(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】免疫調節剤を含む徐放性医薬組成物およびその使用
(51)【国際特許分類】
A61K 9/127 20060101AFI20240424BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20240424BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20240424BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20240424BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20240424BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20240424BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20240424BHJP
A61K 47/28 20060101ALI20240424BHJP
A61K 31/404 20060101ALI20240424BHJP
A61K 31/137 20060101ALI20240424BHJP
A61K 31/4704 20060101ALI20240424BHJP
A61K 31/4245 20060101ALI20240424BHJP
A61K 31/426 20060101ALI20240424BHJP
A61K 31/397 20060101ALI20240424BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240424BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
A61K9/127
A61P37/06
A61K47/24
A61K47/34
A61K47/04
A61K47/26
A61K47/36
A61K47/28
A61K31/404
A61K31/137
A61K31/4704
A61K31/4245
A61K31/426
A61K31/397
A61K45/00
A61P37/02
(21)【出願番号】P 2021521380
(86)(22)【出願日】2019-10-15
(86)【国際出願番号】 US2019056186
(87)【国際公開番号】W WO2020081485
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2022-09-02
(32)【優先日】2018-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521158749
【氏名又は名称】タイワン リポソーム カンパニー リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】521158750
【氏名又は名称】ティーエルシー バイオファーマシューティカルズ, インク
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ホン,キールン
(72)【発明者】
【氏名】グワスニー,ウォルター
(72)【発明者】
【氏名】ファン,ジョナサン
(72)【発明者】
【氏名】カオ,ハオ-ウェン
(72)【発明者】
【氏名】リン,イ-ユ
【審査官】渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-518340(JP,A)
【文献】特表2016-513655(JP,A)
【文献】国際公開第2017/123588(WO,A1)
【文献】MAO Y. et al.,A novel liposomal formulation of FTY720 (Fingolimod) for promising enhanced targeted delivery,Nanomedicine. Author Manuscript, NIH Public Access,2014年08月16日,pp.1-19
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)二重層膜を含む少なくとも1つのリポソームであって、前記二重層膜が約
45~約79.9モルパーセントの第1の脂質
と、約20~約25モルパーセントのコレステロール
と、必要に応じて約0.1~約10モルパーセントの第2の脂質と、の混合物を含む、リポソーム、
(b)スクロースオクタ硫酸トリエチルアンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウ
ムおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される捕捉剤、および
(c)エトラシモド、フィンゴリモド、ラキニモド、オザニモド、ポネシモド、シポニモドおよびそれらの組み合わせからなる群より選択されるスフィンゴシン-1-リン酸(S1P)受容体アゴニスト
を含み、前記
第1の脂質
および必要に応じて前記第2の脂質に対するスフィンゴシン-1-リン酸(S1P)受容体アゴニストのモル比が約
0.49より高
く、
前記第1の脂質がHSPC、DPPC、DMPCまたはそれらの組み合わせであり、前記第2の脂質がPEG-DSPE、DPPGまたはそれらの組み合わせである、医薬組成物。
【請求項2】
