IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ユニバンスの特許一覧

<>
  • 特許-アクチュエータ 図1
  • 特許-アクチュエータ 図2
  • 特許-アクチュエータ 図3
  • 特許-アクチュエータ 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
   F16H 48/12 20120101AFI20240423BHJP
【FI】
F16H48/12
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022553294
(86)(22)【出願日】2020-09-30
(86)【国際出願番号】 JP2020037121
(87)【国際公開番号】W WO2022070298
(87)【国際公開日】2022-04-07
【審査請求日】2023-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000154347
【氏名又は名称】株式会社ユニバンス
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】加藤 忠彦
【審査官】木原 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特公平08-019971(JP,B2)
【文献】特開2004-232676(JP,A)
【文献】特開2019-073859(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 48/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動ギヤからトルクを発生するトルク発生装置と、
前記駆動ギヤにかみ合う第1被動ギヤ及び第2被動ギヤがそれぞれ設けられた第1要素および第2要素を含み、前記第1要素と前記第2要素との相対回転により前記第1要素および前記第2要素が軸方向に相対移動し前記駆動ギヤのトルクをスラスト力に変換する変換装置と、を備え、
前記駆動ギヤと前記第1被動ギヤとのギヤ比と前記駆動ギヤと前記第2被動ギヤとのギヤ比とが異なり、
前記駆動ギヤ、前記第1被動ギヤ及び前記第2被動ギヤはインボリュート歯車であり、
前記駆動ギヤの外周の歯面から前記第1被動ギヤ及び前記第2被動ギヤの外周の歯面への第1の動力伝達効率は、前記第1被動ギヤ及び前記第2被動ギヤの外周の歯面から前記駆動ギヤの外周の歯面への第2の動力伝達効率よりも高いアクチュエータ。
【請求項2】
前記第2の動力伝達効率は負である請求項1記載のアクチュエータ。
【請求項3】
前記第1の動力伝達効率と前記第2の動力伝達効率との差は、前記駆動ギヤ、前記第1被動ギヤ及び前記第2被動ギヤの諸元により設定される請求項1又は2に記載のアクチュエータ。
【請求項4】
前記第1の動力伝達効率と前記第2の動力伝達効率との差は、前記駆動ギヤ、前記第1被動ギヤ及び前記第2被動ギヤの歯面の粗さにより設定される請求項1から3のいずれかに記載のアクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトルクをスラスト力に変換するアクチュエータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
第1要素と第2要素との相対回転に伴い第1要素と第2要素とが軸方向に相対移動する変換装置を用いたアクチュエータとして、特許文献1には、第1要素に設けた第1被動ギヤ及び第2要素に設けた第2被動ギヤに、モータのトルクが伝わる駆動ギヤをかみ合わせたアクチュエータが開示されている。特許文献1に開示の技術では、駆動ギヤと第1被動ギヤとのギヤ比と駆動ギヤと第2被動ギヤとのギヤ比とが異なるので、モータを駆動すると第1要素と第2要素とが相対回転し、モータのトルクが、第2要素が出力するスラスト力に変換される。第1要素と第2要素との間に摩擦が大きいねじが設けられると、ねじの摩擦によって、モータがトルクを出力し続けなくても、第2要素が反力で押し戻される量を低減し、第2要素の反対方向の回転を低減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特公平8-19971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし上記技術では、ねじの摩擦によって、トルクをスラスト力に変換するときに動力損失が生じるという問題点がある。
