、Al、AlO(OH)、TiO及びSiCからなる群より選択されたいずれか一つまたはこれらのうち2種以上の混合物を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用分離膜。
【請求項6】
前記小粒径無機物粒子と前記大粒径無機物粒子とは、同一であるかまたは相異なる物質である、請求項1から5のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用分離膜。
【請求項7】
前記無機物粒子の総含量と接着性高分子粒子との重量比が50:50~99:1である、請求項1から6のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用分離膜。
【請求項8】
前記多孔性コーティング層の厚さが1μm~10μmである、請求項1から7のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用分離膜。
【請求項9】
正極、負極、及び前記正極と負極との間に介在された分離膜を含み、
前記分離膜が請求項1から8のうちいずれか一項に記載のリチウム二次電池用分離膜である、リチウム二次電池。
【請求項10】
多孔性高分子基材及び前記多孔性高分子基材の少なくとも一面上に多孔性コーティング層が形成されたリチウム二次電池用分離膜の製造方法であって、
(S1)10nm~100nmのD50直径を有する小粒径無機物粒子、600nm以上のD50直径を有する大粒径無機物粒子、及び200nm以下のD50直径を有する接着性高分子粒子を含む多孔性コーティング層形成用スラリーを用意する段階と、
(S2)多数の気孔を有する多孔性高分子基材上に多孔性コーティング層形成用スラリーを塗布及び乾燥して多孔性コーティング層を形成する段階と、を含み、
前記多孔性コーティング層形成用スラリー内の固形分の含量が25~35%である、リチウム二次電池用分離膜の製造方法。
【請求項11】
前記多孔性コーティング層の気孔度が40~50%である、請求項10に記載のリチウム二次電池用分離膜の製造方法。
【請求項12】
前記小粒径無機物粒子の含量が、前記無機物粒子の総含量100重量部を基準にして30~50重量部である、請求項10または11に記載のリチウム二次電池用分離膜の製造方法。
【請求項13】
前記無機物粒子の総含量と接着性高分子粒子との重量比が50:50~99:1である、請求項10から12のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用分離膜の製造方法。
【請求項14】
前記多孔性高分子基材と前記多孔性コーティング層との間の接着力が50gf/15mm以上であり、
下記の数式1を満たす、請求項10から13のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用分離膜の製造方法。
[数式1]
(MD+TD)/2≦10%
数式1において、MDは前記分離膜のMD方向の熱収縮率、TDは前記分離膜のTD方向の熱収縮率をそれぞれ意味し、
前記熱収縮率は、(分離膜の最初長さ-150℃/30分間の熱収縮処理後の長さ)/(分離膜の最初長さ)×100で計算する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池などの電気化学素子に利用できる分離膜及びその製造方法に関する。
【0002】
本出願は、2020年2月27日付け出願の韓国特許出願第10-2020-0024456号に基づく優先権を主張し、当該出願の明細書及び図面に開示された内容は、すべて本出願に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
近年、エネルギー貯蔵技術に対する関心が益々高まっている。携帯電話、カムコーダー及びノートパソコン、さらには電気自動車のエネルギーまで適用分野が拡がるとともに、電気化学素子の研究と開発に対する努力が益々具体化されている。電気化学素子はこのような面から最も注目されている分野であり、なかでも充放電可能な二次電池の開発には関心が寄せられている。近年はこのような電池の開発において、容量密度及び比エネルギーを向上させるために新たな電極と電池の設計に関連する研究開発が行われている。
【0004】
現在適用されている二次電池のうち1990年代初頭に開発されたリチウム二次電池は、水溶液電解液を使用するNi-MH、Ni-Cd、硫酸-鉛電池などの従来の電池に比べて、作動電圧が高くてエネルギー密度が格段に高いという長所から脚光を浴びている。
【0005】
リチウム二次電池などの電気化学素子は多くのメーカーで生産されているが、それらの安全特性はそれぞれ異なる様相を呈する。このような電気化学素子の安全性を評価及び確保することは非常に重要である。最も重要であるとして考慮すべき事項は、電気化学素子が誤作動してもユーザに傷害を負わせてはならないということであり、そのため安全規格では電気化学素子内の発火及び発煙などを厳しく規制している。電気化学素子の安全特性において、電気化学素子が過熱されて熱暴走が起きるか又は分離膜が貫通される場合は、爆発につながる恐れがある。特に、電気化学素子の分離膜として通常使用されるポリオレフィン系多孔性高分子基材は、材料的特性及び延伸を含む製造工程上の特性によって、100℃以上の温度で甚だしい熱収縮挙動を見せ、正極と負極との間の短絡を起こす。
【0006】
このような電気化学素子の安全性の問題を解決するため、多数の気孔を有する多孔性高分子基材の少なくとも一面に、過量の無機物粒子とバインダー高分子との混合物をコーティングして多孔性コーティング層を形成した分離膜が提案されている。
【0007】
このような分離膜は、多孔性コーティング層内に無機物粒子を含むことで耐熱性を確保できるが、現在開発されている電極組立体のエネルギー密度の上昇とともに分離膜にもさらなる安全性確保が求められている。
【0008】
