(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】ハイブリッドエアロゲル及びその製造方法、並びにハイブリッドエアロゲルを用いた断熱材
(51)【国際特許分類】
C01B 33/16 20060101AFI20240424BHJP
F16L 59/02 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
C01B33/16
F16L59/02
(21)【出願番号】P 2022536169
(86)(22)【出願日】2021-06-04
(86)【国際出願番号】 JP2021021299
(87)【国際公開番号】W WO2022014194
(87)【国際公開日】2022-01-20
【審査請求日】2022-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2020120921
(32)【優先日】2020-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100169591
【氏名又は名称】小島 浩嗣
(72)【発明者】
【氏名】ウー ラダー
(72)【発明者】
【氏名】李 官益
(72)【発明者】
【氏名】ビルトダゾ リベラ レイモンド
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/038646(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第108689680(CN,A)
【文献】特表2005-525454(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0059971(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0160001(US,A1)
【文献】特表昭55-500614(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00 - 33/193
F16L 59/00 - 59/22
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物の二次粒子が結合した網目構造を有し、二次粒子間には空孔が形成されているエアロゲルに、ナノ中空粒子とマイクロ中空粒子のうちの少なくとも一方が混入されたハイブリッドエアロゲルであって、
前記ナノ中空粒子は、外径が30nm以上360nm以下の球殻とその内部の空洞を備え、
前記マイクロ中空粒子は、外径が1μm以上23μm以下の球殻とその内部の空洞を備え
、
前記ナノ中空粒子及び/または前記マイクロ中空粒子の空洞が、大気よりも熱伝導率の低い気体で充填された、
ハイブリッドエアロゲル。
【請求項2】
前記ナノ中空粒子を含む場合その組成比率は、0.01重量%以上、30重量%以下であり、
前記マイクロ中空粒子を含む場合その組成比率は、0.01重量%以上、30重量%以下であって、
残部が前記エアロゲルよりなる
請求項1に記載のハイブリッドエアロゲル。
【請求項3】
前記ナノ中空粒子を含む場合その組成比率は、0.00003体積%以上、17.6体積%以下であり、
前記マイクロ中空粒子を含む場合その組成比率は、0.00003体積%以上、22体積%以下であって、
残部が前記エアロゲルよりなる
請求項1に記載のハイブリッドエアロゲル。
【請求項4】
前記金属酸化物は、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、イットリウム(Y)、バナジウム(V)、セリウム(Ce)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、プラセオジウム(Pr)、ホルミウム(Ho)、又はモリブデン(Mo)の少なくとも1種の酸化物である
請求項1乃至3のうちのいずれか1項に記載のハイブリッドエアロゲル。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のハイブリッドエアロゲルを用いた断熱材。
【請求項6】
前駆体としての金属アルコキシド
又は水ガラスを調製し、
金属酸化物の中空粒子を準備し、
前記前駆体と前記中空粒子を溶媒に溶かして、コロイド溶液を調製し、
酸触媒を前記コロイド溶液に添加し、前記前駆体に対するゾル-ゲル法の加水分解反応と重縮合反応を促進してゲルを調製し、
前記ゲルを、二酸化炭素を用いた超臨界乾燥法又は常圧乾燥法で乾燥処理することにより、ハイブリッド化されたエアロゲルを作製する、
ハイブリッドエアロゲルの製造方法
であって、
前記中空粒子の球状空洞の内部のガスを大気より熱伝導の低い気体に置換する工程をさらに備える、ハイブリッドエアロゲルの製造方法。
【請求項7】
前記中空粒子は、マイクロ中空粒子、ナノ中空粒子、又はマイクロ中空粒子とナノ中空粒子の混合体の何れかである
請求項6に記載のハイブリッドエアロゲルの製造方法。
【請求項8】
前記金属アルコキシドの金属は、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、イットリウム(Y)、バナジウム(V)、セリウム(Ce)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、プラセオジウム(Pr)、ホルミウム(Ho)、又はモリブデン(Mo)の何れかの少なくとも1種を含む
請求項6又は7に記載のハイブリッドエアロゲルの製造方法。
【請求項9】
前記
前駆体は、ケイ素アルコキシド又は水ガラスであり、前記中空粒子はシリカである、
請求項6又は7に記載のハイブリッドエアロゲルの製造方法。
【請求項10】
前記ケイ素アルコキシドとして、テトラエトキシシラン、トリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリプロポキシシラン、テトラプロポキシシラン、トリブトキシシランの少なくとも1つを用いる
請求項9に記載のハイブリッドエアロゲルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッドエアロゲル及びその製造方法に関する。
また、本発明は、ハイブリッドエアロゲルを用いた断熱材に関する。
【背景技術】
【0002】
エアロゲルは1931年に最初に発表された材料であり(非特許文献1)、一般的に定義すれば、ウェットゲル中に含まれる液体を超臨界乾燥又は常圧乾燥法によってほとんど収縮させずに気体に置換した多孔質をいう(非特許文献2、3)。エアロゲルの製造方法に関しては、例えば特許文献1~2に掲載されており、二酸化ケイ素に関しては、いわゆるゾル-ゲル法(Sol-gel process)やストーパー法(Stober process)が有名である。例えば特許文献3~4に記載のように、積層体にエアロゲルを挟む構造として、断熱材として使用される。
【0003】
エアロゲルは熱伝導率が自立した固体の中でもっとも低いため、以前から断熱材としての応用が考えられている(例えば特許文献3~4参照)。具体的な数値を挙げれば、一般的な断熱材の熱伝導率が約20~45mW/(m・K)であるのに対し、多くのエアロゲルでそれを下回る熱伝導率、すなわち高い断熱性が報告されている。このように断熱材として非常に好ましい低熱伝導率が達成される原因は、エアロゲルの構造においてはその骨格が空間を均一に仕切ることで細孔を形成しているため、エアロゲル内ではガスの対流や分子の熱運動量交換が起こらないからである。常温・常圧で大気の主成分である窒素分子の平均自由行程は約70nm(または68nm)なので、エアロゲル内部を窒素分子の平均自由行程より小さい空間に仕切ることで、真空の断熱性と同程度の効果を得ることができる。
【0004】
エアロゲルは非常に低密度の材料であるが、繊細、脆弱であって非常に壊れやすく、そのため多くの実用的な局面への応用が困難になっていた。そこで、例えば高断熱窓、これまでにないフィルター、冷蔵庫用極薄壁、建築物の高断熱材等の工学応用のために、機械的に堅牢な新たな種類のエアロゲルが求められている。この課題を達成するため、従来から繊維やその他の有機分子で補強を行った、ハイブリッド化されたエアロゲルが研究されてきたが、未だに充分な特性を有するエアロゾルは実現できていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】USP4402927
【文献】特開2019-19019号公報
【文献】特開2018-130933号公報
【文献】特開2009-299893号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】S. S. Kistler, Nature 1931, 127, 741.
