(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】車両の制御装置、車両の制御方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
F16H 61/02 20060101AFI20240423BHJP
F16H 59/50 20060101ALI20240423BHJP
F16H 63/50 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
F16H61/02
F16H59/50
F16H63/50
(21)【出願番号】P 2023503703
(86)(22)【出願日】2022-02-16
(86)【国際出願番号】 JP2022006248
(87)【国際公開番号】W WO2022185925
(87)【国際公開日】2022-09-09
【審査請求日】2023-08-24
(31)【優先権主張番号】P 2021035860
(32)【優先日】2021-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥野 幸一
(72)【発明者】
【氏名】岩堂 圭介
(72)【発明者】
【氏名】小栗 慎
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-84742(JP,A)
【文献】特開2009-275971(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/02
F16H 59/50
F16H 63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動輪を駆動する第1駆動源によって駆動され油圧作動機械に油を供給する第1オイルポンプと、前記第1駆動源とは異なる第2駆動源によって駆動され前記油圧作動機械に油を供給する第2オイルポンプと、を備える車両の制御装置であって、
前記車両の起動スイッチがオンになって最初の前記第1駆動源の始動時に前記第2オイルポンプを駆動させると共に、前記第1駆動源の始動後に前記第2オイルポンプが駆動されていない時間が第1所定時間続くと前記第2オイルポンプを駆動させ、
前記第1駆動源の始動時の前記第2オイルポンプの回転速度は、前記第1駆動源の始動後における前記第2オイルポンプの回転速度よりも低い、
車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の制御装置であって、
前記第1駆動源の始動後には、前記第2オイルポンプを前記第1所定時間ごとに第2所定時間駆動させる、
車両の制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の車両の制御装置であって、
前記第1駆動源の始動時の前記第2オイルポンプの駆動時間は、前記第1駆動源の始動後の前記第2オイルポンプの駆動時間よりも長い、
車両の制御装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一つに記載の車両の制御装置であって、
前記第1駆動源の始動時の前記第2オイルポンプの回転速度は、前記第1駆動源の始動後の前記第2オイルポンプの最低回転速度よりも低い、
車両の制御装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一つに記載の車両の制御装置であって、
前記第1駆動源は、エンジンであり、
前記第2駆動源は、電動モータであり、
前記油圧作動機械は、油圧作動される変速機である、
車両の制御装置。
【請求項6】
車両の駆動輪を駆動する第1駆動源によって駆動され油圧作動機械に油を供給する第1オイルポンプと、前記第1駆動源とは異なる第2駆動源によって駆動され前記油圧作動機械に油を供給する第2オイルポンプと、を備える車両の制御方法であって、
前記車両の起動スイッチがオンになって最初の前記第1駆動源の始動時に前記第2オイルポンプを駆動すると共に、前記第1駆動源の始動後に前記第2オイルポンプが駆動されていない時間が第1所定時間続くと前記第2オイルポンプを駆動し、
前記第1駆動源の始動時の前記第2オイルポンプの回転速度は、前記第1駆動源の始動後における前記第2オイルポンプの回転速度よりも低い、
車両の制御方法。
【請求項7】
