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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】飼料
(51)【国際特許分類】
   A23K 30/18 20160101AFI20240424BHJP
   A23K 50/10 20160101ALI20240424BHJP
   A23K 10/30 20160101ALI20240424BHJP
【FI】
A23K30/18
A23K50/10
A23K10/30
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020102482
(22)【出願日】2020-06-12
(65)【公開番号】P2021193930
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520211959
【氏名又は名称】株式会社十勝畜産貿易
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 充利
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】和才 昌史
(72)【発明者】
【氏名】新倉 宏
(72)【発明者】
【氏名】中田 泰夫
(72)【発明者】
【氏名】吉川 要
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/091840(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第105394424(CN,A)
【文献】特開2020-10648(JP,A)
【文献】特開2011-217727(JP,A)
【文献】特開2019-187340(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 10/00 - 50/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材由来のクラフトパルプとニンジンを含有し、木材由来のクラフトパルプとニンジンが50mm以下の大きさまで破砕されており、ニンジンの含有量が5質量%以上である飼料組成物。
【請求項2】
乳酸発酵されている、請求項1に記載の飼料組成物。
【請求項3】
木材由来のクラフトパルプが広葉樹由来のクラフトパルプを含む、請求項1または2に記載の飼料組成物。
【請求項4】
木材由来のクラフトパルプとニンジンが10mm以下の大きさまで破砕されている、請求項1~3のいずれかに記載の飼料組成物。
【請求項5】
pHが5.5以下である、請求項1~4のいずれかに記載の飼料組成物。
【請求項6】
飼料組成物に含まれる木材由来のクラフトパルプとニンジンの重量割合が10:90~90:10である、請求項1~5のいずれかに記載の飼料組成物。
【請求項7】
反芻動物用である、請求項1~6のいずれかに記載の飼料組成物。
【請求項8】
牛用である、請求項7に記載の飼料組成物。
【請求項9】
請求項1~7のいずれかに記載の飼料組成物を製造する方法であって、
木材由来のクラフトパルプとニンジン50mm以下の大きさまで破砕する工程を有する、上記方法。
【請求項10】
破砕する工程の後、嫌気条件下で乳酸発酵させる工程をさらに有する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
pHが5.5以下になるまで乳酸発酵させる、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルプとニンジンを含有する飼料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、牧畜分野においては、家畜の乳量の増加、増体重、健康維持などを目的に、牧草などの粗飼料と、栄養価の高いトウモロコシなどの易消化性の炭水化物(デンプン等)を多く含む濃厚飼料を混合して家畜に給与することが多い。
【0003】
