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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/117 20060101AFI20240424BHJP
   B60C 9/18 20060101ALI20240424BHJP
   B60C 11/00 20060101ALI20240424BHJP
   B60C 11/03 20060101ALI20240424BHJP
   B60C 11/13 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
B60C11/117 100Z
B60C9/18 N
B60C11/00 F
B60C11/03 Z
B60C11/03 100A
B60C11/13 B
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020207863
(22)【出願日】2020-12-15
(65)【公開番号】P2022094780
(43)【公開日】2022-06-27
【審査請求日】2023-10-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 武士
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-084004(JP,A)
【文献】特開平05-201202(JP,A)
【文献】特開2001-233018(JP,A)
【文献】特開2016-165934(JP,A)
【文献】特開2017-197153(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0366773(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/117
B60C 9/18
B60C 11/00
B60C 11/03
B60C 11/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ赤道面を境界とする左右の領域に配置された第一周溝および第二周溝を備え、
前記第一周溝および第二周溝のそれぞれが、タイヤ周方向に不連続かつ一列に配列された複数の溝部から成り、
前記第一周溝の前記溝部と前記第二周溝の前記溝部とが、タイヤ周方向に千鳥状に配列され、
タイヤ赤道面から前記第一周溝の溝中心線までの距離D1と前記第二周溝の溝中心線までの距離D2とが、0.90≦D2/D1≦1.10の関係を有し、
前記第一周溝の最大溝幅W1と前記第二周溝の最大溝幅W2とが、0.90≦W2/W1≦1.10の関係を有し、且つ、
前記第一周溝の前記溝部の最大周方向長さL1と前記第二周溝の前記溝部の最大周方向長さL2とが、0.90≦L2/L1≦1.10の関係を有することを特徴とするタイヤ。
【請求項2】
前記第一周溝の前記溝部の最大溝幅W1および前記第二周溝の前記溝部の最大溝幅W2が、タイヤ接地幅TWに対して0.020≦W1/TW≦0.080および0.020≦W2/TW≦0.080の関係を有する請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
前記第一および第二の周溝の前記溝部の最大溝深さが、2.5[mm]以上5.0[mm]以下の範囲にある請求項1または2に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記第一周溝の溝面積A1および第二周溝の溝面積A2が、タイヤ接地領域の面積Saに対して0.015≦A1/Sa≦0.020および0.015≦A2/Sa≦0.020の関係を有する請求項1~3のいずれか一つに記載のタイヤ。
【請求項5】
40[mm^2]を超える開口面積を有する他の溝あるいは凹部をタイヤ接地領域に備えない請求項1~4のいずれか一つに記載のタイヤ。
【請求項6】
タイヤ接地領域の溝面積比が、3.0[%]以上5.0[%]以下の範囲にある請求項1~5のいずれか一つに記載のタイヤ。
【請求項7】
前記第一周溝の溝中心線と前記第二周溝の溝中心線とのタイヤ幅方向の距離Dgが、タイヤ接地幅TWに対して0.10≦Dg/TW≦0.90の関係を有する請求項1~6のいずれか一つに記載のタイヤ。
【請求項8】
タイヤ断面高さSHが、タイヤ総幅SWに対して0.20≦SH/SW≦0.70の関係を有し、且つ、タイヤ接地幅TWが、タイヤ総幅SWに対して0.90≦TW/SW≦0.98の関係を有する請求項1~7のいずれか一つに記載のタイヤ。
【請求項9】
