(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】半導体チップの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20240424BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20240424BHJP
B23K 26/57 20140101ALI20240424BHJP
B23K 26/53 20140101ALI20240424BHJP
【FI】
H01L21/78 Q
H01L21/78 V
H01L21/78 B
H01L21/78 F
H01L21/78 Y
H01L21/78 X
H01L21/304 611Z
B23K26/57
B23K26/53
(21)【出願番号】P 2020073157
(22)【出願日】2020-04-15
【審査請求日】2023-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長屋 正武
(72)【発明者】
【氏名】原 一都
(72)【発明者】
【氏名】河口 大祐
(72)【発明者】
【氏名】油井 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】笹岡 千秋
(72)【発明者】
【氏名】小島 淳
(72)【発明者】
【氏名】恩田 正一
【審査官】杢 哲次
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-332681(JP,A)
【文献】特開2007-173465(JP,A)
【文献】特開2010-87093(JP,A)
【文献】特開2011-198992(JP,A)
【文献】特開平9-148331(JP,A)
【文献】特開2008-294379(JP,A)
【文献】特開2008-252069(JP,A)
【文献】特開2015-153826(JP,A)
【文献】特開2014-103397(JP,A)
【文献】特開2020-35829(JP,A)
【文献】特開2011-96928(JP,A)
【文献】特表2012-504875(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
H01L 21/304
B23K 26/57
B23K 26/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子が形成された半導体チップの製造方法であって、
窒化ガリウムで構成され、一面(1a)および他面(1b)を有する窒化ガリウムウェハ(1)を用意することと、
前記窒化ガリウムウェハの一面上にエピタキシャル膜(3)を形成することにより、前記エピタキシャル膜側の面を一面(10a)とすると共に前記窒化ガリウムウェハ側の面を他面(10b)とし、前記一面側に複数のチップ形成領域(RA)を有する加工ウェハ(10)を構成することと、
前記複数のチップ形成領域に対し、前記半導体素子の一面側素子構成部分(11)を形成することと、
前記加工ウェハの一面側に保持部材(20)を配置することと、
前記チップ形成領域を分割する、または分割するための分割構造(14、16)を形成することと、
前記分割構造を形成した後、前記加工ウェハの他面側から当該加工ウェハの内部にレーザ光(L)を照射することにより、前記加工ウェハの面方向に沿って、窒素がガリウムから分離されつつ前記分割構造から放出されたウェハ用変質層(15)を形成することと、
前記ウェハ用変質層を境界として前記加工ウェハを分割することにより、前記加工ウェハを、前記加工ウェハの一面側のチップ構成ウェハ(30)と、前記加工ウェハの他面側のリサイクルウェハ(40)とに分割することと、
前記チップ構成ウェハにおける前記リサイクルウェハと分割された側の他面(30b)に、前記半導体素子の他面側素子構成部分(60)を形成することと、
前記チップ構成ウェハから半導体チップ(100)を取り出すことと、
前記リサイクルウェハを再び前記窒化ガリウムウェハとして利用することと、を行
い、
前記分割構造を形成することでは、前記加工ウェハの他面側からレーザ光を照射することにより、前記チップ形成領域の外縁に、窒素をガリウムから分離させたチップ用変質層(14)を形成し、
