(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】電気細菌回収用の複合粒子、電気細菌回収用の複合粒子の製造方法、及び、電気細菌の回収方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/26 20060101AFI20240424BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
C12M1/26
C12Q1/04
(21)【出願番号】P 2020127101
(22)【出願日】2020-07-28
【審査請求日】2023-03-17
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、「レドックス環境応答能を持つ歯周病細菌由来の膜小胞」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】岡本 章玄
(72)【発明者】
【氏名】李 偉鵬
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-089563(JP,A)
【文献】特開2011-201862(JP,A)
【文献】国際公開第2020/021740(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/038077(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M,C12Q,C01G、G01N,C12N,C07F
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性ナノ粒子と、前記磁性ナノ粒子の表面に結合した有機化合物と、前記有機化合物に結合した四酸化オスミウムと、を有
し、
前記有機化合物が、システイン、シスチン、又は葉酸を含む、電気細菌回収用の複合粒子。
【請求項2】
前記有機化合物は、ヒドロキシ基とアミノ基とを有し、前記ヒドロキシ基を介して前記磁性ナノ粒子と結合し、前記アミノ基を介して前記四酸化オスミウムと結合している、請求項1に記載の電気細菌回収用の複合粒子。
【請求項3】
前記有機化合物が葉酸を含む、請求項1又は2に記載の電気細菌回収用の複合粒子。
【請求項4】
前記磁性ナノ粒子がFe
3O
4ナノ粒子を含む請求項1~3のいずれか1項に記載の電気細菌回収用の複合粒子。
【請求項5】
Fe
3O
4ナノ粒子と葉酸とを溶媒中で反応させ、前記Fe
3O
4ナノ粒子の表面に葉酸が結合した前駆体粒子を得ることと、
前記前駆体粒子と四酸化オスミウムとを溶媒中で反応させ、前記四酸化オスミウムが前記葉酸に結合された複合粒子を得ることと、を含む電気細菌回収用の複合粒子の製造方法。
【請求項6】
電気細菌と、3,3′-ジアミノベンジジンと、過酸化水素とを含有する溶液を調製し、電気細菌を染色することと、
前記染色された電気細菌と請求項1~4のいずれか1項に記載の電気細菌回収用の複合粒子とを接触させて、前記染色された電気細菌と前記複合粒子との複合体を形成することと、
前記複合体を回収することと、を含む、電気細菌の回収方法。
【請求項7】
前記染色された電気細菌と前記複合粒子とを接触させる前に、前記染色された電気細菌を洗浄することを更に含む、請求項6に記載の電気細菌の回収方法。
【請求項8】
前記複合体の回収が磁石を用いて行われる、請求項6又は7に記載の電気細菌の回収方法。
【請求項9】
Fe
3O
4ナノ粒子と四酸化オスミウムとが葉酸を介して互いに結合している複合粒子。
【請求項10】
前記結合が配位結合である請求項9に記載の複合粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気細菌回収用の複合粒子、電気細菌回収用の複合粒子の製造方法、及び、電気細菌の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞との親和性を有する磁気ビーズを用いて、不純物を含む液体媒体中から細胞を回収する方法が知られている。特許文献1には、「細胞を含む検体に磁気ビーズを加え、前記磁気ビーズに前記細胞を捕捉させ、磁力を用いて前記磁気ビーズに捕捉された前記細胞を前記検体から分離するとともに、前記磁気ビーズにより前記細胞の核酸を抽出することを特徴とする核酸抽出方法。」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、膜タンパク質として、電子伝達酵素を有する「電気細菌」の研究が進められている。そのような背景から、電気細菌を細菌叢から簡便に分離回収できる方法が求められている。
