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特許7477854ブランケット胴、印刷ユニット及びオフセット輪転印刷機
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】ブランケット胴、印刷ユニット及びオフセット輪転印刷機
(51)【国際特許分類】
   B41F 13/193 20060101AFI20240424BHJP
   B41F 7/02 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
B41F13/193
B41F7/02 454
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019201202
(22)【出願日】2019-11-06
(65)【公開番号】P2021074904
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000151416
【氏名又は名称】株式会社東京機械製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】弁理士法人きさらぎ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笠井 宣之
(72)【発明者】
【氏名】村田 善彦
【審査官】山本 一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-074709(JP,A)
【文献】実開昭59-041538(JP,U)
【文献】特開2017-154425(JP,A)
【文献】米国特許第05749298(US,A)
【文献】登録実用新案第3153602(JP,U)
【文献】特開2002-019077(JP,A)
【文献】特開平03-133644(JP,A)
【文献】特開2019-034505(JP,A)
【文献】実開昭61-031829(JP,U)
【文献】米国特許第04304182(US,A)
【文献】独国特許発明第00633393(DE,C1)
【文献】西独国特許出願公開第03708840(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41F 13/193
B41F 7/02
B41F 21/00-21/14
B41N 10/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に沿って延びるブランケット装着用溝が形成されたブランケット胴本体と、
長手方向の一端側の端縁部に事前の折り曲げ加工により形成された咥え側端部及び長手方向の他端側の端縁部に形成された咥え尻側端部を、前記ブランケット装着用溝に挿入した状態で、前記ブランケット胴本体の外周面に装着されるメタルバックブランケットと、
前記ブランケット装着用溝に挿入された前記咥え側端部の該ブランケット装着用溝からの抜け出しを防止する抜出防止手段と
を有し、
前記抜出防止手段は、
前記メタルバックブランケットの前記咥え側端部に形成された係合孔と、
前記ブランケット装着用溝の咥え側壁面に設けられ、前記係合孔に係合可能な突起とを有する
ことを特徴とするブランケット胴。
【請求項2】
前記抜出防止手段は、
前記ブランケット装着用溝に挿入されることにより、前記ブランケット装着用溝を形成する前記咥え側壁面との間において前記咥え側端部を挟持可能な挿入部材を更に有する
ことを特徴とする請求項1に記載のブランケット胴。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のブランケット胴と、
刷版を備える版胴と、
前記版胴を介して前記ブランケット胴にインキを供給するインキ供給装置と、
前記版胴に湿し水を供給する湿し水供給装置と
を備える
ことを特徴とする印刷ユニット。
【請求項4】
請求項3に記載の印刷ユニットと、
連続紙をロール状に巻いた巻取紙を装着する給紙ユニットと、
前記印刷ユニットで印刷された前記連続紙を裁断し折り畳んで折丁を形成する折部と
を備える
ことを特徴とするオフセット輪転印刷機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブランケット胴、印刷ユニット及びオフセット輪転印刷機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
新聞印刷用のオフセット輪転印刷機に用いられる印刷ユニットは、インキを供給するインキ供給装置と、湿し水を供給する湿し水供給装置と、刷版が装着される版胴と、ブランケットが装着されるブランケット胴とを備えている。この印刷ユニットでは、インキ供給装置から供給されたインキが、版胴を介してブランケット胴に供給され、ブランケット胴が、走行する連続紙と所定の圧力で接触することにより、連続紙に刷版の内容(文字や画像等)が転写されるように構成されている。