一対のビードコアと、前記一対のビードコアに架け渡されたカーカス層と、前記カーカス層の外周に配置された一対の交差ベルトと、交差ベルトの径方向外側に配置されたトレッドゴムとを備え、且つ、
前記一対の交差ベルトのうちの幅広な交差ベルトの幅Wbが、タイヤ接地幅TWに対して0.98≦Wb/TW≦1.10の関係を有する請求項1~8のいずれか一つに記載のタイヤ。
【請求項10】
一対のビードコアと、前記一対のビードコアに架け渡されたカーカス層と、前記カーカス層の外周に配置された一対の交差ベルトと、交差ベルトの径方向外側に配置されたトレッドゴムとを備え、且つ、
前記トレッドゴムのゲージが、前記第一および第二の周溝の溝中心線上におけるトレッド部のトータルゲージに対して30[%]以上60[%]以下の範囲にある請求項1~9のいずれか一つに記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、タイヤに関し、さらに詳しくは、タイヤのドライ性能およびウェット性能を両立できるタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
公道走行およびサーキットに併用されるレース用タイヤでは、タイヤのウェット性能を確保するために、トレッド踏面に周溝を設けることが義務づけられている。かかる構造を採用する従来のタイヤとして、特許文献1に記載される技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許第7140410号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明は、タイヤのドライ性能およびウェット性能を両立できるタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、この発明にかかるタイヤは、タイヤ赤道面を境界とする左右の領域に配置された第一周溝および第二周溝を備え、前記第一周溝および第二周溝のそれぞれが、タイヤ周方向に不連続かつ一列に配列された複数の溝部から成り、前記第一周溝の前記溝部と前記第二周溝の前記溝部とが、タイヤ周方向に千鳥状に配列され、タイヤ赤道面から前記第一周溝の溝中心線までの距離D1と前記第二周溝の溝中心線までの距離D2とが、0.90≦D2/D1≦1.10の関係を有し、前記第一周溝の最大溝幅W1と前記第二周溝の最大溝幅W2とが、0.90≦W2/W1≦1.10の関係を有し、且つ、前記第一周溝の前記溝部の最大周方向長さL1と前記第二周溝の前記溝部の最大周方向長さL2とが、0.90≦L2/L1≦1.10の関係を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
この発明にかかるタイヤでは、(1)第一および第二の周溝のそれぞれがタイヤ周方向に断続的に延在するので、周溝がタイヤ周方向に連続的に延在する構成と比較して、タイヤのトラクション性能が向上する利点がある。また、(2)第一および第二の周溝がタイヤ赤道面に対して略同一の距離に配置されるので、第一および第二の周溝が左右非対称に配置される構成と比較して、例えばサーキットのような左右双方向への旋回走行が必要となる走行路における平均走行タイムが安定する利点がある。また、(3)第一および第二の周溝を構成する溝部が略同一の最大溝幅W1、W2および最大周方向長さL1、L2を有するので、溝部が不均一な溝幅および溝長さを有する構成と比較して、例えばサーキットのような左右双方向への旋回走行が必要となる走行路における平均走行タイムが安定する利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、この発明の実施の形態にかかるタイヤを示すタイヤ子午線方向の断面図である。
図2図2は、図1に記載したタイヤのトレッド面を示す平面図である。
図3図3は、図2に記載した周溝を示す断面図である。
図4図4は、この発明の実施の形態にかかるタイヤの性能試験の結果を示す図表である。
図5図5は、この発明の実施の形態にかかるタイヤの性能試験の結果を示す図表である。
図6図6は、図4に記載した従来例の試験タイヤを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、この実施の形態の構成要素には、発明の同一性を維持しつつ置換可能かつ置換自明なものが含まれる。また、この実施の形態に記載された複数の変形例は、当業者自明の範囲内にて任意に組み合わせが可能である。
【0009】
[タイヤ]
図1は、この発明の実施の形態にかかるタイヤを示すタイヤ子午線方向の断面図である。同図は、タイヤ径方向の片側領域の断面図を示している。この実施の形態では、タイヤの一例として、公道走行およびサーキットに併用されるレース用空気入りラジアルタイヤについて説明する。