一方、耐熱性を高めるため無機物粒子の含量を増加させれば、これと同時に無機物粒子を接着するためのバインダー高分子の含量も増加するようになって、抵抗が高くなる問題がある。抵抗を下げるためバインダー高分子の含量を減らせば、多孔性基材との接着力が低下する問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来に比べて耐熱性が向上したリチウム二次電池用分離膜を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、耐熱性が向上すると同時に電気抵抗は減少し、また多孔性基材との接着力(peel strength)が改善された分離膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、下記の具現例によるリチウム二次電池用分離膜を提供する。
【0012】
第1具現例は、
多数の気孔を有する多孔性高分子基材と、
前記多孔性高分子基材の少なくとも一面上に形成されており、多数の無機物粒子及び前記無機物粒子の表面の一部または全部に位置して前記無機物粒子同士の間を連結及び固定させる接着性高分子粒子を含む多孔性コーティング層と、を備え、
前記無機物粒子は、10nm~100nmのD50直径を有する小粒径無機物粒子、及び600nm以上のD50直径を有する大粒径無機物粒子を含み、このとき、前記小粒径無機物粒子の含量は、前記無機物粒子の総含量を基準にして30重量部以上であり、
前記接着性高分子粒子は、200nm以下のD50直径を有するものであり、
前記多孔性コーティング層の気孔度は、40~50%であることを特徴とするリチウム二次電池用分離膜に関する。
【0013】
このとき、前記多孔性高分子基材と前記多孔性コーティング層との間の接着力(peel strength)は、50gf/15mm以上であり、下記の数式1を満たし得る。
[数式1]
(MD+TD)/2≦10%
【0014】
数式1において、MDは前記分離膜のMD(machine direction)方向の熱収縮率、TDは前記分離膜のTD(transverse direction)方向の熱収縮率をそれぞれ意味し、
前記熱収縮率は、(分離膜の最初長さ-150℃/30分間の熱収縮処理後の長さ)/(分離膜の最初長さ)×100で計算する。
【0015】
このとき、前記小粒径無機物粒子の含量は、前記無機物粒子の総含量を基準にして30~50重量部であり得る。
【0016】
このとき、前記接着性高分子粒子は、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンゴム、ブチルアクリレート-エチルヘキシルアクリレート共重合体、メチルメタクリレート-エチルヘキシルアクリレート共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、スチレン及びポリシアノアクリレートからなる群より選択されたいずれか一つまたはこれらのうち2種以上の混合物を含み得る。
【0017】
このとき、前記小粒径無機物粒子及び大粒径無機物粒子は、それぞれ独立して、BaTiO、Pb(ZrTi1-x)O(PZT、0<x<1)、Pb1-xLaZr1-yTi(PLZT、0<x<1、0<y<1)、(1-x)Pb(Mg1/3Nb2/3)O-xPbTiO(PMNPT、0<x<1)、ハフニア(HfO)、SrTiO、SnO、CeO、MgO、NiO、CaO、ZnO、ZrO、Al、AlO(OH)、TiO及びSiCからなる群より選択されたいずれか一つまたはこれらのうち2種以上の混合物を含み得る。
【0018】
このとき、前記小粒径無機物粒子と前記大粒径無機物粒子とは、同一であるかまたは相異なる物質であり得る。
【0019】
このとき、前記無機物粒子の総含量と前記接着性高分子粒子との重量比は、50:50~99:1であり得る。
【0020】
このとき、前記多孔性コーティング層の厚さは、1μm~10μmであり得る。
【0021】
本発明の他の一態様は、下記の具現例によるリチウム二次電池を提供する。
【0022】
具体的には、正極、負極及び前記正極と負極との間に介在された分離膜を含み、前記分離膜が上述した具現例のうちいずれか一具現例による分離膜であることを特徴とするリチウム二次電池であり得る。
【0023】
本発明のさらに他の一態様は、下記の具現例による分離膜の製造方法を提供する。
【0024】
具体的には、多孔性高分子基材及び前記多孔性高分子基材の少なくとも一面上に多孔性コーティング層が形成された分離膜の製造方法であって、
(S1)10nm~100nmのD50直径を有する小粒径無機物粒子、600nm以上のD50直径を有する大粒径無機物粒子、及び200nm以下のD50直径を有する接着性高分子粒子を含む多孔性コーティング層形成用スラリーを用意する段階と、
(S2)多数の気孔を有する多孔性高分子基材上に多孔性コーティング層形成用スラリーを塗布及び乾燥して多孔性コーティング層を形成する段階と、を含み、
このとき、前記多孔性コーティング層形成用スラリー内の固形分の含量は25~35%である。
【0025】
このとき、前記多孔性コーティング層の気孔度は、40~50%であり得る。
【0026】
このとき、前記小粒径無機物粒子の含量は、前記無機物粒子の総含量を基準にして30~50重量部であり得る。
【0027】
このとき、前記無機物粒子の総含量と前記接着性高分子粒子との重量比は、50:50~99:1であり得る。
【0028】
このとき、前記多孔性高分子基材と前記多孔性コーティング層との間の接着力は50gf/15mm以上であり、下記の数式1を満たし得る。
[数式1]
(MD+TD)/2≦10%
【0029】
数式1において、MDは前記分離膜のMD方向の熱収縮率、TDは前記分離膜のTD方向の熱収縮率をそれぞれ意味し、
前記熱収縮率は、(分離膜の最初長さ-150℃/30分間の熱収縮処理後の長さ)/(分離膜の最初長さ)×100で計算する。
【発明の効果】
【0030】
