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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】集積回路及びセンサシステム
(51)【国際特許分類】
   G01R 33/26 20060101AFI20240424BHJP
   G01R 33/02 20060101ALI20240424BHJP
   G01R 33/12 20060101ALI20240424BHJP
   G02B 6/12 20060101ALI20240424BHJP
   G02B 6/124 20060101ALI20240424BHJP
   G02B 6/34 20060101ALI20240424BHJP
   G02B 6/42 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
G01R33/26
G01R33/02 A
G01R33/02 R
G01R33/12 Z
G02B6/12 301
G02B6/124
G02B6/34
G02B6/42
【請求項の数】 27
(21)【出願番号】P 2020546233
(86)(22)【出願日】2019-09-13
(86)【国際出願番号】 JP2019036193
(87)【国際公開番号】W WO2020054860
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2022-08-16
(31)【優先権主張番号】P 2018172948
(32)【優先日】2018-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(CREST)、「素材・デバイス・システム融合による革新的ナノエレクトロニクスの創成」、「炭素系ナノエレクトロニクスに基づく革新的な生体磁気計測システムの創出」、「ダイヤモンドデバイス及びセンサ微弱信号検出技術」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】波多野 睦子
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 孝之
(72)【発明者】
【氏名】西山 伸彦
(72)【発明者】
【氏名】増山 雄太
(72)【発明者】
【氏名】室岡 拓也
【審査官】田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-162910(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0202952(US,A1)
【文献】特開2016-205954(JP,A)
【文献】特開2016-114563(JP,A)
【文献】国際公開第2016/177490(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0247048(US,A1)
【文献】特表2011-529265(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0328965(US,A1)
【文献】米国特許第5243199(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0131787(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/328965(US,A1)
【文献】HATANO, Mutsuko et al.,Diamond Electronics,2016 46th Europian solid-state device research conference,IEEE,2016年09月12日,330 - 332
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 33/00-33/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バンドギャップが2.2eV以上のワイドバンド半導体からなり、P型半導体(P)及びN型半導体(N)と、前記P型半導体及び前記N型半導体の間に設けられ前記P型半導体及び前記N型半導体よりも不純物濃度が低い半導体(I)であって結晶に不純物原子と空孔の複合欠陥を含む薄膜とを備えたPINダイオードと、
前記薄膜に対してマイクロ波を照射するマイクロ波照射系と、
前記薄膜を励起させる励起部と、
励起状態から基底状態に遷移するときに前記PINダイオードの電流の変化を前記薄膜の導電率の変化とみなして検出する検出部の一部を構成する回路であって、前記PINダイオードの電流の電気信号を出力する回路と、
を有することを特徴とする集積回路。
【請求項2】
前記薄膜は、
炭素原子を置換した窒素(N)と該窒素に隣接する空孔(V)の複合欠陥(NVセンタ)を含む領域を備えたダイヤモンド膜であること
を特徴とする請求項1に記載の集積回路。
【請求項3】
前記検出部は、
前記PINダイオードの端子間の電流として検出すること
を特徴とする請求項1又は2に記載の集積回路。
【請求項4】
前記検出部は、
前記PINダイオードの端子間にゼロ又は逆方向バイアスに電圧を印加して検出すること
を特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の集積回路。
【請求項5】
前記励起部は、
前記薄膜に対して励起光を照射して電子を励起させること
を特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の集積回路。
【請求項6】
前記励起部は、
前記PINダイオードの端子間に順方向バイアスに電圧を印加して電子を励起させること
を特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の集積回路。
【請求項7】
前記薄膜、前記P型半導体及び前記N型半導体は、
前記P型半導体及び前記N型半導体が前記薄膜を挟むように、同一面上に前記P型半導体、前記薄膜及び前記N型半導体が並んで配置されていること
を特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の集積回路。
【請求項8】
前記薄膜、前記P型半導体及び前記N型半導体は、
前記薄膜上に前記P型半導体及び前記N型半導体が間隔を置いて配置されていること
を特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の集積回路。
【請求項9】
前記薄膜、前記P型半導体及び前記N型半導体は、
前記薄膜上に前記P型半導体及び前記N型半導体が間隔を置いて配置されており、
前記PINダイオードは、
逆方向バイアスに電圧が印加されたときに前記薄膜が空乏化してアバランシェ降伏が起こるように、前記P型半導体と前記N型半導体との間隔、及び前記P型半導体と前記N型半導体と前記薄膜の不純物濃度が設計されていること
を特徴とする請求項に記載の集積回路。
【請求項10】
バンドギャップが2.2eV以上のワイドバンド半導体からなり、P型半導体(P)及びN型半導体(N)と、前記P型半導体及び前記N型半導体の間に設けられ前記P型半導体及び前記N型半導体よりも不純物濃度が低い半導体(I)であって結晶に不純物原子と空孔の複合欠陥を含む薄膜とを備えたPINダイオードと、
前記薄膜に対してマイクロ波を照射するマイクロ波照射系と、
前記薄膜を励起させる励起部と、
励起状態から基底状態に遷移するときに前記薄膜から出力される光の強度、及び前記薄膜の導電率の変化の少なくともいずれかを検出する回路の一部を構成する検出部とを備え、
前記薄膜、前記P型半導体及び前記N型半導体は、
前記薄膜及び前記N型半導体の間に設けられた第2のP型半導体をさらに備えて、結晶に不純物原子と空孔の複合欠陥が含まれる領域と逆方向バイアスの電圧の印加によりキャリアが増大する領域とを分離するリーチスルー構造を有すること
を特徴とする集積回路。
