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特許7477811作業車両の重心位置を推定するためのシステム、方法、及び作業車両
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】作業車両の重心位置を推定するためのシステム、方法、及び作業車両
(51)【国際特許分類】
   B66F 9/24 20060101AFI20240424BHJP
【FI】
B66F9/24 G
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020034166
(22)【出願日】2020-02-28
(65)【公開番号】P2021134080
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2023-01-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行日:平成31年3月1日、刊行物:2019年度精密工学会春季大会プログラム&アブストラクト集、28ページ
(73)【特許権者】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】中野 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】平岩 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】関 啓明
(72)【発明者】
【氏名】辻 徳生
(72)【発明者】
【氏名】勝部 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】宮西 太一郎
【審査官】長尾 裕貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-058149(JP,A)
【文献】特開2019-131374(JP,A)
【文献】特開2001-163597(JP,A)
【文献】特開2019-189410(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66F 9/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体と、前記車体に対して動作可能に支持された作業機とを含む作業車両において重心位置を推定するためのシステムであって、
前記作業車両の加速度を示す加速度データを出力する加速度センサと、
前記作業車両の所定部分にかかる実荷重を示す荷重データを出力する荷重センサと、
前記加速度データと前記荷重データとを受信するコンピュータと、
を備え、
前記コンピュータは、
現時点から前の所定期間においてサンプリングされた複数の前記加速度データと複数の前記荷重データとを取得し、
複数の仮の重心位置を決定し、
前記複数の仮の重心位置のそれぞれについて、前記複数の加速度データと前記仮の重心位置とから、仮の荷重を算出し、
前記複数の仮の重心位置のそれぞれについて、前記所定期間における前記仮の荷重と前記実荷重との差を示す評価値を算出し、
前記評価値に基づいて、前記複数の仮の重心位置のなかから前記作業車両における推定重心位置を決定する、
システム
【請求項2】
前記コンピュータは、
前記複数の加速度データの標準偏差を算出し、
前記標準偏差が第1閾値より大きいときに前記推定重心位置を有効とする、
請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記コンピュータは、
前記推定重心位置から所定距離だけ離れた参照位置における前記評価値を算出し、
前記参照位置における前記評価値と前記推定重心位置における前記評価値と差を算出し、
前記差が第2閾値より大きいときに、前記推定重心位置を有効とする、
請求項1又は2に記載のシステム。
【請求項4】
前記作業車両は、フォークリフトであり、
前記車体は、
前回転軸と、
前記前回転軸に取り付けられた前輪と、
後回転軸と、
前記後回転軸に取り付けられた後輪と、
を含み、
前記作業機は、
前記前回転軸に支持されたマストと、
前記マストに対して上下に移動可能に支持されたフォークと、
を含む、
請求項1から3のいずれかに記載のシステム。
【請求項5】
前記所定部分は、前記フォークである、
請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記荷重センサは、
前記フォークに取り付けられた第1センサと、
前記作業車両の前後方向に前記第1センサから離れた位置において、前記フォークに取り付けられた第2センサと、
を含む、
請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記所定部分は、前記マストである、
請求項4に記載のシステム。
