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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】MCP検出器及び分析装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/02 20060101AFI20240423BHJP
   H01J 43/24 20060101ALI20240423BHJP
   H01J 49/00 20060101ALI20240423BHJP
   H01J 37/244 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
H01J49/02 500
H01J43/24
H01J49/00 040
H01J37/244
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023026149
(22)【出願日】2023-02-22
【審査請求日】2024-04-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【弁理士】
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(72)【発明者】
【氏名】林 雅宏
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-289693(JP,A)
【文献】特開2016-139606(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49
H01J 43
H01J 37
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子が入力される入力面と、前記荷電粒子の入力に応じて発生した電子を増倍する増倍部と、前記増倍部によって増倍された電子を出力する出力面とを有するマイクロチャネルプレートと、
前記出力面から分離して前記出力面に略平行に配置され、前記出力面から出力された電子を増倍する平面状の第1のダイノードと、
前記出力面と前記第1のダイノードとの間において、前記出力面及び前記第1のダイノードと分離して配置され、前記第1のダイノードによって増倍された電子を収集するアノードと、
前記アノードと前記第1のダイノードとの間において、前記アノード及び前記第1のダイノードと分離して配置され、前記第1のダイノードによって増倍された電子をさらに増倍して前記アノードに向けて通過させる第2のダイノードと、
を備える、
MCP検出器。
【請求項2】
前記第2のダイノードの電位は前記出力面の電位よりも高く、かつ、前記アノードの電位は前記第2のダイノードの電位よりも高くされている、
請求項1に記載のMCP検出器。
【請求項3】
前記第2のダイノードの電位は前記第1のダイノードの電位よりも高くされている、
請求項2に記載のMCP検出器。
【請求項4】
前記アノードは、前記平面に沿った方向に延びる金属細線を含み、
前記第2のダイノードは、前記平面に沿った方向に延びる金属細線を含む、
請求項1~3のいずれか1項に記載のMCP検出器。
【請求項5】
前記第2のダイノードと前記第1のダイノードとの距離は、前記アノードと前記第2のダイノードとの距離より大きい、
請求項1~3のいずれか1項に記載のMCP検出器。
【請求項6】
前記アノードは、前記出力面と前記第1のダイノードとの中間の位置と、前記第1のダイノードとの中間の位置よりも、前記第1のダイノード寄りに配置されている、
請求項1~3のいずれか1項に記載のMCP検出器。
【請求項7】
前記第2のダイノードは、前記第2のダイノードを支持する絶縁性の支持部材をさらに有し、
前記支持部材は、前記第1のダイノードの面上の二次電子放出膜が設けられた領域よりも、前記出力面から見て外側に設けられている、
請求項1~3のいずれか1項に記載のMCP検出器。
【請求項8】
前記アノードは、前記アノードを支持する絶縁性の支持部材をさらに有し、
前記支持部材は、前記第1のダイノードの面上の二次電子放出膜が設けられた領域よりも、前記出力面から見て外側に設けられている、
請求項1~3のいずれか1項に記載のMCP検出器。
【請求項9】
請求項1~3のいずれか1項に記載のMCP検出器を備える分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態の一側面は、MCP検出器及び分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロチャネルプレート(MCP:Microchannel Plate)を備えたMS装置(Mass Spectrometry)等の分析装置では、当該マイクロチャネルプレートの出力リニアリティの向上が求められている。マイクロチャネルプレートの出力リニアリティの向上のためにマイクロチャネルプレートの低抵抗化を図ることが検討されていたが、低抵抗化による出力リニアリティの改善は既に限界に近付いている。
【0003】
