(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】テトラアルキルアンモニウムイオンを含有する被処理液の精製方法および精製装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/42 20230101AFI20240423BHJP
B01J 39/05 20170101ALI20240423BHJP
B01J 47/016 20170101ALI20240423BHJP
B01J 49/06 20170101ALI20240423BHJP
B01J 49/53 20170101ALI20240423BHJP
【FI】
C02F1/42 B
C02F1/42 A
C02F1/42 C
B01J39/05
B01J47/016
B01J49/06
B01J49/53
(21)【出願番号】P 2022561314
(86)(22)【出願日】2021-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2021035325
(87)【国際公開番号】W WO2022102263
(87)【国際公開日】2022-05-19
【審査請求日】2023-01-31
(31)【優先権主張番号】P 2020187291
(32)【優先日】2020-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(74)【復代理人】
【識別番号】100195246
【氏名又は名称】泉 佐和
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 智子
(72)【発明者】
【氏名】貫井 郁
(72)【発明者】
【氏名】横田 治雄
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-181833(JP,A)
【文献】特開2000-126766(JP,A)
【文献】特開平11-190907(JP,A)
【文献】特開2000-319233(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F1/42
B01J39/00-49/90
C07B31/00-63/04
C07C1/00-409/44
G03F7/00-42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素イオン形の陽イオン交換樹脂が充填された容器に、テトラアルキルアンモニウムイオンを含有する再生剤を通液して、前記水素イオン形の陽イオン交換樹脂を、テトラアルキルアンモニウムイオン形の陽イオン交換樹脂に変換するイオン交換工程と、
該イオン交換工程で得られたテトラアルキルアンモニウムイオン形の陽イオン交換樹脂が充填された容器に、テトラアルキルアンモニウムイオンおよび金属不純物を含有する被処理液を通液して、該被処理液中の該金属不純物の含有量を低減する不純物除去工程と、
を有する被処理液の精製方法であって、
前記陽イオン交換樹脂の架橋度が16~24%であり、前記陽イオン交換樹脂の粒径(調和平均径)が水素イオン形において500~560μmであ
り、前記イオン交換工程で用いる前記再生剤のテトラアルキルアンモニウムイオン濃度が2.4~25質量%であることを特徴とする、被処理液の精製方法。
【請求項2】
さらに、前記不純物除去工程において前記被処理液と接触した前記陽イオン交換樹脂を再生する再生工程を有する、請求項
1に記載の被処理液の精製方法。
【請求項3】
前記被処理液が、フォトレジストの現像工程において排出される廃液に由来する溶液である、請求項1
または2に記載の被処理液の精製方法。
【請求項4】
水素イオン形の陽イオン交換樹脂が充填された容器に、テトラアルキルアンモニウムイオンを含有する再生剤を通液して、前記水素イオン形の陽イオン交換樹脂を、テトラアルキルアンモニウムイオン形の陽イオン交換樹脂に変換するイオン交換手段と、
得られたテトラアルキルアンモニウムイオン形の陽イオン交換樹脂が充填された容器に、テトラアルキルアンモニウムイオンおよび金属不純物を含有する被処理液を通液して、該被処理液中の該金属不純物の含有量を低減する不純物除去手段と、
を有する被処理液の精製装置であって、
前記陽イオン交換樹脂の架橋度が16~24%であり、前記陽イオン交換樹脂の粒径(調和平均径)が水素イオン形において500~560μmであ
り、前記イオン交換手段における前記再生剤のテトラアルキルアンモニウムイオン濃度が2.4~25質量%であることを特徴とする、被処理液の精製装置。
【請求項5】
水素イオン形の陽イオン交換樹脂が充填された容器に、テトラアルキルアンモニウムイオンを含有する再生剤を通液して、前記水素イオン形の陽イオン交換樹脂を、テトラアルキルアンモニウムイオン形の陽イオン交換樹脂に変換するイオン交換工程と、
該イオン交換工程で得られたテトラアルキルアンモニウムイオン形の陽イオン交換樹脂が充填された容器に、テトラアルキルアンモニウムイオンおよび金属不純物を含有する被処理液を通液して、該被処理液中の該金属不純物の含有量を低減する不純物除去工程と、
を有する、被処理液からのテトラアルキルアンモニウム塩水溶液の回収方法であって、
前記陽イオン交換樹脂の架橋度が16~24%であり、
前記陽イオン交換樹脂の粒径(調和平均径)が水素イオン形において500~560μmであり、前記イオン交換工程で用いる前記再生剤のテトラアルキルアンモニウムイオン濃度が2.4~25質量%であることを特徴とする、被処理液からのテトラアルキルアンモニウム塩水溶液の回収方法。
【請求項6】
水素イオン形の陽イオン交換樹脂が充填された容器に、テトラアルキルアンモニウムイオンを含有する再生剤を通液して、前記水素イオン形の陽イオン交換樹脂を、テトラアルキルアンモニウムイオン形の陽イオン交換樹脂に変換するイオン交換手段と、
得られたテトラアルキルアンモニウムイオン形の陽イオン交換樹脂が充填された容器に、テトラアルキルアンモニウムイオンおよび金属不純物を含有する被処理液を通液して、該被処理液中の該金属不純物の含有量を低減する不純物除去手段と、
を有する、被処理液からのテトラアルキルアンモニウム塩水溶液の回収装置であって、
前記陽イオン交換樹脂の架橋度が16~24%であり、
前記陽イオン交換樹脂の粒径(調和平均径)が水素イオン形において500~560μmであり、前記イオン交換手段における前記再生剤のテトラアルキルアンモニウムイオン濃度が2.4~25質量%であることを特徴とする、被処理液からのテトラアルキルアンモニウム塩水溶液の回収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラアルキルアンモニウムイオンおよび金属不純物を含有する被処理液中の金属不純物の含有量を低減する被処理液の精製方法および精製装置に関する。また、本発明は、テトラアルキルアンモニウムイオンおよび金属不純物を含有する被処理液中の金属不純物の含有量を低減する、被処理液からのテトラアルキルアンモニウム塩水溶液の回収方法および回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス、液晶ディスプレイ、プリント基板等の電子部品等の製造においては、ウェハー等の基板上にフォトレジストの皮膜を形成し、パターンマスクを通して光等を照射し、次いで現像液により不要のフォトレジストを溶解して現像する。さらに、エッチング等の処理を行った後、基板上の不溶性のフォトレジスト膜を剥離する。フォトレジストには、露光部分が可溶性となるポジ型と、露光部分が不溶性となるネガ型があり、ポジ型フォトレジストの現像液としては、アルカリ現像液が主に用いられる。また、ネガ型フォトレジストの現像液としては、有機溶剤系現像液が主流であるが、アルカリ現像液が用いられる場合もある。
