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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】変速機
(51)【国際特許分類】
   F16H 63/20 20060101AFI20240423BHJP
【FI】
F16H63/20
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2023503574
(86)(22)【出願日】2021-03-02
(86)【国際出願番号】 JP2021007983
(87)【国際公開番号】W WO2022185416
(87)【国際公開日】2022-09-09
【審査請求日】2023-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000154347
【氏名又は名称】株式会社ユニバンス
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】加藤 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】山内 義弘
(72)【発明者】
【氏名】中條 泰雅
【審査官】木原 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-071634(JP,A)
【文献】特開2017-048802(JP,A)
【文献】特開2019-152302(JP,A)
【文献】特開平04-151068(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 63/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに平行に配置された第1軸および第2軸と、
前記第1軸に相対回転可能かつ軸方向に移動不能に配置され第1歯が設けられた複数の遊転ギヤと、
前記第1軸に相対回転不能かつ軸方向に移動可能に配置され前記第1歯にかみ合う第2歯が設けられた複数の移動部材と、
前記第2軸に相対回転不能に配置され前記遊転ギヤにかみ合う固定ギヤと、
前記第1歯および前記第2歯の回転を直接または間接に検出するセンサと、
前記センサの検出に基づいて前記第1歯および前記第2歯の回転方向の位置を取得し、前記移動部材の軸方向の移動を開始する制御装置と、を備え、
前記第1軸は、前記第1軸と一体に回転するマークを含み、
前記第2歯の回転方向の位置は、前記マークの回転方向の位置に対して一定の関係にあり、
前記遊転ギヤと前記固定ギヤとがかみ合った状態で前記遊転ギヤが前記第1軸に配置され前記固定ギヤが前記第2軸に配置されたときの前記第1歯の回転方向の位置は、前記第2軸の回転方向の位置に対して一定の関係にあり、
前記センサは、前記第2軸、前記遊転ギヤ又は前記固定ギヤの回転を検出する第2センサを含み、
前記制御装置は、前記遊転ギヤと前記固定ギヤとがかみ合った状態で前記遊転ギヤが前記第1軸に配置され前記固定ギヤが前記第2軸に配置されたときからの前記第2センサの検出を積算した値を記憶するメモリと、
前記メモリが記憶する前記値に基づいて前記第1歯の回転方向の位置を取得する第2演算部と、を備える変速機。
【請求項2】
前記センサは、前記第2センサが回転を検出するギヤの変速段と異なる変速段のギヤ又は前記第2軸の回転を検出する第3センサを含み、
前記制御装置は、前記第3センサの検出に基づいて前記ギヤ又は前記第2軸の回転方向の位置を取得する第3演算部と、
前記第3演算部が取得した前記ギヤ又は前記第2軸の回転方向の位置と前記メモリが記憶する前記値に基づいて取得した前記ギヤ又は前記第2軸の回転方向の位置とを比較する比較部と、を備える請求項記載の変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸に配置されたギヤを選択的に軸に結合する変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