【請求項11】
前記PINダイオードは、
逆方向バイアスに電圧が印加されたときに前記薄膜が空乏化してアバランシェ降伏が起こるように、前記P型半導体と前記N型半導体との間隔、前記P型半導体と前記N型半導体と前記薄膜の不純物濃度、及び前記第2のP型半導体の不純物濃度が設計されていること
を特徴とする請求項10に記載の集積回路。
【請求項12】
前記薄膜、前記P型半導体及び前記N型半導体は、
前記薄膜上に前記P型半導体及び前記N型半導体が間隔を置いて配置されていること
を特徴とする請求項10に記載の集積回路。
【請求項13】
前記薄膜、前記P型半導体及び前記N型半導体は、
前記P型半導体上に前記薄膜が配置されており、前記薄膜上に前記N型半導体が配置されていること
を特徴とする請求項10に記載の集積回路。
【請求項14】
バンドギャップが2.2eV以上であって結晶に不純物原子と空孔の複合欠陥を含む薄膜と、
前記薄膜に対してマイクロ波を照射するマイクロ波照射系と、
前記薄膜を励起させる励起部と、
励起状態から基底状態に遷移するときに前記薄膜から出力される光の強度、及び前記薄膜の導電率の変化の少なくともいずれかを検出する検出部とを有し、
前記励起部は、
光を通すクラッド層に挟まれて光を通すコア層を備えた導波路を介して、外部から入射される励起光を前記薄膜に照射し、
前記クラッド層は、
前記コア層と前記薄膜との間に挟まれた領域の厚さが、励起光の導光方向に進むにつれて徐々に薄くなるように形成されていること
を特徴とする集積回路。
【請求項15】
前記薄膜は、
炭素原子を置換した窒素(N)と該窒素に隣接する空孔(V)の複合欠陥(NVセンタ)を含む領域を備えたダイヤモンド膜であること
を特徴とする請求項14に記載の集積回路。
【請求項16】
前記コア層は、
前記薄膜に向けて励起光を回折させるように、回折格子が形成されていること
を特徴とする請求項14又は15に記載の集積回路。
【請求項17】
バンドギャップが2.2eV以上であって結晶に不純物原子と空孔の複合欠陥を含む薄膜と、
前記薄膜に対してマイクロ波を照射するマイクロ波照射系と、
前記薄膜を励起させる励起部と、
励起状態から基底状態に遷移するときに前記薄膜から出力される光の強度、及び前記薄膜の導電率の変化の少なくともいずれかを検出する検出部とを有し、
前記励起部は、
光を通すクラッド層に挟まれて光を通すコア層を備えた導波路を介して、外部から入射される励起光を前記薄膜に照射し、
前記コア層は、
前記薄膜に向けて励起光を回折させるように、回折格子が形成されていること
を特徴とする集積回路。
【請求項18】
前記薄膜は、
炭素原子を置換した窒素(N)と該窒素に隣接する空孔(V)の複合欠陥(NVセンタ)を含む領域を備えたダイヤモンド膜であること
を特徴とする請求項17に記載の集積回路。
【請求項19】
前記回折格子は、
励起光の導光方向に進むにつれて周期が短くなるように形成されていること
を特徴とする請求項16~18のいずれか1項に記載の集積回路。
【請求項20】
バンドギャップが2.2eV以上であって結晶に不純物原子と空孔の複合欠陥を含む薄膜と、
前記薄膜に対してマイクロ波を照射するマイクロ波照射系と、
前記薄膜を励起させる励起部と、
励起状態から基底状態に遷移するときに前記薄膜から出力される光の強度、及び前記薄膜の導電率の変化の少なくともいずれかを検出する検出部とを有し、
前記薄膜は、
約10~15%の希ガスを含む混合気を用いた化学気相成長により形成されていること
を特徴とする集積回路。
【請求項21】
前記薄膜は、
炭素原子を置換した窒素(N)と該窒素に隣接する空孔(V)の複合欠陥(NVセンタ)を含む領域を備えたダイヤモンド膜であること
を特徴とする請求項20に記載の集積回路。
【請求項22】
前記希ガスは、
アルゴンガスであること
を特徴とする請求項20又は21に記載の集積回路。
【請求項23】
前記薄膜は、
炭素原子を置換した窒素(N)と該窒素に隣接する空孔(V)の複合欠陥(NVセンタ)を含むダイヤモンド、若しくはSiV、SnV、PbV、GeVを含むダイヤモンド、若しくは結晶に原子の空孔があるシリコンカーバイド(SiC)、ガリウムナイトライド(GaN)、酸化亜鉛(ZnO)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ホウ素(BN)、又は酸化ガリウム(Ga2O3)であること
を特徴とする請求項1~22のいずれか1項に記載の集積回路。
【請求項24】
バンドギャップが2.2eV以上のワイドバンド半導体からなり、P型半導体(P)及びN型半導体(N)と、前記P型半導体及び前記N型半導体の間に設けられ前記P型半導体及び前記N型半導体よりも不純物濃度が低い半導体(I)であって結晶に不純物原子と空孔の複合欠陥を含む薄膜とを備えたPINダイオードを有する集積回路と、
前記薄膜に対して照射するマイクロ波を生成するマイクロ波生成部と、
前記薄膜を励起させるように駆動する励起駆動部と、
励起状態から基底状態に遷移するときに前記PINダイオードの電流の変化を前記薄膜の導電率の変化とみなして検出する検出部とを備え、
前記集積回路は、
前記薄膜に対して前記マイクロ波を照射するマイクロ波照射系、前記薄膜を励起させる励起部、及び、前記検出部の一部を構成して前記PINダイオードの電流の電気信号を出力する回路が集積されていること
を特徴とするセンサシステム。
【請求項25】
複数の前記集積回路を備え、
複数の前記集積回路は、
計測対象の表面又は深さ方向にアレイ状に配置可能にされていること
を特徴とする請求項24に記載のセンサシステム。
【請求項26】
請求項1~23のいずれか1項に記載の集積回路を複数備え、
複数の前記集積回路は、
計測対象の表面又は深さ方向にアレイ状に配置可能にされていること
を特徴とするセンサシステム。
【請求項27】
前記薄膜、前記P型半導体及び前記N型半導体は、
前記P型半導体上に前記薄膜が配置されており、前記薄膜上に前記N型半導体が配置されていること
を特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の集積回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集積回路及びセンサシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドのNV(Nitrogen-Vacancy)センタによる光検出磁気共鳴(ODMR:Optically Detected Magnetic Resonance)を用いて、半導体装置内部の磁場、電界や温度等のパラメータを測定する技術が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-162910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ダイヤモンドのNVセンタを利用して測定される磁場等の感度を上げるには、例えば、ダイヤモンド中に生成されるNVセンタの生成率を向上させる必要がある。従来では、NVセンタの生成率は、0.4パーセントから1パーセント未満程度である(例えば、Ozawa et al., "Formation of perfectly aligned nitrogen-vacancy-center ensembles in chemical-vapor-deposition-grown diamond", Applied Physics Express 10, 045501, 2017等参照)。
【0005】