【0003】
アルカリ現像液としては、通常、水酸化テトラアルキルアンモニウム(以下、「TAAH」とも称する)の水溶液が用いられる。したがって、フォトレジストの現像工程において排出される廃液(以下、「フォトレジスト現像廃液」とも称する)には、フォトレジストの他、金属イオン(金属不純物)、およびテトラアルキルアンモニウムイオン(以下、「TAAイオン」とも称する)が含有されている。
【0004】
従来、フォトレジスト現像廃液を処理する方法としては、蒸発法や逆浸透膜法により濃縮し、廃棄処分(焼却または業者引取り)する方法や、活性汚泥により生物分解処理し、放流する方法が主流であった。しかしながら、環境負荷を低減する観点から、フォトレジスト現像廃液からTAAHを回収し、再利用する試みも提案されている。
【0005】
特許文献1には、TAAイオンを陽イオン交換樹脂に吸着させた後、酸溶液を用いて該TAAイオンをテトラアルキルアンモニウム塩(以下、「TAA塩」とも称する)として溶離させて回収する方法が開示されている。特許文献1では、TAA塩溶液を回収する工程において、流出液のpHおよび/または電気伝導度を測定し、それらが所定の量だけ変化した時点で回収を停止することにより、金属イオン濃度が低減したTAA塩溶液を得ている。そして、該TAA塩溶液を原料として、TAAHを製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の方法においては、最終的に、回収したTAA塩溶液を蒸発濃縮した後、電気分解を行うことによりTAAHを得ており、該濃縮工程において、TAA塩溶液中に残存する金属イオンがスケールの原因となるという問題がある。
【0008】
一方で、金属不純物の量を低減する方法としては、一般的に、強酸性陽イオン交換樹脂により金属不純物を吸着する方法が効果的に用いられる。しかしながら、強酸性陽イオン交換樹脂は、テトラアルキルアンモニウムイオン形にすると、水素イオン形の場合に比べて樹脂中の水分が多くなり膨潤する。そのため、水素イオン形とテトラアルキルアンモニウムイオン形の変換を繰り返すと、収縮と膨潤の繰り返しにより、クラックが発生し、樹脂が割れてしまうという問題があった。
【0009】
したがって、本発明は、強酸性陽イオン交換樹脂を使用した場合であっても、樹脂の割れを抑制することができる、テトラアルキルアンモニウムイオンを含有する被処理液中の金属不純物の含有量を低減する被処理液の精製方法および精製装置を提供することを目的とする。また、本発明は、強酸性陽イオン交換樹脂を使用した場合であっても、樹脂の割れを抑制することができる、テトラアルキルアンモニウムイオンを含有する被処理液からのテトラアルキルアンモニウム塩水溶液の回収方法および回収装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題に鑑みて、本発明者らが鋭意検討した結果、架橋度の高い強酸性陽イオン交換樹脂を用いることにより、樹脂の割れを抑制し、かつ、テトラアルキルアンモニウムイオンを含有する被処理液中の金属不純物の含有量を低減できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、水素イオン形の陽イオン交換樹脂が充填された容器に、テトラアルキルアンモニウムイオンを含有する再生剤を通液して、前記水素イオン形の陽イオン交換樹脂を、テトラアルキルアンモニウムイオン形の陽イオン交換樹脂に変換するイオン交換工程と、該イオン交換工程で得られたテトラアルキルアンモニウムイオン形の陽イオン交換樹脂が充填された容器に、テトラアルキルアンモニウムイオンおよび金属不純物を含有する被処理液を通液して、該被処理液中の該金属不純物の含有量を低減する不純物除去工程と、を有する被処理液の精製方法であって、前記陽イオン交換樹脂の架橋度が16~24%であり、前記陽イオン交換樹脂の粒径(調和平均径)が水素イオン形において500~560μmであり、前記イオン交換工程で用いる前記再生剤のテトラアルキルアンモニウムイオン濃度が2.4~25質量%であることを特徴とする、被処理液の精製方法である。
【0012】
また、本発明は、水素イオン形の陽イオン交換樹脂が充填された容器に、テトラアルキルアンモニウムイオンを含有する再生剤を通液して、前記水素イオン形の陽イオン交換樹脂を、テトラアルキルアンモニウムイオン形の陽イオン交換樹脂に変換するイオン交換手段と、得られたテトラアルキルアンモニウムイオン形の陽イオン交換樹脂が充填された容器に、テトラアルキルアンモニウムイオンおよび金属不純物を含有する被処理液を通液して、該被処理液中の該金属不純物の含有量を低減する不純物除去手段と、を有する被処理液の精製装置であって、前記陽イオン交換樹脂の架橋度が16~24%であり、前記陽イオン交換樹脂の粒径(調和平均径)が水素イオン形において500~560μmであり、前記イオン交換手段における前記再生剤のテトラアルキルアンモニウムイオン濃度が2.4~25質量%であることを特徴とする、被処理液の精製装置である。
【0013】
さらに、本発明は、水素イオン形の陽イオン交換樹脂が充填された容器に、テトラアルキルアンモニウムイオンを含有する再生剤を通液して、前記水素イオン形の陽イオン交換樹脂を、テトラアルキルアンモニウムイオン形の陽イオン交換樹脂に変換するイオン交換工程と、該イオン交換工程で得られたテトラアルキルアンモニウムイオン形の陽イオン交換樹脂が充填された容器に、テトラアルキルアンモニウムイオンおよび金属不純物を含有する被処理液を通液して、該被処理液中の該金属不純物の含有量を低減する不純物除去工程と、を有する、被処理液からのテトラアルキルアンモニウム塩水溶液の回収方法であって、前記陽イオン交換樹脂の架橋度が16~24%であり、前記陽イオン交換樹脂の粒径(調和平均径)が水素イオン形において500~560μmであり、前記イオン交換工程で用いる前記再生剤のテトラアルキルアンモニウムイオン濃度が2.4~25質量%であることを特徴とする、被処理液からのテトラアルキルアンモニウム塩水溶液の回収方法である。
【0014】
