(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】エンドミル
(51)【国際特許分類】
B23C 5/10 20060101AFI20240423BHJP
【FI】
B23C5/10 Z
(21)【出願番号】P 2022565013
(86)(22)【出願日】2020-11-30
(86)【国際出願番号】 JP2020044553
(87)【国際公開番号】W WO2022113360
(87)【国際公開日】2022-06-02
【審査請求日】2023-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000103367
【氏名又は名称】オーエスジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】請井 重俊
(72)【発明者】
【氏名】磯部 全孝
【審査官】荻野 豪治
(56)【参考文献】
【文献】実開平3-107120(JP,U)
【文献】特開平6-246525(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/297864(US,A1)
【文献】国際公開第2019/49252(WO,A1)
【文献】特開昭54-119198(JP,A)
【文献】特開昭61-142009(JP,A)
【文献】特開2015-467(JP,A)
【文献】特開2013-22657(JP,A)
【文献】特開昭63-47007(JP,A)
【文献】国際公開第2009/122937(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の外周切れ刃を有するエンドミルにおいて、
前記外周切れ刃として、右ねじれの右ねじれ刃と、左ねじれの左ねじれ刃と、ねじれ方向が途中で左右逆転しているとともに、軸心まわりに展開した展開図において円弧状乃至は弓状に湾曲した湾曲形状を成しており、且つ該湾曲形状の凹側に切れ刃が設けられている湾曲刃と、の3種類の切れ刃を備えており、
隣り合う外周切れ刃は異なる種類の切れ刃で構成されている
ことを特徴とするエンドミル。
【請求項2】
前記右ねじれ刃のねじれ角は1°~15°の範囲内で、
前記左ねじれ刃のねじれ角は1°~15°の範囲内である
ことを特徴とする請求項1に記載のエンドミル。
【請求項3】
前記複数枚の外周切れ刃は、普通刃、ニック刃、およびラフィング刃の中の何れか1種類で構成されている
ことを特徴とする請求項1または2に記載のエンドミル。
【請求項4】
前記外周切れ刃が周方向に等分割となる等分割位置が、該外周切れ刃をそれぞれ一定ねじれ角、一定曲率で工具軸方向へ延長したと仮定して、工具軸方向において該外周切れ刃の底刃側端部から更に先端側へ刃長の1/4離れた位置から、該外周切れ刃のシャンク側端部から更にシャンク側へ刃長の1/4離れた位置までの間の範囲内に存在する
ことを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載のエンドミル。
【請求項5】
前記右ねじれ刃のねじれ角と前記左ねじれ刃のねじれ角との角度差は±5°以内である
ことを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載のエンドミル。
【請求項6】
前記外周切れ刃に連続して工具先端に設けられた複数の底刃の中、少なくとも1枚は工具軸心付近に達する中心刃を備えている
ことを特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載のエンドミル。
【請求項7】
前記外周切れ刃の刃数は3枚以上、6枚以下である
ことを特徴とする請求項1~6の何れか1項に記載のエンドミル。
【請求項8】
前記外周切れ刃が設けられた刃部の表面がダイヤモンド被膜で被覆されている
ことを特徴とする請求項1~7の何れか1項に記載のエンドミル。
【請求項9】
前記エンドミルは超硬合金にて構成されている
ことを特徴とする請求項1~8の何れか1項に記載のエンドミル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエンドミルに係り、特に、防振性能およびバリやデラミネーションの抑制に有効な新たな技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
CFRP(炭素繊維強化プラスチック)やCFRTP(炭素繊維強化熱可塑性プラスチック)といった炭素繊維強化材料は、バリやデラミネーション(以下、バリ等という。)が発生し易いという問題がある。これに対し、ねじれ方向が逆向きの2種類の外周切れ刃を工具軸方向に隣接して設けた交互ねじれ刃の所謂ヘリングボーン形状のエンドミルが提案されている(特許文献1参照)。このヘリングボーン形状のエンドミルによれば、ワーク(被削材)の上下両側の表面に対して何れも外周切れ刃が鋭角で切り込むようにすることが可能で、バリ等の発生が抑制される。また、外周切れ刃として、右ねじれの右ねじれ刃と左ねじれの左ねじれ刃とを周方向に交互に配置したエンドミルも提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-22657号公報
【文献】WO2009/122937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のエンドミルの場合、ねじれ方向が逆向きの2種類の外周切れ刃の重複部分の形状が複雑で切りくずが滞留し易く、加工条件が制約される可能性がある。右ねじれ刃と左ねじれ刃とを周方向に交互に配置した特許文献2では、各ねじれ刃において、ワークの表面に対して外周切れ刃が鈍角で切り込む部位が存在するため、バリ等の抑制効果が十分に得られないとともに、右ねじれ刃および左ねじれ刃によりワークの板厚方向において逆向きの力が作用するためビビリ振動が発生し易いという問題があった。
【0005】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、防振性能およびバリ等の抑制に有効な新たなエンドミルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために、第1発明は、複数枚の外周切れ刃を有するエンドミルにおいて、(a) 前記外周切れ刃として、右ねじれの右ねじれ刃と、左ねじれの左ねじれ刃と、ねじれ方向が途中で左右逆転しているとともに、軸心まわりに展開した展開図において円弧状乃至は弓状に湾曲した湾曲形状を成しており、且つその湾曲形状の凹側に切れ刃が設けられている湾曲刃と、の3種類の切れ刃を備えており、(b) 隣り合う外周切れ刃は異なる種類の切れ刃で構成されていることを特徴とする。
