(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】金型及び熱間プレス成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21D 24/00 20060101AFI20240424BHJP
B21D 22/20 20060101ALI20240424BHJP
B21D 22/26 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
B21D24/00 M
B21D22/20 H
B21D22/26 D
B21D24/00 H
B21D24/00 F
(21)【出願番号】P 2023511480
(86)(22)【出願日】2022-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2022015965
(87)【国際公開番号】W WO2022210874
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-08-30
(31)【優先権主張番号】P 2021056858
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】村澤 皓大
(72)【発明者】
【氏名】藤中 真吾
【審査官】石川 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-000431(JP,A)
【文献】特開2013-248632(JP,A)
【文献】特開2014-117735(JP,A)
【文献】特開2020-116610(JP,A)
【文献】特開2014-079790(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 24/00
B21D 22/20
B21D 22/26
C21D 1/18
C21D 1/673
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
素材に対して熱間プレス成形を実施するための金型であって、
第1成形面を有する上型と、
熱間プレス成形時において、前記第1成形面と対向して配置され、前記第1成形面とともに前記素材を熱間プレス成形する第2成形面を有する下型とを備え、
前記第1成形面は、
複数の第1リブ部と複数の第1溝部とを有する第1緩冷却領域を含み、
複数の前記第1リブ部は、前記第1リブ部の幅方向に配列され、
複数の前記第1溝部は、前記第1溝部の幅方向に配列され、
前記第1リブ部は、隣り合う前記第1溝部の間に形成されており、
前記第1リブ部の幅は、前記第1溝部の幅よりも狭く、
前記第2成形面は、
複数の第2リブ部と複数の第2溝部とを有する第2緩冷却領域を含み、
複数の前記第2リブ部は、前記第2リブ部の幅方向に配列され、
複数の前記第2溝部は、前記第2溝部の幅方向に配列され、
前記第2リブ部は、隣り合う前記第2溝部の間に形成されており、
前記第2リブ部の幅は、前記第2溝部の幅よりも狭く、
熱間プレス成形時において、前記第1緩冷却領域及び前記第2緩冷却領域を、前記第1緩冷却領域の法線方向から見たとき、
前記第1リブ部と前記第2リブ部とは、少なくとも一部が重複している、
金型。
【請求項2】
請求項1に記載の金型であって、
熱間プレス成形時において、前記第1緩冷却領域及び前記第2緩冷却領域を、前記第1緩冷却領域の法線方向から見たとき、
前記第1リブ部と前記第2リブ部とは、同じ方向に延びており、
前記第1溝部と前記第2溝部とは、同じ方向に延びている、
金型。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の金型であって、
前記第1リブ部の幅は、前記第1溝部の幅の10~50%であり、
前記第2リブ部の幅は、前記第2溝部の幅の10~50%である、
金型。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の金型であって、
前記第1緩冷却領域の少なくとも一部において、
前記第1リブ部の幅は、1.0~8.0mmであり、
前記第1リブ部の高さは、0.2~5.0mmであり、
前記第2緩冷却領域の少なくとも一部において、
前記第2リブ部の幅は、1.0~8.0mmであり、
前記第2リブ部の高さは、0.2~5.0mmである、
金型。
【請求項5】
請求項2に記載の金型であって、
前記第1リブ部の幅は、前記第1溝部の幅の10~50%であり、
前記第2リブ部の幅は、前記第2溝部の幅の10~50%であり、
前記第1リブ部及び前記第2リブ部の各々の幅は1.0~8.0mmであり、
前記第1リブ部及び前記第2リブ部の各々の高さは0.2~5.0mmであり、
式(1)で定義されるFn1が14以下である、
金型。
Fn1=Wr
0.9/P0
0.8+0.05Hr (1)
ここで、式(1)中のWrは前記第1リブ部及び前記第2リブ部の幅(mm)であり、P0=Wr/Wsであり、Wsは前記第1溝部及び前記第2溝部の幅(mm)であり、Hrは前記第1リブ部及び前記第2リブ部の高さ(mm)である。
【請求項6】
請求項2又は請求項5に記載の金型であって、
前記第1リブ部の幅は、前記第1溝部の幅の10~50%であり、
前記第2リブ部の幅は、前記第2溝部の幅の10~50%であり、
前記第1リブ部及び前記第2リブ部の各々の幅は1.0~8.0mmであり、
前記第1リブ部及び前記第2リブ部の各々の高さは0.2~5.0mmであり、
式(2)で定義されるFn2が30以上である、
金型。
Fn2=Ws
2×Hr
0.4/Wr (2)
ここで、式(2)中のWsは前記第1溝部及び前記第2溝部の幅(mm)であり、Wrは前記第1リブ部及び前記第2リブ部の幅(mm)であり、Hrは前記第1リブ部及び前記第2リブ部の高さ(mm)である。
【請求項7】
請求項4~請求項6のいずれか1項に記載の金型であって、
前記第1緩冷却領域の少なくとも一部において、
前記第1リブ部の幅は、1.0~4.0mmであり、かつ、前記第1溝部の幅の10~30%であり、
前記第2緩冷却領域の少なくとも一部において、
前記第2リブ部の幅は、1.0~4.0mmであり、かつ、前記第2溝部の幅の10~30%である、
金型。
【請求項8】
熱間プレス成形品の製造方法であって、
素材を準備する工程と、
前記準備された素材をA
c3点以上の温度に加熱する工程と、
加熱された前記素材に対して、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の金型により熱間プレス成形を実施する工程と、
熱間プレス成形された前記素材を、前記金型から離型して、熱間プレス成形品を製造する工程とを備える、
熱間プレス成形品の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の熱間プレス成形品の製造方法であってさらに、
前記金型から離型して製造された前記熱間プレス成形品を、100~500℃で保持する工程とを備える、
熱間プレス成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は金型、及び、その金型を用いた熱間プレス成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車分野では、燃費の向上のため、車体の軽量化が求められる。自動車分野ではさらに、衝突時の乗員保護のため、衝突安全性の向上も求められる。車体の軽量化には、車体に用いられる構造部材の薄肉化が有効である。構造部材を薄肉化しつつ衝突安全性の向上を図るため、車体の構造部材に適用される素材には、高い強度が求められる。一方、高い強度を有する素材は、プレス成形性が低い。高い強度を有する素材を冷間でプレス成形すると、プレス成形時に割れが発生したり、プレス成形により発生した応力により、素材が弾性変形する現象(スプリングバック)が起こったりする。そこで、このような高い強度を有する素材を用いて構造部材を成形する方法として、熱間プレス成形が提案されている。
【0003】
熱間プレス成形では、ミクロ組織がオーステナイト単相となる温度域まで素材を加熱する。そして、加熱された素材を、金型を備える熱間プレス装置を用いて熱間でプレス成形する。熱間プレス成形では、加熱により素材が軟質化される。そのため、熱間プレス成形での素材のプレス成形性は高い。熱間プレス成形ではさらに、熱間プレス成形中の素材が金型の成形面の略全体と接触する。このとき、素材は、素材と接触する金型によって抜熱され、焼入れされる。このように、熱間プレス成形では、素材は熱間プレス成形されると同時に焼入れされる。そのため、熱間プレス成形では、高強度の熱間プレス成形品を容易に製造することができる。
【0004】
ところで、自動車の構造部材の1種である衝撃吸収部材では、優れた衝撃吸収能が求められる。そこで、衝撃吸収部材を成形するための熱間プレス成形用の金型が、特許文献1(特開2014-79790号公報)に提案されている。
【0005】
特許文献1に開示される熱間プレス成形では、加熱された素材を、金型を用いて熱間プレス成形する。熱間プレス成形時においてさらに、金型と素材との隙間の一部に冷媒を流して、素材を部分的に急冷する。具体的には、特許文献1の金型は、金型内部の冷媒路中の冷媒を金型外部に供給する供給口を、金型表面に備える。特許文献1の金型はさらに、素材のうちの高強度部と低強度部との境界領域と接触する凸部を備える。熱間プレス成形時に、高強度部と金型との隙間には、供給口から冷媒が供給される。一方、低強度部と金型との隙間には、冷媒は供給されない。高強度部と低強度部との境界に接触する凸部が、冷媒を堰き止める。そのため、高強度部と金型との隙間に充填された冷媒は、低強度部と金型との隙間には流れない。その結果、衝撃吸収能に優れた低強度部を備える熱間プレス成形品(衝撃吸収部材)が製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示される金型では、衝撃吸収能に優れた低強度部を備える熱間プレス成形品を製造できる。しかしながら、特許文献1に記載の技術と異なる他の技術により、優れた衝撃吸収能を有する熱間プレス成形品が製造できてもよい。