【0003】
このような印刷ユニットのブランケット胴に装着されるブランケットの種類としては、ノーマルブランケットとメタルバックブランケットがある。ノーマルブランケットは、基布層の上に弾性層を積層して形成されている。メタルバックブランケットは、ベースメタル(例えば、厚さが0.2mmのステンレス板)の上にブランケット層(ゴム層又は布層)を積層して形成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
メタルバックブランケットは、ベースメタルが内周側となりブランケット層が外周側となる状態で、ブランケット胴に装着されるものである。ベースメタルの長さは、ブランケット層の長さよりも長くなっており、ベースメタルの長手方向の両端縁部には、ブランケット層が形成(積層)されていない。メタルバックブランケットをブランケット胴に装着するためには、その前準備として、専用の折り曲げ機であるメタルバックブランケットベンダーにより、ベースメタルの長手方向の両端縁部、即ちブランケット層が積層されていない部分を折り曲げ加工して、咥え側端部と咥え尻側端部を形成する必要がある。このように、メタルバックブランケットの咥え側端部と咥え尻側端部は、折り曲げ加工されたベースメタルのみで構成されているため薄くなっている。
【0005】
このように咥え側端部と咥え尻側端部が形成されたメタルバックブランケットは、次のような手順に沿い、ブランケット胴に装着される。
(1) ブランケット胴には、ブランケットの両端縁部(咥え側端部と咥え尻側端部)が挿入可能に構成されたブランケット装着用溝が形成されると共に、このブランケット装着用溝内には、ブランケット装着装置を収容可能な収容空間が形成されている。
(2) メタルバックブランケットの咥え側端部を、ブランケット装着用溝に挿入して、ブランケット装着用溝に対して回転方向後方側に形成された咥えエッジ部に係合させる。
(3) メタルバックブランケットの咥え側端部を、咥えエッジ部に係合させた状態に保持しつつ、ブランケット胴を回転させていき、メタルバックブランケットをブランケット胴の外周面に巻き付けていく。この巻き付け作業の際には、ブランケット胴の外周面からメタルバックブランケットが浮き上がらないように、作業者が手で適度な張力を与えつつメタルバックブランケットをブランケット胴に押し付けながら、メタルバックブランケットをブランケット胴の外周面に密着状態で巻き付けていく。
(4) 咥え尻側端部がブランケット装着用溝に挿入可能な位置にきた後、ブランケット胴の回転を停止する。
(5) 咥え尻端部をブランケット装着用溝内に挿入し、咥え尻側端部をブランケット装着装置により牽引して締め込む。これにより、メタルバックブランケットを、均等に張り渡した状態で、ブランケット胴の外周面に装着することができる。
【0006】
なお、ブランケット胴は、例えば、剛性に優れる鍛造鋼により構成されており、その外周面には、耐腐食性を高めるため、硬質クロムメッキやステンレスの溶着などが施されている。
【0007】
上述したように、メタルバックブランケットは、ベースメタルを有しているため、非伸縮性のブランケットである。このような非伸縮性のメタルバックブランケットを使用すると、網点の再現性が良く、シャープで綺麗な紙面を提供できるという利点がある。
【0008】
また、メタルバックブランケットの咥え側端部と咥え尻側端部は、薄くなっている。このため、ブランケット胴に形成するブランケット装着用溝(ギャップ)としては、ギャップ幅を狭くしたナローギャップを採用することができる。ブランケット装着用溝(ギャップ)は、印刷時の主な振動発生源であるため、ギャップをナローギャップとすることにより、振動の発生を抑制することができる。このようにして振動の発生を抑制することができるため、印圧変動を抑制することができ、ショック目やダブリ等の印刷障害の発生を抑制することができ、紙面品質が向上する。なお、ショック目とは、紙面の横方向(幅方向)に延びる白抜けが紙面の縦方向に断続的に発生して、濃淡の縞模様が生じることである。
【0009】
更に、メタルバックブランケットは、ノーマルブランケットよりも寿命が長く、ブランケットのヘタリも大幅に少ない。ブランケットは消耗してくると、新しいブランケットに交換しなければならないが、メタルバックブランケットは、長寿命でヘタリが少ないので、交換サイクルが長くなる。この結果、メタルバックブランケットを採用すると、交換作業時間の減少や、交換作業に伴う印刷停止時間の減少を図ることができ、これに伴い交換作業に伴う費用も削減できるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2009-196269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、メタルバックブランケットのベースメタル(例えば、ステンレス)も、ブランケット胴(例えば、鍛造鋼)の外周面も、いずれも金属であるため、両者の接触抵抗は小さくて滑り易い。このため、メタルバックブランケットをブランケット胴に装着していく際や、メタルバックブランケットをブランケット胴に装着した後に印刷をしている際において、メタルバックブランケットがブランケット胴からズレる虞がある。