【請求項8】
前記作業機は、前記フォークに接続されたアクチュエータをさらに備え、
前記荷重センサは、前記アクチュエータにかかる荷重を前記実荷重として検出する、
請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記所定部分は、前記後回転軸である、
請求項4に記載のシステム。
【請求項10】
前記荷重センサは、歪ゲージである、
請求項1から9のいずれかに記載のシステム。
【請求項11】
車体と、前記車体に対して動作可能に支持された作業機とを含む作業車両において、重心位置を推定するためにコンピュータによって実行される方法であって、
現時点から前の所定期間においてサンプリングされた前記作業車両の複数の加速度を示す複数の加速度データを取得することと、
前記所定期間においてサンプリングされた前記作業車両の所定部分にかかる複数の実荷重を示す複数の荷重データを取得することと、
複数の仮の重心位置を決定することと、
前記複数の仮の重心位置のそれぞれについて、前記複数の加速度データと前記仮の重心位置とから、仮の荷重を算出することと、
前記複数の仮の重心位置のそれぞれについて、前記所定期間における前記仮の荷重と前記実荷重との差を示す評価値を算出することと、
前記評価値に基づいて、前記複数の仮の重心位置のなかから前記作業車両における推定重心位置を決定すること、
を備える方法。
【請求項12】
作業車両であって、
車体と、
前記車体に対して動作可能に支持された作業機と、
前記作業車両の加速度を示す加速度データを出力する加速度センサと、
前記作業車両の所定部分にかかる実荷重を示す荷重データを出力する荷重センサと、
前記加速度データと前記荷重データとを受信するコンピュータと、
を備え、
前記コンピュータは、
現時点から前の所定期間においてサンプリングされた複数の前記加速度データと複数の前記荷重データとを取得し、
複数の仮の重心位置を決定し、
前記複数の仮の重心位置のそれぞれについて、前記複数の加速度データと前記仮の重心位置とから、仮の荷重を算出し、
前記複数の仮の重心位置のそれぞれについて、前記所定期間における前記仮の荷重と前記実荷重との差を示す評価値を算出し、
前記評価値に基づいて、前記複数の仮の重心位置のなかから前記作業車両における推定重心位置を決定する、
作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両の重心位置を推定するためのシステム、方法、及び作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
作業車両によって安定的に作業を行うためには、作業車両における重心位置を把握することが有効である。例えば、特許文献1では、フォークリフトにおける重心位置の推定方法が開示されている。この方法では、フォークリフトのフォークにかかる荷重と、フォークの傾斜角度から、荷物の重心位置が算出されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-20814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記の技術は、フォークリフトが停止している静的な状態での荷重を前提としている。しかし、フォークリフトの作業中には、フォークリフトに加速度が生じることがある。そのような動的な状態では、上記の技術によって精度よく重心位置を算出することは困難である。そのため、作業車両の作業中にリアルタイムに精度よく重心位置を把握することは容易ではない。なお、上記のフォークリフトの作業は、荷物の有無にかかわらず、傾斜地で加減速するような走行を含む。
【0005】
本発明の目的は、作業車両の作業中にリアルタイムに精度よく重心位置を把握することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様に係るシステムは、作業車両における重心位置を推定するためのシステムである。作業車両は、車体と、車体に対して動作可能に支持された作業機とを含む。本態様に係るシステムは、加速度センサと、荷重センサと、コンピュータとを備える。加速度センサは、作業車両の加速度を示す加速度データを出力する。荷重センサは、作業車両の所定部分にかかる実荷重を示す荷重データを出力する。コンピュータは、加速度データと荷重データとを受信する。コンピュータは、現時点から前の所定期間においてサンプリングされた複数の加速度データと複数の荷重データとを取得する。コンピュータは、所定期間における複数の加速度データと複数の荷重データとに基づいて、作業車両における推定重心位置を決定する。
【0007】