【0010】
同図において、タイヤ子午線方向の断面は、タイヤ回転軸(図示省略)を含む平面でタイヤを切断したときの断面として定義される。また、タイヤ赤道面CLは、JATMAに規定されたタイヤ断面幅の測定点の中点を通りタイヤ回転軸に垂直な平面として定義される。また、タイヤ幅方向は、タイヤ回転軸に平行な方向として定義され、タイヤ径方向は、タイヤ回転軸に垂直な方向として定義される。
【0011】
タイヤ1は、タイヤ回転軸を中心とする環状構造を有し、一対のビードコア11、11と、一対のビードフィラー12、12と、カーカス層13と、ベルト層14と、トレッドゴム15と、一対のサイドウォールゴム16、16と、一対のリムクッションゴム17、17と、インナーライナ18とを備える(図1参照)。
【0012】
一対のビードコア11、11は、スチールから成る1本あるいは複数本のビードワイヤを環状かつ多重に巻き廻して成り、ビード部に埋設されて左右のビード部のコアを構成する。一対のビードフィラー12、12は、一対のビードコア11、11のタイヤ径方向外周にそれぞれ配置されてビード部を補強する。
【0013】
カーカス層13は、1枚のカーカスプライから成る単層構造あるいは複数枚のカーカスプライを積層して成る多層構造を有し、左右のビードコア11、11間にトロイダル状に架け渡されてタイヤの骨格を構成する。また、カーカス層13の両端部は、ビードコア11およびビードフィラー12を包み込むようにタイヤ幅方向外側に巻き返されて係止される。また、カーカス層13のカーカスプライは、スチールあるいは有機繊維材(例えば、アラミド、ナイロン、ポリエステル、レーヨンなど)から成る複数のカーカスコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成され、80[deg]以上100[deg]以下のコード角度(タイヤ周方向に対するカーカスコードの長手方向の傾斜角として定義される。)を有する。
【0014】
なお、図1の構成では、カーカス層13が2枚のカーカスプライ131、132を積層して成る多層構造を有している。しかし、これに限らず、カーカス層13が、3枚以上のカーカスプライを積層して構成されても良いし、1枚のカーカスプライから成る単層構造を有しても良い(図示省略)。
【0015】
ベルト層14は、複数のベルトプライ141~143を積層して成り、カーカス層13の外周に掛け廻されて配置される。ベルトプライ141~143は、一対の交差ベルト141、142と、一対のベルトカバー143、143とを含む。
【0016】
一対の交差ベルト141、142は、スチールあるいは有機繊維材から成る複数のベルトコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成され、絶対値で15[deg]以上55[deg]以下のコード角度を有する。また、一対の交差ベルト141、142は、相互に異符号のコード角度(タイヤ周方向に対するベルトコードの長手方向の傾斜角として定義される)を有し、ベルトコードの長手方向を相互に交差させて積層される(いわゆるクロスプライ構造)。また、一対の交差ベルト141、142は、カーカス層13のタイヤ径方向外側に積層されて配置される。
【0017】
ベルトカバー143は、スチールあるいは有機繊維材から成るベルトカバーコードをコートゴムで被覆して構成され、絶対値で0[deg]以上10[deg]以下のコード角度を有する。また、ベルトカバー143は、例えば、1本あるいは複数本のベルトカバーコードをコートゴムで被覆して成るストリップ材であり、このストリップ材を交差ベルト141、142の外周面に対してタイヤ周方向に複数回かつ螺旋状に巻き付けて構成される。また、図1の構成では、一対のベルトカバー143、143が交差ベルト141、142の左右のエッジ部をタイヤ径方向外側から覆って配置されている。しかし、これに限らず、単一のベルトカバー143が、交差ベルト141、142の全域を覆って配置されても良い(図示省略)。
【0018】
トレッドゴム15は、カーカス層13およびベルト層14のタイヤ径方向外周に配置されてタイヤのトレッド部を構成する。一対のサイドウォールゴム16、16は、カーカス層13のタイヤ幅方向外側にそれぞれ配置されて左右のサイドウォール部を構成する。一対のリムクッションゴム17、17は、左右のビードコア11、11およびカーカス層13の巻き返し部のタイヤ径方向内側からタイヤ幅方向外側に延在して、ビード部のリム嵌合面を構成する。インナーライナ18は、タイヤ内腔面に配置されてカーカス層13を覆う空気透過防止層であり、カーカス層13の露出による酸化を抑制し、また、タイヤに充填された空気の洩れを防止する。
【0019】