第1歯が設けられた遊転ギヤ及び第2歯が設けられた移動部材を第1軸に配置し、第1軸と平行に配置された第2軸に、遊転ギヤにかみ合う固定ギヤを配置し、制御装置によって移動部材の軸方向の移動を開始し、第1歯と第2歯とをかみ合わせて遊転ギヤを選択的に第1軸に結合する変速機は知られている。この種の変速機において、特許文献1に開示された技術では、スリーブ歯部(第2歯)が設けられた複数のスリーブ(移動部材)を入力軸(第1軸)に配置し、出力軸(第2軸)に配置された伝達ギヤ(固定ギヤ)のいずれかの回転をセンサが検出する。第2軸に配置された固定ギヤは、第1軸に配置された変速ギヤ(遊転ギヤ)とかみ合い、移動部材は第1軸と一体に回転する。制御装置は、センサの入力に基づいて第2歯の回転角を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-85066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし先行技術は、第2歯の回転方向の位置が互いに異なった状態で複数の移動部材が第1軸に配置されると、第1軸に対する第2歯の回転方向の初期位置が互いに異なるため、初期位置を基準に算出された回転角の精度が低下する。
【0005】
本発明はこの問題点を解決するためになされたものであり、第2歯の回転角の算出精度を向上できる変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明の変速機は、互いに平行に配置された第1軸および第2軸と、第1軸に相対回転可能かつ軸方向に移動不能に配置され第1歯が設けられた複数の遊転ギヤと、第1軸に相対回転不能かつ軸方向に移動可能に配置され第1歯にかみ合う第2歯が設けられた複数の移動部材と、第2軸に相対回転不能に配置され遊転ギヤにかみ合う固定ギヤと、第1歯および第2歯の回転を直接または間接に検出するセンサと、センサの検出に基づいて第1歯および第2歯の回転方向の位置を取得し、移動部材の軸方向の移動を開始する制御装置と、を備える。第1軸は、第1軸と一体に回転するマークを含み、第2歯の回転方向の位置は、マークの回転方向の位置に対して一定の関係にある。
【発明の効果】
【0007】
第1の態様によれば、第1軸は、第1軸と一体に回転するマークを含み、第2歯の回転方向の位置は、マークの回転方向の位置に対して一定の関係にある。第2歯の回転方向の初期位置を一定にできるので、第2歯の回転角の算出精度を向上できる。
【0008】
第2の態様によれば、遊転ギヤと固定ギヤとがかみ合った状態で遊転ギヤが第1軸に配置され固定ギヤが第2軸に配置されたときの第1歯の回転方向の位置は、第2軸の回転方向の位置に対して一定の関係にある。第1の態様に効果に加え、第1歯の回転を検出するセンサの数を低減できる。
【0009】
第3の態様によれば、センサは、第2軸、遊転ギヤ又は固定ギヤの回転を検出する第2センサを含む。制御装置は、遊転ギヤと固定ギヤとがかみ合った状態で遊転ギヤが第1軸に配置され固定ギヤが第2軸に配置されたときからの第2センサの検出を積算した値をメモリが記憶し、メモリが記憶する積算値および遊転ギヤと固定ギヤとの各ギヤ比に基づいて各第1歯の初期位置からの回転方向の位置を第2演算部が取得する。第2の態様の効果に加え、各第1歯の回転角を精度良く算出できる。
【0010】
第4の態様によれば、センサは、第2センサが回転を検出するギヤの変速段と異なる変速段のギヤ又は第2軸の回転を検出する第3センサを含む。制御装置は、第3センサの検出に基づいてギヤ又は第2軸の回転方向の位置を第3演算部が取得し、第3演算部が取得したギヤ又は第2軸の回転方向の位置とメモリが記憶する値に基づいて取得したギヤ又は第2軸の回転方向の位置とを比較部が比較する。第3の態様の効果に加え、制御装置やセンサの機能を検証できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施の形態における変速機のブロック図である。
図2】ハブ及び移動部材の斜視図である。
図3】かみ合い処理のフローチャートである。