さらにまた、本発明は、水素イオン形の陽イオン交換樹脂が充填された容器に、テトラアルキルアンモニウムイオンを含有する再生剤を通液して、前記水素イオン形の陽イオン交換樹脂を、テトラアルキルアンモニウムイオン形の陽イオン交換樹脂に変換するイオン交換手段と、得られたテトラアルキルアンモニウムイオン形の陽イオン交換樹脂が充填された容器に、テトラアルキルアンモニウムイオンおよび金属不純物を含有する被処理液を通液して、該被処理液中の該金属不純物の含有量を低減する不純物除去手段と、を有する、被処理液からのテトラアルキルアンモニウム塩水溶液の回収装置であって、前記陽イオン交換樹脂の架橋度が16~24%であり、前記陽イオン交換樹脂の粒径(調和平均径)が水素イオン形において500~560μmであり、前記イオン交換手段における前記再生剤のテトラアルキルアンモニウムイオン濃度が2.4~25質量%であることを特徴とする、被処理液からのテトラアルキルアンモニウム塩水溶液の回収装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高架橋の強酸性陽イオン交換樹脂を用いることにより、樹脂の割れを抑制することが可能な、テトラアルキルアンモニウムイオンを含有する被処理液中の金属不純物の含有量を低減する被処理液の精製方法および精製装置を提供することができる。また、本発明によれば、高架橋の強酸性陽イオン交換樹脂を用いることにより、樹脂の割れを抑制することが可能な、テトラアルキルアンモニウムイオンを含有する被処理液からのテトラアルキルアンモニウム塩水溶液の回収方法および回収装置を提供することができる。なお、高架橋かつ小粒径の強酸性陽イオン交換樹脂を用いた場合には、上記に加え、通液初期のpH変動が少ない被処理液の精製方法および精製装置、ならびに被処理液からのテトラアルキルアンモニウム塩水溶液の回収方法および回収装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る精製装置の構成を示す概略図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る精製装置の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<被処理液の精製方法>
本発明に係る精製方法は、水素イオン形(以下、「H形」とも称する)またはテトラアルキルアンモニウムイオン形(以下、「TAA形」とも称する)の陽イオン交換樹脂が充填された容器に、テトラアルキルアンモニウムイオンおよび金属不純物を含有する被処理液を通液して、該被処理液中の該金属不純物の含有量を低減する不純物除去工程を有する。さらに、本発明に係る精製方法は、前記陽イオン交換樹脂の架橋度が16~24%であることを特徴とする。以下、本発明に係る精製方法について、詳細に説明する。
【0018】
[不純物除去工程]
不純物除去工程は、H形またはTAA形の陽イオン交換樹脂が充填された容器に、テトラアルキルアンモニウムイオンおよび金属不純物を含有する被処理液を通液して、該被処理液中の該金属不純物の含有量を低減する工程である。
【0019】
(被処理液)
本発明において、テトラアルキルアンモニウムイオンおよび金属不純物を含有する被処理液は、少なくとも、テトラアルキルアンモニウムイオンと、金属不純物と、を含むものであればよく、特に制限されるものではない。ただし、これらの成分を含有し、かつ、半導体製造工程や液晶ディスプレイ製造工程等で多量に発生することから、該被処理液は、該工程において排出されるフォトレジスト現像廃液に由来する溶液であることが好ましい。フォトレジスト現像廃液は、露光後のフォトレジストをアルカリ現像液で現像する際に排出される廃液であり、通常は、pHが10~14のアルカリ性を呈する水溶液である。そのため、フォトレジスト現像廃液中において、フォトレジストは、そのカルボキシル基、フェノール性水酸基等の酸性基が解離して、TAAHに由来するTAAイオンと塩の形で溶解している。したがって、フォトレジスト現像廃液は、フォトレジスト、TAAイオンおよび金属不純物を主として含有する溶液である。本発明に係る被処理液は、例えば、該フォトレジスト現像廃液中のTAAイオンを陽イオン交換樹脂に吸着させた後、塩酸等の酸を用いてTAAイオンを溶離させることにより、TAA塩として回収した溶液である。
【0020】
すなわち、まず、フォトレジスト現像廃液を、H形の陽イオン交換樹脂が充填された容器に通液して、該陽イオン交換樹脂に、TAAイオンを吸着する。ここで、該廃液中に含まれる通常の金属イオンもまた陽イオンであるため、この通液により、陽イオン交換樹脂に吸着される。なお、金属イオンであっても、廃液中で、錯形成などの化学平衡反応により、金属を含むイオン種自体が陰イオンとなっている場合には、陽イオン交換樹脂には吸着されず、容器から排出される。一方、レジスト現像廃液中に溶解しているフォトレジスト由来の有機物成分は、通常、陰イオンの形態であるため、陽イオン交換樹脂には吸着されにくく、大部分は除去される。また、非イオン性の成分が存在している場合も、この段階で陽イオン交換樹脂には吸着されずに排出される(流出する)ため、大部分は除去することができる。なお、フォトレジスト現像廃液を陽イオン交換樹脂に通液した後、該樹脂に若干残存するフォトレジスト成分やその他不純物等を、超純水または純度の高いTAAH水溶液等で流すことにより洗浄してもよい。
【0021】
その後、TAA形に変換された陽イオン交換樹脂が充填された容器に、塩酸、硫酸等の鉱酸水溶液を通液することにより、該鉱酸水溶液に含まれる水素イオンが、吸着されているTAAイオンと順次置換されて、TAAイオンが、用いた鉱酸の酸塩(TAA塩)として容器から流出してくる。さらに、得られたTAA塩を含む溶液を(高架橋の)陽イオン交換樹脂(好ましくは、小粒径のもの)で処理することにより、本発明に係る被処理液を得ることができる。このようにして得られる被処理液は、テトラアルキルアンモニウムイオンおよび金属不純物を含有する溶液であり、本発明に係る精製方法は、該被処理液中の金属不純物の含有量を低減する精製方法である。
【0022】
なお、フォトレジスト現像廃液中のTAAHを、TAA塩を含む被処理液として回収する工程については、例えば特許文献1に記載されるように公知であり、該工程で用いる容器や陽イオン交換樹脂、酸の種類または使用量、酸の通液方法等については、公知の方法を適宜選択して用いることができる。ここで、該工程で用いられる(高架橋の)陽イオン交換樹脂として、本発明に係る架橋度が16%~24%の強酸性陽イオン交換樹脂を用いることも可能である。その場合には、該工程においても、繰り返し使用による樹脂の割れを防ぐことができる。また、被処理液を回収する工程から、後述するイオン交換工程および不純物除去工程まで、同じ樹脂を使用することができ、操作性の観点からも好ましい。
【0023】
(テトラアルキルアンモニウムイオン)
上述したように、本発明において用いる被処理液は、フォトレジスト現像廃液からTAAイオン(TAAH)をTAA塩として溶出させ、回収した溶液である。被処理液中のTAAイオンの具体例としては、フォトレジストの現像液に用いられるアルカリとしての水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化メチルトリエチルアンモニウム、水酸化トリメチルエチルアンモニウム、水酸化ジメチルジエチルアンモニウム、水酸化トリメチル(2-ヒドロキシエチル)アンモニウム、水酸化トリエチル(2-ヒドロキシエチル)アンモニウム、水酸化ジメチルジ(2-ヒドロキシエチル)アンモニウム、水酸化ジエチルジ(2-ヒドロキシエチル)アンモニウム、水酸化メチルトリ(2-ヒドロキシエチル)アンモニウム、水酸化エチルトリ(2-ヒドロキシエチル)アンモニウム、水酸化テトラ(2-ヒドロキシエチル)アンモニウム等の水酸化テトラアルキルアンモニウムに由来するイオンを挙げることができる。これらの中でも、最も汎用的に使用されている水酸化テトラメチルアンモニウムおよび水酸化テトラブチルアンモニウムに由来するテトラメチルアンモニウムイオンおよびテトラブチルアンモニウムイオンが、本発明において好適に用いられ、水酸化テトラメチルアンモニウムに由来するテトラメチルアンモニウムイオンが特に好ましく用いられる。本発明において用いる被処理液は、上記テトラアルキルアンモニウムイオンを、例えばクロリド塩として回収した溶液であり、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムクロリド等のテトラアルキルアンモニウムクロリド水溶液であることが好ましく、テトラメチルアンモニウムクロリド水溶液であることがより好ましい。すなわち、本発明に係る被処理液が含有するテトラアルキルアンモニウムイオンは、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムクロリド等のテトラアルキルアンモニウムクロリドに由来するテトラアルキルアンモニウムイオンであることが好ましく、テトラメチルアンモニウムクロリドに由来するテトラアルキルアンモニウムイオンであることがより好ましい。