牧草とは一般には、マメ科、イネ科などの植物であり、そのままでも飼料となり得るが、通常は牧草を乾燥し干草(乾草、わら類)としたもの、あるいは青刈りした牧草を発酵させた(サイレージ化)ものが粗飼料と呼ばれる。
【0004】
反芻動物が粗飼料を摂取し消化しうるのは、ルーメン(第一胃)を有するためである。ルーメンは、反芻動物が有する複数の胃のうち最大の容積を占め、粗飼料中のセルロース、ヘミセルロースなどの難消化性の多糖類を分解(ルーメン発酵)し得る微生物群(ルーメン微生物)が豊富に含まれている。しかし、粗飼料中のセルロース及びヘミセルロースは、リグニン類と結合し、それぞれリグニン-セルロース複合体及びリグニン-ヘミセルロース複合体として存在している場合が多い。係る複合体はルーメン発酵において十分に分解されないおそれがある。このため、粗飼料は飼料効率が不十分であるという問題点があった。
【0005】
飼料中の栄養濃度を高めるため、易消化性の炭水化物(デンプン)を多く含む濃厚飼料を粗飼料に配合することが一般に行われている。乳用家畜の乳量を維持し、或いは、肉用家畜の増体を維持するためは、飼料摂取量をも増加させる必要がある。これは、乳量の増加や体格の増強にともなうエネルギー要求量の増加率は、摂取飼料量の増加率を超えるためである。ところが、濃厚飼料中のデンプンなどの炭水化物は、第一胃(ルーメン)のpHを急激に低下させることがあり、結果としてルーメンアシドーシスが発生することがある。ルーメンアシドーシスとは、反芻動物の疾病の一種であり、炭水化物に富む穀物、濃厚飼料、果実類などを急激に摂取することにより引き起こされる。ルーメンアシドーシスにおいては、ルーメン内において、グラム陽性乳酸生成菌、特にStreptcoccus bovisおよびLactobacillus属微生物が増加し、乳酸あるいは揮発性脂肪酸(VFA:Volatile Fatty Acid)の異常な蓄積が生じ、ルーメン内のpHが低下する(pH5以下)。その結果、ルーメン内のプロトゾア(原生動物)、及びある種の細菌の減少あるいは消滅を引き起こす。特に急性アシドーシスは、ルーメンの鬱血や脱水症(胃内容浸透圧の上昇に伴い体液が大量に胃内に移動)、さらには昏睡や死をもたらすため、極めて危険である。
【0006】
ルーメンアシドーシスの予防には、飼料配合の急激な変化を避け、ルーメン発酵を安定化させ、pHの変動を少なくすることが重要である。また、唾液には重曹が含まれておりpH調節に寄与するため、十分な反芻により唾液分泌のできる飼料を給与することも重要である。ただし、ルーメンアシドーシスを恐れ、飼料の栄養価を低くすると、エネルギーが不足して乳生産量が低下してしまうという懸念もある。
【0007】
粗飼料の飼料効率を改善し、かつルーメンアシドーシスを予防する方法として、特許文献1には、木材由来のクラフト法により製造されてなるパルプ、木材由来のサルファイト法により製造されてなるパルプを反芻動物用飼料として用いる方法が開示されている。しかしながら、上述した反芻動物用飼料は嗜好性が低く、反芻動物が自発的に摂食しないという問題があった。
【0008】
牛はビタミンAを牧草等の飼料より摂取しているが、牧草に含有されるβ-カロテン(牛の体内でビタミンAに変換される)は牧草を刈り倒してから時間が経過するにつれて急激に減少していくことが知られている。このβ-カロテンの含有量が減少した牧草を使用した場合には、ビタミンA不足となって、筋間浮腫の発生や盲目、歩行障害及び増体減少等を引き起こし、著しい経済的損失を被るおそれがある。
【0009】
ニンジンにはβ-カロテンが多く含有されていることがわかっているが、ニンジンには水分が多く含まれており、飼料として利用するために破砕すると液だれが多く発生するなど、これまで積極的に利用されていなかった。また、β-カロテンは、光、熱等に対して非常に不安定で劣化しやすいため、混合飼料や飼料用添加物として満足すべきものは開発されていない(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2011-217727号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】神辺ら著,「ビタミンAが黒毛和種去勢牛の肉質与える影響」栃木畜試研報第15号,1999年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、嗜好性が高く、繊維消化率とβ-カロテンの保存性に優れた飼料組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、パルプとニンジンを混合することで嗜好性が高い飼料組成物を製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