【0008】
本開示の目的は、熱間プレス成形によって、優れた衝撃吸収能を有する熱間プレス成形品を製造可能な金型、及び、その金型を用いた熱間プレス成形品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示による金型は、素材に対して熱間プレス成形を実施するための金型である。
金型は、上型と、下型とを備える。上型は、第1成形面を有する。下型は、第2成形面を有する。第2成形面は、熱間プレス成形時において、第1成形面と対向して配置され、第1成形面とともに、素材を熱間プレス成形する。
第1成形面は、第1緩冷却領域を含む。第1緩冷却領域は、複数の第1リブ部と複数の第1溝部とを有する。複数の第1リブ部は、第1リブ部の幅方向に配列される。複数の第1溝部は、第1溝部の幅方向に配列される。第1リブ部は、隣り合う第1溝部の間に形成されている。第1リブ部の幅は、第1溝部の幅よりも狭い。
第2成形面は、第2緩冷却領域を含む。第2緩冷却領域は、複数の第2リブ部と複数の第2溝部とを有する。複数の第2リブ部は、第2リブ部の幅方向に配列される。複数の第2溝部は、第2溝部の幅方向に配列される。第2リブ部は、隣り合う第2溝部の間に形成されている。第2リブ部の幅は、第2溝部の幅よりも狭い。
熱間プレス成形時において、第1緩冷却領域及び第2緩冷却領域を、第1緩冷却領域の法線方向から見たとき、第1リブ部と第2リブ部とは、少なくとも一部が重複している。
【0010】
本開示による熱間プレス成形品の製造方法は、素材を準備する工程と、準備された素材をAc3点以上の温度に加熱する工程と、加熱された素材に対して、上述の金型により熱間プレス成形を実施する工程と、熱間プレス成形された素材を、金型から離型して、熱間プレス成形品を製造する工程とを備える。
【発明の効果】
【0011】
本開示による金型は、熱間プレス成形によって、優れた衝撃吸収能を有する熱間プレス成形品を製造できる。本開示による熱間プレス成形品の製造方法は、優れた衝撃吸収能を有する熱間プレス成形品を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、熱間プレス成形用の熱間プレス装置の一例を示す正面図である。
【
図2】
図2は、本実施形態による金型の一例を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、本実施形態による金型の一例の緩冷却領域における、熱間プレス成形時の金型及び素材の状態を示す断面図である。
【
図4】
図4は、本実施形態による金型の一例の急冷領域における、熱間プレス成形時の金型及び素材の状態を示す断面図である。
【
図6】
図6は、
図3の領域100を上方向(第1緩冷却領域及び第2緩冷却領域の法線方向)から見た、領域100の模式図である。
【
図8】
図8は、Fn1と、第1緩冷却領域及び第2緩冷却領域での温度ばらつきΔT(℃)との関係を示す図である。
【
図9】
図9は、
図8を作成するための2次元熱伝達シミュレーションで用いた熱伝導モデルの模式図である。
【
図10】
図10は、Fn2と、熱間プレス成形時の素材Bの冷却速度V(℃/秒)との関係を示す図である。
【
図11】
図11は、本実施形態による金型の
図2とは異なる他の一例を示す斜視図である。
【
図17】
図17は、
図16の領域100を第1緩冷却領域の法線方向から見て、リブ部のみを図示した模式図である。
【
図19】
図19は、
図18の領域100を第1緩冷却領域の法線方向から見て、リブ部のみを図示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
上述のとおり、自動車の構造部材のうち衝撃吸収部材では、衝突時の衝撃エネルギーの吸収能、すなわち衝撃吸収能の向上が求められる。衝撃エネルギーは、構造部材が塑性変形することにより、吸収される。そのため、衝撃吸収能を高めるには、高い応力を受けた場合にも優れた塑性変形能を発揮できることが有効である。
【0014】
本発明者らは、熱間プレス成形時における素材の冷却速度を低減できれば、素材が、高い応力を受けた場合にも優れた塑性変形能を発揮できると考えた。そこで、本発明者らは、金型の成形面の表面形状について検討した。その結果、本発明者らは、複数のリブ部と複数の溝部とを含む緩冷却領域を成形面に形成すれば、熱間プレス成形時の素材の冷却速度を低減できると考えた。
【0015】
成形面においてリブ部は、所定方向に延在しており、延在方向と垂直な断面が凸形状を有する。成形面において溝部は、リブ部の延在方向に沿って延在しており、延在方向と垂直な断面が凹形状を有する。複数のリブ部と複数の溝部とは、交互に形成されている。
【0016】
熱間プレス成形時において、緩冷却領域では、リブ部が素材に直接接触して素材を抜熱する。一方、溝部は、素材と直接接触しない。したがって、成形面が複数のリブ部と複数の溝部とを含んでいれば、熱間プレス成形時において、金型と素材とが接触する面積を減らすことができる。そのため、焼入れ時の素材の冷却速度を低減できる。
【0017】
以上の知見に基づいて、本発明者らは、金型の成形面の緩冷却領域中の複数のリブ部及び複数の溝部のうち、リブ部の幅と溝部の幅とに着目して、さらに詳細に検討した。その結果、リブ部の幅を、溝部の幅よりも狭くすれば、熱間プレス成形時の素材の抜熱が有効に低減し、冷却速度を低減できることを、本発明者らは知見した。熱間プレス成形時の素材の冷却速度を遅くできれば、素材の高強度化を抑制でき、衝撃吸収能を高めることができる。
【0018】
緩冷却領域中のリブ部の幅を、溝部の幅よりも狭くすれば、熱間プレス成形品の少なくとも一部に、強度が低減された衝撃緩衝領域を形成することができる。しかしながら、リブ部の幅を溝部の幅よりも狭くしたとき、熱間プレス成形品の表面に波状の変形が生じ、熱間プレス成形品の寸法精度が低下する場合があった。そこで、本発明者らは、この原因について検討を行った。その結果、本発明者らは次の知見を得た。
【0019】
熱間プレス成形時において、一対の金型(上型、下型)のうちの一方の金型の成形面の緩冷却領域に形成されたリブ部が、他方の金型の成形面の緩冷却領域に形成された溝部に入り込んでしまう場合がある。この場合、熱間プレス成形品の表面に、上述の波状の変形が生じる。
【0020】
以上の知見に基づいて、本発明者らは、熱間プレス成形時において、一方の金型の緩冷却領域に形成されたリブ部と、他方の金型の緩冷却領域に形成されたリブ部とを、緩冷却領域の法線方向から見たときに重複させることを考えた。一方の金型の緩冷却領域に形成されたリブ部のうち少なくとも一部が、他方の金型の緩冷却領域に形成されたリブ部と重複すれば、リブ部が溝部に入り込んでしまうのを抑制することができる。
【0021】
本実施形態による金型では、熱間プレス成形時において、緩冷却領域を緩冷却領域の法線方向から見たとき、一方の緩冷却領域に形成されたリブ部と、他方の緩冷却領域に形成されたリブ部とは、少なくとも一部が重複する。その結果、リブ部の幅が溝部の幅よりも狭いことにより生じる、上述の波状の変形を抑制することができる。
【0022】
以上の知見に基づいて完成した本実施形態による金型、及び、本実施形態による金型を用いた熱間プレス成形品の製造方法は、次の構成を備える。
【0023】
[1]
素材に対して熱間プレス成形を実施するための金型であって、
第1成形面を有する上型と、
熱間プレス成形時において、前記第1成形面と対向して配置され、前記第1成形面とともに前記素材を熱間プレス成形する第2成形面を有する下型とを備え、
前記第1成形面は、
複数の第1リブ部と複数の第1溝部とを有する第1緩冷却領域を含み、
複数の前記第1リブ部は、前記第1リブ部の幅方向に配列され、
複数の前記第1溝部は、前記第1溝部の幅方向に配列され、
前記第1リブ部は、隣り合う前記第1溝部の間に形成されており、
前記第1リブ部の幅は、前記第1溝部の幅よりも狭く、
前記第2成形面は、
複数の第2リブ部と複数の第2溝部とを有する第2緩冷却領域を含み、
複数の前記第2リブ部は、前記第2リブ部の幅方向に配列され、
複数の前記第2溝部は、前記第2溝部の幅方向に配列され、
前記第2リブ部は、隣り合う前記第2溝部の間に形成されており、
前記第2リブ部の幅は、前記第2溝部の幅よりも狭く、
熱間プレス成形時において、前記第1緩冷却領域及び前記第2緩冷却領域を、前記第1緩冷却領域の法線方向から見たとき、
前記第1リブ部と前記第2リブ部とは、少なくとも一部が重複している、
金型。
【0024】
[1]の金型は、熱間プレス成形によって、優れた衝撃吸収能を有する熱間プレス成形品を製造できる。
【0025】
[2]
[1]に記載の金型であって、
熱間プレス成形時において、前記第1緩冷却領域及び前記第2緩冷却領域を、前記第1緩冷却領域の法線方向から見たとき、
前記第1リブ部と前記第2リブ部とは、同じ方向に延びており、
前記第1溝部と前記第2溝部とは、同じ方向に延びている、
金型。
【0026】
[2]の金型は、熱間プレス成形時の素材における熱伝達のシミュレーションの精度を高めることができる。
【0027】
[3]
[1]又は[2]に記載の金型であって、
前記第1リブ部の幅は、前記第1溝部の幅の10~50%であり、
前記第2リブ部の幅は、前記第2溝部の幅の10~50%である、
金型。
【0028】