【0012】
そこで従来では、メタルバックブランケットをブランケット胴に装着していく際、即ち、メタルバックブランケットの咥え側端部を、ブランケット装着用溝の咥えエッジ部に係合し、ブランケット胴を回転させてメタルバックブランケットを巻き付けていく際には、複数の作業者により、咥え側端部及びその近傍部分をブランケット胴の外周面に押し付けて、位置ズレしないように保持する必要があった。このため、従来では、メタルバックブランケットをブランケット胴に装着していく際に、多数の作業者が必要であった。
【0013】
本発明は、上述した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、ブランケット胴に対するメタルバックブランケットの装着を支援することが可能なブランケット胴、印刷ユニット及びオフセット輪転印刷機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係るブランケット胴は、軸方向に沿って延びるブランケット装着用溝が形成されたブランケット胴本体と、長手方向の一端側の端縁部に形成された咥え側端部及び長手方向の他端側の端縁部に形成された咥え尻側端部を、前記ブランケット装着用溝に挿入した状態で、前記ブランケット胴本体の外周面に装着されるメタルバックブランケットと、前記ブランケット装着用溝に挿入された前記咥え側端部の該ブランケット装着用溝からの抜け出しを防止する抜出防止手段とを有していることを特徴とする。
【0015】
本発明に係るブランケット胴の前記抜出防止手段は、前記メタルバックブランケットの前記咥え側端部に形成された係合孔と、前記ブランケット装着用溝の内部に設けられ、前記係合孔に係合可能な突起とを有していても良い。
【0016】
本発明に係るブランケット胴の前記抜出手段は、前記ブランケット装着用溝に挿入されることにより、前記ブランケット装着用溝を形成する咥え側壁面との間において前記咥え側端部を挟持可能な挿入部材であっても良い。
【0017】
本発明に係る印刷ユニットは、上述したブランケット胴と、刷版を備える版胴と、前記版胴を介して前記ブランケット胴にインキを供給するインキ供給装置と、前記版胴に湿し水を供給する湿し水供給装置とを備えることを特徴とする。
【0018】
本発明に係るオフセット輪転印刷機は、上述した印刷ユニットと、連続紙をロール状に巻いた巻取紙を装着する給紙ユニットと、前記印刷ユニットで印刷された前記連続紙を裁断し折り畳んで折丁を形成する折部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ブランケット胴に対するメタルバックブランケットの装着を支援することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態に係る印刷ユニットを備えた印刷部を示す構成図である。
図2】本実施形態に係るブランケット胴を示す構成図である。
図3図2のA部を拡大して示す構成図である。
図4】メタルバックブランケットを示す構成図である。
図5図4のB矢視図である。
図6】ブランケット装着用溝に挿入固定部材を挿入した状態を示す構成図である。
図7】咥え側端部を咥えエッジに係合した状態を示す構成図である。
図8】メタルバックブランケットをブランケット胴本体に装着していく状態を示す斜視図である。
図9】ブランケット装着用溝に楔部材を挿入した状態を示す構成図である。
図10】ブランケット胴本体を正回転方向に回転させながら、メタルバックブランケットをブランケット胴本体に装着していく状態を示す構成図である。
図11】ブランケット胴本体を逆回転方向に回転させながら、メタルバックブランケットをブランケット胴本体に装着していく状態を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0022】
[オフセット輪転印刷機の全体構成]
本実施形態に係るオフセット輪転印刷機は、給紙ユニット(図示せず)と、複数の印刷部(その構成は後述する)と、レールフレーム部(図示せず)と、折部(図示せず)と、後処理機構(図示せず)と、制御部(図示せず)と、設定入力部(図示せず)とを備えている。
【0023】
