(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】光検出装置
(51)【国際特許分類】
H01L 31/10 20060101AFI20240424BHJP
G01J 1/02 20060101ALI20240424BHJP
H01L 27/146 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
H01L31/10 A
H01L31/10 G
G01J1/02 C
G01J1/02 R
H01L27/146 A
(21)【出願番号】P 2020161229
(22)【出願日】2020-09-25
【審査請求日】2023-04-07
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、防衛装備庁、安全保障技術研究推進制度、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094525
【氏名又は名称】土井 健二
(74)【代理人】
【識別番号】100094514
【氏名又は名称】林 恒徳
(72)【発明者】
【氏名】山下 裕泰
【審査官】吉岡 一也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/163496(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0308077(US,A1)
【文献】国際公開第2017/145299(WO,A1)
【文献】特開2012-114146(JP,A)
【文献】国際公開第2018/173347(WO,A1)
【文献】特表2013-502735(JP,A)
【文献】国際公開第2013/018153(WO,A1)
【文献】特開2018-037617(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0386167(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0051763(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第108701737(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0264038(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第110402373(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0042650(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/10-31/119
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
孔が設けられた第1領域が一端側に配置され前記第1領域とは異なる第2領域が他端側に配置された受光領域を含むグラフェンと、前記受光領域に対向するゲート電極とを有し、前記受光領域に照射される光に応答して電気信号を出力する光センサと、
前記受光領域と前記ゲート電極との間に、ゲート電圧を印加するゲート電圧印加回路とを有し、
前記第1領域のうち孔以外の領域の面積と前記第1領域の面積の比は、前記第2領域のうち孔以外の領域の面積と前記第2領域の面積の比より小さく、
前記ゲート電圧は、前記電気信号の強度と前記光の強度の比が、特定の値になるように設定されている
光検出装置。
【請求項2】
前記受光領域の導電型は、前記受光領域と前記ゲート電極との間にいかなる電圧も印加されない場合には、n型またはp型であり、
前記受光領域と前記ゲート電極との間への前記ゲート電圧の印加により、前記第1領域の導電型が反転し前記第2領域の導電型は維持されることを
特徴とする請求項1に記載の光検出装置。
【請求項3】
更に、前記第1領域および前記第2領域の一方であって前記受光領域と前記ゲート電極との間に前記ゲート電圧が印加されている間の導電型がn型である領域の電位を、前記第1領域および前記第2領域の他方の電位より高くする電圧を前記受光領域の両端に印加しながら、前記受光領域に流れる電流を検出する電流検出回路を有し、
前記電気信号は、前記受光領域と前記ゲート電極との間に前記ゲート電圧が印加されている間に前記電流検出回路が検出する前記電流であることを
特徴とする請求項2に記載の光検出装置。
【請求項4】
更に、前記グラフェンに含まれ前記第1領域に接する第1接続領域と前記グラフェンに含まれ前記第2領域に接する第2接続領域との間に発生する電位差を検出する電圧検出回路を有し、
前記電気信号は、前記受光領域と前記ゲート電極との間に前記ゲート電圧が印加されている間に前記電圧検出回路が検出する前記電位差であることを
特徴とする請求項1又は2に記載の光検出装置。
【請求項5】
孔が設けられた第1領域が一端側に配置され前記第1領域に接する第2領域が他端側に配置された受光領域を含むグラフェンと、前記受光領域に対向するゲート電極とを有し、前記受光領域に照射される光に応答して電気信号を出力する光センサと、
前記受光領域と前記ゲート電極との間に、ゲート電圧を印加するゲート電圧印加回路とを有し、
前記第1領域のうち孔以外の領域の面積と前記第1領域の面積の比は、前記第2領域のうち孔以外の領域の面積と前記第2領域の面積の比より小さく、
前記ゲート電圧は、前記電気信号の強度と前記光の強度の比が、特定の値になるように設定されている
光検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光照射によってグラフェンに発生する電圧等を検出する光検出器(以下、グラフェン光検出器と呼ぶ)が注目されている。グラフェンは、炭素原子が2次元ハニカム状に配列された材料であり、特徴的な物性を有する。
【0003】
例えばグラフェンは、小さな熱容量と大きな熱電効果とを有する。従って、赤外線やテラヘルツ光がグラフェンに照射されると、グラフェンの温度は大きく上昇しその結果、大きな熱起電力が発生する。グラフェン光検出器は、これらの特徴を利用した光検出器である(例えば、特許文献1および非特許文献1参照)。
【0004】
