IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダニエリ アンド チ.オフィチーネ メカーニク エッセピアの特許一覧

特許7477643金属製品用のコーティング組成物および関連する方法
<>
  • 特許-金属製品用のコーティング組成物および関連する方法 図1
  • 特許-金属製品用のコーティング組成物および関連する方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】金属製品用のコーティング組成物および関連する方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/00 20060101AFI20240423BHJP
   C23F 11/00 20060101ALI20240423BHJP
   B21B 45/00 20060101ALI20240423BHJP
   B21B 45/02 20060101ALI20240423BHJP
   C21D 1/70 20060101ALI20240423BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240423BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20240423BHJP
   C09D 183/16 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
C09D183/00
C23F11/00 F
B21B45/00 A
B21B45/02 330
C21D1/70 P
C09D7/61
C09D183/04
C09D183/16
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022564328
(86)(22)【出願日】2020-04-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-30
(86)【国際出願番号】 IT2020050103
(87)【国際公開番号】W WO2021214803
(87)【国際公開日】2021-10-28
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】512288949
【氏名又は名称】ダニエリ アンド チ.オフィチーネ メカーニク エッセピア
【氏名又は名称原語表記】DANIELI&C.OFFICINE MECCANICHE SPA
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】プリマヴェーラ、アレッサンドラ
(72)【発明者】
【氏名】ティブルツィオ、セレーナ
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-030856(JP,A)
【文献】特開2016-014177(JP,A)
【文献】特表2019-527184(JP,A)
【文献】特開昭49-005407(JP,A)
【文献】特開昭58-125659(JP,A)
【文献】特表2015-528790(JP,A)
【文献】国際公開第2011/070859(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製品に外部から塗布されて該金属製品を熱酸化から保護するためのコーティング組成物であって、
少なくとも、シリコーン樹脂、シリコーンオイル、シリコーンペースト、シロキサンポリマー、カルボシランポリマー、シラザンポリマー、またはこれらの組み合わせ、から選択されるセラミック前駆体ポリマーが存在するマトリックスと、
元素鉄粉末、元素ケイ素粉末、鉄‐ケイ素粉末、炭化ケイ素粉末、フェロアロイ粉末、またはこれらの組み合わせ、を含む群から選択される、還元特性を有する第1のフィラーと、
フォルステライト鉱物源を含む1種類以上の鉱物を含む第2のフィラーと、を含むことを特徴とする、コーティング組成物。
【請求項2】
前記フォルステライト鉱物源がオリビンを含み、フォルステライトの割合が50%より高く、特に60%より高く、より特に75%より高く、さらにより特に85%より高いことを特徴とする、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
前記フォルステライト鉱物源が酸化マグネシウムを含むことを特徴とする、請求項1または2に記載のコーティング組成物。
【請求項4】
前記フォルステライト鉱物源がオリビンおよび酸化マグネシウムを含み、オリビンと酸化マグネシウムの重量比が2~8、特に3~7、より特に3.5~6、さらにより特に4~5.5であることを特徴とする、請求項2又は3に記載のコーティング組成物。
【請求項5】
前記第1のフィラーと前記第2のフィラーの重量比が、0.1~0.6、特に0.15~0.5、さらに特に0.15~0.4であることを特徴とする、請求項1~4のうちいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項6】
前記セラミック前駆体ポリマーが、ポリメチルヒドロシロキサン(PMHS)および/またはポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリペルヒドリドシラザン、ポリフェニルシロキサン、またはこれらの組み合わせ、を含むことを特徴とする、請求項1~のうちいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項7】
前記コーティング組成物が液体形態であり、さらに溶媒または溶媒の混合物を含み、前記第1および第2のフィラーが、前記溶媒によってまたは前記溶媒の混合物によって可溶化された前記マトリックス中に均質に分散および分布しており、それぞれ20μmおよび30μmより小さい粒径を有することを特徴とする、請求項1~のうちいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項8】
前記フィラーに対する前記マトリックスの割合が、20重量%~50重量%の範囲内、好ましくは25重量%~40重量%の範囲内であることを特徴とする、請求項に記載のコーティング組成物。
【請求項9】
請求項1~のうちいずれか一項に記載のコーティング組成物によってコーティングされた、金属製品。
【請求項10】
コーティング層(R)の熱膨張係数が前記金属製品の熱膨張係数に近いことを特徴とする、請求項に記載の金属製品。
【請求項11】
請求項1~のうちいずれか一項に記載のコーティング組成物を、噴霧技術、特にエアレス技術によってまたは粉体塗装技術によって外部から塗布することで前記金属製品をコーティングして外部保護層を得ることによる、金属製品を酸化から保護する方法。
【請求項12】
金属製品を処理するための方法であって、請求項1~のうちいずれか一項に記載のコーティング組成物を外部から塗布することで前記金属製品をコーティングして外部保護層を得ることによって前記金属製品を酸化から保護することと、その後、コーティングされた金属製品を加熱に供することと、を含む、方法。
【請求項13】