図4】修正処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。まず図1を参照して変速機10の概略構成を説明する。図1は一実施の形態における変速機10のブロック図である。変速機10は、動力が入力される駆動軸11の同軸上に配置された第1軸12と、第1軸12と平行に配置された第2軸13と、を備え、第1軸12に出力ギヤ14が配置されている。変速機10は、駆動軸11に相対回転不能に固定された固定ギヤ15と、固定ギヤ15にかみ合いつつ第2軸13に相対回転不能に固定された固定ギヤ16と、を備えている。第1軸12及び第2軸13は、複数段の変速ギヤとしての1速ギヤ17、2速ギヤ20、3速ギヤ23、4速ギヤ26、5速ギヤ27及び6速ギヤ30を支持する。本実施形態では変速機10は自動車(図示せず)に搭載されている。
【0013】
1速ギヤ17は、第1軸12に相対回転可能に固定された遊転ギヤ18と、遊転ギヤ18とかみ合いつつ第2軸13に相対回転不能に固定された固定ギヤ19と、を備えている。2速ギヤ20は、第1軸12に相対回転可能に固定された遊転ギヤ21と、遊転ギヤ21とかみ合いつつ第2軸13に相対回転不能に固定された固定ギヤ22と、を備えている。3速ギヤ23は、第1軸12に相対回転可能に固定された遊転ギヤ24と、遊転ギヤ24とかみ合いつつ第2軸13に相対回転不能に固定された固定ギヤ25と、を備えている。
【0014】
4速ギヤ26は出力ギヤ14からなる。5速ギヤ27は、第1軸12に相対回転可能に固定された遊転ギヤ28と、遊転ギヤ28とかみ合いつつ第2軸13に相対回転不能に固定された固定ギヤ29と、を備えている。6速ギヤ30は、第1軸12に相対回転可能に固定された遊転ギヤ31と、遊転ギヤ31とかみ合いつつ第2軸13に相対回転不能に固定された固定ギヤ32と、を備えている。
【0015】
固定ギヤ15及び遊転ギヤ18,21,24,28,31の端面には、それぞれ軸方向に突出する角形形状の第1歯33が設けられている。固定ギヤ15及び遊転ギヤ18,21,24,28,31に設けられた第1歯33の数、大きさ及び形状は同一である。第1歯33と軸方向に隣り合う位置に設けられたハブ34は、第1軸12に結合している。ハブ34には移動部材37が配置されている。
【0016】
図2はハブ34及び移動部材37の斜視図である。ハブ34は内周面にスプライン35が設けられた円筒状の部材である。ハブ34はスプライン35によって第1軸12に結合する。ハブ34の外周面には、軸方向に延びる溝36が設けられている。移動部材37は、ハブ34の外周面に配置された円環状の部材である。移動部材37の軸方向の端面には、軸方向に突出する角形形状の第2歯38が設けられている。
【0017】
本実施形態では第2歯38は、移動部材37の端面に45°間隔で8個(一つの移動部材37に16個)設けられている。第1歯33(図1参照)も同様に、各ギヤの端面に45°間隔で8個設けられている。第2歯38には、軸方向に細長く延びる突部39が設けられている。突部39がハブ34の溝36にはまる。よって移動部材37は、ハブ34に対して回転不能、且つ、軸方向へ移動可能にハブ34に配置されている。
【0018】
図1に戻って説明する。シフト装置40は移動部材37の軸方向の位置を設定する。シフト装置40は、移動部材37にそれぞれ係合するシフトフォーク41,42,43と、シフトフォーク41,42,43にそれぞれ結合するシフトアーム44,45,46と、円柱状のシフトドラム47と、を備えている。シフトフォーク41は、固定ギヤ15と6速ギヤ30との間に配置された移動部材37に係合する。シフトフォーク42は、5速ギヤ27と2速ギヤ20との間に配置された移動部材37に係合する。シフトフォーク43は、3速ギヤ23と6速ギヤ30との間に配置された移動部材37に係合する。
【0019】
シフトドラム47はモータ等のアクチュエータ48により回転する。シフトドラム47の外周にはカム溝49,50,51が設けられている。シフトアーム44に結合する係合部52はカム溝49に係合する。シフトアーム45に結合する係合部53はカム溝50に係合する。シフトアーム46に結合する係合部54はカム溝51に係合する。
【0020】
制御装置60は、シフトレバー(図示せず)の操作信号に基づき、或いはアクセルペダル(図示せず)の操作によるアクセル開度および車速信号等に基づき、変速段の切換の要求を判断し、シフトドラム47を回転させる。シフトドラム47(円筒カム)が回転すると、カム溝49,50,51に係合部52,53,54がそれぞれガイドされたシフトアーム44,45,46を介して、シフトフォーク41,42,43は軸方向に移動する。シフトフォーク41,42,43の移動に伴い移動部材37は軸方向に移動する。移動部材37が軸方向に移動し、固定ギヤ15及び遊転ギヤ18,21,24,28,31に設けられた第1歯33と移動部材37に設けられた第2歯38とがかみ合うと、移動部材37及びハブ34を介して第1軸12に遊転ギヤ18,21,24,28,31及び駆動軸11のいずれかが選択的に結合し、変速が完了する。