前記リポソームの平均粒径が約50nm~20μmである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記スクロースオクタ硫酸トリエチルアンモニウムの濃度が約10~200mMである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記硫酸アンモニウムの濃度が約100~600mMである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記リン酸アンモニウムの濃度が約100~600mMである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記第1の脂質がDMPCであり、前記第2の脂質がPEG-DSPEである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記第1の脂質がDPPCであり、前記第2の脂質がPEG-DSPEである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記第1の脂質がHSPCであり、前記第2の脂質がPEG-DSPEまたはDPPGである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の医薬組成物の治療有効
量を含む、自己免疫疾患を治療するための治療薬。
【請求項10】
前記
医薬組成物中のスフィンゴシン-1-リン酸(S1P)受容体アゴニストの半減期が、遊離
のスフィンゴシン-1-リン酸(S1P)受容体アゴニストの半減期と比較して、少なくとも約2倍延長される、請求項9に記載の治療薬。
【請求項11】
前記医薬組成物が、少なくとも1週間に1回、2週間に1回、または1ヶ月に1回投与される、請求項9に記載の治療薬。
【請求項12】
前記医薬組成物が、皮膚注射によって投与される、請求項9に記載の治療薬。
【請求項13】
前記皮膚注射が、皮内(intracutaneous)、皮下(subcutaneous)、
真皮下(subdermal)、皮内(intradermal)または筋肉内経路を含む、請求項12に記載の治療薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年10月17日に出願された、米国特許出願第62/746,810号の利益を主張し、その開示全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
技術分野
本発明は、少なくとも1つの捕捉剤を使用して、高い薬物対脂質比(drug to lipid ratio)および高いカプセル化効率を有する免疫調節剤を含む徐放性医薬組成物に関する。請求項に規定される医薬組成物の高い薬物対脂質比、高いカプセル化効率および徐放性プロファイルは、薬物投与の頻度を減少させ、患者のコンプライアンスを増加させ、治療結果を改善する。
【背景技術】
【0003】
フィンゴリモドなどのスフィンゴシン-1-リン酸(Sphingosine-1-phosphate)(S1P)受容体アゴニストは、再発型の多発性硬化症(RMS)を含む多発性硬化症などの自己免疫疾患の治療で承認されており、S1P受容体アゴニストは経口投与され、主要な懸念はS1P受容体のアゴニスト作用(agonism)が徐脈をもたらす可能性があることである。この潜在的に致死的な心臓事象を考慮して、フィンゴリモドの最初の投与を受けた患者は、投与後少なくとも6時間、医療従事者によってモニターされる(GILENYA(登録商標)(フィンゴリモド)添付文書)。心臓の有害事象を最小限に抑え、薬剤耐性を改善し、用量調節の必要性を軽減する製剤を開発することは有益であろう。さらに、S1P受容体アゴニストの用量または投与頻度を減少させるための徐放性製剤が有利であろう。
【0004】
薬物送達システムとしてのリポソームは成功した技術であり、種々の薬物に対し徐放性製剤を開発するために広く使用されている。リポソームへの薬物充填(loading)は受動的に(薬物はリポソーム形成の間にカプセル化される)または遠隔/能動的に(リポソーム形成の間に膜貫通pH勾配またはイオン勾配を作製し、続いてリポソーム形成の後に勾配から生成される駆動力によって薬物を充填する)のいずれかで達成され得る(米国特許第5,192,549号および同第5,939,096号を参照のこと)。リポソームへの薬物充填の一般的な方法は文献において十分に実証されているが、少数の治療剤しか、高いカプセル化効率でリポソームに充填されなかった。以下に制限されないが、治療薬の物理的および化学的特性、例えば、親水性/疎水性特性、解離定数、溶解度および分配係数、脂質組成、捕捉剤、反応溶媒、および粒子径などの、多くの因子がリポソームのカプセル化効率に影響を及ぼし得る(Proc. Natl. Acad. Sci U S A. 2014; 111(6): 2283-2288 and Drug Metab. Dispos. 2015; 43 (8):1236-45)。
【0005】
Maoらは、受動充填法(passive loading method)および溶剤注入法(solvent injection method)を用いた、卵ホスファチジルコリン、コレステロール、およびDSPE-PEG2000(Nanomed. 2014; 10(2): 393-400)を含むリポソームフィンゴリモド製剤を開示している。リポソームは直径157.5nmであり、カプセル化効率は85.2%であり、最終薬物対脂質比(D/L)は0.11であった。残念ながら、受動的充填は、リポソーム中にカプセル化され得る薬物の量を制限する。
【0006】
免疫調節剤の投薬頻度を減少させ、治療結果を改善するために、高い薬物対脂質比および高いカプセル化効率を有する徐放性製剤に対する満たされていない必要性が依然として存在する。本発明は、この必要性および他の必要性に対処する。
【発明の概要】
【0007】
発明の概要