加熱炉(105)を備えた、金属製品用の熱間生産ライン(100)であって、前記熱間生産ライン(100)は、前記金属製品を熱酸化から保護する装置(10)を備えており、前記装置(10)は、前記加熱炉(105)の上流に、請求項1~のうちいずれか一項に記載のコーティング組成物を前記金属製品の表面上に塗布するように構成された塗布ステーション(11)を備え、前記加熱炉(105)の下流に、前記コーティング組成物によって得られた、熱酸化から保護するためのコーティング層(R)を前記金属製品の表面から除去するように構成された除去ステーション(12)を備えていることを特徴とする、熱間生産ライン(100)。
【請求項14】
前記塗布ステーション(11)は、噴霧技術、特にエアレス技術および粉体塗装技術の両方または一方によって前記コーティング組成物を塗布するためのノズルを備えるコーティングユニット(14)と、それぞれ液体形態および粉末形態の両方または一方で前記コーティング組成物を調製するのに適した混合ユニット(15)と、を備えることを特徴とする、請求項1に記載の熱間生産ライン(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に記載されている実施形態は、金属製品を熱酸化から保護するためのコーティング組成物に関する。さらに、本発明は、金属製品、例えば鋳造金属製品または冷えた保管場所から来るものを熱酸化から保護する方法と、本明細書に記載されているかまたは本方法によって得られるコーティング組成物によってコーティングされた金属製品に関する。特に、コーティング組成物および関連する方法は、金属製品が加熱およびより複雑な熱処理または加熱もしくはより複雑な熱処理に供される前に、金属製品を酸化から保護するために使用される。
【背景技術】
【0002】
金属製品、特に例えばスラブやブルームなどの大きな表面を持つ製品や、例えばビレットなどの長尺製品を製造および加工するための鉄鋼プロセスでは、しばしばその外部表面に酸化およびスケール形成という現象が発生し、その結果、販売することのできる材料が失われてしまう。
【0003】
スケールは、特に、製品の表面に酸化物、特に酸化鉄が形成されることに関連し、したがって表面の酸化反応に関連している。
表面スケールの形成は、製鉄所の生産歩留まりに大きな影響を与える非常に重大な問題である。
【0004】
実際、工程終了時の最終製品の質量における金属の重量損失は、最初に鋳造および装入または鋳造もしくは装入された質量の総重量に対して、約2~3%になり得ると推定されている。
【0005】
また、これらの損失の約0.2%は鋳造領域で、0.8%は加熱炉領域で、0.7~1%は圧延工程で、0.6~0.8%は熱処理および貯蔵領域で発生することが判明している。このような規模の損失は、製品の種類および特定の加工方法によって異なるものの、製造業者にとって大きな経済的影響となる。
【0006】
スケールの形成につながる原因としては、例えば、一般に空気と接触して行われる数多くの加工工程や、金属製品が受ける温度を上昇させたり低下させたりする熱サイクルが考えられる。
【0007】
例えば、上述したように鉄鋼プロセスの初期または中間の加工工程でスケールの形成が発生すると、下流で行われる加工作業に支障をきたし、最終製品の質量および価値が、加工されたものに比べて減少する。
【0008】
この意味において特に重要な加工工程は、例えば加熱炉での熱処理であり、この処理は、金属製品をその後の加工に最適な熱レベルにする、鋳造金属製品を特定の温度にするかまたは維持する、熱プロファイルを均一にする、または、周囲温度または所望の温度より低い温度に保たれた外部保管場所から来る製品を加熱する機能を有する。
【0009】
実際、特定の工程、例えば熱間圧延では、金属製品に表面スケールが存在すると、スケールがローラーによって金属製品の内側に向かって押されて金属製品の表面に取り込まれたままとなり、最終製品の品質を損なう表面の凹凸につながるため、製品の表面を損傷することがある。
【0010】
したがってスケールが形成されると、金属製品が大量に失われるため経済的に不利になるだけでなく、工程終了時にスケールの破片が製品に付着したままとなるため、製品の品質が劣化する。
【0011】
このスケールの存在は、前述のデメリットに加えて、スケールの破片が機械の間隙、例えばベアリングまたは他の回転部材に入り込むことがあり、メンテナンスを困難にし、ラインの要素の耐用年数を低下させる一因となるため、プラントエンジニアリングの観点からも問題がある。
【0012】
さらに、この破片が圧延ローラーの表面に付着したままであると、多くの種類の金属圧延製品の表面に痕跡を残し、品質を損なうことがある。
製品の表面からスケールを少なくとも部分的に除去するための1つの公知の方法は、例えばウォータージェットを用いて圧延前に行われる、いわゆるスケール除去作業である。
【0013】
しかしながら、スケール除去は、製品の通過領域およびスケール除去領域の両方において洗浄作業を伴い、これは、除去したスケールとスケール除去水との分離も要する。
さらに、現在使用されているスケール除去システムでは、製品の表面からスケールを完全には除去できないことが多い。
【0014】
理想的には、スケールが何の損傷もなく金属製品にしっかりと付着しているならば、例えば製品が受ける熱処理中に製品を保護するように作用する可能性がある。しかしながら現実には、工場の稼働中にスケールの損傷が避けられないため、通常ではこのような状況は発生しない。
【0015】
スケールは主として酸化物から構成されているため、スケールが生じる金属製品とは機械的特性が大きく異なり、特に、より損傷しやすく、より弾力性が低い。
スケールが破壊されると、金属製品への空気、湿度、酸化剤の侵入が促進され、これらは最も露出した金属層および酸化物と反応し、第1鉄および第2鉄の両方または一方などのさらなる酸化物の形成を促進する。
【0016】
これらの酸化物は体積を増やし、スケールの剥離を引き起こし、結果として製品の表面と酸化剤との接触による酸化作用を増大させる。
別の欠点は、酸化剤が、金属製品中に存在する可能性のある炭素と反応することがあり、金属製品の表面層の組成および含有量を変化させ得る表面脱炭という現象を発生させることである。
【0017】
最新技術では、金属製品と外部環境との間にバリアを形成する目的で、製品の表面を混合酸化物の層でコーティングすることによって、スケールの形成を防止または抑制する方法が知られている。
【0018】
このタイプの例は、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4で報告されている。
しかしながら、酸化物の利用に基づくこれらの技術にはいくつかの欠点がある。
【0019】
第一の欠点は、例えば加熱炉での熱処理中に、金属製品に存在する材料の異なる層、例えば金属層、酸化鉄層、およびコーティング酸化物層が異なる熱膨張係数を有することがあり、これにより材料の内部応力が増大し、分子レベルで構造に張力が生じることである。
【0020】
このような張力によって亀裂が生じ、そこで製品と酸化剤との接触が再び起こり、新たな酸化プロセスがトリガーされることがある。
別の欠点は、高温(700℃超)では酸素イオンが表層を通じて拡散することがあり、外側に向かう鉄イオンの相互拡散が生じることである。
【0021】
この拡散効果により酸化反応が起こり、これによってスケールが形成され、製品から質量が差し引かれる。
非特許文献1の論文も知られている。この論文は、金属基材の酸化に対する保護のためのセラミック複合コーティングを製造するためのプレセラミックポリマーおよび膨張剤について記載している。