【0005】
本発明はこの問題点を解決するためになされたものであり、トルクをスラスト力に変換するときの動力損失を低減できるアクチュエータを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明のアクチュエータは、駆動ギヤからトルクを発生するトルク発生装置と、駆動ギヤにかみ合う第1被動ギヤ及び第2被動ギヤがそれぞれ設けられた第1要素および第2要素を含み、第1要素と第2要素との相対回転により第1要素および第2要素が軸方向に相対移動し駆動ギヤのトルクをスラスト力に変換する変換装置と、を備える。駆動ギヤと第1被動ギヤとのギヤ比と駆動ギヤと第2被動ギヤとのギヤ比とは異なり、駆動ギヤから第1被動ギヤ及び第2被動ギヤへの第1の動力伝達効率は、第1被動ギヤ及び第2被動ギヤから駆動ギヤへの第2の動力伝達効率よりも高い。
【発明の効果】
【0007】
請求項1記載のアクチュエータによれば、トルク発生装置のトルクが駆動ギヤから変換装置の第1被動ギヤ及び第2被動ギヤに伝えられる。駆動ギヤと第1被動ギヤとのギヤ比と駆動ギヤと第2被動ギヤとのギヤ比とが異なるので、第1要素と第2要素との相対回転により第1要素および第2要素が軸方向に相対移動して、変換装置は駆動ギヤのトルクをスラスト力に変換する。駆動ギヤから第1被動ギヤ及び第2被動ギヤへの第1の動力伝達効率は、第1被動ギヤ及び第2被動ギヤから駆動ギヤへの第2の動力伝達効率よりも高いので、駆動ギヤから第1被動ギヤ及び第2被動ギヤへ伝わるトルクをスラスト力に変換するときの動力損失を低減できる。第2の動力伝達効率が第1の動力伝達効率より低いので、第1被動ギヤ及び第2被動ギヤから駆動ギヤへ伝わるトルクによる駆動ギヤの回転を低減し、トルク発生装置がトルクを出力し続けなくても、第2要素の反対方向の回転を低減できる。
【0008】
請求項2記載のアクチュエータによれば、第2の動力伝達効率は負である。よって第1被動ギヤ及び第2被動ギヤから駆動ギヤへ伝わるトルクによる駆動ギヤの回転を防止できる。よって請求項1の効果に加え、トルク発生装置がトルクを出力し続けなくても変換装置は停止位置を保持できる。
【0009】
請求項3記載のアクチュエータによれば、第1の動力伝達効率と第2の動力伝達効率との差は、駆動ギヤ、第1被動ギヤ及び第2被動ギヤの諸元により設定される。よって請求項1又は2の効果に加え、動力伝達効率の設定を容易にできる。
【0010】
請求項4記載のアクチュエータによれば、第1の動力伝達効率と第2の動力伝達効率との差は、駆動ギヤ、第1被動ギヤ及び第2被動ギヤの歯面の粗さにより設定される。よって請求項1から3のいずれかの効果に加え、動力伝達効率の設定を容易にできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】(a)は一実施の形態におけるアクチュエータのスケルトン図であり、(b)は変換装置の部分断面図である。
図2】(a)は駆動ギヤから第1被動ギヤ及び第2被動ギヤへトルクが伝わるときの歯のかみ合いを示す斜視図であり、(b)は変換装置の部分断面図である。
図3】(a)は第1被動ギヤ及び第2被動ギヤから駆動ギヤへトルクが伝わるときの歯のかみ合いを示す斜視図であり、(b)は変換装置の部分断面図である。
