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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】塗料組成物、塗膜、積層体及び摺動部材
(51)【国際特許分類】
   C09D 179/08 20060101AFI20240424BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20240424BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20240424BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20240424BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20240424BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20240424BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240424BHJP
   C09D 127/20 20060101ALI20240424BHJP
   C09D 171/10 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
C09D179/08
C09D7/65
C09D7/20
B32B27/34
B32B27/00 A
B32B27/20 Z
B32B27/30 D
C09D127/20
C09D171/10
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023148014
(22)【出願日】2023-09-13
(65)【公開番号】P2024046613
(43)【公開日】2024-04-03
【審査請求日】2023-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2022151884
(32)【優先日】2022-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】弁理士法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】荻野 涼子
(72)【発明者】
【氏名】柴田 大空
(72)【発明者】
【氏名】中谷 安利
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/191055(WO,A1)
【文献】特開2022-061008(JP,A)
【文献】特開2010-083924(JP,A)
【文献】特表2008-520434(JP,A)
【文献】国際公開第2022/054916(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/068861(WO,A1)
【文献】特開2020-176216(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-10/00
C09D 101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体粒子、バインダー樹脂及び液状媒体からなる塗料組成物であって、
前記バインダー樹脂は、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリイミド樹脂、及び、ポリアリールエーテルケトン樹脂からなる群より選択される少なくとも一種であり、
前記テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体粒子は、メルトフローレートが10~25(g/10分)、融点が270℃以下、メディアン径(D50)が0.1~10μm未満であり、
前記テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体粒子と前記バインダー樹脂との質量比は、55/45~94/6であり、
前記液状媒体は、メチルイソブチルケトン、並びに、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N-ブチル-2-ピロリドン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、及び、N,N-ジメチルアセトアミドからなる群より選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする塗料組成物。
【請求項2】
さらに着色顔料を含む、請求項に記載の塗料組成物。
【請求項3】
さらに充填材を含む、請求項1又は2に記載の塗料組成物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の塗料組成物から形成されることを特徴とする塗膜。
【請求項5】
基材上に、請求項1又は2に記載の塗料組成物から形成された塗膜を有することを特徴とする積層体。
【請求項6】
基材は、金属基材である請求項に記載の積層体。
【請求項7】
摺動部材である請求項に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、塗料組成物、塗膜、積層体及び摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂は、摺動性、耐熱性等が良好であり、ポリアミドイミド(PAI)、ポリイミド(PI)等のバインダー樹脂と併用して、摺動部材、その他の工業部材等、各種用途に利用されている。
