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特許7477853後施工アンカー及び後施工アンカー用ブッシュ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】後施工アンカー及び後施工アンカー用ブッシュ
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/41 20060101AFI20240424BHJP
   F16B 13/10 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
E04B1/41 503G
F16B13/10 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019143414
(22)【出願日】2019-08-02
(65)【公開番号】P2021025276
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-07-25
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】508284850
【氏名又は名称】株式会社トラスト
(74)【代理人】
【識別番号】100129986
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓生
(72)【発明者】
【氏名】谷口 博司
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-203097(JP,A)
【文献】特開2008-248685(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2008-0082395(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/41
F16B 13/10
E04G 21/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下穴内に全体収容される筒体からなると共に、アンカーコーンによって拡開変形し得る拡開部を筒体の先部に有したアンカー筒体と、
先部側へ拡径した拡径体からなり、前記アンカー筒体の筒体の先部に内挿されて下穴内の穴底部に配置されるアンカーコーンと、
前記アンカーコーンの基部の連結位置に同軸連結されたアンカーボルトと、
前記アンカーボルトの外周又はアンカー筒体の内周の少なくともいずれかに所定の螺子止めトルクで螺子止めされ、下穴内の穴口部近傍にて、アンカー打設面から突出することなく穴口部の穴側面に接するか僅かな隙間を開けて近接する状態で配置される後施工アンカー用ブッシュと、を備えてなり、
前記アンカーコーンは、アンカーボルトとの連結穴を基端面に有した柱形状の連結基部と、連結基部から軸方向先端へ連なって先側へ拡径した拡径部とからなる一体製材で構成され、
アンカー筒体が下穴の穴底側へ打ち込まれることで、前記拡開部がアンカーコーンに内側から押圧されて拡開変形し、下穴にアンカリングしたアンカリング状態となるものであって、前記アンカリングしたアンカリング状態において、
前記後施工アンカー用ブッシュによって
アンカーボルトには、アンカーボルトの前記連結位置と螺子止め位置との間の軸方向の第一区間に亘って、所定以上の引っ張り軸力が継続的に発生すると共に、アンカー筒体には、前記第一区間よりも長い軸方向の第二区間に亘って、所定以上の圧縮軸力が継続的に発生することを特徴とする後施工アンカー。
【請求項2】
前記アンカーコーンの基部中央にはアンカーボルトを螺入して連結する内螺子付きの連結穴が設けられ、また、前記アンカーボルトは、長さ方向全体に亘って外螺子が形成されてなり、
アンカーボルトの外螺子が、下穴内の穴底部付近の連結位置にて、所定の連結トルクで連結穴に螺入連結されると共に、下穴内の穴口部付近の螺子止め位置にて、前記連結トルクと同じかそれ以上の螺子止めトルクで中央孔の内螺子に螺子止めされることで、
前記アンカリングしたアンカリング状態において、アンカー筒体の拡開部がアンカーコーンに押圧されると共に、アンカー筒体の基端部が後施工アンカー用ブッシュの先端部と圧接することで、アンカー筒体の軸方向の前記第二区間に亘って、軸方向の圧縮軸力が内部応力として継続的に発生し、また、
アンカーボルトの前記連結位置と螺子止め位置との間の第一区間に亘って、所定以上の引っ張り軸力がアンカーボルトの内部応力として継続的に発生することを特徴とする請求項1に記載の後施工アンカー。
【請求項3】
前記後施工アンカー用ブッシュは、基部回転体と、基部回転体から軸方向先端へ連なる先部回転体とからなる一体製材で構成され、このうち先部回転体には、先端周囲に亘って、先尖り形状となるように傾斜した傾斜面が形成され、
前記アンカーコーンには、先端側部周囲に亘って、先側へ拡径形状となるように傾斜した傾斜面が形成され、
前記アンカリングしたアンカリング状態において、
アンカー筒体の基端面と後施工アンカー用ブッシュの傾斜面とが圧接すると共に、
アンカー筒体の拡開部の内面とアンカーコーンの傾斜面とが圧接することで、
アンカー筒体には所定以上の内部応力が継続的に発生することを特徴とする請求項に記載の後施工アンカー。
【請求項4】
前記アンカー筒体は、筒端形状の基端面のうち内周寄りの一部周方向または全周方向に亘って、内傾斜状又は断面視L字状にザグリ加工された内周加工部を有し、
前記アンカリングしたアンカリング状態において、
アンカー筒体の基端面の内周加工部が傾斜面と圧接することで、軸方向と平行でない傾斜方向の圧接反力が継続的に発生することを特徴とする請求項に記載の後施工アンカー。
【請求項5】
前記後施工アンカー用ブッシュは、下穴の穴口部内に収容可能な軸交断面の基部回転体と、基部回転体から軸方向先端へ連なる先部回転体とからなる一体製材で構成され、このうち基部回転体の基端面又は側面には、複数の切欠き部が、周方向へ等間隔に設けられ、
