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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】歯車対
(51)【国際特許分類】
   F16H 55/08 20060101AFI20240423BHJP
【FI】
F16H55/08 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022574986
(86)(22)【出願日】2021-01-15
(86)【国際出願番号】 JP2021001226
(87)【国際公開番号】W WO2022153479
(87)【国際公開日】2022-07-21
【審査請求日】2023-03-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000238360
【氏名又は名称】武蔵精密工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 士龍
(72)【発明者】
【氏名】松岡 慎弥
【審査官】木原 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-019476(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 55/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1歯車(G1)と、前記第1歯車(G1)よりも歯数が多い第2歯車(G2)とが、相互に噛み合う歯の噛み合いライン(L)を共有する歯車対において、
前記噛み合いライン(L)の少なくとも一部に、圧力角(α)が一定でない領域が含まれており、
前記噛み合いライン(L)におけるピッチ点(Pp)から前記第1歯車(G1)の歯元側の端点(Pe1)までの区間で圧力角(α)が広義単調増加となり、
前記噛み合いライン(L)におけるピッチ点(Pp)から前記第1歯車(G1)の歯元側の所定中間点(Pm1)までの区間で圧力角(α)が一定であり、且つ該歯元側の所定中間点(Pm1)から前記第1歯車(G1)の歯元側の端点(Pe1)までの区間で圧力角(α)が増加となることを特徴とする、歯車対。
【請求項2】
前記噛み合いライン(L)におけるピッチ点(Pp)から前記第1歯車(G1)の歯先側の端点(Pe2)までの区間で圧力角(α)が広義単調増加となることを特徴とする、請求項1に記載の歯車対。
【請求項3】
前記噛み合いライン(L)の全域で、歯形曲線の曲率を噛み合いライン長さによって微分した値が常に変動し、
前記第1歯車(G1)の歯元側の前記所定中間点(Pm1)において前記値が極値となることを特徴とする、請求項1又は2に記載の歯車対。
【請求項4】
第1歯車(G1)と、前記第1歯車(G1)よりも歯数が多い第2歯車(G2)とが、相互に噛み合う歯の噛み合いライン(L)を共有する歯車対において、
前記噛み合いライン(L)の少なくとも一部に、圧力角(α)が一定でない領域が含まれており、
前記噛み合いライン(L)におけるピッチ点(Pp)から前記第1歯車(G1)の歯元側の端点(Pe1)までの区間で圧力角(α)が広義単調増加となり、
前記噛み合いライン(L)におけるピッチ点(Pp)から前記第1歯車(G1)の歯先側の所定中間点(Pm2)までの区間で圧力角(α)が一定であり、且つ該歯先側の所定中間点(Pm2)から前記第1歯車(G1)の歯先側の端点(Pe2)までの区間で圧力角(α)が増加となることを特徴とする、歯車対。
【請求項5】
前記噛み合いライン(L)の全域で、歯形曲線の曲率を噛み合いライン長さによって微分した値が常に変動し、
前記第1歯車(G1)の歯先側の前記所定中間点(Pm2)において前記値が極値となることを特徴とする、請求項4に記載の歯車対。
【請求項6】
前記噛み合いライン(L)の全域で圧力角(α)が0度よりも大きいことを特徴とする、請求項1~5の何れか1項に記載の歯車対。
【請求項7】