また、磁場等の検出感度を上げられたセンサシステムは、小型化されると生体やデバイスなどへの応用範囲がより広げられると考えられている。しかしながら、従来は、ダイヤモンドNVセンタなどの量子状態を利用したセンサシステムを小型化することは困難であるという問題があった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、磁場等の検出感度を上げつつ小型化を可能にする集積回路及びセンサシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る集積回路は、バンドギャップが2.2eV以上であって結晶に原子の空孔と電子を含む薄膜と、外部からの駆動に応じて、前記薄膜に対してマイクロ波を照射するマイクロ波照射系と、外部からの駆動に応じて、前記薄膜に含まれる電子を励起させる励起部と、電子が励起状態から基底状態に遷移するときに前記薄膜から出力される光の強度、及び励起に基づく前記薄膜の導電率の変化の少なくともいずれかを電気信号として検出する検出部とを有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明の一態様に係る集積回路は、炭素原子を置換した窒素(N)と該窒素に隣接する空孔(V)の複合体(NVセンタ)を含む領域を備えたダイヤモンド膜と、外部からの駆動に応じて、前記ダイヤモンド膜からなる薄膜に対してマイクロ波を照射するマイクロ波照射系と、外部からの駆動に応じて、前記薄膜に含まれる電子を励起させる励起部と、電子が励起状態から基底状態に遷移するときに前記薄膜から出力される光の強度、及び励起に基づく前記ダイヤモンド膜の導電率の変化の少なくともいずれかを電気信号として検出する検出部とを有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の一態様に係る集積回路は、前記検出部が、前記薄膜から出力される光を電気信号に変換する光電変換素子であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の一態様に係る集積回路は、前記検出部が、前記薄膜の導電率の変化を電気信号として検出する電気回路であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の一態様に係る集積回路は、前記検出部が、前記薄膜を挟むように設けられたP型半導体及びN型半導体を備えて電子を検出することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の一態様に係る集積回路は、前記励起部が、前記薄膜を挟むように設けられたP型半導体及びN型半導体を備えて電子を励起状態とすることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の一態様に係る集積回路は、前記薄膜、前記P型半導体及び前記N型半導体が、PINダイオードを構成することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の一態様に係る集積回路は、前記励起部が、光を通すクラッド層に挟まれて光を通すコア層を備えた導波路を介して、外部から入射される励起光を前記薄膜に照射することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の一態様に係る集積回路は、前記クラッド層が、前記コア層と前記薄膜との間に挟まれた領域の厚さが、外部から入射される励起光の導光方向に進むにつれて徐々に薄くなるように形成されていることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の一態様に係る集積回路は、前記コア層が、前記薄膜に向けて励起光を回折させるように、回折格子が形成されていることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の一態様に係る集積回路は、前記回折格子が、外部から入射される励起光の導光方向に進むにつれて周期が短くなるように形成されていることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の一態様に係る集積回路は、前記薄膜が、NVセンタを含むダイヤモンド、若しくは結晶に原子の空孔があるシリコンカーバイド(SiC)、ガリウムナイトライド(GaN)、酸化亜鉛(ZnO)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ホウ素(BN)、又は酸化ガリウム(Ga)であることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の一態様に係る集積回路は、前記薄膜が、約10~15%の希ガスを含む混合気を用いた化学気相成長により形成されていることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の一態様に係る集積回路は、前記希ガスが、アルゴンガスであることを特徴とする。
【0021】
また、本発明の一態様に係るセンサシステムは、バンドギャップが2.2eV以上であって結晶に原子の空孔と電子を含む薄膜を備えた集積回路と、前記薄膜に対して照射するマイクロ波を生成するマイクロ波生成部と、前記薄膜に含まれる電子を励起させるように駆動する励起駆動部と、電子が励起状態から基底状態に遷移するときに前記薄膜から出力される光の強度、及び励起に基づく前記薄膜の導電率の変化の少なくともいずれかを電気信号として検出する検出回路とを有し、前記集積回路は、外部からの駆動に応じて前記薄膜に対して前記マイクロ波を照射するマイクロ波照射系、外部からの駆動に応じて前記薄膜に含まれる電子を励起させる励起部、電子が励起状態から基底状態に遷移するときに前記薄膜から出力される光の強度を電気信号として検出する光電変換素子、及び励起に基づく前記薄膜の導電率の変化を電気信号として検出する電気回路の少なくともいずれかが集積されていることを特徴とする。
【0022】
また、本発明の一態様に係るセンサシステムは、炭素原子を置換した窒素(N)と該窒素に隣接する空孔(V)の複合体(NVセンタ)を含む領域を備えたダイヤモンド膜を備えた集積回路と、前記ダイヤモンド膜に対して照射するマイクロ波を生成するマイクロ波生成部と、前記ダイヤモンド膜に含まれる電子を励起させるように駆動する励起駆動部と、電子が励起状態から基底状態に遷移するときに前記ダイヤモンド膜から出力される光の強度、及び励起に基づく前記ダイヤモンド膜の導電率の変化の少なくともいずれかを電気信号として検出する検出回路とを有し、前記集積回路は、外部からの駆動に応じて前記ダイヤモンド膜に対して前記マイクロ波を照射するマイクロ波照射系、外部からの駆動に応じて前記ダイヤモンド膜に含まれる電子を励起させる励起部、電子が励起状態から基底状態に遷移するときに前記ダイヤモンド膜から出力される光の強度を電気信号として検出する光電変換素子、及び励起に基づく前記ダイヤモンド膜の導電率の変化を電気信号として検出する電気回路の少なくともいずれかが集積されていることを特徴とする。
【0023】
また、本発明の一態様に係るセンサシステムは、複数の前記集積回路を備え、複数の前記集積回路は、計測対象の表面にアレイ状に配置可能にされていることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】一実施形態に係るセンサシステムの構成例を模式的に示す図である。
図2】(a)はプローブの第1変形例を示す図である。(b)はプローブの第2変形例を示す図である。(c)はプローブの第3変形例を示す図である。
図3】一実施形態に係る集積回路の構成例を模式的に示す図である。
図4】(a)は、ダイヤモンド半導体及び検出部を模式的に示す斜視図である。(b)は、ダイヤモンド半導体及び検出部の断面を模式的に示す図である。
図5】(a)は、NVセンタを有するダイヤモンドの結晶格子を示す図である。(b)は、NVセンタが有するエネルギー準位を示す図である。
図6】アルゴンの割合に応じたダイヤモンドのNVセンタの成長速度と生成率との関係を例示するグラフである。
図7】(a)は、薄膜のNVセンタに磁場がない場合を示す図である。(b)は、薄膜のNVセンタに磁場がある場合を示す図である。
図8】NV配向率が80パーセントである場合の図3,4に示した薄膜が発する蛍光の強度の周波数依存性を例示するグラフである。
図9】ダイヤモンド半導体の第1変形例の断面を模式的に示す図である。
図10】ダイヤモンド半導体におけるアバランシェ降伏による電流の増倍を示すグラフである。
