(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】非接触給電構造
(51)【国際特許分類】
H02J 50/70 20160101AFI20240424BHJP
H02J 50/10 20160101ALI20240424BHJP
H02J 50/40 20160101ALI20240424BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
H02J50/70
H02J50/10
H02J50/40
H02J7/00 301D
(21)【出願番号】P 2020138711
(22)【出願日】2020-08-19
【審査請求日】2023-05-29
(73)【特許権者】
【識別番号】506209422
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
(73)【特許権者】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100095337
【氏名又は名称】福田 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100174425
【氏名又は名称】水崎 慎
(74)【代理人】
【識別番号】100203932
【氏名又は名称】高橋 克宗
(72)【発明者】
【氏名】秋山 美郷
(72)【発明者】
【氏名】佐野 宏靖
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 秀勝
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敬久
(72)【発明者】
【氏名】多氣 昌生
(72)【発明者】
【氏名】北原 真
【審査官】柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-143067(JP,A)
【文献】特開平10-004638(JP,A)
【文献】特開2002-280241(JP,A)
【文献】特開2015-088673(JP,A)
【文献】国際公開第2016/135893(WO,A1)
【文献】特開2014-150698(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0358960(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 50/70
H02J 50/10
H02J 50/40
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送電回路に含まれる第1送電コイルと、
前記送電回路に含まれ、前記第1送電コイルから所定間隔を開けて離間される第2送電コイルと、
受電回路に含まれる第1受電コイルおよび第2受電コイルと、
を備え、
前記第1送電コイルと前記第2送電コイルとの間に、前記第1受電コイルおよび前記第2受電コイルを内挿配置させ、
前記第1送電コイルおよび前記第1受電コイルは、
前記第1送電コイルから前記第1受電コイルへ電力が伝送されるように離間して対向配置され、
前記第2送電コイルおよび前記第2受電コイルは、
前記第2送電コイルから前記第2受電コイルへ電力が伝送されるように離間して対向配置され、
前記第1送電コイルおよび前記第2送電コイルは、
前記第1送電コイルから前記第1受電コイルへ電力が伝送されるときに生じる第1の磁界の漏えいする磁力線と、
前記第2送電コイルから前記第2受電コイルへ電力が伝送されるときに生じる第2の磁界の漏えいする磁力線と、
が打ち消し合うように前記送電回路に備える電源に接続される、
ことを特徴とする非接触給電構造。
【請求項2】
前記第1送電コイル、第1受電コイル、第2受電コイルおよび第2送電コイルは、
各コイル中心が同一軸線に沿うように配置されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の非接触給電構造。
【請求項3】
前記第1送電コイルは、
前記第1の磁界の漏えいする磁力線が、前記第2の磁界の漏えいする磁力線を打ち消す強さとなるように、該第1送電コイルの構造に応じた電流を前記電源から供給され、
前記第2送電コイルは、