【0024】
ここで、半導体製造および液晶ディスプレイ製造における現像工程から排出される代表的なフォトレジスト現像廃液について説明する。現像工程では、通常、枚葉式の自動現像装置が多用されている。この装置では、TAAHを含む現像液を使用する工程とその後の純水によるリンス(基板洗浄)が同じ槽内で行われ、リンス工程では、現像液の5~1000倍の量の純水が使用される。そのため、現像工程で使用された現像液は、通常5~10倍に希釈された廃液となる。その結果、この現像工程で排出されるフォトレジスト現像廃液の組成は、TAAHが0.001~2.5質量%程度であり、レジストが10~100ppm程度であり、また界面活性剤が0~数10ppm程度のものとなる。また、その他の工程の廃液が混入する場合もあり、TAAH濃度が、上記範囲の中でも低くなることもある。TAAH濃度が、例えば0.001~2.5質量%であるフォトレジスト現像廃液から得られる被処理液のTAAイオン濃度は、0.001~2.5質量%である。なお、フォトレジスト現像廃液から得られる被処理液は、適宜、濃縮等を行うことにより、TAAイオン濃度を調整してから用いてもよい。
【0025】
(金属不純物)
フォトレジスト現像廃液中には、金属不純物として複数の金属イオンが含まれているため、被処理液も、それら金属イオンを含有している。金属イオンとしては、例えば、ナトリウム、カリウム等の1価イオン、マグネシウム、カルシウム、亜鉛等の2価イオン、アルミニウム、ニッケル、銅、クロム、鉄等の多価イオンが挙げられる。これらの金属イオンは、フォトレジスト現像廃液(被処理液)中に、0.1~1000ppb程度含まれているのが通常である。なお、フォトレジスト現像廃液中のテトラアルキルアンモニウムイオンの対イオンは、水酸化物イオンであるのが通常であるが、工場によっては、また、中和を行った場合には、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、硫酸イオン、硫酸水素イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、リン酸水素イオン、リン酸二水素イオン等の無機陰イオン、および、ギ酸イオン、酢酸イオン、シュウ酸イオン等の有機陰イオンから選ばれる少なくとも一種がテトラアルキルアンモニウムイオンの対イオンの少なくとも一部となるのが一般的である。ただし、これらの陰イオンは、フォトレジスト現像廃液から被処理液を調製する段階で大部分が除去されるため、被処理液中にはほとんど含まれていないと考えられる。
【0026】
(陽イオン交換樹脂)
本発明において、H形またはTAA形の陽イオン交換樹脂としては、架橋度が16%~24%である強酸性陽イオン交換樹脂を用いる。上記範囲の架橋度を有する高架橋の樹脂は、樹脂内部に密に架橋構造が存在するため、高い強度を有する。架橋度が16%未満である陽イオン交換樹脂を用いた場合は、樹脂の強度が不十分となり、精製時において樹脂の割れが生じる可能性が高くなる。また、架橋度が24%を超える陽イオン交換樹脂を用いた場合は、イオン交換速度が遅くなったり、樹脂の再生速度が遅くなったりする。このように、本発明においては、架橋度が16%~24%と高い強酸性陽イオン交換樹脂を用いることにより、精製時における樹脂の割れを抑制することができることを見出した。また、高架橋の陽イオン交換樹脂は、交換容量が大きく、官能基を多く導入することができる点においても好ましい。
【0027】
H形の陽イオン交換樹脂としては、架橋度が16%~24%であればいずれの樹脂も用いることができる。そのようなH形の陽イオン交換樹脂としては、例えば、Amberjet(登録商標) 1060H、1600H(商品名、オルガノ株式会社製)、AMBERLITE(登録商標) IRN99H、200C、200CT(商品名、デュポン社製)、AMBEREX 210(商品名、デュポン社製)、Diaion(登録商標) SK116(商品名、三菱ケミカル株式会社製)、Purolite(登録商標) C100X16MBH(商品名、ピュロライト株式会社製)等を挙げることができる。
【0028】
TAA形の陽イオン交換樹脂としては、上記H形の陽イオン交換樹脂として例示した樹脂を、あらかじめTAA形にイオン交換した樹脂を用いることができる。すなわち、不純物除去工程において、TAA形の陽イオン交換樹脂を用いて被処理液の精製を行う場合、本発明に係る精製方法は、不純物除去工程の前に、以下のイオン交換工程を有していてもよい。
水素イオン形の陽イオン交換樹脂が充填された容器に、テトラアルキルアンモニウムイオンを含有する再生剤を通液して、該水素イオン形の陽イオン交換樹脂を、テトラアルキルアンモニウムイオン形の陽イオン交換樹脂に変換するイオン交換工程。
そして、該イオン交換工程で得られるTAA形の陽イオン交換樹脂を、不純物除去工程において用いることができる。イオン交換工程については、後述する。
【0029】
陽イオン交換樹脂の粒径は、200μm~720μmであることが好ましい。粒径が720μm以下であれば、一般的なイオン交換樹脂の粒径範囲であるため、既存の設備の転用や運用がしやすい。また、粒径が200μm以上の陽イオン交換樹脂であれば、一般的な表面積を有し、金属不純物を十分に除去することができる。また、粒径が200μm以上の陽イオン交換樹脂であれば、樹脂出口と樹脂入口との差圧の上昇を抑制することができる。さらに、陽イオン交換樹脂の粒径は、H形において500μm~560μmであることがより好ましい。該範囲の粒径を有する小粒径の陽イオン交換樹脂は、樹脂の表面積が大きく、樹脂をH形からTAA形に変換しやすい。そのため、樹脂をTAA形に変換する際に残存するH形の樹脂が少なくなり、被処理液を通液する際の初期のpH変動を、さらに抑制することができる。また、小粒径の陽イオン交換樹脂は、樹脂の表面積が大きいため、金属不純物の除去性能にも優れる。なお、本発明において、粒径は、調和平均径を意味する。
【0030】
(H形の陽イオン交換樹脂を用いる場合)
H形の陽イオン交換樹脂が充填された容器に、TAAイオンおよび金属不純物を含有する被処理液を通液すると、樹脂中の水素イオンと、該被処理液中のTAAイオンとがイオン交換することにより、H形の陽イオン交換樹脂はTAA形の陽イオン交換樹脂に変換される。また、被処理液中の、陽イオンである金属不純物も陽イオン交換樹脂に吸着されるため、被処理液中の金属不純物の含有量を低減することができる。すなわち、H形の陽イオン交換樹脂を用いる場合は、陽イオン交換樹脂をH形からTAA形に変換するために、別途、後述するイオン交換工程を実施することなく、精製する対象である被処理液を用いて、陽イオン交換樹脂をH形からTAA形に変換することができる。このようにして、TAA形に変換された陽イオン交換樹脂は、引き続き、不純物除去工程に用いることができる。本工程実施後の陽イオン交換樹脂のイオン形としては、TAA形と金属イオン形とが混在する状態となる。なお、未反応の交換基が残存する場合は、さらに水素イオン形の陽イオン交換樹脂も混在する。