【文献】片岡成人、他2名、究極の多孔質材料―シリカエアロゲル―、名古屋工業大学先進セラミックス研究センター年報、第2巻、13-17頁(2013)
【文献】田端誠、エアロゲルの開発と応用、高エネルギーニュース、Vol.38、124-134頁(2020)http://www.jahep.org/hepnews/2019/19-4-3-aerogel.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、非常に低密度の材料でありながら、機械的な強度が高く、断熱特性に優れた実用的なハイブリッドゲルを提供することである。
本発明の目的は、断熱特性に優れたエアロゲルを提供することにある。具体的には、大きな空隙率を有するとともに、空隙を介した気体の流動を更に抑制する構造を有するハイブリッド化エアロゲルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
エアロゲルの製造方法からも予想されるように、エアロゲルの個々の細孔は他の細孔と連通しており、これによってエアロゲル中で気体の流動が僅かに起こってしまう。本願発明者はこの僅かな流動による熱伝導に着目し、エアロゲル中にこのような流動を遮断或いは低減する他の材料を混入したハイブリッド化されたエアロゲルを構成することで、エアロゲルの熱伝導率をさらに低下させることが可能になるとの着想を得た。
【0009】
[1]本発明のハイブリッドエアロゲルは、例えば
図1に示すように、金属酸化物の二次粒子が結合した網目構造を有し、二次粒子間には空孔が形成されているエアロゲルと、前記エアロゲル中に混入された、外径が30nm以上360nm以下のナノ中空粒子とを備え、前記エアロゲルの空孔が連通することによって形成される気体流動経路を前記ナノ中空粒子の球殻によって遮断したことを特徴とする。
[2]本発明のハイブリッドエアロゲルにおいて、好ましくは、前記ナノ中空粒子は、0.01重量%以上、30重量%以下であって、残部が前記エアロゲルよりなるとよい。
[3]本発明のハイブリッドエアロゲルにおいて、好ましくは、前記ナノ中空粒子の球殻によって遮断した気体流動経路は、前記エアロゲルの空孔が連通した気体流動経路に対して、10%以上、90%以下であるとよい。
【0010】
[4]本発明のハイブリッドエアロゲルは、例えば
図1に示すように、金属酸化物の二次粒子が結合した網目構造を有し、二次粒子間には空孔が形成されているエアロゲルと、前記エアロゲル中に混入された、外径が1μm以上23μm以下のマイクロ中空粒子を含み、前記エアロゲルの網目構造を、前記マイクロ中空粒子の球殻によって機械的に補強したことを特徴とする。
[5]本発明のハイブリッドエアロゲルにおいて、好ましくは、マイクロ中空粒子は、0.01重量%以上、30重量%以下であって、残部が前記エアロゲルよりなるとよい。
【0011】
[6]本発明のハイブリッドエアロゲルは、例えば
図1、
図8A~
図8Cに示すように、金属酸化物の二次粒子が結合した網目構造を有し、二次粒子間には空孔が形成されているエアロゲルと、前記エアロゲルに中空粒子を分散させて形成された固体の網目構造骨格と、前記エアロゲルの空孔が連通することによって形成される気体流動経路と、大気より熱伝導の低い気体(Xenon、CO
2、又はエチレン)で充填された前記中空粒子の球状空洞とを備えるものである。
[7]本発明のハイブリッドエアロゲル[6]において、好ましくは、前記中空粒子は、外径が30nm以上360nm以下のナノ中空粒子と、外径が1μm以上23μm以下のマイクロ中空粒子の少なくとも一方を有するとよい。
[8]本発明のハイブリッドエアロゲル[7]において、好ましくは、前記ナノ中空粒子は、0.01重量%以上、30重量%以下であり、前記マイクロ中空粒子は、0.01重量%以上、30重量%以下であって、残部が前記エアロゲルよりなるとよい。更に好ましくは、前記ナノ中空粒子は、0.1重量%以上、15重量%以下であり、前記マイクロ中空粒子は、0.1重量%以上、15重量%以下であるとよい。更に好ましくは、前記ナノ中空粒子は、1重量%以上、10重量%以下であり、前記マイクロ中空粒子は、1重量%以上、10重量%以下であるとよい。
[9]本発明のハイブリッドエアロゲル[7]において、好ましくは、前記ナノ中空粒子は、0.00003体積%以上、17.6体積%以下であり、前記マイクロ中空粒子は、0.00003体積%以上、22体積%以下であって、残部が前記エアロゲルよりなるとよい。更に好ましくは、前記ナノ中空粒子は、0.0003体積%以上、8.1体積%以下であり、前記マイクロ中空粒子は、0.0003体積%以上、10.6体積%以下であるとよい。更に好ましくは、前記ナノ中空粒子は、0.0034体積%以上、5.2体積%以下であり、前記マイクロ中空粒子は、0.0034体積%以上、7.0体積%以下であるとよい。
[10]本発明のハイブリッドエアロゲル[1]~[9]において、好ましくは、前記金属酸化物は、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、イットリウム(Y)、バナジウム(V)、セリウム(Ce)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、プラセオジウム(Pr)、ホルミウム(Ho)、又はモリブデン(Mo)の少なくとも1種の酸化物であるとよい。
【0012】
[11]本発明のハイブリッドエアロゲルの製造方法は、前駆体としての金属アルコキシドを調製し、金属酸化物よりなる中空粒子を準備し、前記前駆体と前記中空粒子を溶媒に溶かして、コロイド溶液を調製し、酸触媒を前記コロイド溶液に添加し、前記前駆体に対するゾル-ゲル法の加水分解反応と重縮合反応を促進してゲルを調製し、前記ゲルを、二酸化炭素を用いた超臨界乾燥法又は常圧乾燥法で乾燥処理することにより、ハイブリッド化されたエアロゲルを作製する、工程を有するものである。