【0007】
第2発明は、第1発明のエンドミルにおいて、(a) 前記右ねじれ刃のねじれ角は1°~15°の範囲内で、(b) 前記左ねじれ刃のねじれ角は1°~15°の範囲内であることを特徴とする。なお、ねじれ角は、右ねじれか左ねじれかに関係なく共に正で、工具軸心と平行な方向に対する切れ刃の傾斜角度の大きさを表している。
【0008】
第3発明は、第1発明または第2発明のエンドミルにおいて、前記複数枚の外周切れ刃は、普通刃、ニック刃、およびラフィング刃の中の何れか1種類で構成されていることを特徴とする。なお、普通刃は、ニック(溝)やラフィング(波形)が無い一定外径寸法の滑らかな通常の切れ刃である。
【0009】
第4発明は、第1発明~第3発明の何れかのエンドミルにおいて、前記外周切れ刃が周方向に等分割となる等分割位置が、その外周切れ刃をそれぞれ一定ねじれ角、一定曲率で工具軸方向へ延長したと仮定して、工具軸方向においてその外周切れ刃の底刃側端部から更に先端側へ刃長の1/4離れた位置から、その外周切れ刃のシャンク側端部から更にシャンク側へ刃長の1/4離れた位置までの間の範囲内に存在することを特徴とする。
【0010】
第5発明は、第1発明~第4発明の何れかのエンドミルにおいて、前記右ねじれ刃のねじれ角と前記左ねじれ刃のねじれ角との角度差は±5°以内であることを特徴とする。
【0011】
第6発明は、第1発明~第5発明の何れかのエンドミルにおいて、前記外周切れ刃に連続して工具先端に設けられた複数の底刃の中、少なくとも1枚は工具軸心付近に達する中心刃を備えていることを特徴とする。
【0012】
第7発明は、第1発明~第6発明の何れかのエンドミルにおいて、前記外周切れ刃の刃数は3枚以上、6枚以下であることを特徴とする。
【0013】
第8発明は、第1発明~第7発明の何れかのエンドミルにおいて、前記外周切れ刃が設けられた刃部の表面がダイヤモンド被膜で被覆されていることを特徴とする。
【0014】
第9発明は、第1発明~第8発明の何れかのエンドミルにおいて、前記エンドミルは超硬合金にて構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
このようなエンドミルにおいては、外周切れ刃として右ねじれ刃、左ねじれ刃、および湾曲刃の3種類の切れ刃を備えているとともに、隣り合う外周切れ刃は異なる種類の切れ刃で構成されているため、隣り合う外周切れ刃の間隔が不等間隔で且つ軸方向において連続的に変化しているとともに切削力の向きも異なることから、共振が抑制されて防振効果が適切に得られる。また、湾曲刃が設けられたことで、右ねじれ刃および左ねじれ刃だけの場合に比較してバリ等の発生が一層適切に抑制されるとともに、湾曲形状の内向きに切削力が作用することでワークの板厚方向のビビリ振動が抑制される。また、湾曲刃は滑らかな湾曲形状を成しているため、ヘリングボーン形状に比較して切りくずの滞留が抑制され、加工条件の制約等が緩和される。
【0016】
第2発明は、右ねじれ刃のねじれ角が1°~15°の範囲内で、左ねじれ刃のねじれ角が1°~15°の範囲内であるため、防振効果や、バリ等の抑制効果、ビビリ振動の抑制効果が適切に得られる。すなわち、ねじれ角が大きくなると、バリ等が発生し易くなるとともにビビリ振動が大きくなるため、円弧刃の存在に拘らず適切に抑制することが難しくなる。
【0017】
第3発明は、複数枚の外周切れ刃が普通刃、ニック刃、およびラフィング刃の何れか1種類で構成されている場合で、仕上げ用、中仕上げ用、荒取り用等の用途や、ワークの材質等に応じて、所定の切れ刃形状のエンドミルを採用することができる。
【0018】
第4発明は、外周切れ刃が周方向に等分割となる等分割位置が、工具軸方向において外周切れ刃の底刃側端部から先端側へ刃長の1/4離れた位置から、外周切れ刃のシャンク側端部からシャンク側へ刃長の1/4離れた位置までの範囲内に存在する場合で、その範囲外の場合に比較して優れた加工面粗さが得られる。
【0019】
第5発明は、右ねじれ刃のねじれ角と左ねじれ刃のねじれ角との角度差が±5°以内の場合で、角度差が±5°を超える場合に比較して逃げ面摩耗幅が小さくなり、不等分割による防振効果や湾曲刃によるバリ等の抑制効果を得ながら工具寿命を確保できる。
【0020】
第6発明は、外周切れ刃に連続して工具先端に設けられた複数の底刃の中、少なくとも1枚は工具軸心付近に達する中心刃を備えている場合で、突き加工が可能となり、工具の汎用性が高くなる。
【0021】
第7発明では、外周切れ刃の刃数が3枚以上、6枚以下であるため、外周切れ刃として右ねじれ刃、左ねじれ刃、および湾曲刃の3種類の切れ刃が設けられる本発明が好適に適用される。
【0022】
第8発明では、外周切れ刃が設けられた刃部の表面がダイヤモンド被膜で被覆されているため、優れた切削耐久性が得られる。
【0023】
第9発明では、エンドミルが超硬合金にて構成されているため、優れた切削耐久性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の一実施例であるエンドミルを示した斜視図である。
【
図2】
図1のエンドミルが備えている3枚の外周切れ刃の形状を説明する図である。
【
図3】
図2の湾曲刃の湾曲形状を説明する図である。
【
図4】湾曲刃の湾曲形状の種々の態様を例示した写真である。
【
図5】
図3の円弧刃を含む湾曲刃の更に別の態様を例示した図である。
【
図6】3枚刃のエンドミルの円弧刃、右ねじれ刃、および左ねじれ刃の3種類の切れ刃の組合せを例示した図である。
【
図7】4枚刃のエンドミルの円弧刃、右ねじれ刃、および左ねじれ刃の3種類の切れ刃の組合せを例示した図である。
【
図8】5枚刃のエンドミルの円弧刃、右ねじれ刃、および左ねじれ刃の3種類の切れ刃の組合せを例示した図である。
【
図9】6枚刃のエンドミルの円弧刃、右ねじれ刃、および左ねじれ刃の3種類の切れ刃の組合せを例示した図である。
【
図10】エンドミルの外周切れ刃がニック刃またはラフィング刃にて構成されている場合を、普通刃と比較して例示した図である。