前記第1,第2歯車(G1,G2)は、鍛造成形された傘歯車であることを特徴とする、請求項1~6の何れか1項に記載の歯車対。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1歯車と、第1歯車よりも歯数が多い第2歯車との歯車対に関する。
【0002】
本発明及び本明細書において、「相互に噛み合う歯の噛み合いライン」とは、相互に噛み合う歯の接触点(噛み合い点)の移動軌跡に相当する線分をいう。また「噛み合いラインを共有」とは、前記接触点が、噛み合い始点から終点に至るまでの過程において、ひと繋がりの噛み合いライン上で連続的に移動することをいい、例えば、噛み合いラインが分岐(即ち相互に噛み合う歯が2点以上で同時に接触)する事態や不連続となる(即ち接触が途切れる)事態が発生しないことをいう。また「噛み合いライン長さ」とは、噛み合いラインの噛み合い始点からの線分の長さをいう。
【0003】
また本明細書において、「相対曲率」とは、相互に噛み合う歯の接触点における一方の歯の歯形曲線の曲率と他方の歯の歯形曲線の曲率との和として定義され、この相対曲率が小さいほど歯面近傍での応力限界が高くなって面圧強度が高まる傾向がある。
【背景技術】
【0004】
歯車対における各歯車の歯形曲線を定めるに当り、例えば、相互に噛み合う歯の接触点(噛み合い点)における接触応力を低減するために、歯元側の凹部と歯先側の凸部との間を特定形態の移行ゾーンで接続する技術が、例えば特許文献1に開示されるように従来より知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本特許第4429390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが特許文献1の歯車対では、歯形曲線を定めるに当って圧力角をどのように定めるのか何も配慮されておらず、またその歯車対が噛み合いラインを共有するか否かについても明確ではない。従って、その歯車対を滑らかに噛み合わせ且つ各歯の強度を高める上での工夫が十分になされているとは言えない。
【0007】
ところで従来周知のインボリュート歯車の歯車対では、相互に噛み合う歯の噛み合いラインが噛み合い始点から終点までひと繋がりとなる(即ち噛み合いラインを共有する)ため、噛み合いが滑らかとなる利点がある。その反面、インボリュート歯車の歯形曲線は、歯元側に向かうほど相対曲率が大きくなって歯元側の面圧強度が低下する傾向がある。
【0008】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、上記問題を一挙に解決可能とした歯車対を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、第1歯車と、前記第1歯車よりも歯数が多い第2歯車とが、相互に噛み合う歯の噛み合いラインを共有する歯車対において、前記噛み合いラインの少なくとも一部に、圧力角が一定でない領域が含まれており、前記噛み合いラインにおけるピッチ点から前記第1歯車の歯元側の端点までの区間で圧力角が広義単調増加となることを第1の特徴とする。
【0010】
また本発明は、第1の特徴に加えて、前記噛み合いラインにおけるピッチ点から前記第1歯車の歯先側の端点までの区間で圧力角が広義単調増加となることを第2の特徴とする。
【0011】
また本発明は、第1又は第2の特徴に加えて、前記噛み合いラインにおけるピッチ点から前記第1歯車の歯元側の所定中間点までの区間で圧力角が一定であり、且つ該歯元側の所定中間点から前記第1歯車の歯元側の端点までの区間で圧力角が増加となることを第3の特徴とする。
【0012】
また本発明は、第1~第3の何れかの特徴に加えて、前記噛み合いラインにおけるピッチ点から前記第1歯車の歯先側の所定中間点までの区間で圧力角が一定であり、且つ該歯先側の所定中間点から前記第1歯車の歯先側の端点までの区間で圧力角が増加となることを第4の特徴とする。
【0013】
また本発明は、第1~第4の何れかの特徴に加えて、前記噛み合いラインの全域で、歯形曲線の曲率を噛み合いライン長さによって微分した値が常に変動することを第5の特徴とする。
【0014】
