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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】ガスタービン装置
(51)【国際特許分類】
   F02C 9/00 20060101AFI20240424BHJP
   F23R 3/46 20060101ALI20240424BHJP
   F23R 7/00 20060101ALI20240424BHJP
   F23R 3/28 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
F02C9/00 Z
F23R3/46
F23R7/00
F23R3/28 D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020106082
(22)【出願日】2020-06-19
(65)【公開番号】P2022000578
(43)【公開日】2022-01-04
【審査請求日】2023-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 毅司
【審査官】藤原 弘
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0098748(US,A1)
【文献】国際公開第2017/065285(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第110168206(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02C 1/00-9/58
F23R 3/00-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機と、
燃焼器と、
タービンと、
前記圧縮機と前記タービンとを同軸上に連結する回転軸と、
前記燃焼器を制御する燃焼制御部と、を備え、
前記燃焼器は、前記圧縮機から排出される圧縮空気と燃料との混合ガスを燃焼させ、燃焼後の生成ガスを前記タービンに排出する複数の燃焼室を有し、
前記複数の燃焼室のうち、少なくとも一つの燃焼室は、前記燃焼制御部によって定圧定常燃焼と間欠燃焼とを切り換え可能に構成され
前記少なくとも一つの燃焼室は、前記燃料を連続的に噴射可能とされた定圧定常燃焼用燃料噴射器と、前記燃料を間欠的に噴射可能とされた間欠燃焼用燃料噴射器と、を備え、
前記間欠燃焼用燃料噴射器は、前記定圧定常燃焼用燃料噴射器に比べて前記圧縮空気の流れ方向の上流側に配置されている、
ガスタービン装置。
【請求項2】
前記少なくとも一つの燃焼室は、定圧定常燃焼時に前記燃料に点火する定圧定常燃焼用点火器と、間欠燃焼時に前記燃料に点火する間欠燃焼用点火器と、を備える、請求項に記載のガスタービン装置。
【請求項3】
前記複数の燃焼室は、前記回転軸の周囲に環状に配置されている、請求項1または請求項2に記載のガスタービン装置。
【請求項4】
前記燃焼制御部は、前記回転軸の周方向において、前記間欠燃焼が行われる間欠燃焼室同士の間に前記定圧定常燃焼が行われる定圧定常燃焼室が配置されるように、前記燃焼器を制御する、請求項に記載のガスタービン装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービン装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービン装置は、例えばジェットエンジン、火力発電機等を含む多くの分野で広く用いられている。ガスタービン装置は、圧縮機、燃焼器、タービンの3つの要素から概略構成されている。また、燃焼器として、カン型、マルチカン型、キャニュラ型、アニュラ型等の形態が知られている。上記の形態のうち、例えばキャニュラ型の燃焼器は、燃焼器の外装筐体をなすケーシングの内部に複数の燃焼缶が収容された構造を有し、各燃焼缶の内部空間が燃焼室として機能する。