本発明の第2の態様に係る方法は、作業車両における重心位置を推定するためにコンピュータによって実行される方法である。作業車両は、車体と、車体に対して動作可能に支持された作業機とを含む。本態様に係る方法は、以下の処理を含む。第1の処理は、複数の加速度データを取得することである。複数の加速度データは、現時点から前の所定期間においてサンプリングされた作業車両の複数の加速度を示す。第2の処理は、複数の荷重データを取得することである。複数の荷重データは、所定期間においてサンプリングされた作業車両の所定部分にかかる複数の実荷重を示す。第3の処理は、所定期間における複数の加速度データと複数の荷重データとに基づいて、作業車両における推定重心位置を決定することである。なお、各処理の実行の順番は、上記の順に限らず、変更されてもよい。
【0008】
本発明の第3の態様に係る作業車両は、車体と、作業機と、加速度センサと、荷重センサと、コンピュータとを備える。作業機は、車体に対して動作可能に支持される。加速度センサは、作業車両の加速度を示す加速度データを出力する。荷重センサは、作業車両の所定部分にかかる実荷重を示す荷重データを出力する。コンピュータは、加速度データと荷重データとを受信する。コンピュータは、現時点から前の所定期間においてサンプリングされた複数の加速度データと複数の荷重データとを取得する。コンピュータは、所定期間における複数の加速度データと複数の荷重データとに基づいて、作業車両における推定重心位置を決定する。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、現時点から前の所定期間においてサンプリングされた複数の加速度データと複数の荷重データとに基づいて、作業車両における推定重心位置が決定される。そのため、作業中の加速度の変化、或いは実荷重の変化に応じて、精度よく推定重心位置を決定することができる。それにより、作業車両の作業中にリアルタイムに精度よく、重心位置を把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る作業車両の側面図である。
図2】作業車両における重心位置を推定するためのシステムを示すブロック図である。
図3】重心位置を推定するための処理を示すフローチャートである。
図4】加速度データの一例を示す図である。
図5】荷重データの一例を示す図である。
図6】作業車両を簡略化したモデルを示す図である。
図7A】第1実施例にかかる作業車両の力学モデルを示す図である。
図7B】第1実施例にかかる作業車両の力学モデルを示す図である。
図8】第2実施例にかかる作業車両の力学モデルを示す図である。
図9】第2実施例の変形例にかかる作業車両の力学モデルを示す図である。
図10】第3実施例にかかる作業車両の力学モデルを示す図である。
図11】第3実施例の変形例にかかる作業車両の力学モデルを示す図である。
図12】第3実施例の変形例にかかる作業車両の力学モデルを示す図である。
図13】加速度の標準偏差と推定の精度との関係を示す図である。
図14】所定条件の一例を示す図である。
図15】参照位置における評価値と推定重心位置における評価値との差と、推定の精度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、実施形態に係る作業車両1の側面図である。本実施形態に係る作業車両1は、フォークリフトである。作業車両1は、車体2と作業機3とを含む。
【0012】
車体2は、運転席4と動力室5とを含む。動力室5は、運転席4の下方に配置されている。動力室5には、エンジン、或いは電気モータなどの動力源6が配置されている。車体2は、支持体11と、前回転軸12と、前輪13と、後回転軸14と、後輪15とを含む。支持体11は、動力室5の下方に配置されている。前回転軸12は、支持体11に回転可能に支持されている。前輪13は、前回転軸12に取り付けられている。後回転軸14は、支持体11に回転可能に支持されている。後輪15は、後回転軸14に取り付けられている。
【0013】
作業機3は、車体2に対して動作可能に支持されている。作業機3は、荷物を搭載可能である。作業機3は、上下に動作可能である。詳細には、作業機3は、マスト16と、フォーク17と、チルトアクチュエータ18と、リフトアクチュエータ19と、チェーン20とを含む。マスト16は、車体2の前方に配置されている。マスト16は、前回転軸12に支持されている。マスト16は、フォーク17を支持している。詳細には、マスト16は、アウターマスト21とインナーマスト22とを含む。
【0014】
アウターマスト21は、車体2の前方に配置されており、前回転軸12に支持されている。アウターマスト21は、前回転軸12を中心にして、前後に傾動可能である。インナーマスト22は、アウターマスト21に対して上下に移動可能に支持されている。インナーマスト22の上端には滑車25が取り付けられている。
【0015】
チルトアクチュエータ18は、アウターマスト21と車体2とに接続されている。チルトアクチュエータ18は、アウターマスト21を傾動させる。チルトアクチュエータ18は、例えば、油圧シリンダである。ただし、チルトアクチュエータ18は、油圧モータ、或いは電動シリンダなどの他のアクチュエータであってもよい。