前記複数の切欠き部に対応する嵌合部を有した螺子止め冶具によって、所定の螺子止めトルクを付与されることで、前記アンカリングしたアンカリング状態となることを特徴とする請求項に記載の後施工アンカー。
【請求項6】
アンカー打設の対象躯体に予め設けた下穴内に設置される後施工アンカー部品セットにおいて、
下穴の穴口部内に収容された状態で、前記後施工アンカー部品セットの一部に取り付け可能な、後施工アンカー用ブッシュであって、
前記後施工アンカー部品セットは、
下穴内に全体収容される筒体からなると共に、アンカーコーンによって拡開変形し得る拡開部を筒体の先部に有したアンカー筒体と、

先部側へ拡径した拡径体からなり、前記アンカー筒体の筒体の先部に内挿されて下穴内の穴底部に配置されるアンカーコーンと、
前記アンカーコーンの基部の連結位置に同軸連結されたアンカーボルトと、を具備し、
前記アンカーコーンは、アンカーボルトとの連結穴を基端面に有した柱形状の連結基部と、連結基部から軸方向先端へ連なって先側へ拡径した拡径部とからなる一体製材で構成され、
アンカー筒体が下穴の穴底側へ打ち込まれることで、前記拡開部がアンカーコーンに内側から押圧されて拡開変形し、下穴にアンカリングしたアンカリング状態となるものであり、
前記後施工アンカー用ブッシュは、
アンカーボルトを内挿して螺子固定する中央孔を有した基部回転体と、基部回転体から軸方向先端へ連なる先部回転体とからなる一体製材で構成され、
前記アンカリングしたアンカリング状態において、
下穴内の穴口部近傍にて、アンカー打設面から突出することなく穴口部の穴側面に接するか僅かな隙間を開けて近接する状態で配置され、かつ、
前記中央孔がアンカーボルトの外周に所定の螺子止めトルクで螺子止めされることで、
アンカーボルトのうち、アンカーコーンとの連結位置と螺子止め位置との間の軸方向の第一区間に亘って、所定以上の引っ張り軸力をアンカーボルト内部に継続的に発生させると共に、
アンカー筒体の基端面を先部回転体で圧接して、アンカー筒体のうち、前記第一区間よりも長い軸方向の第二区間に亘って、所定以上の圧縮軸力を、アンカー筒体内部に継続的に発生させることを特徴とする、後施工アンカー用ブッシュ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートなどの躯体にアンカリングされる後施工アンカー、及び、後施工アンカーに取り付けて設置する後施工アンカー用ブッシュに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の後施工アンカー(以下、アンカーとする)として、コンクリートなどの躯体に穿孔された下穴に挿入されるアンカー本体部と、アンカー本体部に挿入される拡開ピンとで構成されたものが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
アンカー本体部は、円筒状に形成され、先端に小径の先端先細り部を構成する軸心孔を有している。また、アンカー本体部は、先端側の周壁にスリットが軸方向に形成された拡開部と、基部側に袋ナットのような締結ナットを螺合可能な雄ねじ部と、拡開部を含む先端側の外周面に形成された右ねじのねじ山とを備えている。一方、拡開ピンはアンカー本体部に形成された軸心孔に基部側から挿入可能な棒体からなり、アンカー本体部の拡開部を拡径するように先端側に形成された先細り部と、基端部に形成された打込み頭部とを備えている。
【0004】
また従来、先端側に設けた拡開部により、下穴にアンカリングされる金属製のアンカー本体と、拡開部を内側から拡開させるコーン部と、拡開部の外周面に固着され、アンカー本体よりも高硬度の粒子状材を含む喰込み部と、を備えた後施工アンカーが開示される(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-197840号公報
【文献】特開2015-36571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記従来のアンカーでは、下穴の穴底付近のアンカリング部だけで圧接力を確保するため、打設後の状態でアンカーに取り付けたボルトに曲げ方向又はねじり方向の大きな外部負荷がかかった場合、躯体がアンカー力を保てずに破断したり、ボルトの螺子山が潰れて抜け落ちたりするおそれがある。特に、地震や振動等により、強い曲げ応力やねじり応力を繰り返し受けた場合には、このようなおそれが高くなる。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑み、打設後のアンカーに取り付けたボルトに曲げ方向又はねじり方向の大きな外部負荷がかかった場合、特に、地震や振動等により、強い曲げ応力やねじり応力を繰り返し受けた場合でも、アンカー力を十分に保ち続け、抜け落ちることのない後施工アンカー、又は後施工アンカー用ブッシュを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の後施工アンカーは下記の手段を講じている。
すなわち、本発明の後施工アンカーは、
下穴内に全体収容される筒体からなると共に、アンカーコーンによって拡開変形し得る拡開部を筒体の先部に有したアンカー筒体と、
先部側へ拡径した拡径体を有してなり、前記アンカー筒体の筒体の先部に内挿されて下穴内の穴底部に配置されるアンカーコーンと、
前記アンカーコーンの基部に同軸連結されたアンカーボルトと、
前記アンカーボルトの外周又はアンカー筒体の内周の少なくともいずれかに所定の螺子止めトルクで螺子止めされ、下穴内の穴口部付近に配置される後施工アンカー用ブッシュと、を備えてなる。
【0009】
そして、前記アンカー筒体が下穴の穴底側へ打ち込まれることで、前記拡開部がアンカーコーンに内側から押圧されて拡開変形し、下穴にアンカリングした係止状態において、前記後施工アンカー用ブッシュによってアンカー筒体又はアンカーボルトの少なくともいずれかに軸力を継続的に発生させたアンカリング状態を維持することを特徴とする。