一実施形態では、(a)二重層膜を含む少なくとも1つのリポソーム;(b)捕捉剤;および(c)免疫調節剤を含み、二重層膜が少なくとも1つの脂質を含み、免疫調節剤対脂質のモル比(molar ratio of the immunomodulating agent to the lipid)が約0.2以上である、徐放性医薬組成物が提供される。
【0008】
本発明の別の実施形態によれば、自己免疫疾患を治療するための方法であって、本明細書に記載の医薬組成物を、それを必要とする対象に投与する工程を有する方法が提供される。
【0009】
また、自己免疫疾患を治療するための薬剤の製造における、本明細書に記載の医薬組成物の使用が提供される。
【0010】
さらに、本明細書に記載の医薬組成物の治療有効量を含む、対象の自己免疫疾患を治療するための薬剤が提供される。
【0011】
本特許で使用される用語「発明(invention)」、「本発明(the invention)」、「本発明(this invention)」、および「本発明(the present invention)」は、本特許および以下の特許請求の範囲の主題のすべてを広く指すことを意図している。これらの用語を含む記述は、本明細書に記載される主題を限定するものではなく、以下の特許請求の範囲の意味または範囲を限定するものでもないと理解されるべきである。この特許によってカバーされる本発明の実施形態は、この概要ではなく、以下の特許請求の範囲によって定義される。この概要は本発明の様々な態様の高レベルの概要であり、以下の詳細な説明のセクションでさらに説明される概念のいくつかを紹介する。この概要は、請求項に規定される主題の重要なまたは必須の特徴を特定することを意図するものではなく、請求項に規定される主題の範囲を決定するために単独で使用されることを意図するものでもない。主題は、明細書全体、任意のまたはすべての図面、および各請求項の適切な部分を参照することによって理解されるべきである。
【0012】
本発明の本質および利点は明細書および図面の残りの部分を参照することにより一層理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図面の簡単な説明
【
図1】
図1は、実施例1のリポソームフィンゴリモド製剤および遊離フィンゴリモドのインビトロ放出プロファイルを示す折れ線図である。
【
図2】
図2は、遊離またはリポソームフィンゴリモド製剤の静脈内注射およびリポソームフィンゴリモド製剤の皮下注射後のラットにおける血漿フィンゴリモド濃度を示す折れ線図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
発明の詳細な説明
上記および本開示全体を通して使用される、下記用語は、本明細書中で特記しない限り、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈で明確に示されない限り、複数形を含む。
【0015】
本明細書中のすべての数字は「約」によって修飾されたものとして理解され得る。本明細書中で使用される、「約」という用語は、特定の値の±10%の範囲を指す。
【0016】
本明細書中で使用される、「有効量」は、自己免疫疾患の症状および/または徴候を減少させるなどの、免疫調節効果を引き出す医薬組成物の用量をいう。「有効量」および「治療有効量」という用語は互換的に使用される。
【0017】
「免疫調節剤」および「自己免疫疾患を処置するための治療剤」という用語は、互換的に使用され、自己免疫疾患の症状および/または徴候を減少させる免疫調節効果を引き出す治療剤を指す。
【0018】
本明細書で使用される「治療する(treat)」、「治療される(treated)」、または「治療(treatment)」という用語は、予防的な(preventative)(例えば、予防的な(prophylactic))、緩和的な(palliative)、および治癒的な(curative)方法、使用、または結果を含む。「治療(treatment)」または「治療(treatments)」という用語は、組成物または薬剤を指すこともできる。本出願全体を通して、治療とは、自己免疫疾患の1以上の症状もしくは徴候を軽減もしくは遅延させる方法または当技術分野で公知の技術によって検出される際に自己免疫疾患の完全な改善を意味する。自己免疫疾患およびその症状(赤血球沈降速度、C反応性タンパク質濃度、抗環状シトルリン化ペプチド抗体、抗核抗体、およびX線を含むが、これらに限定されない)を評価するために、当技術分野で認識されている方法が利用可能である。したがって、軽減は、約1、5、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100%、またはその間の任意の量の軽減であり得る。
【0019】
本明細書中で使用される、「自己免疫疾患」という用語は、以下に限定されないが、橋本甲状腺炎リウマチ性関節炎(Hashimoto’s thyroiditis rheumatoid arthritis)、全身性および皮膚型のエリテマトーデス、潰瘍性大腸炎および多発性硬化症を含む疾患群であり、ここで、個人の免疫系はそれ自身を異物として認識し、身体自身の組織構成成分に対する体液性または細胞性免疫応答を介して正常組織の機能喪失または破壊を引き起こす。一実施形態では、自己免疫疾患は、全身性エリテマトーデスなどの全身性である。他の実施形態では、自己免疫は、甲状腺炎などの局在性または器官特異的である。
【0020】
「対象(subject)」という用語は、自己免疫疾患を有するかまたは有する疑いのある脊椎動物を指すことができる。対象には、霊長類などの哺乳動物、より好ましくはヒトなどのすべての温血動物が含まれる。非ヒト霊長類も同様に対象である。対象という用語は、ネコ、イヌなどの飼いならされた動物、家畜(例えば、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギなど)および実験動物(例えば、マウス、ウサギ、ラット、アレチネズミ、モルモットなど)を含む。したがって、獣医学的使用および医学的製剤が、本明細書中に包含される。