特許文献1の方法は、磁気ビーズの表面に、所望の細胞と親和性を有する抗体等を固定することで、それに対応する特定の細胞を回収ことはできるものの、例えば、未知の電気細菌や、多種にわたる「電気細菌」を一度に、簡便に回収するのは困難だった。
【0005】
そこで、本発明は、より簡便な方法で電気細菌を回収するために使用できる電気細菌回収用の複合粒子を提供することを課題とする。また、本発明は電気細菌回収用の複合粒子の製造方法、及び、電気細菌の回収方法を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
【0007】
[1] 磁性ナノ粒子と、上記磁性ナノ粒子の表面に結合した有機化合物と、上記有機化合物に結合した四酸化オスミウムと、を有する、電気細菌回収用の複合粒子。
[2] 上記有機化合物は、ヒドロキシ基とアミノ基とを有し、上記ヒドロキシ基を介して上記磁性ナノ粒子と結合し、上記アミノ基を介して上記四酸化オスミウムと結合している、[1]に記載の電気細菌回収用の複合粒子。
[3] 上記有機化合物が葉酸を含む、[1]又は[2]に記載の電気細菌回収用の複合粒子。
[4] 上記磁性ナノ粒子がFe3O4ナノ粒子を含む[1]~[3]のいずれかに記載の電気細菌回収用の複合粒子。
[5] Fe3O4ナノ粒子と葉酸とを溶媒中で反応させ、上記Fe3O4ナノ粒子の表面に葉酸が結合した前駆体粒子を得ることと、上記前駆体粒子と四酸化オスミウムとを溶媒中で反応させ、上記四酸化オスミウムが上記葉酸に結合された複合粒子を得ることと、を含む電気細菌回収用の複合粒子の製造方法。
[6] 電気細菌と、3,3′-ジアミノベンジジンと、過酸化水素とを含有する溶液を調製し、電気細菌を染色することと、上記染色された電気細菌と[1]~[4]のいずれかに記載の電気細菌回収用の複合粒子とを接触させて、上記染色された電気細菌と上記複合粒子との複合体を形成することと、上記複合体を回収することと、を含む、電気細菌の回収方法。
[7] 上記染色された電気細菌と上記複合粒子とを接触させる前に、上記染色された電気細菌を洗浄することを更に含む、[6]に記載の電気細菌の回収方法。
[8] 上記複合体の回収が磁石を用いて行われる、[6]又は[7]に記載の電気細菌の回収方法。
[9] Fe3O4ナノ粒子と四酸化オスミウムとが葉酸を介して互いに結合している複合粒子。
[10] 上記結合が配位結合である[9]に記載の複合粒子。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電気細菌回収用の複合粒子を提供できる。また、本発明によれば、電気細菌回収用の複合粒子の製造方法、及び、電気細菌の回収方法も提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0010】
[電気細菌回収用の複合粒子]
本発明の実施形態に係る電気細菌回収用の複合粒子(以下、単に「複合粒子」という。)は、磁性ナノ粒子と、上記磁性ナノ粒子の表面に結合した有機化合物と、上記有機化合物に結合した四酸化オスミウム(VIII)と、を有する複合粒子である。上記有機化合物は、典型的にはヒドロキシ基とアミノ基とを有し、磁性ナノ粒子と有機化合物とは、上記ヒドロキシ基を介して結合していることが好ましく、典型的には、ヒドロキシ基に由来する酸素原子による配位結合により結合していることがより好ましい。また、四酸化オスミウムと有機化合物とは、上記アミノ基を介して結合していることが好ましく、典型的には、アミノ基に由来する窒素原子による配位結合により結合していることがより好ましい。
【0011】