【
図11】3枚刃のエンドミルの円弧刃、右ねじれ刃、および左ねじれ刃の3種類の切れ刃の周方向の配置を説明する図である。
【
図12】3枚刃のエンドミルの底刃における中心刃の有無を説明する図である。
【
図13】
図1のエンドミルの3枚の外周切れ刃による切削力の向きおよび大きさと被削材に対する切込み態様を、本発明品と湾曲刃が無い従来品とを比較して説明する図である。
【
図14】ヘリングボーン形状の従来品の被削材に対する位置ずれを説明する図である。
【
図15】切削加工試験を行なう際に用いた5種類の試験品No1~No5の外周切れ刃を説明する図である。
【
図16】切削加工試験で測定する抵抗値の合力を説明する図である。
【
図17】切削加工試験における被削材と工具との位置関係を説明する図である。
【
図18】切削加工試験で測定した抵抗値の合力の振幅を説明する図である。
【
図19】切削加工試験の加工条件を説明する図である。
【
図20】
図19の加工条件で切削加工を行なって測定された抵抗値の合力の振幅と比率を説明する図である。
【
図21】
図20の振幅をグラフにより比較して示した図である。
【
図22】外周切れ刃の形状が異なる3種類の試験品No1~No3を説明する図である。
【
図23】
図22の試験品No1~No3を用いて行なった切削加工試験の加工条件を説明する図である。
【
図24】
図22の試験品No1~No3の切れ刃形状とバリの発生状況に関する試験結果を説明する図である。
【
図25】右ねじれ刃および左ねじれ刃のねじれ角α、βが異なる6種類の試験品No1~No6を説明する図である。
【
図26】
図25の試験品No1~No6を用いて行なった切削加工試験の加工条件を説明する図である。
【
図27】
図26の加工条件で切削速度を変更しながら切削加工試験を行なって得られた試験結果を説明する図である。
【
図28】
図26の切削加工試験において、試験品No1およびNo2について切削速度400m/minで切削加工を行なった場合の切りくずの写真を例示した図である。
【
図29】3種類の試験品No1~No3を説明する図である。
【
図30】
図29の試験品No1~No3を用いて行なった切削加工試験の加工条件を説明する図である。
【
図31】
図30の加工条件で切削加工試験を行なって得られた試験結果を説明する図で、抵抗値の合力の振動波形や、その合力の最大値および振幅、それ等の比率、バリの写真を比較して示した図である。
【
図32】外周切れ刃の等分割位置が異なる5種類の試験品No1~No5を説明する図である。
【
図34】
図32の試験品No1~No3を用いて行なった切削加工試験の加工条件を説明する図である。
【
図35】
図34の試験結果を説明する図で、加工面粗さの測定結果を示した図である。
【
図36】
図35の加工面粗さをグラフで比較して示した図である。
【
図37】右ねじれ刃および左ねじれ刃のねじれ角の角度差δが異なる4種類の試験品No1~No4を説明する図である。
【
図38】
図37の4種類の試験品No1~No4の切れ刃形状を具体的に説明する図である。
【
図39】
図37の試験品No1~No4を用いて行なった切削加工試験の加工条件を説明する図である。
【
図40】
図39の加工条件で切削加工試験を行なって得られた試験結果を説明する図で、逃げ面摩耗幅をグラフで比較して示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明のエンドミルは、シャンク側から見て右まわりに回転駆動されて切削加工を行なうものでも、左まわりに回転駆動されて切削加工を行なうものでも良い。シャンク側から見て右まわりに回転駆動されて切削加工を行なう場合、湾曲刃はシャンク側が左ねじれで底刃側が右ねじれとなるように変化する湾曲形状を成すように構成され、シャンク側から見て左まわりに回転駆動されて切削加工を行なう場合、湾曲刃はシャンク側が右ねじれで底刃側が左ねじれとなるように変化する湾曲形状を成すように構成される。エンドミルの刃数は3枚~6枚が広く用いられているが、7枚刃以上のエンドミルにも適用され得る。
【0026】
右ねじれ刃および左ねじれ刃のねじれ角は1°~15°の範囲内が望ましいが、1°より小さいねじれ角や15°を超えるねじれ角とすることも可能である。複数の外周切れ刃が周方向に等分割となる等分割位置は、外周切れ刃をそれぞれ一定ねじれ角、一定曲率で工具軸方向へ延長したと仮定して、工具軸方向において外周切れ刃の底刃側端部から先端側へ刃長の1/4離れた位置から、外周切れ刃のシャンク側端部からシャンク側へ刃長の1/4離れた位置までの間の範囲内が望ましいが、より良い範囲として外周切れ刃の底刃側端部からシャンク側へ向かって刃長の1/4~3/4の範囲内が望ましい。底刃側端部から先端側へ刃長の1/4以上離れた位置や、シャンク側端部からシャンク側へ刃長の1/4以上離れた位置に、等分割位置があっても良いし、複数の外周切れ刃を不等分割で配置しても良い。右ねじれ刃のねじれ角と左ねじれ刃のねじれ角との角度差は±5°以内が望ましいが、±5°を超える角度差とすることも可能である。複数の底刃の中、少なくとも1枚は中心刃を備えていることが望ましいが、総ての底刃が中心刃を備えていなくても良い。
【0027】
軸心まわりに展開した展開図において湾曲形状を成す湾曲刃は、例えば展開図において真円の一部から成る円弧とされるが、楕円形の一部から成る円弧であっても良いし、曲率が異なる複数の円弧を滑らかに接続したものでも良いし、円弧の途中に直線部が設けられたものでも良いなど、種々の態様が可能である。すなわち、シャンク側端部と底刃側端部との間において、右ねじれから左ねじれ、或いは左ねじれから右ねじれとなるように、ねじれ方向が左右の一方から他方へ不可逆的に滑らかに変化していれば良い。このような湾曲刃は、例えば5軸等の複合研削盤を用いてグラインダによる研削加工によって形成することができる。
【0028】
湾曲刃の展開図における湾曲形状の最も凹んだ点P1は、工具軸方向において底刃側端部のP2から刃長の5%~95%の範囲内にあることが望ましいが、少なくとも両端部における切れ刃のねじれ方向が逆であれば、5%未満や95%を超えた位置にP1があっても良い。工具軸方向における底刃側端部をP2、工具軸方向におけるシャンク側端部をP3とした時、P1とP2との間の周方向の幅寸法a、およびP1とP3との間の周方向の幅寸法bは、何れも刃長×0.0002以上で刃長×0.1300以下の範囲内であることが望ましいが、刃長×0.0002未満や刃長×0.1300を超える幅寸法であっても良い。この湾曲刃の底刃側端部P2、シャンク側端部P3付近における曲率は、上記幅寸法a、bとも関係し、幅寸法a、bが大きい程一般的に曲率が大きくなる。幅寸法a、bとしては、例えば0.08mm~1.19mm程度の範囲が適当である。
【0029】
ニック刃またはラフィング刃は、刃長の全域にニック(溝)やラフィング(波形)の凹凸刃が設けられても良いが、工具軸方向においてシャンク側端部から底刃側に向かって刃長の70%の範囲の中の刃長の5%~65%の範囲、工具軸方向において底刃側端部からシャンク側に向かって刃長の70%の範囲の中の刃長の5%~65%の範囲、或いは工具軸方向における刃長の中央から工具軸方向の両方向へ刃長の35%の範囲の中の刃長の5%~65%の範囲など、刃長の一部分に設けるだけでも良い。なお、凹凸刃を刃長の5%より少ない範囲や、刃長の65%を超えた範囲に設けることも可能である。
【0030】
本発明のエンドミルは、例えばCFRP(炭素繊維強化プラスチック)やCFRTP(炭素繊維強化熱可塑性プラスチック)等のFRP(繊維強化プラスチック)に対するトリミング加工(外周切削加工)に好適に用いられるが、鉄鋼材料などの他の被削材に対する切削加工に使用することも可能である。エンドミルの材質としては、例えば超硬合金や高硬度焼結体が好適に用いられるが、高速度工具鋼等の他の硬質工具材料を採用することも可能で、必要に応じて切削耐久性を高めるために硬質被膜がコーティングされる。硬質被膜としてはダイヤモンド被膜が適当であるが、金属間化合物等の他の硬質被膜を採用することもできる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の実施例を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において、図は説明のために適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
図1は、本発明の一実施例であるエンドミル10を示す斜視図である。このエンドミル10は、シャンク12と刃部14とを同心に備えており、刃部14には3本の溝が設けられることにより3枚の外周切れ刃20a、20b、20c(以下、特に区別しない場合は単に外周切れ刃20という。)が形成されている。3枚の外周切れ刃20a、20b、20cの先端には、それぞれ底刃22a、22b、22c(以下、特に区別しない場合は単に底刃22という。)が連続して設けられている。エンドミル10は、シャンク12側から見て右まわりに回転駆動されることにより切削加工を行なうものである。このエンドミル10は超硬合金にて構成されているとともに、刃部14の表面には硬質被膜としてダイヤモンド被膜24がコーティングされている。ダイヤモンド被膜24は、単結晶ダイヤモンドまたは多結晶ダイヤモンドである。
図1の斜線部はダイヤモンド被膜24を表している。
【0032】
3枚の外周切れ刃20は、
図2に示す3種類の刃BS、BL、BRにて構成されているとともに、隣り合う外周切れ刃20が異なる種類の刃BS、BL、BRとなるように定められている。3枚刃のエンドミル10の場合、3種類の刃BS、BL、BRによって3枚の外周切れ刃20が構成されている。刃BSは、ねじれ方向が途中で左右逆転しているとともに、軸心まわりに展開した展開図において円弧状乃至は弓状に湾曲した湾曲形状を成しており、且つ湾曲形状の凹側に切れ刃が設けられている湾曲刃である。
図1のエンドミル10では、外周切れ刃20aが湾曲刃BSに相当する。刃BLは、ねじれ角βで左まわりに捩じれた左ねじれ刃で、ねじれ角βは1°~15°の範囲内であることが望ましい。
図1のエンドミル10では、外周切れ刃20bが左ねじれ刃BLに相当する。BRは、ねじれ角αで右まわりに捩じれた右ねじれ刃で、ねじれ角αは1°~15°の範囲内であることが望ましい。
図1のエンドミル10では、外周切れ刃20cが右ねじれ刃BRに相当する。また、上記右ねじれ刃BRのねじれ角αと左ねじれ刃BLのねじれ角βとの角度差δ(=α-β)は±5°以内が望ましい。
【0033】
上記湾曲刃BSは、例えば
図3に示す円弧刃A~Cのように構成される。
図3は何れもエンドミル10の軸心まわりに展開した展開図で、円弧刃A~Cは、展開図における湾曲形状が真円の一部から成る円弧の円弧刃である。そして、湾曲形状の最も凹んだ点(凹点)、すなわち周方向において切削回転方向の最も後側の点をP1、工具軸方向における底刃側端部をP2、工具軸方向におけるシャンク側端部をP3とした時、凹点P1と底刃側端部P2との間の周方向の幅寸法(底刃側幅寸法)a、および凹点P1とシャンク側端部P3との間の周方向の幅寸法(シャンク側幅寸法)bが、次式(1) 、(2) に示すように何れも刃長L×0.0002以上で刃長L×0.1300以下の範囲内となることが望ましい。幅寸法a、bの具体的寸法としては、例えば0.08mm~1.19mm程度の範囲内とされる。また、底刃側端部P2から凹点P1までの工具軸方向寸法Lp1は、次式(3) に示すように刃長Lの5%~95%の範囲内であることが望ましい。本実施例では、底刃側端部P2では右ねじれで、シャンク側端部P3では左ねじれとされている。円弧刃A~Cは、何れも展開図における湾曲形状が円弧であるため、その円弧の中心点の工具軸方向位置は凹点P1と一致する。また、円弧刃Aはa=bで、円弧刃Bはa>bで、円弧刃Cはa<bである。
L×0.0002≦a≦L×0.1300 ・・・(1)
L×0.0002≦b≦L×0.1300 ・・・(2)
L×0.05≦Lp1≦L×0.95 ・・・(3)
【0034】
図4は、上記寸法Lp1の割合を0%、5%、50%、95%、100%とした場合の切れ刃形状の写真で、左側が先端側すなわち底刃22側である。そして、寸法Lp1が0%の場合は、底刃側端部P2で軸心と平行な直刃になるため、底刃22側でバリ等を抑制する効果が適切に得られない。また、寸法Lp1が100%の場合は、シャンク側端部P3で軸心と平行な直刃になるため、シャンク12側でバリ等を抑制する効果が適切に得られない。
図4の白矢印は、切れ刃の各部における切削力の方向を表している。
【0035】
図5は、
図2の湾曲刃BSの更に別の例を説明する図で、刃A~刃Cは、前記