グラフェンとグラフェンに対向する2つのバックゲートとを有するグラフェン光検出器(以下、2バックゲート光検出器と呼ぶ)により、グラフェンによる光検出が実証されている(例えば、非特許文献1参照)。2つのバックゲートに別々の電圧が印加されると、グラフェンに非対称なキャリア分布が形成される。ゼーベック係数はキャリア密度に依存するので、非対称なキャリア分布が形成されたグラフェンに赤外光等が照射されて温度が上昇すると、熱起電力が発生する。2バックゲート光検出器は、この熱起電力を検出する。なお非対称なキャリア分布とは、多数キャリアのタイプおよび/または密度が均一でないことを意味する。
【0005】
非対称なキャリア分布は、グラフェンの隣接する領域に互いに異なる異種物質を付着させることでも実現できる(例えば、特許文献1参照)。しかし、互いに異なる異種物質がグラフェンに付着されたグラフェン光検出器を製造することは容易ではない。2バックゲート光検出器には、この様な問題はない。
【0006】
グラフェンの物性に関しては、グラフェンに孔を設けることで、ゼロギャップ半導体であるグラフェンにバンドギャップを設ける技術が報告されている(例えば、特許文献1参照)。テラヘルツ光を検出する検出器に関しては、3次元多孔質グラフェンを受光層として用いることで感度が向上したデバイスが報告されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】再表2013/018153号公報
【文献】特開2018-37617号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Kei Kinoshita et al., Applied Physics Letters 113, 103102 (2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
2バックゲート光検出器は、互いに異なる異種物質のグラフェンへの付着という複雑な工程を経ずに製造できるデバイスである。しかし2バックゲート光検出器には、構造が複雑であるという問題がある。
【0010】
2バックゲート光検出器には更に、2つのバックゲートに互いに異なる電圧が印加されるので、周辺回路も複雑であるという問題がある。これらの問題は、2つのバックゲートに別々の電圧を印加するという2バックゲート光検出器の基本動作に関わっている。
【0011】
そこで本発明は、このような問題を解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一つの実施の形態では、光検出装置は、孔が設けられた第1領域が一端側に配置され前記第1領域とは異なる第2領域が他端側に配置された受光領域を含むグラフェンと前記受光領域に対向するゲート電極とを有し、前記受光領域に照射される光に応答して電気信号を出力する光センサと、前記受光領域と前記ゲート電極との間に、ゲート電圧を印加するゲート電圧印加回路とを有し、前記第1領域のうち孔以外の領域の面積と前記第1領域の面積の比は、前記第2領域のうち孔以外の領域の面積と前記第2領域の面積の比より小さく、前記ゲート電圧は前記電気信号の強度と前記光の強度の比が、特定の値になるように設定されている。
【発明の効果】
【0013】
一つの側面では、本発明によれば、一つのバックゲートに一つの電圧を印加するだけで、光の検出が可能なグラフェン光検出装置(すなわち、光をグラフェンで光電変換する光検出装置)を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、実施の形態1の光検出装置2の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、光センサ4の一例を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、受光領域10の一例を示す平面図である。
【
図4】
図4は、不純物のドーピングや異種物質の付着がされていないグラフェンのエネルギーバンド構造を示す図である。
【
図5】
図5は、実施の形態1における受光領域10の導電型を説明する図である。
【
図6】
図6は、特定の波長(例えば、8μm)の光を受光領域10に照射した時の光検出装置2の感度R1とゲート電圧Vgとの関係の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、第1領域16aおよび第2領域16bに誘起される電子34の密度を説明する図である。
【
図8】
図8は、実施の形態1の光センサ4の製造方法の一例を示す図である。
【
図9】
図9は、実施の形態1の光センサ4の製造方法の一例を示す図である。
【
図10】
図10は、ゲート電極を2つ備えた光センサ104を有する光検出装置102の構造の一例を示す図である。
【
図11】
図11は、第1領域16aの変形例216aを説明する図である。
【
図12】
図12は、実施の形態2の光検出装置202の一例を示す図である。
【
図13】
図13は、実施の形態2における受光領域10の導電型を説明する図である。
【
図14】
図14は、特定の波長の光を受光領域10に照射した時の光検出装置202の感度R2とゲート電圧Vgとの関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面にしたがって本発明の実施の形態について説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された事項とその均等物まで及ぶものである。図面が異なっても同じ構造を有する部分等には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0016】
(実施の形態1)
(1)構造
図1は、実施の形態1の光検出装置2の一例を示す図である。
図1に示すように、実施の形態1の光検出装置2は、光センサ4と、ゲート電圧印加回路6と、電気信号検出回路8とを有する。
【0017】
―光センサ4―
図2は、光センサ4の一例を示す斜視図である。
図2には、光センサ4のうちグラフェン12(
図1参照)の近傍が示されている。
【0018】
光センサ4は、光が照射される領域10(以下、受光領域と呼ぶ)と、受光領域10の一端E1(