【0003】
複数の燃焼室を備えるガスタービン装置の一例として、下記の特許文献1には、空気と燃料とを燃焼させる複数の筒型燃焼器と、複数の筒型燃焼器の各々に接続され、各筒型燃焼器内で生成される熱ガス流を合流させる環状部と、を備えるガスタービン装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2004-524508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献1には、排気ガス中の酸化窒素を低減する目的で希薄燃焼を行う際には不安定な炎が生じ易く、燃焼振動が生じるおそれがあるが、その場合でも、各筒型燃焼器で生成される熱ガス流を環状部で合流させることにより、タービン入口でのガスの温度と圧力を均一化させることができ、燃焼振動を抑制することができる、と記載されている。一方、ガスタービン装置においては、燃費向上、二酸化炭素の排出量削減等の観点から、熱効率を向上させることが重要であるが、特許文献1のガスタービン装置においては、燃焼振動の抑制は可能であっても、熱効率の向上は難しい。
【0006】
熱効率向上のための一つの手法として、従来のガス高圧化・高温化技術とは別に、燃焼器での高圧化を実現することで燃焼圧力利得を得るという手法がある。しかしながら、現状では、燃焼圧力利得を得るための具体的な装置構成については未だ提案されていない。
【0007】
なお、熱効率向上のための他のアプローチとして、衝撃波を伴う燃焼モードを利用したパルスデトネーションエンジン等の装置の研究が進められている。ところが、この種の装置では、タービンの作動安定性や信頼性の点で未だ不安がある。
【0008】
本発明の一つの態様は、上記の課題を解決するためになされたものであって、燃焼圧力利得を得ることにより優れた熱効率が得られるとともに、タービンの作動安定性や信頼性にも優れるガスタービン装置を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明の一つの態様のガスタービン装置は、圧縮機と、燃焼器と、タービンと、前記圧縮機と前記タービンとを同軸上に連結する回転軸と、前記燃焼器を制御する燃焼制御部と、を備え、前記燃焼器は、前記圧縮機から排出される圧縮空気と燃料との混合ガスを燃焼させ、燃焼後の生成ガスを前記タービンに排出する複数の燃焼室を有し、前記複数の燃焼室のうち、少なくとも一つの燃焼室は、前記燃焼制御部によって定圧定常燃焼と間欠燃焼とを切り換え可能に構成されている。
【0010】
本発明の一つの態様のガスタービン装置において、前記少なくとも一つの燃焼室は、前記燃料を連続的に噴射可能とされた定圧定常燃焼用燃料噴射器と、前記燃料を間欠的に噴射可能とされた間欠燃焼用燃料噴射器と、を備えていてもよい。
【0011】
本発明の一つの態様のガスタービン装置において、前記少なくとも一つの燃焼室は、定圧定常燃焼時に前記燃料に点火する定圧定常燃焼用点火器と、間欠燃焼時に前記燃料に点火する間欠燃焼用点火器と、を備えていてもよい。
【0012】
本発明の一つの態様のガスタービン装置において、前記複数の燃焼室は、前記回転軸の周囲に環状に配置されていてもよい。
【0013】
本発明の一つの態様のガスタービン装置において、前記燃焼制御部は、前記回転軸の周方向において、前記間欠燃焼が行われる間欠燃焼室同士の間に前記定圧定常燃焼が行われる定圧定常燃焼室が配置されるように、前記燃焼器を制御してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一つの態様によれば、燃焼圧力利得が得られ、熱効率に優れるとともに、タービンの作動安定性や信頼性に優れるガスタービン装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態のガスタービン装置を示す概略構成図である。
図2図1のII-II線に沿う燃焼器の断面図である。
図3】燃焼缶の断面図である。