給紙ユニットは、連続紙をロール状に巻いた巻取紙を装着する。印刷部は、給紙ユニットから供給される連続紙の両面にオフセット印刷を施す。レールフレーム部は、印刷部から折部に至る連続紙の走行経路を形成する。折部は、オフセット印刷後の連続紙を断裁して、一枚の枚葉状シート又は複数の枚葉状シートからなる枚葉状シート群を折り畳んで折丁を形成する。後処理機構は、折部により形成された折丁に所定の処理を行い集積する。制御部は、各構成の各種制御を実行する。設定入力部は、各種設定情報を入力する。本実施形態に係るオフセット輪転印刷機において、給紙ユニット、レールフレーム部、折部、後処理機構、制御部及び設定入力部は、種々の公知のものを任意に用いることができるため、その説明を省略する。
【0024】
[印刷部の構成]
印刷部1は、図1に示すように、連続紙の供給方向に沿って配された4つの印刷ユニット(第1印刷ユニット1a~第4印刷ユニット1d)を備えるカラー(本実施形態では、シアン、マゼンタ、イエロー及びブラックの4色)印刷対応のタワー型印刷ユニットである。なお、印刷部1は、オフセット輪転印刷機に設置される全ての印刷部1が4つの印刷ユニット1a~1dからなるカラー印刷対応のタワー型印刷ユニットである必要はなく、その一部又は全てが、1つ又は2つの印刷ユニットのみからなる単色又は二色印刷対応の印刷ユニットであっても良い。
【0025】
第1印刷ユニット1a~第4印刷ユニット1dは、それぞれ、多数のインキ供給ローラーを有するインキ供給装置11と、湿し水を供給する湿し水供給装置12と、刷版を備える版胴13と、印刷用ブランケットであるメタルバックブランケットを備えるブランケット胴100とが、連続紙を挟んで左右一対配された印刷カップルを備えている。第1印刷ユニット1a~第4印刷ユニット1dは、従来の印刷ユニットと同様に、各インキ供給装置11から供給されたインキが、各版胴13の刷版を介して各ブランケット胴100の印刷用ブランケットに供給され、印刷用ブランケットが、走行する連続紙(被印刷体)と所定の圧力で接触することにより、連続紙に刷版の内容(文字や画像等)が転写されるよう構成されている。
【0026】
版胴13は、軸方向に沿って延びる直線状の刷版装着用溝を有し、軸方向に沿って複数の刷版を備えて構成されている。例えば、本実施形態に係る版胴13は、新聞1頁の横方向の長さの4倍に略等しい軸方向の長さ(W)と、新聞1頁の縦方向の長さと略等しい周方向の長さ(L)とを有する、所謂4(W)×1(L)型の版胴である。なお、版胴13は、4(W)×1(L)型の版胴に限定されず、例えば所謂4(W)×2(L)型の版胴等、種々の版胴を用いることが可能である。なお、本実施形態に係るオフセット輪転印刷機において、インキ供給装置11、湿し水供給装置12及び版胴13は、種々の公知のものを任意に用いることができるため、その説明を省略する。
【0027】
[ブランケット胴の概略構成]
ブランケット胴100の各部の詳細構成は、後に順次説明していくが、ブランケット胴100の概略構成は次の通りである。即ち、ブランケット胴100は、軸方向に沿って延びるブランケット装着用溝111が形成されたブランケット胴本体110と、長手方向の一端側の端縁部に形成された咥え側端部121a及び長手方向の他端側の端縁部に形成された咥え尻側端部121bを、ブランケット装着用溝111に挿入した状態で、ブランケット胴本体110の外周面に装着されるメタルバックブランケット120と、ブランケット装着用溝111に挿入された咥え側端部121aの該ブランケット装着用溝111からの抜け出しを防止する抜出防止手段とを有している。抜出防止手段は、図3に示す係合ピン140及び図5に示す咥え側端部121aに形成した係合孔130からなる第1の抜出防止手段と、図6に示す第2の抜出防止手段である挿入固定部材150とを備えている。
以下に、ブランケット胴100の各部の詳細構成を説明する。
【0028】
[ブランケット胴本体及びメタルバックブランケットの構成]
図2に示すように、ブランケット胴100は、円柱状のブランケット胴本体110と、ブランケット胴本体110の外周面に装着されるメタルバックブランケット120を備えている。ブランケット胴本体110は、新聞1頁の横方向の長さの4倍に略等しい軸方向の長さ(W)と、新聞1頁の縦方向の長さの2倍に略等しい周方向の長さ(L)とを有する、所謂4(W)×2(L)型の回転体(2倍胴)である。メタルバックブランケット120は、ブランケット胴本体110の軸方向に2つ並んで、ブランケット胴本体110の外周面に装着されるものである。
【0029】
