(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】放射線画像センサ
(51)【国際特許分類】
G01T 1/17 20060101AFI20240424BHJP
【FI】
G01T1/17 C
G01T1/17 A
G01T1/17 G
(21)【出願番号】P 2022512931
(86)(22)【出願日】2020-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2020014647
(87)【国際公開番号】W WO2021199195
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-09-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 開催日 2019年8月13日~8月15日(発表日:2019年8月12日) 集会名、開催場所 SPIE Optics+Photonics Exhibition 2019 San Diego Convention Center,111 West.Harbor Drive,San Diego,CA 92101 United State of America. 〔刊行物等〕 ウェブサイトの掲載日 2019年9月19日 ウェブサイトのアドレス https://doi.org/10.1117/12.2529747 〔刊行物等〕 開催日 2019年9月18日~9月21日(発表日:2019年9月20日) 集会名、開催場所 2019年第80回応用物理学会秋季学術講演会 北海道大学 北海道札幌市北区北8条西5丁目 〔刊行物等〕 発行日 2019年9月4日 刊行物 2019年第80回応用物理学会秋季学術講演会「講演予稿集」
(73)【特許権者】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(73)【特許権者】
【識別番号】516088329
【氏名又は名称】株式会社ANSeeN
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【氏名又は名称】小松 秀輝
(72)【発明者】
【氏名】青木 徹
(72)【発明者】
【氏名】都木 克之
(72)【発明者】
【氏名】小池 昭史
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/086181(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0086561(US,A1)
【文献】特開2017-020912(JP,A)
【文献】国際公開第2020/054756(WO,A1)
【文献】特開2010-078338(JP,A)
【文献】特開平07-055946(JP,A)
【文献】特開2012-233727(JP,A)
【文献】米国特許第05067090(US,A)
【文献】都木 克之、他4名,「エネルギー重み付けを用いたデジタル信号処理によるエネルギー積算型読み出し回路の実装」,第80回応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集,公益社団法人 応用物理学会,2019年,20p-PB4-77
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次元配列された電荷生成部であって、入射した放射線のエネルギに対応する電荷を生成する
複数の前記電荷生成部と、
複数の前記電荷生成部ごとに設けられ、前記放射線が入射するたびに前記電荷に対応するアナログ信号を出力する
複数の前置増幅部と、
複数の前記電荷生成部ごとに設けられ、前記アナログ信号を受け
るたびに、前記アナログ信号を
前記電荷の量に応じたデジタル信号に変換する
複数の信号変換部と、
複数の前記電荷生成部ごとに設けられ、前記デジタル信号を閾値と比較することにより、前記デジタル信号のうち前記閾値を超えた成分を出力する
複数のエネルギ弁別部と、
複数の前記電荷生成部ごとに設けられ、前記閾値を超えた成分の一定期間ごとの総和として規定されるエネルギ積分値を得る
複数のエネルギ積分部と、を備える
複数の放射線検出器が二次元配列された放射線画像センサ。
【請求項2】
入射した放射線のエネルギに対応する電荷を生成する電荷生成部と、
前記電荷に対応するアナログ信号を出力する前置増幅部と、
前記アナログ信号を受けて、前記アナログ信号をデジタル信号に変換する信号変換部と、
前記デジタル信号を閾値と比較することにより、前記デジタル信号のうち前記閾値を超えた成分を出力するエネルギ弁別部と、
前記閾値を超えた成分の一定期間ごとの総和として規定されるエネルギ積分値を得るエネルギ積分部と、を備える放射線検出器が二次元配列されており、
前記前置増幅部は、前記放射線が入射するたびに前記アナログ信号を出力し、
前記信号変換部は、
前記アナログ信号を受けるたびに、前記アナログ信号の大きさをN個のパルス波(Nは1以上の整数)によって示す前記デジタル信号を出力し、
前記エネルギ積分部は、前記デジタル信号を受けるたびに、前記デジタル信号を構成する前記パルス波の数を加算する
、放射線画像センサ。
【請求項3】
前記エネルギ弁別部は、前記N個のパルス波のうち、第i+1のパルス波(iは1以上の整数)から第Nのパルス波を、前記閾値を超えた成分として出力する、請求項
2に記載の放射線画像センサ。
【請求項4】
前記エネルギ積分部に対して並列に接続されるとともに、前記エネルギ積分部に前記デジタル信号が入力された入力回数を数えるカウンタと、
前記カウンタ及び前記エネルギ積分部に接続され、前記入力回数と、前記第1のパルス波から前記第iのパルス波によって示される閾値と、を利用して、前記エネルギ積分部が出力する前記エネルギ積分値を補正するエネルギ補正部と、をさらに備える、請求項
3に記載の放射線画像センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、放射線検出器を説明する。
【背景技術】
【0002】
放射線を検出する技術が開発されている。放射線検出技術は、医療分野、工業分野、セキュリティ分野などへの応用が期待されている。放射線検出技術として、電荷蓄積方式がある。電荷蓄積方式を採用する放射線検出器は、放射線のエネルギに応じた電荷を生成する。そして、当該電荷を積分した値を利用して、放射線に関する情報を得る。また、別の技術として、フォトンカウンティング方式がある。フォトンカウンティング方式を採用する放射線検出器は、放射線を粒子として扱う。つまり、検出器に入射した粒子の数を利用して、放射線に関する情報を得る(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2014-527162号公報