【0022】
したがって、最新技術の欠点の少なくとも1つを克服するか、または少なくとも抑制することができる、金属製品の酸化による製品の損失を防止する組成物および方法を完成させる必要性が存在する。
【0023】
特に、本発明の1つの目的は、金属製品を製造するための鉄鋼プロセスの効率を高め、特にスケール形成の現象に関連する、それらの廃棄物および関連コストを削減することである。
【0024】
したがって、本発明の目的は、熱処理中に発生する酸化現象から金属製品を保護するための、鋳造したばかりの製品にも高温または周囲温度における外部の保管場所から来る製品にも容易に使用することができる、組成物および方法を提供することである。
【0025】
特に、本発明の目的は、加熱領域での酸化を少なくとも30%、好ましくは60%超低減することである。
本発明の別の目的は、スケールによる金属製品の損失が伴うコストとの関係でも、組成物および本方法の実施が経済的に持続可能であることである。
【0026】
本発明の別の目的は、特に、熱処理に続く加工工程中のスケールの存在に関連する表面欠陥を排除するかまたは少なくとも低減することによって、鉄鋼製造工程から得る、および得られる金属製品の品質を向上させることである。
【0027】
本発明の別の目的は、例えば加熱炉で行われるサイクルなどの著しい温度変化を含む熱サイクルの存在下でも金属製品の表面を酸化現象から保護することを可能にする組成物を提供することである。
【0028】
本発明の別の目的は、簡単に適用することができ、かつコストを抑えた、金属製品の表面の保護を提供することである。
本発明の別の目的は、必要な場合には例えばウォータージェットによって容易に除去して完全に排除することができるコーティングを得る組成物を提供することである。
【0029】
出願人は、現行技術の欠点を克服するため、かつ、これらのおよび他の目的および利益を達成するために、本発明を考案、試験、および具体化した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0030】
【文献】中国特許出願公開第1935921号明細書
【文献】特許第5171261号公報
【文献】中国特許出願公開第101462859号明細書
【文献】特開平11-222564号公報
【非特許文献】
【0031】
【文献】トリー・ジェシカ D.(Torrey Jessica D.)ら、Composite polymer derived ceramic system for oxidizing environments、Journal Of Materials Science、第41巻、第14号、クルーワー・アカデミック・パブリッシャーズ社(Kluwer Academic Publishers)(2006年7月)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0032】
本発明は、独立請求項にて記載され特徴付けられる一方、従属請求項は、本発明の他の特徴または主発明思想の変形例を記述する。
【課題を解決するための手段】
【0033】
上記の目的に従って、本発明は、金属製品の熱酸化から保護するための、金属製品に外部から塗布されるコーティング組成物に関する。
本発明によれば、コーティング組成物は、少なくとも1種類のセラミック前駆体ポリマーが存在するマトリックスと、元素鉄粉末、元素ケイ素粉末、鉄‐ケイ素粉末、炭化ケイ素粉末、フェロアロイ粉末、またはこれらの組み合わせを含む群から選択される、還元特性を有する第1のフィラーと、を含む。
【0034】
いくつかの実施形態では、コーティング組成物は、第2のフィラーも含む。第2のフィラーは、有利には、ファヤライトの溶融層の形成を対照的に低減させ、したがって、基材の酸化に対する有害な影響について顕著に異なるようにすることができる。金属製品が受ける熱処理の典型的な1100~1300℃の温度範囲において、特にファヤライトなどの低い融点を有する化合物の形成は、以下に詳細に説明するように、基材の酸化にとって有害である。
【0035】
いくつかの実施形態では、第2のフィラーは、フォルステライトの鉱物源を含む。
いくつかの実施形態では、フォルステライトの供給源は、オリビン鉱物を含む。
いくつかの実施形態では、フォルステライトの供給源は、酸化マグネシウムを含む。
【0036】
いくつかの実施形態では、フォルステライトの供給源は、鉱物のオリビンおよび酸化マグネシウムを含む。言い換えれば、第2のフィラーは、有利には、オリビンおよび酸化マグネシウムを含む。
【0037】
第2のフィラーは、その反応性により、一般には1150℃超の温度で生成されるファヤライトの悪影響を低減する。実際、この温度以上ではファヤライトは溶融して液体層を生成し、液体層はイオンの移動性を促進し、したがって酸化を引き起こす。
【0038】
好ましくは、フォルステライトの供給源の使用を提供する実施形態において、フォルステライトはファヤライトとの固溶体を形成することができ、溶融温度を著しく上昇させることができる。
【0039】
有利には、フォルステライトの供給源が酸化マグネシウムを含む実施形態では、酸化マグネシウムは、上記の利点を有するフォルステライトをin situで形成することができる。
【0040】
本明細書によるコーティング組成物は、有利には、熱処理を受ける金属製品に塗布される。
本発明は、金属製品を酸化から保護するためのコーティング組成物の使用にも関する。
【0041】
さらに、本発明は、コーティング組成物を外部から塗布することで金属製品をコーティングして外部保護層を得ることによる、金属製品を酸化から保護する方法にも関する。
さらに、本発明は、金属製品を加熱するための方法であって、
金属製品を加熱する前に、金属製品を酸化に対して保護することと、
金属製品を加熱に供することと、を含む方法にも関する。
【0042】
さらに、本発明は、金属製品を処理に供する方法であって、コーティング組成物を外部から塗布することで金属製品をコーティングして外部保護層を得ることによって金属製品を酸化から保護することと、その後、コーティングされた金属製品を加熱に供することと、を含む方法にも関する。
【0043】
本発明は、コーティング組成物によってコーティングされた金属製品と、コーティング組成物によって金属製品を熱酸化に対して保護するコーティング層を有する金属製品とにも関する。
【0044】
さらに、本発明は、少なくとも1つの加熱炉と、金属製品を熱酸化に対して保護するための装置とを備えた、金属製品用の熱間加工ラインにも関する。
いくつかの実施形態では、上記装置は、加熱炉の上流に、本発明のコーティング組成物を金属製品の表面に塗布するように構成された塗布ステーションを備え、加熱炉の下流に、本発明のコーティング組成物を金属製品の表面から除去するように構成された除去ステーションを備えている。
【0045】
本発明のこれらおよび他の特徴は、添付図面を参照しながら、非限定的な例として与えられるいくつかの実施形態の以下の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】一例として、金属製品に塗布されるコーティング組成物の模式的なモデルを示している。
図2】本発明の実施形態に係る装置を含む、金属製品を加工するためのラインを概略的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0047】