[12]本発明のハイブリッドエアロゲルの製造方法において、好ましくは、前記金属アルコキシドの金属は、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、イットリウム(Y)、バナジウム(V)、セリウム(Ce)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、プラセオジウム(Pr)、ホルミウム(Ho)、又はモリブデン(Mo)の何れかの少なくとも1種を含むとよい。
[13]本発明のハイブリッドエアロゲルの製造方法は、例えば
図9Aに示すように、前駆体としてのケイ素アルコキシド又は水ガラスを調製し(S100)、シリカの中空粒子を準備し(S110)、前記前駆体と前記中空粒子を溶媒に溶かして、コロイド溶液を調製し(S120)、酸触媒を前記コロイド溶液に添加し、前記前駆体に対するゾル-ゲル法の加水分解反応と重縮合反応を促進してゲルを調製し(S130)、前記ゲルを、二酸化炭素を用いた超臨界乾燥法又は常圧乾燥法で乾燥処理することにより、ハイブリッド化されたエアロゲルを作製する(S140)、工程を有するものである。
[14]本発明のハイブリッドエアロゲルの製造方法において、好ましくは、前記ケイ素アルコキシドとして、テトラエトキシシラン、トリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリプロポキシシラン、テトラプロポキシシラン、トリブトキシシランの少なくとも1つを用いるとよい。
[15]本発明のハイブリッドエアロゲルの製造方法において、好ましくは、さらに、前記中空粒子の球状空洞の内部のガスを大気より熱伝導の低い気体に置換する工程を備えるとよい。
[16]本発明のハイブリッドエアロゲルの製造方法において、好ましくは、中空粒子は、マイクロ中空粒子、ナノ中空粒子、又はマイクロ中空粒子とナノ中空粒子の混合体の何れかであるとよい。
[17]本発明の断熱材は、[1]乃至[10]の何れか1項に記載のハイブリッドエアロゲルを用いたものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のハイブリッドエアロゲルによれば、真空断熱並みの高断熱特性が得られると共に、大気圧が作用しても圧壊が防止できる固体状の断熱材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施例を示すハイブリッド化されたエアロゲルの断面の概念的な構造を示す要部断面図である。
【
図2】
図1に示す中空粒子の断面構造の概念的に示す図である。
【
図3】本発明の一実施例を示すマイクロ中空粒子の概念的説明図で、(A)は断面構造図、(B)はSEM写真図で、マイクロ中空粒子の内部構造を示すため、表面が破断しているマイクロ中空粒子を示している。
【
図4A】本発明の一実施例を示すマイクロ中空粒子の説明図で、(A)は光学的顕微鏡写真、(B)はSEM写真、(C)は(B)の拡大SEM写真で、一個のマイクロ中空粒子の破断面、(D)は(C)の拡大SEM写真でマイクロ中空粒子の膜構造の詳細構造を示している。
【
図4B】本発明の一実施例を示すマイクロ中空粒子の説明図で、(E)は元素組成を表すEDX、(F)は粒径分布(PSD:particle size distribution)である。
【
図5】本発明の一実施例を示すナノ中空粒子の概念的説明図で、(A)は断面構造図、(B)はSEM写真図で、ナノ中空粒子の内部構造を示している。
【
図6A】本発明の一実施例を示すナノ中空粒子の説明図で、(A)はSEM写真、(B)はTEM写真、(C)は(B)の拡大TEM写真、(D)は(C)の拡大TEM写真でナノ中空粒子の膜構造の詳細構造を示している。
【
図6B】本発明の一実施例を示すナノ中空粒子の説明図で、(E)は元素組成を表すEDX、(F)は粒径分布を示すPSDである。
【
図7】本発明の一実施例を示す中空粒子とエアロゲルの写真図で、(A)はマイクロ中空粒子のSEM写真、(B)はナノ中空粒子のTEM写真、(C)は多孔質エアロゲルのSEM写真、(D)は(C)の拡大SEM写真で多孔質エアロゲルの詳細構造を示している。
【
図8A】本発明の一実施例を示す熱伝導を示す図で、エアロゲルに中空粒子を含まない場合を示している。
【
図8B】本発明の一実施例を示す熱伝導を示す図で、ハイブリッド化されたエアロゲルにナノ中空粒子を含む場合を示している。
【
図8C】本発明の一実施例を示す熱伝導を示す図で、ハイブリッド化されたエアロゲルに二酸化炭素を充填したナノ中空粒子を含む場合を示している。
【
図9A】ハイブリッド化されたエアロゲルの製造工程を説明する図である。
【
図9B】前駆体に対するゾル-ゲル法の加水分解反応と重縮合反応を説明する図である。
【
図10】二重エマルジョン法によるマイクロ中空粒子の製造工程を説明する図である。
【
図11】ソフトテンプレート法によるナノ中空粒子の製造工程を説明する図である。
【
図12A】本発明の一実施例を示すナノ中空粒子のゼータ電位を示す図である。
【
図12B】本発明の一実施例を示すナノ中空粒子の粒径分布(PSD)を示す図である。
【
図12C】本発明の一実施例を示すナノ中空粒子の元素組成を表すEDXである。
【
図13】本発明の一実施例を示すハイブリッド化されたエアロゲルの熱伝導率の比較図で、エアロゲル単体、エアロゲルとマイクロ中空粒子の混合体、エアロゲルとナノ中空粒子の混合体であって中空粒子内の気体が空気、エアロゲルとナノ中空粒子の混合体であって中空粒子内の気体が二酸化炭素の場合の4態様を示している。
【
図14】本発明の一実施例を示すハイブリッド化されたエアロゲルの設計指針の概念的説明図で、エアロゲルの貫通ポア径(縦軸)と中空粒子内径(横軸)でマトリクス状に示してある。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を用いて本発明を説明する。
図1は本発明の一実施例を示すハイブリッド化されたエアロゲルの断面の概念的な構造を示す要部断面図である。図において、シリカ微粒子10、網目構造体(多孔質構造体)のポア20、マイクロ中空粒子(MHSP:Micro hollow silicate particles)30、ナノ中空粒子(NHSP:Nano hollow silicate particles)40を備えている。