本発明者は電気細菌の研究を進めるなかで、電気細菌が、3,3′-ジアミノベンジジン(DAB)と、過酸化水素とを含有する溶液により染色できることを知見している。一般に、細胞等のDAB染色には、標的酵素としてペルオキシダーゼが用いられる。一方、電気細菌の場合、細胞膜に存在する電子伝達酵素に触媒されて、ペルオキシダーゼによらずに過酸化水素が還元されて活性酸素種が発生し、結果としてDABの重合体が電気細菌の細胞膜を覆うように生成される。詳細な手順は実施例で説明するが、電気細菌は上記の方法で染色される細菌と定義される。
【0012】
本複合粒子は、磁性ナノ粒子の表面に有機化合物を介して四酸化オスミウムが固定されている。四酸化オスミウムは、DABの重合体が有する-CH=CH-結合に対して選択的に結合する性質を有する。そのため、細胞膜を覆うようにDAB重合体を生成させた状態の電気細菌に対して特異的に結合する。更に、本複合粒子は、磁性ナノ粒子を有しているため、菌叢中から電気細菌だけを容易に回収することができる。なお、上記は推測機序であり、上記以外の機序で発明の課題が解決される場合であっても本発明の技術的範囲に含まれるものとする。
【0013】
(磁性ナノ粒子)
磁性ナノ粒子は、M(II)Fe2O4を組成とするフェライト、又は、これを含有するフェライトを主成分とする磁性を有する鉄化合物を用いることができる。M(II)としては、Fe2+、Co2+、Ni2+、Mn2+、Zn2+、Mg2+、及び、Cu2+等が挙げられ、これらが単独で含まれていても、複数が組み合わされて含まれていてもよい。なかでも、より優れた本発明の効果を有する複合粒子が得られる点で、磁性ナノ粒子としては、Fe3O4を含有することが好ましく、Fe3O4からなることが好ましい。磁性ナノ粒子は市販品を使用してもよいし、公知の方法を用いて合成して使用してもよい。
なお、磁性ナノ粒子の平均粒子径としては特に制限されず、1~1000nmが好ましく、10~200nmがより好ましく、20~100nmが更に好ましい。
【0014】
(有機化合物)
有機化合物は磁性ナノ粒子の表面に結合し、更に四酸化オスミウム(VIII)を相互に固定する機能を有する。有機化合物は、磁性ナノ粒子と四酸化オスミウムのそれぞれと結合できれば特に制限されないが、磁性ナノ粒子との結合のためのヒドロキシ基と、四酸化オスミウムとの結合のためのアミノ基とを有していることが好ましい。
【0015】
複合粒子の製造方法は後述するが、典型的にはヒドロキシ基を脱プロトン化することで、磁性ナノ粒子に含まれる金属原子に対する求核性を向上させることで、酸素原子を介して金属原子と配位結合させることが好ましい。
また、有機化合物は、アミノ基が有する窒素原子を介してし酸化オスミウムと配位結合することが好ましい。
【0016】
有機化合物の分子量としては特に制限されないが、より均一な粒子径の複合粒子が得られやすい点で、有機化合物の分子量としては、50~1000が好ましく、100~500がより好ましい。
このような化合物としては、例えば、システイン、シスチン、及び、葉酸等が挙げられ、葉酸がより好ましい。
【0017】
(複合粒子の製造方法)
複合粒子の製造方法としては特に制限されないが、より簡便に複合粒子が得られる点で、Fe3O4ナノ粒子と葉酸とを溶媒中で反応させ、Fe3O4ナノ粒子の表面に葉酸が結合した前駆体粒子を得ること(工程A)と、前駆体粒子と四酸化オスミウム(VIII)とを溶媒中で反応させ、四酸化オスミウムが葉酸に結合された複合粒子を得ること(工程B)と、を含むことが好ましい。
【0018】
工程Aにおいて使用される溶媒としては特に制限されず、水を含有することが好ましく、水からなることがより好ましい。典型的には、溶媒に分散させたFe3O4ナノ粒子に葉酸を添加し、葉酸のヒドロキシ基を介してFe3O4ナノ粒子と結合した前駆体粒子を得ることが好ましい。
この時、Fe3O4ナノ粒子、葉酸、及び、溶媒を含有する反応溶液中における葉酸の含有量としては特に制限されないが、一般に、Fe3O4ナノ粒子の1モルに対して、葉酸の0.3~3.0モルとなるよう調整することが好ましい。
また、反応溶液の固形分は、一般に0.001~10質量%に調整されることが好ましい。
【0019】
溶媒中には、上記以外にpH調整剤が含まれていてもよい。pH調整剤としては特に制限されないが、例えば、水酸化ナトリウム等が挙げられる。pH調整剤によって反応溶液を塩基性に調整することにより、葉酸のヒドロキシ基の脱プロトン化がより進みやすくなり、結果として、Fe3O4ナノ粒子と葉酸との結合がより進みやすくなる。