[3]の金型であれば、熱間プレス成形時において、冷却速度を遅くすることができる。冷却速度を遅くすることができれば、所望の素材温度で冷却を停止しやすくなる。例えば、熱間プレス成形時においてMf点~Ms点の間で冷却を停止して、その後に後述する加熱保持工程を実施することにより、素材のミクロ組織中のマルテンサイト、及び、残留オーステナイトの生成量を調整してもよい。また、例えば、熱間プレス成形時においてMs点超~500℃の間の温度で冷却を停止して、かつ、その後に後述する加熱保持工程を実施することにより、素材のミクロ組織をベイナイト主体の組織としてもよい。
【0029】
[4]
[1]~[3]のいずれか1つに記載の金型であって、
前記第1緩冷却領域の少なくとも一部において、
前記第1リブ部の幅は、1.0~8.0mmであり、
前記第1リブ部の高さは、0.2~5.0mmであり、
前記第2緩冷却領域の少なくとも一部において、
前記第2リブ部の幅は、1.0~8.0mmであり、
前記第2リブ部の高さは、0.2~5.0mmである、
金型。
【0030】
[4]の金型は、熱間プレス成形時の素材の温度ばらつきを抑制できる。
【0031】
[5]
[2]に記載の金型であって、
前記第1リブ部の幅は、前記第1溝部の幅の10~50%であり、
前記第2リブ部の幅は、前記第2溝部の幅の10~50%であり、
前記第1リブ部及び前記第2リブ部の各々の幅は1.0~8.0mmであり、
前記第1リブ部及び前記第2リブ部の各々の高さは0.2~5.0mmであり、
式(1)で定義されるFn1が14以下である、
金型。
Fn1=Wr0.9/P00.8+0.05Hr (1)
ここで、式(1)中のWrは前記第1リブ部及び前記第2リブ部の幅(mm)であり、P0=Wr/Wsであり、Wsは前記第1溝部及び前記第2溝部の幅(mm)であり、Hrは前記第1リブ部及び前記第2リブ部の高さ(mm)である。
【0032】
[5]の金型では、熱間プレス成形時の素材の温度ばらつきをさらに抑制できる。
【0033】
[6]
[2]又は[5]に記載の金型であって、
前記第1リブ部の幅は、前記第1溝部の幅の10~50%であり、
前記第2リブ部の幅は、前記第2溝部の幅の10~50%であり、
前記第1リブ部及び前記第2リブ部の各々の幅は1.0~8.0mmであり、
前記第1リブ部及び前記第2リブ部の各々の高さは0.2~5.0mmであり、
式(2)で定義されるFn2が30以上である、
金型。
Fn2=Ws2×Hr0.4/Wr (2)
ここで、式(2)中のWsは前記第1溝部及び前記第2溝部の幅(mm)であり、Wrは前記第1リブ部及び前記第2リブ部の幅(mm)であり、Hrは前記第1リブ部及び前記第2リブ部の高さ(mm)である。
【0034】
[6]の金型では、素材の冷却速度をより遅くすることができる。冷却速度を遅くすることができれば、所望の素材温度で冷却をより停止しやすくなる。例えば、熱間プレス成形時においてMf点~Ms点の間で冷却を停止して、その後に後述する加熱保持工程を実施することにより、素材のミクロ組織中のマルテンサイト、及び、残留オーステナイトの生成量を調整してもよい。また、例えば、熱間プレス成形時においてMs点超~500℃の間の温度で冷却を停止して、かつ、その後に後述する加熱保持工程を実施することにより、素材のミクロ組織をベイナイト主体の組織としてもよい。
【0035】
[7]
[4]~[6]のいずれか1項に記載の金型であって、
前記第1緩冷却領域の少なくとも一部において、
前記第1リブ部の幅は、1.0~4.0mmであり、かつ、前記第1溝部の幅の10~30%であり、
前記第2緩冷却領域の少なくとも一部において、
前記第2リブ部の幅は、1.0~4.0mmであり、かつ、前記第2溝部の幅の10~30%である、
金型。
【0036】
[7]の金型は、熱間プレス成形時の素材の温度ばらつきをさらに抑制できる。
【0037】
[8]
熱間プレス成形品の製造方法であって、
素材を準備する工程と、
前記準備された素材をAc3点以上の温度に加熱する工程と、
加熱された前記素材に対して、[1]~[7]のいずれか1項に記載の金型により熱間プレス成形を実施する工程と、
熱間プレス成形された前記素材を、前記金型から離型して、熱間プレス成形品を製造する工程とを備える、
熱間プレス成形品の製造方法。
【0038】
[8]の熱間プレス成形品の製造方法は、優れた衝撃吸収能を有する熱間プレス成形品を製造できる。
【0039】
[9]
[8]に記載の熱間プレス成形品の製造方法であってさらに、
前記金型から離型して製造された前記熱間プレス成形品を、100~500℃で保持する工程とを備える、
熱間プレス成形品の製造方法。
【0040】
以下、本実施形態による金型、及び、本実施形態による金型を用いた熱間プレス成形品の製造方法について、図面を参照して説明する。なお、各図面において同一又は相当する構成については、同一の符号を付し、同一の説明を繰り返さない。
【0041】
[熱間プレス装置1の構成]
図1は、熱間プレス成形用の熱間プレス装置1の一例を示す正面図である。
図1を参照して、熱間プレス装置1は、本実施形態による金型10を除き、公知の熱間プレス装置と実質的に同じ構成を備える。熱間プレス装置1は、フレーム2と、スライド3と、ボルスタ4と、金型10(上型11及び下型12)とを備える。以降の説明において、熱間プレス装置1の鉛直方向(上下)方向をV方向、熱間プレス装置1の幅方向をW方向、V方向とW方向と垂直な方向をL方向ともいう。
【0042】
図1を参照して、フレーム2は、熱間プレス装置1の上部に配置される。フレーム2は、フレーム2の下方に配置されるスライド3を昇降可能に支持する。フレーム2は、スライド3を昇降する駆動装置(図示せず)を備える。駆動装置は機械式機構であってもよいし、液圧式機構であってもよい。スライド3は、フレーム2に取り付けられ、フレーム2が備える駆動装置により上下方向に昇降可能である。スライド3の下面には、上型11が取り付けられる。ボルスタ4は、スライド3の下方に配置される。ボルスタ4の上面は、スライド3の下面と対向する。ボルスタ4の上面には、下型12が取り付けられる。このとき、下型12は、上型11の下方に配置される。
【0043】
金型10は、上述の上型11と、上述の下型12とを含む。上型11及び下型12は、
図1のL方向に延びている。以下、熱間プレス装置1及び金型10に関して、上型11及び下型12が延びる方向を「金型10の長手方向(L方向)」ともいう。金型10に関して、L方向、及び、
図1のV方向に垂直な方向を「金型10の幅方向(W方向)」ともいう。
【0044】
上述のとおり、上型11は、スライド3の下面に固定されており、下型12は、ボルスタ4の上面に固定されている。そして、下型12は上型11の下方に配置されている。熱間プレス成形を実施するとき、初めに、加熱された素材(ブランク)が、下型12上に配置される。素材の配置後、上型11が下型12に対して相対的にV方向にスライドして、素材に接触しながら、素材に外力を付与する。つまり、上型11及び下型12が素材を熱間プレス成形する。これにより、素材を所望の形状に成形する。さらに、熱間プレス成形中において、上型11の成形面と下型12の成形面とが素材と接触して、上型11及び下型12が素材を抜熱して焼入れする。そのため、所望の形状を有し、かつ、強度を高めた熱間プレス成形品が製造される。
【0045】
熱間プレス装置1は、
図1に図示しない構成を含んでいてもよい。熱間プレス装置1は、例えば、金型10を冷却するための冷却装置を備えてもよい。この場合、例えば、金型10内部に、冷却媒体が通る流路が設けられる。さらに、金型10内部に冷却媒体を供給するためのポンプが配置される。熱間プレス装置1はさらに、熱間プレス装置1に素材を搬送するための搬送機構を備えてもよい。熱間プレス装置1は、
図1に図示されない構成であって、公知の熱間プレス装置が備える構成を備えてもよい。
【0046】
[金型10の構成]
図1中の金型10の構成について、さらに詳細に説明する。
図2は、
図1中の金型10の斜視図である。
図2を参照して、上型11は、第1成形面110を有する。第1成形面110は、上型11の下面に配置されている。
図2では、第1成形面110は、W方向中央部に、L方向に延びる凹部を含む。
【0047】
下型12は、第2成形面120を有する。第2成形面120は、下型12の上面に配置されている。
図2では、第2成形面120は、W方向の中央部に、L方向に延びる凸部を含む。熱間プレス成形時において、第2成形面120は、第1成形面110と対向して配置される。そして、第2成形面120は、第1成形面110とともに、素材(ブランク)と接触して、素材を熱間プレス成形する。
【0048】
[第1成形面110及び第2成形面120の構成]
第1成形面110は、斜線部で示す第1緩冷却領域113を含む。
図2では、第1緩冷却領域113は、第1成形面110の一部に形成される。
図2では、第1成形面110は、第1緩冷却領域113と、第1急冷領域114とを含む。
同様に、第2成形面120は、斜線部で示す第2緩冷却領域123を含む。
図2では、第2緩冷却領域123は、第2成形面120の一部に形成される。
図2では、第2成形面120は、第2緩冷却領域123と、第2急冷領域124とを含む。
熱間プレス成形時において、第1急冷領域114は、第2急冷領域124と対向する。第1急冷領域114と、第2急冷領域124とは、熱間プレス成形後の素材(熱間プレス成形品)に、高強度を有する高強度領域を形成する。
熱間プレス成形時において、第1緩冷却領域113は、第2緩冷却領域123と対向する。第1緩冷却領域113と、第2緩冷却領域123とは、熱間プレス成形後の素材(熱間プレス成形品)に、高強度領域よりも強度が低く、塑性変形しやすい衝撃緩衝領域を形成する。
【0049】
図3は、熱間プレス成形時の第1緩冷却領域113及び第2緩冷却領域123における、金型10及び素材(ブランク)Bの状態を示す、V方向及びW方向を含む断面図である。
図4は、熱間プレス成形時の第1急冷領域114及び第2急冷領域124における、金型10及び素材Bの状態を示す、V方向及びW方向を含む断面図である。
図3及び
図4は、上型11が下死点に到達し、金型10が閉じた状態を示す。換言すれば、