また本発明は、第1~第5の何れかの特徴に加えて、前記噛み合いラインの全域で圧力角が0度よりも大きいことを第6の特徴とする。
【0015】
また本発明は、第1~第6の何れかの特徴に加えて、前記第1,第2歯車は、鍛造成形された傘歯車であることを第7の特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の第1の特徴によれば、第1歯車とそれよりも歯数が多い第2歯車とからなる歯車対において、相互に噛み合う歯が噛み合いラインを共有するので、第1,第2歯車は滑らかな噛み合いを実現可能となる。その上、前記噛み合いラインの少なくとも一部に圧力角が一定でない領域が含まれるため、上記のように噛み合いラインを共有しながらも、その噛み合いラインに関連付けて両歯車の圧力角を種々の変化態様に定めることが可能となり、その定めに応じた所望の特性(例えば強度)と、滑らかな噛み合いとの両立を図ることができる。また、噛み合いラインにおけるピッチ点から第1歯車の歯元側の端点までの区間で圧力角が広義単調増加となるので、第1歯車の歯元側では相対曲率を小さくできて面圧強度を高めることができ、しかも歯元側において歯形曲線が負の曲率に近づき或いは負の曲率となることで、単に圧力角を大きくするよりも歯形が歯元に向かって末広がりとなるため、曲げ強度を高めることができる。従って、特に歯元側で荷重負担が大きく損傷が生じ易い小歯数歯車(即ち第1歯車)の歯元側の強度を効果的に増大させることができる。
【0017】
また第2の特徴によれば、噛み合いラインにおけるピッチ点から第1歯車の歯先側の端点までの区間で圧力角が広義単調増加となるので、第1歯車(即ち小歯数歯車)の歯元側だけでなく歯先側でも相対曲率を小さくできて面圧強度を高めることができる。
【0018】
また噛み合い中に噛み合い歯数が変動するのに伴い各歯の接触剛性が変動するが、第3の特徴によれば、噛み合いラインにおけるピッチ点から第1歯車の歯元側の所定中間点までの区間で圧力角が一定であり、且つ歯元側の所定中間点から第1歯車の歯元側の端点までの区間で圧力角が増加となり、一方、第4の特徴によれば、噛み合いラインにおけるピッチ点から第1歯車の歯先側の所定中間点までの区間で圧力角が一定であり、且つ歯先側の所定中間点から第1歯車の歯先側の端点までの区間で圧力角が増加となる。この第3・第4の各特徴により、噛み合い歯数が大きい(従って各歯の接触剛性が高い)噛み合い領域を、相対曲率が大きく歯面の接触剛性が低い圧力角一定区間とすることで1歯当たりのヘルツ接触による歯面変形量を比較的大きくできるから、噛み合い中の噛み合い歯数変動に伴う歯面の接触剛性の増減を、ヘルツ接触に基づく歯面変形量の増減によって相殺可能となり、従って、噛み合い歯数の変動によっても歯形全体として噛み合い剛性を極力均一化(即ち接触剛性差を緩和)することができる。しかも上記した圧力角一定区間が特設されることで、噛み合い中の相対曲率の変動も小さくできるため、より滑らかな噛み合いを実現可能となる。
【0019】
また第5の特徴によれば、噛み合いラインの全域で、歯形曲線の曲率を噛み合いライン長さによって微分した値が常に変動するので、相互に噛み合う歯の接触点における相対曲率も噛み合い中に常に変動する。これにより、第3・第4の各特徴による効果と同様に、噛み合い中の歯面の接触剛性差を緩和可能な曲率分布に(例えば1歯噛み合い領域の相対曲率を小さく、2歯噛み合い領域の相対曲率を大きく)することが可能となる。
【0020】
また第6の特徴によれば、噛み合いラインの全域で圧力角が0度よりも大きいので、相互に噛み合う歯の接触点における相対曲率が平均的に小さくなり、面圧強度を高めることができる。
【0021】
また第7の特徴によれば、第1,第2歯車は、鍛造成形された傘歯車であるので、傘歯車の複雑な球面歯形でも鍛造により容易且つ精度よく成形可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は第1実施形態に係る歯車対を示すもので、(A)は相互に噛み合う歯の歯面及び噛み合いラインの一例を示し、(B)は噛み合いライン長さに対する圧力角の設定例を示し、(C)は噛み合いライン長さに対する歯形曲線の曲率の微分値及び相対曲率の変化例を示す図である。