前記半導体チップを取り出すことの前に、前記保持部材をエキスパンドすることにより、前記チップ用変質層を境界として前記チップ形成領域を分割することを行う半導体チップの製造方法。
【請求項2】
前記分割構造を形成すること、および前記ウェハ用変質層を形成することでは、前記分割構造と前記ウェハ用変質層とが交差するように、前記分割構造および前記ウェハ用変質層を形成する請求項
1に記載の半導体チップの製造方法。
【請求項3】
前記一面側素子構成部分を形成することの後、それぞれの前記チップ形成領域に対して特性検査を行うことを行い、
前記半導体チップを取り出すことでは、前記特性検査で良品と判定されたものみを取り出す請求項1
または2に記載の半導体チップの製造方法。
【請求項4】
前記他面側素子構成部分を形成することでは、前記特性検査で良品と判定された前記チップ形成領域に対してのみ行う請求項
3に記載の半導体チップの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ガリウム(以下では、単にGaNともいう)を含むチップ構成基板に半導体素子が形成された半導体チップの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体ウェハにエピタキシャル膜を形成して加工ウェハを形成し、当該加工ウェハに半導体素子を形成した後にチップ単位に分割することで半導体チップを製造する製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。具体的には、この製造方法では、加工ウェハのうちのエピタキシャル膜側の面を一面とし、加工ウェハのうちの半導体ウェハ側の面を他面とすると、まず、加工ウェハの一面側に拡散層や表面電極等の半導体素子の一面側の部分を構成する一面側素子構成部分を形成する。次に、加工ウェハの他面側を研削して所定の厚さまで薄くし、加工ウェハの他面側に、裏面電極等の半導体素子の他面側の部分を構成する他面側素子構成部分を形成する。その後、加工ウェハをチップ単位に分割する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、本発明者らは、バンドギャップが広く、電子の飽和速度が大きい等の利点を有するGaNを含むチップ構成基板を用いた半導体チップについて検討している。そして、このような半導体チップを上記製造方法を利用して製造する場合、以下のようになる。
【0005】
すなわち、半導体ウェハとしてGaNウェハを用意し、GaNウェハ上にGaNで構成されるエピタキシャル膜を成長させて加工ウェハを構成する。そして、加工ウェハに一面側素子構成部分を形成した後、加工ウェハの他面から研削する。その後、他面側素子部分を形成し、加工ウェハをチップ単位に分割する。
【0006】
しかしながら、この製造方法では、加工ウェハを他面から研削する。つまり、GaNウェハを研削する。このため、半導体チップを製造する毎にGaNウェハを用意する必要があり、生産性が低くなる可能性がある。
【0007】
本発明は上記点に鑑み、生産性の向上を図ることができる半導体チップの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための請求項1では、半導体素子が形成された半導体チップの製造方法であって、GaNで構成され、一面(1a)および他面(1b)を有するGaNウェハ(1)を用意することと、GaNウェハの一面上にエピタキシャル膜(3)を形成することにより、エピタキシャル膜側の面を一面(10a)とすると共にGaNウェハ側の面を他面(10b)とし、一面側に複数のチップ形成領域(RA)を有する加工ウェハ(10)を構成することと、複数のチップ形成領域に対し、半導体素子の一面側素子構成部分(11)を形成することと、加工ウェハの一面側に保持部材(20)を配置することと、チップ形成領域を分割する、または分割するための分割構造(14、16)を形成することと、分割構造を形成した後、加工ウェハの他面側から当該加工ウェハの内部にレーザ光(L)を照射することにより、加工ウェハの面方向に沿って、窒素がガリウムから分離されつつ分割構造から放出されたウェハ用変質層(15)を形成することと、ウェハ用変質層を境界として加工ウェハを分割することにより、加工ウェハを、加工ウェハの一面側のチップ構成ウェハ(30)と、加工ウェハの他面側のリサイクルウェハ(40)とに分割することと、チップ構成ウェハにおけるリサイクルウェハと分割された側の他面(30b)に、半導体素子の他面側素子構成部分(60)を形成することと、チップ構成ウェハから半導体チップ(100)を取り出すことと、リサイクルウェハを再びGaNウェハとして利用することと、を行い、前記分割構造を形成することでは、前記加工ウェハの他面側からレーザ光を照射することにより、前記チップ形成領域の外縁に、窒素をガリウムから分離させたチップ用変質層(14)を形成し、前記半導体チップを取り出すことの前に、前記保持部材をエキスパンドすることにより、前記チップ用変質層を境界として前記チップ形成領域を分割することを行う。
【0009】
これによれば、加工ウェハをチップ構成ウェハとリサイクルウェハとに分割し、リサイクルウェハを再びGaNウェハとして利用する。このため、半導体チップを製造する度にGaNウェハを新たに用意する必要がなく、GaNウェハを有効利用できる。したがって、半導体チップの生産性の向上を図ることができる。
【0010】
また、ウェハ用変質層を形成する際には、分割構造から窒素が放出されるようにしている。このため、ウェハ用変質層を形成する際に各チップ形成領域に発生する歪みを小さくでき、半導体チップに不具合が発生することを抑制できる。
【0013】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1A】第1実施形態における半導体チップの製造工程を示す断面図である。
【
図1B】
図1Aに続く半導体チップの製造工程を示す断面図である。
【
図1C】
図1Bに続く半導体チップの製造工程を示す断面図である。
【
図1D】
図1Cに続く半導体チップの製造工程を示す断面図である。
【
図1E】
図1Dに続く半導体チップの製造工程を示す断面図である。
【
図1F】
図1Eに続く半導体チップの製造工程を示す断面図である。
【
図1G】
図1Fに続く半導体チップの製造工程を示す断面図である。
【
図1H】
図1Gに続く半導体チップの製造工程を示す断面図である。
【
図1I】
図1Hに続く半導体チップの製造工程を示す断面図である。
【
図1J】
図1Gに続く半導体チップの製造工程を示す断面図である。
【
図3A】チップ用変質層を形成せずにウェハ用変質層を形成した場合の模式図である。
【
図3B】チップ用変質層を形成した後にウェハ用変質層を形成した場合の模式図である。
【
図4】第2実施形態における不良品となるチップ形成領域を示す加工ウェハの模式図である。
【
図5】第3実施形態における半導体チップの製造工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0016】
(第1実施形態)
第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。以下では、GaNを含むチップ構成基板110に半導体素子が形成された半導体チップ100の製造方法について説明する。
【0017】
まず、
図1Aに示されるように、一面1aおよび他面1bを有し、バルクウェハ状とされているGaNウェハ1を用意する。例えば、GaNウェハ1は、シリコン、酸素、ゲルマニウム等がドーパントされ、不純物濃度が5×10
17~5×10
19cm
-3とされたものが用いられる。GaNウェハ1の厚みについては任意であるが、例えば400μm程度のものを用意している。なお、本実施形態のGaNウェハ1は、一面1aがGa面とされ、他面1bがN面とされている。また、このGaNウェハ1は、下記半導体チップ100の製造工程を行った後では、後述する
図1Jのリサイクルウェハ40を再利用することで用意される。そして、必要に応じ、GaNウェハ1の他面1b等に、酸化膜等で構成される保護膜を形成してもよい。
【0018】
次に、
図1Bに示されるように、GaNウェハ1の一面1a上に、10~60μm程度のGaNで構成されるエピタキシャル膜3を形成することにより、複数のチップ形成領域RAを有する加工ウェハ10を用意する。本実施形態では、エピタキシャル膜3は、n
+型エピタキシャル層3aと、n
-型エピタキシャル層3bとがGaNウェハ1側から順に成膜されて構成される。例えば、n
+型エピタキシャル層3aは、シリコン、酸素、ゲルマニウム等がドーパントされ、不純物濃度が5×10