図4】互いにかみ合う駆動ギヤ及び第1被動ギヤの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1(a)は一実施の形態におけるアクチュエータ10のスケルトン図である。アクチュエータ10はトルクをスラスト力に変換する装置であり、トルク発生装置11及び変換装置20を備えている。本実施形態ではアクチュエータ10が出力するスラスト力は、摩擦クラッチ30に加えられる。
【0013】
トルク発生装置11は、モータ12と、モータ12のトルクを発生する駆動ギヤ13と、を備えている。本実施形態ではモータ12は電気モータであり、駆動ギヤ13はモータ12の回転軸に取り付けられている。本実施形態では駆動ギヤ13は第1ギヤ14及び第2ギヤ15に分かれている。第1ギヤ14の歯数は第2ギヤ15の歯数と僅かに異なる。
【0014】
変換装置20は、第1要素21と第2要素24との相対回転によって、駆動ギヤ13のトルクをスラスト力に変換する装置である。第1要素21及び第2要素24は、第1軸31に相対回転可能に支持されている。第1要素21には、第1ギヤ14にかみ合う第1被動ギヤ22が設けられている。第2要素24には、第2ギヤ15にかみ合う第2被動ギヤ25が設けられている。第1ギヤ14と第1被動ギヤ22とのギヤ比は、第2ギヤ15と第2被動ギヤ25とのギヤ比と僅かに異なる。本実施形態では、第1ギヤ14と第1被動ギヤ22のギヤ比は、第2ギヤ15と第2被動ギヤ25のギヤ比より僅かに小さい。第1被動ギヤ22及び第2被動ギヤ25に駆動ギヤ13がトルクを伝えると、第1要素21及び第2要素24は僅かに相対回転する。第1要素21はベアリング28により、第1軸31の周りを回転可能に配置され、第1軸31に対する軸方向(スラスト方向)の位置が固定されている。
【0015】
図1(b)は変換装置20の部分断面図である。第1軸31(図1(b)に示さず)は、図1(b)において左右に延びている。変換装置20は、第1要素21に設けた第1カム面23と第2要素24に設けた第2カム面26との間に転動体27が少なくとも一つ配置されている。転動体27はボールやローラが例示される。第1軸31の軸方向に、第1カム面23は第2カム面26と対向している。転動体27は摩擦によって第1カム面23と第2カム面26との間を斜面に沿って転がる。本実施形態では転動体27は第1カム面23と第2カム面26との間に複数配置されている。
【0016】
図1(a)に戻って説明する。摩擦クラッチ30は、第1軸31と同軸上にある第2軸32と第1軸31との間において動力の伝達・遮断を行う装置である。摩擦クラッチ30は、第2軸32に結合したドラム33と、ドラム33の径方向の内側に配置されると共に第1軸31に結合したドラム34と、ドラム33とドラム34との間でトルクを伝達するクラッチ板35と、クラッチ板35の相対運動面を押し付ける押付部材36と、クラッチ板35によるドラム33,34間の動力の伝達を遮断する方向の力を押付部材36に加える戻しばね37と、を備えている。押付部材36と第2要素24との間にはベアリング29が配置されている。戻しばね37は、押付部材36及びベアリング29を介して、第2要素24を転動体27に押し付ける。
【0017】
図2(a)は駆動ギヤ13(第1ギヤ14及び第2ギヤ15)から第1被動ギヤ22及び第2被動ギヤ25へトルクが伝わるときの歯のかみ合いを示す斜視図である。図2(a)では、第1ギヤ14、第2ギヤ15、第1被動ギヤ22及び第2被動ギヤ25の歯がそれぞれ1つずつ図示されている(図3(a)においても同じ)。図2(a)に示す矢印Dは第1ギヤ14及び第2ギヤ15の回転方向であり、矢印Nは第1被動ギヤ22及び第2被動ギヤ25の回転方向である(図3(a)及び図4においても同じ)。
【0018】
図2(b)は駆動ギヤ13から第1被動ギヤ22及び第2被動ギヤ25へトルクが伝わるときの変換装置20を示している。図2(b)に示す矢印R1,R2の向きは、それぞれ第1要素21及び第2要素24の回転方向を示し、矢印R1,R2の長さは第1要素21及び第2要素24の速度を示している。図2(b)に示す矢印F1は第2要素24が出力するスラスト力を示している。