図2図2は第2実施形態に係る歯車対を示すもので、(A)は相互に噛み合う歯の歯面及び噛み合いラインの一例を示し、(B)は噛み合いライン長さに対する圧力角の設定例を示し、(C)は噛み合いライン長さに対する歯形曲線の曲率の微分値及び相対曲率の変化例を示す図である。
図3図3は第3実施形態に係る歯車対を示すもので、(A)は相互に噛み合う歯の歯面及び噛み合いラインの一例を示し、(B)は噛み合いライン長さに対する圧力角の設定例を示し、(C)は噛み合いライン長さに対する歯形曲線の曲率の微分値及び相対曲率の変化例を示す図である。
図4図4は第4実施形態に係る歯車対における球面歯形の圧力角の定義を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0023】
G1,G2・・第1,第2歯車
L・・・・・噛み合いライン
Pe1・・・噛み合いラインにおける第1歯車の歯元側の端点
Pe2・・・噛み合いラインにおける第1歯車の歯先側の端点
Pm1・・・噛み合いラインにおけるピッチ点から第1歯車の歯元側の所定中間点
Pm2・・・噛み合いラインにおけるピッチ点から第1歯車の歯先側の所定中間点
Pp・・・・噛み合いラインにおけるピッチ点
α・・・・・圧力角
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施形態を添付図面に基づいて以下に説明する。
【第1実施形態】
【0025】
先ず、図1を参照して、第1実施形態の歯車対について説明する。この歯車対は、各々の回転軸線が平行な平歯車よりなり且つ相互に噛み合う第1,第2歯車G1,G2の対である。具体的には、図1(A)で下側の第1歯車G1は、歯数が少ない小径歯車であり且つ駆動歯車として機能する。また上側の第2歯車G2は、第1歯車G1よりも歯数が多い大径歯車であり且つ被動歯車として機能する。尚、第1歯車G1と第2歯車G2の何れを駆動側・被動側とするかは任意である。
【0026】
また図1(A)では、第1,第2歯車G1,G2の相互に噛み合う歯について、その接触点(以下、「噛み合い点」という)が、太い点線で示す噛み合いラインL上のピッチ点Ppにあるときの歯面相互の噛み合い態様(太い実線が第1歯車G1の歯面、太い鎖線が第2歯車G2の歯面)の一例を示し、併せて、第1歯車G1が噛み合い開始時・終了時にあるときの歯面の一例を示す。
【0027】
尚、第1,第2歯車G1,G2の、噛み合い側と反対側の歯面は、図示されないが、本実施形態では噛み合い側の歯面の形状とは左右対称形である。また図1(A)において、第1歯車G1は反時計方向に、第2歯車G2は時計方向にそれぞれ回転する。
【0028】
第1,第2歯車G1,G2は連動回転し、それに伴い、相互に噛み合う歯の噛み合い点は、連続的に移動する。その移動軌跡、即ち噛み合いラインLは、図1(A)の太い点線で示すように滑らかな曲線となっている。即ち、第1,第2歯車G1,G2の噛み合いラインLは、インボリュート歯車の噛み合いラインのような直線ではない。即ち、第1,第2歯車G1,G2は、インボリュート歯車ではない。
【0029】
また本実施形態の歯車対では、第1,第2歯車G1,G2の相互に噛み合う歯が噛み合いラインLを共有する関係にある。
【0030】
より具体的に言えば、相互に噛み合う歯の噛み合い点が、噛み合い始点から終点(即ち第1歯車G1の歯元側の端点Pe1から歯先側の端点Pe2)に至るまでの過程において、ひと繋がりの噛み合いラインL上で連続的に移動する。即ち、噛み合いラインLが分岐(即ち相互に噛み合う歯が2点以上で同時に接触)する事態や不連続となる(即ち接触が途切れる)事態が発生しない。
【0031】
また本発明の歯車対では、図1(B)で示すように、噛み合いラインLの全域で圧力角αが一定でない。ここで圧力角αについて説明すると、各々の回転軸線が平行な歯車対の場合、回転軸線と直交する投影面で見て(図1(A)を参照)、相互に噛み合う歯の任意の噛み合い点において、ピッチ円直径のピッチ点における接線Laと、噛み合いラインLの接線Lbとの、鋭角側の交差角度αを、該噛み合い点における圧力角と定義する。