従来から、マイクロチャネルプレートにアノード及びダイノードを組み合わせた三極菅構造が検討されている。三極菅構造を有する従来の荷電粒子検出器として、例えば下記特許文献1に記載の電子増倍装置が知られている。この電子増倍装置は、MCPと、MCPの出力面に平行に配置されたダイノードおよび格子状アノードとを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭57-196466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したような従来の電子増倍装置においては、MCPを搭載した検出器の検出性能がMCP固有の出力リニアリティの限界によって頭打ちとなってきている。そのため、MCPを搭載した検出器の検出性能の向上が望まれている。
【0006】
そこで、実施形態の一側面は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、MCPを搭載した検出器の検出性能を向上させることが可能なMCP検出器及び分析装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の第一の側面に係るMCP検出器は、荷電粒子が入力される入力面と、荷電粒子の入力に応じて発生した電子を増倍する増倍部と、増倍部によって増倍された電子を出力する出力面とを有するマイクロチャネルプレートと、出力面から分離して出力面に略平行に配置され、出力面から出力された電子を増倍する平面状の第1のダイノードと、出力面と第1のダイノードとの間において、出力面及び第1のダイノードと分離して配置され、第1のダイノードによって増倍された電子を収集するアノードと、アノードと第1のダイノードとの間において、アノード及び第1のダイノードと分離して配置され、第1のダイノードによって増倍された電子をさらに増倍してアノードに向けて通過させる第2のダイノードと、を備える。
【0008】
あるいは、実施形態の第二の側面に係る分析装置は、上記のMCP検出器を備える。
【0009】
上記第一の側面あるいは上記第二の側面によれば、マイクロチャネルプレート(以下、「MCP」ともいう。)の入力面に入力する荷電粒子に応じてMCPの出力面から出力された電子のうちアノード及び第2のダイノードを通過した電子が、第1のダイノードによって増倍され、増倍された電子が第2のダイノードによって再び増倍されてアノードに向けて通過する。そして、第2のダイノードによって増倍された電子がアノードによって捕獲される。これにより、アノードの獲得電子を基にした出力信号において、MCPの出力電子を2つのダイノードによって繰り返し増倍した電子数を反映することができる。その結果、MCP検出器全体の出力リニアリティを改善することができ、MCP検出器あるいはそれを備える分析装置の検出性能を向上させることができる。
【0010】
上記第一の側面あるいは上記第二の側面においては、前記第2のダイノードの電位は前記出力面の電位よりも高く、かつ、前記アノードの電位は前記第2のダイノードの電位よりも高くされている、ことが好適である。このように設定されることにより、出力面から出力された電子を効率的に第2のダイノードに到達させることができ、第2のダイノードによって増倍された電子をアノードによって効率的に捕獲させることができる。その結果、MCP検出器あるいはそれを備える分析装置の検出性能を大幅に向上させることができる。
【0011】
また、上記第一の側面あるいは上記第二の側面においては、前記第2のダイノードの電位は前記第1のダイノードの電位よりも高くされている、ことも好適である。この場合、第1のダイノードによって増倍された電子を第2のダイノードに効率よく到達させることができる。その結果、MCP検出器あるいはそれを備える分析装置の検出性能をさらに向上させることができる。
【0012】
また、上記第一の側面あるいは上記第二の側面においては、アノードは、平面に沿った方向に延びる金属細線を含み、第2のダイノードは、平面に沿った方向に延びる金属細線を含む、ことも好適である。この場合、MCPの出力電子を第1のダイノードに向けて低損失で通過させることができ、第1のダイノード及び第2のダイノードによって増倍された電子をアノードにおいて低損失で獲得させることができる。その結果、MCP検出器あるいはそれを備える分析装置の検出性能をさらに大幅に向上させることができる。
【0013】
また、上記第一の側面あるいは上記第二の側面においては、第2のダイノードと第1のダイノードとの距離は、アノードと第2のダイノードとの距離より大きい、ことも好適である。この場合、第2のダイノードと第1のダイノードとの距離を確保することができ、第1のダイノードにおけるゲインを大きくために第2のダイノードと第1のダイノード間の電位差を高く設定した場合であっても耐電圧を高くすることができる。
【0014】
また、上記第一の側面あるいは上記第二の側面においては、アノードは、出力面と第1のダイノードとの中間の位置と、第1のダイノードとの中間の位置よりも、第1のダイノード寄りに配置されている、ことも好適である。こうすれば、MCPの出力面から出力された電子の第1のダイノードへの入射効率が改善され、MCP検出器の検出性能をさらに向上させることができる。
【0015】
また、上記第一の側面あるいは上記第二の側面においては、第2のダイノードは、第2のダイノードを支持する絶縁性の支持部材をさらに有し、支持部材は、第1のダイノードの面上の二次電子放出膜が設けられた領域よりも、出力面から見て外側に設けられている、ことも好適である。かかる構成を採れば、第1のダイノードによって増倍された電子の収集効率を向上させ、MCP検出器の検出性能をさらに向上させることができる。