本発明の一態様によれば、大きさが相異なる大粒径無機物粒子及び小粒径無機物粒子を多孔性コーティング層に投入することで、多孔性コーティング層内の気孔度を従来に比べて減少させて耐熱特性を改善することができる。
【0031】
一方、小粒径無機物粒子の使用によって増加する電気抵抗を再び下げるため、接着性高分子粒子を使用して最終分離膜の抵抗を低減させることができる。特に、接着性高分子粒子は、多孔性高分子基材上に塗布しても、非粒子状バインダー高分子と異なって、多孔性高分子基材内の気孔に浸透しないため電気抵抗を高めない。
【0032】
本発明の一態様によれば、所定の大きさを有する接着性高分子粒子を使用して多孔性基材との接着性を向上させることができる。
【0033】
本発明の一態様によれば、多孔性コーティング層の気孔度を制御することで、多孔性基材と多孔性コーティング層との間の接着力に優れ、熱収縮率が改善されて抵抗値が低い分離膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明の一実施形態による分離膜を概略的に示した模式図である。
図2】本発明の実施例2による分離膜のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明を詳しく説明する。本明細書及び特許請求の範囲に使われた用語や単語は通常的や辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者自らは発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義できるという原則に則して本発明の技術的な思想に応ずる意味及び概念で解釈されねばならない。
【0036】
本明細書の全体において、ある部分が他の部分と「連結」されるとするとき、これは「直接的な連結」だけでなく、他の部材を介在した「間接的な連結」も含む。また、当該連結は物理的な連結だけではなく、電気化学的な連結を含む。
【0037】
本明細書の全体において、ある部分が他の構成要素を「含む」とは、特に言及しない限り、他の構成要素を除くのではなく、他の構成要素をさらに含み得ることを意味する。
【0038】
また、本明細書で使用される場合、「含む(comprise、comprising)」は、言及した形状、数字、段階、動作、部材、要素及び/またはこれら群の存在を特定するものであり、一つ以上の他の形状、数字、動作、部材、要素及び/または群の存在または付加を排除するものではない。
【0039】
本明細書の全体において、マーカッシュ形式の表現に含まれた「これらの組合せ」の用語は、マーカッシュ形式の表現に記載された構成要素からなる群より選択される一つ以上の混合または組合せを意味し、上記の構成要素からなる群より選択される一つ以上を含むことを意味する。
【0040】
本明細書の全体において、「A及び/またはB」との記載は「A、Bまたはこれら全て」を意味する。
【0041】
リチウム二次電池などの電気化学素子において、分離膜は、安全性を高めるため、多数の気孔を有する多孔性高分子基材の少なくとも一面に、過量の無機物粒子とバインダー高分子との混合物をコーティングして多孔性コーティング層を備えることがある。
【0042】
このような分離膜は、多孔性コーティング層内に無機物粒子を含むことによって耐熱性を確保できるが、現在開発されている電極組立体のエネルギー密度が高くなるにつれて、分離膜にも追加的な安全性の確保が求められる。
【0043】
一方、耐熱性を高めるため無機物粒子の含量を増やすと、これと同時に無機物粒子を接着するためのバインダー高分子の含量も増加するようになって、抵抗が高くなるという問題がある。抵抗を下げるためバインダー高分子の含量を減らすと、多孔性基材との接着力が低下するという問題がある。
【0044】
本発明者等は、上記のような問題を解決しようとして研究を重ね、直径の相異なる二つ以上の無機物粒子及び粒子状の接着性バインダー高分子を含ませることで、多孔性コーティング層の気孔度を制御し、耐熱性が向上すると同時に多孔性高分子基材との接着力が増加し、抵抗は減少した分離膜を見出した。
【0045】
具体的には、本発明の一態様による分離膜は、
多数の気孔を有する多孔性高分子基材と、
前記多孔性高分子基材の少なくとも一面上に形成されており、多数の無機物粒子及び前記無機物粒子の表面の一部または全部に位置して前記無機物粒子同士の間を連結及び固定させる接着性高分子粒子を含む多孔性コーティング層と、を備え、
前記無機物粒子は、10nm~100nmのD50直径を有する小粒径無機物粒子、及び600nm以上のD50直径を有する大粒径無機物粒子を含み、このとき、前記小粒径無機物粒子の含量は、前記無機物粒子の総含量を基準にして30重量部以上であり、
前記接着性高分子粒子は、200nm以下のD50直径を有するものであり、
前記多孔性コーティング層の気孔度は、40~50%であることを特徴とする。
【0046】
このとき、前記多孔性コーティング層の気孔度は50%以下であり、前記多孔性高分子基材と前記多孔性コーティング層との間の接着力(peel strength)は50gf/15mm以上であり、下記の数式1を満たし得る。
[数式1]
(MD+TD)/2≦10%
【0047】
数式1において、MDは前記分離膜のMD方向の熱収縮率、TDは前記分離膜のTD方向の熱収縮率をそれぞれ意味し、
前記熱収縮率は、(分離膜の最初長さ-150℃/30分間の熱収縮処理後の長さ)/(分離膜の最初長さ)×100で計算する。
【0048】
本発明の一態様において、多孔性コーティング層内の気孔度は40~50%に制御される。多孔性コーティング層の気孔度が40%未満である場合は、多孔性コーティング層形成用スラリー内の固形分の含量が高くて、小粒径無機物粒子同士が互いに凝集する問題が生じ、それによって抵抗が高くなる問題が発生するおそれがある。また、多孔性コーティング層の気孔度が50%を超過する場合は、気孔度が大き過ぎて所望の耐熱特性を達成し難い。
【0049】