【0010】
上記構成によれば、穴口部に収容した後施工アンカー用ブッシュの螺子止めによって、下穴の穴軸方向に亘って配置されたアンカー筒体又はアンカーボルトの少なくともいずれかに軸力を発生させた状態を維持することで、拡開部の拡開による下穴の穴底部付近のアンカリングだけではない、アンカー全体のみかけの剛体による一体的なアンカリング効果と、穴口部の後施工アンカー用ブッシュの介在による変位抑制の効果が生じる。
【0011】
前記本発明の後施工アンカーにおいて、前記後施工アンカー用ブッシュは、下穴の穴軸方向に沿って下穴内に全部収容される回転体からなると共に、回転体の基部から先端部にかけてアンカーボルトを内挿する中央孔が貫通形成されると共に、中央孔の内面にはアンカーボルトを螺入する内螺子が設けられる。また、前記アンカーコーンの基部中央にはアンカーボルトを螺入して連結する内螺子付きの連結穴が設けられ、前記アンカーボルトは、長さ方向全体に亘って外螺子が形成される。
【0012】
そして、前記アンカリング状態において、アンカーボルトの外螺子が、下穴内の穴底部付近の連結位置にて、所定の連結トルクで連結穴に螺入連結されると共に、下穴内の穴口部付近の螺子止め位置にて、前記連結トルクと同じかそれ以上の螺子止めトルクで中央孔の内螺子に螺子止めされ、
前記アンカリング状態において、アンカー筒体の拡開部がアンカーコーンに押圧されると共に、アンカー筒体の基端部が後施工アンカー用ブッシュの先端部と圧接することで、アンカー筒体の軸方向の所定区間に亘って、軸方向の圧縮軸力が内部応力として継続的に発生し、また、
アンカーボルトの前記連結部と螺子止め部との間の第一区間に亘って、所定以上の引っ張り軸力がアンカーボルトの内部応力として継続的に発生することを特徴とする。
【0013】
前記本発明の後施工アンカーにおいて、前記アンカーコーンは、アンカーボルトとの連結穴を基端面に有した柱形状の連結基部と、連結基部から軸方向先端へ連なって先側へ拡径した拡径部とからなる一体製材で構成され、
前記アンカリング状態において、
アンカーボルトには、アンカーボルトの前記連結部と螺子止め部との間の軸方向の第一区間に亘って、所定以上の引っ張り軸力が継続的に発生すると共に、
アンカー筒体には、前記第一区間よりも長い軸方向の第二区間に亘って、所定以上の圧縮軸力が継続的に発生することを特徴とする。
【0014】
前記後施工アンカー用ブッシュは、基部回転体と、基部回転体から軸方向先端へ連なる先部回転体とからなる一体製材で構成され、このうち先部回転体には、先端周囲に亘って、先尖り形状となるように傾斜した傾斜面が形成され、
前記アンカーコーンには、先端側部周囲に亘って、先側へ拡径形状となるように傾斜した傾斜面が形成され、
前記アンカリング状態において、
アンカー筒体の基端部と後施工アンカー用ブッシュの傾斜面とが圧接すると共に、アンカー筒体の拡開部の内面とアンカーコーンの傾斜面とが圧接することで、
アンカー筒体には所定以上の内部応力が継続的に発生することを特徴とする。
【0015】
前記アンカー筒体は、筒端形状の基端部のうち内周寄りの一部周方向または全周方向に亘って、内傾斜加工又は断面視L字状にザグリ加工された内周加工部を有し、
前記アンカリング状態において、
アンカー筒体の基端面の内周加工部が傾斜面と圧接することで、軸方向と平行でない傾斜方向の圧接反力が継続的に発生することを特徴とする。
【0016】
前記後施工アンカー用ブッシュは、下穴の穴口部内に収容可能な軸交断面(回転軸に直交する回転体断面)の基部回転体と、基部回転体から軸方向先端へ連なる先部回転体とからなる一体製材で構成され、このうち基部回転体の基端面又は側面には、複数の切欠き部が、周方向へ等間隔に設けられ、
前記複数の切欠き部に対応する嵌合部を有した螺子止め冶具によって、所定の螺子止めトルクを付与されることで、前記アンカリング状態となることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の後施工アンカー用ブッシュは、
アンカー打設の対象躯体に予め設けた下穴内に設置される後施工アンカー部品セットにおいて、
下穴の穴口部内に収容された状態で、前記後施工アンカーセットの一部に取り付け可能な、後施工アンカー用ブッシュであって、以下の手段を講じている。
【0018】
本発明の後施工アンカー用ブッシュは、
アンカーボルトを内挿して螺子固定する中央孔を有した基部回転体と、基部回転体から軸方向先端へ連なる先部回転体とからなる一体製材で構成され、
前記後施工アンカー用ブッシュは、以下の後施工アンカー部品セットに取り付けて設置する。
後施工アンカー部品セットは、下穴内に全体収容される筒体からなると共に、アンカーコーンによって拡開変形し得る拡開部を筒体の先部に有したアンカー筒体と、
先部側へ拡径した拡径体からなり、前記アンカー筒体の筒体の先部に内挿されて下穴内の穴底部に配置されるアンカーコーンと、
前記アンカーコーンの基部に同軸連結されたアンカーボルトと、を具備し、アンカー筒体が下穴の穴底側へ打ち込まれることで、前記拡開部がアンカーコーンに内側から押圧されて拡開変形し、下穴にアンカリングした係止状態となる。
【0019】
そして、本発明の後施工アンカー用ブッシュは、係止状態において中央孔がアンカーボルトの外周に所定の螺子止めトルクで螺子止めされることで、アンカーボルトのうち穴口部近傍の部分をアンカー打設面外方へ軸方向に引っ張る引っ張り軸力を、アンカーボルト内部に継続的に発生させると共に、
アンカー筒体の基端面を先部回転体で圧接して、アンカー筒体を軸方向へ圧縮する圧縮軸力を、アンカー筒体内部に継続的に発生させるアンカリング状態となることを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、下穴の穴口部で後施工アンカー用ブッシュを配置して軸力を付加することで、下穴の穴底部まで挿入したアンカー筒体の拡開部によるアンカリングだけでなく、穴底部から穴口部までに亘って一体的な後施工アンカーの剛体効果によるアンカリングを行うことが可能となる。