前記第2の磁界の漏えいする磁力線が、前記第1の磁界の漏えいする磁力線を打ち消す強さとなるように、該第2送電コイルの構造に応じた電流を前記電源から供給される、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の非接触給電構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えば、二次電池を備えた機器等に2つの受電コイルを設け、この2つの受電コイルを、送電側の回路に設けられた2つの送電コイルで挟み込むように配置し、各送受電コイル間で電力を伝送する非接触給電構造に関する。
【背景技術】
【0002】
電力を用いて動作する機器に二次電池を備え、充電器等を直接接触(接続)させることなく、非接触状態で二次電池に充電電力を供給する技術がある。
非接触状態で電力を伝送する場合には、上記の機器等である給電対象に設置された受電コイル等と、充電機器等に設置された送電コイル等とを対向配置して近接させ、電磁誘導などを用いて電力を伝送する。
非接触状態において電力の伝送効率を高めるため、例えば、二次電池等の負荷を有する給電対象側(受電側の回路)に2つの受電コイルを備え、また、各受電コイルに対向配置される2つの送電コイルを充電器等の電力供給側(送電側の回路)に備え、2対の送受電コイルを用いることが考えられる。
【0003】
2対の送受信コイルを用いて非接触給電を行う技術(非接触給電構造)として、例えば、次のようなものがある。バッテリ(二次電池)を備えた電動自転車の前輪に、一の受電コイルと他の受電コイルとを設ける。また、一の受電コイルと対向配置される一の送電コイルと、他の受電コイルと対向配置される他の送電コイルとを、電力供給側となる駐輪施設の支持部材に設ける。
この非接触給電構造は、駐輪施設に設けられた一の送電コイルと他の送電コイルとの間に、電動自転車の前輪を挟み込むように駐輪し、挟み込まれた前輪に設けられた一の受電コイルおよび他の受電コイルに対して非接触給電を行うように構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非接触によって伝送される電力量を大きくするため、例えば、2対の送受電コイル(4つの送受電コイル)を備えた場合、各対の送受電コイル間に生じるそれぞれの磁界が互いに影響し合って、送受電コイルから離れた位置において磁界(不要磁界)が強め合う場所が生じる。
4つの送受電コイルを備えて非接触給電を行う場合、上記のように不要磁界が強め合う場所が生じるため、伝送電力の高出力化を図ると、周囲に存在する人体や機器などに影響が及ぶおそれがあり、電波法の準拠、および、人体等の安全性を確保することが必要になる。
【0006】
本開示は、上記の問題点を解決するために行われたもので、非接触状態で電力を伝送するとき、不要な磁界を減衰させて周囲にいる人体や機器などに与える影響を抑制することができる非接触電力構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る非接触給電構造は、送電回路に含まれる第1送電コイルと、前記送電回路に含まれ、前記第1送電コイルから所定間隔を開けて離間される第2送電コイルと、受電回路に含まれる第1受電コイルおよび第2受電コイルと、を備え、前記第1送電コイルと前記第2送電コイルとの間に、前記第1受電コイルおよび前記第2受電コイルを内挿配置させ、前記第1送電コイルおよび前記第1受電コイルは、前記第1送電コイルから前記第1受電コイルへ電力が伝送されるように離間して対向配置され、前記第2送電コイルおよび前記第2受電コイルは、前記第2送電コイルから前記第2受電コイルへ電力が伝送されるように離間して対向配置され、前記第1送電コイルおよび前記第2送電コイルは、前記第1送電コイルから前記第1受電コイルへ電力が伝送されるときに生じる第1の磁界の漏えいする磁力線と、前記第2送電コイルから前記第2受電コイルへ電力が伝送されるときに生じる第2の磁界の漏えいする磁力線と、が打ち消し合うように前記送電回路に備える電源に接続されることを特徴とする。
【0008】
また、前記第1送電コイル、第1受電コイル、第2受電コイルおよび第2送電コイルは、各コイル中心が同一軸線に沿うように配置されていることを特徴とする。
【0009】