本発明の一態様の場合、多孔性コーティング層の気孔度を40~50%に制御することで、前記多孔性高分子基材と前記多孔性コーティング層との間の接着力が50gf/15mm以上であり、上記の数式1による熱収縮率を満足する分離膜を提供することができる。また、抵抗が1Ω以下、より望ましくは0.6Ω以下である分離膜を提供することができる。
【0050】
図1は、本発明の一実施形態による分離膜を概略的に示した模式図である。
【0051】
図1に示したように、本発明による分離膜は、多孔性高分子基材4、前記多孔性高分子基材の少なくとも一面上に形成されている多孔性コーティング層を含む。前記多孔性コーティング層は、大粒径無機物粒子1、小粒径無機物粒子3及び接着性高分子粒子2を含む。
【0052】
「Dn直径」とは、粒径による粒子個数累積分布のn%地点における直径(粒径)を意味する。すなわち、D50直径は直径による粒子個数累積分布の50%地点での直径であり、D90直径は直径による粒子個数累積分布の90%地点での直径であり、D10直径は直径による粒子個数累積分布の10%地点での直径である。
【0053】
本発明の一具現例によれば、前記D50直径などのDn直径は、レーザー回折法(laser diffraction method)を用いて測定し得る。具体的には、測定対象粉末を分散媒中に分散させた後、市販のレーザー回折粒度測定装置(例えば、Microtrac S3500)に導入し、粒子がレーザービームを通過するとき、粒子の大きさに応じた回折パターンの差を測定して粒度分布を算出する。測定装置における粒径に応じた粒子個数累積分布の10%、50%及び90%になる地点での粒子直径を算出することで、D10、D50及びD90を測定できる。
【0054】
前記レーザー回折法は、一般に、サブミクロン(submicron)領域から数nm程度の直径が測定可能であり、高再現性及び高分解性の結果が得られる。
【0055】
従来のように、大粒径無機物粒子を用いて多孔性コーティング層を製造する場合は、多孔性コーティング層の気孔度が55%程度と高くて所望の耐熱性が得られなかった。
【0056】
一方、本発明の一態様による分離膜は、多孔性コーティング層内に大きさが相異なる粒子が少なくとも3種以上含まれているものである。これにより、大粒径無機物粒子同士の間に接着性高分子粒子及び小粒径無機物粒子が含まれることで、パッキング密度(packing density)が高くなって耐熱性を向上させることができる。
【0057】
従来のように大粒径の無機物粒子のみを使用する場合は、パッキング密度が低くて多孔性コーティング層の気孔度が高いため、所望の耐熱性効果が得られない。これを解決しようとして小粒径の無機物粒子のみを投入する場合は、小粒径無機物粒子同士が凝集して多孔性コーティング層自体を形成できない。
【0058】
一方、大粒径無機物粒子及び小粒径無機物粒子を使用する場合にも、多孔性コーティング層のパッキング密度が上昇し、またこのような無機物粒子とともに使用する通常の非粒子状バインダー高分子が多孔性高分子基材内の気孔に浸透することで分離膜の抵抗が高くなる問題がある。そこで、本発明者等は、所定の大きさを有する接着性高分子粒子を投入することで分離膜の抵抗特性を改善し、多孔性高分子基材と多孔性コーティング層との間の接着力を高めようとした。
【0059】
本発明の一態様において、前記「大粒径無機物粒子」は600nm以上のD50直径を有するものである。具体的には、前記大粒径無機物粒子は600nm以上、700nm以上または800nm以上のD50直径を有し得、2μm以下、1.5μm以下または1μm以下のD50直径を有し得る。より具体的には、前記大粒径無機物粒子は、600nm~1μm、または600nm~800nmの直径を有し得る。
【0060】
本発明の一態様において、前記「小粒径無機物粒子」は10nm~100nmのD50直径を有するものである。具体的には、前記小粒径無機物粒子は10nm以上、20nm以上または30nm以上のD50直径を有し得、100nm以下、90nm以下または80nm以下のD50直径を有し得る。より具体的には、前記小粒径無機物粒子は、40~70nmの直径を有し得る。本発明の具体的な一実施形態において、前記小粒径無機物粒子の直径が70nm~100nmの場合、抵抗の面でより有利な分離膜を提供することができる。
【0061】
このように、大粒径無機物粒子と小粒径無機物粒子との差を大きくすることで、分離膜の耐熱特性を極大化することができる。これは、大粒径無機物粒子同士の間毎に小粒径無機物粒子が位置できることで、分離膜のパッキング密度が高くなるためであると考えられる。
【0062】
このとき、前記小粒径無機物粒子の含量は、前記無機物粒子の総含量100重量部を基準にして30重量部以上であり得る。具体的には、30重量部以上、35重量部以上または40重量部以上であり得、50重量部以下、45重量部以下または43重量部以下であり得る。より具体的には、30重量部~50重量部の場合、分離膜の耐熱特性を極大化することができる。これは、大粒径無機物粒子同士の間毎に小粒径無機物粒子が位置できることで、分離膜のパッキング密度が高くなるためであると考えられる。
【0063】
本発明の具体的な一実施形態において、前記小粒径無機物粒子と前記大粒径無機物粒子とは、同一であるかまたは相異なる物質であり得る。
【0064】
このとき、前記無機物粒子は、電気化学的に安定さえすれば特に制限されない。すなわち、本発明で使用可能な無機物粒子は、適用される電気化学素子の作動電圧範囲(例えば、Li/Li基準で0~5V)で酸化及び/または還元反応が起きないものであれば特に制限されない。特に、無機物粒子として誘電率の高い無機物粒子を使用すると、液体電解質内の電解質塩、例えばリチウム塩の解離度増加に寄与して電解液のイオン伝導度を向上させることができる。
【0065】
上述した理由から、前記無機物粒子は、誘電率定数が5以上の無機物粒子、リチウムイオン伝達能力を有する無機物粒子、またはこれらの混合物であり得る。
【0066】