図3及び
図4は、上型11の第1成形面110の略全体と、下型12の第2成形面120の略全体とが、素材Bと接触して、素材Bに外力を付与している状態を示す。
【0050】
図2~
図4を参照して、熱間プレス成形時において、素材Bは上型11と下型12とに挟まれる。このとき、第1成形面110の凹部が、第2成形面120の凸部内に嵌合する。その結果、素材Bは、ハット型の熱間プレス成形品に成形される。
【0051】
図2の金型10はさらに、緩冷却領域(113及び123)と、急冷領域(114及び124)とを含む。上型11の第1成形面110では、熱間プレス成形品の衝撃緩衝領域を形成する第1緩冷却領域113の表面構造は、熱間プレス成形品の高強度領域を形成する第1急冷領域114の表面構造と異なる。同様に、下型12の第2成形面120では、熱間プレス成形品の衝撃緩衝領域を形成する第2緩冷却領域123の表面構造は、熱間プレス成形品の高強度領域を形成する第2急冷領域124の表面構造と異なる。以下、第1成形面110及び第2成形面120の表面構造についてさらに説明する。
【0052】
[第1成形面110の構成]
[第1緩冷却領域113の構成]
図5Aは、
図3中の第1成形面110の第1緩冷却領域113内の領域100の拡大図である。
図5Aを参照して、上型11の第1成形面110の第1緩冷却領域113は、複数の第1リブ部111と、複数の第1溝部112とを有する。
図6は、
図3の領域100を上方向(第1緩冷却領域113及び第2緩冷却領域123の法線方向)から見た、領域100の模式図である。
図5A及び
図6を参照して、複数の第1リブ部111は、所定の方向に延在している。
図5A及び
図6では、一例として、複数の第1リブ部111は、L方向に延びている。ただし、複数の第1リブ部111の延在方向は、L方向に限定されない。
【0053】
複数の第1リブ部111は、第1リブ部111の幅方向に配列される。第1リブ部111の幅方向とは、第1リブ部111の延在方向に垂直な方向である。
図5Aでは、第1リブ部111の幅方向は、W方向である。しかしながら、第1リブ部111の幅方向はW方向に限定されない。本実施形態では、各第1リブ部111が、L方向に延在し、W方向に配列される。
【0054】
図5Aを参照して、複数の第1溝部112は、第1溝部112の幅方向に配列され、第1リブ部111は、隣り合う第1溝部112の間に形成される。
図5Aでは、第1溝部112は、第1リブ部111と同様に、L方向に延在し、W方向に配列される。さらに、第1リブ部111は、隣り合う2つの第1溝部112の間に形成される。
図5Aでは、複数の第1溝部112と複数の第1リブ部111とがいずれもL方向に延在し、第1溝部112と第1リブ部111とがW方向に交互に並んでいる。
【0055】
図5Aを参照して、第1リブ部111の幅は、第1溝部112の幅よりも狭い。上述のとおり、第1リブ部111の幅とは、第1リブ部111の延在方向に垂直な断面での第1リブ部111の幅を意味する。
図5Aでは、第1リブ部111の幅は、第1リブ部111のW方向の幅を意味する。同様に、第1溝部112の幅とは、第1溝部112の延在方向に垂直な断面での第1溝部112の幅を意味する。
図5Aでは、第1溝部112の幅は、第1溝部112のW方向の幅を意味する。第1リブ部111の幅及び第1溝部112の幅は、例えば、ノギス等を用いて、容易に求めることができる。
【0056】
図5Aを参照して、本実施形態では、第1リブ部111の幅が第1溝部112の幅よりも狭い。熱間プレス成形時に第1緩冷却領域113が素材Bと接触したとき、第1溝部112での抜熱量は、第1リブ部111での抜熱量よりも少ない。第1リブ部111の幅は、第1溝部112の幅よりも狭いため、第1リブ部111での抜熱量をより少なく抑えることができる。そのため、第1緩冷却領域113では、第1急冷領域114と比較して、素材Bの冷却速度を遅くすることができる。そのため、金型10を用いて熱間プレス成形を実施した場合、素材Bのうち、第1緩冷却領域113に接触した領域の焼入れの度合いを低減できる。その結果、熱間プレス成形後の素材B(熱間プレス成形品)に、強度を抑えた衝撃緩衝領域を形成することができる。
【0057】
[第1急冷領域114の構成]
図7は、
図4の第1成形面110の第1急冷領域114中の領域200の拡大図である。
図7を参照して、上型11の第1成形面110の第1急冷領域114では、第1リブ部111及び第1溝部112は形成されていない。換言すれば、第1成形面110の第1急冷領域114は、滑らかな面である。そのため、熱間プレス成形時において、第1急冷領域114の略全体が、素材Bと接触する。そのため、第1急冷領域114では、第1緩冷却領域113と比較して、素材Bの冷却速度を速くすることができる。そのため、金型10を用いて熱間プレス成形が実施された場合、素材Bのうち、第1急冷領域114に接触した領域の焼入れの度合いを高めることができる。その結果、熱間プレス成形後の素材B(熱間プレス成形品)に、衝撃緩衝領域よりも強度の高い高強度領域を形成することができる。
【0058】
[第2成形面120の構成]
[第2緩冷却領域123の構成]
図5Aを参照して、下型12の第2成形面120の第2緩冷却領域123は、複数の第2リブ部121と、複数の第2溝部122とを有する。
図5A及び
図6を参照して、複数の第2リブ部121は、所定の方向に延在している。
図5A及び
図6では、複数の第2リブ部121は、L方向に延びている。ただし、複数の第2リブ部121の延在方向は、L方向に限定されない。
【0059】
複数の第2リブ部121は、第2リブ部121の幅方向に配列される。第2リブ部121の幅方向とは、第2リブ部121の延在方向に垂直な方向である。
図5Aでは、第2リブ部121の幅方向は、W方向である。しかしながら、第2リブ部121の幅方向はW方向に限定されない。本実施形態では、各第2リブ部121が、L方向に延在し、W方向に配列される。
【0060】
図5Aを参照して、複数の第2溝部122は、第2溝部122の幅方向に配列され、第2リブ部121は、隣り合う第2溝部122の間に形成される。
図5Aでは、第2溝部122は、第2リブ部121と同様に、L方向に延在し、W方向に配列される。さらに、第2リブ部121は、隣り合う2つの第2溝部122の間に形成される。
図5Aでは、複数の第2溝部122と複数の第2リブ部121とがいずれもL方向に延在し、第2溝部122と第2リブ部121とがW方向に交互に並んでいる。
【0061】
図5Aを参照して、さらに、第2リブ部121の幅は、第2溝部122の幅よりも狭い。上述のとおり、第2リブ部121及び第2溝部122の幅方向とは、金型10の幅方向(W方向)に相当する。したがって、
図5Aに示される断面において、第2リブ部121の幅は、第2リブ部121のW方向の幅を意味し、第2溝部122の幅は、第2溝部122のW方向の幅を意味する。第2リブ部121の幅及び第2溝部122の幅は、例えば、ノギスを用いて求めることができる。
【0062】
図5Aを参照して、第2リブ部121の幅が第2溝部122の幅よりも狭い。上述のとおり、第2リブ部121の幅とは、第2リブ部121の延在方向に垂直な断面での第2リブ部121の幅を意味する。そのため、上述の第1リブ部111の幅及び第1溝部112の幅の関係と同様の効果が得られる。具体的には、熱間プレス成形時に第2緩冷却領域123が素材Bと接触したとき、第2溝部122での抜熱量は、第2リブ部121での抜熱量よりも少ない。第2リブ部121の幅は、第2溝部122の幅よりも狭いため、第2リブ部121での抜熱量をより少なく抑えることができる。そのため、第2緩冷却領域123では、後述の第2急冷領域124と比較して、素材Bの冷却速度を遅くすることができる。そのため、金型10を用いて熱間プレス成形が実施された場合、素材Bのうち、第2緩冷却領域123に接触した領域の焼入れの度合いを低減できる。その結果、熱間プレス成形後の素材B(熱間プレス成形品)に、強度を抑えた衝撃緩衝領域を形成することができる。
【0063】
[第2急冷領域124の構成]
図7を参照して、下型12の第2成形面120の第2急冷領域124では、第2リブ部121及び第2溝部122は形成されていない。つまり、第2成形面120の第2急冷領域124は、滑らかな面である。そのため、熱間プレス成形時において、第2急冷領域124の略全体が、素材Bと接触する。そのため、第2急冷領域124では、第2緩冷却領域123と比較して、素材Bの冷却速度を速くすることができる。そのため、金型10を用いて熱間プレス成形が実施された場合、素材Bのうち、第2急冷領域124に接触した領域の焼入れの度合いを高めることができる。その結果、熱間プレス成形後の素材B(熱間プレス成形品)に、衝撃緩衝領域よりも強度の高い高強度領域を形成することができる。
【0064】
[第1リブ部111及び第2リブ部121との関係]
金型10ではさらに、熱間プレス成形時において、第1成形面110の第1緩冷却領域113及び第2成形面120の第2緩冷却領域123を、第1緩冷却領域113の法線方向から見たとき、第1リブ部111と第2リブ部121とは、少なくとも一部が重複している。ここでいう、「熱間プレス成形時」とは、上型11の成形面110の略全体と、下型12の成形面120の略全体とが、素材Bと接触して素材Bに外力を付与している状態を意味し、金型10が閉じた状態であって、上型11が下死点で保持されつつ素材Bが金型10により冷却されている状態を意味する。
【0065】
この場合、
図5Aに示すとおり、熱間プレス成形時において、第1リブ部111が第2溝部122内に入り込んだりせず、第2リブ部121が第1溝部112内に入り込んだりしない。そのため、熱間プレス成形時に、第1リブ部111が第2溝部122内に入り込んだり、第2リブ部121が第1溝部112内に入り込んだりすることにより、素材Bが波状に変形するのを抑制できる。
【0066】