これに限定されるものでないが、本発明は、以下の態様を包含する。
[1] パルプとニンジンを含有し、パルプ及びニンジンが50mm以下の大きさまで破砕されている飼料組成物。
[2] 乳酸発酵されている、[1]に記載の飼料組成物。
[3] 前記パルプが、木材由来のクラフトパルプである、[1]または[2]に記載の飼料組成物。
[4] パルプシートとニンジンが10mm以下の大きさまで破砕されている、[1]~[3]のいずれかに記載の飼料組成物。
[5] pHが5.5以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の飼料組成物。
[6] ニンジンを3.0質量%以上含有する、[1]~[5]のいずれかに記載の飼料組成物。
[7] 反芻動物用である、[1]~[6]のいずれかに記載の飼料組成物。
[8] 牛用である、[7]に記載の飼料組成物。
[9] パルプとニンジンを50mm以下の大きさまで破砕する工程を有する、飼料組成物を製造する方法。
[10] 破砕した混合物を、嫌気条件下で乳酸発酵させる工程をさらに有する、[9]に記載の方法。
[11] pHが5.5以下になるまで乳酸発酵させる、[10]に記載の方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、嗜好性が高く、繊維消化率とβ-カロテンの保存性に優れた飼料組成物を提供することができる。本飼料組成物を反芻動物に給与することで、動物のエネルギー摂取量を向上させるとともに、ルーメンアシドーシスを抑制することができ、かつ血中のβ-カロテンを高く維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、サンプル1の外観写真である。
図2図2は、サンプル4の外観写真である。
図3図3は、サンプル5の外観写真である(比較例)。
図4図4は、サンプル7の外観写真である。
図5図5は、サンプル8の外観写真である。
図6図6は、サンプル9の外観写真である(比較例)。
図7図7は、サンプル10の外観写真である(比較例)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の飼料組成物は、反芻動物に適用されるのが望ましい。反芻動物としては、例えば、乳牛及び肥育牛などの牛、羊、山羊などが挙げられる。本発明の飼料を反芻動物に給与する時期、すなわち適用対象である反芻動物の年齢、体格、健康状態等には特に制限はなく、例えば、哺乳期の仔牛から成牛、老廃牛まで用途があると考えられる。
【0018】
ニンジン
本発明の飼料組成物は、ニンジンを含有する。本発明におけるニンジンの含有量は3質量%以上であることが好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましく、30質量%以上としてもよい。ニンジンの含有率の上限は特にないが、50質量%以下とすることができる。
【0019】
用いるニンジンに制限はないが、ニンジンの品種としては、例えば五寸にんじん、三寸にんじん、金時にんじん、島にんじん、大長にんじん、ミニキャロット、葉にんじん、向陽二号、晩抽天翔、天翔五寸、ベーター312が挙げられる。
【0020】
本発明の飼料組成物は、ニンジンをその大きさが50mm以下になるまで破砕するが、30mm以下とすることが好ましく、20mm以下とすることがより好ましい。ニンジンの大きさが50mmを超えると嗜好性が低下する場合がある。飼料原料の破砕は公知の方法によればよいが、例えば、カッティングミルやロールミルなどの破砕装置を用いることができる。また、ニンジンはペースト状やジュース状であってもよい。
【0021】
パルプ