理解を容易にするために、図面において同一の共通要素は、可能な限り同一の参照番号を使用して示されている。ある実施形態の要素および特徴は、さらなる明示的な説明なしに、他の実施形態に都合よく組み込むことができることを理解されたい。
【0048】
以下では、その1つ以上の例が添付の図面に示されている、本発明の様々な実施形態について詳細に説明する。各例は、本発明の説明のために提供されているものであり、本発明を制限するようには理解されないものとする。例えば、ある実施形態の一部であるように示されている、または説明されている特徴を、他の実施形態において、または他の実施形態に関連して採用して、別の実施形態を生み出すことができる。本発明は、そのようなすべての変更および変形を含むものと理解されたい。
【0049】
これらの実施形態を説明する前に明記しておくべき点として、本明細書は、その適用において、添付の図面を用いて以下の説明に記載されている構成要素の構造および配置の詳細に限定されない。本明細書は、他の実施形態を提供することができ、他の様々な方法で取得または実行することができる。また、本明細書において使用されている表現および用語は、説明のみを目的としており、本発明を制限するようにはみなされないことを明記しておく。
【0050】
以下では、材料を意味する「バルク」という用語を使用し、バルクは、物質、運動量、および熱の交換が起こる材料の領域から十分に離れていて、その影響を受けない部分を指す。
【0051】
以下では、化学‐物理的もしくは結晶学的な特性または組成が異なる2つの相または2つの異なる材料の間の分離領域を指す「相間」という用語を使用する。この領域では、例えば、一方の相から他方の相へ、または、ある材料から別の材料への遷移が行われる。
【0052】
本出願人は、広い温度範囲において、酸化環境への曝露に関連する熱酸化現象から金属製品の表面を保護するのに適したコーティング組成物を開発した。特に、コーティング組成物は、金属製品が加熱処理に供される前に、金属製品を酸化から保護するために、金属製品に有利に塗布可能である。対象とする熱酸化現象は、一般には、金属製品が900℃を超える温度、特に例えば加熱およびより複雑な熱処理または加熱もしくはより複雑な熱処理に供されるときに生じる酸化現象である。
【0053】
コーティング組成物の適用性は、コーティング組成物が塗布される材料または製品の形態学的特性によって何ら制限されないため、金属製品は、可変の形状およびサイズとすることができる。
【0054】
本明細書において、「金属製品」という表現は、本質的に金属鉄からなる製品を意味し、場合によっては、例えば、炭素含有量の異なる鋼、特殊鋼、高合金鋼、鋳鉄、または他の種類の金属合金の場合のように、金属製品に所望の特性を与えるのに適した他の元素が存在していてもよい。
【0055】
酸化環境は、少なくとも1種類の酸化剤、または酸化化学種、例えば酸素、二酸化炭素、水、さらには水蒸気の形態を含む任意の液体または空気状の環境(例えば空気)とすることができる。しかしながら、この定義は、例えば窒素、窒素酸化物、硫黄酸化物、一酸化炭素、メタンなどの他の化学種の存在を除外するものではない。
【0056】
酸化環境は、例えば燃料を使用する加熱炉など、鉄鋼産業で使用される加熱炉に関連する環境に典型的な化学種を含むこともできる。
このような場合、酸化環境は、燃焼反応により酸素分率が低く、すでに述べた化学種に加えて、一部または完全に燃焼した燃料に関連する揮発性の化学種、あるいは炭化水素などの未燃燃料の残留物も含み得る。
【0057】
したがって、コーティング組成物は、金属製品上の表面スケールの形成を抑制し、場合によっては排除までする目的で、鉄鋼プロセスにおいて有利に、ただしこれに限定されることなく使用することができる。
【0058】
さらに、コーティング組成物は、表面脱炭の現象から金属製品を保護する。
したがってこのような用途では、金属製品は、加熱処理に供され得るスラブ、ビレット、ブルーム、または任意の他の金属製品またはその一部とすることができる。
【0059】
このような熱処理は、一例として熱間圧延(ただしこれに限定されない)などのその後の加工を意図したものとすることができる。
いくつかの実施形態では、金属製品は、鋳造される可能性、または場合によっては所望の温度より低い温度に維持された外部の保管領域から来る可能性がある。
【0060】
したがってこれらの用途では、コーティング組成物は、酸化環境にさらされる金属製品の表面に塗布される。
したがって、コーティング組成物は、例えば鋳造の下流または矯正加工の近傍の高温の金属製品と、低温の金属製品の両方に塗布することができる。
【0061】
いくつかの実施形態では、本発明のコーティング組成物は、以下に説明するように、マトリックスと、特定の機能を有する無機フィラーとを含むことができる。
いくつかの実施形態では、マトリックスは、フィラーを捕捉してコーティング組成物の凝集力を確保するのに適した、場合によっては均質な相の、材料、または材料の混合物を含むことができる。
【0062】
いくつかの実施形態では、無機フィラーは、マトリックス内部に均質に分散されている。
いくつかの実施形態では、マトリックスは、1種類以上のセラミック前駆体ポリマー、またはセラミック前駆体ポリマーの混合物を含むことができる。
【0063】
セラミック前駆体ポリマーとは、常温では程度の差はあるが高い粘度を有する液体状態、または粉末の形で得られる固体であり、200℃超に加熱すると、化学構造を変化させる化学架橋反応を起こし得る材料を意味する。
【0064】
セラミック前駆体ポリマーの種類および組成、ならびに周囲の環境によっては、さらに温度を上昇させて、例えば400℃~1400℃の範囲内の温度に達すると、架橋反応が強められ、および/またはさらなる反応、例えば分解プロセス、熱劣化、熱分解、または脱離反応がトリガーされて、セラミック材料が形成される。
【0065】
いくつかの実施形態では、可能なセラミック前駆体ポリマーは、シリコン系ポリマーとすることができる。
いくつかの実施形態では、可能なセラミック前駆体ポリマーは、シリコーン樹脂、有機樹脂、シリコーンオイル、シリコーンペースト、または他のシリコン系ポリマー、またはこれらの組み合わせ、を含む群から選択することができる。
【0066】
いくつかの実施形態では、セラミック前駆体ポリマーは、可変タイプの有機官能基(‐R1、‐R2)を結合することができる可変の架橋度を有するSi‐O結合を有するシロキサンポリマー、またはポリシロキサンを含むことができる。
【0067】
これらのシロキサンポリマーは、タイプ‐Si(R1)(R2)‐O‐の単位を含む分子構造を有することができる。
いくつかの実施形態では、セラミック前駆体ポリマーは、可変タイプの有機官能基(‐R1、‐R2、‐R3、R4)を結合することができる可変の架橋度を有するSi‐C結合を有するカルボシランポリマー、またはポリカルボシランを含むことができる。
【0068】
カルボシランポリマーは、タイプ‐Si(R1)(R2)‐C(R3)(R4)‐の単位を含む分子構造を有することができる。
いくつかの実施形態では、セラミック前駆体ポリマーは、可変タイプの有機官能基(‐R1、‐R2、‐R3)を結合することができる可変の架橋度を有するSi‐N結合を有するシラザンポリマー、またはポリシラザンを含むことができる。