車両の駆動輪を駆動する第1駆動源によって駆動され油圧作動機械に油を供給する第1オイルポンプと、前記第1駆動源とは異なる第2駆動源によって駆動され前記油圧作動機械に油を供給する第2オイルポンプと、を備える車両のコンピュータが実行可能なプログラムであって、
前記車両の起動スイッチがオンになって最初の前記第1駆動源の始動時に前記第2オイルポンプを駆動すると共に、前記第1駆動源の始動後に前記第2オイルポンプが駆動されていない時間が第1所定時間続くと前記第2オイルポンプを駆動する手順を前記コンピュータに実行させ、
前記第1駆動源の始動時の前記第2オイルポンプの回転速度は、前記第1駆動源の始動後における前記第2オイルポンプの回転速度よりも低い、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置、車両の制御方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、イグニッションスイッチがオフ操作された後に、電動オイルポンプによって自動変速機の第1ブレーキに油圧を供給して係合させることにより、第1ブレーキの油路中に混入したエアを排出する車両用自動変速機の制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の制御装置では、イグニッションスイッチがオフ操作された後にエア抜きが実行されても、次にイグニッションスイッチがオン操作されるまでに時間が開くと、油路内にエアが混入して応答性の低下が発生するおそれがある。
【0005】
また、本発明者は、車両のイグニッションスイッチ(起動スイッチ)がオンになって最初に電動オイルポンプが作動を開始する際に油路内にエアが混入していると、吸込音が発生して運転者に違和感を与えるおそれがあることを認識した。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、オイルポンプの吸込音を抑制して、運転者に違和感を与えないようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様によれば、車両の駆動輪を駆動する第1駆動源によって駆動され油圧作動機械に油を供給する第1オイルポンプと、前記第1駆動源とは異なる第2駆動源によって駆動され前記油圧作動機械に油を供給する第2オイルポンプと、を備える車両の制御装置は、前記車両の起動スイッチがオンになって最初の前記第1駆動源の始動時に前記第2オイルポンプを駆動させると共に、前記第1駆動源の始動後に前記第2オイルポンプが駆動されていない時間が第1所定時間続くと前記第2オイルポンプを駆動させ、前記第1駆動源の始動時の前記第2オイルポンプの回転速度は、前記第1駆動源の始動後における前記第2オイルポンプの回転速度よりも低い。
【発明の効果】
【0008】
上記態様では、車両の起動スイッチがオンになって最初の第1駆動源の始動時に第2オイルポンプが駆動されるので、油路内のエアを抜くことができる。また、第1駆動源の始動時における第2オイルポンプの回転速度は、第1駆動源の始動後における第2オイルポンプの回転速度よりも低いので、吸込音を小さくできる。したがって、第2オイルポンプの吸込音を抑制して、運転者に違和感を与えないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る制御装置が適用される車両の概略構成図である。
【
図2】
図2は、車両の起動スイッチがオンになって最初の第1駆動源の始動時における第2オイルポンプのエア抜き処理のフローチャートである。
【
図3】
図3は、第1駆動源の始動後における第2オイルポンプのエア抜き処理のフローチャートである。
【
図4】
図4は、第2オイルポンプのエア抜き処理の第1の具体例について説明するタイミングチャートである。
【
図5】
図5は、第2オイルポンプのエア抜き処理の第2の具体例について説明するタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0011】
まず、
図1を参照しながら本実施形態に係る制御装置が適用される車両100について説明する。
図1は、車両100の概略構成図である。
【0012】
図1に示すように、車両100は、エンジンENGと、油圧作動される油圧作動機械としての変速機TMと、制御装置としてのコントローラ2と、を備える。変速機TMは、トルクコンバータTCと、前後進切替機構SWMと、バリエータVAと、を有するベルト無段変速機である。
