(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】金属表面電解研磨装置および金属表面電解研磨方法
(51)【国際特許分類】
C25F 7/00 20060101AFI20240424BHJP
【FI】
C25F7/00 X
C25F7/00 A
C25F7/00 V
(21)【出願番号】P 2020116253
(22)【出願日】2020-07-06
【審査請求日】2023-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】516267049
【氏名又は名称】株式会社X線残留応力測定センター
(74)【代理人】
【識別番号】500067961
【氏名又は名称】三島 由久
(72)【発明者】
【氏名】三島 由久
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】実開平02-051270(JP,U)
【文献】特開平02-301600(JP,A)
【文献】特開平03-181801(JP,A)
【文献】特開2008-111178(JP,A)
【文献】特開2017-193749(JP,A)
【文献】特開2018-040018(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25F 1/00 - 7/02
G01L 1/00 - 1/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒型電極
、電解研磨液を内蔵する繊維球、電解研磨対象金属上部を覆いかつ電解研磨領域に穴を有するシール材、直流定電流電源からなることを特徴とする金属残留応力を測定するための金属表面電解研磨装置
【請求項2】
金属の残留応力を測定するために金属を電解研磨する方法であって、金属表面に中心部に穴を有するシール材を密着させ、その上に電解研磨液を内蔵する繊維球を設け、その上に円筒型電極を設け、被電解研磨金属から円筒型電極間に0.1-3.5A/cm
2の電流密度で通電することを特徴とする金属電解研磨方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、応力測定のための円筒形電極を持つ電解研磨装置に関する
【背景技術】
【0002】
応力測定を目的とする電解研磨は、目標とする深さまで均一に表面の金属を溶解除去することが重要である。その点で他の観察のため凹凸を生成させる顕微鏡観察用の電解研磨および、汚れや細かな凹凸を除去する電解研磨とは、目的および用途が異なる。
X線回折を用いた残留応力測定では、表面の測定に不要な層を取り除く目的で被測定部材に電解研磨が施される。しかしながらその電解研磨には、いくつかの問題があった。1つ目は、電解研磨領域の中心部が周辺部より深くなる問題で、原因は、電極の形状が円盤型のために特に電極と被測定部材が近い場合に、電解研磨領域の中心部に電流が集中して中心部が周辺部より深くなるためであった。2つ目は、周辺部だけ電解研磨の深さが深くなる問題で、原因は、電解研磨領域より円盤型電極の直径が大きいために電解研磨領域の周辺部に回り込んだ電流により周辺部に電流が集中してその部分だけ電解研磨が深くなるためであった。さらに3つ目は、電解研磨液の交換に時間がかかる欠点があった。電解研磨が進むと電解研磨により研磨対象金属のイオンが電解研磨液に溶け込むため、電解研磨液内の金属イオン濃度が上昇して研磨性能が低下する。研磨性能低下を防止するために、電解研磨液を適宜交換する必要があるが、グラスウール等に電解研磨液を内蔵させるタイプでは、端触子先端を分解して、グラスウールを取り出して、新しいグラスウールを切断、加工して巻いて端触子先端に再び詰める必要があり電解研磨液の交換に数分を要した。
以下
図3により従来の電解装置について説明する。2被電解研磨部材の表面に電解研磨領域と同じ大きさの穴を開けた3シール部材を貼付する。その上に電解研磨液を内蔵するグラスウールを保持しその上に、通電のための金属棒を保持する探触子を設ける。被電解研磨部材側にプラスの電圧、探触子にマイナスの電圧を印加することにより電解液中にも電圧がかかり被電解研磨部材の金属がイオン化溶出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上述べた従来の電解研磨装置では、電解研磨の深さが均一でない。電解研磨液の交換に時間がかかる問題があった。本発明はこのような従来構成が有していた問題を解決しようとするものであり、単数または複数の円筒形の電極と繊維球を設け、電解研磨の深さが均一で電解研磨液の交換に時間がかからない装置になっている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そして本発明は上記目的を達成するために円筒型電極および電解研磨液を内蔵する繊維球 電解研磨対象金属上部を覆いかつ電解研磨領域に穴を有するシール材、直流定電流電源を設けたものである。