【0069】
シラザンポリマーは、タイプ‐Si(R1)(R2)‐N(R3)‐の単位を含む分子構造を有することができる。
いくつかの実施形態では、セラミック前駆体ポリマーは、有機官能基(‐R1、‐R2、‐R3、‐R4)を含む、架橋および直鎖分子構造の両方を有するシリコーン樹脂、シリコーンオイル、および/またはシリコーンペーストを含むこともできる。
【0070】
いくつかの実施形態において、有機官能基(‐R1、‐R2、‐R3、‐R4)は、水素(‐H)、アルキル基、アリール基、アルコキシル基から選択される官能基を含むことができ、場合によっては他の置換基で置換される。
【0071】
可能なアルキル基はメチル基、可能なアリール基はフェニル基、可能なアルコキシル基はメトキシ基とすることができる。
いくつかの実施形態では、セラミック前駆体ポリマーとして、ポリメチルヒドリドシロキサン(PMHS:polymethylhydridosiloxane)、ポリジメチルシロキサン(PDMS:polydimethylsiloxane)、ペルヒドリドシラザン、ポリフェニルシロキサン、またはこれらの組み合わせ、を使用することができる。
【0072】
有利なことに、ケイ素原子に結合した有機官能基(‐R1、‐R2)の少なくとも1つが水素であるセラミック前駆体ポリマー、例えばポリアルキルヒドリドシロキサン、ポリメチルヒドリドシロキサン(PMHS)、ペルヒドリドシラザンなどは、金属製品の熱酸化からの保護を改善するのを助ける還元特性を有することができる。
【0073】
いくつかの実施形態では、マトリックスは、有機‐無機ハイブリッド材料を含むことができる。
いくつかの実施形態において、無機フィラーは、一般には低酸化状態に関連付けることができる還元特性を有する第1の無機フィラー(以下、第1のフィラー)を含むことができる。特に、第1の無機フィラーの還元特性は、本発明によれば、金属製品の金属を保護するように、無機フィラーの犠牲酸化において有利に利用される。
【0074】
いくつかの実施形態では、第1の無機フィラーは、元素鉄粉末(金属鉄とも呼ばれる)、および/または元素ケイ素粉末(場合によっては金属シリコンとも呼ばれる)、フェロシリコン粉末、および/または炭化ケイ素粉末、および/またはフェロアロイ粉末を含むことができる。
【0075】
可能な実施形態では、フェロアロイ粉末は、フェロクロム粉末、フェロモリブデン粉末、フェロマンガン粉末、フェロシリコンマンガン粉末から選択することができる。
可能な実施形態に従って使用される鉄およびケイ素は、金属および低酸化状態または金属もしくは低酸化状態で供給される、または、その化合物が低酸化状態で供給され、還元特性を有する。
【0076】
本明細書において、粉末とは、細かく分割された物質を意味し、可変の大きさを有し、実質的にミクロンオーダーから100μmの間、好ましくはミクロンオーダーから75μmの範囲内の複数の細粒からなる。
【0077】
いくつかの実施形態では、第1のフィラーは、例えば、第1のフィラーの重量に対して50%より高い、好ましくは75%より高い、さらに好ましくは90%より高いシリコンの割合を有するフェロシリコン粉末を含むことができる。
【0078】
他の実施形態では、第1のフィラーは、炭化ケイ素粉末を含むことができる。可能な実装形態では、第1のフィラーは、炭化ケイ素粉末のみからなることができる。
有利なことに、コーティング組成物が金属製品の表面に塗布されているとき、金属成分に関連する化学的特性および低酸化状態または金属成分に関連する化学的特性もしくは低酸化状態により、あらゆる酸化剤が、金属製品の金属鉄を酸化する代わりに、コーティング組成物に含まれる物質を酸化する。
【0079】
したがって犠牲酸化は、酸化剤と接触している第1のフィラーが、金属製品の金属鉄の代わりに酸化され、したがって金属製品を保護することに関する。
コーティング組成物のいくつかの実施形態では、第1のフィラーは、均質な分布状態においてマトリックス中に均一に混合されている。
【0080】
この特性により、使用時、金属製品の表面全体に対する均一な保護およびバリア効果を得ることができる。
いくつかの実施形態では、フィラーは、第2の無機フィラーを含むことができる。
【0081】
有利なことに、第2のフィラーは、ファヤライト、または一般に低い溶融温度を有する化合物の溶融層の形成を対照的に低減させることができ、したがって、基板の酸化に対する有害な効果を打ち消すことができる。
【0082】
コーティング組成物がセラミック前駆体ポリマー、第1のフィラー、および第2のフィラーを含むかまたはそれらからなるいくつかの実施形態では、セラミック前駆体ポリマーと第1のフィラーの重量比は、1.5~4、特に2~3.5とすることができ、セラミック前駆体ポリマーと第2のフィラーの重量比は、0.45~0.9、特に0.5~0.7とすることができる。
【0083】
いくつかの実施形態において、第1のフィラーと第2のフィラーの重量比は、0.1~0.6、特に0.15~0.5、より特に0.15~0.4の範囲内である。
いくつかの実施形態では、第2のフィラーは、1種類以上の鉱物を含むことができ、これらを以下では第2のフィラーとも呼ぶ。
【0084】
いくつかの実施形態では、第2のフィラーは、例えば1100℃~1300℃の範囲内の動作加熱温度よりも高い溶融温度を有する少なくとも1種類の鉱物を含む。
いくつかの実施形態では、第2のフィラー中に存在する1種類以上の鉱物は、ケイ酸塩の鉱物源とすることができる。
【0085】
いくつかの実施形態では、第2のフィラー中に存在する1種類以上の鉱物は、フォルステライトの供給源である1種類以上の鉱物であり得る、またはそれを含む。
いくつかの実施形態では、第2のフィラー中に存在するフォルステライトの供給源として作用する鉱物は、場合によってはオリビンの群に含まれるネソケイ酸塩、またはオルトケイ酸塩とすることができる。
【0086】
いくつかの実施形態では、第2のフィラーは、場合によってはフォルステライトを優勢とするオリビンを含むことができる。
いくつかの実施形態では、第2のフィラーに含まれるオリビンは、50%より高い、好ましくは60%より高い、より好ましくは75%より高い、さらに好ましくは85%より高いフォルステライトの割合を含むことができる。
【0087】
第1のフェロシリコン系フィラーおよび第2のオリビン系フィラーが存在するいくつかの実施形態では、フェロシリコンとオリビンの重量比は、一例として、1より低く、特に0.1~0.9、より特に0.15~0.8、さらにより特に0.2~0.7の範囲内とすることができる。
【0088】
炭化ケイ素粉末に基づく第1のフィラーおよびオリビンを含む第2のフィラーが存在するいくつかの実施形態では、炭化ケイ素とオリビンの重量比は、例えば0.1~0.6、特に0.15~0.5、より特に0.2~0.4、さらにより特に0.2~0.3とすることができる。
【0089】
いくつかの実施形態では、第2のフィラー中に存在するフォルステライトの供給源は、鉱物の酸化マグネシウムとすることができる。酸化マグネシウムは、次の反応に従ってin situでフォルステライトを形成することができる。
【0090】
【数1】
炭化ケイ素粉末に基づく第1のフィラーおよび酸化マグネシウムを含む第2のフィラーが存在するいくつかの実施形態では、炭化ケイ素と酸化マグネシウムの重量比は、例えば0.1~0.6、特に0.15~0.5、より特に0.15~0.4とすることができる。