また、前記第1送電コイルは、前記第1の磁界の漏えいする磁力線が、前記第2の磁界の漏洩する磁力線を打ち消す強さとなるように、該第1送電コイルの構造に応じた電流を前記電源から供給され、前記第2送電コイルは、前記第2の磁界の漏えいする磁力線が、前記第1の磁界の漏えいする磁力線を打ち消す強さとなるように、該第2送電コイルの構造に応じた電流を前記電源から供給されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、非接触によって電力を伝送する際に、不要な磁界を減衰させて周囲に与える影響を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の発明による実施の形態の非接触給電構造を備えた非接触給電回路の概略構成を示す説明図である。
【
図2】4つの送受電コイルが発生させる磁界の向きの組み合わせを示す説明図である。
【
図3】1対の送受電コイルが発生させる磁力線を示す説明図である。
【
図4】
図2のタイプAの送受電コイルが発生させる磁力線を示す説明図である。
【
図5】
図2のタイプDの送受電コイルが発生させる磁力線を示す説明図である。
【
図6】解析を行った従来型の送受電コイルの配置を示す説明図である。
【
図7】解析を行ったタイプAの送受電コイルの配置を示す説明図である。
【
図8】解析を行ったタイプDの送受電コイルの配置を示す説明図である。
【
図9】従来型、タイプAおよびタイプDの各送受電コイルによって生じるコイルから離れた位置の磁界強度の解析結果を示す説明図である。
【
図10】体内誘導電界強度を解析するときに想定した状態を示す説明図である。
【
図11】人体に生じる体内誘導電界強度の解析結果を示す説明図である。
【
図12】解析によって得られた体内誘導電界強度の値を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明の実施の一形態を説明する。
図1は、本開示の発明による実施の形態の非接触給電構造を備えた非接触給電回路1の概略構成を示す説明図である。
非接触給電回路1は、電源14から供給される電力を、受電回路3側へ送電する第1送電コイル10および第2送電コイル13を備えた送電回路2と、送電回路2から送電された電力を受電する第1受電コイル11および第2受電コイル12を備えて負荷15に給電する受電回路3とを有している。
【0013】
送電回路2は、第1送電コイル10と第2送電コイル13とを、受電回路3、もしくは第1受電コイル11および第2受電コイル12を挟み込むことができるように離間して配置し、電源14から第1送電コイル10および第2送電コイル13へ電力が供給されるように回路構成されている。
受電回路3は、第1送電コイル10と第2送電コイル13との間に挟み込まれるように配置された第1受電コイル11および第2受電コイル12を有し、第1受電コイル11および第2受電コイル12に伝送された電力が負荷15へ給電されるように回路構成されている。
上記の各送受電コイルは、第1送電コイル10が第1受電コイル11と対向し、第2送電コイル13が第2受電コイル12と対向して、それぞれ対を形成するように配置されている。
【0014】
また、非接触給電回路1は、第1送電コイル10と第2送電コイル13との間に、第1受電コイル11および第2受電コイル12が挟み込まれたとき、第1送電コイル10、第1受電コイル11、第2受電コイル12、第2送電コイル13の各コイル中心孔が同一軸線(後述するz軸)に沿うように、換言すると、各コイル中心孔が同一の軸線上に配置されるように(z軸が各コイル中心孔を貫通するように)、好ましくは、各コイルの中心軸が同一軸線に重なるように構成されている。
なお、負荷15は、例えば、充電可能な二次電池などである。
【0015】
次に動作について説明する。
図2は、4つの送受電コイルが発生させる磁界の向きの組み合わせを示す説明図である。図中、タイプA~Dのように配置された4つのコイルは、両端に配置された各コイルが第1送電コイル10ならびに第2送電コイル13に相当し、中央に配置された2つのコイルが第1受電コイル11ならびに第2受電コイル12に相当する。
図2に示した各矢印は、各コイルに発生する磁界の向きを示している。
【0016】
第1送電コイル10と第2送電コイル13との間に、第1受電コイル11および第2受電コイル12を挟み込むように(挟み込み型に)配置する場合、
図2に示したように4つの磁界配置モード(タイプA~Dの送受電コイルの配置)が考えられる。