エアロゲルは、低密度で空隙率の高い乾燥ゲル体の総称であり、湿潤ゲルを乾燥させて得られる多孔質体である。シリカ微粒子10は、シリカの一次粒子(直径1~2nm程度)が、弱い結合力で形成された二次粒子(直径20~50nm)である。シリカ微粒子10は、シリカの二次粒子が結合してできた網目構造を有し、二次粒子間には空孔20が形成されている。弱い結合力とは、ゲル骨格である網目構造が破壊されない程度の結合力をいう。
【0016】
網目構造体(多孔質構造体)の空孔20は、典型的には5~100nmであり、平均のポア径は20~40nmである。従って、シリカエアロゲルの網目構造体は、非常に脆いという特徴を有している。
「平均のポア径」は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、SEM像を得、個々のポア径について画像解析により直径を求め、この平均半径を100個以上のポアについて相加平均値として出した値である(画像解析法)。なおこの際、一個の凝集粒子を形成しているポア群は1個のポアとして計数する。
シリカ化合物を原料とする一般的なシリカエアロゲルの細孔径は、常温・常圧における空気の平均自由行程である67nm以下であり、気体分子同士の衝突(対流による熱伝達)がほとんどないため、気体成分の熱伝導率の影響を無視することができ、シリカエアロゲルの熱伝導率が低くなる。
【0017】
マイクロ中空粒子30は、球状の中空部分の周りを、球殻が取り囲んでいる構造を有する。表1に示すように、マイクロ中空粒子30の外径Dの範囲は、好ましくは常温・常圧における空気の平均自由行程λの15倍程度の1μmを下限値とし、上限値を23μmとする。外径Dが1μm未満のマイクロ中空粒子は、合成が難しく、また膜厚が薄くなるため、粒子内部に収容される二酸化炭素等のガスが粒子外部に漏れやすい。外径Dが23μmを超えるマイクロ中空粒子は、断熱効果が低いと共に、粒子表面積が増大するため粒子内部に収容される二酸化炭素等のガスが粒子外部に漏れやすい。
マイクロ中空粒子30の球殻を形成する膜厚tの範囲は、0.35μmから3μmの範囲が好ましく、ポア(中空部)外径dの範囲は、0.3μmから約22μmの範囲が好ましい。
マイクロ中空粒子30は、常温常圧における空気の平均自由行程の15倍よりも大きな粒径であるため、ハイブリッド化されたエアロゲルにおいて、脆い網目構造体(多孔質構造体)の構造的強度を高める効果がある。
【0018】
本発明のハイブリッドエアロゲルにおいて、表1に示すように、マイクロ中空粒子は、好ましくは0.01重量%以上、30重量%以下であり、更に好ましくは0.10重量%以上、15重量%以下であり、最も好ましくは1.0重量%以上、10重量%以下である。この場合の体積%で示す組成比率は、好ましくは0.00003体積%以上、22.4体積%以下であり、更に好ましくは0.0003体積%以上、10.6体積%以下であり、最も好ましくは0.0034体積%以上、7.0体積%以下である。
マイクロ中空粒子が0.01重量%未満の場合は、ハイブリッドエアロゲルの製造段階で、マイクロ中空粒子が溶液から漏出して、収率が著しく低下する。マイクロ中空粒子が30重量%を超える場合は、マイクロ中空粒子を均一に分散させることが困難になり、合成が難しくなる。
【表1】
【0019】
ナノ中空粒子40は、球状の中空部分の周りを、球殻が取り囲んでいる構造を有する。表2に示すように、ナノ中空粒子40の外径Dの範囲は、好ましくは常温・常圧における空気の平均自由行程λの半分程度の30nmを下限値とし、上限値を常温・常圧における空気の平均自由行程λと約5倍程度の360nmとする。外径Dが30nm未満のナノ中空粒子は、フィルターを通過すると共に、合成が難しく、また膜厚が薄くなるため、粒子内部に収容される二酸化炭素等のガスが粒子外部に漏れやすい。外径Dが360nmを超えるナノ中空粒子は、コア粒子形成の限界を超えるため、合成が難しい。
ナノ中空粒子40の球殻を形成する膜厚tの範囲は、7.5nmから65nmの範囲が好ましく、ポア(中空部)外径dの範囲は、15nmから345nmの範囲が好ましい。
ナノ中空粒子40は、常温常圧における空気の平均自由行程を含む粒径であるため、ハイブリッド化されたエアロゲルにおける断熱効果への寄与が大きい。
【0020】
本発明のハイブリッドエアロゲルにおいて、表2に示すように、ナノ中空粒子は、好ましくは0.01重量%以上、30重量%以下であり、更に好ましくは0.10重量%以上、15重量%以下であり、最も好ましくは1.0重量%以上、10重量%以下である。この場合の体積%で示す組成比率は、好ましくは0.00003体積%以上、17.6体積%以下であり、更に好ましくは0.0003体積%以上、8.1体積%以下であり、最も好ましくは0.0034体積%以上、5.2体積%以下である。
ナノ中空粒子が0.01重量%未満の場合は、ハイブリッドエアロゲルの製造段階で、ナノ中空粒子が溶液から漏出して、収率が著しく低下する。ナノ中空粒子が30重量%を超える場合は、ナノ中空粒子を均一に分散させることが困難になり、合成が難しくなる。
【表2】
【0021】
図2は、
図1に示す中空粒子の断面構造の概念的に示す図である。
中空粒子は、球状の中空部分の周りを、球殻が取り囲んでいる構造を有する。中空粒子は、ナノ中空粒子40とマイクロ中空粒子30の2種類に応じて、表1と表2に示すような、形状であるとよい。例えば、中空粒子の外径Dの範囲は、30nm~360nmと1μm~23μm、球殻厚さtの範囲は7.5nm~65nmと0.35μm~3μm、コア(中空部)径dの範囲は15nm~345nmと0.3μm~約22μmである。シリカ微粒子としてシリカエアロゲルを、また中空粒子としてシリカエアロゲルを使用した場合、中空粒子の直径、ハイブリッド化されたエアロゲル中の中空粒子混入率等を適宜調節することにより、その熱伝導率をシリカエアロゲルの14mW/m・K程度よりもかなり低く、また真空断熱材(vacuum insulated panel)の8.0mW/m・Kに近い値を達成することができる。即ち、中空粒子に空気を充填している場合は10.4mW/m・K、中空粒子に二酸化炭素を充填している場合は9.6mW/m・K(