【0032】
より具体的に説明すると、第1実施形態の歯車対では、噛み合いライン長さに対する圧力角αの変化態様は、例えば図1(B)の太い実線で示すような変化態様となるよう設定される。即ち、噛み合いラインLにおけるピッチ点Ppから第1歯車G1の歯元側の端点Pe1までの区間で圧力角αが増加すると共に、噛み合いラインLにおけるピッチ点Ppから第1歯車G1の歯先側の端点Pe2までの区間で圧力角αが増加するよう設定される。ここで「噛み合いライン長さ」とは、前述のように噛み合いラインLの噛み合い始点(即ち第1歯車G1の歯元側の端点Pe1)からの線分の長さをいう。
【0033】
しかも噛み合いラインLの全域で、圧力角αが0度よりも大きく(好ましくは10度以上と)なるよう設定される。また図1(B)でも明らかなように、噛み合いラインLの全域で圧力角αが連続して変化しており、歯形曲線に曲率の発散する点が存在しない。
【0034】
また図1(C)の太い実線は、第1歯車G1の歯形曲線の曲率を噛み合いライン長さによって微分した値(即ち曲率微分値)が噛み合いライン長さに応じてどのように変化するかを示しており、これによれば、その曲率微分値が歯形曲線全域で一定でないこと、即ち、常に変動することが判る。尚、図示は省略するが、第1,第2歯車G1,G2は噛み合いラインLを共有するため、第2歯車G2の歯形曲線の曲率を噛み合いライン長さによって微分した値についても同様に、歯形曲線全域で一定でない、即ち、常に変動する。
【0035】
また図1(C)の太い点線は、歯形曲線の相対曲率が噛み合いライン長さに応じてどのように変化するかを示している。ここで「相対曲率」とは、前述のように相互に噛み合う歯の噛み合い点における一方の歯の歯形曲線の曲率と他方の歯の歯形曲線の曲率との和として定義され、この相対曲率が小さいほど歯面近傍での応力限界が大きくなって面圧強度が高まる傾向がある。
【第2実施形態】
【0036】
次に図2を参照して、第2実施形態の歯車対について説明する。
【0037】
即ち、第1実施形態では圧力角αが、噛み合いラインLにおけるピッチ点Ppから第1歯車G1の歯元側の端点Pe1までの区間で増加し且つピッチ点Ppから第1歯車G1の歯先側の端点Pe2までの区間で増加するのに対して、第2実施形態では圧力角αが、噛み合いラインLにおけるピッチ点Ppから第1歯車G1の歯元側の所定中間点Pm1までの区間で一定に推移し且つ所定中間点Pm1から第1歯車G1の歯元側の端点Pe1までの区間で増加すると共に、ピッチ点Ppから第1歯車G1の歯先側の所定中間点Pm2までの区間で一定に推移し且つ所定中間点Pm2から第1歯車G1の歯先側の端点Pe2までの区間で増加するよう設定される。
【0038】
この第2実施形態において、噛み合いライン長さに対する圧力角αの変化態様は、図2(B)の太い実線で示される。また図2(C)の太い実線は、第1歯車G1の歯形曲線の曲率を噛み合いライン長さによって微分した曲率微分値が噛み合いライン長さに応じてどのように変化するかを示しており、更に図2(C)の太い点線は、歯形曲線の相対曲率が噛み合いライン長さに応じてどのように変化するかを示している。
【第3実施形態】
【0039】
次に図3を参照して、第3実施形態の歯車対について説明する。
【0040】
即ち、第1実施形態では圧力角αが、噛み合いラインLにおけるピッチ点Ppから第1歯車G1の歯元側の端点Pe1までの区間で増加し且つピッチ点Ppから第1歯車G1の歯先側の端点Pe2までの区間で増加するのに対して、第3実施形態では圧力角αが、噛み合いラインLにおけるピッチ点Ppから第1歯車G1の歯元側の端点Pe1までの区間で増加する途中、一定に推移する区間が存在すると共に、ピッチ点Ppから第1歯車G1の歯先側の端点Pe2までの区間で増加する途中、一定に推移する区間が存在するよう設定される。
【0041】
この第3実施形態において、噛み合いライン長さに対する圧力角αの変化態様は、図3(B)の太い実線で示される。また図3(C)の太い実線は、第1歯車G1の歯形曲線の曲率を噛み合いライン長さによって微分した曲率微分値が噛み合いライン長さに応じてどのように変化するかを示しており、更に図3(C)の太い点線は、歯形曲線の相対曲率が噛み合いライン長さに応じてどのように変化するかを示している。