【0016】
また、上記第一の側面あるいは上記第二の側面においては、アノードは、アノードを支持する絶縁性の支持部材をさらに有し、支持部材は、第1のダイノードの面上の二次電子放出膜が設けられた領域よりも、出力面から見て外側に設けられている、ことも好適である。かかる構成を採れば、第1のダイノードによって増倍された電子の収集効率を向上させ、MCP検出器の検出性能をさらに向上させることができる。
【0017】
実施形態のMCP検出器は、[1]「荷電粒子が入力される入力面と、前記荷電粒子の入力に応じて発生した電子を増倍する増倍部と、前記増倍部によって増倍された電子を出力する出力面とを有するマイクロチャネルプレートと、前記出力面から分離して前記出力面に略平行に配置され、前記出力面から出力された電子を増倍する平面状の第1のダイノードと、前記出力面と前記第1のダイノードとの間において、前記出力面及び前記第1のダイノードと分離して配置され、前記第1のダイノードによって増倍された電子を収集するアノードと、前記アノードと前記第1のダイノードとの間において、前記アノード及び前記第1のダイノードと分離して配置され、前記第1のダイノードによって増倍された電子をさらに増倍して前記アノードに向けて通過させる第2のダイノードと、を備える、MCP検出器」である。
【0018】
実施形態のMCP検出器は、[2]「前記第2のダイノードの電位は前記出力面の電位よりも高く、かつ、前記アノードの電位は前記第2のダイノードの電位よりも高くされている、上記[1]に記載のMCP検出器」であってもよい。
【0019】
実施形態のMCP検出器は、[3]「前記第2のダイノードの電位は前記第1のダイノードの電位よりも高くされている、上記[2]に記載のMCP検出器」であってもよい。
【0020】
実施形態のMCP検出器は、[4]「前記アノードは、前記平面に沿った方向に延びる金属細線を含み、前記第2のダイノードは、前記平面に沿った方向に延びる金属細線を含む、上記[1]~[3]のいずれかに記載のMCP検出器」であってもよい。
【0021】
実施形態のMCP検出器は、[5]「前記第2のダイノードと前記第1のダイノードとの距離は、前記アノードと前記第2のダイノードとの距離より大きい、上記[1]~[4]のいずれかに記載のMCP検出器」であってもよい。
【0022】
実施形態のMCP検出器は、[6]「前記アノードは、前記出力面と前記第1のダイノードとの中間の位置と、前記第1のダイノードとの中間の位置よりも、前記第1のダイノード寄りに配置されている、上記[1]~[5]のいずれかに記載のMCP検出器」であってもよい。
【0023】
実施形態のMCP検出器は、[7]「前記第2のダイノードは、前記第2のダイノードを支持する絶縁性の支持部材をさらに有し、前記支持部材は、前記第1のダイノードの面上の二次電子放出膜が設けられた領域よりも、前記出力面から見て外側に設けられている、上記[1]~[6]のいずれかに記載のMCP検出器」であってもよい。
【0024】
実施形態のMCP検出器は、[8]「前記アノードは、前記アノードを支持する絶縁性の支持部材をさらに有し、前記支持部材は、前記第1のダイノードの面上の二次電子放出膜が設けられた領域よりも、前記出力面から見て外側に設けられている、上記[1]~[7]のいずれかに記載のMCP検出器」であってもよい。
【0025】
実施形態の分析装置は、[9]「上記[1]~[8]のいずれかに記載のMCP検出器を備える分析装置」であってもよい。
【発明の効果】
【0026】
本開示のいずれかの側面によれば、MCPを搭載した検出器の検出性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、実施形態に係るMCP検出器1の構成を示す断面図である。
図2図2は、アノード8の具体的な構成を示す平面図である。
図3図3は、アノード8及びダイノード7の支持構造を示す断面図である。
図4図4は、制御部9によって電位が設定されたMCP3の増倍部11A,11Bの1つのチャネルにおける二次電子の増倍状態を示す断面図である。
図5図5は、制御部9の信号処理部9aの構成を示すブロック図である。
図6図6は、MCP検出器1においてダイノード7の電位を変化させた際の各電極におけるゲインの測定結果を示すグラフである。
図7図7は、MCP検出器1におけるゲインの測定結果を示すグラフである。
図8図8は、MCP検出器1におけるゲインの測定結果を示すグラフである。
図9図9は、アノード8の変形例の構成を示す平面図である。
図10図10は、アノード8から出力されたパルス信号を基にした信号処理部9aによる入力位置の演算方法を説明するための図である。
図11図11は、信号処理部9aによって生成された画像の表示例を示す図である。
図12図12は、信号処理部9aによって生成された画像の表示例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0029】
図1は、実施形態に係るMCP検出器1の構成を示す断面図である。図1中において、回路部はブロックで図示されている。MCP検出器1は、入力される荷電粒子を検出する装置である。検出対象の荷電粒子には、電子或いはイオンなどが含まれうる。本実施形態では、MCP検出器1の検出対象として電子を例示する。
【0030】