【0003】
特許文献1には、ポリアミドイミド樹脂65~75質量部、フッ素樹脂粉末10~20質量部、無機粉末10~30質量部からなる塗膜を有するEGR装置用リードバルブが開示されている。
特許文献2には、液体媒体、充填剤入りフルオロポリマーおよびポリマーバインダーを含む非粘着組成物であって、好ましくは充填剤入りフルオロポリマーとバインダーの比率が重量比にして15:85から30:70である組成物が開示されている。
特許文献3には、調理器具又は厨房用品に用いられる組成物であって、フッ素樹脂、耐熱性樹脂、水、及び、沸点が235℃以上の溶剤を含み、前記フッ素樹脂は、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体であり、前記耐熱性樹脂は、ポリアリーレンサルファイド、ポリエーテルスルフォン、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン及び芳香族ポリエステルからなる群より選択される少なくとも1種であり、前記フッ素樹脂と前記耐熱性樹脂との質量比が1/99~30/70であることを特徴とする組成物が開示されている。
【0004】
特許文献4には、フッ素樹脂(A)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(B)、並びに、アミド基及び/又はイミド基を有するバインダー樹脂(C)を含む塗料組成物であって、前記フッ素樹脂(A)と前記バインダー樹脂(C)との質量比率は、(A)/(C)=70/30~5/95であり、前記ポリエーテルエーテルケトン樹脂(B)は、前記フッ素樹脂(A)及び前記バインダー樹脂(C)の合計100質量部あたり3~50質量部であることを特徴とする塗料組成物が開示されている。
【0005】
特許文献5には、融点200℃以上かつ380℃における溶融粘度1×1010Pa・s以下のテトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子と、フッ素原子を含有しない熱硬化性ポリマーの硬化物とを含むフッ素樹脂膜であり、エネルギー分散型X線分析により定量される前記フッ素樹脂膜の一方の表面に存在するフッ素原子の量をAとし、他方の表面に存在するフッ素原子の量をBとしたとき、B/Aが0.6~1.7である、フッ素樹脂膜が開示されている。
特許文献6には、融点200℃以上かつ380℃における溶融粘度1×1010Pa・s以下のテトラフルオロエチレン系ポリマーと、チタン、ケイ素、マグネシウム、アルミニウム、セリウムおよび窒素からなる群から選ばれる少なくとも1種の特定原子を含有する、テトラフルオロエチレン系ポリマーに基づく特性を調整する機能性化合物の粒子とを含むフッ素樹脂膜であり、エネルギー分散型X線分析により定量される前記フッ素樹脂膜の一方の表面に存在する前記特定原子の量をAとし、他方の表面に存在する前記特定原子の量をBとしたとき、B/Aが0.6~1.7である、フッ素樹脂膜が開示されている。
【0006】
特許文献7には、耐熱性バインダー樹脂、熱溶融性フッ素樹脂及び有機溶剤を含み、前記熱溶融性フッ素樹脂は、1.0μm以下の平均粒径を有する粉末であり、融点が270℃以上であり、かつメルトフローレートが15~45g/10分であり、前記耐熱性バインダー樹脂100質量部に対して、前記熱溶融性フッ素樹脂が10~200質量部である塗料組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012―149610号公報
【文献】特表2002-516618号公報
【文献】特開2020-50878号公報
【文献】特開2007-238686号公報
【文献】特開2020-37661号公報
【文献】特開2020-37662号公報
【文献】国際公開2022/054916
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示は、摺動性に優れた塗膜を形成することができる塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体粒子、バインダー樹脂及び液状媒体からなる塗料組成物であって、
上記バインダー樹脂は、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリイミド樹脂、及び、ポリアリールエーテルケトン樹脂からなる群より選択される少なくとも一種であり、
上記テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体粒子は、メルトフローレートが10~25(g/10分)、融点が270℃以下、メディアン径(D50)が0.1~10μm未満であり、
上記テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体粒子と前記バインダー樹脂との質量比は、55/45~94/6であり、
上記液状媒体は、メチルイソブチルケトン、並びに、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N-ブチル-2-ピロリドン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、及び、N,N-ジメチルアセトアミドからなる群より選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする塗料組成物に関する。
【0011】
上記塗料組成物は、さらに着色顔料を含むものであってもよい。
上記塗料組成物は、さらに充填材を含むものであってもよい。