[金型10の特徴]
以上のとおり、本実施形態の金型10では、第1緩冷却領域113の第1リブ部111の幅は第1溝部112の幅よりも狭い。さらに、第2緩冷却領域123の第2リブ部121の幅は第2溝部122の幅よりも狭い。そのため、金型10を用いて熱間プレス成形を実施した場合、第1緩冷却領域113及び第2緩冷却領域123で挟まれた素材Bの領域では、冷却速度が抑えられる。そのため、熱間プレス成形品内で、強度を抑えた衝撃緩衝領域と、衝撃緩衝領域よりも強度の高い高強度領域とを形成することができる。さらに、熱間プレス成形時に、第1緩冷却領域113及び第2緩冷却領域123を、第1緩冷却領域113の法線方向から見たとき、第1リブ部111と第2リブ部121とは、少なくとも一部が重複する。そのため、衝撃緩衝領域において、素材Bが波状に変形するのを抑制することができる。
【0067】
[金型10の好ましい形態について]
第1緩冷却領域113及び第2緩冷却領域123において、好ましくは、第1リブ部111と、第2リブ部121とは、同じ方向に延びている。さらに、第1溝部112と、第2溝部122とは、同じ方法に延びている。
図5A及び
図6では、第1リブ部111と、第2リブ部121とは、L方向に延びており、第1溝部112と、第2溝部122とは、L方向に延びている。
【0068】
上述のとおり、第1リブ部111と、第1溝部112と、第2リブ部121と、第2溝部122とが、全て同じ方向に延在している場合、素材Bの熱伝達のシミュレーションでは、二次元でのシミュレーションを実施すれば足りる。つまり、第1リブ部111、第1溝部112、第2リブ部121及び、第2溝部122の延在方向に垂直な断面(つまり
図5Aに示す断面)での二次元のシミュレーションを実施すれば、その結果は、三次元のシミュレーションにより得られた結果と実質的に同じとなる。そのため、三次元のシミュレーションを実施する必要がない。そのため、素材Bの熱伝達について、より容易かつ正確なシミュレーションが可能となる。つまり、より容易かつ正確に冷却速度を制御することができる。この場合、素材Bの化学組成から、シミュレーションを用いることにより、所望のミクロ組織に制御することが可能になる。
【0069】
例えば、素材Bが鋼材である場合、素材Bを熱間プレス成形した結果、熱間プレス成形品が硬質相だけでなく、残留オーステナイトを含有するミクロ組織となれば、熱間プレス成形品の衝撃吸収能がさらに高まる。ここで、硬質相とは、マルテンサイト及び/又はベイナイトからなる。
【0070】
[好ましい第1リブ部111と第1溝部112との関係、及び、好ましい第2リブ部121及び第2溝部122との関係]
好ましくは、緩冷却領域113に形成された第1リブ部111の幅は、第1溝部112の幅の10~50%であり、緩冷却領域123に形成された第2リブ部121の幅は、第2溝部122の幅の10~50%である。
【0071】
第1リブ部111の幅が第1溝部112の幅の10%以上であれば、第1リブ部111が素材Bを適切に抜熱する。この場合、素材Bの冷却速度が過剰に遅くなるのを抑制できる。そのため、素材Bのミクロ組織中にフェライト及びパーライトが生成するのを抑制でき、硬質相、又は、硬質相及び残留オーステナイトの生成が促進される。その結果、熱間プレス成形品の衝撃吸収能が向上する。
【0072】
一方、第1リブ部111の幅が第1溝部112の幅の50%以下であれば、熱間プレス成形時において、冷却速度を遅くすることができる。冷却速度を遅くすることができれば、所望の素材温度で冷却を停止しやすくなる。例えば、Mf点~Ms点の間で冷却を停止して、マルテンサイト及び残留オーステナイトの生成量を調整してもよい。例えば、Ms点よりも高い温度で冷却を停止して、素材のミクロ組織をベイナイト主体の組織としてもよい。
【0073】
したがって、好ましくは、第1リブ部111の幅は、第1溝部112の幅の10~50%である。
第1リブ部111の幅の第1溝部112の幅に対する比のさらに好ましい上限は45%であり、さらに好ましくは40%であり、さらに好ましくは35%である。
第1リブ部111の幅の第1溝部112の幅に対する比のさらに好ましい下限は12%であり、さらに好ましくは14%である。
【0074】
図5Bは、熱間プレス成形時を示す
図5Aの素材Bを除いた模式図である。ここで、第1リブ部111の幅は次のとおり定義する。第1リブ部111の表面のうち、第2成形面120と対向する表面を、第1リブ部111の頂面と定義する。すなわち、第1リブ部111の表面のうち、熱間プレス成形時に素材Bと接触する表面を「頂面」と定義する。
図5Bに示すとおり、第1リブ部111の延在方向に垂直な断面において、頂面111Pの幅W
111Pを、第1リブ部111の幅と定義する。頂面111Pの幅W
111Pはすなわち、第1リブ部111の延在方向及び頂面111Pの法線方向に垂直な方向(
図5BではW方向)の頂面111Pの長さに相当する。
【0075】
第1リブ部111の高さは次のとおり定義する。
図5Bにおいて、第1リブ部111の頂面111Pから第1溝部112の溝底112Pまでの高さH
111Pを、第1リブ部111の高さと定義する。換言すれば、第1リブ部111の頂面111Pから第1溝部112の溝底112Pまでの、頂面111Pの法線方向(
図5BではV方向)の長さを、第1リブ部111の高さH
111Pと定義する。
【0076】
第1溝部112の幅は次のとおり定義する。
図5Bに示すとおり、第1リブ部111の延在方向に垂直な断面において、隣り合う第1リブ部111同士の一方の頂面111Pの端点と、他方の頂面111Pの端点との間の隙間の幅W
112Pを、第1溝部112の幅と定義する。
【0077】
第2リブ部121の幅は次のとおり定義する。第2リブ部121の表面のうち、第1成形面110と対向する表面を、第2リブ部121の頂面と定義する。すなわち、第2リブ部121の表面のうち、熱間プレス成形時に素材Bと接触する表面を「頂面」と定義する。
図5Bに示すとおり、第2リブ部121の延在方向に垂直な断面において、頂面121Pの幅W
121Pを、第2リブ部121の幅と定義する。頂面121Pの幅W
121Pはすなわち、第2リブ部121の延在方向及び頂面121Pの法線方向に垂直な方向(
図5BではW方向)の頂面121Pの長さに相当する。
【0078】
第2リブ部121の高さは次のとおり定義する。
図5Bにおいて、第2リブ部121の頂面121Pから第2溝部122の溝底122Pまでの高さH
121Pを、第2リブ部121の高さと定義する。換言すれば、第2リブ部121の頂面121Pから第2溝部122の溝底122Pまでの、頂面121Pの法線方向(
図5BではV方向)の長さを、第2リブ部121の高さと定義する。
【0079】
第2溝部122の幅は次のとおり定義する。
図5Bに示すとおり、第2リブ部121の延在方向に垂直な断面において、隣り合う第2リブ部121同士の一方の頂面121Pの端点と、他方の頂面121Pの端点との間の隙間の幅W
122Pを、第2溝部122の幅と定義する。
【0080】
なお、第1リブ部111又は第2リブ部121の、延在方向に垂直な断面での形状は、
図5A及び
図5Bに示すように矩形状であってもよいし、
図5Cに示すように、頂面111P又は121Pに向かって幅が狭まる台形状であってもよい。また、第1リブ部111又は第2リブ部121では、
図5Dに示すように、頂面111P又は121Pの角が面取りされていたり、第1リブ部111又は第2リブ部121の根元が面取りされていたりしてもよい。また、頂面111P又は121Pの角が丸みを帯びていたり(つまり、フィレット加工されていたり)、第1リブ部111又は第2リブ部121の根元が丸みを帯びていたり(つまり、フィレット加工されていたり)してもよい。
【0081】
なお、頂面(111P又は121P)が面取り又はフィレット加工されている場合、頂面(111P又は121P)の幅は、頂面(111P及び121P)のうち、面取り及びフィレット加工されていない部分の幅とする。
【0082】
上述のとおり、本実施形態の金型10は、熱間プレス成形用の金型である。熱間プレス成形時、素材Bの温度はAc3点以上であり、温間プレス成形よりも高い。そのため、熱間プレス成形時の素材Bは、温間プレス成形時の素材と比較して、硬さが低く、加工性に優れる。そのため、熱間プレス成形時に素材Bに掛かる面圧は、温間プレス成形時よりも低い。そのため、第1リブ部111の幅が、第1溝部112の幅の50%以下であっても、素材Bの表面には疵がつきにくい。
【0083】
第1リブ部111及び第1溝部112との関係と同様に、第2リブ部121の幅が第2溝部122の幅の10%以上であれば、素材Bの冷却速度の過剰な低減を抑制できる。そのため、熱間プレス成形品の衝撃吸収能が向上する。
【0084】
一方、第2リブ部121の幅が第2溝部122の幅の50%以下であれば、素材Bの冷却速度を適度に遅くすることができる。そのため、熱間プレス成形時において、冷却停止温度(つまり、素材Bから金型10を離すときの素材Bの温度)を調整しやすくなる。例えば、冷却停止温度をMs点よりも上の温度に調整したり、冷却停止温度を、Mf点~Ms点の間に調整したり、又は、Ms点超~500℃の間に調整したりしやすくなる。
【0085】
したがって、第2リブ部121の幅は、第2溝部122の幅の10~50%である。
第2リブ部121の幅の第2溝部122の幅に対する比の好ましい上限は45%であり、さらに好ましくは40%であり、さらに好ましくは35%である。
第2リブ部121の幅の第2溝部122の幅に対する比のさらに好ましい下限は12%であり、さらに好ましくは14%である。
【0086】
上述の第1リブ部111の幅及び第1溝部112の幅の関係と同様に、第2リブ部121の幅が第2溝部122の幅の50%以下であっても、素材Bの表面には疵がつきにくい。
【0087】
[第1リブ部111の好ましい幅及び好ましい高さ、第2リブ部121の好ましい幅及び好ましい高さ]