図1に示すように、MCP検出器1は、MCP3と、ダイノード(第1のダイノード)5と、ダイノード(第2のダイノード)7と、アノード8と、制御部9とを備える。これらのMCP3、ダイノード5、ダイノード7、及びアノード8は、それぞれ、全体として略平面状をなしており、互いに略平行になるように配置される。以下、MCP検出器1の各構成要素の構成について説明する。
【0031】
MCP3は、電子が入力される入力面3aと、入力面3aに対する電子の二次元的な位置を維持しながら電子の入力に応じて発生する二次電子の増倍(二次電子増倍)を行う一対の増倍部11A,11Bと、増倍部11A,11Bによって増倍された電子を出力する出力面3bとを備えて構成されている。増倍部11A,11Bのそれぞれは、互いに独立した複数のマイクロチャネル構造を有する二次電子増倍部である。増倍部11A,11Bでは、複数のマイクロチャネル構造が二次元配列されている。
【0032】
増倍部11A,11Bの各チャネルは、10μm程度の内径を有し、入力面3aの法線方向(電子の入力方向)に対して10°程度傾斜している。増倍部11Aと増倍部11Bとでは、各チャネルの傾斜方向が反転している。増倍部11A,11Bでは、入力面3a側に対して出力面3b側が高電位に設定されている。入力面3aへの電子の到達に応じて発生した二次電子は、増倍部11A,11Bで増倍され、当該増倍された二次電子が出力面3bから出力される。
【0033】
ダイノード5は、MCP3から出力された電子を増倍する電極である。ダイノード5は、MCP3の出力面3bから分離して出力面3bに略平行に配置された略平板状の電極である。すなわち、ダイノード5は、平板状のステンレス(SUS)等の金属材料からなる支持部材5aと支持部材5aのMCP3寄りの面上に形成された二次電子放出膜5bとを有している。二次電子放出膜5bは、例えば、Al2O3、BeO、LiF、MgF2、MgO、CsBr、NaCl、あるいは結晶ダイヤモンド等の二次電子放出材料を含んで構成される。また、支持部材5aは、絶縁体材料からなる平板状部材上に導体層を積層したものであってもよく、その場合、二次電子放出膜5bは支持部材5aの導体層上に形成される。
【0034】
アノード8は、MCP3の出力面3bと、ダイノード5との間において、MCP3及びダイノード5と分離して配置され、ダイノード5の二次電子放出膜5bによって増倍されて出力面3bに向けて放出された電子を収集(捕獲)する電極である。アノード8は、出力面3bとダイノード5との間の中心位置よりもダイノード5寄りに配置される。アノード8は、出力面3bに略平行な平面に沿った第1の方向Xに延びるワイヤアノード8aを含んで構成される。
【0035】
ワイヤアノード8aは、銅、ニッケル、クロム、SUS等の金属細線(金属ワイヤ)13に酸化防止用のコーティング(金メッキ)15が施されたものである。例えば、ワイヤアノード8aの線幅は50μm以上200μm以下の範囲である。ワイヤアノード8aは、第1の方向Xに垂直な第2の方向Yにおける所定の間隔(例えば、200μm以上1mm以下の間隔)を空けた複数の位置でX方向に延びており、全体が電気的に接続されている。
【0036】
図2は、ワイヤアノード8aの具体的な構成を示す平面図である。ワイヤアノード8aは、図2の(a)部に示すように、枠状の絶縁性の支持部材(図示せず)の対向する1対の辺の間を橋渡しするようにジグザグパターンで金属細線を配置した構成を取りうる。また、ワイヤアノード8aは、図2の(b)部に示すように、枠状の絶縁性の支持部材(図示せず)の対向する1辺に互いに重ならないように金属細線を巻き付けた構成であってもよい。なお、ワイヤアノード8aは、図2の(a)部あるいは(b)部に示した構成を2層有し、2層の金属細線が互いに電気的に絶縁された状態で直交する第1の方向X及び第2の方向Yに延びるように形成されたものであってもよい。
【0037】
また、ワイヤアノード8aは、図2の(c)部に示すように、平板状の絶縁性の支持部材(図示せず)上に、一定周期で複数回折り返され、三角形の接続パッドによって電気的に接続された金属細線が、2本並列に配置された構成であってもよい。
【0038】
また、ワイヤアノード8aは、図2の(d)部に示すように、複数の直線状の金属細線が所定の間隔で配置され、それらの複数の金属細線がジグザグの金属パターンで相互に電気的に接続された層が2層で形成された構成であってもよい。この場合も、2層の金属細線は、絶縁部材(図示せず)を挟んで互いに電気的に絶縁されて直交する第1の方向X及び第2の方向Yに延びるように形成される。
【0039】
上記構成のワイヤアノード8aは、その両端が制御部9に電気的に接続される。ワイヤアノード8aは、2層で形成された構成を有する場合、それぞれの層の金属細線の両端が電気的に独立に制御部9に接続される。
【0040】
ダイノード7は、ダイノード5とアノード8との間においてダイノード5及びアノード8から出力面3bに対して垂直な方向に分離して配置され、ダイノード5によって増倍されてアノード8に向かう電子をさらに増倍してアノード8に向けて通過させる電極である。ダイノード7は、出力面3bに略平行な平面に沿った第2の方向Yに延びる金属細線23と、金属細線23全体を覆うように形成された二次電子放出膜25とを含んで構成される。金属細線23は、ダイノード5の支持部材5aと同様に、金属材料によって構成される。二次電子放出膜25は、アノード8の金属細線13と同様に、二次電子放出材料を含んで構成される。ダイノード7を構成する金属細線23は、第1の方向Xにおける所定の間隔(例えば、200μm以上1mm以下の間隔)を空けた複数の位置でY方向に延びており、全体が電気的に接続されている。ダイノード7は、例えば、図2の(a)部及び(b)部に示したような構成を採りうる。