【0016】
リフトアクチュエータ19は、インナーマスト22に接続されている。リフトアクチュエータ19は、インナーマスト22をアウターマスト21に対して上下に移動させる。リフトアクチュエータ19は、例えば、油圧シリンダである。ただし、リフトアクチュエータ19は、油圧モータ、或いは電動シリンダなどの他のアクチュエータであってもよい。
【0017】
フォーク17は、マスト16の前方に配置されている。フォーク17は、底部23と壁部24とを含む。底部23は、前後方向に延びている。壁部24は、底部23から上方に延びている。フォーク17は、マスト16に対して上下に移動可能に支持されている。チェーン20は、フォーク17とアウターマスト21とに接続されている。チェーン20の一部は、滑車25に巻かれている。リフトアクチュエータ19によってインナーマスト22が上方に移動すると、インナーマスト22は、チェーン20を介してフォーク17を上昇させる。リフトアクチュエータ19によってインナーマスト22が下方に移動すると、インナーマスト22が、チェーン20を介してフォーク17を下降させる。
【0018】
図2は、作業車両1における重心位置を推定するためのシステムを示すブロック図である。図2に示すように、システムは、加速度センサ31と、荷重センサ32と、重量センサ33と、コンピュータ34とを含む。加速度センサ31は、作業車両1の加速度を示す加速度データを出力する。加速度センサ31は、例えば、ジャイロセンサ、或いはIMU(Inertial Measurement Unit)であってもよい。或いは、加速度センサ31は、車速を検出し、加速度は、車速の変化から算出されてもよい。
【0019】
荷重センサ32は、作業車両1の所定部分にかかる実荷重を示す荷重データを出力する。荷重センサ32は、例えば歪ゲージである。ただし、荷重センサ32は、静電容量、或いは磁歪式のロードセルなどの他のセンサであってもよい。重量センサ33は、フォーク17上の荷物の重量を示す重量データを出力する。重量センサ33は、例えば歪ゲージである。ただし、重量センサ33は、静電容量、或いは磁歪式のロードセルなどの他のセンサであってもよい。
【0020】
コンピュータ34は、CPUなどのプロセッサ35と、記憶装置36とを備える。記憶装置36は、RAM及びROMなどのメモリと、補助記憶装置とを含む。補助記憶装置は、SSD(Solid State Drive)などの半導体メモリ、或いは、HDD(Hard Disk Drive)などの磁気記録媒体を含んでもよい。記憶装置36は、作業車両1における重心位置を推定するためのプログラム及びデータを記憶している。また、記憶装置36は、作業車両1の重量及び寸法に関する車体データを記憶している。
【0021】
コンピュータ34は、プログラムに従い、作業車両1における重心位置を推定するための処理を実行する。図3は、作業車両1における重心位置を推定するための処理を示すフローチャートである。図3に示すように、ステップS101では、コンピュータ34は、加速度センサ31から加速度データを取得する。図4に示すように、加速度データは、現時点tから前の所定期間Tにおいて、サンプリングされた複数の加速度の点群を示す。
【0022】
ステップS102では、コンピュータ34は、荷重センサ32から荷重データを取得する。図5に示すように、荷重データは、現時点tから前の所定期間Tにおいて、サンプリングされた複数の実荷重の点群を示す。なお、荷重データは、力、或いはモーメントによって表されてもよい。ステップS103では、コンピュータ34は、重量センサ33から重量データを取得する。
【0023】
ステップS104では、コンピュータ34は、作業車両1における推定重心位置を決定する。コンピュータ34は、加速度データと荷重データと重量データとに基づいて、作業車両1における推定重心位置を決定する。
【0024】
図6は、作業車両1を簡略化したモデルを示す図である。図6に示すように、コンピュータ34は、作業車両1の仮の重心位置GP(aP, hP)を決定する。aPは、作業車両1の前後方向における仮の重心の位置である。hPは、仮の重心の高さである。コンピュータ34は、以下の式(1)により、作業車両1の加速度
と、仮の重心位置GP(aP, hP)とから、作業車両1の所定部分への仮の荷重N1Pを算出する。
【0025】
は、慣性力と荷重の関係を表す。
は、重力と荷重の関係を表す。
は、作業車両1における力とモーメントとの釣り合いにより、仮の重心の高さhpから算出される。
は、作業車両1における力とモーメントとの釣り合いにより、作業車両1の前後方向における仮の重心の位置aPから算出される。コンピュータ34は、仮の重心位置GP(aP, hP)から算出した所定部分への仮の荷重N1Pと、実荷重N1とを比較することで、作業車両1における推定重心位置を決定する。
【0026】