【0091】
いくつかの実施形態では、第2のフィラーは、酸化マグネシウムのみからなることができる。
別の実施形態では、第2のフィラーは、オリビンおよび酸化マグネシウムの両方を含むことができ、これらはフォルステライトの供給源として有利に作用する。いくつかの実施形態では、第2のフィラーは、オリビンおよび酸化マグネシウムからなる、すなわちオリビンおよび酸化マグネシウムのみを含むことができる。
【0092】
第2のフィラーがオリビンおよび酸化マグネシウムの両方を含むいくつかの実施形態では、オリビンは、重量において酸化マグネシウムよりも多く存在する。
例えば、オリビンと酸化マグネシウムの重量比は、2~8、特に3~7、より特に3.5~6、さらにより特に4~5.5とすることができる。
【0093】
いくつかの実施形態では、コーティング組成物は、マトリックスと相溶性がありマトリックスを可溶化して所望の粘度の組成物を得ることができる、少なくとも1種類の溶媒、または溶媒の混合物も含むことができる。
【0094】
いくつかの実施形態では、溶媒は、迅速な乾燥を確保する高揮発性溶媒とすることができる。
いくつかの実施形態では、有機溶媒、例えばアセトン、芳香族溶媒、エステル、ケトン、またはこれらの組み合わせ、を使用することができる。
【0095】
いくつかの実施形態では、本発明の組成物は、それ自体公知の、増粘、分散、湿潤、消泡、レオロジー改質、および他の効果を有する添加剤も、要件に応じて含むことができる。
【0096】
いくつかの実施形態では、そのような添加剤は、コーティング組成物の全質量に対して5%を超えない重量割合で添加される。
図1は、一例として、コーティング組成物によってコーティングされた製品の金属表面のモデルを模式的に示している。
【0097】
この図では、金属製品のバルクBが模式的に示されており、本例では、上記に定義されているように実質的に金属鉄から構成されている。
例として、金属製品の表面には、酸化環境と接触して成長する酸化物層S、特に鉄酸化物が示されている。
【0098】
酸化物は、可変の鉄含有量および酸化状態を有することができ、異なる結晶相、例えばヘマタイト、マグネタイト、ウスタイトの形で存在することができる。
図1では、酸化物の層Sの上に、本発明のいくつかの実施形態によるコーティング組成物によって得られたコーティング層Rを示している。
【0099】
図1に例として示したように、有利なことに、コーティング層Rは、周囲環境に存在する酸化剤と金属製品のバルクおよび表面領域との間に介在し、保護作用を行うバリア層として作用する。
【0100】
さらに、コーティング層Rに浸透した酸化剤の分子は、金属製品に含まれる鉄および/または他の金属元素および/または炭素ではなく、犠牲酸化によって第1のフィラーと優先的に反応するため、保護作用は化学的にも行われる。
【0101】
さらに、コーティング層Rは、金属製品のバルクBから表面に向かって鉄原子およびイオンが逆拡散することも抑制する。
この作用はさらに、金属製品の酸化プロセスを阻止することに寄与する。
【0102】
いくつかの実施形態では、金属製品が熱処理を受けるとき、温度上昇に続いて、マトリックスがほぼ完全に架橋され、金属製品の表面にセラミック材料が形成される。
特に、セラミック前駆体ポリマーの構造に連結した有機基(‐R1、‐R2、‐R3、‐R4)は、250℃超の温度ですでに縮合または分解することがあり、さらに高い温度、800℃までにおいて熱分解し得る。
【0103】
本明細書において以下では、熱分解という用語は、セラミック前駆体ポリマーが挿入される環境の化学組成、およびセラミック前駆体ポリマーが受ける熱サイクルに応じて、セラミック前駆体ポリマーに発生する一連の変換および化学反応を含む。
【0104】
実際、セラミック前駆体ポリマーが酸化環境の反応性化学種と接触すると、温度によってトリガーされる燃焼反応もしくは部分燃焼反応、または他の類似するプロセスまでもが起こり、これには、金属製品と、金属製品が接触する環境に存在する化学種の両方が関与し得る。説明の便宜上、これらのプロセスは熱分解という用語に含まれる。
【0105】
これらのプロセスは、マトリックスにおける結合、特にSi‐Si、Si‐O、SiO‐SiOC、Si‐C、Si‐Nの形成を促進し、セラミック前駆体ポリマーの鎖を架橋することにつながる。
【0106】
したがってこれらの条件下では、図1に示したコーティング層Rは、セラミック材料を含むことができる。
いくつかの実施形態では、熱処理のサイクルに続いて形成されるセラミック材料は、例えばシリカ(非晶質および結晶性の両方もしくは一方)、シリコンオキシカーボン、グラファイトカーボン、またはこれらの組み合わせ、を含むことができる。
【0107】
結晶性シリカ相は、例えば、石英およびクリストバライトの両方または一方を含むことができる。
一般に、セラミックコーティングは、非晶相または結晶相のケイ酸塩を含むことができる。
【0108】
したがって、上記のメカニズムおよび他のメカニズムまたは上記のメカニズムもしくは他のメカニズムが、マトリックスの質量減少と体積収縮とにつながる。
無機フィラーの存在により、この挙動を補うことができ、コーティング組成物に機械的安定性を与える。
【0109】
本出願人は、この目的を達成するための、フィラーの合計に対するマトリックスの有効重量は、20重量%~50重量%の範囲内、好ましくは25重量%~33重量%の範囲内とすることができることを確認した。
【0110】
さらに本出願人は、マトリックスの架橋後、コーティング層Rの平均厚さが5~100μm、特に20μm~60μm、好ましくは30μm~50μmの範囲内であると有効な保護効果が得られることを確認した。
【0111】
本出願人が発見した別の効果は、金属製品が受ける熱処理の典型的な1100~1300℃の温度範囲において、ケイ素化合物(例えばケイ酸塩を含む)、鉄および鉄酸化物(例えばウスタイト(FeO))の両方または一方が化学的に反応して低融点の化合物(例えばファヤライトなど)を形成し、当該化合物が、炉の作業条件下でそれらの相の一部において溶け得ることである。
【0112】
金属製品と表面層との間の相間ゾーンに液相または粘性相が存在すると、表面に向かう鉄イオンの拡散が促進され、したがって酸化プロセスが促進される。したがって、特にファヤライトなどの低融点の化合物の形成は、基材の酸化にとって有害である。
【0113】
第2のフィラーが、本明細書で報告されている高い割合のフォルステライトを含むことができることにより、相間ゾーンにおける液相または粘性相の形成を低減し、金属製品を酸化現象からさらに保護することが可能になる。この有利な態様は、第2のフィラーが、オリビンに加えて、いくつかの実施形態を参照して上述したように酸化マグネシウムも含む場合に、さらに増大する。
【0114】
別の特有の効果は、本出願人が開発したコーティング組成物によって得られるコーティング層Rは、金属製品の熱膨張係数に近い熱膨張係数を有することである。
この特性は、高温での熱処理サイクルによる膨張効果に続いて、コーティング層Rが金属製品に内部応力を生じさせ、分子レベルで構造に張力を生じさせ、場合によってはコーティング層Rの剥離または亀裂につながり得るという最新技術の欠点の1つを抑制することを可能にする。
【0115】