図3の円弧刃A~円弧刃Cと同じである。刃Dは、刃Aと同様に底刃側幅寸法aとシャンク側幅寸法bが等しいが、円弧の曲率が小さい場合、すなわち円弧の半径が大きい場合で、幅寸法a、bは刃Aに比較して小さくなる。刃Eは、刃Aと同様に底刃側幅寸法aとシャンク側幅寸法bが等しいが、円弧の曲率が大きい場合、すなわち円弧の半径が小さい場合で、幅寸法a、bは刃Aに比較して大きくなる。刃Fは、湾曲形状が複数の曲線から構成されている場合で、凹点P1付近では刃Aと同じ曲率の円弧であるが、底刃側端部P2およびシャンク側端部P3付近では円弧の曲率が大きくされており、底刃側幅寸法aおよびシャンク側幅寸法bは互いに同じで前記刃Aの幅寸法a、bよりも大きい。刃Gは、湾曲形状が複数の曲線から構成されている場合で、刃Aに比較して底刃側端部P2付近の円弧の曲率が大きくされており、シャンク側幅寸法bは前記刃Aの幅寸法bと同じであるが、底刃側幅寸法aは前記刃Aの幅寸法aよりも大きい。刃Hは、刃Gとは逆に刃Aに比較してシャンク側端部P3付近の円弧の曲率が大きくされており、底刃側幅寸法aは前記刃Aの幅寸法aと同じであるが、シャンク側幅寸法bは前記刃Aの幅寸法bよりも大きい。
【0036】
このようなエンドミル10の外周切れ刃20の刃数は3枚に限られず、
図6~
図9に示すように3枚以上、6枚以下の場合に好適に適用される。
図6~
図9は、
図2に示す3種類の湾曲刃BS、左ねじれ刃BL、および右ねじれ刃BRの組合せを例示した図で、ここでは湾曲刃BSを「円弧」、左ねじれ刃BLを「左ねじれ」、右ねじれ刃BRを「右ねじれ」で表しており、No1~No8は具体例である。刃1~刃6は外周切れ刃20に相当し、
図6は3枚刃の場合、
図7は4枚刃の場合、
図8は5枚刃の場合、
図9は6枚刃の場合であり、何れの場合も隣り合う刃1~刃6が異なる種類の刃BS、BL、またはBRとなるように、すなわち「円弧」、「左ねじれ」、「右ねじれ」が連続しないように、定められている。エンドミル10の外周切れ刃20の刃数は7枚以上であっても良く、隣り合う外周切れ刃20が異なる種類の刃BS、BL、またはBRとなるように定められる。
【0037】
エンドミル10の外周切れ刃20はまた、
図10に示すように、ニックもラフィングも無い普通刃30a~30c(以下、特に区別しない場合は単に普通刃30という。)でも良いが、ニック刃32a~32c(以下、特に区別しない場合は単にニック刃32という。)としたりラフィング刃34a~34c(以下、特に区別しない場合は単にラフィング刃34という。)としたりすることも可能である。
図10の上段の写真は、すくい面側から見た普通刃30、ニック刃32、ラフィング刃34の拡大図で、下段は
図1のように斜め先端側から見た刃部14の写真である。
図10は、何れも3枚刃のエンドミル10で、普通刃30a~30cは、前記
図2に示す3種類の刃BS、刃BL、およびBRにて構成されている。ニック刃32a~32cおよびラフィング刃34a~34cは、普通刃30a~30cにニックまたはラフィングを設けたもので、例えば刃長Lの全域にニックやラフィングを設けることもできるが、工具軸方向の一部分に設けるだけでも良い。ニックやラフィングを設ける位置は、刃長Lの中央部分でも良いし、シャンク12側や底刃22側であっても良く、異なる位置に設けることが望ましい。例えば
図10のニック刃32a、ラフィング刃34aは刃長Lの全域にニックやラフィングが設けられており、ニック刃32b、ラフィング刃34bはシャンク12側の一部にニックやラフィングが設けられており、ニック刃32c、ラフィング刃34cは底刃22側の一部にニックやラフィングが設けられている。上記ニックやラフィングは、例えば工具軸方向においてシャンク側端部P3から底刃22側に向かって刃長Lの70%の範囲の中の刃長Lの5%~65%の範囲に設けたり、底刃側端部P2からシャンク12側に向かって刃長Lの70%の範囲の中の刃長Lの5%~65%の範囲に設けたり、工具軸方向における刃長Lの中央から工具軸方向の両方向へ刃長Lの35%の範囲の中の刃長Lの5%~65%の範囲に設けたりすることが望ましい。前記
図7~
図9に例示した4枚刃~6枚刃のエンドミル10、或いは図示しない7枚刃以上のエンドミル10についても、同様にニック刃やラフィング刃とすることができる。
【0038】
図11は、3枚刃のエンドミル10の外周切れ刃20を軸心まわりに展開して示した展開図で、円弧刃の刃2は外周切れ刃20aに相当し、左ねじれ刃の刃3は外周切れ刃20bに相当し、右ねじれ刃の刃1は外周切れ刃20cに相当する。そして、刃1~刃3が周方向に等分割となる等分割位置が、それ等の刃1~刃3をそれぞれ一定ねじれ角、一定曲率で工具軸方向へ延長したと仮定して(破線部分)、工具軸方向において底刃側端部P2から更に先端側へ刃長Lの1/4離れた位置から、そのシャンク側端部P3から更にシャンク12側へ刃長Lの1/4離れた位置までの間の範囲内、言い換えれば底刃側端部P2を基準としてシャンク12側へ向かう方向を正として-0.25L~1.25Lの範囲内に存在するように、それ等の刃1~刃3の周方向位置を定めることが望ましい。等分割位置は、具体的には刃1と刃2との間の間隔をD1、刃2と刃3との間の間隔をD2、刃3と刃1との間隔をD3とした時、D1=D2=D3となる位置である。
図11は、刃長Lの中央すなわち底刃側端部P2から0.5Lの位置で、D1=D2=D3の等分割となるように、刃1~刃3の周方向位置が定められている場合である。
【0039】
エンドミル10の底刃22は、例えば
図12に示すように構成される。
図12の「中心刃なし」の底刃42a~42cは、何れも中心刃を備えていない場合である。
図12の「中心刃あり」の左側の写真の底刃44a~44cは、1枚の底刃44cが工具軸心付近に達する中心刃を備えている場合で、右側の写真の底刃46a~46cは、3枚の底刃46a~46cが総て工具軸心付近に達する中心刃を備えている場合である。エンドミル10の底刃22は、底刃42a~42c、底刃44a~44c、底刃46a~46cの何れでも良いが、
図1は3枚共に中心刃を有する底刃46a~46cである。
【0040】
このようなエンドミル10によれば、外周切れ刃20として