詳細には、コンピュータ34は、以下の式(2)により、仮の重心位置GP(aP, hP)の評価値Eを算出する。
【0027】
評価値Eは、現時点tから前の所定期間Tにおける実荷重N1と仮の荷重N1Pとの差を示す。コンピュータ34は、現時点tから前の所定期間Tにおいてサンプリングされた複数の加速度と複数の実荷重とから、評価値Eを算出する。コンピュータ34は、複数の仮の重心位置GP(aP, hP)について、上記の評価値Eを算出し、評価値Eが最小となるものを作業車両1における推定重心位置GA(aA, hA)として決定する。例えば、コンピュータ34は、グリッド探索により評価値Eが最小となるaPとhPとを求める。
【0028】
なお、作業車両1における推定重心位置は、荷物を含めた作業車両1全体の推定重心位置であってもよい。その場合、所定部分の荷重N1は、荷物を含めた作業車両1全体から所定部分が受ける荷重である。或いは、作業車両1における推定重心位置は、作業車両1に搭載された荷物の重心位置であってもよい。その場合、所定部分の荷重N1は、荷物から所定部分が受ける荷重である。或いは、作業車両1における推定重心位置は、作業車両1の一部の重心位置であってもよい。作業車両1の一部は、荷物と、作業車両1のうち荷物の荷重を受ける部分とを含む。その場合、所定部分の荷重N1は、所定部分が、作業車両1の一部から受ける荷重である。
【0029】
以上説明した本実施形態に係るシステムでは、現時点tから前の所定期間Tにおいてサンプリングされた複数の加速度と複数の実荷重とに基づいて、作業車両1における推定重心位置が決定される。そのため、作業中の加速度の変化、或いは実荷重の変化に応じて、精度よく推定重心位置を決定することができる。それにより、作業車両1の作業中にリアルタイムに精度よく、作業車両1における重心位置を把握することができる。
【0030】
なお、上記の実施形態では、加速度
は、作業車両1の前後方向における加速度である。コンピュータ34は、加速度
から、作業車両1の前後方向における重心位置を算出している。ただし、コンピュータ34は、作業車両1の左右方向における加速度から、作業車両1の左右方向における重心位置を算出してもよい。
【0031】
次に、第1実施例に係る推定重心位置の決定方法について説明する。第1実施例において、所定部分は、後回転軸14である。実荷重は、後回転軸14にかかる荷重である。例えば、荷重センサ32は、支持体11において後回転軸14を支持する部分を介して、後回転軸14にかかる荷重を検出する。
【0032】
図7A及び図7Bは、第1実施例にかかる作業車両1の力学モデルを示す図である。図7Aにおいて、MAは、前輪13及び後輪15を含めた作業車両1の全質量である。MAは、荷物の質量を含んでもよい。gは、重力加速度である。aAは、前輪13及び後輪15を含めた作業車両1の前後方向における重心位置である。hAは、前輪13及び後輪15を含めた作業車両1の重心の高さである。Lは、前輪13と後輪15との間の距離である。
【0033】
図7Bにおいて、MBは、前輪13及び後輪15を除いた作業車両1の質量である。MBは、荷物の質量を含んでもよい。aBは、前輪13及び後輪15を除いた作業車両1の前後方向における重心位置である。hBは、前輪13及び後輪15を除いた作業車両1の重心の高さである。m1は、後輪15の質量である。m2は、前輪13の質量である。r1は、後輪15の半径である。r2は、前輪13の半径である。N1は、後輪15の荷重である。N2は、前輪13の荷重である。F1は、後輪15の摩擦力である。F2は、前輪13の摩擦力である。τは駆動トルクである。N’1は、後輪15にかかる鉛直方向の力である。N’2は、前輪13にかかる鉛直方向の力である。F’1は、後輪15にかかる水平方向の力である。F’2は、前輪13にかかる水平方向の力である。τは、駆動トルクである。なお、重心位置GA(aA, hA),GB(aB, hB)は、前回転軸12の位置を原点P0とする。
【0034】
図7Bにおいて、水平方向の力の釣り合いにより、以下の(3)式が与えられ、(3)式より(4)式が与えられる。
【0035】
図7Bにおいて、鉛直方向の力の釣り合いにより、以下の(5)式が与えられ、(5)式より(6)式が与えられる。
【0036】
図7Bにおいて、モーメントの釣り合いより、以下の(7)式が与えられる。
【0037】
図7Bにおいて、回転の運動方程式より、以下の(8)式が与えられる。J1は、後輪15の慣性モーメントである。
は、後輪15の角加速度である。J2は、前輪13の慣性モーメントである。
は、前輪13の角加速度である。
【0038】
図7Bにおいて、並進運動と回転運動の関係より、以下の(9)式が与えられる。
(4)(6)(7)(8)(9)式により、以下の(10)式が与えられる。
【0039】
前輪13及び後輪15を除いた作業車両1における重心位置GB(aB, hB)と、前輪13及び後輪15を含めた作業車両1全体の重心位置GA(aA, hA)との関係は、以下の(11)式で示される。