【0021】
リポソーム
本明細書中で使用される用語「リポソーム(liposome)」、「リポソームの(liposomal)」および関連する用語は、小胞を形成する1つ以上の二重層膜によって外部媒体から隔離された内部水性空間を特徴とする。特定の実施形態において、リポソームの内部水性空間は、トリグリセリド、非水相(油相)、水-油エマルジョンまたは非水相を含む他の混合物などの、中性脂質を実質的に含まない。リポソームの非限定的な例には、50~20μm、50~450nm、50~400nm、50~350nm、50~300nm、50~250nm、50~200nm、100~500nm、100~450nm、100~400nm、100~350nm、100~300nm、100~250nmまたは100~200nmの平均直径範囲を有する小さな単ラメラ小胞(SUV)、大きな単ラメラ小胞(LUV)、および多ラメラ小胞(MLV)が含まれる。
【0022】
リポソームの二重層膜は、典型的には少なくとも1つの脂質、すなわち、空間的に分離された疎水性および親水性ドメインを含む合成または天然起源の両親媒性分子によって形成される。脂質の例としては、リン脂質、ジグリセリド、ジ脂肪族(dialiphatic)糖脂質等のジ脂肪族鎖脂質(dialiphatic chain lipids)、スフィンゴミエリンおよびスフィンゴ糖脂質のような単一脂質、ならびにそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。本開示によるリン脂質の例としては、1,2-ジラウロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DLPC)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)、1-パルミトイル-2-ステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(PSPC)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルコリン(POPC)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)、1,2-ジオレオイル1-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、水素化大豆ホスファチジルコリン(HSPC)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-(1’-rac-グリセロール)(ナトリウム塩)(DMPG)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-(1’-rac-グリセロール)(ナトリウム塩)(DPPG)、1-パルミトイル-2-ステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-(1’-rac-グリセロール)(ナトリウム塩)(PSPG)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-(1’-rac-グリセロール)(ナトリウム塩)(DSPG)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-(1’-rac-グリセロール)(DOPG)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-L-セリン(ナトリウム塩)(DMPS)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-L-セリン(ナトリウム塩)(DPPS)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-L-セリン(ナトリウム塩)(DSPS)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-L-セリン(DOPS)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスフェート(ナトリウム塩)(DMPA)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスフェート(ナトリウム塩)(DPPA)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスフェート(ナトリウム塩)(DSPA)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスフェート(ナトリウム塩)(DOPA)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DPPE)、N-(カルボニル-メトキシポリエチレングリコール)-1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(PEG-DPPE)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(POPE)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE)、N-(カルボニル-メトキシポリエチレングリコール)-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(PEG-DSPE)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-(1’-ミオ-イノシトール)(アンモニウム塩)(DPPI)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホイノシトール(アンモニウム塩)(DSPI)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-(1’-ミオ-イノシトール)(アンモニウム塩)(DOPI)、カルジオリピン、L-α-ホスファチジルコリン(EPC)、およびL-α-ホスファチジルエタノールアミン(EPE)が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、脂質は、1つ以上の上記脂質の脂質混合物、または1つ以上の上記脂質と1つ以上の上記に列挙されていない他の脂質、膜安定化剤もしくは酸化防止剤との混合物である。