図1参照)に接する第1接続領域15aと、受光領域10の他端E2に接する第2接続領域15bとを含むグラフェン12を有する。光センサ4は、受光領域10に照射される光に応答して電気信号を出力するデバイスである。
【0019】
光センサ4は更に、第1接続領域15aに接続された第1電極11aと、第2接続領域15bに接続された第2電極11bとを有する。光センサ4は更に、受光領域10に対向するゲート電極5を有する。ゲート電極5は例えば、導電性のシリコン基板7(すなわち、n+シリコン基板またはp+シリコン基板)である。
【0020】
光センサ4は更に、シリコン基板7上に配置されグラフェン12を支持するSiO
2膜9を有する。光センサ4は更に、シリコン基板7に接続された基板電極13(
図1参照)を有する。
【0021】
図3は、受光領域10の一例を示す平面図である。受光領域10の一端E1側には、孔14が設けられた第1領域16aが配置される。受光領域10の他端E2側には、第1領域16aとは異なる第2領域16bが配置される。第1領域16aのフィルファクタは、第2領域16bのフィルファクタより小さい。
【0022】
ある領域A(例えば、第1領域16a)のフィルファクタとは、領域Aのうち孔以外の領域の面積S1と領域Aの面積S2の比(=S1/S2)である。従って第1領域16aのフィルファクタは、第1領域16aのうち炭素原子で満たされた領域3(以下、充填領域と呼ぶ)の面積S1と第1領域16aの面積S2の比(=S1/S2)である。第1領域16aの面積S2は、第1領域16aの外周の内側全体の面積である。
図3に示す例では、第1領域16aのフィルファクタは略0.5である。
【0023】
第2領域16bのフィルファクタについても同様である。
図3に示す例では、第2領域16bに孔は設けられていないので、第2領域16bのフィルファクタは1である。
【0024】
―ゲート電圧印加回路6―
ゲート電圧印加回路6(
図1参照)は、受光領域10とゲート電極5との間に、ゲート電圧Vgを印加する回路である。光検出装置2のゲート電圧Vgは、一定の電圧V1(例えば、3V)である。電圧V1の詳細については、「(2)動作」で説明される。
【0025】
図1に示す例ではゲート電圧印加回路6は、基板電極13と第2電極11bとに接続され電圧V1を出力する定電圧源17を有する。ゲート電圧Vg(すなわち、電圧V1)は、基板電極13と第2電極11bとを介して受光領域10とゲート電極5との間に印加される。
【0026】
受光領域10の導電型は、受光領域10とゲート電極5との間にいかなる電圧も印加されない場合にはp型(またはn型)である。受光領域10とゲート電極5との間への電圧V1の印加により、第1領域16aの導電型が反転し、第2領域16bの導電型は維持される。
【0027】
―電気信号検出回路8―
電気信号検出回路8(
図1参照)は、受光領域10に照射される光(例えば、可視光、赤外線またはテラヘルツ光)に応答して光センサ4が出力する電気信号を検出する回路である。
【0028】
実施の形態1の電気信号検出回路8は、受光領域10の両端E1,E2に電圧Vbiasを印加しながら、受光領域10に流れる電流Iを検出する電流検出回路19である。電流検出回路19は例えば、受光領域10に電圧Vbiasを印加する定電圧源18と、定電圧源18に接続された電流計20とを有する。電流検出回路19の一端は、第1電極11aに接続され他端は第2電極11bに接続される。
【0029】
電圧Vbiasは、第1~第2領域16a,16bの一方であって受光領域10とゲート電極5との間に電圧V1が印加されている間の導電型がn型である領域の電位を、第1~第2領域16a,16bの他方の電位より高くする電圧である。第1~第2領域16a,16bの導電型については、「(2)動作」で説明される。電圧Vbiasは、受光領域10に形成されるpn接合(「(2)動作」参照)に印加される逆バイアス電圧である。
【0030】
光センサ4が出力する電気信号は、受光領域10とゲート電極5との間に電圧V1が印加されている間に電流検出回路19が検出する電流I(すなわち、逆バイアスされた受光領域10への光照射により受光領域10に流れる電流)である。
【0031】
(2)動作
図4は、不純物のドーピングや異種物質の付着がされていないグラフェンのエネルギーバンド構造を示す図である。k
x軸22は、x軸方向の波数k
xを示している。k
y軸24は、y軸方向の波数k
yを示している。エネルギー軸26は、電子のエネルギーEを示している。
【0032】
図4に示すように、グラフェンの価電子帯28と伝導帯30とは、K点32で接している。このため、グラフェンはゼロギャップ半導体と呼ばれることがある。グラフェンにおけるK点32は、ディラック点(すなわち、バンドが縮退している点)である。
【0033】
図5は、実施の形態1における受光領域10の導電型を説明する図である。
図5には、受光領域10のエネルギーバンドの一例が示されている。
図5に示された例では、受光領域10の導電型は、受光領域10とゲート電極5との間にいかなる電圧も印加されていない時はp型である。説明が煩雑にならないよう、
図5の説明では電子の熱エネルギーは無視されている(後述する
図13についても同様)。
【0034】
以後の説明では、「受光領域10とゲート電極5との間に」は、「ゲート電極5に」と略される。従って例えば、「受光領域10とゲート電極5との間にいかなる電圧も印加されていない時」は、「ゲート電極5にいかなる電圧も印加されていない時」と略される。同様に「受光領域10とゲート電極5との間への」は、「ゲート電極5への」と略される。
【0035】
図5(a)には、ゲート電極5にいかなる電圧も印加されていない時の受光領域10のエネルギーバンドの一例が示されている。ゲート電極5にいかなる電圧も印加されていない時、受光領域10の価電子帯28(
図5(a)参照)は、エネルギーE
0まで電子で満たされ、エネルギーE
0から価電子帯の頂上(すなわち、K点)までは正孔で満たされている。すなわち、ゲート電極5にいかなる電圧も印加されていない時、受光領域10の導電型はp型である。
【0036】
図5(b)には、ゲート電極5に電圧V1(すなわち、実施の形態1のゲート電圧Vg)が印加された時の第1領域16aのエネルギーバンドが示されている。
図5(c)には、ゲート電極5に電圧V1が印加された時の第2領域16bのエネルギーバンドが示されている。
【0037】