図4】燃焼室出口の圧力時間履歴を示すグラフである。
図5】本実施形態のガスタービン装置の構成を示すブロック図である。
図6】従来のガスタービン装置の構成を示すブロック図である。
図7】本実施形態および従来のガスタービン装置の理論サイクルを示すP-V線図である。
図8】本実施形態および従来のガスタービン装置の理論サイクルを示すT-s線図である。
図9】熱効率向上効果のシミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について、図1図8を用いて説明する。
図1は、本発明の一実施形態のガスタービン装置を示す概略構成図である。
なお、以下の各図面においては各構成要素を見やすくするため、構成要素によって寸法の縮尺を異ならせて示すことがある。
【0017】
[本実施形態の装置構成]
図1に示すように、本実施形態のガスタービン装置10は、圧縮機11と、燃焼器12と、タービン13と、回転軸14と、燃焼器12を制御する燃焼制御部15と、を備える。圧縮機11とタービン13とは、共通の回転軸14によって同軸上に連結されている。以下、説明の都合上、ガスタービン装置10のうち、圧縮機11が設けられた側を前方と称し、タービン13が設けられた側を後方と称する。ガスタービン装置10は、例えばジェットエンジン、火力発電機等の用途に用いられるが、特にこれらの用途に限定されない。
【0018】
圧縮機11は、前方から吸引した空気E1を圧縮して圧縮空気E2を生成し、燃焼器12に向けて送り込む。圧縮機11は、複数のローター17と複数のステーター18とを有する軸流式圧縮機で構成されている。ローター17は回転軸14に固定され、回転軸14の周方向に沿って複数のブレード19が設けられている。ステーター18は、圧縮機ケーシング20の内部から回転軸14に向けて配置されている。ローター17とステーター18とは、交互に配置されており、圧縮機ケーシング20内に流入した空気E1は、1つのローター17と1つのステーター18からなる各段を通過する毎に断熱圧縮され、圧縮空気E2が生成される。
【0019】
図2は、図1のII-II線に沿う燃焼器12の断面図である。
図1に示すように、燃焼器12は、回転軸14の軸線P方向において、圧縮機11とタービン13との間に配置されている。図2に示すように、燃焼器12は、円筒状に形成された内側ケーシング22および外側ケーシング23と、複数の燃焼缶24と、を有する。複数の燃焼缶24は、内側ケーシング22と外側ケーシング23との間の空間Sにおいて、回転軸14の周囲に環状に配置されている。複数の燃焼缶24は、同一の形状およびサイズを有する。図2の例では、16個の燃焼缶24を備えているが、燃焼缶24の数は特に限定されない。
【0020】
本実施形態において、複数の燃焼缶24は全て同一の構成を有するため、以下、任意の1つの燃焼缶24で代表して構成を説明する。
図3は、燃焼缶24を軸線P方向に沿う平面で切断した断面図である。
図3に示すように、燃焼缶24は、円筒状の容器で構成されている。燃焼缶24は、圧縮機11で生成される圧縮空気E2を流入させるための圧縮空気流入口24aと、燃焼後の生成ガスE3を排出するための燃焼ガス排出口24bと、を有する。したがって、燃焼缶24の内部空間は、燃料Fを圧縮空気E2とともに燃焼させるための燃焼室25として機能する。図1に示すように、燃焼室25内には、燃料タンク35内に収容された燃料Fがポンプまたはガス圧縮機等の輸送手段36を介して供給される。
【0021】
本実施形態の燃焼室25は、後述する燃焼制御部15によって定圧定常燃焼と間欠燃焼とが切り換え可能に構成されている。なお、定圧定常燃焼は、連続した燃料供給によって定常的に生じる燃焼のことであり、燃焼缶24の出口(燃焼ガス排出口24b)における圧力が時間的に変動することなく、一定となる。一方、間欠燃焼は、間欠的な燃料供給によって間欠的に生じる燃焼のことであり、燃焼缶24の出口(燃焼ガス排出口24b)における圧力が短時間にパルス状に上昇する。
【0022】