【0031】
H形の陽イオン交換樹脂を用いる場合、被処理液を1回通液することによって、被処理液中の金属不純物の含有量を低減することができるが、精製効率を高めるため、1回目の被処理液の通液によりTAA形(および金属イオン形)に変換された陽イオン交換樹脂へ、再度、通液後の被処理液を通液してもよい。すなわち、不純物除去工程を、複数回繰り返し行ってもよい。TAA形(および金属イオン形)に変換された陽イオン交換樹脂に、再度、被処理液を通液すると、樹脂に吸着されているTAAイオンと、被処理液中に残存する金属イオンとがイオン交換して、金属イオンが樹脂に吸着されることにより、被処理液中の金属不純物の含有量をさらに低減することができる。
【0032】
また、H形の陽イオン交換樹脂を用いて被処理液を通液する場合、陽イオン交換樹脂から流出される水素イオンの影響により、容器から流出する流出液のpHは強酸性となる。そのため、この場合において、本発明に係る精製方法は、不純物除去工程で得られた流出液を中和する中和工程を有していてもよい。不純物除去工程を複数回繰り返し行う場合には、例えば、1回目の不純物除去工程を行った後、流出した被処理液の中和工程を実施し、中和工程後のpH調整した被処理液を用いて、2回目の不純物除去工程を実施することもできる。中和工程は、公知の方法を用いて行うことができる。具体的には、例えば、流出液を貯留槽等の容器に溜めて、TAAH等のアルカリを用いてpH調整することにより行うことができる。なお、pH変動の激しい通液初期に流出した被処理液のみを別の貯留槽等の容器に溜めてpH調整を行った後、後から流出した残りの被処理液と混合してもよい。また、pH変動の激しい通液初期に流出した被処理液を廃棄してもよい。中和に用いるアルカリとしては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化アンモニウム等を挙げることができる。
【0033】
(TAA形の陽イオン交換樹脂を用いる場合)
TAA形の陽イオン交換樹脂が充填された容器に、TAAイオンおよび金属不純物を含有する被処理液を通液すると、樹脂中のTAAイオンと、該被処理液中の金属イオンとがイオン交換して、金属イオンが樹脂に吸着される。これにより、被処理液中の金属不純物の含有量を低減することができる。なお、イオン交換工程において、陽イオン交換樹脂中に未反応の交換基(水素イオン)が残存していた場合には、本工程において、該水素イオンも被処理液中の金属イオンと交換される。あらかじめH形からTAA形に変換した陽イオン交換樹脂を用いることにより、被処理液を通液する際に、水素イオンではなく樹脂に吸着されたTAAイオンと、被処理液中の金属イオンとが交換されることとなる。そのため、被処理液のTAAイオン濃度の変動や通液初期のpH変動を抑制することができる。このように、通液初期のpH変動を抑制する観点や、金属不純物の除去効率の観点から、不純物除去工程においては、TAA形の陽イオン交換樹脂を用いることが好ましい。
【0034】
(被処理液の通液)
陽イオン交換樹脂が充填された容器に被処理液を通液する方法としては、陽イオン交換樹脂の種類や形状によって、従来知られている方法を適宜採用することができる。ここで、本発明において、容器とは、吸着塔のような「塔」や「槽」等のイオン交換樹脂を充填可能であり、被処理液を精製(通水またはバッチのいずれでもよい)することが可能なものをすべて含む意味であり、限定されるものではない。具体的には、例えば、上部に流入孔を有し、下端部に流出孔を有するカラムに陽イオン交換樹脂を充填し、被処理液を、ポンプを利用して連続的に通過させる方式(カラム方式)や、陽イオン交換樹脂を充填した容器に被処理液を通液して、適当な時間接触させ、上澄み液を除去する方式(バッチ方式)が挙げられる。カラム方式を採用する場合、カラムの大きさは、陽イオン交換樹脂の性能等に応じて適宜決定すればよい。効率よく精製を行う観点から、例えば、カラムの高さ(L)と直径(D)との比(L/D)を0.5~30、被処理液の空間速度(SV)を1(1/時間)以上150(1/時間)以下とすることが好ましい。
【0035】
(流出液の回収)
カラム方式で通液を行う場合、テトラアルキルアンモニウムイオンおよび金属不純物を含有する被処理液の通液により、容器の一端から、金属不純物の含有量が低減された流出液が流出してくるため、該流出液を貯留槽等に回収する。なお、得られた精製された被処理液は、テトラアルキルアンモニウム塩水溶液である。なお、金属不純物の含有量は、例えば、Agilent 8900 トリプル四重極ICP-MS(商品名、アジレント・テクノロジー株式会社製)を用いて測定することができる。
【0036】
[イオン交換工程]
イオン交換工程は、上述した不純物除去工程に先立ち、H形の陽イオン交換樹脂を、TAA形の陽イオン交換樹脂に変換する工程、すなわち、不純物除去工程で用いるTAA形の陽イオン交換樹脂を準備する工程である。イオン交換工程は、H形の陽イオン交換樹脂が充填された容器に、TAAイオンを含有する再生剤を通液することにより行う。H形の陽イオン交換樹脂としては、上述したとおりである。H形の陽イオン交換樹脂に、TAAイオンを含有する再生剤を通液すると、陽イオン交換樹脂が有する水素イオンと再生剤に含まれるTAAイオンとがイオン交換を起こし、TAAイオンが陽イオン交換樹脂に吸着される。その結果、H形の陽イオン交換樹脂が、TAA形の陽イオン交換樹脂に変換される。
【0037】
(テトラアルキルアンモニウムイオンを含有する再生剤)
TAAイオンを含有する再生剤は、TAAイオンを含む水溶液であればよく、特に制限されるものではない。TAAイオンを含有する再生剤としては、具体的に、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化メチルトリエチルアンモニウム、水酸化トリメチルエチルアンモニウム、水酸化ジメチルジエチルアンモニウム、水酸化トリメチル(2-ヒドロキシエチル)アンモニウム、水酸化トリエチル(2-ヒドロキシエチル)アンモニウム、水酸化ジメチルジ(2-ヒドロキシエチル)アンモニウム、水酸化ジエチルジ(2-ヒドロキシエチル)アンモニウム、水酸化メチルトリ(2-ヒドロキシエチル)アンモニウム、水酸化エチルトリ(2-ヒドロキシエチル)アンモニウム、水酸化テトラ(2-ヒドロキシエチル)アンモニウム等の水溶液を挙げることができる。これらの中でも、最も汎用的に使用されている水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液および水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液が本発明において好適に用いられ、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液が特に好ましく用いられる。
【0038】