本開示は、上述の塗料組成物から形成されることを特徴とする塗膜でもある。
本開示は、基材上に、上述の塗料組成物から形成された塗膜を有することを特徴とする積層体でもある。
上記基材は、金属基材であることが好ましい。
上記積層体は、摺動部材であってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本開示の塗料組成物により、摺動性に優れた塗膜を得ることができるため、摺動部材等に好適に適用される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示を説明する。
従来、フッ素樹脂とバインダー樹脂とを併用した塗料組成物は、幅広い用途に利用されてきた。その一方で、フッ素樹脂は、液体媒体中に均一に混合することが難しく、得られる塗膜中においてフッ素樹脂の凝集や偏析が生じる場合があるという問題があった。このため、フッ素樹脂を高配合することは難しく、バインダー樹脂の配合量が多い塗料組成物が一般的であった(例えば、特許文献1~3の含フッ素塗料組成物)。
【0014】
このような従来の含フッ素塗料組成物においては、塗膜形成の際、バインダー樹脂のみを溶融流動させ、フッ素樹脂粒子は、バインダー樹脂中に分散した状態を維持させることが多かった。
特に、フッ素樹脂がPTFEの場合は、溶融時の粘性が高いため、溶融流動させることが困難であり、粒子の状態でマトリックス樹脂中に分散した状態となっている。このような状態であると、フッ素樹脂を多量に配合した塗料組成物で良好な塗膜を形成することは困難である。
【0015】
一方、摺動性の効果を得る上では、フッ素樹脂が主にその性能を担うこととなる。摺動性は、塗膜表面の物性であることから、フッ素樹脂が塗膜表面に偏在したほうが、これらの性能を高めることができる。しかし、このようにフッ素樹脂を塗膜表面に偏在させるためには、偏在させやすいフッ素樹脂を使用することが必要となる。
【0016】
本開示においては、フッ素樹脂として比較的融点が低く、流動性が高いものを使用し、これによって、塗料組成物中に高い割合でフッ素樹脂を配合できるようにしたものである。さらに、溶融時に容易に流動するものとすることで、塗膜形成時にフッ素樹脂が塗膜表面に偏在しやすくなり、従来の含フッ素塗料組成物にない、高い摺動性を得ることができるものである。
【0017】
本開示の塗料組成物は、テトラフルオロエチレン(TFE)/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体(FEP)粒子、バインダー樹脂、液状媒体からなる塗料組成物であって、上記バインダー樹脂は、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリイミド樹脂、及び、ポリアリールエーテルケトン樹脂からなる群より選択される少なくとも一種であり、上記FEP粒子は、メルトフローレートが10~25(g/10分)、融点が270℃以下、メディアン径(D50)が0.1~50μmであり、上記FEP粒子と前記バインダー樹脂との質量比は、55/45~94/6であることを特徴とする塗料組成物である。
【0018】
このような塗料組成物は、塗料の状態では、FEP樹脂粒子は溶媒に溶解せず、バインダー樹脂が溶媒に溶解して塗装時の塗膜形成に寄与する。そして、熱溶融時においては、バインダー樹脂とFEP樹脂との両方が溶融することによって、塗膜が形成される。その際、溶融させた場合もバインダー樹脂とFEP樹脂とは相溶せず、より表面自由エネルギーが低いFEP樹脂は、塗膜の表面に偏在しやすくなる。これによって、高い摺動性を得ることができる。
【0019】
(FEP粒子)
上記FEPとしては、特に限定されないが、TFE単位とHFP単位とのモル比(TFE単位/HFP単位)が70/30以上99/1未満である共重合体が好ましい。より好ましいモル比は、70/30以上98.9/1.1以下であり、更に好ましいモル比は、80/20以上98.9/1.1以下である。TFE単位が少なすぎると機械物性が低下する傾向があり、多すぎると融点が高くなりすぎ成形性が低下する傾向がある。上記FEPは、TFE及びHFPと共重合可能な単量体に由来する単量体単位が0.1~10モル%であり、TFE単位及びHFP単位が合計で90~99.9モル%である共重合体であることも好ましい。TFE及びHFPと共重合可能な単量体としては、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)、CF=CF-OCH-Rf(式中、Rfは炭素数1~5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体等が挙げられる。
【0020】
上記PAVEとしては、例えば、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)等が挙げられる。
【0021】
上記FEP粒子の各単量体単位の含有量は、NMR、FT-IR、元素分析、蛍光X線分析を単量体の種類によって適宜組み合わせることで算出できる。
【0022】
さらに、本開示で使用されるFEP粒子は、以下の物性を満たすものである。上記FEP粒子のメルトフローレート、融点、及び、メディアン径を下記に示した所望の範囲内とすることで、塗料組成物中に安定に高配合することができる。さらに、塗料組成物から形成される塗膜の焼成時にも、上記FEP粒子の良好な分散性や流動性が維持されるため、FEP粒子の凝集が起こりづらく、焼成後の塗膜表面に偏在しやすくなるため、これによって摺動性に優れた塗膜を得ることができる。
【0023】