【0041】
ここで、ダイノード7とダイノード5との距離D2は、ダイノード7とアノード8との距離D1よりも大きく設定されている。また、アノード8は、出力面3bとダイノード5の二次電子放出膜5bとの間の中間の位置と、ダイノード5の二次電子放出膜5bとの間の中間の位置に相当する仮想面50よりも、全体として、ダイノード5寄りに配置されている。
【0042】
図3を参照して、アノード8及びダイノード7の支持構造について説明する。図3は、アノード8及びダイノード7の支持構造を示す断面図である。ダイノード7は、ダイノード7を支持する絶縁性材料からなる支持部材53を有し、アノード8は、アノード8を支持する絶縁性材料からなる支持部材55を有する。これらの支持部材53,55は、出力面3bからダイノード5を見たときに、ダイノード5のMCP3寄りの面上の二次電子放出膜5bが設けられた領域よりも外側に位置するように設けられている。なお、支持部材53と支持部材55とは、共通化された部材とされてもよい。
【0043】
制御部9は、MCP3の入力面3a及び出力面3bと、ダイノード5と、ダイノード7と、アノード8と電気的に接続され、各々の電位を設定するとともに、アノード8から出力されたパルス信号を処理する回路である。制御部9は、アノード8から出力されたパルス信号を処理して、MCP3の入力面3aに入力される電子に関する検出処理を行う信号処理部9aが内蔵されている。
【0044】
すなわち、制御部9は、出力面3bの電位が入力面3aの電位よりも高く、ダイノード5及びダイノード7の電位が出力面3bの電位よりも高く、アノード8の電位がダイノード7の電位よりも高くなるように、かつ、ダイノード7の電位がダイノード5の電位よりも高くなるように、入力面3a、出力面3b、ダイノード5、ダイノード7、及びアノード8に電圧を印加する。言い換えれば、制御部9は、入力面3a、出力面3b、ダイノード5、ダイノード7、及びアノード8の順で電位が高くなるようにそれぞれの電位を設定する。例えば、制御部9は、入力面3aの電位を0Vとして、出力面3bの電位を+1,920V、ダイノード5の電位を+2,112V、アノード8の電位を+2,400V、ダイノード7の電位を+2,112Vより高く+2,400V未満の電位に設定する。
【0045】
図4は、制御部9によって電位が設定されたMCP3の増倍部11A,11Bの1つのチャネルにおける二次電子の増倍状態を示す断面図である。増倍部11A,11Bの入力面3a側のチャネル17の端部には電極19が設けられ、増倍部11A,11Bの出力面3b側のチャネル17の端部には電極21が設けられ、増倍部11Aの各チャネル17の電極21と増倍部11Bの各チャネル17の電極19とが電気的に接続される。制御部9は、増倍部11Aの電極19と増倍部11Bの電極21との間に電極19の電位が低くなるような電圧を供給する。その結果、それぞれの増倍部11A,11Bのチャネル17の両端部間に電圧Vが印加され、チャネル17の内壁部には出力面3b側の端部から入力面3a側の端部に向けてストリップ電流Iが発生する。このような状態でチャネル17の入力面3a側の端部から電子e1が入力されると、電子e1がチャネル17の内壁部に衝突することにより電子が増倍され、チャネル17の内壁部で電子の増倍を繰り返すことにより発生した二次電子e2がチャネル17の出力面3b側の端部から出力される。増倍部11A,11Bの出力電子はストリップ電流Iの一部を取り出すことにより発生しており、そのため、MCP3の出力リニアリティはストリップ電流Iの値の7%程度となる。このことから、MCP3自体の出力リニアリティの向上にはチャネル17の内壁部の抵抗値を低くする必要がある。なお、出力リニアリティとは、入力電子数と出力電子数とを線形の関係を保ちながら出力できる時間当たりの出力電子数の上限を意味する。
【0046】
制御部9の信号処理部9aは、アノード8の金属細線13の端部から、アノード8で収集した電子に応じて出力されたパルス信号を処理して、MCP3の入力面3aへ入力する電子数の検出処理を実行する。具体的には、信号処理部9aは、所定時間内に出力されたパルス信号を処理して、パルスハイトディストリビューション(PHD:Pulse Hight Distribution)特性を取得することで入力電子数をカウントする。
【0047】
図5は、信号処理部9aの構成を示すブロック図である。信号処理部9aは、プリアンプ31、リニアアンプ33,A/D変換器35、及びメモリ37を含んでいる。プリアンプ31は、MCP3に入力された電子e1に応じてアノード8から出力された電荷信号であるパルス信号を基に、電圧信号を生成して出力するチャージアンプである。リニアアンプ33は、プリアンプ31から出力された電圧信号の波形をパルス状の信号に整形する。A/D変換器35は、リニアアンプによって整形された電圧信号の波高値を検出し、所定時間内で検出した波高値の頻度を波高値ごとに積算する。メモリ37は、A/D変換器35によって積算された波高値ごとの頻度を記憶する。メモリ37に記憶された波高値ごとの頻度の分布は、外部のディスプレイ装置39等に出力される。信号処理部9aによって生成されるPHD特性のピークはMCP検出器1の平均ゲイン(ピークチャンネル数)を意味し、MCP3への印加電圧が大きくなると平均ゲインは大きくなる。信号処理部9aは、ダイノード5及びダイノード7のそれぞれにも電気的に接続され、ダイノード5及びダイノード7のそれぞれにおけるPHD特性を生成することもできる。これにより、ダイノード5あるいはダイノード7における平均ゲインも出力電子数として解析することができる。