【0021】
また、アンカー筒体の弾性変形に基づく圧縮内部応力によって、アンカーボルトの軸力と釣り合いをとることで、アンカー筒体の圧縮内部応力の反力として生じる拡開部のアンカー力を高めることとなる。
【0022】
さらに、アンカー設置面近傍の穴口部で後施工アンカー用ブッシュによる充填効果が生じるため、中央孔によって支持されたアンカーボルトが穴口部で変位する量を抑制することができ、軸方向に亘る複数の点でアンカリング効果を生じさせることができる。
【0023】
また後施工アンカー用ブッシュを有さない後施工アンカー部品セットの設置後に、本願の後施工アンカー用ブッシュを取付け、特定の螺子止めトルクで螺子止め設置することで、後施工アンカーを当初から取り付けていたのと同様のアンカー効果を確保することができる。
【発明の効果】
【0024】
上記手段を講じることで、打設後の状態でアンカーに取り付けたボルトに曲げ方向又はねじり方向の大きな外部負荷がかかった場合、特に、地震や振動等により、強い曲げ応力やねじり応力を繰り返し受けた場合でも、アンカー力を十分に保ち続け、抜け落ちることのない後施工アンカー、又は後施工アンカー用ブッシュを提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施例1の後施工アンカー用ブッシュの三面図及び中央断面図
図2】実施例1の後施工アンカーの設置過程の説明図
図3図2に示す実施例1の後施工アンカーの設置後の状態説明図
図4図3のBB部分の拡大図
図5】実施例1の後施工アンカー用の下方斜視図
図6】実施例2の後施工アンカー用ブッシュの二面図及び中央断面図
図7】実施例2の後施工アンカーの設置後の状態説明図
図8】実施例3の後施工アンカー用ブッシュの二面図及び中央断面図
図9】実施例3の後施工アンカーの設置後の状態説明図
図10】実施例1の後施工アンカーの設置に使用する螺子止め治具の斜視図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態として、実施例1~3として示す各図とともに説明する。なお、以下の各構成名称に続いて記載する数字列または数字とアルファベットの組み合わせ列は、実施例として示す図面を参照して理解するための参照用符号であり、これによって用語や構成を限定したり意義を限定したりするものではない。
【0027】
いずれの実施例においても、本発明に係る後施工アンカーは、
下穴(PH)内に全体収容される筒体からなると共に、アンカーコーンによって拡開変形し得る拡開部(21)を筒体の先部に有したアンカー筒体(2)と、
先部側へ拡径した拡径体からなり、前記アンカー筒体の筒体の先部に内挿されて下穴(PH)内の穴底部(PH1)に配置されるアンカーコーン(3)と、
前記アンカーコーン(3)の基部に同軸連結されたアンカーボルト(4)と、
前記アンカーボルトの外周又はアンカー筒体の内周の少なくともいずれかに所定の螺子止めトルクで螺子止めされ、下穴内の穴口部付近に配置される後施工アンカー用ブッシュ(1)と、を備えてなる(図5図7図9)。
【0028】
そして、アンカー筒体(2)が下穴の穴底側へ打ち込まれることで、前記拡開部がアンカーコーンに内側から押圧されて拡開変形し、下穴の穴底部(PH1)に係止した状態において、前記後施工アンカー用ブッシュ(1)を穴口部内にて所定トルクで螺子止めした本発明特有のアンカリング状態とすることによって、少なくともアンカー筒体(2)に軸力を継続的に発生させてなる(後述の実施例1~3)。
【0029】
或いは、前記後施工アンカー用ブッシュ(1)を穴口部内にて所定トルクで螺子止めした、本発明特有のアンカリング状態とすることによって、少なくともアンカー筒体(2)及びアンカーボルト(4)の両方に、互いに釣り合った圧縮軸力及び引っ張り軸力を継続的に発生させてなることを特徴とする(後述の実施例1,2)。
なお、後述の実施例1は、後施工アンカー用ブッシュ1をアンカーボルト4にのみ螺子止めしてアンカー筒体とは遊挿させており(図3)、後述の実施例2は、後施工アンカー用ブッシュ1をアンカーボルト及びアンカー筒体の双方に螺子止めしており(図7)、そして後述の実施例3は、後施工アンカー用ブッシュ1をアンカー筒体にのみ螺子止めしてアンカーボルトとは遊挿させている(図9)。これらのいずれも、アンカリング状態において、後施工アンカーの構成材に、下穴方向に亘って、拡開変形による係止反力以外の軸力を継続的に発生させることを特徴とする。
【0030】
以下、本発明の基本的な構成と使用方法について詳述する。
【0031】
(後施工アンカー用ブッシュ(1))
後施工アンカー用ブッシュ(1)は、下穴の穴軸方向に沿って下穴内に全部収容される回転体からなると共に、回転体の基部から先端部にかけてアンカーボルトを内挿する中央孔(100)が貫通形成されると共に、中央孔(100)の内面にはアンカーボルトを螺入する内螺子(100S)が設けられる。
後施工アンカー用ブッシュ(1)の回転体は具体的には、下穴の穴口部内に収容可能な軸交断面(回転軸に直交する回転体断面)の基部回転体(10)と、基部回転体から軸方向先端へ連なる先部回転体(11/12)とからなる一体製材で構成される。
【0032】
後施工アンカー用ブッシュ(1)は、基部の複数の切欠き部(1D/10C)に、トルクレンチに取り付けた螺子止め冶具(5)の嵌合部(51E)を嵌合させ、螺子止め冶具(5)によって所定の螺子止めトルクを付与することでアンカリング状態となる(図2(c)’)。ここで、後施工アンカー用ブッシュ(1)に付与する所定の螺子止めトルクとは、螺子止めトルクを付与した状態でアンカーボルトに引っ張り軸力を発生させ、かつアンカー筒体に圧縮軸力を発生させた内部応力発生中の常態を維持することのできるトルクであり、アンカーボルト、アンカー筒体それぞれのどちらの破断点よりも小さい応力を与えるトルクである。
【0033】
基部回転体の基端面又は側面には、複数の切欠き部(1D/10C)が、周方向へ等間隔に設けられ、前記複数の切欠き部に対応する嵌合部(51E)を有した螺子止め冶具(5)によって、所定の螺子止めトルクを付与されることで、前記アンカリング状態となる。