図13)という非常に低い値を達成することができた。
本発明においては、中空粒子として、マイクロ中空粒子30とナノ中空粒子40の2類型に区分している。
【0022】
図3は、本発明の一実施例を示すマイクロ中空粒子の概念的説明図で、(A)は断面構造図、(B)はSEM写真図で、マイクロ中空粒子の内部構造を示すため、表面が破断しているマイクロ中空粒子を示している。マイクロ中空粒子については、マイクロ中空粒子30で説明したとおりである。
【0023】
図4Aは、本発明の一実施例を示すマイクロ中空粒子の説明図で、(A)は光学デジタル顕微鏡(ODM:optical digital microscope)、(B)はSEM写真、(C)は(B)の拡大SEM写真で、一個のマイクロ中空粒子の破断面、(D)は(C)の拡大SEM写真でマイクロ中空粒子の膜構造の詳細構造を示している。
図4Bは、本発明の一実施例を示すマイクロ中空粒子の説明図で、(E)は元素組成を表すEDX(energy dispersive X-ray analysis; エネルギー分散型X線分析)、(F)は粒径分布を示すPSD(粒径分布)である。マイクロ中空粒子の元素組成としては、Siが主成分で、Oが含有されていると共に、Cも痕跡程度含有されている。CはSEMとEDXの測定に必要な炭素被膜によるもので、分析中のサンプルの導電率を向上させる。マイクロ中空粒子の粒径は、ピーク値が8μmで、3μm~22μmの範囲に二項分布している。
【0024】
図5は、本発明の一実施例を示すナノ中空粒子の概念的説明図で、(A)は断面構造図、(B)はTEM写真図で、ナノ中空粒子の内部構造を示している。ナノ中空粒子については、ナノ中空粒子40で説明したとおりである。
【0025】
図6Aは、本発明の一実施例を示すナノ中空粒子の説明図で、(A)はSEM写真、(B)はTEM写真、(C)は(B)の拡大TEM写真、(D)は(C)の拡大TEM写真でナノ中空粒子の膜構造の詳細構造を示している。
図6Bは、本発明の一実施例を示すナノ中空粒子の説明図で、(E)は元素組成を表すEDX、(F)は粒径分布を示すPSDである。ナノ中空粒子の元素組成としては、Siが主成分で、Oが含有されていると共に、Cも痕跡程度含有されている。CはSEMとEDXの測定に必要な炭素被膜によるもので、分析中のサンプルの導電率を向上させる。ナノ中空粒子の粒径は、ピーク値が140nmで、100nm~240nmの範囲に二項分布している。
【0026】
図7は、本発明の一実施例を示す中空粒子の写真図で、(A)はマイクロ中空粒子のSEM写真、(B)はナノ中空粒子のTEM写真、(C)は多孔質エアロゲルのSEM写真、(D)は(C)の拡大SEM写真で多孔質エアロゲルの詳細構造を示している。
密度については、表3に示すように、マイクロ中空粒子は0.23~2.65g/cm
3、ナノ中空粒子は0.32~2.65g/cm
3、エアロゲル全体では0.009~0.220g/cm
3である。本発明のハイブリッドエアロゲルの密度は、従来例のエアロゲル(AZOマテリアルズ)の0.0011~0.5g/cm
3を基準にすると、同程度から半分程度の密度になっている。
【表3】
【0027】
図8は、エアロゲルの熱伝導を説明する図で、(A)はエアロゲルに中空粒子を含まない場合、(B)はハイブリッド化されたエアロゲルにナノ中空粒子を含む場合、(C)はハイブリッド化されたエアロゲルに二酸化炭素を充填したナノ中空粒子を含む場合を示している。
図8Aに示すような、従来のエアロゲル母材はもともと液相だった部分を気相に置き換えるという形成過程から、細孔は必ず他の細孔と連通している。そこで細孔の気体の流動性が熱伝導を生じさせるという本質的な課題を抱えている。
これに対して、本発明では、
図8B、
図8Cに示すように、エアロゲルの連通細孔を中空粒子で塞ぐものである。中空粒子をエアロゲルのシリカ微粒子で構成される網目構造体(多孔質構造体)の空孔について、連通細孔を中空粒子で塞ぐことで、空孔による固体の熱伝導を低減できる。中空粒子の球状空洞領域は小さいために気体の流動性による熱伝導も低く抑えられる。
【0028】
また、上記の中空粒子に加え、さらなる効果について説明する。中空粒子は球殻で表面が覆われているため、気体が通過しない気密構造となっており、中空粒子の空洞に充填した気体はそのまま保持できる。通常の大気中でエアロゲルを使用すると連通細孔内は選択の余地なく大気となる。しかし、気密性の中空粒子を使うと事前に中空粒子に充填した気体を維持できる。エアロゲルに中空粒子を分散させることで固体の骨格部分と、2種類の空孔(連通細孔と球状空洞)という新たな構造に加え、大気より熱伝導の低い気体(Xenon、CO2、エチレン、etc)を中空粒子に充填するとこのハイブリッドエアロゲルの断熱特性はさらに向上できる。
【0029】
前提として、シリカエアロゲルの一般的な製造工程について説明する。
シリカエアロゲルは、例えばゾル-ゲル法やストーバー法で製造される。
ゾル-ゲル法は、金属アルコキシドの溶液を出発物質とし、この溶液を加水分解および縮重合反応によりコロイド溶液(ゾル)とし、さらに反応を促進させることにより、ゲルを経由してガラスやセラミックスを作製する方法である。ゾル-ゲル法は、液相からの作製法であることから、原料を分子レベルで均質に混合することが可能であり、組成制御の自由度が高いという長所をもつ。
ストーバー法は、エタノールを加えたアルカリ性水溶液中で少量のケイ素アルコキシドを素早く反応させて小さいガラス粒子を製造する方法である。反応時間と水/ケイ素の割合とを変えることにより、粒子の大きさの調整ができる。ストーバー法の条件は、一般的なゾル-ゲル法に比して、[エタノール/水]比と[水/ケイ素]比が著しく大きい。反応が均一に進行するので、粒径のばらつきが小さいことが特長である。
【0030】
続いて、ハイブリッド化されたエアロゲルの製造過程について説明する。
図9Aは、ハイブリッド化されたエアロゲルの製造工程を説明する図である。