再生剤中のTAAイオンの含有量は、例えば、0.1質量%~25質量%とすることができる。
【0039】
(再生剤の通液)
TAAイオンを含有する再生剤を、陽イオン交換樹脂を充填した容器に通液する方法については、陽イオン交換樹脂の種類や形状によって、従来知られている方法を適宜採用することができる。具体的には、例えば、上部に流入孔を有し、下端部に流出孔を有するカラムに陽イオン交換樹脂を充填し、テトラアルキルアンモニウムイオンを含有する溶液を、ポンプを利用して連続的に通過させる方式(カラム方式)や、陽イオン交換樹脂を充填した容器に溶液を通液して、適当な時間接触させ、上澄み液を除去する方式(バッチ方式)が挙げられる。カラム方式を採用する場合、カラムの大きさは、陽イオン交換樹脂の性能等に応じて適宜決定すればよい。効率よくTAAイオンを吸着するためには、例えば、TAAイオンの含有量が0.1~25質量%である溶液であれば、カラムの高さ(L)と直径(D)との比(L/D)が0.5~30、該溶液の空間速度(SV)を1(1/時間)以上150(1/時間)以下とすることが好ましい。
【0040】
通液する再生剤の量は、容器に充填した陽イオン交換樹脂の交換容量を考慮して、適宜設定することができる。なお、陽イオン交換樹脂の交換容量以上の量の陽イオンが含まれている溶液の通液により、吸着されずにTAAイオンが流出(破過)してしまっているかどうかは、容器を通過して流出してくる液中のTAAイオン濃度をイオンクロマトグラフィー法で分析することにより確認することができる。より簡便には、容器中での陽イオン交換樹脂の占める高さを測定すればよい。陽イオン交換樹脂の対イオンが水素イオンからTAAイオンになると、陽イオン交換樹脂の種類にもよるが、体積が2倍程度に膨潤する。したがって、陽イオン交換樹脂の体積を測定することにより、TAAイオンの吸着を確認することができる。また、通液する再生剤のpHが10以上のアルカリ性である場合、TAAイオンが吸着されずに容器を通過すると、通過した液のpHがアルカリ性となるため、pH計によっても確認することが可能である。また、通常は、容器を通過して流出した液中にTAAイオンが含まれている場合、液の電気伝導度が上昇するため、電気伝導度計によっても確認することが可能である。
【0041】
(流出液の回収)
カラム方式で通液を行う場合、テトラアルキルアンモニウムイオンを含有する再生剤の通液により、容器の一端から、TAAイオンとイオン交換された水素イオンが、用いた再生剤(塩)に応じた陰イオンを対イオンとして流出してくるため、流出液を貯留槽等に回収する。
【0042】
[陽イオン交換樹脂の再生工程]
本発明に係る精製方法は、前記不純物除去工程において被処理液と接触した陽イオン交換樹脂を再生する再生工程を有していてもよい。樹脂の再生は、公知の方法を用いて、該樹脂に酸を接触することにより、金属イオン等の不純物を除去するとともに、樹脂をTAAイオン形からH形に変換することができる。得られたH形の陽イオン交換樹脂は、不純物除去工程において再利用することができる。再生工程で用いる酸としては、水溶液の状態で水素イオンが生成するものであれば特に限定されず、例えば、塩酸、硫酸等の鉱酸水溶液を挙げることができる。これらの中でも、工業的に安価で入手可能な点、および濃度調整が容易な点から、塩酸が好ましい。塩酸の濃度および使用量については、H形への変換、および金属イオン等の不純物を除去するために十分な濃度および量であれば特に限定されない。通常は、上記陽イオン交換樹脂に対して、1~10質量%の塩酸を3~20(L/L-樹脂)接触させることにより、樹脂をTAAイオン形からH形に変換することができる。再生工程では、上記鉱酸を用いた洗浄に加え、適宜、超純水または純水を用いた洗浄を行ってもよい。
【0043】
<被処理液の精製装置>
本発明に係る精製装置は、水素イオン形またはテトラアルキルアンモニウムイオン形の陽イオン交換樹脂が充填された容器に、テトラアルキルアンモニウムイオンおよび金属不純物を含有する被処理液を通液して、該被処理液中の該金属不純物の含有量を低減する不純物除去手段を有する。さらに、本発明に係る精製装置は、前記陽イオン交換樹脂の架橋度が16~24%であることを特徴とする。なお、不純物除去手段の詳細は、上述した本発明に係る精製方法における不純物除去工程についての説明と同様である。
【0044】
TAA形の陽イオン交換樹脂を用いる場合、本発明に係る精製装置は、以下のイオン交換手段を有していてもよい。
水素イオン形の陽イオン交換樹脂が充填された容器に、テトラアルキルアンモニウムイオンを含有する再生剤を通液して、該水素イオン形の陽イオン交換樹脂を、テトラアルキルアンモニウムイオン形の陽イオン交換樹脂に変換するイオン交換手段。
そして、該イオン交換手段によって得られるTAA形の陽イオン交換樹脂を、不純物除去手段における陽イオン交換樹脂として用いることができる。なお、イオン交換手段の詳細は、上述した本発明に係る精製方法におけるイオン交換工程についての説明と同様である。
【0045】
H形の陽イオン交換樹脂を用いる場合、本発明に係る精製装置は、不純物除去手段において得られる流出液を中和する中和手段を有していてもよい。該中和手段の詳細は、上述した本発明に係る精製方法における中和工程についての説明と同様である。
【0046】
また、本発明に係る精製装置は、不純物除去手段において被処理液と接触した陽イオン交換樹脂を再生する再生手段を有していてもよい。該再生手段の詳細は、上述した本発明に係る精製方法における再生工程についての説明と同様である。
【0047】
図1は、TAAH水溶液によりTAA形に調整した陽イオン交換樹脂を用いて、被処理液を精製する精製装置の一例を示す概略図である。なお、
図1には、陽イオン交換樹脂を充填する容器として吸着塔を用いた例を示すが、容器は、吸着塔に限定されるものではない。まず、イオン交換手段として、H形の陽イオン交換樹脂が充填された吸着塔1に、貯留槽3から、TAAイオンを含有する再生剤(例えばTAAH水溶液)を通液して、流出液を廃液ライン10から回収する。その後、不純物除去手段として、前記吸着塔1に、貯留槽2から、TAAイオンおよび金属不純物を含有する被処理液を通液して、該被処理液中の金属不純物の含有量が低減した流出液を貯留槽5に回収する。ここで、貯留槽2、貯留槽3および貯留槽4内の溶液は、
図1に示すように、溶液ごとにポンプ6により吸着塔1に送液してもよく、弁で切り替えることにより1つのポンプを使用して吸着塔1に送液してもよい。
【0048】
精製に使用した後の吸着塔1内の樹脂は、以下のように洗浄・再生することにより、再利用することができる。超純水(または純水)ライン7から超純水(または純水)を通液して吸着塔1内の樹脂を洗浄した後、貯留槽4から塩酸等の酸を通液して、樹脂に吸着された金属不純物やTAAイオンを除去し、樹脂をH形とする。続いて、貯留槽3から、TAAイオンを含有する再生剤(例えばTAAH水溶液)を通液する(イオン交換手段に相当する)ことにより、TAA形の陽イオン交換樹脂として再生される。再生されたTAA形の陽イオン交換樹脂は、不純物除去手段に用いるTAA形の陽イオン交換樹脂として再利用することができる。あるいは、超純水(または純水)ライン7から超純水(または純水)を通液して、精製に使用した後の吸着塔1内の樹脂を洗浄した後、そのまま不純物除去手段に用いるTAA形の陽イオン交換樹脂として再利用することができる。ただし、後者のように、塩酸通液をすることなく、そのまま樹脂を不純物除去手段に再利用する場合、TAAHによっては溶離しきれない金属不純物が樹脂中に残留してしまう。そのため、塩酸通液を行う前者の再生方法を定期的に組み合わせることが好ましい。なお、洗浄に用いた廃液は、pH計8や電気伝導度計9の値に応じて廃液の種類ごとに排出する。