図11】アバランシェ増幅の過程を示す図である。
図12】ダイヤモンド半導体の第2変形例の断面を模式的に示す図である。
図13】NVセンタの形成領域とキャリアの倍増領域とを分離したリーチスルー構造を示す図である。
図14】ダイヤモンド半導体の第3変形例の断面を模式的に示す図である。
図15】ダイヤモンド半導体の第4変形例の断面を模式的に示す図である。
図16】ダイヤモンド半導体の変形例などによる電気検出磁気共鳴特性を例示するグラフである。
図17】一実施形態に係る集積回路の変形例における薄膜及び検出部の周辺の構成例を模式的に示す図である。
図18】(a)は、図17に示した薄膜及び検出部の周辺のA-A線断面を模式的に示した図である。(b)は、図17に示した薄膜及び検出部の周辺のB-B線断面を模式的に示した図である。(c)は、(b)に示した一点鎖線で囲まれた領域を拡大して模式的に示した図である。
図19】センサシステムの他の構成例を模式的に示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、図面を用いてセンサシステム1の一実施形態を詳細に説明する。
【0026】
図1は、一実施形態に係るセンサシステム1の構成例を模式的に示す図である。図1に示すように、センサシステム1は、プローブ2、入力部10、出力部12及び制御部14を有する。そして、センサシステム1は、プローブ2を用いて、標的Hなどの磁場、電場、及び温度等を高感度で計測することができる固体量子センサシステムとなっている。
【0027】
具体的には、入力部10は、センサシステム1に対するユーザの操作入力を受け入れる入力装置である。出力部12は、センサシステム1が計測した結果などを表示などによって出力する出力装置である。制御部14は、CPU140及びメモリ142を有し、センサシステム1を構成する各部の駆動及び制御を行う。
【0028】
また、プローブ2は、例えば集積回路3、光源20、及び検出器22が内部に設けられている。集積回路3は、例えばダイヤモンド半導体30及びマイクロ波照射系32を有する。
【0029】
ダイヤモンド半導体30は、例えばNVセンタ(窒素-空孔中心)が含まれたいわゆるダイヤモンドセンサである。NVセンタとは、ダイヤモンド結晶中の炭素が窒素で置換され、隣接する位置に空孔がある複合欠陥であり、NVセンタが電子一つを捕獲すると、電子スピンの磁気的な性質を示す。
【0030】
マイクロ波照射系32は、例えばシリコン基板に形成されており、制御部14による駆動及び制御に応じた周波数のマイクロ波をダイヤモンド半導体30に対して照射する。
【0031】
また、集積回路3は、ダイヤモンド半導体30及びマイクロ波照射系32がそれぞれ個別に形成されてハイブリッド集積回路として構成されてもよいし、ダイヤモンド半導体30及びマイクロ波照射系32がモノリシック集積回路として一体に形成されたものであってもよい。
【0032】
光源20は、例えばレーザ光源、又はLED(Light Emitting Diode)などである。光源20は、例えば光ファイバ200などを介し、励起光としての緑色光をダイヤモンド半導体30に対して照射する。ダイヤモンド半導体30は、緑色光が照射されると、NVセンタを含む領域が赤色光を発する。
【0033】
検出器22は、例えばPD(photodiode)やAPD(avalanche photodiode)などの光電変換素子である。検出器22は、CCD(Charge Coupled Device)やCMOSセンサ(Complementary Metal Oxide Semiconductor Sensor)等のイメージングセンサでもよい。また、検出器22は、例えば光ファイバ222などを介して、ダイヤモンド半導体30が発した赤色光を受光し、受光した赤色光の強度に応じた電気信号を制御部14に対して出力する。さらに、検出器22は、光又は電気などの変化を検出する検出回路を構成してもよい。
【0034】
そして、マイクロ波照射系32は、制御部14による駆動及び制御によってダイヤモンド半導体30のNVセンタを含む領域に照射するマイクロ波の周波数を掃引させることができるようにマイクロ波生成部を構成する。また、マイクロ波照射系32が照射するマイクロ波は、例えば時間的に連続する連続波である。マイクロ波照射系32は、パルス状のマイクロ波を決められた時間間隔で複数回照射するように、高性能化が図られてもよい。また、光源20は、制御部14による駆動及び制御によってダイヤモンド半導体30のNVセンタを含む領域に含まれる不対電子を励起させる励起駆動部を構成する。
【0035】
すなわち、センサシステム1は、マイクロ波と緑色光とをダイヤモンド半導体30に対して同時に照射し、磁気共鳴させるマイクロ波の周波数により変化するダイヤモンド半導体30の蛍光(赤色光)の強度変化を検出器22によって検出することにより、磁場等を計測する。
【0036】
次に、プローブ2の変形例について説明する。
【0037】
図2は、プローブ2の変形例を模式的に示す図である。図2(a)はプローブ2の第1変形例(プローブ2a)を示し、図2(b)はプローブ2の第2変形例(プローブ2b)を示し、図2(c)はプローブ2の第3変形例(プローブ2c)を示している。以下、図1に示したセンサシステム1の構成と実質的に同一の構成には同一の符号が付してある。
【0038】
図2(a)に示すように、プローブ2aは、例えば集積回路3a及び光源20を有する。集積回路3aは、例えば集積回路3(図1参照)に対し、ダイヤモンド半導体30が発する赤色光を受光する光電変換素子がさらに集積された構成となっている。よって、プローブ2aは、図1に示したプローブ2に相当する機能を備え、プローブ2よりも小型化されている。
【0039】
図2(b)に示すように、プローブ2bは、例えば集積回路3b及び検出器22を有する。集積回路3bは、例えば集積回路3に対し、ダイヤモンド半導体30のNVセンタを含む領域で電子を励起させる構成(図4等参照)がさらに集積されている。よって、プローブ2bは、図1に示したプローブ2に相当する機能を備え、プローブ2よりも小型化されている。
【0040】
図2(c)に示すように、プローブ2cは、例えば集積回路4を有する。集積回路4は、例えば集積回路3に対し、ダイヤモンド半導体30のNVセンタを含む領域で電子を励起させる構成と、ダイヤモンド半導体30が発する赤色光を受光する光電変換素子とが集積されている。また、集積回路4は、ダイヤモンド半導体30のNVセンタを含む領域で電子が励起状態から基底状態に遷移するときの集積回路4における所定位置の導電率を電気信号として検出する電気回路が集積されていてもよい。よって、プローブ2cは、図1に示したプローブ2に相当する機能を備え、プローブ2aやプローブ2bよりも小型化されている。
【0041】
次に、図2(c)に示した集積回路4の構成例について、より具体的に説明する。
【0042】
図3は、一実施形態に係る集積回路4の構成例を模式的に示す図である。図3に示すように、集積回路4は、例えばシリコン基板40に対し、ダイヤモンド半導体42a、マイクロ波照射系44及び検出部46が積層されて形成されているモノリシック集積回路である。このような構造は、各層の貼り合わせによる実装、あるいはシリコン基板上へのダイヤモンド膜のヘテロエピタキシャル成長により形成することができる。また、図4は、集積回路4に形成されたダイヤモンド半導体42aと検出部46との関係を示す図である。図4(a)は、ダイヤモンド半導体42a及び検出部46を模式的に示す斜視図であり、図4(b)は、ダイヤモンド半導体42a及び検出部46の断面を模式的に示す図である。
【0043】
ダイヤモンド半導体42aは、真性半導体(i型半導体)であってNVセンタを含む薄膜420aと、薄膜420aを挟むように設けられたP型半導体422a及びN型半導体424aとを有する。薄膜420aは、N型又はP型の不純物濃度が小さいダイヤモンド膜であってNVセンタを含むように構成されてもよい。P型半導体422aは、ダイヤモンドにホウ素等の不純物がドープされた半導体であり、金属の電極426aが設けられている。N型半導体424aは、ダイヤモンドにリン等の不純物がドープされた半導体であり、金属の電極428aが設けられている。つまり、ダイヤモンド半導体42aは、ダイヤモンドで形成されたPIN(p-intrinsic-n)ダイオードとなっている。