【0034】
先部回転体(11/12)の先端側には、先端周囲に亘って、先尖り形状となるように傾斜した傾斜面(11T)が形成され、さらに傾斜面(11T)の内周縁に連なって、軸に垂直な先端面11Fとが形成される。傾斜面によってアンカー筒体内の軸方向位置まで螺着区間(内螺子100Sの軸方向長さ100L又は外螺子12Sの軸方向長さ12L)を確保することで、螺子止めトルクによる螺子止め力を維持するものとなっている。
【0035】
(アンカー筒体(2))
アンカー筒体(2)は、下穴の穴軸方向に沿って全体収容される筒体からなると共に、アンカーコーン(3)によって拡開変形し得る拡開部(21)を筒体の先部に有する。アンカー筒体(2)は金属によって一体的に構成されることが好ましく、例えば鋼材からなる。
【0036】
拡開部(21)は筒体の先部側の軸方向一定区間において、アンカーコーン(3)の拡径部が内部から押圧することで拡開状に弾性変形又は塑性変形する部分である。実施例では、筒体の先端において周方向等間隔に形成された複数本の細幅のスリット21Sを有し、また、周面には軸方向の複数位置に亘って円周方向の周溝21Dが形成される(図2図3図7図9)。
【0037】
(内周加工部(20E))
前記アンカー筒体(2)は、筒端形状の基端部(2E)のうち内周寄りの一部周方向または全周方向に亘って、内傾斜加工又は断面視L字状にザグリ加工された内周加工部(20E)を有する。アンカリング状態において、アンカー筒体の基端面の内周加工部(20E)が傾斜面(1T)と圧接することで、軸方向と平行でない傾斜方向の圧接反力が継続的に発生する。また、アンカー筒体の拡開部の内面(210S)とアンカーコーンの傾斜面(3T)とが圧接することで、アンカー筒体には所定以上の内部応力(2IF)が継続的に発生する。
【0038】
(アンカーコーン(3))
アンカーコーン(3)は、アンカーボルトとの連結穴を基端面に有した柱形状の連結基部(32)と、連結基部から軸方向先端へ連なって先側へ拡径した拡径部(31)とからなる一体製材で構成される。アンカーコーン(3)の基部中央にはアンカーボルトを螺入して連結する連結穴(3H)が設けられる。
この連結穴(3H)は、アンカーボルト(4)の長さ方向全体に亘る外螺子に対応している。前記拡径部(31)には、先端側部周囲に亘って、先側へ拡径形状となるように傾斜した傾斜面(3T)が形成され、この傾斜面(3T)が拡開部の内面に押圧接触する。
また、アンカー筒体が打設されることで、アンカー筒体の拡開部(21)がアンカーコーン(3)に押圧され、拡開部が拡開変形する。
アンカリング状態において、
アンカーボルトの前記連結部と螺子止め部との間の第一区間(4IL)に亘って、所定以上の引っ張り軸力(4IF)がアンカーボルトの内部応力として継続的に発生する。
【0039】
(アンカーボルト(4))
アンカーボルト(4)は、長さ方向全体に亘って外螺子が形成されている。このアンカーボルト(4)の外螺子が、下穴(PH)内の穴底部(PH1)付近の連結部にて、所定の連結トルクで連結穴に螺入連結されると共に、下穴(PH)内の穴口部(PH2)付近の螺子止め部にて、前記連結トルクと同じかそれ以上の螺子止めトルクで中央孔の内螺子に螺子止めされる。
【0040】
(アンカリング状態)
実施例1及び2では、アンカリング状態において、アンカー筒体の拡開部(21)がアンカーコーン(3)に押圧されると共に、アンカー筒体の基端部(2E)が後施工アンカー用ブッシュの先端部と圧接することで、アンカーボルトの前記連結部と螺子止め部との間の第一区間(4IL)に亘って、所定以上の引っ張り軸力(4IF)がアンカーボルトの内部応力として継続的に発生する。またアンカリング状態において、アンカーボルト(4)には、アンカーボルトの前記連結部と螺子止め部との間の第一区間(4IL)に亘って、所定以上の引っ張り軸力(4IF)が継続的に発生すると共に、アンカー筒体(2)には、前記第一区間(4IL)よりも長い第二区間(2IL)に亘って、所定以上の圧縮軸力(2IF)が継続的に発生する。
【0041】
(後施工アンカー用ブッシュ)
また、本発明の後施工アンカー用ブッシュは、
アンカー打設の対象躯体(C)に予め設けた下穴(PH)内に設置される後施工アンカー部品セットにおいて、
設置された既存の後施工アンカーに後付で取り付けるか、或いは交換して取り付け可能なブッシュ体からなる。取り付けたブッシュ体は、下穴の穴口部(PH2)内に収容された状態となる。
後施工アンカー用ブッシュは、所定の後施工アンカー部品セットに取り付けて設置する。前記所定の後施工アンカー部品セットは、
下穴(PH)内に全体収容される筒体からなると共に、アンカーコーンによって拡開変形し得る拡開部(21)を筒体の先部に有したアンカー筒体(2)と、
先部側へ拡径した拡径体からなり、前記アンカー筒体の筒体の先部に内挿されて下穴(PH)内の穴底部(PH1)に配置されるアンカーコーン(3)と、
前記アンカーコーン(3)の基部に同軸連結されたアンカーボルト(4)と、を具備する。
アンカー筒体(2)が下穴の穴底側へ打ち込まれることで、前記拡開部がアンカーコーンに内側から押圧されて拡開変形し、下穴にアンカリングした係止状態となる。この係止状態において、前記中央孔がアンカーボルトの外周又はアンカー筒体の内周の少なくともいずれかに所定の螺子止めトルクで螺子止めされ、下穴内の穴口部付近に収容配置されることで、アンカリング状態となる。
アンカリング状態においては、後施工アンカー用ブッシュを少なくともアンカー筒体の基端部2Eに圧接するように螺子止されているため、少なくともアンカー筒体に、係止反力以外の軸力を継続的に発生させてなる。
実施例1では、後施工アンカー用ブッシュ(1)の先部回転体(11/12)でアンカー筒体の基端部(2E)を圧接して、アンカー筒体を軸方向へ圧縮する圧縮軸力を、アンカー筒体内部に継続的に発生させると共に、後施工アンカー用ブッシュ(1)の中央孔の内螺子(100S)をアンカーボルトの外螺子に螺合させて、アンカーボルトを軸方向へ引っ張る引っ張り軸力を、アンカーボルト内部に継続的に発生させる。