【0049】
図2は、H形の陽イオン交換樹脂を用いて、被処理液を精製する精製装置の一例を示す概略図である。なお、
図2には、陽イオン交換樹脂を充填する容器として吸着塔を用いた例を示すが、容器は、吸着塔に限定されるものではない。まず、不純物除去手段として、H形の陽イオン交換樹脂が充填された吸着塔11に、貯留槽12から、TAAイオンおよび金属不純物を含有する被処理液を通液して、流出液を貯留槽14に回収する。得られた流出液は強酸性となるため、必要に応じて該流出液を中和してもよい。具体的には、貯留槽13から、アルカリ(例えばTAAH)を含む水溶液を貯留槽14へ通液し、中和を行う。ここで、不純物除去工程における被処理液の通液初期には、H形の陽イオン交換樹脂中の水素イオンがTAAイオンや金属イオンとイオン交換され、流出液のpHが急激に低下する。そのため、通液初期に流出する強酸性溶液を、その後に流出する流出液と共に貯留槽14で混合すると、中和に必要となるアルカリの量が増加するため好ましくない。したがって、通液初期の流出液のpHを廃液ライン19の手前に設置したpH計17により確認し、強酸性の流出液を貯留槽14手前の廃液ライン19から排出することが好ましい。また、最終的に流出した被処理液のpH調整を行うため、貯留槽14にもpH計17を設置する。不純物除去工程を繰り返し行う場合は、その後、前記吸着塔11に、前記流出した被処理液(必要に応じて中和したもの)を貯留槽14から通液して、再度、流出液を貯留槽14に回収する。
【0050】
精製に使用した後の吸着塔11内の樹脂は、以下のように洗浄・再生することにより、再利用することができる。超純水(または純水)ライン16から超純水(または純水)を通液して吸着塔11内の樹脂を洗浄した後、貯留槽14に回収した流出液を吸着塔11に通液することにより、TAA形の陽イオン交換樹脂として再生される。あるいは、超純水(または純水)ライン16から超純水(または純水)を通液して吸着塔11内の樹脂を洗浄した後、貯留槽13からTAAH水溶液を通液することにより、TAA形の陽イオン交換樹脂として再生される。このようにして再生されたTAA形の陽イオン交換樹脂は、不純物除去手段に用いるTAA形の陽イオン交換樹脂として再利用することができる。なお、前者の方法によれば、薬液の使用量を削減することができるが、流出液のpHを考慮すると、樹脂のTAA形への変換においては非効率である。そのため、樹脂のTAA形への変換効率の観点から、後者の方法が好ましい。また、TAAHによっては溶離しきれない金属不純物が樹脂中に残留してしまうため、
図1に係る精製装置に関して説明したように、塩酸(不図示)通液を行う再生方法を定期的に組み合わせることが好ましい。
【0051】
本発明に係る精製装置は、陰イオン交換樹脂や微粒子除去フィルターを組み合わせて用いることもできる。それらを組み合わせる場合、陰イオン交換樹脂を充填した容器は、陽イオン交換樹脂を充填した容器の前後に設置するか、または、両方のイオン交換樹脂を混合して同じ容器に充填してもよい。さらに、陰イオン交換樹脂を充填した容器は、貯留槽5または貯留槽14の前段に設置することが好ましい。また、微粒子除去フィルターは、陽イオン交換樹脂および/または陰イオン交換樹脂を充填した容器と、貯留槽5または貯留槽14との間に備えることが好ましい。なお、陰イオン交換樹脂および微粒子除去フィルターとしては、公知のものを適宜選択して用いることができるが、陰イオン交換樹脂は、Cl形に変換されたものが好ましい。
【0052】
<テトラアルキルアンモニウム塩水溶液の回収方法>
本発明に係る精製方法は、上記のとおり、テトラアルキルアンモニウムイオンおよび金属不純物を含有する被処理液中の金属不純物の含有量を低減する被処理液の精製方法であるが、本発明は、テトラアルキルアンモニウムイオンおよび金属不純物を含有する被処理液中の金属不純物の含有量を低減することにより、該被処理液から、精製されたテトラアルキルアンモニウム塩水溶液を回収する方法であると言うこともできる。すなわち、本発明に係る精製方法によって精製された被処理液は、回収されたテトラアルキルアンモニウム塩水溶液である。そして、該テトラアルキルアンモニウム塩水溶液を、例えば陰イオン交換樹脂に接触させるか又は、電気分解することによって、純度の高いTAAH溶液を得ることができる。
【0053】
本発明に係るテトラアルキルアンモニウム塩水溶液の回収方法は、水素イオン形またはテトラアルキルアンモニウムイオン形の陽イオン交換樹脂が充填された容器に、テトラアルキルアンモニウムイオンおよび金属不純物を含有する被処理液を通液して、該被処理液中の該金属不純物の含有量を低減する不純物除去工程を有する、被処理液からのテトラアルキルアンモニウム塩水溶液の回収方法であって、前記陽イオン交換樹脂の架橋度が16~24%であることを特徴とする。本発明に係るテトラアルキルアンモニウム塩水溶液の回収方法についての詳細は、本発明に係る精製方法について上述した内容と同一であり、説明は省略する。
【0054】
<テトラアルキルアンモニウム塩水溶液の回収装置>
本発明に係る精製装置は、上記のとおり、テトラアルキルアンモニウムイオンおよび金属不純物を含有する被処理液中の金属不純物の含有量を低減する被処理液の精製装置であるが、本発明は、テトラアルキルアンモニウムイオンおよび金属不純物を含有する被処理液中の金属不純物の含有量を低減することにより、該被処理液から、精製されたテトラアルキルアンモニウム塩水溶液を回収する装置であると言うこともできる。すなわち、本発明に係る精製装置によって精製された被処理液は、回収されたテトラアルキルアンモニウム塩水溶液である。そして、該テトラアルキルアンモニウム塩水溶液を、上記のとおり陰イオン交換樹脂に接触させるか又は、電気分解することによって、純度の高いTAAH溶液を得ることができる。
【0055】
本発明に係るテトラアルキルアンモニウム塩水溶液の回収装置は、水素イオン形またはテトラアルキルアンモニウムイオン形の陽イオン交換樹脂が充填された容器に、テトラアルキルアンモニウムイオンおよび金属不純物を含有する被処理液を通液して、該被処理液中の該金属不純物の含有量を低減する不純物除去手段を有する、被処理液からのテトラアルキルアンモニウム塩水溶液の回収装置であって、前記陽イオン交換樹脂の架橋度が16~24%であることを特徴とする。本発明に係るテトラアルキルアンモニウム塩水溶液の回収装置についての詳細は、本発明に係る精製装置について上述した内容と同一であり、説明は省略する。
【0056】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明する。なお、実施例1および5は、それぞれ参考例1および5に読み替えるものとする。
【実施例】
【0057】
10質量%テトラメチルアンモニウムクロリド(TMAC)水溶液1000mlに、金属不純物としてNa、Mg、KおよびCaを添加し、さらに25質量%水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)水溶液を適量加えて、pH8~10の被処理液を調製した。なお、各金属不純物の添加量は、実際のフォトレジスト現像廃液に含まれる金属不純物の量と同程度とした。