【0023】
特定の実施形態では、リポソームの二重層膜中の脂質のモルパーセントは、約80、79、78、77、76、75、74、73、72、71、70、69、68、67、66、65、64、63、62、61、60、59、58、57、56、55、54、53、52、51、50、49、48、47、46、45、またはそれらの間の任意の値もしくは値の範囲(例えば、約45~80%、約45~75%、約45~70%、約45~65%、約50~80%、約50~75%、約50~70%、約50~65%)である。
【0024】
いくつかの実施形態では、脂質が第1の脂質と第2の脂質との混合物を含む。いくつかの実施形態では、第1の脂質は、ホスファチジルコリン(PC)、HSPC、DSPC、DPPC、DMPC、PSPCおよびそれらの組み合わせから実質的に構成される群より選択され、第2の脂質は、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルグリセロール、PEG-DSPE、DPPGおよびそれらの組み合わせから実質的に構成される群より選択される。他の実施形態では、リポソーム中の第1の脂質のモルパーセントは、約79.9、79.5、79.1、79、78、77、76、75、74、73、72、71、70、69、68、67、66、65、64、63、62、61、60、59、58、57、56、55、54、53、52、51、50、49、48、47、46、45、44、43、42、41、40以下、またはそれらの間の任意の値または値の範囲(例えば、約40~79.9%、約40~79.5%、約40~79.1%、約40~75%、約40~70%、約40~65%、約45~79.9%、約45~79.5%、約45~79.1%、約45~75%、約45~70%、約45~65%、約45~60%、約50~79.9%、約50~79.5%、約50~79.1%、約50~75%、約50~70%、約50~65%、約50~60%)であり、リポソーム中の第2の脂質のモルパーセントは、約10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0.5、0.1以下、またはその間の任意の値または値の範囲(例えば、約0.1~10%、約0.1~9%、約0.1~8%、約0.1~7%、約0.1~6%、約0.1~5%、約0.5~10%、約0.5~9%、約0.5~8%、約0.5~7%、約0.5~6%または約0.5~5%)である。
【0025】
リポソームの二重層膜は、約55モルパーセント未満のステロイド、好ましくはコレステロールをさらに含む。特定の実施形態では、二重層膜中のステロイド(コレステロールなど)のパーセントは、約20~55%、約20~50%、約20~45%、約20~40%、約25~55%、約25~50%、約25~45%、または約25~40%である。
【0026】
具体的な一実施形態では、リポソームの二重層膜中の脂質およびコレステロールのモルパーセントは、約45~80%:20~55%または50~75%:25~50%である。他の具体的な実施形態では、二重層膜中の第1の脂質、第2の脂質およびコレステロールのモルパーセントは、約40~79.5%:0.5~10%:20~55%、40~79.9%:0.1%~10%:20~55%、40~75%:0.1~10%:20~50%または45~70%:0.1~10%:25~45%であり、第1の脂質は、HSPC、DMPC、DPPC、DSPCまたはそれらの組み合わせであり、第2の脂質は、DSPE-PEG2000、DPPGまたはそれらの組み合わせである。
【0027】
リモート充填(Remote Loading)
本明細書で使用される「リモート充填(remote loading)」という用語は、多原子イオン勾配(polyatomic ion-gradient)によって、治療薬を外部媒体からリポソームの二重層膜を横切って内部水性空間に移動させる手順を含む薬物充填方法である。このような勾配は、少なくとも1つの多原子イオンを捕捉剤としてリポソームの内部水性空間にカプセル化し、カラム分離、透析または遠心分離などの公知の技術によって、リポソームの外部媒体をより低い多原子イオン濃度の外部媒体、例えば、純水、スクロース溶液および生理食塩水などに置き換えることによって生成される。多原子イオン勾配は、リポソームの内部水性空間と外部媒体との間に生成され、治療薬をリポソームの内部水性空間に捕捉する。捕捉剤としての具体的な多原子イオンとしては、硫酸塩、亜硫酸塩、リン酸塩、リン酸水素塩、モリブデン酸塩、炭酸塩および硝酸塩が挙げられるが、これらに限定されない。具体的な捕捉剤としては、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、モリブデン酸アンモニウム、スクロースオクタ硫酸アンモニウム(ammonium sucrose octasulfate)、スクロースオクタ硫酸トリエチルアンモニウム(triethylammonium sucrose octasulfate)、および硫酸デキストランが挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