前記誘電率定数が5以上である無機物粒子は、Al、SiO、ZrO、AlOOH、TiO、BaTiO、Pb(ZrTi1-x)O(PZT、ここで0<x<1)、Pb1-xLaZr1-yTi(PLZT、ここで、0<x<1、0<y<1)、(1-x)Pb(Mg1/3Nb2/3)O-xPbTiO(PMN-PT、ここで0<x<1)、ハフニア(HfO)、SrTiO、SnO、CeO、MgO、NiO、CaO、ZnO、ZO及びSiCからなる群より選択された1種または2種以上の混合物であり得る。
【0067】
前記リチウムイオン伝達能力を有する無機物粒子は、リチウムホスフェート(LiPO)、リチウムチタンホスフェート(LiTi(PO、0<x<2、0<y<3)、リチウムアルミニウムチタンホスフェート(LiAlTi(PO、0<x<2、0<y<1、0<z<3)、(LiAlTiP)系ガラス(0<x<4、0<y<13)、リチウムランタンチタネート(LiLaTiO、0<x<2、0<y<3)、リチウムゲルマニウムチオホスフェート(LiGe、0<x<4、0<y<1、0<z<1、0<w<5)、リチウムナイトライド(Li、0<x<4、0<y<2)、SiS系ガラス(LiSi、0<x<3、0<y<2、0<z<4)及びP系ガラス(Li、0<x<3、0<y<3、0<z<7)からなる群より選択された1種または2種以上の混合物であり得る。
【0068】
一方、本発明の一態様では、非粒子状バインダー高分子ではなく、接着性高分子粒子を使用し、このような高分子粒子は200nm以下のD50直径を有するものである。このように非粒子状ではなく、粒子状のバインダー高分子を使用することで、多孔性コーティング層内の気孔度を確保することができる。また、所定の粒径範囲を有する接着性高分子粒子を使用することで、多孔性高分子基材内の気孔に接着性高分子粒子が浸透せず、抵抗が増加しないという利点がある。
【0069】
そのため、前記接着性高分子粒子は、多孔性高分子基材の気孔よりも大きいD50直径を有する。例えば、40nm以上、70nm以上、80nm以上、90nm以上、または100nm以上のD50直径を有し得る。また、前記接着性高分子粒子のD50直径は、40nm~200nm、40nm~100nm、または40nm~70nmであり得る。
【0070】
前記接着性高分子粒子は、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンゴム、ブチルアクリレート-エチルヘキシルアクリレート共重合体、メチルメタクリレート-エチルヘキシルアクリレート共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、スチレン及びポリシアノアクリレートからなる群より選択されたいずれか一つまたはこれらのうち2種以上の混合物を含み得る。
【0071】
前記多孔性コーティング層の厚さは、特に制限されないが、詳しくは1~10μm、より詳しくは1.5~6μmであり得る。
【0072】
本発明の一態様による分離膜において、前記多孔性高分子基材は、具体的には多孔性高分子フィルム基材または多孔性高分子不織布基材であり得る。
【0073】
前記多孔性高分子フィルム基材は、ポリエチレン、ポリプロピレンのようなポリオレフィンからなる多孔性高分子フィルムであり得、このようなポリオレフィン系多孔性高分子フィルム基材は、例えば80~130℃の温度でシャットダウン機能を発現する。
【0074】
このとき、ポリオレフィン系多孔性高分子フィルムは、高密度ポリエチレン、線形低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンのようなポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリペンテンなどのポリオレフィン系高分子をそれぞれ単独でまたはこれらの2種以上を混合した高分子から形成し得る。
【0075】
また、前記多孔性高分子フィルム基材は、ポリオレフィンの他にポリエステルなどの多様な高分子を用いてフィルム状に成形して製造してもよい。また、前記多孔性高分子フィルム基材は、2層以上のフィルム層が積層された構造で形成され得、それぞれのフィルム層は上述したポリオレフィン、ポリエステルなどの高分子を単独でまたはこれらを2種以上混合した高分子から形成され得る。
【0076】
また、前記多孔性高分子フィルム基材及び多孔性不織布基材は、上述したポリオレフィン系の他に、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンスルファイド、ポリエチレンナフタレートなどをそれぞれ単独でまたはこれらを混合した高分子から形成され得る。
【0077】
前記多孔性高分子基材の厚さは特に制限されないが、詳しくは1~100μm、より詳しくは5~50μmであり、多孔性高分子基材に存在する気孔の大きさ及び気孔度も特に制限されないが、それぞれ0.01~50μm及び10~95%であることが望ましい。
【0078】
本発明の具体的な一実施形態において、前記多孔性高分子基材の気孔の大きさは平均気孔大きさが30~40nm、最長気孔大きさが60~70nmであり得る。
【0079】
本発明の一態様による分離膜において、多孔性コーティング層の形成に使用されるバインダー高分子としては、当業界で多孔性コーティング層の形成に通常使用される高分子をさらに含み得る。特に、ガラス転移温度(glass transition temperature、T)が-200~200℃である高分子を使用し得るが、これは最終的に形成される多孔性コーティング層の柔軟性及び弾性などのような機械的物性を向上できるためである。このようなバインダー高分子は、無機物粒子同士の間を連結及び安定的に固定するバインダーの役割を果たすことで、多孔性コーティング層が導入された分離膜の機械的物性の低下を防止することに寄与する。
【0080】