【0021】
変速機10は、固定ギヤ15及び遊転ギヤ18,21,24,28,31の回転速度と移動部材37の回転速度とが異なる状態で、第1歯33と第2歯38とがかみ合わされる。このときに第1歯33と第2歯38のコーナー部分とが当たると第1歯33や第2歯38に破損や摩耗が生じたり、第1歯33と第2歯38とがはじかれて第1歯33と第2歯38とがかみ合わなかったりするおそれがある。これを防ぐために制御装置60は、第1歯33の回転方向の位置と第2歯38の回転方向の位置とを予測して、第1歯33と第2歯38のコーナー部分とが当たらないように、第1歯33と第2歯38とをかみ合わせる。
【0022】
制御装置60には第1センサ55、第2センサ56及び第3センサ57の出力が入力される。第1センサ55、第2センサ56及び第3センサ57は、軸やギヤ等の回転体の回転角を検出するセンサである。第1センサ55、第2センサ56及び第3センサ57は、ロータリーポテンショメータやエンコーダ等が挙げられる。第1センサ55、第2センサ56及び第3センサ57は、磁気、超音波、光学素子などを利用した非接触式センサ、接触式センサのいずれも用いることができる。
【0023】
第1センサ55は、第1軸12の回転を検出し、検出結果を制御装置60に入力する。本実施形態では、第1センサ55は第1軸12と一体に回転するマーク58の回転を検出する。マーク58は、第1軸12の回転を識別するための目印である。本実施形態では、マーク58は、第1軸12に相対回転不能に固定されたギヤである。
【0024】
本実施形態では、第2センサ56は、第2軸13に配置された固定ギヤ16の回転を検出し、検出結果を制御装置60に入力する。第3センサ57は、第1軸12に配置された遊転ギヤ18の回転を検出し、検出結果を制御装置60に入力する。警報装置59は自動車の操縦者が報知を識別できる位置に設けられており、音や光によって操縦者に報知する。
【0025】
制御装置60は、変速機10の各種動作を制御する装置である。制御装置60は、CPU61、不揮発性メモリ(NVRAM)62、ROM及びRAM(図示せず)を備え、それらが入出力ポート63に接続されている。入出力ポート63にはアクチュエータ48、第1センサ55、第2センサ56、第3センサ57、警報装置59が接続されている。
【0026】
CPU61は各部を制御する演算装置である。ROM(図示せず)は、CPU61により実行される制御プログラムや各種の閾値を記憶する書き換え不能な不揮発性のメモリである。RAM(図示せず)は、各種のデータを書き換え可能に記憶するメモリである。NVRAM62は、データを書き換え可能に記憶する不揮発性メモリである。CPU61は、第1センサ55、第2センサ56及び第3センサ57が入力する信号を順次処理してRAMやNVRAM62に記憶させる。
【0027】
変速機10を組み立てる組立工程において、第2歯38の回転方向の位置が、第1軸12に設けられたマーク58の回転方向の位置に対して一定の関係になるように、第1軸12にハブ34及び移動部材37が配置される。マーク58を基準にして全ての第2歯38の回転方向の位置が一定になるので、全ての第2歯38の回転方向の初期位置が一定になる。第2歯38(移動部材37)は第1軸12と一体に回転するので、全ての第2歯38の回転角が同一になる。従って第2歯38の回転を検出するセンサを移動部材37ごとに配置しなくても、第2歯38の回転を直接または間接に検出するセンサが一つあれば、制御装置60は全ての第2歯38の回転を検出できる。
【0028】
本実施形態では、マーク58の回転を検出する第1センサ55によって、第2歯38の回転を間接に検出する。CPU61は、第1センサ55が入力する信号を順次処理し、初期位置(0°)から増加していく第2歯38の回転角θdをRAMに記憶させる。第2歯38の回転角θdは0°から45°まで増加した後、再び0°に戻る。CPU61は、第1センサ55が入力する信号によって、第1軸12の回転速度もRAMに記憶させる。