【文献】特表2015-516832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フォトンカウンティング方式の放射線検出器は、粒子(フォトン)の数を数える。この粒子の数を数えるとき、信号成分と雑音とが弁別される。従って、フォトンカウンティング方式の放射線検出器は、雑音の問題を生じにくい。しかし、放射線入射のタイミングは一様でない。その結果、計数結果の粒子の数が実際に入射した粒子の数と異なる場合がある。一方、電荷蓄積方式の放射線検出器は、入射した放射線に応じる信号成分(電荷信号)を積分する。積分動作によれば、フォトンカウンティング方式の放射線検出器のように、粒子数の計数誤差に起因する問題が生じない。しかし、積分動作では、入射した放射線に起因する真の信号成分だけでなく、暗電流などに起因する雑音も積分してしまう。
【0005】
本開示は、雑音の影響を低減できる放射線検出器を説明する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一形態である放射線検出器は、入射した放射線のエネルギに対応する電荷を生成する電荷生成部と、電荷に対応するアナログ信号を出力する前置増幅部と、アナログ信号を受けて、アナログ信号をデジタル信号に変換する信号変換部と、デジタル信号を閾値と比較することにより、デジタル信号のうち閾値を超えた成分を出力するエネルギ弁別部と、エネルギ弁別部に接続されて、放射線の入射ごとに得た閾値を超えた成分の総和として規定されるエネルギ積分値を得るエネルギ積分部と、を備える。
【0007】
この放射線検出器において、信号変換部から出力されるデジタル信号は、エネルギ弁別部において雑音が取り除かれる。そして、雑音が除かれたデジタル信号は、エネルギ積分部において、エネルギごとに積分される。従って、本開示の放射線検出器は、雑音の影響を低減することができる。
【0008】
一形態において、増幅部は、放射線が入射するたびにアナログ信号を出力してもよい。信号変換部は、アナログ信号を受けるたびに、デジタル信号を出力してもよい。エネルギ積分部は、デジタル信号を受けるたびに、デジタル信号を加算してもよい。この構成によれば、エネルギ積分部の積分動作が、放射線が入射されるたびに逐次実行される。従って、積分動作を簡易な加算動作によって実現することができるので、回路構成が簡易になる。その結果、放射線検出器を小型化することができる。
【0009】
一形態において、信号変換部は、アナログ信号の大きさをN個のパルス波(Nは1以上の整数)によって示すデジタル信号を出力してもよい。エネルギ積分部は、デジタル信号を受けるたびに、デジタル信号を構成するパルス波の数を加算してもよい。この構成によれば、積分動作をさらに簡易な計数動作によって実現することができるので、回路構成がさらに簡易になる。その結果、放射線検出器をさらに小型化することができる。
【0010】
一形態において、エネルギ弁別部は、N個のパルス波のうち、第iのパルス波(iは1以上の整数)から第Nのパルス波を、閾値を超えた成分として出力してもよい。この構成によれば、エネルギ弁別部が行う弁別動作を簡易にすることができる。その結果、エネルギ弁別部の回路構成が簡易になるので、放射線検出器をさらに小型化することができる。
【0011】
一形態において、エネルギ積分部に対して並列に接続されるとともに、エネルギ積分部にデジタル信号が入力された入力回数を数えるカウンタと、カウンタ及びエネルギ積分部に接続され、入力回数と、第1のパルス波から第i-1のパルス波によって示される閾値と、を利用して、エネルギ積分部が出力するエネルギ積分値を補正するエネルギ補正部と、をさらに備えてもよい。この構成によれば、エネルギ積分値が補正されるので、エネルギ積分値から得られる放射線のエネルギを、実際の放射線のエネルギに近づけることができる。
【発明の効果】
【0012】
本開示の放射線検出器は、雑音の影響を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、第1実施形態の放射線検出器を備える放射線画像センサを示す図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す放射線検出器の構成を示す図である。
【
図3】
図3は、
図2に示す電荷生成器及び前置増幅器の回路構成の一例を示す図である。
【
図4】
図4(a)は、比較例1の放射線検出器を示す図である。
図4(b)は、比較例1の放射線検出器の動作を説明するための図である。
【
図5】
図5(a)は、比較例2の放射線検出器を示す図である。
図5(b)は、比較例2の放射線検出器の動作を説明するための図である。
【
図6】
図6(a)は
図2の放射線検出器およびエネルギ積分の動作を説明する重み関数である。
図6(b)は
図6(a)とは異なるエネルギ積分動作を示す重み関数である。
図6(c)はフォトンカウンティング動作を示す重み関数である。
【
図7】
図7は第2実施形態の放射線検出器の構成を示す図である。
【
図8】
図8は第3実施形態の放射線検出器の構成を示す図である。
【
図9】
図9(a)は放射線の入射タイミングを示す図である。
図9(b)は信号変換部が出力するデジタル信号の一例を示す図である。
図9(c)は信号変換部が出力するデジタル信号の別の例を示す図である。
図9(d)はエネルギ弁別部が出力するデジタル信号の一例を示す図である。
【
図10】
図10(a)は放射線の入射タイミングを示す図である。
図10(b)は信号変換部が出力するデジタル信号の一例を示す図である。
図10(c)は信号変換部が出力するデジタル信号の別の例を示す図である。
図10(d)はエネルギ弁別部が出力するデジタル信号の一例を示す図である。
【
図11】
図11は、変形例1に係る放射線検出器を備える放射線画像センサを示す図である。
【
図12】
図12は、変形例2に係る放射線検出器を備える放射線画像センサを示す図である。
【
図13】
図13は、変形例2に係る放射線検出器を備える放射線画像センサを示すブロック図である。
【
図14】
図14は、