また、図1において、タイヤ断面高さSHが、タイヤ総幅SWに対して0.20≦SH/SW≦0.70の関係を有し、好ましくは0.30≦SH/SW≦0.60の関係を有する。また、タイヤ接地幅TWが、タイヤ総幅SWに対して0.90≦TW/SW≦0.98の関係を有し、好ましくは0.94≦TW/SW≦0.96の関係を有する。また、幅広な交差ベルト141の幅Wbが、タイヤ接地幅TWに対して0.98≦Wb/TW≦1.10の関係を有し、好ましくは1.00≦Wb/TW≦1.05の関係を有する。
【0020】
タイヤ断面高さSHは、タイヤ外径とリム径との差の1/2の距離であり、タイヤを規定リムに装着して規定内圧を付与すると共に無負荷状態として測定される。
【0021】
タイヤ総幅SWは、タイヤを規定リムに装着して規定内圧を付与すると共に無負荷状態としたときのサイドウォール間の(タイヤ側面の模様、文字などのすべての部分を含む)直線距離として測定される。
【0022】
タイヤ接地幅TWは、タイヤを規定リムに装着して規定内圧を付与すると共に静止状態にて平板に対して垂直に置いて規定荷重に対応する負荷を付与したときのタイヤと平板との接触面におけるタイヤ軸方向の最大直線距離として測定される。
【0023】
タイヤ接地端Tは、タイヤを規定リムに装着して規定内圧を付与すると共に静止状態にて平板に対して垂直に置いて規定荷重に対応する負荷を加えたときのタイヤと平板との接触面におけるタイヤ軸方向の最大幅位置として定義される。
【0024】
ベルトプライの幅は、各ベルトプライの左右の端部のタイヤ回転軸方向の距離であり、タイヤを規定リムに装着して規定内圧を付与すると共に無負荷状態として測定される。
【0025】
規定リムとは、JATMAに規定される「適用リム」、TRAに規定される「Design Rim」、あるいはETRTOに規定される「Measuring Rim」をいう。また、規定内圧とは、JATMAに規定される「最高空気圧」、TRAに規定される「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、あるいはETRTOに規定される「INFLATION PRESSURES」をいう。また、規定荷重とは、JATMAに規定される「最大負荷能力」、TRAに規定される「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、あるいはETRTOに規定される「LOAD CAPACITY」をいう。ただし、JATMAにおいて、乗用車用タイヤの場合には、規定内圧が空気圧180[kPa]であり、規定荷重が最大負荷能力の88[%]である。
【0026】
[トレッド面]
図2は、図1に記載したタイヤのトレッド面を示す平面図である。図3は、図2に記載した周溝21(22)を示す断面図である。これらの図において、タイヤ周方向とは、タイヤ回転軸周りの方向をいう。また、符号Tは、タイヤ接地端であり、寸法記号TWは、タイヤ接地幅である。
【0027】
図2に示すように、タイヤ1は、第一および第二の周溝21、22をトレッド面に備える。また、後述するように、タイヤ1が、他の周溝あるいはディンプルをトレッド面に備えていない。
【0028】
第一および第二の周溝21、22は、タイヤ周方向に不連続かつ一列に配列された複数の溝部211、221から成ることにより、タイヤ周方向に断続的に延在する。
【0029】
具体的に、第一周溝21を構成する複数の溝部211が、タイヤ赤道面CLに平行な所定の仮想線X1に沿ってタイヤ周方向に不連続かつ一列に配列されている。また、仮想線X1に対するすべての溝部211の重心の距離(図中の寸法記号省略)が、タイヤ接地幅TWに対して0.5[%]未満の範囲にある。言い換えると、所定の仮想線X1に対して上記距離の条件を満たす一群の溝部211が、1列の第一周溝21を構成する。また、この仮想線X1が、第一周溝21の溝中心線として定義される。
【0030】
同様に、第二周溝22を構成する複数の溝部221が、タイヤ赤道面CLに平行な所定の仮想線X2に沿ってタイヤ周方向に不連続かつ一列に配列されている。また、仮想線X2に対するすべての溝部221の重心の距離(図中の寸法記号省略)が、タイヤ接地幅TWに対して0.5[%]未満の範囲にある。言い換えると、所定の仮想線X2に対して上記距離の条件を満たす一群の溝部221が、1列の第二周溝22を構成する。また、この仮想線X2が、第二周溝22の溝中心線として定義される。
【0031】
溝部211の重心の距離および溝部221の重心の距離は、タイヤを規定リムに装着して規定内圧を付与すると共に無負荷状態として測定される。
【0032】