【0048】
次に、実施形態に係る分析装置について説明する。実施形態に係る分析装置は、上述したMCP検出器1を備える。例えば、分析装置は、質量分析装置(MS:Mass Spectrometry)、あるいは、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscopy)等である。また、分析装置は、X線光電子分光分析装置(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)、光電子顕微鏡(PEEM:Photoemission Electron Microscopy)、アトムプローブトモグラフィー(APT:Atom Probe Tomography)、二次イオン質量分析装置(SIMS:Secondary Ion Mass Spectroscopy)等であってもよい。
【0049】
本実施形態の作用効果について説明する。
【0050】
本実施形態に係るMCP検出器1及びそれを含む分析装置においては、入力面3aに入力する電子e1に応じて出力面3bから出力された電子e2のうちアノード8及びダイノード7を通過した電子が、ダイノード5によって増倍され、増倍された電子e3がダイノード7によって再び増倍されてアノード8に向けて通過する。そして、ダイノード7によって増倍された電子e4がアノード8によって捕獲される。これにより、アノード8の獲得電子を基にしたパルス信号において、MCP3の出力電子を2つのダイノード5,7によって繰り返し増倍した電子数を反映することができる。その結果、MCP検出器全体の出力リニアリティを改善することができ、MCP検出器1あるいはそれを備える分析装置の検出性能を向上させることができる。
【0051】
XPS装置のようなMCP検出器を搭載した従来の分析装置の検出性能は、MCP固有の出力リニアリティによって頭打ちとなっている。近年、XPS装置においては、X線プローブの高輝度化、帯電対策等が行われることにより、スループットの向上が図られてきている。そのため、MCP検出器のカウンティングレートが高くできれば分析装置全体でのスループットの向上が可能となる。MCP検出器の出力リニアリティは、MCPゲインとカウンティングレートの積で表現され、MCPゲインとカウンティングレートとはトレードオフの関係にある。また、MPC検出器に内蔵されるMCP固有の出力リニアリティはMCPのチャネルの低抵抗化によって向上するが、現状ではMCPの発熱時の性能維持の観点から低抵抗化には限界がある。本実施形態によれば、MCP検出器における出力リニアリティが改善されているので、MCPゲインを維持したままカウンティングレートを改善することができる。
【0052】
本実施形態においては、ダイノード7の電位は出力面3bの電位よりも高く、かつ、アノード8の電位はダイノード7の電位よりも高くされている。このように設定されることにより、出力面3bから出力された電子e2を効率的にダイノード7に到達させることができ、ダイノード7によって増倍された電子e3をアノード8によって効率的に捕獲させることができる。その結果、MCP検出器1の出力リニアリティを改善することができ、MCP検出器1あるいはそれを備える分析装置の検出性能を大幅に向上させることができる。
【0053】
また、本実施形態においては、ダイノード7の電位はダイノード5の電位よりも高くされている。この場合、ダイノード5によって増倍された電子e3をダイノード7に効率よく到達させることができる。その結果、MCP検出器1あるいはそれを備える分析装置の検出性能をさらに向上させることができる。
【0054】
また、本実施形態においては、アノード8は、平面に沿った第1の方向Xに延びる金属細線13を含み、ダイノード7は、平面に沿った第2の方向Yに延びる金属細線23を含んでいる。この場合、MCP3の出力電子e2をダイノード5に向けて低損失で通過させることができ、ダイノード5及びダイノード7によって増倍された電子e3,e4をアノード8において低損失で獲得させることができる。その結果、MCP検出器1あるいはそれを備える分析装置の検出性能をさらに大幅に向上させることができる。
【0055】
また、本実施形態においては、ダイノード7とダイノード5との距離D2は、アノード8とダイノード7との距離D1より大きくされている。アノード8とダイノード7との間の電位差をV1、ダイノード7とダイノード5との電位差をV2とすると、V1は数十Vで、V2は100~500Vに設定する必要があり、V1<V2となる。それは、全体のゲインを大きくするためには出力面3bとダイノード5との電位差Vaを大きくする必要があることと、ダイノード5のゲインを大きくするためにはV2≒Vaとする必要があるためである。この場合、ダイノード7とダイノード5との距離を確保することができ、ダイノード5におけるゲインを大きくためにダイノード7とダイノード5間の電位差を高く設定した場合であっても耐電圧を高くすることができる。