図3に示す電荷生成器及び前置増幅器を含む回路構成の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら本開示の放射線検出器を詳細に説明する。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0015】
<第1実施形態>
図1に示す放射線画像センサ100は、検査対象から到達する放射線に基づく二次元画像を得る。放射線とは、例えば、ガンマ線、X線、アルファ線、ベータ線などである。放射線画像センサ100は、放射線検出器1と、処理部2と、制御部3と、読出線4と、制御信号線6と、を有する。放射線画像センサ100は、複数の放射線検出器1を有する。放射線検出器1は、二次元状に配置されている。従って、ひとつの放射線検出器1は、二次元画像におけるひとつの画素に相当する。放射線検出器1は、入射した放射線に応じた画素値を出力する。放射線検出器1は、電荷生成器7(電荷生成部)と、読出回路8と、を有する。電荷生成器7及び読出回路8の形状は、板状である。放射線検出器1は、積層構造を有する。1個の電荷生成器7には、1個の読出回路8が設けられている。放射線検出器1は、読出回路8の上に電荷生成器7が配置されている。電荷生成器7は、読出回路8に対してバンプ電極を介して電気的に接続されている。電荷生成器7は、入射した放射線に応じた電荷に応じた信号を出力する。つまり、読出回路8は、電荷生成器7が生成した電荷を処理する。その結果、読出回路8は、画素値としてのエネルギ積分信号φ2(
図2参照)を生成する。読出回路8は、読出線4を介してエネルギ積分信号φ2を処理部2に出力する。
【0016】
処理部2は、読出線4を介して放射線検出器1に接続されている。処理部2は、放射線検出器1からエネルギ積分信号φ2を受け取る。例えば、処理部2は、受け取ったエネルギ積分信号φ2に基づく二次元画像を出力する。制御部3は、制御信号線6を介して放射線検出器1に接続されている。制御部3は、放射線検出器1にクロック信号といった制御信号θ(
図2参照)を提供する。このような二次元配列の回路構成は、半導体基板に集積回路を形成することによって実現できる。
【0017】
図2は、放射線検出器1の構成を示す。上述したように、放射線検出器1は、電荷生成器7と、読出回路8と、を有する。
【0018】
電荷生成器7は、X線などの放射線を受ける。電荷生成器7は、受けたX線によって電子正孔対(電荷対)を生成する。つまり、電荷生成器7は、受けた放射線をそのエネルギに対応した電流信号(電荷信号)に変換する。電荷生成器7としては、例えば、Cd(Zn)Te電荷生成器、Si電荷生成器、Ge電荷生成器、GaAs電荷生成器、GaN電荷生成器、TlBr電荷生成器等を利用してよい。また、電荷生成器7として、シンチレータと光検出器とを備えた装置を用いてもよい。シンチレータは、X線を光に変換する。光検出器は、シンチレータが生成した光を電荷に変換する。
【0019】
読出回路8は、電荷生成器7が出力する電荷φ1を画素値であるエネルギ積分信号φ2に変換する。読出回路8は、エネルギ積分信号φ2を処理部2に出力する。エネルギ積分信号φ2は、少なくとも入射した放射線が有していたエネルギの情報を含む。読出回路8は、前置増幅器9(前置増幅部)と、信号変換器10(信号変換部)と、メモリ11と、エネルギ弁別器12(エネルギ弁別部)と、エネルギ積分器13(エネルギ積分部)と、転送用メモリ14と、を有する。つまり、1個の電荷生成器7に対して、1個の前置増幅器9、1個の信号変換器10、1個のメモリ11、1個のエネルギ弁別器12、1個のエネルギ積分器13及び1個の転送用メモリ14が接続されている。
【0020】
前置増幅器9は、電荷生成器7と信号変換器10とに接続されている。前置増幅器9は、電荷生成器7から電荷φ1を受ける。そして、前置増幅器9は、電荷φ1に基づくアナログ信号を出力する。アナログ信号は、電圧として表現される。前置増幅器9は、電荷生成器7から電荷φ1を受けて、電荷φ1を蓄積する。そして、前置増幅器9は、蓄積した電荷φ1に対応する電圧を出力する。例えば、前置増幅器9は、キャパシタ21(
図3参照)を含む。前置増幅器9は、キャパシタ21に電荷φ1を蓄積する。前置増幅器9は、電荷φ1の蓄積に起因して、キャパシタ21の両端に生じる電圧をアナログ信号として出力する。
【0021】
図3は、前置増幅器9の回路の一例である。
図3に示すように、電荷生成器7の第1の端子7aには、バイアス電圧が印加される。電荷生成器7の第2の端子7bは、前置増幅器9の入力9aに接続される。また、前置増幅器9は、キャパシタ21と差動増幅器22とを有する。差動増幅器22の反転入力22bには、入力9aを介して電荷生成器7の第2の端子7bが接続される。差動増幅器22の非反転入力22cには、接地電位が提供される。差動増幅器22の出力22aと反転入力22bとの間には、キャパシタ21が接続されている。このような構成によって、電荷生成器7から入力された電荷φ1は、キャパシタ21に蓄積される。そして、差動増幅器22は、蓄積された電荷φ1に対応する電圧を出力22aに生成する。出力22aに生成される電圧は、アナログ信号である。
【0022】
前置増幅器9の動作は、電荷生成器7に放射線が入射するたびに行われる。電荷生成器7における電荷φ1の生成と、前置増幅器9における電圧への変換とは、極めて短い時間に完了する。例えば、これらの動作は、数十ナノ秒の時間で完了する。換言すると、キャパシタ21に電荷φ1が蓄積され、当該状態においてキャパシタ21の両端の電圧を取り出すまでの時間が短い。その結果、キャパシタ21から電荷φ1が自然に失われる現象(いわゆる自然放電)の影響が抑制される。つまり、電荷生成器7において生成された電荷φ1に応じた電圧を得ることができる。
【0023】
図2に示すように、信号変換器10は、前置増幅器9とメモリ11とに接続されている。信号変換器10は、前置増幅器9からアナログ信号を受ける。そして、信号変換器10は、アナログ信号
をデジタル信号
に変換して出力する。つまり、信号変換器10は、A/D変換器である。例えば、信号変換器10の分解能は、10ビットであるとしてよい。
【0024】
メモリ11は、信号変換器10とエネルギ弁別器12とに接続されている。メモリ11は、信号変換器10からデジタル信号を受ける。そして、メモリ11は、デジタル信号が入力されるたびに、デジタル信号を保存する。メモリ11は、複数のデジタル信号をヒストグラムとして保存する。より詳細にはメモリ11は、デジタル信号の大きさに応じて、あらかじめ設定されたデジタル信号の大きさを基準とした階級ごとにデジタル信号を区分する。例えば、メモリ11が保存するヒストグラムは、横軸にデジタル信号が示す電圧の大きさを基準とした階級をとり、縦軸に当該階級に当てはまるデジタル信号が入力された度数をとる。