また、タイヤ赤道面CLから第一周溝21の溝中心線X1までの距離D1と第二周溝22の溝中心線X2までの距離D2とが、略等しい。したがって、第一および第二の周溝21、22がタイヤ赤道面CLに対して略同位置に配置されている。具体的には、第一周溝21の距離D1と第二周溝22の距離D2とが、0.90≦D2/D1≦1.10の関係を有し、好ましくは0.95≦D2/D1≦1.05の関係を有する。
【0033】
また、図2において、タイヤ赤道面CLから第一および第二の周溝21、22の溝中心線X1、X2までの距離D1、D2が、タイヤ接地幅TWに対して0.05≦D1/TW≦0.45および0.05≦D2/TW≦0.45の関係を有し、好ましくは0.10≦D1/TW≦0.25および0.10≦D2/TW≦0.25の関係を有する。また、第一周溝21の溝中心線X1と第二周溝22の溝中心線X2とのタイヤ幅方向の距離Dgが、タイヤ接地幅TWに対して0.10≦Dg/TWの関係を有し、好ましくは0.20≦Dg/TWの関係を有する。比Dg/TWの上限は特に限定がないが、他の条件により制約を受ける。
【0034】
距離D1、距離D2および距離Dgは、タイヤを規定リムに装着して規定内圧を付与すると共に無負荷状態として測定される。
【0035】
また、第一周溝21の溝部211の最大溝幅W1および第二周溝22の溝部221の最大溝幅W2のそれぞれが、タイヤ接地幅TWに対して0.020≦W1/TW≦0.080および0.020≦W2/TW≦0.080の関係を有する。また、第一および第二の周溝21、22の溝部211、221の最大溝幅W1、W2が、4.0[mm]以上16[mm]以下の範囲にあり、好ましくは6.0[mm]以上10[mm]以下の範囲にある。また、第一および第二の周溝21、22の溝部211、221の最大溝幅W1、W2が、0.90≦W2/W1≦1.10の関係を有し、好ましくは0.95≦W2/W1≦1.05の関係を有する。したがって、第一および第二の周溝21、22の溝部211、221の最大溝幅W1、W2が略同一に設定される。また、図2の構成では、すべての溝部211、221が、実質的に(例えば製造誤差による相異を除外して)同一の溝幅を有している。
【0036】
周溝21;22の溝部211;221の最大溝幅W1;W2は、タイヤを規定リムに装着して規定内圧を充填した無負荷状態にて、溝開口部における対向する溝壁間の距離として測定される。
【0037】
また、図3において、第一周溝21の最大溝深さH1および第二周溝22の最大溝深さH2が、2.5[mm]以上5.0[mm]以下の範囲にあり、好ましくは2.8[mm]以上4.0[mm]以下の範囲にある。また、第一および第二の周溝21、22の最大溝深さH1、H2が、0.90≦H2/H1≦1.10の関係を有し、好ましくは0.95≦H2/H1≦1.05の関係を有する。
【0038】
周溝21;22の最大溝深さH21;H22は、タイヤを規定リムに装着して規定内圧を充填した無負荷状態にて、トレッド踏面から溝底までの距離として測定される。また、部分的な凹凸部やサイプを溝底に有する構成では、これらを除外して溝深さが測定される。
【0039】
また、図3において、第一および第二の周溝21、22の最大溝深さH1;H2が、周溝21、22の溝中心線上におけるトレッドゴム15のゲージGrに対して60[%]以上85[%]以下の範囲にあり、好ましくは63[%]以上70[%]以下の範囲にある。また、トレッドゴム15のゲージGrが、周溝21、22の溝中心線上におけるトレッド部のトータルゲージGtに対して30[%]以上60[%]以下の範囲にあり、好ましくは35[%]以上55[%]以下の範囲にある。
【0040】
トレッドゴム15のゲージGrは、トレッドプロファイルから最外ベルト層142の外周面までの距離として測定され、最外ベルト層142のコートゴム(図示省略)のゲージを含まない。
【0041】
トレッド部のトータルゲージGtは、トレッドプロファイルからタイヤ内表面までの距離として測定され、トレッド面あるいはタイヤ内面に形成された部分的な凹凸部のゲージを含まない。
【0042】
また、図2において、第一周溝21の溝面積A1および第二周溝22の溝面積A2(図示省略)が、タイヤ接地領域の面積Saに対して0.015≦A1/Sa≦0.100および0.015≦A2/Sa≦0.100の関係を有し、好ましくは0.015≦A1/Sa≦0.020および0.015≦A2/Sa≦0.020の関係を有する。また、第一周溝21の溝面積A1および第二周溝22の溝面積A2が、0.90≦A1/A2≦1.10の関係を有し、好ましくは0.95≦A1/A2≦1.05の関係を有する。
【0043】