【0019】
モータ12に電流を流してモータ12を回転させ、第1ギヤ14及び第2ギヤ15が矢印D方向に回転すると、第1ギヤ14及び第2ギヤ15はそれぞれ第1被動ギヤ22及び第2被動ギヤ25にトルクを伝える。第1ギヤ14の回転方向の歯面38は、第1被動ギヤ22の回転方向の逆の歯面42に当たり、第1要素21と第2要素24との相対回転により、第2ギヤ15の回転方向の逆の歯面41は、第2被動ギヤ25の回転方向の歯面45に当たる。
【0020】
歯面間にはバックラッシがあるので、第1被動ギヤ22の回転方向の歯面43は、第1ギヤ14の回転方向の逆の歯面39に当たることなく第1被動ギヤ22は回転する。同様に第2被動ギヤ25の回転方向の逆の歯面44は、第2ギヤ15の回転方向の歯面40に当たることなく第2被動ギヤ25は回転する。
【0021】
即ち、第1ギヤ14及び第2ギヤ15が第1被動ギヤ22及び第2被動ギヤ25を回すときは、図2の歯面42,45間の距離が長くなるように第1要素21と第2要素24とが僅かに相対回転し、第1ギヤ14の回転方向の歯面38、第2ギヤ15の回転方向の逆の歯面41、第1被動ギヤ22の回転方向の逆の歯面42、及び、第2被動ギヤ25の回転方向の歯面45に力が加わる。
【0022】
第1要素21と第2要素24との相対回転により、第1カム面23及び第2カム面26を転動体27が転がる。その結果、第1要素21及び第2要素24は軸方向に相対移動するが、第1要素21は軸方向に移動できないので、第2要素24がベアリング29を介して押付部材36にスラスト力F1を加える。これによりクラッチ板35の相対運動面が押し付けられ、摩擦クラッチ30が係合し、第1軸31と第2軸32との間に動力が伝達される。
【0023】
モータ12に流す電流を減らす又はモータ12に流す電流を止め、摩擦クラッチ30に変換装置20が加えるスラスト力F1が、摩擦クラッチ30の反力よりも小さくなると、摩擦クラッチ30はベアリング29を介して第2要素24を軸方向に押し戻す。摩擦クラッチ30の反力には、クラッチ板35の反力および戻しばね37の復元力が含まれる。
【0024】
図3(a)はモータ12を停止し、摩擦クラッチ30の反力により第1被動ギヤ22及び第2被動ギヤ25から駆動ギヤ13(第1ギヤ14及び第2ギヤ15)へトルクが伝わるときの歯のかみ合いを示す斜視図である。図3(b)は第1被動ギヤ22及び第2被動ギヤ25から駆動ギヤ13へトルクが伝わるときの変換装置20の部分断面図である。図3(b)に示す矢印F2は、第2要素24に加わる摩擦クラッチ30の反力を示している。図3(b)に示す矢印T2は摩擦クラッチ30の反力によって第2要素24に伝わるトルクを示し、矢印T1は摩擦クラッチ30の反力によって第1要素21に加わるトルクを示している。
【0025】
摩擦クラッチ30の軸方向の反力F2を受けた転動体27は、反力F2を、それぞれ第2要素21及び第2要素24の逆向きのトルクT1,T2に変換する。これにより第1被動ギヤ22及び第2被動ギヤ25は第1ギヤ14及び第2ギヤ15にトルクを伝える。第1被動ギヤ22及び第2被動ギヤ25が第1ギヤ14及び第2ギヤ15を回そうとするときは、第1被動ギヤ22の回転方向の歯面43が、第1ギヤ14の回転方向の逆の歯面39に当たり、第1要素21と第2要素24との相対回転により、第2被動ギヤ25の回転方向の逆の歯面44が、第2ギヤ15の回転方向の歯面40に当たる。
【0026】
歯面間にはバックラッシがあるので、第1被動ギヤ22の回転方向の逆の歯面42は、第1ギヤ14の回転方向の歯面38に当たることなく第1被動ギヤ22は回転しようとする。同様に第2被動ギヤ25の回転方向の歯面45は、第2ギヤ15の回転方向の逆の歯面41に当たることなく第2被動ギヤ25は回転しようとする。
【0027】
即ち、第1被動ギヤ22及び第2被動ギヤ25が第1ギヤ14及び第2ギヤ15を回そうとするときは、図3(a)の歯面43,44間の距離が長くなるように第1要素21と第2要素24とが僅かに相対回転し、第1ギヤ14の回転方向の逆の歯面39、第2ギヤ15の回転方向の歯面40、第1被動ギヤ22の回転方向の歯面43、及び、第2被動ギヤ25の回転方向の逆の歯面44に力が加わる。