【0025】
エネルギ弁別器12は、メモリ11とエネルギ積分器13とに接続されている。エネルギ弁別器12は、あらかじめ設定された期間ごとにメモリ11からデータを受ける。このデータは、上述したヒストグラムである。つまり、電荷生成器7、信号変換器10及びメモリ11のそれぞれの動作は、放射線の入射のたびに行われる。一方、エネルギ弁別器12及びエネルギ積分器13の動作は、一定の期間ごとに行われる。つまり、エネルギ弁別器12及びエネルギ積分器13の動作は、放射線の入射のたびに行われない。
【0026】
エネルギ弁別器12は、ヒストグラムの階級と閾値LLDとを比較する。比較の結果、エネルギ弁別器12は、閾値LLDを超えた階級の成分を積分対象成分として出力する。この動作は、ある階級(閾値LLD)より大きいデジタル信号が、放射線に起因する真の信号成分であると評価するものである。換言すると、ある階級(閾値LLD)より小さいデジタル信号が、放射線に起因しない偽の信号成分(雑音)であると評価するものである。
【0027】
エネルギ積分器13は、エネルギ弁別器12と転送用メモリ14に接続されている。エネルギ積分器13は、エネルギ弁別器12から積分対象成分を受ける。次に、エネルギ積分器13は、積分対象成分を積分してエネルギ積分信号φ2を生成する。より詳細には、エネルギ積分器13は、エネルギ弁別器12から出力されたヒストグラムにおいて、第1の演算として階級ごとに階級と度数とを乗算する。そして、第2の演算として、第1の演算の結果として得た複数の値を、すべて足し合わせる。つまり、第1の演算及び第2の演算は、デジタル信号をエネルギによって積分する演算である。そして、第1の演算及び第2の演算に提供される情報は、エネルギ弁別器12によって雑音が除かれている。従って、エネルギ積分器13が行う積分動作では、雑音が積分されることがない。換言すると、エネルギ積分器13が行う積分動作では、真の信号成分のみを積分することができる。
【0028】
転送用メモリ14は、エネルギ積分器13に接続されている。転送用メモリ14は、エネルギ積分信号φ2を所定のメモリ空間に逐次保存する。そして、転送用メモリ14は、制御部3から提供される制御信号θに応じて、エネルギ積分信号φ2を処理部2に出力する。
【0029】
以下、比較例に係る放射線検出器200、300の動作と比較しながら、実施形態の放射線検出器1の動作及び作用効果について説明する。
【0030】
図4(a)は、比較例1に係る放射線検出器200の構成を示すブロック図である。放射線検出器200は、いわゆる電荷蓄積方式を採用する。放射線検出器200は、電荷生成器201と、電荷蓄積器202と、信号変換器203と、転送用メモリ204と、を有する。電荷生成器201、信号変換器203及び転送用メモリ204は、上記の実施形態と同様の構成を有する。従って、これらの詳細な説明は、省略する。
【0031】
電荷蓄積器202は、電荷生成器201から出力された電荷を蓄積する。そして、電荷蓄積器202は、蓄積した電荷に応じた電圧を信号変換器203に提供する。電荷蓄積器202が出力する電圧は、連続した値であり、いわゆるアナログ値である。
【0032】
図4(b)に示すグラフを参照する。このグラフは、電荷生成器201の出力(グラフG4a)と、電荷蓄積器202の出力(グラフG4b)と、を示す。横軸は時間を示す。左側の縦軸は電荷生成器201の出力を示す。右側の縦軸は、電荷蓄積器202の出力を示す。グラフG4aに示すように、電荷生成器201の出力は、時間的に連続している。そして、放射線が入射されると出力が増大し、放射線のエネルギに応じたピークP1、P2、P3、P4、P5が現れる。また、電荷生成器201は、放射線が入射されていない期間(例えば期間T参照)にも不規則な大きさの値を出力し続ける。この出力は、電荷生成器201に起因する雑音である。
【0033】
そして、電荷蓄積器202は、グラフG4aに示す出力を逐次積分する。換言すると、電荷蓄積器202は、電荷生成器201の出力を加算し続ける。その結果、グラフG4bが得られる。つまり、放射線検出器200は、電荷生成器201への放射線の入射に起因する粒子を数える必要がない。従って、放射線検出器200は、いわゆる信号の取りこぼしを生じない。
【0034】
ここで、電荷生成器201の出力は、雑音を含むことを既に述べた。そうすると、電荷蓄積器202は、放射線の入射に起因する成分(ピークP1等)だけでなく、雑音に起因する成分(期間Tにおける出力信号)も逐次加算していく。
【0035】
その結果、電荷蓄積器202の出力(グラフG4b)は、放射線の入射に起因する成分だけを加算した場合の結果(グラフG4c)よりも大きくなる。グラフG4bとグラフG4cとの違いは、雑音が加算されたことに起因する。
図4(b)において、グラフG4cとグラフG4bとに囲まれる領域が雑音に起因する誤差を示している。
【0036】
この傾向は、特に低エネルギの測定時に顕著であり、放射線の入射に起因する成分(真の信号成分)が雑音に埋もれる場合も生じ得る。
【0037】
<比較例2>
図5は、比較例2に係る放射線検出器300の構成を示すブロック図である。放射線検出器300は、フォトンカウンティング方式を採用する。フォトンカウンティング方式の放射線検出器300は、電荷生成器301から出力される信号から雑音を取り除くことにより、バックグランドノイズがないイメージングを可能にする。
【0038】
放射線検出器300は、電荷生成器301と、光子計数器302と、カウンタ303と、転送用メモリ304と、を有する。電荷生成器301及び転送用メモリ304は、実施形態のものと同様であるので、詳細な説明を省略する。
【0039】
光子計数器302は、電荷生成器301から出力された電荷を受ける。そして、光子計数器302は、受けた出力を放射線の入射に起因する信号成分と、雑音と、に弁別する。
図5(b)は、電荷生成器301の出力信号(グラフG5a)を示す。
図5(b)に示すように、光子計数器302は、閾値LLDよりも大きい信号成分(ピークP1、P2、P3、P4、P5)を放射線の入射に起因する信号成分として抽出する。
【0040】
カウンタ303は、光子計数器302の出力を利用して、抽出された信号成分の数を数える。例えば、