まず、前駆体としてのケイ素アルコキシド又は水ガラス(ケイ酸ナトリウム)を調整する(S100)。無機シリカエアロゲルは、伝統的に、シリカ系アルコキシド(例えば、テトラエトキシルシラン)の加水分解及び縮合を通じてか、又はケイ酸又は水ガラスのゲル化を通じて作られる。シリカ系エアロゲル合成物のための他の関連する無機前駆体材料としては、限定されないが、金属ケイ酸塩、例えば、ケイ酸ナトリウム又はケイ酸カリウム、アルコキシシラン、部分的に加水分解したアルコキシシラン、テトラエトキシルシラン(TEOS)、部分的に加水分解したTEOS、TEOSの縮合ポリマー、テトラメトキシルシラン(TMOS)、部分的に加水分解したTMOS、TMOSの縮合ポリマー、テトラ-n-プロポキシシラン、部分的に加水分解したテトラ-n-プロポキシシラン及び/又はテトラ-n-プロポキシシランの縮合ポリマー、ポリエチルシリケート、部分的に加水分解したポリエチルシリケート、モノマーアルキルアルコキシシラン、ビス-トリアルコキシアルキル若しくはアリールシラン、多面体シルセスキオキサン、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
ここで、無機エアロゲルは、一般的に、金属酸化物又は金属アルコキシド材料から形成される。金属酸化物又は金属アルコキシド材料は、酸化物又は酸化物を形成することができる任意の金属のアルコキシドに基づくことができる。そのような金属としては、限定されないが、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、イットリウム、バナジウム、セリウムなどが挙げられる。
【0031】
次に、中空粒子として、マイクロ中空粒子、ナノ中空粒子、又はマイクロ中空粒子とナノ中空粒子40の混合体を準備する(S110)。
次に、前駆体と中空粒子を溶媒に溶かして、コロイド溶液(ゾル)を調整する(S120)。溶媒としては、例えばメタノールが用いられる。ゾル-ゲル法に従って、加水分解反応と縮重合反応が進行する。
図9Bは、ケイ素アルコキシドに対するゾル-ゲル法の加水分解反応と重縮合反応を説明する図である。加水分解反応を促進するために、例えば酸触媒を使用する。酸触媒を使用した場合の加水分解は求電子反応による。溶液中のH
3O+はアルコキシル基(-OR;R=CnH
2n+1)の酸素に対して攻撃し、SiORをSiOHとし、結合が切れることにより生成したR+はHO-と結合しアルコールを副生成物として形成する。反応が進むにつれてアルコキシル基とH
2Oが減少するため、加水分解反応速度は徐々に低下する。この加水分解反応が始まると同時に縮重合反応も始まるため、生成したSi(OC
2H
5)
3(OH)は周辺のSi(OC
2H
5)
3(OH)と脱水縮重合を起こす。
【0032】
ゾルの脱水縮重合反応が進行すると、生成するシロキサンポリマーは直鎖状に近い構造となり、絡み合うことで3次元編み目構造を構成し、自由に動き回ることができなくなるために流動性を失ったゲルが生成される(S130)。酸触媒(フッ酸を除く)のみを使用した場合は反応性が低く、密度の低いゲルを形成しやすいため、ゲル化までに長時間を必要とし、H2Oや副生成物であるアルコール等を内部に多く含んだゲルを形成する。
このゲルを乾燥処理することにより、ハイブリッド化されたエアロゲルを作製する(S140)。この乾燥処理には、例えば二酸化炭素を用いた超臨界乾燥法が用いられる。超臨界流体には二酸化炭素が多く使用されており、二酸化炭素は臨界温度31.1℃、臨界圧力7.38MPaという条件で超臨界状態となり、これは水と比較して比較的温和な条件である。また超臨界二酸化炭素が高い溶解性を持ち、臨界点以下にすると気化して飛散するため、乾燥試料のみを取り出すことが可能である。
なお、超臨界乾燥法に代えて常圧乾燥法(APD, Ambient Pressure Drying)を用いてもよい。常圧乾燥法で製造される場合は、エアロゲルに代えてシリカキセロゲルと呼ばれる場合もある。
【0033】
<マイクロ中空粒子の製造>
図10は、二重エマルジョン法によるマイクロ中空粒子の製造工程を説明する図である。マイクロ中空粒子(MHSP)は、界面反応によって調製される二重エマルジョンである。
二重エマルジョンは、単にエマルション内のエマルションとして定義される。エマルションは、少なくとも2つの非混和性液体からなる分散多相システムである。液滴を形成する液体は分散相と呼ばれ、液滴を取り囲む大部分の液体は連続相と呼ばれる。二重エマルジョンは、2つの液体が最初の2つの液体と混和しない3番目の液体によって分離されているシステムと見なすことができる。水と油の場合、二重エマルジョンの2つの可能なケース、即ち、水中油中水(w/o/w)エマルジョンと油中水中油(o/w/o)エマルジョンである。前者の場合、例えば、分散した水滴のそれぞれが小胞構造を形成し、分離した単一または複数の水性区画が油相の層によって連続水性相を形成する。
【0034】
<ナノ中空粒子の製造>
図11は、ソフトテンプレート法によるナノ中空粒子の製造工程を説明する図である。
ナノ中空粒子(NHSP)は、ソフトテンプレート法によって調製される。
ソフトテンプレート法(soft-template methods)は、ミセル、エマルジョン、リポソーム、ポリマーブレンド、液晶などのソフトマターをテンプレートとして使用し、ナノポーラス、メソポーラス、マクロポーラス材料などの多孔性材料やナノスフェア、ナノロッド、ナノシートなどのナノ材料を構築するのに用いられる。これに対して、ハードテンプレート法(hard-template methods)は、粒子やゼオライトなどの固体をテンプレートとして使用する。
【実施例】
【0035】
以下、本発明のハイブリッド化されたエアロゲルの実施例について説明する。
<マイクロ中空粒子の製造>
ここでは、ケイ酸ナトリウム溶液(29.9gシリコン、144ミリモル)などのパラメーターが固定されている。この溶液の総量は、水相1(W1)として36mLに固定された。W1を、商品名Tween80(1.00g)および商品名span80(0.50g)を含むn-ヘキサン溶液(72mL)からなる油相(O1)に添加し、得られた2相溶液(W1/O1)をホモジナイザー(~8000rpm、1分間)によりW1/O1エマルジョンとし、水相(W2)の沈殿剤である重炭酸アンモニウム水溶液(2mol・L-1;250mL)に、攪拌しながらに直ちに注いだ。