【0029】
変速機10の組立工程において、遊転ギヤ18,21,24,28,31を第1軸12に配置し、固定ギヤ16,19,22,25,29,32を第2軸13に配置するときには、固定ギヤ15及び遊転ギヤ18,21,24,28,31と固定ギヤ16,19,22,25,29,32とをそれぞれかみ合わせた状態で、第1歯33の回転方向の位置が、第1軸12に設けられたマーク58の回転方向の位置に対して一定の関係になるように全てのギヤが配置される。第2軸13に配置された固定ギヤ16を基準にして全ての第1歯33の回転方向の位置が一定になるので、全ての第1歯33の回転方向の初期位置が一定になる。
【0030】
第1歯33(固定ギヤ15及び遊転ギヤ18,21,24,28,31)は、固定ギヤ15及び遊転ギヤ18,21,24,28,31と固定ギヤ16,19,22,25,29,32とがそれぞれかみ合う変速ギヤのギヤ比に従って回転するので、組み立てた位置から第2軸13の回転の積算値を記憶することで、遊転ギヤ18,21,24,28,31及び固定ギヤ15,19,22,25,29,32のいずれかの回転を検出するセンサが一つあれば、ギヤの回転を検出するセンサを変速ギヤごとに配置しなくても、第2軸13の回転の積算値と各ギヤのギヤ比により、CPU61は全ての第1歯33の回転角を算出できる。
【0031】
本実施形態では、固定ギヤ16の回転を検出する第2センサ56によって、第1歯33の回転を間接に検出する。制御装置60及び第2センサ56は、固定ギヤ15及び遊転ギヤ18,21,24,28,31と固定ギヤ16,19,22,25,29,32とがそれぞれかみ合った状態で各ギヤが第1軸12及び第2軸13に配置されたとき(初期位置)から第2軸13の回転の積算値を記憶できるように、電力供給手段としての主電源の他、予備のバッテリ(図示せず)が接続されている。
【0032】
CPU61は、第2センサ56が入力する信号を順次処理し、初期位置(0°)から増加していく固定ギヤ16の回転角をNVRAM62に記憶させる。第1歯33(固定ギヤ15及び遊転ギヤ18,21,24,28,31)は、固定ギヤ15及び遊転ギヤ18,21,24,28,31と固定ギヤ16,19,22,25,29,32とがそれぞれかみ合う変速ギヤのギヤ比に従って回転するので、CPU61は、NVRAM62に記憶された固定ギヤ16の回転角を読み出し、固定ギヤ15及び遊転ギヤ18,21,24,28,31ごとに全ての第1歯33の回転角θgを算出できる。CPU61は、全ての第1歯33の回転角θgをRAMに記憶させる。第1歯33の回転角θgは0°から45°まで増加した後、再び0°に戻る。
【0033】
CPU61は、第3センサ57が入力する信号を順次処理し、初期位置(0°)から増加していく遊転ギヤ18の第1歯33の回転角θhを算出しRAMに記憶させる。第1歯33の回転角θhは0°から45°まで増加した後、再び0°に戻る。
【0034】
図3及び図4を参照して、変速段の切換を行うかみ合い処理、及び、修正処理について説明する。図3はかみ合い処理のフローチャートであり、図4は修正処理のフローチャートである。かみ合い処理は、変速機10の変速段を切り換えるときに行われる。修正処理は、変速機10が搭載された自動車の作動中は常時行われている。
【0035】
図3に示すように制御装置60は、変速段の切換を行うときに、RAMに記憶されている第2歯38の回転角θdをCPU61(第1演算部)が取得し(S1)、かみ合いを開始する第1歯33の回転角θgをCPU61(第2演算部)が取得する(S2)。CPU61は、第2歯38の回転角θdと第1歯33の回転角θgとの差Δθ1を算出し(S3)、閾値よりもΔθ1が大きいときに移動部材37が軸方向の移動を開始し、第1歯33と第2歯38とがかみ合うようにアクチュエータ48を駆動する(S4:Yes)。閾値は、第2歯38が第1歯33と衝突を起こさずにかみ合いできる駆動タイミングを示すものであり、予めシミュレーション又は試験などを行って決定する。
【0036】