図5(b)に示す例では、光子計数器302がピークP1、P2、P3、P4、P5を信号成分として抽出する。そして、カウンタ303は、ピークP1、P2、P3、P4、P5の数として、「5」を転送用メモリ304に出力する。
【0041】
放射線検出器300は、光子計数器302及びカウンタ303の処理によって、放射線の入射に起因する真の信号成分と雑音とを弁別する。従って、比較例1の放射線検出器200のように、雑音を積算することがない。その結果、いわゆるバックグラウンドノイズがないイメージングが可能となる。
【0042】
ここで、入射する放射線のタイミングについて論ずる。放射線を粒子として捉えたとき、線量が大きい場合とは、単位時間あたりに電荷生成器301に入射する粒子の数が増加し、粒子の入射間隔が短くなる。個々の粒子を区別できないほど粒子の入射間隔が短くなったときに、読出回路8で粒子の数え落としが発生する。このような計数の不確かさを生じる現象は、パイルアップと呼ばれる。
例えば、ピークP2に示すように大きさが「4」であったとき、当該ピークP2は、「4」というエネルギを持った1個の粒子が入射したのか、または、「1」というエネルギを持った4個の粒子がほぼ同時に入射したのか、を区別できない。入射した粒子の数を数える観点からすれば、ピークP2は1個の粒子の入射であると判断される。しかし、実際の現象としては、「1」というエネルギを持った4個の粒子がほぼ同時に入射した場合であったとすれば、3個の粒子の数え落としが生じる。
【0043】
パイルアップは、特に、放射線の線量が大きい場合に生じやすい。パイルアップが頻繁に生じると、放射線検出器300の出力が飽和する傾向にある。また、パイルアップによれば、放射線のエネルギと数えられた粒子の数との線形性が劣化してしまう。
【0044】
第1実施形態の放射線検出器1は、電荷蓄積方式の利点と、フォトンカウンティング方式の利点と、を併せ持つ。放射線検出器1によれば、電荷蓄積方式の処理を基本とし、フォトンカウンティング方式の利点を併せ持つ画像センサを実現できる。放射線検出器1は、パイルアップの影響を受けない電荷蓄積方式の作用を奏する。さらに、放射線検出器1は、ノイズレスというフォトンカウンティング方式の作用も奏する。これらの作用により、放射線検出器1は、バックグラウンドノイズがないイメージングを行いつつ、エネルギ積分を行うことで、放射線のエネルギに対する線形性を大幅に改善することができる。
【0045】
具体的には、信号変換器10は、前置増幅器9から出力されたアナログ信号をデジタル信号に変換する。その次に、エネルギ弁別器12は、デジタル信号に含まれる放射線の入射に基づく信号成分と雑音に基づく信号成分とを弁別する。この弁別動作により、フォトンカウンティング方式の放射線検出器が有する利点を奏することができる。さらに、エネルギ積分器13は、雑音が除去されている積分対象成分を積分する。換言すると、スペクトル測定の後に、雑音除去機能を奏するエネルギ積分動作を行う。この積分動作により、放射線のエネルギを評価できる情報(エネルギ積分信号φ2)を得ることができる。つまり、パイルアップに起因する情報の取りこぼしが生じない。従って、放射線検出器1は、検出した放射線のエネルギに関する情報を失うことなく雑音を低減することができる。
【0046】
放射線検出器1の動作は、
図6(a)に示す重み関数F1によって表現することもできる。重み関数F1は、放射線のエネルギがゼロから閾値LLDまでである場合に、重み係数としてゼロを定義する(部分F1a)。重み関数F1は、放射線のエネルギが閾値LLD以上である場合に、放射線のエネルギに応じた重み係数を定義する(部分F1b)。具体的には、部分F1bにおける重み係数は、放射線のエネルギに比例する。重み関数F1における部分F1bの始点は、閾値LLDである。この重み関数F1はエネルギ積分動作の一例である。このような重み関数F1は、2つの重み関数F2、F3の組み合わせによって実現される。
【0047】
図6(b)に示す重み関数F2は、放射線のエネルギがゼロから閾値LLDまでである場合に、重み係数としてゼロを定義する(部分F2a)。部分F2aは、後述する部分F3aと協働して部分F1aを構成する。そして、放射線のエネルギが閾値LLD以上である場合に、重み係数は、放射線のエネルギに比例する(部分F2b)。部分F2bは、後述する部分F3bと協働して部分F1bを構成する。重み関数F2の部分F2bの始点は、ゼロである。この重み関数F2は、エネルギ積分の動作に対応する。
図6(c)に示す重み関数F3は、放射線のエネルギがゼロから閾値LLDまでである場合に、重み係数としてゼロを定義する(部分F3a)。部分F3aは、部分F2aと協働して部分F1aを構成する。そして、放射線のエネルギが閾値LLD以上である場合に、重み係数は、エネルギによらず一定である(部分F3b)。部分F3bは、部分F2bと協働して部分F1bを構成する。この重み関数F3は、放射線のエネルギによらず、一定の重み係数を作用する。つまり、フォトンカウンティングの動作に対応する。
【0048】
スペクトル測定動作を行う信号変換器10及びエネルギ弁別器12の出力は、データ容量が比較的大きい。しかし、エネルギ積分器13の積分動作によって、データ量が圧縮される。その結果、データを外部へ転送するときには、外部へ転送可能な程度にデータ容量が圧縮される。さらに、高分解能のフルスペクトル測定回路が出力するデータ容量よりも、データ容量が圧縮される。従って、転送用メモリ14の容量を縮小できる。
【0049】
<第2実施形態>
第1実施形態の放射線検出器1は、メモリ11にヒストグラムとして表現したデータを保存していた。このようなデータ形式では、広大なメモリ空間が必要である。従って、物理的なメモリ11の寸法も大きくなる傾向にある。さらに、第1実施形態の放射線検出器1におけるエネルギ積分器13が行う積分動作も比較的複雑である。従って、物理的なエネルギ積分器13の寸法も大きくなる傾向にある。そこで、第2実施形態の放射線検出器1Aは、小型化を実現する。
【0050】
図7は、放射線画像センサ100Aを構成する放射線検出器1Aの構成を示す。放射線検出器1Aは、電荷生成器7と、前置増幅器9と、信号変換器10と、エネルギ弁別器12と、エネルギ積分器15と、を有する。第2実施形態の放射線検出器1Aは、第1実施形態の放射線検出器1に対して第1~第3の相違点を有する。第1の相違点として、放射線検出器1Aは、電荷生成器7に放射線が入射されるたびに、信号変換器10、エネルギ弁別器12及びエネルギ積分器1
5が動作する。第2の相違点として、エネルギ積分器1