図5(b)~(c)に示された例では、電圧V1は、受光領域10の電位をゲート電極5の電位より低くする電圧である。このためゲート電極5に電圧V1が印加されると、第1領域16aおよび第2領域16bには電子が誘起される。
【0038】
この際、フィルファクタが低い第1領域16aの充填領域3(
図3参照)には、第2領域16bの電子密度より高密度の電子が誘起される(下記「―非対称なキャリア誘起―」参照)。その結果、第1領域16aの価電子帯28は誘起された電子で満たされ、価電子帯28に入れなった電子が第1領域16aの伝導帯30の底を満たす(
図5(b)参照)。従って第1領域16aの導電型は、ゲート電極5への電圧V1の印加により反転してn型になる。
【0039】
一方、ゲート電極5に電圧V1が印加されても、第2領域16bには伝導帯30を満たすのに十分な電子は誘起されず、第2領域16bの導電型はp型に維持される(
図5(c)参照)。従って受光領域10には、ゲート電極5への電圧V1の印加によりpn接合が発生する。受光領域10に発生したpn接合は例えば、走査型プローブ顕微鏡により検出することができる。
【0040】
付言するならば、第2領域16bでは、ゲート電極5への電圧V1の印加により、価電子帯28内の電子のエネルギーの最大値が、E
0からE
2(
図5(c)参照)に上昇する。従って第2領域16bの正孔密度は、ゲート電極5への電圧V1の印加により低下する。
【0041】
―光電流の発生―
受光領域10に電圧Vbias(すなわち、逆バイアス電圧)が印加されると、受光領域10に発生するpn接合の空乏層は広がる。広がった空乏層に光が照射されると、電子-正孔対が発生する。発生した電子-正孔対は、空乏層内の電界により電子と正孔とに分離される。分離された電子と正孔は、空乏層内の電界により、電子の流れと正孔の流れとになる。この電子の流れと正孔の流れの束が、光照射によって受光領域10に流れる電流(以下、光電流と呼ぶ)である。
【0042】
受光領域10に流れる光電流は、第1電極11aと第2電極11bとを介して受光領域10から出力され、電流検出回路19の電流計20(
図1参照)により検出される。光センサ4が出力する電気信号は、受光領域10とゲート電極5との間に電圧V1が印加され受光領域10に電圧Vbiasが印加されている間に、光照射により受光領域10に流れる光電流である。
【0043】
―感度―
図6は、特定の波長(例えば、8μm)の光を受光領域10に照射した時の光検出装置2の感度R1とゲート電圧Vgとの関係の一例を示す図である。横軸は、ゲート電圧Vgである。縦軸は、光検出装置2の感度R1である。光検出装置2の感度とは、受光領域10に照射される光に応答して光センサ4が出力する電気信号(実施の形態1では光電流)の強度Aと受光領域10に照射される光の強度(所謂、光パワー)Bの比(=A/B)である。
図6に示すように、感度R1は正および負いずれの値にもなり得る。
【0044】
光検出装置2の感度R1の正負は、電気信号検出回路8に流れる電流の正負によって決まる。例えば電流が負の場合、感度も負になる。電流の正負は(電流の)正方向の定義によって決まるので、光検出装置2の感度の正負は便宜的である。実施の形態2の光検出装置202の感度についても同様である。
【0045】
ゲート電圧Vg(ここでは、受光領域10に対するゲート電極5の電位)が小さい領域Iでは、受光領域10の第1領域16aおよび第2領域16bの導電型は反転しないので、受光領域10にはpn接合は形成されない。このため、光検出装置2の感度は略ゼロである。一方、ゲート電圧Vgが大き過ぎる領域IIIでは、第1領域16aおよび第2領域16b両方の導電型が反転するので、受光領域10にはpn接合は形成されない。従って領域IIIでも、光検出装置2の感度は略ゼロである。
【0046】
ゲート電圧Vgが小さ過ぎず且つ大き過ぎない領域IIでは、第1領域16aのみの導電型が反転するので、受光領域10にpn接合が形成される。すると、光検出装置2の感度は増大し、ゲート電圧Vgと感度R1の関係を示す曲線35に、大きなピーク36が現れる。
【0047】
感度R1のピーク値P1(すなわち、感度R1のうち絶対値が最大の感度)は、ゲート電圧Vgだけでなく受光領域10に印加される電圧Vbiasにも依存する。電圧Vbiasが1Vの場合、感度R1のピーク値P1は例えば、1mA/Wである。
【0048】
実施の形態1のゲート電圧Vgは、光検出装置2の感度R1(
図6参照)が特定の値(以下、目標感度と呼ぶ)になるように設定された電圧V1である。電圧V1は、変更可能な電圧であっても良い。すなわち、ゲート電圧印加回路6の定電圧源17は、可変電圧源であっても良い。
【0049】
感度R1のピーク値P1が正の値の場合、目標感度は好ましくは、感度R1のピーク値P1の0.5倍以上である。更に好ましくは、目標感度は感度R1のピーク値P1の0.7倍以上である。最も好ましくは、目標感度は感度R1のピーク値P1の0.9倍以上(例えば、ピーク値P1)である。目標感度の上限は、感度R1のピーク値P1である。
【0050】
一方、感度R1のピーク値P1が負の値の場合には、目標感度は好ましくは、感度R1のピーク値P1の0.5倍以下である。更に好ましくは、目標感度は感度R1のピーク値P1の0.7倍以下である。最も好ましくは、目標感度は感度R1のピーク値P1の0.9倍以下(例えば、ピーク値P1)である。目標感度の下限は、感度R1のピーク値P1である。
【0051】
具体的には、目標感度の絶対値は好ましくは、0.5mA/W以上である。更に好ましくは目標感度の絶対値は、0.7mA/W以上である。最も好ましくは目標感度の絶対値は、0.9mA/W以上である。
【0052】
なお、実施の形態2で説明するように、ゲート電極5にゲート電圧Vgが印加されると、受光領域10の第1領域16aのゼーベック係数と第2領域16bのゼーベック係数は互いに乖離する。従って、光センサ4から出力される電気信号は、光熱電効果(すなわち、光吸収で発生する熱による熱電効果)により生じる電流を含んでいる。
【0053】
しかし実施の形態1の光検出装置2では、受光領域10に逆バイアス電圧Vbiasが印加され空乏層が広がるので、光起電力効果による光電流(すなわち、pn接合の内部電界により発生する光電流)が、多くの場合、光熱電効果による電流より支配的である。
【0054】