図4に示すように制御装置60は、自動車が作動しているときに、RAMに記憶されている第1歯33(遊転ギヤ18)の回転角θhをCPU61(第3演算部)が取得し(S5)、NVRAM62に記憶されたデータ(回転の積算値)に基づいて算出した第1歯33(遊転ギヤ18)の回転角θgをCPU61(第2演算部)が取得する(S6)。回転角θgと回転角θhとの差Δθ2をCPU61(比較部)が算出し(S7)、閾値1よりもΔθ2が大きいときは(S7:Yes)、CPU61は、出力ギヤ14が配置された第1軸12の回転速度が閾値2よりも小さいときに(S8:Yes)、Δθ2に対応する回転角だけ、NVRAM62に記憶された回転角のデータを書き換える(S9)。
【0037】
閾値1は、NVRAM62に記憶された回転角に基づく計算値θgと、検証用の第3センサ57による回転角θhと、の差が無視できなくなったことを示すものであり、予めシミュレーション又は試験などを行って決定する。回転角θgと回転角θhとの差Δθ2をCPU61(比較部)が求めるので、制御装置60やセンサ等の機能を検証できる。
【0038】
閾値2は、自動車が低速走行していることを示すものであり、予めシミュレーション又は試験などを行ってセンサの判定誤差を加味して決定する。CPU61は、NVRAM62の書き換えが連続して一定数以上(例えば2回目以上)である場合に(S10:No)、警報装置59を作動し(S11)、異常が生じていることを操縦者に報知する。第1歯33の実測値θhと演算値θgにずれが生じるのは、センサやCPU61等に異常が生じている可能性がある。NVRAM62の書き換えが連続して行われている(連続してずれが生じている)場合は誤判定ではなく、変速機10の修理が必要である可能性が高い。これを操縦者に知らせることができるので、変速機10の破損を未然に防ぐことができる。
【0039】
予備のバッテリーを備えることで、主電源が消失した状態であっても予備のバッテリーが接続されたNVRAM62は、互いにギヤをかみ合わせた状態で第1軸12及び第2軸13にギヤを配置したときからの第2センサ56の検出を積算した値を記憶している。よって変速機10が搭載された自動車の前輪または後輪を吊り上げた状態でレッカー車が自動車を牽引する等、出力ギヤ14を介して第1軸12が強制的に回されたときもNVRAM62のデータが書き換えられる。CPU61(第2演算部)は、NVRAM62が記憶する値に基づいて第1歯33の回転角θgを取得する。よって第1歯33の回転角θgの算出精度を向上できる。
【0040】
制御装置60は、NVRAM62に記憶された回転角に基づいて計算した回転角θgと第3センサ57による回転角θhとの差が無視できなくなったときに、回転角θgと回転角θhとの差Δθ2に対応する回転角の分だけNVRAM62に記憶されたデータを書き換えるので、第1歯33の回転角θgの算出精度をさらに向上できる。
【0041】
制御装置60は、自動車が低速走行している(第1歯33の回転速度が小さい)ときにNVRAM62のデータを修正するので、NVRAM62のデータを書き換える時間に生じる第1歯33の回転方向の位置ずれを小さくできる。よってNVRAM62のデータを修正するときに生じる誤差を低減できる。
【0042】
制御装置60は、NVRAM62のデータを修正しても、回転角θgと回転角θhとの差Δθ2が生じるときは警報装置59を作動するので、操縦者は変速機10に異常があることを認識できる。
【0043】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明はこの実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、変速機10の変速段の数、変速ギヤの配置、第1軸12に配置される遊転ギヤの数、第1歯33及び第2歯38の数、大きさ及び形状などは適宜設定できる。
【0044】
実施形態では、変速機10を自動車に搭載する場合について説明したが、これに限られるものではなく、建設機械、産業車両、農業機械等に変速機10を搭載することは当然可能である。
【0045】
実施形態では、ギヤからなるマーク58を第1軸12に設け、第1センサ55がマーク58を検出する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。マークはギヤに限らない。マークは第1軸12と一体に回転するものであれば良い。マークは、第1軸12や移動部材37、ハブ34に設けられた突起や凹み、第1軸12や移動部材37、ハブ34の周の一部に配置された磁石などが挙げられる。移動部材37に設けられた第2歯38をマークとして、第1センサ55が検出することは当然可能である。