上記FEP粒子は、メルトフローレート(MFR)が10~25(g/10分)であり、好ましくは13~23(g/10分)であり、より好ましくは15~20(g/10分)である。上記MFRが10以下であると、加工性が低下し、フッ素樹脂が塗膜表面に偏在しにくくなることで滑り性が低下するおそれがある。25を超えると、流動性が高く層間剥離の懸念がある。
【0024】
本明細書において、上記MFRは、ASTM D 1238に従って、メルトインデクサー((株)安田精機製作所製)を用いて、フルオロポリマーの種類によって定められた測定温度(例えば、FEPの場合は372℃)、荷重(例えば、FEPの場合は5kg)において内径2mm、長さ8mmのノズルから10分間あたりに流出するポリマーの質量(g/10分)として得られる値である。
【0025】
上記FEP粒子は、融点が270℃未満であり。好ましくは265℃未満、より好ましくは260℃未満である。上記融点の下限としては、220℃であることが好ましい。
上記融点が270℃を超えると、加工温度を高くする必要があり、その場合にバインダー樹脂の硬化が進みやすく、フッ素樹脂の塗膜表面への偏在の妨げとなるおそれがある。
【0026】
本明細書において、上記融点は、示差走査熱量計〔DSC〕を用いて10℃/分の速度で昇温したときの融解熱曲線における極大値に対応する温度である。
【0027】
塗膜表面におけるフッ素樹脂の偏在の指標として、EDX(エネルギー分散型X線分析)により、塗膜表面のフッ素原子の表面偏析率を評価することができる。フッ素原子の表面偏析率は、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。
【0028】
塗膜表面の摩擦係数はトライボギア(新東科学社製)により評価することができる。塗膜の摩擦係数は、0.09以下であることが好ましく、0.08以下であることがより好ましく、0.07以下であることがさらに好ましい。またフリクションプレイヤー(レスカ社製)を用いた往復摩耗試験により、耐摩耗性を評価することができる。上記摩擦係数の好ましい範囲に併せて、25℃の耐摩耗性は1300秒以上であることが好ましく、1400秒以上であることがより好ましく、1500秒以上であることがさらに好ましい。さらに150℃の耐摩耗性は600秒以上であることが好ましく、700秒以上であることがより好ましく、800秒以上であることがさらに好ましい。
このような摩擦係数、耐摩耗性を有することで、滑り性、耐久性に優れた塗膜とすることができ、摺動性が要求される用途において適用可能な塗膜とすることができる。
【0029】
上記FEP粒子は、メディアン径(D50)が0.1~50μmであり、好ましくは0.1~5μm、より好ましくは0.1~1μmである。
上記メディアン径が上記範囲内であると、得られる塗膜中で良好な分散性を発揮させて耐熱性及び非粘着性に優れた被膜を表面に形成させることができる。
【0030】
なお、本明細書において上記メディアン径は、粒子径と固体粒子量との粒度分布曲線を求めた場合について、全体固体粒子量に対する最小粒子からの積算固体粒子量が50%となるものの粒子径(いわゆる50%粒子径)を意味するものである。上記メディアン径の測定は、本開示の塗料組成物に対して直接測定することができる。
【0031】
上記FEP粒子は、熱分解開始温度が360℃以上であることが好ましい。上記熱分解開始温度は、380℃以上であることがより好ましく、390℃以上であることが更に好ましい。
【0032】
本開示の塗料組成物において、上記FEP粒子と上記バインダー樹脂との質量比は、55/45~94/6である。すなわち、公知の含フッ素樹脂塗料組成物よりも、バインダー樹脂に対してFEP粒子を高配合したものである。上記質量比が下限を下回ると、優れた摺動性を得られないおそれがある。上記質量比が上限を超えると、得られる塗料組成物と基材との密着性が不充分となるおそれがある。
上記FEP粒子とバインダー樹脂との質量比は、55/45~80/20が好ましく、60/40~70/30がより好ましい。
【0033】
本開示の塗料組成物は、さらにバインダー樹脂を含むものである。
上記バインダー樹脂は、基材との密着性に優れ、かつ、耐熱性にも優れる樹脂であることが好ましい。具体的には、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリイミド樹脂、及び、ポリアリールエーテルケトン樹脂からなる群より選択される少なくとも一種であり、二種以上を併用してもよい。
【0034】
上記ポリアミドイミド樹脂(PAI)は、分子構造中にアミド結合及びイミド結合を有する重合体からなる樹脂である。上記PAIとしては特に限定されず、例えば、アミド結合を分子内に有する芳香族ジアミンとピロメリット酸等の芳香族四価カルボン酸との反応;無水トリメリット酸等の芳香族三価カルボン酸と4,4-ジアミノフェニルエーテル等のジアミンやジフェニルメタンジイソシアネート等のジイソシアネートとの反応;芳香族イミド環を分子内に有する二塩基酸とジアミンとの反応等の各反応により得られる高分子量重合体からなる樹脂等が挙げられる。上記PAIとしては、耐熱性に優れる点から、主鎖中に芳香環を有する重合体からなるものが好ましい。
【0035】
上記ポリエーテルイミド樹脂(PEI)は、分子構造中にエーテル結合及びイミド結合を有する重合体からなる樹脂である。上記PEIとしては特に限定されず、例えば、有機溶媒中で2,2-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパンとm-フェニレンジアミンの反応等により得られる高分子量重合体からなる樹脂等が挙げられる。上記PEIとしては、耐熱性に優れる点から、主鎖中に芳香環を有する重合体からなるものが好ましい。