タイプBは、例えば、第1送電コイル10が発生する磁界の向きと第2送電コイル13が発生する磁界の向きが同相となり、第1受電コイル11に発生する磁界の向きと第2受電コイル12に発生する磁界の向きが逆相となるように、各送受電コイルが配置構成されている。このように各送受電コイルを配置すると、受電回路3に電力が伝送されない。
タイプCは、例えば、第1送電コイル10が発生する磁界の向きと第2送電コイル13が発生する磁界の向きとが逆相で、第1受電コイル11に発生する磁界の向きと第2受電コイル12に発生する磁界の向きとが同相となるように、各送受電コイルが配置構成されている。このように各送受電コイルを配置すると、受電回路3に電力が伝送されない。
【0017】
非接触給電回路1は、送電回路2から受電回路3へ電力を伝送するため、第1送電コイル10、第1受電コイル11、第2受電コイル12、第2送電コイル13を、タイプAまたはタイプDのように(磁界配位を設定して)配置させることが必須になる。
以下、タイプAのように配置された第1送電コイル10、第1受電コイル11、第2受電コイル12、第2送電コイル13をタイプAの送受電コイルと記載し、タイプDのように配置された第1送電コイル10、第1受電コイル11、第2受電コイル12、第2送電コイル13をタイプDの送受電コイルと記載する。
【0018】
図3は、1対の送電コイル20および受電コイル21が発生させる磁力線100を示す説明図である。以下、
図3のように1対の送電コイル20および受電コイル21を対向させた送受電コイルを、従来型の送受電コイルと記載する。
図3の送電コイル20および受電コイル21は、各コイル(コイル中心)に生じる磁界の向きが、図中、z軸方向に沿って生じるように配置構成(同相の磁界が生じるように構成)されている。
ここで例示する従来型の送受電コイルは、図中、z軸の上側(y軸方向の上側)において左回りの磁力線100が生じる。
なお、
図3、および、後述する
図4、
図5に図示したz軸は、各コイルの中心を貫通する中心軸であり、y軸は、各コイルの径方向を示す。
図3~
図5に示した各コイルの周囲に、実際に生じる磁界(磁力線)は、図示した環状の各磁力線の一部が各コイルの中心を貫通し、各コイルが配置された空間において、z軸を中心に環状の磁力線を回転させたように生じる。
【0019】
図4は、
図2のタイプAの送受電コイルが発生させる磁力線を示す説明図である。タイプAのように、各送受電コイルに同相の磁界が生じる構成では、電力を伝送させる際に、例えば、図中、z軸の上側において、第1送電コイル10と第1受電コイル11との間に、左回りの磁力線101が生じる。また、第2受電コイル12と第2送電コイル13との間に、左回りの磁力線102が生じる。
なお、磁力線101は、第1送電コイル10および第1受電コイル11の近傍の磁力線(以下、各コイルの近傍に生じる磁力線をアンテナ近傍の磁力線と記載する)であり、磁力線102は、第2受電コイル12および第2送電コイル13のアンテナ近傍の磁力線である。
【0020】
上記のように、電力を伝送させる際に、各送受電コイル間に生じる磁力線は、それぞれのコイルから離れた位置においても存在する。第1送電コイル10と第1受電コイル11との間に生じる磁力線は、当該第1送電コイル10および第1受電コイル11から離れた位置においては磁力線103のように存在する。
第1送電コイル10から第1受電コイル11へ電力を伝送することによって生じる磁力線103は、例えば、第2受電コイル12、第2送電コイル13の設置位置(その周囲)に至る。磁力線103は、第1送電コイル10から第1受電コイル11へ伝送する電力を強くすると、さらに第2受電コイル12、第2送電コイル13を超えて存在する。
磁力線101および磁力線103は、第1送電コイル10から第1受電コイル11へ電力を伝送する際に生じることから、同一方向へ作用し、例えば、
図4に示したように、z軸の上側において左回りに生じる。
【0021】
また、第2受電コイル12と第2送電コイル13との間に生じる磁力線は、当該第2受電コイル12および第2送電コイル13から離れた位置においては、磁力線104のように存在する。