【0058】
[実施例1]
(イオン交換工程)
本実施例は、バッチ法にて試験を行った。PFA製の200mlビーカーに、H形の強酸性陽イオン交換樹脂として、AMBERJET(登録商標) 1060H(商品名、オルガノ株式会社製、架橋度:16%)を10ml投入した。そこへ、テトラアルキルアンモニウムイオンを含有する再生剤として、2.4質量%TMAH水溶液を100ml注加し、15分に1回ビーカーを回しながら攪拌し、合計1時間樹脂を浸漬し、樹脂が流出しない程度まで上澄み液を取り除いた。この操作を2回繰り返した後、超純水(UPW)100mlを注加して軽く攪拌して上澄み液を除去する操作を3回繰り返し行い、残存するTMAHを洗浄により除去した。
【0059】
(不純物除去工程)
前記イオン交換工程において洗浄に使用した超純水を樹脂面ぎりぎりまで取り除いた後、上記で調製した被処理液を100ml注加して、15分に1回ビーカーを回しながら攪拌し、合計30分間樹脂を浸漬した。
【0060】
(金属濃度およびpHの測定)
浸漬後の上澄み液を採取し、pHおよび金属濃度を測定した。なお、pHは、ポータブルマルチ水質計(商品名:MM42-DP、東亜DKK株式会社製)を用いて測定した。金属濃度は、Agilent 8900 トリプル四重極ICP-MS(商品名、アジレント・テクノロジー株式会社製)を用いて測定した。表1に、精製前の被処理液の各金属不純物濃度に対する精製後の被処理液の各金属不純物濃度の低減割合(%)および精製後の被処理液のpH値を示す。なお、表1中、陽イオン交換樹脂の特性値は、製造元のカタログ値である。
【0061】
[実施例2]
H形の強酸性陽イオン交換樹脂として、AMBERLITE(登録商標) IRN99H(商品名、デュポン社製、架橋度:16%)を用いた以外は、実施例1と同様に、イオン交換工程および不純物除去工程を実施し、実施例1と同様にpHおよび金属濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0062】
【0063】
実施例1および実施例2では、架橋度が同じ陽イオン交換樹脂を同体積用いて、同じ再生剤量で試験したが、表1に示すように、精製後の被処理液のpHは、実施例1では1と強酸性を示し、実施例2では4と弱酸性を示した。これは、実施例2で用いたAMBERLITE IRN99Hが、実施例1で用いたAMBERJET 1060Hと比較して、粒径がより小さく表面積が大きいためである。すなわち、イオン交換工程において、前者の方がTMA形に変換されやすく、残存するH形の樹脂が少なくなった結果、不純物除去工程において、水素イオンの流出による通液初期のpH変動が抑制されたためであると考えられる。また、金属不純物の除去性能についても、より小粒径である樹脂を用いた実施例2の方が実施例1と比較して高いことがわかった。
【0064】
[実施例3]
本実施例は、カラム法にて試験を行った(
図1参照)。H形の強酸性陽イオン交換樹脂として、AMBERLITE(登録商標) IRN99H(商品名、デュポン社製、架橋度:16%)36mlを吸着塔(φ19mm、長さ300mmのPFA製カラム)に投入し、2.5質量%TMAH水溶液により樹脂をTMA形に変換した(イオン交換工程)。続いて、実施例1で用いた被処理液を、TMA形に変換した樹脂へ、1時間に樹脂体積の5倍量を通液する速度で30BV通液した(不純物除去工程)。なお、BV(Bed volume)は、樹脂量に対し通液する流量倍数を表す。得られた流出液のpHおよび金属濃度を、実施例1と同様に測定した。結果を表2に示す。
【0065】
[実施例4]
本実施例は、カラム法にて試験を行った(
図2参照)。H形の強酸性陽イオン交換樹脂として、実施例3と同様、AMBERLITE(登録商標) IRN99H(商品名、デュポン社製、架橋度:16%)を用いた。TMA形に変換していない、前記H形の樹脂36mlを実施例3と同様の吸着塔に投入し、実施例1で用いた被処理液を、1時間に樹脂体積の5倍量を通液する速度で30BV通液した(不純物除去工程)。得られた流出液のpHおよび金属濃度を、実施例1と同様に測定した。結果を表2に示す。
【0066】
【0067】
表2に示すように、不純物除去工程において、陽イオン交換樹脂としてTMA形の陽イオン交換樹脂を用いた実施例3、および、H形の陽イオン交換樹脂を用いた実施例4のいずれにおいても、金属不純物の含有量を大幅に低減することができた。特に、イオン交換工程において樹脂をあらかじめTMA形に変換してから被処理液を通液した実施例3は、不純物除去工程において、金属不純物とTMAがイオン交換するため、pHの変動が少なかった。また、Naの除去性能についても、実施例3の方が実施例4よりも良い結果を示した。
なお、実施例1および2の結果と、実施例3および4の結果とを比較すると、後者の方が金属不純物の除去性能が高く、pH変動も小さくなっているが、これは、一般的に、バッチ法よりもカラム法の方が、精製効率が高くなることによるものである。
【0068】
[実施例5~6、比較例1~2]
(完全球形率の測定)
PFA製の200mlビーカーに、表3に示すH形の陽イオン交換樹脂をそれぞれ5ml投入した。そこへ、テトラアルキルアンモニウムイオンを含有する再生剤として、25質量%TMAH水溶液50mlを注加し、混合して、2時間浸漬した。その後、上澄み液を除去し、ビーカー内の樹脂を超純水で3回(計150ml)洗浄した。なお、この工程は、本発明のイオン交換工程に相当するものであり、通常よりも、TMAHの濃度が高い条件で樹脂の割れの有無を確認することを目的として行った。得られた樹脂の完全球形率を以下の方法により測定した。
顕微鏡(商品名:デジタルマイクロスコープ、株式会社キーエンス製)を用いて、500個の樹脂を観察し、観察した全固体に対する完全球形固体の割合(完全球形率)を下式より求めた。
完全球形率(%)=((500-ヒビや欠けがある固体の数)/500)×100
【0069】
結果を、架橋度と併せて表3に示す。なお、表3中、比較例1で用いたAMBERLYST(登録商標) 16WET(商品名)、および比較例2で用いたAMBERLITE(登録商標) IRN97H(商品名)は、いずれもデュポン社製である。
【0070】
【0071】
表3に示すように、高架橋の強酸性陽イオン交換樹脂を用いた実施例5および6は、高い完全球形率を示した。すなわち、これらの樹脂は、TMAイオン濃度が高いTMAH水溶液中においても、樹脂にヒビやクラックが入り難く、イオン交換工程や不純物除去工程等において繰り返し使用した場合にも樹脂が割れにくいことが分かった。
一方で、架橋度が本発明で規定する範囲よりも低い樹脂を用いた比較例1および2は、完全球形率が91~98%であった。これらの樹脂は、実施例で用いた樹脂に比べて、繰り返し使用等により樹脂が割れやすく、イオン交換樹脂母体の破損が進みやすいことがわかった。
【符号の説明】
【0072】
1:吸着塔
2:貯留槽(被処理液)
3:貯留槽(TAAH)
4:貯留槽(酸)
5:貯留槽(流出液)
6:ポンプ
7:超純水ライン
8:pH計
9:電気伝導度計
10:廃液ライン
11:吸着塔
12:貯留槽(被処理液)
13:貯留槽(TAAH)
14:貯留槽(流出液)
15:ポンプ
16:超純水ライン
17:pH計
18:電気伝導度計
19:廃液ライン