【0044】
P型及びN型の不純物濃度は、個数濃度を1016~1020cm-3の範囲内に設定されることが望ましい。また、i層は、個数濃度を1017cm-3以下に設定され、より望ましくは個数濃度を1015cm-3以下に設定される。
【0045】
電極426a及び電極428aは、図示しない外部電源から供給される電圧を制御部14(図1)の制御に応じてダイヤモンド半導体42aに印加する。上述したように、ダイヤモンド半導体42aは、PINダイオードとなっており、制御部14の制御に応じて、順方向及び逆方向に電圧が印加される。ダイヤモンド半導体42aは、順方向に電圧を印加されることにより、内部の電子が励起される。さらに、PINダイオードを用いて、電子スピンの初期化を行うこともできる。また、ダイヤモンド半導体42aは、逆方向に電圧を印加されることにより、内部の電荷(電子)を検出することができる。
【0046】
なお、薄膜420aは、メタン、水素、及び窒素を含むガスを用いた化学蒸着処理(CVD:Chemical Vapor Deposition)により形成されたNVセンタを含むダイヤモンドである。ここで、アルゴン等の希ガスが所定の濃度で混合されたガスが用いられると、NVセンタの生成率が向上する効果がある。なお、希ガスは、アルゴンに限定されることなく、例えばキセノン、クリプトン又はヘリウム等であってもよい。
【0047】
マイクロ波照射系44は、マイクロ波発生回路440及びアンテナ442を有する。マイクロ波発生回路440は、制御部14による駆動及び制御によって所定の周波数のマイクロ波を発生させる。アンテナ442は、X方向に延びて対向する2枚の板状部を備えたU字状の共振器型アンテナであり、マイクロ波発生回路440が発生させたマイクロ波をダイヤモンド半導体42aに照射する。アンテナ442は、他の形状に形成されてダイヤモンド半導体42aにマイクロ波を照射してもよい。そして、マイクロ波照射系44は、制御部14の制御に応じて、薄膜420aに含まれる不対電子を電子スピン共鳴(ESR:Electron Spin Resonance)の状態にする。
【0048】
検出部46は、例えばPD(photodiode)、APD(avalanche photodiode)、CMOSセンサ、又はCCDイメージセンサなどの光電変換素子がシリコン基板40に形成され、ダイヤモンド半導体42aが積層される。検出部46は、APD(avalanche photodiode)などが二次元に配列されていてもよい。具体的には、検出部46は、例えば複数の受光部460が二次元に配列されている。受光部460それぞれは、薄膜420aが発する蛍光をXY平面上の各位置で受光し、各位置での蛍光の強度を制御部14に対して出力する。
【0049】
集積回路4は、ダイヤモンド半導体42aに対して順方向に電圧が印加されると、薄膜420aに含まれる緑色光によって励起された不対電子と同等のエネルギーの電子が薄膜420aに注入される。つまり、薄膜420a内で電子が電気的に励起される。そして、薄膜420a内で励起状態にあった電子が基底状態に遷移するときに薄膜420aが発した赤色光を検出部46が検出する。このように、集積回路4は、薄膜420a内で電子が電気的に励起され、赤色光の強度の変化を検出部46が光によって検出する。
【0050】
なお、集積回路4は、PINダイオードを構成するダイヤモンド半導体42aにおいて薄膜420aの導電率、又はPINダイオードの電流の変化を検出することができるように構成されてもよい。すなわち、ダイヤモンド半導体42aは、ダイヤモンド膜の導電率又はPINダイオードの電流の変化を、マイクロ波の周波数の変化に応じて変化する導電率を示す電気信号とみなして検出する検出部の一部の電気回路としての機能を兼ね備え、電気信号を制御部14に対して出力してもよい。また、集積回路4は、ダイヤモンド半導体42aが励起部としての機能と検出部としての機能を兼ね備え、薄膜420a内で電子を電気的に励起させ、電子が励起状態から基底状態に遷移するときの変化を電気的に検出してもよい。この場合、PINダイオードを構成するダイヤモンド半導体42aは、順方向に電圧を印加されると電子スピンを励起させ、逆方向に電圧を印加されると検出性能が向上する。
【0051】
また、検出部46が、薄膜420aの導電率の変化を、マイクロ波の周波数の変化に応じて変化する導電率を示す電気信号とみなして検出する電気回路として構成され、電気信号を制御部14に対して出力してもよい。この場合、集積回路4は、薄膜420a内で電子が電気的に励起され、その変化を検出部46が電気的に検出する。
【0052】
次に、薄膜420aに含まれるNVセンタ、及び薄膜420aの製造方法について詳述する。
【0053】
図5は、図3,4に示した薄膜420aに含まれるダイヤモンドのNVセンタの一例を示す図である。図5(a)は、NVセンタを有するダイヤモンドの結晶格子を示し、図5(b)は、NVセンタが有するエネルギー準位を示している。
【0054】
図5(a)に示すように、NVセンタは、ダイヤモンドの結晶格子のうち、一部の炭素Cが、網掛けで示した窒素Nに置換されている。また、置換された窒素Nに隣接する1つの炭素Cの位置が、点線で示した空孔Vとなっている。すなわち、NVセンタは、隣接する窒素Nと空孔Vとが対となって存在する複合欠陥である。電子を1個捕獲した”NV”は、スピン量子数S=1であり、磁気量子数m=-1,0,+1のスピン3重項状態を形成する。
【0055】
図5(b)に示すように、NVセンタの電子スピンは、基底状態のスピン三重項A、励起状態のスピン三重項E、及びスピン三重項Aとスピン三重項Eとの間に、準安定状態のスピン一重項のエネルギー準位を有する。そして、NVセンタは、外部から電界や磁界が印加されていない場合、波長が約495~570nm(緑色光)である励起光によって電子スピンが励起された後に、電子スピンが励起状態から基底状態に戻るときに波長が約630~800nmの蛍光(赤色光)を発する。
【0056】
基底状態のスピン三重項A及び励起状態のスピン三重項Eは、スピン副準位msが0と±1とに分裂している。外部から基底状態のスピン三重項Aのエネルギー準位差に等しい周波数のマイクロ波がNVセンタに照射される場合、ESRの状態となる。この場合、スピン副準位msが±1の電子の一部は、励起状態に励起されたとしても、準安定状態を介して基底状態に無放射で遷移してしまう。このため、NVセンタによる蛍光の強度が減少してしまう。換言すれば、蛍光の強度とマイクロ波の周波数との分布、すなわちODMRのスペクトル信号を求めることにより、スピン副準位msが0と±1とであるときのエネルギー準位差を測定できる。ここで、ms=±1は外部磁場強度に比例してゼーマン分裂するため、赤色光輝度の低下点の周波数から外部磁場を検出できる。
【0057】
なお、外部から電界や磁界がNVセンタに印加されていない場合におけるスピン副準位msが0と±1とであるときときのエネルギー準位差は、2.87GHzの周波数に相当する。よって、薄膜420aのNVセンタをESRの状態にするために、マイクロ波照射系44(図3)が射出するマイクロ波の中心周波数は、2.87GHzに設定される。
【0058】
また、固体量子センサには、ダイヤモンドの代わりに、シリコンカーバイド(SiC)、ガリウムナイトライド(GaN)、酸化亜鉛(ZnO)、窒化アルミニウム(AlN)、酸化ガリウム(Ga)、窒化ボロン(BN)等が用いられてもよい。なお、シリコンカーバイド(SiC)のバンドギャップは2.20~3.02eVであり、ダイヤモンドのバンドギャップは5.74eVであり、これらはワイドバンド半導体とされている。
【0059】