【0036】
上記ポリイミド樹脂(PI)は、分子構造中にイミド結合を有する重合体からなる樹脂である。上記PIとしては特に限定されず、例えば、無水ピロメリット酸等の芳香族四価カルボン酸無水物の反応等により得られる高分子量重合体からなる樹脂等が挙げられる。上記PIとしては、耐熱性に優れる点から、主鎖中に芳香環を有する重合体からなるものが好ましい。
【0037】
上記ポリアリールエーテルケトン樹脂(PAEK)と呼ばれる芳香族ポリエーテルケトン樹脂としては、具体的には、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)等を挙げることができる。
【0038】
上記芳香族ポリエーテルケトン樹脂は、アリーレン基とエーテル基[-O-]とカルボニル基[-C(=O)-]とで構成された繰り返し単位を含んでいる限り特に制限されず、例えば、下記式(a1)~(a5)のいずれかで表される繰り返し単位を含んでいる。
[-Ar-O-Ar-C(=O)-] (a1)
[-Ar-O-Ar-C(=O)-Ar-C(=O)-] (a2)
[-Ar-O-Ar-O-Ar-C(=O)-] (a3)
[-Ar-O-Ar-C(=O)-Ar-O-Ar-C(=O)-Ar-C(=O)-](a4)
[-Ar-O-Ar-O-Ar-C(=O)-Ar-C(=O)-] (a5)
(式中、Arは置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素環基を表す)
【0039】
Arで表される2価の芳香族炭化水素環基としては、例えば、フェニレン基(o-、m-、又はp-フェニレン基など)、ナフチレン基などの炭素数が6~10のアリーレン基、ビフェニレン基(2,2’-ビフェニレン基、3,3’-ビフェニレン基、4,4’-ビフェニレン基など)などのビアリーレン基(各アリーレン基の炭素数は6~10)、o-、m-又はp-ターフェニレン基などのターアリーレン基(各アリーレン基の炭素数は6~10)などが例示できる。これらの芳香族炭化水素環基は、置換基、例えば、ハロゲン原子、アルキル基(メチル基などの直鎖上又は分岐鎖状の炭素数1~4のアルキル基など)、ハロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基(メトキシ基などの直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~4のアルコキシ基など)、メルカプト基、アルキルチオ基、カルボキシル基、スルホ基、アミノ基、N-置換アミノ基、シアノ基などを有していてもよい。なお、繰り返し単位(a1)~(a5)において、各Arの種類は、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。好ましいArは、フェニレン基(例えば、p-フェニレン基)、ビフェニレン基(例えば、4,4’-ビフェニレン基)である。
【0040】
繰り返し単位(a1)を有する樹脂としては、ポリエーテルケトン(例えば、Victrex社製「PEEK-HT」)などが例示できる。繰り返し単位(a2)を有する樹脂としては、ポリエーテルケトンケトン(例えば、Arkema+Oxford Performance Material社製「PEKK」)などが例示できる。繰り返し単位(a3)を有する樹脂としては、ポリエーテルエーテルケトン(例えば、Victrex社製「VICTREX PEEK」、Evonik社製「Vestakeep(登録商標)」、ダイセル・エボニック社製「Vestakeep-J」、Solvay Speciality Polymers社製「KetaSpire(登録商標)」)、ポリエーテル-ジフェニル-エーテル-フェニル-ケトン-フェニル(例えば、Solvay Speciality Polymers社製「Kadel(登録商標)」)などが例示できる。繰り返し単位(a4)を有する樹脂としては、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(例えば、Victrex社製「VICTREX ST」)などが例示できる。繰り返し単位(a5)を有する樹脂としては、ポリエーテルエーテルケトンケトンなどが例示できる。アリーレン基とエーテル基とカルボニル基とで構成された繰り返し単位において、エーテルセグメント(E)とケトンセグメント(K)との割合は、例えば、E/K=0.5~3であり、好ましくは0.5~2.0程度である。エーテルセグメントは分子鎖に柔軟性を付与し、ケトンセグメントは分子鎖に剛直性を付与するため、エーテルセグメントが多いほど結晶化速度は速く、最終的に到達可能な結晶化度も高くなり、ケトンセグメントが多いほどガラス転移温度及び融点が高くなる傾向にある。これらの芳香族ポリエーテルケトン樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0041】
これらの芳香族ポリエーテルケトン樹脂のうち、繰り返し単位(a1)~(a4)のいずれかを有する芳香族ポリエーテルケトン樹脂が好ましい。例えば、上記芳香族ポリエーテルケトン樹脂としては、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン及びポリエーテルケトンエーテルケトンケトンからなる群より選択される少なくとも1種の樹脂であることが好ましい。更には、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン及びポリエーテルケトンケトンからなる群より選択される少なくとも1種の樹脂であることがより好ましい。特に、電線加工性が向上し、誘電率が低いことからポリエーテルケトンケトンが好ましい。