5の動作が、第1実施形態のエネルギ積分器13の動作と異なる。さらに、第3の相違点として、放射線検出器1Aは、信号変換器10の出力がエネルギ弁別器12に直接に提供される。つまり、放射線検出器1Aは、信号変換器10とエネルギ弁別器12との間にメモリ11を有しない。なお、電荷生成器7、前置増幅器9及び信号変換器10は、第1実施形態の電荷生成器7及び信号変換器10と同様であるので詳細な説明は省略する。
【0051】
エネルギ積分器15は、加算器15aと、メモリ15bと、を有する。エネルギ積分器15の入力は、加算器15aの第1入力に接続されている。加算器15aの第2入力には、メモリ15bの出力が接続されている。加算器15aの出力は、メモリ15bの入力に接続されている。メモリ15bの出力は、エネルギ積分器15の出力と、加算器15aの第2入力と、に接続されている。
【0052】
<動作>
次に、放射線検出器1Aの動作について説明する。電荷生成器7に放射線が入射すると、電荷生成器7は、電荷φ1を前置増幅器9に出力する。電荷φ1を受けた前置増幅器9は電荷φ1に応じたアナログ信号を信号変換器10に出力する。アナログ信号を受けた信号変換器10は、アナログ信号をデジタル信号に変換したのちに、デジタル信号をエネルギ弁別器12に出力する。そして、デジタル信号を受けたエネルギ弁別器12は、弁別動作を行うことにより、積分対象成分φ3をエネルギ積分器15に出力する。次に、エネルギ積分器15は、加算器15aの第1入力に積分対象成分φ3を入力する。さらに、エネルギ積分器15は、加算器15aの第2入力にメモリ15bに保存されている中間積分値φ4を入力する。そして、加算器15aは、中間積分値φ4に積分対象成分φ3を加算する(φ3+φ4)。加算によって得た値を、新たな中間積分値φ4として、メモリ15bに保存する。そして、メモリ15bは、所定期間が経過するたびに、制御部3から制御信号θを受ける。メモリ15bは、制御信号θに応じて中間積分値φ4をエネルギ積分信号φ2として処理部2に出力する。
【0053】
第2実施形態の放射線検出器1Aは、放射線が入射されるたびに、積分動作を行う。つまり、エネルギ積分器15の前に、複数の情報を保存するメモリ11を必要としない。従って、第1実施形態のメモリ11を省略することができる。また、第2実施形態の放射線検出器1Aは、積分動作の結果を一つの数値(中間積分値φ4)としてメモリ15bに保存する。つまり、メモリ15bは、第1実施形態のメモリ11のように、広大なメモリ空間を必要としない。従って、メモリ15bの物理的な寸法を縮小することが可能である。さらに、第2実施委形態のエネルギ積分器15は、単純な加算演算のみを加算器15aが行う。つまり、第1実施形態のように、階級と度数との積を得る動作と、乗算演算の結果の総和を得る動作と、を必要としない。換言すると、積分演算を単純化できる。従って、エネルギ積分器15の物理的な寸法を縮小することができる。
【0054】
<第3実施形態>
第3実施形態の放射線検出器1Bは、第2実施形態の放射線検出器1Aからさらなる小型化を実現する。
【0055】
図8は、放射線画像センサ100Bを構成する第3実施形態の放射線検出器1Bの構成を示す。放射線検出器1Bは、電荷生成器7と、前置増幅器9と、信号変換器10Bと、エネルギ弁別器12Bと、エネルギ積分器16と、エネルギ補正器17(エネルギ補正部)と、を有する。第3実施形態の放射線検出器1Bは、第2実施形態の放射線検出器1Aに対して4個の相違点を有する。第1の相違点は、信号変換器10Bの動作である。第2の相違点は、エネルギ弁別器12Bの動作である。第3の相違点は、エネルギ積分器16の動作である。第4の相違点は、エネルギ補正器17を有する点である。
【0056】
信号変換器10Bは、デジタル信号として、パルス信号を生成する。信号変換器10Bは、デジタル信号の大きさに対応する複数のパルス波を出力する。例えば、信号変換器10Bは、デジタル信号が大きくなるほど、多くのパルス波を出力する。つまり、信号変換器10Bは、いわゆるパルス幅変調器(PWM)である。
【0057】
エネルギ弁別器12Bは、信号変換器10Bから入力されるパルス信号に対して弁別処理を行う。パルス信号が含むパルス波の数は、デジタル信号の大きさに対応することをすでに述べた。そうすると、パルス波の数が1個や2個のように少ない場合には、これらは雑音である可能性が高い。そこで、エネルギ弁別器12Bは、パルス信号が第1~第Nのパルス波を含むとき、第1~第iのパルス波を雑音として除く。従って、雑音としてみなすパルス数(i)は、第3実施形態のエネルギ弁別器12でいう閾値LLDである。つまり、エネルギ弁別器12は、第i+1~第Nのパルス波を真の信号成分(積分対象成分)として、出力する。
【0058】
エネルギ積分器16は、カウンタ16aを含む。カウンタ16aは、エネルギ弁別器12からパルス波が入力されるたびに、カウント変数(k)を1ずつ加算する。つまり、カウンタ16aは、入力されたパルス波の数を逐次数える。例えば、ある放射線の入射に応じて、5個のパルス波がカウンタ16aに入射したとする。この場合に、カウンタ16aは、変数(k=5)を生成する。そして、次の放射線の入射に応じて、6個のパルス波がカウンタ16aに入射したとする。この場合に、カウンタ16aは、変数(k=5)から計数を開始し、変数(k=11)を生成する。つまり、エネルギ積分器13では、入力されたパルス波の数を逐次数える動作が、積分動作に対応する。つまり、エネルギ積分器16をカウンタ16aだけで実現することができる。カウンタ16aの回路は、加算器15aの回路よりも小型化が容易である。
【0059】
放射線検出器1Bは、エネルギ補正器17を備えることにより、カウンタ16aの出力に基づいて得られるエネルギ積分信号の精度をさら高めることができる。つまり、放射線検出器1Bは、エネルギ補正器17を必要に応じて備えることとしてよい。換言すると、放射線検出器1Bは、電荷生成器7と、前置増幅器9と、信号変換器10Bと、エネルギ弁別器12Bと、エネルギ積分器16と、によって構成してもよい。
【0060】
具体的には、カウンタ16aにおいて数えられるパルス波の数は、入射した放射線のエネルギに厳密に対応しない。なぜならば、エネルギ弁別器12において、第1~第iのパルス波が一律に削除されているからである。つまり、カウンタ16aが数えたパルス波の数が示す放射線のエネルギは、入射した放射線のエネルギより小さい。この動作は重み関数F2に対応する。エネルギ補正器17は、このエネルギの相違を補正する。
【0061】