固体量子センサにシリコンカーバイドが用いられる場合、シリコンが欠損して空孔が設けられた欠陥格子を、ダイヤモンドのNVセンタのように薄膜420aとして用いてもよい。例えば、シリコンカーバイドに電子線の照射やイオン注入等を行うことにより、シリコンSiの原子を弾き飛ばして、シリコンの空孔の欠陥格子を生成する。すなわち、固体量子センサには、ダイヤモンドのNVセンタに替えて、SiV、SnV、PbV、GeVなどの他の複合体が利用されてもよい。
【0060】
なお、薄膜420aの磁場の測定感度は、式(1)のように表される。
【0061】
【数1】
【0062】
ηは、磁場の測定感度を示し、Cはコントラストを示し、NはNVセンタの密度を示す。また、Vは体積を示し、Tはスピンコヒーレンス時間を示す。式(1)が示すように、集積回路4の磁場の測定感度を向上させるためには、薄膜420aに生成されるNVセンタの密度を増加させることが求められる。しかしながら、従来では、NVセンタの生成率は、0.4パーセントから1パーセント未満程度である。そこで、発明者らは、NVセンタの生成率を向上させるために、従来のメタン、窒素及び炭素とともにアルゴンなどの希ガスを加えた混合気を用いることにより、メタンの分解が促進され、ガス中の炭素や窒素等のラジカルなイオンが増加することにより、NVセンタの生成率が増加することを見いだした。
【0063】
図6は、アルゴンの割合に応じたダイヤモンドのNVセンタの成長速度と生成率との関係を例示するグラフである。図6の縦軸はNV生成率を示し、横軸は生成速度を示す。また、黒色の点は、アルゴンの割合が5パーセント、10パーセント、15パーセント及び30パーセントの場合のNV生成率及び生成速度を示す。白色の点は、Ozawa et al., "Formation of perfectly aligned nitrogen-vacancy-center ensembles in chemical-vapor-deposition-grown diamond", Applied Physics Express 10, 045501, 2017におけるNV生成率及び生成速度を、従来例として示す。すなわち、従来のNV生成率は0.4パーセントであり、生成速度は0.5μm/hである。なお、図6に示したNV生成率及び生成速度は、CVDを行う時間を2時間にした場合の結果である。
【0064】
図6に示すように、薄膜420aを生成するCVDにおいて、アルゴンの割合が5パーセント以上、好ましくは10パーセントから15パーセントに設定された場合、ダイヤモンドのNVセンタの生成率及び生成速度は、従来(白色の点)に比べて増加する。すなわち、アルゴンの割合が15パーセントの場合、NV生成率は、約3パーセントとなり、従来に比べて8倍程度向上する。また、生成速度は、8μm/hとなり、従来に比べて16倍向上する。これは、薄膜420aの測定感度が従来に比べて11倍向上することを示す。
【0065】
なお、アルゴンの割合が15パーセントの場合、薄膜420aを生成するCVDの条件は、例えば、ガスの総流量が100sccm等に設定されたとき、メタンCHの割合が0.4パーセント、炭素Cに対する窒素Nの比が0.8、マイクロ波照射エネルギーが520W、温度が950°C及び圧力が30kPaに設定される。
【0066】
また、アルゴンの割合が30パーセントの場合、図6に示すように、過剰なアルゴンの影響により、ダイヤモンドの結晶性が低下し、NV生成率が低下する。
【0067】
図7は、図3,4に示した薄膜420aのNVセンタが発する蛍光の強度の周波数依存性を例示するグラフである。図7では、マイクロ波照射系44(図3)が、2.87GHzを中心周波数とする所定範囲の周波数のマイクロ波を集積回路4の薄膜420aに含まれるNVセンタに照射した場合に、NVセンタが発する蛍光の強度、すなわちODMRの信号の強度分布が示されている。なお、図7(a)は、薄膜420aのNVセンタに磁場がない場合を示し、図7(b)は、薄膜420aのNVセンタに磁場がある場合を示している。また、図7の横軸はマイクロ波の周波数を示し、縦軸は蛍光の強度を示している。
【0068】
図7(a)に示すように、NVセンタに磁場がない場合、すなわち±1のスピン副準位msが縮退している場合、蛍光の強度は、2.87GHzの周波数(スピン副準位msが0と±1とであるときのエネルギー準位差)の位置で最も小さくなる。
【0069】
一方、NVセンタに磁場がある場合、スピン副準位msが-1と+1との間でさらに分裂する。このため、図7(b)に示すように、蛍光の強度は、スピン副準位msが0と-1との間のエネルギー準位差と、スピン副準位msが0と+1との間のエネルギー準位差とに対応する2つの周波数の位置で最も小さくなる。そして、磁場が大きくなるに従い、スピン副準位msが-1と+1との間でエネルギー準位差が大きくなるため、蛍光の強度が小さくなる2つの周波数の間隔は大きくなる。例えば、センサシステム1(図1)の制御部14は、検出器22や検出部46(図3)を介して検出された2つの周波数の間隔と、式(2)(L. Rondin et al., "Magnetometry with nitrogen-vacancy defects in diamond", Rep. Prog. Phys., Vol. 77, 056503, 2014参照)とを用いて、薄膜420aにより検出された磁場の大きさを測定する。
【0070】
ν±=D+gμNV/h ・・・(2)
【0071】
ν±は、発光強度が最小になる周波数を示し、BNVは、NVセンタにおける磁場を示す。μは、ボーア磁子を示し、gは、ランデのg因子を示し、hは、プランク定数を示す。Dは、約2.87GHzである。
【0072】
なお、センサシステム1の制御部14は、検出部46を介して検出された2つの周波数の間隔や共鳴周波数の変化を用いて、電界を測定してもよい。また、センサシステム1の制御部14は、磁場や電界の代わりに、薄膜420aが発する蛍光の強度から温度等を測定してもよい。
【0073】
なお、図5に示したように、炭素Cが共有結合する方向は4つある。このため、薄膜420aに生成されるNVセンタの方向は4つのいずれかの方向になる。そして、薄膜420aが所定の測定感度を有するには、例えば、図3,4の場合において、薄膜420aが所定の測定感度を有するようにするためには、Z軸方向にNVセンタが揃うことが望ましい。なお、NVセンタが同じ方向に揃う割合は、“NV配向率”と称される。NV配向率を向上させるためには、薄膜420a、すなわちダイヤモンドの面方位は{111}面であることが好ましい。全てのNVセンタが同じ方向に揃えられ、NV配向率を100パーセントにすることが、測定感度の高感度化のために有効である。一方、薄膜420aは、従来に比べて16倍速く生成されるため、全てのNVセンタが同じ方向に揃わないこと、すなわちNV配向率が100パーセント未満となる場合がある。
【0074】
図8は、NV配向率が80パーセントである場合の図3,4に示した薄膜420aが発する蛍光の強度の周波数依存性を例示するグラフである。図7に示した場合と同様に、図8の横軸は周波数を示し、縦軸は蛍光の強度を示している。また、図8では、図7(b)に示した場合と同様に、薄膜420aのNVセンタに磁場がある場合が示されている。
【0075】
図8に示したように、蛍光の強度は、図7(b)に示した場合と同様に、スピン副準位msが0と-1との間のエネルギー準位差と、スピン副準位msが0と+1との間のエネルギー準位差とに対応する三角印で示した2つの周波数の位置で最も小さくなる。また、図8に示すように、矢印で示した2つの周波数の位置でも蛍光の強度が小さくなる。これは、薄膜420aに含まれるNVセンタのうち、Z軸方向と異なる方向のNVセンタによる強度の低下を示す。しかしながら、三角印で示した2つの周波数の位置での強度変化は、矢印で示した2つの周波数の位置の強度変化に比べて大きい。このため、NV配向率が少なくとも25パーセント超過、好ましくは50パーセント以上、さらに好ましくは80パーセント以上の薄膜420aを用いることにより、センサシステム1(図1)は、磁場を十分な精度で測定することができる。
【0076】