図2のA部を拡大した図3に示すように、ブランケット胴本体110には、軸方向に沿って直線状に延びると共にブランケット胴本体110の外周面に開口するブランケット装着用溝111が形成されている。このブランケット装着用溝111は、1つのブランケット胴本体110に2本形成されている。つまり、第1のブランケット装着用溝111は、ブランケット胴本体110の軸方向長さの1/2の長さを有し、ブランケット胴本体110の一端部から中央部(中間位置)に亘って延びている。第2のブランケット装着用溝111は、ブランケット胴本体110の軸方向長さの1/2の長さを有し、ブランケット胴本体110の他端部から中央部(中間位置)に亘って延びている。しかも、第1と第2のブランケット装着用溝111は、周方向の位置が180°ずれて形成されており、所謂、180°スタガーとなっている。ブランケット装着用溝111の溝幅(周方向長さ)は、数mm(例えば、2mm)になっている。
【0030】
ブランケット胴本体110には、ブランケット装着用溝111に連通する収容空間112が形成されている。この収容空間112には、ブランケット装着装置113が備えられている。なお、図3では、ブランケット装着装置113の巻込軸113aのみを示している。巻込軸113aには、スリット溝114が形成されている。
【0031】
印刷時におけるブランケット胴本体110の回転方向を正回転方向αとすると、ブランケット胴本体110のうち、ブランケット装着用溝111に対して正回転方向αの後方側に位置する部分が、咥えエッジ部115となっている。この咥えエッジ部115は、ブランケット装着用溝111を形成する咥え側壁面のうち咥えエッジ部115側の咥え側壁面111aと、ブランケット胴本体110の外周面とでなす角度が鋭角となるように構成されている。
【0032】
図4は、ブランケット胴本体110に装着される前の、メタルバックブランケット120を示すものである。なお、図4では、理解を容易にするため、メタルバックブランケット120の厚さを、実厚よりも厚く描いている。同図に示すように、メタルバックブランケット120は、ベースメタル121の上にブランケット層122を積層して形成した、シート状を成す部材である。ベースメタル121の長さはブランケット層122の長さよりも長くなっており、ベースメタル121の長手方向の両端縁部にはブランケット層122が積層されていない。そして、ベースメタル121の長手方向の一端側の端縁部を折り曲げ加工して、咥え側端部121aが形成され、ベースメタル121の他端側の端縁部を折り曲げ加工して、咥え尻側端部121bが形成されている。なお、ベースメタル121及びブランケット層122の「長さ」や「長手方向」、即ち、メタルバックブランケット120の「長さ」や「長手方向」とは、メタルバックブランケット120をブランケット胴本体110の外周面に装着した際における「周方向に沿う長さ」や「周方向に沿う方向」に相当する「長さ」や「方向」を意味するものである。
【0033】
[第1の抜出防止手段としての、係合孔及び係合ピンの構成]
図4のB矢視図である図5に示すように、ベースメタル121の咥え側端部121aには、ベースメタル121の幅方向に離間して、3つの係合孔130が形成されている。つまり、ベースメタル121(咥え側端部121a)の幅方向の両端位置と、幅方向の中央位置に、係合孔130が形成されている。本実施形態では、係合孔130のうち、1つが丸孔、2つが長孔となっているが、丸孔を2つとして長孔1つとしても、すべてを丸孔にしても、すべてを長孔としてもよい。
【0034】
図3に戻り説明すると、ブランケット胴100は、更に、ブランケット胴本体110に取り付けた係合ピン140を備えている。この係合ピン140は、ブランケット胴本体110に埋設状態で取り付けられており、係合ピン140のピン先端が、咥え側壁面111aからブランケット装着用溝111内に、数mm(例えば、0.5mm)突出している。本実施形態では、3本の係合ピン140が、軸方向に離間して設けられている。また、メタルバックブランケット120の咥え側端部121aを咥えエッジ部115に係合した際に、3本の係合ピン140のピン先端(突起)が、咥え側端部121aに形成した3つの係合孔130に挿通して係合するように、係合ピン140及び係合孔130の配置位置が設定されている。
【0035】
上述した、ベースメタル121の咥え側端部121aに形成した3つの係合孔130と、ブランケット胴本体110に設けた3本の係合ピン140のピン先端(突起)により、第1の抜出防止手段が構成されている。なお、係合孔130や係合ピン140の数は、3つに限るものではなく、1つ、または、2以上の任意の数にしてもよい。また、ブランケット胴本体110の外周面のうち、ブランケット装着用溝111に近い部分に、係合ピン140の配置位置(軸方向に沿う配置位置)を示す印を付けておいてもよい。係合ピン140の配置位置を示す印を付けておけば、後述するように、係合ピン140の先端を係合孔130に挿通して係合する作業を、容易に行うことができる。なお、印は、例えば、ケガキ針で引くケビキ線等がある。
【0036】
[第2の抜出防止手段としての、挿入固定部材の構成]