光熱電効果については、実施の形態2で説明される。
【0055】
―非対称なキャリア誘起―
図7は、第1領域16aおよび第2領域16bに誘起される電子34の密度を説明する図である。ここでも受光領域10の導電型は、受光領域10とゲート電極5との間にいかなる電圧も印加されない時にはp型とする。
【0056】
静電場に関するガウスの法則から明らかなように、あるゲート電圧Vgにより第1領域16aに誘起される電子の数N1は、式(1)で表される。
【0057】
【0058】
ここで、εはSiO
2膜9の誘電率である。eは素電荷である。E
nは、第1領域16aからゲート電極5に向かう電界ベクトルの成分のうち第1領域16aに垂直な成分である。第1領域16aとゲート電極5の間隔d(すなわち、SiO
2膜9の厚さ)に比べ孔14の幅が十分に小さい場合、E
nは充填領域3(すなわち、炭素原子で満たされた領域:
図2参照)および孔14両方の直下で略Vg/dである。
【0059】
従って、ゲート電圧Vgの印加により第1領域16aに誘起される巨視的な電子密度EDmacは、式(2)で表される。
【0060】
【0061】
巨視的な電子密度とは、巨視的領域(すなわち、ある領域の外周の内側全体)の面積で、巨視的領域に誘起される電子の総数を割った値である。従って、ゲート電圧Vgの印加により第1領域16aに誘起される巨視的電子密度EDmacは、第1領域16aの外周の内側全体の面積Smacでゲート電圧Vgの印加により第1領域16aに誘起される電子の総数N1を割った値(=N1/Smac)である。
【0062】
一方、炭素原子で満たされた充填領域3(
図2参照)に誘起される電子の密度ED
mic(以下、微視的な電子密度と呼ぶ)は、N
1/S
micである。ここで、S
micは充填領域の面積である。S
micは、ある領域(ここでは、第1領域16a)のうち孔14以外の部分の面積である。
【0063】
従って、第1領域16aの微視的な電子密度EDmicは式(3)で表される。
【0064】
【0065】
ここで、Fは巨視的領域(ここでは、第1領域16a)のフィルファクタ(=Smic/Smac)である。第1領域16a内のグラフェン12に誘起される電子の密度は、巨視的な電子密度EDmacではなく微視的な電子密度EDmicである。
【0066】
同様に、第2領域16b内のグラフェン12に誘起される電子の密度も、巨視的な電子密度ではなく微視的な電子密度である。式(1)~(3)は、第2領域16bの電子密度等についても成立する。
【0067】
第1領域16aおよび第2領域16bには同じゲート電圧Vgが印加されるので、式(2)から明らかなように、第1領域16aの巨視的な電子密度ED
macと第2領域16bの巨視的な電子密度ED
macは等しい。一方、
図3に示されているように、第1領域16aのフィルファクタFは、第2領域16bのフィルファクタFより小さい。
【0068】
従って第1領域16aの微視的な電子密度ED
micは、第2領域16bの微視的な電子密度ED
micより大きい。故に、第1領域16aのグラフェン12に誘起される電子の密度は、第2領域16bのグラフェン12に誘起される電子の密度より高い。すなわち、一つのゲート電極5への一つのゲート電圧Vgの印加により、受光領域10に非対称なキャリア分布(
図5参照)が誘起される。
【0069】
以上の説明では、孔14の幅はSiO2膜9の厚さに比べ十分に小さい。しかし、この様な理想的な条件が満たされなくても、第1領域16aに誘起される電子(または正孔)の密度は、第2領域16bに誘起される電子(または正孔)の密度より高くなる。
【0070】
(3)製造方法
図8~9は、実施の形態1の光センサ4の製造方法の一例を示す図である。
【0071】
先ず、導電性のシリコン基板7上にSiO
2膜9を形成する(
図8(a)参照)。SiO
2膜9の厚さは例えば、50nm~200nm(好ましくは、90nm)である。
【0072】
このSiO
2膜9の上に、炭素原子の一部がヘテロ原子(例えば、窒素やホウ素)で置換された帯状のグラフェン12を配置する(
図8(b)参照)。炭素原子の一部がヘテロ原子で置換されると、グラフェン12の導電型はn型またはp型になる。例えば、炭素原子の一部が窒素原子で置換されたグラフェン12の導電型はn型である。炭素原子の一部がホウ素原子で置換されたグラフェン12の導電型はp型である。
【0073】
グラフェン12の長さは例えば、5μm~20μm(例えば、9μm)である。グラフェン12の幅は例えば、2μm~10μm(例えば、5μm)である。
【0074】
SiO
2膜9およびグラフェン12の上に、グラフェン12の一端側に複数の開口37が設けられたフォトレジスト膜38を形成する(
図8(c)参照)。このフォトレジスト膜38を介して、グラフェン12をエッチングする。グラフェン12のエッチングは例えば、酸素を反応ガスとするドライエッチングにより行われる。
【0075】
このエッチングにより、グラフェン12の一端側に複数の孔14が形成される(
図9(a)参照)。複数の孔14が形成された領域は、受光領域10の第1領域16aになる。第1領域16aに接する領域は、受光領域10の第2領域16bになる。
図9(a)では第1領域16aは第2領域16bより長くなっているが、第1領域16aと第2領域16bの長さは略同じであっても良い。或いは、第1領域16aは第2領域16bより短くても良い。
【0076】
孔14の幅は例えば、10nm~1000nmである。第1領域16aのフィルファクタは例えば、0.7~0.95(好ましくは、0.9)である。第2領域16bのフィルファクタは例えば、1.0である。
【0077】
複数の孔14の形成後、SiO
2膜9を貫通するコンタクトホール40を形成する(
図9(b)参照)。
【0078】
その後、グラフェン12の一端に第1電極11aを形成し、他端に第2電極11bを形成する。更に、コンタクトホール40内に露出されたシリコン基板7に接しSiO
2膜9上に延在する基板電極13を形成する(
図9(c)参照)。
【0079】
(4)2バックゲート光検出器
図10は、ゲート電極を2つ備えた光センサ104(すなわち、2バックゲート光検出器)を有する光検出装置102の構造の一例を示す図である。光検出装置102は、
図1等を参照して説明した実施の形態1の光検出装置2に類似している。従って光検出装置2と共通する部分については、説明を省略する。