エネルギ補正器17は、カウンタ17aと、アンプ17bと、加算器17cと、を有する。カウンタ17aの入力は、エネルギ弁別器12Bの出力に接続されている。アンプ17bの入力は、カウンタ17aの出力に接続されている。アンプ17bの出力は、加算器17cの第2入力に接続されている。加算器17cの第1入力には、カウンタ16aの出力が接続されている。加算器17cの出力は、処理部2に接続されている。
【0062】
なお、前置増幅器9、信号変換器10B、エネルギ弁別器12B及びカウンタ16a、17aは、読出回路8Bを構成してもよい。つまり、これらの構成要素は、電荷生成器7ごとに設けられる。従って、これらの構成要素は、放射線が入射するたびに動作する。そして、アンプ17b及び加算器17cは、読出回路8bとは別の回路として設けられてもよい。従って、これらの構成要素は、所定の期間が経過するたびに動作する。
【0063】
<動作例1(パイルアップなし)>
第1の例として、いわゆるパイルアップが生じていない場合の動作について説明する。
図9(a)に示すように、第1の入射E1と第2の入射E2が生じたとする。それぞれの入射のエネルギは、「5」であったとする。第2の入射E2は、第1の入射E1から十分に時間が経過した後に発生した。例えば、第1の実施形態における信号変換器10は、
図9(b)に示すようなデジタル信号を出力する。デジタル信号は、第1の入射E1に対応する成分D1と、第2の入射に対応する成分D2と、を含む。さらに、デジタル信号は、雑音に対応する成分N1、N2、N3を含むこともある。成分D1、D2に示されるように、第2の入射E2は、第1の入射E1から十分に時間が経過しているので、第2の入射E2に対応する成分D2は、第1の入射E1に対応する成分D1と区別できる。つまり、
図9(b)に示されるデジタル信号によれば、放射線の入射が2回生じていることがわかる。従って、パイルアップが生じていない。
【0064】
図9(c)は、第3実施形態の信号変換器10Bが出力するデジタル信号であるパルス信号Pを示す。パルス信号Pは、パルス成分DP1、DP2、NP1、NP2、NP3を含む。そして、このパルス信号Pがエネルギ弁別器12Bに入力される。その結果、エネルギ弁別器12Bは、
図9(d)に示すパルス信号PSを出力する。エネルギ弁別器12Bは、閾値LLDとしてパルス数(i=2)を規定する。そうすると、エネルギ弁別器12Bは、パルス成分DP1、DP2、NP1、NP2、NP3のそれぞれにおいて、第1のパルス波及び第2のパルス波を削除する。そうすると、雑音であるパルス成分NP1、NP2、NP3は、削除される。そして、真の信号成分であるパルス成分DP1、DP2は、それぞれ、3つのパルス波を含む。つまり、エネルギ弁別器12Bが出力するパルス信号PSは、2つのパルス成分DP1、DP2を含むことから、2回の放射線の入射があったことを示す。さらに、パルス成分DP1、DP2は、それぞれ3つのパルス波を含む。従って、パルス波の数から、入射した放射線のエネルギを得ることができる。
【0065】
パルス信号PSのうち第1のパルス成分DP1がエネルギ積分器16に入力されると、エネルギ積分器16のカウンタ16aは、変数(k=3)を得る。一方、第1のパルス成分DP1がエネルギ積分器16に入力される動作と並行して、第1のパルス成分DP1がカウンタ17aにも入力される。カウンタ17aは、1回のパルス成分DP1の入力があったことを変数(j=1)として得る。
【0066】
続いて、パルス信号PSのうち第2のパルス成分DP2がエネルギ積分器16に入力されると、エネルギ積分器16のカウンタ16aは、変数(k=6=3+3)を得る。一方、第2のパルス成分DP2がエネルギ積分器13に入力される動作と並行して、第2のパルス成分DP2がカウンタ17aにも入力される。カウンタ17aは、2回目のパルス成分DP2の入力があったことを変数(j=2=1+1)として得る。
【0067】
次に、所定の期間が経過したため、制御部3から読み出しのための制御信号θがカウンタ16a、17aに出力される。カウンタ16aは、変数(k=6)を加算器17cに出力する。カウンタ17aは、変数(j=2)をアンプ17bに出力する。アンプ17bは、変数(j=2)に閾値LLDであるパルス数(i=2)を乗算する。その結果、アンプ17bは、増幅された変数(s=4)を加算器17cに出力する。加算器17cは、変数(k=6)と変数(s=4)とを足し合わせる。その結果、演算値(10)が得られる。演算値(10)は、2回の放射線の入射におけるエネルギ積分値に対応する。なぜならば、入射した放射線のエネルギは、1回目が「5」であり、2回目も「5」であったからである。つまり、放射線検出器1は、前置増幅器9の出力に雑音が存在する場合でも、放射線のエネルギに相当する、エネルギ積分信号φ2として「10」を得ることができる。
【0068】
なお、放射線検出器がエネルギ弁別器12を備えない場合には、エネルギ積分器16のカウンタ16aは、
図9(c)に示すパルス信号Pが含む全てのパルス波の数を数える。つまり、カウンタ16aは、積分値として変数(k=15)を得る。雑音に起因するパルス成分NP1、NP2、NP3も積分されてしまうので、真の値「10」よりも大きい「15」が出力されてしまう。
【0069】
<動作例2(パイルアップあり)>
第2の例として、いわゆるパイルアップが生じる場合の動作について説明する。
図10(a)に示すように、第1の入射E1と第2の入射E2が生じたとする。それぞれの入射のエネルギは、「5」であったとする。第2の入射E2は、第1の入射E1から十分に時間が経過していないタイミングで発生した。例えば、第1の実施形態における信号変換器10Bは、
図10(b)に示すようなデジタル信号を出力する。デジタル信号は、第1の入射E1に対応する成分D1と、第2の入射に対応する成分D2と、を含む。しかし、第2の入射E2に対応する成分D2は、第1の入射E1に対応する成分D2と一体となり、成分DAを構成する。つまり、
図10(b)に示されるデジタル信号によれば、放射線の入射が1回であったと判断されてしまう。従って、実際に放射線が入射した回数(2回)が正しくカウントされない。つまり、パイルアップが生じている。しかし、第3実施形態の放射線検出器1Bは、このような場合であっても、エネルギ積分値として「10」を得ることができる。
【0070】
第3実施形態の信号変換器10Bは、第1の入射E1及び第2の入射E2の結果として、
図10(c)に示すパルス信号Pを出力する。パルス信号Pは、ひとつのパルス成分DPを含む。パルス成分DPは、第1~第10のパルス波を含む。