本発明の飼料組成物はパルプを含有する。本発明において、パルプは1種類のものから成るものでもよく、複数のパルプを混合したものでもよい。例えば、原料や製造方法の異なる化学パルプ(広葉樹クラフトパルプ、針葉樹クラフトパルプ、溶解広葉樹クラフトパルプ、溶解針葉樹クラフトパルプ)、あるいは機械パルプ(砕木パルプ、リファイナーグラウンドウッドパルプ、サーモメカニカルパルプ、ケミサーモメカニカルパルプ)、を2種以上混合して使用してもよい。
【0022】
原料の木材としては、例えば、広葉樹、針葉樹、雑木、タケ、ケナフ、バガス、パーム油搾油後の空房が使用できる。具体的には、広葉樹としては、ブナ、シナ、シラカバ、ポプラ、ユーカリ、アカシア、ナラ、イタヤカエデ、センノキ、ニレ、キリ、ホオノキ、ヤナギ、セン、ウバメガシ、コナラ、クヌギ、トチノキ、ケヤキ、ミズメ、ミズキ、アオダモ、等が例示される。針葉樹としては、スギ、エゾマツ、カラマツ、クロマツ、アカマツ、トドマツ、ヒメコマツ、イチイ、ネズコ、ハリモミ、イラモミ、イヌマキ、モミ、サワラ、トガサワラ、アスナロ、ヒバ、ツガ、コメツガ、ヒノキ、イチイ、イヌガヤ、トウヒ、イエローシーダー(ベイヒバ)、ロウソンヒノキ(ベイヒ)、ダグラスファー(ベイマツ)、シトカスプルース(ベイトウヒ)、ラジアータマツ、イースタンスプルース、イースタンホワイトパイン、ウェスタンラーチ、ウェスタンファー、ウェスタンヘムロック、タマラック、等が例示される。
【0023】
原料の非木材としては、コウゾ、ミツマタ、ガンピ、アマ、ケナフ、ジュート、マニラ麻、サイザル麻、エスパルト、稲ワラ、麦ワラ、竹、バガス、等が例示される。
本発明の飼料組成物においては、クラフトパルプを使用することが好ましい。クラフトパルプとしては、漂白または未漂白のクラフトパルプもいずれも使用できる。クラフトパルプを1質量%以上含有することが好ましく、5質量%以上含有することがより好ましく、10質量%以上がさらに好ましい。クラフトパルプとしては、酸素脱リグニン処理したものが好ましく、また、カッパー価が5~30であることが必須である。より好ましくは、カッパー価は5~25であり、5~20であってもよく、6~15としてもよい。カッパー価が30以下であると、セルラーゼ糖化率が向上し反芻動物のルーメンにおいて消化されやすく、また、反芻動物のルーメンアシドーシスを抑制することが出来る。また、理由は不明だが、クラフトパルプの含有量が1質量%より少ないと、β-カロテンの保存性が低下する。
【0024】
木材チップからクラフトパルプを製造する場合、木材チップは蒸解液と共に蒸解釜へ投入され、クラフト蒸解に供する。また、MCC、EMCC、ITC、Lo-solidなどの修正クラフト法の蒸解に供しても良い。また、1ベッセル液相型、1ベッセル気相/液相型、2ベッセル液相/気相型、2ベッセル液相型などの蒸解型式なども特に限定はない。すなわち、本願のアルカリ性水溶液を含浸し、これを保持する工程は、従来の蒸解液の浸透処理を目的とした装置や部位とは別個に設置してもよい。好ましくは、蒸解を終えた未晒パルプは蒸解液を抽出後、ディフュージョンウォッシャーなどの洗浄装置で洗浄する。木材チップと薬液の液比は、例えば、1.0~5.0L/kgとすることができ、1.5~4.5L/kgが好ましく、2.0~4.0L/kgがさらに好ましい。
【0025】
また、本発明においては、キノン化合物を含むアルカリ性蒸解液を蒸解釜に添加してもよい。キノン化合物を含むアルカリ性蒸解液を添加する場合は絶乾チップ当たり0.01~1.5質量%が好ましい。キノン化合物の添加量が0.01質量%未満であると添加量が少なすぎて蒸解後のパルプのカッパー価が低減されず、カッパー価とパルプ収率の関係が改善されない。さらに、粕の低減、粘度の低下の抑制も不十分である。また、キノン化合物の添加量が1.5質量%を超えてもさらなる蒸解後のパルプのカッパー価の低減、及びカッパー価とパルプ収率の関係の改善は認められない。
【0026】