【0080】
光検出装置102は、光センサ104と、第1バイアス回路106aと、第2バイアス回路106bと、電気信号検出回路8とを有する。電気信号検出回路8は、
図1等を参照して説明した回路である。
【0081】
―光センサ104―
光センサ104のグラフェン112には、孔が設けられない。従って、受光領域110の第1領域116aのフィルファクタは1である。受光領域110の第2領域116bのフィルファクタも1である。
【0082】
光センサ104は、第1領域116aに対向する第1ゲート電極105aと、第2領域116bに対向する第2ゲート電極105bとを有する。光センサ104は更に、第1ゲート電極105aおよび第2ゲート電極105bとグラフェン112の間に配置された絶縁膜109(例えば、SiO2膜)とを有する。第1ゲート電極105aおよび第2ゲート電極105bは、シリコン基板7を覆うSiO2膜9の上に配置される。
【0083】
―第1バイアス回路106aおよび第2バイアス回路106b―
第1バイアス回路106aは、受光領域110の第1領域116aと第1ゲート電極105aとの間に、第1ゲート電圧Vg1を印加する。第2バイアス回路106bは、受光領域110の第2領域116bと第2ゲート電極105bとの間に、第1ゲート電圧Vg1とは異なる第2ゲート電圧Vg2を印加する。
【0084】
第1領域116aと第1ゲート電極105aとの間および第2領域116bと第2ゲート電極105bとの間にいかなる電圧も印加されない場合、受光領域110の導電型はp型(またはn型)である。
【0085】
第1ゲート電圧Vg1と第2ゲート電圧Vg2とは互いに異なる電圧である。従って、第1ゲート電圧Vg1により第1領域116aに誘起される微視的なキャリア密度(例えば、電子密度)および第2ゲート電圧Vg2により第2領域116bに誘起される微視的なキャリア密度は互いに異なる。従って受光領域110に、pn接合を形成することは容易である。
【0086】
故に、
図10の光検出装置102によっても、グラフェン112に照射される光の検出は可能である。しかし光センサ104は2つのゲート電極(すなわち、第1ゲート電極105aおよび第2ゲート電極105b)を含むので、光センサ104の構造は複雑である。更に、2つのゲート電極105a,105bには別々の電圧Vg1,Vg2が印加されるので、周辺回路42も複雑になる。
【0087】
図1を参照して説明した光検出装置2には、これらの問題はない。
【0088】
(5)変形例
図11は、第1領域16aの変形例216aを説明する図である。
図3に示された第1領域16aの孔14は、両端が丸められた帯状の孔である。一方、
図11に示された第1領域216aの孔114は、円形の孔である。変型例によれば、第1領域16aのバリエーションが増加する。
【0089】
以上の例では、第2領域16bに孔14は設けられない。しかし、孔14は第1領域16aだけでなく、第2領域16bにも設けられて良い。
【0090】
また以上の例では、受光領域10の導電型は、受光領域10とゲート電極5の間にいかなる電圧も印加されない場合にはp型である。しかし受光領域10の導電型は、受光領域10とゲート電極5の間にいかなる電圧も印加されない場合にn型であっても良い。この場合、ゲート電圧V1は、受光領域10の電位をゲート電極5の電位より高くする電圧である。
【0091】
以上の例では、受光領域10はフィルファクタが互いに異なる2つの領域(すなわち、第1領域16aおよび第2領域16b)を有する。しかし受光領域10は、フィルファクタが互いに異なる3つ以上の領域を有しても良い。例えば受光領域10は、第1領域16aと第2領域16bの間に、フィルファクタが第1領域16aより大きく第2領域16bよりは小さい領域を有しても良い。この構造によれば、受光領域10にpin接合を形成できる。
【0092】
以上の例では、グラフェン12に含まれる炭素原子の一部がヘテロ原子により置換される(「(3)製造方法」参照)。しかし炭素原子の置換によらなくても、受光領域10の導電型をn型またはp型にすることは可能である。例えば、F4-TCNQ(tetrafluoro-tetracyanoquin-odimethane)等の有機物、Au等の金属粒子およびAl2O3膜のいずれか一つを受光領域10に付着させることでも、グラフェン12の導電型の制御は可能である。或いは、グラフェン12に欠陥を導入することでも、グラフェン12の導電型の制御は可能である。炭素原子の置換や有機物等の付着は、意図的でなくても良い。
【0093】
また以上の例では、ゲート電極5は導電性のシリコン基板7である。しかしゲート電極5は、金属膜であっても良い。
【0094】
またグラフェン12とゲート電極5の間に配置される絶縁膜は、SiO2膜以外の絶縁膜(例えば、SiN膜)であっても良い。
【0095】
実施の形態1では、フィルファクタが互いに異なる領域を含む受光領域10とゲート電極5の間に一つの電圧V1を印加する事で、非対称なキャリア分布を受光領域10に誘起してpn接合を形成する。従って実施の形態1によれば、一つのゲート電極5に一つの電圧V1を印加するだけで光検出が可能なグラフェン光検出装置を実現できる。
【0096】
(実施の形態2)
実施の形態2は、実施の形態1に類似している。従って、実施の形態1と同じ構成等については、説明を省略または簡単にする。
【0097】
(1)構造
図12は、実施の形態2の光検出装置202の一例を示す図である。
図12に示すように、光検出装置202は、光センサ4と、ゲート電圧印加回路6と、電気信号検出回路208とを有する。
【0098】
光センサ4は、実施の形態1で説明したセンサである(
図1参照)。同様にゲート電圧印加回路6は、実施の形態1で説明した回路である。一方、電気信号検出回路208は、実施の形態1の電気信号検出回路8とは異なる回路である。
【0099】
電気信号検出回路208は、受光領域10の第1領域16aに接する第1接続領域15aと受光領域10の第2領域16bに接する第2接続領域15bとの間に発生する電位差VPTEを検出する電圧検出回路219である。
【0100】
図12に示す例では、電圧検出回路219は、第1接続領域15aと第2接続領域15bとに接続された電圧計220を有する回路である。実施の形態2の光センサ4が出力する電気信号は、光センサ4のゲート電極5に電圧V2が印加されている間に電圧検出回路219が検出する電位差V