【0013】
エンジンENGは、車両100の駆動輪DWを駆動する第1駆動源を構成する。エンジンENGは、例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンである。エンジンENGの動力は、トルクコンバータTC、前後進切替機構SWM、及びバリエータVAを介して駆動輪DWへと伝達される。換言すれば、トルクコンバータTC、前後進切替機構SWM、及びバリエータVAは、エンジンENGと駆動輪DWとを結ぶ動力伝達経路に設けられる。
【0014】
トルクコンバータTCは、流体を介して動力を伝達する。トルクコンバータTCでは、ロックアップクラッチLUを締結することで、動力伝達効率が高められる。
【0015】
前後進切替機構SWMは、エンジンENGとバリエータVAとを結ぶ動力伝達経路に設けられる。前後進切替機構SWMは、入力される回転の回転方向を切り替えることで車両100の前後進を切り替える。前後進切替機構SWMは、前進レンジ選択の際に係合される前進クラッチFWD/Cと、リバースレンジ選択の際に係合される後進ブレーキREV/Bと、を備える。前進クラッチFWD/C及び後進ブレーキREV/Bを解放すると、変速機TMがニュートラル状態、つまり動力遮断状態になる。
【0016】
バリエータVAは、プライマリプーリPRIと、セカンダリプーリSECと、プライマリプーリPRI及びセカンダリプーリSECに巻き掛けられたベルトBLTと、を有するベルト無段変速機構を構成する。プライマリプーリPRIには、プライマリプーリPRIの油圧であるプライマリプーリ圧が、セカンダリプーリSECには、セカンダリプーリSECの油圧であるセカンダリプーリ圧が、後述する油圧制御回路1からそれぞれ供給される。
【0017】
変速機TMは、第1オイルポンプとしてのメカニカルオイルポンプMPと、第2オイルポンプとしての電動オイルポンプEPと、第1駆動源とは異なる第2駆動源としての電動モータMと、をさらに有して構成される。
【0018】
メカニカルオイルポンプMPは、エンジンENGの動力によって駆動される。メカニカルオイルポンプMPは、ストレーナ31及び油路32を介してリザーバ(オイルパン)40から作動油を吸い上げて油圧制御回路1を介して変速機TMに油を圧送(供給)する。メカニカルオイルポンプMPと油圧制御回路1とを連通する流路には、逆止弁25が設けられる。
【0019】
電動オイルポンプEPは、電動モータMの動力によって駆動される。電動オイルポンプEPは、メカニカルオイルポンプMPとともに、或いは単独で駆動され、ストレーナ33及び油路34を介してリザーバ40から作動油を吸い上げて油圧制御回路1を介して変速機TMに油を圧送(供給)する。電動オイルポンプEPと油圧制御回路1とを連通する流路には、逆止弁26が設けられる。電動オイルポンプEPは、メカニカルオイルポンプMPに対して補助的に設けられる。すなわち、電動オイルポンプEPは、メカニカルオイルポンプMPから変速機TMへの油の供給が停止又は不足した場合に不足分の油を補うように駆動要求に基づいて一時的に変速機TMに油を供給する。電動オイルポンプEPは、電動モータMを有して構成されると把握されてもよい。
【0020】
変速機TMは、油圧制御回路1をさらに有する。油圧制御回路1は複数の流路、複数の油圧制御弁で構成され、メカニカルオイルポンプMPや電動オイルポンプEPから供給される油を調圧して変速機TMの各部位に供給する。
【0021】
油圧制御回路1は、コントローラ2からの指令に基づき、ロックアップクラッチLU、前進クラッチFWD/C、後進ブレーキREV/B、プライマリプーリPRI、セカンダリプーリSEC等の油圧制御を行う。
【0022】
コントローラ2は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。コントローラ2は、CPUがROMに記憶されたプログラムを読み出して実行することで各種の処理を行う。コントローラ2は、複数のマイクロコンピュータで構成することも可能である。具体的には、コントローラ2は、変速機TMを制御するATCU、シフトレンジを制御するSCU、エンジンENGの制御を行うECU等によって構成することもできる。
【0023】