17~1×10
18cm
-3程度とされる。n
-型エピタキシャル層3bは、シリコン等がドーパントされ、不純物濃度が1×10
17~4×10
17cm
-3程度とされる。
【0019】
なお、n-型エピタキシャル層3bは、後述する拡散層12等の一面側素子構成部分11が形成される部分であり、例えば、厚さが8~10μm程度とされる。n+型エピタキシャル層3aは、後述する半導体チップ100の厚さを確保するための部分であり、例えば、厚さが40~50μm程度とされる。なお、n+型エピタキシャル層3aとn-型エピタキシャル層3bとの厚みの大小については任意であるが、ここでは半導体チップ100の厚みを確保できるようにn+型エピタキシャル層3aをn-型エピタキシャル層3bよりも厚くしてある。以下では、加工ウェハ10のうちのエピタキシャル膜3側の面を加工ウェハ10の一面10aとし、加工ウェハ10のうちのGaNウェハ1側の面を加工ウェハ10の他面10bとする。そして、各チップ形成領域RAは、加工ウェハ10の一面10a側に構成される。
【0020】
次に、
図1Cに示されるように、一般的な半導体製造プロセスを行い、各チップ形成領域RAに、拡散層12やゲート電極13、図示しない表面電極、配線パターン、パッシベーション膜等の半導体素子における一面側素子構成部分11を形成する工程を行う。なお、ここでの半導体素子は、種々の構成のものが採用され、例えば、高電子移動度トランジスタ(HEMT:High Electron Mobility Transistorの略)等のパワーデバイスや、発光ダイオード等の光半導体素子が採用される。その後、必要に応じ、加工ウェハ10の一面10a側に、レジスト等で構成される表面保護膜を形成する。
【0021】
続いて、
図1Dに示されるように、加工ウェハ10の一面10a側に保持部材20を配置する。保持部材20は、例えば、基材21と粘着剤22とを有するダイシングテープ等が用いられる。基材21は、製造工程中に反り難い材料で構成され、例えば、ガラス、シリコン基板、セラミックス等で構成される。粘着剤22は、粘着力を変化させることができる材料で構成され、例えば、温度や光によって粘着力が変化するものが用いられる。この場合、粘着剤22は、例えば、紫外線硬化樹脂、ワックス、両面テープ等で構成される。但し、粘着剤22は、後述する
図1Hの他面側素子構成部分60を形成する際にも粘着力を維持する材料で構成される。
【0022】
次に、
図1Eに示されるように、加工ウェハ10の他面10bからレーザ光Lを照射し、各チップ形成領域RAの境界を含む外縁にチップ用変質層14を形成する。なお、本実施形態では、
図2に示されるように、各チップ形成領域RAは、矩形状とされている。また、本実施形態では、チップ用変質層14が分解構造に相当する。
【0023】
具体的には、レーザ光Lを発振するレーザ光源、レーザ光の光軸(すなわち、光路)の向きを変えるように配置されたダイクロイックミラー、およびレーザ光を集光するための集光用レンズ(すなわち、集光光学系)、変位可能なステージ等を有するレーザ装置を用意する。そして、チップ用変質層14を形成する際には、加工ウェハ10をステージに載置し、レーザ光Lの集光点が各チップ形成領域RAの外縁に沿って相対的に走査されるように、ステージ等の位置を調整する。
【0024】
これにより、各チップ形成領域RAの外縁には、熱エネルギーによってガリウムと窒素とが分解されたチップ用変質層14が形成される。より詳しくは、レーザ光Lを照射することにより、窒素がガスとして蒸発すると共にガリウムが析出されたチップ用変質層14が形成される。なお、チップ用変質層14は、窒素が分離されることにより、微小な空孔が構成された状態となっている。また、チップ用変質層14は、各チップ形成領域RAの境界においては、隣合うチップ形成領域RAで共用とされる。つまり、チップ形成領域RAが隣接している部分では、チップ用変質層14は、チップ形成領域RAの境界に沿って形成される。
【0025】
また、本実施形態では、チップ用変質層14を形成する際には、ステージ等を適宜移動させ、各チップ形成領域RAの外縁において、加工ウェハ10の厚さ方向の異なる二箇所所以上の複数箇所に集光点が移動するようにレーザ光Lを照射する。この場合、加工ウェハ10の厚さ方向の異なる箇所にチップ用変質層14が形成されるが、各チップ用変質層14は、互いに離れていてもよいし、繋がっていてもよい。また、加工ウェハ10の厚さ方向の異なる二箇所以上の複数個所に集光点を移動させる場合には、加工ウェハ10の一面10a側から他面10b側に向かって集光点が移動される。