また、前記バインダー高分子は、イオン伝導能力を必ずしも有する必要はないが、イオン伝導能力を有する高分子を使用する場合、電気化学素子の性能をさらに向上させることができる。したがって、前記バインダー高分子はできるだけ高い誘電率定数を有するものを使用できる。実際、電解液における塩の解離度は電解液溶媒の誘電率定数に依存するため、前記バインダー高分子の誘電率定数が高いほど電解質における塩解離度を向上させることができる。このようなバインダー高分子の誘電率定数は1.0~100(測定周波数=1kHz)の範囲が使用可能であり、特に10以上であり得る。
【0081】
上述した機能の他に、前記バインダー高分子は、液体電解液の含浸時にゲル化することで高い電解液膨潤度(degree of swelling)を示す特徴を有し得る。そのため、前記バインダー高分子の溶解度指数、すなわちヒルデブラント溶解度指数(Hildebrand solubility parameter)は15~45MPa1/2、15~25MPa1/2または30~45MPa1/2の範囲である。したがって、ポリオレフィン類のような疎水性高分子よりは極性基を多く有する親水性高分子をより望ましく使用し得る。前記溶解度指数が15MPa1/2未満または45MPa1/2超過の場合、通常の電池用液体電解液によって膨潤(swelling)され難いおそれがあるためである。
【0082】
このようなバインダー高分子の非制限的な例としては、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン、ポリフッ化ビニリデン-トリクロロエチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルヘキシルアクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリビニルピロリドン、2-エチルヘキシルアセテート、メチルメタクリレート-ブチルアクリレート共重合体、メチルメタクリレート-エチルアクリレート共重合体、ポリビニルアセテート、ブチルアクリレート-エチルヘキシルアクリレート共重合体、エチレンビニルアセテート共重合体、ポリエチレンオキサイド、ポリアリレート、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、シアノエチルプルラン、シアノエチルポリビニルアルコール、シアノエチルセルロース、シアノエチルスクロース、プルラン及びカルボキシメチルセルロースなどが挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0083】
前記無機物粒子の総含量と接着性高分子粒子との重量比は、例えば50:50~99:1、詳しくは70:30~95:5、より詳しくは80:20~90:10であり得る。前記無機物粒子の総含量と接着性高分子粒子との重量比が上記の範囲を満足すると、接着性高分子粒子の含量が多くなることによって生じる、多孔性コーティング層の気孔の大きさ及び気孔度が減少する問題を防止でき、接着性高分子粒子の含量が少ないことによって生じる、多孔性コーティング層の耐剥離性が弱化する問題も解消することができる。
【0084】
本発明の一態様による電極組立体は、多孔性コーティング層の成分として上述した無機物粒子及び高分子の外に、その他の添加剤をさらに含み得る。
【0085】
一方、前記多孔性コーティング層の気孔度は40~50%である。これにより、前記分離膜において、前記多孔性高分子基材と前記多孔性コーティング層との間の接着力が50gf/15mm以上と高く維持できる。例えば、前記接着力は50gf/15mm以上、55gf/15mm以上、または60gf/15mm以上であり得る。これにより、界面間の接着力が強化されて安定性が向上した分離膜を提供することができる。
【0086】
本発明の一態様による分離膜は、上記のような接着力を有すると同時に熱収縮率が改善されたものである。具体的には、数式1による熱収縮率を満足することができる。具体的には、上述した数式1による熱収縮率は10%以下、9%以下、または8%以下であり得る。熱収縮率が低く且つ接着力が高いほど、分離膜の安全性が向上する。
【0087】
また、抵抗値の低い分離膜を提供することができる。
【0088】
本発明の他の一態様による分離膜の製造方法は、以下のようである。
【0089】
具体的には、多孔性高分子基材、及び前記多孔性高分子基材の少なくとも一面上に多孔性コーティング層が形成された分離膜の製造方法であって、
(S1)10nm~100nmのD50直径を有する小粒径無機物粒子、600nm以上のD50直径を有する大粒径無機物粒子、及び200nm以下のD50直径を有する接着性高分子粒子を含む多孔性コーティング層形成用スラリーを用意する段階と、
(S2)多数の気孔を有する多孔性高分子基材上に多孔性コーティング層形成用スラリーを塗布及び乾燥して多孔性コーティング層を形成する段階と、を含み、
このとき、前記多孔性コーティング層形成用スラリー内の固形分の含量は25~35%であることを特徴とする。
【0090】
本発明の具体的な一実施形態において、前記多孔性高分子基材と前記多孔性コーティング層との間の接着力は50gf/15mm以上であり、下記の数式1を満たすことを特徴とする。
[数式1]
(MD+TD)/2≦10%
【0091】
数式1において、MD(machine direction)は前記分離膜のMD方向(機械方向)の熱収縮率、TD(transverse direction)は前記分離膜のTD方向(横方向)の熱収縮率をそれぞれ意味し、
前記熱収縮率は、(分離膜の最初長さ-150℃/30分間の熱収縮処理後の長さ)/(分離膜の最初長さ)×100で計算する。
【0092】
まず、多孔性コーティング層形成用スラリーを以下のように用意する。具体的には、前記大粒径無機物粒子、小粒径無機物粒子及び接着性高分子粒子を溶媒に投入し分散させる。このとき、前記大粒径無機物粒子、小粒径無機物粒子は予め所定の直径を有するように破砕された状態で添加し得、前記無機物粒子をボールミル法などを用いて所定の直径を有するように制御しながら破砕して分散させてもよい。