【0042】
上記芳香族ポリエーテルケトン樹脂は、融点が300℃以上であることが好ましい。より好ましくは、320℃以上である。上記範囲の融点であることによって、得られる成形品の耐熱性を向上させることができる。
【0043】
上記芳香族ポリエーテルケトン樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が130℃以上であることが好ましい。より好ましくは、135℃以上であり、更に好ましくは、140℃以上である。上記範囲のガラス転移温度であることによって、耐熱性に優れた絶縁電線を得ることができる。ガラス転移温度の上限は特に制限されないが、成形性の観点から220℃以下であることが好ましく、180℃以下であることがより好ましい。
上記ガラス転移温度は、JIS K7121に準拠し、示差走査熱量測定(DSC)装置を用いて、20℃/分の昇温速度からなる測定条件下で測定される。
【0044】
上記塗料組成物において、上記FEP粒子及び上記バインダー樹脂の合計量が、上記塗料組成物を構成するフッ素樹脂、バインダー樹脂及び液状媒体の合計量に対して15~35質量%であることが好ましく、18質量%以上であることがより好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。上記FEP粒子及び上記バインダー樹脂の合計量が上記範囲内にあると、基材との密着性に一層優れた塗膜を形成できる。
【0045】
本開示の塗料組成物は、上記バインダー樹脂を溶解し、上記FEP粒子の分散媒となる液状媒体を含むものである。このような液状媒体としては特に限定されないが、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N-ブチル-2-ピロリドン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、及び、N,N-ジメチルアセトアミドからなる群より選択される少なくとも1種を用いることができる。
【0046】
上記液状媒体の配合量は、得られる塗料組成物に塗膜形成性を与え、また、塗装方法に適した塗料粘度を与える範囲で選択することができる。
【0047】
本開示の塗料組成物は、更に、他の成分として、例えば、顔料、光輝剤、抗菌剤、充填材等の従来用いられている添加剤も、本開示の塗料組成物の効果を損なわない範囲で含むことができる。
【0048】
上記他の成分の配合量は、得られる塗料組成物からなる塗膜の非粘着性を低下させない点で、合計で、上記FEP粒子及び上記バインダー樹脂の合計量の50質量%までの範囲であってよい。
【0049】
なお、本開示の塗料組成物は着色顔料を含有してもよい。着色顔料としては、酸化チタン、酸化コバルト、カーボン、酸化クロム等が挙げられる。
上記着色顔料の含有量は、FEP樹脂とバインダー樹脂の総質量に対し、0.01質量%以上であることが好ましく、0.03質量%以上であることがより好ましい。着色顔料が0.01質量%未満である場合には、目的とする着色が得られない場合がある。また、上記着色顔料の含有量は、FEP樹脂とバインダー樹脂の総質量に対し、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましい。着色顔料が5質量%超である場合には、得られる塗膜の脆さが顕著となり耐摩耗性の低下につながることがある。
【0050】
また、本開示の塗料組成物は充填材を含有してもよい。充填材を含有することで、一般的にその塗膜硬度は向上する。この場合、摺動時にその塗膜自身の摩耗が抑制されやすい一方、摺動時に相手部材の摩耗を促進させることもある。そのため、充填材含有の要否やその配合量は、摺動部の使用環境によって適切に選定することが好ましい。
【0051】
充填材を選定するにあたっては、新モース硬度を指標とすることができる。新モース硬度は、物質の相対的な硬度を1~15の範囲で評価したものである。
【0052】
相手部材の摩耗を抑制することが求められる場合には、新モース硬度が7未満の充填材を用いることが好ましい。そのような充填材としては、特に限定されず、例えば、タルク(新モース硬度1)、グラファイト(新モース硬度2)、窒化ホウ素(新モース硬度2)、マイカ(新モース硬度3)、水酸化アルミニウム(新モース硬度3)、炭酸カルシウム(新モース硬度3)、フッ化カルシウム(新モース硬度4)、酸化亜鉛(新モース硬度4~5)、第三リン酸カルシウム(新モース硬度5)、酸化鉄(新モース硬度6)等を挙げることができる。中でも、摺動時にその塗膜自身の摩耗抑制と相手部材の摩耗抑制を両立するという観点から、グラファイト及び酸化鉄からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。また、これらのうち2種以上を併用してもよい。
【0053】
一方、自らの塗膜摩耗を抑制することが特に求められる場合には、新モース硬度が7以上の充填材を用いることが好ましい。そのような充填材としては、特に限定されず、例えば、シリカ(新モース硬度7)、ガラスフレーク(新モース硬度7)、二酸化ケイ素(新モース硬度7)、石英(新モース硬度8)、トパーズ(新モース硬度9)、ガーネット(新モース硬度10)、ジルコニア(新モース硬度11)、炭化タンタル(新モース硬度11)、アルミナ(新モース硬度12)、炭化タングステン(新モース硬度12)、炭化ケイ素(新モース硬度13)、炭化ホウ素(新モース硬度14)、ダイヤモンド(新モース硬度15)、フッ素化ダイヤモンド(新モース硬度15)、立方晶窒化ホウ素(新モース硬度15)等を挙げることができる。中でも、相手部材の摩耗を軽減するという観点から、二酸化ケイ素、石英、及び、アルミナからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。また、これらのうち2種以上を併用してもよい。