【0042】
次に以上説明した第1~第3実施形態の歯車対の作用を説明する。
【0043】
各々の実施形態の第1,第2歯車G1,G2は、例えば、両歯車G1,G2の基本設計データ(例えば歯数、ピッチ円直径、歯元円・歯先円の直径等)と、噛み合いラインL上の各噛み合い点において設定すべき圧力角α(図1~3の(B)参照)のデータとに基づいてコンピュータで演算可能となっており、その演算結果から歯形曲線が一義的に決定可能である。そして、その決定された歯形曲線に基づいて、鍛造成形又は精密機械加工により形成される。
【0044】
かくして製造された第1~第3実施形態の歯車対では、相互に噛み合う歯が噛み合いラインLを共有するので、第1,第2歯車G1,G2は滑らかな噛み合いを実現可能となり、伝動効率アップが図られる。その上、噛み合いラインLの少なくとも一部に圧力角αが一定でない領域が含まれるため、上記のように噛み合いラインLを共有しながらも、その噛み合いラインLに関連付けて両歯車G1,G2の圧力角αを種々の変化態様に定めることが可能となり、その定めに応じた所望の特性(例えば強度)と、滑らかな噛み合いとの両立を図ることが可能となる。
【0045】
また第1~第3実施形態の歯車対では、噛み合いラインLにおけるピッチ点Ppから第1歯車G1の歯元側の端点Pe1までの区間で圧力角αが広義単調増加(より具体的には第1実施形態では増加、第2実施形態では一定に推移後に増加、第3実施形態では増加の途中で一定に推移)となる。これにより、第1歯車G1の歯元側では相対曲率を小さくできて面圧強度を高めることができ、しかも歯元側において歯形曲線が負の曲率に近づき或いは負の曲率となることで、単に圧力角αを大きくするよりも歯形が歯元に向かって末広がりとなるため、曲げ強度を高めることができる。従って、特に歯元側で荷重負担が大きく損傷が生じ易い小歯数歯車(第1歯車G1)における歯元側の強度を効果的に増大させることができる。
【0046】
また特に第1~第3実施形態の歯車対では、噛み合いラインLにおけるピッチ点Ppから第1歯車G1の歯元側の端点Pe1までの区間で圧力角αが広義単調増加となるだけでなく、ピッチ点Ppから第1歯車G1の歯先側の端点Pe2までの区間でも圧力角αが広義単調増加となる。これにより、第1歯車G1(即ち小歯数歯車)の歯元側だけでなく歯先側でも相対曲率を小さくできて面圧強度を高めることができる。
【0047】
ところで噛み合い中に噛み合い歯数が変動するのに伴い各歯の接触剛性が変動するが、特に第2実施形態の歯車対では、図2(B)で示すように、噛み合いラインLにおけるピッチ点Ppから第1歯車G1の歯元側の所定中間点Pm1までの区間で圧力角αが一定に推移し且つ所定中間点Pm1から第1歯車G1の歯元側の端点Pe1までの区間で圧力角αが増加となり、しかもピッチ点Ppから第1歯車G1の歯先側の所定中間点Pm2までの区間で圧力角αが一定に推移し且つ所定中間点Pm2から第1歯車G1の歯先側の端点Pe2までの区間で圧力角αが増加となる。これにより、噛み合い歯数が大きい(従って各歯の接触剛性が高い)噛み合い領域を、相対曲率が大きく歯面の接触剛性が低い圧力角一定区間とすることで1歯当たりのヘルツ接触による歯面変形量を比較的大きくできるから、噛み合い中の噛み合い歯数変動に伴う歯面の接触剛性の増減を、ヘルツ接触に基づく歯面変形量の増減によって相殺可能となり、従って、噛み合い歯数の変動によっても歯形全体として噛み合い剛性を極力均一化(即ち接触剛性差を緩和)することができる。しかも、上記した圧力角一定区間(Pm1~Pp~Pm2)が特設されることで、噛み合い中の相対曲率の変動も小さくできるため、より滑らかな噛み合いを実現可能となる。
【0048】
また第1~第3実施形態の歯車対では、図1~3の(C)で示すように、歯形曲線の曲率を噛み合いライン長さによって微分した値が常に変動する。これにより、相互に噛み合う歯の噛み合い点における相対曲率も噛み合い中に常に変動し、噛み合い中の歯面の接触剛性差を緩和可能な曲率分布に(例えば1歯噛み合い領域の相対曲率を小さく、2歯噛み合い領域の相対曲率を大きく)するような設定が可能となる。而して、IPベベルギヤ或いはコルナックスギヤ(登録商標)と異なることは明らかである。