使用されるキノン化合物はいわゆる公知の蒸解助剤としてのキノン化合物、ヒドロキノン化合物又はこれらの前駆体であり、これらから選ばれた少なくとも1種の化合物を使用することができる。これらの化合物としては、例えば、アントラキノン、ジヒドロアントラキノン(例えば、1,4-ジヒドロアントラキノン)、テトラヒドロアントラキノン(例えば、1,4,4a,9a-テトラヒドロアントラキノン、1,2,3,4-テトラヒドロアントラキノン)、メチルアントラキノン(例えば、1-メチルアントラキノン、2-メチルアントラキノン)、メチルジヒドロアントラキノン(例えば、2-メチル-1,4-ジヒドロアントラキノン)、メチルテトラヒドロアントラキノン(例えば、1-メチル-1,4,4a,9a-テトラヒドロアントラキノン、2-メチル-1,4,4a,9a-テトラヒドロアントラキノン)等のキノン化合物であり、アントラヒドロキノン(一般に、9,10-ジヒドロキシアントラセン)、メチルアントラヒドロキノン(例えば、2-メチルアントラヒドロキノン)、ジヒドロアントラヒドロアントラキノン(例えば、1,4-ジヒドロ-9,10-ジヒドロキシアントラセン)又はそのアルカリ金属塩等(例えば、アントラヒドロキノンのジナトリウム塩、1,4-ジヒドロ-9,10-ジヒドロキシアントラセンのジナトリウム塩)等のヒドロキノン化合物であり、アントロン、アントラノール、メチルアントロン、メチルアントラノール等の前駆体が挙げられる。これら前駆体は蒸解条件下ではキノン化合物又はヒドロキノン化合物に変換する可能性を有している。
【0027】
蒸解液は、対絶乾木材チップ重量当たりの活性アルカリ添加率(AA)を10~35質量%とすることが好ましい。活性アルカリ添加率が10質量%未満であるとリグニンやヘミルロースの除去が不十分となり、35質量%を超えると収率の低下や品質の低下が起こる。ここで活性アルカリ添加率とは、NaOHとNaSの合計の添加率をNaOの添加率として換算したもので、NaOHには0.775を、NaSには0.795を乗じることでNaOの添加率に換算できる。また、硫化度は20~35%の範囲が好ましい。硫化度20%未満の領域においては、脱リグニン性の低下、パルプ粘度の低下、粕率の増加を招く。
【0028】
クラフト蒸解は、120~180℃の温度範囲で行うことが好ましく、140~160℃がより好ましい。温度が低すぎると脱リグニン(カッパー価の低下)が不十分である一方、温度が高すぎるとセルロースの重合度(粘度)が低下する。また、本発明における蒸解時間とは、蒸解温度が最高温度に達してから温度が下降し始めるまでの時間であるが、蒸解時間は、60分以上600分以下が好ましく、120分以上360分以下がさらに好ましい。蒸解時間が60分未満ではパルプ化が進行せず、600分を超えるとパルプ生産効率が悪化するために好ましくない。
【0029】
また、本発明におけるクラフト蒸解は、Hファクター(Hf)を指標として、処理温度及び処理時間を設定することができる。Hファクターとは、蒸解過程で反応系に与えられた熱の総量を表す目安であり、下記の式によって表わされる。Hファクターは、チップと水が混ざった時点から蒸解終了時点まで時間積分することで算出され、∫exp(43.20-16113/T)dt[式中、Tはある時点の絶対温度]と表される。Hファクターとしては、300~2000が好ましい。
【0030】
本発明においては、蒸解後得られた未漂白(未晒)パルプは、必要に応じて、種々の処理に供することができる。例えば、クラフト蒸解後に得られた未漂白パルプに対して、漂白処理を行うことができる。
【0031】
クラフト蒸解で得られたパルプについて、酸素脱リグニン処理を行うことができる。本発明に使用される酸素脱リグニンは、公知の中濃度法あるいは高濃度法がそのまま適用できる。中濃度法の場合はパルプ濃度が8~15質量%、高濃度法の場合は20~35質量%で行われることが好ましい。酸素脱リグニンにおけるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを使用することができ、酸素ガスとしては、深冷分離法からの酸素、PSA(Pressure Swing Adsorption)からの酸素、VSA(Vacuum Swing Adsorption)からの酸素等が使用できる。
【0032】