PTE(すなわち、光照射された受光領域10の両端に発生する電位差)である。電圧V2は、ゲート電圧印加回路6が出力するゲート電圧Vgである。電圧V2の詳細については、「(2)動作」で説明される。
【0101】
(2)動作
図13は、実施の形態2における受光領域10の導電型を説明する図である。
図13には、受光領域10のエネルギーバンドの一例が示されている。
図13に示された例では、受光領域10の導電型は、ゲート電極5にいかなる電圧も印加されていない時はp型である。
【0102】
図13(a)には、ゲート電極5に電圧が印加されていない時の受光領域10のエネルギーバンドが示されている。
図13(a)に示すように、ゲート電極5にいかなる電圧も印加されていない時、受光領域10の価電子帯は、エネルギーE
0まで電子で満たされ、エネルギーE
0から価電子帯の頂上(すなわち、K点)までは正孔で満たされている。
【0103】
図13(b)は、ゲート電極5に電圧V2(すなわち、実施の形態2のゲート電圧Vg)が印加された時の第1領域16aにおけるグラフェン12のエネルギーバンドを示している。
図13(c)は、ゲート電極5に電圧V2が印加された時の第2領域16bにおけるグラフェン12のエネルギーバンドを示している。
【0104】
ゲート電極5に電圧V2が印加されると、第1領域16aおよび第2領域16bには電子が誘起される。この際、フィルファクタが小さい第1領域16aのグラフェン12に誘起される電子の密度は、第2領域16bのグラフェンに誘起される電子の密度より高い(実施の形態1参照)。従って、第1領域16aにおける価電子帯内の電子のエネルギーの最大値E1’は、第2領域16bにおける価電子帯内の電子エネルギーの最大値E2’より高くなる。すなわち第1領域16aの正孔密度は、第2領域16bの正孔密度より低くなる。
【0105】
故に、ゲート電極5に電圧V2が印加されている間、第1領域16aにおける多数キャリア(ここでは、正孔)の密度は、第2領域16bにおける多数キャリアの密度より低くなる。
【0106】
熱電効果の大きさを示すゼーベック係数は、多数キャリアの密度に依存する。従って、ゲート電極5にゲート電圧V2が印加されると、第1領域16aのゼーベック係数と第2領域16bのゼーベック係数は互いに乖離する。このため、光照射により受光領域10の温度が上昇すると、第1接続領域15aと第2接続領域15bの間に電位差VPTEが発生する(「―熱電効果による電位差VPTEの発生―」参照)。電位差VPTEは、電気信号検出回路208の電圧計220により検出される。
【0107】
―熱電効果による電位差VPTEの発生―
受光領域10に照射される光は受光領域10のグラフェン12に吸収され、受光領域10の温度を上昇させる。
【0108】
一方、光センサ4の上方から第1接続領域15aに向かって照射される光は、第1電極11aによって遮られ、第1接続領域15aには届かない。同様に、光センサ4の上方から第2接続領域15bに向かって照射される光も、第2接続領域15bには届かない。従って、第1~第2接続領域15a,15bへの光照射は、第1~第2接続領域15a,15bの温度を上昇させない。
【0109】
故に、シリコン基板7の裏面側からではなく表面側からグラフェン12全体に向かって光が照射される場合、受光領域10の中央では温度が上昇し、受光領域10の両端では第1~第2接続領域15a,15bにより温度上昇が抑制される。その結果、第1領域16aおよび第2領域16bに温度勾配が生じる。受光領域10の中央部だけに光が照射された場合にも当然、第1領域16aおよび第2領域16bに温度勾配TGが生じる。
【0110】
第1領域16aのゼーベック係数と第2領域16bのゼーベック係数とが電圧V2の印加により乖離した受光領域10に光が照射され温度勾配TGが生じると、熱電効果により第1接続領域15aと第2接続領域15bの間に電位差VPTEが発生する。換言するならば、ゲート電極5への電圧V2の印加によりゼーベック係数が互いに異なる領域が発生した受光領域10に光が照射されると、光熱電効果により電位差VPTEが発生する。
【0111】
―感度―
以上の説明から明らかなように、光検出装置202の感度はゲート電圧Vgにより制御できる。実施の形態2のゲート電圧Vgも、実施の形態1のゲート電圧Vgと同様に、光検出装置202の感度が特定の値(すなわち、目標感度)になるように設定される。
【0112】
目標感度が正の値の場合、実施の形態2の目標感度は好ましくは、0.5V/W以上である。更に好ましくは、目標感度は0.7V/W以上である。最も好ましくは、目標感度は0.9V/W以上である。目標感度の上限は、光検出装置202の感度の最大値(例えば、後述する
図14のピーク値P2)である。
【0113】
目標感度が負の値の場合には、実施の形態2の目標感度は好ましくは、-0.5V/W以下である。更に好ましくは、目標感度は-0.7V/W以下である。最も好ましくは、目標感度は-0.9V/W以下である。目標感度の下限は、光検出装置202の感度の最小値である。
【0114】
(3)変形例
(3-1)変形例1
図13を参照して説明した例では、ゲート電極5にいかなる電圧も印加されない場合、受光領域10の導電型はp型である。しかし受光領域10の導電型は、ゲート電極5にいかなる電圧も印加されない場合、n型であっても良い。この場合、ゲート電極5への電圧V2の印加により受光領域10に誘起されるキャリアは正孔である。
【0115】
或いは受光領域10の導電型は、ゲート電極5にいかなる電圧も印加されない場合、i型であっても良い。この場合、ゲート電極5への電圧V2の印加により受光領域10に誘起されるキャリアは、電子および正孔のいずれであっても良い。変型例1によれば、光検出装置202のバリエーションが増加する。
【0116】
(3-2)変形例2
以上の例では、ゲート電極5に電圧V2が印加されている間、第1領域16aおよび第2領域16bの導電型は共にn型またはp型である。しかし、ゲート電極5に電圧V2が印加されている間、第1領域16aおよび第2領域16bの導電型の一方がn型で他方がp型であっても良い。
【0117】
ゼーベック係数は熱電交換材料のキャリア密度だけでなく導電型にも依存するので、変形例2によっても、受光領域10に照射される光の検出は可能である。