コントローラ2は、イグニッションスイッチ27、車両100の各部位の状態を検出する各種センサ28(具体的には、アクセル開度センサ、回転速度センサ、車速センサ及び油圧センサを含む。)、及びシフトセレクタ29の位置を検出するインヒビタスイッチ29aから出力される信号に基づき、エンジンENG、油圧制御回路1、及び電動オイルポンプEPを駆動する電動モータM等の油圧制御を行う。
【0024】
ところで、車両100では、イグニッションスイッチ27がオフの状態では、メカニカルオイルポンプMP及び電動オイルポンプEPは作動しない。そのため、例えば、車両100が自宅の駐車場で長時間駐車された場合等には、変速機TM内の油路等から油が抜け落ちてしまう。
【0025】
ここで、車両100を走行させる際は、エンジンENGを作動させるので、エンジンENGによってメカニカルオイルポンプMPが駆動されて、各部に油が充填される。しかしながら、上述したように、電動オイルポンプEPと油圧制御回路1との間には逆止弁26が設けられているので、逆止弁26よりも電動オイルポンプEP側の油路には油が充填されない。そのため、電動オイルポンプEPの駆動要求があった場合に、電動オイルポンプEPから油圧制御回路1への油の供給に遅れが生じる可能性がある。
【0026】
また、車両100が走行中であっても、電動オイルポンプEPが駆動されていない状態が続くと、逆止弁26よりも電動オイルポンプEP側の油路から油が抜け落ちてしまう。
【0027】
更に、本発明者は、車両100のイグニッションスイッチ27がオンになって最初に電動オイルポンプEPが作動を開始する際に油路内にエアが混入していると、吸込音が発生して運転者に違和感を与えるおそれがあることを認識した。
【0028】
そこで、コントローラ2は、車両100のイグニッションスイッチ27がオンになって最初のエンジンENGの始動時と、エンジンENGの始動後に電動オイルポンプEPが駆動されていない時間が第1所定時間(所定時間Tb)続いたときとに、以下で説明するとおり電動オイルポンプEPを駆動させて、逆止弁26よりも電動オイルポンプEP側の油路(逆止弁26よりも上流側の油路)に油を充填するエア抜き処理を実行する。
【0029】
なお、アイドルストップを実行してエンジンENGを再始動する場合は、エンジンENGを始動してすぐに走行を開始することが多い。そのため、アイドルストップを実行してエンジンENGを再始動する場合には、イグニッションスイッチ27がオンになって最初のエンジンENGの始動時と同様の電動オイルポンプEPのエア抜き処理は行わない。すなわち、本実施形態において、「エンジンENGの始動時」とは、車両100のイグニッションスイッチ27がオンになってから最初にエンジンENGを始動することであり、アイドルストップを実行してエンジンENGを再始動することは、「エンジンENGの始動時」には含まれない。
【0030】
次に、
図2を参照しながらイグニッションスイッチ27がオンになって最初の電動オイルポンプEPの運転制御について説明する。
【0031】
図2は、イグニッションスイッチ27がオンになって最初のエンジンENGの始動時における電動オイルポンプEPのエア抜き処理のフローチャートである。本実施形態の電動オイルポンプEPのエア抜き処理は、コントローラ2にあらかじめ記憶されたプログラムに基づいて実行される。
図2のフローは、車両100のシフトセレクタ29がPレンジにある状態で開始される。
【0032】
ステップS11では、コントローラ2は、イグニッションスイッチ27から出力される出力信号に基づき、イグニッションスイッチ27がオフからオンに変更されたか否かを判定する。ステップS11にて、イグニッションスイッチ27がオンに変更されたと判定された場合には、ステップS12に移行する。イグニッションスイッチ27がオンに変更されると、エンジンENGが始動し、メカニカルオイルポンプMPが油の吐出を開始する。一方、ステップS11にて、イグニッションスイッチ27がオンに変更されていない、即ちオフのままであると判定された場合には、ステップS11の判定を繰り返す。
【0033】
ステップS12では、コントローラ2は、電動オイルポンプEPを運転するための運転条件が整ったか否かを判定する。ここで、運転条件とは、エンジンENGが始動してメカニカルオイルポンプMPが油の吐出を開始したときに、吐出圧の上昇率が一時的に上昇した後に吐出圧が安定した状態になったことを少なくとも含むものである。ステップS12にて、電動オイルポンプEPの運転条件が整ったと判定された場合には、ステップS13に移行する。一方、ステップS12にて、電動オイルポンプEPの運転条件が整っていないと判定された場合には、ステップS12の判定を繰り返す。