ここで、Tween80は、“Polysorbate 80”または“Polyoxyethylene (20) sorbitan monooleate”とも呼ばれるもので、化学式はC64H124O26である。食品や化粧品によく使用される非イオン性界面活性剤および乳化剤で、粘性のある水溶性の黄色の液体である。span80は、Sorbitan monooleateとも呼ばれるもので、化学式はC24H44O6であり、一連のソルビタンエステルからなる界面活性剤である。1つまたは複数のソルビタンヒドロキシル基と脂肪酸のエステル化によって得られ、本質的に疎水性である。
【0036】
2時間攪拌した後、W1/O1/W2溶液は白色のコロイド懸濁液を形成した。次に、W1/O1/W2-コロイド溶液をろ過し、脱イオン水/エタノールで洗浄し、120℃で24時間真空乾燥した後、400℃で焼成して過剰な界面活性剤を除去すると共に、粉末の形でポリマー形成されたマイクロ中空粒子(MHSP)を焼成した。(注:W1、W2、O1のケイ酸ナトリウム、沈殿剤、界面活性剤の濃度はそれぞれ変更されていない。沈殿剤とケイ酸ナトリウムのモル比は3.5(沈殿剤/ケイ酸ナトリウム)に固定された。W1とW2は同じであった(W1/W2=1/7)。
【0037】
<ナノ中空粒子の製造>
ここでは、ポリ(メタクリル酸)ナトリウム塩(NaPMA、40重量パーセント(wt%))などの水ベースの高分子電解質が、水溶液中のテンプレート剤として、ベースの触媒ストーバー法と組み合わせて使用された。最初は、0.40gのNaPMA(MW~4,000-6,000)を4.5mLの水酸化アンモニウム(NH4OH、MW~35.05、28%、試薬グレード)に溶解する。次に、90mLのエタノール(EtOH、MW~46.07)を混合物に加える。アリコート(aliquot)として、テトラエチルオルトシリケート(TEOS、MW~208.33、98%、試薬グレード)の5個に等分したものを準備する。これを少しずつ5時間かけて、周囲温度で激しく磁気攪拌しながら1.80mLのTEOSを加えた。
【0038】
10時間のエージング期間の後、白色コロイド懸濁液が得られ、溶液中に約0.92重量%のケイ酸塩粒子が含まれていた。NH4OHの除去と定義されたケイ酸塩粒子の球殻安定性の向上は、オープンビーカー内で溶液を攪拌することによって行われた。次に、コロイド懸濁液をろ過し、脱イオン水で3回洗浄して、水性ポリマーを除去した。
【0039】
<粒子の中空部分へのガス閉じ込め>
マイクロ中空粒子(MHSP)とナノ中空粒子(NHSP)の両方の製造プロセスで、コロイド懸濁液をろ過して洗浄した後、120℃で24時間乾燥し、400℃で焼成すると、水性ポリマーと過剰な界面活性剤の除去が行われ、粉末状のMHSPとNHSPが焼成して得られた。乾燥および焼成環境が要求されたガスの下にある場合、MHSPおよびNHSPの内部に任意の種類の気体を配置できる。
【0040】
<マイクロ及びナノ中空粒子を混入したエアロゲルの製造>
図9Aに示すように、シリカエアロゲルは、2つの主要なステップで製造される。ゾルゲル化学による湿潤ゲルの形成と、湿潤ゲルの乾燥である。湿潤ゲルは、シリカ前駆体分子の加水分解と縮合から形成された、シリカと液体溶媒のナノ構造の固体ネットワークで構成されている。
【0041】
ハイブリッドエアロゲルの前駆体は、中空粒子、メタノール、およびTEOSの混合物によって調製された。中空粒子をメタノールと混合し、中空粒子をより良く分散させるために超音波振動を実施した。次に、TEOSをメタノール/中空粒子溶液に加えた。次いで、合計6.3gのシュウ酸(0.01M)を溶液に加えた。最後に、1.5gのNH4OH(0.5M)を混合溶液に加えた。この混合溶液はアルコゾルとも呼ばれるもので、ゲル化が起こるように室温に保たれた。ゲル化後、アルコゲルをメタノール中で60℃で12時間熟成(aging)させた。高温での乾燥中の蒸発を考慮して、ゲル上に過剰量のメタノールを加えた。
【0042】
アルコゲル中のメタノールを非極性溶媒(ヘキサン)と交換した。このステップでは、アルコゲルをヘキサンに60℃で10時間浸漬した。表面改質のために、ヘキサンはヘキサンとTMCSに置き換えられた。TMCSは、 (Trimethylchlorosilane) の略語で、化学式は(CH3)3SiClであり、和名はクロロトリメチルシランである。
ヘキサン/TMCSの体積比は4で一定に保たれた。表面改質ステップでは、アルコゲルをヘキサン/TMCS溶液に60℃で24時間浸漬した。アルコゲルを乾燥する前に、サンプルを純粋なヘキサンに浸して、60℃で6時間過剰なTMCS溶媒を除去した。エアロゲル合成の最終ステップは乾燥で、乾燥条件は表4に示すとおりである。
【0043】
【0044】
次に、このようにして製造されたナノ中空粒子の性状について説明する。
図12Aは本発明の一実施例を示すナノ中空粒子のゼータ電位を示す図である。ゼータ電位はpH7で最低値-18mVを示す。酸性側のゼータ電位はpH2で最高値-4.5mVを示す。アルカリ側のゼータ電位はpH10で中間最高値-12mVを示す。
図12Bは本発明の一実施例を示すナノ中空粒子の粒径分布(PSD)を示す図である。粒径は60-220nmの範囲で凸状に分布しており、中央最高値は90nmである。
図12Cは本発明の一実施例を示すナノ中空粒子の元素組成を表すEDXである。ナノ中空粒子の元素組成としては、Siが主成分で、Oが含有されていると共に、Cも痕跡程度含有されている。
【0045】