好ましくは、第1緩冷却領域113の少なくとも一部において、第1リブ部111の幅は1.0~8.0mmであり、第1リブ部111の高さは0.2~5.0mmであり、第2緩冷却領域123の少なくとも一部において、第2リブ部121の幅は1.0~8.0mmであり、第2リブ部121の高さは0.2~5.0mmである。第1リブ部111の高さは、第1溝部112の深さに相当する。同様に、第2リブ部121の高さは、第2溝部122の深さに相当する。
【0088】
第1リブ部111の幅又は第2リブ部121の幅を8.0mm以下にすれば、素材Bにおける第1リブ部111の幅方向又は第2リブ部121の幅方向の温度ばらつきを低減することができる。そのため、熱間プレス成形時において、素材Bの温度ばらつきに由来する、冷却速度のばらつきを低減できる。
【0089】
一方、第1リブ部111の幅又は第2リブ部121の幅を1.0mm以上にすれば、熱間プレス成形を実施する際に、第1リブ部111又は第2リブ部121が折れにくくなり、生産性が高まる。したがって、第1リブ部111の好ましい幅は、1.0~8.0mmである。第2リブ部121の好ましい幅は、1.0~8.0mmである。
【0090】
第1リブ部111の幅のさらに好ましい下限は1.8mmであり、さらに好ましくは2.0mmである。第2リブ部121の幅のさらに好ましい下限は1.8mmであり、さらに好ましくは2.0mmである。この場合、第1リブ部111及び第2リブ部121はさらに折れにくくなる。また、第1リブ部111及び第2リブ部121の寸法精度が緩和されるため、加工しやすくなる。
【0091】
第1リブ部111の高さ又は第2リブ部121の高さを0.2mm以上にすれば、第1溝部112又は第2溝部122における、素材Bからの抜熱の発生を抑制できる。一方、第1リブ部111の高さ又は第2リブ部121の高さを5.0mm以下にすれば、熱間プレス成形を実施する際に、第1リブ部111又は第2リブ部121が折れにくくなり、生産性が高まる。したがって、第1リブ部111の好ましい高さは0.2~5.0mmである。第2リブ部122の好ましい高さは0.2~5.0mmである。
【0092】
なお、第1緩冷却領域113及び第2緩冷却領域123のうち、少なくとも一部の領域において、第1リブ部111又は第2リブ部121の、幅又は高さを上記のとおりに調整すれば、上記少なくとも一部の領域では、上記好ましい効果を得ることができる。したがって、本実施形態では、第1緩冷却領域113及び第2緩冷却領域123の少なくとも一部において、第1リブ部111又は第2リブ部121の幅又は高さを、上記のとおり調整すればよい。好ましくは、第1緩冷却領域113の全体にわたって、第1リブ部111の幅が1.0~8.0mmであり、高さが0.2~5.0mmであり、第2緩冷却領域123の全体にわたって、第2リブ部121の幅が1.0~8.0mmであり、高さが0.2~5.0mmである。
【0093】
さらに好ましくは、第1緩冷却領域113の少なくとも一部の領域において、第1リブ部111の幅は1.0~4.0mmであり、かつ、第1溝部112の幅の10~30%であり、さらに、第2緩冷却領域123の少なくとも一部の領域において、第2リブ部121の幅は1.0~4.0mmであり、かつ、第2溝部122の幅の10~30%である。この場合、素材Bの冷却速度をさらに遅くすることができる。そのため、冷却停止温度を所望の温度により調整しやすい。さらに、熱間プレス成形時の素材Bの温度ばらつきを低減できる。
【0094】
[Fn1について]
金型10において、第1リブ部111と第2リブ部121とが同じ方向に延びており、第1溝部112と第2溝部122とが同じ方向に延びており、第1リブ部111の幅は、第1溝部112の幅の10~50%であり、第2リブ部121の幅は、第2溝部122の幅の10~50%であり、第1リブ部111及び第2リブ部121の幅が1.0~8.0mmであり、第1リブ部111及び第2リブ部121の高さが0.2~5.0mmである場合を想定する。
この場合、好ましくは、式(1)で定義されるFn1が14以下である。
Fn1=Wr0.9/P00.8+0.05Hr (1)
ここで、Wrは第1リブ部111及び第2リブ部121の幅(mm)である。P0=Wr/Wsであり、Wsは第1溝部112及び第2溝部122の幅(mm)である。Hrは第1リブ部111及び第2リブ部121の高さ(mm)である。以下、Fn1について説明する。
【0095】
図8はFn1と、第1緩冷却領域113及び第2緩冷却領域123での温度ばらつきΔT(℃)との関係を示す図である。
図8は、次に示す2次元の熱伝達シミュレーションにより得られた結果である。具体的には、
図9に示す熱伝導モデルを想定した差分法により、熱間プレス成形時における素材Bの温度分布及び当該温度分布の経時変化をシミュレートした。
【0096】
図9は、第1緩冷却領域113及び第2緩冷却領域123における、第1リブ部111及び第2リブ部121の幅方向の断面図である。素材Bを要素幅D0=1mm、厚さD1=素材Bの板厚(1.4mmで想定)、L方向に単位長さを有する複数の要素Eに区画した。i番目(iは自然数)の要素Eでの熱伝導及び熱伝達による単位時間(1秒)当たりの熱量の収支Q(W/m
2)は以下の式で示される。
【0097】
Q=(Q2i)―(Q2i+1)-2Q1
この式の各項を、次の式で定義した。
(要素Eが第1リブ部111及び第2リブ部121に接触している場合)
Q1:素材Bとリブ部(111又は121)との接触熱伝達による要素Eの単位時間当たりの金型への熱量の移動(W/m2)
Q1=-h(Tr-Tbi)
熱伝達係数h=2000W/m2・K
金型温度Tr=100℃
Tbi:素材Bにおけるi番目の要素Eの温度
(要素Eが第1リブ部111及び第2リブ部121に接触していない場合)
Q1:溝部(112又は122)での空気を介した熱伝導による要素Eの単位時間当たりの熱量の金型への移動(W/m2)
Q1=-λa(Tr-Tbi)/Hr
λa:空気の熱伝導率=0.04W/m・K
Q2i:素材B内の熱伝導によるi-1番目の要素Eから単位時間当たりの隣接するi番目の要素Eへの熱量の移動(W/m2)
Q2i=-λb(Tbi-Tbi-1)/Δx
λb:素材Bの熱伝導率=50W/m・K
Tbi:i番目の要素E(素材B)の温度
Tbi-1:i番目の要素Eと隣接するi-1番目の要素Eの温度
Δx:隣接する要素E間の距離=1mm
【0098】
ところで、熱収支Qに伴う単位時間あたりの要素Eの温度変化ΔTb(℃)は次の式で示される。
ΔTb=Q/(c・ρ・D0・D1)
c:素材Bの比熱=0.435J/(g・K)
ρ:素材Bの密度=7.8×10^3(g/m3)
【0099】
上述の熱伝導モデルにおいて、第1リブ部111と第2リブ部121とが同じ方向に延びており、第1溝部112及び第2溝部122が同じ方向に延びているとした。さらに、第1リブ部111の幅が第2リブ部121の幅と同じであり、第1リブ部111の高さが第2リブ部121の高さと同じであるとした。さらに、第1溝部112の幅が第2溝部122の幅と同じであるとした。さらに、
図9に示すとおり、熱間プレス成形時において、第1リブ部111の頂面全体が、第2リブ部121の頂面全体と重なるとした。なお、リブ部(111及び121)の延在方向に垂直な断面形状は矩形状であった。
【0100】
初期条件として時刻0(秒)における要素Eの温度Tbiを622℃とした。さらに、
図9の右方と左方にそれぞれ500~1000mmの区間では要素Eが第1リブ部111および第2リブ部121に接触しているとし(つまり、上記区間を緩冷却領域113及び123とし)、境界条件として
図9の右方と左方それぞれ1000mm地点での要素Eにおける素材B内の熱伝導は断熱するとした。そして、時間間隔0.01秒ごとに要素Eの温度変化ΔTbを算出する逐次計算を行うことで、素材Bの温度分布及びその経時変化をシミュレートした。
【0101】
リブ部(111及び121)の幅、高さ、溝部(112及び122)の幅を変化させて、
図9の右方と左方にそれぞれ250mm以内の区間におけるTbiの最大値Tbimaxと最小値Tbiminの差Tbimax-Tbiminを素材Bでの温度ばらつきΔT(℃)と定義して求めた。求めたΔTを用いて、
図8を作成した。
【0102】
図8を参照して、Fn1が14よりも高い場合、Fn1の低下とともに、ΔTは急速に低下する。そして、Fn1が14以下となったとき、Fn1の低下に伴うΔTの低下度合いが緩やかになる。Fn1が10以下となったときさらに、Fn1の低下に伴うΔTの低下度合いが緩やかになる。したがって、
図8のグラフでは、Fn1=14近傍と、Fn1=10近傍で変曲点が存在する。
【0103】
したがって、Fn1の好ましい上限は14であり、さらに好ましくは10である。Fn1が14以下であれば、例えば、素材Bの温度ばらつきΔTは110℃以下となる。また、Fn1が10以下であれば、例えば、素材Bの温度ばらつきΔTは40℃以下になる。
【0104】
[Fn2について]
金型10において、第1リブ部111と第2リブ部121とが同じ方向に延びており、第1溝部112と第2溝部122とが同じ方向に延びており、第1リブ部111の幅は、第1溝部112の幅の10~50%であり、第2リブ部121の幅は、第2溝部122の幅の10~50%であり第1リブ部111及び第2リブ部121の幅が1.0~8.0mmであり、第1リブ部111及び第2リブ部121の高さが0.2~5.0mmである場合を想定する。
この場合、好ましくは、式(2)で定義されるFn2が30以上である。
Fn2=Ws2×Hr0.4/Wr (2)
ここで、Wsは第1溝部112及び第2溝部122の幅(mm)である。Wrは第1リブ部111及び第2リブ部121の幅(mm)である。Hrは第1リブ部111及び第2リブ部121の高さ(mm)である。
【0105】
図10はFn2と、熱間プレス成形時の素材Bの冷却速度V(℃/秒)との関係を示す図である。