【0040】
(10)式と(11)式とにより、前輪13及び後輪15を含めた作業車両1全体の重心位置GA(aA, hA)は、以下の(12)式で示される。
【0041】
(12)式より、後輪15の荷重N1と、作業車両1の加速度
とは、以下の(13)式で示される。
【0042】
(13)式に仮の重心位置GP(aP, hP)を代入すると、以下の(14)式が与えられる。
【0043】
式(14)において、aP, hP, N1P,
以外のパラメータは、既知であり、記憶装置36に保存されている。コンピュータ34は、式(14)と上述した式(2)とにより、仮の重心位置GP(aP, hP)の評価値Eを算出する。コンピュータ34は、現時点tから前の所定期間Tにおいてサンプリングされた複数の加速度と複数の実荷重とから、複数の仮の重心位置GP(aP, hP)について、上記の評価値Eを算出する。コンピュータ34は、評価値Eが最小となる仮の重心位置GP(aP, hP)を、作業車両1における推定重心位置GA(aA, hA)として決定する。
【0044】
次に、第2実施例に係る推定重心位置の決定方法について説明する。第2実施例において、所定部分は、フォーク17である。実荷重は、フォーク17にかかる荷重である。図8は、第2実施例にかかる作業車両1の力学モデルを示す図である。図8において
は、荷物100の質量であり、重量センサ33によって検出される。GC(aC, hC)は、荷物100の重心である。重心位置GC(aC, hC)は、フォーク17上において荷重センサ32が配置された位置を原点P0とする。
【0045】
図8に示すように、荷重センサ32は、フォーク17に取り付けられている。フォーク17を片持ち梁と仮定した場合、曲げモーメントとフォーク17の荷重によるモーメントN1との関係から、フォーク17のモーメントN1と、作業車両1の加速度
とは、以下の式(15)で示される。
【0046】
第1実施例と同様に、コンピュータ34は、式(15)に仮の重心位置GP(aP, hP)を代入し、式(2)により、複数の仮の重心位置GP(aP, hP)について評価値Eを算出する。コンピュータ34は、評価値Eが最小となる仮の重心位置GP(aP, hP)を、荷物100の推定重心位置GC(aC, hC)として決定する。
【0047】
図9は、第2実施例の変形例にかかる作業車両1の力学モデルを示す図である。第2実施例の変形例では、荷重センサ32は、第1センサ37と第2センサ38とを含む。第1センサ37は、フォーク17に取り付けられている。第2センサ38は、作業車両1の前後方向に第1センサ37から離れた位置において、フォーク17に取り付けられている。第2センサ38は、第1センサ37からΔaだけ離れた位置に配置されている。図9において、N1は、第1センサ37が検出するフォーク17の荷重によるモーメントを示す。N2は、第2センサ38が検出するフォーク17の荷重によるモーメントを示す。曲げモーメントとフォーク17のモーメントN1, N2との関係から、以下の式(16)が与えられる。

式(16)から、荷物100の質量MCは、以下の式(17)で示される。
【0048】
従って、コンピュータ34は、第1センサ37と第2センサ38とが検出したフォーク17の荷重によるモーメントN1, N2から、荷物100の質量を算出することができる。そのため、コンピュータ34は、重量センサ33無しで、フォーク17のモーメントN1, N2により、荷物100の推定重心位置GC(aC, hC)を決定することができる。従って、上述した重量センサ33は、省略されてもよい。
【0049】
次に、第3実施例に係る推定重心位置の決定方法について説明する。第3実施例において、所定部分は、マスト16である。実荷重は、マスト16にかかる荷重である。図10は、第3実施例にかかる作業車両1の力学モデルを示す図である。図10において、MDは、マスト部10の質量である。マスト部10は、荷物100と、マスト16と、フォーク17とを含む。マスト16とフォーク17の質量は、記憶装置36に保存されている。コンピュータ34は、重量センサ33によって検出された荷物100の質量とマスト16とフォーク17の質量とから、マスト部10の質量MDを算出する。
【0050】
GD(aD, hD)は、マスト部10の重心位置である。重心位置GD(aD, hD)は、マスト16の回転軸、すなわち前回転軸12の位置を原点P0とする。荷重センサ32は、チルトアクチュエータ18にかかる実荷重N1を、マスト16にかかる荷重として検出する。
【0051】
図10において、モーメントの釣り合いから、以下の式(18)が与えられる。
式(18)からマスト16の荷重N1と、作業車両1の加速度
とは、以下の式(19)で示される。
【0052】