【0034】
ステップS13では、コントローラ2は、電動オイルポンプEPを通常回転速度Snよりも低い低回転速度Slで運転させる。通常回転速度Snは、後述するようにエンジンENGの始動後における電動オイルポンプEPの回転速度である。これに対して、低回転速度Slは、通常回転速度Snよりも低い。ここでは、通常回転速度Snは、例えば1500~2000[rpm]程度であり、低回転速度Slは、例えば500~1000[rpm]程度である。
【0035】
また、車両100の急制動時、あるいはキックダウン実行時には、現在の変速比からLow側(変速比が大きい側)の変速比に大きく変速(ダウンシフト)を行う。このように、車両100の急制動時、あるいはキックダウン実行時には、速い変速速度が要求されるため、油の要求流量が多くなる。そのため、車両100の急制動時の電動オイルポンプEPの回転速度は、通常回転速度Snよりも高い2000~3000[rpm]程度であり、キックダウン時の電動オイルポンプEPの回転速度もまた、通常回転速度Snよりも高い2000~3000[rpm]程度である。
【0036】
ステップS14では、コントローラ2は、シフトセレクタ29がPレンジから走行レンジに切り替わったか否かを判定する。Pレンジとは、パーキングロック機構(図示省略)が変速機TMをロックしている駐車レンジであり、走行レンジとは、Dレンジ(前進レンジ)及びRレンジ(リバースレンジ)を含み、変速機TMがエンジンENGからの動力を伝達して駆動輪DWを駆動可能なレンジである。ステップS14にて、シフトセレクタ29がPレンジから走行レンジに切り替わっていないと判定された場合には、ステップS16に移行する。コントローラ2は、シフトセレクタ29がPレンジのまま切り替わっていない場合だけでなく、Dレンジ若しくはRレンジのまま切り替わっていない場合にも、シフトセレクタ29がPレンジから走行レンジに切り替わっていないと判定する。一方、ステップS14にて、シフトセレクタ29がPレンジから走行レンジに切り替わったと判定された場合には、ステップS15に移行する。
【0037】
ステップS15では、コントローラ2は、シフトセレクタ29が切り換えられて前後進切替機構SWMの前進クラッチFWD/C若しくは後進ブレーキREV/Bを締結させるために油が供給されるので、電動オイルポンプEPの運転を停止させてエア抜き処理を中断する。このとき、シフトセレクタ29がPレンジから走行レンジに切り替わったことによって電動オイルポンプEPの運転が停止したので、電動オイルポンプEPのエア抜き処理は完了していない。そのため、ステップS12に戻って、再び電動オイルポンプEPの運転条件が整ったか否かの判定を行う。これにより、電動オイルポンプEPの運転条件が整うと、電動オイルポンプEPのエア抜き処理が再度実行される。
【0038】
なお、電動オイルポンプEPのエア抜き処理を再度実行するための運転条件は、シフトセレクタ29が切り替えられてセレクト処理が完了していること、変速機TMの油温が閾値内であること、電動オイルポンプEPの故障を検知していないこと、及び電動オイルポンプEPを保護する観点で作動不可の状態になっていないこと、等である。
【0039】
ステップS16では、コントローラ2は、電動オイルポンプEPの駆動時間が所定時間Taに達したか否かを判定する。所定時間Taは、電動オイルポンプEPを低回転速度Slで運転してエア抜き処理を行う時間である。所定時間Taは、電動オイルポンプEPの回転回数が所定回転回数Npに達するまでの時間に設定される。所定回転回数Npは、逆止弁26よりも電動オイルポンプEP側の油路に油を充填するための回転回数である。具体的には、所定回転回数Npは、電動オイルポンプEPの上流側の油路34及びリザーバ40から作動油を吸い上げるストレーナ33内における油面よりも上方の空間に作動油が充填されるように予め設定される。ここでは、所定回転回数Npは、30~35[回転]程度である。所定時間Taは、後述するエンジンENGの始動後に通常回転速度Snで電動オイルポンプEPのエア抜き処理を行うための所定時間Tcよりも長い。ここでは、所定時間Taは、2.0~3.0[sec]程度であり、所定時間Tcは、1.0[sec]程度である。ステップS16にて、電動オイルポンプEPの駆動時間が所定時間Taに達したと判定された場合には、ステップS17に移行する。一方、ステップS16にて、電動オイルポンプEPの駆動時間が所定時間Taに達していないと判定された場合には、ステップS13に戻り、電動オイルポンプEPのエア抜き処理を継続する。