図10は
図9に示す熱伝導モデルを用いた上述の2次元の熱伝達シミュレーションにより得られた。なお、熱伝達シミュレーションにおいて、冷却速度Vは、時刻0から要素Eの温度が400℃になる時刻までの、要素Eの単位時間ごとの温度変化を時間平均することで求めた。ここで冷却速度の算出に用いる要素Eはその温度TbiがTbimaxを示す要素とした。
【0106】
図10を参照して、Fn2が増加するに従い、素材Bの冷却速度Vは急速に低下し、その後、冷却速度Vの低下度合いは緩やかになる。したがって、Fn2の好ましい下限は30であり、さらに好ましくは45であり、さらに好ましくは90である。Fn2が30以上であれば、例えば、素材Bの冷却速度Vは80℃/秒以下になる。そのため、熱間プレス成形時において、冷却停止温度(つまり、素材Bから金型10を離すときの素材Bの温度)を所望の温度に調整しやすくなる。Fn2が45以上であれば、例えば、素材Bの冷却速度は70℃/秒以下になる。そのため、冷却停止温度を所望の温度にさらに調整しやすくなる。Fn2が90以上であれば、例えば、素材Bの冷却速度Vは50℃/秒以下となる。そのため、冷却停止温度を所望の温度にさらに調整しやすくなる。
【0107】
金型10において、さらに好ましくは、Fn1が14以下であり、かつ、Fn2が30以上である。この場合、素材Bの温度ばらつきΔTをより抑制でき、かつ、冷却停止温度を所望の温度により調整しやすくなる。
【0108】
さらに好ましくは、金型10において、第1リブ部111と第2リブ部121とが同じ方向に延びており、第1溝部112と第2溝部122とが同じ方向に延びており、第1リブ部111の幅は1.0~4.0mmであり、かつ、第1溝部112の幅の10~30%であり、さらに、第2リブ部121の幅は1.0~4.0mmであり、かつ、第2溝部122の幅の10~30%であり、Fn1が14以下、及び/又は、Fn2が30以上である。この場合、素材Bの冷却速度をさらに遅くすることができる。そのため、冷却停止温度を所望の温度により調整しやすい。さらに、熱間プレス成形時の素材Bの温度ばらつきを低減できる。
【0109】
[本実施形態の金型10の他の形態]
[金型10の第1成形面110及び第2成形面120の形状について]
本実施形態による金型10は、上記構成に限定されない。例えば、金型10は
図2に示す形状に限定されない。金型10の第1成形面110及び第2成形面120は長手方向に湾曲していてもよい。また、金型10の上型11の第1成形面110の長手方向(L方向)に垂直な断面形状は、凹形状に限定されない。下型12の第2成形面120の長手方向(L方向)に垂直な断面形状は、凸形状に限定されない。上型11の第1成形面110が、下型12の第2成形面120と嵌合すれば、第1成形面110及び第2成形面120の形状は特に限定されない。
【0110】
[第1成形面110の第1緩冷却領域113及び第2成形面120の第2緩冷却領域123の配置について]
また、第1成形面110の第1緩冷却領域113の配置は特に限定されない。同様に、第2成形面120の第2緩冷却領域123の配置は特に限定されない。第1成形面110が第1緩冷却領域113を含み、第2成形面120が第2緩冷却領域123を含んでいればよい。
【0111】
例えば、第1緩冷却領域113及び第2緩冷却領域123は、
図2に示される形態に限定されない。
図11は、本実施形態による金型10の
図2とは異なる他の一例を示す斜視図である。
図11に示すように、金型10の上型11の第1成形面110の凹部の溝底面全面に第1緩冷却領域113が配置されていてもよい。金型10の下型12の第2成形面120の凸部の上面全面に、第2緩冷却領域123が配置されていてもよい。
【0112】
図12は、本実施形態による金型10の
図2及び
図11とは異なる他の一例を示す斜視図である。
図12に示すように、金型10の上型11の第1成形面110の凹部の側面の一部に、第1緩冷却領域113が配置されていてもよい。金型10の下型12の第2成形面120の凸部の側面の一部に、第2緩冷却領域123が配置されていてもよい。
【0113】
図13は、本実施形態による金型10の
図2、
図11及び
図12と異なる他の一例を示す斜視図である。
図2、
図11及び
図12では、第1成形面110は、第1緩冷却領域113と第1急冷領域114とを含む。そして、第2成形面120は、第2緩冷却領域123と第2急冷領域124を含む。これに対して、
図13に示すとおり、第1成形面110全体が第1緩冷却領域113であってもよい。また、第2成形面120全体が第2緩冷却領域123であってもよい。
【0114】
以上のとおり、第1成形面110が第1緩冷却領域113を含み、第2成形面120が第2緩冷却領域123を含んでいれば、第1成形面110中の第1緩冷却領域113の位置、及び、第2成形面120中の第2緩冷却領域123の位置は、特に限定されない。しかしながら、熱間プレス成形時に上型11及び下型12が素材Bと接触して素材Bをプレスしている状態のとき、第1緩冷却領域113の少なくとも一部は、第2緩冷却領域123の少なくとも一部と、互いに対向して配置される。
【0115】
本実施形態ではさらに、第1緩冷却領域113は、第1リブ部111及び第1溝部112が形成されている領域のうち一部の領域として定義することもできる。同様に、第2緩冷却領域123は、第2リブ部121及び第2溝部122が形成されている領域のうち一部の領域として定義することもできる。要するに、本実施形態では、第1成形面110のうち少なくとも一部の領域において、第1リブ部111の幅が、第1溝部112の幅よりも狭く、第2成形面120のうち少なくとも一部の領域において、第2リブ部121の幅が第2溝部122の幅よりも狭い。
【0116】
[第1リブ部111及び第2リブ部121の延在方向について]
本実施形態において、第1リブ部111の延在方向、及び、第2リブ部121の延在方向は、特に限定されない。例えば、第1リブ部111及び第2リブ部121は、
図5A及び
図6に示されるL方向に延在していなくてもよい。
図14は、
図3の領域100を拡大した模式図のうち、
図5Aとは異なる他の一例である。
図15は
図14の線分XV-XVでの断面図である。
図14及び
図15を参照して、本実施形態では、第1リブ部111、第1溝部112、第2リブ部121、及び、第2溝部122は、いずれもW方向に延在し、L方向に並んでいる。この場合、第1リブ部111の幅、第1溝部112の幅、第2リブ部121の幅、及び、第2溝部122の幅は、いずれも、金型10のL方向の幅を意味する。
【0117】
熱間プレス成形では、上型11がスライド3とともに、V方向に移動する。その結果、素材Bは、上型11の第1成形面110と、下型12の第2成形面120とによって、熱間プレス成形される。第1成形面110及び第2成形面120が
図2に示す形状を有する場合、熱間プレス成形により、素材Bのメタルフローは、W方向に進む。つまり、領域100において、素材Bは第1成形面110、第2成形面120に対して、W方向に摺動する。
【0118】
図14及び
図15に示すように、第1リブ部111、第1溝部112、第2リブ部121、及び、第2溝部122がいずれもW方向に延在する場合、素材Bが第1リブ部111及び/又は第2リブ部121からの摩擦抵抗を受けにくく、素材Bは第1リブ部111及び/又は第2リブ部121に対して摺動しやすい。そのため、素材Bの表面に疵が形成されるのを抑制することができる。
【0119】
このように、第1リブ部111、第1溝部112、第2リブ部121、及び、第2溝部122が、熱間プレス成形途中の過程での素材Bの摺動方向に延在している場合、熱間プレス成形途中の過程において、素材Bの表面に疵が形成されるのを抑制することができる。
【0120】
[第1リブ部111及び第2リブ部121の配置の関係について]
本実施形態において、第1リブ部111と第2リブ部121との配置は、
図5A及び
図6に示されるように、金型10が閉じた状態において、完全に重複していなくてもよい。
図16は、
図3の領域100を拡大した模式図のうち、
図5A及び
図14とは異なる他の一例である。
図17は、
図16の領域100を第1緩冷却領域113の法線方向から見て、リブ部のみを図示した模式図である。例えば、
図16及び
図17を参照して、金型10が閉じた状態において、第1リブ部111と第2リブ部121とが、平行に配置され、互いにずれた状態で重複していてもよい。このように、第1リブ部111と第2リブ部121とは、少なくとも一部が重複すればよい。
【0121】
本実施形態において、第1リブ部111と第2リブ部121との配置は、
図5A及び
図16に示されるように、同じ向きに延在していなくてもよい。
図18は、
図3の領域100を拡大した模式図のうち、
図5A、
図14及び
図16とは異なる他の一例である。
図19は、
図18の領域100を第1緩冷却領域の法線方向から見て、リブ部のみを図示した模式図である。例えば、
図18及び
図19に示されるように、複数の第1溝部112と複数の第1リブ部111とがいずれもL方向に延在し、複数の第2溝部122と複数の第2リブ部121とがいずれもW方向に延在してもよい。この場合であっても、
図19を参照して、金型10が閉じた状態において、第1リブ部111と、第2リブ部121とは、少なくとも一部が重複する。
【0122】
[第1緩冷却領域113及び第2緩冷却領域123について]
本実施形態の第1緩冷却領域113及び第2緩冷却領域123は、冷却媒体を第1緩冷却領域113及び第2緩冷却領域123の表面に供給するための供給口を有さない方が好ましい。仮に、第1緩冷却領域113及び第2緩冷却領域123が供給口を有する場合、供給口に通じる金型10(上型11、下型12)内部の配管内に滞留している空気により、第1緩冷却領域113及び第2緩冷却領域123のうち供給口を有する部分で、素材Bが過剰に抜熱されやすくなる。そのため、素材Bの温度ばらつきが助長される可能性がある。