第2送電コイル13から第2受電コイル12へ電力を伝送することによって生じる磁力線104は、例えば、第1受電コイル11、第1送電コイル10の設置位置(その周囲)に至る。磁力線104は、第2送電コイル13から第2受電コイル12へ伝送する電力を強くすると、さらに第1受電コイル11、第1送電コイル10を超えて存在する。
磁力線102および磁力線104は、第2送電コイル13から第2受電コイル12へ電力を伝送する際に生じることから、同一方向へ作用し、例えば、
図4に示したように、z軸の上側において左回りに生じる。
即ち、磁力線103と磁力線104とは、同一方向に作用する磁力線であり、磁力を強め合うことになる。
【0022】
図5は、
図2のタイプDの送受電コイルが発生させる磁力線を示す説明図である。タイプDのように各コイルを配置すると、一の対を形成する第1送電コイル10および第1受電コイル11において電力を伝送するときに第1の磁界が生じ、他の対を形成する第2送電コイル13および第2受電コイル12において電力を伝送するときに、第1の磁界に対して逆相の第2の磁界が生じる。
詳しくは、タイプDの送受電コイルは、電力を伝送させる際に、例えば、第1送電コイル10と第1受電コイル11との間に、図中、z軸の上側において左回りの磁力線101が生じる。また、第2受電コイル12と第2送電コイル13との間に、右回りの磁力線105が生じる。なお、磁力線101は、第1送電コイル10および第1受電コイル11のアンテナ近傍の磁力線であり、磁力線105は、第2送電コイル13および第2受電コイル12のアンテナ近傍の磁力線である。
【0023】
上記のように、電力を伝送させる際に、各送受電コイルの間に生じる磁力線は、それぞれのコイルから離れた位置においても存在する。第1送電コイル10と第1受電コイル11との間に生じる磁力線は、当該第1送電コイル10および第1受電コイル11から離れた位置においては磁力線106のように存在する。
第1送電コイル10から第1受電コイル11へ電力を伝送することによって生じる磁力線106は、例えば、第2受電コイル12、第2送電コイル13の設置位置(その周辺)に至る。磁力線106は、第1送電コイル10から第1受電コイル11へ伝送する電力を強くすると、さらに第2受電コイル12、第2送電コイル13を超えて存在する。
磁力線101および磁力線106は、第1送電コイル10から第1受電コイル11へ電力を伝送する際に生じることから、同一方向へ作用し、例えば、
図5に示したように、z軸の上側において左回りに生じる。
【0024】
また、第2受電コイル12と第2送電コイル13との間において生じる磁力線は、当該第2受電コイル12および第2送電コイル13から離れた位置においては、磁力線107のようになる。
第2送電コイル13から第2受電コイル12へ電力を伝送することによって生じる磁力線107は、例えば、第1受電コイル11、第1送電コイル10の設置位置(その周辺)に至る。磁力線107は、第2送電コイル13から第2受電コイル12へ伝送する電力を強くすると、さらに第1受電コイル11、第1送電コイル10を超えて存在する。
磁力線105および磁力線107は、第2送電コイル13から第2受電コイル12へ電力を伝送する際に生じることから、同一方向へ作用し、例えば、
図5に示したように、z軸の上側において右回りに生じる。
即ち、磁力線106と磁力線107とは、互いに逆方向に作用するものとなり、磁力を打ち消し合うことになる。
【0025】
本開示の非接触給電構造は、タイプDのように各送受電コイルを配置し、これらのコイルから離れた位置において磁力線106および磁力線107が打ち消し合うように(磁界および誘導電界を減少させるように)構成したものである。
タイプDのように、第1送電コイル10、第1受電コイル11、第2受電コイル12、第2送電コイル13を配置するとき、例えば、各コイル中心をz軸上に揃えると、第1送電コイル10と第1受電コイル11との間に生じるアンテナ近傍の磁力線101の強さを維持(電力を高い効率で伝送)させて、これらのコイルから離れた位置の磁力線106(漏えいする磁力線)の強さを減少させることができる。即ち、第1送電コイル10から第1受電コイル11へ電力を伝送させる効率の劣化を抑えて、これらのコイルから離れた位置の不要な磁力線106(漏えいする磁力線)を減少させることができる。