【0040】
このように、エンジンENGの始動時の電動オイルポンプEPの駆動時間(所定時間Ta)は、エンジンENGの始動後の電動オイルポンプEPの駆動時間(所定時間Tc)よりも長い。これにより、始動時の電動オイルポンプEPの回転速度が低くなっても排出するエアの量が低下することを抑制できるので、エアの影響による走行中の変速機TMの応答性の低下を抑制することができる。
【0041】
ステップS17では、コントローラ2は、電動オイルポンプEPの運転を停止させる。これにより、電動オイルポンプEPのエア抜き処理が完了する。
【0042】
このように、車両100のイグニッションスイッチ27がオンになって最初のエンジンENGの始動時に電動オイルポンプEPが駆動されるので、油路内のエアを抜くことができる。また、エンジンENGの始動時における電動オイルポンプEPの回転速度は、エンジンENGの始動後における電動オイルポンプEPの回転速度よりも低いので、吸込音を小さくできる。したがって、電動オイルポンプEPの吸込音を抑制して、運転者に違和感を与えないようにすることができる。
【0043】
次に、
図3を参照しながらエンジンENGの始動後における電動オイルポンプEPのエア抜き処理について説明する。
【0044】
図3は、エンジンENGの始動後における電動オイルポンプEPのエア抜き処理のフローチャートである。
図3のフローは、
図2のフローの後に連続して開始される。
【0045】
ステップS21では、コントローラ2は、エンジンENGの始動後に電動オイルポンプEPが駆動されていない時間が第1所定時間としての所定時間Tb続いたか否かを判定する。所定時間Tbは、電動オイルポンプEPが駆動されていない状態が続き、逆止弁26よりも電動オイルポンプEP側の油路から油が抜け落ちてしまうおそれのある時間に設定される。ここでは、所定時間Tbは、40~50[min]程度である。ステップS21にて、エンジンENGの始動後に電動オイルポンプEPが駆動されていない時間が所定時間Tb続いたと判定された場合には、ステップS22に移行する。一方、ステップS21にて、エンジンENGの始動後に電動オイルポンプEPが駆動されていない時間が所定時間Tb続いていないと判定された場合には、ステップS21の判定を繰り返す。
【0046】
ステップS22では、コントローラ2は、電動オイルポンプEPを通常回転速度Snで運転させる。
【0047】
ステップS23では、コントローラ2は、電動オイルポンプEPが通常回転速度Snで運転を開始してからの駆動時間が第2所定時間としての所定時間Tc続いたか否かを判定する。所定時間Tcは、電動オイルポンプEPの回転回数が所定回転回数Npに達するまでの時間に設定される。所定回転回数Npは、逆止弁26よりも電動オイルポンプEP側の油路に油を充填するための回転回数である。具体的には、所定回転回数Npは、電動オイルポンプEPの上流側の油路34及びリザーバ40から作動油を吸い上げるストレーナ33内における油面よりも上方の空間に作動油が充填されるように予め設定される。ここでは、所定回転回数Npは、30~35[回転]程度である。ステップS23にて、電動オイルポンプEPの駆動時間が所定時間Tc続いたと判定された場合には、ステップS24に移行する。一方、ステップS23にて、電動オイルポンプEPの駆動時間が所定時間Tc続いていないと判定された場合には、ステップS23の判定を繰り返す。
【0048】
ステップS24では、コントローラ2は、電動オイルポンプEPの運転を停止させる。これにより、電動オイルポンプEPのエア抜き処理が完了する。
【0049】
このように、エンジンENGの始動後には、電動オイルポンプEPを所定時間Tbごとに所定時間Tc駆動させるので、走行中に電動オイルポンプEPの吸込流路にエアが混入しても、電動モータMの駆動により電動オイルポンプEPが作動してエアを抜くことができる。これにより、走行状態に応じて電動オイルポンプEPからの油圧の供給が必要な場合に、エアの混入の影響が出ることを抑制できるので、エアの影響による走行中の変速機TMの応答性の低下を抑制することができる。
【0050】
次に、
図4を参照して、コントローラ2が行う電動オイルポンプEPのエア抜き処理の第1の具体例について説明する。