次に、ダイヤモンド半導体42aの4つの変形例について説明する。ダイヤモンド半導体42aの変形例それぞれは、ダイヤモンド膜の導電率(又は電流)の変化を検出する検出部の一部の電気回路としての機能を兼ね備えている。
【0077】
また、ダイヤモンド半導体42aの変形例は、電子スピンの状態を上述した光の強度に代えて電気的に検出することができるので、高励起光強度であっても信号強度が飽和しない。また、電気的な検出は、上述した光学的な検出よりも高感度であると考えられる(理論予想:F.M.Hrubesch et al., Phys. Rev. Lett. 118,037601(2017)参照)。さらに、電気的な検出は、集積回路4の集積化にも寄与する。
【0078】
以下、ダイヤモンド半導体42aの4つの変形例について具体的に説明する。図9は、ダイヤモンド半導体42aの第1変形例(ダイヤモンド半導体42b)の断面を模式的に示す図である。
【0079】
ダイヤモンド半導体42bは、真性半導体(i型半導体)であってNVセンタを含む薄膜420bが絶縁基板421b上に形成されている。薄膜420b上には、例えば測定対象を挟むことができる位置にP型半導体422b及びN型半導体424bを有する。
【0080】
P型半導体422bは、ダイヤモンドに例えばホウ素の不純物がドープされた半導体であり、金属の電極426bが設けられている。N型半導体424bは、ダイヤモンドに例えばリンの不純物がドープされた半導体であり、金属の電極428bが設けられている。
【0081】
ダイヤモンド半導体42bは、電極426b及び電極428bに対して外部電源から逆バイアスが印加されたときに、薄膜420bが空乏化するように、P型半導体422bとN型半導体424bとの間隔L、及びi層濃度が設計されている。
【0082】
つまり、ダイヤモンド半導体42bは、ダイヤモンドで形成されたPIN(p-intrinsic-n)ダイオードとなっており、高い逆バイアスが印加されるとアバランシェ降伏による電子の増倍が起きる。
【0083】
図10は、ダイヤモンド半導体42bにおけるアバランシェ降伏による電流の増倍を示すグラフである。図11は、アバランシェ増幅の過程を示す図である。図10に示すように、ダイヤモンド半導体42bは、印加される逆バイアスが大きくなると、電子雪崩降伏によって急に電流が流れ始める。このとき、ダイヤモンド半導体42bは、光照射がある場合、図11に示した過程によって電子雪崩を引き起こすため、光照射がない場合に降伏が起こり始める電圧よりも高い電圧で光電流が増え始める。つまり、ダイヤモンド半導体42bは、アバランシェ降伏によって大きな光電流を流すことができるので、検出部としての感度が高くなる。
【0084】
また、ダイヤモンド半導体42bは不純物濃度が低いため、NVセンタの電子スピンの位相コヒーレンス時間を伸長させることができる。また、ダイヤモンド半導体42bは、光照射がない場合の暗電流が少ないため、感度の向上にも有効である。
【0085】
なお、ダイヤモンド半導体42bは、高濃度のドープ層によってコンタクト抵抗が低減されている。そして、ダイヤモンド半導体42bは、励起光によって励起状態へ遷移した電子の一部を、さらに励起光によって伝導帯へ遷移させることができ、外部から光電流を取り出すことを容易にしている。また、ダイヤモンド半導体42bは、マイクロ波の共鳴周波数付近で光電流が減少する。つまり、ダイヤモンド半導体42bは、共鳴周波数を探索するようにマイクロ波を掃引させながら光電流を測定することによって光電流検出磁気共鳴(PDMR:図16等を用いて後述)を測定することを可能にしている。
【0086】
図12は、ダイヤモンド半導体42aの第2変形例(ダイヤモンド半導体42c)の断面を模式的に示す図である。
【0087】
ダイヤモンド半導体42cは、上述したダイヤモンド半導体42bにおける薄膜420bとN型半導体424bとの間にP型半導体424cがさらに積層された構成となっている。すなわち、ダイヤモンド半導体42cは、図13に示したNVセンタの形成領域とキャリアの倍増領域とを分離されたリーチスルー構造を備えている。リーチスルー構造は、n+層とi層の間にp層が挿入された構成となっており、NVセンタの形成領域とキャリアの倍増領域とを分離している。そして、ダイヤモンド半導体42cは、p層濃度を設定されることにより、アバランシェ電圧が設計されている。
【0088】
一般に、NVセンタは、アバランシェ降伏を起こさせるために高電圧が印加された場合、電荷状態に変化が生じることがある。ダイヤモンド半導体42cが検出部の機能を備えるためには、NVセンタが負電荷を帯びた状態であることが必要である。このために、ダイヤモンド半導体42cは、リーチスルー構造を備えてNVセンタの形成領域と、キャリアの倍増領域となる高電界領域とを分離している(図13)。
【0089】
図14は、ダイヤモンド半導体42aの第3変形例(ダイヤモンド半導体42d)の断面を模式的に示す図である。
【0090】
ダイヤモンド半導体42dは、真性半導体(i型半導体)であってNVセンタを含む例えば厚さが5μmの薄膜420dがp(111)基板427d上に形成されている。p(111)基板427dは、例えばホウ素の不純物がドープされており、例えば厚さが500μmにされて、下方に電極429dが設けられている。
【0091】
また、薄膜420d上には、例えば測定対象を挟むことができる位置にN型半導体424d及びN型半導体425dを有する。
【0092】
N型半導体424dは、例えばリンの不純物をドープされて厚みを0.5μmにされた半導体であり、金属の電極428dが設けられている。N型半導体425dは、例えばリンの不純物をドープされて厚みを0.5μmにされた半導体であり、金属の電極426dが設けられている。ダイヤモンド半導体42dにおいて、電極426d及び電極428dはカソードとなり、電極429dはアノードとなっている。
【0093】
このように、ダイヤモンド半導体42dは、ダイヤモンドで形成された縦型のPINダイオードとなっており、高い逆バイアスが印加されるとアバランシェ降伏による電子の増倍が起きる。
【0094】
図15は、ダイヤモンド半導体42aの第4変形例(ダイヤモンド半導体42e)の断面を模式的に示す図である。
【0095】
ダイヤモンド半導体42eは、上述したダイヤモンド半導体42dにおける薄膜420dとN型半導体424dとの間にP型半導体424eがさらに積層され、薄膜420dとN型半導体425dとの間にP型半導体425eがさらに積層された構成となっている。
【0096】
すなわち、ダイヤモンド半導体42eは、上述したリーチスルー構造を備え、NVセンタの形成領域とキャリアの倍増領域とを分離した縦型のPINダイオードとなっており、高い逆バイアスが印加されるとアバランシェ降伏による電子の増倍が起きる。
【0097】
図16は、ダイヤモンド半導体42a及びその変形例などによる電気検出磁気共鳴(PDMR)特性を例示するグラフである。上述したODMR特性(図8等参照)では、薄膜が発する蛍光の強度の周波数依存性を示していたが、図16に示したPDMR特性では、電流又は導電率の周波数依存性を示している。
【0098】
ダイヤモンド中のNVセンタは、バンドギャップ内にエネルギー準位を形成する。この準位に捕獲され、基底状態にある電子は、532nmの励起光によって励起状態へ遷移するが、一部の電子は励起光によってさらに伝導帯へ遷移する。
【0099】
この電子はNVセンタのスピン状態を反映しており、ms=±1の状態にある電子は光電流にほとんど寄与しない。これは、ms=±1の励起状態に遷移した電子の励起寿命がms=0の場合に比べて短いためである。
【0100】
ダイヤモンド半導体42a及びその変形例などは、伝導帯へ励起された電子を光電流として外部回路へ取り出すことを可能にしている。つまり、ダイヤモンド半導体42a及びその変形例などは、NVセンタのスピン状態を電気的に読み出すことを可能にしている。
【0101】
ダイヤモンド半導体42a及びその変形例などにおいては、NVセンタの共鳴周波数に対応するマイクロ波を照射することにより、ms=0とms=1、又はms=0とms=-1の2準位間の遷移をさせることができる。