また、上記のように各コイル中心を揃えることにより、第2送電コイル13と第2受電コイル12との間に生じるアンテナ近傍の磁力線105の強さを維持(電力を高い効率で伝送)させて、これらのコイルから離れた位置の磁力線107(漏えいする磁力線)の強さを減少させることができる。即ち、第2送電コイル13から第2受電コイル12へ電力を伝送させる効率の劣化を抑えて、これらのコイルから離れた位置の不要な磁力線107(漏えいする磁力線)を減少させることができる。
【0026】
具体的には、非接触給電回路1、もしくは送電回路2は、例えば、電源14から第1送電コイル10に流れる電流の向きと、電源14から第2送電コイル13に流れる電流の向きが逆になるように、第1送電コイル10ならびに第2送電コイル13が回路接続されている。
また、上記のように第1送電コイル10ならびに第2送電コイル13にそれぞれ電流が流れたとき、第1送電コイル10から第1受電コイル11へ電力の伝送を行うときに生じる磁界(磁力線101、磁力線106)に対して、第2送電コイル13から第2受電コイル12へ電力の伝送を行うときに生じる磁界(磁力線105、磁力線107)が逆向きとなるように、第1送電コイル10、第1受電コイル11、第2受電コイル12、第2送電コイル13の各極性を定めて、各送受電コイルが回路接続されている。
【0027】
第1送電コイル10へ流れる電流の大きさは、磁力線106が、磁力線107を打ち消すことができる強さとなるものである。この第1送電コイル10に流れる電流は、当該第1送電コイル10のコイルの構造に応じた値を有する。
また、第2送電コイル13に流れる電流の大きさは、磁力線107が、磁力線106を打ち消すことができる強さとなるものである。この第2送電コイル13に流れる電流は、当該第2送電コイル13のコイルの構造に応じた値を有する。即ち、第1送電コイル10および第2送電コイル13が同様なコイルの構造を有する場合には、それぞれのコイルに流れる電流は同様な値を有するものとなる。
なお、上記のコイルの構造は、前述の漏えいした磁力線を打ち消す作用を大きくするための構造であり、例えば、上記の作用が大きくなるサイズでコイルを構成し、また、上記の作用が大きくなるようにコイル厚みを薄く構成した構造である。一例として、第1送電コイル10と第1受電コイル11、および、第2受電コイル12と第2送電コイル13は、いずれも同じ直径に形成され、十分に上記の作用が生じるように構成されている構造である。
また、第1送電コイル10ならびに第2送電コイル13に流れる各電流は、いずれも送電回路2を介して電源14から供給されるものである。
【0028】
次に送受電コイルの各配置タイプにおける、コイルから離れた位置の磁界強度の解析(比較)結果を説明する。
図6は、解析を行った従来型の送受電コイルの配置を示す説明図、
図7は、解析を行ったタイプAの送受電コイルの配置を示す説明図、
図8は、解析を行ったタイプDの送受電コイルの配置を示す説明図である。
図6に示した送電コイル20と受電コイル21との間の距離d1は、5[cm]である。
また、
図7および
図8に示した第1送電コイル10と第1受電コイル11との間の距離d1は5[cm]である。
図7および
図8に示した第1受電コイル11と第2受電コイル12との間の距離d2は8[cm]であり、第1送電コイル10と第2送電コイル13との間の距離d3は、18[cm]である。
即ち、
図7および
図8に示した第2受電コイル12と第2送電コイル13との間の距離は5[cm]であり、第1送電コイル10と第1受電コイル11との間の距離d1と同様である。
【0029】
上記のように各コイルの間隔を設定して、従来型、タイプAおよびタイプDの各配置について、コイルから離れた位置の磁界強度を算出した。この算出においては、電源の発振周波数を85[kHz]と設定して磁界強度を求めた。また、
図6~
図8に示した各配置において、コイルから離れた位置の磁界強度を求める際には、受電回路3の受電電力が500[W]となるように、それぞれ送電回路2の出力を調整(設定)して上記の算出を行った。
なお、実際に非接触給電回路1を構成する場合においても、送電回路2の出力調整を行い、即ち、第1送電コイル10に流れる電流(電源14から供給される電力)と、第2送電コイル13に流れる電流(電源14から供給される電力)とを、それぞれ適当な大きさに調整して、第1送電コイル10から第1受電コイル11へ電力を伝送するときに生じる磁界の強さと、第2送電コイル13から第2受電コイル12へ電力を伝送するときに生じる磁界の強さとを調整し、コイルから離れた位置において、磁力線106と磁力線107と(漏えいする磁力線)が打ち消し合うことができるように構成するとよい。