【0118】
良く知られているように、n型の熱電交換材料とp型の熱電交換材料とが接続された温度センサの感度は、導電型が同じ熱電交換材料が接続された温度センサの感度より高い。従って変形例2によれば、光検出装置202の感度を向上させることができる。
【0119】
変形例2の受光領域10にはpn接合が形成されるので、光センサ4から出力される電気信号には、光起電力効果により生じる電圧が含まれている。しかし変形例2では、受光領域10に逆バイアス電圧が印加されないので、多くの場合、光熱電効果による電圧が光起電力効果による電圧より支配的である。
【0120】
図14は、特定の波長の光(以下、照射光と呼ぶ)を受光領域10に照射した時の光検出装置202の感度R2とゲート電圧Vgとの関係の一例を示す図である。照射光の波長は、例えば8μmである。照射光の強度は、例えば1W/cm
2である。
【0121】
横軸は、ゲート電圧Vgである。
図14におけるゲート電圧Vgは、ゲート電極5の電位Φ1とグラフェン12の電位Φ2の差(=Φ1-Φ2)である。縦軸は、光検出装置202の感度R2である。光検出装置202の感度とは、受光領域10に照射される光に応答して光センサ4が出力する電気信号(実施の形態2では電圧)の強度aと受光領域10に照射される光の強度bの比(=a/b)である。
【0122】
ゲート電圧Vgが小さい領域240では、第1領域16aおよび第2領域16bの導電型は反転しない(
図13参照)。従ってゲート電圧Vgが小さい領域240では、受光領域10にpn接合は形成されない。このため、領域240では、光検出装置202の感度R2の絶対値はあまり大きくない。
【0123】
ゲート電圧Vgが大き過ぎる領域(図示せず)では、第1領域16aおよび第2領域16b双方の導電型が反転するので、受光領域10にpn接合は形成されない。この領域でも、光検出装置202の感度R2の絶対値はあまり大きくない。
【0124】
ゲート電圧Vgが小さ過ぎず且つ大き過ぎない領域242では、第1領域16aの導電型だけが反転してpn接合が形成される。pn接合が形成されると、感度R2の絶対値は著しく増大する。従って、ゲート電圧Vgと感度R2の関係を示す曲線235に、大きなピーク236が現れる。感度R2のピーク値P2(すなわち、感度R2のうち絶対値が最大の感度)は例えば、1V/Wである。
【0125】
ゲート電極5に印加される電圧V2は、領域242内のゲート電圧Vgから選択されるので、変形例2によれば、光検出装置202の感度を向上させることができる。
【0126】
実施の形態2では、フィルファクタが互いに異なる領域を含む受光領域10とゲート電極5の間に一つの電圧V2を印加する事で、非対称なキャリア分布を受光領域10に誘起してゼーベック係数が異なる領域を受光領域10に形成する。従って実施の形態2によれば、実施の形態1と同様、一つのゲート電極5に一つの電圧V2を印加するだけで光検出が可能なグラフェン光検出装置を実現できる。
【0127】
以上、本発明の実施形態について説明したが、実施の形態1~2は、例示であって制限的なものではない。例えば以上の例では、第1領域16aのフィルファクタが、第2領域16bのフィルファクタより小さい。しかし第1領域16aのフィルファクタは、第2領域16bのフィルファクタより大きくても良い。
【0128】
また以上の例では、グラフェン12に設けられる電極(すなわち、第1電極11aおよび第2電極11b)は、帯状の電極である。しかし、グラフェン12に設けられる電極の形状は、帯状には限られない。グラフェン12に設けられる電極の形状は例えば、櫛型電極であっても良い。
【0129】
以上の実施の形態1~2に関し、更に以下の付記を開示する。
【0130】
(付記1)
孔が設けられた第1領域が一端側に配置され前記第1領域とは異なる第2領域が他端側に配置された受光領域を含むグラフェンと、前記受光領域に対向するゲート電極とを有し、前記受光領域に照射される光に応答して電気信号を出力する光センサと、
前記受光領域と前記ゲート電極との間に、ゲート電圧を印加するゲート電圧印加回路とを有し、
前記第1領域のうち孔以外の領域の面積と前記第1領域の面積の比は、前記第2領域のうち孔以外の領域の面積と前記第2領域の面積の比より小さく、
前記ゲート電圧は、前記電気信号の強度と前記光の強度の比が、特定の値になるように設定されている
光検出装置。
【0131】
(付記2)
前記受光領域の導電型は、前記受光領域と前記ゲート電極との間にいかなる電圧も印加されない場合には、n型またはp型であり、
前記受光領域と前記ゲート電極との間への前記ゲート電圧の印加により、前記第1領域の導電型が反転し前記第2領域の導電型は維持されることを
特徴とする付記1に記載の光検出装置。
【0132】
(付記3)
更に、前記第1領域および前記第2領域の一方であって前記受光領域と前記ゲート電極との間に前記ゲート電圧が印加されている間の導電型がn型である領域の電位を、前記第1領域および前記第2領域の他方の電位より高くする電圧を前記受光領域の両端に印加しながら、前記受光領域に流れる電流を検出する電流検出回路を有し、
前記電気信号は、前記受光領域と前記ゲート電極との間に前記ゲート電圧が印加されている間に前記電流検出回路が検出する前記電流であることを
特徴とする付記2に記載の光検出装置。
【0133】
(付記4)
前記特定の値の絶対値は、0.5mA/W以上であることを
特徴とする付記3に記載の光検出装置。
【0134】
(付記5)
更に、前記グラフェンに含まれ前記第1領域に接する第1接続領域と前記グラフェンに含まれ前記第2領域に接する第2接続領域との間に発生する電位差を検出する電圧検出回路を有し、
前記電気信号は、前記受光領域と前記ゲート電極との間に前記ゲート電圧が印加されている間に前記電圧検出回路が検出する前記電位差であることを
特徴とする付記1又は2に記載の光検出装置。
【0135】
(付記6)
前記特定の値の絶対値は、0.5V/W以上であることを
特徴とする付記5に記載の光検出装置。
【符号の説明】
【0136】
2,202 :光検出装置
4 :光センサ
5 :ゲート電極
6 :ゲート電圧印加回路
8,208 :電気信号検出回路
10 :受光領域
12 :グラフェン
14 :孔
15a :第1接続領域
15b :第2接続領域
16a :第1領域
16b :第2領域