さらに、本発明は、前述したコーティング組成物によってコーティングされた金属製品、または本明細書で述べたようなコーティング組成物によって得られる、熱酸化に対して保護するためのコーティング層Rを有する金属製品にも関する。
【0116】
さらに、本発明は、コーティング組成物を外部から塗布することで金属製品をコーティングして外部保護層を得ることによる、金属製品を酸化から保護する方法にも関する。
この方法は、長尺製品やスラブなど、加熱される金属製品を酸化から保護するために有利に、ただしこれに限定されることなく使用することができる。
【0117】
本発明は、金属製品を処理する方法、すなわち、金属製品を処理に供する方法にも関する。
この処理方法は、コーティング組成物を外部から塗布することで金属製品をコーティングして外部保護層を得ることによって金属製品を酸化から保護することと、その後、コーティングされた金属製品を加熱に供することと、を含む。
【0118】
有利なことに、この方法の下流では、例えば圧延もしくは鍛造などの様々な加工作業、または、冷却後に輸送および貯蔵の両方もしくは一方を行うことができる。
本方法は、特に、加熱炉を用いて実施され得る熱サイクルに起因する表面スケールの形成および表面脱炭反応または表面スケールの形成もしくは表面脱炭反応を、完全には排除できないまでも、抑制することができる。
【0119】
いくつかの実施形態では、処理方法は、金属製品加熱後の、金属製品の表面からのコーティング層Rの除去も提供することができる。
特に、本発明の処理方法は、
金属製品を供給することと、
本発明のコーティング組成物を利用可能にすることと、
金属製品の表面を本発明のコーティング組成物でコーティングすることと、
金属製品を加熱に供することと、
金属製品の表面からコーティング組成物を除去することと、を含むことができる。
【0120】
有利なことに、本方法によって処理された金属製品をその後の加工工程、例えば圧延に供すると、表面スケールの存在および表面脱炭の酸化プロセスが大幅に減少するため、最終製品の品質が向上する。
【0121】
いくつかの実施形態では、金属製品の供給は、金属製品の鋳造、または適切な貯蔵領域からの冷えた金属製品の供給を提供することができる。
特に、金属製品は、例えば保管倉庫に保管されている、加工に適した温度に達するように加熱する必要のあるプレカット製品とすることができる。
【0122】
いくつかの実施形態では、コーティングされる前に、表面に存在するスケール、特に脆弱なスケールを少なくとも部分的に除去する目的で、金属製品をスケール除去に供することができる。
【0123】
この動作は、(場合によっては高圧での)水または空気の噴射、またはブラシなどの機械的手段、またはこれらの動作の組み合わせによって行うことができる。スケール除去環境は、不活性であってもなくてもよい。
【0124】
いくつかの実施形態では、スケール除去は、金属製品の温度を過度に下げないような方法で行われる。
さらに、ウォータージェットを使用するときには、金属製品の表面に残留水が残らないように、ジェットの向きなどを設定することができる。
【0125】
金属製品がスケール除去工程に到着したときに高温であるいくつかの実施形態では、熱は、生じる可能性のある水分の痕跡の除去に寄与することができる。
いくつかの実施形態では、任意選択で、スケール除去に続く金属製品の乾燥工程も提供することができる。
【0126】
いくつかの実施形態では、コーティング組成物を利用可能にすることは、工場内、例えば圧延ラインおよび加熱炉の両方または一方に沿ってまたはその近くでのコーティング組成物調製を伴うことができる。調製は、必要であれば、使用する直前に行うことができる。
【0127】
他の実施形態では、コーティング組成物を利用可能にすることは、特定の量のコーティング組成物が、場合によっては使用される場所以外の場所で、後の使用のために事前に調製され、保管され、使用場所に搬送されることを提供することができる。
【0128】
いくつかの実施形態では、金属製品のコーティングは、噴霧技術によるコーティング組成物の塗布を提供することができる。
いくつかの実施形態では、噴霧技術は、ネブライゼーション、スプレー、コールドスプレー、エアレス技術に基づくことができる。
【0129】
特に、エアレススプレー技術は、コーティング組成物を空気圧システムで加圧してノズルによって金属製品に噴霧することを提供することができる。
いくつかの実施形態では、空気圧システムは、コーティング組成物を12MPa(120bar)を超える圧力にすることができ、ノズルは、金属製品上の堆積物の均一性および品質を向上させるために、コーティング組成物の出て行く流れをネブライズ、またはアトマイズすることができる。
【0130】
エアレススプレー技術は、オーバースプレー、すなわち金属製品の表面に付着しないコーティング組成物の割合、を減らすことに関連する利点を有する。
噴霧技術による塗布に適した形態のコーティング組成物の調製は、以下のステップ、すなわち、
制御された粒径を得る目的で、フィラーを粉砕してふるい分けするステップと、
フィラー、マトリックス、溶媒、および可能な添加剤の重量を測定するステップと、
均質な組成物を得る目的で、フィラー、マトリックス、溶媒、または溶媒の混合物、および可能な添加剤を混合するステップと、を提供することができる。
【0131】
これらの実施形態では、コーティング組成物は、液体形態とすることができ、溶媒、または溶媒の混合物も含み、フィラーは、マトリックス中に均質に分散および分布させることができる。
【0132】
これらの実施形態では、第1のフィラーは、ミクロンオーダーの直径、場合によっては20μm未満の粒径を有することができ、第2のフィラーは、100μm未満、特に60μm未満の粒径を有することができる。
【0133】
代替実施形態では、金属製品のコーティングは、粉体塗装技術によるコーティング組成物の塗布を提供することができる。
この場合のコーティング組成物は、固体粉末の形態とすることができ、溶媒を提供しない。
【0134】
粉体塗装技術による塗布に適した形態のコーティング組成物の調製は、以下のステップ、すなわち、
材料、特にマトリックスにおいてフィラーを混合するステップと、
押し出すステップと、
粒化するステップと、
粉砕するステップと、
ふるい分けするステップと、を提供することができる。
【0135】
これらの実施形態は、コーティング組成物の成分(フィラーおよびマトリックス)が、5~60μm、有利には20~30μmの範囲の粒径で粉砕されることを有利に提供することができる。
【0136】
いくつかの実施形態では、コーティングは、コーティング組成物の粉末を静電的に帯電させることができるピストルの使用を提供することができる。静電的な帯電によって、コーティング組成物と金属製品の接着が促される。
【0137】
粉体塗装によるコーティング組成物の塗布は、有利なことに、有機溶媒の使用および取り扱いに関するコストおよび他の不利な点を排除することを可能にする。
さらに、本出願人は、粉体塗装技術により、液体スプレーシステムと比較して、使用するコーティング組成物に関して、実際に堆積するコーティング組成物の高い歩留まりを得ることができることを確認した。
【0138】
また、コーティング組成物を粉体塗装によって塗布することは、コーティング組成物を高温の金属製品に、例えば鋳造領域や矯正領域において塗布する場合に特に有利である。