酸素脱リグニン処理の反応条件は、特に限定はないが、酸素圧は3~9kg/cm、より好ましくは4~7kg/cm、アルカリ添加率はパルプ絶乾重量当たり0.5~4質量%、処理温度80~140℃、処理時間20~180分、この他の条件は公知のものが適用できる。なお、本発明において、酸素脱リグニン処理は、複数回行ってもよい。また、酸素脱リグニン処理などを施した後のクラフトパルプのカッパー価は5~15であることが好ましい。
【0033】
さらなるカッパー価の低下、白色度の向上を目的とする場合、酸素脱リグニン処理が施されたパルプは、例えば、次いで洗浄工程へ送られ、洗浄後、多段漂白工程へ送られ、多段漂白処理を行うことができる。本発明の多段漂白処理は、特に限定されるものではないが、酸(A)、二酸化塩素(D)、アルカリ(E)、酸素(O)、過酸化水素(P)、オゾン(Z)、過酸等の公知の漂白剤と漂白助剤を組み合わせるのが好適である。例えば、多段漂白処理の初段は二酸化塩素漂白段(D)やオゾン漂白段(Z)を用い、二段目にはアルカリ抽出段(E)や過酸化水素段(P)、三段目以降には、二酸化塩素や過酸化水素を用いた漂白シーケンスが好適に用いられる。三段目以降の段数も特に限定されるわけではないが、エネルギー効率、生産性等を考慮すると、合計で三段あるいは四段で終了するのが好適である。また、多段漂白処理中にエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)等によるキレート剤処理段を挿入してもよい。
【0034】
本発明においては、カナダ標準濾水度(CSF)が300ml以上のクラフトパルプを使用することが好ましい。反芻動物のルーメンにおける消化速度を緩やかにし、ルーメンにおける反芻を促進するような飼料を製造することが可能になる。好ましい態様において、本発明に用いるクラフトパルプのカナダ標準濾水度は450ml以上であり、500ml以上や550ml以上としてもよい。一般に、クラフトパルプのカナダ標準濾水度は、公知の方法によって低下させることができる。
【0035】
本発明の飼料組成物は、パルプをその大きさが50mm以下になるまで破砕することが好ましく、30mm以下とすることがより好ましく、20mm以下とすることがさらに好ましい。粉砕するパルプとして、パルプシートを好適に用いることができる。パルプの大きさが50mmを超えると嗜好性が低下したり、発酵しにくくなったりする場合がある。
【0036】
飼料組成物
本発明の飼料組成物には、他の飼料を添加することができる。他の飼料成分としては、粗飼料(例えば牧草)、濃厚飼料(例えば、トウモロコシ、麦などの穀類、大豆などの豆類)、ふすま、米糠、おから、蛋白質、脂質、ビタミン、ミネラルなどや添加剤(保存料、着色料、香料等)、等が挙げられる。
【0037】
本発明の飼料組成物に濃厚飼料を配合する場合、例えば、トウモロコシ、小麦、大麦、精白米などの穀物を用いることができる。本発明の飼料においては、例えば、米、小麦、大麦、えん麦、マイロ、トウモロコシなどの穀物を主なデンプン源として用いることができる。
【0038】
本発明の飼料組成物に粗飼料を配合する場合、例えば、オーチャードグラス、チモシー、オーツヘイ、アルファルファ、イタリアンライグラス、アカクローバー等を挙げることができ、イネ科の植物に由来する飼料原料としては、例えば、ソルガム、小麦ストロー、稲藁等を挙げることができる。
【0039】
本発明の飼料組成物に他の飼料原料を配合する場合は、例えば、大豆、大豆粕(加糖加熱処理又は加湿加熱処理等を施した大豆粕を含む)、菜種粕、アマニ粕、コーングルテンミール、濃縮大豆蛋白、小麦グルテン、小麦グルテン酵素分解物などを挙げることができる。また、飼料に糖類を配合してもよく、例えば、グルコース、フルクトース、スクロース、ラクトース、及びマルトースなどを好適に配合することができる。
【0040】
本発明の飼料組成物は、上述した原料の他に、呈味料、ミネラル、ビタミン、有機ミネラル、牧草、イネ科の植物の飼料原料、結晶アミノ酸、油脂、脂肪酸、脂肪酸カルシウム、吸着材、鉱物、植物抽出物、発酵物、着香料、有機酸、抗生物質、動物質性飼料、微生物成分、漢方薬、酵素剤、オリゴ糖、木質系飼料、粘結剤、他の植物体加工副産物などを含んでもよい。
【0041】