一実施形態では、硫酸アンモニウムの濃度は、約100~約600mM、約150~約500mMまたは約200~約400mMである。他の実施形態では、スクロースオクタ硫酸トリエチルアンモニウムの濃度は、約10~約200mMまたは約50~約150mMである。さらなる他の実施形態では、リン酸アンモニウムの濃度は、約100~約600mM、約150~約500mMまたは約200~約400mMである。さらなる他の実施形態では、硫酸デキストランの濃度は、約0.1~20mMまたは約1~10mMである。
【0029】
本発明によれば、捕捉剤をカプセル化するリポソームは、現在知られているかまたは後に開発される技術のいずれかによって調製することができる。例えば、MLVリポソームは、捕捉剤を含む所定の脂質組成物の水和脂質フィルム、噴霧乾燥粉末または凍結乾燥ケーキによって直接形成することができる;SUVリポソームおよびLUVリポソームは、超音波処理、均質化、マイクロ流動化(microfluidization)または押出によってMLVリポソームからサイズ調整する(sized)ことができる。
【0030】
医薬組成物
本発明は(a)二重層膜を含む少なくとも1つのリポソーム;(b)捕捉剤;および(c)免疫調節剤を含み、二重層膜が少なくとも1つの脂質を含み、免疫調節剤対脂質のモル比(molar ratio of the immunomodulating agent to the lipid)が約0.2以上である徐放性医薬組成物に関する。いくつかの実施形態では、治療薬対脂質のモル比(molar ratio of the therapeutic agent to the lipid)が約0.2以上約20未満、約15未満、約10未満、約5未満、約4未満、約3未満または約2未満である。
【0031】
一実施形態では、徐放性医薬組成物は、少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤、希釈剤、ビヒクル、担体、活性成分のための媒体、防腐剤、凍結保護剤またはそれらの組み合わせをさらに含む。具体的な一実施形態では、医薬組成物中の二重層膜の重量パーセントは約0.1~12%であり;医薬組成物中の捕捉剤の重量パーセントは約0.1~10%であり;医薬組成物中の薬学的に許容される賦形剤(スクロース、ヒスチジン、塩化ナトリウムおよび超純水など)、希釈剤、ビヒクル、担体、活性成分のための媒体、防腐剤、凍結保護剤またはそれらの組み合わせの重量パーセントは約80.0~99.9%である。
【0032】
特定の実施形態において、自己免疫疾患を治療するための治療剤または免疫調節剤は、スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)受容体アゴニスト(sphingosine-1-phosphate (S1P) receptor agonist)である。特定の実施形態では、免疫調節剤は、エトラシモド(etrasimod)、フィンゴリモド(fingolimod)、ラキニモド(laquinimod)、オザニモド(ozanimod)、ポネシモド(ponesimod)、シポニモド(siponimod)、およびそれらの組み合わせである。医薬組成物の徐放性プロファイルは免疫調節剤の半減期、治療濃度および作用期間を延長し、したがって、治療効力を持続させ、免疫調節剤の投薬量および/または投薬頻度を減少させる。
【0033】
一態様では、医薬組成物の徐放性プロファイルは、高い薬物カプセル化効率による。これらの製剤のカプセル化効率は、少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、90%または95%である。
【0034】
他の態様では、医薬組成物の徐放性プロファイルは、より高い薬物対脂質モル比(drug to lipid molar ratio)による。具体的な一実施形態において、1つ以上の脂質に対する免疫調節剤のモル比(molar ratio of the immunomodulating agent to the one or more lipids)は、約0.20、0.21、0.22、0.23、0.24、0.25、0.26、0.27、0.28、0.29、0.3、0.31、0.32、0.33、0.34または0.35以上から約20、15、10、5または2未満、あるいは0.2から20、0.2から15、0.2から10、0.2から5、0.2から2、0.3から20、0.3から15、0.3から10、0.3から5または0.2から2である。
【0035】
さらなる他の態様では、免疫調節剤の半減期が遊離免疫調節剤(free immunomodulating agent)の半減期と比較して、少なくとも2倍延長される。
【0036】
医薬組成物は、皮下(subcutaneous)、皮下(subdermal)、皮内(intradermal)または筋肉内(intramuscular)経路などの注射に適するように製剤化される。
【0037】
本発明の医薬組成物の投与量は、実施形態に応じて当業者が決定することができる。単位用量または複数用量形態が包含され、各々は、特定の臨床設定において利点を提供する。本発明によれば、投与されるべき医薬組成物の実際の量は、治療される対象の年齢、体重、状態、および任意の既存の医学的状態に従って、ならびに医療専門家の裁量により変化することができる。
【0038】
一実施形態において、本明細書に開示される医薬組成物は、免疫調節剤の有意な徐放性プロファイルを示す。例えば、本発明の医薬組成物は、FDAが承認したフィンゴリモド製剤の好ましい経口投与経路(ラットにおいて21.0時間、GILENYA(登録商標) 新薬物承認申請, Novartis Pharmaceuticals, Application No.: 22-527)と比較して、好ましい皮下投与経路(実施例5に開示されているような)を介してラットにおいてフィンゴリモドの半減期を95.5時間にまで延長した。これらの医薬組成物は、フィンゴリモドの投薬頻度を減少させるために開発されている。