【0093】
このとき、使用される溶媒は、使用しようとするバインダー高分子と溶解度指数が類似し、沸点(boiling point)が低いものが望ましい。これは、均一な混合、及び以降の溶媒除去を容易にするためである。使用可能な溶媒の非制限的な例としては、水、アセトン、テトラヒドロフラン、塩化メチレン、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、メチルエチルケトン及びシクロヘキサンから選択された1種の化合物または2種以上の混合物が挙げられる。
【0094】
このとき、前記多孔性コーティング層形成用スラリー内の固形分の含量は25~35%である。固形分の含量とは、スラリーの全体含量を基準にして、スラリー内の溶媒を乾燥させた後測定した乾燥物の含量を百分率で示したものである。固形分の含量を上記のように制御することで、多孔性コーティング層の気孔度を40~50%に制御することができる。これにより、接着力及び熱収縮率が改善され、抵抗が減少した分離膜を提供することができる。
【0095】
その後、用意した多孔性コーティング層形成用スラリーを多孔性高分子基材上に塗布及び乾燥する(S2)。
【0096】
前記多孔性コーティング層形成用スラリーを前記多孔性高分子基材にコーティングする方法は特に限定されないが、スロットコーティングまたはディップコーティング方法を使用することが望ましい。スロットコーティングは、スロットダイを通じて供給された組成物が基材の全面に塗布される方式であって、定量ポンプから供給される流量によってコーティング層の厚さを調節可能である。また、ディップコーティングは、組成物で満たされたタンクに基材を浸漬してコーティングする方法であって、組成物の濃度及び組成物タンクから基材を引き上げる速度によってコーティング層の厚さを調節可能である。より正確にコーティング厚さを制御するため、浸漬した後、マイヤーバー(Mayer bar)などを用いて後計量してもよい。
【0097】
このように多孔性コーティング層形成用スラリーがコーティングされた多孔性高分子基材をオーブンのような乾燥器を用いて乾燥することで、多孔性高分子基材の少なくとも一面上に形成された多孔性コーティング層を形成する。
【0098】
前記多孔性コーティング層では、大粒径無機物粒子と小粒径無機物粒子とが充填されて互いに接触した状態で前記バインダー高分子によって互いに結着し、これにより大粒径無機物粒子及び/または小粒径無機物粒子同士の間にインタースティシャル・ボリューム(interstitial volume)が形成され、前記無機物粒子同士の間のインタースティシャル・ボリュームは空き空間になって気孔を形成する。
【0099】
すなわち、接着性高分子粒子は無機物粒子同士が互いに結着した状態を維持できるようにこれらを互いに付着、例えば、接着性高分子粒子が大粒径無機物粒子及び/または小粒径無機物粒子同士の間を連結及び固定させている。また、前記多孔性コーティング層の気孔は大粒径無機物粒子と小粒径無機物粒子と接着性高分子粒子との間のインタースティシャル・ボリュームが空き空間になって形成された気孔であり、これは大粒径無機物粒子、小粒径無機物粒子、接着性高分子粒子による充填構造(closely packed or densely packed)で実質的に接触する無機物粒子及び/または接着性高分子粒子同士によって限定される空間であり得る。
【0100】
本発明の他の一態様による電気化学素子は、正極、負極、及び前記正極と負極との間に介在された分離膜を含み、前記分離膜が上述した本発明の一態様による分離膜である。
【0101】
このような電気化学素子は、電気化学反応を行うあらゆる素子を含み、具体的には、すべての種類の一次電池、二次電池、燃料電池、太陽電池またはスーパーキャパシタ素子のようなキャパシタなどが挙げられる。特に、前記二次電池のうちリチウム金属二次電池、リチウムイオン二次電池、リチウムポリマー二次電池またはリチウムイオンポリマー二次電池などを含むリチウム二次電池が望ましい。
【0102】
本発明の分離膜とともに適用される正極と負極の両電極としては、特に制限されず、当業界で周知の通常の方法で電極活物質を電極集電体に結着した形態で製造し得る。前記電極活物質のうち正極活物質の非制限的な例としては、従来の電気化学素子の正極に使用される通常の正極活物質を使用可能であり、特にリチウムマンガン酸化物、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウム鉄酸化物またはこれらを組み合わせたリチウム複合酸化物を使用することが望ましい。負極活物質の非制限的な例としては、従来の電気化学素子の負極に使用される通常の負極活物質を使用可能であり、特にリチウム金属またはリチウム合金、炭素、石油コーク(petroleum coke)、活性化炭素、グラファイトまたはその他の炭素類などのようなリチウム吸着物質などが望ましい。正極集電体の非制限的な例としては、アルミニウム、ニッケルまたはこれらの組合せによって製造されるホイルなどがあり、負極集電体の非制限的な例としては、銅、金、ニッケルまたは銅合金、またはこれらの組合せによって製造されるホイルなどがある。
【0103】
本発明の電気化学素子で使用される電解液は、Aのような構造の塩であり、AはLi、Na、Kのようなアルカリ金属陽イオンまたはこれらの組合せからなるイオンを含み、BはPF 、BF 、Cl、Br、I、ClO 、AsF 、CHCO 、CFSO 、N(CFSO 、C(CFSO のような陰イオンまたはこれらの組合せからなるイオンを含む塩を、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、エチルメチルカーボネート(EMC)、γ-ブチロラクトンまたはこれらの混合物からなる有機溶媒に溶解または解離したものであるが、これらに限定されることはない。
【0104】