図4は、電動オイルポンプEPのエア抜き処理の第1の具体例について説明するタイミングチャートである。
【0051】
時刻T11では、イグニッションスイッチ27がオフからオンに切り替えられる。この時点では、電動オイルポンプEPを運転するための運転条件が整っていないので、コントローラ2は、電動オイルポンプEPの運転を開始していない。
【0052】
時刻T12では、電動オイルポンプEPを運転するための運転条件が整ったので、コントローラ2は、電動オイルポンプEPを通常回転速度Snよりも低い低回転速度Slで運転させる。
【0053】
時刻T13では、時刻T12にて電動オイルポンプEPの運転を開始してからの駆動時間が所定時間Taに達したので、コントローラ2は、電動オイルポンプEPの運転を停止させる。これにより、イグニッションスイッチ27がオンになって最初のエンジンENGの始動時の電動オイルポンプEPのエア抜き処理が完了する。
【0054】
時刻T14では、エンジンENGの始動後に電動オイルポンプEPが駆動されていない時間が所定時間Tb続いたので、コントローラ2は、電動オイルポンプEPを通常回転速度Snで運転させる。
【0055】
時刻T15では、時刻T14にて電動オイルポンプEPの運転を開始してからの駆動時間が所定時間Tcに達したので、コントローラ2は、電動オイルポンプEPの運転を停止させる。これにより、エンジンENGの始動後に電動オイルポンプEPが駆動されていない時間が所定時間Tb続いたときの電動オイルポンプEPのエア抜き処理が完了する。
【0056】
次に、
図5を参照して、コントローラ2が行う電動オイルポンプEPのエア抜き処理の第2の具体例について説明する。
図5は、電動オイルポンプEPのエア抜き処理の第2の具体例について説明するタイミングチャートである。第2の具体例は、イグニッションスイッチ27がオンになって最初のエンジンENGの始動時の電動オイルポンプEPのエア抜き処理が完了せずに再度実行している点が、第1の具体例とは異なる。
【0057】
時刻T21では、イグニッションスイッチ27がオフからオンに切り替えられる。この時点では、電動オイルポンプEPを運転するための運転条件が整っていないので、コントローラ2は、電動オイルポンプEPの運転を開始していない。
【0058】
時刻T22では、電動オイルポンプEPを運転するための運転条件が整ったので、コントローラ2は、電動オイルポンプEPを通常回転速度Snよりも低い低回転速度Slで運転させる。
【0059】
時刻T23では、シフトセレクタ29がPレンジから走行レンジであるDレンジに切り替わっている。そのため、コントローラ2は、電動オイルポンプEPの駆動時間が所定時間Taに達していないが、電動オイルポンプEPを停止させて、エア抜き処理を停止する。
【0060】
時刻T24では、再び電動オイルポンプEPを運転するための運転条件が整ったので、コントローラ2は、電動オイルポンプEPを通常回転速度Snよりも低い低回転速度Slで運転させる。
【0061】
時刻T25では、時刻T24にて電動オイルポンプEPの運転を開始してからの駆動時間が所定時間Taに達したので、コントローラ2は、電動オイルポンプEPの運転を停止させる。これにより、イグニッションスイッチ27がオンになって最初のエンジンENGの始動時の電動オイルポンプEPのエア抜き処理が完了する。
【0062】
このように、イグニッションスイッチ27がオンになって最初のエンジンENGの始動時における電動オイルポンプEPのエア抜き処理が中断されて完了しなかった場合には、電動オイルポンプEPを低回転速度Slで駆動するエア抜き処理が正常に完了するまで繰り返し実行される。
【0063】
時刻T26では、エンジンENGの始動後に電動オイルポンプEPが駆動されていない時間が所定時間Tb続いたので、コントローラ2は、電動オイルポンプEPを通常回転速度Snで運転させる。
【0064】
時刻T27では、時刻T26にて電動オイルポンプEPの運転を開始してからの駆動時間が所定時間Tcに達したので、コントローラ2は、電動オイルポンプEPの運転を停止させる。これにより、エンジンENGの始動後に電動オイルポンプEPが駆動されていない時間が所定時間Tb続いたときの電動オイルポンプEPのエア抜き処理が完了する。
【0065】
以上の本実施形態の構成及び作用効果について、まとめて説明する。
【0066】