第1実施例と同様に、コンピュータ34は、式(19)に仮の重心位置GP(aP, hP)を代入し、式(2)により、複数の仮の重心位置GP(aP, hP)の評価値Eを算出する。コンピュータ34は、評価値Eが最小となる仮の重心位置GP(aP, hP)を、マスト部10の推定重心位置GD(aD, hD)として決定する。
【0053】
なお、重量センサ33は、チェーン20の張力を検出することで、荷物100の重量を検出してもよい。作業車両1が、左右一対のチェーン20を備える場合には、重量センサ33は、左右のチェーン20の張力を検出してもよい。その場合、コンピュータ34は、左右のチェーン20のそれぞれの張力のバランスから、荷物100の左右方向における推定重心位置を決定してもよい。
【0054】
図11及び図12は、第3実施例の変形例にかかる作業車両1の力学モデルを示す図である。図11及び図12において、Moutは、アウターマスト21の質量である。houtは、アウターマスト21の初期の重心の高さである。Minは、インナーマスト22の質量である。hinは、インナーマスト22の初期の重心の高さである。MCは、フォーク17を含めた荷物100の質量である。hCは、フォーク17を含めた荷物100の初期の重心の高さである。これらのパラメータは既知であり、記憶装置36に保存されている。
【0055】
図12において、dは、インナーマスト22の上昇距離である。作業車両1は、インナーマスト22の上昇距離dを検出する距離センサを含む。コンピュータ34は、距離センサから上昇距離dを取得する。図11及び図12より、マスト部10の重心の高さhDは、以下の式(20)で示される。
【0056】
コンピュータ34は、上述した式(19)に、式(20)を代入して得られる式によって、評価値Eを算出してもよい。それにより、マスト16が上昇した場合のマスト部10の推定重心位置GD(aD, hD)を決定することができる。
【0057】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0058】
作業車両1は、フォークリフトに限らず、ホイールローダなどの他の車両であってもよい。フォークリフトの構成は、上記の実施形態のものに限らず、変更されてもよい。評価値Eを算出するための式は、変更されてもよい。例えば、上記の実施形態では、実荷重N1と仮の荷重N1Pとの差の二乗から評価値Eが算出されている。しかし、実荷重N1と仮の荷重N1Pとの差の絶対値から評価値Eが算出されてもよい。上記の所定部分にかかる荷重N1は、所定部分の歪に換算されてもよい。
【0059】
評価値Eを算出するための式に、他のパラメータが追加されてもよい。例えば、作業車両1が傾斜地を走行しているときには、地面の傾斜角度がパラメータとして追加されてもよい。
【0060】
コントローラは、所定の判定条件が満たされているときに、推定重心位置を有効としてもよい。コントローラは、所定の判定条件が満たされていないときには、推定重心位置を無効としてもよい。所定の判定条件は、加速度の標準偏差が、第1閾値より大きいことであってもよい。
【0061】
図13において、実線は、上述した推定方法において決定された推定重心位置の高さを示している。破線は、重心位置の真の高さを示している。二点鎖線は、加速度の標準偏差を示している。図13においてハッチングを付した部分で示されているように、加速度の標準偏差が大きいときに、推定重心位置の高さの精度がよい。従って、加速度の標準偏差が、第1閾値TH1より大きいときに、推定重心位置を有効とすることで、精度のよい推定を行うことができる。
【0062】
図14に示すように、コントローラは、推定重心位置GAから所定距離だけ離れた参照位置G’Aにおける評価値E’を算出してもよい。コントローラは、参照位置G’Aにおける評価値E’と、推定重心位置GAにおける評価値Eとの差Δを算出してもよい。所定の判定条件は、上記の差Δが、第2閾値より大きいことであってもよい。
【0063】
図15において、実線は、上述した推定方法において決定された推定重心位置の高さを示している。破線は、重心位置の真の高さを示している。二点鎖線は、参照位置G’Aにおける評価値E’と、推定重心位置GAにおける評価値Eとの差Δを示している。図15においてハッチングを付した部分で示されているように、差Δが大きいときに、推定重心位置の高さの精度がよい。従って、差Δが、第2閾値TH2より大きいときに、推定重心位置を有効とすることで、精度のよい推定を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、作業車両の作業中にリアルタイムに精度よく重心位置を把握することができる。
【符号の説明】
【0065】
2 車体
3 作業機
12 前回転軸
13 前輪
14 後回転軸
15 後輪
16 マスト
17 フォーク
18 チルトアクチュエータ
31 加速度センサ
32 荷重センサ
34 コンピュータ
37 第1センサ
38 第2センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15