溝面積は、トレッド踏面における溝の開口面積であり、タイヤが規定リムに装着されて規定内圧を付与されると共に静止状態にて平板に対して垂直に置かれて規定荷重に対応する負荷を加えられたときのタイヤと平板との接触面にて、測定される。また、図2のように周溝21;22がタイヤ周方向に断続的に延在する場合には、周溝21;22の溝面積A1;A2が、周溝21;22を構成する複数の溝部211;221の開口面積の総和として算出される。
【0044】
タイヤ接地領域の面積Saは、左右のタイヤ接地端Tに区画されたトレッド踏面の全域の面積であり、溝および陸部の双方を含む面積として定義される。
【0045】
また、図2の構成では、上記のように第一および第二の周溝21、22のそれぞれがタイヤ周方向に不連続かつ一列に配列された複数の溝部211、221から成る。また、第一および第二の周溝21、22を構成する溝部211、221の開口面積のそれぞれが、200[mm^2]以上340[mm^2]以下の範囲にあり、好ましくは240[mm^2]以上300[mm^2]以下の範囲にある。
【0046】
また、タイヤ1が、40[mm^2]を超える、好ましくは20[mm^2]を超える開口面積を有する他の溝あるいは凹部、すなわち周溝21、22以外の溝あるいは凹部をタイヤ接地領域に備えないことが好ましい。言い換えると、周溝21、22の配置領域以外の領域が、上記条件よりも小さい開口面積をもつ凹部あるいは溝、例えば小穴から成るウェアインジケータ(図示省略)をタイヤ接地領域に備えても良い。また、タイヤ接地領域の溝面積比が、3.0[%]以上5.0[%]以下の範囲にあり、好ましくは3.2[%]以上3.8[%]以下の範囲にある。
【0047】
例えば、図2の構成では、タイヤ接地領域が第一および第二の周溝21、22のみを備え、また、ウェアインジケータ(図示省略)が所定の周溝21、22の溝底に形成されている。また、周溝21、22の配置領域以外の領域が、溝あるいはサイプを有さないプレーンな踏面を有している。このため、図2の構成では、タイヤ接地領域の全域における溝面積が、第一周溝21の溝面積A1および第二周溝22の溝面積A2の和に等しい。また、タイヤ接地領域の溝面積比が、0.030≦(A1+A2)/Sa≦0.200の範囲にある。
【0048】
溝面積比は、所定領域に配置された溝面積の総和と当該領域の面積との比として定義される。
【0049】
また、図2の構成では、第一周溝21の溝部211のピッチ長P1および第二周溝22の溝部221のピッチ長P2が、タイヤ周長TL(図示省略)に対して0.030≦P1/TL≦0.060および0.030≦P2/TL≦0.060の関係を有する。また、第一周溝21の溝部211のピッチ長P1および第二周溝22の溝部221のピッチ長P2が、0.90≦P1/P2≦1.10の関係を有し、好ましくは0.95≦P1/P2≦1.05の関係を有する。
【0050】
タイヤ周長TLは、タイヤを規定リムに装着して規定内圧を付与すると共に無負荷状態としたときの、トレッド面の最大周長として測定される。
【0051】
また、図2において、第一周溝21の溝部211の最大周方向長さL1および第二周溝22の溝部221の最大周方向長さL2が、第一周溝21の溝部211のピッチ長P1および第二周溝22の溝部221のピッチ長P2に対して0.30≦L1/P1≦0.60および0.30≦L2/P2≦0.60の関係を有し、好ましくは0.45≦L1/P1≦0.55および0.45≦L2/P2≦0.55の関係を有し、より好ましくは、0.48≦L1/P1≦0.52および0.48≦L2/P2≦0.52の関係を有する。また、第一周溝21の溝部211の最大周方向長さL1および第二周溝22の溝部221の最大周方向長さL2が、0.90≦L2/L1≦1.10の関係を有し、好ましくは0.95≦L2/L1≦1.05の関係を有する。また、図2の構成では、すべての溝部211、221が、実質的に(例えば製造誤差による相異を除外して)同一の周方向長さを有している。
【0052】
周溝21;22の溝部211;221の最大周方向長さL1;L2は、タイヤを規定リムに装着して規定内圧を充填した無負荷状態にて、溝開口部における周方向距離として測定される。
【0053】
また、図2において、第一周溝21の溝部211の最大周方向長さL1および第二周溝22の溝部221の最大周方向長さL2が、第一周溝21の最大溝幅W1および第二周溝22の最大溝幅W2に対して2.00≦L1/W1≦8.00および2.00≦L2/W2≦8.00の関係を有し、好ましくは4.00≦L1/W1≦6.00および4.00≦L2/W2≦6.00の関係を有する。
【0054】
また、図2において、第一周溝21の溝部211と第二周溝22の溝部221との位相差φが、第一周溝21の溝部211のピッチ長P1に対して0.25≦φ/P1≦0.75の関係を有し、好ましくは0.40≦φ/P1≦0.50の関係を有する。
【0055】