本発明の飼料組成物は、乳酸発酵処理することができる。乳酸発酵処理後のpHは5.5以下が好ましく、5.5以下がより好ましく、5.0以下がさらに好ましい。乳酸発酵処理後のpHが5.5より高いと、十分に乳酸発酵が進まないことがある。また、乳酸発酵処理する飼料組成物の水分含有量は15質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましい。水分含有量は15質量%より少ないと、乳酸発酵処理が進まないことがある。乳酸発酵処理により嗜好性や繊維消化率が向上する。
【0042】
本発明の飼料組成物には乳酸菌を添加しても良い。乳酸菌は、例えば、ラクトバチルス属、ストレプトコッカス属、ラクトコッカス属、ロイコノストック属、ビフィドバクテリウム属、エンテロコッカス属、ペディオコッカス属に含まれる菌株を使用することができる。例えば、ラクトバチルス属としては、L・カゼイ、L・プランタラム、L・ヘルベティカス、L・ブルガリカス、L・ガッセリ、L・アシドフィルス、L・ラクチス、L・サリバリウス、L・ガリナルム、L・アミロボラス、L・ブレビス、L・ファーメンタム、L・マリ、L・デルブルッキィ、L・サンフランシスエンシス、L・パネックス、L・コモエンシス、L・イタリカス、L・ライキマニ、L・カルバタス、L・ヒルガルディ、L・ルテリ、L・パストリアヌス、L・ブクネリ、L・セロビオサス、L・フルクティボランス等に属する菌株を使用することができる。
【0043】
また、ストレプトコッカス属としては、S・サーモフィルス、S・ラクチス、S・ジアセチルラクチス等に属する菌株を使用することができる。ラクトコッカス属としては、L・ラクチス・ラクチス、L・ラクチス・クレモリス等に属する菌株を使用することができる。ロイコノストック属としては、L・メセンテロイデス・クレモリス、L・ラクチス等に属する菌株を使用することができる。ビフィドバクテリウム属としては、B・ビフィダム、B・ロンガム、B・インファンティス、B・ブレーベ、B・アドレセンティス、B・アンギュラータム、B・カテニュラータム、B・シュードカテニュラータム、B・デンティウム、B・グロボズム、B・シュードロンガム、B・クニキュリ、B・コエリナム、B・アニマリス、B・サーモフィラム、B・ボウム、B・マグナム、B・アステロイデス、B・インディカム、B・ガリカム、B・ラクチス、B・イノピナータム、B・デンティコ等に属する菌株を使用することができる。
【実施例
【0044】
以下、具体例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の具体例によって限定されない。なお、本明細書において、濃度や%は特に断らない限り質量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0045】
評価方法
<水分とpH>
飼料の水分は、飼料を105℃で一晩乾燥して重量を測定することで算出した。また、飼料をガーゼで包み、人力で飼料の水分を絞り取り、得られた液のpHを、pHメーター(東亜DKK製HM-41X)を用いて測定した。
【0046】
<セルラーゼ糖化率>
サンプル(絶乾質量500mg)を、樹脂製サンプル容器(60ml容)に正確に秤量した。次いで、pH4.0の0.1M酢酸緩衝液にセルラーゼ(セルラーゼオノズカp1500、ヤクルト薬品工業)を濾紙崩壊力で1350U/(飼料組成物絶乾質量g)となるように添加した懸濁液49.5mlを容器に添加し、振とう機(TAITEC社製BioShaker BR-23FP)を用いて、40℃、180rpmで24時間振とうし、糖化処理を行った。
【0047】
24時間後の時点でサンプルを採取し、糖化された割合(セルラーゼ糖化率)を測定した。具体的には、あらかじめ恒量を求めたろ紙上でろ過し、4回水洗を行った後に、105℃の通風乾燥機中で2時間乾燥して残渣の乾物質量を測定し、下式に基づいてセルラーゼ糖化率(%)を算出した。
[(セルラーゼ処理前のサンプル質量-セルラーゼ処理後のサンプル(残渣)質量)/セルラーゼ処理前のサンプル質量]×100
<嗜好性>
乳牛10頭に対し、飼料組成物を300g(風乾重量)ずつ給与し、5分間自由摂食させた後、食べ残した量を計測した。給与は午前7時に行い、各飼料の置場は試験ごとに入れ替えた。嗜好性試験を3回実施し、3回の試験における食べ残した量の平均値を嗜好性の指標とした。