【0071】
このようなパルス信号Pを受けたエネルギ弁別器12Bは、閾値LLDであるパルス数(i=2)に基づき、第1及び第2のパルス波を削除する。その結果、エネルギ弁別器12Bは、第3~第10のパルス波をパルス信号PSとして出力する。
【0072】
パルス信号PSがエネルギ積分器16に入力されると、エネルギ積分器16のカウンタ16aは、変数(k=8)を得る。一方、パルス信号PSがエネルギ積分器16に入力される動作と並行して、パルス信号PSがカウンタ17aにも入力される。カウンタ17aは、1回のパルス成分Dpの入力があったことを変数(j=1)として得る。
【0073】
次に、所定の期間が経過したため、制御部3から制御信号θがカウンタ16a、17aに出力される。カウンタ16aは、変数(k=8)を加算器17cに出力する。カウンタ17aは、変数(j=1)をアンプ17bに出力する。アンプ17bは、変数(j=1)に閾値LLDであるパルス数(i=2)を乗算する。その結果、アンプ17bは、増幅された変数(s=2)を加算器17cに出力する。加算器17cは、変数(k=8)と変数(s=2)とを足し合わせる。その結果、エネルギ積分値に対応する演算値(10)が得られる。
【0074】
本開示の放射線検出器は、前述した実施形態に限定されない。本開示の放射線検出器は、請求項の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0075】
実施形態の放射線検出器1は、電荷生成器7と読出回路8とが積層されていた。例えば、
図11に示すように、放射線画像センサ100Cは、変形例1の放射線検出器1Cを備えてもよい。放射線検出器1Cは、電荷生成器7と読出回路8とを有する。これらの個々の構成は、放射線検出器1の電荷生成器7と読出回路8と同様である。一方、放射線検出器1Cでは、電荷生成器7と読出回路8とは積層されておらず、電荷生成器7及び読出回路8は、基板101の主面に並設されている。このような構成を有する放射線検出器1Cであっても、実施形態の放射線検出器1と同様の効果を奏することができる。
【0076】
また、実施形態の放射線検出器1は、1個の電荷生成器7と、1個の読出回路8とを有していた。例えば、
図12及び
図13に示すように、放射線画像センサ100Dは、変形例2の放射線検出器1Dを備えてもよい。放射線検出器1Dは、1個の電荷生成器7Dと、複数の読出回路8と、を有する。電荷生成器7Dの裏面には、複数の読出回路8が電気的に接続されている。電荷生成器7Dは、物理的には分離していない。電荷生成器7Dは、読出回路8との電気的な接続によって、電気的に分離されている。このような構成を有する放射線検出器1Dであっても、実施形態の放射線検出器1と同様の効果を奏することができる。
【0077】
また、
図3に示す回路構成は、付加的な回路をさらに備えてもよい。
図14は、電荷生成器7、前置増幅器9、信号変換器10を含む具体的な回路構成の変形例である。変形例には、付加的な回路として電荷注入回路31が追加されている。
図14に示す構成においては、電荷生成器7の第1の端子7aにバイアス電圧が印加される。電荷生成器7の第2の端子7bが前置増幅器9の入力に接続される。また、前置増幅器9は、差動増幅器22とキャパシタ21によって構成されている。差動増幅器22の非反転入力22cは、接地電位に接続されている。差動増幅器22の反転入力22bは電荷生成器7に接続されている。差動増幅器22の出力と反転入力の間には、キャパシタ21が接続されている。このような構成によって、電荷生成器7から入力された電荷がキャパシタ21に蓄積され、その電荷の量に対応する電圧信号が差動増幅器22の出力に生成される。
【0078】
電荷注入回路31は、スイッチトキャパシタ回路である。電荷注入回路31は、直流電源31a、キャパシタ31b、及びスイッチ素子31c,31d,31e,31fを含む。このような構成の電荷注入回路31は、信号変換器10からの比較信号ENと、信号変換器10による周期的な比較動作に同期したクロック信号CLOCKとを受ける。電荷注入回路31は、クロック信号CLOCKに同期したタイミングにおいて比較信号ENがハイレベルを示すときに、キャパシタ31bに予め蓄積させておいた直流電源31aの電圧に対応した電荷量の電荷を、前置増幅器9のキャパシタ21に供給する。このとき、キャパシタ31bからキャパシタ21に供給される電荷は、電荷生成器7からキャパシタ21に供給される電荷の極性に対して逆の極性の電荷となるように直流電源31aの極性が設定される。具体的には、直流電源31aの一端が接地電位に接続される。直流電源31aの他端がスイッチ素子31cを介してキャパシタ31bの一端に接続される。キャパシタ31bの他端がスイッチ素子31fを介してキャパシタ21の電荷生成器7側の端子に接続される。さらに、キャパシタ31bの両端は、それぞれ、スイッチ素子31d,31eを介して接地電位に接続される。上記構成の電荷注入回路31においては、スイッチ素子31c及びスイッチ素子31eが閉じられると共に、スイッチ素子31d,31fが開かれる。その結果、予めキャパシタ31bに電荷が蓄積される。その後、クロック信号CLOCKに同期したタイミングにおいて、比較信号ENがハイレベルを示す場合に、スイッチ素子31c及びスイッチ素子31eが開かれると共に、スイッチ素子31d,31fが閉じられる。その結果、キャパシタ31bに蓄積された電荷は、キャパシタ21に供給される。
【0079】
また、上記の放射線検出器では前置増幅器9及び信号変換器10は、互いに別の構成要素として説明した。前置増幅器9及び信号変換器10は、増幅と信号変換との機能を発揮する一体の構成要素としてもよい。つまり、前置増幅器9及び信号変換器10は、相互に作用して一体となった構成でも良い。さらに、上記の放射線検出器において、前置増幅器9は増幅機能を奏するものとして説明した。前置増幅器9は、電荷生成器7が出力する信号(電荷)を、信号変換器10が処理可能な信号(例えば、電圧)に変換できればよい。つまり、前置増幅器9は、必ずしも信号の増幅機能を発揮しなくてもよい。
【符号の説明】
【0080】
1,1A,1B,1C,1D…放射線検出器、2…処理部、3…制御部、4…読出線、6…制御信号線、7…電荷生成器、8…読出回路、9…前置増幅器、10…信号変換器、12…エネルギ弁別器、13,15,16…エネルギ積分器、14…転送用メモリ、100,100A,100B,100C,100D…放射線画像センサ。