【0030】
図9は、従来型、タイプAおよびタイプDの各送受電コイルによって生じる、コイルから離れた位置の磁界強度の解析結果を示す説明図である。この図は、横軸が
図3~
図8に示したy軸方向の(各送受電コイルから離れた)距離を表し、縦軸が各距離における磁界強度を表している。なお、
図9においては、距離がY、磁界強度がHと表記されている。
図9に実線で示した特性は、タイプAの送受電コイルが発生する磁界強度の距離特性である。また、
図9に一転鎖線で示した特性は、タイプDの送受電コイルが発生する磁界強度の距離特性である。また、
図9に破線で示した特性は、従来型の送受電コイルが発生する磁界強度の距離特性である。
また、
図9の円で囲われた部分は、コイルから離れた位置と定めた概ねの範囲を表している。
【0031】
図9に示した各特性を比較すると、タイプAの特性は、コイルから離れた位置において従来型の特性と概ね同様な程度で変化(減少)し、距離に応じて(各送受電コイルから遠くなるほど)、概ね一定の割合で磁界強度が減少することがわかる。
また、タイプDの特性は、コイルから離れた位置において、タイプA等に比べて磁化強度が大きく減少することがわかる。
【0032】
タイプDは、前述のように
図5に示した磁力線106および磁力線107が、互いに打ち消し合う。即ち、タイプDのように各送受電コイルを配置すると、コイルから離れた位置において逆向きの磁界同士が打ち消し合うため、各送受電コイルから充分離れた位置では、磁界強度が急峻に減少する。このような作用は、
図9を用いて説明した各特性の解析(比較)結果と整合する。
各送受電コイルをタイプDのように配置すると、例えば、EMC設計を行う際に優位になることがわかる。
【0033】
次に送受電コイルの各配置タイプにおける体内誘導電界強度の解析(比較)結果を説明する。
図10は、体内誘導電界強度を解析するときに想定した状態を示す説明図である。この図は、第1送電コイル10、第1受電コイル11、第2受電コイル12、第2送電コイル13(または、図示されない送電コイル20および受電コイル21)を人の脚部200に近付けた状態を示している。
【0034】
体内誘導電界の解析を行うとき、
図10に示したように、人の脚部200から水平方向の距離がd4の位置に、例えば、第1送電コイル10、第1受電コイル11、第2受電コイル12、第2送電コイル13が、タイプAまたはタイプDのように配置されていると想定した。またさらに、タイプAまたはタイプDのように配置された4つの送受電コイルに替えて、従来型の送受電コイル(図示されない送電コイル20および受電コイル21)が配置されていると想定した。
また、これらの送受電コイルは、床または地面からの高さがd5の位置に設置されていると想定した。
具体的には、例えば、距離d4は7[cm]、高さd5は33[cm]と想定して解析を行った。
【0035】
図11は、人体300,301に生じる体内誘導電界強度の解析結果を示す説明図である。この図は、人体を縦方向(身長方向)にスライスした面における体内誘導電界の強度分布を表している。
人体300は、図示されない従来型に配置された送電コイル20および受電コイル21(1対の送受電コイル)を脚部200に近付けている。
人体301は、図示されないタイプDのように配置された第1送電コイル10、第1受電コイル11、第2受電コイル12、第2送電コイル13を脚部200に近付けている。
【0036】
人体300と人体301とを比較すると、それぞれの脚部200における体内誘導電界強度は、人体301の方が明らかに弱いことがわかる。
なお、タイプAの送受電コイルを人体に近付けた場合は、概ね従来型の送受電コイルを人体300に近付けた場合と同様な解析結果が得られる。ここでは、タイプAの送受電コイルについて、体内誘導電界強度に関する解析結果等の説明を省略する。
【0037】
図12は、解析によって得られた体内誘導電界強度の値を示す説明図である。この図は、横軸が体内誘導電界強度の値を表し、縦軸が体内誘導電界強度の各値になる体内の範囲(電界強度が同一値になる範囲の大きさ)を表すヒストグラムである。
図12には、従来型の送受電コイルを人体に近付けた場合の体内誘導電界強度と、タイプDの送受電コイルを人体に近付けた場合の体内誘導電界強度とを示している。