本実施形態のブランケット胴100は、更に、図6に示すような、挿入固定部材(挿入部材)150を備えている。挿入固定部材150は、任意の形状及び大きさの板部材であり、例えば、幅(軸方向の長さ)が50mm、長さ(周方向の長さ)が100~150mm、厚さが1.5mmの板部材である。この挿入固定部材150は、屈曲した板形状又は屈曲可能な可撓性を有する板形状となっており、ブランケット胴本体110の外周面に磁着する固定部150aと、ブランケット装着用溝111内に挿入される挿入部150bを有している。挿入固定部材150の固定部150aは磁石により形成されている。挿入固定部材150の挿入部150bは、ブランケット装着用溝111に挿入されると、挿入部150bとブランケット装着用溝111との間の隙間を埋める(隙間を無くす)厚さを有している。したがって、図6に示すように、固定部150aをブランケット胴本体110の外周面に磁着し、挿入部150bをブランケット装着用溝111に挿入すると、挿入部150bが、咥え側端部121aを咥えエッジ部115の頂部側に押し付けて、咥え側壁面111aとの間で、咥え側端部121aを挟持するように構成されている。
【0037】
なお、挿入固定部材150としては、全てが磁石により形成されたものに限るものではない。例えば、磁石により形成された下面層と、該下面層よりも摩擦係数の高い部材(例えば、樹脂系素材である、ニトリルゴム、ウレタンゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム等)により形成された上面層とを接合した板状の部材により、挿入固定部材を形成してもよい。このような構成となっている挿入固定部材では、下面層の磁石によりブランケット胴本体110に磁着されたときに、上面側の部材が、咥え側端部121aを咥えエッジ部115の頂部側に押し付けて、咥え側壁面111aとの間で、咥え側端部121aを挟持するように構成されている。
【0038】
[メタルバックブランケットの装着手順等]
ここで、メタルバックブランケット120をブランケット胴本体110に装着する手順等を説明する。
【0039】
(1) 図7に示すように、メタルバックブランケット120の咥え側端部121aを、ブランケット装着用溝111に挿入して、咥えエッジ部115に係合させる。更に、3本の係合ピン140のピン先端を、3つの係合孔130に挿通して係合させる。このように、咥え側端部121aを咥えエッジ部115に係合させると共に、係合ピン140のピン先端を係合孔130に挿通して係合させるため、メタルバックブランケット120の咥え側端部121aは、咥えエッジ部115に緊密に係合して固定される。
【0040】
この場合、係合孔130が長孔であれば、係合ピン140のピン先端を係合孔130に挿通しやすくなる。また、メタルバックブランケット120の幅方向の両端位置のみならず中央位置にも、係合ピン140及び係合孔130が配置されているので、メタルバックブランケット120の幅方向の両端位置のみならず中央位置においても、メタルバックブランケット120とブランケット胴本体110の外周面との間に隙間が発生することなく、咥え側端部121aを咥えエッジ部115に密着して固定することができる。
【0041】
(2) 次に、図6及び図8に示すように、挿入固定部材150の固定部150aをブランケット胴本体110の外周面に磁着させて、挿入部150bをブランケット装着用溝111内に挿入する。この場合、図8に示すように、例えば、3つの挿入固定部材150を、軸方向に離間して配置する。このようにして挿入固定部材150を配置することにより、挿入部150bが、咥え側端部121aを、咥えエッジ部115の頂部に向けて押し付けることができる。このため、メタルバックブランケット120の咥え側端部121aは、挿入部150bと咥えエッジ部115(咥え側壁面111a)との間で強固に挟持されて、咥えエッジ部115に緊密に係合して固定支持される。
【0042】
なお、ブランケット胴本体110の外周面のうち、ブランケット装着用溝111に近い部分に、挿入固定部材150の配置位置(軸方向に沿う配置位置)を示す印を付けておけば、挿入固定部材150を容易に配置することができる。挿入固定部材150の配置位置としては、例えば、係合ピン140が配置されている位置とすることができる。なお、印は、例えば、ケガキ針で引くケビキ線等がある。
【0043】
上述したように、第1の抜出防止手段である係合孔130及び係合ピン140と、第2の抜出防止手段である挿入固定部材150により、メタルバックブランケット120の咥え側端部121aを、咥えエッジ部115に、緊密に係合して固定支持することができる。したがって、作業者により、咥え側端部121a及びその近傍部分を、ブランケット胴本体110側に押し付ける必要はなくなる。このため、メタルバックブランケット120をブランケット胴本体110に装着していく際において、作業員の人数を削減することができる。