円筒形電極の内径は、2mm-15mmである。腐食液である電解研磨液への耐性からステンレスパイプを使用できる。電解研磨深さを均一にするためには、円筒形電極の内径は、電解研磨領域径に近いことが望ましい。シールの穴径は電解研磨領域に合わせて直径2-15mm程度である。穴の形は、多角形でもよい。シール材は、耐水性の紙またはゴムで厚み0.05-1mmが望ましい。研磨部分の電流密度は、0.02-2A/mm2が望ましい。直流電源は、出力電圧10-50Vで出力電流が0.1-7Aが使用できる定電流源が望ましい。
【0006】
上記解決手段による作用は次の通りである。円盤型から円筒型電極へ変更することにより電極から電解研磨領域の中心部分への距離が遠くなり中心部でも電流の集中が解消されて電解研磨により中心部が深くなる現象が解消された。円筒型電極内径を電解研磨領域径に近づけることによりシールが電流を通さないことによる周辺部への電流の迂回集中が解消され、周辺部での研磨深さが深くなる現象が減少した。
研磨中は、円筒形電極部分を被研磨材へ押さえつけているため、円筒形電極に繊維球が食い込み、研磨中繊維球が遠投電力からずれる、または外れることはないが、交換時には、容易に取り除くことができる。また繊維球として綿棒を使うとさらに繊維球の交換すなわち電解研磨液の交換が容易になる。
上述にように本発明の電解研磨装置は、平坦な電解研磨と迅速な電解研磨液の交換を実現できる。
【発明の効果】
【0007】
円盤型から円筒型電極へ変更することにより電極から電解研磨領域の中心部分への電流の集中がなくなったため中心部が深くなる現象が認められなくなった。円筒型電極内径を電解研磨領域径に近づけることによりシールによる周辺部への電流集中が低減され、周辺部での研磨深さが深くなる現象が低減された。結果として研磨領域内をより均一に電解研磨することが可能になった。繊維球は、研磨中は、円筒形電極部分から圧力を加えて円筒形電流を繊維球に食い込ませるために研磨中にずれることはないが、交換時には、容易に取り除くことができる。また繊維球として綿棒を使う場合は、さらに電解研磨液の交換が容易になり数秒で交換が終了する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施例1を示す電解研磨装置の部分断面図
【
図3】本発明の実施例2を示す電解研磨装置の部分断面図
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0009】
図1は本発明の実施例1に係る電解研磨装置1を示す。この電解研磨装置1は被研磨部材2の電解研磨領域2aを電解研磨する装置である。
【0010】
電解研磨装置1の円筒型電極4は、被測定部材2の表面に立てた状態で配置される ものであり、円筒型容器5と被研磨材の間 (
図1では下側の開口端縁)には、シール 材3が配置されている。 シール材3としては、耐水紙、耐水シール、シリコンゴム材等を使用することができ、
電解液7 としては、例えば塩化アンモニウム水溶液、塩酸や食塩水の水溶液を用い る。
直流電源8は、被測定部材2に正電圧(+電圧)を印加し、電解液7に負電圧(- 電圧)を印加する。
また、電解研磨液の入れ替えも簡単にできる。
【実施例2】
【0011】
また、電解研磨領域径および円筒電極内径が5mmを超える場合は、円筒形内部にさらに円筒形電極を追加して2重円筒電極とすると電解研磨後の形状の平坦性が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0012】
X線による残留応力測定では、表面の平滑化と深さ方向応力分布の測定の目的利用できる。さらに測定箇所の周りを電解研磨で取り除き、その前後で残留応力を測定して差分を計算することにより、被測定部材にかかる応力を推定できる。
【符号の説明】
【0013】
1. 円筒型電極式電解研磨装置
2. 被電解研磨部材
2a 電解研磨領域
3. シール部材
4. 円筒型電極
5. 電解研磨液を内蔵する繊維球
6. 直流定電流源
7. 従来型電解研磨装置
8. 端触子
9. シール材
10. グラスウール材
11. 先端部カバー
12. 直流電源
13. 二重円筒型電極式電解研磨装置
14. 二重円筒型電極