【0042】
アンカーボルトの外螺子は、下穴(PH)内の穴底部(PH1)付近の連結部にて、所定の連結トルクでコーン3の連結穴に螺入連結される。これと共に、下穴(PH)内の穴口部(PH2)付近の螺子止め部にて、前記連結トルクと同じかそれ以上の螺子止めトルクで中央孔の内螺子に螺子止めされる。
【0043】
(内部応力の発生)
アンカリング状態において、
アンカー筒体の基端部(2E)と後施工アンカー用ブッシュの傾斜面(1T)とが圧接すると共に、アンカー筒体の拡開部の内面(210S)とアンカーコーンの傾斜面(3T)とが圧接することで、アンカー筒体には所定以上の内部応力(2IF)が継続的に発生する。
【0044】
(螺子止め冶具5)
なお、螺子止め冶具5はトルクレンチのレンチ体に基部側を取り付けて、先端側の嵌合部を下穴(H)内の後施工アンカー用ブッシュに嵌合させて使用する。嵌合部51は、下穴(PH)よりも小さな径の円柱部又は多角形柱部とその先側に形成された突出部又は溝部とから構成される。突出部又は溝部は、後施工アンカー用ブッシュの基部に形成された複数の切欠き部に対応した形状、個数及び配置からなる。例えば図10に示す螺子止め冶具は、実施例1(図1)の後施工アンカー用ブッシュ(後施工アンカー用ブッシュ)の三方溝からなる切欠き(1D)に対応した嵌合部51を有する。この嵌合部51は、3つの凸片51Eと3つの嵌合溝51Dとが交互に形成される。
【0045】
(後施工アンカー用ブッシュ)
本発明の後施工アンカー用ブッシュは、
アンカー打設の対象躯体(C)に予め設けた下穴(PH)内に設置される後施工アンカー部品セットにおいて、
下穴の穴口部(PH2)内に収容された状態で、前記後施工アンカーセットの一部に取り付け可能な後施工アンカー用ブッシュである。具体的には、本発明の後施工アンカーにおける後施工アンカー用ブッシュ(1)と同じ構成からなる。すなわち、後施工アンカー用ブッシュは具体的には、
アンカーボルトを内挿して螺子固定する中央孔(100)を有した基部回転体(10)と、基部回転体から軸方向先端へ連なる先部回転体(11/12)とからなる一体製材で構成される。
【0046】
(後施工アンカー部品セット)
後施工アンカー用ブッシュを取り付け可能な後施工アンカー部品セットは、以下の3つの構成からなる。
・下穴(PH)内に全体収容される筒体からなると共に、アンカーコーンによって拡開変形し得る拡開部(21)を筒体の先部に有したアンカー筒体(2)
・先部側へ拡径した拡径体からなり、前記アンカー筒体の筒体の先部に内挿されて下穴(PH)内の穴底部(PH1)に配置されるアンカーコーン(3)
・前記アンカーコーン(3)の基部に同軸連結されたアンカーボルト(4)
この後施工アンカー部品セットは、アンカー筒体(2)が下穴の穴底側へ打ち込まれることで、前記拡開部がアンカーコーンに内側から押圧されて拡開変形し、下穴にアンカリングした係止状態となる。
【0047】
(圧縮軸力と引っ張り軸力の同時発生)
後施工アンカー部品セットが設置されたアンカリング状態において、
前記中央孔がアンカーボルトの外周に所定の螺子止めトルクで螺子止めされることで、
アンカーボルトのうち穴口部近傍の部分をアンカー打設面(CF)外方へ軸方向に引っ張る引っ張り軸力を、アンカーボルト内部に継続的に発生させると共に、
アンカー筒体の基端面を先部回転体(11/12)で圧接して、アンカー筒体を軸方向へ圧縮する圧縮軸力を、アンカー筒体内部に継続的に発生させることを特徴とする。
【0048】
以下、本発明の実施形態として示す実施例1~3の構成と各状態について図面とともに説明する。
【0049】
(後施工アンカーの設置方法)
図2(a)~(c)´及び図3(d)は、実施例1の後施工アンカーの取付け状況を示す、鉛直方向の断面説明図である。これら各図に従って、本発明の後施工アンカー部品セット及び後施工アンカー用ブッシュ、ならびに本発明の後施工アンカーの設置方法の手順を示す。
【0050】
図2(a)は、後施工アンカー部品セットを、予め形成した下穴(PH)内に収容してセットした第一状態を示す。このときアンカー筒体(2)は基端側すなわちアンカー打設面(CF)方向外方へ突出しており、拡開部21が開いていない初期状態(S1)のままである。図2(a)の第一状態にあるアンカー筒体の基端部2Eを、図示しない筒状の打ち込み具を使って打ちこみ、アンカー筒体(2)を下穴の穴底(PH1)方向へ移動させることで、図2(b)に示す第二状態となる。第二状態では拡開部21が先端側へ強制的に押し込まれることで、拡開部21の内面がアンカーコーン(3)の傾斜面3Tに圧接されて押し曲げられ、拡開した状態となっている。拡開した状態となることで、下穴の穴底部(PH1)付近の穴側面に係止して、後施工アンカーセットがアンカリングされる。
【0051】
図2(c)は、拡開部が拡開した第二状態において、アンカー打設面(CF)の外方へ突出したアンカーボルト(4)の外螺子に、後施工アンカー用ブッシュ(1)すなわち後施工アンカー用ブッシュを螺進させて取り付ける途中の状態を示す。後施工アンカー用ブッシュ(1)の先端の傾斜面(11T)がアンカー筒体(2)の基端部(2E)に接する第三状態(図2(c)´)となるまで、後施工アンカー用ブッシュ(1)を螺進させる。続けて図2(c)´に示すように、後施工アンカー用ブッシュの基端面10Eに形成した三方の切欠き部1Dに螺子止め冶具5の先端の嵌合部を係止させ、螺子止め冶具5の基部に取り付けたトルクレンチで、アンカーボルトの破断応力未満かつアンカー筒体の破断応力未満の所定の螺子止めトルクでトルクコントロールしながら、後施工アンカー用ブッシュ(1)をアンカーボルトに対して螺子止めする。このようにトルク管理で螺子止めすることで、図3に(d)として示すアンカリング状態となる。
【0052】