工程Aにおける反応温度は、一般に、5~50℃が好ましく、反応時間は、1~24時間が好ましい。
【0020】
本複合粒子の製造方法は、工程Bの実施前に工程Aにより得られた前駆体粒子を洗浄する工程(前駆体粒子洗浄工程)を更に有していることが好ましい。前駆体粒子洗浄工程により未反応の葉酸を除去することで、複合粒子の収率がより向上する。
洗浄の方法としては特に制限されないが、得られた複合粒子を洗浄溶媒(例えば、水)に分散させて、この分散液から固形分を回収する方法が挙げられる。洗浄は、複数回繰り返して実施してもよい。
【0021】
工程Bにおいて使用する溶媒としては特に制限されず、工程Aで使用した溶媒と同様の溶媒を使用できる。前駆体粒子と四酸化オスミウム(VIII)とを溶媒中で反応させることで、Fe3O4ナノ粒子の表面に固定された葉酸のアミノ基を介して、四酸化オスミウム(VIII)が結合された複合粒子が得られる。
【0022】
前駆体粒子、四酸化オスミウム、及び、溶媒を含有する反応溶液中における四酸化オスミウムの含有量としては特に制限されないが、一般に、前駆体粒子中のFe3O4の1モルに対して、四酸化オスミウムの0.05~3.0モルとなるよう調整することが好ましい、
【0023】
本製造方法は、工程Bの実施後に複合粒子を洗浄する工程(複合粒子洗浄工程)を更に有していることが好ましい。複合粒子洗浄工程により未反応の四酸化オスミウムを除去することができる。
洗浄の方法としては特に制限されないが、得られた複合粒子を洗浄溶媒(例えば、水)に分散させて、この分散液から固形分を回収する方法が挙げられる。洗浄は、複数回繰り返して実施してもよい。
【0024】
(電気細菌の回収方法)
本発明の実施形態に係る電気細菌の回収方法は、電気細菌と、3,3′-ジアミノベンジジンと、過酸化水素を含有する溶液を調製し、電気細菌を染色することと(染色工程)、染色された電気細菌と複合粒子とを接触させて、染色された電気細菌と複合粒子との複合体を形成すること(複合体形成工程)と、複合体を回収すること(回収工程)と、を含む、電気細菌の回収方法である。
【0025】
染色工程で使用する溶液は、3,3′-ジアミノベンジジン、及び、過酸化水素を含有する。溶液中におけるDABの含有量は特に制限されないが、一般に、0.1~10mMが好ましい。また、溶液中における過酸化水素の含有量は、一般に、0.1~200mMが好ましい。また、上記溶液はDAB及び過酸化水素以外に、pHを調整するための緩衝化剤を含有してもよい。緩衝化剤としては例えば無機塩、及び/又は、有機塩が挙げられ、具体的には、Na2HPO4、KH2PO4、及び、トリスヒドロキシメチルアミノメタン等が挙げられる。溶液のpHは、6.0~9.0の範囲に調整されることが好ましい。
【0026】
また、無機塩は、例えば塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、リン酸ナトリウム、及び、硫酸アンモニウム等が挙げられる。
有機塩は、酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウムイミダゾール塩、及び、イミダゾール塩酸塩等が挙げられる。
【0027】
溶液中の塩の量は、10-3M以上が好ましく、一般に、例えば20~500mMが好ましい。また、溶液は塩を含有しなくてもよい。
【0028】
染色の方法としては特に制限されず、例えば、電気細菌を含有する媒体に上記溶液を添加して、撹拌した後に0.1分~1時間保持すればよい。保持する際の温度としては特に制限されないが、一般に5~50℃が好ましい。
本工程によって電気細菌は染色され、赤色に着色する。
この着色物質は、電気細菌が有する電子伝達酵素の働きによって過酸化水素から生じた活性酸素種がDABを酸化重合させて得られたDABの重合体である。電気細菌では、細胞膜を覆うようにDABの重合体が形成される。
【0029】
染色された電気細菌と複合粒子とを接触させて、染色された電気細菌と複合粒子との複合体を形成する方法としては特に制限されないが、溶液中で電気細菌と複合粒子とを接触させる方法が挙げられる。この時、使用される溶液は特に制限されず、水とすでに説明した緩衝化剤とを含有する溶液等が使用できる。