【0044】
(3) ブランケット胴本体110を正回転方向αに回転させ、メタルバックブランケット120を、ブランケット胴本体110の外周面に巻き付けていく。このとき、第1及び第2の抜出防止手段により、メタルバックブランケット120の咥え側端部121aが、咥えエッジ部115に緊密に係合して固定支持されズレることがないので、メタルバックブランケット120をブランケット胴本体110の外周面に、均等に張り渡した状態で巻き付けていくことができる。なお、正回転方向αに回転させる前に胴入れ(胴をON)をし、さらにメタルバックブランケット120をブランケット胴本体110に密着させるとしても良い。その際は、版胴13に刷版(図示せず)を装着することでさらに密着させるとしても良い。
【0045】
(4) メタルバックブランケット120の咥え尻側端部121bが、ブランケット装着用溝111に挿入可能な位置にきた後、ブランケット胴本体110の回転を停止する。このようにして、ブランケット胴本体110の回転を停止したら、挿入固定部材150を、ブランケット胴本体110から取り外す。そして、胴入れ(胴をON)している際は、胴抜き(胴をOFF)をすることでルーチンを終了させる。なお、胴抜きのタイミングは、挿入固定部材150を取外す前後、どちらでも良い。
【0046】
(5) 図3に示すように、咥え尻側端部121bを、ブランケット装着用溝111内に挿入し、巻込軸113aのスリット溝114に差し込む。咥え尻側端部121bがスリット溝114に差し込まれた状態で、ブランケット装着装置113の巻込軸113aを回転させ、咥え尻側端部121bを牽引して締め込む。これにより、メタルバックブランケット120を、均等に緊張した状態で、ブランケット胴本体110の外周面に装着することができる。
【0047】
このようにして、メタルバックブランケット120がブランケット胴本体110の外周面に装着された状態では、
(a) 咥え側端部121aは、咥えエッジ部115に係合し、且つ、第1の抜出防止手段(係合孔130及び係合ピン140)により係合して固定支持されるため、ズレることはなく、
(b) 咥え尻側端部121bは、ブランケット装着装置113により牽引して締め込まれる。
したがって、印刷中において、ブランケット胴本体110に対するメタルバックブランケット120のズレが抑制される。この結果、印刷ズレ(見当ズレ)等の発生が抑制され、良好な印刷を行うことができる。
【0048】
以上説明したとおり、本実施形態に係るブランケット胴100は、軸方向に沿って延びるブランケット装着用溝111が形成されたブランケット胴本体110と、長手方向の一端側の端縁部に形成された咥え側端部121a及び長手方向の他端側の端縁部に形成された咥え尻側端部121bを、ブランケット装着用溝111に挿入した状態で、ブランケット胴本体110の外周面に装着されるメタルバックブランケット120と、ブランケット装着用溝111に挿入された咥え側端部121aの該ブランケット装着用溝111からの抜け出しを防止する抜出防止手段130,140,150とを有している。
【0049】
このような構成になっているため、抜出防止手段130,140,150により、咥え側端部121aがブランケット装着用溝111から抜け出すことを防止した状態で、メタルバックブランケット120をブランケット胴本体110に良好に装着することができる。このため、メタルバックブランケット120がブランケット胴本体110からズレることを防止することができる。これにより、メタルバックブランケット120をブランケット胴本体110に装着していく際に必要とされる作業員の人数を削減できると共に、良好な印刷品質を確保することができる。
【0050】
[変形例など]
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は、上述した実施形態に記載の範囲には限定されない。上記各実施形態には、多様な変更又は改良を加えることが可能である。
【0051】
[変形例1]
上述した実施形態では、第2の抜出防止手段として挿入固定部材150を用いていたが、第2の抜出防止手段として、図9に示すような、楔部材160を採用することもできる。楔部材160は、例えば、弾性を有するニトリルゴム等により形成することができる。
【0052】
この楔部材160は、挿入固定部材150の代わりに用いることができる。即ち、メタルバックブランケット120の咥え側端部121aを、咥えエッジ部115に固定するためには、まず、メタルバックブランケット120の咥え側端部121aを、ブランケット装着用溝111に挿入して、咥えエッジ部115に係合する。次に、係合ピン140のピン先端を、3つの係合孔130に挿通して係合する。その後、弾性を有する楔部材160を、ブランケット装着用溝111に挿入していく。このようにすると、楔部材160の弾力により、メタルバックブランケット120の咥え側端部121aは、楔部材160と咥えエッジ部115(咥え側壁面111a)との間で強固に挟持され、咥えエッジ部115に緊密に係合して固定される。そして、胴入れ、胴抜きについては前述したとおりである。