【0123】
一方、上型11及び下型12は、内部に冷却媒体を通す冷却路を有してもよい。この場合、熱間プレス成形中の上型11及び下型12の温度を、十分に低く保つことができる。
【0124】
[金型10を用いた熱間プレス成形品の製造方法]
金型10を用いた熱間プレス成形による熱間プレス成形品の製造方法について説明する。本実施形態による熱間プレス成形品の製造方法は、次の工程を備える。
・準備工程
・加熱工程
・熱間プレス成形工程
・離型工程
以下、各工程について説明する。
【0125】
[準備工程]
準備工程では、所望の化学組成を有する素材Bを準備する。本実施形態において、素材Bは特に限定されない。素材Bは例えば、鋼板である。素材Bが鋼板である場合、鋼板の種類は特に限定されない。素材Bは例えば、めっき処理等の表面処理がされた鋼板であってもよく、めっき処理等の表面処理がされていない鋼板(いわゆる裸材)であってもよい。めっき処理を実施する場合、めっき処理とは、溶融亜鉛めっき処理であってもよく、合金化溶融亜鉛めっき処理であってもよく、アルミニウムめっき処理であってもよい。
【0126】
素材Bの母材鋼板の化学組成は、上述のとおり、特に限定されない。素材Bの母材鋼板は例えば、質量%で、C:0.10~0.60%、Si:0~5.0%、Mn:0~5.0%、P:0.100%以下、S:0.100%以下、N:0.100%以下、O:0.100%以下、Al:0~1.0%、Cr:0~3.0%、Mo:0~5.0%、V:0~2.0%、Nb:0~1.0%、Ti:0~1.0%、B:0~1.0%、Ca:0~1.0%、Mg:0~1.0%、Zr:0~1.0%、希土類元素:0~1.0%、Co:0~5.0%、W:0~5.0%、Ni:0~3.0%、Cu:0~3.0%、及び、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有していてもよい。ここで、不純物とは、鋼材を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、又は製造環境などから混入される元素であって、本実施形態による熱間プレス成形品に悪影響を与えない範囲で許容される元素を意味する。
【0127】
素材Bの厚さは、特に限定されないが、得ようとする熱間プレス成形品の特性に応じて選択される。素材Bの厚さは例えば、0.6~3.2mmである。素材Bの機械的特性も特に限定されない。得ようとする熱間プレス成形品の特性に応じて、素材Bの機械的特性は適宜選択される。素材Bの引張強度は例えば、400MPa以上であってもよい。
【0128】
素材Bを準備する方法は、特に限定されない。例えば、上述の化学組成を有する溶鋼から、公知の製造方法により素材Bを製造してもよい。第三者により製造された素材Bを購入することによって準備してもよい。
【0129】
[加熱工程]
加熱工程では、準備された素材BをAc3点以上の温度に加熱する。加熱温度がAc3点未満であれば、素材Bがオーステナイト単相にならない。この場合、熱間プレス成形工程で素材Bを冷却したとき、素材Bのうち、第1急冷領域114及び第2急冷領域124に挟まれた領域において、硬質相(マルテンサイト及び/又はベイナイト)の形成が不十分となる。そのため、十分な強度が得られない場合がある。加熱温度がAc3点以上であれば、熱間プレス成形工程前の素材Bはオーステナイト単相となる。そのため、熱間プレス成形工程で素材Bを冷却したとき、素材Bのうち、第1急冷領域114及び第2急冷領域124に挟まれた領域において、硬質相が十分に形成される。その結果当該領域の強度を高めることができる。
【0130】
好ましくは、加熱温度は950℃未満とする。この場合、素材Bの加熱時間を短くすることができ、生産性を高めることができる。さらに、加熱に必要な燃料及び電力を削減できるため、製造コストを抑えることができる。
【0131】
加熱工程において、素材Bを加熱する方法は特に限定されない。例えば、電気炉、ガス炉、遠赤外炉、近赤外炉等、加熱炉を用いて素材Bを加熱してもよい。また、通電加熱装置や、高周波誘導加熱装置等を用いて素材Bを加熱してもよい。加熱工程において、素材Bを加熱する方法は限定されず、公知の加熱方法を適宜選択することができる。
【0132】
[熱間プレス成形工程]
熱間プレス成形工程では、A
c3点以上に加熱された素材Bを、上述の金型10を用いて熱間プレス成形する。熱間プレス成形工程では、加熱工程で加熱された素材Bが下型12の第2成形面120の上に載置される。その後、
図3に示すように、上型11を下型12に相対的に接近させて、金型10を閉じる。このとき、素材Bは上型11の第1成形面110及び下型12の第2成形面120と接触する。換言すれば、素材Bは、上型11の第1成形面110及び下型12の第2成形面120に挟まれる。上型11及び下型12により、素材Bに対して熱間プレス成形を実施する。
【0133】
なお、本実施形態による熱間プレス成形工程では、熱間プレス成形時に素材Bを、冷却媒体を用いて冷却しない。代わりに、熱間プレス成形時に素材Bと接触する金型10により素材Bを抜熱する。金型10が閉じているとき、第1緩冷却領域113では、上型11の第1成形面110の第1リブ部111と素材Bとが接触する。さらに、第2緩冷却領域123では、下型12の第2成形面120の第2リブ部121と素材Bとが接触する。このとき、上型11及び下型12は、素材Bよりも十分に温度が低い。そのため、素材Bは第1リブ部111及び第2リブ部121によって抜熱される。上型11及び下型12の温度は例えば、常温(20±15℃)~200℃である。
【0134】
[離型工程]
離型工程では、熱間プレス成形された素材Bを、金型10から離型して、熱間プレス成形品を製造する。ここで、離型工程において、金型10から離型されたときの素材B(熱間プレス成形品)の温度を、冷却停止温度と定義する。例えば、冷却停止温度が熱間プレス成形品のMf点~Ms点の間、又は、Ms点超~500℃の間であれば、熱間プレス成形品のミクロ組織として、硬質相からなる組織、又は、硬質相及び残留オーステナイトからなる組織が得られる。この場合、得られた熱間プレス成形品は優れた衝撃吸収能を有する。したがって、好ましくは、本実施形態による離型工程では、素材Bのうち、第1緩冷却領域113及び第2緩冷却領域123に挟まれた領域の温度が、素材Bの化学組成から求められるMf点~Ms点の間、又は、Ms点超~500℃の間であるときに、素材Bを金型10から離型する。
【0135】
なお、素材BのMs点及びMf点は、素材Bの化学組成によって異なる。そのため、素材Bにおいて、硬質相からなる組織、又は、硬質相及び残留オーステナイトからなる組織を得ようとする場合、素材Bの化学組成によって、好ましい冷却停止温度は異なる。しかしながら、金型10を用いた熱間プレス成形品の製造方法によれば、第1緩冷却領域113と第2緩冷却領域123とに形成された第1リブ部111、第1溝部112、第2リブ部121、及び、第2溝部122の幅及び高さ、及び、素材Bの化学組成に基づいて、熱伝達シミュレーションにより、素材Bのうち、第1緩冷却領域113及び第2緩冷却領域123に挟まれた領域での冷却速度、温度の経時変化、及び、熱間プレス成形後所定時間経過後の温度分布を求めることができる。したがって、これらの熱伝達シミュレーションにより、好ましい冷却停止温度、又は、熱間プレス成形を開始してから離型するまでの時間、を求めることができる。そのため、本実施形態による金型10によれば、素材Bの化学組成に応じて、硬質相からなる組織、又は、硬質相及び残留オーステナイトからなる組織を有する熱間プレス成形品を、熱間プレス成形によって製造することができる。
【0136】
[その他の工程]
本実施形態による熱間プレス成形品の製造方法はさらに、上記以外の他の製造工程を含んでもよい。例えば、本実施形態による熱間プレス成形品の製造方法は、離型工程後に、500℃以下の温度域での加熱保持工程を実施してもよい。
【0137】
加熱保持工程では、離型工程後の熱間プレス成形品に対して、500℃以下の温度域での加熱保持を実施する。具体的には、金型10から離型して製造された熱間プレス成形品を、100~500℃の加熱温度で保持する。この場合、加熱保持により、熱間プレス成形品のミクロ組織中の硬質相から残留オーステナイトに炭素を分配することができる。残留オーステナイトでの炭素が濃化するため、残留オーステナイトの生成が促進される。その結果、熱間プレス成形品内で、残留オーステナイトの割合が増える。この場合、衝突変形時に残留オーステナイトがマルテンサイトに変態して、熱間プレス成形品の延性が向上する(いわゆるTRIP(TRansformation Induced Plasticity)効果)。その結果、熱間プレス成形品の衝撃吸収能がさらに高まる。
【0138】
加熱保持温度の好ましい上限は400℃である。なお、加熱保持温度は、Ms点-209℃以上とするのが好ましい。この場合、熱間プレス成形品の衝撃吸収能が安定してさらに高まる。したがって、Ms点-209℃が100℃を超える場合、加熱保持温度の好ましい下限はMs点-209℃である。加熱保持時間は特に限定されない。加熱保持温度での保持時間は例えば、5秒~30分(1800秒)とするのが好ましい。
【0139】
以上、本開示の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本開示を実施するための例示に過ぎない。したがって、本開示は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0140】
1 熱間プレス装置
10 金型
11 上型
110 第1成形面
111 第1リブ部
112 第1溝部
113 第1緩冷却領域
12 下型
120 第2成形面
121 第2リブ部
122 第2溝部
123 第2緩冷却領域