図2に示す湾曲刃BS、左ねじれ刃BL、および右ねじれ刃BRの3種類の切れ刃を備えているとともに、隣り合う外周切れ刃20は異なる種類の切れ刃で構成されているため、隣り合う外周切れ刃20の間隔が不等間隔で且つ軸方向において連続的に変化しているとともに切削力の向きも異なることから、共振が抑制されて防振効果が適切に得られる。また、湾曲刃BSが設けられたことで、右ねじれ刃BRおよび左ねじれ刃BLだけの場合に比較してバリ等の発生が一層適切に抑制されるとともに、湾曲形状の内向きに切削力が作用することでワークの板厚方向のビビリ振動が抑制される。また、湾曲刃BSは滑らかな湾曲形状を成しているため、ヘリングボーン形状に比較して切りくずの滞留が抑制され、加工条件の制約等が緩和される。
【0041】
また、右ねじれ刃BRのねじれ角αを1°~15°の範囲内とし、左ねじれ刃BLのねじれ角βを1°~15°の範囲内とした場合には、防振効果や、バリ等の抑制効果、ビビリ振動の抑制効果が適切に得られる。すなわち、ねじれ角α、βが大きくなると、バリ等が発生し易くなるとともにビビリ振動が大きくなるため、湾曲刃BSの存在に拘らず適切に抑制することが難しくなる。
【0042】
また、
図10に示すように3枚の外周切れ刃20が普通刃30、ニック刃32、およびラフィング刃34の中の何れか1種類で構成されている場合、仕上げ用、中仕上げ用、荒取り用等の用途や、ワークの材質等に応じて、適切な切れ刃形状のエンドミル10を採用することができる。例えばワークがCFRPやCFRTPの場合、繊維の種類や繊維体積含有率などに応じて使い分けることができる。
【0043】
また、例えば
図11に示すように3枚の外周切れ刃20(刃1~刃3)が周方向に等分割となる等分割位置が、工具軸方向において底刃側端部P2から先端側へ刃長Lの1/4離れた位置から、シャンク側端部P3からシャンク12側へ刃長Lの1/4離れた位置までの間の範囲内に存在するように、言い換えれば底刃側端部P2を基準としてシャンク12側へ向かう方向を正として-0.25L~1.25Lの範囲内に存在するように、それ等の刃1~刃3の周方向位置を定めた場合には、その範囲外の場合に比較して優れた加工面粗さが得られる。
【0044】
また、右ねじれ刃BRのねじれ角αと左ねじれ刃BLのねじれ角βとの角度差δを±5°以内とした場合には、角度差δが±5°を超える場合に比較して逃げ面摩耗幅が小さくなり、不等分割による防振効果や湾曲刃BSによるバリ等の抑制効果を得ながら工具寿命を確保できる。
【0045】
また、
図12に示す底刃44a~44c、或いは底刃46a~46cのように、工具先端に設けられた複数の底刃22の中、少なくとも1枚が工具軸心付近に達する中心刃を備えている場合には、突き加工が可能となり、工具の汎用性が高くなる。
【0046】
また、外周切れ刃20として右ねじれ刃BR、左ねじれ刃BL、および湾曲刃BSの3種類の切れ刃が設けられるエンドミル10は、例えば
図6~
図9に示すように、外周切れ刃20の刃数が3枚以上、6枚以下の場合に好適に適用される。
【0047】
また、エンドミル10は超硬合金にて構成されているとともに、外周切れ刃20が設けられた刃部14の表面がダイヤモンド被膜24で被覆されているため、優れた切削耐久性が得られる。
【0048】
図13は、前記エンドミル10のように右ねじれ刃の刃1、湾曲刃の刃2、および左ねじれ刃の刃3を有する本発明品、およびねじれ方向が異なる刃1および刃2が交互に設けられた4枚刃の従来品について、展開図における各刃1~刃3、刃1~刃2に切削力を白抜き矢印で示すとともに、ワークWにトリミング加工(外周切削加工)を行なう場合の位置関係を示した図である。
図13の上段に示した白抜き矢印の方向は切削力の方向で、太さは切削力の大きさを表しており、本発明品の湾曲形状の刃2は、軸方向の部位によって切削力の向きおよび大きさが変化している。
図13の下段に示した位置関係は、ワークWが手前側(紙面の表側)で、刃1~刃3、または刃1~刃2を有する工具が奥側(紙面の裏側)である。本発明品は3枚の刃1~刃3における切削力の向きおよび大きさが変化しているため、共振が抑制されて、ねじれ方向が異なる刃1および刃2を有する従来品と同様に防振効果が適切に得られる。また、従来品は、右ねじれ刃の刃1はワークWの上面側で鈍角になり、左ねじれ刃の刃2はワークWの下面側で鈍角になるため、星印で示す部分にバリ等が発生し易いが、本発明品によれば、湾曲形状の刃2がワークWの上下両面に対して何れも鋭角で切り込むため、刃1、刃3が鈍角で切り込む側で生じるバリ等が除去されて、バリ等の発生が適切に抑制される。
【0049】
また、
図14に示すように、右ねじれ刃50と左ねじれ刃52とが工具軸方向に一部重複するように隣接して設けられている交互ねじれ刃のヘリングボーン形状の従来品の場合、それ等のねじれ刃50、52の重複部分で切りくずが滞留し易く、切りくず詰まりにより加工条件が制約される場合がある。また、位置ずれ1のように工具が左ねじれ刃52側へずれて右ねじれ刃50だけで切削加工が行なわれると、星印で示すようにワークWの上面にバリ等が発生する可能性があり、位置ずれ2のように工具が右ねじれ刃50側へずれて左ねじれ刃52だけで切削加工が行なわれると、星印で示すようにワークWの下面にバリ等が発生する可能性がある。また、曲面部分を加工プログラミングで動かすと、かけ上がり加工やかけ下がり加工になるため、工具にチッピングが発生し易い。
【0050】
次に、本発明の効果を具体的に明らかにするために行なった幾つかの切削加工試験を説明する。
【0051】
図15は切削加工試験を行なう際に用いた比較品(試験品No1~No4)および本発明品(試験品No5)を説明する図で、刃1~刃3は3枚の外周切れ刃のことである。本発明品(試験品No5)は3枚の刃1~刃3が前記
図2の湾曲刃BS、左ねじれ刃BL、および右ねじれ刃BRにて構成されているエンドミル10である。刃1は
図3の円弧刃Aで、幅寸法a=b=0.26mmである。試験品No1の3枚の刃1~刃3は何れもストレート刃(直刃)で、試験品No2の3枚の刃1~刃3は何れも右ねじれ刃で、試験品No3の3枚の刃1~刃3は何れも左ねじれ刃である。また、試験品No4の3枚の刃1~刃3は、ストレート刃、左ねじれ刃、および右ねじれ刃である。これ等の試験品No1~No5の刃長Lは12mmで、刃径Φは6mmであり、材質は超硬合金で表面にはダイヤモンド被膜24がコーティングされている。また、右ねじれ刃および左ねじれ刃のねじれ角α、βは、本発明品(試験品No5)を含めて何れも5°である。
【0052】