【0048】
<β―カロテン>
β-カロテンは、高速液体クロマトグラフィー法により定量した。
また、β―カロテンの保存性(%)は下記の式で算出した。なお、脱気保管前のβ―カロテン量は、サンプル1のβ―カロテンである。
(脱気保管後のβ―カロテン量)/(脱気保管前のβ―カロテン量)×100
飼料の製造
[サンプル1]
ユーカリ材のチップを活性アルカリ添加率18.0%、硫化度25%、Hファクター800にてクラフト蒸解を行い、カッパー価(KN)18.5の未晒クラフトパルプ(LUKP)を得た。上記パルプを水道水で洗浄して濃度10%に調製後、O添加率2.1%(絶乾パルプ重量当たり)、水酸化ナトリウム1.4%(絶乾パルプ重量当たり)、100℃、60分にて酸素脱リグニン処理を行い、KN9.6の酸素脱リグニン処理パルプを得た。得られたパルプを水道水で洗浄した後、水分率50%のウェットパルプシートとし、これを、カッティングミル(FRITSCH社製P-15)にて10mm以下に破砕した。このクラフトパルプのセルラーゼ糖化率を測定したところ、76%であった。
【0049】
ニンジン(水分率91%、北海道十勝産向陽二号)をカッティングミル(FRITSCH社製P-15)にて10mm以下に破砕した。この破砕物のセルラーゼ糖化率を測定したところ、65%であった。
【0050】
破砕したクラフトパルプとニンジンを50:50の重量割合で混合して飼料組成物を製造した。
[サンプル2]
サンプル1の飼料組成物100gをバリア性の高いナイロンポリ袋(旭化成製、飛竜KNタイプ、200mm×300mm)に入れ、業務用卓上密封包装機(シャープ社製SQ-202)によって脱気密封した後、25℃で10日間保管して乳酸発酵させた。
【0051】
[サンプル3]
乳酸発酵させる期間を30日間に変更した以外は、サンプル2と同様にして飼料組成物を製造した。
【0052】
[サンプル4]
クラフトパルプとニンジンの破砕物のサイズを10~30mmに変更した以外は、サンプル3と同様にして飼料組成物を製造した。クラフトパルプと人参の破砕物は、篩を利用してサイズを調整した。
【0053】
[サンプル5(比較例)]
クラフトパルプとニンジンの破砕物のサイズを80~120mmに変更した以外は、サンプル3と同様にして飼料組成物を製造した。クラフトパルプと人参の破砕物は、篩を利用してサイズを調整した。
【0054】
[サンプル6]
クラフトパルプとニンジンの破砕物を乾燥させてから混合した以外は、サンプル3と同様にして飼料組成物を製造した。
【0055】
[サンプル7]
クラフトパルプとニンジンを10:90の重量割合で混合した以外は、サンプル3と同様にして飼料組成物を製造した。
【0056】
[サンプル8]
破砕したクラフトパルプに加水し、クラフトパルプとニンジンを90:10の割合で混合した以外は、サンプル3と同様にして飼料組成物を製造した。
【0057】
[サンプル9(比較例)]
破砕したクラフトパルプに加水し、ニンジンを混合せずに脱気密封した以外は、サンプル3と同様にして飼料組成物を製造した。
【0058】
[サンプル10(比較例)]
クラフトパルプを混合せずに、ニンジンのみで脱気密封した以外は、サンプル3と同様にして飼料組成物を製造した。
【0059】
【表1】
【0060】
サンプル1と比較して、サンプル2~3の飼料組成物は、乳酸発酵によりpHが低下した。また、パルプとニンジンを混合した飼料サンプルは、サンプル9~10よりも嗜好性が向上したが、クラフトパルプとニンジンの破砕物のサイズが50mmを超えたサンプル5は嗜好性が低下した。本発明の飼料組成物は優れた嗜好性を示したが、これは、本発明に係る飼料には牛が好む味や香りがあり、適度な歯ごたえもあるためだと考えられた。
【0061】
また、本発明の飼料組成物は、セルラーゼ糖化率が向上した。理由は不明だが、ニンジン由来の成分がセルラーゼ糖化率に影響を与えたものと考えられる。
さらに、本発明の飼料組成物は、β-カロテンの保存性が向上した。パルプに含まれる成分の抗酸化作用が保存性を向上させた可能性が考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7