例えば、図2の構成では、溝部211、221が、タイヤ周方向に長尺な矩形状ないしは楕円形状を有している。また、第一周溝21の溝部211と第二周溝22の溝部221とが、タイヤ周方向に千鳥状に配列されている。具体的に、第一周溝21の溝部211のピッチ数と第二周溝22の溝部221のピッチ数とが同一に設定され、第一周溝21の溝部211の最大周方向長さL1および第二周溝22の溝部221の最大周方向長さL2が第一周溝21の溝部211のピッチ長P1および第二周溝22の溝部221のピッチ長P2に対して50[%]に設定されている。また、第一周溝21の溝部211と第二周溝22の溝部221との位相差φが、第一周溝21の溝部211のピッチ長P1に対して約50[%]に設定されている。
【0056】
[効果]
以上説明したように、このタイヤ1は、タイヤ赤道面CLを境界とする左右の領域に配置された第一周溝21および第二周溝22を備える(図2参照)。また、第一周溝21および第二周溝22のそれぞれが、タイヤ周方向に不連続かつ一列に配列された複数の溝部211、221から成る。また、第一周溝21の溝部211と第二周溝22の溝部221とが、タイヤ周方向に千鳥状に配列される。また、タイヤ赤道面CLから第一周溝21の溝中心線X1までの距離D1と第二周溝22の溝中心線X2までの距離D2とが、0.90≦D2/D1≦1.10の関係を有する。また、第一周溝21の溝部221の最大溝幅W1と第二周溝22の溝部221の最大溝幅W2とが、0.90≦W2/W1≦1.10の関係を有する。また、第一周溝21の溝部211の最大周方向長さL1と第二周溝22の溝部221の最大周方向長さL2とが、0.90≦L2/L1≦1.10の関係を有する。
【0057】
かかる構成では、(1)第一および第二の周溝21、22のそれぞれがタイヤ周方向に断続的に延在するので、周溝がタイヤ周方向に連続的に延在する構成(図6参照)と比較して、タイヤのトラクション性能が向上する利点がある。また、(2)第一および第二の周溝21、22がタイヤ赤道面CLに対して略同一の距離D1、D2に配置されるので、第一および第二の周溝が左右非対称に配置される構成(図示省略)と比較して、例えばサーキットのような左右双方向への旋回走行が必要となる走行路における平均走行タイムが安定する利点がある。また、(3)第一および第二の周溝21、22を構成する溝部211、221が略同一の最大溝幅W1、W2および最大周方向長さL1、L2を有するので、溝部が不均一な溝幅および溝長さを有する構成(図示省略)と比較して、例えばサーキットのような左右双方向への旋回走行が必要となる走行路における平均走行タイムが安定する利点がある。
【0058】
また、このタイヤ1では、第一周溝21の溝部211の最大溝幅W1および第二周溝22の溝部221の最大溝幅W2が、タイヤ接地幅TWに対して0.020≦W1/TW≦0.080および0.020≦W2/TW≦0.080の関係を有する(図2参照)。上記下限により、周溝21、22の排水性が確保される利点がある。また、上記上限により、周溝21、22が過剰に幅広になることに起因するトラクション性能の悪化が抑制される利点がある。
【0059】
また、このタイヤ1では、第一および第二の周溝21、22の溝部211、221の最大溝深さH1、H2が、2.5[mm]以上5.0[mm]以下の範囲にある。これにより、周溝21、22の最大溝深さH1、H2が適正化される利点がある。
【0060】
また、このタイヤ1では、第一周溝21の溝面積A1および第二周溝22の溝面積A2が、タイヤ接地領域の面積Saに対して0.015≦A1/Sa≦0.020および0.015≦A2/Sa≦0.020の関係を有する。これにより、周溝21、22の溝面積A1、A2が適正化される利点がある。
【0061】
また、このタイヤ1では、40[mm^2]を超える開口面積を有する他の溝あるいは凹部をタイヤ接地領域に備えない(図2参照)。これにより、タイヤの接地面積が確保されて、上記したタイヤのトラクション性能の向上作用が適正に確保される利点がある。
【0062】
また、このタイヤ1では、タイヤ接地領域の溝面積比が、3.0[%]以上5.0[%]以下の範囲にある。これにより、特にレース用タイヤにおけるタイヤのトラクション性が確保される利点がある。
【0063】
また、このタイヤ1では、第一周溝21の溝中心線X1と第二周溝22の溝中心線X2とのタイヤ幅方向の距離Dgが、タイヤ接地幅TWに対して0.10≦Dg/TW≦0.90の関係を有する(図2参照)。上記下限により、隣り合う周溝21、22間の距離Dgが確保されて、タイヤのドライ操縦安定性能が向上し、また、隣り合う周溝21、22に区画されたリブの偏摩耗が抑制される利点がある。上記上限により、周溝21、22からタイヤ接地端Tまでの距離が過小となることに起因するウェット性能の低下が抑制される利点がある。