燃焼室25は、定圧定常燃焼用燃料噴射器27と、定圧定常燃焼用点火器28と、間欠燃焼用燃料噴射器30と、間欠燃焼用点火器31と、を備える。定圧定常燃焼用燃料噴射器27は、燃料Fを連続的に噴射可能に構成されている。定圧定常燃焼用点火器28は、定圧定常燃焼時に連続的に噴射される燃料Fと圧縮空気E2との混合気体に点火する。また、間欠燃焼用燃料噴射器30は、燃料Fを間欠的に噴射可能に構成されている。間欠燃焼用点火器31は、間欠燃焼時に間欠的に噴射される燃料Fと圧縮空気E2との混合気体に点火する。すなわち、本実施形態の燃焼室25は、定圧定常燃焼時に用いられる燃料噴射器27および点火器28と、間欠燃焼時に用いられる燃料噴射器30および点火器31と、の2組の燃料噴射器および点火器を備える。
【0023】
定圧定常燃焼用燃料噴射器27は、燃料Fを連続的に噴射可能なものであれば、特に具体的な装置構成は限定されない。また、定圧定常燃焼の場合、燃料Fが連続的に供給されることで燃焼が持続するため、定圧定常燃焼用点火器28は、燃料Fと圧縮空気E2との混合気体に1回点火できるものであればよい。これに対して、間欠燃焼用燃料噴射器30は、例えば10~100回/秒程度の周波数で燃料Fを間欠的に噴射可能なものを用いることが望ましい。また、間欠燃焼用点火器31は、間欠燃焼用燃料噴射器30の燃料噴射に同期して、燃料Fと圧縮空気E2との混合気体に点火できる必要がある。
【0024】
図3の例では、燃焼室25の圧縮空気E2の流れ方向に沿って、上流側に、間欠燃焼用燃料噴射器30および間欠燃焼用点火器31が配置され、下流側に、定圧定常燃焼用燃料噴射器27および定圧定常燃焼用点火器28が配置されている。ただし、燃料噴射器および点火器の配置は、上記の配置に限ることはなく、上記と逆であってもよいし、圧縮空気E2の流れ方向と交差する方向、すなわち、燃焼缶24の周方向に沿って配置されていてもよい。また、定圧定常燃焼用燃料噴射器27と間欠燃焼用燃料噴射器30とは、同じ仕様の燃料噴射器が用いられてもよいし、異なる仕様の燃料噴射器が用いられてもよい。同様に、定圧定常燃焼用点火器28と間欠燃焼用点火器31とは、同じ仕様の点火器が用いられてもよいし、異なる仕様の点火器が用いられてもよい。
【0025】
また、図2に示すように、燃焼器12の内側ケーシング22と外側ケーシング23との間の空間Sには、圧縮機11から排出される圧縮空気E2が流通する構成となっている。これにより、複数の燃焼缶24は、圧縮空気E2によって外側から冷却される。
【0026】
図1に示すように、タービン13は、燃焼器12から排出される燃焼後の生成ガスE3のエネルギーによって回転軸14を回転させ、圧縮機11を駆動する。タービン13は、複数のブレード33を有し、生成ガスE3がブレード33に衝突することにより自身が回転し、回転軸14を回転させる。ガスタービン装置10をジェットエンジンとして用いる場合には、タービン13からの排気エネルギーによって排気自身を加速し、排気E4を後方に噴出することで推進力が得られる。また、ガスタービン装置10を発電機として用いる場合には、タービン13の回転力を発電機の軸回転に利用することで回転エネルギーから電力が得られる。
【0027】
燃焼制御部15は、燃焼器12を制御する。具体的には、燃焼制御部15は、燃焼器12を構成する複数の燃焼室25の各々について、定圧定常燃焼を行わせるか、間欠燃焼を行わせるかを決定し、その決定に応じて、各燃焼室25に付帯する各燃料噴射器27,30の噴射弁の開閉タイミング、各点火器28,31の点火タイミング等の燃焼パラメーターを制御する。
【0028】
なお、図示は省略するが、ガスタービン装置10は、燃焼器12以外の構成要素である圧縮機11、タービン13等の各部位を制御するため、装置全体としての制御部を備えている。
【0029】
図2に、本実施形態のガスタービン装置10を運転する際の燃焼パターンの一例を示す。