【0102】
なお、NVセンタのスピン状態を電気的に検出するときに、暗電流がNVセンタに由来する光電流よりも多い場合には、励起光をパルス化し、光電流を電圧へI/V変換した後に、ロックインアンプを用いて暗電流を除去するようにしてもよい。
【0103】
次に、集積回路4の変形例について説明する。
【0104】
図17は、一実施形態に係る集積回路4の変形例における薄膜420a及び検出部46の周辺の構成例を模式的に示す図である。図18は、図17に示した薄膜420a及び検出部46の周辺に関する拡大図である。図18(a)は、図17に示した薄膜420a及び検出部46の周辺のA-A線断面を模式的に示した図である。図18(b)は、図17に示した薄膜420a及び検出部46の周辺のB-B線断面を模式的に示した図である。図18(c)は、図18(b)に示した一点鎖線で囲まれた領域を拡大して模式的に示した図である。
【0105】
図17及び図18に示すように、集積回路4の変形例においては、薄膜420aの下層に酸化膜464aが形成されている。また、検出部46は、例えば二次元のCMOSセンサであり、PDが形成されている受光層462の上層に酸化膜464が形成された構成となっている。
【0106】
また、集積回路4の変形例においては、酸化膜464及び酸化膜464aに囲まれるように窒化膜480が形成されている。窒化膜480は、図17及び図18において太矢印で示した方向に励起光が図示しない光ファイバなどを介して1ヶ所から入射されると、例えば複数方向に向けて励起光を導くスターカプラとして機能するように形成されている。
【0107】
すなわち、集積回路4の変形例は、窒化膜480をコア層とし、酸化膜464a及び酸化膜464をクラッド層とする導波路が形成されており、太矢印で示した方向に入射された励起光を薄膜420aの全体に対して略均一に照射(励起)するように構成されている。
【0108】
例えば、図18(b)に示されているように、酸化膜464aは、窒化膜480と薄膜420aとの間に挟まれた領域の厚さが、外部から入射される励起光の導光方向(X方向)に進むにつれて徐々に薄くなるように形成されている。
【0109】
また、図18(c)に示されているように、窒化膜480は、励起光の導光方向(X方向)に向けて回折格子482が所定の間隔で形成されている。回折格子482は、例えば外部から入射される励起光の導光方向(X方向)に進むにつれて間隔が狭くなるように周期的に形成されている。例えば、図18(c)に示したn+1番目の回折格子482の間隔は、n番目の回折格子482の間隔よりも短くされている。また、n+2番目の回折格子482の間隔は、n+1番目の回折格子482の間隔よりも短くされている。
【0110】
なお、薄膜420aのXY方向の各位置に対して照射される励起光が略均一となるように、酸化膜464aの厚さ、又は回折格子482の間隔のいずれか一方のみが変調されてもよい。また、集積回路4の変形例に形成された導波路、及び薄膜420aは、光共振するように構成されていてもよい。
【0111】
そして、集積回路4の変形例は、薄膜420a内で電子が励起光によって励起され、励起状態にあった電子が基底状態に遷移するときに薄膜420aが発した赤色光を検出部46が検出する。このように、集積回路4の変形例は、薄膜420a内で電子が励起光によって励起され、赤色光の強度の変化を検出部46が光によって検出する。
【0112】
なお、図17及び図18に示した例においては、薄膜420aは、導電率の変化を検出することができるように構成されてもよい。すなわち、薄膜420aは、導電率の変化をマイクロ波の周波数の変化に応じて変化する電気信号として検出する検出部の一部の電気回路としての機能を兼ね備え、電気信号を制御部14に対して出力してもよい。
【0113】
また、検出部46が、薄膜420aの導電率の変化を、マイクロ波の周波数の変化に応じて変化する電気信号として検出する電気回路として構成され、電気信号を制御部14に対して出力してもよい。また、集積回路4の変形例は、薄膜420a内で電子が励起光によって励起され、電子が励起状態から基底状態に遷移するときの変化を検出部46が電気的に検出してもよい。
【0114】
なお、上述した実施形態は、いずれもセンサシステム1の構成例であり、上述の各構成の組み合わせが任意に変更されてもよい。例えば、センサシステム1は、光又は電気のいずれによって電子が励起されてもよく、光又は電気のいずれによって磁場などの変化を検出してもよい。
【0115】
また、集積回路4は、薄膜420aと、外部からの駆動に応じて薄膜420aにマイクロ波を照射するマイクロ波照射系44と、外部からの駆動に応じて薄膜420aに含まれる電子を励起光又は電気によって励起させる励起部(図3,17等に示される構成)と、電子が励起状態から基底状態に遷移するときに薄膜420aから出力される光の強度又は導電率の少なくともいずれかを、マイクロ波の周波数の変化に応じて変化する電気信号として検出する検出部46とを有するように構成されている。
【0116】
なお、上述したセンサシステム1は、NVセンタの個数密度が1~1020cm-3の範囲内であることが望ましい。
【0117】
次に、センサシステム1の他の構成例について説明する。
【0118】
図19は、センサシステム1の他の構成例を模式的に示した概略図である。図19に示したように、センサシステム1は、例えば複数のセンサモジュール4aを備える。複数のセンサモジュール4aは、それぞれ集積回路4(図3等参照)を有し、例えば人の頭部などの計測対象の表面にアレイ状に配置可能にされている。また、センサモジュール4a(又は集積回路4)は、図11に示したように複数層に積層化されて計測対象に配置されてもよいし、一層でアレイ状に配置されてもよい。そして、複数のセンサモジュール4aを備えるセンサシステム1は、頭の深さ方向も含む三次元の磁場を高感度で検出するように構成されてもよい。さらに複数層のセンサでグラジオメータを構成し、高感度化を図ることもできる。
【0119】
すなわち、センサシステム1は、小型化されたセンサモジュール4aが人の頭などの計測対象に複数個、アレイ状に配置されることにより、脳内の情報を非侵襲で高感度に計測することを可能にする。そして、センサシステム1は、人の頭の表面から一定の距離を置いて複数個が配置されることにより、脳内の深さ方向のより詳細な情報を得ることができる。
【0120】
このように、上述した実施形態によれば、光検出磁気共鳴、又は電気検出磁気共鳴を利用して、磁場等の検出感度を上げつつ小型化を可能にすることができる。
【0121】
そして、センサシステム1は、常温・室温における生体の脳磁、心磁、脊磁の計測、細胞の電流・温度の計測、神経ネットワークの計測、電池やパワーデバイスの電流や温度の計測など、スケーラブルな計測を可能にするように多岐にわたって応用することが可能になっている。
【符号の説明】
【0122】
1・・・センサシステム、2,2a,2b,2c・・・プローブ、3,3a,3b,4・・・集積回路、10・・・入力部、12・・・出力部、14・・・制御部、20・・・光源、22・・・検出器、30,42a,42b,42c,42d,42e・・・ダイヤモンド半導体、32,44・・・マイクロ波照射系、40・・・シリコン基板、46・・・検出部、140・・・CPU、142・・・メモリ、420a,420b,420d・・・薄膜、421b・・・絶縁基板、422a,422b,424c,424e・・・P型半導体、424a,424b,424d,425d・・・N型半導体、426a,426b,426d,428a,428b,428d,429d・・・電極、427d・・・p(111)基板、440・・・マイクロ波発生回路、442・・・アンテナ、460・・・受光部、462・・・受光層、464,464a・・・酸化膜、480・・・窒化膜、482・・・回折格子
図1
図2
図3
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図5
図6
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