【0046】
実施形態では、駆動軸11に設けられた固定ギヤ15にかみ合う固定ギヤ16を第2軸13に配置し、第2センサ56が、固定ギヤ16の回転を検出して第2軸13の回転を検出する場合について説明した。第2センサ56の検出対象は、これに限られるものではない。第2軸13と一体に回転するマークを第2軸13に設け、そのマークを第2センサ56の他の検出対象にすることは当然可能である。第2センサ56の他の検出対象は、固定ギヤ16にかみ合う固定ギヤ15、第1軸12に配置された遊転ギヤ18,21,24,28,31のいずれか、第2軸13に配置された固定ギヤ19,22,25,29,32のいずれかが挙げられる。これらは固定ギヤ15の回転に伴い規則正しく回転するからである。
【0047】
実施形態では、制御装置60及び第2センサ56に予備のバッテリーを接続する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。回転の検出と発電とを行う第2センサ56を採用すると予備のバッテリーを省略できる。このような第2センサ56は例えば中心と外側で異なる透磁率をもつ導線(ウィーガントワイヤ)の周りにコイルを配置した磁気素子が挙げられる。この磁気素子は回転を検出しつつ電気的パルスを発生(発電)する。これにより制御装置60及び第2センサ56に接続する予備のバッテリーを省略できる。
【0048】
実施形態では、第1軸12に配置された遊転ギヤ18の回転を検出する第3センサ57を配置する場合について説明した。第3センサ57の検出対象は、これに限られるものではない。第3センサ57の他の検出対象は、第2センサ56が回転を検出するギヤの変速段と異なる変速段のギヤ又は第2軸13である。第3センサ57の検出対象は、例えば遊転ギヤ21,24,28,31のいずれか、固定ギヤ19,22,25,29,32のいずれかが挙げられる。
【0049】
実施形態では、第3センサ57が遊転ギヤ18の回転を検出し、CPU61(比較部)が、NVRAM62に記憶されたデータに基づいて算出した第1歯33(遊転ギヤ18)の回転角θgと回転角θhとの差Δθ2を算出する場合について説明したが、これに限られるものではない。第3センサ57が固定ギヤ19,22,25,29,32のいずれかの回転を検出する場合には、CPU61(比較部)は、NVRAM62に記憶されたデータに基づいて算出した固定ギヤ19,22,25,29,32のいずれかの回転角と第3センサ57が検出した固定ギヤ19,22,25,29,32のいずれかの回転角とを比較する。
【0050】
実施形態では、駆動軸11に配置された固定ギヤ15にかみ合う固定ギヤ16が第2軸13に配置され、第2軸13に配置された固定ギヤ19,22,25,29,32と第1軸12に配置された遊転ギヤ18,21,24,28,31とがそれぞれかみ合い、第1軸12に出力ギヤ14が配置される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば第2軸13に遊転ギヤ18,21,24,28,31を配置し、第1軸12に固定ギヤ19,22,25,29,32を配置することは当然可能である。また、固定ギヤ15,16を省略して駆動軸11を第1軸12に接続し、出力ギヤ14を第2軸13に配置することは当然可能である。
【0051】
実施形態では、修正処理(図4参照)において、NVRAM62のデータを修正する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。S8-S10の処理を省略し、回転角θgと回転角θhとの差Δθ2が閾値1よりも大きいときに(S7:Yes)、S11の処理を実行して、警報装置59を作動させることは当然可能である。
【符号の説明】
【0052】
10 変速機
12 第1軸
13 第2軸
18,21,24,28,31 遊転ギヤ
19,22,25,29,32 固定ギヤ
33 第1歯
37 移動部材
38 第2歯
55 第1センサ
56 第2センサ
57 第3センサ
58 マーク
60 制御装置
62 NVRAM(メモリ)
図1
図2
図3
図4