図2に示すように、本実施形態のガスタービン装置10において、燃焼制御部15は、16個の燃焼室25のうち、8個の燃焼室25で定圧定常燃焼が行われ、他の8個の燃焼室25で間欠燃焼が行われるように、燃焼器12を制御する。以下、定圧定常燃焼が行われる燃焼室25を定圧定常燃焼室25Aと称し、間欠燃焼が行われる燃焼室25を間欠燃焼室25Bと称する。すなわち、複数の燃焼室25の内訳は、半数の燃焼室25が定圧定常燃焼室25Aであり、残りの半数の燃焼室25が間欠燃焼室25Bである。ただし、定圧定常燃焼室25Aおよび間欠燃焼室25Bの数は、特に限定されず、適宜変更が可能である。図2においては、定圧定常燃焼室25Aと間欠燃焼室25Bとを区別するため、間欠燃焼室25Bに点のハッチングを付した。
【0030】
また、複数の定圧定常燃焼室25Aの各々は、回転軸14の周方向に沿って1つおきに配置され、複数の間欠燃焼室25Bの各々は、2つの定圧定常燃焼室25Aの間に回転軸14の周方向に沿って1つおきに配置されている。換言すると、定圧定常燃焼室25Aは、2つの間欠燃焼室25B同士の間に配置され、間欠燃焼室25Bは、2つの定圧定常燃焼室25A同士の間に配置されている。すなわち、定圧定常燃焼室25Aおよび間欠燃焼室25Bは、例えば燃焼器12の上半分の燃焼室25が全て定圧定常燃焼室25Aであり、下半分の燃焼室25が全て間欠燃焼室25Bであるというように、偏って配置されるのではなく、交互に分散されて配置されている。
【0031】
上記のように、定圧定常燃焼室25Aと間欠燃焼室25Bとは、できるだけ交互に配置されることが好ましいが、必ずしも1つずつ交互に配置されなくてもよく、例えば2つの定圧定常燃焼室25Aと2つの間欠燃焼室25Bをそれぞれ隣接させ、各2つずつの定圧定常燃焼室25Aの組と間欠燃焼室25Bの組とが交互に配置されてもよい。また、図2に示すように、定圧定常燃焼室25Aと間欠燃焼室25Bとが1つずつ交互に配置される場合であっても、定圧定常燃焼室25Aおよび間欠燃焼室25Bの位置が時間的に常に固定されていなくてもよく、例えば定圧定常燃焼室25Aと間欠燃焼室25Bとが一定時間毎に入れ替わる構成としてもよい。このように、定圧定常燃焼室25Aおよび間欠燃焼室25Bの配置についても、特に限定されず、定圧定常燃焼室25Aおよび間欠燃焼室25Bの数の変更とともに、適宜変更が可能である。
【0032】
[本実施形態の原理]
以下、本実施形態のガスタービン装置10において、燃焼圧力利得が得られる原理について説明する。
図4は、燃焼室出口における圧力時間履歴の一例を示すグラフである。図4において、横軸は時間(ms)であり、縦軸は燃焼室出口での圧力(kPa)である。1点鎖線のグラフJは、定圧定常燃焼時の圧力時間履歴を示し、実線のグラフKは、間欠燃焼時の圧力時間履歴を示す。
【0033】
図4に示すように、定圧定常燃焼においては、圧力が約100kPaで略一定の値を示す。定圧定常燃焼では、燃焼室25の設計や燃焼条件等によって圧力を多少高めることができたとしても、圧力の上昇には限界がある。一方、間欠燃焼では、圧力は、約12msの時間間隔で1400kPaを超える値まで急激にパルス状に上昇する。間欠燃焼では、燃焼室25内の生成ガスE3の排出速度に対して燃焼速度が十分に速いため、燃焼室25内で生じる燃焼はほぼ定積燃焼と見なすことができる。そのため、燃焼室出口における圧力は、定圧定常燃焼時の圧力に比べて大きく上昇する。
【0034】
したがって、定圧定常燃焼室25Aから出力される圧力と、間欠燃焼室25Bから出力される圧力と、を平均した燃焼器12全体の出口圧力は、全てが定圧定常燃焼室から出力される圧力からなる従来の燃焼器全体の出口圧力と比べて、大きく上昇する。このように、本実施形態の燃焼器12によれば、従来の燃焼器に比べて高圧の生成ガスE3が得られる結果、燃焼圧力利得を得ることができる。
【0035】
なお、図示は省略するが、燃焼後の生成ガスE3の温度についても、圧力と同様の傾向を示す。すなわち、定圧定常燃焼室25Aから出力される温度と、間欠燃焼室25Bから出力される温度と、を平均した燃焼器12全体の出口温度は、全てが定圧定常燃焼室から出力される温度からなる従来の燃焼器全体の出口温度と比べて、大きく上昇する。