【0056】
また、本実施形態においては、アノード8は、仮想面50よりも、ダイノード5寄りに配置されている。こうすれば、MCP3の出力面3bから出力された電子のダイノード5への入射効率(透過率)が改善され、MCP検出器1の検出性能をさらに向上させることができる。
【0057】
また、本実施形態においては、ダイノード7は、ダイノード7を支持する絶縁性の支持部材53をさらに有し、支持部材53は、ダイノード5の面上の二次電子放出膜5bが設けられた領域よりも、出力面3bから見て外側に設けられている。かかる構成を採れば、ダイノード5によって増倍されて拡散される電子e3のダイノード7における収集効率を向上させ、MCP検出器1の検出性能をさらに向上させることができる。
【0058】
また、本実施形態においては、アノード8は、アノード8を支持する絶縁性の支持部材55をさらに有し、支持部材55は、ダイノード5の面上の二次電子放出膜5bが設けられた領域よりも、出力面3bから見て外側に設けられている。かかる構成を採れば、ダイノード5によって増倍されて拡散されてダイノード7を経由した電子e4のアノード8における収集効率を向上させ、MCP検出器1の検出性能をさらに向上させることができる。
【0059】
図6は、MCP検出器1においてダイノード7の電位のみを変化させ、その他の電極の電位を固定した際の各電極におけるゲイン(パルス信号内に含まれる電子の数)の測定結果を示すグラフである。ここで、縦軸は各電極において得られたゲインの絶対値、横軸はダイノード7の電位を表している。各ゲインの数値において、電極から電子が放出される場合は正の値と定義され、電極に電子が吸収される場合は負の値と定義されている。また、この測定系においてMCP3から出力された電子に対するダイノード5の二次電子増倍率は2倍程度であった。つまり、ダイノード5は吸収した2倍の電子を放出するが、吸収と放出した電子の差がゲインとして測定されるため、測定結果は実際のゲインに対して1/2となっている。この測定結果から、ダイノード7の電位をアノード8に等しい電位+2,400Vから低下させた場合、ダイノード5のゲインは変化しない一方で、アノード8のゲインが増大する。ここで、ダイノード7が電子を増倍する機能を有しないと仮定した場合、ダイノード5から出力された電子は、ダイノード7及びアノード8に吸収される。ダイノード5からダイノード7及びアノード8に向けて出力される電子の総和、すなわち、ダイノード7によって吸収される電子の数とアノード8によって吸収される電子の数との和は、測定原理上、常にダイノード5のゲインの2倍(破線)に等しくなると想定され、ダイノード7の電位に関わらずほぼ一定となるはずである。ところが、ダイノード7のゲインは、ダイノード7の電位が+2,350V以上の場合には電子を吸収していることを意味する負の値になっている一方で、ダイノード7の電位が+2,350Vより低い+2,100V~+2300Vの範囲においては電子を放出していることを意味する正の値になるとともに、アノード8のゲインは測定原理上の出力である破線よりも大きくなっている。したがって、ダイノード5から出力される電子の総和(ダイノード5のゲインの2倍)よりもさらに多くの電子がアノード8に吸収されていることが分かり、その増分はダイノード7の正のゲインの数値に概ね対応している。一方で、ダイノード7の電位がダイノード5の電位+2,112Vより低い値となると、電子放出能が低下することも明らかとされた。このことから、ダイノード7の電位が+2,112V~+2,300Vの範囲においてダイノード7が電子を増倍しており、これに応じてアノード8のゲインも向上していることが分かる。
【0060】
図7は、MCP検出器1におけるPHD特性の測定結果を示すグラフである。図7に示すグラフの横軸はゲイン、縦軸は検出カウント数を示している。ゲインは1カウントのパルス信号内に含まれる電子の数のことであり、測定結果において波高分布のピーク位置と定義する。グラフG1、G2は、本実施形態においてダイノード7の電位をアノード8と同電位+2,400Vに設定し、かつダイノード5の電位を+2,112Vに設定した際のダイノード7、アノード8の出力測定結果を示している。また、図8のグラフG3、グラフG4は、本実施形態においてダイノード7の電位をアノード8の電位+2,400Vよりも低い+2,304Vに設定し、かつダイノード5の電位を+2,112Vに設定した際のダイノード7、アノード8の出力測定結果を示している。これらの測定結果により、アノード8のゲインがダイノード7の電位をアノード8の電位よりも低く設定することによりさらにゲインが改善されていることが分かる。
【0061】
以上、本発明の種々の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。
【0062】
図9は、アノードの変形例の構成を示す平面図である。図9に示すアノード107は、第1の方向Xに沿って所定の間隔で互いに平行に延びる複数の絶縁体109上に形成された金属パターンである線状アノード107aと、第2の方向Yに沿って所定の間隔で互いに平行に延びる複数の金属パターンである線状アノード107bとを含んで構成される。複数の線状アノード107aと複数の線状アノード107bとは絶縁体109を挟んで互いに絶縁されている。ただし、複数の線状アノード107aと複数の線状アノード107bとは空間を隔てることにより互いに絶縁されてもよい。また、複数の線状アノード107a及び複数の線状アノード107bは、それぞれが電気的に独立して制御部9に接続される。本変形例においては、制御部9の信号処理部9aは、複数の線状アノード107a及び複数の線状アノード107b毎にパルス信号を検出し、それぞれのパルス信号を基に、複数の線状アノード107aのライン及び複数の線状アノード107bのライン毎の電荷量の分布を計測することでMCPへの電子の入力位置を算出する。