(1)(5)(6)車両100の駆動輪DWを駆動するエンジンENGによって駆動され変速機TMに油を供給するメカニカルオイルポンプMPと、エンジンENGとは異なる電動モータMによって駆動され変速機TMに油を供給する電動オイルポンプEPと、を備える車両100において、コントローラ2は、車両100のイグニッションスイッチ27がオンになって最初のエンジンENGの始動時に電動オイルポンプEPを駆動させると共に、エンジンENGの始動後に電動オイルポンプEPが駆動されていない時間が第1所定時間続くと電動オイルポンプEPを駆動させ、エンジンENGの始動時の電動オイルポンプEPの回転速度(低回転速度Sl)は、エンジンENGの始動後における電動オイルポンプEPの回転速度(通常回転速度Sn)よりも低い。
【0067】
この構成によれば、車両100のイグニッションスイッチ27がオンになって最初のエンジンENGの始動時に電動オイルポンプEPが駆動されるので、油路内のエアを抜くことができる。また、エンジンENGの始動時における電動オイルポンプEPの回転速度(低回転速度Sl)は、エンジンENGの始動後における電動オイルポンプEPの回転速度(通常回転速度Sn)よりも低いので、吸込音を小さくできる。したがって、電動オイルポンプEPの吸込音を抑制して、運転者に違和感を与えないようにすることができる。
【0068】
(2)また、コントローラ2は、エンジンENGの始動後には、電動オイルポンプEPを所定時間Tbごとに所定時間Tc駆動させる。
【0069】
この構成によれば、エンジンENGの始動後には、電動オイルポンプEPを所定時間Tbごとに所定時間Tc駆動させるので、走行中に電動オイルポンプEPの吸込流路にエアが混入しても、電動モータMの駆動により電動オイルポンプEPが作動してエアを抜くことができる。これにより、走行状態に応じて電動オイルポンプEPからの油圧の供給が必要な場合に、エアの混入の影響が出ることを抑制できるので、エアの影響による走行中の変速機TMの応答性の低下を抑制することができる。
【0070】
(3)また、エンジンENGの始動時の電動オイルポンプEPの駆動時間(所定時間Ta)は、車両100の走行中の電動オイルポンプEPの駆動時間(所定時間Tc)よりも長い。
【0071】
この構成によれば、エンジンENGの始動時の電動オイルポンプEPの駆動時間(所定時間Ta)は、エンジンENGの始動後の電動オイルポンプEPの駆動時間(所定時間Tc)よりも長いので、始動時の電動オイルポンプEPの回転速度が低くなっても排出するエアの量が低下することを抑制できる。したがって、エアの影響による走行中の変速機TMの応答性の低下を抑制することができる。
【0072】
(4)また、エンジンENGの始動時の電動オイルポンプEPの回転速度(低回転速度Sl)は、エンジンENGの始動後の電動オイルポンプEPの最低回転速度よりも低い。
【0073】
この構成によれば、エンジンENGの始動時における電動オイルポンプEPの回転速度(低回転速度Sl)は、エンジンENGの始動後における電動オイルポンプEPの最低回転速度よりも低いので、吸込音を小さくできる。したがって、電動オイルポンプEPの吸込音を抑制して、運転者に違和感を与えないようにすることができる。
【0074】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一つを示したものに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0075】
例えば、上記実施形態では、電動オイルポンプEPの吐出口側に逆止弁26が設けられる場合について説明した。これに代えて、電動オイルポンプEPよりもリザーバ側に逆止弁を設けてもよい。この場合も、逆止弁とリザーバとの間の油路から油が抜け落ちてしまうので、電動オイルポンプEPから油圧制御回路1への油の供給に遅れが生じる可能性がある。よって、この場合にも、コントローラ2は、エア抜き処理を行う。
【0076】
コントローラ2が実行する各種プログラムは、例えばCD-ROM等の非一過性の記録媒体に記憶されたものを用いてもよい。
【符号の説明】
【0077】
100 車両
2 コントローラ(制御装置,コンピュータ)
27 イグニッションスイッチ(起動スイッチ)
ENG エンジン(第1駆動源)
M 電動モータ(第2駆動源)
MP メカニカルオイルポンプ(第1オイルポンプ)
EP 電動オイルポンプ(第2オイルポンプ)
TM 変速機(油圧作動機械)