【0036】
ここで、本実施形態のガスタービン装置10と従来のガスタービン装置とで、熱効率を比較する。なお、熱効率は、燃料が有する熱エネルギーに対する当該熱エネルギーから取り出すことができる動力の割合と定義する。
図5は、本実施形態のガスタービン装置10の構成を示すブロック図である。図6は、従来のガスタービン装置110の構成を示すブロック図である。
【0037】
図6に示すように、従来のガスタービン装置110は、圧縮機111と、定圧定常燃焼室125Aを有する燃焼器112と、タービン113と、を備える。圧縮機111の入口での気体の状態を符号Aで示し、燃焼器112の入口での気体の状態を符号Bで示し、燃焼器112の出口での気体の状態を符号Cで示し、タービン113の出口での気体の状態を符号Dで示す。
【0038】
これに対して、図5に示すように、本実施形態のガスタービン装置10は、圧縮機11と、定圧定常燃焼室25Aおよび間欠燃焼室25Bを有する燃焼器12と、タービン13と、を備える。圧縮機11の入口での気体の状態を符号Aで示し、燃焼器12の入口での気体の状態を符号Bで示し、燃焼器12の出口での気体の状態を符号C’で示し、タービン13の出口での気体の状態を符号D’で示す。
【0039】
図7は、本実施形態のガスタービン装置10と従来のガスタービン装置110とで、理論上の基本サイクルを比較したP-V線図である。図8は、本実施形態のガスタービン装置と従来のガスタービン装置とで、理論上の基本サイクルを比較したT-s線図である。図7および図8において、従来のガスタービン装置110の値を1点鎖線Jで示し、本実施形態のガスタービン装置10の値を実線Kで示した。
また、この例では、水素と空気との予混合気体を用い、圧縮機入口での圧力を0.1MPaとし、温度を298Kとし、当量比を1.0とし、圧縮機の圧力比を10として計算した。
【0040】
図7に示すP-V線図において、DまたはD’→Aは排気・吸気過程を示し、A→Bは圧縮過程を示し、B→CまたはC’は燃焼過程を示し、CまたはC’→DまたはD’は膨張過程を示す。
従来のガスタービン装置110の場合、基本サイクルは、断熱圧縮、等圧加熱、断熱膨張、等圧冷却の各過程を有するブレイトンサイクルである。すなわち、従来のガスタービン装置110では、定圧定常燃焼のみが行われるため、B→Cの燃焼過程は圧力が一定の等圧加熱となる。
【0041】
これに対し、本実施形態のガスタービン装置10の場合、上述したように、間欠燃焼室25B内の燃焼速度が十分に速いため、基本サイクルがハンフリーサイクルで近似でき、間欠燃焼室25B内で定積燃焼に近い燃焼が生じる。間欠燃焼室25Bの出口圧力(符号C’の圧力)は、従来の出口圧力(符号Cの圧力)に比べて10倍程度にまで大きく上昇する。
【0042】
図7のP-V線図をT-s線図に書き直すと、図8のようになる。
図8のT-s線図において、各グラフJ,Kの4本の直線で囲まれた領域の面積は、タービンで得られる出力の大きさ、すなわち、熱効率に相当する。
本実施形態のガスタービン装置10の場合、燃焼器12の出口圧力が従来に比べて上昇することに加えて、燃焼器12の出口温度も従来に比べて上昇する。すなわち、燃焼過程B→C’の直線の傾斜は、燃焼過程B→Cの直線の傾斜に比べて大きく増大する。このように、本実施形態のガスタービン装置10によれば、燃焼器12の出口において、従来よりも高い圧力と高い温度が得られる結果、熱効率を向上することができる。
【0043】
以上、本実施形態の構成により熱効率の向上効果が得られることを理論上説明したが、本発明者は、さらに熱効率の向上効果を実証するためのシミュレーションを行った。以下、シミュレーション結果について説明する。
シミュレーション条件としては、圧力比を10とし、圧縮機の断熱効率を88%とし、タービンの断熱効率を90%とし、タービンの入口温度を1550Kとした。
【0044】
図9は、熱効率の向上効果のシミュレーション結果を示すグラフである。