【0039】
本発明はまた、自己免疫疾患を治療するための方法を提供し、これは、本明細書に記載の医薬組成物の有効量を、それを必要とする対象に投与する工程を含む。
【実施例】
【0040】
実施例
本発明の実施形態を以下の実施例によって説明するが、下記実施例はその範囲に限定を課すものとして決して解釈されるべきではない。それどころか、本明細書の説明を読んだ後、本発明の概念から逸脱することなく当業者にそれ自体を示唆し得る、様々な他の実施形態、修飾、およびそれらの同等物の対象となり得ることが明確に理解されるべきである。以下の実施例に記載される研究の間、特記しない限り、従来の手順に従った。
【0041】
実施例1 リポソームフィンゴリモド製剤の調製
空のリポソームを、脂質フィルム水和-押出法(lipid film hydration-extrusion method)によって調製した。HSPC、コレステロール、およびDSPE-PEG2000(モルパーセント 59.5/39.6/0.9)をクロロホルムに溶解し、ロータリーエバポレーター中で真空下で有機溶媒を除去することによって、薄い脂質フィルムを形成した。乾燥脂質フィルムを300mM 硫酸アンモニウム中、60℃で30分間水和し、硫酸アンモニウムが水性コアにカプセル化された空のリポソームを形成した。液体窒素と60℃の水との間の6回の凍結融解サイクルの後、空のリポソームを、続いて、0.2μmの孔径を有するポリカーボネートフィルター膜を通して10回押し出した。カプセル化されていない硫酸アンモニウムを、9.4%スクロース溶液に対する透析によって除去した。
【0042】
7.8mg/mLのフィンゴリモド塩酸塩(MedChem Express)、20.7mMの空のリポソームの脂質および50mM ヒスチジン緩衝液(pH 7)を含む反応混合物を60℃で15分間インキュベートした。カプセル化されていないフィンゴリモド塩酸塩を、SephadexTM G-50ファインゲル(GE Healthcare)または9.4%スクロース溶液に対する透析袋(Spectrum Labs)によって分離して、リポソームフィンゴリモド製剤(liposomal fingolimod formulation)を得た。リポソームフィンゴリモド製剤のカプセル化されたフィンゴリモド塩酸塩および脂質の濃度を、紫外/可視(UV/Vis)分光光度計を用いて測定し、リポソームフィンゴリモド製剤の薬物対脂質モル比(D/L)を計算した。
【0043】
カプセル化効率は、フィンゴリモド塩酸塩の濃度を空のリポソームの脂質濃度で割ることによって計算された、反応混合物の公称D/Lと比較したフィンゴリモド塩酸塩カプセル化リポソームの薬物対脂質モル比(D/L)によって計算された。粒度分布は動的光散乱装置(Zetasizer Nano-ZS90, Malvern)により測定した。
【0044】
捕捉剤として300mM硫酸アンモニウムを使用した場合、リポソームフィンゴリモド製剤は、最終D/Lが1.1であり、カプセル化効率が100%である。リポソームの平均径は162nmであった。
【0045】
実施例2 リポソームオザニモド製剤の調製
空のリポソームを、脂質フィルム水和-押出法によって調製した。HSPC、コレステロール、およびDPPG(モルパーセント 59.5/39.6/0.9)をクロロホルムに溶解し、有機溶媒をロータリーエバポレーター中で真空下で除去することによって、薄い脂質フィルムを形成した。乾燥脂質フィルムを300mM 硫酸アンモニウム中、60℃で30分間水和し、硫酸アンモニウムが水性コアにカプセル化された空のリポソームを形成した。液体窒素と60℃の水との間の6回の凍結融解サイクルの後、空のリポソームを、続いて、0.2μmの孔径を有するポリカーボネートフィルター膜を通して10回押し出した。カプセル化されていない硫酸アンモニウムを、9.4%スクロース溶液に対する透析によって除去した。
【0046】
7.2mg/mLのオザニモド(DC Chemicals)、20.6mMの空のリポソームの脂質、および50mM ヒスチジン緩衝液(pH 6.5)を含む反応混合物を、60℃で15分間インキュベートした。カプセル化されていないオザニモドを、SephadexTM G-50ファインゲル(GE Healthcare)または9.4%スクロース溶液に対する透析袋(Spectrum Labs)によって分離して、リポソームオザニモド製剤を得た。リポソームオザニモド製剤のカプセル化されたオザニモドおよび脂質の濃度を、紫外/可視(UV/Vis)分光光度計を用いて測定し、リポソームオザニモド製剤の薬物対脂質モル比(D/L)を計算した。
【0047】
カプセル化効率は、オザニモドの濃度を空のリポソームの脂質濃度で割ることによって計算された、反応混合物の公称D/Lと比較したオザニモドカプセル化リポソームの薬物対脂質モル比(D/L)によって計算された。粒度分布は動的光散乱装置(Zetasizer Nano-ZS90, Malvern)により測定した。
【0048】
捕捉剤として300mM硫酸アンモニウムを使用した場合、リポソームオザニモド製剤は、最終D/Lが0.87であり、カプセル化効率が約100%である。リポソームの平均径は186.7nmであった。
【0049】
実施例3 薬物充填プロファイルに対する異なる捕捉剤の効果
リポソーム製剤を、以下の捕捉剤:(1)75mMのスクロースオクタ硫酸トリエチルアンモニウム、(2)300mMの硫酸アンモニウム、(3)200mMのリン酸アンモニウム、および(4)7.0mMの硫酸デキストランを用いて、実施例1に従って調製した。表1は、薬物充填(drug loading)に対する種々の捕捉剤の効果を示す。