図16は、切削加工試験で測定する抵抗値の合力Fを説明する図で、工具送り方向の送り分力Fx、加工面に直角な方向の主分力Fy、および工具軸方向(被削材の板厚方向)の背分力Fzの合力Fを測定する。この合力Fは、ワークWに加えられる負荷に対応する。
図17は、切削加工試験におけるワークWと工具Tとの位置関係を説明する図で、テーブルから30mm突き出した位置でワークWの外周面にトリミング加工が行なわれる。Wfは加工面である。
図18は、切削加工試験で測定した抵抗値の合力Fの振幅を説明する図で、合力Fの最大値と最小値との幅が振幅である。
【0053】
そして、
図19に示す加工条件で切削加工を行い、合力Fを測定してその振幅を求めた結果が
図20である。
図20の比率(%)は、試験品No1の振幅を100%とした場合の値である。また、
図21は、
図20の振幅をグラフにより比較して示した図である。この結果から、試験品No5の本発明品によれば、刃1~刃3が何れもストレート刃の比較品(試験品No1)に比べて振幅が28%程度小さくなった。刃1~刃3が何れも右ねじれ刃の試験品No2、刃1~刃3が何れも左ねじれ刃の試験品No3は、軸方向の背分力Fzが大きいため試験品No1に比較して振幅が23~24%程度大きい。また、刃1~刃3がストレート刃、左ねじれ刃、および右ねじれ刃である試験品No4は、試験品No1に比較して振幅が10%程度小さくなるものの、本発明品(試験品No5)に比べると減少幅は小さい。
【0054】
図22~24は、別の切削加工試験を行なった結果を説明する図で、
図22は3種類の試験品No1~No3を説明する図である。試験品No1は4枚刃のヘリングボーン形状の従来品で、試験品No2は前記
図15の試験品No4と同じ3枚刃の比較品で、試験品No3は前記
図15の試験品No5と同じ3枚刃の本発明品である。また、これ等の試験品No1~No3の刃長Lは12mmで、刃径Φは6mmであり、材質は超硬合金で表面にはダイヤモンド被膜24がコーティングされている。
【0055】
そして、
図23に示す2つの加工条件(条件1および条件2)で被削材であるCFRTPにトリミング加工を行い、バリの発生状況を調べた。条件1と条件2とでは、切削速度および1刃当りの送り量が相違しており、条件1に比較して条件2は切削速度が速くて1刃当りの送り量が小さい。
図24は、
図22の試験品No1~No3の切れ刃形状とバリの発生状況を示す写真である。この結果から、条件1では、試験品No3の本発明品によれば、ヘリングボーン形状の従来品(試験品No1)に比べてバリが大幅に小さくなり、試験品No2の比較品と比べてもバリは小さくなる。切削速度が速くて1刃当りの送り量が小さい条件2の場合、ヘリングボーン形状の従来品(試験品No1)では、ねじれ刃の交差部分で切りくず詰まりが生じて加工不可であった。試験品No2の比較品と試験品No3の本発明品とを比較すると、条件1の場合と同様に本発明品の方がバリが小さくなる。
【0056】
図25~
図28は、更に別の切削加工試験を行なった試験結果を説明する図で、
図25は6種類の試験品No1~No6を説明する図である。試験品No1~No6は何れも3枚刃で、試験品No2~No6は前記
図15の試験品No5と同じ本発明品で、湾曲刃BSとして
図3の円弧刃Aが設けられているとともに、右ねじれ刃BRおよび左ねじれ刃BLを備えており、その右ねじれ刃BRおよび左ねじれ刃BLのねじれ角α、βが1°~35°の範囲で相違している。円弧刃Aの幅寸法a=b=0.08mmである。試験品No1は、上記円弧刃Aと、右ねじれ刃BRおよび左ねじれ刃BLの代わりにねじれ角α、βが0°の2枚のストレート刃を備えている比較品である。これ等の試験品No1~No6の刃長Lは3mmで、刃径Φは6mmであり、材質は超硬合金で表面にはダイヤモンド被膜24がコーティングされている。
【0057】
そして、
図26に示す加工条件で切削速度を変更しつつ切削加工を行い、切りくずの絡み付きやビビリ振動の発生状況を観察したところ、
図27に示す結果が得られた。
図27から明らかなように、ねじれ角α、βが0°の試験品No1の比較品では、切りくずが丸まり難く、切削速度が150m/min以上で切りくずの絡み付きが認められた。一方、ねじれ角α、βが25°の試験品No5では、切削速度が250m/min以上になるとビビリ振動が発生して加工不可になり、ねじれ角α、βが35°の試験品No6では、切削速度が150m/min以上になるとビビリ振動が発生して加工不可になった。すなわち、ねじれ角α、βが1°以上の右ねじれ刃BRおよび左ねじれ刃BLを有する本発明品の試験品No2~No6によれば、切削速度50~400m/minの総ての条件で切りくずの絡み付きが認められなかったものの、ねじれ角α、βが15°を超えるとビビリ振動が発生し易くなることから、右ねじれ刃BRおよび左ねじれ刃BLのねじれ角α、βは1°~15°の範囲内が望ましい。
図28は、ねじれ角α、βが0°の試験品No1、およびねじれ角α、βが1°の試験品No2について、切削速度400m/minで切削加工を行なった場合の切りくずの写真を例示したもので、試験品No1の比較品では切りくずが丸まり難いため、切りくず同士が絡み付いて大きくなり、排出性が悪くなる。
【0058】
図29~
図31は、更に別の切削加工試験を行なった結果を説明する図で、
図29は3種類の3枚刃の試験品No1~No3を説明する図である。試験品No1~No3は、前記
図10の工具画像に示されているように、前記外周切れ刃20として普通刃30、ニック刃32、またはラフィング刃34が設けられたもので、何れも前記
図15の試験品No5と同じ本発明品で、湾曲刃BSとして
図3の円弧刃Aが設けられているとともに、右ねじれ刃BRおよび左ねじれ刃BLを備えている。これ等の試験品No1~No3の刃長Lは12mmで、刃径Φは6mmであり、材質は超硬合金で表面にはダイヤモンド被膜24がコーティングされている。
【0059】
そして、
図30に示す加工条件で切削加工を行い、合力Fの抵抗値の振動波形や、その合力Fの最大値および振幅、試験品No1の最大値および振幅を100%とした場合の比率、加工面の上面側および下面側のバリの発生状況を調べたところ、
図31に示す結果が得られた。この結果から、ラフィング刃34が設けられた試験品No3によれば、普通刃30の試験品No1に比較して、合力Fの最大値および振幅が49~50%程度小さくなるが、上面側および下面側のバリが何れも大きくなり、例えば荒取り用に好適に用いられる。ニック刃32が設けられた試験品No2によれば、普通刃30の試験品No1に比較して、合力Fの最大値および振幅が何れも43%程度小さくなる一方、上面側および下面側のバリが何れも大きくなるが、ラフィング刃34の試験品No3よりはバリが小さく、例えば中仕上げ用に好適に用いられる。