図9のグラフにおいて、横軸は質量流量比率X[無単位]であり、縦軸は熱効率[%]である。また、質量流量比率Xは、全生成ガス中に占める間欠燃焼によって得られる生成ガスの割合を示す。具体的には、複数の燃焼室から排出される生成ガスの総質量流量をMとし、間欠燃焼室から排出される生成ガスの質量流量をMとしたとき、質量流量比率Xは、X=M/Mで表される。
【0045】
図9に示すように、シミュレーション結果から、全ての燃焼室で定圧定常燃焼が行われた場合(質量流量比率X=0に相当)の熱効率は約20%であり、全ての燃焼室で間欠燃焼が行われた場合(質量流量比率X=1に相当)の熱効率は約39%であるのに対し、定圧定常燃焼と間欠燃焼とを組み合わせた場合には、熱効率は、約20~39%の間の値を取り、質量流量比率Xの増加に伴って高くなることが判った。
【0046】
本実施形態のガスタービン装置10において、定圧定常燃焼のみを行った従来例に対して有意な熱効率向上効果が得られ、かつ、間欠燃焼のみを行った場合の問題点を回避する観点から、質量流量比率Xは0.2~0.8の範囲に設定されることが好ましい。すなわち、16個の燃焼室25のうち、3~13個程度の燃焼室25を間欠燃焼室25Bに割り当てることが好ましい。その場合、上記のシミュレーション条件において、熱効率は、定圧定常燃焼のみを行った従来例に対して約5~16%向上する。例えば図2に示す燃焼パターンでは、質量流量比率Xが0.5であるため、熱効率は、従来例に対して約10%向上する。
【0047】
[本実施形態の効果]
以上説明したように、本実施形態のガスタービン装置10は、燃焼器12に間欠燃焼室25Bを備えることによって、従来のガスタービン装置に比べて高い熱効率を得ることができる。さらに、本実施形態のガスタービン装置10に、例えば圧力比の向上、最高最低温度比の向上等、従来の高圧化、高温化技術を組み合わせることによって、熱効率をより一層高めることができる。
【0048】
一方、間欠燃焼のみを行うパルスデトネーション燃焼器は、高い熱効率が得られる反面、以下の欠点を有している。すなわち、パルスデトネーション燃焼器は、燃焼が一瞬で終了することから、高圧の生成ガスが間欠的に発生する。したがって、パルスデトネーション燃焼器から排出される生成ガスの圧力変動は極めて大きく、タービンに出力する圧力が不安定であるため、タービンの回転も不安定である。また、高圧、高温の生成ガスがタービンのブレードに瞬間的に衝突することでブレードが常に大きな温度変動に晒されるため、タービンの信頼性が低下するおそれがある。
【0049】
この種の問題に対して、本実施形態のガスタービン装置10は、燃焼器12に間欠燃焼室25Bと定圧定常燃焼室25Aとを兼ね備えているため、燃焼器12から排出される生成ガスの圧力は、複数の間欠燃焼室25Bから排出される生成ガスの圧力と、複数の定圧定常燃焼室25Aから排出される生成ガスの圧力と、を平均したものとなる。これにより、間欠燃焼室25Bに起因する圧力変動が、定圧定常燃焼室25Aから出力される一定の圧力によって緩和されるため、タービンの作動安定性を向上させることができる。また、タービンのブレードに生じる圧力変動や温度変動も緩和されるため、タービンの信頼性を確保することができる。このように、本実施形態によれば、燃焼圧力利得を得ることで優れた熱効率が得られるとともに、タービンの作動安定性や信頼性にも優れるガスタービン装置10を実現することができる。
【0050】
また、本実施形態のガスタービン装置10は、単に燃焼器12に定圧定常燃焼室25Aと間欠燃焼室25Bとを兼ね備えるだけでなく、全ての燃焼室25が定圧定常燃焼と間欠燃焼とを切り換え可能に構成されている。そのため、定圧定常燃焼室25Aの数と間欠燃焼室25Bの数との比率を適宜変更することもできる。したがって、例えば他の運転条件との兼ね合いや所望とする出力等に応じて、タービンの作動安定性や信頼性を優先する場合には間欠燃焼室25Bの割合を減らす、熱効率を優先する場合には間欠燃焼室25Bの割合を増やす、といった調整を行うことができる。