【0053】
[変形例2]
上述した実施形態では、第1の抜出防止手段及び第2の抜出防止手段の双方を備えるものとして説明したが、これに限定されず、これら第1の抜出防止手段及び第2の抜出防止手段のいずれか一方のみを備える構成としても良い。また、抜出防止手段は、上述した第1の抜出防止手段及び第2の抜出防止手段に限定されず、ブランケット装着用溝111に挿入された咥え側端部121aの抜け出しを防止することが可能な構成であれば、種々の構成を採用することが可能である。なお、各種抜出防止手段の厚みは、胴入れした際に部材に圧が掛かりにくいという観点において、メタルバックブランケット120よりも薄い方が好ましいが、これに限定されず、メタルバックブランケット120よりも厚みがあるものを使用しても良い。
【0054】
[変形例3]
図10図11を参照して、変形例3を説明する。
図10は、ブランケット胴本体110を正回転方向αに回転させながら、メタルバックブランケット120をブランケット胴本体110に装着していく状態を示している。図1図9を参照して説明した実施形態では、図10に示す状態で、メタルバックブランケット120をブランケット胴本体110に装着している。
図11は、変形例4の手法であり、ブランケット胴本体110を、印刷時の回転方向とは逆方向である逆回転方向βに回転させながら、メタルバックブランケット120をブランケット胴本体110に装着していく状態を示している。
【0055】
図10に示す、左右で対となったブランケット胴本体110の左右位置を入れ替えたものが、図11に示す、左右で対となったブランケット胴本体110に相当する。なお、図10図11に示す各ブランケット胴本体110には、図3に示すのと同様な、ブランケット装着用溝111、収容空間112、ブランケット装着装置113、咥えエッジ部115、第1の抜出防止手段(係合孔130及び係合ピン140)及び第2の抜出防止手段(挿入固定部材150または楔部材160)等を有している。なお、図10図11において、13は版胴を示す。
【0056】
図10に示すように、ブランケット胴本体110を正回転方向αに回転させながら、メタルバックブランケット120をブランケット胴本体110に装着していく場合には、作業者は、手元が見えず作業がし難いという問題がある。一方、図11に示すように、ブランケット胴本体110を逆回転方向βに回転させながら、メタルバックブランケット120をブランケット胴本体110に装着していく場合には、作業者は、手元が見え易く作業がし易いという利点がある。しかも、咥え尻側部を引っ張りながらメタルバックブランケット120をブランケット胴本体110に装着することができるので、メタルバックブランケット120の咥え側端部を、ブランケット胴本体の咥えエッジ部にフィット性良く係合させることができる。また、メタルバックブランケット120をブランケット胴本体110に装着していく際に、メタルバックブランケット120に作用する重力は、ブランケット胴本体110側に向かって働くので、メタルバックブランケット120とブランケット胴本体110との密着性も向上する。
【0057】
[変形例4]
上述した実施形態では、第1の抜出防止手段として、咥え側端部121aに形成した係合孔130と、ブランケット胴本体110に埋設した係合ピン140のピン先端(突起)を採用したが、係合ピン140の代わりに、咥え側壁面111aに突起を形成したものとすることもできる。咥え側壁面111aに形成する突起は、ブランケット胴本体110と一体のものとすることができる。
【0058】
上記のような変形例が本発明の範囲に含まれることは、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0059】
1 印刷部
1a~1d 印刷ユニット
11 インキ供給装置
12 湿し水供給装置
13 版胴
100 ブランケット胴
110 ブランケット胴本体
111 ブランケット装着用溝
111a 咥え側壁面
112 収容空間
113 ブランケット装着装置
113a 巻込軸
114 スリット溝
115 咥えエッジ部
120 メタルバックブランケット
121 ベースメタル
121a 咥え側端部
121b 咥え尻側端部
122 ブランケット層
130 係合孔
140 係合ピン
150 挿入固定部材
150a 固定部
150b 挿入部
160 楔部材
α 正回転方向
β 逆回転方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11