【0026】
なお、チップ用変質層14は、後述する
図1Fのウェハ用変質層15を形成する際、ウェハ用変質層15を形成することによって発生する窒素がチップ用変質層14の空孔を介して外部に放出できるように形成される。また、特に限定されるものではないが、本実施形態では、チップ用変質層14を形成する際には、レーザ光Lとして、固体レーザ光であって、波長が532nmのグリーンレーザが用いられる。そして、レーザ光Lは、加工点出力が2μJ、パルス幅が500ps、加工速度が500mm/sとされて照射される。但し、これらの条件は1例であり、本発明者らは、レーザ光Lの加工点出力がさらに低い場合やパルス幅がさらに短い場合等においても、適切にチップ用変質層14が形成されることを確認している。また、本発明者らは、レーザ光Lの加工点出力がさらに高い場合やパルス幅がさらに長い場合等においても、適切にチップ用変質層14が形成されることを確認している。
【0027】
続いて、
図1Fに示されるように、加工ウェハ10の他面10bからレーザ光Lを照射し、加工ウェハ10の一面10aから所定深さLとなる位置に、加工ウェハ10の面方向に沿ったウェハ用変質層15を形成する。本実施形態では、上記のチップ用変質層14を形成する際のレーザ装置を用いてウェハ用変質層15を形成する。
【0028】
そして、ウェハ用変質層15を形成する場合には、レーザ光Lの集光点が加工ウェハ10の面方向に沿って相対的に走査されるように、ステージ等の位置を調整する。これにより、加工ウェハ10には、面方向に沿ったウェハ用変質層15が形成される。なお、ウェハ用変質層15は、上記チップ用変質層14と同様に、窒素がガスとして蒸発すると共にガリウムが析出された構成とされる。
【0029】
この場合、本実施形態では、チップ用変質層14と交差する、またはチップ用変質層14の直下を通るようにウェハ用変質層15を形成する。これにより、本実施形態では、ウェハ用変質層15を形成する際に各チップ形成領域RAに大きな歪が印加されることを抑制できる。
【0030】
すなわち、チップ用変質層14を形成しない場合には、
図3Aに示されるように、ウェハ用変質層15を形成する際に発生した窒素が外部に放出され難いため、ウェハ用変質層15を形成したことによる加工ウェハ10の歪みが大きくなり易い。一方、本実施形態では、チップ用変質層14が形成されており、ウェハ用変質層15は、チップ用変質層14と交差する、またはチップ用変質層14の直下を通るように形成されている。このため、
図3Bに示されるように、ウェハ用変質層15を形成する際に発生する窒素は、チップ用変質層14の空孔を介して外部に放出され易くなる。したがって、ウェハ用変質層15を形成したことによる加工ウェハ10の歪が大きくなることを抑制でき、各チップ形成領域RAに印加される歪を小さくできる。
【0031】
なお、特に限定されるものではないが、本実施形態では、ウェハ用変質層15を形成する際には、レーザ光Lとして、固体レーザ光であって、波長が532nmのグリーンレーザが用いられる。そして、レーザ光Lは、加工点出力が0.1~0.3μJ、パルス幅が500ps、加工速度が50~500mm/sとされて照射される。但し、これらの条件は1例であり、本発明者らは、レーザ光の加工点出力がさらに低い場合やパルス幅等がさらに短い場合等においても、適切にウェハ用変質層15が形成されることを確認している。また、本発明者らは、レーザ光Lの加工点出力がさらに高い場合やパルス幅がさらに長い場合等においても、適切にウェハ用変質層15が形成されることを確認している。
【0032】
また、ウェハ用変質層15を形成する際の所定深さLは、半導体チップ100のハンドリングのし易さや耐圧等に応じて設定され、10~200μm程度とされる。この場合、ウェハ用変質層15は、エピタキシャル膜3の厚さに応じて形成される場所が変更され、エピタキシャル膜3の内部、エピタキシャル膜3とGaNウェハ1との境界、またはGaNウェハ1の内部のいずれかに形成される。なお、