【0054】
本開示の塗料組成物は優れた耐摩耗性能を有し、高温、高発熱環境下で使用可能な摺動材のコーティング材料として用いることができる。具体的な製品としては、エアコンコンプレッサーピストン用、斜板用、スクロールコンプレッサー用部材、等を挙げることができる。特にカーエアコンコンプレッサーピストン用が好ましい。より過酷な状況では新モース硬度が7以上の充填材を用いることが好ましい。低硬度の充填剤を用いるか高硬度の充填剤を用いるかは顧客の要望次第であり、幅広いフィラー選定が可能となる。このような用途における基材、塗装方法等は公知の方法に基づいて行うことができる。
【0055】
充填材の一次粒子の平均粒子径は、0.1μm以上であることが好ましく、0.3μm以上であることがより好ましく、0.5μm以上であることがさらに好ましい。また、充填材の一次粒子の平均粒子径は、30μm以下であることが好ましく、25μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることがさらに好ましい。
【0056】
充填材の一次粒子の平均粒子径は、次のように測定することができる。まず透過型電子顕微鏡又は走査型電子顕微鏡で視野内の粒子を撮影する。そして、二次元画像上の凝集体を構成する一次粒子の300個につき、個々の粒子の内径の最長の長さ(最大長)を求める。個々の粒子の最大長の平均値を一次粒子の平均粒子径とする。
【0057】
充填材の含有量は、FEP樹脂及びバインダー樹脂の総質量に対し、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、12質量%以下であることがさらに好ましい。充填材が20質量%超である場合には、得られる塗膜の脆さが顕著となり耐摩耗性の低下につながることがある。
【0058】
本開示の塗料組成物は常法によって製造することができる。例えば、ボールミル、3本ロール、ディスパー等の撹拌混合装置を用いて、各成分を撹拌混合することによって製造することができる。
【0059】
本開示の塗料組成物は、塗装性の点で、固形分濃度が10~50質量%であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、また、35質量%以下であることがより好ましい。
【0060】
本開示は、上記塗料組成物から形成されることを特徴とする塗膜でもある。
上記塗料組成物から得られる塗膜は、塗膜強度に優れ、更に、摺動性にも優れている。上記塗膜は、厚みが一般に5~100μm、好ましくは10~50μmである。
上記厚みは、渦電流式膜厚測定器(ケツト科学研究所社製)を用いて測定することができる。
【0061】
さらに、本開示は、基材上に、上記塗料組成物から形成された塗膜を有することを特徴とする積層体でもある。
本開示の塗料組成物は多種多様な被塗装物上に塗装することができるため、上記基材としては特に限定されない。例えば、アルミニウム、ステンレス〔SUS〕、鉄等の金属;耐熱樹脂;セラミック等からなるものが挙げられ、金属からなるものであることが好ましい。金属としては、単体金属又は合金であってよい。
上記基材は、塗膜との接着性を向上させる点で、塗膜を塗装する前に予め、ブラスト処理等の粗面化処理及び/又はリン酸塩等を用いた化成処理を行ったものであることが好ましい。
上記基材は、平均表面粗さ〔Ra〕が2~10μmであることが好ましい。上記平均表面粗さは、JIS D0601に準拠して測定した値である 。
【0062】
上記塗膜は、上記塗料組成物を基材上に塗布することにより形成できる。上記塗料組成物の塗布は、従来公知の方法であれば特に限定されず、例えば、スプレー塗装、ローラーによる塗布等が挙げられる。上記塗布を行い、所望により80~150℃で塗料組成物を乾燥させた後に焼成するものであってもよい。上記焼成温度は、好ましくは200~300℃、より好ましくは230~280℃である。
上記焼成は、一般に15~120分間、好ましくは30~60分間行うことができる。
さらに、上記焼成後、得られた塗膜の表面処理、各種用途に応じて所望の形状に加工する等、その他の工程を行った積層体であってもよい
【0063】
本発明における積層体は、摺動性に優れているので、例えば、摺動部材、製紙ロール、カレンダーロール、金型離型部品、ケーシング、バルブ、弁、パッキン、コイルボビン、オイルシール、継ぎ手、アンテナキャップ、コネクター、ガスケット、バルブシール、埋設ボルト、埋設ナット等の工業部品として使用することができ、なかでも、摺動部材として好適に使用することができる。
上記摺動部材としては、例えば、カーエアコンのコンプレッサー等及びそれに用いる斜板等、軸受け材、軸受けプレート、各種ギアを含む精密機構摺動部材が挙げられる。
【実施例
【0064】
以下、本発明を実施例によって説明する。実施例中、配合割合において%、部とあるのは特に言及がない限り質量%、質量部を意味する。本発明は以下に記載した実施例に限定されるものではない。
【0065】
使用したフッ素樹脂粒子、バインダー樹脂、着色顔料、充填材を、以下に示す。
フッ素樹脂(FEP)粒子A:
HFP15.7質量%、メルトフローレート15g/10分、融点267℃、メディアン径0.15μm
フッ素樹脂(FEP)粒子B:
HFP16.0質量%、PPVE2.6質量%、メルトフローレート20g/10分、融点259℃、メディアン径0.14μm
フッ素樹脂(FEP)粒子C:(メチルイソブチルケトンに分散したもの)