【0051】
また、本実施形態のガスタービン装置10においては、各燃焼室25が定圧定常燃焼用燃料噴射器27と間欠燃焼用燃料噴射器30とを備えているため、各燃料噴射器27,30に、定圧定常燃焼用、間欠燃焼用として用いるのに最適な仕様の燃料噴射器を使用することができる。また、1つの燃料噴射器で定圧定常燃焼用、間欠燃焼用を兼ねることに伴う不具合を解消することができる。
【0052】
同様に、本実施形態のガスタービン装置10においては、各燃焼室25が定圧定常燃焼用点火器28と間欠燃焼用点火器31とを備えているため、各点火器28,31に、定圧定常燃焼用、間欠燃焼用として用いるのに最適な仕様の点火器を使用することができる。また、1つの点火器で定圧定常燃焼用、間欠燃焼用を兼ねることに伴う不具合を解消することができる。
【0053】
また、本実施形態のガスタービン装置10においては、複数の燃焼室25から排出される生成ガスE3が合流することなく、複数の燃焼室25の各々の位置に対応するタービン13のブレード33に向けて噴射される構成となっている。そのため、仮に定圧定常燃焼室25Aと間欠燃焼室25Bとが偏って配置されていたとすると、タービン13の回転が不安定になるおそれがある。その点、本実施形態のガスタービン装置10の場合、定圧定常燃焼室25Aと間欠燃焼室25Bとが回転軸14の周方向に沿って交互に配置され、タービン13の周方向に沿って均等な圧力を付与できるため、タービン13をより安定して回転させることができる。
【0054】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば上記実施形態では、複数の燃焼室25の全てが定圧定常燃焼と間欠燃焼とを切り換え可能に構成されているが、複数の燃焼室25のうち、少なくとも一つの燃焼室25が定圧定常燃焼と間欠燃焼とを切り換え可能に構成されていてもよい。具体的には、例えば複数の燃焼室25のうち、一部の燃焼室25は定圧定常燃焼専用の燃焼室であり、残りの燃焼室25は定圧定常燃焼と間欠燃焼とを切り換え可能な燃焼室であってもよい。または、複数の燃焼室25のうち、一部の燃焼室25は間欠燃焼専用の燃焼室であり、残りの燃焼室25は定圧定常燃焼と間欠燃焼とを切り換え可能な燃焼室であってもよい。または、複数の燃焼室25は、一部の燃焼室25は定圧定常燃焼専用の燃焼室25と間欠燃焼専用の燃焼室25であり、残りの燃焼室25が定圧定常燃焼と間欠燃焼とを切り換え可能な燃焼室25であってもよい。
【0055】
また、上記実施形態では、各燃焼室25が定圧定常燃焼用燃料噴射器27と間欠燃焼用燃料噴射器30とを備えていたが、1つの燃料噴射器で定圧定常燃焼用、間欠燃焼用を兼ねる構成としてもよい。同様に、上記実施形態では、各燃焼室25が定圧定常燃焼用点火器28と間欠燃焼用点火器31とを備えていたが、1つの点火器で定圧定常燃焼用、間欠燃焼用を兼ねる構成としてもよい。これらの構成によれば、燃料噴射器や点火器の数を減らすことができ、燃焼室25の構成を簡略化することができる。
【0056】
また、ガスタービン装置10を構成する各構成要素の形状、数、配置等の具体的な構成については、上記実施形態の例に限ることなく、適宜変更が可能である。また、上記実施形態では、キャニュラ型の燃焼器を備えるガスタービン装置に本発明を適用したが、複数の燃焼室の各々で定圧定常燃焼、間欠燃焼を独立に実施できるものであれば、キャニュラ型以外の燃焼器を備えるガスタービン装置に本発明を適用することもできる。
【符号の説明】
【0057】
10…ガスタービン装置
11…圧縮機
12…燃焼器
13…タービン
14…回転軸
15…燃焼制御部
25…燃焼室
25A…定圧定常燃焼室
25B…間欠燃焼室
27…定圧定常燃焼用燃料噴射器
28…定圧定常燃焼用点火器
30…間欠燃焼用燃料噴射器
31…間欠燃焼用点火器
E2…圧縮空気
E3…生成ガス
F…燃料
図1
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