図1Fでは、エピタキシャル膜3とGaNウェハ1との境界にウェハ用変質層15を形成する例を示している。
【0033】
但し、後述するように、加工ウェハ10におけるGaNウェハ1の少なくとも一部は、リサイクルウェハ40として再利用される。このため、ウェハ用変質層15は、エピタキシャル膜3の内部、またはエピタキシャル膜3とGaNウェハ1との境界に形成されることが好ましい。また、ウェハ用変質層15がGaNウェハ1の内部に形成される場合には、ウェハ用変質層15は、GaNウェハ1の一面1a側に形成されることが好ましい。
【0034】
なお、ウェハ用変質層15がエピタキシャル膜3の内部に形成される場合、ウェハ用変質層15は、半導体素子を構成するn-型エピタキシャル層3bではなく、n+型エピタキシャル層3aの内部に形成される。以下では、加工ウェハ10のうちのウェハ用変質層15より一面10a側の部分をチップ構成ウェハ30とし、加工ウェハ10のうちのウェハ用変質層15より他面10b側の部分をリサイクルウェハ40として説明する。
【0035】
次に、
図1Gに示されるように、加工ウェハ10の他面10b側に補助部材50を配置する。なお、補助部材50は、
図1Gでは簡略化して示しているが、例えば、保持部材20と同様に、基材と、粘着力を変化させることのできる粘着剤とで構成される。この場合、補助部材50における基材は、例えば、ガラス、シリコン基板、セラミックス等で構成され、補助部材50における粘着剤は、例えば、紫外線硬化樹脂、ワックス、両面テープ等で構成される。そして、保持部材20および補助部材50を把持して加工ウェハ10の厚さ方向に引張力等を印加し、ウェハ用変質層15を境界(すなわち、分岐の起点)としてチップ構成ウェハ30とリサイクルウェハ40とに分割する。なお、以下では、チップ構成ウェハ30のうちの一面側素子構成部分11が形成されている側の面を一面30aとし、チップ構成ウェハ30のうちの分割された面側を他面30bとし、リサイクルウェハ40のうちの分割された面側を一面40aとして説明する。また、
図1G以降の各図では、チップ構成ウェハ30の他面30bおよびリサイクルウェハ40の一面40aに残存するウェハ用変質層15等を適宜省略して示している。
【0036】
その後、
図1Hに示されるように、一般的な半導体製造プロセスを行い、チップ構成ウェハ30の他面30bに、裏面電極を構成する金属膜61等の半導体素子における他面側素子構成部分60を形成する工程を行う。
【0037】
なお、この他面側素子構成部分60を形成する工程の前に、必要に応じて、CMP(chemical mechanical polishingの略)法等でチップ構成ウェハ30の他面30bを平坦化する工程を行うようにしてもよい。
図1Hは、チップ構成ウェハ30の他面30bを平坦化した場合の図を示している。また、他面側素子構成部分60を形成する工程を行った後、必要に応じて、金属膜61とチップ構成ウェハ30の他面30bとをオーミック接触とするため、レーザアニール等の加熱処理等を行うようにしてもよい。
【0038】
続いて、
図1Iに示されるように、保持部材20をエキスパンドし、チップ用変質層14を境界(すなわち、分岐の起点)として各チップ形成領域RAを分割する。その後、加熱処理や光を照射する等して粘着剤22の粘着力を弱まらせ、半導体チップ100をピックアップする。これにより、半導体チップ100が製造される。なお、各チップ形成領域RAを分割する前には、必要に応じ、金属膜61のうちの各チップ形成領域RAの境界にスリット等を形成しておくことにより、チップ形成領域RA毎に金属膜61を容易に分割できる。この場合、
図1Hの工程において、分割される部分を覆うメタルマスクを用意し、分割される部分に金属膜61が形成されないようにしてもよい。
【0039】
また、上記のように製造される半導体チップ100は、一面110a、一面と反対側の他面110b、一面110aと他面110bとを繋ぐ側面110cを有するチップ構成基板110を備えた構成となる。また、チップ構成基板110は、GaNで構成されるエピタキシャル膜3を有し、一面110a側に一面側素子構成部分11が形成され、他面110b側に他面側素子構成部分60が形成された構成となる。そして、半導体チップ100は、チップ用変質層14を境界として分割されることで構成されるため、側面110cにチップ用変質層14が残存した状態となっている。この場合、チップ用変質層14は、ガリウムと窒素とが分離されてガリウムが析出した層であり、微小な凹凸が形成された状態となっている。このため、本実施形態の製造方法では、ハンドリング等がし易い半導体チップ100が製造される。