図3の状態では、後施工アンカー用ブッシュ(1)が所定以上の螺子止めトルクでアンカーボルト(4)に螺子止めされ、後施工アンカー用ブッシュ(1)の傾斜面(1T)によって、アンカー筒体(2)の基端部(2E)が、下穴の穴底部方向へ圧接され、この圧接力を受けて、アンカー筒体(2)の先端部における拡開部(21)の内面(210S)が、アンカーコーン(3)の拡径した傾斜面(3T)に押し広げられて拡開変形し、拡開部の外周面に形成された周溝21Dが下穴の穴底部付近の穴内周面に圧着したアンカリング状態を保っている。つまりアンカー筒体(2)は、後施工アンカー用ブッシュによる基端部(2E)への圧接力と、アンカーコーン(3)及び下穴内面による拡開部(21)への押圧力及び係止反力とによって、図3に示す軸方向の第二区間(2IL)に亘って、圧縮軸力2IFによる内部応力が発生している。この第二区間(2IL)は、アンカー筒体の基端部2Eを基部側の区間開始点とし、アンカー筒体の拡開部21の内外両面に押圧力を受けて変形した部分の中央部分を先部側の区間終了点として、これら区間開始点と区間終了点とを軸方向と平行な仮想線で繋いだ場合の、当該仮想線の長さを言う(図3)。この第二区間(2IL)は、アンカリング状態でアンカーボルト(4)に引っ張り軸力がかかっている、軸方向の第一区間(4IL)よりも長い区間となっている。
【0053】
なお、図3における第一区間(4IL)は、後施工アンカー用ブッシュ(1)とアンカーボルト(4)との螺子止め範囲の軸方向中央を区間開始点とし、アンカーコーン(3)とアンカーボルト(4)との螺子連結範囲の軸方向中央を区間終了点として、これら区間開始点と区間終了点とを軸方向と平行な仮想線で繋いだ場合の当該仮想線の長さを言う(図3)。
【0054】
図3において、アンカーボルトに引っ張り軸力がかかった第一区間(4IL)と、アンカー筒体に圧縮軸力がかかった第二区間(2IL)とを比べると、明らかに第一区間(4IL)よりも第二区間(2IL)の方が長くなっている。また、第一区間(4IL)の区間開始点(基部側の区間境界の点)よりも第二区間(2IL)の区間開始点(基部側の区間境界の点)の方が、下穴の穴底部(PH1)側へずれた位置となっていると共に、第一区間(4IL)の区間終了点(先部側の区間境界の点)よりも第二区間(2IL)の区間終了点(先部側の区間境界の点)の方が、下穴の穴底部(PH1)側へずれた位置となっている。このことは、アンカー筒体に掛かる内部応力の範囲が、穴底部付近の周溝21Dの係止領域から、穴口部付近の後施工アンカー用ブッシュとの圧接部までの、比較的長い軸方向の範囲に亘っていることを示している。アンカー筒体とアンカーボルトの双方に内部応力が発生し続けることにより、後施工アンカー全体が高剛性の剛体の役割を果たす。
【0055】
図3のうち穴口部付近(図3のB-B範囲)の部分拡大図を図4に示す。図4では、アンカー筒体(2)の基端部2Eのうち内周側の1/4厚さ部分が、軸断面視L字状にザグリ加工された内周加工部20Eとなっている。この内周加工部20Eの角部20CEに後施工アンカー用ブッシュの傾斜面11Tが圧接することで、角部20CEが圧潰して面接触した状態となり、アンカー筒体(2)は、角部20CEに面接触する傾斜面11Tの法線方向への内部応力を受ける。
【0056】
なお図4に示すアンカリング状態では、アンカー筒体(2)の基端部2Eよりも、後施工アンカー用ブッシュ1の先部回転体11の先端が、穴底部側へ入り込んだ状態となっている。これにより、アンカー打設面(CF)からアンカー筒体(2)の基端部2Eまでの打ち込み距離PH2Lを、後施工アンカー用ブッシュ1の軸方向長さよりも小さ井ものに保つことができる。また、アンカーボルト4と後施工アンカー用ブッシュ1との螺子止め範囲は図4に符号100SLとして示す範囲となり、螺子止め範囲の中央位置は、図4に符号41Fの矢印基点として示す位置となる。後施工アンカー用ブッシュ1が、基部回転体10内から先尖り形状の先部回転体11にかけて内螺子付きの中央孔100を有することで、比較的長い螺子止めの軸方向範囲を確保することができ、また、螺子止め範囲の中央位置がアンカー筒体の基端部により近い位置となる。
【0057】
さらに、図4に示すアンカリング状態では、後施工アンカー用ブッシュ1の基端面10Eがアンカー打設面(CF)よりも穴底部側へ距離PH0分だけ入り込んでいて、アンカー打設面(CF)から後施工アンカー用ブッシュ1が外方へ突出せずに完全に穴内に収容されている。
【0058】
また、後施工アンカー用ブッシュ1の基部回転体10の周側面10Sが、下穴の穴口部のうち少なくとも下部穴側面に接して、内部応力10IFを受けた状態となっている。後施工アンカー用ブッシュ1のうち周方向へ最も張り出した周側面10Sの部分が穴口部の穴側面に部分的に接することで、下穴の穴底部だけでなく穴口部でもアンカー効果を果たし、より効果的なアンカリングが可能となる。また、後施工アンカー用ブッシュ1の基部回転体10が下穴の穴口部近傍にて、穴側面に接するか僅かな隙間を開けて近接する状態で在設することで、外方のアンカーボルトに曲げ応力がかかった場合でも、後施工アンカーのアンカーボルトの設置軸を、下穴軸と平行に近い並走方向に保つことができる。
【0059】
また、後施工アンカー用ブッシュ1の基部回転体10が下穴の穴口部近傍にて、穴側面に接するか僅かな隙間を開けて近接する状態で在設すると共に、後施工アンカー用ブッシュ基部からアンカー筒体外方の先端部にかけて内部応力が発生した状態で下穴内にアンカリングすることで、アンカーボルトにねじり応力がかかった場合でも、ねじり応力の影響を後施工アンカーが受けないようにすることができる。
【0060】
図5は後施工アンカー用ブッシュを後施工アンカー部品セットに取り付けた、実施例1のアンカリング状態の後施工アンカーを示す斜視図である。図5に示すアンカリング状態では、下穴の穴口部内に全収容される後施工アンカー用ブッシュ1、これに圧接するアンカー筒体2、アンカー筒体2の拡開部21の内面に押圧するアンカーコーン3、並びに、アンカーコーン3の連結基部32に螺子連結されて先部側へ伸びると共に後施工アンカー用ブッシュ1によって引っ張り軸力が生じているアンカーボルト4の第一区間部分からなる4つの構成材が、相互に内部応力を生じさせた状態で力学的に釣り合っており、みかけの剛体を形成している。これにより、みかけの剛体を形成した軸方向全体で、一体的なアンカリング効果を生じさせることができる。