次に母材の連通細孔と、中空粒子の球状空洞のそれぞれのサイズによる効果について説明する。自由空間において気体分子は互いに衝突しながら運動している。衝突せずに直進できる距離を自由行程と呼ぶ。それぞれの気体分子は一定の温度、圧力において衝突せずに直進できる平均距離が知られていて、それを平均自由行程と呼ぶ。気体は流動することで熱を伝えるが、平均自由行程よりも小さな閉空間に閉じ込められた気体は流動による熱伝導が少なくなるので、平均自由行程よりも小さな閉空間に閉じ込められた気体は同じ気体分子でも自由空間中の気体分子よりも断熱性の高い気体分子としてふるまうことが知られている。このように断熱性の高い気体分子としてのふるまいは、その気体分子の平均自由行程と同程度のサイズ付近で顕著になり、閉空間のサイズが小さいほどその効果は大きい。このことで小さな閉空間を持った中空粒子は、その球状空洞中の気体流動による熱伝導が少ない優れた断熱材となる。一方、中空粒子を形成するためには外壁である球殻が必要で、球状空洞と比較して球殻の厚みが厚くなると、固体伝導により断熱特性が低下してしまう。この両方の効果を勘案して、中空粒子の最適形状が定まる。
【0046】
図13は、本発明の一実施例を示すハイブリッド化されたエアロゲルの熱伝導率の比較図で、エアロゲル単体、エアロゲルとマイクロ中空粒子の混合体、エアロゲルとナノ中空粒子の混合体であって中空粒子内の気体が空気、エアロゲルとナノ中空粒子の混合体であって中空粒子内の気体が二酸化炭素の場合の4態様を示している。
本実施形態のハイブリッド化されたエアロゲルでは、固体伝導を低減しようとすると空孔体積が増えていき、その空孔が連通細孔だと、気体の流動伝導でこのエアロゲル全体としての熱伝導が上がる、つまり断熱特性が低下する。さらに、この連通細孔の全部または一部を球状空洞に置き換えると、連通細孔だけの構造よりもさらに断熱特性が向上する。その際、もともとのエアロゲル母材の連通細孔のサイズによって、中空粒子の導入による断熱特性向上の効果が異なる。この関係を説明するために、
図14を参照する。
【0047】
図14では、縦軸が連通細孔サイズ、横軸が球状空洞サイズを示している。エアロゲル母材中の連通細孔のサイズがその気体分子の平均自由行程と同等レベルの微小サイズとみなされる場合にはエアロゲル母材自体で、すでに気体分子の運動を制限することによる断熱効果が得られているので、中空粒子を導入する効果は少ない。また、エアロゲル母材中の連通細孔のサイズが非常に大きくて、中空粒子を導入しても連通細孔を塞ぎきれなければ中空粒子導入の効果は期待できない。このため
図14の左右に展開している3つのゾーン(1-2,3-4-5,6-7)のうち、左と右のゾーン(1-2,6-7)は中空粒子の導入効果が少ないゾーンである。中空粒子の空洞サイズに注目したのが縦軸である。平均自由行程に近い直径サイズの中空粒子では球状空洞としての断熱特性が期待できる。ここでは平均自由行程の2倍から1/2の領域が中空粒子の球状空洞としての効果が高いゾーンとした。平均自由行程の2倍を超えるとサイズ制限効果が薄くなるので、このゾーンよりも上のゾーンは効果が薄い。一方、平均自由行程の1/2としたのは空孔サイズということではなく、球殻による固体熱伝導の影響が顕著になるという副次的な影響によるものである。空孔を形成するための球殻の体積が相対的に大きくなることでハイブリッドエアロゲル全体の断熱特性が低下するので下のゾーンも効果が少ない。これらを総合して、横及び縦の中央のゾーンが最も中空粒子導入効果の高いハイブリッドエアロゲル構造である。
【0048】
中空粒子にすることによるさらなる効果について説明する。中空粒子は気体が通過しない気密構造にしてあるので、中空粒子の空洞に充填した気体はそのまま保持できる。通常の大気中でエアロゲルを使用すると、連通細孔内は選択の余地なく大気となる。しかし、気密性の中空粒子を使うと事前に中空粒子に充填した気体を維持できる。熱伝導の低い気体として知られているCO2(二酸化炭素)を中空粒子に充填すると、このハイブリッドエアロゲルの断熱特性はさらに向上できる。
【0049】
本発明のハイブリッドエアロゲルにおいては、粒子の中空部分に入り込んだ音波が粒子の内壁面で反射を繰り返すことによってそのエネルギーが急速に消散されることから、本発明のハイブリッド化されたエアロゲルは吸音材としても利用できる。
【0050】
本発明のハイブリッドエアロゲルは、これまで真空断熱でしか実現できなかった高断熱特性を断熱材という固体で実現できる技術である。真空断熱は断熱構造の製造に大きな制限があり、高価であり、また、真空が劣化すると断熱特性が大幅に劣化するという寿命問題も抱えていた。特に真空構造は大気圧でつぶれてしまうのでこの問題で真空断熱は非常に使いにくかった。本発明技術を用いると通常の断熱材の充填方式をそのまま踏襲する中で真空断熱に比肩する特性が得られる。経済効果は2つの観点で大きい。1つは断熱材の製造コストや製造設備コストの低減効果である。もう1つは、断熱性を高めることによる省エネ効果などの維持運転費用の低減効果である。暖房や冷却のエネルギーの低減ということもあるが、真空断熱でポンプを使っている場合にはそのポンプが不要ということも大きい。
【0051】
熱伝導率測定の結果、中空粒子を加えていくとハイブリッドエアロゲルの熱伝導率は中空粒子を含まない場合の13.4mW/m・Kから低下していき、中空粒子の平均外径が8μmのマイクロ中空粒子の場合、その含有率が0.1重量%の時、11.8mW/m・Kとなった。また、中空粒子の平均外径が120nmのナノ中空粒子で空気充填の場合、含有率が0.1重量%の場合には10.4wW/m・Kとなった。また、中空粒子の平均外径が120nmのナノ中空粒子で炭酸ガス充填の場合、測定された熱伝導率の最小値9.6mW/m・Kは真空断熱材の値8.0mW/m・Kにかなり接近している。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のハイブリッドエアロゲルは、真空断熱材の熱伝導率に近い優れた断熱性能を示すと共に、大気圧程度の圧力が作用しても安定性が高く、長寿命の固体状の断熱材を提供でき、断熱材用の部材として実用上の効果は大きい。特に、真空断熱で真空ポンプを使用している箇所の断熱材として、本発明のハイブリッドエアロゲルを使用する場合には、真空ポンプを使用しなくても必要な断熱性能が得られるため、産業上の利用可能性は大きい。
【符号の説明】
【0053】
10 シリカ微粒子
20 網目構造体(多孔質構造体)の空孔
30 マイクロ中空粒子
40 ナノ中空粒子