【0050】
【0051】
実施例4 リポソームフィンゴリモドの持続放出プロファイル
インビトロ放出システムを準備するために、実施例1に従って調製した0.5mLのリポソームフィンゴリモド製剤(liposomal fingolimod formulation)および0.5mLの遊離フィンゴリモド塩酸塩(free fingolimod hydrochloride)を、それぞれ、0.5mLのウシ胎仔血清と混合した。遊離フィンゴリモド/血清混合物およびリポソームフィンゴリモド/血清混合物を別々の透析バッグ(Spectra/Pro(登録商標)6 dialysis membrane、MWCO 50kDa、Spectrum Labs)に入れ、透析バッグの両端を密封した。各透析バッグを、50mLの遠心分離管内で0.06N HClを含有するpH 7.4の15mL PBSに浸漬し、37±1℃の水浴でインキュベートした。インキュベーションしてから所定の時点(1、2、4、8および24時間)で、15mLのPBSからの0.5mLのアリコートをサンプリングし、毎回0.5mLの新鮮なPBSを添加して、サンプリングアリコートを補充した。各時点でのサンプリングアリコートの薬物濃度を、HPLCを使用して分析して、試験した製剤のインビトロ放出プロファイルを作成した。
【0052】
図1に示すように、遊離フィンゴリモドのほぼ80%が4時間以内に透析袋を通って放出された。これに対して、24時間にわたる透析袋を通るリポソームフィンゴリモド製剤の放出率(<10%)は、遊離薬物の放出率(>80%)よりも低かった。本発明のリポソームフィンゴリモド製剤の持続放出プロファイルから、持続薬物送達システムとしてのリポソームフィンゴリモド製剤の可能性が示される。
【0053】
実施例5 リポソームフィンゴリモドの薬物動態(PK)研究
7~8週齢の雌Sprague-Dawleyラットを用いて、リポソームフィンゴリモド製剤のインビボPK評価を行った。ラットを、12時間の明/12時間の暗の概日周期で操作した保持室に収容し、水および食物を自由に摂取させた。
【0054】
ラットを3群(各群のn=4)に分け、第1群には、最終濃度2.00mg/mLで5%ジメチルスルホキシドを含む9.4%スクロース溶液にフィンゴリモド塩酸塩を溶解することによって調製した、遊離フィンゴリモド塩酸塩5mg/kgを静脈内(IV)注射で投与した。第2群には、実施例1に従って調製したリポソームフィンゴリモド製剤5mg/kgを静脈内(IV)注射で投与した。第3群には、実施例1に従って調製したリポソームフィンゴリモド製剤5mg/kgを皮下(SC)注射で投与した。血液サンプルを、注射してから5分、15分、1時間、2時間、4時間、8時間、24時間、48時間、72時間、および96時間で集めた。血漿サンプルを遠心分離によって得、-80℃で凍結させておき、PKSolver(Comput. Methods Programs Biomed.2010;99(3):306-314)の非コンパートメント分析モデルを用いて分析した。3つのフィンゴリモド製剤のPKパラメータを表2に要約する。
【0055】
表2から、IVリポソームフィンゴリモド群におけるフィンゴリモドの半減期(t1/2)がIV遊離フィンゴリモド群のそれと類似していたことが示される。IV投与された遊離フィンゴリモドおよびリポソームフィンゴリモドは、IV投与の約70時間後に循環から排除され、両方のフィンゴリモド形態で約5半減期(approximately 5 half-lives)であった。SCリポソームフィンゴリモド群のCmaxはIV投与された遊離フィンゴリモドおよびリポソームフィンゴリモドのいずれにも見られたCmaxよりも小さく、皮下投与されたリポソームフィンゴリモドの半減期(t1/2)はIV投与された遊離フィンゴリモドおよびリポソームフィンゴリモドの半減期に比べて、有意に長かった。測定した曲線下面積(AUC0-t)と外挿曲線下面積(AUC0-inf)との比から、皮下注射してから96時間後にリポソームフィンゴリモド製剤から39.9%のフィンゴリモドが放出されたのに対して、静脈内注射した遊離フィンゴリモドのAUC0-t/AUC0-inf比は注射してから96時間後に約100%であったことが示される。
【0056】
表2はさらに、SC注射された本発明のリポソームフィンゴリモド製剤の用量正規化(dose normalized)Cmax(Cmax/D)が4.8(ng/mL)/(mg/Kg)であることを示しており、これは、FDA承認の経口投与フィンゴリモド(20.4~30(ng/mL)/(mg/Kg)の範囲)のそれと比較して有意に低いことを示す。同様に、SC注射された本発明のリポソームフィンゴリモド製剤のt1/2は95.5時間であり、これは、FDA承認の経口投与フィンゴリモドのそれ(ラットでは13.6~25.1時間)と比較して有意に長い。皮下投与された本発明のリポソームフィンゴリモド製剤は、FDA承認のフィンゴリモド製剤の6分の1(1/6)~4分の1(1/4)のCmax/Dを有するが、t1/2はFDA承認のフィンゴリモド製剤のそれより3.8~7.0倍長い。
【0057】
【0058】
表3は、IV注射した本発明のリポソームフィンゴリモド製剤およびIV注射したMaoら(Nanomed.2014; 10(2):393-400)のリポソームフィンゴリモド製剤のPKパラメータを示す。本発明のCmaxおよびAUC0-inf値(リポソーム薬物対遊離薬物の比率)は、マオらのものより約4倍高い。さらに、本発明の見かけの分配容積(Vd)およびクリアランス(CL)値(リポソーム薬物対遊離薬物の比率)は、Maoらのものよりも有意に低い。これらの結果から、本発明のリポソームフィンゴリモド製剤がマオらのリポソーム製剤と比較して、循環中の薬物放出を持続させることが示される。
【0059】