【0028】
アクチュエータ10は、第1ギヤ14及び第2ギヤ15(駆動ギヤ13)から第1被動ギヤ22及び第2被動ギヤ25への第1の動力伝達効率が、第1被動ギヤ22及び第2被動ギヤ25から第1ギヤ14及び第2ギヤ15への第2の動力伝達効率よりも高くなるように設定されている。これにより第1ギヤ14及び第2ギヤ15から第1被動ギヤ22及び第2被動ギヤ25へ伝わるトルクをスラスト力に変換するときの動力損失を低減できる。よって定格トルクが小さいモータ12を採用できる。
【0029】
さらに第2の動力伝達効率が第1の動力伝達効率より低いので、第1被動ギヤ22及び第2被動ギヤ25から第1ギヤ14及び第2ギヤ15へ伝わるトルクによる第1ギヤ14及び第2ギヤ15の回転を低減できる。よって変換装置20がスラスト力を出力した後、そのスラスト力を維持するためにトルク発生装置11が発生するトルクを小さくできる。その結果、摩擦クラッチ30の反力を受けた第2要素24の反対方向の回転を低減するためのモータ12の消費電力を低減できる。
【0030】
本実施形態では、第2の動力伝達効率は負に設定されている。よって変換装置20がスラスト力を出力した後、そのスラスト力を維持するためにモータ12に電流を流さなくても、第1被動ギヤ22及び第2被動ギヤ25が回転しないようにできる。その結果、モータ12の消費電力をさらに低減できる。
【0031】
第1の動力伝達効率と第2の動力伝達効率との差は、例えば第1ギヤ14、第2ギヤ15、第1被動ギヤ22及び第2被動ギヤ25の諸元や、歯面38,39,40,41,42,43,44,45の表面粗さにより設定できる。
【0032】
図4は互いにかみ合う駆動ギヤ13(第1ギヤ14)及び第1被動ギヤ22の正面図である。本実施形態では第1ギヤ14及び第1被動ギヤ22はインボリュート歯車である。歯面がかみ合っている期間中の摩擦係数は一定であり、2対かみ合いをしている歯車の法線力は2個の歯に均等に配分されるという仮定の下、第1ギヤ14と第1被動ギヤ22との間の動力伝達係数ηは(式1)で表される。
【0033】
【数1】
但し、μは歯面の摩擦係数、αはピッチ点Pにおける歯面の圧力角、rは駆動側のギヤのピッチ円半径、rは被動側のギヤのピッチ円半径、gは近寄りかみ合い長さ、gは遠退きかみ合い長さである。(式1)のg+gはかみ合い長さLであり、かみ合い長さLは(式2)で表される。
【0034】
【数2】
但し、rk1は駆動側のギヤの歯先円半径、rk2は被動側のギヤの歯先円半径、rg1は駆動側のギヤの基礎円半径、rg2は被動側のギヤの基礎円半径、Aはギヤの中心C1,C2間の距離である。
【0035】
駆動側のギヤは、第1ギヤ14が第1被動ギヤ22を回そうとするときは、第1ギヤ14が駆動側のギヤであり、第1被動ギヤ22が第1ギヤ14を回そうとするときは、第1被動ギヤ22が駆動側のギヤである。同様に、第2ギヤ15が第2被動ギヤ25を回そうとするときは、第2ギヤ15が駆動側のギヤであり、第2被動ギヤ25が第2ギヤ15を回そうとするときは、第2被動ギヤ25が駆動側のギヤである。
【0036】
(式1)により、動力伝達係数ηは摩擦係数μ、圧力角α、ピッチ円半径r,rに依存することがわかる。圧力角α、ピッチ円半径r,rはギヤの諸元の一種である。摩擦係数μは歯面の表面粗さに依存する。
【0037】
動力伝達係数ηを大きくするには、互いに接触する歯面の摩擦係数μを小さくする、互いに接触する歯面の圧力角αを小さくする、及び、ピッチ円半径r,rを大きくするという設定のうちから選択される1つ以上の設定が有効である。反対に動力伝達係数ηを小さくするには、互いに接触する摩擦係数μを大きくする、互いに接触する歯面の圧力角αを大きくする、及び、ピッチ円半径r,rを小さくするという設定のうちから選択される1つ以上の設定が有効である。各ギヤの諸元や歯面の粗さを設定することにより、動力伝達係数ηを制御できる。