【0049】
また第1~第3実施形態の歯車対によれば、図1~3の(B)で示すように、噛み合いラインLの全域で圧力角が0度よりも大きく(好ましくは10度以上と)なるよう設定される。これにより、相互に噛み合う歯の噛み合い点における相対曲率が平均的に小さくなり、面圧強度が高められる。しかも、噛み合いラインLの全域で圧力角αが連続して変化しており、歯形曲線に曲率の発散する点が存在せず、即ち、面圧が理論上無限となる点が存在しないことから、この点によっても面圧強度が向上する。而して、サイクロイドギヤと異なることは明らかである。
【0050】
以上説明した第1~第3実施形態では、歯車対をなす第1,第2歯車G1,G2を回転軸線が平行な平歯車としたものを示したが、本発明の歯車対を構成する第1,第2歯車G1,G2としては、回転軸線が交差する傘歯車であってもよく、その傘歯車の対(歯形の図示は省略)を、第4実施形態の歯車対とする。
【第4実施形態】
【0051】
その第4実施形態の傘歯車対は球面歯形であり、その圧力角は、図4を参照して次のように定義される。
【0052】
即ち、傘歯車対のうち歯数が少ない小径歯車を第1歯車G1、第1歯車G1よりも歯数が多い大径歯車を第2歯車G2とした場合、噛み合いラインL(図4で太い点線)を含む球面を基準の球面としたときに、その基準の球面の中心Oと噛み合いラインL上のピッチ点Ppとを含む平面で基準の球面を切断したときにできるピッチ大円Aと、相互に噛み合う歯の任意の噛み合い点Peにおいて噛み合いラインLに接する平面で前記基準の球面を切断したときにできる小円Bとの、鋭角側の交差角度αを、噛み合い点Peにおける圧力角と定義する。
【0053】
而して、第4実施形態においても、第1,第2歯車G1,G2は、第1~第3実施形態で説明したのと同様の、本発明に係る方法で歯形曲線が決定され、その決定された歯形曲線に基づいて、鍛造により成形される。かくして、第1,第2歯車G1,G2は、これらが複雑な球面歯形であっても、鍛造により比較的容易に且つ精度よく成形可能となる。
【0054】
第4実施形態に係る傘歯車対の一例としては、例えば、差動歯車機構における傘歯車よりなるピニオンギヤを第1歯車G1とし、またこれと噛合する傘歯車よりなるサイドギヤを第2歯車G2とする実施形態も実施可能である。
【0055】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。
【0056】
例えば、第1~第3実施形態では、歯車対をなす第1,第2歯車G1,G2を、各々の回転軸線が平行な平歯車であるものを例示したが、各々の回転軸線が平行な斜歯歯車であってもよい。
【0057】
また本発明に従う第1,第2歯車G1,G2の歯形曲線は、第1~第3実施形態により幾つかの具体例を示したが、この具体例に限らず種々の歯形曲線を設定可能であり、例えば、(1)歯元側の凹面と歯先側の凸面とが繋がるもの、(2)歯元側の凹面から所定の移行ゾーンを経て歯先側の凸面に繋がるもの、(3)歯元側の凹面から歯先まで直線状に延びるもの、(4)歯元側の凹面と歯先側の凸面との間で複数パターンの移行ゾーンが介在するもの等の設定が可能である。尚、上記した何れの歯形曲線においても、第1,第2歯車G1,G2の相互に噛み合う歯の噛み合いラインLは共有され、且つその噛み合いラインLの少なくとも一部に、圧力角αが一定でない領域が含まれることを条件として、歯形曲線が決定される。
【0058】
また第4実施形態のような傘歯車の球面歯形となる歯形曲線においても、第1~第3実施形態の平歯車の上記歯形パターンと同様に、例えば、(1)歯元側の凹面と歯先側の凸面とが繋がるもの、(2)歯元側の凹面から所定の移行ゾーンを経て歯先側の凸面に繋がるもの、(3)歯元側の凹面から歯先まで直線状に延びるもの、(4)歯元側の凹面と歯先側の凸面との間で複数パターンの移行ゾーンが介在するもの等の設定が可能である。
図1
図2
図3
図4