【0064】
また、このタイヤ1では、タイヤ断面高さSHが、タイヤ総幅SWに対して0.20≦SH/SW≦0.70の関係を有し、且つ、タイヤ接地幅TWが、タイヤ総幅SWに対して0.90≦TW/SW≦0.98の関係を有する(図1参照)。これにより、タイヤの偏平率SH/SWおよびタイヤ接地幅TWが適正化される利点がある。
【0065】
また、このタイヤ1では、一対のビードコア11、11と、一対のビードコア11、11に架け渡されたカーカス層13と、カーカス層13の外周に配置された一対の交差ベルト141、142と、交差ベルト141、142の径方向外側に配置されたトレッドゴム15とを備える(図1参照)。また、一対の交差ベルト141、142のうちの幅広な交差ベルト(図1では、内径側の交差ベルト141)の幅Wbが、タイヤ接地幅TWに対して0.98≦Wb/TW≦1.10の関係を有する。これにより、タイヤの耐久性が適正に確保される利点がある。
【0066】
また、このタイヤ1では、一対のビードコア11、11と、一対のビードコア11、11に架け渡されたカーカス層13と、カーカス層13の外周に配置された一対の交差ベルト141、142と、交差ベルト141、142の径方向外側に配置されたトレッドゴム15とを備える(図1参照)。また、トレッドゴム15のゲージGrが、第一および第二の周溝21、22の溝中心線上におけるトレッド部のトータルゲージGtに対して30[%]以上60[%]以下の範囲にある(図3参照)。これにより、トレッドゴム15のゲージGrが適正化される利点がある。
【実施例
【0067】
図4および図5は、この発明の実施の形態にかかるタイヤの性能試験の結果を示す図表である。図6は、図4に記載した従来例の試験タイヤを示す説明図である。
【0068】
この性能試験では、複数種類の試験タイヤについて、(1)ドライ性能および(2)ウェット性能に関する評価が行われた。また、タイヤサイズP205/50R15 84Wの試験タイヤがJATMAの規定リムに組み付けられ、試験車両である重量990[kg]の四輪乗用車の総輪に装着される。また、試験タイヤに、冷間で160[kPa]、温間で220[kPa]の内圧が付与される。
【0069】
(1)ドライ性能に関する評価では、試験車両が、快晴、路面温度18[℃]および気温28[℃]の環境下にて1周3.7[km]の所定のサーキットを4周し、そのラップタイムが計測される。そして、ベストラップタイムが用いられて、従来例を基準(100)とした指数評価が行われる。この評価は、数値が大きいほど好ましい。また、評価が99以上であれば、性能が適性に維持されているといえる。
【0070】
(2)ウェット性能に関する評価では、試験車両が、水深1[mm]で散水した1周3.7[km]の所定のサーキットを4周し、そのラップタイムが計測される。そして、ベストラップタイムが用いられて、従来例を基準(100)とした指数評価が行われる。この評価は、数値が大きいほど好ましい。また、評価が99以上であれば、性能が適性に維持されているといえる。
【0071】
実施例の試験タイヤは、図1図3の構成を備え、第一および第二の周溝21、22のそれぞれが、タイヤ周方向に不連続かつ一列に配列された複数の溝部211、221から成る。また、タイヤ外径が586[mm]であり、タイヤ断面高さSHが103[mm]であり、タイヤ総幅SWが216[mm]であり、タイヤ接地幅TWが202[mm]であり、幅広な交差ベルト142のベルト幅Wbが203[mm]である。また、周溝21、22の溝中心線X1、X2上におけるトレッドゴム15のゲージGrが4.0[mm]~4.7[mm]の範囲にあり、トレッド部のトータルゲージGtが10[mm]~11[mm]の範囲にある。また、第一および第二の周溝21、22溝幅W1、W2がW1=W2の関係を有し、溝深さH1、H2がH1=H2=3.3[mm]である。
【0072】
従来例の試験タイヤは、図6に記載した構成を備え、実施例1の試験タイヤと比較して、第一および第二の周溝がタイヤ周方向に連続的に延在する構成を備える点で、相異する。
【0073】
試験結果が示すように、実施例の試験タイヤでは、タイヤのドライ性能およびウェット性能が両立することが分かる。
【符号の説明】
【0074】
1 タイヤ;11 ビードコア;12 ビードフィラー;13 カーカス層;131、132 カーカスプライ;14 ベルト層;141、142 交差ベルト;143 ベルトカバー;15 トレッドゴム;16 サイドウォールゴム;17 リムクッションゴム;18 インナーライナ;21 第一周溝;211 溝部;22 第二周溝;221 溝部
図1
図2
図3
図4
図5
図6