なお、タイプAの送受電コイルを人体に近付けた場合の体内誘導電界強度は、従来型の送受電コイルを人体に近付けた場合と概ね同様になる。ここでは、タイプAの送受電コイルを人体に近付けた場合の体内誘導電界強度について、図示ならびに説明を省略する。
【0038】
図12のヒストグラムから、従来型の送受電コイルを人体に近付けた場合の体内誘導電界強度の平均値が86.5[dBμV/m]であることがわかり、また、タイプDの送受電コイルを人体に近付けた場合の体内誘導電界強度の平均値が79.1[dBμV/m]であることがわかる。
即ち、タイプDの送受電コイルは、従来型の送受電コイルに比べて、体内誘導電界強度が6[dB]以上小さくなり、人体に与える影響を抑えることができる。
【0039】
タイプAおよびタイプDの各送受電コイルを動作させた(電力の伝送が行われている)とき、例えば、10[m]離れた位置における漏えい磁界強度を測定したところ、次のような結果が得られた。
なお、漏えい磁界強度の検知にループアンテナを用い、直線状に並んでいる各送受電コイルに対して、ループ部分が対向する状態、ループ部分が直交する状態、および、ループ部分が水平になる状態において、それぞれ磁界強度の測定を行った。
【0040】
(1)各受電コイル(第1受電コイル11、第2受電コイル12)の受電電力が2.5[W]となるように、各送電コイル(第1送電コイル10、第2送電コイル13)に電力(発振周波数85kHz)を供給すると、ループアンテナを対向する状態とした場合には、タイプAの漏えい磁界強度が35.1[dBμA/m]、タイプDの漏えい磁界強度が14.1[dBμA/m]となった。
また、ループアンテナを直交する状態とした場合には、タイプAの漏えい磁界強度が31.5[dBμA/m]、タイプDの漏えい磁界強度が9.1[dBμA/m]となった。
また、ループアンテナを水平状態とした場合には、タイプAの漏えい磁界強度が21.3[dBμA/m]、タイプDの漏えい磁界強度が0.6[dBμA/m]となった。
以上の各磁界強度は、実測値である。
【0041】
(2)各受電コイル(第1受電コイル11、第2受電コイル12)の受電電力が500[W]となる場合(各送電コイルに発振周波数85kHzの電力が供給されるとき)の漏えい磁界強度を、換算によって求めると、ループアンテナを対向する状態とした場合には、タイプAの漏えい磁界強度が58.1[dBμA/m]、タイプDの漏えい磁界強度が37.1[dBμA/m]となった。
また、ループアンテナを直交する状態とした場合には、タイプAの漏えい磁界強度が54.5[dBμA/m]、タイプDの漏えい磁界強度が32.1[dBμA/m]となった。
また、ループアンテナを水平状態とした場合には、タイプAの漏えい磁界強度が44.3[dBμA/m]、タイプDの漏えい磁界強度が23.6[dBμA/m]となった。
【0042】
上記の(1)および(2)の測定において得られた漏えい磁界強度は、いずれも電波法において許容される(発振周波数85kHzにおいて)68.4[dBμA/m]を下回っている。
特に、500[W]の電力伝送時には、タイプAに比べてタイプDは漏えい磁界強度が相当小さくなることがわかる。
タイプDの配置構成は、漏えい磁界強度を小さくすることが可能で、特に、大電力を伝送する場合に漏えい磁界強度を有効に抑制することができる。
【0043】
以上のように第1送電コイル10、第1受電コイル11、第2受電コイル12、第2送電コイル13をタイプDのように配置し、コイルから離れた位置において、磁力線106および磁力線107(漏えいする磁力線)が打ち消し合うように構成することにより、コイルから離れた位置の磁界強度が抑制され、上記の各送受電コイルを有する機器等の近くに配置された、他の機器などに対する電磁両立性を向上させることができる。
また、上記の各送受電コイルを有する機器等の近くに人がいる場合、この人に発生する人体誘導電界の強度を抑制することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 非接触給電回路
2 送電回路
3 受電回路
10 第1送電コイル
11 第1受電コイル
12 第2受電コイル
13 第2送電コイル
14 電源
15 負荷
20 送電コイル
21 受電コイル
100~107 磁力線
200 脚部
300,301 人体