【0038】
第1ギヤ14が第1被動ギヤ22を駆動するときの第1の動力伝達係数η、第1被動ギヤ22が第1ギヤ14を駆動するときの第2の動力伝達係数η、第2ギヤ15が第2被動ギヤ25を駆動するときの第1の動力伝達係数η、第2被動ギヤ25が第2ギヤ15を駆動するときの第2の動力伝達係数ηをそれぞれ求める。η>η且つη>ηとなるように各ギヤの諸元や摩擦係数μを設定する。特にη<0且つη<0となるように各ギヤの諸元や摩擦係数μを設定するのが好ましい。
【0039】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0040】
実施形態では、駆動ギヤ13の第1ギヤ14及び第2ギヤ15が別々に設けられている場合、即ち第1被動ギヤ22の歯面および第2被動ギヤ25の歯面に当たる駆動ギヤ13の歯面が2つに別れている場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第1被動ギヤ22の歯面および第2被動ギヤ25の歯面に当たる駆動ギヤ13の歯面を連続にすることは当然可能である。
【0041】
実施形態では、モータ12の回転軸に駆動ギヤ13が取り付けられている場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えばモータ12の回転軸と駆動ギヤ13との間に別のギヤやチェーン等を介在させ、それらを介してモータ12のトルク駆動ギヤ13に伝えることは当然可能である。
【0042】
実施形態では、第1要素21及び第2要素24の外周にそれぞれ第1被動ギヤ22及び第2被動ギヤ25が設けられる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第1要素21と第1被動ギヤ22とを接続する部材や第2要素24と第2被動ギヤ25とを接続する部材を設けることは当然可能である。このような部材を設けることにより、例えば第1被動ギヤ22や第2被動ギヤ25をリングギヤにして、リングギヤの内歯と駆動ギヤとをかみ合わせることができる。同様に駆動ギヤ13をリングギヤにして、リングギヤの内歯と第1被動ギヤ22及び第2被動ギヤ25とをかみ合わせることができる。
【0043】
実施形態では摩擦クラッチ30が、係合面が円板形状のディスククラッチの場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。他の摩擦クラッチを採用することは当然可能である。他の摩擦クラッチとしては例えばドラムクラッチ、円すいクラッチが挙げられる。ディスククラッチにおいても、単板クラッチ、多板クラッチ及び複板クラッチを採用可能である。
【0044】
実施形態では、変換装置20が摩擦クラッチ30にスラスト力を加えると摩擦クラッチ30が係合する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えばばねの弾性力によって摩擦クラッチ30が係合するようにばねを配置し、変換装置20が発生するスラスト力によってばねの弾性力を相殺し、摩擦クラッチ30による動力の伝達を遮断するようにすることは当然可能である。
【0045】
実施形態では、摩擦クラッチ30の動力の伝達・遮断を変換装置20が行うアクチュエータ10について説明したが、摩擦クラッチ30に代えて、他の装置の機能の切替えを変換装置20が行うようにすることは当然可能である。他の装置としては、例えば変速機の同期装置、チェーンベルト式無段変速機のプーリ押さえ機構、トロイダル無断変速機のディスクを加圧する加圧装置が挙げられる。
【符号の説明】
【0046】
10 アクチュエータ
11 トルク発生装置
13 駆動ギヤ
14 第1ギヤ(駆動ギヤ)
15 第2ギヤ(駆動ギヤ)
20 変換装置
21 第1要素
22 第1被動ギヤ
24 第2要素
25 第2被動ギヤ
38,39,40,41,42,43,44,45 歯面
図1
図2
図3
図4