【0063】
また、MCP検出器1の信号処理部9aは、アノード8が、図2の(a)部あるいは(b)部に示したようなワイヤアノード8aの構成を2層で有する場合、図2の(d)部に示すような構成を有する場合、次のようにして、二次元ヒストグラムを生成する機能を有していてもよい。
【0064】
図10は、2層のワイヤアノード8aから出力されたパルス信号を基にした信号処理部9aによる入力位置の演算方法を説明するための図である。MCP3からの出力電子雲Ceが2層のワイヤアノード8aによって捕獲されると、一方のワイヤアノード8aにおける捕獲量に応じたパルス信号Px1が、出力電子雲Ceの位置からワイヤアノード8aの一端X1に伝搬すると同時に、その捕獲量に応じたパルス信号Px2が出力電子雲Ceの位置からワイヤアノード8aの他端X2に伝搬する。それと同時に、他方のワイヤアノード8aにおける捕獲量に応じたパルス信号Py1が、出力電子雲Ceの位置からワイヤアノード8aの一端Y1に伝搬すると同時に、その捕獲量に応じたパルス信号Py2が出力電子雲Ceの位置からワイヤアノード8aの他端Y2に伝搬する。
【0065】
信号処理部9aは、所定のカウンティングレートで、上記のパルス信号Px1,Px2,Py1,Py2を検出し、それらのパルス信号の検出タイミングtx1,tx2,ty1,ty2を基に、下記式(1),(2)を用いて伝搬時間差を利用して出力電子雲Ceの入力位置を示す二次元座標(x、y)を算出する。ここで、C,Cは既定の定数である。
x=C・(tx1-tx2) …(1)
y=C・(ty1-ty2) …(2)
信号処理部9aにおける二次元座標の算出のカウンティングレートは、1つの出力電子雲Ceの検出中に次の出力電子雲が捕獲されないような値が、MCP3の特性に応じて予め設定される。
【0066】
また、信号処理部9aは、所定時間において上述した方法によって算出した二次元座標をカウントすることにより二次元ヒストグラムを算出し、算出した二次元ヒストグラムを表した画像を生成する。この画像により、所定時間内にMCP3に入力された電子の二次元的な位置分布が把握可能となる。
【0067】
図11および図12は、信号処理部9aによって生成された画像の表示例を示す図である。図11は、二次元ヒストグラムをビンサイズ250ps(ピコ秒)で生成した場合の画像表示例であり、図12は、次元ヒストグラムをビンサイズ50psで生成した場合の画像表示例である。このように、ビンサイズを大きくしたほうがカウント数は大きくなり、ビンサイズを小さくしたほうが画像の解像度は高くなる。
【0068】
上述した変形例にかかるMCP検出器1によれば、MCPゲインを維持したままカウンティングレートを改善することができ、MCPゲインを維持することによって、入力電子雲が跨るワイヤアノードの本数を保つことができる。その結果、MCP検出器1で生成される電子の二次元座標を表す画像における解像度(位置精度、空間分解能)を維持することができる。
【0069】
本実施形態では、MCP検出器1の検出対象の荷電粒子が電子である場合を例示したが、MCP検出器1をイオン検出器として用いる場合、検出器に入力される荷電粒子はイオンである。入力されたイオンは、MCPの入力面近傍において二次電子に変換され、結果としてMCPの出力面から出力されるのは電子である。
【符号の説明】
【0070】
1…MCP検出器、3…MCP、3a…入力面、3b…出力面、5…ダイノード(第1のダイノード)、7…ダイノード(第2のダイノード)、8,107…アノード、8a,107a,107b…ワイヤアノード、線状アノード(金属細線)、23…金属細線(金属ワイヤ)、9…制御部、9a…信号処理部、11A,11B…増倍部、13…金属細線(金属ワイヤ)、e1,e2,e3,e4…電子、X…第1の方向、Y…第2の方向。
【要約】
【課題】MCPを搭載した検出器の検出性能を向上させる。
【解決手段】MCP検出器1は、電子e1が入力される入力面3aと、電子e1の入力に応じて発生した電子を増倍する増倍部11A,11Bと、増倍部11A,11Bによって増倍された電子e2を出力する出力面3bとを有するMCP3と、出力面3bから分離して出力面3bに略平行に配置され、出力面3bから出力された電子e2を増倍する平面状のダイノード5と、出力面3bとダイノード5との間において、出力面3b及びダイノード5と分離して配置され、ダイノード5によって増倍された電子e3を収集するアノード8と、アノード8とダイノード5との間において、アノード8及びダイノード5と分離して配置され、ダイノード5によって増倍された電子e3をさらに増倍してアノード8に向けて通過させるダイノード7と、を備える。
【選択図】図1
図1
図2
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図10
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図12