HFP21.8質量%、メルトフローレート17g/10分、融点227℃、メディアン径0.11μm
【0066】
フッ素樹脂(FEP)粒子D:
HFP16.0質量%、PPVE2.6質量%、メルトフローレート2g/10分、融点259℃、メディアン径0.14μm
フッ素樹脂(FEP)粒子E:
HFP16.0質量%、PPVE2.6質量%、メルトフローレート29g/10分、融点258℃、メディアン径0.14μm
フッ素樹脂(FEP)粒子F:
HFP16.0質量%、PPVE2.6質量%、メルトフローレート20g/10分、融点259℃、メディアン径0.05μm
【0067】
フッ素樹脂(FEP)粒子G:
HFP16.0質量%、PPVE2.6質量%、メルトフローレート20g/10分、融点259℃、メディアン径45μm
フッ素樹脂(FEP)粒子H:
HFP16.0質量%、PPVE2.6質量%、メルトフローレート20g/10分、融点259℃、メディアン径60μm
フッ素樹脂(PFA)粒子I:
PPVE4.1質量%、メルトフローレート29g/10分、融点315℃、メディアン径0.30μm
フッ素樹脂(PTFE)粒子J:(メチルイソブチルケトンに分散したもの)
融点329℃、メディアン径 0.25μm
フッ素樹脂(PTFE)粒子K:
融点329℃、メディアン径4.1μm
【0068】
バインダー樹脂L:
昭和電工マテリアルズ社製ポリアミドイミドワニスHPC-5000、固形分:30質量%、主溶媒:N-メチル-2-ピロリドン
バインダー樹脂M:
エランタス社製ポリアミドイミドワニスElan-tech603G、固形分:35質量%、主溶媒:3-メトキシ-N、N-ジメチルプロパンアミド
バインダー樹脂N:サビック社製ULTEM1000F3SPをN-メチル-2-ピロリドンに溶解させたポリエーテルイミドワニス、固形分:25質量%
バインダー樹脂O:
三井化学社製AURUM PD450をN-メチル-2-ピロリドンに溶解させたポリイミドワニス、固形分:25質量%
バインダー樹脂P:
ソルベイスペシャルティポリマーズ社製KT-820をN-メチル-2-ピロリドンに溶解させたポリエーテルエーテルケトン分散体、固形分:25質量%
【0069】
着色顔料Q:
古河ケミカルズ社製酸化チタン(FR-22、平均粒径0.6μm)
着色顔料R:
三菱ケミカル社製カーボンブラック(MA-100、平均粒径0.02μm)
【0070】
充填材S:
富士フィルム和光純薬社製タルク(和光一級、平均粒径8μm)、新モース硬度1
充填材T:
日本黒鉛工業社製グラファイト(J-CPB、平均粒径5μm)、新モース硬度2
充填材U
デンカ社製石英(溶融シリカFB-5D、平均粒径4.7μm)、新モース硬度8
充填材V:
第一稀元素化学工業社製ジルコニア(DK-3CH、平均粒径14μm)、新モース硬度11
充填材W:
信濃電気精錬社製炭化ケイ素(GC2500、平均粒径5.5μm)、新モース硬度13
【0071】
(実施例1~20、比較例1~9)
フッ素樹脂としてフッ素樹脂粒子A~Kの1種以上、バインダー樹脂としてバインダー樹脂L~Pのいずれか、および、N-メチル-2-ピロリドン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、メチルイソブチルケトンを所定の質量比で混合し、フッ素樹脂分散組成物を得た。
また、一部の実施例、比較例では、着色顔料としてQおよびR,充填材としてS~Wのいずれかを、上記組成物の調製時に同時に混合し、フッ素樹脂分散組成物を得た。
脱脂処理を行ったアルミニウム板上に、上記のフッ素樹脂分散組成物をスプレー塗装し、100℃で30分間乾燥させた後、280℃で30分間焼成して、総膜厚15μmの塗膜を得た。
【0072】
上記の実施例、比較例から得られた組成物の安定性、および、この組成物から得られた塗膜の摺動性の因子として、塗膜が摩耗するまでの時間、相手材の摩耗量、塗膜の摩擦係数を、以下のように評価した。
【0073】
(組成物の安定性)
組成物調製後の安定性(凝集物の有無など)を目視で評価した。
〇:濾過時に凝集物が残らない
×:濾過時に凝集物やゲル状の物質が確認できる
【0074】
(塗膜が摩耗するまでの時間)
フリクションプレイヤー(レスカ社製)を用いた往復摩耗試験により、25℃及び150℃で塗膜が剥離してアルミニウム板が露出するまでの時間(秒)を測定した。測定子としては、ボール状の二酸化ケイ素(新モース硬度7)を使用した。
【0075】
(相手材の摩耗量)
上記のフリクションプレイヤー用いた往復摩耗試験において、塗膜との摩耗によるボール状二酸化ケイ素測定子の重量減少量を測定した。
【0076】
(塗膜の摩擦係数)
トライボギア(新東科学社製)を使用して塗膜の摩擦係数を測定した。
【0077】
(フッ素原子の表面偏析率)
フッ素樹脂塗膜の表面に対してEDX(エネルギー分散型X線分析)を行い、表面から深さ0.5~1μmを測定し、表面に偏析しているフッ素原子の割合[質量%]を算出した。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
【表3】
【0081】
【表4】
【0082】
【表5】
【0083】
本開示の塗料組成物は、フッ素樹脂粒子を安定に高配合できることが示された。また、得られる塗膜においても、フッ素樹脂が表面に偏在するものとなり、優れた耐摩耗性を有することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本開示の塗料組成物は、上述の構成よりなるので、摺動性に優れた塗膜を形成するができる。本開示の積層体は、摺動性に優れているので、摺動部材等の工業部品として好適に使用することができる。