【0040】
また、
図1Jに示されるように、
図1Gで構成されたリサイクルウェハ40には、一面40aに対して研磨装置70等を用いたCMP法を行うことにより、当該一面40aを平坦化する。そして、平坦化したリサイクルウェハ40をGaNウェハ1とし、再び上記
図1A以降の工程を行う。これにより、GaNウェハ1は、半導体チップ100を構成するのに複数回利用されることができる。
【0041】
以上説明した本実施形態によれば、加工ウェハ10をチップ構成ウェハ30とリサイクルウェハ40とに分割し、リサイクルウェハ40を再びGaNウェハ1として利用する。このため、半導体チップ100を製造する度にGaNウェハ1を新たに用意する必要がなく、GaNウェハ1を有効利用できる。したがって、半導体チップ100の生産性の向上を図ることができる。
【0042】
また、ウェハ用変質層15を形成する際には、チップ用変質層14を介してウェハ用変質層15を形成する際に発生する窒素が放出されるようにしている。このため、各チップ形成領域RAに発生する歪みを小さくでき、半導体チップ100に不具合が発生することを抑制できる。
【0043】
さらに、各チップ形成領域RAの間にチップ用変質層14を形成している。そして、各チップ形成領域RAを分割する際には、保持部材20をエキスパンドすることにより、チップ用変質層14を境界として分割している。このため、例えば、各チップ形成領域RAをダイシングブレード等で分割する場合と比較して、各チップ形成領域RAの間の領域を狭くできる。したがって、加工ウェハ10から製造される半導体チップ100の個数の増加を図ることができる。
【0044】
また、加工ウェハ10をチップ構成ウェハ30とリサイクルウェハ40とに分割する際には、レーザ光Lを照射してウェハ用変質層15を形成し、ウェハ用変質層15を境界としてチップ構成ウェハ30とリサイクルウェハ40とに分割する。このため、CMP法等によって加工ウェハ10の他面10bから研削等して厚さを薄くする場合と比較して、製造時間の短縮化を図ることができる。
【0045】
そして、チップ用変質層14を境界として各チップ形成領域RAを分割しているため、半導体チップ100の側面110cは、チップ用変質層14を有する構成となり、微小な凹凸が形成された状態となっている。このため、半導体チップ100のハンドリングをし易くできる。
【0046】
(第2実施形態)
第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対し、特性検査を行うようにしたものである。その他に関しては、第1実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0047】
本実施形態では、
図1Cの一面側素子構成部分11を形成する工程の後、各チップ形成領域RAに対してWAT(wafer acceptance testの略)検査等の特性検査を行う。そして、各チップ形成領域RAに形成されている半導体素子の一面側素子構成部分11が良品であるか不良品であるかを判定する。この場合、例えば、
図4に示されるように、各チップ形成領域RAに対して良品と不良品とが判定される。なお、
図4では、不良品と判定されたチップ形成領域RAにハッチングを施してある。
【0048】
その後、
図1Iの工程において、半導体チップ100を保持部材20からピックアップする際には、良品のみをピックアップするようにする。
【0049】
これによれば、不良品をピックアップしないため、管理を行い易くなる等のその後の工程等を簡略化できる。
【0050】
(第2実施形態の変形例)
上記第2実施形態の変形例について説明する。上記第2実施形態において、特性検査にて不良品と判断されたチップ形成領域RAには、
図1Hの工程において、裏面電極を構成する金属膜61等の他面側素子構成部分60を形成しないようにしてもよい。例えば、金属膜61を形成する際には、不良品と判断されたチップ形成領域RAを覆うように構成されたメタルマスクを用意し、当該メタルマスクを用いて金属膜61を形成するようにすればよい。