いくつかの実施形態では、金属製品のコーティングは、余分なコーティング組成物の少なくとも部分的な回収と、場合によっては再利用も提供することができる。
【0139】
いくつかの実施形態では、金属製品のコーティングは、場合によってはスプレーダストや蒸気が環境に放出されるのを避けるための吸引システムを備えている、閉じたトンネル内で行うことができる。
【0140】
いくつかの実施形態では、金属製品の加熱は、最終的に金属製品の全容積において均質な温度プロファイルを得るために、例えば対流ステップ(予熱)、放射による加熱ステップ(加熱)、および熱浴ステップ(浸漬)等の複数の熱処理サイクルを提供することができる。
【0141】
いくつかの実施形態では、温度ステップは、例えば加熱炉で設定される温度ランプと関連付けることができる。
加工温度、特に温度ランプの温度上昇プロファイルに応じて、コーティング組成物は異なる変質を受けることができる。
【0142】
例えば、20℃~80℃、好ましくは40℃~60℃の温度範囲では、コーティングマトリックスの軟化が起こることがあり、さらにはガラス転移が起こり得る。
さらに、160℃~240℃、好ましくは180℃~220℃の温度範囲において、マトリックスの架橋が起こるかまたはトリガーされ得る。
【0143】
いくつかの実施形態では、加熱炉の後、金属製品の表面からのコーティング組成物の除去は、ウォータージェットを使用することと、スケール除去に類似する方法によって実施することと、の両方または一方を提供することができる。
【0144】
図2に記載された実施形態を参照すると、本発明は、金属製品の熱間加工のためのライン100にも関係し、ライン100は、加熱およびその後の熱間圧延に供される金属製品を熱酸化から保護するための装置10を備えている。
【0145】
いくつかの実施形態では、装置10は、運転および保守コストが、スケールの存在によって引き起こされる金属材料の損失によるコストを超えないように設計および製造することができる。
【0146】
一例として、装置10は、場合によっては鋳造機101または貯蔵倉庫102の下流において、ライン100に設置することができる。
一例として、図2に示したライン100は、切断装置103、粗加工装置104、加熱炉105、圧延装置106または圧延トレイン、および冷却装置107も備えることができる。
【0147】
いくつかの実施形態では、ライン100は、実質的に連続モード、例えば、一般的に「エンドレス」と呼ばれるモードでの動作に適することができ、このモードでは、(この場合は連続鋳造に適している)鋳造機101と、圧延装置106とによって、金属製品が連続的に途切れることなく鋳造および圧延される。
【0148】
代替実施形態では、ライン100は、例えば、特定のサイズの金属製品が貯蔵倉庫102からライン100に装填された後に圧延されることを提供することによって、実質的に不連続モードでの動作に適することができる。
【0149】
不連続モードで動作する他の実施形態は、金属製品が鋳造機101によって鋳造された後に例えば剪断機として構成された切断装置103によって所望の長さに切断されることを提供することができる。
【0150】
いくつかの実施形態において、本発明の装置10は、コーティング組成物をそれぞれ塗布および除去するための塗布ステーション11および除去ステーション12を備えることができ、これらは場合によっては加熱炉105のすぐ上流およびすぐ下流に位置する。
【0151】
いくつかの実施形態では、塗布ステーション11は、(場合によっては高圧の)水または空気を噴射するためのノズルが設けられたスケール除去ユニット12を備えている。
いくつかの実施形態では、塗布ステーション11は、(場合によっては高温かつ高圧の)空気ジェットを噴射するためのノズルが設けられた乾燥ユニット13も備えることができる。
【0152】
塗布ステーション11は、加工されている金属製品の表面にコーティング組成物を塗布するのに適したコーティングユニット14も提供する。
コーティングユニット14は、場合によっては、本発明のコーティング組成物を、特に、例えば噴霧および粉体塗装技術または噴霧もしくは粉体塗装技術による塗布に適した形態で調製するのに適した混合ユニット15に接続することができる。
【0153】
したがって、コーティングユニット14は、例えば噴霧および粉体塗装技術または噴霧もしくは粉体塗装技術によってコーティング組成物を塗布するためのノズルまたはピストル、または他の適切な装置を備えることができる。
【0154】
ノズルまたはピストルは、適切な移動アームに取り付けることができ、移動アームは、予め決められたコーティングパターンで動くことができる、および/またはオペレータが遠隔で動かすことができる、および/またはロボットである、または適切な制御プログラムによって自動的に動くことができる。
【0155】
コーティングユニット14は、金属製品の表面が均一にコーティングされていることを確認するのに適した光学装置も含むことができる。
光学装置は、例えば、コーティングユニット14の壁面に、または移動アームにも取り付けられたビデオカメラを備えることができる。
【0156】
光学装置は、例えば、コーティング組成物の存在に関連付けられる金属製品の表面の温度差を検出することができる赤外線センサを備えることができる。
いくつかの実施形態では、コーティングユニット14は、場合によってはスプレーダストや蒸気が環境に放出されることを避けるための吸引システムを備えている、閉じたトンネルとして構成することができる。
【0157】
さらに実施形態は、金属製品上に堆積されない余分なコーティング組成物をリサイクルするための適切な手段をコーティングユニット14が備えられること、を提供する。
いくつかの実施形態では、除去ステーション12は、加熱炉105からの出口でコーティング組成物を除去するためのスケール除去ユニットと、除去されたコーティング組成物を少なくとも部分的に回収するのに適した装置と、の両方または一方を提供することができる。
【0158】
いくつかの実施形態では、除去ステーション12は、回収されたコーティング組成物を混合ユニット15に送るのに適することができる。
いくつかの実施形態では、加熱炉105を使用して、金属製品の表面にコーティング層Rを形成し、加熱によってコーティング組成物のマトリックスの架橋をトリガーすることができる。
【0159】
図2に模式的に示したように、加熱炉からの出口において、コーティングされた金属製品を、他の場所に輸送し、他の場所で販売し、または別の工場で加工するために、冷却後に輸送手段108に直接送ることができる。
【0160】
これらの実施形態では、コーティング組成物または得られたコーティング層Rは、除去ステーション12から除去されない。
明らかに、本発明の分野および範囲から逸脱することなく、ここまでに説明した本発明に対して、部品またはステップの変更および追加または変更もしくは追加を行うことができる。
【0161】
また、本発明はいくつかの具体例を参照しながら説明されているが、当業者であれば、特許請求の範囲に記載されている特性を有し、したがって特許請求の範囲によって定義される保護分野の中にすべてが入る、多くの他の同等の形態のコーティング組成物を確実に実現できるであろうことが明らかである。
【0162】
以下の請求項では、括弧付きの引用の目的は、読み易さを重視するためのみであり、具体的な請求項に主張される保護分野に関して、制限要素として考えられてはならない。
図1
図2