【0061】
(実施例2)
図6は、実施例2の後施工アンカー用ブッシュ(1)(後施工アンカー用ブッシュ)の背面図、側面図、及び軸交断面図を示し、図7は、実施例2の後施工アンカー用ブッシュ(1)(後施工アンカー用ブッシュ)の設置後のアンカリング状態の下穴内の状態説明図(a)並びに軸交断面図(b)を示す。実施例2の後施工アンカー用ブッシュ(1)の基端面1Dには、中央孔100の中心から四方外方へ四本の切欠き部1Dが十字型に形成される。実施例2の後施工アンカー用ブッシュ(1)を穴口部内に螺子止め固定する際は、この切欠き部1Dの十字型形状に対応した、十字又はI字型の嵌合凸部を有する螺子止め冶具5を使用して、所定の螺子止めトルクの螺子止めを行う。
【0062】
また、実施例2の後施工アンカー用ブッシュ(1)は、穴口部の穴側面に近接して収容される回転基部10と、回転基部10の先側面10Tから先側へ連なって円柱状に突出形成された先部回転体12とから構成される(図6)。先部回転体12はアンカー筒体の内周面に近接して収容可能な径からなると共に、所定の外螺子区間12Lに亘って外螺子12Sが形成されている。先部回転体12の先端部には、先側へ先尖り形状に窄まった第二の先部回転体11が連なって形成され、その周側面は傾斜面11Tを有すると共に、傾斜面11Tの先側に、軸と直交した先端面11Fを有する。
【0063】
アンカリング状態を示す図7のように、中央孔100の内螺子区間100Lに亘って形成された内螺子100Sがアンカーボルト4に螺着すると共に、この外螺子12Sが、アンカー筒体2の基端部から一定区間形成された内螺子部22に螺着することで、後施工アンカー用ブッシュ(1)がアンカーボルト(4)とアンカー筒体(2)の両方に所定の螺子止めトルクで螺子止めされる(図7)。そして、この所定の螺子止めトルクの螺子止めによって、回転軸を中心として最も外周方向へ張り出した基部回転体10の先端面10Tが、アンカー筒体(2)の基端部2Eに圧接して、アンカー筒体(2)に圧縮軸力を付与すると共にアンカーボルト4に引っ張り軸力を付与する。
【0064】
(実施例3)
図8は、実施例3の後施工アンカー用ブッシュ(1)の背面図、側面図、及び軸交断面図を示し、図9は、実施例3の後施工アンカー用ブッシュ(1)の設置後のアンカリング状態の下穴内の状態説明図(a)並びに軸交断面図(b)を示す。
【0065】
実施例3の後施工アンカー用ブッシュ(1)の基部回転体10の側面10Sの一部には、基部回転体10の回転軸を中心とした離反方向(図8における上下方向、図9における左右方向)の各位置に、周側面10Sを平面状に切り欠いた切欠き部1Cが形成される。つまり、基部回転体10の周囲のうち2箇所を切り欠いて、2面の互いに平行な切欠き部1Cが形成される。実施例3の後施工アンカー用ブッシュ(1)を穴口部内に螺子止め固定する際は、この切欠き部1Cの切欠き形状に対応した、部分円型の2つの嵌合凸部を有する螺子止め冶具5を使用して、所定の螺子止めトルクの螺子止めを行う。所定のトルク量の螺子止めによって、回転軸を中心として最も外周方向へ張り出した基部回転体10の先端面10Tが、アンカー筒体(2)の基端部2Eに圧接して、アンカー筒体(2)に圧縮軸力を付与すると共にアンカーボルト4に引っ張り軸力を付与する。
【0066】
また、実施例3の後施工アンカー用ブッシュ(1)は、穴口部の穴側面に近接して収容される基部回転体10と、回転基部10の先側面10Tから先側へ連なって円柱状に突出形成された先部回転体12とから構成される(図8)。さらに、回転基部10と先部回転体12の連接部には、先側へ先尖り形状となるように傾斜した傾斜面11Tが介設される。また、これら基部回転体10、傾斜面11Tの部分、及び先部回転体12の全軸方向には、アンカーボルト4を遊挿入可能な中央孔100が形成される。実施例3の中央孔100には内螺子が形成されていない。先部回転体12はアンカー筒体の内周面に近接して収容可能な径の中実円筒体からなると共に、所定の外螺子区間12Lに亘って外螺子12Sが形成されている。
【0067】
アンカリング状態を示す図9のように、中央孔100の内部をアンカーボルト4が遊挿入されると共に、先部回転体12の外螺子12Sが、アンカー筒体2の基端部から一定区間に亘って形成された内螺子部22に螺着することで、後施工アンカー用ブッシュ(1)がアンカー筒体に所定の螺子止めトルクで螺子止めされる(図9)。これにより、アンカー筒体2には
【0068】
<その他の実施の形態>
以上、実施の形態をもとに本発明を説明した。実施の形態は例示であり、本発明の主旨から逸脱しない限り、ネジ部の長さ、ネジ山数、ネジ山形状、或いは断面形状、一体または別体の組合せ構成数の変更、接着材又は固化材の使用をはじめ、上述各実施の形態に対して、さまざまな変更、増減、組合せを加えてもよい。また、各実施例の構成要素同士を抽出して組み合わせるか、各実施例の構成に外螺子部/内螺子部の構成要素、或いは傾斜面の構成要素を追加ないし削除してもよい。
【符号の説明】
【0069】
対象躯体(C)
アンカー打設面(CF)
下穴(PH)
穴底部(PH1)
穴口部(PH2)
後施工アンカー用ブッシュ、後施工アンカー用ブッシュ(1)
基部回転体(10)
先部回転体(11/12)
切欠き部(1D/10C)
傾斜面(1T)
中央孔(100)
内螺子(100S)
アンカー筒体(2)
拡開部(21)
内周加工部(20E)
拡開部の内面(210S)
基端部(2E)
第二区間(2IL)
圧縮軸力(2IF)
アンカーコーン(3)
拡径部(31)
連結基部(32)
連結穴(3H)
傾斜面(3T)
アンカーボルト(4)
第一区間(4IL)
引っ張り軸力(4IF)
螺子止め冶具(5)
嵌合部(51E)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10