前記電解液の注入は、最終製品の製造工程及び求められる物性に応じて、電池製造工程のうち適切な段階において行えばよい。すなわち、電池組み立ての前または電池組み立ての最終段階などにおいて注入すればよい。
【0105】
以下、本発明を具体的な実施例を挙げて詳しく説明する。しかし、本発明による実施例は多くの他の形態に変形され得、本発明の範囲が後述する実施例に限定されると解釈されてはならない。本発明の実施例は当業界で平均的な知識を持つ者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0106】
実施例1
常温で接着性高分子粒子(アクリル系バインダー(メチルメタクリレート-エチルアクリレート共重合体)、D50:150nm)、小粒径無機物粒子(AlOOH、D50:70nm)、大粒径無機物粒子(Al、D50:800nm)を溶媒である水に均一に分散させて多孔性コーティング層形成用スラリーを用意した。このとき、小粒径無機物粒子と大粒径無機物粒子との重量比は35:65であり、無機物粒子の総含量と接着性高分子粒子との重量比は90:10であった。このとき、多孔性コーティング層形成用スラリーの全体含量を基準にして固形分の含量は30%であった。固形分の含量とは、スラリーの全体含量を基準にして、スラリー内の溶媒を乾燥させた後測定した乾燥物の含量を百分率で示したものである。
【0107】
その後、前記多孔性コーティング層形成用スラリーを厚さ11μmの多孔性高分子基材(モノ逐次延伸分離膜、気孔度41%、平均気孔大きさ33nm)上にディップコーティングして乾燥し、一面の厚さが1.5μmである多孔性コーティング層を形成した。
【0108】
最終的に製造された多孔性コーティング層の気孔度は40%であり、厚さは12.4μmであった。
【0109】
実施例2及び実施例3
多孔性コーティング層形成用スラリーに投入される粒子の種類及び含量を表1のように制御したことを除き、実施例1と同様の方法で分離膜を製造した。
【0110】
比較例1~比較例6
多孔性コーティング層形成用スラリーに投入される粒子の種類及び含量を表1のように制御したことを除き、実施例1と同様の方法で分離膜を製造した。
【0111】
【表1】
【0112】
実施例4~実施例6
小粒径無機物粒子の大きさを40nmに変更し、表2のように制御したことを除き、実施例1と同様の方法で分離膜を製造した。
【0113】
比較例7~比較例9
多孔性コーティング層形成用スラリーに投入される粒子の種類及び含量を表2のように制御したことを除き、実施例1と同様の方法で分離膜を製造した。
【0114】
【表2】
【0115】
比較例10
接着性高分子粒子の直径を400nmに変更し、表3のように制御したことを除き、実施例2と同様の方法で分離膜を製造した。
【0116】
【表3】
【0117】
表1の比較例5から、大粒径無機物粒子のみを使用する場合は、分離膜の熱収縮率(MD/TD)がそれぞれ18.2%、17.3%と高くて耐熱性が相変らず劣ることが分かる。
【0118】
表1の比較例4から分かるように、小粒径無機物粒子のみを使用する場合は、多孔性コーティング層自体を形成することができなかった。
【0119】
表1の比較例6から分かるように、大粒径無機物粒子及び小粒径無機物粒子を使用しても接着性バインダー粒子がない場合は、接着力が著しく低下した。
【0120】
一方、比較例1及び2のように、多孔性コーティング層の気孔度が40%未満である場合は、接着力(peel strength)も多少低い数値を示し、特に抵抗が著しく高くなってリチウム二次電池用分離膜として使用するには適さない。
【0121】
一方、本発明の実施例1~3によれば、接着力が高いと同時に熱収縮率も改善され、さらに抵抗値も低い分離膜を提供できた。
【0122】
[測定方法]
1)厚さの測定
分離膜の厚さは、厚さ測定器(ミツトヨ社製、VL-50S-B)を用いて測定した。
【0123】
2)分離膜抵抗の測定
実施例及び比較例で製造された分離膜を電解液に含浸させたときの抵抗値であって、1M LiPF-エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート(重量比3:7)電解液を用いて25℃で交流法で測定した。
【0124】
3)熱収縮率の測定
前記熱収縮率は、MD方向及びTD方向に対して下記の数式で計算した。
熱収縮率=(最初長さ-150℃/30分間の熱収縮処理後の長さ)/(最初長さ)×100
【0125】
4)接着力(peel strength)の測定
実施例及び比較例で製造された分離膜を15mm×100mmの大きさに裁断した。ガラス板上に両面接着テープを貼り付け、用意した分離膜の多孔性コーティング層の表面が接着テープと接着されるように付着した。その後、接着された分離膜の末端部をUTM装置(LLOYD Instrument社製のLFPlus)に取り付けた後、測定速度300mm/分、180℃で力を加え、多孔性コーティング層と多孔性高分子基材との剥離に必要な力を測定した。
【0126】
5)多孔性コーティング層の気孔度の測定
それぞれの実施例及び比較例で収得した分離膜を1.7671cmの大きさに切断し、その重さと体積を測定した後(見掛け密度(apparent density)測定)、これを設計寸法(真密度(truedensity))と比較して気孔度を計算した。すなわち、収得された分離膜に含まれた材料の組成比及び成分の密度からそれぞれの分離膜の真密度を計算し、見掛け密度と真密度との差から気孔度を計算した。
【0127】
6)D50直径の測定
D50直径は、レーザー回折粒度測定装置(Microtrac S3500)に導入し、粒子がレーザービームを通過するとき、粒子の大きさに応じた回折パターンの差を測定して粒度分布を算出した。測定装置における粒径に応じた粒子個数累積分布の50%になる地点での粒子直径を算出することで、D50直径を測定した。
【符号の説明】
【0128】
1:大粒径無機物粒子
2:接着性高分子粒子
3:小粒径無機物粒子
4:多孔性高分子基材
図1
図2