【0051】
(第3実施形態)
第3実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対し、チップ形成領域RAをダイシングブレードで分割するようにしたものである。その他に関しては、第1実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0052】
本実施形態では、
図1Eの工程にてチップ用変質層14を形成する代わりに、
図5に示されるように、チップ形成領域RAをダイシングブレードで分割し、チップ形成領域RAの境界を含む外縁にスリット16を形成する。なお、本実施形態では、スリット16が分割構造に相当している。また、本実施形態では、
図1Dの保持部材20を配置する工程は、
図5の工程を行った後に行われる。
【0053】
そして、
図1Fの工程では、ウェハ用変質層15を形成する際の窒素がスリット16を介して外部に放出されるように、スリット16と交差する、またはスリット16の直下を通るウェハ用変質層15を形成する。
【0054】
その後、
図1Hの工程では、スリット16内に金属膜61が形成されないように構成されたメタルマスクを用意し、金属膜61を形成する。つまり、スリット16を被覆するメタルマスクを用意して金属膜61を形成する。そして、
図1Iの工程では、必要に応じ、保持部材20をエキスパンドして各半導体チップ100の間隔を確保した後、半導体チップ100をピックアップする。
【0055】
以上説明したように、ウェハ用変質層15を形成する前にスリット16を形成しても、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0056】
(他の実施形態)
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。
【0057】
例えば、上記各実施形態において、エピタキシャル膜3は、n-型エピタキシャル層3bのみで構成されていてもよい。
【0058】
また、上記各実施形態において、
図1Hの工程では、チップ構成ウェハ30の他面30bを研磨せずに金属膜61を形成するようにしてもよい。例えば、半導体素子として光半導体素子等を形成する場合には、半導体チップ100の他面110b側に凹凸構造を形成することにより、他面110b側から効果的に光を取り出すことが可能となる。そして、加工ウェハ10をチップ構成ウェハ30とリサイクルウェハ40とに分割した直後においては、チップ構成ウェハ30の他面30bは、ウェハ用変質層15が残存した状態となっており、微小な凹凸が形成された状態となっている。このため、光半導体素子を形成する場合には、チップ構成ウェハ30の他面30bを研磨せず、ウェハ用変質層15の凹凸を利用するようにしてもよい。
【0059】
さらに、上記各実施形態において、
図1Bのエピタキシャル膜3を形成する工程では、GaNウェハ1の他面1b側にもエピタキシャル膜が形成されるようにしてもよい。これによれば、例えば、ウェハ用変質層15をGaNウェハ1内に形成する場合においても、リサイクルウェハ40として所定以上の厚さを残し易くなり、再利用できる回数の増加を図ることができる。
【0060】
また、上記第1、第2実施形態において、
図1Dの保持部材20を配置する工程の前に、
図1Eのチップ用変質層14を形成する工程を行うようにしてもよい。この場合、レーザ光Lは、加工ウェハ10の一面10a側から照射するようにしてもよい。但し、加工ウェハ10の一面10aからレーザ光Lを照射する場合、一面10a側に形成される表面電極や配線パターン等によってレーザ光Lの集光点の位置がばらつく可能性がある。このため、好ましくは、加工ウェハ10の他面10bからレーザ光を照射するのがよい。
【0061】
そして、上記各実施形態を適宜組み合わせてもよい。例えば、上記第2実施形態を上記第3実施形態に組み合わせ、スリット16を形成しつつ、特性検査等を行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0062】
1 GaNウェハ
1a 一面
1b 他面
3 エピタキシャル膜
10 加工ウェハ
10a 一面
10b 他面
13 チップ用変質層
14 ウェハ用変質層
40 チップ構成ウェハ
40b 他面
50 リサイクルウェハ
60 半導体チップ