【0030】
電気細菌と複合粒子とを接触させる方法としては、例えば、電気細菌と複合粒子とを含有する溶液を撹拌する方法等が挙げられる。
染色工程にて電気細菌から過酸化水素が還元を受けて生成した活性酸素種によって、DABは酸化重合し、複合粒子に固定された酸化オスミウムはこの重合体の有する-CH=CH-結合に特異的に結合し、複合体が形成される。
【0031】
複合体を回収する方法は特に制限されず、磁性体粒子を回収するための公知の方法を特に制限なく使用できる。
【実施例】
【0032】
以下に実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0033】
[複合粒子の合成]
Fe3O4ナノ粒子(以下、「NP」ともいう。)は市販品(Aldrich、1317-61-9、粒子径50-100nm(SEM))が使用された。NPの0.06gが30mLの脱イオン水に分散され、Fe3O4コロイド溶液が調製された。次に、葉酸(以下、「FA」ともいう。)が5規定の水酸化ナトリウム水溶液に溶解され、100mMの葉酸溶液が調製された。この葉酸溶液の1mLが分散液に添加され、18時間攪拌されて、Fe3O4と葉酸とが結合した「Fe3O4@FA NP」が得られた。
【0034】
次に、この「Fe3O4@FA NP」が脱イオン水で3回以上洗浄された後、30mLの脱イオン水に分散させて更に反応した。この「Fe3O4@FA NP」コロイド溶液に0.5mLの1%OsO4溶液が4時間激しく攪拌しながら添加され、葉酸を介してFe3O4ナノ粒子と四酸化オスミウムとが結合された「Fe3O4@FA-OsO4NP」が得られた。その後、「Fe3O4@FA-OsO4 NP」が脱イオン水で3回以上洗浄され、1mLの脱イオン水に分散された。この分散液の「Fe3O4@FA-OsO4 NP」の最終濃度は34mg/mLとして決定された。
【0035】
[S.oneidensis MR-1の回収試験]
菌液は従来の培養法で調製された。電気細菌としてShewanella oneidensis MR-1を、電気細菌以外の菌として、Escherichia coliが選択された。菌液の光学濃度は1に固定され、UV-Vis(紫外可視吸光度測定法)で測定された。0.22mLの1M HCl(aq)に0.0119gのDAB粉末が45分間暗所で超音波処理されて分散され、DAB溶液が調製された。
次に、DAB溶液が7.78mLのTris(pH8)緩衝液(50mM)で希釈され、15分間超音波処理が行われた。その後、余剰のDAB粉末が0.22μmフィルターで除去された。S.oneidensis MR-1に対するDAB染色は、ろ過されたDAB溶液が菌液中に添加され5分間反応されることにより実施された。DAB溶液を添加したS.oneidensis MR-1は、5分間の反応後に顕著な褐色を呈した。一方、DAB溶液を添加したE.coliでは、色の変化は見られなかった。DAB染色後、細胞はDM-L緩衝液(乳酸ナトリウムが10mM添加されたDifined media)で3回以上洗浄しされた。
【0036】
濃度既知の細胞溶液を2μLが「Fe3O4@FA-OsO4 NP」(34mg/mL)とボルテックス下で60分間混合された。そして、「Fe3O4@FA-OsO4 NP」が付着した細胞が磁気吸引により回収された。上清が除去され、新鮮な乳酸塩含有DM(Difined media)緩衝液が添加された。このプロセスが3回以上繰り返えされ、非特異的に捕捉された細胞が完全に除去された。その後、これらのキャプチャされた細胞は、更にSEMイメージング、コロニー形成、及び、タンパク質の定量化によって分析された。
タンパク質の定量化のために、回収された細胞は、30μLのlysisバッファーと10分間、激しく攪拌された。次いで、混合物を15000rpmで10分間遠心分離され、混合物ペレット(磁性ナノビーズおよび細胞破片)とタンパク質上清とが分離された。上清中のタンパク質量は、タンパク質アッセイキット及び標準測定法を用いて決定された。
上記の結果、「Fe3O4@FA-OsO4 NP」を用いることで電気細菌(S.oneidensis MR-1)が特異的に回収されることが明らかとなった。