【0060】
図32~
図36は、更に別の切削加工試験を行なった結果を説明する図で、
図32および
図33は、3枚の外周切れ刃20が等分割となる等分割位置が異なる5種類の試験品No1~No5を説明する図である。試験品No1~No5は何れも前記
図15の試験品No5と同じ本発明品で、湾曲刃BSとして
図3の円弧刃Aが設けられているとともに、右ねじれ刃BRおよび左ねじれ刃BLを備えている。
図33の刃1~刃3は3枚の外周切れ刃20に相当し、刃1は右ねじれ刃BRで、刃2は円弧刃Aで、刃3は左ねじれ刃BLである。試験品No1は、等分割位置が底刃側端部P2から先端側へ刃長Lの2/4離れた位置、すなわち底刃側端部P2を基準としてシャンク12側へ向かう方向を正として-0.5Lの位置で、刃1~刃3の間隔D1=D2=D3になる。試験品No2は、等分割位置が底刃側端部P2から先端側へ刃長Lの1/4離れた位置、すなわち底刃側端部P2を基準としてシャンク12側へ向かう方向を正として-0.25Lの位置で、刃1~刃3の間隔D1=D2=D3になる。試験品No3は、等分割位置が底刃側端部P2からシャンク12側へ向かって刃長Lの2/4の位置、すなわち刃長Lの中央で刃1~刃3の間隔D1=D2=D3になる。試験品No4は、等分割位置がシャンク側端部P3からシャンク12側へ刃長Lの1/4離れた位置、すなわち底刃側端部P2を基準としてシャンク12側へ向かう方向を正として1.25Lの位置で、刃1~刃3の間隔D1=D2=D3になる。試験品No5は、等分割位置がシャンク側端部P3からシャンク12側へ刃長Lの2/4離れた位置、すなわち底刃側端部P2を基準としてシャンク12側へ向かう方向を正として1.5Lの位置で、刃1~刃3の間隔D1=D2=D3になる。
図33は、刃長Lの2/4の位置で間隔D1=D2=D3になる試験品No3の場合の位置関係である。これ等の試験品No1~No5の刃長Lは6mmで、刃径Φは6mmであり、材質は超硬合金で表面にはダイヤモンド被膜24がコーティングされている。
【0061】
そして、
図34に示す加工条件で1刃当りの送り量を変更しつつ切削加工を行い、加工面粗さとして最大高さRzを測定したところ、
図35および
図36に示す結果が得られた。
図36は、加工面粗さをグラフで比較して示した図である。この結果から明らかなように、等分割位置が底刃側端部P2を基準としてシャンク12側へ向かう方向を正として-0.5Lの位置の試験品No1および1.5Lの位置の試験品No5の場合、1刃当りの送り量が0.04mm/t~0.12mm/tの総ての条件で加工面粗さが12μmよりも大きく、且つ1刃当りの送り量が大きくなる程悪化する。これに対し、等分割位置が底刃側端部P2を基準としてシャンク12側へ向かう方向を正として-0.25L~1.25Lの試験品No2~No4では、1刃当りの送り量が0.04mm/t~0.12mm/tの総ての条件で加工面粗さが5μm~8μm程度の範囲内となり、試験品No1およびNo5に比較して40%~50%程度の粗さになる。この結果から、等分割位置は、底刃側端部P2を基準としてシャンク12側へ向かう方向を正として-0.25L~1.25Lの範囲内、すなわち底刃側端部P2から先端側へ刃長Lの1/4離れた位置から、シャンク側端部P3からシャンク12側へ刃長Lの1/4離れた位置までの間の範囲内とすることが望ましい。
【0062】
図37~
図40は、更に別の切削加工試験を行なった結果を説明する図で、
図37および
図38は、右ねじれ刃BRおよび左ねじれ刃BLのねじれ角α、βの角度差δが異なる4種類の試験品No1~No4を説明する図である。試験品No1~No4は何れも前記
図15の試験品No5と同じ本発明品で、湾曲刃BSとして
図3の円弧刃Aが設けられているとともに、右ねじれ刃BRおよび左ねじれ刃BLを備えている。
図38の刃1~刃3は3枚の外周切れ刃20に相当し、刃1は右ねじれ刃BRで、刃2は円弧刃Aで、刃3は左ねじれ刃BLであり、円弧刃Aの幅寸法a=b=0.26mmである。試験品No1は、右ねじれ刃BRのねじれ角α=5°、左ねじれ刃BLのねじれ角β=5°で、角度差δは0°である。試験品No2は、右ねじれ刃BRのねじれ角α=7.5°、左ねじれ刃BLのねじれ角β=5°で、角度差δは2.5°である。試験品No3は、右ねじれ刃BRのねじれ角α=10°、左ねじれ刃BLのねじれ角β=5°で、角度差δは5°である。試験品No4は、右ねじれ刃BRのねじれ角α=12.5°、左ねじれ刃BLのねじれ角β=5°で、角度差δは7.5°である。これ等の試験品No1~No4の刃長Lは12mmで、刃径Φは6mmであり、材質は超硬合金で表面にはダイヤモンド被膜24がコーティングされている。
【0063】
そして、
図39に示す加工条件で切削加工を行い、逃げ面摩耗幅を測定したところ、
図40に示す結果が得られた。この試験結果から明らかなように、角度差δが7.5°の試験品No4の場合、逃げ面摩耗幅が0.13mmよりも大きいのに対し、角度差δが0°~5°の試験品No1~No3では、逃げ面摩耗幅が0.06mmよりも小さく、試験品No4の50%以下であり、優れた工具寿命が得られる。この結果から、右ねじれ刃BRおよび左ねじれ刃BLのねじれ角α、βの角度差δは±5°以内とすることが望ましい。
【0064】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0065】
10:エンドミル 12:シャンク 14:刃部 20a:外周切れ刃(湾曲刃) 20b:外周切れ刃(左ねじれ刃) 20c:外周切れ刃(右ねじれ刃) 22a、22b、22c:底刃(中心刃あり) 24:ダイヤモンド被膜 30a、30b、30c:普通刃 32a、32b、32c:ニック刃 34a、34b、34c:ラフィング刃 42a、42b、42c:底刃(中心刃なし) 44a、44b:底刃(中心刃なし) 44c:底刃(中心刃あり) 46a、46b、46c:底刃(中心刃あり) BS:湾曲刃 BL:左ねじれ刃 BR:右ねじれ刃 α:右ねじれ刃のねじれ角 β:左ねじれ刃のねじれ角 δ:角度差 L:刃長 P2:底刃側端部 P3:シャンク側端部